(本発明の一態様を得るに至った経緯)
以下、本発明の一態様を得るに至った経緯について説明する。
上記特許文献1には、シリコンよりも低温で成膜可能なZnOを材料とした酸化物半導体薄膜を用いたTFTが開示されている。しかし、この酸化物半導体薄膜を用いたTFTは、シリコン薄膜を用いたTFTに並ぶだけの充分な特性が得られていないという問題がある。
一方、例えば特許文献2には、In−Ga−Zn酸化物(IGZO)等の複合酸化物を材料とした非晶質酸化物半導体薄膜を用いたTFTが開示されている。しかし、例えば非特許文献1、2に示されるように、この非晶質酸化物半導体薄膜は、周囲の雰囲気の影響により特性が変化しやすく、真空下または雰囲気ガス中の酸素および水分の影響で大きく特性が変化するという問題がある。従って、非晶質酸化物半導体薄膜を用いたTFTは、特性のばらつきが発生しやすい。そのため、非晶質酸化物半導体薄膜を用いたTFTを製造する場合には、厳しい製造管理を必要する。さらに、非晶質酸化物半導体薄膜を用いたTFTの特性は、経時変化を起こしやすいだけでなく、熱伝導率が悪く蓄熱による劣化が起きやすいなどの問題もある。
上記問題を解決する手段として、結晶化して半導体特性を改良した酸化物半導体薄膜を利用する方法がある(例えば非特許文献3)。この非特許文献3には、非晶質である酸化物半導体膜を、成膜後のアニール処理により結晶化することにより、酸化物半導体中の酸素欠損発生料を著しく低減させる方法が開示されている。それにより酸素分圧等の周囲の雰囲気の影響を防止できるので、安定した半導体特性を示す薄膜トランジスタを提供することができる。
このアニール処理の方法として、直接加熱法と間接加熱法とがある。直接加熱法としては、エキシマレーザー等、紫外領域の波長のレーザーを用いて、酸化物半導体膜に直接吸収させ発熱させるレーザー直接加熱法が有効である。間接加熱法としては、可視光や近赤外光など、酸化物半導体を透過する波長領域のレーザー光を用いて、酸化物半導体膜に近接して形成される金属膜(以下、光吸収層とも呼ぶ)をアニールし、その発熱で間接的に加熱するレーザー間接加熱法が有効である。レーザー光を用いてアニール処理する利点としては、ナノ秒オーダーのパルス状に照射することにより、基板の熱損傷を生じさせることなく、半導体膜のみを加熱し、所望のアニール処理を可能とする点が挙げられる。
ここで、上記の間接加熱法すなわちレーザー間接加熱法の利点について説明する。
レーザー間接加熱法を用いると、例えば、薄膜トランジスタの構造がボトムゲート構造である場合、そのボトムゲート電極を形成する金属膜にレーザー光を吸収させ、ボトムゲート電極の発熱によるアニール処理を、ゲート電極を挟んでボトムゲート電極上に形成された酸化物半導体層に施すことが可能となる利点がある。酸化物半導体は一般的に可視光の光に対して優れた透過性を有するためである。
さらに、レーザー間接加熱法を用いると、酸化物半導体膜の結晶化のみならず、ゲート絶縁層自体もゲート電極からの発熱によりアニールすることが同時に可能となり、ゲート絶縁層の改質を促すことができるという利点がある。なお、レーザー直接加熱法を用いた場合では、紫外光の波長領域のレーザー光にて、酸化物半導体に直接光を吸収させるため、酸化物半導体のアニール処理のみ実施できる。
ここで、FPD、特に大型のディスプレイの製造においては、その作製上の簡便さからボトムゲート構造の薄膜トランジスタが用いられるのが一般的である。これを鑑みると、本手法すなわちレーザー間接加熱法はボトムゲート構造の酸化物半導体薄膜トランジスタの安定な高性能化に適している。
また、本手法に用いるゲート電極金属としては、その光学特性が、赤色、および近赤外の波長、具体的には波長400nm以上2000nm以下の光に対する吸収が大きい特徴を有していることが望ましい。また、本手法に用いるゲート電極金属は、高温を伴うレーザーアニール結晶化プロセスに耐えうる熱特性も兼ね備えていることが望ましい。
また、光吸収層の一例としては、高融点金属であるMoやCrが挙げられる。これらの高融点金属膜は、その消衰係数kが一般的に大きい(2以上)ため、安定に成膜でき、かつ、レーザー照射による加熱(1000度)に耐えうる。また、これらの高融点金属膜の望ましい膜厚は20nm以上であり、かつ、照射したレーザー光に対して1%以下の透過率の膜厚である。それにより、薄膜トランジスタの構造がボトムゲート構造である場合の光吸収層であるゲート電極自身の膜厚の変化による多重干渉の影響は無視できる。
しかしながら、有機ELパネルを構成する薄膜トランジスタには、特に均一な特性が求められる。そのため、上記のレーザーアニール結晶化法をボトムゲート構造の薄膜トランジスタの製造に適用した場合には潜在的な不都合が生じうる。以下それについて説明する。
ボトムゲート構造の薄膜トランジスタでは、ゲート絶縁膜や酸化物半導体膜よりも高い熱伝導率の金属材料でゲート電極が先に形成されて、その後に絶縁層および半導体層が形成される。
そのため、レーザー間接加熱法を用いて、ボトムゲート構造の酸化物半導体層を、アニールすることで結晶化を行う際には、下方のボトムゲート電極にレーザー光を照射することで発生した熱がゲート電極を介し、基板側に伝播してしまう。その結果、ゲート電極面内に不均一な均一熱分布が生じてしまう。つまり、ゲート電極周囲から熱が伝播することにより、ゲート電極周囲の発熱温度が低下してしまう。
それによって、ゲート電極上方では凸型の熱分布が生じ、ゲート電極上方の酸化物半導体層も中央と周囲で温度差が生じた状態で結晶化されることになる。そして、ゲート電極上方の酸化物半導体層の周囲部では十分な結晶化が達成されないという問題が生じる。この問題は、同時に製造される複数の薄膜トランジスタ個々のゲート電極上でばらつきをもって生じ得るため、個々の薄膜トランジスタの特性のばらつきが増大し、ディスプレイの画質に対して、輝度ムラ発生等の悪影響を及ぼすという問題が生じる。
ところで、薄膜トランジスタの発熱温度分布均一化を試みた例として、ゲート電極の近接領域すなわちチャネル近傍に、ダミーゲートパターンを配置させることにより、ゲート電極およびダミーゲートパターン上方にある非晶質シリコン層におけるそれぞれの熱容量の差を低減させる方法が開示されている(例えば、特許文献3)。また、レーザー光のスキャン上流側にゲート電極を伸長させることにより、伸長させたゲート電極の部分のプリアニール効果を利用して、レーザー光が薄膜トランジスタのゲート電極に到達する前に、ゲート電極を熱的に飽和させ、ゲート電極によるシリコン薄膜において発生した熱の吸収を軽減させる方法も開示されている(例えば、特許文献4)。
しかしながら、上記特許文献3および特許文献4に開示される方法をレーザー間接加熱法に適用する場合、次に述べるような問題がある。すなわち、特許文献3および文献4に開示の方法では、ゲート電極にレーザー光が到達する前にゲート電極を熱的に飽和させる手段として、ゲート電極周辺、およびゲート電極に接触して電極材料を配置する。そのため、ボトムゲート構造の薄膜トランジスタを用いてより高精細な表示装置を作製する場合には、ゲート電極パターンを密に配置することが困難になる。さらに、上記特許文献4に開示の方法では、スキャン方向に対して薄膜トランジスタのチャネル方向が常に平行になるように薄膜トランジスタを配置しなければならないという制約も生じる。これは、表示装置の画素内の回路パターンの設計の自由度を著しく低減させてしまうため、より高精細な表示装置の作製をする場合には、深刻な問題となる。
