JP2013252081A - 幹細胞から肝細胞への分化誘導方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ES細胞又はiPS細胞等の幹細胞から効果的に肝細胞に分化誘導させる場合の遺伝子導入方法を提供する。さらに、肝細胞に分化誘導させるのに有用な遺伝子が導入された幹細胞を提供し、遺伝子が導入された幹細胞から生成した肝細胞を提供する。
【解決手段】ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞にFOXA2および/またはHNF1α遺伝子をアデノウイルスベクターを用いて導入することで、効果的に肝細胞へ分化誘導させることができ、肝成熟化を促進できる。分化誘導肝細胞の肝機能は、薬物代謝に関与するCYP、UGTやGST等の活性等を調べることで確認できる。また、種々の薬物を分化誘導肝細胞に作用させることによって、薬物毒性評価や薬物動態評価を行うことができる。
【選択図】図9

Description

本発明は、胚性幹細胞(以下、「ES細胞」ともいう)または人工多能性幹細胞(以下、「iPS細胞」ともいう)等の多能性幹細胞から肝細胞に分化誘導させる方法に関する。さらに、本発明は肝細胞に分化誘導させるのに有用な遺伝子が導入された幹細胞に関する。
多能性幹細胞とは、多分化能と自己複製能を有する未分化細胞であり、組織損傷後の組織修復力を有することが示唆されている。このため、多能性幹細胞は、各種疾患の治療用物質のスクリーニング、再生医療分野において有用であるとして、さかんに研究されている。多能性幹細胞のうち、iPS細胞(induced pluripotent stem cells)は、線維芽細胞などの体細胞に、特定の転写因子、例えばOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYC等を導入することにより、体細胞を脱分化して作製された人工多能性幹細胞である。分化万能性を持った細胞は理論上、肝臓等を含む全ての組織や臓器に分化誘導することが可能である。
多能性幹細胞から肝細胞への分化誘導方法としては、主として細胞凝集塊(胚様体)を形成させたり、液性因子を培地中に加えたり、適当な細胞外マトリクス、フィーダー細胞等を選択して用いる方法などが試みられてきた。しかしながら、これらの方法は培養期間が長く、分化誘導効率も低く、得られた肝細胞の薬物代謝酵素活性も低いことが報告されている(非特許文献1〜4)。分化誘導効率を向上させるため、分化に重要な遺伝子を多能性幹細胞などに導入することが考えられるが、効率よい遺伝子導入方法が確立されていないため、遺伝子導入による肝分化誘導に関する報告は殆どない。幹細胞から成熟肝細胞へ分化させるには、幹細胞から内胚葉系細胞、肝幹前駆細胞等を経ることが必要である。各分化の工程において、培養系にアクチビン(activin) A、塩基性繊維芽細胞増殖因子 (bFGF; basic fibroblast growth factor)、BMP4 (bone morphogenetic protein 4)、FGF-4、HGF (hepatocyte growth factor)、OsM oncostatin M)、DEX (dexamethazone)、レチノイン酸、またはDMSO等の液性因子が用いられている。また、発生学的に肝細胞へ分化させうる因子として、HEX (hematopoetically expressed homeobox)、HNF4α (hepatocyte nuclear factor 4 alpha)、HNF6 (hepatocyte nuclear factor 6)、FOXA2 (forkhead box protein A2)等の転写因子が必要であることが報告されている(非特許文献5)。例えば、HEX遺伝子は、甲状腺、肺、肝臓、血液細胞、血管内皮細胞等に発現が認められる。HEX遺伝子欠損マウスは、肝実質細胞が認められず、胎生10.5日(E10.5)前後に死亡が観察されている。HEX遺伝子は、例えばGATA4 (GATA binding protein 4)、HNF4α、FGF受容体遺伝子等の発現を調節していると考えられる。
次世代遺伝子治療用ベクターシステムとして、アデノウイルス(以下、単に「Ad」という。)を用いたシステムが開発されている。Adの構造は、252のカプソメアよりなる正20面体構造をしており、頂点にある12個は突起構造を持ったペントン(ペントンベースとファイバーからなる)と呼ばれ、他の240個はヘキソンと呼ばれる。ウイルスの細胞内への進入は、ファイバーがAd受容体(coxsackievirus-adenovirus receptor)に結合し、その後ペントンベースのRGDモチーフが細胞表面上のインテグリン(αvβ3、αvβ5)と結合することによって起こる。しかし、その後の研究において、Ad受容体が発現していないかまたは発現していても非常に低い細胞に対してもAdベクターを導入可能なように各種の研究がなされており、開示されている(特許文献1〜3)。このような改良型Adベクターを用いた間葉系幹細胞への遺伝子デリバリーについて報告がある(非特許文献6)。ここでは、各種改良型Adベクターを用いて、遺伝子を間葉系幹細胞等へ導入することが示されている。しかしながら、間葉系幹細胞とES細胞は全く相違するものである。また、本非特許文献ではAdベクターが、遺伝子を細胞へ導入しうるDDS (Drug Delivery System)の役割を有することが開示されているに過ぎず、Adベクターを用いてES細胞へ遺伝子導入することにより、ES細胞等が分化しうることは、全く開示も示唆もされていない。
