この発明は、一部には、互いに弱く結合され従って複数個の固有モードを有する共振器システムを形成する一群の共振器を用いた、エネルギ伝送に用いうる準静的電磁界を生成する、という着想に基づくものである。具体的には、N個の、空間的には分離されているが弱く結合された共振器がN個の固有モードを有する共振器システムを形成する。これら固有モードの物理的特性を、エネルギの無線伝送のための装置に有利に用いることができるであろう。
図1は、好ましくは高いQファクタQnを有するLC発振回路の形のN個(図1の例ではN=14)の空間的に分離された共振器を含む、無線伝送のための装置を概略的に示す。共振器のうちS個(図1の例ではS=2)がそれぞれAC電流発生器に結合される。残りの共振器M=N−Sは負荷抵抗Rを含む。共振器の各々の個々の共振周波数f0、すなわち非結合共振器の共振周波数は、好ましくはN個の共振器全てについて同一である。しかしながら、各共振器についてインダクタンスLn及びキャパシタンスCnの値は異なっていてもよい。ここでQn及びf0は以下の通りである。
共振器間の誘導結合は、何よりも、それらの空間的な距離に依存する。具体的には、共振器間の距離は、弱い結合が達成されるように選ばれる必要がある。すなわち、結合ファクタk
n,mは1未満でなければならない。
この式において、M
nmはn番目とm番目の共振器間の相互インダクタンスであり、L
n及びL
mはそれぞれ共振器のインダクタンスである。弱い結合を確保するためには、k
nmは好ましくは0.5未満、より好ましくは0.1未満である。
図1に示すシステムにおけるN個の共振器の相互結合により、このシステムはN個の明確に定義された固有モードを有することとなる。システムのN個の固有モードは各々、安定した時間的かつ空間的発振を表し、それら固有モードではN個の共振器が全て特定の固有周波数で互いの位相が固定された状態で同期して発振する。N個の共振器の各々のコイル電流の位相関係が時間的に固定されているため、各共振器の各1個のコイルの三次元電界分布の重畳により、共振器システムの周囲には空間的にコヒーレントな磁界が形成される。
4個の共振器が結合された具体例を図2に示す。4個の共振器は位置z1、z2、z3及びz4に配置され、各々直列に配列された同一の要素L、C、Rを含む。n番目とm番目の共振器回路間の誘電結合ファクタkn,m=kは回路間の距離に依存し、小さい、すなわちk<<1である。共振器回路の各々は(同一の)共振周波数f0を有する。
図2はさらに、個々の共振器回路におけるコイル電流と、その結果として生じる磁界とを、位置の関数としての4つの可能な固有モードについて示している(一次元のみ)。基本モード(モード1)の固有周波数はf
1=f
0−3Δfである。このモードでは、全てのコイル電流が同相であり、従って個々の共振器全ての磁界が正に加算されて結果として生じる磁界となる。モード2の固有周波数はf
2=f
0−Δfであり、2個の近接した共振器が同相で発振し、一方2対は位相がずれて発振するので、磁界分布は根を持つことになる。従って、モード3では2つの根を有する磁界分布となる。最後に、モード4では、全ての共振器が位相がずれた状態で発振するので、結果として生じる磁界分布は3個の根を示す。すなわち、3個の位相反転である。図2に示す磁界分布から明らかなように、最高次モード4は共振器間に蓄えられる磁気エネルギ濃度が最低となるモードである。図2は1次元の磁界分布を示すのみであるが、これは3次元で表した磁界分布と結果として生じるエネルギ密度についても同様である。従って、図2に見られるように、最高次モードは、近傍の他の磁気的に感度の高い物体との相互作用の影響を最も受けにくい。