そこで、本発明の一態様は、かかる問題に鑑みてなされたもので、膜質の安定した酸化物半導体膜を形成することが可能な薄膜トランジスタ装置の製造方法、薄膜トランジスタ装置、それを用いた表示装置を提供することを目的とする。より具体的には、ボトムゲート構造の酸化物半導体薄膜トランジスタにおいて、可視光、又は近赤外の波長領域のレーザーを用いてゲート電極を加熱させ、その熱により間接的に酸化物半導体層をアニールする方法において、膜質の安定した酸化物半導体膜を形成することができる薄膜トランジスタ装置の製造方法、薄膜トランジスタ装置、それを用いた表示装置を提供することを目的とする。
上記問題を解決するために、本発明の第1の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法は、基板を準備する第1工程と、前記基板上にゲート電極を形成する第2工程と、前記ゲート電極上に絶縁層を形成する第3工程と、前記絶縁層上に酸化物半導体層を積層する第4工程と、前記酸化物半導体層を透過する波長を有する所定のレーザーを前記基板に対して照射することで前記ゲート電極を加熱させて発生した熱により間接的に前記酸化物半導体層をアニールする第5工程と、前記ゲート電極に対応する前記アニールされた酸化物半導体層上の領域にソース電極およびドレイン電極を形成する第6工程と、を含み、前記第2工程、前記第3工程、および、前記第4工程では、前記第5工程において、前記ゲート電極端と前記酸化物半導体層端との間隔を△L(μm)とし、前記所定のレーザー光を用いて前記基板上から△t(nsec)照射した際、前記酸化物半導体層の膜厚に前記酸化物半導体層の屈折率を積算した値である前記酸化物半導体層の光学膜厚を、前記レーザー光の波長で除算した値をXとし、前記絶縁層の膜厚に前記絶縁層の屈折率を積算した値である前記絶縁層の光学膜厚を、前記レーザー光の波長で除算した値をYとし、前記酸化物半導体層が存在する第1領域の前記ゲート電極における前記所定のレーザー光波長に対する第1吸収率をA1とし、前記第1領域に隣接して、前記酸化物半導体層が存在しない第2領域の前記ゲート電極における前記所定のレーザー光波長に対する第2吸収率をA2とし、前記Xおよび前記Yによって導出される、前記酸化物半導体層が存在する第1領域の前記ゲート電極における前記所定のレーザー光波長に対する吸収率(A1)と、前記第1領域に隣接して、前記酸化物半導体層が存在しない第2領域(領域2)の前記ゲート電極における前記所定のレーザー光波長に対する吸収率(A2)との差を△A(△A=A1−A2)としたとき、以下の(式1)、(式2)および(式3)を満たす。
−0.2(△L’)2+1.1(△L’)−1.6≧△A(△L’=2△L/log(△t)≦2.75のとき) (式1)
−0.0875≧△A(△L’>2.75のとき) (式2)
△L’=2△L/log(△t) (式3)
本態様によれば、膜質の安定した酸化物半導体膜を形成することが可能な薄膜トランジスタ装置の製造方法を実現することができる。
具体的には、ゲート絶縁層およびチャネル層となる酸化物半導体層の膜厚が上記条件を満たすことにより、酸化物半導体層が存在する第1領域のゲート電極の光吸収率より前記酸化物半導体層が存在しない第2領域のゲート電極の光吸収率が大きく設定され、ゲート電極の第1領域部の発熱より、ゲート電極の第2領域部の発熱を高めることが可能となる。そして、ゲート電極の周囲への熱伝播の影響を抑制し、ゲート電極周囲の発熱温度低下を防ぐことができる。それにより、第1領域に存在する酸化物半導体層の周辺部の温度が低くなることを抑制することが可能となり、安定な酸化物半導体の結晶化が可能となる。
ここで、例えば、第2の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第1の態様において、前記第4工程では、前記絶縁層上に、非晶質の前記酸化物半導体を積層するとしてもよい。
また、例えば、第3の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第2の態様において、前記第5工程では、前記酸化物半導体層をアニールすることで前記酸化物半導体層を結晶化するとしてもよい。
また、例えば、第4の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第1の態様〜第3の態様のいずれかにおいて、前記第4工程は、さらに、積層した前記酸化物半導体層を、前記ゲート電極領域の内側に島化形成する工程を含むとしてもよい。
また、例えば、第5の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第1の態様〜第4の態様のいずれかにおいて、前記第2工程、前記第3工程、および前記第4工程では、前記第5工程において、以下の(式4)、(式5)および(式6)を満たすように構成されるとしてもよい。
−0.2(△L’)2+1.1(△L’)−1.6≧△A≧−0.2(△L’)2+1.1(△L’)−1.7(△L’=2△L/log(△t)≦2.75のとき) (式4)
−0.0875≧△A≧−0.1875(△L’>2.75のとき) (式5)
△L’=2△L/log(△t) (式6)
本態様によれば、ゲート絶縁層の膜厚およびチャネル層となる酸化物半導体層の膜厚が上記条件を満たすことにより、酸化物半導体層が存在する第1領域のゲート電極の光吸収率より酸化物半導体層が存在しない第2領域のゲート電極の光吸収率が大きく設定される。それにより、ゲート電極の第1領域部の発熱より、ゲート電極の第2領域部の発熱を高めることが可能となり、ゲート電極の周囲への熱伝播の影響を抑制し、ゲート電極周囲の発熱温度低下を防ぐことができる。この作用により、第1領域に存在する酸化物半導体層の周辺部の温度が低くなることを抑制できるのみならず、酸化物半導体層の温度分布がよりフラットになり、より均一で安定な酸化物半導体の結晶化が可能となる。
また、例えば、第6の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第1の態様〜第5の態様のいずれかにおいて、前記酸化物半導体層はインジウムを含み、酸素を除く全原子に占める前記インジウムの含有率が90原子%以上100原子%以下であるとしてもよい。
また、例えば、第7の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第6の態様において、前記酸化物半導体層は、1種以上の正二価の金属元素をさらに含むとしてもよい。
また、例えば、第8の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第7の態様において、前記酸化物半導体層は、正二価の金属元素として亜鉛を含むとしてもよい。
また、例えば、第9の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第6の態様〜第8の態様のいずれかにおいて、前記酸化物半導体層の結晶構造は、インジウムのビックスバイト型の結晶構造であるとしてもよい。
また、例えば、第10の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第1の態様〜第8の態様のいずれかにおいて、前記酸化物半導体層は、インジウムおよび亜鉛のうち少なくとも1つを含むとしてもよい。