Adベクターを用いて幹細胞にHEX遺伝子、HNF4α遺伝子、HNF6遺伝子およびSOX17 (SRY-related HMG-box 17)遺伝子から選択されるいずれかひとつまたは複数の遺伝子を導入することを特徴とする、幹細胞から肝細胞への分化誘導方法について開示がある(特許文献4)。ここでは、ES細胞またはiPS細胞等の幹細胞から効果的に肝細胞に分化誘導させる場合のHEX遺伝子、HNF4α遺伝子、HNF6遺伝子およびSOX17遺伝子から選択されるいずれか1または複数の遺伝子の導入方法が開示されている。SOX17、HEX、HNF4α遺伝子をそれぞれ中内胚葉系細胞、内胚葉系細胞、肝幹前駆細胞に対してAdベクターを用いて導入することで、ES細胞またはiPS細胞等の幹細胞に、効果的に肝細胞へ分化誘導させうる。
特開2002−272480号公報(特許第3635462号公報) 特開2003−250566号公報 特開2008−136381号公報 国際公開2011/052504号パンフレット
Genes to Cells, 13, 731-746 (2008) Stem Cells, 26, 894-902 (2008) Stem Cells, 26, 1117-1127 (2008) Hepatology, 45, 1229-1239 (2007) Nature Reviews Genetics, 3, 499-215 (2002) Biochem. Biophys. Res. Commun., 332, 1101-1106 (2005)
本発明は、分化誘導に係る遺伝子をES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞に導入し、幹細胞から肝細胞へ分化誘導させる方法に関し、より効果的に分化誘導しうる方法を提供することを課題とする。さらに、薬物の毒性評価可能な分化誘導肝細胞を提供すること、および薬物の毒性評価方法を提供することを課題とする。
本発明者等は、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞から肝細胞への分化過程の細胞にFOXA2および/またはHNF1α (hepatocyte nuclear factor 1 homeobox A)遺伝子をAdベクターを用いて導入することで、効果的に肝細胞へ分化誘導させることができ、肝成熟化を促進できる。分化誘導肝細胞の肝機能は、薬物代謝に関与するCYP (Cytochrome P450)、UGT (UDP-glucuronosyltransferases)やGST(Glutathione S-transferases)等の活性等を調べることで確認できる。また、種々の薬物を分化誘導肝細胞に作用させることによって、薬物毒性評価や薬物動態評価を行うことができる。
即ち本発明は、以下よりなる。
1.幹細胞から肝細胞への分化過程において、Adベクターを用いて細胞にFOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子を導入する工程を含む、幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
2.幹細胞から肝細胞への分化過程において、Adベクターを用いて細胞に遺伝子を導入する工程が、中内胚葉系細胞にFOXA2遺伝子を導入する工程である、前項1に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
3.幹細胞から肝細胞への分化過程において、Adベクターを用いて細胞に遺伝子を導入する工程が、内胚葉系細胞にFOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子を導入する工程である、前項1または2に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
4.幹細胞から肝細胞への分化過程において、Adベクターを用いて細胞に遺伝子を導入する工程が、肝幹前駆細胞にFOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子を導入する工程である、前項1〜3のいずれか1に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
5.さらに、Adベクターを用いて核内受容体遺伝子であるCAR (constitutive androstane receptor)遺伝子および/またはFXR (Farnesoid X Receptor)遺伝子を導入する工程を含む前項1〜4のいずれか1に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
6.Adベクターを用いて核内受容体遺伝子であるCAR遺伝子および/またはFXR遺伝子の導入が、FOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子を導入する工程の後になされる前項5に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
7.前項1〜6のいずれか1に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法により得られた肝細胞。
8.前項7に記載された肝細胞について、CYP酵素活性を測定することを特徴とする、肝細胞による薬剤代謝能の測定方法。
9.CYP酵素活性に加えて、UGT活性および/またはGST活性を測定することを特徴とする、前項8に記載の薬剤代謝能の測定方法。
10.薬物を、前項1〜6のいずれか1に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法により得られた肝細胞と接触させ、細胞毒性を評価することを特徴とする、薬物の毒性検査方法。
