近年、光ファイバ通信においては、伝送特性の向上のため、光の位相を用いた光位相変調や強度と位相を用いた光多値変調が行われている。これらの位相変調・多値変調には、外部変調器としてマッハツェンダ(Mach-Zehnder;MZ)型の光変調器を用いた2値位相(Binary Phase Shift Keying; BPSK)変調器(特許文献1)やBPSK変調器を2個用いて構成したQPSK光変調器(非特許文献1)やBPSK変調器を4個用いて構成した16QAM変調器が使われている。
マッハツェンダ変調器は、入力光を2つの光導波路に分岐し、2つの光導波路を再び合波して光出力するマッハツェンダ型光干渉計を構成し、片側あるいは両方の光導波路に設けられた電極に電圧を印加することにより光導波路を伝搬する光に位相変化を与え、発生した位相差に応じて出力される光強度および光位相を変化させて、変調動作を実現する装置である。
図1は、半導体マッハツェンダ変調器を用いた従来の光強度変調装置の模式図であり、特許文献2の図3を書き直した図である。まずは、半導体マッハツェンダ変調器10について、その構成を説明する。マッハツェンダ型光変調器の干渉計を構成する2つの光導波路のうち、第1のアーム1を構成する光導波路には、変調電極バイアス電圧をバイアスされた高速データ信号電圧が印加される変調電極11を備え、第2のアーム2を構成する光導波路には干渉計の位相差を調整するために、位相差調整電圧を印加される位相差調整電極12を備えている。
半導体マッハツェンダ変調器は、マッハツェンダ型光変調器の干渉計の光の位相差が電極に印加される電圧に対して非線形に増加する特性を有している。そこで、この特性に起因する半導体マッハツェンダ変調器特有の特性を説明する。
図2は、半導体マッハツェンダ変調器のアーム上の電極の電圧(半導体マッハツェンダ変調器では電圧を印加するために半導体PN接合に対して逆バイアス電圧を印加する。光導波路を構成する半導体のPN接合の向きによって負電圧を印加することもあるが、電圧の大小について混乱を招くので、本発明の説明では電圧の絶対値を用いて、統一的に説明することにする)に対する各アーム間を伝搬する光の位相差(アーム間位相差)の特性図である。ここで、横軸は、第1のアーム1の変調電極の電圧あるいは第2のアーム2の位相差調整電極の電圧、縦軸は第1のアーム1を伝搬する光と第2のアーム2を伝搬する光との位相差である。
図1の半導体マッハツェンダ変調器の2つの電極の電圧が0の場合、第1のアーム1と第2のアーム2が等しく構成されているとすれば、第1のアーム1を伝搬する光は、第2のアーム2を伝搬する光と同じ位相の光であり、位相差は0である。ここで、第1のアーム1の電圧を0から大きくしていくと、第1のアーム1を伝搬する光の屈折率が変化していく。これにより、第1のアーム1を伝搬する光は、第2のアーム2を伝搬する光に対して位相差を持つようになる。第1のアーム1の電圧を大きくするにしたがって、位相差は大きくなる。図2はこの様子を示している。
このときの出力光強度の変化を図3で示す。半導体マッハツェンダ変調器のアーム上の電極の電圧と光出力の関係を示した特性図である。消光特性と呼ばれる。横軸は第1のアーム1の変調電極の電圧あるいは第2のアーム2の位相差調整電極の電圧、縦軸はマッハツェンダ型光干渉計を構成する光変調器の出力光強度である。半導体マッハツェンダ変調器の2つの電極の電圧が0の場合、位相差が0であるため、この両者がマッハツェンダ型光干渉計の出力端で合波されると、入力光と同じ強度の変調光が再生され、出力光強度は最大となり、光変調動作を行なった場合の出力光のオンレベルが出力される。
第1のアーム1の電圧を0から大きくしていくと出力光強度が減少し、ある入力電圧で、第1のアーム1を伝搬する光と第2のアーム2を伝搬する光との位相差がちょうどπとなり、この両者がマッハツェンダ型光干渉計の出力端で合波されると、お互いに打ち消しあって消光される。このようにして、出力光のオフレベルが出力される。ここで、出力光がオンレベルになる電圧と出力光がオフレベルになる電圧の差を半波長電圧Vπと呼ぶ。
さらに電圧を大きくすると位相差がπより増加して出力光強度が増加し、位相差がちょうど2πになるときに、出力光強度がふたたび最大となり、オンレベルが出力される。図3はこの様子も示している。このようにして、入力電圧の値に応じて出力光強度が変化するので、マッハツェンダ型変調器は、入力電圧(入力電気信号)を変化させることにより、出力光強度を変化(変調)することができる。
第2のアーム2に対しても同様に電圧を変えることにより、出力光強度を変化させることができる。第1のアーム1と第2のアーム2に同時に電圧を印加することもできる。第1のアーム1に電圧を印加して位相差がある状態で、第2のアーム2の電圧を0から大きくして第1のアーム1の電圧に近づけると位相差が小さくなることに注意する必要が有る。
光導波路をニオブ酸リチウムで構成したマッハツェンダ変調器は、ポッケルス効果による光学効果を利用しているため、入力電圧に対して位相差が線形に変化し、電圧と位相差の関係が直線で表される。しかし、半導体マッハツェンダ変調器においては、図2に示すように、各アーム間を伝搬する光の位相差は入力電圧に対して非線形に増加していき、また、その傾きは入力電圧が大きくなるほど大きくなる。すなわち、下に凸で単調増加する曲線で表される。
この非線形な特性は、例えば、光導波路のコア層を半導体バルク材料で構成し、そのバンドキャップ波長を信号波長よりやや短波長側に設定した光導波路において生じるフランツケルディッシュ効果による電気光学効果、あるいは、光導波路のコア層を多重量子井戸層(MQW)で構成した光導波路において生じる量子閉じ込めシュタルク効果による電気光学効果を利用する場合に現れる。半導体マッハツェンダ変調器は、電圧印加により屈折率の変化を引き起こす電気光学効果の起因として、ポッケルス効果に加えて、フランツケルディッシュ効果や量子閉じ込めシュタルク効果を利用しているため、非線形な特性が生じる。入力電圧に対する非線形な特性に起因して、図3の消光カーブにおいて、山と谷との間隔がだんだん詰まっているように示されている。また、この非線形な位相差特性により入力電圧を大きくするにしたがって半波長電圧Vπは小さくなる。
