JP2013250114A - 強磁性体を含む構造物や材料のある時点からの塑性変形量を評価する方法 - Google Patents

強磁性体を含む構造物や材料のある時点からの塑性変形量を評価する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】強磁性体を含む構造物あるいは材料において、それまでに構造物あるいは材料が受けた総歪量によらない、ある時点からの構造物や材料の塑性変形量や塑性変形領域、疲労の度合いを評価すること、さらにはある時点から進展した構造物あるいは材料の亀裂を検出する方法を提供する。
【解決手段】予め着磁した強磁性体を含む構造物や材料11の残留磁化の変化量及び/又は分布の変化から、着磁を施した時点以降の構造物や材料11の塑性変形量及び/又は塑性変形領域を評価する。
【選択図】図1

Description

本発明は、予め着磁した強磁性体を含む構造物や材料の残留磁化の変化量及び/又は分布の変化から、該着磁を施した時点以降の該構造物や該材料の塑性変形量及び/又は塑性変形領域を評価する手法に関するものである。
外力を受けた材料は、最初、弾性変形するが、降伏応力以上の荷重を受けた場合、もしくは疲労限度以上の繰り返し応力が掛けられた場合、塑性変形が始まる。弾性変形は、付加荷重が外れた後、元に戻ることから、その影響をその材料に残すことはないが、塑性変形の場合、変位が元に戻らないことから、残留応力の発生や疲労限度の上昇、破壊の起点、製品の精度の低下をまねく。
一方、塑性変形は、大きな応力を受けた箇所にしか発生しないことから、工具や金型の損傷の度合いを測る指標となる。そのため塑性変形の少ない加工法になるように各種パラメーターを最適化すれば、工具や金型の高寿命化が得られ、コストの低下や生産効率の上昇、省資源に役に立つ。
また塑性変形は構造物の座屈や応力集中、疲労限度の低下を引き起こすことから、震災等の大きな揺れを受けた構造物の損傷被害を見積もる重要な指標となる。構造物を構成する鋼材等の塑性変形の度合いを評価することにより、建物の残余耐震性を明らかにすることができる。
さらに塑性変形は、応力の集中した亀裂先端に発生しやすいことから、逆に塑性変形の箇所を探れば、亀裂位置が特定でき、老朽化した構造物のメンテナンスに有用であり、社会インフラの点検管理にも大いに役立つ。
構造物の座屈や応力集中、疲労限度の低下を引き起こすことから、震災等の大きな揺れを受けた構造物の損傷被害を見積もる重要な指標となる。構造物を構成する鋼材等の塑性変形の度合いを評価することにより、建物の残余耐震性を明らかにすることができる。
そのため塑性変形量や塑性変形領域を正しく評価することは、社会や製造プロセスにおける安全性や耐久性を向上させる意味で大変重要な指標となる。
これまでにも塑性変形の評価には、様々な手法が提案されてきた。材料の塑性変形を測定する手法には大きく分けて、測定物を構成する材料そのものの物性の変化を利用して評価する手法と測定物に張り付けたセンサーの信号から評価する手法がある。またこれとは別に、計算機シミュレーションにより、塑性変形量を評価する試みもある。ここでは最初にこれまで提案されてきた材料そのものの物性の変化を利用した塑性変形量を評価法について述べる。
塑性変形は、材料の表面形状に変化を生じさせることから、表面にケガキ線を入れた格子法(非特許文献1)やホログラフィー(非特許文献2)等の画像の変化から評価することができる。しかしながら、評価するものが高層建築物の鋼材等、大型の構造物の場合、こうした手法により広範囲な変形を評価することは難しい。また変形前の形状も測定する必要があることから、簡便な方法とはなりえない。
一方、材料の硬さから塑性変形量を評価する方法は、塑性変形により転位密度が増加して、材料が加工硬化する性質を利用している(非特許文献3)。ところが一般の製品は、製造プロセスにおいて一定の形状となるように塑性加工や熱処理等が施されていることから、加工工程のばらつきが硬さにも大きな影響を与えており、その後の塑性変形による硬度の上昇を区別して評価することは難しい。
さらにX線回折や中性子線による格子間隔の変化から残留応力を評価し、塑性変形を推定する測定法も多用されている(非特許文献4)。しかし、硬さ試験同様、格子間隔には加工プロセスでの塑性歪みも影響することから、製品となった後に与えられた塑性歪み量を定量化することはむずかしい。またX線で測ることができるのは、表面から数ミクロン程度の深さの領域のみであるため、該材料のバルクとしての塑性変形量を見積もることはできない。一方、中性子線は物質を透過することから、該材料全体の塑性状態を評価することは可能だが、該材料自体放射化してしまうことから、該材料を継続して使用することを目的とする評価法には向かない。
一方、材料の表面粗さの増加による光学的反射率やレーザーのスペックルパターンから塑性変形を評価する手法も提案されている(非特許文献5)。しかしながら、この手法を適応するには初期状態において表面を鏡面に研磨しておく必要があり、大型な構造物の場合、大きなコストが掛ってしまう。また一度塑性変形してしまった場合、初期状態に戻すには表面を再研磨する必要があるため、大型の構造物の場合、現実に実施するのは難しい。
他方、バルクハウゼンノイズの量から塑性変形を評価する手法も提案されている(非特許文献6)。バルクハウゼンノイズは転位にピン止めされた磁壁が外磁場によって動く際に発生する磁壁の運動に対応した電磁波であり、ピン止めする転位量が増加するほど信号強度が増すことを利用している。しかしながら本手法は該材料の弾性変形によっても信号強度の増加するため、純粋な塑性変形の評価とはなっていない。また測定する転位密度は、加工時を含めた全履歴過程で生じたものであり、特定の期間に増加した転位量を定量的に評価するのは難しい。
さらに非磁性体であるオーステナイト系ステンレスの場合に限っては、塑性変形時の応力によって強磁性相のマルテンサイトへと変態が誘起されることから、透磁率の測定による塑性変形量の評価が提案されている。しかしながら、この手法は一般の鋼材等を構成するフェライト相には適応できないことから、特定の材料に限った限定的な評価法にすぎない。また応力誘起変態には応力に高い敷居値が存在することから、微小な塑性変形を検出するのには向かない。さらに一度塑性変形した該材料を初期状態に戻すには、A点以上での熱処理が必要であり、現実の製品に適応するのは難しい。
また近年、塑性変形量の新しい評価法として、塑性領域で発生する超音波の高調波を測定する非線形超音波法が提案されているが(非特許文献7)、高調波は他の非線形要素からも発生する可能性があり、また超音波の強度は材料の形状や測定子の取り付け位置にも大きく依存するため、汎用的な評価法とはなりにくい。
さらに近年、塑性変形量の新しい評価法として、繰り返しの変形下における温度の上昇をサーモグラフィで映像化する手法が提案されているが(非特許文献8)、一定周期で荷重の掛る状況下での塑性変形のみが測定できるに過ぎない。そのため地震や加工といった過去の瞬間的な荷重負荷の場合、これらの塑性変形量を評価することはできない。
次に測定物に張り付けたセンサーから塑性変形量を評価する手法について述べる。これらの手法全般に見られる欠点としては、センサーを取り付けた一部の領域しか塑性変形量を評価できないことにある。この点が前述した材料そのものの物性の変化を利用した評価法とは大きく異なる。
この手法で最も汎用的なのは、測定物に歪みゲージを張り付けることによる歪みの評価法である。歪みゲージの信号は基本的に変位であり、弾性変形と塑性変形を区別することができない。そのため塑性変形のみを評価するため、塑性変形時のポアソン比の変化を測定する手法が提案されているが(非特許文献9)、張り付けるセンサーの数を増すだけ、測定が複雑になる。
また歪みゲージの多くは、その電気抵抗の変化を信号とすることから、測定には精度の高い高価なアンプによる測定が必要となる。さらに電気的な配線を必要とすることから、設置に多くの労力を要する。さらに震災等があった場合、これらを動かす電源システムが信頼性良く稼働するかには大きな疑問がある。
