JP2013256493A - pH応答性化合物、それを含有する組成物及びキット、並びにそれらの使用 - Google Patents

pH応答性化合物、それを含有する組成物及びキット、並びにそれらの使用 Download PDF

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Abstract

【課題】目的物、具体的には生理活性物質、を(1)初期エンドソーム、(2)後期エンドソーム及び(3)リソソームのいずれかの細胞内オルガネラに選択的に送達してその内部で放出しうる手段を提供すること、すなわち具体的には当該手段としてのキャリア、及びその使用方法等を提供する。
【解決手段】下記式DL−G1〜DL−G4のいずれかで表される化合物を含有する遺伝子導入用組成物。
DL−G1:R1R2NX(XHR3)XHR4
DL−G2:R1R2NX(X(XHR3)XHR4)2
DL−G3:R1R2NX(X(X(XHR3)XHR4)2)2
DL−G4:R1R2NX(X(X(X(XHR3)XHR4)2)2)2
【選択図】なし

Description

本発明は、pH応答性化合物、それを含有する組成物及びキット、並びにそれらの使用に関する。
先進医療技術の開発において、生理活性物質を細胞内の標的部位に正確に送達するデリバリーシステムが求められている。例えば、免疫治療においては、キャリアにより抗原を免疫担当細胞へと正確に送達し、さらに主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex;MHC)への抗原提示を促進する必要がある。ヒトのMHCであるHLAは免疫誘導において中心的な役割を担っており、その機能を制御することによりアレルギー等の様々な免疫関連疾患又はがん等を治療できる。具体的には、HLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)に対して作用しうるペプチドを用いることにより、HLA機能を制御して免疫関連疾患を治療できる。また、HLAによる抗原提示を促進して、免疫を活性化することにより、がんを選択的に治療できる。
これまでに、pH応答性高分子で修飾されており、pH変化に応じて脂質膜との融合能を獲得しうるリポソームに抗原を内包させ、これを樹状細胞内に導入することにより、抗原をサイトゾルへと送達することにより細胞性免疫を誘導したことが報告されている(非特許文献1)。より詳細には、上記リポソームはエンドサイトーシスにより細胞内にいったん取り込まれ、エンドソーム内におけるpHに応答してエンドソームと融合し、最終的に内包物(抗原)をサイトゾルへと放出する。
Eiji Yubaら、「pH−Sensitive fusogenic polymer−modified liposomes as a carrier of antigenic proteins for activation of cellular immunity」、「Biomaterials」、2010年、31(5)、pp.943−951
本発明は、目的物、具体的には生理活性物質、を(1)初期エンドソーム、(2)後期エンドソーム及び(3)リソソームのいずれかの細胞内オルガネラに選択的に送達してその内部で放出しうる手段を提供すること、すなわち具体的には当該手段としてのキャリア、及びその使用方法等を提供すること、を課題とする。
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、所定のデンドロン脂質をpH応答性高分子で修飾して得られる化合物を利用することにより、上記課題を解決できることを見出した。より具体的には以下の通りである。上記化合物で構成されるリポソームに所望の物質を内包させた上でこれを細胞内に導入すると、エンドサイトーシスにより(1)初期エンドソームに効率良く取り込まれる。このリポソームは特定のpH領域(応答pH領域)に応答して内包物を放出する性質を有しており、かつ応答pH領域を調整することは容易である。このリポソームを包含する(1)初期エンドソームが(2)後期エンドソームを経て(3)リソソームへと変化していく過程において、これら細胞内オルガネラ内のpHは連続的に変化していく。したがって、応答pH領域を適宜調整することにより、いずれかの所望の細胞内オルガネラにおいて選択的に内包物を放出させることができる。本発明はかかる知見に基づいてさらなる検討を重ねることにより完成されたものであり、その構成は次に示す通りである。
項1.
下記式DL−G1〜DL−G4のいずれかで表される化合物
DL−G1:RNX(XHR)XHR
DL−G2:RNX(X(XHR)XHR
DL−G3:RNX(X(X(XHR)XHR
DL−G4:RNX(X(X(X(XHR)XHR
(式中、R及びRは、同一又は異なって飽和又は不飽和の長鎖炭化水素基を示し、
及びRは、同一又は異なってpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基を示し、R〜Rは、環状構造を含有していてもよく、かつ一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、かつ
Xは、−CHCHCONHCHCHN−を示す。)。
項2.
前記pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基が、以下の式(I)で表される、項1に記載の化合物
Figure 2013256493
(式中、Rは、飽和又は不飽和の炭素数1〜10の炭化水素基(環状構造を含有していてもよく、かつ一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)を示す。)。
項3.
前記pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基が、
(A)シクロヘキシル基、フェニル基、ピリジル基又はナフチル基を含有するか、又は
(B)炭素数1又は2(一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)の一以上の分岐を有していてもよい鎖状構造である、
項1又は2に記載の化合物。
項4.
項1〜3のいずれかに記載の化合物を含有する組成物。
項5.
リン脂質を含有する、項4に記載の組成物。
項6.
生理活性物質を細胞内に導入するために使用される、項4又は5に記載の組成物。
項7.
前記生理活性物質が、低分子化合物、ペプチド又は遺伝子である、項4又は5に記載の組成物。
項8.
抗原となりうるか又は抗原を生じうる生理活性物質を抗原提示細胞内に導入することにより疾患を治療するために使用される、項4又は5に記載の組成物。
項9.
項4又は5に記載の組成物を含有するキット。
項10.
項1〜9のいずれかに記載の化合物、組成物又はキットの、生理活性物質を細胞内に導入する方法における使用。
項11.
項1〜9のいずれかに記載の化合物、組成物又はキットを生理活性物質とともに細胞内に導入する工程を含有する、生理活性物質を細胞内に導入する方法。
本発明によれば、(1)初期エンドソーム、(2)後期エンドソーム及び(3)リソソームのいずれかの所望の細胞内オルガネラに選択的に目的物を送達できる。特に、本発明は、生理活性物質として抗原となりうるか又は抗原を生じうる生理活性物質を用いた場合には、抗原提示細胞を標的とすることにより、当該物質の細胞内オルガネラへの送達を通じて細胞免疫を誘導できるという優れた効果を有する。
Oleyloleoylamideの1H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3)。 Dioleylamine の1H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3)。 DL-G-0.5-2C18-U2の1H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3) 。 DL-G0-2C18-U2の1H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3) 。 DL-G0.5-2C18-U2の1H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3) 。 DL-G1-2C18-U2の1H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3) 。 CHex-DL-G1-2C18-U2の1H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3) 。 CHex-DL-G1-2C18-U2のMassスペクトラムである((A) Experimental, (B) theoretical) 。 MGlu-DL-G1-2C18-U2の1H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3) 。 MGlu-DL-G1-2C18-U2のMassスペクトラムである(experimental) 。 MGlu-DL-G1-2C18-U2のMassスペクトラムである(theoretical) 。 DL-G-0.5-2C181H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3) 。 DL-G0-2C181H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3) 。 DL-G0.5-2C181H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3) 。 C2-DL-G1-2C181H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CDCl3) 。 CHex-DL-G1-2C18-U2の1H-NMRスペクトラムである(400 MHz, CD3OD) 。 CHex-DL-G1-2C18のMassスペクトラムである((A) Experimental, (B) theoretical)。 (A) CHex-DL-G1-2C18, (B) CHex-DL-G1-2C18-U2及び (C) MGlu-DL-G1-2C18-U2それぞれの単分子膜 の異なるpHにおけるπ-A isotherms (37℃, PBS)である。 表面圧が25 mN/m となるときの表面積を各pH についてプロットしたものである(三角形、四角形及びひし型は、MGlu-DL-G1-2C18-U2、CHex-DL-G1-2C18-U2 及びCHex-DL-G1-2C18をそれぞれ示す)。 様々なデンドロン脂質の単分子膜の模式図である。 様々なデンドロン脂質の単分子膜の、異なるpHにおける模式図である。 各種リポソームを37℃、15 分間インキュベーションした後のピラニンのリリース(%)をpHに対してプロットした結果を示すグラフである(UMG1.25, UCG1.25, SCG1.25 及びEYPC は、それぞれMGlu-DL-G1-2C18-U2/EYPC (25/75, mol/mol), CHex-DL-G1-2C18-U2/EYPC (25/75, mol/mol), CHex-DL-G1-2C18/EYPC (25/75, mol/mol)及びEYPCをコンポーネントとしたリポソームを示している)。 各種リポソームを37℃、15 分間インキュベーションした後のピラニンのリリース(%)をpHに対してプロットした結果を示すグラフである(UMG1.25, UMG1.40 及びEYPC は、それぞれ MGlu-DL-U2/EYPC モル比が25, 40及び0のリポソームを示している)。 CHexDL-U2/EYPCをコンポーネントとしたリポソームを37℃、15 分間インキュベーションした後のピラニンのリリース(%)をpHに対してプロットした結果を示すグラフである(UCG1.25, UCG1.10 及びEYPC は、それぞれ CHexDL-U2/EYPC モル比が25, 10及び0のリポソームを示している)。 CHexDL-U2/EYPCをコンポーネントとしたリポソームを37℃、15 分間インキュベーションした後のピラニンのリリース(%)をpHに対してプロットした結果を示すグラフである(SCG1.25, SCG1.40 及びEYPC は、それぞれ CHexDL-U2/EYPC モル比が25, 40及び0のリポソームを示している)。 各種リポソームの各pHにおける粒子径を示すグラフである(三角形、四角形及びひし形は、EYPC/MGlu-DL-G1-2C18-U2をコンポーネントとしたリポソーム、EYPC/CHex-DL-G1-2C18-U2をコンポーネントとしたリポソーム及びEYPC /CHex-DL-G1-2C18をコンポーネントとしたリポソームをそれぞれ示している。)。 各種リポソームを各pHのリン酸緩衝液中に懸濁した際の濁度を示すグラフである(三角形、四角形及びひし形は、EYPC/MGlu-DL-G1-2C18-U2をコンポーネントとしたリポソーム、EYPC/CHex-DL-G1-2C18-U2をコンポーネントとしたリポソーム及びEYPC /CHex-DL-G1-2C18をコンポーネントとしたリポソームをそれぞれ示している。)。 各種リポソームの各pHにおけるζ電位を示すグラフである(三角形、四角形及びひし形は、EYPC/MGlu-DL-G1-2C18-U2をコンポーネントとしたリポソーム、EYPC/CHex-DL-G1-2C18-U2をコンポーネントとしたリポソーム及びEYPC /CHex-DL-G1-2C18をコンポーネントとしたリポソームをそれぞれ示している。)。 MGlu-DL-2C18-U2をコンポーネントとしたリポソームの各pHにおけるデンドロン脂質の荷電状態を示す模式図である。 CHex-DL-2C18-U2をコンポーネントとしたリポソーム及びCHex-DL-2C18をコンポーネントとしたリポソームの各pHにおけるデンドロン脂質の荷電状態を示す模式図である。 MGlu-DL-2C18-U2/EYPCをコンポーネントとしたリポソームのζ電位とデンドロン脂質の表面圧が25 mN/m となるときのMGlu-DL-2C18-U2の表面積の関係を示すグラフである。 CHex-DL-2C18-U2/EYPCをコンポーネントとしたリポソームのζ電位とデンドロン脂質の表面圧が25 mN/m となるときのCHex-DL-2C18-U2の表面積の関係を示すグラフである。 CHex-DL-2C18 /EYPCをコンポーネントとしたリポソームのζ電位とデンドロン脂質の表面圧が25 mN/m となるときのCHex-DL-2C18の表面積の関係を示すグラフである。 MGlu-DL-2C18-U2/EYPC(25/75, mol/mol)をコンポーネントとしたリポソームのζ電位とピラニン放出の関係を示すグラフである。 CHex-DL-2C18-U2/EYPC (25/75, mol/mol)をコンポーネントとしたリポソームのζ電位とピラニン放出の関係を示すグラフである。 CHex-DL-2C18/EYPC (25/75, mol/mol)をコンポーネントとしたリポソームのζ電位とピラニン放出の関係を示すグラフである。 Rh-PEでラベルした種々のリポソームで処理された(A) DC2.4 細胞及び(B) HeLa細胞をフローサイトメーターにより解析した結果を示すグラフである。 Rh-PEでラベルし、かつカルセインを内包する、CHex-DL-2C18/EYPC (25/75, mol/mol) をコンポーネントとしたリポソームで処理されたDC2.4細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)像を示す図面に代わる写真である(Rh-PE は赤色、カルセインは緑色及び核は青色に染色されている。