JP2013224472A - 耐遅れ破壊特性に優れたレール - Google Patents

耐遅れ破壊特性に優れたレール Download PDF

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Abstract

【課題】レール鋼の成分、組織を制御し、鋼中のMnS系硫化物の量、すなわち、Sの含有量と不純物元素であるPの含有量を相互に制御し、さらに、水素量を低減することにより、海外の貨物鉄道で使用されるレールの耐遅れ破壊特性を向上させ、使用寿命を大きく向上させることが可能となる。
【解決手段】質量%で、C:0.85超〜1.20%、Si:0.10〜2.00%、Mn:0.10〜2.00%、P≦0.0100%、S:0.0200〜0.0350%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼レールにおいて、質量%で式1に示すU値が50〜200の範囲であり、かつ、前記鋼レールの頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲である頭表部の95%以上がパーライト組織であることを特徴とするレール。
U=P×S×10 ・・・式1
【選択図】 図3

Description

本発明は、海外の貨物鉄道で使用される高強度レールにおいて、靭性と耐遅れ破壊特性を向上させることを目的としたレールに関するものである。
経済発展に伴い石炭などの天然資源の新たな開発が進められている。具体的にはこれまで未開であった自然環境の厳しい地域での採掘が進められている。これに伴い、資源を輸送する海外の貨物鉄道では軌道環境が著しく厳しくなっている。レールに対しては、これまで以上の耐摩耗性が求められるようになってきた。このような背景から、現用の高強度レール以上の耐摩耗性を有したレールの開発が求められるようになってきた。
レール鋼の耐摩耗性を改善するため、下記に示すようなレールが開発された。これらのレールの主な特徴は、耐摩耗性を向上させるため、鋼の炭素量を増加し、パーライトラメラ中のセメタイト相の体積比率を増加させ、同時に高強度化している(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1の開示技術では、過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト体積比率を増加させ、耐摩耗性に優れたレールを提供することができる。
特許文献2の公開技術では、過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト体積比率を増加させ、同時に、硬さを制御し、耐摩耗性に優れたレールを提供することができる。
しかし、特許文献1、2の開示技術では、パーライト組織中のセメタイト相の体積比率を増加させ、同時に、高強度化することにより、耐摩耗性の向上が図れる。しかし、高強度化すると鋼中の残留水素による遅れ破壊の発生の危険性が高まり、レールの折損が発生しやすくなるいという問題点があった。
一般に残留水素による遅れ破壊の発生を抑制するには、鋼中の水素のトラップサイトを増加させ、水素の集積場所を分散させ、鋼中の水素量を低減させることが有効であると言われている。
そこで、水素の集積場所である介在物を分散させた高強度レールの開発が求められるようになってきた。この問題を解決するため、下記に示すような高強度レールが開発された。これらのレールの主な特徴は、鋼中の水素のトラップサイトを増加させ、水素の集積場所を分散することにより、遅れ破壊を抑制している(例えば、特許文献3、4参照)。
特許文献3、4の開示技術では、パーライト組織中に水素のトラップサイトであるA系(MnS)やC系(SiO、CaO)の介在物を分散させ、さらに、鋼中の水素量を制御することにより、耐遅れ破壊特性に優れたレールを提供することができる。
しかし、特許文献3、4の開示技術では、介在物の種類によっては破壊の起点となることや、介在物の量を制御しても遅れ破壊が安定的に抑制できず、レール折損が発生しやすくなる問題があった。
特開平08−144016号公報 特開平08−246100号公報 特開2007−277716号公報 特開2008−050684号公報 特開平09−111352号公報
本発明の一態様は、上述した問題点に鑑み案出されたものであり、特に、海外の貨物鉄道のレールで要求される、耐遅れ破壊特性を向上させることを目的としたレールを提供することを目的とする。
(1)質量%で、C:0.85超〜1.20%、Si:0.10〜2.00%、Mn:0.10〜2.00%、P≦0.0100%、S:0.0200〜0.0350%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼レールにおいて、質量%で式1に示すU値が50〜200の範囲であり、かつ、前記鋼レールの頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲である頭表部の95%以上がパーライト組織であることを特徴とするレール。
U=P×S×10 ・・・式1
(2)質量%で、さらに、S:0.0250〜0.0350%を含有し、式1に示す値が50〜150の範囲であることを特徴とする(1)に記載のレール。
(3)質量%で、さらに、H≦2.0ppm以下であることを特徴とする(2)に記載のレール。
