JP2013245174A - 母乳中il−27産生増強のためのフラクトオリゴ糖の使用 - Google Patents
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Abstract
【課題】母乳中の抗アレルギー免疫活性物質を増加させることで、新生児のアレルギー発症を予防することを可能とする、安全性に優れ日常的に汎用できる方法の提供。
【解決手段】母乳中インターロイキン−27産生増強におけるフラクトオリゴ糖の使用、並びにフラクトオリゴ糖を用いることを特徴とする母乳中インターロイキン−27産生増強方法、ここで、フラクトオリゴ糖は好ましくは次式(I)で表されるオリゴ糖である:Glucosyl(1→2)(fructosyl)nβ(2→1)fructose(I)(式中、nは、1〜3である)。
【選択図】なし
【解決手段】母乳中インターロイキン−27産生増強におけるフラクトオリゴ糖の使用、並びにフラクトオリゴ糖を用いることを特徴とする母乳中インターロイキン−27産生増強方法、ここで、フラクトオリゴ糖は好ましくは次式(I)で表されるオリゴ糖である:Glucosyl(1→2)(fructosyl)nβ(2→1)fructose(I)(式中、nは、1〜3である)。
【選択図】なし
Description
本発明は、母乳中インターロイキン−27(以下、IL−27と略称することがある)産生増強におけるフラクトオリゴ糖の使用に関する。より詳しくは本発明は、母乳中IL−27産生増強におけるフラクトオリゴ糖の使用であって、フラクトオリゴ糖が娠期間および授乳期間に経口摂取されることを特徴とするフラクトオリゴ糖の使用に関する。また本発明は、フラクトオリゴ糖を用いることを特徴とする母乳中IL−27産生増強方法に関する。
母乳は児にとって貴重な栄養源であり、生育・発達において大きな役割を担っている。従来、母乳栄養が児のアレルギーを予防すると報告されていたが(非特許文献1)、近年の母乳成分に関する研究から、母乳中に含まれる様々な免疫活性物質が、児のアレルギー疾患の発症に対して正負の両方に働くことが示唆されている(非特許文献2−5)。
妊婦のプロバイオティクス摂取や魚油摂取により母乳中の可溶性CD14、イムノグロブリンA(以下、IgAと略称する)、トランスフォーミング増殖因子(以下、TGF−βと略称する)などの抗アレルギー免疫活性物質の濃度が増加することが報告されている(非特許文献6−7)。しかし、母乳中の免疫活性物質に対する食品の効果に関する研究は非常に少ない。
プロバイオティクスとは、「経口摂取され、消化管内のフローラ(細菌叢)のバランスを改善することにより、宿主の健康に有益な作用を与える生きた微生物菌体、並びに該微生物菌体を含む医薬品、健康食品、および動物用混合飼料などの製品」をいう。このような微生物菌体として、腸管内にも存在している乳酸菌、糖化菌、および酪酸菌などが知られており、その摂取により消化管内、すなわち口腔内や腸内の細菌叢のバランスの健常化が図られ、疾病の予防や改善がなされると考えられている。
一方、プロバイオティクスと同様に腸内細菌叢に影響を与えるものとしてプレバイオティクスが知られている。プレバイオティクスは、「腸管内に常在している有益に働く細菌の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促すか、あるいは有害な細菌の増殖を抑制することで、宿主に有益な効果をもたらす難消化性の食品成分」と定義され、それらには食物繊維類や抵抗性デンプン、オリゴ糖類などが含まれる(非特許文献8)。プレバイオティクスは腸内細菌叢の改善などを目的として日常生活でも使用されており、妊婦を含めて安全性が担保されている。
代表的なプレバイオティクスとして、フラクトオリゴ糖(Fructo−Oligosaccharides:以下、FOSと略称することがある)などの難消化性オリゴ糖類があり、ビフィズス菌などの有益な菌の増殖を促すことが報告されている(非特許文献9−10)。さらには腸の機能性、病原菌の定着に対する抵抗性、免疫機能、および代謝機能などに影響を及ぼすことによって、ヒトの健康を促進すると考えられている。近年では、アトピー性皮膚炎を発症するモデルマウスであるNC/Ngaマウスの母体にFOSを摂取させると仔マウスのアトピー性皮膚炎発症が抑制されることが報告されている(非特許文献11)。また、FOSの摂取によりマウス母乳中の総IgA濃度および抗原特異的IgA抗体価が増加することが報告されている(特許文献1)。
