JP2013509859A - 幹細胞の分化誘導方法 - Google Patents
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Abstract
【選択図】図1
Description
しかしながらマウス胚性幹細胞を用いた解析によると、SFEB法を適用した場合、3割程度の細胞が大脳神経細胞に分化したものの、残りの過半の細胞はそれ以外の種類の神経細胞の混雑物であった。また分化誘導した大脳神経細胞のうち、大脳皮質細胞はさらにその4割程度であり、その誘導効率は良好なものではなかった。さらにSFEB法等の従来法で誘導された大脳組織のうち大半のものは、明確な皮質組織の形態を示さず、乱雑な細胞塊になることが殆どであった。また従来のSFEB法では、中枢神経系の最も吻側から発生する間脳組織の分化誘導を効率よく行うことができなかった。
[1]無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を形成させる工程(1);及び
基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養させる工程(2)
を含む、幹細胞を神経前駆細胞へ分化誘導する方法;
[2]神経前駆細胞が、網膜前駆細胞である、[1]に記載の方法;
[3]基底膜標品が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチンから選択される細胞外マトリックス分子を含むものである、[2]に記載の方法;
[4]浮遊培養が、KSR存在下で行われる、[2]または[3]に記載の方法;
[5]浮遊培養が、NodalまたはActivin存在下で行われる、[4]に記載の方法;
[6]無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程(1);
基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養して、眼杯様組織を凝集体中に自己形成させる工程(2’)
を含む、網膜前駆細胞塊を形態的に分離または同定する方法;
[7]基底膜標品が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチンから選択される細胞外マトリックス分子を含むものである、[6]に記載の方法;
[8]浮遊培養が、KSR存在下で行われる、[6]または[7]に記載の方法;
[9]浮遊培養が、NodalまたはActivin存在下で行われる、[8]に記載の方法;
[10]無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程(1);
基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養して、眼杯様組織を凝集体中に自己形成させる工程(2’);及び
自己形成された眼杯様組織を器官培養液中で浮遊培養する工程(3);
を含む、網膜層特異的ニューロンを分化誘導する方法;
[11]網膜層特異的ニューロンが、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞及び神経節細胞から選択される、[10]に記載の方法;
[12]基底膜標品が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチンから選択される細胞外マトリックス分子を含むものである、[11]または[12]に記載の方法;
[13]浮遊培養が、KSR存在下で行われる、[10]〜[12]のいずれか一に記載の方法;
[14]浮遊培養が、NodalまたはActivin存在下で行われる、[13]に記載の方法;
[15]無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程(1);
基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養して、眼杯様組織を凝集体中に自己形成させる工程(2’);及び
自己形成された眼杯様組織を器官培養液中で浮遊培養する工程(3);
を含む、網膜組織を試験管内で製造する方法;
[16]基底膜標品が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチンから選択される細胞外マトリックス分子を含むものである、[15]に記載の方法;
[17]浮遊培養が、KSR存在下で行われる、[15]または[16]に記載の方法;
[18]浮遊培養が、NodalまたはActivin存在下で行われる、[17]に記載の方法;
[19]無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程(1);