スケールバーは10 μmを示している。)。 Rh-PEでラベルし、かつカルセインを内包する、CHex-DL-2C18-U2/EYPC (25/75, mol/mol) をコンポーネントとしたリポソームで処理されたDC2.4細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)像を示す図面に代わる写真である(Rh-PE は赤色、カルセインは緑色及び核は青色に染色されている。スケールバーは10 μmを示している。)。 Rh-PEでラベルし、かつカルセインを内包する、MGlu-DL-2C18-U2/EYPC (25/75, mol/mol) をコンポーネントとしたリポソームで処理されたDC2.4細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)像を示す図面に代わる写真である(Rh-PE は赤色、カルセインは緑色及び核は青色に染色されている。スケールバーは10 μmを示している。)。 Rh-PEでラベルし、かつカルセインを内包するEYPCをコンポーネントとしたリポソームで処理されたDC2.4細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)像を示す図面に代わる写真である(Rh-PE は赤色、カルセインは緑色及び核は青色に染色されている。スケールバーは10 μmを示している。)。 Rh-PEでラベルし、かつカルセインを内包する、CHex-DL-2C18/EYPC (25/75, mol/mol) をコンポーネントとしたリポソームで処理されたHeLa細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)像を示す図面に代わる写真である(Rh-PE は赤色、カルセインは緑色及び核は青色に染色されている。スケールバーは10 μmを示している。)。 Rh-PEでラベルし、かつカルセインを内包する、CHex-DL-2C18-U2/EYPC (25/75, mol/mol) をコンポーネントとしたリポソームで処理されたHeLa細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)像を示す図面に代わる写真である(Rh-PE は赤色、カルセインは緑色及び核は青色に染色されている。スケールバーは10 μmを示している。)。 Rh-PEでラベルし、かつカルセインを内包する、MGlu-DL-2C18-U2/EYPC (25/75, mol/mol) をコンポーネントとしたリポソームで処理されたHeLa細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)像を示す図面に代わる写真である(Rh-PE は赤色、カルセインは緑色及び核は青色に染色されている。スケールバーは10 μmを示している。)。 Rh-PEでラベルし、かつカルセインを内包する、EYPC をコンポーネントとしたリポソームで処理されたHeLa細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)像を示す図面に代わる写真である(Rh-PE は赤色、カルセインは緑色及び核は青色に染色されている。スケールバーは10 μmを示している。)。 Rh-PEでラベルし、かつカルセインを内包する、MGlu-DL-2C18-U2/EYPC (25/75, mol/mol) をコンポーネントとしたリポソームで処理されたHeLa細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)像を示す図面に代わる写真である(Rh-PE は赤色、カルセインは緑色及び核は青色に染色されている。スケールバーは10 μmを示している。)。 細胞内における、リポソームの分布及び内包物質のリリースについての模式図である。 Rh-PE由来の蛍光及びカルセイン由来の蛍光の共局在率を計測した結果を示すグラフである。 Rh-PEでラベルし、かつカルセインを内包する、CHex-DL-2C18-U2/EYPC (25/75, mol/mol) をコンポーネントとしたリポソームで処理したHela細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)像を示す図面に代わる写真である(後期エンドソーム/リソソームは赤色、カルセインは緑色に染色されている。スケールバーは10 μmを示している。)。 ピラニンを内包した種々のpH7.4におけるリポソームのピラニン放出挙動を示す(EYPC、UMCG1.1525、UMCG1.2020及びUMG1.40は、それぞれEYPCリポソーム、MGlu-G1-2C18-U2/CHex-G1-2C18-U2/EYPC (15/25/60, mol/mol/mol) リポソーム、MGlu-G1-2C18-U2/CHex-G1-2C18-U2/EYPC (20/20/60, mol/mol/mol) リポソーム及びCHex-G1-2C18-U2/EYPC (40/60, mol/mol/mol) リポソームを示す。)。 ピラニンを内包した種々のpH5.0におけるリポソームのピラニン放出挙動を示す(EYPC、UMCG1.1525、UMCG1.2020及びUMG1.40は、それぞれEYPCリポソーム、MGlu-G1-2C18-U2/CHex-G1-2C18-U2/EYPC (15/25/60, mol/mol/mol) リポソーム、MGlu-G1-2C18-U2/CHex-G1-2C18-U2/EYPC (20/20/60, mol/mol/mol) リポソーム及びCHex-G1-2C18-U2/EYPC (40/60, mol/mol/mol) リポソームを示す。)。 ピラニンを内包した種々のpH6.0におけるリポソームのピラニン放出挙動を示す(EYPC、UMCG1.1525、UMCG1.2020及びUMG1.40は、それぞれEYPCリポソーム、MGlu-G1-2C18-U2/CHex-G1-2C18-U2/EYPC (15/25/60, mol/mol/mol) リポソーム、MGlu-G1-2C18-U2/CHex-G1-2C18-U2/EYPC (20/20/60, mol/mol/mol) リポソーム及びCHex-G1-2C18-U2/EYPC (40/60, mol/mol/mol) リポソームを示す。)。 ピラニンを内包した種々のリポソームの、種々のpHにおける15分間インキュベーション後におけるピラニン放出挙動を示す(EYPC、UMCG1.1525、UMCG1.2020及びUMG1.40は、それぞれEYPCリポソーム、MGlu-G1-2C18-U2/CHex-G1-2C18-U2/EYPC (15/25/60, mol/mol/mol) リポソーム、MGlu-G1-2C18-U2/CHex-G1-2C18-U2/EYPC (20/20/60, mol/mol/mol) リポソーム及びCHex-G1-2C18-U2/EYPC (40/60, mol/mol/mol) リポソームを示す。)。 37℃での、15分間インキュベーション後における、修飾リポソーム(2.0×10-5 M)からのpH依存的なピラニン放出挙動を示す図面である。 デンドロン脂質/EYPC(25/75 又は 10/90)のζ電位をpHの関数として示した図面である。 単分子膜測定(圧力は25mN/m)の結果を示す図面である。 Rh-PEでラベルされたリポソームの細胞による取り込みを評価した結果を示す図面である。 抗腫瘍効果の検討結果を示す図面である(各種リポソームを投与したマウスと、非投与マウス(ネガティブコントロール)との比較を示している)。
1.本発明の化合物
本発明の化合物は、下記式DL−G1〜DL−G4のいずれかで表される化合物
DL−G1:RNX(XHR)XHR
DL−G2:RNX(X(XHR)XHR
DL−G3:RNX(X(X(XHR)XHR
DL−G4:RNX(X(X(X(XHR)XHR
(式中、R及びRは、同一又は異なって飽和又は不飽和の長鎖炭化水素基を示し、
及びRは、同一又は異なってpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基を示し、R〜Rは、環状構造を含有していてもよく、かつ一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、かつXは、−CHCHCONHCHCHN−を示す。)である。
1.1 Xについての説明
Xは、−CHCHCONHCHCHN−を表し、その末端のNは、通常2個の水素原子を有するが、1個の水素原子が疎水性アミノ酸で置換されていてもよい。疎水性アミノ酸としては、ロイシン、バリン、イソロイシン、ノルロイシン、フェニルアラニン及びチロシン等が挙げられる。
1.2 及びR についての説明
及びRは、飽和又は不飽和の長鎖炭化水素基である。
長鎖炭化水素基は、天然由来であってもよく、天然由来のものを修飾したものでもよく、又は人工的に合成されたものであってもよい。
長鎖炭化水素基の炭素数は、主鎖が長鎖であればよく限定されない。主鎖の炭素数は好ましくは8〜30であり、より好ましくは10〜22であり、さらに好ましくは12〜20である。
長鎖炭化水素基は、分岐を有していてもよい。なお、主鎖についてはIUPAC命名法に基づいて、又はそれが困難若しくは不可能な場合はそれに準ずる方法に基づいて決定する。
長鎖炭化水素基は、環状構造を有していてもよい。環状構造としては、特に限定されないが、例えば、シクロヘキシル基、フェニル基、ピリジル基及びナフチル基等が挙げられる。特に、シクロヘキシル基が好ましい。
長鎖炭化水素基は、少なくとも1つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されているものであってもよい。本発明において、ヘテロ原子とは、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子をいう。したがって、長鎖炭化水素基には、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基及び硫黄含有炭化水素基が含まれる。
本発明において、炭化水素基とは、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基をいう。
酸素含有炭化水素基としては、例えば、エーテル結合及びカルボニル結合からなる群より選択される少なくとも1種の結合を有する酸素含有炭化水素基が挙げられる。カルボニル結合を有する酸素含有炭化水素基としては、例えば、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、アミド、エノン、酸塩化物又は無水物等からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有する基が挙げられる。
窒素含有炭化水素基としては、例えばニトリル、アミン、アミド及びイミドからなる群より選択される少なくとも1種の構造を有する窒素含有炭化水素基が挙げられる。
硫黄含有炭化水素基としては、例えばチオール、チオエーテル、チオアセタール、スルフィド、ジスルフィド、ジチオカルボン酸、チオエステル、チオケトン、チオアルデヒド、チオカルバメート、チオウレタン、ホスフィンスルフィド、チオホスフェート、チオホスホネート、スルホネート、スルホン及びスルホンアミドからなる群より選択される少なくとも1種の結合を有する硫黄含有炭化水素基が挙げられる。
長鎖炭化水素基は、上に例示したような構造の基においてさらに少なくとも1つ以上の置換基を有していてもよい。置換基としては、疎水性を示すものが好ましい。置換基としては、例えば、フェニル基、コレステリル基及びピレニル基等が挙げられる。特にコレステリル基が好ましい。
不飽和長鎖炭化水素基は、不飽和結合を主鎖に有しており、かつ主鎖が鎖状構造を有する炭化水素基であれば好ましい。
不飽和結合の種類は、二重結合であってもよく、又は三重結合であってもよい。二重結合が好ましい。不飽和結合の数は、少なくとも1つ以上であればよく、限定されない。また、二重結合と三重結合の両方を有していてもよい。二重結合を1つ有していることが好ましい。
二重結合としては、シス型二重結合であってもよいし、トランス型二重結合であってもよい。シス型二重結合が好ましい。
不飽和長鎖炭化水素基としては、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、オクタデカジエニル基、オクタデカトリエニル基、イコサトリエニル基、イコサテトラエニル基、オクタデカトリエニル基、イコサペンタエニル基又はドコサヘキサエニル基が好ましい。
不飽和長鎖炭化水素基としては、9−ヘキサデセニル基、9−オクタデセニル基(オレイル基)、12−オクタデカジエニル基、6,9,12−オクタデカトリエニル基、8,11,14−イコサトリエニル基、5,8,11,14−イコサテトラエニル基、9,12,15−オクタデカトリエニル基、5,8,11,14,17−イコサペンタエニル基又は4,7,13,16,19−ドコサヘキサエニル基がより好ましい。
不飽和長鎖炭化水素基としては、9−オクタデセニル基(オレイル基)がさらに好ましい。
不飽和長鎖炭化水素基の好適例としては、上に好適例として例示したような構造の基においてさらに少なくとも1つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されているものも挙げられる。
不飽和長鎖炭化水素基の好適例としては、上に好適例として例示したような構造の基を基礎として、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、又は硫黄含有炭化水素基に特有な構造として上に例示したような構造をさらに有しているものであってもよい。
不飽和長鎖炭化水素基の好適例としては、上に好適例として例示したような構造の基においてさらに少なくとも1つ以上の置換基を有していてもよい。置換基としては、疎水性を示すものが好ましい。置換基としては、例えば、フェニル基、コレステリル基、及びピレニル基等が挙げられる。特にコレステリル基が好ましい。
1.3 pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基についての説明
pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、環状構造を含有していてもよい。
pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。
pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、特に限定されないが、好ましくは炭素数が2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、さらに好ましくは2〜6である。
なお、左記においては、炭素原子がヘテロ原子で置換されている場合、当該へテロ原子を炭素原子として算入する。
pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、好ましくは、以下の式(I)で表される
Figure 2013256493
(式中、Rは、飽和又は不飽和の炭素数1〜10、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3の炭化水素基(環状構造を含有していてもよく、かつ一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)を示す。)。
pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、より好ましくは、