また、例えば、第11の態様の薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第10の態様において、前記酸化物半導体層は、インジウム、亜鉛およびガリウムを含むとしてもよい。
また、例えば、第12の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第1の態様〜第11の態様のいずれかにおいて、前記所定のレーザー光の照射エネルギー密度の変動は、5%程度未満であるとしてもよい。
また、例えば、第13の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第1の態様〜第12の態様のいずれかにおいて、前記レーザー光の波長のエネルギーは、前記酸化物半導体層のバンドギャップ以上であるとしてもよい。
また、例えば、第14の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第1の態様〜第13の態様のいずれかにおいて、前記レーザー光の波長は400nm以上、2000nm以下であるとしてもよい。
また、例えば、第15の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第1の態様〜第14の態様のいずれかにおいて、前記絶縁層のレーザー光の波長に対する消衰係数は、0.01以下であるとしてもよい。
また、例えば、第16の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法として、第1の態様〜第15の態様のいずれかにおいて、前記絶縁層は、酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜、または、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜の積層膜で構成されているとしてもよい。
また、上記問題を解決するために、第17の態様に係る薄膜トランジスタ装置は、基板と、前記基板上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に積層された酸化物半導体層と、前記ゲート電極に対応する前記酸化物半導体層上の領域に形成されたソース電極およびドレイン電極と、を備え、前記酸化物半導体層は、前記絶縁層上に積層後、前記酸化物半導体層を透過する波長を有する所定のレーザーを前記基板に対して照射することで、前記ゲート電極を加熱させて発生させた熱により間接的にアニールされ、前記ゲート電極、前記絶縁層、および前記酸化物半導体層は、前記ゲート電極端と前記酸化物半導体層端との間隔を△L(μm)とし、前記所定のレーザー光を用いて前記基板上から△t(nsec)照射した際、前記酸化物半導体層の膜厚に前記酸化物半導体層の屈折率を積算した値である前記酸化物半導体層の光学膜厚を、前記レーザー光の波長で除算した値をXとし、前記絶縁層の膜厚に前記絶縁層の屈折率を積算した値である前記絶縁層の光学膜厚を、前記レーザー光の波長で除算した値をYとし、前記酸化物半導体層が存在する第1領域の前記ゲート電極における前記所定のレーザー光波長に対する第1吸収率をA1、前記第1領域に隣接して、前記酸化物半導体層が存在しない第2領域の前記ゲート電極における前記所定のレーザー光波長に対する第2吸収率をA2とし、前記Xおよび前記Yによって導出される、前記酸化物半導体層が存在する第1領域の前記ゲート電極における前記所定のレーザー光波長に対する吸収率(A1)と、前記第1領域に隣接して、前記酸化物半導体層が存在しない第2領域の前記ゲート電極における前記所定のレーザー光波長に対する吸収率(A2)との差を△A(△A=A1−A2)としたとき、上記の(式1)、(式2)および(式3)を満たすように構成されている。
ここで、例えば、第18の態様に係る薄膜トランジスタ装置として、第17の態様において、液晶パネルまたはELパネルを含む表示装置であって、前記表示装置は、請求項17記載の薄膜トランジスタ装置を備え、前記薄膜トランジスタ装置は、前記液晶パネルまたはELパネルを駆動させるとしてもよい。
ここで、例えば、第19の態様に係る薄膜トランジスタ装置として、第18の態様において、前記ELパネルは、有機ELパネルであるとしてもよい。
以上、上述した態様によれば、膜質の安定した酸化物半導体膜を形成することが可能な薄膜トランジスタ装置の製造方法等を実現することができる。具体的には、赤色および近赤外のレーザー光によるレーザー間接加熱法を用いた酸化物半導体層の結晶化において、結晶性の安定した酸化物半導体膜を形成することができる薄膜トランジスタ装置の製造方法、薄膜トランジスタ、それを用いた表示装置を実現することができる。より具体的には、酸化物半導体膜の膜厚およびゲート絶縁層それぞれの膜厚を、所定の条件を満足するように形成する。それにより、ゲート電極のパターン形状等、特に薄膜トランジスタ装置の構造に何ら変更を加えることなく、可視光、および近赤外領域の波長のレーザーを用いて、結晶性の安定した酸化物半導体層を形成することができる薄膜トランジスタ装置の製造方法、薄膜トランジスタ装置、それを用いた表示装置を実現することができる。
以下、本発明一態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法、薄膜トランジスタ装置および表示装置について、図面を参照しながら具体的に説明する。
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る有機発光表示装置を構成する薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
図1に示す薄膜トランジスタ100は、ボトムゲート構造の薄膜トランジスタであり、基板10と、ゲート電極11と、ゲート絶縁層12と、結晶質酸化物半導体層13と、チャネル保護層14と、ソース・ドレイン電極15とを備える。
基板10は、例えば透明なガラスまたは石英またはプラスチックからなる絶縁基板である。
ゲート電極11は、典型的にはモリブデン(Mo)等の金属やMo合金等(例えばMoW(モリブデン・タングステン合金))の金属からなる。なお、ゲート電極11は、酸化物半導体の融点温度に耐えられる金属であればよいので、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)およびMoを含むこれらの合金からなるとしてもよい。ゲート電極11の膜厚は、好ましくは20nm以上〜300nm以下であり、より好ましくは、50nm以上〜100nm以下である。これは、ゲート電極11の膜厚が薄いと、ゲート電極11の透過率が増加してしまい、以下に記すレーザー光の反射が低下しやすくなるからである。また、ゲート電極11の膜厚が厚いと以下に説明するゲート絶縁層12の被覆性が劣化してしまい、最悪の場合、ゲート電極の端部でゲート絶縁層が段切れすることでゲート電極11と結晶質酸化物半導体層13とが電気的に導通してしまうなど、薄膜トランジスタ100の特性が劣化しやすくなるからである。
ゲート絶縁層12は、ゲート電極11を覆うように形成され、例えば酸化珪素層、または窒化珪素層の単層構造、または酸化珪素層と窒化珪素層との積層構造からなる。ゲート絶縁層12の膜厚は、単層構造であれ、積層構造であれ、レーザー間接加熱法を用いて結晶化する方法(以下、レーザー間接加熱法とも呼ぶ)により結晶質酸化物半導体層13を形成する場合に好適な範囲がある。この好適な範囲は、一定の関係式で表現される。この一定の関係式の詳細については、後述する。