基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養して、眼杯様組織を凝集体中に自己形成させる工程(2’);及び
自己形成された眼杯様組織を器官培養液中で浮遊培養する工程(3);
を含む、網膜層特異的ニューロンの製造方法;
[20]網膜層特異的ニューロンが、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞及び網膜節細胞から選択される、[19]に記載の方法;
[21]基底膜標品が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチンから選択される細胞外マトリックス分子を含むものである、[19]または[20]に記載の方法;
[22]浮遊培養が、KSR存在下で行われる、[19]〜[21]のいずれか一に記載の方法;
[23]浮遊培養が、NodalまたはActivin存在下で行われる、[22]に記載の方法;
[24][1]〜[23]のいずれか一に記載の方法により製造される、培養産物;
[25][24]に記載の培養産物を用いることを特徴とする、被検物質のスクリーニング方法;
[26][24]に記載の培養産物を用いることを特徴とする、被検物質の毒性試験方法;
[27][24]に記載の培養産物を含む、移植用網膜。
「幹細胞」とは、細胞分裂を経ても一定の分化能を維持することができる細胞のことをいう。幹細胞の例としては、受精卵あるいはクローン胚由来で多能性を有する胚性幹細胞(ES細胞)、生体内の組織中に存在する体性幹細胞や多能性幹細胞、各組織の基になる肝幹細胞、皮膚幹細胞、生殖幹細胞、生殖幹細胞由来の多能性幹細胞、体細胞由来で核初期化によって得られる多能性幹細胞等が挙げられる。
本発明の方法で用いられる幹細胞としては、例えば着床以前の初期胚を培養することによって樹立した哺乳動物等の胚性幹細胞(以下、「胚性幹細胞I」と省略)、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立した胚性幹細胞(以下、「胚性幹細胞II」と省略)、体細胞へ数種類の転写因子を導入することにより樹立した誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)、及び胚性幹細胞I、胚性幹細胞II又はiPS細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変した多能性幹細胞(以下、「改変多能性幹細胞」と省略)が挙げられる。
本発明により、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞等の多能性幹細胞の分化細胞を得ることができる。本発明の方法により幹細胞から分化誘導される細胞として好ましくは、神経系細胞である。さらに好ましくは神経幹細胞であり、特に好ましくは神経前駆細胞であり、最も好ましくは網膜前駆細胞である。また、神経前駆細胞を介して得られる神経細胞も本発明により得ることができ、そのような神経細胞の種類は特に限定されないが、好ましくは網膜細胞である。本発明の方法により得られた細胞がいずれの細胞であるかは、自体公知の方法、例えば細胞マーカーの発現により確認できる。
得られた細胞が神経幹細胞であることを確認する方法としては、実際に生体脳に移植してその分化能を確認する方法や、試験管内で神経幹細胞を神経細胞/アストロサイト/オリゴデンドロサイトに分化誘導させて確認する方法等が挙げられる(Mol.Cell.Neuroscience,8,389(1997);Science,283,534(1999))。また、このような機能を有した神経幹細胞は、神経前駆細胞での発現が確認されているマーカーである細胞骨格蛋白質ネスチンを認識する抗ネスチン抗体や核内因子Sox1を認識する抗Sox1抗体で染色可能である(Science,276,66(1997))。従って、抗ネスチン抗体や抗Sox1抗体で染色することにより神経幹細胞を確認することもできる。ただし、網膜前駆細胞は神経前駆細胞で有りながら、例外的に抗ネスチン抗体や抗Sox1抗体で染色されず、かわりに網膜前駆細胞に発現する核内因子Rx及びPax6を認識する抗体、抗Rx及び抗Pax6抗体で染色できる。従って、網膜前駆細胞はRx及びPax6陽性、ネスチン及びSox1陰性の細胞として確認できる(Ikeda et al,PNAS 2005)。
