JP2013253027A - 遺体の腐敗防止方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】数日以上の期間、遺体の外観を悪化させることなく、遺体内部の組織が腐敗を防止することができる遺体腐敗防止設備および遺体腐敗防止方法を提供する。
【解決手段】遺体の腐敗を防止するために使用される設備であって、設備が、所定の周波数の電磁波によって遺体を電磁波加熱し、遺体内部の組織を構成するタンパク質が凝固する温度以上に組織の温度を上昇させ、組織の温度をタンパク質が凝固する温度以上で保持する遺体加熱手段10と、遺体加熱手段10によって電磁波加熱された遺体を冷却する遺体冷却手段20と、遺体表面を殺菌処理する殺菌手段30と、を備えており、殺菌手段30が、遺体を収容する滅菌槽31と、滅菌槽内に、オゾンと霧状の水滴を供給する殺菌剤供給手段40とを備えている。
【選択図】図1

Description

本発明は、遺体腐敗防止設備および遺体腐敗防止方法に関する。亡くなられた方の遺体は、火葬に付されるまでの間は、外観の悪化や内臓等の腐敗による悪臭の発生や吐血を極力抑える必要がある。
本発明は、かかる遺体の外観の悪化、内臓の腐敗による悪臭の発生や吐血を防ぐことができる遺体腐敗防止設備および遺体腐敗防止方法に関する。
亡くなられた方の遺体をそのまま放置しておくと、遺体の腐敗が進行する。とくに、遺体内部の消化管や各種臓器等の内臓は腐敗しやすく、内臓の腐敗が進行すると、悪臭が発生するとともに、腐敗ガスの発生や腹部の筋肉や脂肪による内臓の圧迫によって、腐敗した内臓が遺体の口から排出される、いわゆる吐血が生じる可能性があるため、内臓の腐敗を防ぐことは非常に重要である。
従来から、ドライアイス等によって遺体を外部から冷却することによって内臓の腐敗を抑えていたが、近年、内臓の腐敗の進行を防ぐために、腐敗防止処置を行う技術が開発されている(例えば、特許文献1、2)。
特許文献1の技術は、鼻孔から遺体の内部に消毒液等を注入するための遺体用流体注入管に関する技術であり、かかる遺体用流体注入管を使用すれば、腐敗しやすい胃や腸等の消化管に消毒液を供給することができ、遺体表面と同様に、消化管の内部も消毒液によって消毒することができる。
また、特許文献2の技術は、遺体の血液を、腐敗防止効果を有するエンバーミング液と置換する遺体の保存方法に関する技術であり、遺体の各組織の血管内に血液の代わりにエンバーミング液が充填されるから、エンバーミング液によって遺体の各組織の腐敗を防止することができ、長期間遺体を保存することができる。
しかるに、特許文献1の技術は、消化管の腐敗をある程度防止はできるものの、消毒液等による腐敗防止効果はせいぜい数時間程度であり、火葬に付されるまで内臓等の腐敗を防止することはできない。しかも、消毒液等は消化管にしか供給されないため、消化管以外の臓器、例えば、肝臓や膵臓、腎臓等の臓器の消毒はできないから、かかる臓器の腐敗の進行を抑えることはできない。
特許文献2の技術によって遺体を処理すれば、数週間であっても遺体の腐敗を防止することができるが、遺体の処置に非常に時間がかかるし、コストも高くなる。しかも、遺体を処置をしてから火葬までの時間はせいぜい3〜4日程度であるのに、数週間以上も遺体の腐敗を防ぐ処置をすることは、処置の目的に比べて、過剰な処理を行うことになり、必要とする効果に対してコストが高くなりすぎる。また、エンバーミング液を血液と置換するには外科的手法を用いなければならないので、遺体を傷つけてしまうことになるし、医師などの専門的な技術を有するものしか処置を行うことができない。
また、特許文献1、2の技術は、処置をする人が遺体に接触して措置を行わなければならないが、遺体には、亡くなられてから付着する雑菌だけでなく、亡くなられた方が生前から保持していたウイルスなどが存在しており、遺体に接触することによって、これらの雑菌やウイルス等に処置をする人が感染する危険性あるという問題があった。このことは、ドライアイスによって遺体を冷却する場合も同様である。
一方、上述したような特許文献1、2の技術の課題を解決した技術として、特許文献3の技術が開発されている。
この技術では、所定の周波数の電磁波によって遺体を電磁波加熱し、遺体内部の組織を構成するタンパク質が凝固する温度以上に組織の温度を上昇させ、組織の温度をタンパク質が凝固する温度以上で保持し、その後、遺体を冷却する。
この特許文献3の技術によれば、遺体を加熱することによって遺体内部の組織を構成するタンパク質を凝固させるとともに、遺体内部の組織に付着している雑菌を死滅させたり減少させたりすることができる。すると、電磁波加熱を中止して遺体の温度が低くなっても、組織に付着している雑菌の繁殖速度を抑制することができるから、遺体内部の組織の腐敗速度を遅くすることができる。
しかも、加熱したあとで遺体を冷却すれば、内臓の温度が雑菌の繁殖しやすい温度帯(20〜40度程度)となっている時間を短くすることができるので、遺体内部の全ての組織が完全に凝固していない場合であっても、凝固していない組織の腐敗速度も遅くすることができる。
特開2002―53401号 特開2000―95601号 特開2000―95601号
しかるに、特許文献3の技術を利用することによって、ある程度の期間(例えば1日程度)は遺体の外観を悪化させることなく、遺体内部の組織が腐敗することを防ぐことができる。つまり、火葬までの間であれば、遺体の損傷を抑えることができるという点では優れている。
しかし、特許文献3の技術でも、数日以上の期間、遺体の外観を悪化させることなく、遺体内部の組織が腐敗を防ぐことは困難である。
本発明は上記事情に鑑み、数日以上の期間、遺体の外観を悪化させることなく、遺体内部の組織が腐敗を防止することができる遺体腐敗防止設備および遺体腐敗防止方法を提供することを目的とする。
第1発明の遺体腐敗防止設備は、遺体の腐敗を防止するために使用される設備であって、該設備が、所定の周波数の電磁波によって遺体を電磁波加熱し、遺体内部の組織を構成するタンパク質が凝固する温度以上に組織の温度を上昇させ、組織の温度をタンパク質が凝固する温度以上で保持する遺体加熱手段と、該遺体加熱手段によって電磁波加熱された遺体を冷却する遺体冷却手段と、遺体表面を殺菌処理する殺菌手段と、を備えており、該殺菌手段が、遺体を収容する滅菌槽と、該滅菌槽内に、オゾンと霧状の水滴を供給する殺菌剤供給手段とを備えていることを特徴とする。
第2発明の遺体腐敗防止設備は、遺体の腐敗を防止するために使用される設備であって、該設備が、所定の周波数の電磁波によって遺体を電磁波加熱し、遺体内部の組織を構成するタンパク質が凝固する温度以上に組織の温度を上昇させ、組織の温度をタンパク質が凝固する温度以上で保持する遺体加熱手段と、該遺体加熱手段によって電磁波加熱された遺体を冷却する遺体冷却手段と、前記遺体加熱手段によって遺体を加熱する前に、遺体の消化管内部または遺体の腹壁と消化管との間の空間内に生理食塩水を注入する生理食塩水供給手段と、を備えていることを特徴とする。
第3発明の遺体腐敗防止方法は、遺体の腐敗を防止する方法であって、遺体の消化管内部または遺体の腹壁と消化管との間の空間内に生理食塩水を注入し、所定の周波数の電磁波による電磁波加熱により、遺体内部の組織を構成するタンパク質が凝固する温度以上に組織の温度を上昇させ、組織の温度をタンパク質が凝固する温度以上で保持し、電磁波加熱した後、遺体を冷却し、遺体を、オゾンと霧状の水滴とが共存する気体に接触させることを特徴とする。
第4発明の遺体腐敗防止方法は、遺体の腐敗を防止する方法であって、遺体の消化管内部または遺体の腹壁と消化管との間の空間内に生理食塩水を注入し、所定の周波数の電磁波による電磁波加熱により、遺体内部の組織を構成するタンパク質が凝固する温度以上に組織の温度を上昇させ、組織の温度をタンパク質が凝固する温度以上で保持し、電磁波加熱した後、遺体を冷却することを特徴とする。