IL−27は、IL−12、IL−23、IL−35などと共にIL−12サイトカインファミリーに属し、T細胞の分化に関連することが報告されている(非特許文献12−13)。IL−27はヘルパーT1細胞(以下、Th1細胞と略称する)の分化を誘導するのみでなく、ヘルパーT17細胞(以下、Th17細胞と略称する)の誘導を抑制し、IL−10産生を亢進させて(非特許文献14−15)、制御性T細胞であるTr1細胞を誘導する(非特許文献16−17)。IL−27非存在下ではヘルパーT2細胞(以下、Th2細胞と略称する)反応が亢進し、IL−27投与によりTh17細胞およびTh2細胞による免疫反応が抑制されることから、IL−27はアレルギーや炎症の抑制に深く関与すると考えられる。近年、IL−27の誘導によりアレルギー反応が抑制されたことが報告されている(非特許文献18−21)。IL−27は活性化樹状細胞やマクロファージから産生される(非特許文献22)。
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「ジャーナル オブ インターフェロン アンド サイトカイン リサーチ(Journal of Interferon and Cytokine Research)」、2010年、第30巻、第6号、p.381−388。
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「ジャーナル オブ イムノロジー(Journal of Immunology)」、2009年、第183巻、第1号、p.254−260。
「エンルズ オブ アレルギー,アズマ アンド イムノロジー(Annals of Allergy, Asthma and Immunology)」、2009年、第102巻、第3号、p.223−232。
「バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications)」、2008年、第373巻、第3号、p.397−402。
「アルキブ イムノロジエ エト テラピエ エクスペリメンタリス(Archivum Immunologiae et therapiae experimentalis)」、2008年、第373巻、第3号、p.397−402。
本発明は、母乳中の抗アレルギー免疫活性物質を増加させることで、新生児のアレルギー発症を予防することを可能とする、安全性に優れ日常的に汎用できる方法を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行い、妊娠中および授乳中にFOSを摂取することにより、免疫関連遺伝子であるIL−27遺伝子の発現が母乳中細胞で増加すること、並びに妊娠中および授乳中のFOS摂取により、母乳乳清中のIL−27濃度が増加することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、母乳中IL−27産生増強におけるFOSの使用に関する。
また本発明は、FOSを1日1g〜30gの摂取量で連日経口摂取されることを特徴とする、前記FOSの使用に関する。
さらに本発明は、FOSを妊娠期間および授乳期間に経口摂取されることを特徴とする、前記FOSの使用に関する。
さらにまた本発明は、母乳中IL−27産生増強におけるFOSの使用であって、FOSを、1回1g以上の摂取量で1日1回以上を連日経口摂取により、妊娠第26週から産後1ヶ月まで摂取されることを特徴とするFOSの使用に関する。
また本発明は、母乳中IL−27産生増強におけるFOSの使用であって、FOSを、1回4gの摂取量で1日2回連日経口摂取により、妊娠第26週から産後1ヶ月まで摂取されることを特徴とする、FOSの使用に関する。
さらに本発明は、FOSが食品中に含まれていることを特徴とする、前記FOSの使用に関する。
さらにまた本発明は、FOSを用いることを特徴とする母乳中IL−27産生増強方法に関する。
また本発明は、FOSを1日1g〜30gの摂取量で連日経口摂取することを特徴とする請求項7に記載の母乳中IL−27産生増強方法に関する。
さらに本発明は、FOSを妊娠期間および授乳期間に経口摂取することを特徴とする請求項7または8に記載の母乳中IL−27産生増強方法に関する。