さらに、図2で入力光の波長を1530nmから1560nmまで変化させたときの特性からわかるように、入力光波長依存性があり、入力光の波長が短波から長波になるにしたがって、傾きが緩やかになっている。また、図3で入力光の波長を1530nmから1560nmまで変化させたときの特性からわかるように、入力光の波長が短波から長波になるにしたがって、山と谷との間隔が広くなっていく。すなわち、入力光の波長が短波から長波になるにしたがって、半波長電圧Vπは大きくなる。
一方、ニオブ酸リチウムを用いたマッハツェンダ変調器では、入力電圧に対して位相差が線形に変化するため、半波長電圧Vπは電圧に依存しない。また、半波長電圧Vπの波長依存性もない。
以上のように、半導体マッハツェンダ変調器においては、ニオブ酸リチウムを用いたマッハツェンダ変調器には無い電圧依存性や入力光波長依存性が存在する。
図4にマッハツェンダ変調器を用いたBPSK変調の原理を説明する図を示す。ここで、電圧と出力光強度の関係を表した図を消光特性と呼び、左下側に示す。非変調時にマッハツェンダ型光変調器の光出力レベルが最小となるようにマッハツェンダ型光干渉計の位相差を調整した状態で、2値高速データ信号を電極に印加する。非変調時の位置を中心にデータ信号を変化させるため、非変調時の点を動作点と呼ぶ。図では●で示している。データ信号のハイレベルとローレベルで位相差がπになるようなデータ信号の振幅を調整して電極に印加することにより、出力光信号には、位相が0またはπの光信号が発生し、BPSK光変調を実現する。また、消光特性において、光出力レベルが最大と最小になる印加電圧の差を半波長電圧Vπと呼ぶが、BPSK変調を行う場合には、データ信号の振幅を2Vπにする。
従来、光導波路にニオブ酸リチウムを用いたマッハツェンダ変調器が用いられていたが、近年、光導波路に半導体材料を用いたマッハツェンダ変調器の利用が検討されている。半導体マッハツェンダ変調器は、ニオブ酸リチウムを用いた変調器に比べて小型であるという特長を有しており、光送信装置の小型化を実現するために有望な技術である。非特許文献2、非特許文献3といった構成により実現されている。
半導体マッハツェンダ変調器は、マッハツェンダ型光変調器の干渉計の光の位相差が電極に印加される電圧に対して非線形に増加する特性を有している。また、入力光波長、入力光パワー、素子温度によって印加電圧と位相差の関係が変化するという特性を持つ。したがって、半導体マッハツェンダ変調器においては、変調電極バイアス電圧、入力光波長、入力光パワー、素子温度などの条件が変わると、位相差や変調位相差をπにするために必要なデータ信号電圧振幅が変化する。
半導体マッハツェンダ変調器の位相差調整電極の調整手段と変調電極のバイアス電圧の調整手段のひとつの方法が、特許文献2に示されている。あらかじめ各入力波長において消光特性を測定して参照テーブルを作成し、変調動作時には、入力光の波長に応じて、あらかじめ作成しておいた参照テーブルにもとづいて、変調電極バイアス電圧Vbおよび位相差調整電圧Vaを変更して設定することにより、波長によらず同じ変調振幅で同じ出力信号波形が得られるようにしている。但し、上記特許は位相変調ではなく強度変調(NRZ変調)に対して説明されている。
具体的には、特許文献2において、光強度変調装置は、図1に示すように、光変調器に入力される入力光の波長に応じて直流電源から供給する変調電極バイアス電圧Vbを制御するバイアス電圧制御回路(第1アーム制御回路)20と、入力光の波長に応じて直流電源から供給する位相差調整電圧Vaを制御する位相差調整電圧制御回路(第2アーム制御回路)30を備えて構成されている。
バイアス電圧制御回路(第1アーム制御回路)20内でバイアス電圧制御部23は、入力光の波長とバイアス電圧Vbとの対応テーブル23aを含む参照テーブルを参照して、入力光の波長に対応して予め定められた最適なバイアス電圧Vbを読み出して、読み出したバイアス電圧になるように直流電源22を制御する。また、位相差調整電圧制御回路(第2アーム制御回路)30内で位相差調整電圧制御部32は、入力光の波長と位相差調整電圧Vaとの対応テーブル32aを含む参照テーブルを参照して、予め定められた最適な位相差調整電圧Vaを読み出して、読み出した位相差調整電圧になるように直流電源31を制御する。
しかしながら、この方法では、入力光として使用する全波長に対してあらかじめテーブルを作成しておく必要があるという課題がある。
さらに、何らかの手段により入力光の波長を知る必要が有る。波長がわからなければ、どの電圧に設定すればよいかわからない。
さらには、半導体マッハツェンダ変調器の位相差や半波長電圧Vπは、入力波長だけでなく、入力光パワーや素子温度によって変化するから、動作状態と入力光パワーや素子温度が同一条件でテーブルを作成しておく必要あり、入力光パワーや素子温度等の動作状態が変更になれば、テーブルを取り直さなければならない。
また、数年の長期にわたる動作は、半導体デバイスや駆動回路において、直列抵抗の増加や漏れ電流の増大などの経時変化を引き起こすことがある。経時変化により半波長電圧Vπが変化した場合や、経時変化により駆動回路の駆動振幅が変化した場合には、駆動振幅が過不足を生じる。したがって、変調特性が劣化することになる。
また、一般に高速データ信号電圧は直流電圧に比べて損失が大きいため、変調器に印加する高速データ信号を直流特性から求めた電圧に等しい振幅で発生させると、接続ケーブル、接続RF導波路、接続ワイヤー等の高周波損失により、実際に素子に印加される電圧は発生電圧より不足してしまう。そこで、その損失を測定し、あるいは推定し、高速データ信号の振幅は直流特性より求めた2倍の半波長電圧Vπより大きめにする必要があるが、必ずしも正確に損失が補償できるわけではないため、高周波の高速データ信号の振幅が実際の素子において所望の電圧で印加されているかどうかはわからない。すなわち、直流の消光特性測定値から高速データ信号の振幅を設定するのは難しい。