また近年、光ファイバーによる塑性歪みの評価法も提案されているが(非特許文献10)、この方法も弾性変形と塑性変形を区別することはできない。また回折光の波長や振動数のシフトといった光の微細な変化をとらえる必要があるため、装置は高価にならざるを得ない。
さらに近年、電気伝導繊維の破断による電気伝導度の変化を使った最大歪み変形量の評価法が提案されているが(特許文献1)、この方法でも弾性歪みと塑性歪みを区別することはできず、また各素子を評価するためには電気伝導度を測定する必要があることから、配線等の手間も必要となる。また素子以下の空間分解能を持たないことから、微細な領域の測定には向かないなど課題も多い。
計算機シミュレーションによる塑性変形量を評価する試みについて述べる。例えば、有限要素法を使った計算機シミュレーションによる塑性変形の評価が数多く行われている。
基本的に計算機シミュレーションによる塑性変形の評価は、モデルの信頼性と計算をするための入力情報の信頼性が問題となる。塑性変形は多数の転位の集団運動であり、ミクロにおいては大変複雑な現象である。そのため現在においても、塑性ポテンシャルや弾塑性構成方程式といった材料特性に依存した経験論的なパラメーターを利用したマクロな計算に頼っているのが現状である。
また現場における各構造物の環境も複雑であり、塑性変形をモデル化する場合、入力情報についても信頼性が低くならざるを得ない。例えば地震等で構造物が損傷した場合、各場所での構造材に掛った応力を的確に評価することは難しく、そのために多くの場所で常時震度計をモニタリングするなどの工夫が必要となる。ところが構造物の機械パラメータは経年変化するため、震災時の揺れについて正確な評価をすることが難しい。また塑性加工や除去加工の場合においても、プロセスが潤滑油等を含んだ複雑な摩擦係数下で、温度上昇をともなった非定常状態で現象が進むことから、モデルにおける信頼性は低いといえる。
そのため、材料の複雑な塑性変形量を定量的に評価するには、材料を直接測定する手法に頼らざるを得ない。しかしながら、前述したようにこれらの手法のほとんどは、材料のこれまでの全履歴を通した全塑性歪みに関した評価法であり、特定の期間に発生した塑性歪みのみを評価しようとしても、全体に対するばらつきの中に埋もれてしまい定量的な評価ができないでいた。また特定の期間の塑性変形を評価する手法ができる場合でも、その材料に特殊な加工を施す必要があったり、初期状態に戻すのが難しかったり、測定に多くの労力や時間が必要だったりと、既存の設備に適応するにはコストや時間の面で大きな問題があった。
特開2006−308414号公報 特開2006−322886号公報 特願2008−038845号公報 特願2006−163048号公報 格子法による塑性変形の応力・歪み自動測定システムの試作,古閑 伸裕,村川 正夫縛,柳本 哲史,富田 正一,非破壊検査 38(8),689-694, (1989) デジタルホログラフィによる形状・変形測定,山口 一郎,非破壊検査,52(3), 127-131, (2003) 塑性ひずみ測定技術の開発とその適用について,野中 善夫 , 西水 亮 , 黒崎裕一 , 大岡 紀一,非破壊検査, 59(6), 261-266, (2010) 中性子による残留応力測定の基礎,秋庭 義明,非破壊検査,60(2), 72-78, (2011) レーザースペックルパタ-ンによる塑性ひずみの測定,平田利英 , 渡辺 正昭 , 宮川 松男,非破壊検査 29(8), p517-524, (1980) バルクハウゼンノイズの引張り塑性ひずみ測定への適用,坂本 広明 ,稲熊 徹 , 山名 成彦 , 佐々木 孝雄,非破壊検査 49(11), 767-774, (2000) 非線形超音波法による有孔帯板塑性変形度の画像化,川嶋 紘一郎,非破壊検査,60(4), 222-223, (2011) 赤外線サーモグラフィによる橋梁の非破壊試験技術,阪上 隆英 , 和泉遊以 , 久保 司郎,非破壊検査,60(6), 309-314, (2011) ひずみゲ-ジによる塑性応力の測定法,放生 明広 , 茶谷 明義,非破壊検査 33(9), p674-680, (1984) 光ファイバひずみセンサによる樹脂の硬化収縮ひずみ測定,高坂 達郎,逢坂 勝彦,澤田 吉裕,材料 60(5), 432-438, (2011) Theory of themagnetomechanical effect, D.C. Jiles, Journal of Physics D: Applied Physics,Vol.28, (1995) 1537-1546. 超伝導デバイスを用いた非破壊評価,葛西直子,高島 浩,鈴木大介,廿日出 好,電子技術総合研究所彙報 第64巻 第8号,(2000),p35-41 磁気物性に現れる付加残留応力と総残留応力,小竹 茂夫,日本機械学會年次大会講演論文集,2010(1),261-262, (2010) 岡本壮平 , 小竹 茂夫 , 鈴木 泰之,中西栄徳,切削加工後のWC−Co超硬工具の切削加工表面に現れる自発磁化測定,日本機械学會論文集. C編 76(762), 438-445, (2010) さび止め塗料の剥離状況による鋼材の損傷度評価,西山功 他,日本建築学会大会学術講演概要集(中国),22158, p.315-316,(1999) 塑性歪を受けた鋼材の残存変形性能と硬さの関係,田中真弥,村田光,松本由香,日本建築学会大会学術講演概要集(関東),22471,p.941-942,(2006) 建築物の地震後の残余耐震性能評価,楠浩 一,コンクリート工学,Vol.44, No.5, p.102-105, (2006)
上記のように、従来報告されている技術では、強磁性体を含む構造物あるいは材料において、それまでに該構造物あるいは該材料が受けた総歪量によらない、ある時点からの該構造物あるいは該材料の塑性変形量や塑性変形領域、疲労の度合いを評価すること、さらにはある時点から進展した該構造物あるいは該材料の亀裂を検出することは、開示されていない。
上記課題を解決するため、本発明は、被評価対象の磁性体構造物及び/又は、磁性体構造物用モニターを所定の磁化方法、所定の着磁強度で着磁する工程と、位置決め装置と、周知の磁気センサーを用い、前記磁性体構造物及び/又は前記磁性体構造物用モニターの表面空間の磁界分布を測定し、該測定データを基準データとして記憶装置に記憶する工程と、前記磁性体構造物及び、前記磁性体構造物用モニターが外力を受けた後に、前記位置決め装置と、前記周知の磁気センサーを用い、前記磁性体構造物及び/又は、磁性体構造物用モニターの前記表面空間の磁界分布を測定し、該測定データを評価時データとする工程からなり、前記基準データと前記評価時データとの差異を求め、該差異に基づいて前記磁性体構造物の受けた塑性変形量、亀裂、塑性変形領域の少なくとも1つを推定することにより、磁性体構造物の損傷を評価システムであることを特徴とする。ここで磁性体構造物とは強磁性体を含む構造物あるいは強磁性体を含む材料をさす。
さらに本発明は、前記所定の磁化方法が、強磁性体を含む構造物あるいは材料の表面と垂直方向でほぼ均一に着磁する方法、或いは、異なる磁極からなる周期的パターンもしくは予め定めた基準パターンに基づいて着磁することを特徴とする前記の磁性体構造物損傷評価システムであることを特徴とする。
さらに本発明は、前記位置決め装置が、前記磁性体構造物表面に設けられた基準パターン上のマークを光学センサー或いは、接触センサーで検出しながらセンサーの位置決めを行うことを特徴とする前記の磁性体構造物損傷評価システムであることを特徴とする。
さらに本発明は、前記磁性体構造物用モニターが構造物に一体化され、前記構造物と一体に外力を受けるものであって、前記表面空間の磁界分布を測定することを特徴とする磁性体構造物損傷評価システムであることを特徴とする。
本発明が被評価対象とする磁性体構造物とは、強磁性体を含有する、建造物、構造物、工具、治具、材料であってもよい。本発明では、強磁性体が持つ残留磁化が機械的な応力により変化する性質を応用する。特に外力を受けた強磁性体の残留磁化がその材料の非履歴磁化曲線に漸近する性質を利用する(非特許文献11)。また塑性変形の際に、磁壁をピン止めしていた転位が移動するために、磁壁の再構成が生じ、強磁性体の残留磁化が外部磁場と釣り合った非履歴磁化曲線に近づいた後に、もとに戻らなくなる性質を利用する。