さらにまた本発明は、FOSを、1回1g以上の摂取量で1日1回以上を連日経口摂取により、妊娠第26週から産後1ヶ月まで摂取することを特徴とする母乳中IL−27産生増強方法に関する。
また本発明は、FOSを、1回4gの摂取量で1日2回連日経口摂取により、妊娠第26週から産後1ヶ月まで摂取することを特徴とする母乳中IL−27産生増強方法に関する。
本発明によれば、母乳中IL−27産生増強におけるFOSの使用、並びにFOSを用いることを特徴とする母乳中IL−27産生増強方法を提供できる。本発明に係るFOSの使用および母乳中IL−27産生増強方法は、安全性に優れ日常的に汎用できる。
IL−27はアレルギーや炎症の抑制に深く関与すると考えられており、IL−27が誘導されるとアレルギーが抑制されることが報告されている(非特許文献18−21)。
したがって本発明により、母乳中IL−27産生増強を達成することができ、その結果、新生児のアレルギー発症を予防することができる。
本発明の一つの実施形態について詳細に説明するとすれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限られたものではない。
本発明は、母乳中IL−27産生増強における、フラクトオリゴ糖の使用に関する。
フラクトオリゴ糖は、ショ糖に1〜3分子のフラクトースが結合したもので、難消化性のオリゴ糖である。本発明で用いるフラクトオリゴ糖は、フラクトースが1分子以上連結した構造をもつオリゴ糖であれば特に限定されないが、具体的には下記一般式(I)で表されるオリゴ糖を好ましく例示できる。
Glucosyl(1→2)(fructosyl)nβ(2→1)fructose(I)(式中、nは、1〜3である)。
一般式(I)において、n=1のフラクトオリゴ糖として1−ケストース(以下、GF2と略称する)、n=2のフラクトオリゴ糖としてニストース(以下、GF3と略称する)、そしてn=3のフラクトオリゴ糖として1F−β−フラクトフラノシルニストース(以下、GF4と略称する)を挙げることができる。本発明で用いるフラクトオリゴ糖は、GF2、GF3、およびGF4から選択される少なくとも1種以上を含む混合物であることが好ましく、GF2を含むことがより好ましい。
本発明で用いるフラクトオリゴ糖が混合物である場合、その混合物の構成比(重量)は、特に限定されないが、グルコースおよびショ糖が0〜5%、GF2が29〜41%、GF3が44〜56%、GF4が6〜14%であることが好ましい。
フラクトオリゴ糖は化学合成品でもよく、または、ショ糖を原料として転移酵素、例えばオウレオバシディウム(Aureobacidium)やアスペルギルス(Aspergillus)などのカビのβ−フルクト−フラノシダーゼ(β−fructo−furanosidase)を用いて大量生産され、市販されているものを用いることができる。具体的には、メイオリゴ(登録商標)(株式会社明治製)、ACILIGHT(登録商標)(Beghin Meiji製)、NUTRAFLORA(登録商標)(GTC Nutrition Company製)などを例示できる。
フラクトオリゴ糖の摂取量は、妊産婦または授乳婦の年齢や身体状態などに依存して適宜変更可能であるが、腸内などの細菌叢改善が期待される濃度および健常人での一日摂取許容量(ADI、Acceptable Daily Intake)を考慮して、フラクトオリゴ糖として1日1g以上、好ましくは1g〜30g、より好ましくは2〜20g、さらに好ましくは4g〜15g、さらにより好ましくは4〜10gである。フラクトオリゴ糖は、少なくとも1日1回の摂取がよく、または1日2回〜数回に分けて摂取しても良い。好ましくは1日2回に分けて摂取する。例えば、1回4gの摂取量で1日2回摂取することがより好ましい。
フラクトオリゴ糖を摂取する期間は特に限定されず、日常的に摂取してもよく、あるいは妊産婦または授乳婦の場合、妊娠が判明した時点から授乳終了まで、好ましくは妊娠第26週から授乳終了まで、さらに好ましくは妊娠第26週から産後1ヶ月まで摂取することが好ましい。
本発明においてフラクトオリゴ糖は、単独で使用してもよいし、または、医薬組成物や食品組成物として調製して使用してもよい。食品組成物は、2種以上の食品原料や食品素材を組み合わせて調製される組成物をいい、健康食品や栄養組成物を含む意味で用いられる。また、組成物として調製したものを使用する場合、フラクトオリゴ糖に加えて、他の活性物質、あるいは他の薬理学的な活性物質を添加調製して使用してもよい。