結晶質酸化物半導体層13は、ゲート絶縁層12上に形成され、多結晶の酸化物半導体層からなる。なお、この結晶質酸化物半導体層13は、ゲート絶縁層12上に非晶質酸化物半導体層13a(不図示)を形成後、フォトリソグラフィー、ウェットエッチング等の技術をもちいてゲート電極領域内に島化形成される。その後、その非晶質酸化物半導体層13a上からレーザー光を照射し、非晶質酸化物半導体層13aおよびゲート絶縁層12を透過したレーザー光をゲート電極に吸収させる。そして、吸収された光エネルギーが熱変換されることによりゲート電極が発熱することを利用して、その熱により間接的にゲート絶縁層上の非晶質酸化物半導体層13aを加熱し、多結晶質化(微結晶化も含む)することにより形成される。
結晶質酸化物半導体層13は、例えばインジウムを含み、酸素を除く全原子に占めるインジウムの含有率が90原子%以上100原子%以下である。ここで、例えば、結晶質酸化物半導体層13は、1種以上の正二価の金属元素をさらに含んでもよい。正二価の金属元素としては、例えば亜鉛である。また、結晶質酸化物半導体層13の結晶構造として、インジウムのビックスバイト型の結晶構造を示してもよい。
なお、結晶質酸化物半導体層13は、インジウムおよび亜鉛のうち少なくとも1つを含むとしてもよいし、インジウム、亜鉛およびガリウムを含むとしてもよい。
なお、レーザー照射に用いられるレーザー光源は、可視光領域および近赤外領域の波長のレーザーである。例えば、このレーザー光源は、400nm〜2000nmの波長のレーザーであり、好ましくは500nm〜1100nmの波長のレーザーである。
また、このレーザーは、固体レーザー装置であってもよく、半導体レーザー素子を用いたレーザー装置であってもよい。いずれにせよ、レーザー光を精度良く制御できるため好ましい。さらに、結晶ムラのない結晶質酸化物半導体層13を形成するためには、照射エネルギー密度の変動が5%程度未満であれば好ましい。結晶ムラのない結晶質酸化物半導体層13を形成することにより、薄膜トランジスタの当初設計特性が達成でき、また、特性の均一化が実現できることとなる。
チャネル保護層14は、結晶質酸化物半導体層13およびゲート絶縁層12を覆うように形成され、例えば酸化珪素、酸化アルミニウムまたは酸化イットリウムからなる。
ソース・ドレイン電極15は、チャネル保護層14上に形成される。ソース・ドレイン電極15は、例えばMo、若しくはMo合金などの金属、チタニウム(Ti)、アルミニウム(Al)若しくはAl合金などの金属、銅(Cu)若しくはCu合金などの金属、または、銀(Ag)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)若しくはタングステン(W)等の金属の材料からなる。
以上のように薄膜トランジスタ100は、構成されている。
図2は、実施の形態1に係る表示装置の等価回路を示す図である。
図2に示す有機発光表示装置は、スイッチングトランジスタ1と、駆動トランジスタ2と、データ線3と、走査線4と、電流供給線5と、キャパシタンス6と、有機EL素子7とを備える。
スイッチングトランジスタ1は、データ線3と走査線4とキャパシタンス6とに接続されている。
駆動トランジスタ2は、例えば図2に示す薄膜トランジスタ100に相当し、電流供給線5とキャパシタンス6と有機EL素子7とに接続されている。
データ線3は、有機EL素子7の画素の明暗を決めるデータ(電圧値の大小)が、有機EL素子7の画素に伝達される配線である。
走査線4は、有機EL素子7の画素のスイッチ(ON/OFF)を決めるデータが有機EL素子7の画素に伝達される配線である。
電流供給線5は、駆動トランジスタ2に大きな電流を供給するための配線である。
キャパシタンス6は、電圧値(電荷)を一定時間保持する。
以上のようにして有機発光表示装置は構成されている。
次に、上述した薄膜トランジスタ100の製造方法について説明する。
図3は、実施の形態1に係る有機発光表示装置の薄膜トランジスタの製造工程を示すフローチャートである。この薄膜トランジスタ100は同時に複数製造されるが、以下では、説明を簡単にするため、1つの薄膜トランジスタを製造する方法として説明する。図4A〜図4Hは、実施の形態1に係る有機発光表示装置の薄膜トランジスタの製造方法を説明するための図である。図5は、図3のS14におけるレーザー間接加熱法を模式的に示した図である。
まず、基板10を準備し、続いて、基板10上に、ゲート電極を形成する(S10)。
具体的には、基板10上にスパッタ法によりゲート電極となる金属膜を堆積し、フォトリソグラフィーおよびエッチングにより薄膜トランジスタ100におけるゲート電極11を形成する(図4A)。ここで、ゲート電極11は、典型的にはMo等あるいはMo合金等(例えばMoW(モリブデン・タングステン合金))の金属材料で形成される。
続いて、ゲート電極11上にゲート絶縁層12を形成する(S11)。そして、ゲート絶縁層12上に非晶質酸化物半導体層13aを形成する(S12)。
具体的には、プラズマCVD法により、ゲート電極11の上にゲート電極11を覆うように、ゲート絶縁層12を成膜し(図4B)、成膜したゲート絶縁層12上に非晶質酸化物半導体層13aをスパッタ法により成膜する(図4C)。
次に、薄膜トランジスタ100のチャネル領域の非晶質酸化物半導体層13aをパターニングする(S13)。
具体的には、フォトリソグラフィーおよびエッチングにより非晶質酸化物半導体層13aをパターニングし、ゲート電極11の上方の領域内(以下、ゲート電極領域内とも呼ぶ)に島化形成する。
ここで、図4Dに示すように、ゲート電極領域内で、非晶質酸化物半導体層13aが存在する領域を第1領域、および、非晶質酸化物半導体層13aが存在しない(エッチングされ除去された)領域を第2領域と定義する。さらに、ゲート電極11の端と島化形成された非晶質酸化物半導体層13aの端との間隔を△L(μm)と定義する。なお、図4Dでは断面形状で図示しているが、実際には平面的にパターンは形成されるため、△Lは断面の切る方向によって異なり得るが、ここではその中で最小の距離を有するものを△Lと定義する。また、レーザーの照射時間を△t(nsec)とおく。さらに、非晶質酸化物半導体層13aの膜厚に非晶質酸化物半導体層13aの屈折率を積算した値である非晶質酸化物半導体層13aの光学膜厚を、レーザー光の波長で除算した値をXとし、ゲート絶縁層12の膜厚にゲート絶縁層12の屈折率を積算した値であるゲート絶縁層12の光学膜厚を、レーザー光の波長で除算した値をYとする。そして、XおよびYによって導出される島化された非晶質酸化物半導体層13aが存在する第1領域のゲート電極11におけるレーザー光波長に対する吸収率(A1)と、第1領域に隣接して、島化された非晶質酸化物半導体層13aが存在しない第2領域のゲート電極11におけるレーザー光波長に対する吸収率(A2)との差(△A=A1−A2)が上記(式1)〜(式3)を満たすように形成されるXおよびYを与える。
ここで、(式1)〜(式3)を再度記載すると以下である。
−0.2(△L’)2+1.1(△L’)−1.6≧△A(△L’=2△L/log(△t)≦2.75のとき) (式1)
