JP2013256716A - 摺動部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜が形成された摺動部材である。非晶質炭素被膜は、前記基材の表面から非晶質炭素被膜の表面に向かって、紫外線を照射することにより非晶質炭素被膜に含まれるグラファイトが増加した被膜である。または、非晶質炭素被膜は、膜厚方向に、グラファイトを含む第一の非晶質炭素層と、紫外線を照射することにより第一の非晶質炭素層よりもグラファイトの多い第二の非晶質炭素層と、が交互に積層された層を含み、第二の非晶質炭素層が非晶質炭素被膜の表面層にある。
【選択図】図3
Description
第一および第二の発明に係る摺動部材において、非晶質炭素被膜の表面に照射する紫外線の波長は350nm以下、より好ましくは312nm以下の波長の紫外線を非晶質炭素被膜の表面に照射することにより、グラファイト化をより好適に発現することができ、照射された紫外線の波長が350nm以下で成膜された被膜により、好適に摺動部材の初期摩擦係数を低下させ、これにより初期摩耗を低減することができる。
(実施例1)
<ディスク試験片(摺動部材)の製作>
本発明に係る摺動部材として、以下に示すディスク試験片を製作した。具体的には、非晶質炭素被膜を成膜する基材として、直径50mm、厚み0.3mm、円部表面(摺動面)が鏡面状態(100面方位)となる、ディスク形状のシリコンウェハSを準備した。そして、プラズマCVD法により、この基材の表面に水素含有量が13原子%、層厚さ1.8μmの水素を含有した非晶質炭素被膜(H−DLC被膜)を成膜した。これは、商品名HT−DLC(水素含有DLC,日本アイティエフ社製、水素含有量13原子%)に相当する。なお、実施例1及び以下に示す例では、水素含有量は、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)により測定し、確認している。
<オージェ電子分光法(AES)による原子組成分析>
紫外線の照射による非晶質炭素被膜の原子組成の変化を明らかにするため、オージェ電子分光法により分析を行った。このオージェ電子分光法は、超高真空中に保持された固体試料に電子ビームを照射し、発生するオージェ電子を検出して、表面の特に極表面微小部の元素分析を行う手法である。固体表面近傍の数nmまでの深さで発生したオージェ電子のみが脱出可能であることから、極表面の分析が可能である。本実施例では、Perkin−Elmer社製オージェ電子分光分析装置を使用して、一次電子の加速電圧5kV,電流100nmの条件で、非晶質炭素被膜の表面の元素分析を行った。この分析結果を図4に示す。
エリオニクス社製超微小押込み硬さ試験機ENT−1100aを使用して、ディスク試験片の非晶質炭素被膜の微小押し込み硬さ試験を行った。具体的には、圧子に、稜間度115°の三角錐ダイヤモンド圧子(Berkovich圧子)を用いて、ディスク試験片のシリコン表面を下にして、接着剤で固定して、接着剤が乾くまで放置し、試験を行った。非晶質炭素被膜の押込み試験において最大押込み深さは、試験片の基材に影響が出ないように、押込み荷重を10mgfに設定し、膜厚の10分の1以下となるようにした。これにより、硬さ及びヤング率を測定した。この結果を表1に示す。
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、ディスク試験片の非晶質炭素被膜の表面粗さを測定した。原子間力顕微鏡は、試料と探針間に働く力を利用して試料表面の凹凸をナノメートルレベルでの分解能で観察できるものである。装置は、測定ヘッド(セイコーインスツルメンツ株式会社製 NPX100)、コントローラ(セイコーインスツルメンツ株式会社製Nanopocs1000)で構成されている。測定範囲0.5nm〜1000μm、スキャン速度12〜1792秒/フレームで測定を行うことができるものである。この測定により得られた被膜表面の中心線平均粗さRa、最大高さ粗さRyを表2に示す。
ディスク試験片の非晶質炭素被膜の接触角及び表面自由エネルギーを測定した。表面自由エネルギーは、固体表面の活性度合いを表すものであり、固体試料に対して水(H2O)及びヨウ化メチレン(CH2I2)(異なる2種類の液)の液滴を表面に滴下し、それぞれの液体と固体試料(ディスク試験片の被膜)との成す角度、接触角度を測定することによって算出した。また、この接触角度αは、液滴法により測定した。液滴の直径dと液滴の高さhを測定し、これらの値から接触角度を算出した。この結果として接触角度を図5に、表面自由エネルギーを図6に示す。
以下の手順で摩擦試験を行った。まず、直径8mm、以下の表1に示す窒化珪素球を準備した。
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、波長321nmにスペクトルピークを持つ放電管(CST−8B)を用いて、波長321nmの紫外線を、非晶質炭素被膜に照射した点である。そして、これらに対して、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図4〜6、8、表1及び2に示す。
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線を非晶質炭素被膜に照射していない点である。そして、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図4〜6、8、表1及び2に示す。
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、波長365nmにスペクトルピークを持つ放電管(CST−8A)を用いて、波長365nmの紫外線を、非晶質炭素被膜に照射した点である。そして、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図4〜6、8、表1及び2に示す。
実施例1と同じようにしてディスク試験を製作した。実施例1と相違する点は、スパッタリングより、層厚さ約0.5μmの非晶質炭素被膜が形成されたディスク試験片(水素フリーDLC:水素含有量1原子%(日本アイティエフ社製))を用いた点であり、比較例3〜5は、照射する紫外線の波長を順次254nm、312nm、365nmとして30分間照射しており、比較例6は紫外線を照射していない点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図9に示す。