フラクトオリゴ糖を医薬組成物として調製する場合、医薬組成物中に含まれるフラクトオリゴ糖の量は、広範囲から適宜選択されるが、通常約0.1〜99.9重量%、好ましくは0.1〜99重量%程度の範囲である。
フラクトオリゴ糖の摂取経路は特に限定されないが、経口摂取がより好ましい。フラクトオリゴ糖を経口摂取するときの形態は、例えば、錠剤、被覆錠、カプセル剤、顆粒剤、散剤、溶液、シロップ剤、乳液または分散性粉末による経口摂取を挙げることができる。これらの各種製剤は、常法に従ってフラクトオリゴ糖に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
フラクトオリゴ糖を食品組成物として調製する場合、固形物重量に対して0.1〜70重量%のフラクトオリゴ糖を含むように調製することが好ましい。
食品組成物として使用する場合、具体的には、妊産婦・授乳婦用栄養組成物、例えば妊産婦・授乳婦用粉乳や妊産婦・授乳婦用食品などにフラクトオリゴ糖を配合して調製したものを使用できる。
栄養組成物として使用する場合、具体的には、各種飲食品、例えば牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、クリーム、アイスクリームなどの乳製品、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、妊産婦・授乳婦用粉乳などの食品や栄養食品など)にフラクトオリゴ糖を添加し、これを摂取してもよい。フラクトオリゴ糖をそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と混合したりするなど、通常の栄養組成物における常法にしたがって使用できる。また、その性状についても、通常用いられる飲食品の状態、例えば、粉末や顆粒状などの固体状、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよい。
フラクトオリゴ糖を配合した栄養組成物の成分は、特に限定されないが、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類などを主成分とすることができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質などの動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳性ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖などの各種乳由来成分などを挙げることができる。糖質としては、糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテルなど)、食物繊維などを挙げることができる。脂質としては、例えば、ラード、魚油など、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油などの動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油などの植物性油脂などを挙げることができる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などを挙げることができ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどを挙げることができる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などを挙げることができる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明に係る技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
<対象と方法>
1.試験対象およびサンプル