−0.0875≧△A(△L’>2.75のとき) (式2)
△L’=2△L/log(△t) (式3)
なお、詳細は後述するため、ここでの説明を省略するが、△Aは、ゲート絶縁層12、および非晶質酸化物半導体層13aの膜厚および光学定数、さらに下地のゲート電極11を形成する金属材料の光学定数および基板の光学定数をパラメータとして、レーザー光の多重干渉を考慮した光学計算により導かれる。
次に、図5に示すように所定のレーザーを基板に対して照射することで、ゲート電極11を照射・加熱させる。そして、加熱によりゲート電極11に発生した熱により非晶質酸化物半導体層13aを間接的にアニールすることで結晶質酸化物半導体層13にする(S14)。具体的には、波長が400nm以上2000nm以下である所定のレーザーから照射されるレーザー光が非晶質酸化物半導体層13aおよびゲート絶縁層12を透過した光により、ゲート電極11を加熱させる。そして、その熱によりゲート絶縁層12を介して間接的に非晶質酸化物半導体層13aをアニールすることで結晶化させた結晶質酸化物半導体層13を生成する(図4E)。
ここで、このレーザーアニール法においてレーザー照射に用いられるレーザー光源は、上述したように、赤色および近赤外の波長のレーザーである。例えば、約400nm〜2000nmの波長のレーザーであり、好ましくは500nm〜1100nmの波長のレーザーである。また、この波長領域のレーザーは、固体レーザー装置で構成されていてもよく、半導体レーザー素子を用いたレーザー装置で構成されていてもよい。さらに、この波長のレーザーは、照射エネルギー密度の変動が5%程度未満である。
次に、チャネル保護層14を形成し、パターニングする(S15)。具体的には、結晶質酸化物半導体層13およびゲート絶縁層12を共に覆うように、チャネル保護層14を形成する(図4F)。
より具体的には、プラズマCVD法により、酸化膜または/および酸化珪素膜で構成されるチャネル保護層14を形成する。なお、チャネル保護層14は、スパッタ法により、酸化アルミニウムや酸化イットリウムを用いて形成されても良い。続いて、このように形成されたチャネル保護層14をフォトリソグラフィーおよびエッチングによりパターニングし、コンタクトホールを形成する(図4G)。
次に、ソース・ドレイン電極15を形成し、パターニングする(S16)。
具体的には、パターニングされたチャネル保護層14の上に、スパッタ法によりソース・ドレイン電極15となる金属を堆積する。ここで、ソース・ドレイン電極15は、Mo若しくはMo合金などの金属、チタニウム(Ti)、アルミニウム(Al)若しくはAl合金などの金属、銅(Cu)若しくはCu合金などの金属、または、銀(Ag)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)若しくはタングステン(W)等の金属の材料で形成される。続いて、図4Hに示されるように、ソース・ドレイン電極15をパターニングするすなわちソース・ドレイン電極15をフォトリソグラフィーおよびエッチングにより形成する。
このようにして、薄膜トランジスタ100は製造される。
以上のように、本実施の形態における薄膜トランジスタ100は、ボトムゲート構造を有する結晶質酸化物半導体をチャネルに用いた薄膜トランジスタとして形成される。この薄膜トランジスタ100の製造時には、ゲート絶縁層12および非晶質酸化物半導体層13aを、上述した関係式を成立させる膜厚を有するように成膜する。そして、所定のレーザー光にて照射を行い、非晶質酸化物半導体層13aおよびゲート絶縁層12を透過した光によってゲート電極11を加熱し、発生した熱によりゲート絶縁層12を介して非晶質酸化物半導体層13aをアニールする。それにより、非晶質酸化物半導体層13aは結晶化され、結晶質酸化物半導体層13になる。このとき、ゲート絶縁層12の膜厚およびチャネル層となる非晶質酸化物半導体層13aの膜厚が上記条件を満たすことにより、非晶質酸化物半導体層13aが存在する第1領域のゲート電極11の光吸収率より非晶質酸化物半導体層13aが存在しない第2領域のゲート電極11の光吸収率が大きく設定される。それにより、ゲート電極11の第1領域部の発熱より、ゲート電極11の第2領域部の発熱を高めることが可能となり、ゲート電極11の周囲への熱伝播の影響を抑制し、ゲート電極11の周囲の発熱温度低下を防ぐことができる。この作用により、非晶質酸化物半導体層13aは結晶化される際、第1領域に存在する非晶質酸化物半導体層13aの周辺部の温度が中央部に比べて低くなることを抑制することが可能となり、安定な結晶質酸化物半導体層13の形成が可能となる。
以上のように、ゲート絶縁層12の膜厚および非晶質酸化物半導体層13aの膜厚を上述した条件を満たすように形成することで、さまざまな波長のレーザー光を用いたり、さまざまなゲート電極11の材質および膜厚であったりしても、結晶ムラのない結晶質酸化物半導体層13を生成することができる。つまり、例えばゲート電極11のパターン形状等、特に薄膜トランジスタ100の構造に変更を加えることなく、ゲート電極11上に形成される結晶質酸化物半導体層13の結晶性のばらつきを低減することができる。換言すると、結晶質酸化物半導体層13において安定した結晶化が可能となる。それにより、結晶質酸化物半導体層13を使用した薄膜トランジスタ100の特性のばらつきを抑え、LCDやOLEDなどの表示装置で高精細化が進んでも、その表示品位を向上させることができるという効果を奏する。
なお、図5に示す例では、線状に集光されたレーザー光を用いて非晶質酸化物半導体層13aを結晶化する場合の例を示したが、それに限らない。スポット状(円形や楕円形その他も含む)のレーザー光を使ってもよい。その場合は、レーザー光を結晶化に適したスキャン方法で実施することが好ましい。
また、本実施の形態では、非晶質酸化物半導体層13aを結晶化させて結晶質酸化物半導体層13にする場合の例について説明したが、それに限らない。非晶質酸化物半導体層13aをアニールして、その結晶性を安定させるだけでもよい。
また、S13では、非晶質酸化物半導体層13aをパターニングして島化する場合について説明したが、必ずしも島化する必要はない。
以上のように、本実施の形態における薄膜トランジスタ100の製造方法によれば、ゲート絶縁層12の膜厚および非晶質酸化物半導体層13aの膜厚が、上述した条件を満たすことにより、第1領域における非晶質酸化物半導体層13aの発熱による到達温度の分布を均一にして、第1領域おける非晶質酸化物半導体層13aを充分かつ均一に結晶化を図ることができる。
以下、ゲート絶縁層12の膜厚および非晶質酸化物半導体層13aの膜厚が満たすべき条件を、実施例に詳細に説明する。
(実施例1)
まず、ゲート電極11のレーザー光波長に対する吸収率の算出方法について説明する。
図6Aおよび図6Bは、振幅透過率および振幅透過率の計算方法を説明するための図である。
図6Aおよび図6Bは、図1に示す薄膜トランジスタ100の構造をモデル化した多層構造のモデル構造を示している。図6Aに示すモデル構造では、複素屈折率N1からなる層401と、複素屈折率N2からなる402と、複素屈折率N3からなる層403と、複素屈折率N4からなる基板層404と、を備える。このモデル構造では、層403、層402および層401がこの順に基板層404上に積層されたものを示している。なお、図6Bに示すモデル構造は、図6Aの層401がない場合のモデル構造を示している。また、図中に示す複素屈折率N0の領域は、モデル構造の外部であり、レーザー光がモデル構造に入射される側を示している。この領域は、例えば空気であり、その場合、屈折率1、消衰係数0である。