図3は、図2に示された共振器システムについて計算したコイル電流を周波数の関数として示す。図3のシミュレーションでは、個々の共振器の共振周波数はf0=100kHzであり、結合ファクタはk=0.035である。図3で見られるように、4つのコイル電流は全て共振器システムの固有周波数f1からf4で最大となる。異なる固有周波数fnでモード特有の位相と振幅の分布が見られ、最高モード4は、103kHzに近い周波数f4を有する。上で示した通り、N個の結合された共振器を含むシステムを正確に最高次の固有モードの周波数fNで動作させることが好ましい。なぜなら、このモードでは、共振器システムの体積におけるエネルギ密度が可能な限り低くなるからである。このため、望ましくない電磁相互作用を回避でき、システムは可能な限り効率的に働く。しかしながら、それぞれの固有周波数でシステムに信号を印加することにより、異なる固有モードでシステムを動作させることも等しく可能である。さらに、例えば図1に示すように2個以上の発電機を用いる場合はシステムに異なる周波数を追加的に印加することも可能である。
システムの動作周波数は、共振器の寸法に適合させて選択してもよい。電磁波によって引起される放射損失を回避するために、システムを低周波数で動作させることが好ましい。従って、共振器の典型的な寸法は、好ましくは波長λ0=c/f0の1/20より小さい。
誘導コイルは、この発明に従って用いられる共振器システムの個々の共振器において重要な構成要素である。特に、明確に定義された特性、特に明確に定義されたインダクタンスを有するコイルを提供できることが重要である。共振器コイルは通常は丸線、リッツ線、又は丸管で円筒形又は平面コイルの形で作られるが、この発明に従った装置の共振器では、金属条片から作られたコイルを利用することが有利である。金属条片はコイル軸と平行に、従ってコイルの磁界に平行に配列すべきである。コイルを形成する金属条片間の絶縁材料の適切な厚みと誘電特性とを選択することで、金属条片の個々の層間の距離を制御することができ、それによって個々の巻線のキャパシティと近接効果による損失とを規定することができるであろう。こうして、コイルの製造時にコイルの共振周波数を制御することができる。さらに、丸線に代えて金属条片を用いることで、巻線への表皮効果が減じられ、等しい重さを有する丸線で作られたコイルと比較して、コイルの品質、すなわちQファクタが改善される。さらに、金属条片をコイルの導電材料として用いる場合、表面対断面の比を増加させることができ、より高い電流密度が可能となり、従って、コイルの熱特性が改善される。
図2に示される共振器等の1又は2以上の消費部に実内部抵抗RGが結合された発電機からの電力の効率的伝達を可能にするためには、消費部の各々が公知の複素整合条件を満たしていなければならない。すなわち、発電機から消費部の各々への伝達関数の虚部がゼロ(無効電力補償)であり、逆に、全ての消費部で実部は発電機に向かって見た場合の抵抗と等しくなければならない。図4は図2に概略的に示したシステムにおける消費部、すなわち共振器の伝達関数の実部と虚部とを示しており、ここで第1の共振器はAC電流発生器に結合されている。すなわち、例示のシステムでは、1個の発電機回路(S=1)と3個の消費回路(N=3)とを含み、従って、N=M+S=4個の固有モードを有する。図2の直列共振器回路の場合、システムを表す発電機から個々の消費部への伝達関数は、複素トランスアドミッタンスYn(ω)=ILn/U1で与えられ、ここでYn(ω)は発電機からn番目の共振器を見たときの、角周波数ωの関数としてのアドミッタンスであり、ILnはn番目の共振器コイルを通る電流であり、U1は発電機の出力での電圧である。すなわち、Y1(ω)は発電機から見た全共振システムの入力アドミッタンスである。