これにより予め着磁された強磁性体を含む構造物や材料は、該構造物や該材料の保磁力以下の弱い磁場下で応力が加えられることにより、塑性変形した領域の残留磁化が減少することから、変形後の残留磁化分布を測ることにより、塑性変形量や塑性変形領域を定量化することができる。
周囲の磁場が該構造物や該材料そのものの持つ保磁力と比べて十分に低い場合、転位のピン止めを外れた磁壁は、空間の磁気エネルギーを減少させる様に移動することから、着磁された残留磁化は減少し非履歴磁化曲線に近づく。これにより該構造物や該材料の塑性変形部に残留磁化の減少が観察されることから、着磁後に生じた塑性変形量が評価できる。
本発明では、強磁性体を含む構造物や材料において、ある時点からの塑性変形量および塑性変形領域を評価するために、該構造物や該材料に保磁力以上の外部磁場を与え着磁を施すことで、該構造物や該材料に残留磁化分布の初期状態を与え、その後、残留磁化強度の低下を検出することにより、これを起点として、それ以降の塑性変形による変化のみを評価できるようにする。
これは、外部から磁界を施して該構造物や該材料の内部の磁壁を動かし、それぞれの磁壁に転位を再びピン止めさせることにより、ある残留磁化パターンにすることで、それまでの塑性変形による転位の運動により磁壁の分布が再構成されてきた履歴を消す効果があるためである。
このような付加的な塑性変形量を、経時的な差分ではなく、絶対値として測る手法は、これまでの塑性変形を評価する手法には見られず、本発明における特徴のある手法であるといえる。
さらに本発明では、強磁性体を含む構造物や材料において、ある時点からの亀裂の進展を評価するために、該構造物や該材料に保磁力以上の外部磁場を与え着磁を施すことで、該構造物や該材料に残留磁化分布の初期状態を与え、それ以降の残留磁化の変化を測定する。進展した亀裂の周囲は塑性変形をおこすため、残留磁化の低下から進展した亀裂の位置や亀裂の進展距離を検出することができる。
一方、該構造物や該材料の表面に平行に着磁させた場合、漏れ磁束は小さくなり、該構造物や該材料の残留磁化の変化を正確に読み取ることが難しくなる。そのため本発明では、残留磁化パターンを該構造物や該材料の表面に垂直方向にほぼ均一に着磁することにより、外部に該構造物や該材料の残留磁化に比例した十分な漏れ磁束が得られるようにする。
また残留磁化を測定するプローブと該構造物や該材料の表面との距離が離れていた場合、プローブに至る磁束が小さくなることから、外部からの磁場ノイズの影響を受けやすく、正確に該構造物や該材料の残留磁化の変化を評価することが難しくなる。そこで本発明では、一次元もしくは二次元の異なる磁極からなる周期的な残留磁化パターンを該構造物や該材料の表面に着磁する。これにより空間における周期的な漏れ磁束の変化やそのスペクトルから、外部からの磁場ノイズとの区別を明らかにすることができる。
他方、該構造物や該材料に特定のパターンを着磁させるには、該構造物や該材料の保磁力以上の磁場をそのパターンに従って極性を反転させて掛ける必要がある。これを可能にするには、一般に着磁ヘッドの位置を検出する機構を持った着磁装置を用いればよい。本発明では、光学センサー等の位置決め装置を使って、予め該構造物や該材料の表面に設置した基準パターンを検出しながら着磁することで、基準パターンと同じパターンを簡便に該構造物や該材料に着磁することを可能にする。
さらに、上記のような特定の基準パターンに従った残留磁化パターンの残留磁化量を検出するには、その基準パターンとの一致を確認するなどの特別な工夫が必要となる。しかし、現場では、位置を確認しながらの測定や、一定速度でプローブを移動させるなどの作業は難しいため、簡便な方法が求められる。本発明では、着磁させた際に用いたものと同じ基準パターンを測定面に設置した後に、位置決め用センサーと磁気センサーが同じ位置または一定距離にあるプローブを用いて、前者で基準パターンの位置情報を検出しながら、後者で磁束密度を検出する。回路もしくはPC上で、ある窓関数における位置決め用センサーと磁気センサーの出力の相互相関係数を計算することにより、該構造物や該材料の残留磁化パターンの強度変化を得ることができる。位置決め用センサーと磁気センサーの距離は、着磁を施した特定の周期と等しい場合には、両者の出力信号をコンパレータ−等の電子回路で評価することもでき、装置はより簡便となる。これによりプローブを該構造物や該材料の表面において全体を走査させることによって、該構造物や該材料の塑性変形量や塑性変形領域を評価することが可能となる。
さらに本発明では、磁性体構造物用モニターを測定物に張り付けることにより、測定物が非磁性体や塑性変形による大きな残留磁化の低下が見られない材料であった場合においても、磁性体構造物用モニターの残留磁化がそれ自身の塑性変形により低下することから、磁性体構造物用モニターを張り付けた測定物の最大ひずみ量を評価することが可能となる。
さらに本発明では、強磁性体を含む構造物や材料の一方の表面に磁性流体を分散させたシートからなる磁性体構造物用モニターを設置することで、該構造物や該材料の漏れ磁束の変化を該シートの磁性流体のパターンから読み取ることができることから、該構造物や該材料の塑性変形量や塑性変形領域、疲労の度合い、亀裂の進展や該磁性体構造物用モニターを張り付けた測定物の最大ひずみ量を目視で評価することが可能となる。
さらに本発明では、該磁性体構造物用モニターに焦点を合わせたレンズ系を用い、これに照明を当てることにより、暗く離れた場所におかれた該構造物や該材料の塑性変形量や塑性変形領域、疲労の度合い、亀裂の進展や該磁性体構造物用モニターを張り付けた測定物の最大ひずみ量を目視で評価することが可能となる。
また強磁性体を含む構造物や材料の残留磁化分布を計測する本手法は、外部から故意に該構造物や該材料に磁場を掛けられた場合、容易に該構造物や該材料の残留磁化分布が変わってしまい該構造物や該材料の塑性変形量を評価することができない。また環境下で強い外部磁界が存在する場所でも同様な影響が心配される。そのため、これらの可能性がある場合には、該構造物や該材料の塑性変形量や塑性変形領域の評価には信頼性が置けない。
こうした外部からの影響の有無を明らかにするために、着磁した際に用いた基準パターンや初期の残留磁化である基準データを機密情報とする工夫が考えられる。これにより、第三者は、該構造物や該材料の着磁分布を詳しく調べることなしに、容易に同じパターンを該構造物や該材料に再着磁することができない。これにより、本手法による該構造物や該材料の塑性変形量や塑性変形領域の評価の信頼性を向上することができる。
さらに本発明では、前述の予め着磁した強磁性体を含む構造物や材料の残留磁化の減少量から着磁を施した時点からの該構造物や該材料の塑性変形量や塑性変形領域を評価する方法において、該構造物や該材料の残留磁化パターンを透磁率の高い材料からなる磁気シールドで覆うことによって、外部磁界を該構造物や該材料の残留磁化パターンに届きにくくできることから、外部磁界による残留磁化の変化を防ぐことができる。
さらに本発明では、前述の予め着磁した強磁性体を含む構造物や材料の残留磁化の減少量から着磁を施した時点からの該構造物や該材料の塑性変形量や塑性変形領域を評価する方法において、交流消磁による脱磁や再着磁を該構造物や該材料に対しておこなうことにより、それまでに該構造物や該材料が受けた塑性変形の情報を消すことができる。これによりそれまでの塑性変形による履歴を消して、任意の時間からの塑性変形量を評価することができる。また脱磁により、該構造物や該材料が持つ残留磁化を消すことができることから、該構造物や該材料の残留磁化が他に悪い影響を与える場合にこの原因をなくすことができる。
さらに本発明では、前述の予め着磁した強磁性体を含む構造物や材料の残留磁化の減少量から着磁を施した時点からの該構造物や該材料の塑性変形量や塑性変形領域を評価する方法において、電池で長時間駆動可能な位置決め用センサーや磁気センサー、無電源で評価可能な磁性流体を分散させたシートからなる磁性体構造物用モニターを用いることにより、地震や自然災害等の緊急時においても、外部電源を確保することなく該構造物や該材料の塑性変形量や塑性変形領域の評価を実施することができる。