第1発明によれば、所定の周波数の電磁波による電磁波加熱により遺体を加熱すれば、遺体の組織等が自己発熱するから、内臓等の遺体内部の組織の温度が、例えば、60度以上となるように電磁波加熱して、その温度で所定の時間保持すれば、遺体内部の組織を構成するタンパク質を凝固させることができ、しかも、遺体内部の組織に付着している雑菌を死滅させたり減少させたりすることができる。すると、電磁波加熱を中止して遺体の温度が低くなっても、組織に付着している雑菌の繁殖速度を抑制することができるから、遺体内部の組織の腐敗速度を遅くすることができる。このとき、遺体内部の組織以外の部分、つまり、遺体表面の組織の温度も上昇するが、遺体の表面は外気に接触しており、その温度が遺体内部に比べて低くなっている。このため、電磁波の周波数や電磁波加熱する時間を調整すれば、遺体表面の組織を構成するタンパク質が凝固すること、言い換えれば、遺体表面が変色したり焦げたりして損傷することを防ぎつつ、遺体内部の組織を構成するタンパク質のみ凝固させることができる。また、電磁波加熱したあとで遺体を冷却し、内臓の温度が、例えば20度以下となるまで冷却すれば、内臓の温度が雑菌の繁殖しやすい温度帯(20〜40度程度)となっている時間を短くすることができるので、遺体内部の全ての組織が完全に凝固していない場合であっても、凝固していない組織の腐敗速度も遅くすることができる。しかも、滅菌槽内に遺体を収容して、殺菌剤供給手段から滅菌槽内にオゾンと霧状の水滴とを供給すれば、遺体の表面にオゾンと霧状の水滴が接触するので、遺体表面の殺菌効果を高くすることができる。したがって、遺体内部の組織の腐敗をある程度防止しつつ、遺体の外観の損傷を比較的長期間防止することができる。さらに、遺体を電磁波加熱し、その後冷却と殺菌を行うだけであるから、特殊な技術は不要であり、この装置さえあれば、誰でも遺体の処置を行うことができる。
第2発明によれば、所定の周波数の電磁波による電磁波加熱により遺体を加熱すれば、遺体の組織等が自己発熱するから、内臓等の遺体内部の組織の温度が、例えば、60度以上となるように電磁波加熱して、その温度で所定の時間保持すれば、遺体内部の組織を構成するタンパク質を凝固させることができ、しかも、遺体内部の組織に付着している雑菌を死滅させたり減少させたりすることができる。すると、電磁波加熱を中止して遺体の温度が低くなっても、組織に付着している雑菌の繁殖速度を抑制することができるから、遺体内部の組織の腐敗速度を遅くすることができる。このとき、遺体内部の組織以外の部分、つまり、遺体表面の組織の温度も上昇するが、遺体の表面は外気に接触しており、その温度が遺体内部に比べて低くなっている。このため、電磁波の周波数や電磁波加熱する時間を調整すれば、遺体表面の組織を構成するタンパク質が凝固すること、言い換えれば、遺体表面が変色したり焦げたりして損傷することを防ぎつつ、遺体内部の組織を構成するタンパク質のみ凝固させることができる。また、電磁波加熱したあとで遺体を冷却し、内臓の温度が、例えば20度以下となるまで冷却すれば、内臓の温度が雑菌の繁殖しやすい温度帯(20〜40度程度)となっている時間を短くすることができるので、遺体内部の全ての組織が完全に凝固していない場合であっても、凝固していない組織の腐敗速度も遅くすることができる。さらに、遺体の消化管内部または遺体の腹壁と消化管との間の空間内に生理食塩水を注入した状態で加熱しているので、加熱したときに、遺体内部の加熱状態を均一な状態に近づけることができる。よって、比較的長期間、遺体内部の組織の腐敗や損傷を防ぐことができる。さらに、遺体を電磁波加熱し、その後冷却するだけであるから、特殊な技術は不要であり、この装置さえあれば、誰でも遺体の処置を行うことができる。
第3発明によれば、所定の周波数の電磁波による電磁波加熱により遺体を加熱すれば、遺体の組織等が自己発熱するから、内臓等の遺体内部の組織の温度が、例えば、60度以上となるように電磁波加熱して、その温度で所定の時間保持すれば、遺体内部の組織を構成するタンパク質を凝固させることができ、しかも、遺体内部の組織に付着している雑菌を死滅させたり減少させたりすることができる。すると、電磁波加熱を中止して遺体の温度が低くなっても、組織に付着している雑菌の繁殖速度を抑制することができるから、遺体内部の組織の腐敗速度を遅くすることができる。このとき、遺体内部の組織以外の部分、つまり、遺体表面の組織の温度も上昇するが、遺体の表面は外気に接触しており、その温度が遺体内部に比べて低くなっている。このため、電磁波の周波数や電磁波加熱する時間を調整すれば、遺体表面の組織を構成するタンパク質が凝固すること、言い換えれば、遺体表面が変色したり焦げたりして損傷することを防ぎつつ、遺体内部の組織を構成するタンパク質のみ凝固させることができる。また、電磁波加熱したあとで遺体を冷却し、内臓の温度が、例えば20度以下となるまで冷却すれば、内臓の温度が雑菌の繁殖しやすい温度帯(20〜40度程度)となっている時間を短くすることができるので、遺体内部の全ての組織が完全に凝固していない場合であっても、凝固していない組織の腐敗速度も遅くすることができる。しかも、遺体にオゾンと霧状の水滴とを接触させるので、遺体表面の殺菌効果を高くすることができる。したがって、遺体内部の組織の腐敗をある程度防止しつつ、遺体の外観の損傷を比較的長期間防止することができる。さらに、遺体を電磁波加熱し、その後冷却と殺菌を行うだけであるから、特殊な技術は不要であり、誰でも遺体の処置を行うことができる。
第4発明によれば、所定の周波数の電磁波による電磁波加熱により遺体を加熱すれば、遺体の組織等が自己発熱するから、内臓等の遺体内部の組織の温度が、例えば、60度以上となるように電磁波加熱して、その温度で所定の時間保持すれば、遺体内部の組織を構成するタンパク質を凝固させることができ、しかも、遺体内部の組織に付着している雑菌を死滅させたり減少させたりすることができる。すると、電磁波加熱を中止して遺体の温度が低くなっても、組織に付着している雑菌の繁殖速度を抑制することができるから、遺体内部の組織の腐敗速度を遅くすることができる。このとき、遺体内部の組織以外の部分、つまり、遺体表面の組織の温度も上昇するが、遺体の表面は外気に接触しており、その温度が遺体内部に比べて低くなっている。このため、電磁波の周波数や電磁波加熱する時間を調整すれば、遺体表面の組織を構成するタンパク質が凝固すること、言い換えれば、遺体表面が変色したり焦げたりして損傷することを防ぎつつ、遺体内部の組織を構成するタンパク質のみ凝固させることができる。また、電磁波加熱したあとで遺体を冷却し、内臓の温度が、例えば20度以下となるまで冷却すれば、内臓の温度が雑菌の繁殖しやすい温度帯(20〜40度程度)となっている時間を短くすることができるので、遺体内部の全ての組織が完全に凝固していない場合であっても、凝固していない組織の腐敗速度も遅くすることができる。さらに、遺体の消化管内部または遺体の腹壁と消化管との間の空間内に生理食塩水を注入して加熱しているので、加熱したときに、遺体内部の加熱状態を均一な状態に近づけることができる。よって、比較的長期間、遺体内部の組織の腐敗や損傷を防ぐことができる。さらに、遺体を電磁波加熱し、その後冷却するだけであるから、特殊な技術は不要であり、誰でも遺体の処置を行うことができる。
本実施形態の遺体腐敗防止設備1の概略説明図である。 加熱室1bの概略側面図である。 冷却室1cの概略説明図である。 殺菌室1aの概略説明図である。 (A)は図2のVA−VA線矢視図であり、(B)は図3のVB−VB線矢視図であってトレーTがコンベア2cによって支持されている場合の概略説明図であり、(C)は図3のVB−VB線矢視図であってトレーTが冷却槽21に浸漬されている場合の概略説明図である。殺菌室1aの概略説明図である。 他実施形態の遺体腐敗防止設備1の概略説明図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。 実験結果を示した図である。
本発明の遺体腐敗防止設備は、亡くなられてから火葬に付されるまでの間よりも長い期間、例えば、数日〜1週間程度、遺体の腐敗や遺体表面の損傷を防止するための設備であって、特別な外科的処置をすることなく、遺体表面および内臓の腐敗をも防ぐことができるようにしたことに特徴を有するものである。
図1は本実施形態の遺体腐敗防止設備1の概略説明図である。図1に示すように、本実施形態の遺体腐敗防止設備1には、遺体表面の殺菌処理を行う殺菌手段30を備えた殺菌室1aと、遺体内部を電磁波加熱して腐敗防止処理を行う遺体加熱手段10を備えた加熱室1bと、加熱手段10によって加熱された遺体を冷却する遺体冷却手段20を備えた冷却室1cとが、その順で並んで設けられている。