図4(a)、(b)に示すように、参考例の運動エネルギー235〜245eVあたりに見えるグラファイトのショルダーピーク(具体的には237eV程度において少し盛り上がった部分)と、各実施例とを比較すると、実施例2の波長312nmの紫外線を照射した非晶質炭素被膜については、特に参考例と似た波形形状が得られた。また、実施例1の245nmについても、実施例1ほどではないが、参考例と似た波形形状が得られた。このことから、実施例1および2の非晶質炭素被膜の表面層は、紫外線照射により、グラファイト化したと考えられる。逆に、紫外線を照射してない比較例1および比較例2の非晶質炭素被膜については、なだらかな形状となっており、参考例にみられるショルダーピークの形状とは異なっていた。なお、発明者らは、水素を含有させない非晶質炭素被膜に紫外線(上に示す全ての波長に対して)を照射して、同様の分析を行ったが、この場合も比較例1と同様の結果となった。
表1に示すように、実施例1の表面硬さ(13.0GPa)及び実施例2の表面硬さ(12.2GPa)は、比較例1(13.6GPa)の表面硬さに比べて、低下していた。
表2に示すように、実施例1及び2、比較例1及び2いずれも、中心線平均粗さRa、最大高さ粗さRyいずれも大きな差はみられなかった。これにより、非晶質炭素被膜の表面に、紫外線を照射したとしても、表面粗さは変化していないといえる。
図5及び6に示すように、実施例1の254nm及び実施例2の312nmの波長の紫外線を照射した非晶質炭素被膜の水の接触角度は、比較例1の紫外線を照射していないものと比べて、接触角度は小さくなっており、それに伴い表面自由エネルギーは増加していた。
図8に示すように、実施例1の254nm及び実施例2の312nmの波長の紫外線を照射したものは、200〜4500サイクル(回数)で、摩擦係数μ=0.02〜0.05程度の低摩擦を発現し、摩擦係数は安定していた。その後、摺動サイクル数(摩擦繰返し数)が5000サイクル程度から摩擦係数は徐々に増加し、最終的には、摩擦係数は、0.1〜0.15程度となり、比較例1と同程度となった。
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長254nm)の照射時間を60分にした点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
実施例2と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長312nm)の照射時間を60分にした点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
比較例1と同じディスク試験片を製作した。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
比較例2と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長365nm)の照射時間を60分にした点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
図10に示すように、実施例3の254nm及び実施例4の312nmの波長の紫外線を照射したものは、200〜4500サイクル(回数)で、摩擦係数μ=0.02〜0.05程度の低摩擦を発現し、実施例1及び2の紫外線を30分照射したものと同様の傾向がえられた。その後、摺動サイクル数(摩擦繰返し数)が4500サイクル程度から摩擦係数は徐々に増加し、最終的には、摩擦係数は、0.1〜0.15程度となり、比較例7と同程度となった。一方、比較例7の紫外線を照射していないもの及び比較例8の365nmの波長の紫外線を照射したものは、摩擦係数は初期からほぼ一定で、0.1〜0.18程度であった。
実施例1(波長254nm)と同じようにディスク試験片を製作した。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行い、摩擦係数の変化を監視しながら、摩擦係数が上昇した時点で、摩擦試験を中止し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、非晶質炭素被膜の摺動面に形成された摩耗痕の断面積及び深さを求めて、この被膜の比摩耗量を算出した。
摩擦試験実施中の4500サイクル程度で、実施例1と同じように摩擦係数が上昇したので、そこで、摩擦試験を中止し、そのときの摩耗痕のAFM観察像から、摩耗深さは10nm程度であった。このことから紫外線侵入深さが10nm程度であることが明らかになった。また、比摩耗量は、2.7×10−7mm3/Nm程度であることが明らかになった。
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長254nm)の照射時間を20、40、及び60分とした3種類のディスク試験片を製作した点である。そして、これらのディスク試験片に対して、以下に詳述するレーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IGを測定した。この結果を図11に示す。
レーザーラマン分光法により、不規則なアモルファス構造を有する非晶質炭素被膜の結合状態を評価した。ここでレーザーラマン分光法の原理を簡単に説明する。分子中の原子は一定の構造をとっているが、その位置で静止しているのではなく平衡構造付近で微小運動をしている。この微小運動をブラウン運動という。その振動数は、原子の質量や原子間に働く力の大きさによって決まるため分子固有の値をとっている。従って、この分子の振動を測定することにより試料中の分子の種類や状態を知ることができる。
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線の波長を312nmにした点と、紫外線の照射時間を20、40、及び60分とした3種類のディスク試験片を製作した点である。そして、実施例5と同様に、レーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IGを測定した。この結果を図11に示す。