以上のように本発明は、特定の時点からの該構造物や該材料の塑性変形量や塑性変形領域を残留磁化の減少から明らかにできるため、上記の課題を解決する有望な手法といえる。また工業用の材料の多くが強磁性体を含むことから、広い産業上の応用をもつ手法となりうる。
一方、本発明と同様に残留磁化の変化を非破壊検査に応用したものには、葛西らのSQUID(超伝導量子干渉素子)を利用した技術がある(非特許文献12)。また廿日出らによっても、同様にSQUIDによる非破壊検査が提案されている(特許文献2)。しかし、これらの技術は消磁された試料が応力下で僅かに残留磁化が増加する様子を観察する技術であり、着磁した試料の残留磁化の低下を評価したものではない。そのため葛西や廿日出らの技術は、微小な磁化の変化を捉えることから、現在の磁気センサーの中で最大の磁気分解能を持つSQUIDを使い、測る際に周囲に磁気シールドの必要な大掛かりなシステムとなっている。一方、本発明は、数十〜数百mTにも及ぶ大きな磁化の変化を捉えるものであり、ホール素子等、汎用の磁気センサーで、周囲の磁気をシールドしなくても測定可能である。
一方、小竹は、強磁性体を含む材料を焼入れした際に生じる自発磁化の変化から、焼入れ性の評価法を提案している(特許文献3)。これはオーステナイト変態温度以上に加熱された試料が焼入れら入れる際に自発磁化をもつもので、試料は一旦、キュリー温度以上の加熱で消磁されており、これが冷却の際、外場によって磁化されるものであり、本発明における着磁した試料が塑性変形によって減磁される現象とは異なる。
また小竹は、強磁性体を含む金型の研削加工やプレス加工での使用時において、磁化が変化することから、残留磁化を見積もる方法を提案しているが(特許文献4)、これは消磁した試料が加工によって磁化する現象について述べたものであり、本発明による着磁した試料の減磁を評価したものとは異なる。
他方、小竹は、消磁した試料に応力が加わると残留磁化が増加する現象を利用して、消磁した時点からの付加塑性変形を評価する手法を提案している(非特許文献13、非特許文献14)。この技術も試料を着磁した際の減磁を評価したものではなく、消磁された試料が磁場下での応力付加で残留磁化が増加する現象を応用した技術である。
小竹の手法は、応力が付加される際、大きな磁場下に置く必要があるため、通常の構造物を構成する材料には適応できない。また測る材料を大きな外部磁場下に置くため、外部磁場に影響されて塑性変形と関係のない部分でも残留磁化が増加するなどの問題点があった。それに対し、本発明は、着磁した試料を無磁場下で塑性変形させるものであり、地磁気下にある通常の構造物にも使え、外磁場が影響を与えず、塑性変形のみを評価できるなどのメリットがある。
本発明により、該構造物や該材料を着磁した後、これに大きな力が掛った場合、該構造物や該材料の残留磁化分布を測ることにより、その減少量および分布から着磁以降に該構造物や該材料が受けた塑性変形量や塑性変形領域を定量的に評価することが可能となる。またこの残留磁化の減少量は、それまでに該構造物や該材料が受けた総歪量によらないことから、ある期間に発生した塑性変形量を精度よく求めることができる。
本発明により、該構造物や該材料を着磁した後、これに大きな力が掛った場合、該構造物や該材料の残留磁化分布を測ることにより、その減少量および分布から着磁以降に該構造物や該材料が受けた疲労の進展度合いを定量的に評価することが可能となる。またこの残留磁化の減少量は、それまでに該構造物や該材料が受けた総疲労量によらないことから、ある期間に発生した疲労の量を精度よく求めることができる。これは、疲労も通常の塑性変形と同様に、外部応力の付加により転位が移動することから、残留磁化が減少するためである。
本発明により、該構造物や該材料を着磁した後、これに大きな力が掛った場合、該構造物や該材料の残留磁化分布を測ることにより、その減少量および分布から、着磁以降に該構造物や該材料において亀裂が進展した領域を検出することができる。これは亀裂先端領域において応力が集中することから、亀裂が進展した領域で新たに塑性変形が起こり、残留磁化が減少するためである。
さらに本発明により、強磁性体を含む構造物や材料の表面に垂直方向に任意の残留磁化パターンを着磁することで漏れ磁束を大きくすることができ、該構造物や該材料の残留磁化の変化を大きくとらえることができる。これによりホール素子等の汎用な磁気センサーを使っても精度よく残留磁化の変化を評価することができる。
さらに本発明により、一次元または二次元の異なる磁極からなる周期的なパターンを着磁することにより漏れ磁束の変化を大きくすることができる。ある窓関数下での漏れ磁束の空間スペクトルや周期パターンとの相互相関スペクトルを計算することにより、信号のS/N比が格段に向上できる。これにより、離れた位置からも精度良く残留磁化の減少量を評価することができ、コンクリートや化粧板、土等の非磁性体が測定する該構造物や該材料とプローブとの間にあって両者を離さざるを得ない場合においても、本発明の適用が可能となる。フラックスゲートセンサーや磁気インピーダンス素子を用いることにより、検出磁界の感度が上がることから、該構造物や該材料とプローブの距離をさらに広げることが可能となる。
さらに本発明により、予め該構造物や該材料の表面に設置した基準パターンを検出しながら着磁することで、基準パターンと同じパターンを簡便に強磁性体を含む構造物や材料に磁化することができることから、動きにくい現場でも迅速に作業を進めることができる。また作業に特殊な技能を要しないことから、地域住民の手で安価に作業を進めることができる。
さらに本発明における位置決め用センサーと磁気センサーが同じ位置または一定距離にあるプローブと前述の基準パターンを測定面に設置して用いることにより、複雑な制約なしに、残留磁化の変化を簡便に測定することができる。もしくは磁性流体を分散させたシートからなる磁性体構造物用モニターを測定物表面に設置することにより、目視で残留磁化の変化を評価することができる。これにより、作業をしにくい現場において、簡便かつ迅速に塑性変形量や塑性変形領域、亀裂の進展等を評価することができる。これにより高度な専門知識なしに構造物の損傷や残余耐震性を評価できる。例えば震災後の構造物における被災度の評価を地域住民の手で行うことができ、災害からの復旧を早めることができる。
さらに本発明により、表面に垂直方向に任意の残留磁化パターンを着磁した磁性体構造物用モニターを測定物に張り付けることで、測定物が非磁性体であった場合においても、該測定物の最大ひずみ量を評価できる。これにより、それまで最大歪みを測定するために用いてきたコストの高いセンサーの代替が安価にできる。この磁性体構造物用モニターは該測定物に張り付けられたまま再着磁が可能であることから、簡単な維持管理作業により、最新の最大歪みを評価することができる。再利用も簡単である。
さらに本発明により、磁性流体を分散させたシートからなる磁性体構造物用モニターを前述の残留磁化パターンの一方の面に設置することにより、特殊な磁気センサーを用いくことなく該測定物の塑性変形量や亀裂の進展、最大変位量を目視により確認できることから、構造物の震度の判定や損傷判断をその場で迅速に行うことができる。これにより構造物が震災にあった場合、その場で構造物の残余耐震性を確認できることから、住民や作業者に緊急な退避が必要であるかの情報を与えることができる。
さらに本発明により、前述の磁性体構造物用モニターを照明で照らし、磁性体構造物用モニターに焦点を合わせたレンズ系で観察できる機器を用いることにより、磁性流体のパターンを暗い場所でも遠くから確認することができる。構造物の化粧板にこの機器を取り付けることにより、鉄骨が化粧板から離れた照明の届かない位置にあっても、その塑性変形量を磁性流体のパターンから確認することができ、構造物が震災にあった場合、その場で残余耐震性を確認できる