一方、BPSK変調を行う場合に、消光特性の測定データを用いない干渉計の位相差の調整方法およびデータ信号の駆動振幅の調整方法が、特許文献1に示されている。具体的には、光出力パワーが最大となるように位相差調整電極の電圧を制御することと、光出力パワーが最大となるように2値データ信号の駆動振幅を制御すること、とを択一的に順次行うことにより実現できることが示されている。しかしながら、この方法によれば、制御信号によって高速データ信号の駆動振幅を変化できる駆動装置を用いる必要があり、そのような駆動装置を作製することは、高コスト化、回路の複雑化を招くことになる。
特許文献2の光変調器制御装置は、あらかじめ動作条件において消光特性を測定し、テーブルあるいは演算式を作成しておく手間が必要であるという課題、動作時に入力光の波長を知る必要があるという課題、さらに、経時変化により動作条件が変化した場合は、変調特性が変化するという課題があった。
特許文献1の方式によれば、あらかじめ消光特性を測定する必要がなく、また、動作点の変化と半波長電圧Vπの変化に対して追従できるが、高速データ信号の駆動振幅を変化させる必要があるという課題がある。
本発明は、このような問題に鑑みてなされ、その目的とするところは、高速データ信号の駆動振幅一定で、あらかじめ動作条件テーブルを作成せず、動作時に入力波長を知ることも無く、経時変化により動作条件が変化した場合にも動作状態に適応し、変調特性が変化しない光変調器制御装置および方法を提供することにある。
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、マッハツェンダ干渉計を構成する2つの光導波路の位相差が印加電圧に対して非線形に変化する特性を持つマッハツェンダ変調器を用いて位相変調を行い光伝送路に出力する光位相変調装置であって、前記2つの光導波路の片方あるいは両方に、変調電極バイアス電圧をバイアスされたデータ信号が印加される変調電極を含んだ前記マッハツェンダ変調器と、光出力パワーが最大となるように前記変調電極バイアス電圧を制御する自動半波長電圧制御回路とを備えたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、マッハツェンダ干渉計を構成する2つの光導波路の位相差が印加電圧に対して非線形に変化する特性を持つマッハツェンダ変調器を用いて位相変調を行い光伝送路に出力する光位相変調装置であって、前記2つの光導波路の片方あるいは両方に、変調電極バイアス電圧をバイアスされたデータ信号が印加される変調電極を含んだ前記マッハツェンダ変調器と、マッハツェンダ干渉計を構成する2つの光導波路を結合する合波器が2入力2出力型の3dB合波器で構成され、前記合波器の光伝送路に出力されるポートと反対側のポートの光パワーが最小となるように前記変調電極バイアス電圧を制御する自動半波長電圧制御回路とを備えたことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、マッハツェンダ干渉計を構成する2つの光導波路の位相差が印加電圧に対して非線形に変化する特性を持つマッハツェンダ変調器を用いて位相変調を行い光伝送路に出力する光位相変調装置であって、前記2つの光導波路の片方あるいは両方に、変調電極バイアス電圧をバイアスされたデータ信号が印加される変調電極を含んだ前記マッハツェンダ変調器と、マッハツェンダ干渉計を構成する2つの光導波路を結合する合波器が2入力2出力型の3dB合波器で構成され、前記合波器の光伝送路に出力されるポートと反対側のポートと光伝送路に出力されるポートの光パワーの比が最大となるように前記変調電極バイアス電圧を制御する自動半波長電圧制御回路とを備えたことを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、マッハツェンダ干渉計を構成する2つの光導波路の位相差が印加電圧に対して非線形に変化する特性を持つマッハツェンダ変調器を用いて位相変調を行い光伝送路に出力する光位相変調装置であって、前記2つの光導波路の片方あるいは両方に、変調電極バイアス電圧をバイアスされたデータ信号が印加される変調電極を含んだ前記マッハツェンダ変調器と、前記変調電極にディザ信号を重畳するディザ信号重畳回路と、前記ディザ信号が重畳された変調器の出力光の一部を分岐する光分岐回路と、分岐された出力光からディザ信号成分を検出するディザ信号検出回路と、検出されたディザ信号が最小になるように前記変調電極バイアス電圧を制御する変調電極バイアス電圧制御回路とから構成される自動半波長電圧制御回路とを備えたことを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、マッハツェンダ干渉計を構成する2つの光導波路の位相差が印加電圧に対して非線形に変化する特性を持つマッハツェンダ変調器を用いて位相変調を行い光伝送路に出力する光位相変調装置であって、変調電極と接地電極との間にデータ信号を印加するように、前記2つの光導波路の片方の光導波路に前記変調電極を、もう一方の光導波路に前記接地電極を含み、前記2つの光導波路に共通の底面に接続された変調電極バイアス電圧印加電極を含んだシングル駆動プッシュプル構成型のマッハツェンダ変調器と、光出力パワーが最大となるように前記変調電極バイアス電圧印加電極電圧を制御する自動半波長電圧制御回路とを備えたことを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、マッハツェンダ干渉計を構成する2つの光導波路の位相差が印加電圧に対して非線形に変化する特性を持つマッハツェンダ変調器を用いて位相変調を行い光伝送路に出力する光位相変調装置であって、変調電極と接地電極との間にデータ信号を印加するように、前記2つの光導波路の片方の光導波路に前記変調電極を、もう一方の光導波路に前記接地電極を含み、前記2つの光導波路に共通の底面に接続された変調電極バイアス電圧印加電極を含み、前記2つの光導波路のうちのいずれかまたは両方の光導波路に動作点制御回路により制御される位相差調整電極を含んだシングル駆動プッシュプル構成型のマッハツェンダ変調器と、前記変調電極バイアス電圧印加電極にディザ信号を重畳するディザ信号重畳回路と、前記ディザ信号が重畳された変調器の出力光の一部を分岐する光分岐回路と、分岐された出力光からディザ信号成分を検出するディザ信号検出回路と、検出されたディザ信号が最小になるように前記変調電極バイアス電圧印加電極電圧を制御する変調電極バイアス電圧制御回路とから構成される自動半波長電圧制御回路とを備えたことを特徴とする。