本発明のAdベクターを用いることで、ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞の分化誘導に係る遺伝子が効果的に導入され、肝細胞へ分化誘導させうることが確認された。具体的には、FOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子をES細胞またはiPS細胞等の幹細胞に導入することで、効果的に肝細胞へ分化誘導させうる。
本発明の分化誘導方法により作製した分化誘導肝細胞について、薬物代謝の第I相反応に関与するCYP遺伝子、薬物代謝の第II相反応に関与するUGT遺伝子やGST遺伝子、薬物代謝の第III相反応に関与する各種トランスポーター、CYP誘導に関与する肝関連核内受容体遺伝子の発現を調べた結果、分化誘導肝細胞における各種遺伝子の発現はヒト初代培養肝細胞と同程度のものが多かった。このことより、本発明の方法による分化誘導肝細胞は、薬物毒性評価や薬物動態評価を行うことができる。
幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導プロトコールを示す図である。(実施例1) 中内胚葉系細胞へ各遺伝子を導入したときの、内胚葉マーカーCXCR4 (C-X-C chemokine receptor type 4)の発現を確認し、幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導能を確認した図である。(実施例1) 内胚葉系細胞から肝幹前駆細胞への分化誘導プロトコールを示す図である。(実施例1) 内胚葉系細胞へ各遺伝子を導入したときの、肝幹前駆細胞マーカーAFPの発現を確認し、内胚葉系細胞から肝幹前駆細胞への分化誘導能を確認した図である。(実施例1) 内胚葉系細胞へ各遺伝子を導入したときの、肝幹前駆細胞マーカーCYP3A7の発現を確認し、内胚葉系細胞から肝幹前駆細胞への分化誘導能を確認した図である。(実施例1) 肝幹前駆細胞から肝細胞への分化誘導プロトコールを示す図である。(実施例1) 肝幹前駆細胞へ各遺伝子を導入したときの、肝細胞マーカーASGR1の発現を確認し、肝幹前駆細胞から肝細胞への分化誘導能を確認した図である。(実施例1) 肝幹前駆細胞へ各遺伝子を導入したときの、肝細胞マーカーCYP2C19の発現を確認し、肝幹前駆細胞から肝細胞への分化誘導能を確認した図である。(実施例1) 幹細胞から肝細胞への分化誘導プロトコールを示す図である。(実施例1) 幹細胞から肝細胞への分化誘導過程における各細胞の形態を示す写真図である。(実施例1) 分化誘導肝細胞がヒト初代培養肝細胞と比較して、どの程度の肝機能を有するか評価するために、薬物代謝の第I相反応に関与するCYPの発現を確認した図である。(実施例2) 分化誘導肝細胞がヒト初代培養肝細胞と比較して、どの程度の肝機能を有するか評価するために、薬物代謝の第II相反応に関与するUGTやGSTの発現を確認した図である。(実施例2) 分化誘導肝細胞がヒト初代培養肝細胞と比較して、どの程度の肝機能を有するか評価するために、薬物代謝の薬物代謝の第III相反応に関与する各種トランスポーター遺伝子の発現を確認した図である。(実施例2) 分化誘導肝細胞がヒト初代培養肝細胞と比較して、どの程度の肝機能を有するか評価するために、CYP誘導に関与する肝関連核内受容体遺伝子の発現を確認した図である。(実施例2) 幹細胞から肝細胞への分化誘導において、さらに核内受容体遺伝子であるCAR遺伝子および/またはFXR遺伝子を導入したときの各種マーカーの発現を確認した図である。(実施例3)
本発明は、幹細胞にAdベクターを用いて遺伝子を導入し、幹細胞から肝細胞へ分化誘導させる方法に関する。本発明において、「幹細胞」とはES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞をいい、特に好適にはヒトES細胞またはヒトiPS細胞をいうが、さらにヒトES細胞またはヒトiPS細胞に遺伝子が導入されることにより方向付けられた肝細胞への分化を可能とする細胞、例えば中内胚葉系細胞(mesendoderm cell)、内胚葉系細胞(definitive endoderm (DE) cell)や肝幹前駆細胞(肝芽細胞、hepatoblast)等も含まれる。本発明の方法により得られる「肝細胞」、より詳しくは、遺伝子が導入された幹細胞から生成した「肝細胞」とは、成熟肝細胞(hepatocyte-like cells)のほか、幹細胞に遺伝子が導入されることにより方向付けられた肝細胞への分化を可能とする細胞を含み、例えば肝幹細胞や、幼若肝細胞が挙げられる。本発明の方法により得られる肝細胞を、便宜上「分化誘導肝細胞」ともいう。
ES細胞とは、一般的には胚盤胞期胚の内部にある内部細胞塊(inner cell mass)と呼ばれる細胞集塊をin vitro培養に移し、未分化幹細胞集団として単離した多能性幹細胞である。ES細胞は、M.J.Evans & M.H.Kaufman (Nature, 292, 154, 1981)に続いて、G.R.Martin (Natl.Acad.Sci.USA, 78, 7634, 1981)によりマウスで多分化能を有する細胞株として樹立された。ヒト由来ES細胞についても、既に多くの株が樹立されており、ES Cell International社、Wisconsin Alumni Research Foundation、National Stem Cell Bank (NSCB)等から入手することが可能である。ES細胞は、一般に初期胚を培養することにより樹立されるが、体細胞の核を核移植した初期胚からもES細胞を作製することが可能である。また、異種動物の卵細胞、または脱核した卵細胞を複数に分割した細胞小胞(cytoplasts, ooplastoids)に、所望の動物の細胞核を移植して胚盤胞期胚様の細胞構造体を作製し、それを基にES細胞を作製する方法もある。また、単為発生胚を胚盤胞期と同等の段階まで発生させ、そこからES細胞を作製する試みや、ES細胞と体細胞を融合させることにより、体細胞核の遺伝情報を有したES細胞を作る方法も報告されている。本発明で使用されるES細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたES細胞、または今後開発される新たな方法により作製されるES細胞であってもよい。