さらに本発明により、着磁に使った基準パターンや初期の残留磁化である基準データの情報を機密とすることにより、その後、第3者による再着磁ができにくくなることから、残留磁化データの改ざんを防ぐことができる。例えば震災後、損傷を受けた建物を構成する鋼材を第3者が再着磁することにより、損傷がないものとして偽装しようと試みたとする。ところが第3者は着磁に使った基準パターンや基準データを知らないことから、元と同じパターンを再着磁することはできない。このため着磁に使った基準パターンや初期の残留磁化である基準データとその後の時点での残留磁化を比較することで、残留磁化データの再着磁の有無が判断できることから、塑性変形量や塑性変形領域、亀裂の進展等の評価の信頼性を向上させることができる。
一方、該構造物や該材料が外磁場の強い環境に置かれている場合、残留磁化パターンが影響を受ける恐れがある。そこで本発明により、残留磁化パターンを透磁率の高い材料からなる磁気シールドで覆うことにより、外部磁界による残留磁化の変化を防ぐことができる。
また局所的な外部磁場によって残留磁化が局所的に減少した場合、これと塑性変形によって生じた残留磁化の消磁とを区別することができない。そのため残留磁化パターンを磁気シールドで覆うことにより、外部磁界による残留磁化の変化を防ぐことができ、塑性変形のみによる影響を評価することができる。
さらに本発明により、交流消磁による脱磁や前述の着磁装置による再着磁をおこなうことにより、それまでに該構造物や該材料が受けた塑性変形の情報を消すことができる。その場合、前述の磁気シールドは外す必要がある。
例えば構造物の震災による影響を測る場合、最初の着磁後にあった全ての地震による塑性変形の影響を含んでしまうことから、直近の地震における影響を評価することができない。このため、何らかの大きな地震があった場合、その影響を評価した後に、本発明による交流消磁による脱磁や前述の着磁装置による再着磁をおこなうことにより、その後に起こる地震の影響のみを評価することが可能となる。もっとも、構造物の残余耐震性は、それまでに受けた地震の総和であることから、特殊な事情がある場合以外は、この必要はない。
着磁装置 着磁装置における位置決め用の光センサー部 磁性流体を分散させたシートを張り付けた強磁性体を含む箔を磁気シールド窓で覆った磁性体構造物用モニターの断面のイメージ図 磁気プローブ 着磁直後の純Ni箔の残留磁化分布 150Nで塑性変形させた後の純Ni箔の残留磁化分布 175Nで塑性変形させた後の純Ni箔の残留磁化分布 着磁した直後のWC−Co超硬切削工具のすくい面および逃げ面の残留磁化分布 着磁後、送り速度を0.077mm/revで切削したWC−Co超硬切削工具のすくい面、逃げ面および前逃げ面の残留磁化分布 着磁後、送り速度を0.153mm/revで切削したWC−Co超硬切削工具のすくい面、逃げ面および前逃げ面の残留磁化分布 着磁後、送り速度を0.307mm/revで切削したWC−Co超硬切削工具のすくい面、逃げ面および前逃げ面の残留磁化分布 切削抵抗に対する切削部の最大残留磁化の変化
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。本発明である予め着磁した強磁性体を含む構造物や材料の残留磁化の変化量及び/又は分布の変化から、該着磁を施した時点以降の該構造物や該材料の塑性変形量及び/又は塑性変形領域を評価する方法に関する一実施形態を以下に記す。
ここでは、例として高層建築物が震災にあった際に、その損傷度合いや残余耐震性を評価する目的で本発明を使った場合について考える。高層建築物の構造を支える鋼材の損傷度を確認するために、該鋼材の一面に特定のパターンからなる着磁を施すものとする。損傷制御設計により、構造上、該鋼材の決められた箇所に塑性変形を受けやすい領域がある場合は、そこを重点的に着磁すればよいし、どこが塑性変形しやすいか不明な場合は、該鋼材全面を着磁するのでも良い。また曲がる方向が予想される場合は、曲がりやすい面に着磁するのでも良い。
まず中央に位置決め装置用のセンサーである光センサーを埋め込んだパーマロイもしくは低炭素鉄の棒からなる磁心をソレノイドの中心に配置した着磁装置を用意する。今回使用する着磁装置の例を図1に、それを構成する光センサーの詳細を図2に示す。光センサーは、発光部と受光部の間に仕切りを挟むことにより、センサー前の物体の明度が評価できるようにする。一定の周波数で明るさの変わる発光部からの信号を受光部で検出する際に位相検波することにより、外部光の影響を減らすことができる。
該ソレノイドに掛ける直流電流量は一定とし、その極性は、光センサー前の物体の反射強度によって決める。例えば、アンプを通した受光センサーからの出力と可変な基準電圧値とをコンパレータ−等で比較することにより、光センサー前の物体の反射強度を二値化して、電流の極性を定める。着磁の際の磁界強度は、鋼材の保磁力以上でかつ塑性変形によって残留磁化が減少しやすい値を前実験により決定しておく。ソレノイドに掛ける電流は、着磁装置がこの磁界を与えるように調整する。
次に白と黒の二色で書かれた基準パターンを紙に印刷して着磁する鋼材に仮止めする。基準パターンの間隔は、評価の際のプローブと鋼材の距離によって定める。一般に、プローブと鋼材の距離と同じかそれ以上にすると良い。その後、先ほどの電流をソレノイドに流しながら、磁心を基準パターンを介して鉄骨に密着させて全体をなぞるように着磁装置を動かす。これにより基準パターンと同じ極性の残留磁化パターンが鋼材に着磁される。基準パターンを記した紙の位置は、鋼材に印を付けておく。また検出する際に測定する面が、化粧板のように鋼材と異なる場合は、その測定面の対応する位置に印を付けておく。
着磁後、鋼材表面の残留磁化を後述する磁気プローブを用いて測定し、各位置の磁化量を記録させる。該測定データは基準データとして記憶装置に記憶させる。こうして測定した該基準データは、後日、塑性変形量を評価する際に、測定する磁化量と比較をおこなう。
着磁後、鋼材は、第3者によって残留磁化パターンが乱されないように、磁気シールドもしくは非磁性体で覆う方が良い。通常、高層建築物の鋼材は、化粧板で覆われており、これがその役目を果たす。測定の際の磁場ノイズを抑える意味で、化粧板等の固定には、非磁性体であるSUS304等、オーステナイト系ステンレスのネジや釘を使うべきである。また、鋼材を磁気シールドで覆う場合は、評価の際にこれを外す必要がある。
着磁した基準パターンおよび初期の残留磁化である基準データは、機密情報として保管する。この情報は、残留磁化パターンに改ざんの疑いがあった場合に開示し、残留磁化パターンと比較、確認することで、信頼性の有無を判断する。
高層建築物が強い地震に見舞われた際、その被災度を調べるために、以前着磁させた鋼材について磁気プローブを走査させて残留磁化の測定を行う。鋼材が化粧板に覆われていた場合、残留磁化測定は、その化粧板の上から走査させても良いが、より厳密な測定を行う場合は、化粧板を取り外して直接鋼材の表面を走査させる。
走査する磁気プローブは、位置決め装置用のセンサーである光センサーと磁化測定用の磁気センサーを十分に隣接して作る。両者ともパターンに対して十分に小さいものを選ぶ。光センサーは、発光部と受光部の間に仕切りを挟むことにより、センサー前の物体の明度が評価できるようにする。一定の周波数で明るさの変わる発光部からの信号を受光部で検出する際に位相検波することにより、外部光の影響を減らすことができる。今回使用する磁気プローブの例を図3に示す。
測定できる磁束密度によって適切に磁気センサーを選択する。鋼材との距離が数cm離れた化粧板の表面を走査する場合は、ホール素子を使った磁気センサーで十分である。また鋼材との距離が十数cmと離れた化粧板の表面を走査する場合は、MI素子やフラックスゲートセンサー等の使用を考えるか、化粧板を取り外しての測定を試みる。
次に着磁の際に使った基準パターンを記した紙を着磁の際に置いた位置に対応するように化粧板等、測定面に仮止めする。その後、基準パターンを記した紙にセンサーを近づけて全体をなぞるように走査させ、基準パターンからの光の反射強度と残留磁化パターンからの磁束密度を同時に測定する。光の強度と磁束密度の強度のある時間間隔における相互相関係数を信号としてセンサーに取り付けたレベルメーターに出力するとともにデーターロガーに記録する。相互相関係数の信号が周囲に比べ小さい箇所が見つかった場合には、その領域の鋼材は塑性変形をした可能性があると推察される。磁気プローブを走査させる際に、順番に全体を走査することで、塑性変形の分布を得ることもできる。その際、着磁の段階で記録した残留磁化と比較して、同じ位置の残留磁化が減少していた場合は、その領域の鋼材は塑性変形をした可能性があると推察される。