(A)シクロヘキシル基、フェニル基、ピリジル基又はナフチル基を含有するか、又は
(B)炭素数1又は2(一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)の一以上の分岐を有していてもよい鎖状構造である。
上記(A)に該当するpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基としては、シクロヘキシル基を含有するものが好ましい。
上記(A)に該当するpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、具体的には、下記の式(II)で表されるものが挙げられる。
Figure 2013256493
上記(B)に該当するpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、さらに好ましくは、炭素数1(炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)の一以上の分岐を有していてもよい鎖状構造である。
上記(B)に該当するpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、さらに好ましくは、炭素数1又は2(一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)の1〜2の分岐を有していてもよい鎖状構造である。
上記(B)に該当するpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、さらに好ましくは、炭素数1(炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)の1〜2の分岐を有していてもよい鎖状構造である。
上記(B)に該当するpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、さらに好ましくは、炭素数1(炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)の1の分岐を有していてもよい鎖状構造である。
上記(B)に該当するpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基は、具体的には、下記の式(III)で表されるものが挙げられる。
Figure 2013256493
1.4 効果についての説明
本発明の化合物は、水溶液中で、R及びR側が内側を、そしてR及びR側が外側を向くようにして脂質二重膜を形成し、ベシクルを構成する。このベシクルは、細胞内へと侵入する能力に優れている。このベシクル内には、生理活性物質等を内包させることができる。したがって、本発明の化合物は、生理活性物質を細胞内に導入するために使用できる。
また、本発明の化合物は、pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基の作用により、pH応答性を示す。「pH応答性」とは、本発明の化合物により構成されたベシクルが、所定のpHの環境下において不安定化し、内包物を放出することを意味する。例えば、本発明の化合物は、pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基に由来し、プロトンが解離することにより負電荷を示しうるカルボキシル基(A)を有している。さらに、本発明の化合物は、プロトネーションを受けうるポリアミドデンドロンの3級アミン(B)を有している。したがって、本発明の化合物は、pHを塩基性側から酸性側へと連続的に変化させていくと、左記カルボキシル基(A)及び3級アミン(B)の状態がそれぞれ以下のように変化していくことになる。
Figure 2013256493
この場合において、化合物のζ電位は、塩基性側から酸性側へと連続的に変化させていく間に、負の値から正の値へと変化していくと考えられる。カルボキシル基がプロトン化されると、ベシクルの表面が疎水性となり、さらに内部の3級アミンがプロトン化されることにより、分子間の静電反発が生じる。これにより、ベシクルは不安定化し、内包物を放出すると考えられる。
所望のpH応答性を示すカルボキシル基含有炭化水素基を用いることによって、所望のpH応答性を示す本発明の化合物を提供できる。
一般に、食作用(エンドサイトーシス)を介して細胞内に取り込まれた外来物質は、まず(1)初期エンドソームと呼ばれる細胞内オルガネラに保持され、やがて初期エンドソームは(2)後期エンドソームへと変化する。後期エンドソームに保持されたままであれば、当該外来物質は最終的に(3)リソソームと呼ばれる細胞内オルガネラまで送達されうる。そして、(1)初期エンドソーム、(2)後期エンドソーム及び(3)リソソームの内部はそれぞれpH6.2程度、pH6.0〜5.0及びpH5.0〜4.0程度のそれぞれ異なるpHを有している。したがって、本発明の化合物において、ベシクルとしたときに例えばpH6.2よりも高pH領域では安定化しており、pH6.2程度ではじめて不安定化するように設計することによって、初期エンドソームにまで内包物質を送達し、かつ初期エンドソームにおいて内包物質をリリースしうるようなキャリアが得られる。
同様にして、ベシクルとしたときにpH6.0よりも高pH領域では安定化しており、pH6.0ではじめて不安定化するように設計することによって、後期エンドソームにまで内包物質を送達し、かつ後期エンドソームにおいて内包物質をリリースしうるようなキャリアが得られる。さらに、ベシクルとしたときにpH5.0よりも高pH領域では安定化しており、pH5.0ではじめて不安定化するように設計することによって、リソソームにまで内包物質を送達し、かつリソソームにおいて内包物質をリリースしうるようなキャリアが得られる。
一般に、内包物質をサイトゾルに送達すると、細胞毒性を引き起こすおそれがある。また、内包物質として抗原を用い、免疫誘導を企図する場合には、抗原をサイトゾルに送達すると、細胞性免疫誘導を阻害するおそれもある。
内包物質として抗原を用い、免疫誘導を企図する場合には、液性免疫誘導につながるMHCクラスII分子と抗原との結合が、後期エンドソーム〜リソソームにおいて起こるとされている。このため、リソソーム内でキャリアが分解し抗原が放出された場合、効果的な抗原提示につながらないおそれがある。
本発明の化合物により構成されたベシクルは、細胞に取り込まれた後に、初期エンドソーム〜後期エンドソーム〜リソソームに至る過程で、その酸性度の違いを認識して、適切なタイミングで効率よく内包物を放出できる。このような機能は種々の用途に役立ちうる。例えば、液性免疫を効果的に誘導するワクチンを開発する上で役立ちうる。より詳細には、次の通りである。液性免疫を効果的に誘導するためには、(a)エンドソーム内及びリソソーム内での抗原認識、(b)免疫活性化にかかわるToll様受容体及び抗原の効果的な相互作用、並びに(c)抗原提示を行うMHC分子及び抗原の高効率での結合を誘導する必要があると考えられる。したがって、本発明の化合物により構成された、抗原を内包するベシクルがエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれた後、エンドソーム内において早い段階で完全に内包物(抗原)を放出することで、上記の相互作用を効率よく引き起こし、効果的な免疫誘導を行うことができる。
さらに、抗原ではなく、免疫阻害剤を本発明の化合物により構成されたベシクルに内包させることにより、生体本来の機能として生じている上記の相互作用(a)〜(c)を上記とは反対に阻害でき、ひいては免疫誘導を阻害できる。
(A)シクロヘキシル基、フェニル基、ピリジル基又はナフチル基を含有するpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基を含有する本発明の化合物により構成されたベシクルは、より高いpH領域における応答性を示す。例えば、pH6.0以上における応答性を示す。このため、pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基(A)を含有する本発明の化合物により構成されたベシクルを用いることによって、初期エンドソームにおいて内包物を放出しうるキャリアを得ることができる。本発明の化合物により構成されたベシクルは抗原提示細胞(樹状細胞)に著しく多量に取り込まれるため、さらに上のような特性を有していると、エンドソーム内部で確実に内包物を放出できるため、液性免疫誘導用ワクチンとして、また、免疫抑制剤デリバリーシステムとして有効である。
(B)炭素数1又は2(一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)の一以上の分岐を有していてもよい鎖状構造であるpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基を含有する本発明の化合物により構成されたベシクルは、より低いpH領域における応答性を示す。例えば、pH5.0以下における応答性を示す。このため、pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基(B)を含有する本発明の化合物により構成されたベシクルを用いることによって、リソソームにおいて内包物を放出しうるキャリアを得ることができる。
所望のpH応答性を有する本発明の化合物を用いてベシクルを構成することにより、又はpH応答性の異なる2種以上の本発明の化合物を適宜組み合わせて用いてベシクルを構成することにより、所望のpH応答性を有するベシクルを得ることができる。
1.5 製法についての説明
本発明の化合物は、例えば以下のようにして得られたポリアミドデンドロン(DL)に対して、R及びRを付加することにより得られる。なお、下記においてDL−G1〜DL−G4とあるのは、第1〜4世代のポリアミドデンドロンをそれぞれ示している。なお、DL−G0は、第0世代であり、デンドロン構造を有していない。
Figure 2013256493
具体的には、R及びRが不飽和炭化水素基である場合、以下のようにして製造することができる。オレイルアミン及びオレイルクロリドを反応させて、オレイルオレイルアミドを合成する。次にヒドリド還元によりジオレイルアミンを合成し、アクリル酸メチルを用いたマイケル付加反応と、エチレンジアミンを用いたエステルアミド交換反応を繰り返すことによりポリアミドアミンデンドロンを合成する。このポリアミドアミンデンドロンを、DL−G1−2C18−U2と表記する。
Figure 2013256493
また、R及びRが飽和炭化水素基である場合、以下のようにして製造することができる。ジアオクタデシルアミンを開始物質として、アクリル酸メチルを用いたマイケル付加反応と、エチレンジアミンを用いたエステルアミド交換反応を繰り返すことによりポリアミドアミンデンドロンを合成する。このポリアミドアミンデンドロンを、DL−G1−2C18と表記する。
Figure 2013256493
本発明の化合物を製造する際に中間物質として用いられる、R及びRを付加する前の状態のポリアミドアミンデンドロンの例を以下に示す。
Figure 2013256493
及びRの付加は、例えば次のようにして行う。ポリアミドアミンデンドロンに、3−メチルグルタル酸無水物を反応させることにより、R及びRとして−CO−CHCH(CH)CH−COOHを有する化合物が得られる。
本発明の化合物として用いられる、R及びRを付加した状態のポリアミドアミンデンドロンの例を以下に示す。
Figure 2013256493
2.本発明の組成物
本発明の組成物は、本発明の化合物の他に、リン脂質を好適に含むことができる。このようなリン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファリジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、プラスマロゲン及びホスファチジン酸等を挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファリジルコリンをそれぞれ単独で、または組み合わせて用いるのが好ましい。これらのリン脂質の脂肪酸残基は、特に限定されるべきものではないが、炭素数12から18の飽和または不飽和の脂肪酸残基を挙げることができ、具体的には、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、リノレイル基等を挙げることができ、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)が特に好ましい。
リン脂質の配合量は特に限定されないが、リン脂質と本発明の化合物の合計量を100重量部とした場合にリン脂質30〜90重量部、本発明の化合物70〜10重量部、好ましくはリン脂質50〜80重量部、本発明の化合物50〜20重量部、より好ましくはリン脂質60〜70重量部、本発明の化合物40〜30重量部である。
リン脂質の他に、本発明の組成物に含有され得る添加剤としては、コレステロールなどが例示される。
本発明の組成物の形態としては、本発明の化合物のみが存在していてもよく、本発明の化合物とリン脂質が単に混合物として存在していてもよく、本発明の化合物とリン脂質とが組み合わさって脂質膜構造体を形成していてもよい。該脂質膜構造体の存在形態およびその製造方法は特に限定されるべきものではないが、例えば、存在形態としては、乾燥した脂質混合物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態等を挙げることができる。
乾燥した脂質混合物は、例えば、使用する脂質成分をいったんクロロホルム等の有機溶媒に溶解させ、次いでエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことで製造することができる。
脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態としては、一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定型の層状構造物などを挙げることができる。分散した状態の脂質膜構造体の大きさは、特に限定されるべきものではないが、例えば、リポソームやエマルションの場合には、粒子径が50nmから数μmであり、球状ミセルの場合、粒子径が5nmから50nmである。ひも状ミセルや不定型の層状構造物の場合は、その1層あたりの厚みが5nmから10nmでこれらが層を形成していると考えればよい。
水系溶媒(分散媒)の組成も特に限定されるべきものではないが、水のほかに、グルコース、乳糖、ショ糖などの糖水溶液、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコール水溶液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝化生理食塩液等の緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などを挙げることができる。この水系溶媒に分散した脂質膜構造体を安定に長期間保存するには、凝集などの物理的安定性の面から、水系溶媒中の電解質を極力なくすことが重要である。また、脂質の化学的安定性の面から、水系溶媒のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0から8.0)に設定したり、窒素バブリングにより溶存酸素を除去することが重要である。さらに凍結乾燥保存や噴霧乾燥保存をする場合には、糖水溶液を、凍結保存する場合には、糖水溶液や多価アルコール水溶液をそれぞれ用いると効果的な保存が可能である。