図4に示した4つの上記トランスミッタンスの実部と虚部との計算された周波数応答から見られるように、全てのトランスミッタンスの虚部はゼロであり、実部はシステムの4つの固有周波数でモード特有の値Rnを有する。すなわち、これらの周波数で、結合条件によって定まる、発電機から消費部への最適なエネルギ伝達が確保される。負荷抵抗をシステムで必要とされる抵抗Rnに伝達するインピーダンスコンバータ段、例えば必要な巻線比を有する変圧器又は電子インピーダンスコンバータ等を用いて、ある値の負荷抵抗器を発電機に適合させることもできる。従って、システムの固有周波数の1つでシステムを動作させれば、同時に全ての消費部の電力整合が確実になされ、このためシステムの伝達効率が最高になる。さらに、実入力アドミッタンスは、電源の高いDC−AC効率の前提条件である、発電機のいわゆる「ゼロ電流スイッチング」を可能にする。この結果、この発明に従って電力伝達システムを動作させることはまた、発電機効率と伝達効率との積である、その全体の効率を最適化する。
共振器が標準的なLC回路で形成されているならば、回路間の結合を達成するために共振器回路の様々な配列が可能である。例えば、線形、円形又は立方形の配列を選択することができる。ここで注目されるのは、共振器の相互結合を制御するのは回路間の距離だけではないということである。結合はまた、2つの近接した回路のコイル軸をある角度に配列することによっても選択でき、この場合、直交するコイル同士は全く結合されない。LC回路の成分、すなわちインダクタンスL、キャパシタンスC、及び抵抗器Rは直列に配列しても並列に配列してもよい。直列配列を用いる場合、電力伝送システムの安定性のためには、発電機が低インピーダンスRGを有する電圧源の特性を持つことが重要である。これは共振の場合に電流振幅が最大となり、共振周波数から大きくずれた場合にはゼロになることを確実にする(開回路安定性)。並列発振回路を用いる場合、好適な発電機は高いインピーダンスRGの電流源であり、このため、電圧は共振周波数で最大となり、低周波数及び高周波数ではゼロになろうとする(短絡安定性)。いずれの種類の発電機も、上述の通り、インピーダンスコンバータ段を用いて他方に変換することができる。
上述のように固有周波数の1つで共振器構成を動作させるために、発電機はできる限り正確に所望の固有周波数に調整しなければならない。しかしながら、実際的な動作条件の下では、負荷の変化又は例えば結合係数、LC要素の値、温度等の、システム特性の変動により、固有周波数の時間的な変動が引起されるおそれがある。この発明の実施例によれば、少なくとも1つの発電機が、固有周波数のうちいずれか1つを選択するように適合された周波数選択的フィードバック経路を含む。フィードバック経路は電力増幅器、分岐回路、分離増幅器及び電気的に調整可能なバンドパスフィルタを含む。フィードバック経路に含まれる電力増幅器はゼロ電圧及び/又はゼロ出力スイッチング用に適合されていなければならない。
発電機により与えられる周波数を正確に制御するために、図6に示すような本質的に共振する発振器システムを用いることができる。図6の発振器システムは以下の構成要素を含む。必要な駆動用電子部品を含む、高効率の電力増幅器(例えばC級増幅器、D級増幅器、E級増幅器、又は絶縁ゲートバイポーラトランジスタIGBTもしくはMOSFET等を備えたブリッジ増幅器)、例えば図1に示す結合共振器システムの入力インピーダンス/アドミッタンスによってそれぞれ形成される、多重共振複素負荷インピーダンス又はアドミッタンス、出力信号A(それぞれ電流IL又は電圧UL)のわずかな部分をフィードバック経路に減結合する分岐回路、周波数独立利得で高逆結合阻止量の分離増幅器、及び中心周波数を電子的に調整可能なバンドパスフィルタである。発振を起動し駆動するのに必要な正のフィードバックは、出力信号のわずかな部分を増幅器の入力に同位相で再供給することによって達成される。このわずかなフィードバック信号はまず、周波数独立で、分離増幅器によって増幅される。増幅されたフィードバック信号はその後電気的に調整可能な狭帯域フィルタに与えられる。これによって、分離増幅器はバンドパスフィルタの多重共振負荷からの減結合を引起す。これにより、望ましくない付加的な固有周波数の発生を回避できる。周波数選択的に増幅されたバンドパスフィルタの出力信号は電力増幅器の入力を形成する。この周波数選択的フィードバック機構(FSFB=frequency selective feedback)により、制御電圧Ucontrolにより選択された共振器システムの所望の固有周波数fnで発振器が安定して振動するようになる。これにより、電力増幅器の振幅依存利得G(A)は振動振幅が最終的に安定した値に落ち着くことを確実にする。