各室は、互いに気密に密閉されており、殺菌室1aと加熱室1bとの間、および加熱室1bと冷却室1cの間にはそれぞれ運搬部3b,3cが設けられている。この運搬部3b,3cは、殺菌室1aと加熱室1bとの間、および加熱室1bと冷却室1cの間を連通したり気密に遮断したりすることができる、例えば、上下開閉する扉等を備えたものである。また、殺菌室1aにはその内部と外部との間を連通したり気密に遮断したりすることができる搬入部3aが設けられており、冷却室1cにはその内部と外部との間を連通したり気密に遮断したりすることができる搬出部3dが設けられている。これらの運搬部3b,3cは、上記運搬部3b,3cと実質同様の有するものである。
なお、搬入部3a、搬出部3dおよび運搬部3b,3cは、上記のごとき構成に限られず、各室間または各室と外部との間を連通したり気密に遮断したりすることができる構成であればとくに限定はない。
また、各室内には、遺体が載せられるトレーTを搬送するための搬送手段であるコンベア2a〜2cが設けられている。殺菌室1aと加熱室1bに設けられているコンベア2a,2bは、運搬部1dを開いて殺菌室1aと加熱室1bを連通させた状態において、殺菌室1aからトレーTとともに遺体を運搬部3bを通して加熱室1bに移動させることができるように構成されている。具体的には、両コンベア2a,2bの上面(トレーTの下面が接する面)が同じ高さとなり、かつ、両コンベア2a,2bの隣接する端部同士の間が、トレーTがコンベア2aによって荷重を支持された状態において、トレーTの先端部がコンベア2b上に位置するように配設されている。
また、冷却室1cに設けられているコンベア2cは、コンベア2bとの相対的な配置が、コンベア2a,2bの相対的な配置と実質的に同じになるように配設されており、運搬部3cを開いて加熱室1bと冷却室1cを連通させた状態において、加熱室1bからトレーTとともに遺体を運搬部1eを通して冷却室1cに移動させることができるように構成されている。
上記のごとき構成を有しているから、本実施形態の遺体腐敗防止設備1は、以下のようにして遺体を処理することができる。
図1(A)に示すように、まず、遺体をトレーT上に載せた状態で、ストレッチャーSTによって殺菌室1aの搬入部3aまで搬送する。そして、搬入部3aの扉を開いて殺菌室1a内と外部を連通させ、遺体をトレーT上に載せたまま、搬入部3aからコンベア2a上に移載する。そして、コンベア2aを駆動させれば、遺体が殺菌室1a内に搬入され、殺菌位置IIIまで移動される。すると、搬入部3aの扉が閉じられ、殺菌室1a内が外部から気密に密閉され、その状態で、殺菌手段30によって遺体表面の殺菌処理を行われる。
殺菌処理が終了すると、運搬部3bの扉が開かれ、殺菌室1aと加熱室1bとの間が連通される。すると、コンベア2a,2bが作動され、遺体がトレーTとともに搬送され、運搬部3bを通って、コンベア2aからコンベア2b上に移載される。つまり、遺体が殺菌室1aから加熱室1bに移動される。そして、遺体が加熱位置Iまで搬送されると、運搬部3bの扉が閉じられ、加熱室1b内が殺菌室1aから気密に密閉され、その状態で、遺体加熱手段10によって遺体が電磁波加熱され、加熱による遺体内部の腐敗防止処理が行われる。
腐敗防止処理が終了すると、運搬部3cの扉が開かれ、加熱室1bと冷却室1cとの間が連通される。すると、コンベア2b,2cが作動され、遺体がトレーTとともに搬送され、運搬部3cを通って、コンベア2bからコンベア2c上に移載される。つまり、遺体が加熱室1bから冷却室1cに移動される。そして、遺体が冷却位置IIまで搬送されると、運搬部3cの扉が閉じられ、冷却室1c内が加熱室1bから気密に密閉され、その状態で、遺体冷却手段20によって遺体加熱手段10によって加熱された遺体を冷却する冷却処理が行われる。
冷却処理が終了すると、搬出部3dの扉が開かれ、冷却室1cと外部との間が連通される。すると、コンベア2cが作動され、遺体がトレーTとともに搬出部3dに向けて搬送される。よって、搬出部3d近傍にストレッチャーSTを配置しておけば、搬出部3dを通って、コンベア2cからストレッチャーST上に移載され、遺体の処理が終了する。
上記のごとく、本実施形態の遺体腐敗防止設備1によれば、殺菌手段30によって遺体表面の殺菌処理をしているから、遺体表面の腐敗等による損傷を遅らせることができるし、遺体加熱手段10による電磁波加熱によって遺体内部の組織を構成するタンパク質を凝固させることができるから、遺体内部の組織の腐敗速度を遅くすることができる。そして、遺体冷却手段20によって遺体を冷却しており、電磁波加熱後における遺体内部の温度が雑菌の繁殖しやすい温度帯(20〜40度程度)となっている時間を短くすることができるので、遺体内部の組織の腐敗速度を遅くすることができる。よって、火葬までの間に、遺体の外観を悪化させることなく、遺体内部の組織が腐敗することを防ぐことができる。そして、遺体を、殺菌手段30、遺体加熱手段10、遺体冷却手段20によって処理するだけであるから、遺体の処理に特殊な技術は不要であり、この装置さえあれば、誰でも遺体の処置を行うことができる。
しかも、遺体腐敗防止設備1内での処理を完全に自動化できるから、遺体を作業者との接触を極力すくなくすることができ、作業者が雑菌等に感染する可能性を低くすることができる。
また、殺菌室1a内のコンベア2a上に遺体を載せたトレーT配置すれば、コンベア2a〜2cによって遺体を順次各室1a〜1cに移動させることができ、また、各室でそれぞれの処理が行われるから、遺体の処理を自動化できる。しかも、各処理を別々の室内で行うから、複数の遺体を同時に処理できるので、効率よく処理することができる。
なお、搬送手段はコンベアに限られず、トレーTとともに遺体を搬入部3a、搬出部3dおよび運搬部3b,3cを通して移動させることができるものであれば、とくに限定はない。
例えば、搬出部3d近傍にワイヤーの巻き取りをすることができるウインチ等を設けておき、ウインチから繰り出されているワイヤーの一端を搬入部3aの外部に配置されたトレーTの先端に取り付けるようにしておけば、ウインチによってワイヤーを巻き取れば、トレーTを殺菌室1aから冷却室1cに向けて移動させることができる。この場合に、トレーTが各室内に設けられたレール上を移動するような構成としたり、トレーTを地面を走行できる車輪を有する台車等に載せたりしておけば、トレーTをスムースに移動させることができる。そして、車輪を有する台車等を使用する場合には、台車にモータ等の動力源を設けておき、台車を自走させることも可能である。
さらになお、遺体の殺菌室1aへの搬送、および、冷却室1cから搬出される遺体の受取を行うためのコンベアCVを設ければ、人が行う作業をより一層少なくすることができるので好適である(図1(B))。
さらになお、殺菌室1a、加熱室1b、冷却室1cの順に移動された後、再び、冷却室1cから加熱室1bおよび殺菌室1a内を移動させて、搬入部3aを通して遺体腐敗防止設備1から外部に搬出するような構成としてもよい。この場合には、冷却室1cに搬出部3dを設ける必要がなく、搬出部3d側にコンベアCVを設けたりする必要がないので、設備の構造を簡単にすることができるし、遺体腐敗防止設備1の一方から搬入搬出を行うので、設備をコンパクトにすることができる。
上記の実施形態では、殺菌室1a、加熱室1b、冷却室1cの順番で遺体が搬送処理されるように構成しているが、各室を設ける順番は、遺体が加熱室1bを通ってから冷却室1cに搬送されるようになっていればよく、殺菌室1aを、加熱室1bと冷却室1cの間にまたは冷却室1cの後に配設してもよい。この場合には、最初の処理を行う室に搬入部3aを設け、最後の処理を行う室に搬出部3dを設け、連続する室間に運搬部3b,3cを設けるのは、言うまでもない。
なお、本実施形態の遺体腐敗防止設備1において遺体を処理する前に、遺体表面を湯灌やアルコール消毒等する場合には、殺菌室1aおよび殺菌手段30は設けなくてもよい。また、後述するように、遺体冷却手段20において、遺体表面の殺菌も同時に行われる場合にも、殺菌室1aおよび殺菌手段30はとくに設ける必要はない。