以上説明したように、本発明によれば、動作状態に適応して半導体マッハツェンダ変調器の半波長電圧Vπを制御するので、あらかじめ動作条件テーブルを作成する必要がなく、入力波長を知る必要もなく、さらに、マッハツェンダ変調器や高速データ信号の駆動回路の経時変化があっても適応して動作し、変調特性が変化しないという効果を有し、高速データ信号の駆動振幅を一定のままで変化させる必要が無いため簡易な構成の低コストの高周波駆動回路の使用が可能となる。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図5は本発明の第1の実施形態である光位相変調装置のブロック図である。
マッハツェンダ型光干渉計を構成する光導波路3の2つの光導波路の位相差が光導波路への印加電圧に対して非線形に変化する特性を持つマッハツェンダ変調器10を用いてBPSK変調を行う光位相変調装置であって、マッハツェンダ変調器10の両方のアームにそれぞれに変調電極を備え、それらに差動の高速データ信号の各信号を印加して、光をBPSK変調する構成(差動駆動プッシュプル構成あるいはデュアル駆動プッシュプル構成と呼ばれる)である。さらに、変調電極の他に別途、それぞれのアームに動作点を制御する位相差調整電極を備えている。
最初に、マッハツェンダ変調器10を用いてBPSK変調を行う構成について説明する。
マッハツェンダ変調器10は、基板上に第1のアーム1と第2のアーム2とでマッハツェンダ型光干渉計を構成する光導波路3が形成され、マッハツェンダ変調器10を構成している。マッハツェンダ変調器10の入力端へ入力された入力光が、光導波路内で2つに分岐して、第1のアーム1を構成する光導波路および第2のアーム2を構成する光導波路を伝搬し、これらの分岐光が合波されてマッハツェンダ変調器10の出力端から出力光として出力される。第1のアーム1を構成する光導波路には、光導波路に電圧を印加するための第1の変調電極11−1および第1の位相差調整電極12−1、第2のアーム2を構成する光導波路には、光導波路に電圧を印加するための第2の変調電極11−2および第2の位相差調整電極12−2が上面に形成されている。光導波路底面あるいは基板が接地電極と接続されており、上面電極と基板との間に電圧を印加する。それにより上面電極と基板に挟まれた光導波路に電界が印加され、電気光学効果により位相差が発生する。発生した位相差に応じてマッハツェンダ変調器10より出力される光強度および位相が変化し、光変調動作が実現される。第1のアーム1と第2のアーム2の光導波路の構造は等しく、第1の変調電極11−1と第2の変調電極11−2の長さは等しく構成されていることとする。また、本マッハツェンダ変調器は発生した位相差が印加電圧に対して非線形に変化する特性を持っていることとする。
高速データ信号によりBPSK変調を行うために、高速データ信号源41から発生した高速データ信号を差動出力広帯域増幅器42により増幅し、差動出力広帯域増幅器42の出力の第1の高速データ出力信号は、第1のバイアスT回路43−1のRF端子に入力され、変調電極バイアス電圧がバイアスされて、第1のバイアスT回路43−1の出力端子から出力され、マッハツェンダ変調器の第1の変調電極11−1に印加される。差動出力広帯域増幅器42のもう一方の逆相出力の第2の高速データ出力信号は、同様に、第2のバイアスT回路43−2のRF端子に入力され、第1の変調電極バイアス電圧と等しい変調電極バイアス電圧がバイアスされてマッハツェンダ変調器の第2のバイアスT回路43−2の出力端子から出力され、マッハツェンダ変調器の第2の変調電極11−2に印加される。最適な変調を行うためには、高速データ信号の振幅の和が2倍の半波長電圧Vπに等しくなる必要がある。
ここでは図示していないが、変調電極に印加される信号は変調器の内部で、あるいは出力端子を介して外部で終端されていることが望ましい。
第1の変調電極バイアス電圧と第2の変調電極バイアス電圧が等しいことに注目する必要がある。これにより後述するように第1の変調電極11−1の半波長電圧Vπと第2の変調電極11−2の半波長電圧Vπが等しくなる。また、第1の高速データ信号の振幅と第2の高速データ信号の振幅は等しく設定している。このように、第1、第2のデータ信号が逆相で振幅が等しく、かつ、第1の変調電極11−1、第2の変調電極11−2の半波長電圧Vπが等しくなるように設定しているので、半導体マッハツェンダ変調器から出力される信号波形のチャープがキャンセルされてゼロになる。BPSK変調を行う場合は、高速データ信号の振幅の和が半波長電圧Vπのちょうど2倍である必要があるので、上記のように設定していると、第1および第2の高速データ信号の振幅は半波長電圧Vπに等しくなる。