周波数選択的フィードバックの効果を図7に示す。発振器で可能な関連のある周波数は、開フィードバックループの利得の最大値、すなわち共振、によって定まる。ループ利得GK(ω)は複素負荷インピーダンス又は負荷アドミッタンスに比例するので、フィードバックモード(電流フィードバック又は電圧フィードバック)を適切に選択することにより、ループ利得は多重共振負荷と同じ共振を持つ。図7aは周波数選択的フィードバックのない状況を示す。複数の周波数での過渡的な発振の後、発振器は最も高いループ利得(モード利得)を有する固有周波数fnで動作するようになる。しかしながら、近接した固有周波数も同様の利得を有することがあるので、結合構成によってはモードホッピングの恐れがある。すなわち、負荷の変化と結合ファクタのばらつきのために、固有周波数が頻繁に変化するのである。この効果は、図6に示す電子的に調整可能な狭帯域フィルタを用いて固有周波数の1つの利得を実質的に増加させることで効率的に予防することができる。周波数選択的フィードバックのこのモード選択効果を図7bに示す。バンドパスフィルタの帯域幅は共振間の距離(典型的には100Hzから数kHz)より小さくなければならない。周波数選択的フィードバックの別の利点は、システムを用いてエネルギが伝送される消費部側に、システムを安定化させるための専用のフィードバック経路が不要という点である。
増幅器の種類、複素負荷及びフィードバックの種類の全ての組合せが固有周波数の安定した発振につながるわけではないことが分かった。従って、周波数選択的フィードバックを利用するエネルギ伝送システムのために本質的に安定な発振器システムの構成を注意深く選択することが重要である。多重共振負荷の発振器システムが負荷の変化と周波数の変動に対して安定であることを確実にする可能な構成の1つを図8aに示す。電圧増幅器‐すなわちその出力が電圧源の特性を有する増幅器‐が直列共振を伴う負荷アドミッタンス_YL(ω)=_Y1(ω)(ここで「_」記号は図中文字Yの下に表記される)に作用し、負荷電流に比例する信号がフィードバックされる(開回路安定性)。又はこれに代えて、図8bの構成では、電流増幅器−すなわち、その出力が電流源の特性を示す増幅器−が並列共振を伴う負荷インピーダンス_ZL(ω)=_Z1(ω)(ここで「_」記号は図中文字Zの下に表記される)に作用し、負荷電圧に比例する信号がフィードバックされる(短絡安定性)。ここで注目すべきことは、電圧増幅器はD級増幅器で実現でき、電流増幅器はE級増幅器を用いて得られることである。
図9に、過渡的発振、モード選択及びパラメータ変動に対する安定性を含む、周波数選択的フィードバック(S=1、M=3、N=M+S=4)のある4次システムをシミュレートするのに利用された、シミュレーションモデルを示す。
共振負荷のバンドパスフィルタ特性のために、発電機の出力波形が正弦曲線である必要はない。D級増幅器を所望の固有周波数と等しいスイッチング周波数で動作させて、方形出力電圧を生成することが可能である。この場合、発電機はゼロ電流スイッチング条件のもと、最小化されたスイッチング損失で動作する(図11bを参照)。