また、遺体加熱手段10、遺体冷却手段20、殺菌手段30を全て一つの室内に設け、コンベア等の搬送手段によって、遺体を、順次殺菌位置III、加熱位置I、冷却位置II間を移動させるような構成としてもよく、この場合には、運搬部1d,1eが不要となり、また、コンベア等の搬送手段の構造を簡単にすることができるから、設備の構成を簡単にすることができ、設備の設置コストも抑えることができる。そして、遺体を室内で移動させずに、例えば、一つの処理台に乗せたままで各手段によって各処理を行うようにすれば、上記各位置間を移動させる搬送手段が不要となるのでより一層設備の構造を簡単かつコンパクトにすることができる。
なお、処理を行うときに、外部から気密に密閉する必要がない場合、例えば、処理中に遺体から悪臭が発生しない場合や遺体処理において大気中への放出が規制されている物質を使用しない場合等には、その処理を行う室については気密構造としなくてもよい。そして、その室に搬入部3aや搬出部3dを設ける場合には、搬入部3aや搬出部3dをその室と外部との間を連通できる機能のみを有するもの、例えば、単なる貫通孔等としてもよい。同様に、連続する室間を互いに気密遮断する必要がなければ、運搬部は、両室間を連通できる連通できる機能のみを有するものであればよい。この場合も、気密構造を有する室や気密構造を有する搬入部等が不要であるから、より一層設備の構造を簡単にすることができ、設備の設置コストも抑えることができる。
さらになお、処理を行うときに、外部から気密に密閉する必要がない場合には、その処理を行う手段は大気解放された状態で設置してもよく、この場合には室自体が不要であるから、より一層設備の構造を簡単にすることができ、設備の設置コストも抑えることができる。
なお、本実施形態の遺体腐敗防止設備1は、図6に示すような構成としてもよい。図6の構成では冷却室が設けられていないが、このような構成の場合には、遺体の冷却は別な装置で行えばよい。
つぎに、各室に設けられた処理手段を詳細に説明する。
まず、遺体加熱手段10を説明する。
図2は加熱室1bの概略側面図である。図5(A)は図2のVA−VA線矢視図であり、(B)は図3のVB−VB線矢視図であってトレーTがコンベア2cによって支持されている場合の概略説明図であり、(C)は図3のVB−VB線矢視図であってトレーTが冷却槽21に浸漬されている場合の概略説明図である。
図5(A)に示すように、加熱室1b内には、一対のコンベア2b,2bが設けられている。この一対のコンベア2b,2bは、両者の間の間隔が前記トレーTの幅よりも狭くなるように配設されている。
図2および図5(A)に示すように、前記一対のコンベア2b,2bの間であって、一対のコンベア2b,2bによる遺体の搬送経路の上方および下方には、遺体加熱手段10の一対の電極部11,11が配置されている。この一対の電極部11,11は、高周波数電力を発生させることができる図示しない高周波発生装置に接続された電極12を備えている。
この一対の電極部11,11は、それぞれ遺体加熱手段10の電極移動手段14に取付けられており、この電極移動手段14によって互いに接近離間可能に設けられている。そして、遺体が加熱室1aの加熱位置Iに配置された状態において、一対の電極部11,11を接近離間させれば、一対の電極部11,11によって遺体の腹部を挟んだり離したりできるように構成されている。
なお、電極移動手段14は、例えば、シリンダやリンク機構等であるが、一対の電極部11,11を互いに接近離間可能させて遺体の腹部を挟んだり離したりできるものであれば、とくに限定はない。
このため、電極移動手段14によって一対の電極部11,11を接近させれば、一対の電極部11,11によって遺体を挟むことができ、その状態において高周波発生装置で発生した高周波数電力により、遺体の組織に高周波(1MHz〜100MHz)の電磁波を印加することができる。すると、この電磁波によって組織が電磁波加熱され、遺体の組織等が自己発熱するから、内臓等の遺体内部の組織の温度を上昇させることができる。例えば、13.56MHzの電磁波を1000〜2000Wの出力で30分間以上印加して電磁波加熱すれば、遺体内部の組織を60度以上の温度にすることができる。そして、その状態を5分間以上、好適には5〜20分間保持すれば、つまり、遺体内部の温度を60℃以上で5〜20分間保持すれば、遺体内部の組織を構成するタンパク質を凝固させることができる。しかも、遺体内部の組織が、生体内に比べて高温である60度の温度で5〜20分間加熱された状態となるので、遺体内部の組織に付着している雑菌を死滅させたり減少させたりすることができる。すると、電磁波加熱を中止して遺体内部の温度が低くなっても、組織に付着している雑菌の繁殖速度を抑制することができ、遺体内部の組織の腐敗速度を遅くすることができる。
このとき、遺体内部以外の組織、つまり、遺体表面の組織の温度も上昇するが、遺体の表面は外気(加熱室1b内の空気)および電極部11に接触しており、外気等によって冷却された状態となっている。よって、遺体表面の温度を遺体内部に比べて低くすることができ、遺体表面の組織を構成するタンパク質が凝固すること、言い換えれば、遺体表面が変色したり焦げたりして損傷することを防ぎつつ、遺体内部の組織を構成するタンパク質のみ凝固させることができる。とくに、電磁波の周波数が1〜100MHzの高周波でありかつ出力が1000〜2000W程度である電磁波加熱を30〜60分間程度すれば、より確実に遺体表面が変色したり焦げたりして損傷することを防ぐことができる。
また、電極部11は、遺体表面と接触する部分に、循環冷却水が通すことができる公知のパッド13備えている。このパッド13は、例えば、ウレタンシート等の耐水性を有する素材によって袋状に形成されており、その内部に1〜3%程度の塩水等のように伝導性の有する液体が循環冷却水として供給されるように構成されている。このため、電極部11によって電磁波を印加している状態において、パッド13によって遺体表面を冷却できるから、遺体に電磁波を印加する時間を長くしても遺体表面の温度上昇を防ぐことができ、遺体表面の損傷を確実に防ぐことができる。しかも、遺体に電磁波を印加する時間を長く、あるいは出力を強くできるから、遺体の深層部まで確実に加熱することができる。とくに、上記のごときパッドは袋内に循環冷却水が入っているだけであり柔軟性が高いので、電極部11を電極12だけから構成している場合に比べて、電極部11を遺体に密着させることができる。すると、遺体の腹部全体に均一な電磁波を印加できるから、遺体の局所の温度が異常に高くなることを防ぐことができる。
なお、パッドは、電極部11とは別に設けてもよい。この場合でも、パッドを、電極部11に設けられたパッド13と同様に、ウレタンシート等の耐水性を有する素材によって袋状に形成し、その内部に1〜3%程度の塩水等のように伝導性の有する液体が循環冷却水として供給されるように構成されていればよい。そして、パッドを電極部11とは別に設けた場合には、電極部11の大きさに係わらず、パッドの大きさを自由に決定できる。例えば、パッドの大きさを腹部を覆うことができる程度としてもよいし、遺体の全身を覆うことができるような大きさとしてもよい。そして、パッドを設けた場合、遺体表面の冷却とともに、パッドが設けられている部分に電磁波を印加できるので、電極部11の大きさよりも広い領域に電磁波を供給できるし、パッドの設けられている部分で遺体に印加する電磁波を均一に近い状態とすることができる。
また、パッドは、遺体の上面だけに配置してもよいが、遺体を挟むように配置する方が好ましい。遺体を挟むように配置すれば、パッドに挟まれた部分では、遺体に印加される電磁波の状態のバラツキを抑えることができる。
さらになお、遺体の表面を冷却する方法は上記のごときパッドを設ける方法に限られず、遺体の腹部に5℃程度の冷風を吹付けて冷却する方法や、電極内に冷却水を流すことができる冷却水通路を設け、電極による遺体冷却効果を高める方法等の方法を採用してもよい。
さらになお、電極12や外気だけでも遺体表面を十分に冷却できるのであれば、パッド等の遺体表面を冷却する手段は設けなくてもよい。