また神経細胞マーカーとして、Tuj1、チロシン水酸化酵素(TH)、セロトニン、MAP2、MAP2ab、NeuN、GABA、グルタメート、ChAT、VGluT1、GluR1、CamKII、Reelin、Telencephalin、Ctip2、Tbr1、Tbr2、Brn2,L7等が挙げられるが、これらに限定されない。 本発明の方法により得られる神経前駆細胞は、高頻度で、少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは約80〜90%の頻度で、Rx陽性である。
本発明は、無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を形成させる工程;及び基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養させる工程を含む、幹細胞を神経前駆細胞へ分化誘導する方法を提供する。
本工程は、工程(1)で形成した均一な幹細胞の凝集体を、基底膜標品の存在下で浮遊培養することで、幹細胞を分化誘導する工程である。
好ましい基底膜標品としては、基底膜成分として市販されている商品(例えばMatrigel)や、基底膜成分として公知の細胞外マトリックス分子(例えばラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン等)を含むものが挙げられる。
本工程の培養時間は特に限定されないが、通常48時間以上であり、好ましくは7日間以上である。
網膜前駆細胞塊は、自己形成された眼杯様組織を凝集体から物理的、形態的に切り出せばよい。したがって本方法によれば容易に網膜前駆細胞塊を分離することが可能である。また本方法によれば、幹細胞の凝集体を浮遊培養して網膜前駆細胞を得る際、網膜前駆細胞マーカー等を用いて網膜前駆細胞の位置について確認するという作業は必要なく、凝集体中に突起状に形成された細胞塊を単に切り出すだけで容易に網膜前駆細胞塊を得ることができる。
本工程は、工程(2’)で得られた眼杯様組織を器官培養液中で浮遊培養する工程である。
眼杯様組織の切り出し方法としては特に限定されず、幹細胞の凝集体から微細ピンセット等を用いて切り出すことが可能である。
本工程の培養時間は特に限定されないが、通常48時間以上であり、好ましくは7日以上である。
本発明によれば、このような網膜組織を構成する細胞群、すなわち「網膜層特異的ニューロン」への、幹細胞からの選択的分化誘導法が提供される。そして幹細胞から「網膜層特異的ニューロン」を製造する方法も提供される。
本発明はまた、本発明の方法により得られる培養産物を提供する。本発明の培養産物とは、幹細胞の浮遊凝集体、浮遊凝集体を分散処理した細胞、分散処理細胞の培養により得られる細胞等、本発明の方法によって得られる細胞培養物の全てを含むものであり得る。
また本発明の培養産物には、このような上記培養産物から被験体に投与し得る程度に単離・精製された均質な細胞や組織化された細胞群、例えば工程(1)及び工程(2)を経て得られた、神経前駆細胞(例えば網膜前駆細胞)等、工程(1)及び工程(2’)を経て得られた眼杯様組織、網膜前駆細胞塊、あるいは工程(1)、工程(2’)及び工程(3)を経て得られた、網膜組織や網膜層特異的ニューロン等が含まれる。
本発明は、工程(1)、(2’)及び(3)を含む、網膜神経ネットワークを試験管内で自己形成させる方法を提供する。この方法によれば、改変SFEBq法により得られた細胞凝集体が乱雑な神経細胞塊になることなく、その中に網膜神経ネットワークを形成することができる。
また、本発明の方法によって自己形成される網膜神経ネットワークにおいては、多くの細胞で周囲の細胞と同調した、または同調しないCa2+上昇(カルシウムオシレーション)が繰り返し観察される。このように、本発明の方法で形成される網膜神経ネットワークは、好ましくは同期した自発発火を伴うものでありうる。ここで「発火」とは、神経細胞の脱分極による興奮性活動のことをいい、「自発発火」とは、それが自発的に起こることをいう。すなわち本発明の方法で形成される網膜神経ネットワークは、ある面で生体網膜と類似した神経活動を起こしうる。
本発明は、工程(1)、(2’)及び(3)を含む、網膜組織の立体構造を試験管内で自己形成させる方法を提供する。この方法によれば、改変SFEBq法により得られた細胞凝集体が乱雑な神経細胞塊になることなく、その中に網膜組織の立体構造を形成することができる。より好ましくは、眼杯原基で認められる網膜形成と同様の順序で、自己組織化が進む網膜の組織形成の初期過程を模倣することが可能である。
本発明は、本発明の培養産物を用いることを特徴とする、被検物質のスクリーニング方法を提供する。特に本発明の培養産物は、生体における神経ネットワークと極めて類似した神経ネットワークを構築しており、また網膜の組織形成過程と極めて類似した網膜組織を構築しているので、神経系細胞、例えば網膜前駆細胞や網膜細胞の障害に基づく疾患の治療薬のスクリーニング、その他の原因による細胞損傷状態における治療薬のスクリーニング、またはそれらの毒性試験、さらには神経系疾患の新たな治療方法の開発等に適用することができる。