また、iPS細胞とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、卵子、胚やES細胞を利用せずに分化細胞の初期化を誘導し、ES細胞と同様な多能性や増殖能を有する誘導多能性幹細胞をいい、2006年にマウスの線維芽細胞から世界で初めて作られた。さらに、マウスiPS細胞の樹立に用いた4遺伝子のヒト相同遺伝子であるOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYCを、ヒト由来線維芽細胞に導入してヒトiPS細胞の樹立に成功したことが報告されている(Cell 131: 861-872, 2007)。本発明で使用されるiPS細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたiPS細胞、または今後開発される新たな方法により作製されるiPS細胞であってもよい。
ES細胞またはiPS細胞等の幹細胞の培養方法は特に限定されず、自体公知の方法によることができる。ES細胞の未分化性および多能性を維持可能な培地や分化誘導に適した培地として、自体公知の培地、または今後開発される新たな培地を用いることができる。具体的には、DMEMおよび/またはDMEM/F12などの市販のほ乳類細胞用基礎培地に、血清またはknock-out serum replacement (KSR)、並びにbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)などを加えたもの、市販の霊長類ES細胞用培地、霊長類ES細胞増殖用基礎培地hESF-GRO、霊長類ES細胞分化誘導用基礎培地hESF-DIF、霊長類ES細胞増殖培地CSTI-7等を用いることができる。また、培地には、ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞の培養に適する自体公知の添加物、例えば、N2サプリメント、B27サプリメント、インシュリン、bFGF、アクチビンA、ヘパリン、ROCKインヒビターやGSK-3インヒビターなどの各種インヒビター等から選択される1種または複数種の添加物を適当な濃度で添加することができる。培地およびその添加物は、使用する細胞、分化状態等により適宜選択し、使用することができる。例えば、Tiss. Cult. Res. Commun., 27: 139-147 (2008) に記載の方法によることができる。
本発明において、Adベクターを用いて導入しうる遺伝子は、FOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子である。本発明において、FOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子は、Adベクターを用いて幹細胞から肝細胞への分化過程のいずれかの細胞に導入することができる。具体的には、例えば中内胚葉系細胞、内胚葉系細胞や肝幹細胞が挙げられる。FOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子は、ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞から肝細胞への分化誘導への過程において、複数回導入しても良い。例えば、図9のプロトコールに示すように、中内胚葉系細胞にFOXA2遺伝子を導入し、内胚葉系細胞にFOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子を導入し、肝幹前駆細胞にFOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子を導入しても良い。
FOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子は、ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞に対して、FOXA2遺伝子やHNF1α遺伝子とは異なる分化誘導剤により分化させて作製した中内胚葉系細胞、内胚葉系細胞、肝幹前駆細胞等に導入することもできる。例えば、特許文献4に開示する方法により作製した各細胞にも導入することができる。具体的には、幹細胞から肝細胞へ効果的に分化を誘導しうる遺伝子としてHEX遺伝子、HNF4α遺伝子およびHNF6遺伝子から選択されるいずれかの遺伝子が挙げられ、より好適にはHEX遺伝子が挙げられる。上記の遺伝子を導入する前に、SOX17遺伝子を幹細胞へ導入し、培養することで、肝細胞への分化の方向付けをより効果的になすことができる。さらには、HNF4α遺伝子、HNF6遺伝子およびFOXA2遺伝子から選択されるいずれかの遺伝子、特に好適にはHNF4α遺伝子を細胞内に導入することで、より効果的に肝細胞へ分化誘導させることができる。