発電機をシステムの固有周波数の正確な1つで動作させる代わりに、発電機を共振器システムの固有周波数の分数調波に対応する周波数で動作させることが有利かもしれない。これは、例えば図11aに示す構成で行うことができる:ここで、フィードバック信号cILの周波数fnはファクタF=2、3、4、…で分割され、これによって発振器は分数調波周波数fsub=fn/Fで動作する。発振器によって生成される振動の形状を最適化すべきなので、所望の調波は図11cに見られるように良好に表された状態で出力信号に存在するようにする。共振器システムをその固有周波数の1つの分数調波で励起することにより、発振器におけるスイッチング損失を減じることができ、これによって、安価な半導体の利用が可能になり、冷却の必要性が減じられる。さらに、より高い電流又は電圧定格の半導体装置を利用することが可能になる。高出力デバイスの許容スイッチング周波数は一般に、低出力デバイスのそれよりも低いからである。さらに、所与の特定のスイッチング周波数fswitch=fsubでは、共振器回路はより高い調波周波数fn=F・fsubで動作させることができ、ここで共振器の品質ファクタが最高の値をとる。
この発明のシステムの共振周波数の1つでの動作のために、伝送される電力を制御し、共振器回路の構成要素を、並列共振回路の近似的開回路動作の、又は直列共振回路の近似的短絡回路の、過電圧から保護する必要がある。これは発電機に結合される共振器入力での電圧を制御することでなされる。さらに、トランジスタは、低スイッチング損失を達成するために、電圧又は電流のゼロ交差で(ゼロ電圧スイッチングZVS又はゼロ電流スイッチングZCS)スイッチしなければならない。
ヨーロッパ標準に従った法的規制に従い、商用電源に接続される回路は調波電流の所定の制限を超えてはならない。ある電力を超えると、力率改善(PFC)電源の使用が義務付けられる。このようなPFC電源は典型的には出力電圧が商用電源電圧のピーク値より高い。伝送される電力を制御するためにはまた、商用電源電圧のピーク値より小さい電圧もまた調整可能でなければならない。
電力伝送を制御する最も簡単なやり方は、ゼロ電圧又は電流スイッチングの条件を放棄して発電機を共振周波数と異なる周波数で動作させるか、又はトランジスタをデューティサイクルを変えてスイッチすることであろう。しかしながら、いずれの可能性も、トランジスタのスイッチング損失を増加させることにつながる。
電力伝送を制御する別のやり方は、PFC電源と出力段との間に挿入されるDC/DCコンバータを利用することであろう。その役目はPFC電源の出力電圧を伝送に必要な値まで降下させることである。しかしながら、これはDC/DCコンバータにかかる負荷を増加させる。
この発明の別の局面に従えば、PFC電源と発電機の出力段との間にDC/DCコンバータを追加して挿入する必要なく電力伝送を制御することが可能である。これはゼロ電流又は電圧スイッチングの利点を維持するとともに、システムの共振周波数の1つでの動作を維持する。発明のこの局面に従えば、電圧の設定はまず、適切な分数調波を選択しこれを発電機に印加する広いステップで行われる。電圧の微調整はPFC電源の出力電圧に適切な目標値を設定することで行う。
図12はこの発明のこの付加的な局面の可能な具体例を示す。コイルL1、トランジスタM1及びダイオードD5が、整流ダイオードD1-D4とともにPFC電源を形成する。キャパシタC1の充電電流を制限するために、任意の要素である抵抗器1(R1)とリレーコンタクトS1とを利用可能である。出力段はトランジスタM2及びM3から形成される。発電機に結合される共振回路はコイルL2及びキャパシタC2からなる。例示されたMOSFETに代えて、例えばIGBT等の他のスイッチング素子を用いてもよい。
以下の表はキャパシタC1の電圧V_DCに依存する様々な分数調波での共振回路の入力における基本周波数の調整可能な振幅を示す。V_DC_minは調整可能な最低のDC電圧である。理論的には、最大電圧V_DC_maxにはより高い値を選ぶことができる。しかしながら、トランジスタの許容電圧を考慮することが有利であろう。選択された分数調波で、V_DC_minは結果としてV_out_minをもたらし、同様にV_DC_maxはV_out_maxをもたらす。表の分数調波2は、正の半周期の2分の1のみが生成されて共振器に入力されることを意味し、分数調波3は、同様に、正の半周期の3分の1のみが生成されることを意味し、以下同様である。