また、第1のアーム1あるいは第2のアーム2のいずれかあるいは両方の上面には干渉計の位相差を調整する第1の位相差調整電極12−1あるいは第2の位相差調整電極12−2が形成されている。第1の位相差調整電極12−1、第2の位相差調整電極12−2には、高速データ信号の駆動振幅の中心電圧において、即ち、無変調時において、光出力が最小(この点をヌル点と呼ぶ)になるように動作点が調整されるように、動作点制御回路60により位相差調整電極電圧を印加されている。2つの光導波路に各々位相差調整電極を備える場合は、そのどちらかあるいは両方を制御する。即ち、片側の位相差調整電極は接地し、一方の位相差調整電極のみ制御する構成でも良いし、両方を制御することとすれば、各位相差調整電極の最大調整範囲は半分で済む。図5では、両方の位相差調整電極を動作点制御回路60により制御する場合を示している。
以上のように構成することにより、高速データ信号によるBPSK変調を実現する。
図6にBPSK変調時の出力光パワーの駆動振幅および半波長電圧依存性を計算した図を示す。簡単化のために、立ち上がり時間、立下り時間を無視している。横軸に半波長電圧Vπに対する相対値で示した駆動振幅、縦軸に光出力パワーを示す。また、無変調時において、光出力が最小になるように動作点が調整されていることとする。図4で説明したように、BPSK変調を行うためには、高速データ信号の振幅を半波長電圧Vπの2倍にすることが望ましい。図6より駆動振幅が半波長電圧Vπの2倍の時にちょうど光出力パワーが最大になることがわかる。したがって、最適なBPSK変調を行うためには、光出力パワーをモニターし、最大になるように駆動振幅あるいは半波長電圧Vπを調整すれば良い。
図5においては、出力光の一部が光分岐回路14で分岐され、自動半波長電圧制御回路50に含まれる光出力パワーモニタ用のフォトダイオードに入射され、光出力パワーを最大にするように制御できる。
ところで、従来例で説明したように、半導体マッハツェンダ変調器では、変調電極バイアス電圧によって、半波長電圧Vπが変化することが知られている。ここで、半波長電圧Vπが変化する原理について説明する。例えば、InP半導体マッハツェンダ変調器は、光導波路がInP系の半導体光導波路により構成され、ポッケルス効果に加えて、光導波路のコア層がそのバンドギャップ波長が入力光の波長より短波長側である半導体を用いた場合はフランツケルディッシュ効果により引き起こされた屈折率変化にもとづく位相変調、あるいは、光導波路のコア層に多重量子井戸を用いた場合は量子閉じ込めシュタルク効果により引き起こされた電気光学効果による屈折率変化にもとづく位相変調を利用している。そのため、光の位相差が入力電圧に対して非線形に、近似的には印加電圧に線形な項と二乗に比例する項の和で増加する。これにより半導体マッハツェンダ変調器の半波長電圧Vπはバイアス電圧に依存し、変調用電極のバイアス電圧を制御することにより半波長電圧Vπを変化させることができる。
図7に半波長電圧Vπのバイアス依存性を模式的に示す。信号波長をパラメータとして図を描いている。特許文献2の図6に示したアーム間の光の位相差の特性図をもとに書き表した図である。図からわかるように、半波長電圧Vπは電圧に対して単調に減少するから、半波長電圧Vπを小さくするためには変調電極のバイアス電圧を大きくし、半波長電圧Vπを大きくするためには変調電極のバイアス電圧を小さくすればよい。半導体マッハツェンダ変調器では電圧を印加するために半導体のPN接合に対して逆バイアス電圧を印加する。光導波路を構成する半導体のPN接合の向きによって負電圧を印加することもあるが、電圧の大小について混乱を招くので、本発明の説明では電圧の絶対値を用いて、統一的に説明することにする。
位相差が印加電圧に対して非線形に変化する特性を持つため、結果として変調電極バイアス電圧を変化させることにより半波長電圧Vπを変化させることができる。
図6、図7を用いて計算した、変調電極バイアス電圧と光出力パワーの関係を表す図を図8に示す。駆動振幅の和を6Vppdとして計算した。両アームの変調電極バイアス電圧を同じ値で同時に変化させている。この図より、光出力パワーが最大となるようにバイアス電圧を調整できることがわかる。したがって、駆動振幅を一定とし、光出力パワーをモニターし、最大になるように両アームの等しいバイアス電圧を制御することにより、最適なBPSK変調を行うことができる。例えば、波長1550nmにおいては、バイアス電圧5Vで出力光パワーが最大となり、このとき、図7からバイアス電圧5Vでは半波長電圧Vπが3Vであるから、駆動電圧が半波長電圧Vπの2倍になっていることがわかる。
光導波路が電圧印加による位相変化が非線形に変化する成分を含む材料で光導波路を構成していれば、半波長電圧Vπの制御が必要になり、また、逆に考えると、印加電圧を制御することにより半波長電圧Vπを最適値にすることができる点に注目する必要がある。位相変化は屈折率変化に比例するから、位相変化が非線形に変化する成分を含む材料とは、例えば、屈折率変化が印加電界の2乗に比例する成分を含む材料や、飽和により位相変化が印加電圧の平方根に比例する成分を含む材料などである。このように、電圧印加による位相変化が非線形に変化する材料では、半波長電圧Vπが電圧に依存して変化するから、バイアス電圧を制御することにより、高速データ信号振幅と半波長電圧Vπを等しくなるように制御することができる。
動作点制御回路について補足する。図5では、動作点の制御方法について特に図示していないが、特許文献1に示されているように、光出力パワーが最大となるように位相差調整電極の電圧を制御することにより自動動作点制御することができる。この場合は、半波長電圧制御と自動動作点制御を順次行うことにより駆動振幅制御と動作点制御を実現できる。
位相差調整電極について補足する。図5では、位相差調整電極は逆バイアスにバイアスし、その電圧を制御することにより干渉計の位相差を調整する方法を示しているが、非特許文献3のように位相差調整電極が電流注入により位相差を調整する場合には、電圧印加を電流注入に変え、構成および動作は同様にして実現できる。位相差調整電極を順バイアスにバイアスし、位相差調整電極に電流を注入することにより、その電流を制御し、電流注入によるプラズマ効果による屈折率変化を制御し、マッハツェンダ型光干渉計の位相差を調整する。順バイアスにバイアスし、位相差調整電極に電流を注入する場合は、変調効率が高いため、位相差調整電極の電極長を短くできるという利点がある。したがって、位相差調整電極を制御するとは、位相差調整電極を逆バイアスにして電圧を制御する場合と順バイアスにして注入電流を制御する場合の両方を含む。