SOX17、HEX、HNF-4α以外にも、GATA-4、GATA-6、HNF-1α、HNF-1β、HNF-3α、HNF-3β(FOXA2)、HNF-3γ、C/EBPα、C/EBPβ、TBX3、PROX1等の肝細胞の分化・増殖に関与する遺伝子を導入することにより、ES細胞またはiPS細胞から効率良く肝細胞を作製することができると考えられる。各遺伝子の導入の工程は、細胞の分化の程度に応じて適宜選択することができる。また、肝細胞をとりまく胆管上皮細胞を作製するためには、Sall4遺伝子およびHNF6遺伝子の導入が有効と考えられる。これらの遺伝子の導入は、所望の遺伝子を組み込んだAdベクターと各分化の状態に応じた幹細胞を接触させ、いずれかの遺伝子をさらに細胞内に導入することができる。さらに、肝細胞において発現するAR (androstane receptor)、 CAR (constitutive androstane receptor)、FXR (Farnesoid X Receptor)、PPAR (peroxisome proliferator-activated receptor)α、PXR (Pregnane X receptor)、RXR (retinoid X receptor)α、SHP (small heterodimer partner)等の核内受容体遺伝子、好ましくは、核内受容体遺伝子であるCAR遺伝子及び/又はFXR遺伝子を導入することで、より効果的に肝細胞を作製することができる。
本発明においてAdベクターは、特に限定されず、自体公知の方法で作製されたAdベクターを用いることができる。例えば、Ad受容体が発現していないかまたは発現していても非常に低い細胞に対してもAdベクターを導入可能なように改良された改良型Adベクターであってもよいし、Ad受容体が発現している細胞に対して使用しうるAdベクターであってもよい。具体的には、接着ペプチドの代表である細胞接着ペプチド(RGD配列)をコードするDNA、ヘパラン硫酸との親和性を有するペプチド、例えばK7(KKKKKKK:配列番号1)をコードするDNA、ラミニン受容体との親和性を有するペプチドをコードするDNA、E-セレクチンとの親和性を有するペプチドをコードするDNA、イングリンとの親和性を有するペプチドをコードするDNA等を導入したAdベクターを用いることができ、例えば特許文献1〜3に示すAdベクターを用いることができる。
導入する遺伝子について、FOXA2遺伝子は、例えばGenBank Accession No. NM_021784に登録されているものを、HNF1α遺伝子は、例えばGenBank Accession No.NM_000545に登録されているものを用いることができる。
本発明のAdベクターは、以下のA)およびB)の工程を含む製造方法により作製することができる。
A)導入遺伝子の非翻訳領域にプロモーター配列を含む発現コンストラクトを構築する工程。
B)Adゲノムを制限酵素で切断し、A)で作製した発現コンストラクトをAdゲノムにライゲーションする工程。
Adベクターに、上記に示す所望の遺伝子を組み込む方法は、自体公知の方法、または今後開発されるあらゆる方法を採用することができる。本発明のAdベクターは、1または複数の制限酵素の認識配列を各々制限酵素で消化し、導入遺伝子を、シャトルベクターを介して、またはシャトルベクターを介することなく、インビトロライゲーションにより導入することができる。本発明のAdベクターは、上記A)とB)の工程の間に、A)の発現コンストラクトを含むシャトルベクターを構築し、当該遺伝子発現シャトルベクターをAdゲノムにライゲーションすることにより作製してもよい。
未分化の細胞から成熟肝細胞への分化の各工程において、アクチビンA、bFGF、BMP4、FGF4、HGF、OsMなどの液性因子が用いられることが公知であるが、本発明によるES細胞またはiPS細胞等の幹細胞から肝細胞への分化誘導の工程においても、各液性因子を併用して細胞に接触させることができる。液性因子を細胞に接触させる工程は、特に限定されず、上記の各種選択された遺伝子の導入前であっても良いし、導入後であっても良い。さらに、複数回の遺伝子を導入する場合には、各遺伝子の導入と導入の間に細胞に接触させても良い。正常細胞の成長・分裂には細胞同士、他の細胞または基質への接着が必要であり、細胞と細胞、または細胞と基質の仲立ちをするタンパク質(細胞外マトリクス)も必要である。本発明の肝細胞への分化誘導させる方法においては、上述のような細胞外マトリクスも上記の工程において加えることができる。細胞外マトリクスとしては、マトリジェル、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ニドジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、またはこれらに相当する合成基質等を挙げることができ、本発明においてはラミニンを特に好適に使用することができる。具体的には、培養用容器にコーティングまたは添加することで、使用することができる。
本発明の分化誘導方法により作製した分化誘導肝細胞を用いて、薬物毒性や薬物動態評価を行うことができる。具体的には、当該分化誘導肝細胞に対して、薬物、例えば医薬品などの候補化合物を添加し、肝臓における主要な代謝酵素であるCYPによる代謝産物等を定量することで、生体での薬物動態(代謝産物)を事前に予測することが可能になる。また、当該分化誘導肝細胞に対して、薬物を添加し、肝細胞の生存率を評価することで、生体での薬物の毒性を事前に予測することが可能になる。これらにより、毒性や薬物動態の問題により排除されるべき薬物(例えば候補化合物)を早期にスクリーニング可能となり、創薬の加速化が期待される。本発明は、本発明の分化誘導方法により作製した肝細胞の、薬剤代謝能の測定方法や、生体での候補化合物の毒性を事前に予測するための毒性検査方法にも及ぶ。