これらの水系溶媒の添加物の濃度は特に限定されるべきものではないが、例えば、糖水溶液においては、2から20%(W/V)が好ましく、5から10%(W/V)がさらに好ましい。また、多価アルコール水溶液においては、1から5%(W/V)が好ましく、2から2.5%(W/V)がさらに好ましい。緩衝液においては、緩衝剤の濃度が5から50mMが好ましく、10から20mMがさらに好ましい。
水系溶媒中の脂質膜構造体の濃度は、特に限定されるべきものではないが、本発明においては脂質膜構造体として用いるリン脂質の総量の濃度は、0.001mMから100mMが好ましく、0.01mMから20mMがさらに好ましい。
脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態は、上記の乾燥した脂質混合物を水系溶媒に添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することもでき、特に限定されるべきものではない。脂質膜構造体の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルター等を用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。
また、上記の水系溶媒に分散した脂質膜構造体をさらに乾燥させる方法としては、通常の凍結乾燥や噴霧乾燥を挙げることができる。この時の水系溶媒としては、上記したように、糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液、乳糖水溶液を用いるとよい。ここで、水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥すると、脂質膜構造体の長期保存が可能となるほか、この乾燥した脂質膜構造体に生理活性物質を含有する水溶液を添加すると、効率よく脂質混合物が水和されるために生理活性物質自身も効率よく、脂質膜構造体に保持させることができるといったメリットがある。
3. 用途についての説明
本発明の化合物、組成物及びキットは、以下に説明する用途に使用できる。
本発明の化合物、組成物及びキットは、好ましくは、生理活性物質を細胞内に導入するために使用される。この場合、細胞は生体内の細胞であってもよいし、生体外に取り出された細胞であってもよい。すなわち、本発明の化合物、組成物及びキットは、生理活性物質を細胞内にin vivo又はin vitroで導入するために使用される。
生理活性物質は、特に限定されないが、例えば低分子化合物、ペプチド又は遺伝子である。
前述のように、pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基を設計することによって、本発明の化合物で構成したベシクルに内包させた生理活性物質を、初期エンドソーム、後期エンドソーム又はリソソームのいずれかの内部で放出できる。
ペプチド又は遺伝子としては、特に限定されないが、抗原となりうるか又は抗原を生じうるものであれば、本発明の化合物で構成したベシクルにこれらを内包させた上で抗原提示細胞内に導入することにより、これらを初期エンドソーム又は後期エンドソーム内においてリリースできる。これによりMHC class IIを介した抗原提示を通じて液性免疫(humoral immune response)系による抗体産生を誘導し、ひいては疾患を治療するために使用できるので好ましい。
抗原を生じうる遺伝子としては、いわゆるDNAワクチンとして利用されるものを用いることができる。DNAワクチンとは、抗原情報をコードしたDNAをワクチンとして接種する技術である。特に限定されないが、通常、DNAワクチンとしては、抗原情報をコードしたDNA断片を含有するベクターが用いられる。通常、DNAワクチンとして利用されるベクターには、非メチル化CpGモチーフと呼ばれる、メチル化されていないシトシン及びグアニンに富む配列領域が含まれている。
抗原に関し、特に限定されないが、例えば、悪性黒色種(メラノーマ)治療を目的としてMAGE、乳癌治療を目的としてHER2/neu、大腸癌治療を目的としてCEA、及び白血病又は各種癌の治療を目的としてWT1等を用いることができる。
生理活性物質としては、免疫阻害剤として作用しうるものを用いることができる。免疫阻害剤として作用しうるものは、その阻害作用が特定の免疫反応に対して選択的であるか非選択的であるかを問わず用いることができる。
本発明の本発明の化合物、組成物及びキットを、上記疾患の治療目的で、導入しようとする生理活性物質とともにin vivoで細胞に導入するために使用してもよい。この場合、本発明の化合物又は組成物を生理活性物質とともに個体に投与してもよい。個体への投与手段としては、経口投与でも、非経口投与でもよいが、非経口投与が好ましい。剤形としては、通常知られたものでよく、経口投与の剤形としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等を挙げることができる。また、非経口投与の剤形としては、例えば、注射剤、点眼剤、軟膏剤、坐剤等を挙げることができる。中でも、注射剤が好ましく、投与方法としては、静脈注射、標的とする細胞や臓器に対しての局所注射が好ましい。
本発明の本発明の化合物、組成物及びキットを、上記疾患の治療目的で、導入しようとする生理活性物質とともにin vitroで細胞に導入するために使用してもよい。この場合、本発明の化合物又は組成物を、次のような工程を含有する方法において使用してもよい。
(1)治療対象である個体から樹状細胞等の抗原提示細胞を採取する工程;
(2)工程(1)により採取された細胞に、本発明の化合物を含有するベシクルであって、生理活性物質を内包するベシクルを導入する工程;及び
(3)工程(2)により得られた細胞を治療対象である個体に戻す工程。
上記方法においては、工程(2)により得られた細胞において、ベシクルがエンドソーム内へ取り込まれた後の早い段階においてエンドソーム内で生理活性物質が放出され、効果的な免疫誘導が行われる。これにより、当該細胞においてはMHC class IIを介した抗原提示を通じて液性免疫系による抗体産生が誘導されている。このような細胞を治療対象である個体に戻すことにより、疾患を治療できる。
本発明の化合物を単独で用いる場合、生理活性物質と本発明の化合物の配合割合は、生理活性物質1重量部に対し、本発明の化合物を1〜20重量部、好ましくは3〜15重量部、より好ましくは5〜7重量部使用する。また、本発明の化合物とリン脂質の混合物を用いる場合、生理活性物質と本発明の化合物の配合割合は、生理活性物質1重量部に対し、本発明の化合物を1〜50重量部、好ましくは5〜30重量部、より好ましくは10〜15重量部使用する。
生理活性物質としての遺伝子としては、オリゴヌクレオチド、DNAおよびRNAのいずれでもよく、特に形質転換等のイン・ビトロにおける導入用遺伝子や、イン・ビボで発現することにより作用する遺伝子、例えば、遺伝子治療用遺伝子、実験動物や家畜等の産業用動物の品種改良に用いられる遺伝子が好ましい。遺伝子治療用遺伝子としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、酵素、サイトカイン等の生理活性物質をコードする遺伝子等を挙げることができる。
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例にのみ限定されるものではない。
1. 及びR が不飽和炭化水素基である本発明の化合物の製造
1.1 試薬
Fetal Bovine Serum (FBS)はMP Biomedicals,Inc から購入した。ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)は日水製薬(株)から購入した。N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、石油エーテル、シアン化ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、ベンジルペニシリンカリウム、ストレプトマイシン硫酸塩は和光純薬から購入した。ピラニンは東京化成(株)から購入した。クロロホルム、酢酸エチル、メタノール、n-ヘキサン、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム6 水和物、塩化カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)はキシダ化学から購入した。トリエチルアミン、アクリル酸メチル、エチレンジアミン、ジエチルエーテル、塩化ナトリウム、RPMI-1640 液体培地、MEM 非必須アミノ酸溶液はナカライテスクから購入した。トリプシンはDIFCOLABORATORIES(U.S.A)から購入した。ジオクタデシルアミン、カルセインはSigma から購入した。オレイルアミン、オレオイルクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、3-メチルグルタル酸無水物はALDRICH から購入した。
ジクロロメタンはSigma-ALDRICH から購入した。2-メルカプトエタノール、DPX、Hoechst、Lysotracker Green DND-26、Lysotracker Red DND-99、Tf-Alexa555はInvitrogen から購入した。透析膜はSpectra/Por 6 (分画分子量 2000,FE-0526-33)をSpectrum Laboratories Inc.から購入した。Merck Kieselgel 60(230-400 mesh) をシリカゲルクロマトグラフィーに使用した。
1.2 合成
1.2.1 概要
それぞれの第1 世代のデンドロン脂質( CHex-DL-G1-2C18-U2( 以下CHexDL-U2)、MGlu-DL-G1-2C18-U2(以下MGluDL-U2))の合成経路を以下に示した。
Figure 2013256493
オレイルアミン、オレオイルクロリドによりオレイルオレオイルアミドを合成した後、ヒドリド還元によりジオレイルアミンを合成し、アクリル酸メチルを用いたマイケル付加反応と、エチレンジアミンを用いたエステルアミド交換反応を繰り返すことによりDL-G1-2C18-U2 を合成した。この方法は、デンドリマーの合成において、Tomalia らが報告した方法である。さらに合成したDL-G1-2C18-U2 に3-Methylglutaric Anhydride あるいはCyclohexanedicarboxylic Anhydride を反応させることでCHexDL-U2 、MGluDL-U2 を合成した。
1.2.2 Oleyloleoylamide の合成
Oleoyl chloride を7.7 mL (20 mmol)をジクロロメタン100 mL に溶解させ氷水浴で撹拌し、これにジクロロメタン50 mL にOleylamine 9.4 mL (20 mmol)とトリエチルアミン 3.3 mL (0.024 mol)を溶解したものをゆっくり滴下した後、室温窒素雰囲気化で71 時間還流した。その後、エバポレータにより溶媒を留去し真空乾燥した後、得られた粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィーにより分離精製した(展開溶媒 クロロホルム:酢酸エチル=2:1)。
その後1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図1に示す。(収量 9.38 g、収率 86.4 %);1H NMR (CDCl3): δ0.88 (m, CH3(CH2)6-), δ 1.23 (s, CH3(CH2)6-,-CH2(CH2)5CH2-), δ 1.41 (m,-CH2CH2CO-),δ 1.55 (m, -CH2CH2CO-),δ 1.91 (m, -CH2CH2CH-),δ 2.05 (m, -CH2CH2NH-),δ 3.15 (m, -CH2CH2NH-),δ 5.25 (m, -CH2CHCHCH2-).
1.2.3 Dioleylamine の合成
THF 84.5 mL にゆっくりとLAH 1.49 g を加え、これにOleyloleoylamide 2.99g(5.61 mmol)をTHF 84.5 mL で溶解しパスツールピペットを用いてゆっくり加えた。これを50 ℃の窒素雰囲気化で83 時間反応させた。その後、LAH を濾別し、この時に酢酸エチル、クロロホルム、THF で洗浄した。その後エバポレータにより溶媒を留去し、残留物を飽和食塩水で4 回洗浄した。硫酸ナトリウムを用いて乾燥した後エバポレータにより溶媒を留去、粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィーにより分離精製した(展開溶媒 クロロホルム:酢酸エチル=2:1、後クロロホルム:メタノール=9:1)。
得られた生成物を1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図2に示す。(収量 1.67 g、収率 56.3%);1H NMR (CDCl3): δ0.88 (m, CH3(CH2)6-), δ 1.23 (s, CH3(CH2)6-,-CH2(CH2)5CH2-), δ 1.41 (m, -CH2CH2NH-), δ 1.99 (m, -CH2CH2CH-), δ 2.60 (m, -CH2CH2NH-), δ 5.35 (m, -CH2CHCHCH2-).
1.2.4 DL-G-0.5-2C 18 -U2 の合成
Dioleylamine 1.32 g (3.45 mmol)をアクリル酸メチル 98 mL (1.23 mol)に溶解して、70 ℃の窒素雰囲気化で攪拌した。反応終了後(95 時間)、エバポレータにより未反応のアクリル酸メチルをカラムクロマトグラフィーにより分離精製した(展開溶媒 クロロホルム:酢酸エチル=2:1)。
得られた生成物を1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図3に示す。(収量 1.32 g、収率 64.9%);1H NMR (CDCl3): δ0.85 (m, CH3(CH2)6-), δ 1.3 (m, CH3(CH2)6-, -CH2(CH2)5CH2-, -CH2CH2N-), δ1.99 (m, -CH2CH2CH-), δ 2.40 (m, -CH2CH2NH-, -CH2CH2COO), δ 2.78 (m, -CH2CH2COO), δ 5.35 (m, -CH2CHCHCH2-).
1.2.5 DL-G0-2C 18 -U2 の合成
DL-G-0.5-2C18-U2 の1.32 g(2.18 mmol)をメタノール100 mL に溶解し、これをシアン化ナトリウム32.2 mg(0.659 mmol)を含む蒸留精製したエチレンジアミン70 mL(1.05 mol)にパスツールピペットを用いてゆっくりと滴下した。
その後、70 ℃の窒素雰囲気化で93.5 時間反応させた。反応終了後、エバポレータを用いて溶媒を留去し真空乾燥した。その後、1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図4に示す。(収量 1.41 g 未精製);1H NMR (CDCl3): δ 0.85 (m, CH3(CH2)6-), δ 1.3 (m, CH3(CH2)6-, -CH2(CH2)5CH2-, -CH2CH2N-), δ 2.0 (m, -CH2CH2CH-), δ 2.3-2.8 (m, -CH2CH2NH-, -CH2CH2COO, -CH2CH2NH2), δ 3.25 (m, -CH2CH2NH2), δ 5.35 (m, -CH2CHCHCH2-), δ 8.55 (s, -CONHCH2-).