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例2と相違する点は、紫外線を照射していない点である。そして、実施例5と同様に、レーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IG比を測定した。この結果を図11に示す。
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例2と相違する点は、紫外線の波長を365nmにした点と、紫外線の照射時間を20、40、及び60分とした3種類のディスク試験片を製作した点である。そして、実施例5と同様に、レーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IG比を測定した。この結果を図11に示す。
図11に示すように、実施例5、6及び比較例9、10から、波長、照射時間によりGポジションの変化は見られなかった。また、ID/IG比は僅かに変わっているが、波長、照射時間による傾向は見られなかった。
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、プラズマCVD法のガス条件等を変更して、非晶質炭素被膜に含有する水素の含有量を3、16、35原子%にした点である。そして、実施例1と同じようにして、オージェ電子分光法による原子組成分析及び硬さ試験を行った。また、硬さ試験の結果を以下の表4に示す。
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、プラズマCVD法のガス条件等を変更して、非晶質炭素被膜に含有する水素の含有量を37原子%にした点である。そして、実施例1と同じようにして硬さ試験を行った。また、硬さ試験の結果を表4に示す。
実施例7の分析結果から、非晶質炭素被膜の水素含有量が3、16、35原子%はいずれも、結果1に示すような波形形状が得られたと考えられ、グラファイト化がされていたと考えられる。また、硬さ試験の結果から、比較例11に示すように、水素含有量が35原子%を超えた場合に、非晶質炭素被膜の硬度が低下した。
実施例1と同じ基材を準備した。そして、図2に示す装置を用いて、プラズマCVD法により、この基材の表面に水素含有量が16原子%、層厚さ1.3μmまで、水素を含有した非晶質炭素被膜(H−DLC被膜)Dを成膜した。その後、紫外線の照射をしながら、0.5μmの厚さまで、紫外線が照射された非晶質炭素被膜Gを成膜した(図12(b)参照)。照射時間は、100分、紫外線の波長は、312nm、照射エネルギー100ジュール、紫外線照射装置と基材(試験片)の距離を150mmとした。なお、非晶質炭素被膜Gの厚さは、予め摩擦試験を行い摩擦係数と膜厚との関係から、特定することができる。
実施例8と同じ基材を準備した。そして、図2に示す装置を用いて、プラズマCVD法により、この基材の表面に水素含有量が16原子%、層厚さ1.3μmまで、水素を含有した非晶質炭素被膜(H−DLC被膜)Dを成膜した。次に、25nm(成膜時間5分)の厚さに非晶質炭素被膜(非晶質炭素層)D1を成膜後、成膜後、実施例8と同じ条件で、紫外線の照射5分間をしながら、5nmの厚さのグラファイト化した層(紫外線が照射された層)Gを形成する一連の工程を20回繰返して、0.5μmの膜を成膜した(図12(c)参照)。
実施例8と同様の方法で、非晶質炭素被膜を成膜した。相違する点は、紫外線照射装置と基材(試験片)との距離を160mmとした点である。さらに、この非晶質炭素被膜の表面に、バイリンク(コスモ・バイオ社製、BLX−312)を用いて、紫外線の波長312nmにスペクトルのピークを持つ放電管(CST−8B)によって、非晶質炭素被膜の表面にさらに紫外線を照射した。照射時間は、30分、紫外線の波長は、312nm、照射エネルギー10ジュール、紫外線照射装置と基材(試験片)の距離を150mmとした(図12(d)参照)。この摺動部材に対して、実施例1と同様に、表面粗さ、硬さ、及び、摩擦試験を行った。
実施例8と同様の方法で、非晶質炭素被膜を成膜した。水素含有量が16原子%、層厚さ1.8μmとなるように、紫外線を照射せずに非晶質炭素被膜Dを成膜後、その表面に、実施例8の条件で、10nmの厚さの紫外線を照射した非晶質炭素被膜Gを形成した(図12(a)参照)。なお、比較例12は、実施例8〜10の比較例であるが、実施例4に相当する本願の発明の請求項1に含まれる例である。
表5からも明らかなように、実施例8〜10は、比較例12に比べて、紫外線の照射された非晶質炭素被膜の厚みが厚くなったことにより、より低い摩擦係数を持続することができたと考えられる。
Claims (4)
- 基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜が形成された摺動部材であって、
前記非晶質炭素被膜は、前記基材の表面から非晶質炭素被膜の表面に向かって、紫外線を照射することにより前記非晶質炭素被膜に含まれるグラファイトが増加した被膜であることを特徴とする摺動部材。 - 基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜が形成された摺動部材であって、
前記非晶質炭素被膜は、膜厚方向に、グラファイトを含む第一の非晶質炭素層と、紫外線を照射することにより該第一の非晶質炭素層よりもグラファイトの多い第二の非晶質炭素層と、が交互に積層された層を含み、
前記第二の非晶質炭素層が非晶質炭素被膜の表面層にあることを特徴とする摺動部材。 - 前記照射された紫外線の波長は、350nm以下の波長であることを特徴とする請求項1または2に記載の摺動部材。
- 前記非晶質炭素被膜の水素含有量が、3〜35原子%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材。
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