できるだけ詳細な塑性変形の様子を評価したい場合は、化粧板などを外して鋼材にプローブを直接近づけて測る必要がある。その際、マグネットビューアー等の磁性液体を挟み込んだシートを使って残留磁化パターンを確認するのでも良い。化粧板を外す作業が加わるため被災度の確認にかかる時間は増加するが、信頼性の高い評価が可能となる。
さらに化粧板そのものに内部に向けた照明とレンズ系を取り付けることにより、鉄骨の残留磁化パターンに設置したマグネットビューアー等の磁性液体シートのパターンを化粧板を取り外すことなく、任意に確認することができる。これにより、鉄骨が化粧板から離れた照明の届かない位置にあっても、その塑性変形量を磁性流体のパターンから確認することができ、構造物が震災にあった場合、その場で残余耐震性を確認できる
次に、本発明を磁性体構造物用モニターに応用した場合について述べる。該磁性体構造物用モニターに使う材質としては、例えば、塑性変形に対する残留磁化の減少量が大きく、耐食性にも優れる純NiやNi合金が適している。外部磁場の影響を少なくするためは保磁力を上げる必要があり、また残留磁化の塑性歪み敏感性を高くするには、保磁力を下げる必要があることから、これらを考慮して該磁性体構造物用モニターの材質を選定する。
この磁性体構造物用モニターに異なる磁極からなる周期的な残留磁化パターンを着磁し、一方の面に磁性流体を分散させたシートを張り付け、もう一方の面に接着剤を付けることにより、鋼材や壁等の構造物に張り付ける。この場合、張り付けられた構造物は強磁性体を含む材料である必要はない。該磁性体構造物用モニターにおける残留磁化が縞模様のパターンであった場合、当初の磁性流体に現れるパターンは、残留磁化パターンと同じ縞模様となる。
建築物が揺れた際に変形しやすい箇所に該磁性体構造物用モニターを張り付けた場合、大きな地震により該磁性体構造物用モニターの一部は塑性変形をおこす。これにより塑性変形した領域の残留磁化は減少し、磁性流体に現れるパターンが変化してみえる。地震が起こった場合には、この磁性流体のパターンの変化の大きさから、震度の大きさを知ることができる。また張り付けた場所が損傷制御設計により損傷を受けやすい場合、より敏感に建築物の損傷の度合いを評価することができる。
これらの該磁性体構造物用モニターを構成する強磁性箔が純Ni等の保磁力の小さな材質であった場合、外部からの磁界によっても、残留磁化パターンが影響を受けてしまうことから、日常に人が手が届く場所に設置する場合には、パーマロイやファインメット等の高透磁率材料の箔を数枚重ねて作った磁気シールドにより、該磁性体構造物用モニターを覆っておくとよい。一般にこれらの磁気シールドは光を通さないことから、残留磁化の変化を容易に確認できるように、磁気シールドからなる窓板をスライドできるように工夫すると良い。磁性流体を分散させたシートを張り付けた該強磁性箔をスライドできる磁気シールド窓で覆った磁性体構造物用モニターの様子を図4に示す。
次に磁性体構造物用モニターを構成する着磁した純Ni箔を実際に塑性変形させた場合の残留磁化の変化について示す。表面に垂直方向に着磁した純Ni箔の残留磁化分布を図5に示す。またこれを引張って塑性変形させた場合の残留磁化分布を図6に、150Nで引張って塑性変形させた場合の残留磁化分布を図7に示す。130Nの引張りまで、表面に漏れ磁束として表れていた残留磁化が、150Nで引張り試験後、消磁している様子が分かる。このことから、130Nまでは試料は弾性変形していたものが、150Nから塑性変形が始まったことを示している。また弱く引張った場合には、塑性変形した一部の領域のみ残留磁化が減少する。このように純Ni箔の残留磁化は、塑性歪みに対して敏感であり、僅かな塑性変形で完全に消磁してしまうことから、建物の震度を推定するのに有用であると考えられる。
次に、本発明を磁性体を含む切削用のインサートであるWC−Co超硬切削工具に応用した例を示す。着磁した直後の該工具のすくい面および逃げ面の残留磁束分布を図8に示す。WC−Co超硬材料は、数%のCoバインダーが強磁性体であり、WC粒子は非磁性体である。該工具は表面に垂直方向にほぼ均一に着磁させた。着磁の際、磁束密度が偏らないように、周囲を同じ材料で囲んで着磁させたものの、端部に大きな残留磁化が表れた。しかしながら、概して対称性の良い残留磁化分布を示しているといえる。
一方、着磁した該工具を使って、万能旋盤で切削した。図9は送り速度を0.077mm/revに、図10は送り速度を0.153mm/revに、図11は送り速度を0.307mm/revにして切削した工具のすくい面、逃げ面および前逃げ面の残留磁化分布であり、それぞれの切削応力は155N、470N、674Nと増加した。この図からも分かるように、該工具は切り込み部の残留磁化が消磁していることから、切削時に掛る大きな応力によりこの領域が塑性変形したことが分かる。また逃げ面の残留磁化分布は、切削先端部と工具保持部をつなぐ領域において大きく減磁しており、この領域でも塑性変形が生じていることが分かる。
以上の結果を切削応力に対する最大残留磁化の変化を図12にまとめる。切削力の増加とともに、残留磁化が減少している様子が分かる。残留磁化が完全に消磁されなかった理由は、該構造物や該材料に含まれる強磁性体内部の磁壁が、転位以外の欠陥にピン止めされていたために、塑性変形ではこれらの磁壁が動かなかったためだと考えられる。よって、該構造物や該材料が、塑性変形に対してどの程度残留磁化を減少させるのかについて、実験等で明らかにすることが、本発明において重要となる。
同様な現象は、同じく強磁性体を含む材料であるサーメット材やハイス等の鉄系工具鋼においても成り立つことが予想される。よって、これらの材料を工具や金型として使用する加工プロセスにおいて、各種パラメーターを決定する際に、着磁した工具や金型の残留磁化の減少した領域を検出することで、加工時にこれらの部品が受ける加工応力を知ることができる。加工応力を減少させるように最適な加工パラメーターを工夫することで、工具や金型の寿命の向上に寄与するものと考えられる。
本発明により、もたらされる産業上の利用可能性を幾つかの応用例に分けて述べる。まず最初に鋼材からなる建築物、特に高層建築物への応用について述べる。
例えば、 大都市が大きな地震に襲われた場合、その地域に林立する多くの高層建築物が、倒れることはないまでも、何らかの損傷を受けることは免れない。近年の耐震性や除振性、防振性の向上により、建物の壊滅的なダメージは防げるものの、震災後にその建物を使い続けるためには、建物の被災度や残余耐震性を早急に判断する必要がある。
従来の技術においては、建物の被災度は鋼材の塑性変形による損傷度合いを評価することによっておこなわれてきた。しかし、鋼材の塑性変形度合いは、鋼材のペンキの剥がれ具合(非特許文献15)や鋼材の硬さの変化(非特許文献16)等から判別するしかなく、そのために鋼材を覆っていた化粧板を取り外すなどの作業を多くの階でおこなう必要があり、復旧に多大なる時間を要することが指摘されている。
鋼材のペンキの剥がれは、塗装時の下地の処理や経年劣化、ペンキ自身の性質にも大きく影響されることから、ペンキの剥がれた量が、必ずしも地震の際の揺れの大きさに比例するとは限らない。
また鋼材の硬さは加工硬化に比例することから塑性歪みと密接に関連するが、硬さに関係する塑性歪み量は鋼材が製造される際に受けた加工履歴をも含む総塑性歪み量であることから、問題とする震災の際に受けた塑性歪み量のみを評価することはできない。また加工の際に鋼材が受けた塑性変形量は、一般に地震の際に受けた塑性変形量に比べてはるかに大きいことから、硬さの値は加工によるばらつきが大きく、前もって硬さを測ったところで、場所による誤差が大きく、震災時の塑性変形量を定量的に議論することは難しい。