1.2.6 DL-G0.5-2C 18 -U2 の合成
DL-G0-2C18-U2 の1.41 mg(2.22 mmol)をメタノール141 mL に溶解した。これをアクリル酸メチル94 mL(1.03 mol)にパスツールピペットを用いてゆっくりと滴下した。その後、45 ℃の窒素雰囲気化で54 時間反応させた。反応終了後、エバポレータを用いて溶媒及び未反応のアクリル酸メチルを留去し真空乾燥したのち、得られた粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィーにより分離精製した。(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=10:3、のちクロロホルム:メタノール=4:1)。
その後、1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図5に示す。(収量 1.74 g、収率 99.3%);1H NMR (CDCl3): δ 0.85 (m, CH3(CH2)6-), δ 1.3 (m, CH3(CH2)6-,-CH2(CH2)5CH2-, -CH2CH2N-), δ 2.0 (m, -CH2CH2CH-), δ 2.3-2.6 (m, -CH2CH2NH-, -CH2CH2COO, -CH2CH2NH2), δ 2.8 (m, -CH2CH2COO),δ 3.25 (m, -CH2CH2NH2), δ 3.67 (s, -OCH3), δ 5.35 (m, -CH2CHCHCH2-), δ 8.55 (s, -CONHCH2-).
1.2.7 DL-G1-2C 18 -U2 の合成
DL -G0.5-2C18-U2 の1.74 g(2.88 mmol)をメタノール50 mL に溶解し、これをシアン化ナトリウム47.9 mg(0.98 mmol)を含む、蒸留精製したエチレンジアミン92.8 mL(1.39 mol)にパスツールピペットを用いてゆっくり滴下した。その後、50 ℃で72 時間、窒素雰囲気化で反応させた。反応終了後、ロータリーエバポレータで溶媒及び未反応のエチレンジアミンを留去し、得られた粗生成物を2日間透析することで精製し、凍結乾燥により黄色のロウ状物質を得た。
その後、1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図6に示す。(収量1.03 g、収率 41.5 %);1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)6-), δ 1.2-1.4 (m, CH3(CH2)6-, -CH2(CH2)5CH2-, -CH2CH2N-), δ 2.0 (m, -CH2CH2CH-), δ 2.3-2.7 (m,-CH2CH2NH-, -CH2CH2COO), δ 2.6-2.8 (m, -CH2CH2COO, -CH2CH2NH2), δ 3.25(m, -CH2CH2N-), δ 5.35 (m, -CH2CHCHCH2-), δ 8.55 (s, -CONHCH2-).
1.2.8 CHex-DL-G1-2C 18 -U2 の合成
シクロヘキサンジカルボン酸無水物390.5 mg(2.53 mmol)をDMF 5 mL に溶解させた。その後、DL-G1-2C18-U2 の207.7 mg(0.234 mmol)をDMF 3 mL に溶解したのち混合し、トリエチルアミンを0.174 mL 加えて50 ℃で96 時間窒素雰囲気化で反応させた。反応終了後、エバポレータにより溶媒を留去した後、LH カラムにより精製を行った。
その後、質量分析及び1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図7及び図8に示す。(収量 80.3 mg、収率 29.3%);1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)6-), δ1.2-1.4 (m, CH3(CH2)6-, -CH2(CH2)5CH2-, -CH2CH2N-), δ 1.4-1.9(m,-COCH-(CH2)4-CHCOOH), δ 2.0 (m, -CH2CH2CH-), δ 2.3-2.7 (m, -CH2CH2N-, -CH2CH2COO), δ 2.6-2.8 (m, -CH2CH2COO, -CH2CH2NH2, -COCH-CH2), δ 3.25(m, -CH2CH2N-), δ 5.35 (m, -CH2CHCHCH2-), Calc [M]- (C67H121N7O9) m/z1167.9. Found ESI-MS [M- H]- m/z 1166.6
1.2.9 MGlu-DL-G1-2C 18 -U2 の合成
3-Methylglutaric Anhydride (以下MGluAn) 618 mg(4.23 mmol)をDMF 3 mL に溶解させた。その後、DL-G1-2C18-U2 430 mg(0.909 mmol)をDMF 4 mL に溶解したのち混合し、triethylamine(TEA)を0.370 mL 加えて50 ℃で7 日間窒素雰囲気下で攪拌した。反応終了後、evaporator により溶媒を留去した後、LH-20column (溶離液:methanol) 及びsilica gel column chromatography (展開溶媒chloroform:methanol:water=60:35:5)により精製を行った。
その後、質量分析及び1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図9〜11に示す。(収量 208 mg、収率20.5%);1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)6-), δ 1.03 (s, -CH(CH3)-), δ1.2-1.4 (m, CH3(CH2)6-, -CH2(CH2)5CH2-), δ 1.60 (s, -CH2CH2N-), δ 2.0 (m, -CH2CH2CH-), δ 2.03-2.45 (m, -CH2CH2N-, -CH2CH2CO, -CH(CH3)-), δ2.46-2.95 (m, -CH2CH2CO, -CH2CH2NH-) , δ 3.2-3.4 (m, -CH2CH2N-,-COCH2CH(CH3)CH2COOH), δ 5.35 (m, -CH2CHCHCH2-). Calc [M]-(C63H117N7O9) m/z 1115.9. Found ESI-MS [M- H]- m/z 1114.8
2. 及びR が飽和炭化水素基である本発明の化合物の製造
第1 世代のデンドロン脂質の合成経路を以下に示した。ジオクタデシルアミンを開始物質として、アクリル酸メチルを用いたマイケル付加反応と、エチレンジアミンを用いたエステルアミド交換反応を繰り返すことによりDL-G1-2C18 を合成した。
Figure 2013256493
2.1 DL-G-0.5-2C 18 の合成
アクリル酸メチル(34.5 ml, 0.38 mmol)にジオクタデシルアミン(1.94 g, 3.72mmol)を溶かし、窒素雰囲気において80 ℃で18 時間還流した。その後、未反応のアクリル酸メチルとメタノールを減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒石油エーテル:ジエチルエーテル=2:1, v/v)で精製した。(収量 2.18 g、収率 96.5%);1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2) 15-), δ 1.23 (s,CH3 (CH2)15-), δ 1.41 (m, -CH2CH2N-), δ 2.38 (t, -CH2COOCH3), δ 2.44 (t,-CH2N-), δ 2.77 (t, -CH2CH2COOCH3), δ 3.67 (s, -OCH3).
2.2 DL-G0-2C 18 の合成
DL-G-0.5(2.18 g, 3.59 mmol)をメタノール(60 ml)に溶かした。この溶液を、シアン化ナトリウム(40.3 mg, 0.82 mmol)を含むエチレンジアミン(120 ml, 1.77 mol)に徐々に加え、窒素雰囲気において50 ℃で7 日間撹拌した。その後、未反応のエチレンジアミンとメタノールを減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒クロロホルム:メタノール:水=60:35:5, v/v)によって精製した。
その後、1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図13に示す。
(収量 1.71 g、収率 74.9%);1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)15-), δ1.26 (s, CH3(CH2)15-), δ 1.44 (m, -CH2CH2N-), δ 2.36 (t, -CH2CONH-), δ 2.42 (t,-CH2N-), δ 2.65 (t, -CH2CH2CONH-), δ 2.79 (t, -CH2NH2), δ 3.67 (m, -CH2CH2NH2).
2.3 DL-G0.5-2C 18 の合成
DL-G0(1.71 g, 2.71 mmol)をメタノール(30 ml)に溶かした。この溶液を、アクリル酸メチル(48.5 ml, 0.53 mol)に徐々に加え、窒素雰囲気において35 ℃で50 時間撹拌した。その後、未反応のアクリル酸メチルとメタノールを減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒石油エーテル:ジエチルエーテル=2:1, v/v のち クロロホルム:メタノール=95:5, v/v)で精製した。
その後、1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図14に示す。(収量1.85 g、収率 85.0%);1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)15-), δ 1.26 (s, CH3(CH2)15-), δ 1.43 (m, -CH2CH2N-), δ 2.34 (t, -CH2CONH-), δ 2.42 (m,-CH2COOCH3), δ 2.44 (m, -CH2N-), δ 2.54 (t, -CONHCH2CH2-), δ 2.71 (t, -CH2CH2CONH-), δ 2.78 (t, -CH2CH2COOCH3), δ 3.29 (m, -CONHCH2-), δ 3.67(s, -OCH3).
2.4 DL-G1-2C 18 の合成
DL-G0.5(1.8 g, 2.3 mmol)をメタノール(61 ml)に溶かした。この溶液を、シアン化ナトリウム(27 mg, 0.55 mmol)を含むヒドラジン (80 ml, 1.2 mol)に徐々に加え、窒素雰囲気において45 ℃で64 時間撹拌した。その後、未反応のエチレンジアミンとメタノールを減圧留去し、Sephadex LH-20 カラム(溶離液 クロロホルム)によって精製した。
その後、1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図15に示す。
(収量 1.9 g、収率 97.0%);1H NMR (CDCl3): δ0.88 (m, CH3(CH2)15-), δ 1.26 (s, CH3(CH2)15-), δ 1.42 (m, -CH2CH2N-), δ 2.32(m, -CH2CONHCH2CH2NH2), δ 2.36 (m, -CH2CONH-), δ 2.42 (m, -CH2N-), δ2.50 (t, -CONHCH2CH2-), δ 2.67 (t, -CH2CH2CONH-), δ 2.74 (t,-CH2CH2CONHCH2CH2NH2), δ 2.83 (t, -CH2NH2), δ 3.22 (m, -CONHCH2-), δ3.29 (m, -CH2CH2NH2).