両アームに位相差調整電極を備える場合について補足する。2つの光導波路の両方に位相差調整電極を備え、その両方を制御する場合であって、位相差調整電極は逆バイアスにバイアスし、その電圧を制御することにより干渉計の位相差を調整する場合は、第1の位相差調整電極の電圧の絶対値を小さくする方向に制御することと第2の位相差調整電極12−2の電圧の絶対値を大きくする方向に制御することと等価である。したがって、例えば、第1の位相差調整電極12−1の電圧の絶対値を小さくする方向に制御しているときに、0Vを超える方向に制御しなければならない場合は、第2の位相差調整電極12−2の電圧の絶対値を大きくする方向に制御すれば良い。同様に、2つの光導波路の両方に位相差調整電極を備え、その両方を制御する場合であって、位相差調整電極は順バイアスにバイアスし、位相差調整電極に電流を注入することにより、その電流を制御し、電流注入によるプラズマ効果による屈折率変化を制御し、マッハツェンダ型光干渉計の位相差を調整する場合は、第1の位相差調整電極12−1の電流を小さくする方向に制御することと第2の位相差調整電極12−2の電流を大きくする方向に制御することと等価である。したがって、例えば、第1の位相差調整電極12−1の電流を小さくする方向に制御しているときに、0mA以下の方向に制御しなければならない場合は、第2の位相差調整電極12−2の電流を大きくする方向に制御すれば良い。
光出力パワーモニタ用のフォトダイオードについて補足する。フォトダイオードは図5ではマッハツェンダ変調器とは別に構成するように図示しているが、半導体基板上に一体集積しても良い。半導体基板上に一体集積する場合は、出力導波路自体が出力光の一部を吸収してフォトダイオードとしても動作する構成にすることができる。
マッハツェンダ型光干渉計を構成する出力側の合波器として、上記では2x1の構成の3dB合波器で構成されているとして説明したが、2x2の構成の3dB合波器で構成しても良い。
図9に出力側の合波器を2x2の構成の3dB合波器で構成し、光出力と反対側のポート15のパワーをモニターする本発明の第2の実施形態である光位相変調装置の構成を示す。図9の構成図は、図5におけるマッハツェンダ変調器10が出力側で接続される光分岐回路14を、2x2の構成の3dB合波器で構成した図である。光位相変調装置の他の各部分については説明済みのため詳細は省略する。
出力側の合波器を2x2の構成の3dB合波器で構成した場合、光出力と反対側のポート15のパワーが最小になるように自動半波長電圧制御回路50において両アームの変調電極バイアス電圧を同じ値で同時に制御する。
図10に出力側の合波器を2x2の構成の3dB合波器で構成し、光出力パワーと反対側のポート14−2のパワーの両方をモニターする本発明の第3の実施形態である光位相変調装置の構成を示す。図10の構成図は、図9の本発明の第2の実施形態である光位相変調装置において、2x2の構成の3dB合波器の光出力パワーもモニターするように光分岐回路14を挿入して構成した図である。光位相変調装置の他の各部分については説明済みのため詳細は省略する。
この構成では、光出力ポートと反対側のポートのパワーの比(=光出力/反対ポートの光出力)が最大となるように両アームの等しい変調電極バイアス電圧を制御しても良い。
これまでの考察では、半導体の電界吸収の効果を無視して説明してきた。しかしながら、実際の半導体には電圧を印加すると電界吸収効果がある。電界吸収効果により、印加電圧の絶対値が大きいほど吸収の効果により変調電極の出力側の光パワーは小さくなる。印加電圧が大きいほど光出力パワーは小さくなるので、単純に光パワーの最大、最小により最適変調電極バイアスを求めると、誤差を生じる。例えば、変調時光出力パワーをモニターする場合、吸収が無ければ、2Vπとなる変調電極バイアス電圧で光出力が最大パワーとなるが、吸収を考慮すると、2Vπとなる変調電極バイアス電圧は光出力最大値よりやや大きな電圧になる。また、変調時反対ポートをモニターする場合、吸収を考慮すると、2Vπとなる変調電極バイアス電圧は、光レベルが最小となる変調電極バイアス電圧よりやや小さい。このずれは、吸収の効果が小さい場合はわずかであるが、吸収が大きい場合は誤差が大きくなる。
変調時の光出力パワーと反対ポートの出力パワーとの比をとれば、電界吸収の効果が相殺され、出力パワーとの比が最大となる変調電極バイアス電圧は2Vπとなる変調電極バイアス電圧に一致する。したがって、光出力と反対側のポートのパワーの比が最大となるように制御した場合、半導体の電界吸収があっても、正確に変調電極バイアス電圧を最適値に制御できる。
図5の第1の実施形態である光位相変調装置は、具体的にはディザ信号(発振信号、微小変調信号)を用いることにより電子回路により実現できる。この構成を図11に示す。
図5における自動半波長電圧制御回路50を具体的に示したものであるので、それ以外の部分については第1の実施形態と同じ構成、動作なので構成、動作の説明は省略する。
まず、本発明の特徴である自動半波長電圧制御回路50の具体的な構成について説明する。自動半波長電圧制御回路50は高速データ信号の振幅の和が2倍の半波長電圧Vπに等しくなるように変調電極バイアス電圧を制御する回路であり、ディザ信号検出回路51、変調電極バイアス電圧制御回路52およびディザ信号重畳回路53および加算回路54より構成されている。
第1の変調電極11−1、第2の変調電極11−2にはディザ信号重畳回路53から発生したディザ信号が、加算回路54により変調電極バイアス電圧制御回路52から発生した変調電極バイアス電圧に重畳され、印加されている。第1の変調電極11−1、第2の変調電極11−2に重畳されるディザ信号は等しい。これにより、図12で説明する動作原理により光出力信号にディザ信号が重畳される。