また、一対の電極部11,11によって遺体を挟む場合、つまり、1MHz〜100MHzの電磁波によって遺体を電磁波加熱する場合には、一対の電極部11,11をいずれも遺体に直接接触させる必要があるため、遺体を載せるトレーTとして、遺体の腹部が位置する部分に下方の電極部11が通過できる貫通孔Thが形成されたものを使用するが、トレーTの中央部、つまり、遺体の腹部が位置する部分のみを導電性素材とし、トレーTの他の部分を絶縁体によって形成すれば、トレーT自体を電極として使用することも可能である。この場合には、トレーTが加熱位置IIに配置されたときに、トレーTにおける導電性素材によって形成された部分と高周波発生装置が接続されるように構成しておけば、トレーTと上方の電極部11との間に電磁波を発生させることができる。しかも、遺体の腹部が位置する部分のみを導電性素材としているから、遺体の腹部以外の部分に電磁波が供給されることを防ぐことができ、腹部のみを効果的に加熱することができる。また、下方の電極部11および下方の電極部11を移動させる電極移動手段14を設けなくてもよいので、遺体加熱手段10の構造を簡単にすることができ、設備全体の構造を簡単かつコンパクトにすることができる。
なお、300〜3,000MHzのマイクロ波により遺体を電磁波加熱する場合には、電極に代えて、マイクロ波を所定の方向に照射できるアプリケータを設ければよい。この場合、アプリケータを遺体に密着させる必要がないので、アプリケータを移動させる移動手段が不要であり、遺体加熱手段10の構造を簡単にすることができる。
上記のごとく、遺体加熱手段10は、一対の電極部11,11によって遺体を挟んで電磁波を印加する、または、アプリケータによって遺体にマイクロ波を照射するだけで遺体の電磁波加熱、つまり、遺体内部の腐敗防止処理を行うことができるから、特殊な技術は不要であり、誰でも遺体の処置を行うことができる。
(生理食塩水供給手段について)
また、本実施形態の遺体腐敗防止設備1に、遺体加熱手段10によって加熱する前の遺体の内部、例えば、遺体の消化管内部または遺体の腹壁と消化管との間の空間内に生理食塩水を注入する生理食塩水供給手段を設けてもよい。生理食塩水を注入すると、遺体内部の空間を生理食塩水によってある程度満たすことができる。すると、遺体加熱手段10によって電磁波が印加されたときに、生理食塩水を通して、遺体内部の各部にまんべんなく電磁波を供給することができる。つまり、生理食塩水が無い状態では電磁波の印加があまりない部位でもある程度の電磁波を印加することができ、逆に、生理食塩水が無い状態では電磁波が強く印加される部位では電磁波の印加を弱めることができる。すると、遺体加熱手段10によって遺体を加熱したときに、遺体内部の加熱状態を均一な状態に近づけることができるから、遺体内部の加熱状態が不均一な場合に比べて、比較的長期間、遺体内部の組織の腐敗や損傷を防ぐことができる。
なお、遺体の消化管内部または遺体の腹壁と消化管との間の空間内に生理食塩水を注入する方法はとくに限定されない。例えば、穿孔針等の中空な管状部材によって形成された注入部と、この注入部内に生理食塩水を供給できる生理食塩水供給部と、注入部を遺体に突き刺す注入部移動手段とを備えたものを、生理食塩水供給手段としてよい。かかる生理食塩水供給手段では、注入部を遺体に突き刺して、その先端部を消化管内部や遺体の腹壁と消化管との間の空間内に配置することができる。すると、その状態で生理食塩水供給部によって生理食塩水を注入部に供給すれば、生理食塩水を注入部内を通して先端部が配置された場所に供給することができる。なお、消化管内部に生理食塩水を供給するのであれば、単に、口にチューブ等を配置して、このチューブ等に生理食塩水を供給すれば、消化管内部に生理食塩水を供給することができる。
つぎに、遺体冷却手段20を説明する。
図3は冷却室1cの概略説明図である。図5(B)に示すように、加熱室1b内には、一対のコンベア2c,2cが設けられている。この一対のコンベア2c,2cは、その走行方向、つまり遺体の搬送方向と直交する方向に沿って、互いに接近離間可能に設けられている。そして、一対のコンベア2c,2cは、両者が接近した状態では(図5(B))、両者の間の間隔が前記トレーTの幅よりも狭くなり、両者が離間した状態では(図5(B))、両者の間の間隔が前記トレーTの幅よりも広くなるように配設されている。
前記一対のコンベア2c,2c間において、一対のコンベア2c,2cによる遺体の搬送経路の下方には、遺体冷却手段20の冷却槽21が設けられている。この冷却槽21は、前記コンベア2c上における冷却位置IIの下方に配設されている。この冷却槽21内には、冷媒CM、例えば、アルコールや液体窒素等の冷却用の液体、または、窒素ガス、フロン等の冷却用の気体が充満されている。
また、図3において、符号26は、冷却室1cの天井に取り付けられた遺体冷却手段20のトレー保持手段25のシリンダ26を示している。この複数のシリンダ26は、一対のコンベア2c,2c上において、冷却位置IIに配置されているトレーTの先端および後端の略鉛直上方に、それぞれ2本ずつ設けられており、いずれもロッド26aが下方を向いた状態で配設されている。トレーTの先端および後端に設けられている2本のシリンダ26のロッド26aの先端間には、水平かつロッド26aに対して回転可能な回転軸27が設けられており、この回転軸27には、係合アーム28の基端が固定されている。この係合アーム28は、その先端に鉤上の係合部28aを備えており、回転軸27が回転すると、係合部28aが上下に揺動するように配設されている。そして、係合アーム28は、一対のコンベア2c,2c上における冷却位置IIにトレーTが配置されている状態において、シリンダ26を収縮させたまま係合部28aを下方に揺動させると係合部28aがトレーTに係合し、シリンダ26を収縮させたまま係合部28aを上方に揺動させると係合部28aがトレーTから外れるように構成されている。
このため、一対のコンベア2c,2cによって遺体が載せられたトレーTを冷却位置IIまで移動させ、トレー保持手段25の全てのシリンダ26を収縮させた状態において、全ての係合アーム28の係合部28aを下方に揺動させれば、全ての係合アーム28の係合部28aがトレーTに係合される。その状態で、一対のコンベア2c,2cを離間させれば、トレーTの側方よりも外方に一対のコンベア2c,2cが移動し、トレーTは、トレー保持手段25のみによって保持された状態となる。
ついで、全てのシリンダ26を伸長させれば、シリンダ26のロッド26aとともに係合アーム28が下方に移動し、トレーTも下方に移動する。すると、トレーTおよびトレーTに載せられている遺体を冷却槽21内に入れることができ、冷却槽21内の冷媒CMに浸漬することができるから、冷媒CMによって遺体を冷却することができる(図5(C))。そして、遺体を冷媒CM中に所定の時間浸漬すれば、内臓の温度が、例えば20度以下となるまで冷却することができるから、内臓が雑菌が繁殖しやすい温度帯(20〜40度程度)となっている時間を短くすることができる。よって、遺体内部の全ての組織が完全に凝固していない場合であっても、凝固していない組織の腐敗速度も遅くすることができる。しかも、遺体の口などから冷媒CMが遺体内部にも侵入するから、遺体内部を確実に冷却できる。
そして、極低温の冷媒CMである液体窒素等を使用した場合には、非常に短時間で遺体を冷却できるから、雑菌が繁殖しやすい温度帯となっている時間を非常に短くすることができ、凝固していない組織の腐敗速度をより一層遅くすることができる。
冷却が終了すれば、トレー保持手段25の全てのシリンダ26を収縮させ、一対のコンベア2c,2cを接近させた状態において、全ての係合アーム28を上方に揺動させれば、トレーTを一対のコンベア2c,2c上に載せることができるから、トレーTとともに、遺体を一対のコンベア2c,2cによって搬送できる。
なお、トレー保持手段25は上記の構成に限られず、一対のコンベア2c,2cを離間させた状態において、トレーTを保持でき、トレーTを昇降させて冷却槽21内に浸漬する構成としてもよい。
さらになお、冷却槽21内にトレーTを浸漬することができればよいので、トレーTを昇降させるかわりに、冷却槽21自体を昇降させてもよく、冷却槽21内にトレーTを浸漬させる方法はとくに限定されない。