2.5 CHex-DL-G1-2C 18 の合成
Cyclohexanedicarboxylic Anhydride (以下CHexAn) 265 mg(1.63 mmol)をDMF5 mL に溶解させた。その後、DL-G1-2C18 の145.3 mg(0.307 mmol)をDMF 5 mLに溶解したのち混合し、triethylamine(TEA)を0.125 mL 加えて50 ℃で25 時間窒素雰囲気化で反応させた。
反応終了後、エバポレータにより溶媒を留去した後、LH-20 column ( 溶離液:methanol) により精製し、silica gel columnchromatography (展開溶媒:chloroform/methanol=80/20) によりさらに精製を行った。その後、質量分析及び1H NMR により化合物の同定を行った。
その後、質量分析及び1H NMR により化合物の同定を行った。結果を図16及び図17に示す。
(収量 80.3mg、収率 22.3 %);1H NMR (CD3OD) : δ 0.88 (m, CH3(CH2)15-), δ 1.26 (s, CH3(CH2)15-), δ 1.42 (m, -CH2CH2N-),δ1.4-1.9 (m, -COCH-(CH2)4-CHCOOH) , δ2.32 (m, -CH2CONHCH2CH2NH2), δ 2.36 (m, -CH2CONH-), δ 2.42 (m, -CH2N-),δ 2.50 (t, -CONHCH2CH2-), δ 2.6-2.8 (m, -COCH-CH2), δ 2.67 (t, -CH2CH2CONH-), δ 2.74 (t, -CH2CH2CONHCH2CH2NH2), δ 2.83 (t, -CH2NH2), δ3.22 (m, -CONHCH2-), δ 3.29 (m, -CH2CH2NH2).Calc [M]- (C67H121N7O9) m/z1172.0. Found ESI-MS [M- H]- m/z 1170.8
3.作製したデンドロン脂質の性能評価
3.1 デンドロン脂質の単分子膜の作製と測定
LB 膜測定装置の圧力計を校正し(100mg 分銅に対し48.28mN/m)、トラフとバリアをエタノールによって洗浄した。pH を調整したPBS(リン酸水素二ナトリウム:10 mM、塩化ナトリウム:150 mM)を作製し、種々の脂質溶液をLB 膜測定装置のトラフ上に250 mL を張り、1cm2 のろ紙を測定機に設置したのち10 分間静地し圧力計を安定させた。10 分後の表面圧をP0 とした。クロロホルムのデンドロン脂質溶液をその上に展開し、20 分静置してクロロホルムを飛ばした。LB膜測定装置π-A モードで、溶媒表面をバリアで側方圧縮することで溶媒表面の脂質分子の分子表面積を減少させたときの脂質単分子膜の表面圧を圧力計により測定した測定した。再び測定する際は、トラフ上の溶媒を回収し、トラフとバリアをエタノールにより洗浄し、溶媒を展開した。
3.2 リポソームの物性評価
3.2.1 リポソームのpH 応答評価
3.2.1.1 Pyranine-DPX 内包リポソームの調整
MGlu-DL-G1-2C18-U2 修飾リポソーム(以下UMG1 と呼称する)は、所定量のEYPC(10mg/ml)のクロロホルム溶液と、所定量のMGlu-DL-G1-2C18-U2 (6.98mg/ml) のクロロホルム溶液を混合し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し薄膜を形成させ、4 時間真空乾燥することで溶媒を完全に除去した。
CHex-DL-G1-2C18-U2 リポソーム( 以下UCG1 と呼称する) は所定量のEYPC(10mg/ml) のクロロホルム溶液と、所定量のCHex-DL-G1-2C18-U2 (3.65mg/ml) のクロロホルム溶液を混合しロータリーエバポレーターで溶媒を除去し薄膜を形成させ、4 時間真空乾燥することで溶媒を完全に除去した。EYPC リポソームは、EYPC のクロロホルム溶液を所定量加え、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し薄膜を形成させ、4 時間真空乾燥することで溶媒を完全に除去した。
それぞれの薄膜の脂質量1.25×10-5mol に対して、組成がpyranine 35mM , DPX50mM , Na2HPO4 25mM の溶液を作製し1.0 mL 加え、バス型超音波照射装置により超音波を2 分間照射し薄膜を剥がした後に、pH を7.4 に調整した。凍結融解を5 回行い、エクストルーダーに膜孔100nm の膜を重ねリポソーム溶液を61回(30 往復)通すことによって、リポソーム粒径を100nm にそろえた。 PBS(phosphate 25 mM, saline 150 mM ; pH7.4)で平衡化したセファロース4B カラムによりリポソームに内包されていないピラニン, DPX を除くことで精製を行った。
3.2.1.2 脂質の定量
リン脂質の定量は、リン脂質C テストワコー(和光純薬工業)を用いて、コリンオキシターゼ・DAOS 法によって行った。試料溶液(リポソ―ム溶液)、ブランク溶液及び、標準溶 液をそれぞれ発色溶液と混合し37℃で5 分間インキュベートした。波長600nm で試料溶液の吸光度を日本分光(株)製V-560 型紫外・可視光光度計を用いて測定し、得られた吸光度から試料溶液の濃度を決定した。
3.2.1.3 リポソームのpH 応答評価
ピラニン 内包リポソームから放出されるピラニンを416 nm の光で励起し、発せられる蛍光を512 nm で測定することにより、ポリマー修飾リポソームのpH 及び温度応答性の評価を行った。石英セル内に各pH に調製したPBS 溶液を加え、蛍光分光光度計内に設置した。表示温度が37℃になった事を確認した後、蛍光分光光度計で石英セル内の脂質濃度が0.05 mM となるように脂質溶液を各pH に調整したPBS に加えた(最終体積2.5ml)。15 分間インキュベーションした時のピラニンの放出量を調べた。最後に10%Toriton を25μl 加えてリポソームを破壊した。そのときの蛍光強度を100%とし各リポソームからの内包物の放出割合を求めた。蛍光強度の測定は分光蛍光光度計(JASCO 製 FP-6200、FP-6500)および温度コントローラ(JASCO 製 ETC-272T)を用いて37℃で行った。
3.2.2 動的光散乱を用いたリポソームの平均粒径及びζ電位のpH 依存性
3.2.2.1 リポソームの調整
先述のように薄膜を作製し、薄膜の脂質量1.25×10-5mol に対して、0.1 mM のリン酸バッファーを1.0 mL 加え、バス型超音波照射装置により超音波を2 分間照射し薄膜を剥がした後に、pH を7.4 に調整した。凍結融解を5 回行い、エクストルーダーに膜孔100nm の膜を重ねリポソーム溶液を61 回(30 往復)通すことによって、リポソーム粒径を100nm にそろえた。
3.2.2.2 リポソームの平均粒径及びζ電位の測定
リポソームの粒径及びζ電位は動的光散乱法によって求めた。リポソーム溶液を、セル内の脂質濃度が0.1mM となるように脂質溶液を各pH に調整したPBS(−)または0.1 mM のリン酸バッファーに加えた(最終体積2.5ml)。15 分静置し、粒径及びζ電位を測定した。
測定は25℃において行い、大塚電子(株)製ELS-8000F を用いて測定した。
3.2.2.3 リポソームの濁度のpH 依存性
liposome を脂質濃度が0.5 mM となるようにpH7.4 のPBS(-)に分散させて37 ℃でpH を連続的に変化させてそれぞれのpH における500 nm の光の透過率を日本分光(株)製V-560 型 紫外・可視分光光度計を用いて測定した。
3.3 種々のデンドロン脂質を修飾したリポソームの細胞への影響
3.3.1 培養細胞
3.3.1.1 マウス由来の細胞培養株DC2.4 細胞
マウス由来の細胞培養株DC2.4 細胞は10% FBS、0.1 mg/ml ベンジルペニシリンカリウム、0.1 mg/ml ストレプトマイシン硫酸塩、2 mM L-グルタミン、0.1mM MEM non essential amino acid solution および0.55 mM 2-mercaptoethanolを含むRPMI-1640 メディウムを培養液として、三洋電機製CO2 インキュベーター(MCO-96)内で、CO2 濃度5%、37℃で培養した。
3.3.1.2 ヒト子宮頸がん由来HeLa 細胞
ヒト子宮頸がん由来HeLa 細胞は、DMEM + 10%FBS + 抗生物質を培養液として、三洋電機製 CO2 インキュベーター MCO-96 内で、CO2 濃度5%、37 ℃で培養維持した。
3.4 フローサイトメトリーによるリポソーム取り込み量の定量
3.4.1 マウス由来の細胞培養株DC2.4 細胞
DC2.4 細胞を1 × 105/well となるように12well プレートに播き、二晩培養した。HBSS で2 回洗浄した後、10% FBS 含有RPMI メディウムを適量加えた。そこに1 穴当たりリポソーム溶液を脂質濃度が0.5mM となるように加え、4 時間取り込ませた。HBSS で3 回洗浄したのち、1 穴につき300 μl のトリプシン水溶液(トリプシン(DIFCO)250 mg、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)1 mg、PBS 100 ml)を用いて細胞を剥離し、フローサイトメーター用のチューブに回収した。回収した細胞トリプシン溶液を、フローサイトメーターBeckman Coulter.XL を用いて細胞の蛍光強度を測定し、細胞へのリポソームの取り込み量を評価した。
3.4.2 ヒト子宮頸がん由来HeLa 細胞
HeLa 細胞を12 穴ディッシュ1 穴当たり1×105個になるように撒き、10% FBS含有DMEM メディウム0.5 ml 中、37 ℃で48 時間培養した。その後、0.36 mMCaCl2と0.42 mM MgCl2を含むPBS(PBS(+))で2 回洗浄した後、10% FBS 含有DMEM メディウム 0.5 ml を加えた。そこに1 穴当たりリポソーム溶液を脂質濃度が0.5mM となるように加え、37 ℃で4 時間インキュベートした。その後、PBS(+)で2 回、PBS(−) (Ca2+及びMg2+を含まないPBS)で1 回洗浄し、1 穴につき300 μl のトリプシン水溶液(トリプシン(DIFCO)250 mg、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)1 mg、PBS 100 ml)を用いて細胞を剥離し、フローサイトメーター用のチューブに回収した。回収した細胞トリプシン溶液を、フローサイトメーターBeckman Coulter.XL を用いて細胞の蛍光強度を測定し、細胞へのリポソームの取り込み量を評価した。
3.4.3 細胞内挙動の観察
3.4.3.1 マウス由来の細胞培養株DC2.4 細胞
DC2.4 細胞を松浪ガラスボトムディッシュに1 つ当たり2×105個になるように播き、二晩培養した。HBSS で2 回洗浄した後、10% FBS 含有RPMI メディウムを1 mL 加えた。そこに1 穴当たりリポソーム溶液を脂質濃度が0.5mM となるように加え(全体積2 mL)、4 時間取り込ませた。HBSS で3 回洗浄したのちOPTI-MEM を加え、共焦点レーザー顕微鏡(LSM 5 EXCITER(ZEISS))により細胞内動態を観察した。
3.4.3.2 ヒト子宮頸がん由来HeLa 細胞
Hela 細胞を松浪ガラスボトムディッシュに1 つ当たり2×105 個になるように撒き、10% FBS 含有DMEM メディウム2.0 ml 中、37 ℃で二晩培養した。その後、PBS(+)で2 回、PBS(−)で1 回洗浄した後、10% FBS 含有DMEMメディウム 1.0ml を加えた。そこに1 穴当たりリポソーム溶液を脂質濃度が0.5mM となるように加え(全体積2 mL)、37 ℃で4 時間又は24時間インキュベートした。その後、PBS(+)で2回、PBS(−)で1 回洗浄した後OPTI-MEM を加え、共焦点レーザー顕微鏡(LSM5 EXCITER(ZEISS))により細胞内動態を観察した。
3.4.3.3 細胞オルガネラの染色
3.4.3.3.1 Hoechst33342 による核の染色
リポソームを上記の方法で取り込ませた後、10% FBS 含有RPMI 1640 またはDMEM メディウム 1998 μL と2.0 μL のHoechst33342(Invitrogen)を加え、37 ℃で15 分間培養した。その後、3 回洗浄した後PBS を再び加え、共焦点レーザー顕微鏡(LSM 5 EXCITER(ZEISS))により細胞内動態を観察した。
3.4.3.3.2 Lysotracker による後期エンドソーム/リソソームの染色
Lysotracker (Invitrogen, Lysotracker Green DND-26, Lysotracker RedDND-99,DMSO 溶液 : 1mM)を1 μL 取り、FBS を含有しないRPMI 1640 またはDMEM メディウム99 μL 加えて染色液を調製した。リポソームを上記の方法で取り込ませた後、FBS を含有しないRPMI 1640 またはDMEM メディウム1985 μL と染色液15 μL 加え、5 分間培養した。その後、3 回洗浄した後PBS を再び加え、共焦点レーザー顕微鏡(LSM 5EXCITER(ZEISS))により細胞内動態を観察した。
3.4.3.3.3 蛍光ラベル化トランスフェリンによる初期エンドソーム染色