そのため、近年では、地震時の建物の揺れを記録する振動計をいくつかの階に備えて、建物の各層の損傷状況を推定する試みがなされている(非特許文献17)。しかし、いつ起こるか分からない地震のために常時、振動計を動かし、膨大な記録を取ることには、大きなコストを要する。また各層の震度の推定に必要な建物の剛性等のパラメーターは経年劣化し、年々変化することから(非特許文献17)、損傷を正確に把握することは難しくなる。さらに得られた情報は、揺れのシミュレーションから得られた建物の損傷についての推定値に過ぎず、実際の各鋼材がどのような損傷を受けているのかについて、直接判定することはできない。
以上のように、これまでの技術では、高層建築物が巨大な地震で被災した場合、建物の被災度を迅速に評価する方法はなく、そのため数少ない専門家の主観に頼った判定を待つより他はなかった。そのため、誤審は免れず、再び震災にあった場合に、二次災害が起こる危険性が常にあった。
一方、本発明を用いることにより、予め鋼材等の強磁性体を含む構造物に着磁等の手間を要するものの、建物が大きな揺れにあった場合に、各鋼材における震災時に受けた塑性変形量のみを客観的に定量評価することが可能になる。
また本発明を用いることにより、鋼材等の表面に垂直方向に予め着磁を施すことにより、鋼材の内部磁化が外部への漏れ磁束となって表れ、外部から内部磁化の評価が可能となる。また本発明における着磁装置を用いることにより、一次元または二次元の交互の磁極からなる周期的なパターンや任意の基準パターンを現場で容易に着磁することができる。これにより残留磁化パターンに沿った漏れ磁束が外部に表れることとなり、本発明によるプローブを用いることにより、基準パターンとの相関係数やパワースペクトルから、外部磁界の影響を受けることなく、離れた位置から残留磁化パターンの強弱を検出することが可能となる。
これにより、例えば鋼材の損傷の評価には、化粧板の外側から磁気プローブを走査することで十分なことから、外装の解体等の工事もいらず、作業が簡便となる。また測定機器に判定機能をもったソフトウエアーを組み込むことで、住民等、非専門家でも被災度を見積もることができることから、迅速な復旧が可能となり、住民の安心・安全に応えることもできる。
また鋼材に着磁された残留磁気パターンに磁性流体シートであるマグネットビューアーを張り付け、これを化粧板に取り付けた照明とレンズ系とで観察できるようにすれば、必要な時に照明を付けて、残留磁化パターンの変化を確認することができ、特殊な評価装置等が不要になる。
本発明を建物の鋼材の損傷度合いの検知に使うことで、化粧版の固定に強磁性材である鉄の釘やネジ、針金等を使われた場合にも、その影響を最小限にすることができる。しかし、測定部近くの建築資材には、なるべくオーステナイト系ステンレスの釘やネジ、針金を使うことが望ましい。
また本発明により、着磁の状況を外壁の外側から簡便に検査できることから、残留磁化パターンの健全性や経年劣化の状況などを日常的にチェックすることができ、住民が自らの手で万が一の震災に備えることができる。また一般に、外部からの強い磁界による外乱がない場合には、ほぼ半永久的に残留磁化パターンが保存されることが期待できることから、長期のメンテナンスにも役立つ。
本発明は、残留磁化といった、書き換え可能な情報を測定物に与えることから、塑性変形以外の要因からの情報の変化が問題となる。特に、震災後、故意に鋼材に再着磁することにより、建物に損傷がなかったかのように偽装することも可能となるため、この手法の欠点となりうる。そのため本発明により、基準パターンや初期の残留磁化である基準データを機密情報とすることで、残留磁化パターンに手が加えられていないかの判定が可能となる。つまり基準パターンや基準データを知らない第3者は、残留磁化パターンを再現することができないことから、同じ残留磁化パターンを再着磁することができない。よって残留磁化パターンと当初の基準パターンや基準データを比べることにより、着磁の信頼性を確認することができる。
また本発明は、磁性体構造物用モニターに残留磁化パターンを着磁し、これを検査する鋼材等に張り付けることで、地震の際、建物が最大どれだけ歪んだかを、磁性体構造物用モニターの残留磁化の変化量から評価することが可能となる。またこの最大歪み量から、各層の建物の震度を推測することができる。また予め着磁した磁性体構造物用モニターを大量に生産することにより、現場ではこれらを構造物の鉄骨や壁等に張り付けるだけで、簡便に設置することができ、これにより震災時の揺れの様子を知ることができる。ただし、これによって検査できるのは、揺れによって生じた磁性体構造物用モニターの塑性変形量のみであって、張り付けられた鋼材等の塑性変形量ではない。
さらに残留磁化パターンを着磁した磁性体構造物用モニターを建築物の各層の様々な箇所に張り付けることにより、地震によりそれぞれの箇所が最大どれだけの歪みやの最大震度を受けたかについての見積もりができ、本発明により目視等でも確認できるため、建物の損傷状況などを住民がその場で迅速に確認できる。また磁性体構造物用モニターは従来の高価な振動計よりも各段に安価ため、様々な箇所に取り付けられ多くのデータを供給できることから、従来のシステムに対する安価な代替品を提供できる。さらに磁性体構造物用モニターは構造物に張り付けたままで再着磁が可能なため、ある程度の地震が発生したごとに測定、再着磁を繰り返すことで、直近の地震における揺れの大きさを推定することができ、日常における建物の点検管理に使える。
これにより、構造物が地震によって受けた揺れの大きさを評価することが可能となり、振動計で常時モニターすることなく、住民等、非専門家でも構造物の被災度を見積もることができ、迅速な復旧が可能となる。これにより、構造物の各階層に振動計を設置するコストや常時運転管理するコストが削減される。
また本発明により、磁気シールドすることによって残留磁化パターンを保護することができることから、本発明による損傷評価の信頼度を向上させることができる。
同様な被災度の判定は、コンクリートの中に埋め込まれた鉄筋においても可能であり、高速道路や鉄筋コンクリートの建物などの震災における損傷判定にも応用できる。ただし、鉄筋コンクリートはコンクリートによって鋼材表面とプローブとの間に距離が存在するため、また複数の鉄筋が組み合わされていることから、残留磁化パターン着磁や測定の際には、様々な工夫が必要となる。
次に工場や発電設備への応用について述べる。耐震性を重視する工場や発電設備が巨大な地震に見舞われた場合、被災による損傷を定量的に判断する手法が重要となる。例えば、耐震性を重視する原子力発電所が想定以上の震度にあった場合、原子炉近辺の重要な設備が塑性変形等の損傷を受けた可能性があり、その場合、疲労限界が上昇して疲労強度が低下するなどの危険性があることから、再稼働できる状況にあるのかを的確に判断する必要がある。
例えば、2007年7月の新潟県中越沖地震においては、柏崎刈羽原子力発電所が想定を超えた震度の揺れを受け、緊急停止した。この際、構内の変電所が火災し、放射性廃棄物を保管するドラム缶が飛散し、配管の一部が変形するなどの状況が報告された。
この地震後、記録された震度が想定を大きく超えていたことから、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働について、設備の受けた被害を正確に評価する必要があった。特に目視で大きな変化がない場合にも、重要構造物が塑性変形を受けている可能性があることから、設備の受けた塑性変形量を適切に評価する必要性が生じた。
そのため、地震により設備の受けた塑性変形量を適切に評価する手法について、専門家の中でも多くの議論があり、様々な評価法が比較検討された(非特許文献3)。その結果、この場合においては、硬さ法による評価が試みられた。
しかし、硬さ法による比較では、設備等を構成する鋼材等がこれまでに受けた総歪量を評価することになる。配管等は加工時に最も大きな塑性歪みを受けることから、個々の基材や場所において硬さにばらつきが大きく、これを用いて被災による影響を評価するには、誤差が大きく精度が出ない恐れがある。また設備を構成する鋼材の様々な位置における被災前の硬さの値を知ることができないことから、被災後に比較対象とするべきものがなく、定量的な判断をすることが難しかった。