また、冷媒CMとして液体のアルコールや液体窒素等を使用した場合には、トレーTともに遺体を冷却槽21内の冷媒CMに浸漬したときに、遺体が冷媒CMに浮かんでしまう可能性があるが、トレーTとともに下降し遺体を覆うようなゲージ24を設けたり、また、トレーTに遺体を固定するベルトを設けておけば、遺体の浮き上がりを防止でき、冷媒CMによって遺体を確実に冷却することができる。
なお、冷媒CMとして、アルコール等の殺菌作用を有する物質を使用すれば、遺体を冷媒CMに浸漬するだけで、遺体の冷却と同時に遺体表面の殺菌も行うことができるので、殺菌手段30や殺菌室1aを設けなくてもよい。また、遺体内部に冷媒CMが侵入する場合には、遺体の冷却と同時に遺体内部の殺菌も行うことができる。なお、アルコールを冷媒CMとする場合には、遺体を冷媒CMに浸漬するだけででなく、アルコールを遺体に噴霧してもよく、この場合でも、アルコールの気化熱によって遺体を冷却することができる。
さらになお、遺体を冷却する方法は、上記のごとく遺体を冷媒CMに浸漬する方法に限られず、内臓の温度が、例えば20度以下となるまで冷却できるのであれば、極低温の冷媒や冷気を遺体に吹付けることによって遺体を冷却してもよいし、冷却室1cを、その内部の温度が5〜10℃以下に保たれた低温室とし、冷却室1c内の冷気によって遺体を冷却してもよく、遺体を処理する季節や環境等に応じて最適な方法で冷却すればよい。そして、遺体を冷却槽21内の冷媒CMに浸漬しない場合には、冷却槽21やトレー保持手段25は設けなくてもよく、また、搬送手段も単にトレーTを搬送する機能だけを有するコンベア等の公知の搬送手段を使用すればよい。すると、遺体冷却手段20や冷却室1cの構造を簡単にすることができ、設備全体の構造を簡単かつコンパクトにすることができる。
上記のごとく、遺体冷却手段20は、トレー保持手段25によって遺体をトレーTとともに冷媒CMに浸漬するだけで遺体を冷却できるから、特殊な技術は不要であり、誰でも遺体の処置を行うことができる。
つぎに、殺菌手段30を説明する。
図4は殺菌室1aの概略説明図である。同図に示すように、殺菌室1a内には、一対のコンベア2a,2aが設けられている。この一対のコンベア2a,2aは、前記一対のコンベア2c,2cと実質同様の構造、つまり、互いに接近離間可能に設けられており、両者が接近した状態では(図5(B)参照)、両者の間の間隔が前記トレーTの幅よりも狭くなり、両者が離間した状態では(図5(C)参照)、両者の間の間隔が前記トレーTの幅よりも広くなるように配設されている。
図4に示すように、殺菌室1a内には、殺菌位置IIIに配置された遺体に、紫外線を照射する、例えば殺菌灯などの殺菌手段30の紫外線照射手段32が設けられている。
このため、一対のコンベア2c,2cによって遺体が載せられたトレーTを殺菌位置IIIまで移動させれば、紫外線照射手段32から照射される紫外線によって遺体の表面を殺菌することができる。よって、遺体表面の腐敗等による損傷を遅らせることができるし、遺体と接する遺族が雑菌などに感染することを防ぐことができる。
図4に示すように、前記一対のコンベア2a,2a間において、一対のコンベア2a,2aによる遺体の搬送経路の下方かつ殺菌位置IIIの下方には、内部にオゾンが収容された殺菌手段30の滅菌槽31が設けられている。
そして、殺菌室1a内には、前記冷却室1cに設けられている遺体冷却手段20のトレー保持手段25と実質同様の構成を有する、殺菌手段30のトレー保持手段35が設けられている。つまり、トレー保持手段35は、殺菌位置IIIに配置されているトレーTの先端および後端の略鉛直上方にそれぞれ2本ずつ設けられたシリンダ36と、2本のシリンダ36のロッド36aの先端間に設けられた回転可能な回転軸37と、この回転軸27に基端が固定され先端に鉤上の係合部38aを備えた係合アーム38とから構成されているのである。
このため、一対のコンベア2a,2aおよびトレー保持手段35を作動させれば、トレーTおよびトレーTに載せられている遺体を滅菌槽31内に入れることができ、滅菌槽31内のオゾンに浸漬することができるから、オゾンよっても遺体を殺菌することができる(図4、図5(C)参照)。
しかも、オゾンに浸漬すれば、口等から遺体内部にまでオゾンが侵入するから、そのオゾンによって遺体内部の殺菌を行うことも可能である。そして、滅菌槽31内の気圧を大気圧よりも高くしておけば、オゾンが遺体の毛穴等から遺体の組織等に侵入するから、遺体表面に雑菌が再付着することを防ぐことができ、遺体表面の腐敗等による損傷を遅らせることができる。滅菌槽31内の気圧を大気圧よりも高くする方法は、殺菌室1aを密閉構造としておけば、ポンプなどで加圧圧縮したオゾンを外部より送り込むことによって、実現することができる。
なお、滅菌槽31内にオゾンを供給する方法は特に限定はなく、例えば、特別に設けられたオゾン発生装置によって生成されたオゾンを配管などによって供給するようにしてもよい。
とくに、紫外線照射手段32から照射される紫外線によって殺菌室1a内の酸素がオゾンに転化されるため、そのオゾンによって滅菌槽31内にオゾンを供給するような構成としてもよい。この場合には、設備を操作する者等が直接紫外線を浴びることがないように、殺菌室1aを、紫外線が外部に漏れないような密閉構造とすることが必要である。
さらになお、殺菌室1a内全体が高圧のオゾンで充満されるような構成としてもよく、この場合には、滅菌槽31やトレー保持手段35は設けなくてもよく、また、搬送手段も単にトレーTを搬送する機能だけを有するコンベア等の公知の搬送手段を使用すればよいので、殺菌手段30や殺菌室1aの構造を簡単にすることができ、設備全体の構造を簡単かつコンパクトにすることができる。
また、滅菌槽31内や殺菌室1a内を保存で満たすときに、オゾンとともに霧状になった水滴が存在するような状態となっていることが好ましい。かかる状態となっていれば、滅菌槽31内や殺菌室1a内の遺体表面には、オゾンとともに水滴も付着する。すると、遺体表面では、オゾンと水滴とが反応してオゾン水の状態となり、このオゾン水によって遺体表面にオゾン水の膜が形成される。かかるオゾン水の膜が形成されれば、遺体表面の殺菌効果が高くなるとともに、雑菌などが遺体表面付着することを比較的長期間(例えば数日〜1、2週間程度)防止することができる。すると、雑菌などによる遺体表面の損傷を比較的長期間防止することができるので、遺体の外観の損傷を比較的長期間防止することができる。
なお、オゾンと霧状になった水滴が存在するような状態とする方法はとくに限定されない。例えば、滅菌槽31内や殺菌室1a内にオゾンを供給した状態で、霧状の水滴ができるように、ノズルなどから滅菌槽31内や殺菌室1a内に対して水を吹き出すことによって、オゾンと霧状になった水滴が存在するような状態とすることができる。逆に、滅菌槽31内や殺菌室1a内にノズルなどから滅菌槽31内や殺菌室1a内に対して水を吹き出して霧状の水滴を形成した後、オゾンを滅菌槽31内や殺菌室1a内に供給してもよい。もちろん、オゾンを滅菌槽31内や殺菌室1a内に供給すると同時に、滅菌槽31内や殺菌室1a内に対して水を吹き出して霧状の水滴を形成してもよい。
さらになお、滅菌槽31に収容する物質はオゾンに限られず、アルコールやオゾン水や二酸化塩素水、次亜鉛粗餐ソーダ水等の殺菌作用を有する物質であればよく、とくに限定はない。
また、本実施形態の遺体腐敗防止設備1に、遺体の内部に殺菌作用を有する成分を含む処理剤を供給する内部殺菌手段を設けてもよい。例えば、内部殺菌手段として、例えば、穿孔針等の中空な管状部材によって形成された注入部と、この注入部内に、例えば、アルコールやオゾン水や二酸化塩素水、次亜鉛粗餐ソーダ水等の殺菌作用を有する成分を含む処理剤を供給できる処理剤供給部と、注入部を遺体に突き刺す注入部移動手段とを備えたもの設けておけば、注入部を遺体に突き刺して、その先端部を消化管内部や遺体の腹壁と消化管との間の空間内に配置し、その後、処理剤供給部によって処理剤を注入部に供給すれば、処理剤を注入部内を通して先端部が配置された場所に供給することができる。