以下、本発明の理解を深めるために実施例および実験例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。
(参考例1)中内胚葉系細胞(mesendoderm cells)への分化誘導
本参考例では、本発明の分化誘導肝細胞を作製するための中内胚葉系細胞の作製方法について示した。
(1)幹細胞の培養
幹細胞として、ヒトES細胞(human embryonic stem cells:以下「hESCs」)であるhESCs株H9 (WiCell Research Institute)、またはヒトiPS細胞(human induced pluripotent stem cells:以下「hiPSCs」)であるhiPSCs株Dotcom(JCRB Cellbankから供与;Dotcom、JCRB Number:JCRB1327)を使用した。以下の各実施例においても同様である。
hESCsは、5 ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF, Sigma)を含むRepro Stem培地(ReproCELL)を用いて、マイトマイシンC処理済みのマウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblasts;MEF)上で培養した。hiPSCsは、10 ng/mLのbFGFを含むiPSellon培地 (Cardio) を用いて、マイトマイシンC処理済みのMEF上で培養した。4〜5日ごとに0.1 mg/mLディスパーゼ(Roche)を用いて継代を行った。
(2)幹細胞から中内胚葉系細胞への分化誘導
幹細胞から中内胚葉系細胞への分化誘導は以下の方法で行った。hESCsまたはhiPSCsについて、分化誘導開始の24時間前に無血清培地hESF9で培地交換した。次に、細胞剥離液(Accutase, Millipore)を用いてhESCsまたはhiPSCsを回収後、100 ng/ml アクチビンA(Activin A, R&D systems)を含むDifferentiation hESF-GRO培地(10 μg/mL human recombinant insulin、5 μg/mL human apotransferrin、10 μM 2-mercaptoethanol、10 μM ethanolamine、10 μM sodium selenite、0.5 mg/mL fatty acid free bovine albumin [all from Sigma]を含む hESF-GRO培地 [Cell Science & Technology Institute]))に懸濁後、BDマトリゲルTM(Matrigel, BD Biosciences)でコーティングした細胞培養用12ウェルプレート(住友ベークライト)の各ウェルに6.25×104 cells/cm2の細胞密度でhESCsまたはhiPSCsを播種し、2日間培養し、中内胚葉系細胞を作製した。
(実施例1)Adベクターを用いて遺伝子を導入することによる肝細胞への分化誘導
本実施例では、Adベクターを用いて各種遺伝子を導入することによる、肝細胞への効果的な分化誘導方法について示した。本実施例では、hESCs由来の細胞を用いて検討した。
(1)Adベクターの作製
Adベクターの作製はin vitro ライゲーション法により行った。シャトルプラスミドpHMEF5のマルチクローニング部位に、FOXA2遺伝子またはHNF1α遺伝子を挿入した、FOXA2遺伝子またはHNF1α遺伝子発現シャトルプラスミドを作製した。導入する遺伝子は、FOXA2遺伝子では例えばGenBank Accession No. NM_021784に登録されているものを、HNF1α遺伝子では例えばGenBank Accession No. NM_000545に登録されているものを用いた。
次に、シャトルプラスミドをI-Ceu I と PI-Sce I で消化し、同酵素で消化した従来型ベクタープラスミド pAdHM41K7に挿入することにより、pAdHM41K7-EF-FOXA2またはpAdHM41K7-EF-HNF1αを作製した。作製したAdベクタープラスミドをPac Iで消化し、SuperFect (Qiagen) を用いて293細胞にトランスフェクションすることにより、AdHM41K7-EF-FOXA2(Ad-FOXA2)またはAdHM41K7-EF-HNF1α(Ad-HNF1α)を作製した。常法によりAdベクターの増殖・精製を行った。Adベクターの物理学的タイター (particle)はMaizelらの方法により測定した。
LacZ、HEX、HNF1β、HNF6、SOX17各遺伝子導入用ベクター(AdHM41K7-EF-LacZ(Ad-LacZ)、AdHM41K7-EF-HEX(Ad-HEX)、AdHM41K7-EF-HNF1β(Ad-HNF1β)、AdHM41K7-EF-HNF6(Ad-HNF6)、AdHM41K7-EF-SOX17(Ad-SOX17))についても、各々同手法で作製した。
(2)中内胚葉系細胞から内胚葉系細胞への分化促進
中内胚葉系細胞から内胚葉系細胞への分化を促進するために、参考例1で作製した培養2日目の中内胚葉系細胞に対して、上記(1)で作製した7種類の転写因子をそれぞれ搭載したAdベクター(Ad-SOX17、Ad-FOXA2、Ad-HEX、Ad-HNF1α、Ad-HNF1β、Ad-HNF4α、Ad-HNF6)を、各3,000 vector particles(VP)/cell加え、作用させた(図1)。