妊婦を対象として、プレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖摂取群(以下、FOS群と称する)とショ糖摂取群(以下、プラセボ群と称する)の2群を設定し、二重盲検ランダム化比較試験を施行した。妊婦のうち自由意思による参加同意が得られた健常妊婦を本試験の対象とした。試験デザインは平行群間比較とした。また、結果の統計解析はマン・ホイットニーのU検定(Mann−Whitney U test)またはピアソンのχ二乗検定(Pearson’s chi−square test)により行った。
1.試験対象およびサンプル
妊婦を対象として、プレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖摂取群(以下、FOS群と称する)とショ糖摂取群(以下、プラセボ群と称する)の2群を設定し、二重盲検ランダム化比較試験を施行した。妊婦のうち自由意思による参加同意が得られた健常妊婦を本試験の対象とした。試験デザインは平行群間比較とした。また、結果の統計解析はマン・ホイットニーのU検定(Mann−Whitney U test)またはピアソンのχ二乗検定(Pearson’s chi−square test)により行った。
具体的には、試験対象者の84名は二重盲検法に加え、ランダム化を行ったのち、FOS群41名、プラセボ43名に振り分けた。試験薬の投与方法は、朝食後および夕食後それぞれ4gの、1日計8gを設定し、妊娠26週から出産後1か月までの連日摂取とした(図1)。
対象者には試験薬の摂取確認および食物摂取頻度調査を行い、市販のオリゴ糖製品を週2日以上摂取している対象者および試験薬の摂取頻度が80%以下の対象者に係る結果は結果解析から除外した(図2)。その結果、除外対象にならない数は、プラセボ群が29名、FOS群が35名であった。これらの対象者について食事習慣および疾患既往歴などの対象者背景を比較した結果、2群間で大きな差はみられなかった(表1および表2)。
対象者からは初乳および生後1か月母乳を採取した。それらの母乳について、母乳中に含まれる細胞の遺伝子発現解析および乳清中のタンパク質測定を行った。母乳サンプルは採取して常温のまま保存し、24時間以内に各処理を行った。母乳は、まず、25℃にて2500rpmで5分間の条件で遠心処理し、乳清成分と細胞成分とを分離した。分離した乳清成分は、4℃にて10000rpmで10分間の条件で再度遠心処理を行い、乳性脂肪成分が混合しないように分離し、−80℃にて保存した。一方、遠心処理により分離した母乳中の細胞から、総RNA(Total RNA)をRNイージー(登録商標) ミニキット(RNeazy(TM) Mini Kit、QIAGEN社製)を用いて抽出した。また、総RNA濃度が低いサンプルにおいてはRNイージー マイクロキット(RNeazy Micro Kit、QIAGEN社製)を用いて総RNAの濃縮を行った。抽出した総RNAは測定に用いるまで−80℃にて保存した。
2.母乳中細胞の網羅的遺伝子発現解析
母乳中細胞の網羅的遺伝子発現解析は、マイクロアレイを用いて実施した。まず、母乳中細胞から抽出した総RNAを材料として、遺伝子発現マイクロアレイ用ラベル化キット、Low input QuickAmp Labeling kit(one color)(登録商標)(Agilent Technologies社製)にてメッセンジャーRNA(以下、mRNAと略称する)の増幅およびラベル化を行った。得られたmRNAをサンプルとし、全ヒトゲノム(Whole human genome)オリゴDNAマイクロアレイキット(4×44K)(登録商標)(Agilent Technologies社製)を用いてマイクロアレイを施行した。
母乳中細胞の網羅的遺伝子発現解析は、マイクロアレイを用いて実施した。まず、母乳中細胞から抽出した総RNAを材料として、遺伝子発現マイクロアレイ用ラベル化キット、Low input QuickAmp Labeling kit(one color)(登録商標)(Agilent Technologies社製)にてメッセンジャーRNA(以下、mRNAと略称する)の増幅およびラベル化を行った。得られたmRNAをサンプルとし、全ヒトゲノム(Whole human genome)オリゴDNAマイクロアレイキット(4×44K)(登録商標)(Agilent Technologies社製)を用いてマイクロアレイを施行した。