すると、消化管内の残留物や、消化管等の腹空内の臓器を殺菌することができるので、遺体内部の組織の腐敗をより一層遅らせることができる。しかも、注入部を突き刺して処理剤を供給するから、口等からでは処理剤を供給できない遺体の腹壁と消化管との間の空間内にも処理剤を供給できるから、遺体内部の殺菌効果をより一層高めることができる。
なお、内部殺菌手段によって処理剤を注入する作業は、どのタイミングで行ってもよいが、遺体を加熱処理した後で処理剤を注入すれば、加熱処理後に残っている遺体内部の雑菌の増殖を抑えることができる。
さらになお、内部殺菌手段は上記のごとき構成に限られず、消化管内部や遺体の腹壁と消化管との間の空間内に処理剤を供給できる構成であれば、とくに限定はない。
また、遺体の内部への処理剤の供給は人手によって行ってもよく、この場合には、遺体の体型によらず、確実に処理剤を所望の場所に注入することができる。
以下では、本発明の遺体腐敗防止方法の効果を検証するために、以下の実験を行った。
実験では、ブタ(20〜30kg)を安楽死させた後、ブタに対して腐敗防止方法を行い、その内臓や外観の時間経過を確認した。
実験は、以下の(1)〜(4)の比較実験を行った。
(1)比較実験1
ブタ遺体に対して電磁波加熱とオゾン・紫外線による殺菌を行う処理(以下、MC−06処理という)を行って室温に放置した場合と、ブタ遺体をそのまま室温に放置した場合と、を比較した。
(2)比較実験2
ブタ遺体に対してMC−06処理を行った後、ドライアイスで冷却して室温に放置した場合と、ブタ遺体をドライアイスで冷却して室温に放置した場合と、を比較した。
(3)比較実験3
ブタ遺体に対して生理食塩水を注入した後MC−06処理を行いドライアイスで冷却して室温に放置した場合と、ブタ遺体に対して生理食塩水を注入せずにMC−06処理を行った後ドライアイスで冷却して室温に放置した場合と、を比較した。
なお、MC−06処理は、以下の条件で行った。
高周波出力と周波数 :1〜3 kw、13〜56 MHz
目標温度(腹腔内)と維持時間 :50 〜75℃、10〜15分
オゾンガス濃度と暴露時間 :50〜70ppm、 3分
参考までに、ヒト遺体にMC−06処理を行う場合において、電磁波加熱の基礎的条件を示す。
電磁波の周波数 :13〜56 MHz
電磁波の出力 :1〜3 kw
維持時間 :10分
到達する腹腔内温度 :約75℃
(1)比較実験1
安楽死後のブタ(20〜30kg)に対してMC−06処理を行った群(MC−06群:6頭)と処置を行わなかった群(対照群:6頭)を室温に放置し、両群の死後変化の程度を解剖を行って肉眼的、及び病理組織学的に比較した。
図7〜図12上段に結果を示す。
全ての臓器において、経時的に臓器の軟化や血液の浸潤等の死後変化が観察され、その程度はMC-06処理群において強くみられた。なお、特に肝臓・腎臓については熱変性による変化も見られた。
また、全ての臓器において、経時的に核の消失や上皮細胞の脱落等の死後変化が観察されたが、その程度はMC-06処理群においてより強く見られた。
肉眼的には、MC−06群では熱が加わったための変化が見られ、特に肝臓は固定された状態であった。腸管ガスの発生も抑えられていた。
しかしその一方で、加えられた熱による組織の融解は進行していた。
全体的に見れば、表皮剥離や腐敗汁の発生、肝臓以外の諸臓器の軟化・融解など一般的な死後変化は死後経過時間とともにMC−06群の方が対照群より進行した。
病理組織学的には、両群に大差は見られなかった。
なお、MC−06群では電磁波発信器が接していた皮膚部分に褐色調の変化と脆弱性が生じ、横隔膜や腸管の破裂、肺の臓側胸膜の気胞が見られた個体があった。この現象は全実験を通じてみられた。ブタ(体重20〜30kg)に対して電磁波の出力がやや高かったためにこれらの変化が生じたものと考えられた。
(2)比較実験2
比較実験1と同様の条件で安楽死させたブタに対してMC−06処理をした後、ドライアイスで遺体を冷却し(1頭あたり約20Kgのドライアイスを用い、交換・追加は行わない)そのまま室温に放置した群(MC−06冷却群:6頭)とMC−06処理を行わずにドライアイスで冷却してそのまま室温に放置した群(冷却対照群:5頭)の死後変化の程度を肉眼的、及び病理組織学的に比較した。
図12下段〜図17に結果を示す。
全ての臓器において経時的に死後変化の進行が見られたが、MC-06冷却群の方が保存状態は良好であった。
また、死後1週間を超えれば表皮剥離や組織の軟化も見られたが、冷却対照群に比べてればMC−06冷却群の死後変化の程度は比較的軽度に抑えられていた。これは、ドライアイスでの冷却により、熱による組織融解が抑えられたためと考えられる。
病理組織学的にも、ドライアイス冷却群で死後変化が抑えられていた。
なお、MC−06冷却群でも皮膚の変色や脆弱性、横隔膜や腸管の破裂、肺の臓側胸膜の気胞が見られた個体があったが、前述の通りの理由からであると考えられる。
(3)比較実験3
比較実験1と同様の条件で安楽死させた後に、腹腔内に0.9%食塩水(生理的食塩水)を1リットル注入したブタに対してMC−06処理をしドライアイスで遺体を冷却し(ドライアイスの交換・追加は行わない)そのまま室温に放置した群(生食注入群:3頭)と生理食塩水を注入せずにMC−06処理・ドライアイス冷却を行った群(生食非注入群:3頭)の死後変化の程度を肉眼的、及び病理組織学的に比較した。
図18〜図23に結果を示す。
生理食塩水を腹腔内に注入することにより、全身及び臓器の保存状態は向上した。生理食塩水注入により、熱がより均一に、より効果的に加わったためと考えられる。比較実験1と比較すれば、その遺体保存能力は格段に向上していると言えよう。
なお、比較実験1,2と同様に皮膚の変色や脆弱性、横隔膜や腸管の破裂、肺の臓側胸膜の気胞が見られた個体があった。
(比較実験1〜3のまとめ)
MC−06処理のみでは、加えられた熱による組織の熱融解が進行してしまうが、MC−06処理後すぐにドライアイス(20kg/20〜30kg)を用いて遺体を冷却することで、遺体の保存状態は向上した。その状態は、MC−06処理を行わずに冷却だけを行った場合に比べても良好であった。
更にはMC−06処理前に腹腔内に1リットルの生理食塩水を加えたものの方が、熱が均一に加わるようになるためか、保存状態は更に良好であった。
但し、高周波電極パッドの接触部分の皮膚の変色と脆弱化(熱によると推定される)、横隔膜や腸管の破裂、肺の臓側胸膜の気胞形成は、MC−06処理を行った場合にある程度共通して観察された。人とブタでは条件が異なるので、今回のMC−06の設定がブタにとっては強すぎた可能性が十分考えられる。
(腸内細菌への影響)
上記比較実験1〜3における解剖の際に大腸回盲部の腸管内を滅菌スワブで拭い、それを用いて腸内細菌の培養検査を行って大腸菌を代表とする腸内細菌への影響を検討した。
結果を図26に示す。
MC−06処理を行った群と行わなかった群を比較すると、検出される菌の種類には差は見られないが、MC−06処理を行っている群の方が細菌コロニー数は低い傾向が見られた。MC−06処理後には大腸菌が検出されない個体もあった。
(薬物分析への影響)
比較実験1において、麻酔の際に使用したペントバルビタールの血液・尿中、及び各臓器中の濃度を、MC-06群と対象群とで比較した。
結果を図27に示す。なお、図27のヒストグラムでは、各臓器について、それぞれ左から、MC0日後、MC2日後、MC7日後、対象0日後、対象2日後、対象7日後のデータが該当する。
全てに薬剤に同じ事が言えるとは限らないが、これらの結果を見ると特定の傾向は見られず、特にMC-06処理がペントバルビツールの濃度変化に影響を及ぼしているとは考えられない。
(DNA分析への影響)
比較実験3において採取された生前に採取した血液と解剖時に採取した心臓血を用いて、S0005、及び SW911のローカスのSTR型*)の検出程度を比較した(生前、2日後、4日後、9日後)。
*)Rajeev Kaul, Atar Singh, R. K. Vijh, M. S. Tantia
and Rahul Behl. Evaluation of the genetic variability of 13 microsatellite
markers in native Indian pigs. JOURNAL OF GENETICS 80(3), 149-153, 2001.