Transferin Conjugates (Invitrogen, transferrin from human serum, Alexa Fulor555 conjugate)を所定の濃度(5 mg/mL, sodium azido 2 mM)となるようにイオン交換水で溶解し、染色液を調製した。リポソームを上記の方法で取り込ませた後、FBS を含有しないRPMI 1640 またはDMEM メディウムと染色液を加え、30 分間培養した。その後、3 回洗浄した後PBS を再び加え、共焦点レーザー顕微鏡(LSM 5 EXCITER(ZEISS))により細胞内動態を観察した。
3.5 二種類のpH 応答性デンドロン脂質により構成されるリポソームの評価
pH応答性の異なる2種以上の本発明の化合物を適宜組み合わせて用いてベシクルを構成することにより、所望のpH応答性を有するベシクルを得ることができるか否かを下記の通り検証した。
3.5.1 ピラニン内包リポソームの作製
EYPCのchloroform溶液(10 mg/mL)とCHex-DL-G1-2C18-U2のchloroform溶液(3.65 mg/mL)を所定量eggplant flaskに加えて混合しrotary evaporatorで溶媒を留去し、薄膜を作製した。ここにピラニン水溶液(35 mM pyranine, 50 mM DPX, 25 mM Na2HPO4)を500 μL加え、バス型超音波照射装置により薄膜を分散させた。凍結融解を5回行い、extruderを用いて粒径を100 nmに揃え、Sepharose 4B columnにより精製した。その後、テストワコーにより脂質濃度を測定した。
3.5.2 ピラニン放出挙動の測定
上記で得られたliposomeを、PBS(-)に脂質濃度が50 μMとなるように蛍光セル中に加え、ピラニンの蛍光測定(37 ℃、λEX : 416 nm、λEM : 512 nm)を行い、放出率を算出した。
4. 結果
4.1 デンドロン部位の疎水性の異なる種々のデンドロン脂質の1H NMR によるキャラクタリゼーション
デンドロン脂質は実験項に示した通り、オレイルアミン、オレオイルクロリドによりオレイルオレオイルアミドを合成した後、ヒドリド還元によりジオレイルアミンを合成し、メタノール中においてアクリル酸メチルおよびエチレンジアミンを繰り返し反応させることによって合成した。同定は世代数1 のデンドロン脂質までは1H NMR により、pH 応答機能を付与したデンドロン脂質については1H NMR 及び質量分析により行い、合成できていることを確認した。
なお、pH 応答性デンドロン脂質は、それぞれ導入した末端基由来のピークの出現により合成ができたことを確認した。MGluDL-U2 では1.03 ppm 付近の3-メチルグルタル酸のメチル基由来のピーク(6H)の出現により、CHexDL-U2 及びCHexDL-S では1.2〜2.0 ppm にシクロヘキサンジカルボン酸のシクロヘキサン由来のピーク(16H)の出現により合成ができたことを確認した。また、質量分析についてはESI-negative モードにより測定を行ったところ、理論値と同等の値を示したことから合成が確かにできていることを確認した。
4.2 単分子膜測定
作製したpH 応答性デンドロン脂質の単分子膜を作製し、その表面圧を測定した。
その結果を図18に示す。
どのデンドロン脂質でも中性あるいは弱酸性で圧力の立ち上がる表面積が最少となり、酸性になるにつれて、あるいは塩基性で圧力の上がり始める表面積が大きくなっている。
これは、デンドロン脂質の電荷状態が変化するために起こったものであると考えられる。
また、CHexDL-S はCHexDL-U2 やMGluDL-U2に比べて圧力の上がり始める表面積が大きい。
次に、表面圧が25 mN/m となるときの表面積を各pH についてプロットしたものを図19に示す。
同じ不飽和型であってもMGluDL-U2 に比べてCHexDL-U2 の方が同じ表面圧ではエリア面積が大きい傾向にあった。これは末端基の排除体積がCHexDL-U2の方が大きいためである。しかしながら、明確な差はこれら二種にはない。G1には二つしか末端基を導入することができないことで明確な差が生まれていないということが考えられるため、世代数を上げることでこの末端基の差は生ずると考えられる。
同じ末端基を持つCHexDL-S とCHexDL-U2 では飽和型のものの方が同じ表面圧ではエリア面積が大きかった(図20)。また、同じ表面圧で比べた時に中性に比べて酸性の場合で表面積が大きくなっていた。これは図21に示すようにpH が低下するとともにカルボキシ基がプロトン化されて疎水性となった末端基が気液界面に分配されることによるものだと考えられる。またさらに内部の3 級アミンがプロトン化されることで分子間の静電反発も生まれ、同じ表面圧で比較したときに表面積は大きくなったと考えられる。
4.3 リポソームのpH 応答性評価
4.3.1 ピラニン内包未修飾リポソームのpH 応答性評価
pH 応答性デンドロン脂質を含有させずに調製した未修飾リポソーム(以下EYPC リポソーム)のpH 評価を行った。release においてpH に依存した大きな変化が見られないことから、pH 応答性は有していないことが分かった。
4.3.2 不飽和型MGluDL リポソーム、CHexDL リポソーム、及び飽和型CHexDLリポソーム(SCG1)の内包物放出挙動
不飽和型MGluDL 含有ピラニン内包リポソーム(以下UMG1 リポソーム)、不飽和型CHexDL 含有ピラニン内包リポソーム(以下UCG1 リポソーム)及び飽和型CHexDL リポソーム(以下SCG1 リポソーム)のピラニン放出に及ぼすpHの影響について検討した。作製したUMG1、UCG1、SCG1 リポソームは脂質組成比が以下のものを用いた。
UMG1 ; EYPC/MGluDL-U2=75/25(以下UMG1.25) or 60/40(以下UMG1.40)
UCG1 ; EYPC/CHexDL-U2=90/10(以下UCG1.10) or 75/25(以下UCG1.25)
SCG1 ; EYPC/CHexDL-S=75/25(以下SCG1.25) or 60/40(以下SCG1.40)
それぞれのリポソームにおいて、高pH 環境下では時間が経過してもリリースが起こらないのに対し、低pH 環境下では時間経過につれリポソームからの内包物の放出が見られる。
これはリポソーム表面のpH 応答部位が持つカルボキシ基がpH 低下に伴いプロトン化することで、リポソーム表面が親水状態から疎水状態に変わったためリポソーム膜の不安定化を誘起し、内包物の放出が起こったと考えられる。
詳しく比較するために、それぞれのリポソームの15 分後のリリース(%)をpHに対してプロットし、各リポソーム間でのpH 応答性を比較した。その結果を図22〜25に示す。
いずれのリポソームでも中性下での内包物放出はそれほど起こっていないが、弱酸性下ではいずれのリポソームでも内包物の放出が起こった。リポソームからの放出率の最大値はUMG1 では30%程度、UCG1 では90%以上、SCG1 では60%程度であった。MGlu を導入したものとCHex を導入したものとで内包物の放出率の最大値が異なるが、これは、末端基の疎水性度が異なることによるものであると考えられる。すなわち、より疎水性度の高いCHex 基ではより強く膜と相互作用をするのに対し、疎水性度の低いMGlu 基では膜との相互作用が弱いため放出率が低いままであったと考えられる。さらに、同じCHex を導入したものでも飽和型と不飽和型とで内包物の放出率が異なった理由としては、飽和型のデンドロンは疎水性部位であるアルキル鎖(オクタデシル鎖)が不飽和型のオレイル鎖に比べて結晶性の高いものであり、飽和型ではデンドロン脂質が分離し、脂質膜中で集合しやすくなっていると考えられる。そして脂質膜が部分的に結晶様となり、リポソーム膜が堅くなって内包物の漏れが起こりにくくなったと考えられる。
また、脂質組成を変えた場合では、リポソームにデンドロン脂質を25%修飾したもので放出率は最大となり、それ以上デンドロン脂質の仕込み量を高くしても放出率の向上は認められなかった。デンドロン脂質末端基のリポソーム脂質膜へ及ぼす影響は25%修飾することで十分に行われることが考えられる。しかし、デンドロン脂質の仕込み量を50%にすると、UMG1 では溶解し、UCG1 及びSCG1 リポソームでは凝集体が沈殿し、リポソームは形成されなかった。この時、MGluDL-U2 ではミセル形成に至って溶解し、CHexDL-U2、CHexDL-Sではデンドロン脂質が自己凝集していると考えられる。
4.4 リポソームの粒径、ζ電位及び濁度測定に対する実験結果
4.4.1 リポソームの粒径と濁度測定
リポソームの粒径及び濁度を測定した結果を図26及び図27に示す。
UMG1.25 では中性下及び弱酸性下では粒径は約100 nm であったが、pH5.0 付近で粒径が大きくなってpH4.5 で最大となり、さらにpH を低下させると再び100 nm 程度の粒子となった。濁度測定においてもpH5.0 付近で透過率の低下がおこり始め、pH4.4〜pH4.5 で透過率が最低となり、さらにpH を低下させることで透過率は再び中性下と同程度の値となった。このことから、UMG1 リポソームではpH を低下させると自身のリポソーム膜の疎水部分と末端基の疎水性部分の相互作用はあまり起こらず、他のリポソームと相互作用をしている凝集が起こると考えられる。そしてさらにpH を低下させると再び粒径は100 nm 程度となって透過率も上昇した。このことから、凝集した際にリポソーム間の膜融合は起こっていないと考えられる。一方、UCG1.25 及びSCG1.25 ではいずれのpH 下でも100 nm 程度であり、粒径の変化は起こらなかった。また、濁度測定においても透過率の変化は起こらなかった。このことから、CHexDL を修飾したリポソームでは他のリポソームと相互作用はせずに自身のリポソーム膜の疎水部分と末端基の疎水性部分が相互作用をしていると考えられる。
4.4.2 リポソームのζ電位
単分子膜測定の結果やリポソームの放出挙動など、pH 応答性デンドロン脂質あるいはpH 応答性リポソームのpH に依存した挙動の変化について詳しく検討するため、ζ電位測定を行い、その結果を図28に示す。
EYPC リポソームのゼータ電位のpH に依存した大きな変化が見られず、ほぼ中性の値であった。UMG1 リポソーム、UCG1 リポソーム及びSCG1 リポソームのζ電位に及ぼすpH の影響について検討した。いずれのリポソームも弱塩基性では負の同様の値で、pHの低下に伴いゼータ電位は上昇し、酸性下では正の同様な値であった。しかし、UMG1 リポソームではpH5〜6 でゼータ電位は正の値、UCG1 リポソーム及びSCG1 リポソームでは中性付近ですでに正の値となっていた。EYPCリポソームのζ電位はpH を変化させても変動しないことからリポソームのζ電位の変動はpH 応答性デンドロン脂質の荷電状態が変化したために起こったものと考えられる。よって、このようなリポソームのpH に依存したζ電位の違いはデンドロン脂質の荷電状態の違いから次のように説明することができる。UMG1リポソームの各pHにおけるデンドロン脂質の荷電状態は図29のようになっていると考えられる。
中性及び弱塩基性下では末端カルボキシ基が負電荷をもつため、ゼータ電位が負の値となっていると考えられる。また、デンドロン内部の3 級アミンのプロトン化はpH6.0〜pH7.0 で起こることから、pH5.5〜pH7.0 の領域ではデンドロン脂質内部の3 級アミノ基のプロトネーションが起こっていると考えられ、pH5.5 付近でゼータ電位が中性の値となったと考えられる。そして、最後に末端カルボキシ基のプロトネーションが起こり、ζ電位は正の値となったと考えられる。
一方、UCG1 及びSCG1 リポソームの各pH におけるpH 応答性デンドロン脂質の電荷状態は図30のようになっていると考えられる。中性から弱酸性下でゼータ電位はすでに正の値となっている。デンドロン内部の3 級アミノ基のプロトネーションはpH6.0〜pH7.0 で起こることから、pH7.0までのζ電位の上昇は、末端のカルボキシ基がプロトネーションを受けたことによるものと考えられる。そしてさらにpH が低下することでデンドロン内部の3 級アミノ基がプロトネーションを受けてゼータ電位が正となったと考えられる。
4.4.3 種々デンドロン脂質のエリア面積とζ電位の関係
以下に種々デンドロン脂質をコンポーネントとしたリポソームのζ電位とデンドロン脂質の表面圧が25 mN/m となるときの表面積の関係を図31〜図33に示す。図31はMGluDL−U2、図32はCHexDL−U2、図33はCHexDL−Sについての結果をそれぞれ示している。
弱塩基性下ではζ電位が負で最大で、エリア面積も大きい。pH が低下し、中性となるとζ電位は上昇し、エリア面積は不飽和型では最小に、飽和型でもエリア面積は低下した。これはζ電位の低下によりデンドロン脂質のデンドロン部位の電荷がニュートラルになったことにより電荷反発がなくなり、デンドロン同士がより密にパッキングするようになったことによると考えられる。そしてさらにpH が低下するとζ電位の上昇とともにエリア面積も上昇した。これはデンドロン部位が再び電荷をもったためである。以上のようにζ電位の変化と同調してエリア面積も変化していることが分かった。
4.4.4 不飽和型MGluDL リポソーム、CHexDL リポソーム、及び飽和型CHexDLリポソームのζ電位と内包物放出率の関係
リポソームのζ電位と、ピラニンの放出との相関を考察する。図34〜36は、それぞれ、UMG1.25、UCG1.25及びSCG1.25についての結果を示している。