マイクロアレイによる測定結果の解析は、次のように行った。マイクロアレイチップ上の各スポットからはシグナル強度などが産出され、チップ間との補正後、最終的なシグナル強度として結果が出力される。遺伝子発現が検出されたものは75%タイル ノーマリゼーション(Tile Normalization)を用いてチップ間の補正を行った。このノーマライズ方法は、アジレントテクノロジーズ社が推奨している方法で、チップに搭載されている41000プローブのシグナル値(測定値)をランキングし、検出された全プローブの中の75%にあたる遺伝子のシグナル値で、他のシグナル値を割った値を用いる。さらに解析に用いる場合は、log2変換した値を用いた。測定結果の解析は統計解析ソフトRを使用し、FOS群とプラセボ群での群間比較を行った。検出された各遺伝子に関する情報はDAVID(The Database for Annotation, Bisualization and Integrated Discovery(http://david.abcc.ncifcrf.gov/))やNCBI(National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/))などの統合データベースを参考にした。
3.乳清中のIL−27濃度測定
乳清中のIL−27濃度測定は、ヒトIL−27 デュオセット(登録商標)(R&D Systems社製)のELISAキットを使用して行った。検出最小値は156.25pg/mlである。サンプルは試薬希釈液(Reagent Diluent、R&D Systems社製)にて100倍に希釈し、二重アッセイ(Duplicate assay)にて測定した。測定濃度が低値を示したサンプルは希釈せず再測定を行った。なお、測定ではR&D システムズ社製の洗浄バッファーおよび基質溶液、並びにコスター社製のコスターEIAプレートを使用した。
乳清中のIL−27濃度測定は、ヒトIL−27 デュオセット(登録商標)(R&D Systems社製)のELISAキットを使用して行った。検出最小値は156.25pg/mlである。サンプルは試薬希釈液(Reagent Diluent、R&D Systems社製)にて100倍に希釈し、二重アッセイ(Duplicate assay)にて測定した。測定濃度が低値を示したサンプルは希釈せず再測定を行った。なお、測定ではR&D システムズ社製の洗浄バッファーおよび基質溶液、並びにコスター社製のコスターEIAプレートを使用した。
データの統計解析には、エス・ピー・エス・エス株式会社のソフト、Dr.SPSSを使用した。このソフトは、対象者背景、摂取食品の比較、および各測定結果についてのFOS群とプラセボ群での2群間比較統計解析に使用した。
<結果>
1.母乳中細胞の網羅的遺伝子発現解析の結果
初乳由来サンプルから、プラセボ群8例(n=8)およびFOS群8例(n=8)のサンプルを無作為に抽出し、マイクロアレイを行った。用いたサンプルの対象者背景に差は認められなかった。
1.母乳中細胞の網羅的遺伝子発現解析の結果
初乳由来サンプルから、プラセボ群8例(n=8)およびFOS群8例(n=8)のサンプルを無作為に抽出し、マイクロアレイを行った。用いたサンプルの対象者背景に差は認められなかった。
マイクロアレイチップに搭載された全プローブ数41000のうち、上記計16サンプルから検出されたプローブ数は19534(47.2%)であった。これらのプローブのうち、プラセボ群とFOS群を比較したときに統計学的有意な差があり、かつシグナル値に±1.5倍以上の差がみられたプローブ数は88(0.45%)であった。結果は、プラセボ群での平均シグナル値を1としたときの、FOS群の平均シグナル値の倍率変化(Fold change、以下、Fc値と略称する)で比較した。
有意差の認められた88プローブをもとにヒートマップを作成し、各サンプルの遺伝子発現タイプがどのように分類されているか階層クラスター分析を行った。すると縦軸の左側に6サンプル、右側に10サンプルと大きく2群に分類され、プラセボ群とROS群にクラスタリングされた。一部、プラセボ群の2サンプルが右側の群に含まれており、FOS群に近い遺伝子発現がみられた。