基板層404は、例えば透明なガラスまたは石英、またはプラスチック基板からなる絶縁基板であり、例えば屈折率1.46を有し、図4Aに示す基板10に対応する。層403は、例えば屈折率3.55、消衰係数3.86を有し、膜厚が60nmのMoWで構成されている。層403は、図4Aに示すゲート電極11に対応する。層402は、例えば屈折率1.46、消衰係数0の酸化珪素(SiOx)で構成されており、図4Bに示すゲート絶縁層12に対応する。層401は、例えば屈折率1.988、消衰係数0の酸化物半導体膜で構成されており、図4Cに示す非晶質酸化物半導体層13aに対応する。なお、これらの光学定数は波長532nmのレーザー光に対するものである。
図6Aおよび図6Bに示すように、外部から層401へ入射される光に対する振幅反射係数をr01、層401から層402へ入射される光に対する振幅反射係数をr12、層402から層403へ入射される光に対する振幅反射係数をr23、層403から基板層404へ入射される光に対する振幅反射係数をr34、および、外部から層402へ入射される光に対する振幅反射係数をr02、としている。また、外部から層401へ入射される光に対する振幅透過係数をt01、層401から層402へ入射される光に対する振幅透過係数をt12、層402から層403へ入射される光に対する振幅透過係数をt23、層403から基板層404へ入射される光に対する振幅透過係数をt34、および、外部から層402へ入射される光に対する振幅透過係数をt02としている。
さらに、図6Aに示すように、非晶質酸化物半導体層13aに対応する層401が形成されている領域(第1領域に相当)の各層全体の振幅反射係数をそれぞれr01234(R1)、r1234(R2)、r234(R3)としている。具体的には、基板層404と層403を1層とみなしたときの振幅反射係数をr234(R3)とし、基板層404、層403および層402を1層とみなしたときの振幅反射係数をr1234(R2)とし、基板層404、層403、層402および層401を1層とみなしたときの振幅反射係数をr01234(R1)としている。
また、第1領域の各層全体の振幅透過係数をそれぞれt01234(T1)、t1234(T2)、t234(T3)としている。具体的には、基板層404および層403を1層とみなしたときの振幅透過係数をt234(T3)とし、基板層404、層403および層402を1層とみなしたときの振幅透過係数をt1234(T2)とし、基板層404、層403、層402および層401を1層とみなしたときの振幅透過係数をt01234(T1)としている。
次に、図6Bに示すように、非晶質酸化物半導体層13aに対応する層401が形成されていない領域(第2領域に相当)の各層全体の振幅反射係数をそれぞれr0234(R2’)、r234(R3)としている。具体的には、基板層404および層403を1層とみなしたときの振幅反射係数をr234(R3)とし、基板層404、層403および層402を1層とみなしたときの振幅反射係数をr0234(R2’)としている。また、第2領域の各層全体の振幅透過係数をそれぞれt0234(T2’)、t234(T3)としている。具体的には、基板層404および層403を1層とみなしたときの振幅透過係数をt234(T3)とし、基板層404、層403および層402を1層とみなしたときの振幅透過係数をt0234(T2’)としている。
そして、第1領域の各層全体の振幅反射係数、振幅透過係数は、下記の(式7)〜(式12)で表すことができる。
また、第2領域の各層全体の振幅反射係数および振幅透過係数は、下記の(式13)〜(式16)で表すことができる。
なお、(式9)と(式14)、および、(式12)と(式16)はそれぞれ共通となる。
ここで、
dは各層の膜厚、θは各層での入射角・透過角、λはレーザー光の波長である。
また、θは下式のスネルの法則より以下に示す通りに算出できる。
また、各層それぞれの振幅反射係数r01、r12、r23、r34、r02および振幅透過係数t01、t12、t12、t34、t02は下記の(式17)〜(式26)を用いて算出できる。
なお、ここでレーザー光は単色レーザー光であり、その偏光はP偏光を仮定している。
次に、以上の式を用いて、次のようにして第1領域および第2領域における各層全体の振幅反射係数、振幅透過係数を算出する。
すなわち、まず、r234を、(式9)に(式19)および(式20)を代入することにより算出する。次いで、r1234を、(式11)に(式18)およびr234を代入することにより算出する。次いで、r01234を、(式7)に(式17)およびr234を代入することにより算出する。次いで、r0234を、(式13)に(式21)およびr234を代入することにより算出する。
また、t234を、(式12)に(式24)、(式25)を代入することにより算出する。次いで、t1234を、(式11)に(式18)、(式23)、r234およびt234を代入することにより算出する。次いで、t01234を、(式10)に(式17)、(式22)、r1234およびt1234を代入することにより算出する。次いで、t0234を、(式15)に(式21)、(式26)、r234およびt234を代入することにより算出する。
次に、第1領域および第2領域における各層での反射率R1、R2、R3およびR2’、透過率T1、T2、T3およびT2’を(式27)〜(式34)により算出する。
最後に、(式35)によって、第1領域のゲート電極層の光吸収率A1を算出することができる。
また、(式36)によって、第2領域のゲート電極層の光吸収率A2を算出することができる。
上記(式35)、(式36)は、構成上は酸化物半導体層およびゲート絶縁層の光吸収率を算出する式に相当するが、レーザー光に対して酸化物半導体層、およびゲート絶縁層が共に透過するという条件では、上記の式は下地のゲート電極の吸収率を表す。
次に、上述した計算方法を用いて、図6Aおよび図6Bに示すモデル構造に対して垂直に、すなわちθ0=0、またはsinθ0=0が近似的に成り立つ範囲の入射角θ0において波長λ(400nm≦λ≦2000nm)のレーザー光(可視および近赤外の波長領域のレーザー光)を入射した場合に、第1領域および第2領域のゲート電極のレーザー光に対する吸収率を算出し、その差(△A=A1−A2)を計算した。また、この場合、レーザー光の偏光がS偏光としても計算結果は同じである。
図7は、レーザー間接加熱法により結晶質酸化物半導体層を形成する場合にゲート絶縁層、非晶質酸化物半導体層に好適な膜厚範囲があることを示すための図である。具体的には、図7は、図6Aおよび図6Bに示すモデル構造を用いて、ゲート絶縁層12の膜厚、非晶質酸化物半導体層13aの膜厚をそれぞれ変化させた場合の、第1領域および第2領域のゲート電極11の吸収率差△A=A1−A2の計算結果を示す等高線図である。
なお、図7中に示されている数値は、等高線が表す吸収率の差である。ここでXは酸化物半導体層の屈折率に光吸収層の膜厚を乗算した酸化物半導体層の光学膜厚を所定のレーザー光の波長にて除算した値を表す。また、Yはゲート絶縁層の屈折率にゲート絶縁層の膜厚を乗算したゲート絶縁層の光学膜厚を前記所定のレーザー光の波長にて除算した値を表す。ここで、前記ゲート絶縁層が積層膜で構成されている場合、その光学膜厚はそれぞれの酸化膜の光学膜厚の和になる。