ディザ信号が重畳された光出力信号は、マッハツェンダ変調器10の出力端と光学的に結合された光分岐回路14により一部を分岐され、ディザ信号検出回路51に入力される。ディザ信号検出回路51は光検出器51−1(これはフォトダイオードと増幅器から構成されている)および位相比較回路51−2(同期検波回路ともいう)(これは乗算回路とローパスフィルタから構成されている)で構成されている。光信号はディザ信号検出回路51の光検出器51−1に内蔵されたフォトダイオードにより検出され、内蔵された増幅器によりディザ信号が増幅される。増幅されたディザ信号は、位相比較回路51−2に内蔵された乗算回路により、ディザ信号重畳回路53より発生したディザ信号と乗算され、位相比較回路51−2に内蔵されたローパスフィルタにより高周波成分を取り除かれて、両ディザ信号の位相差に対応した電圧に変換されて出力され、位相比較が実現される。その位相比較結果にもとづく位相比較回路51−2の出力信号が最小になるように変調電極バイアス電圧制御回路52で第1の変調電極11−1、第2の変調電極11−2のバイアス電圧を制御する。こうして、ディザ信号重畳回路53、光変調器10、光分岐回路14、ディザ信号検出回路51、変調電極バイアス電圧制御回路52によるフイードバック回路を構成し、これらにより変調電極バイアス電圧制御、したがって、自動半波長電圧制御が実現されている。
図12に半波長電圧Vπがバイアス依存性を示すという特徴を用いた自動変調電極バイアス電圧制御の原理を説明する図を示す。ここで、高速データ信号の中心(=動作点)がヌル点に等しくなっていることとする。この図では説明を容易にするために、後述する実施例6のようなシングル駆動の場合を用いて説明しているが、2つの変調電極に差動の高速データ信号を印加した場合も動作原理は同じである。
高速データ信号がマッハツェンダ変調器に印加され、変調信号光を発生している状態で、両アームの変調電極バイアス電圧にディザ信号重畳回路53からのディザ信号を重畳する。両アームに等しく印加される変調電極バイアス電圧が変化すると、動作点は変化せず、図7を用いて説明したように、変調電極バイアス電圧に従って、半波長電圧Vπが変化する。これにより、動作点を中心とした消光特性の横軸が伸び縮みする。これにより、マッハツェンダ変調器の光出力は変調信号にディザ信号が重畳されることになる。そこで、光出力の一部を分岐し、フォトダイオード等を用いて電気信号に変換し、ディザ信号を検出する。ここでディザ信号の変調周波数をf0とおいている。
図12において、入出力特性として、ディザ信号が負への最大振幅、ゼロ、正の最大振幅の場合の3本の消光特性を模式的に示している。動作点を中心とした消光特性の横軸が伸び縮みする様子を示している。また、高速データ信号の振幅には、ディザ信号が重畳されていないことに注目したい。2Vπがデータ信号振幅に等しい場合、図12(a)のように光出力信号にf0成分は生じない。2Vπがデータ信号振幅より大きい場合、図12(b)のように光出力信号にはディザ信号と同相のf0成分が生じる。逆に2Vπがデータ信号振幅より小さい場合、図12(c)のように光出力信号にはディザ信号と逆相のf0成分が生じる。したがって、ディザ信号重畳回路53からの周波数f0のディザ信号と光出力ディザ信号を位相比較(同期検波)することにより、半波長電圧Vπのずれに応じた電圧が生じるので、その出力結果に応じて、変調電極バイアス制御回路において、同期検波出力電圧が正の場合には、両アームの等しい変調電極バイアス電圧が小さくなるように制御し、負の場合は、両アームの等しい変調電極バイアス電圧が大きくなるように制御すれば、半波長電圧Vπが最適な場合に同期検波出力がゼロになり、2Vπがデータ信号振幅に等しくなるので、そのように制御すればよい。
以上の動作原理から、マッハツェンダ型光干渉計を構成する光導波路3の2つの光導波路の位相差が印加電圧に対して非線形に変化する特性を持つマッハツェンダ変調器10を用いてBPSK変調を行う光位相変調装置において、本発明の特徴である自動半波長電圧制御回路を用いて2Vπがデータ信号振幅に等しくなるように制御することができることがわかる。
高速データ信号の中心(動作点)をヌル点に等しくする回路について補足する。図11では、高速データ信号の中心(動作点)をヌル点に等しくする自動動作点制御回路61について内部構成を図示していないが、特許文献1に示されているように、光出力パワーが最大となるように位相差調整電極の電圧を制御することにより自動動作点制御することもできる。この場合は、自動半波長電圧制御と自動駆動振幅制御を異なったディザ(発振)変調周波数を用いて同時に行うことにより、自動半波長電圧制御と動作点制御を実現できる。光分岐回路14およびフォトダイオードの供用が可能なので部品点数とコストを削減できる。
あるいは半波長電圧制御と動作点制御を交互に行うことにより、自動半波長電圧制御と自動動作点制御を実現できる。さらには、同じディザ周波数を用いて自動半波長電圧制御と動作点制御を交互に行うこととすれば、ディザ周波数発生器およびディザ信号検出回路を共用でき、部品点数とコストを削減できる。
マッハツェンダ型光干渉計を構成する出力側の合波器として、上記では2x1の構成の3dB合波器で構成されているとして説明したが、2x2の構成の3dB合波器で構成しても良い。その場合は出力される側のポートの一部を分岐してディザ信号検出に用いても良いし、出力されない側(反対側)のポートの全部あるいは一部を分岐して、ディザ信号検出に用いても良い。この場合は、光出力パワーが最小となるように制御するので、変調電極バイアス制御の向きが逆になる。また、出力される側のポートで検出されるディザ信号と出力されない側(反対側)のポートで検出されるディザ信号との比をディザ信号検出に用いても良い。
図13に本発明の第5の実施形態である光位相変調装置のブロック図を示す。