初乳由来サンプルで2群間に有意差が検出された88プローブのうち、FOS群でシグナル値が高い遺伝子の上位5つを挙げると、最も発現量に差異がみられたものはMATN3(matrilin 3)であり、プラセボ群に比べて2.46倍高い値であった。以下は、ZNF44(zinc finger protein 44):Fc値2.42、GDF10(growth differentiation factor 10):Fc値2.36、HEPH(hephaestin):Fc値2.33、TFPI(tissue factor pathway inhibitor(lippoprotein−associated coagulation inhibitor)):Fc値2.14の順であった。
反対にFOS群でシグナル値が低い遺伝子の下位5つを挙げると、最も発現量に差異がみられたものはC12orf75(chromosome 12 open reading frame 75)で、プラセボ群に比べて5.59倍低い値を示した。続いてGSTM5(glutathione S−transferase mu 5):Fc値3.84、TTLL12(tublin tyrosine ligase−like family,member12):Fc値2.74、HOXB3(homeobox B3):Fc値2.56、ABCC4(ATP−binding cassette,sub−family C(CFTR/MRP),member 4):Fc値2.35の順であった。
1か月母乳由来サンプルからも、プラセボ群3例(n=3)およびFOS群3例(n=3)のサンプルを無作為に抽出し、マイクロアレイを行った。用いたサンプルの対象者背景に差は認められなかった。
マイクロアレイチップに搭載された全プローブ数41000のうち、上記計6サンプルから検出されたプローブ数は19534(47.2%)であった。これらのプローブのうち、プラセボ群とFOS群を比較したときに統計学的有意な差があり、かつシグナル値に±1.5倍以上の差がみられたプローブ数は191(0.52%)であった。2群間の比較は、初乳由来サンプルの2群間比較に用いた方法と同じ方法で行った。
1か月母乳由来サンプルで2群間に差異が検出された191プローブをもとにヒートマップを作成し、各サンプルの遺伝子発現タイプがどのように分類されているか階層クラスター分析を行った。すると縦軸の左側に3サンプル、右側に3サンプルと大きく2群に分類され、プラセボ群とFOS群にクラスタリングされた。
1か月母乳由来サンプルで検出された191プローブのうち、FOS群でシグナル値が高い遺伝子の上位5つを挙げると、ABCA13(ATP−binding cassette,sub−family A(ABC1),member 13)が最も群間の差が大きく、プラセボ群と比較してFOS群で6.98倍高値を示した。続いてGSTT2(glutathione S−transferase theta 2):Fc値6.70、SAMD10(sterile alpha motif domain containing 10):Fc値4.68、IL−27:Fc値4.45、DENND2A(DENN/MADD domain containing 2A):Fc値4.38の順であった。
反対にFOS群でシグナル値が低い遺伝子の下位5つを挙げると、最も発現量に差異がみられたものはCTAG2(cancer/testis antigen 2)でプラセボ群と比較して5.37倍低い値だった。次いでCDKN2A(cyclin−dependent kinase inhibitor 2A):Fc値3.74、C1R(complement component 1,r subcomponent):Fc値3.37、GPX7(glutathione peroxidase 7):Fc値3.28、RAB36(RAB36,member RAS oncogene family(RAB36))Fc値:2.96の順であった。
2.乳清中IL−27の濃度測定結果
マイクロアレイの結果より、FOS群で遺伝子発現量が高値を示したサイトカインIL−27に注目し、母乳中の濃度測定を行った。IL−27はアレルギーや炎症の抑制に深く関与すると考えられ、IL−27誘導によりアレルギー反応が抑制されるという報告がある(非特許文献18−21)。
マイクロアレイの結果より、FOS群で遺伝子発現量が高値を示したサイトカインIL−27に注目し、母乳中の濃度測定を行った。IL−27はアレルギーや炎症の抑制に深く関与すると考えられ、IL−27誘導によりアレルギー反応が抑制されるという報告がある(非特許文献18−21)。