例えば、レーザー光波長がλ=532nmのとき、非晶質酸化物半導体層13aの屈折率を用いると、図7の横軸の値を酸化物半導体層の膜厚に変換することができる。例えば、図8は、図7の横軸の値を酸化物半導体層の膜厚に変換した値を示す図である。図8には、λ=532nmのときおよびλ=808nmのとき、図7の横軸の値を酸化物半導体層の膜厚に変換した値を示している。
ここで、図9Aは、λ=532nmおよびλ=808nmのとき、図7の縦軸の値をゲート絶縁層(単層)の膜厚に変換した値の例を示す表である。図9Bは、λ=532nmおよびλ=808nmのとき、図7の縦軸の値をゲート絶縁層(積層構造)の膜厚に変換した値の例を示す表である。
例えばゲート絶縁層が単層構造の場合、λ=532nmのときのゲート絶縁層12の屈折率を用いることにより、図7の縦軸の値をゲート絶縁層12の膜厚に変換することができる。そして、図9Aには、λ=532nmおよびλ=808nm、かつ、ゲート絶縁層が酸化珪素膜単層にて構成されているとき、図7の縦軸の値を酸化珪素膜の膜厚に変換した値が示されている。
また、例えばゲート絶縁層が積層構造の場合、積層膜を構成するそれぞれの絶縁膜の光学膜厚を和算した値を、そのゲート絶縁層の光学膜厚として用いることにより、図7の縦軸をそれぞれのゲート絶縁層12の膜厚に変換することができる。
そして、図9Bには、例えばゲート絶縁層12が上層絶縁膜12aおよび下層絶縁膜12bにより構成されている場合に、λ=532nmおよびλ=808nmのときの、上層絶縁層12aの酸化珪素膜の膜厚と下層絶縁層12bの窒化珪素膜の膜厚との組が示されている。ここで、上層絶縁膜12aは、酸化珪素(SiO)膜であり、下層絶縁膜12bは窒化珪素(SiN)膜であるとしている。また、これらの絶縁膜による積層構造のゲート絶縁層12が、例えば膜厚120nmまたは150nmの酸化珪素膜単層にて構成されているゲート絶縁層と等しいキャパシタンスを有しているとしている。なお、酸化珪素膜と窒化珪素膜の比誘電率として4.1と7.4の値をそれぞれ用いた。
なお、ゲート絶縁層12にSiN膜を含まれる場合、基板10に含まれる例えばガラスからのアルカリ金属などの不純物をブロックすることができるため、TFT特性や信頼性に対する悪影響を低減する手段として有効である。
以上のように、ゲート絶縁層12の膜厚と非晶質酸化物半導体層13aの膜厚および光学特性、または、ゲート絶縁層12の構成が変化しても、図7の縦軸X、横軸Yの値を変換することができる。それにより、レーザー間接加熱法により非晶質酸化物半導体層13aをアニールすることで安定した結晶化を実施する(結晶質酸化物半導体層13にさせる)場合に、形成すべきゲート絶縁層12および非晶質酸化物半導体層の好適な膜厚範囲を計算できる。
(実施例2)
次に、実施例2について説明する。
以下では、レーザー光波長λ=532nm、レーザーの照射時間△t=100nsecの場合を考え、安定にアニールできる非晶質酸化物半導体膜厚13aの膜厚およびゲート絶縁層12の膜厚を求める。
図10は、レーザー間接加熱法により酸化物半導体層を安定的にアニールする場合にゲート絶縁層、酸化物半導体層に好適な膜厚範囲があることを説明するための図である。
具体的には、図10には、ゲート絶縁層12が酸化珪素膜(SiO)単層にて形成され、非晶質酸化物半導体層13aの屈折率を1.988、ゲート絶縁層12の屈折率を1.467とした場合に、図8の横軸Xおよび縦軸Yを変換して値を追記した図である。
ここで上記の(式1)の右辺を△A’(−0.2(△L’)2+1.1(△L’)−1.6=△A’)とおき、2△L/log(△t)≦2.75を満たす範囲の△Lに対して△A’を計算すると、以下に示す表1のようになる。
表1により、例えば△L=2.0(μm)のとき、非晶質酸化物半導体層13aを安定にアニールするためには、ゲート電極11の第1領域と第2領域とのレーザー光に対する吸収率の差は−0.2以下である必要があるのがわかる。ここで、図10を参照すると、これを満足する酸化物半導体膜厚とゲート絶縁層12の膜厚は−0.2の等高線で囲まれる領域内部の、およそ17nm〜120nm(酸化物半導体層膜厚)、205nm〜290nm(ゲート絶縁層膜厚)の範囲である必要があるのがわかる。
このように、△Lの値によって、酸化物半導体を安定にアニールするのに必要なゲート電極吸収率差が異なってくる。
次に、図6Aおよび図6Bで示されるモデルに対して垂直に照射したときの、ゲート電極から発生した熱を受けて温度上昇した酸化物半導体層の最高到達温度の位置依存性の、有限要素法を用いた熱解析シミュレーションを実施した。なお、上述したように、レーザー光の波長をλ=532nm、レーザーの照射時間を△t=100nsecとしている。
図11は、本実施例におけるシミュレーションに用いたモデルを示す図である。
図11に示すモデルは、基板10と、ゲート電極11と、ゲート絶縁層12と、非晶質酸化物半導体層13aとで構成されている。計算の効率化を図り、ゲート電極11の中央部で線対称を仮定し、1/2モデルとしてシミュレーションを実施した。本モデルにおける物性値は下記の表2に記載の値を用いた。
図12A〜図12Dは、図11に示されるモデルを用いて実施した、レーザー光照射時における、ゲート電極上の酸化物半導体層の最高到達温度のシミュレーション結果を示す図である。なお、横軸は位置座標を示しており、縦軸は非晶質酸化物半導体13a表面の最高到達温度を示している。また、横軸に示す位置座標は、図11に示すモデルの位置座標に対応している。そして、図12A〜図12Dは、所定の△Lの値に対して、吸収率差△Aを変化させたときの非晶質酸化物半導体層13aの温度分布を示している。
具体的には、図12Aは△L=2.5μmのときの温度分布である。この図12Aにより、吸収率差が−0.1以下であれば、フラットまたは凹型の温度分布が形成されることが分かる。図12Bは△=2.0μmのときの温度分布である。この図12Bにより、吸収率差が−0.2以下であれば、フラットまたは凹型の温度分布が形成されることが分かる。図12Cは△L=1.5μmのときの温度分布である。この図12Cにより、吸収率差が−0.4以下であれば、フラットまたは凹型の温度分布が形成されることが分かる。図12Dは△L=1.0μmのときの温度分布である。この図12Dにより、吸収率差が−0.5でもフラットな温度分布を実現出来ないことが分かる。
したがって、上述した(式1)〜(式3)にて示される△Lと△Aとの関係を満足すれば、レーザーアニール時において、フラットまたは凹型の温度分布を実現することができることが分かる。ここで、凹型の温度分布であれば、ゲート電極と島化形成された非晶質酸化物半導体層13aの位置が、例えばリソグラフィープロセス時におけるマスク合わせズレによって変化するなど△Lが変動することがあっても、安定して所望の温度以上にアニールできる。一方、△Lの変動が小さく無視できる場合は、吸収率差△Aは、フラットな温度分布を実現する吸収率差の値とそれより−0.1小さい値の間にあれば、凹型の温度分布よりフラットな温度分布を実現することが可能となる。
このように、レーザー間接加熱法を用いて非晶質酸化物半導体層13aを結晶質化する工程(例えば上記のS14)において、結晶性の安定した結晶質酸化物半導体層13を形成することが可能となる。