各作用させた細胞の培養5日目にそれぞれの細胞の内胚葉マーカー(CXCR4)の発現をFACSにより評価した。CXCR4は、FOXA2遺伝子導入細胞とSOX17遺伝子導入細胞の間で同程度の発現を示した(図2)。したがって、FOXA2遺伝子の導入により中内胚葉系細胞から内胚葉系細胞へ分化促進できることが示された。
(3)内胚葉系細胞から肝幹前駆細胞への分化誘導
上記(2)で作製した培養6日目の内胚葉系細胞に対して、上記(1)で作製したAdベクターAd-FOXA2、Ad-HNF1α)各々を1,500 vector particles(VP)/cell(合計3,000 vector particles(VP)/cell)作用させ、3日間培養した(図3)。その後、肝幹前駆細胞への分化誘導効率は肝幹前駆細胞マーカーであるAFP(α-1-fetoprotein)およびCYP3A7の発現を、FACSおよびRT-PCR法により確認した。その結果、Ad-FOXA2またはAd-HNF1αを3,000 vector particles(VP)/cellを導入した系で、AFP陽性細胞の割合が高かった(図4)。また、Ad-FOXA2およびAd-HNF1αを1,500 vector particles(VP)/cell(合計3,000 vector particles(VP)/cell)を導入した系で、CYP3A7の発現が高かった(図5)。したがって、FOXA2遺伝子およびHNF1α遺伝子の導入により内胚葉系細胞から肝幹前駆細胞へ分化促進できることが示された。
(4)肝幹前駆細胞から成熟肝細胞への分化促進
肝幹前駆細胞から成熟肝細胞への分化を促進するため、上記(3)で作製した培養9日目の肝幹前駆細胞に対して、上記(1)で作製した7種類の転写因子をそれぞれ搭載したAdベクター(Ad-SOX17、Ad-FOXA2、Ad-HEX、Ad-HNF1α、Ad-HNF1β、Ad-HNF4α又はAd-HNF6)を、各3,000 vector particles(VP)/cellずつ加え、作用させた(図6)。各作用させた細胞のそれぞれの細胞の成熟肝細胞への分化誘導効率を、培養20日目に肝細胞マーカーであるASGR1(asialoglycoprotein receptor 1)及びCYP2C19の発現をFACSおよびRT-PCR法により確認した(図7、8)。FOXA2、HNF1α遺伝子もしくはFOXA2、HNF4α遺伝子を組み合わせることによって、さらなる肝成熟化の促進が確認された。
以上の結果から、図9に示すプロトコールを用いて胚性幹細胞から肝細胞への分化誘導を行うことによって、効率良く肝細胞を分化誘導できることが明らかとなった。また、FOXA2遺伝子およびHNF1α遺伝子を組み合わせることによって作製した分化誘導肝細胞は、明確な輪郭や複数の核を有することが確認された(図10)。
(実施例2)分化誘導肝細胞による肝機能評価
本実施例では、分化誘導肝細胞による薬物代謝能の評価について検討した。本実施例では、hiPSCs由来の細胞を用いて検討した。薬物の大半は肝臓において代謝され、CYP、UGT酵素がその役割において特に重要であることが知られている。図9に示すプロトコールによる分化誘導肝細胞が、ヒト初代培養肝細胞(PHs)と比較して、どの程度の肝機能を有するか評価した。薬物代謝の第I相反応に関与するCYP遺伝子(図11)、薬物代謝の第II相反応に関与するUGT遺伝子やGST遺伝子(図12)、薬物代謝の第III相反応に関与する各種トランスポーター(図13)、CYP誘導に関与する肝関連核内受容体遺伝子(図14)の発現を調べた。その結果、分化誘導肝細胞における各種遺伝子の発現はヒト初代培養肝細胞と同程度のものが多かった。しかしながら、胎児型のCYPであるCYP3A7の発現がヒト初代培養肝細胞と比較して高いことから、幼弱肝細胞としての性質を有しており、分化誘導肝細胞はさらなる成熟化の余地があると考えられた。
また、図11〜14において用いたヒト初代培養肝細胞は48時間培養したものであり、より生体内の肝細胞に近い細胞をhiPSCsから作製するためにはさらなる肝成熟化が必要であると考えられた。
(実施例3)分化誘導肝細胞による肝機能評価
本実施例では、hESCsから分化誘導した培養2日目の中内胚葉系細胞にFOXA2遺伝子、培養6日目の内胚葉および培養 9日目の肝幹前駆細胞にそれぞれFOXA2, HNF1α遺伝子を導入して肝分化誘導させた後、培養20日目の細胞に対して、以下の核内受容体遺伝子を導入した。本実施例でさらに導入する遺伝子は、肝細胞において発現するAR (androstane receptor)、 CAR (constitutive androstane receptor)、FXR (Farnesoid X Receptor)、PPAR (peroxi- some proliferator-activated receptor)α、PXR (Pregnane X receptor)、RXR (retinoid X receptor)α、SHP (small heterodimer partner)等の核内受容体遺伝子である。各種遺伝子は、実施例1と同手法により各Adベクターを作製し、培養20日目の細胞に対して導入した。培養35日目に肝細胞への成熟度を肝関連マーカー(ASGR1)、胆管関連マーカー(CK7:cytokeratin 7)、肝幹前駆細胞等の未熟肝マーカー(AFP)の発現を測定することにより評価した。各マーカーの確認は、培養35日目にFACSにより調べた。