(方法)
マウスES細胞(E14由来)のEB5細胞または、E14由来の細胞株で神経分化レポーターとして大脳神経マーカーBf1遺伝子に改変GFP(green fluorescent protein)であるVenus遺伝子を相同組換えにてノックインした細胞(以下「Bf1/Venus−mES 細胞」と記載する)を、文献(Watanabe et al、Nature Neuroscience,2005)記載の通りに培養し、実験に用いた。
培地にはG−MEM 培地(Invitrogen)に1%牛胎児血清、10%KSR(Knockout Serum Replacement;Invitrogen)、2mM グルタミン、0.1mM 非必須アミノ酸、1mM ピルビン酸、0.1mM 2−メルカプトエタノール及び2000U/ml LIFを添加したものを用いた。浮遊培養による神経分化誘導には、0.25%trypsin−EDTA(Invitrogen)を用いてES細胞を単一分散し、非細胞接着性の96ウェル培養プレート(スミロン スフェロイド プレート,住友ベークライト社)の1ウェルあたり3×103細胞になるように150μlの分化培地に浮遊させ、凝集塊を速やかに形成させた後、37℃、5%CO2で7日間インキュベーションした(SFEBq法;図1A)。
その際の分化培地には、G−MEM培地に10%KSR、2mM グルタミン、1mM ピルビン酸、0.1mM 非必須アミノ酸、0.1mM 2−メルカプトエタノール、250μg/ml recombinant human Dkk−1、1μg/ml recombinant human Lefty−1を添加した無血清培地(Watanabe et al、Nature Neuroscience,2005)を用いた。
凝集塊を6cmの非接着性プラスチックシャーレ(3.5mlの分化培地)に回収し、さらに3日間浮遊培養を継続したのち(計10日間)、蛍光免疫染色法で分化状態を解析した。結果を図1に示す。
免疫染色解析の結果、分化培養開始後10日の凝集塊の細胞のうち約70%の細胞が大脳特異的マーカーBf1を発現していた。また、Bf1陽性細胞のうち90%の細胞が大脳皮質特異的マーカーEmx1を発現していた。Bf1/Venus−mES 細胞を分化させたものをVenus−GFPの発現で解析した場合も、約70%の細胞が陽性であり、その大半がEmx1を発現していた(図1A)。このように、SFEBq法は上記の分化培地を用いた場合、高効率で大脳皮質細胞(前駆細胞)を分化誘導することが可能である。なお、10cm培養ディッシュを用いて、緩徐にES細胞の凝集塊を形成させる既存の方法(Watanabe et al、Nature Neuroscience,2005)では、Bf1陽性細胞は30%にとどまり、そのうち大脳皮質マーカーEmx1陽性となるのは4割未満であった。また凝集体が極性を持った上皮様構造を有していることは、N−カドヘリン、CD−133、ラミニン等の発現(図1B〜G)や、電子顕微鏡によるタイトジャンクション(図1H)やアドヘレンスジャンクション(図1I)等の形態観察、ロゼットの形成(図1J、図1K、点線はロゼットを示す)、極性マーカーの発現(図1L〜O、点線はロゼットを示し、星印は内腔を示す)等により確認した。
このように、SFEBq法は従来法に比して、より高効率に大脳、とりわけ大脳皮質へのES細胞の分化を促進する。
(方法)
比較例1に記載の方法で培養を継続し、12日間分化培養した凝集塊を酵素的に分散させ(スミロン Neural Tissue Dissociationキット)、poly−D−リジン/ラミニン/フィブロネクチンでコートした培養プレートの上に5×104細胞/cm2で播種し、DMEM/F12培地に1×N2 supplementと10ng/ml FGF2を添加した培地で2日間培養した。その後、B27 supplementを添加したNeurobasal培地+50ng/ml BDNF+50ng/ml NT3でさらに6日間培養した。分化したニューロンの性状を蛍光抗体法で解析した。結果を図2に示す。
試験管内の細胞のほとんどがTuJ1陽性のニューロンとなっており、そのうち80%が大脳皮質特異的なマーカーであるEmx1陽性で、グルタミン酸作動性ニューロン(大脳皮質に豊富に存在)のマーカーであるVGluT1陽性であった(図2A〜B)。また、大脳ニューロンに特徴的な複数の神経マーカー(Telencephalin、GluR1、CamKII、Ctip2、Tbr1、Synapsin等)の発現も観察された(図2C〜F)。
このように、SFEBq法により誘導された大脳皮質前駆細胞からの大脳特異的なニューロンへの分化が確認された。