1か月母乳中のIL−27を2群間で比較すると、プラセボ群(n=29)では分布範囲が0.156−23.4ng/mlおよび中央値が0ng/mlであり、FOS群(n=35)では分布範囲が0.156−32.6ng/mlおよび中央値が1.7ng/mlであった。このように、FOS群が統計学的有意(p=0.040)に高値を示した(図3)。
また、初乳中のIL−27を2群間で比較すると、プラセボ群(n=29)では分布範囲が0.156−95.8ng/mlおよび中央値が0.2ng/mlであり、FOS群(n=35)では分布範囲が0.156−44.6ng/mlおよび中央値が2.4ng/mlであった。このように、乳中のIL−27も、1か月母乳中のIL−27と同様に、FOS群が統計学的有意(p=0.027)に高値を示した(図3)。
上記結果から、妊娠中および授乳中における母体のFOS摂取が母乳中細胞の遺伝子発現に影響を与えること、およびFOS摂取により母乳中細胞で顕著に発現が増加する遺伝子の中に、アレルギーと関連するIL−27の遺伝子が含まれていることが判明した。FOS群の1ヶ月母乳中細胞でのIL−27遺伝子発現はプラセボ群と比較して有意に高かったが、一方、初乳中細胞でのL−27遺伝子発現には差異が認められなかった。初乳には約106/mlの細胞が含まれているが、初乳の分泌には個人差が大きく、また含まれている細胞の種類や割合も個人によって大きく異なる。それに対して1か月母乳では母乳の産生量も安定し、細胞の割合の個人差も比較的少ないと思われる。このことから、初乳中細胞でのIL−27遺伝子発現に差異がみられなかった理由として、母乳細胞中に含まれるIL−27発現細胞、例えばマクロファージの割合の個人差などの影響を考えることができる。
さらに、FOS摂取により乳清中IL−27濃度がプラセボ群と比較して有意に増加することが、初乳および1ヶ月母乳のいずれにおいても明らかになった。一方、従来プロバイオティクス投与により増加するとの報告がある母乳中TGF−β、総IgA、可溶性CD14の濃度にFOS群とプラセボ群との間で差異はなかった。したがって、プレバイオティクスであるFOS摂取による母乳中IL−27増加のメカニズムは、プロバイオティクス摂取による遺伝子発現のメカニズムとは異なる可能性も考えられる。
本発明は、抗アレルギー免疫活性物質であるIL−27の母乳中の含有量を増加させることができるため、新生児のアレルギー発症の予防などに利用できる。
Claims (11)
- 母乳中インターロイキン−27産生増強におけるフラクトオリゴ糖の使用。
- フラクトオリゴ糖を1日1g〜30gの摂取量で連日経口摂取されることを特徴とする請求項1に記載のフラクトオリゴ糖の使用。
- フラクトオリゴ糖を妊娠期間および授乳期間に経口摂取されることを特徴とする請求項1または2に記載のフラクトオリゴ糖の使用。
- 母乳中インターロイキン−27産生増強におけるフラクトオリゴ糖の使用であって、フラクトオリゴ糖を、1回1g以上の摂取量で1日1回以上を連日経口摂取により、妊娠第26週から産後1ヶ月まで摂取されることを特徴とするフラクトオリゴ糖の使用。
- 母乳中インターロイキン−27産生増強におけるフラクトオリゴ糖の使用であって、フラクトオリゴ糖を、1回4gの摂取量で1日2回連日経口摂取により、妊娠第26週から産後1ヶ月まで摂取されることを特徴とするフラクトオリゴ糖の使用。
- フラクトオリゴ糖が食品中に含まれていることを特徴とする請求項1に記載のフラクトオリゴ糖の使用。
- フラクトオリゴ糖を用いることを特徴とする母乳中インターロイキン−27産生増強方法。
- フラクトオリゴ糖を1日1g〜30gの摂取量で連日経口摂取することを特徴とする請求項7に記載の母乳中インターロイキン−27産生増強方法。
- フラクトオリゴ糖を妊娠期間および授乳期間に経口摂取することを特徴とする請求項7または8に記載の母乳中インターロイキン−27産生増強方法。
- フラクトオリゴ糖を、1回1g以上の摂取量で1日1回以上を連日経口摂取により、妊娠第26週から産後1ヶ月まで摂取することを特徴とする母乳中インターロイキン−27産生増強方法。
- フラクトオリゴ糖を、1回4gの摂取量で1日2回連日経口摂取により、妊娠第26週から産後1ヶ月まで摂取することを特徴とする母乳中インターロイキン−27産生増強方法。
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