特に、核内受容体遺伝子であるCAR遺伝子又はFXR遺伝子を導入したときの、上記未熟肝マーカー(AFP)、成熟マーカー(ASGR1)及び胆管関連マーカー(CK7)の各マーカーの発現をFACSで確認した結果を図15に示した。実施例1と同手法により、核内受容体遺伝子であるCAR遺伝子又はFXR遺伝子導入用ベクターである(AdHM41K7-EF-CAR(Ad-CAR)又はAdHM41K7-EF-FXR(Ad-FXR)を作製した。導入する遺伝子は、CAR遺伝子では例えばGenBank Accession No. NM_001077482に登録されているものを、FXR遺伝子では例えばGenBank Accession No. NM_005123に登録されているものを用いた。コントロールのAd-LacZを導入した系に比べて、未熟肝マーカー(AFP)は減少し、成熟肝関連マーカー(ASGR1)は増加傾向を示した。
以上詳述したように、本発明のAdベクターを用いることで、ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞の分化誘導に係る遺伝子が効果的に導入され、肝細胞へ分化誘導させうることが確認された。具体的には、FOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子をES細胞またはiPS細胞等の幹細胞に導入することで、効果的に肝細胞へ分化誘導させうる。さらに、CAR遺伝子又はFXR遺伝子の導入により、より効果的に肝細胞へ分化誘導させうる。
本発明の分化誘導方法により作製した肝細胞を用いて、例えば薬物毒性評価や薬物動態評価を行うことができる。具体的には、本発明により作製した肝細胞に対して、医薬品候補化合物を添加し、肝毒性マーカーの発現変動を解析することで、生体での医薬品候補化合物の毒性を事前に予測することが可能になる。また、本発明により作製した肝細胞に対して、医薬品候補化合物を添加し、化合物の代謝産物を解析することで、生体での医薬品候補化合物の薬物動態(代謝産物)を事前に予測することが可能になる。これにより、毒性や薬物動態の問題により排除されるべき医薬品候補化合物を早期にスクリーニング可能となり、創薬の加速化が期待される。
本発明の方法により、ES細胞またはiPS細胞のような多能性幹細胞から肝細胞へ分化誘導させることができれば、in vitroで肝細胞構造の再構築が可能となり、さらには成熟肝細胞や、分化誘導による肝臓の作製が期待される。iPS細胞を作製し、さらに肝細胞へと分化誘導させることにより、そのヒト特有の自己由来肝臓の作製が可能となる。また、本発明の方法により、従来臓器移植でしか対応できなかった疾患に対しても、再生医療により治療することの可能性が開かれ、非常に有用である。

Claims (10)

  1. 幹細胞から肝細胞への分化過程において、アデノウイルスベクターを用いて細胞にFOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子を導入する工程を含む、幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
  2. 幹細胞から肝細胞への分化過程において、アデノウイルスベクターを用いて細胞に遺伝子を導入する工程が、中内胚葉系細胞にFOXA2遺伝子を導入する工程である、請求項1に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
  3. 幹細胞から肝細胞への分化過程において、アデノウイルスベクターを用いて細胞に遺伝子を導入する工程が、内胚葉系細胞にFOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子を導入する工程である、請求項1または2に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
  4. 幹細胞から肝細胞への分化過程において、アデノウイルスベクターを用いて細胞に遺伝子を導入する工程が、肝幹前駆細胞にFOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子を導入する工程である、請求項1〜3のいずれか1に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
  5. さらに、アデノウイルスベクターを用いて核内受容体遺伝子であるCAR (constitutive androstane receptor)遺伝子および/またはFXR (Farnesoid X Receptor)遺伝子を導入する工程を含む請求項1〜4のいずれか1に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
  6. アデノウイルスベクターを用いて核内受容体遺伝子であるCAR遺伝子および/またはFXR遺伝子の導入が、FOXA2遺伝子および/またはHNF1α遺伝子を導入する工程の後になされる請求項5に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか1に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法により得られた肝細胞。
  8. 請求項7に記載された肝細胞について、CYP酵素活性を測定することを特徴とする、肝細胞による薬剤代謝能の測定方法。
  9. CYP酵素活性に加えて、UGT活性および/またはGST活性を測定することを特徴とする、請求項8に記載の薬剤代謝能の測定方法。
  10. 薬物を、請求項1〜6のいずれか1に記載の幹細胞から肝細胞への分化誘導方法により得られた肝細胞と接触させ、細胞毒性を評価することを特徴とする、薬物の毒性検査方法。
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