図28に示すように、二つのローカス共に、生食注入群では死後1週間以上しても検出が可能であったが、生食否注入群ではS0005では死後2日後に、SW911も死後4日後には検出できなかった。
これにより、肉眼・病理組織学的変化に加えて、DNAの変化としても腹腔内に生理食塩水が注入されることにより、遺体の保存状態が向上することが示された。
オゾンガスには殺菌作用は、水道水の洗浄・殺菌、野菜の洗浄、魚の養殖池の殺菌など様々な場面に応用されている。従来の薬品を使用した殺菌では、環境への影響を考慮する必要がある場合があるが、オゾンであれば分解装置を用いることで容易に無毒化することが可能であり、自然に対しても優しい消毒法と言える。加えてオゾンには消臭効果もあるといわれている。
MC−06処理ではオゾンガスと紫外線とを用いて外表殺菌を行うが、この処理により消臭効果が得られるのであれば、遺体の中には強烈な腐敗臭を持った遺体もあることからMC−06処理の副次的メリットと言えよう。
同様の消臭効果は、オゾンを溶存させたオゾン水を用いても得られる可能性がある。オゾン水を用いれば、MC−06処理の様な密閉空間を作ることなく比較的容易に遺体の洗浄・消臭作業を一度に行う事が可能となるかも知れない。そのような場面を想定し、オゾン暴露による腐敗臭等の軽減の程度を検討した。
(実験方法)
死後1・4・9日目の安楽死させたブタ遺体(各2頭:計6頭)の外表の臭気を測定し、その後MC−06によるオゾン暴露後に再度臭気を測定し比較した。
なお、オゾン暴露前には精製水を噴霧して湿潤させ(オゾン水を使用した状態を想定)、オゾンガス濃度50〜70ppmで15分間暴露を暴露1回とし、暴露を3回行って、1回ごとに遺体の臭気を測定した。
臭気の測定にはポータブル型ニオイセンサmini XP-329m (高感度酸化スズ系熱線型燃結半導体センサ式:新コスモス電機)を使用した。なお、XP-329mによる臭気測定では、清浄空気の臭気を0とした相対値で臭気の濃度(強さ)が数値として示される。
(結果)
図29は、測定値をグラフに示したものである。
図29に示すように、死後経過時間とともに遺体の臭気は上昇する傾向が見られた。また、オゾン暴露の回数により臭気は低減した。感覚的にも、オゾン暴露後には腐敗臭だけでなくブタ特有の臭気もほとんど感じなかった。
死後経過時間が長ければ長いほど腐敗臭等の異臭が生じ、そのような遺体を扱う場合の障害の1つとなっている。今回の結果はオゾン暴露による強力な消臭効果を示しており、暴露回数を増やせばより強い消臭効果が得られることも示された。
しかし、暴露回数2回と3回を比べれば大差のない場合もあり、2回程度のオゾン暴露で概ね十分であろうと考えられる。
MC−06処理では遺体外表の殺菌のために紫外線とオゾンガスを用いているが(オゾン暴露と同時に紫外線照射も行われる)、それに加えて消臭作用も得られることになり、遺体を扱う前にMC−06処理によるオゾン暴露を行う事で、安全かつ容易な遺体の取り扱いが可能となると期待される。
現実的には遺体の消臭ができれば良いという場合もある。その場合には、取り扱いの難しいオゾンガスを使用するよりも、オゾンの溶け込んでいるオゾン水で遺体を洗い流すことにより、オゾンによる消臭・殺菌作用が期待され、より平易で安全な遺体の取り扱いが可能となるとであろう。
しかし一方で、毒物中毒の中には独特の臭気を有するものがあり、その臭気が死因の手がかりとなる場合も希にある。オゾンの消臭作用で死因の診断上必要な臭気までも消し去ってしまう可能性があることには十分注意をしなければならない。
加えて、オゾンには強い酸化作用がある。検視・検案台や解剖台、器具の素材については腐食に耐えるものを使用する必要があろう。また密閉されたMC-06処理システムを使用するのであれば問題はないが、開放空間で高濃度のオゾン水を用いることには、危険を伴うことも忘れてはならない。
(高濃度食塩水による加熱処理が腐敗に与える影響)
実施例1の比較実験3では生理食塩水を腹腔内に注入した上でMC-06処理を行うことが効果的であったが、より高濃度の食塩水を用いた場合を想定して以下のような実験を行った。
精製水、10%食塩水、20食塩水、30%食塩水の入ったビニール袋に豚肉(約5cm×5cm×1cm)およびブタ腸管(約5〜10cm)をいれ、50℃で30分間加熱し、そのまま、或いは液体から出した状態で袋に入れて放置し、死後変化の状態を肉眼的に観察した。
図24および図25に示すように、20%または30%食塩水で加熱したものについては、保存状態が良く、特に食塩水中でそのまま保存した場合には29日後(約4週間)後であっても、溶解することがなかった。
なお、食塩水中で放置した腸管についてはその表面を滅菌スワブで拭って細菌培養検査を行ったが、20%と30%では約1週間経過した後であっても少量のブドウ球菌(CNS)が検出されたのみで、30%においては29日後であってもその状態が継続していた。これらのことは、腹腔内に注入する食塩水濃度を20〜30%のような高濃度液を使用することにより、更に保存状態が良くなる可能性を示唆しているものである。
(実施例のまとめ)
MC−06処理の変化の主体は加熱処理によって生じた変化であり、その変化の主体は熱固定である。処理後速やかに冷却することにより、その後に生じる熱融解の影響が減少し、その後更に冷却したり保存液で血液を置換することなく1週間程度の遺体の保存は可能であると推測される。
また、MC-06処理前に腹腔内への生理食塩水時注入処理を行う事で、その保存状態は更に向上し、その際に20〜30%の高濃度食塩水を用いることで更なる長期間の保存の可能性が示唆された。
なお、横隔膜や腸管の破裂、肺の臓側胸膜の気胞形成が見られることがあり、MC−06処理によってこの様なアーティファクトが加わる可能性が考えられる。基本的には今回の条件がブタにとっては強すぎたためと考えるが、人であっても生じうるものと考えざるを得ない。
しかし、MC−06処理前にCT撮影等を行って遺体にはそのような変化がもともとないことを記録しておけば、生前の損傷との混乱を避けることが可能であろう。
また、MC−06処理により遺体外表にオゾンガスを吹き付けたり紫外線を照射することから、体表に残っている種々の微物や法医学的資料が破壊される可能性も、事前に十分な資料採取を行う事でクリアできるものであろう。
加えて、オゾン水を利用して腐敗臭等を消臭する利用法があることも示されたことから、オゾンの殺菌作用と併せて考えれば、解剖前や検視・検案時にオゾン水で遺体を処理することにより安全で容易な死体の取り扱いができる可能性が示唆された。しかしオゾンによる腐食の問題や生体への健康被害の問題もあるので、更に若干の検討が必要であろう。
本発明の遺体腐敗防止設備は、葬儀社において、遺体処置時の感染予防や容易な遺体長期保存処置、冷蔵庫使用やドライアイス使用の軽減などを図るための設備として適している。
また、本発明の遺体腐敗防止設備は、警察捜査・死因究明作業において、遺体の感染予防処置、消臭・防腐処置、冷蔵庫無しでの遺体長期保存等に適用できる。
さらに、本発明の遺体腐敗防止設備は、火葬場において、火葬時間の短縮、燃料の節約、有害物質の軽減、火葬釜の保護などを図るための設備として適している。
さらに、本発明の遺体腐敗防止設備は、医科大学において、系統解剖実習時の安全対策、有害物質を使用しない遺体長期保存等に適用できる。
さらに、本発明の遺体腐敗防止設備は、災害時において、ローコストで安全な遺体の長期保存、遺体の防臭処置等に適用できる。
1 遺体腐敗防止設備
10 遺体加熱手段
20 遺体冷却手段
30 殺菌手段
31 滅菌槽
40 殺菌剤供給手段

Claims (4)

  1. 遺体の腐敗を防止するために使用される設備であって、
    該設備が、
    所定の周波数の電磁波によって遺体を電磁波加熱し、遺体内部の組織を構成するタンパク質が凝固する温度以上に組織の温度を上昇させ、組織の温度をタンパク質が凝固する温度以上で保持する遺体加熱手段と、
    該遺体加熱手段によって電磁波加熱された遺体を冷却する遺体冷却手段と、
    遺体表面を殺菌処理する殺菌手段と、を備えており、
    該殺菌手段が、
    遺体を収容する滅菌槽と、
    該滅菌槽内に、オゾンと霧状の水滴を供給する殺菌剤供給手段とを備えている
    ことを特徴とする遺体腐敗防止設備。
  2. 遺体の腐敗を防止するために使用される設備であって、
    該設備が、
    所定の周波数の電磁波によって遺体を電磁波加熱し、遺体内部の組織を構成するタンパク質が凝固する温度以上に組織の温度を上昇させ、組織の温度をタンパク質が凝固する温度以上で保持する遺体加熱手段と、
    該遺体加熱手段によって電磁波加熱された遺体を冷却する遺体冷却手段と、
    前記遺体加熱手段によって遺体を加熱する前に、遺体の消化管内部または遺体の腹壁と消化管との間の空間内に生理食塩水を注入する生理食塩水供給手段と、を備えている
    ことを特徴とする遺体腐敗防止設備。
  3. 遺体の腐敗を防止する方法であって、
    遺体の消化管内部または遺体の腹壁と消化管との間の空間内に生理食塩水を注入し、
    所定の周波数の電磁波による電磁波加熱により、遺体内部の組織を構成するタンパク質が凝固する温度以上に組織の温度を上昇させ、
    組織の温度をタンパク質が凝固する温度以上で保持し、
    電磁波加熱した後、遺体を冷却し、
    遺体を、オゾンと霧状の水滴とが共存する気体に接触させる
    ことを特徴とする遺体腐敗防止方法。
  4. 遺体の腐敗を防止する方法であって、
    遺体の消化管内部または遺体の腹壁と消化管との間の空間内に生理食塩水を注入し、
    所定の周波数の電磁波による電磁波加熱により、遺体内部の組織を構成するタンパク質が凝固する温度以上に組織の温度を上昇させ、
    組織の温度をタンパク質が凝固する温度以上で保持し、
    電磁波加熱した後、遺体を冷却する
    ことを特徴とする遺体腐敗防止方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2018087154A (ja) * 2016-11-28 2018-06-07 3C株式会社 保存装置および臓器移植方法

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