マッハツェンダ型光干渉計を構成する光導波路3の2つの光導波路の位相差が光導波路への印加電圧に対して非線形に変化する特性を持つマッハツェンダ変調器10−2を用いてBPSK変調を行う光位相変調装置であって、マッハツェンダ変調器の2つのアームの片側のアームに変調電極11を、もう一方のアームに接地電極15を備え、それらの間に高速データ信号を印加して光をBPSK変調する構成(シングルドライブプッシュプル構成)である。基板(より詳しくは光導波路に共通の底面)に電圧を印加することにより変調電極11にバイアスを印加するために、光導波路に共通の底面あるいは基板に接続された変調電極バイアス電圧印加電極16を備えている。さらに、変調電極11の他に、動作点を制御する第1の位相差調整電極12−1、第2の位相差調整電極12−2を備えている。
最初に、マッハツェンダ変調器10−2を用いてBPSK変調を行う構成について説明する。
マッハツェンダ変調器10−2は、第1のアーム1と第2のアーム2とで基板上にマッハツェンダ型光干渉計を構成する光導波路3が形成され、マッハツェンダ変調器10−2を構成している。マッハツェンダ変調器10−2の入力端へ入力された入力光が、光導波路内で2つに分岐して、第1のアーム1を構成する光導波路および第2のアーム2を構成する光導波路を伝搬し、これらの分岐光が合波されてマッハツェンダ変調器10−2の出力端から出力光として出力される。第1のアーム1を構成する光導波路上面には、変調電極11と第1の位相差調整電極12−1が、第2のアーム2を構成する光導波路上面には、接地電極15と第2の位相差調整電極12−2が形成されている。基板は接地しておらず、高速データ信号は変調電極11と接地電極15との間に電圧を印加する。光導波路底面(基板)は、変調電極11にバイアスを印加するための変調電極バイアス電圧印加電極16と接続している。自動動作点制御回路50の出力が、インダクタ45を介して変調電極バイアス電圧印加電極16に印加される。上面電極と基板に挟まれた光導波路に電界が印加され、電気光学効果により位相差が発生する。高速データ信号印加時には、変調電極11と基板、接地電極15と基板の間に逆方向で大きさの等しい電界が印加されるシングルドライブプッシュプル構成になっている。発生した位相差に応じてマッハツェンダ変調器10−2より出力される光強度と位相が変化し、光変調動作が実現される。第1のアーム1と第2のアーム2の光導波路の構造は等しく、変調電極11と接地電極15の長さは等しく構成されていることとする。また、本マッハツェンダ変調器は発生した位相差が印加電圧に対して非線形に変化する特性を持っていることとする。
高速データ信号によりBPSK変調を行うために、高速データ信号源41から発生し、広帯域増幅器42−2により一定振幅に増幅された高速データ信号が、変調電極11と接地電極15の間に印加される。最適な変調を行うためには、高速データ信号の振幅が2倍の半波長電圧Vπに等しくなる必要がある。ここでは図示していないが、高速データ信号は変調電極11と接地との間で、変調器の内部で、あるいは出力端子を介して外部で終端されていることが望ましい。
また、第1のアーム1あるいは第2のアーム2のいずれかあるいは両方には、動作点制御回路60により、動作点をヌル点に制御するために干渉計の位相差を調整する第1の位相差調整電極12−1あるいは第2の位相差調整電極12−2が形成されている。
以上のように構成することにより、高速データ信号によるBPSK変調を実現する。最適なBPSK変調を行うためには、光出力パワーをモニターし、最大になるように半波長電圧Vπを調整すれば良い。
図13においては、出力光の一部が光分岐回路14で分岐され、自動半波長電圧制御制御回路50に含まれる光出力パワーモニタ用のフォトダイオードに入射され、光出力パワーを最大にするように、制御する。
実施例1で示したように、半導体マッハツェンダ変調器の半波長電圧Vπはバイアス電圧に依存し、変調用電極のバイアス電圧を制御することにより半波長電圧Vπを変化させることができる。したがって、光出力パワーを最大にするように、変調電極11の電圧を制御することによって、2Vπがデータ信号振幅に等しくなるように制御される。
以上説明したように、本構成のマッハツェンダ変調器10−2においても、2Vπがデータ信号振幅に等しくなるように自動制御することができる
図13の自動半波長電圧制御回路50は具体的には、ディザ信号を用いることにより電子回路により実現できる。この構成を図14に示す。図14は本発明の第6の実施形態である光位相変調装置のブロック図である。
図13における自動半波長電圧制御回路50を具体的に示したものであるので、それ以外の部分については第5の実施形態と同じ構成、動作なので構成、動作の説明は省略する。
本発明の特徴である自動半波長電圧制御回路50の具体的な構成について、第4の実施例と同様にして、ディザ信号を用いて半波長電圧制御が実現される。変調電極バイアス電圧印加電極16にディザ信号重畳回路53を用いて、ディザ信号が印加されている。これにより、ディザ信号が重畳された光出力信号は、光分岐回路14により一部を分岐され、ディザ信号検出回路51により検出される。検出したディザ信号が最小になるように、変調電極バイアス電圧制御回路52で変調電極バイアス電圧16を制御する。こうして、2Vπがデータ信号振幅に等しくなるように制御される。ディザ信号重畳回路53、光変調器10−2、光分岐回路14、ディザ信号検出回路51、変調電極バイアス電圧制御回路52によるフイードバック回路を構成し、半波長電圧Vπの自動制御が実現されている。
以上説明したように、本構成のマッハツェンダ変調器10−2においても、2Vπがデータ信号振幅に等しくなるように自動制御することができる。
さらに本発明は、BPSK変調器単体だけでなく、BPSK変調器を2個用いて構成したQPSK光変調器やBPSK変調器を4個用いて構成した16QAM変調器等の多値位相変調器の位相変調部に対しても、いずれの実施例の方法を用いても、同様にして自動半波長電圧制御を適用することができる。