(実施の形態2)
実施の形態2では、レーザーを照射する工程を、チャネル保護層14を形成した後に行う場合について説明する。つまり、以下では、図3のS14の工程がS15の工程の後に実施される場合について説明する。
図13は、実施の形態2におけるレーザー間接加熱法を模式的に示した図である。具体的には、図13は、図3のS15の工程の後に実施されるS14におけるレーザー間接加熱法を模式的に示した図である。なお、図1、図4A〜図4Hと同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
具体的には、図13に示すように、チャネル保護層14を形成後、所定のレーザー光にて非晶質酸化物半導体層13aを間接加熱する。すると、非晶質酸化物半導体層13aのみならずチャネル保護層14およびその界面(チャネル保護層14と非晶質酸化物半導体層13a)もアニールされる。つまり、本実施の形態では、実施の形態1の特徴に加えてさら、界面特性が良化される点と、チャネル保護層が反射防止膜として作用し、チャネル保護層が無い場合に比べて、ゲート電極に投入される光エネルギー量が増加するため、エネルギー効率に優れたアニール処理が可能となる点に特徴がある。
図14A〜図14Lは、実施の形態2における、第1領域および第2領域のゲート電極のレーザー光に対する吸収率差を示す図である。図14A〜図14Lには、本実施の形態の構成において、図7を導出した方法を用いて、レーザー間接加熱法により結晶質酸化物半導体層13を形成する場合にゲート絶縁層12および非晶質酸化物半導体層13aに好適な膜厚範囲があることを示すための図を計算した結果が示されている。
具体的には、ゲート絶縁層12の膜厚と非晶質酸化物半導体層13aの膜厚とをそれぞれ変化させた場合の、第1領域および第2領域のゲート電極11の吸収率差△A=A1−A2の計算結果を示す等高線図が示されている。なお、図14A〜図14Lに示す等高線図はそれぞれ、チャネル保護層14の光学膜厚/レーザー光波長の値が0.07、0.14、0.21、0.28、0.34、0.41、0.48、0.55、0.62、0.69、0.76、0.83の場合について、導出されている。また、図14A〜図14Lではそれぞれ、等高線の間隔を0.04として描画されている。
したがって、図14A〜図14Lにより、チャネル保護層14の膜厚が変化すると、吸収率差△Aの、ゲート絶縁層および非晶質酸化物半導体層の変化に対する分布も変化することが分かる。
このように、本実施の形態でも、チャネル保護層14の膜厚に対応する吸収率差△Aのゲート絶縁層12の膜厚および非晶質酸化物半導体層13aの膜厚に対する等高線図を用いる。それにより、実施の形態1と同様の方法で、レーザー間接加熱法を用いて酸化物半導体層を結晶質化する工程において、結晶性の安定した結晶質酸化物半導体膜を形成可能なゲート絶縁層12の膜厚および非晶質酸化物半導体層13aの膜厚の範囲を求めることが可能となる。
図15Aは、チャネル保護層14が、例えば、酸化シリコン膜(SiO2)またはアルミナ膜(Al2O3)の単層からなる場合に、チャネル保護層光学膜厚/レーザー光波長の値に対して、具体的に膜厚を計算した結果を示す図である。ここで、SiO2の波長532nmのレーザー光に対する屈折率を1.467、波長808nmのレーザー光に対する屈折率を1.461としている。また、Al2O3の波長532nmのレーザー光に対する屈折率を1.775、波長808nmのレーザー光に対する屈折率を1.759としている。
なお、アルミナ膜(Al2O3)は、酸化シリコン膜(SiO2)と比べて、封止性に優れており、酸化物半導体からの酸素の離脱や、上部層からの水素の拡散を防止する効果があるために用いられる。
図15Bは、チャネル保護層14が、例えば、酸化シリコン膜(SiO2)とアルミナ膜(Al2O3)との積層からなる場合に、チャネル保護層光学膜厚/レーザー光波長の値に対して、具体的に膜厚を計算した結果を示す図である。図15Bには、レーザー光波長532nmおよび808nmに対して、Al2O3の膜厚が例えば10nmまたは50nmであるときの、SiO2の膜厚が示されている。ここで、波長532nmのレーザー光に対する屈折率、波長808nmのレーザー光に対する屈折率は、図15Aを導出する際に用いた値と同じ値を用いた。
なお、アルミナ膜(Al2O3)自体は、エッチング耐性が非常に高いため、厚膜を形成するとその後のエッチングによる加工の工程が困難になる。よって、比較的薄いアルミナ膜(Al2O3)と酸化シリコン膜(SiO2)とを積層させることにより、封止性に優れて、かつその後の加工工程を容易にすることが可能になる。
図16は、実施の形態2において、チャネル保護層光学膜厚/レーザー光波長に対する、ゲート絶縁層12の膜厚と非晶質酸化物半導体層13aの膜厚とがそれぞれ変化したときの第1領域および第2領域のゲート電極11の吸収率差△A=A1−A2の最小値をプロットしたグラフである。
この図16により、吸収率差△Aの最小値は、チャネル保護層14の膜厚の増加に対して、周期的に変化することが分かる。
なお、実際の製造工程では、チャネル保護層14の膜厚は基板10の面内で変動する。そのため、図16の点線で区画される膜厚範囲:0.4〜0.6、0.9〜1.1、1.4〜1.6すなわち膜厚の変動(変化)に対する吸収率差の変化が最も少なくなる膜厚の範囲でチャネル保護層14を形成すればよい。このようにチャネル保護層14を形成することで、チャネル保護層14の膜厚の変動に対して、結晶性の安定した結晶質酸化物半導体膜13を形成可能なゲート絶縁層12の膜厚および非晶質酸化物半導体層13aの膜厚の範囲の変動を小さくすることができる。それにより、レーザー間接加熱法を用いて非晶質酸化物半導体層13aを結晶質化する工程において生産性の安定化を促進することができる。
以上、本発明によれば、膜質の安定した酸化物半導体膜を形成することが可能な薄膜トランジスタ装置の製造方法等を実現することができる。具体的には、可視および近赤外の波長領域のレーザー光を用いて、結晶性の安定した酸化物半導体膜を形成することができる薄膜トランジスタ装置の製造方法、薄膜トランジスタ、それを用いた表示装置を実現することができる。つまり、ゲート絶縁層および酸化物半導体層のそれぞれの膜厚が所定の条件を満足するように形成することにより、所定の波長範囲のレーザー光を用いて、結晶性の安定した結晶酸化物半導体層を形成することができる。
さらに、図14に示す表示装置に、本発明の薄膜トランジスタを用いた場合には、均質なTFT特性を備える高画質な表示装置を実現することができる。また、表示品位の向上による歩留り向上、コストダウンも可能となる。
なお、本発明によれば、例えば、ゲート電極のパターン形状等、特に薄膜トランジスタの構造に変更を加えることなく、膜厚条件を上記の範囲にとるだけ効果を実現することが可能になる。そのため、例えばより高精細な表示装置を作製する場合においても、その設計の柔軟性を保つことができる点で従来の技術より優れているといえる。
以上、本発明の一つまたは複数の態様に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法、薄膜トランジスタ、それを用いた表示装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。