(方法)
Rx−EGFP mES細胞(EGFPを初期網膜前駆細胞マーカー遺伝子Rx座にノックインしたマウスES細胞;Wataya et al,PNAS,2008)に対してSFEBq法(96ウェルの低細胞結合性培養プレート)を適用して、1ウェルあたり3000個の細胞で迅速に均一な凝集塊を作製し、これを分化培養した。その際の分化誘導用培地としては、G−MEM 培地(Invitrogen)に1%牛胎児血清、2%KSR、2mM グルタミン、0.1mM 非必須アミノ酸、1mM ピルビン酸、0.1mM 2−メルカプトエタノール及び2000U/ml LIFを添加したものを用いた。さらに1日後よりMatrigelを容積あたり1/100〜1/50量で培地に添加して、7日間5%CO2、37度で浮遊凝集塊培養を行った。その後更に神経分化促進条件で培養を続けた。分化解析には、脳神経マーカーSox1、大脳マーカーBf1、網膜前駆細部マーカーRx、神経網膜前駆細胞及び双極細胞マーカーChx10、視細胞マーカーロドプシン抗体等による蛍光抗体法(凍結切片)を用いた。
Matrigelを1/100量添加したものについて、比較例1のようにKSRを10%入れた場合はBf1を発現する大脳皮質前駆細胞が同様の効率で発現した(>50%,9日後)。一方、この条件でKSRを2%に減じた培地ではBf1の発現は10%以下に減じ、さらにMatrigelを1/50量または1/25量入れた2%KSR培地では、Bf1の発現は5%以下になった。
逆に、2%KSR培地にMatrigelを1/100量以上入れた分化培養では、細胞塊にRx−EGFP陽性及びRx抗体陽性の細胞が5%以上出現し、Matrigelを1/50量または1/25量以上入れた場合は、約60%の細胞がRx−EGFP陽性となった。KSRを10%入れ、Matrigelを1/100量添加した培地の場合は、Bf1の発現は1%未満であった。
(方法)
実施例1で得られたRx抗体陽性細胞の凝集塊を2%KSR培地にMatrigelを1/50量添加した培養液で7日間培養した後、DMEM/F12培地にN2添加物を追加した培養液に移して、さらに3日間、5%CO2/40%O2の条件下で浮遊培養した。
Rx−EGFP強陽性の部分は、細胞塊から突起状の組織を形成した(図3)。その組織像は胎児の眼杯(初期の網膜組織で、間脳からの突起として形成)に類似して、Rx陽性・Chx10陽性の幼弱神経網膜組織及びその外側を1層の網膜色素細胞が包む構造をしていた。
(方法)
実施例2で得られた眼杯様組織(培養10日)を、微細ピンセットを用いて細胞塊より分離し、DMEM/F12/N2+0.5μMレチノイン酸(視細胞の生存を促進することが知られている)で浮遊培養を行った。
浮遊培養した眼杯様組織は、生後の網膜と非常に構造の類似した層構造(図2、図3)へと誘導された。最外層には、視細胞(ロドプシン陽性で、外節構造を有する)が規則正しく平面的な構造を形成し、正しい細胞極性を有していた。その下層にはChx10陽性の双極細胞層とCalbindin陽性の水平細胞、またその下層にはCalretinin陽性/Pax6陽性/TuJ1陰性のアマクリン細胞層、最下層にはBrn3陽性/TuJ1陽性の網膜節細胞が整然と層をなしていた(図5)。これらの層の順番はin vivoの網膜の層構造に一致していた。このようにSFEBq法による浮遊細胞塊培養にマトリクス処理と培地の組み合わせにおける至適化を考慮した改変SFEBq法を適用すると、高効率に網膜前駆細胞が形成されるのみならず、これらの網膜前駆細胞から層状の構造を有する網膜組織が試験管内で自己形成されることが示された。
(方法)
実施例3と同様に、微細ピンセットを用いて細胞塊より眼杯様組織を分離し、DMEM/F12/N2、0.5μMレチノイン酸で培養を行った。電気生理学的な観察のために、多点平面電極つきプレート(MEDプローブ)の上で培養し、2日後に眼杯様組織から出てきた軸索の活動電位を多極電極フィールド電位法(MED64;アルファメッドサイエンス社)で観察した。
眼杯様組織からの軸索はTuj1陽性であり、網膜組織同様に神経節細胞由来であると考えられた。これらの軸索からは多極電極フィールド電位法により不規則な活動電位の自発的発火を多数観察した。これらのことから、in vivoでは新生児等幼弱な網膜で認められ自発的な神経活動を誘発するネットワークが眼杯様組織内に形成されたことが確認された。Hommaらの方法(Homma et al,(2009)J.Neurosci.Res.87(9)2175−2182)により、MED64(アルファメッドサイエンス社)による観察で光誘発の活動電位の観察も可能であると考えられる。
(方法)