発電機の出力段を制御するために、フィードバック信号は共振回路における電圧と電流の位相整合、及び共振構成要素での振幅をキャプチャする必要がある。電流の位相整合のためのフィードバック信号として、測定コイルの電圧信号、又は発電機に接続されたコイルのタッピングを利用可能である。さらに、電流トランスによりコイル電流を測定し評価することが可能である。また、共振キャパシタの電圧をモニタすることも可能である。いくつかのキャパシタを直列接続している場合、これらのキャパシタのうち1つの電圧を検出すれば足りる。出力段を共振器と同期させるために、これらのリアクティブ成分の電圧のゼロ交差を制御部で90°シフトする必要がある。この結果、共振回路での電圧と電流との位相シフトが0°になる。電流測定の間、90°のシフトは必要でない。ゼロ交差は比較器を用いて検出することができる。
コントローラとスイッチングトランジスタとの間の信号伝達の遅延時間を補償すべきであれば、出力段トランジスタの実際のスイッチング時間を比較器でモニタし、付加的信号としてコントローラに与えればよい。
直列共振器として動作する受信機の短絡、又は並列回路として動作する受信機に負荷が存在しない場合、さらに、送信機が受信機なしで動作する場合は、数キロボルトの高電圧が共振素子で生じ得る。従って、送信機の制御部は共振素子の電圧をモニタしなければならない。もし電圧が制限値を超えれば、適切な分数調波を選択すること及び/又はV_DCを減じることにより、送信共振回路の入力電圧の基本周波数を下げなければならない。
送信機の共振素子の電圧及び電流の制限値は、フィードバック信号の振幅を利用するウィンドウ比較器の助けによりモニタされる。これらの制限値は制御部にディジタル信号として送られる(図13を参照)。しきい値情報のサンプリングは、フィードバック信号のゼロ交差に対し90°のシフトで、すなわち電圧と電流とが最高のときに行われる。もし予め定められたしきい値を超えるか下回れば、制御部はPFC電源の適切な電圧目標値に関して好適な分数調波を選択する。従って、共振素子に与えられる負荷は制限値内にとどまる。従って、電圧及び電流は必ずしも別個にアナログ信号として測定する必要はなく、比較器を介してフィードバック信号から全て必要な情報をディジタルで引出すことができる。
電気自動車の蓄電池を充電可能とするためには、また一般的に全ての種類の電気機器の蓄電池を充電可能とするためには、エネルギ伝送システムによって与えられる交流(AC)電圧を直流(DC)電圧に変換する必要がある。しかしながら、電気自動車は駆動時にバッテリのDC電圧をモータのためのAC電圧に変換し、モータのAC電圧をバッテリ充電のために回生するときには逆を行う電力系電子部品を含む。電気自動車のこのような電力系電子部品は、この発明に従った無線伝送部でバッテリを充電する場合、バッテリの再充電に利用できる。既存の電子部品を利用することで、無線電力伝送システムの受信側をバッテリ充電の要求に合わせるための付加的回路が回避できるであろう。
この発明の実施例に従えば、無線エネルギ伝送システムの受信機は電気自動車の駆動システムに2つの方法で組み入れることができる。駆動システムのインバータは、スイッチングトランジスタTrとフリーホイールダイオードDとを含むであろう。図10aはインバータのフリーホイールダイオードの、無線エネルギ伝送システムのAC電圧整流用のダイオードとしての利用を示す。これによれば、AC電圧の振幅は、バッテリの最適な充電が達成できるように調整されなければならない。従って、バッテリを充電するために必要な電圧の詳細が、エネルギ伝送システムで利用可能とされなければならない。充電の間、スイッチS1は閉じられスイッチS2は開かれて、巻線L1,L2,L3で示されるモータをインバータから分離する。