塩基性条件下ではゼータ電位は負の電位であり、放出は起こっていない。しかし、ゼータ電位が上昇する(デンドロン脂質の電荷状態が変化する)と放出が起こり、さらにゼータ電位が正で最大となったpH 領域で内包物の放出も最大となることが分かる。UMG1 では放出率が低いため相関を確認しにくいが、このことはすべてのリポソームについてあてはまる。
以上のことを踏まえ、弱塩基性下ではデンドロン脂質末端のカルボキシ基が負に帯電しており、リポソーム膜と相互作用しないためにリポソーム膜は安定に保持されると考えられる。また中性下では単分子膜測定の結果より、デンドロンがより密にパッキングをできるようになるために内包物は安定に保持されていると考えられる。しかし、pH の低下に伴いデンドロン脂質末端のカルボキシ基のプロトネーションにより3-メチルグルタル酸由来または1.2-シクロヘキサンジカルボン酸由来の末端基の疎水性度の増大によりリポソーム膜との疎水性相互作用の増大によりリポソーム膜を不安定化し、またデンドロン脂質内部の3 級アミノ基のプロトネーションにより、塩基性及び中性化では疎水性であったリポソーム膜に親水性部位が発生すること、さらにリポソーム膜中の脂質分子(卵黄ホスファチジルコリン)の配列中にpH 応答性デンドロン脂質の末端基が入り込むことにより、脂質分子のパッキングが低下することで膜が不安定化され、放出が起こったと考えられる。
4.5 種々のデンドロン脂質を修飾したリポソームの細胞への影響
4.5.1 フローサイトメトリによる種々のリポソームの細胞への取り込み評価
作製したリポソームがどれほど細胞内に取り込まれるかを評価するためにフローサイトメーターを用いて細胞内取り込みを評価し、その結果を図37に示す。
EYPC リポソームの細胞への取り込み量と比較して、UMG1.25 リポソームでは少し取り込み量が少なく、UCG1.25 リポソームやSCG1.25 リポソームでは3〜5倍の取り込み量となっていた。UCG1.25 やSCG1.25 では細胞膜との疎水性相互作用による吸着の後の取り込みも考えられるが、これらリポソームの生理条件下でのζ電位の比較から、この差について次のように考えられる。細胞膜表面は負電荷を帯びていることから、負のζ電位であったUMG1.25 では静電反発により取り込みが少なく、また、デンドロン末端基の疎水性度もそれほど高いものではないことから、細胞膜との疎水性相互作用による取り込みも期待できない。よってUMG1.25 リポソームでは取り込み量が低かったものと考えられる。ただしDC2.4 細胞には、スカベンジャーレセプターが存在しているはずであるが、ζ電位が負であるUMG1.25 リポソームの取り込みが最も少ないものであった。このことについては次のように考えられる。リポソームに組み込まれたMGluDL-U2 の末端基(MGlu 基)はそれほど排除体積(立体障害)の大きいものではなく、疎水性度もそれほど高いものではない。このことから末端カルボキシ基とリポソームの外側の親水性部位との相互作用(静電相互作用あるいは水素結合)が発生し、リポソーム中のコリン成分と結合したような状態となったのではないかと考えられる。
これにより、リガンドであるカルボキシ基が事実上露呈していないような状態となり、さらにリポソーム膜を水素結合で保護するような状態となり内包物の流出も阻害しているのではないかと考えられる。
UCG1.25 とSCG1.25 の生理条件でのζ電位はそれほど大きな差はなく、ともに正の値となっていた。このことから予想される細胞への取り込みとしては、UMG1.25 やEYPC より多いがUCG1.25 とSCG1.25 の差は小さいと考えられる。しかし、実際にはSCG1.25 はUCG1.25 の5 倍程度の値となっていた。先の考察でSCG1.25 ではデンドロン脂質が部分的に集合して結晶様の部分がリポソーム膜中に存在するとした。すると、UCG1.25 に比べてSCG1.25 はデンドロン末端基の集合が起こっており疎水性も高いような状態となっていると考えられる。この部分が自身のリポソーム膜との相互作用をせずに細胞膜と相互作用をし、取り込みが上がったのではないかと考えられる。
4.5.2 共焦点レーザー顕微鏡による細胞内挙動の観察
4.5.2.1 カルセインを内包したローダミンラベル化リポソームの細胞内挙動
共焦点レーザー顕微鏡により観察を行った結果を図38〜46に示す。図38〜41はDC2.4cells、図42〜46はHella cellsについての結果である。
また、図38及び図42はSCG1.25についての添加後4時間後、図39及び図43はUCG1.25についての添加後4時間後、図40及び図44はUMG1.25についての添加後4時間後、図41及び図45はEYPCについての添加後4時間後、並びに図46はUMG1.25についての添加後24時間後の結果である。
DC2.4 細胞であってもHeLa 細胞であっても同様な傾向が確認された。すなわち、CHex を導入したもの(SCG1,UCG1 リポソーム)では放出されたカルセインの蛍光が確認されたが、EYPC とUMG1 ではカルセインの蛍光は確認されなかった。リポソームからのpH に依存した放出挙動と関連させても同じことがいえる。放出域が弱酸性で、放出率の高かったUCG1.25 やSCG1.25 ではカルセインの放出を示す強い蛍光が見られたが、放出域が酸性のUMG1.25 やpH 応答を示さないEYPC ではカルセインの放出を示す強い蛍光は確認できなかった。
ここで、同一の細胞内であっても細胞膜近傍は赤い蛍光で核近傍では黄色い蛍光といったように、カルセインの蛍光が確認されない部分とされない部分が存在していることが分かる。このことはリポソームが酸性度の微妙な変化を感知して内包物を放出していることを示していると考えられる。また撮影した蛍光写真から、リポソームとカルセインの共局在率を計測した。結果を図48に示す。どのリポソームでも共局在率は60 %程度であった。以上のことから、リポソームから放出されたカルセインはエンドソーム/リソソームから脱出せずに小胞内にとどまっていることが示唆される。
4.5.2.2 ローダミンラベル化リポソームと後期エンドソーム/リソソーム
カルセイン内包UCG1.25リポソームを取り込ませた場合については後期エンドソーム/リソソームの染色を行った。結果を図49に示す。ライソトラッカーは赤色のものを使った。後期エンドソーム/リソソーム(細胞内酸性小胞)の位置と放出されたカルセインの位置が一致していることがこの図から判る。
4.6 二種類のpH 応答性デンドロン脂質により構成されるリポソームの評価
CHex-G1-2C18-U2とMGlu-G1-2C18-U2を種々の比率で含有したデンドロン脂質/EYPC(40/60mol/mol)リポソームのピラニン放出挙動を図50〜53に示す。CHex-G1-2C18-U2の含有率が大きくなるに従って、酸性での放出性能が上昇することがわかる。一方、MGlu-G1-2C18-U2の含有率が高まると、酸性領域での放出特性は低下するが、同時に、中性領域における内包物の保持特性が向上する。したがって、これらのデンドロン脂質の比率を調節することで、所望の酸性pH感受性放出特性を示すリポソームを作成することができる。
5. CHexDL-G2-2C 18 の評価
以下、CHex-DL-G1-2C18及びCHexDL-G2-2C18をそれぞれCHex-DL-G1-S及びCHexDL-G2-Sと表記することがある。以下の通り、CHex-DL-G2-Sについて各種評価を行った。なお、以下において特に説明がない場合は、先述のCHex-DL-G1-Sについて説明したのと同様の操作を行った。
5.1 CHexDL-G2-2C 18 の合成
CHexAn 8.13 g (46.19 mmol, DL-G2Sの末端アミンに対し30 等量) をTEA 1 mLを含む DMF 6 mL に溶解させ, DL-G2 594 mg (0.45 mmol) を溶かした DMF 4 mLをゆっくりと滴下した。この混合液を 38 h ,50 ℃ の Ar 雰囲気化で攪拌した。反応後, LH-20 カラム (溶離液,メタノール)で精製した。
5.2 リポソームの作製
EYPCのクロロホルム溶液(10 mg/mL)とCHex-DL-G2-2C18のクロロホルム溶液(7.3 mg/mL)を10 mLナスフラスコに加えて溶媒を留去し、薄膜を作製した。ここにPBS又はピラニン水溶液(35 mMピラニン, 50 mM DPX, 25 mM Na2HPO4)を500 μL加え、バス型超音波照射装置により薄膜を分散させた。凍結融解を5回行い、エクストルーダーを用いて粒径を100 nmに揃え、Sepharose 4B カラムにより精製した。その後、テストワコーにより脂質濃度を測定した。
5.3 リポソームの内包物放出挙動
作製したリポソームを、PBS(-)に脂質濃度が20 μMとなるように蛍光セル中に加え、pH応答性を測定するために蛍光測定(37 ℃、λEX : 416 nm、λEM : 512 nm)を行った。結果を図54に示す。
5.4 ζ電位測定
作製したリポソームを20 μLずつ取り各pHに調整したphosphate Bufferに加え(全量:720 μL、終濃度:0.1 mM)、ζ電位を測定した。測定はZetasizer nano (Malvern製)を用いて行った。結果を図55に示す。
5.5 単分子膜測定
USI-3-22を用いて, 単分子膜の表面圧と一分子の占める面積を測定した。250 mL のPBS s (NaCl 150 mM, Na2HPO410 mM)をトラフに用意し,デンドロン脂質を所定量(初期の表面積が6-8 nm2/moleculeとなるようにする)を静かに加え,単分子膜を作製した. 20分後測定を開始した. 結果を図56に示す。
5.6 細胞による取り込み評価(フローサイト)
12穴ディッシュにHeLa細胞を5万/wellで播種し、二日間培養を行った。PBS(+)で2回、PBS(-)で1回洗洗浄し、10 %牛胎児血清(FBS)を含むDMEMを1 mL加え、濃度を0.5 mMとしたliposome分散液を1 mL加えてCO2 incubatorで4時間静置した。PBS(+)で2回、PBS(-)で1回洗浄した後、フローサイトメーターにより取り込み量の評価を行った。結果を図57に示す。
5.7 抗腫瘍効果の検討
E.G7-OVA 細胞 (1×106/mice)をマウス(C57BL/6, female, 7w, n = 4)左側背部皮下に播種した.担癌後 5日目と12日目に, 種々のリポソームを右側背部に皮下投与し、腫瘍サイズをモニターした. 結果を図58に示す。

Claims (12)

  1. 下記式DL−G1〜DL−G4のいずれかで表される化合物
    DL−G1:RNX(XHR)XHR
    DL−G2:RNX(X(XHR)XHR
    DL−G3:RNX(X(X(XHR)XHR
    DL−G4:RNX(X(X(X(XHR)XHR
    (式中、R及びRは、同一又は異なって飽和又は不飽和の長鎖炭化水素基を示し、
    及びRは、同一又は異なってpH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基を示し、R〜Rは、環状構造を含有していてもよく、かつ一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、かつ
    Xは、−CHCHCONHCHCHN−を示す。)。
  2. 前記pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基が、以下の式(I)で表される、請求項1に記載の化合物
    Figure 2013256493
    (式中、Rは、飽和又は不飽和の炭素数1〜10の炭化水素基(環状構造を含有していてもよく、かつ一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)を示す。)。
  3. 前記pH応答性のカルボキシル基含有炭化水素基が、
    (A)シクロヘキシル基、フェニル基、ピリジル基又はナフチル基を含有するか、又は
    (B)炭素数1又は2(一以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよい。)の一以上の分岐を有していてもよい鎖状構造である、
    請求項1又は2に記載の化合物。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の化合物を含有する組成物。
  5. リン脂質を含有する、請求項4に記載の組成物。
  6. リン脂質がジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである、請求項5に記載の組成物。
  7. 生理活性物質を細胞内に導入するために使用される、請求項4〜6のいずれかに記載の組成物。
  8. 前記生理活性物質が、低分子化合物、ペプチド又は遺伝子である、請求項4〜6のいずれかに記載の組成物。
  9. 抗原となりうるか又は抗原を生じうる生理活性物質を抗原提示細胞内に導入することにより疾患を治療するために使用される、請求項4〜6のいずれかに記載の組成物。
  10. 請求項4〜6のいずれかに記載の組成物を含有するキット。
  11. 請求項1〜10のいずれかに記載の化合物、組成物又はキットの、生理活性物質を細胞内に導入する方法における使用。
  12. 請求項1〜10のいずれかに記載の化合物、組成物又はキットを生理活性物質とともに細胞内に導入する工程を含有する、生理活性物質を細胞内に導入する方法。
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