本発明を原子力発電の設備に利用した場合、配管等、測定する設備の多くが強磁性体であることから、設備全面に基準パターンを着磁することができる。これにより、着磁後、設備が被災した場合に、残留磁化パターンの変化を測定することで、損傷箇所を特定することができる。また地震そのものによる塑性変形量を独立に評価することができることから、定量性のある測定を簡便、迅速におこなうことができる。これにより原子力発電の再稼働の可否や修復の必要な箇所について有益な情報を与えることができる。
さらに特定パターンを着磁した磁性体構造物用モニターを設備の様々な箇所に張り付けることにより、地震によりそれぞれの箇所が最大どれだけの歪みや揺れを受けたかについての見積もりができ、目視等でも確認できるため損傷状況などを迅速に確認できる。また磁性体構造物用モニターは他の揺れを測る測定装置よりも各段に安価ため、様々な箇所に取り付けることができ、多くのデータを提供できる。さらに磁性体構造物用モニターは設備に張り付けたままで再着磁が可能なため、ある程度の地震があったごとに測定、再着磁を繰り返すことで、直近の地震における揺れの大きさを推定することができる。
次に橋梁や高速道路といった社会インフラへの応用について述べる。高度経済成長時に整備された橋梁や高速道路といった社会インフラは、近年老朽化を迎え、その維持管理に多くのコストと労力がかかることが指摘されている。一般にこれらのインフラを支える鉄骨等の構造材は、長年の荷重負荷や腐食により溶接部が疲労破壊をおこし、亀裂や割れが進んでいる。そのため損傷を適切に評価し、メンテナンスすることは、これらの社会インフラを使い続けるためには重要となる。
こうした鉄骨等の損傷の状況は、資格を持つ診断士が、外傷の目視や超音波振動測定、磁粉探傷法などによって評価してきたが、亀裂が微細であることから検出することが難しく、亀裂の進展量も定量的に評価しにくいことから、重要な事故につながる危険性があった。
本発明を橋梁や高速道路の損傷診断に用いた場合、亀裂先端において大きな塑性変形が伴うことから、着磁した残留磁化が減磁した領域を見つけることで、亀裂部におこる塑性変形や疲労破壊の進展を簡便かつ容易に発見することができる。
亀裂が発見された箇所については、磁性体構造物用モニターを鋼材の亀裂先端部を含む場所に張り付けることで、その後の亀裂の進展による最大歪みの変化を測定することができる。一般に鋼材の残留磁化は塑性変形に対して大きく減磁しないことから、塑性変形によってより減磁しやすい該磁性体構造物用モニターを鋼材に張り付けることで損傷を検出する感度を上げることができる。
さらに本発明により、通行する車やいたずらによって生じる残留磁化パターンの変化と塑性変形による変化を区別することができることから、損傷評価への信頼性を向上させることができる。
これらの技術は、高層建築物と同様に、震災後の橋梁や高速道路における損傷診断にも応用できる。
次に工具や金型への応用について述べる。WC−Co合金からなる超硬材料やTiC−Ni合金からなるサーメット材料は、硬質な材料であるため加工工具や金型などに用いられている。しかしこれらの材料は靭性が低いことから、加工時に局所的に高い応力が発生した場合、短い寿命で損傷破壊することが多く、生産現場における大きなコスト高の原因となっている。また近年、WやCo、Ni等のレアメタルの価格が高騰していることから、これらの寿命を長くすることによる省資源化の重要性が叫ばれている。
これまでの工具や金型における加工時にかかる応力分布やそれによる残留応力の評価は、主として数値計算によるシミュレーションやX線応力測定による評価がなされてきた。しかしながら、前者は摩擦係数や加工硬化によりパラメーターが大きく変化することから計算結果において信頼性が低く、後者は加工物の表面数ミクロン程度の深さの応力しか評価することができず、単純な形状にしか応用できず、装置も大型になることから、現場で工具や金型全体の診断に用いられることはあまりなかった。
WC−Co合金からなる超硬材料やTiC−Ni合金からなるサーメット材料は、バインダーであるCoやNiが強磁性体であることから、本発明を適応することができる。またハイスを始めとする鉄系工具も強磁性体であることから、同様に適応可能となる。
本発明を工具における加工時にかかる応力分布の評価に用いた場合、加工により大きな塑性変形が発生した領域を見積もることができ、加工時の工具の取り付け方や加工方法、工具とワークの位置関係など、最適な条件を容易に求めることができる。また任意に着磁や脱磁を繰り返すことで、必要な時に必要なだけ、加工時のパラメーターを得ることができ、その後の加工における磁化の影響を無くすることができる。
本発明をプレス成型などの金型における加工時にかかる応力分布の評価に用いた場合、局所的な塑性変形領域の発生の有無を検出できることから、金型の取り付け条件やプレス圧、セットの仕方等の最適な条件を見つけるのに役立つ。試験後、消磁することにより、加工時の磁化の影響を消すことも容易である。
プレス成型される側である金属が鉄等の強磁性材料であった場合、本発明を加工品へ応用することにより、多段階からなる塑性加工のプロセスの評価に用いることもできる。被プレス材における局所的な塑性変形領域の発生の具合から、各段階のプレス成型の効果を見積もることができ、プレスの段数や金型の取り付け条件やプレス圧、セットの仕方等の塑性加工における最適な条件を見つけるのに役立つ。
また本発明により、工具や金型の塑性変形領域を知ることができることから、精度の必要な箇所が守られるように加工方法を工夫することができる。
そのほかにも、塑性変形が生じるあらゆる分野で、塑性変形量や塑性変形領域の定量化に有効であり、自動車等の衝突設計の際の指針や高張力ボルトの塑性結合の評価、エレベーターのワイヤーロープの損傷評価、震災後の地中埋没管の検査など多くに産業分野に有効であると考えられる。
1 磁心
2 ソレノイド
3 光センサー
4 直流電源
5 判定回路
6 パネルメーター
7 ケーブル
8 支持棒
9 取手
10 基準パターン
11 着磁を施す強磁性体を含む構造物や材料
12 発光部






















Claims (4)

  1. 被評価対象の磁性体構造物及び/又は、磁性体構造物用モニターを所定の磁化方法、所定の着磁強度で着磁する工程と、位置決め装置と、周知の磁気センサーを用い、前記磁性体構造物及び/又は前記磁性体構造物用モニターの表面空間の磁界分布を測定し、該測定データを基準データとして記憶装置に記憶する工程と、前記磁性体構造物及び、前記磁性体構造物用モニターが外力を受けた後に、前記位置決め装置と、前記周知の磁気センサーを用い、前記磁性体構造物及び/又は、磁性体構造物用モニターの前記表面空間の磁界分布を測定し、該測定データを評価時データとする工程からなり、前記基準データと前記評価時データとの差異を求め、該差異に基づいて前記磁性体構造物の受けた塑性変形量、亀裂、塑性変形領域の少なくとも1つを推定することを特徴とする磁性体構造物損傷評価システム。
  2. 前記所定の磁化方法が、強磁性体を含む構造物や材料の表面と垂直方向でほぼ均一に着磁する方法、或いは、異なる磁極からなる周期的パターンもしくは予め定めた基準パターンに基づいて着磁することを特徴とする請求項1に記載の磁性体構造物損傷評価システム。
  3. 前記位置決め装置が、前記磁性体構造物表面に設けられた基準パターン上のマークを光学センサー或いは、接触センサーで検出しながらセンサーの位置決めを行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性体構造物損傷評価システム。
  4. 前記磁性体構造物用モニターが構造物に一体化され、前記構造物と一体に外力を受けるものであって、前記表面空間の磁界分布を測定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の磁性体構造物損傷評価システム。









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