図10bに示す第2の実施例では、トランジスタTrとフリーホイールダイオードDとからなるインバータはバッテリ充電中にブーストコンバータとして用いられる。無線エネルギ伝送システムの出力電圧は整流器を用いて整流される。整流器に加えて、フィルタキャパシタを利用してもよい。バッテリを充電する際には、スイッチS1は閉じられる。無線エネルギ伝送システムの負の端子はバッテリの負の端子に接続され、正の端子はスイッチS1を介して、ここでもまた巻線L1からL3で示されるモータの中性点に接続される。インバータはこれでブーストコンバータとして動作可能であり、モータの巻線のインダクタンスは蓄積チョークとして利用される。ブーストコンバータは無線エネルギ伝送システムの整流された出力電圧をバッテリ電圧のレベルに適合された値に設定する。ブーストコンバータに3個のハーフブリッジを利用可能であるので、ブーストコンバータを多相ブーストコンバータとして動作させることもできる。このようにして、インバータの全てのハーフブリッジにおける電力損失が均等に分配され、無線エネルギ伝送システムの整流器の出力側のフィルタキャパシタでの電圧リップルが減じられる。
エンジンの中性点にアクセスできない場合は、図10cの構成を利用できる。図10cによれば、付加的な蓄積チョークLが挿入され、無線エネルギ伝送システムはスイッチS1を介してモータの供給線に接続される。インバータの下段トランジスタの1つ又は全てを同期させることにより、インバータはブーストコンバータとして働き、これが無線エネルギ伝送システムを所望の値に設定する。
駆動システムと無線エネルギ伝送システムへの結合のための回路を組合せることにより、車両での実装がより簡単になる。なぜなら、システムに必要なスペースが小さくなるからである。さらに、必要な部品数も減るので、コストが削減でき、信頼性は向上するであろう。無線エネルギ伝送システムを既存の駆動システムに後から導入するために、図10cの構成が特に好適である。
この発明の付加的な応用は、クレームされた装置をセンサとして用いること及び測定された値の無線伝送である。測定すべき数量を無線で伝送する様々なシステムが公知であり、これは無線通信又はRFIDシステムを含む。
無線エネルギ伝送のための結合された共振器を含むシステムを研究していくと、これらの装置は、共振周波数、品質ファクタ、及び送信機と受信機との結合等のいくつかのパラメータのわずかな変化に非常に敏感であることが分かった。この発明の装置のこの敏感さを利用して、測定すべき数値の情報を得ることができるであろう。特に、受信機の共振周波数の変化、受信回路の品質ファクタ及び/又は受信機と送信機との結合は、共振周波数の変化、入力電力又は送信回路の電圧及び電流の位相シフトとして検出可能である。従って、測定すべき数量の情報が得られる。
例えば、湿度、温度、キャパシタの変形等のパラメータはキャパシタンスの変化につながり得る。これは受信機の共振周波数の変化につながり、送信回路の共振周波数を測定することで検出可能である。受信回路の共振周波数の変化を用いて検出可能な他のパラメータは、例えば、誘電率の変化につながる強磁性材料の相対浸透率の変化、コイルの変形等である。温度、湿度又は歪の変化の場合、品質ファクタの値が変化する。さらに、送信機と受信機との距離の変化、又はそれらの空間的配置の変化は、結合係数の変化を測定することで検出できる。強磁性材料を含まない、回転角を測定するための無線レゾルバを構築する等の、いくつかのシステムの組合せも可能である。
この発明のシステムを用いて、様々な物理的数量を測定し無線でかつ非接触で送信することができる。これらのシステムには強磁性材料が不要なので、低質量、低価格でセンサを実現することができる。周波数選択的な動作方法のために、センサは磁界又は電界の影響を受けない。
この発明により、3次元空間で多くの消費部への無線電力伝送が達成できるであろう。さらに、システムを固有周波数の1つで動作させることにより、全体の効率が向上する。最も高い固有周波数で固有モードを用いると、環境に蓄積される電磁エネルギの量は最少になる。電力増幅器の周波数選択的フィードバックにより、ユーザ選択可能な固有周波数で正確に動作する自己安定発振回路が実現される。