ヒトES細胞(khES1)は、通常の方法により維持培養された(Ueno et al,PNAS 103,9554−9559,2006)。ヒトES細胞は、既知の方法で、プレートから単離され、トリプシンにより単一分散した(Watanabe et al,Nature Biotech.25,681−686,2007)。それらの細胞は、比較例1及び実施例1と同様の方法で96ウェルの低細胞結合性培養プレートを用いて、迅速に再凝集することで均一な凝集塊を作製した。その際、細胞は96ウェル1ウェルあたり9000細胞となるように培養液に浮遊した。培養液にはDMEM/F12、10−20%KSR、2mM グルタミン、0.1mM 非必須アミノ酸、0.1mM 2−メルカプトエタノールを用い、さらに最初の6日間はRock阻害剤Y−27632(細胞死の抑制剤)を10μM添加した。培養3日後より、Matrigelを100分の1量添加し、18日まで培養した。18日から25日までDMEM/F12/N2、1μM RAを用いて、浮遊培養を続け、その際にはO2を40%に増加した。25日から40日までNeurobasal、B27、1μM RA、40%O2で浮遊培養した。
上記の培養では、Matrigelを添加した場合のみ、Rx陽性、Pax6陽性の網膜前駆細胞の組織の形成をヒトES細胞由来の細胞塊に認めた。培養20日後には、マウスES細胞培養の7日目と同様に、Rx陽性、Pax6陽性の組織はヒトES細胞由来の細胞塊の本体からの突起物として形成が確認された。それらはRx強陽性の神経網膜前駆組織とRx弱陽性の色素上皮前駆組織からなっており、共にネスチン陰性であった。35日後にもRx陽性、Pax6陽性、ネスチン陰性の偽多列円柱上皮組織(神経網膜の前駆組織の形態的特徴)の存在が確認された。
(方法)
Rx−GFP ES細胞(3000細胞/ウェル、96ウェルプレート)を、1.5%KSRを添加したG−MEM培地でSFEBq培養した。この実験では、培養液にMatrigelを加える代わりに、精製されたラミニン及びエンタクチン(高濃度ラミニン/エンタクチン複合体;BD;120μg/ml)が細胞外マトリクスタンパク質として、1日目(培養液の分化開始から24時間後)に添加された。組換えマウスNodal(R&D;500−1000ng/ml)またはヒトActivin(R&D;250ng/ml)も、1日目に添加し、該Nodal処理は7日目まで継続した。SFEBq凝集体は7〜10日間培養され、RxGFP+胞形成及び杯構造を蛍光顕微鏡下で観察した。Nodal及びActivinは共通の細胞表面受容体に作用し、細胞内でSmad2/3を活性化することが知られている。
細胞外マトリクスタンパク質またはNodalなしで培養したES細胞は、7〜10日目にRx−GFPを発現しなかった。2%Matrigelと異なり、ラミニン及びエンタクチンだけでは、7日目または10日目にRxGFP+網膜上皮を誘導しなかった。これに対し、1〜7日間ラミニン、エンタクチン及びNodalまたはActivin処理した細胞は、7日目にRxGFP+上皮の大きなパッチがSFEBq凝集体中に出てきた。これらは、7日目に眼胞のような嚢を形成し、その後、10日目に眼杯のような形態を示した。TGF−β1または2(1000ng/ml)は、ラミニン及びエンタクチンと共に組み合わせた場合であっても、Nodalの誘導活性に代わることはなかった。0日目からNodalまたはActivinと共にSFEBq細胞を処理すると、以前の報告(Watanabe et al,Nature Neuroscience,2005)と一致して、神経(Sox1)及び網膜(Rx)分化が阻害されたことは、SFEBq培養の初期段階において、Nodal/Activinシグナルの存在が、好ましい条件であることを示している。
三次元的な網膜組織の形成は、Nodal存在化のラミニン、エンタクチンという定義されたマトリクスタンパク質によって誘導され得る。
ここで述べられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
Claims (27)
- 無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を形成させる工程(1);及び
基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養させる工程(2)
を含む、幹細胞を神経前駆細胞へ分化誘導する方法。 - 神経前駆細胞が、網膜前駆細胞である、請求項1に記載の方法。
- 基底膜標品が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチンから選択される細胞外マトリックス分子を含むものである、請求項2に記載の方法。
- 浮遊培養が、KSR存在下で行われる、請求項2または3に記載の方法。
- 浮遊培養が、NodalまたはActivin存在下で行われる、請求項4に記載の方法。
- 無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程(1);
基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養して、眼杯様組織を凝集体中に自己形成させる工程(2’)
を含む、網膜前駆細胞塊を形態的に分離または同定する方法。 - 基底膜標品が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチンから選択される細胞外マトリックス分子を含むものである、請求項6に記載の方法。
- 浮遊培養が、KSR存在下で行われる、請求項6または7に記載の方法。
- 浮遊培養が、NodalまたはActivin存在下で行われる、請求項8に記載の方法。
- 無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程(1);
基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養して、眼杯様組織を凝集体中に自己形成させる工程(2’);及び
自己形成された眼杯様組織を器官培養液中で浮遊培養する工程(3);
を含む、網膜層特異的ニューロンを分化誘導する方法。 - 網膜層特異的ニューロンが、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞及び網膜節細胞から選択される、請求項10に記載の方法。
- 基底膜標品が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチンから選択される細胞外マトリックス分子を含むものである、請求項10または11に記載の方法。
- 浮遊培養が、KSR存在下で行われる、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
- 浮遊培養が、NodalまたはActivin存在下で行われる、請求項13に記載の方法。
- 無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程(1);
基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養して、眼杯様組織を凝集体中に自己形成させる工程(2’);及び
自己形成された眼杯様組織を器官培養液中で浮遊培養する工程(3);
を含む、網膜組織を試験管内で製造する方法。 - 基底膜標品が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチンから選択される細胞外マトリックス分子を含むものである、請求項15に記載の方法。
- 浮遊培養が、KSR存在下で行われる、請求項15または16に記載の方法。
- 浮遊培養が、NodalまたはActivin存在下で行われる、請求項17に記載の方法。
- 無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程(1);
基底膜標品の存在下で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養して、眼杯様組織を凝集体中に自己形成させる工程(2’);及び
自己形成された眼杯様組織を器官培養液中で浮遊培養する工程(3);
を含む、網膜層特異的ニューロンの製造方法。 - 網膜層特異的ニューロンが、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞及び網膜節細胞から選択される、請求項20に記載の方法。
- 基底膜標品が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチンから選択される細胞外マトリックス分子を含むものである、請求項19または20に記載の方法。
- 浮遊培養が、KSR存在下で行われる、請求項19〜21のいずれか一項に記載の方法。
- 浮遊培養が、NodalまたはActivin存在下で行われる、請求項22に記載の方法。
- 請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法により製造される、培養産物。
- 請求項24に記載の培養産物を用いることを特徴とする、被検物質のスクリーニング方法。
- 請求項24に記載の培養産物を用いることを特徴とする、被検物質の毒性試験方法。
- 請求項24に記載の培養産物を含む、移植用網膜。
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