(4)また、上記(1)〜(3)いずれかのレールには、質量%で、さらに、下記(a)〜(o)の成分の1種または2種以上を選択的に含有させることができる。
(a)Mg:0.0005〜0.0200%、
(b)Ca:0.0005〜0.0200%、
(c)REM:0.0005〜0.0500%、
(d)Cr:0.01〜2.00%、
(e)Mo:0.01〜0.50%、
(f)Co:0.01〜1.00%、
(g)B:0.0001〜0.0050%、
(h)Cu:0.01〜1.00%、
(i)Ni:0.01〜1.00%、
(j)V:0.005〜0.50%、
(k)Nb:0.001〜0.050%、
(l)Ti:0.0030〜0.0500%、
(m)Zr:0.0001〜0.0200%、
(n)N:0.0060〜0.0200%
(o)N:0.0060〜0.0200%
本発明の一態様によれば、レール鋼の成分、組織を制御し、鋼中のMnS系硫化物の量、すなわち、Sの含有量と不純物元素であるPの含有量を制御することにより、海外の貨物鉄道で使用されるレールの耐遅れ破壊特性を向上させ、使用寿命を大きく向上させることが可能となる。
S添加量と限界応力値の関係を示した図。 S添加量0.0200%、0.0250%、0.0350%におけるP添加量と遅れ破壊の限界応力値の関係を示した図。 S添加量0.0200%、0.0250%、0.0350%におけるS添加量とP添加量の積(P×S×10)と遅れ破壊の限界応力値の関係を示した図。 本発明の耐遅れ破壊特性に優れたレールの頭部断面表面位置での呼称、および、パーライト組織が必要な領域を示した図。 表1〜2に示す本発明レール鋼(符号A1〜A51)と比較レール鋼(符号B11〜B20)のS添加量と遅れ破壊の限界応力値の関係をS添加量とP添加量の積(P×S×10)の値の範囲で整理した図。 表1に示す本発明レール鋼((符号A11〜A13、A16〜A17、A20〜A22、A23〜A25、A26〜A28、A31〜A33、A35〜A37、A39〜A43、A45〜A47、A49〜A51)のS添加量と遅れ破壊の限界応力値の関係をS添加量とP添加量の積(P×S×10)の値の範囲、すなわち、S添加量とP添加量の制御と水素量制御の関係で示した図。 遅れ破壊試験方法を示した模式図。
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
本実施形態として、耐遅れ破壊特性に優れたレールにつき、詳細に説明する。以下、組成における質量%は、単に%と記載する。
まず、本発明者らは、レールの耐遅れ破壊特性を改善するため、まず、水素のトラップサイトである介在物の特性を改善することを検討した。レールの諸特性に影響が少なく、最も安価な介在物を検討した結果、鉄の不純物として含有するSと強化元素として一般的に添加するMnから生成する軟質なMnS系硫化物は、破壊の起点にならず、安価であり、水素のトラップサイトと有望であることが判明した。
次に、本発明者らはMnS系硫化物の量、すなわち、S添加量の最適範囲を実験により検討した。炭素量1.0%(0.25%Si−1.0%Mn−0.0010〜0.0200%P)をベース成分として、水素量2.5ppm、S添加量を0.0050〜0.0400%に変化させた鋼を溶解し、レール圧延・熱処理を行い、頭表部(頭部外郭表面を起点として深さ20mmまでの範囲)をパーライト組織としたレールを用いて、頭部に引張応力を負荷する3点曲げ試験により遅れ破壊特性を評価した。遅れ破壊特性は、頭部に引張応力が作用するように3点曲げ(スパン長:1.5m)方式で行った。応力条件は200〜400MPa、応力負荷時間は500時間とし、500時間負荷した場合に未破断であった場合の応力の最大値を限界応力値とした。
図1にMnS系硫化物の量、すなわち、S添加量と限界応力値の関係を示す。S含有量が0.0200%以上になると、MnS系硫化物が水素のトラップサイトとして有効に作用し、遅れ破壊の限界応力値が250MPa以上まで増加し、S含有量の増加にともない限界応力値が増加する傾向を示した。また、S含有量が0.0350%を超えると、MnS系硫化物が過剰となり、MnS系硫化物の粗大化や生成密度の増加により、応力集中の促進や組織の脆化が発生し、遅れ破壊の限界応力値が250MPa以下まで低下した。これらの結果から、S添加量、すわなち、MnS系硫化物の量には最適範囲があり、耐遅れ破壊特性を向上させるには、S添加量を0.0200〜0.0350%に範囲に制御する必要があることを確認した。
さらに、本発明者らは遅れ破壊特性をより一層向上させる方法を検討した。最適なS添加量である0.0200〜0.0350%の範囲において、耐遅れ破壊特性を詳細に分析した。その結果、図1に示すように、S添加量0.0200〜0.0350%の範囲において、遅れ破壊の限界応力値が大きく変動しており、遅れ破壊特性のバラツキが生じていることがわかった。
そこで、本発明者らはこのバラツキの原因を調査した。その結果、遅れ破壊が発生した起点部には、遅れ破壊特有の水素脆化の破面とその後に瞬間的に破壊が発生した通常の脆性破面が存在していた。破面の形態を詳細に見ると、遅れ破壊特性のバラツキが生じたレールでは、水素脆化の破面の面積が著しく小さいことがわかった。
さらに、本発明者らは水素脆化の破面の面積が著しく小さくなる原因を調査した。水素脆化の破面の面積が著しく小さいレールの成分分析を行った結果、鋼中の不純物、特に、Pの含有量が著しく高いことが確認された。
これらの結果から、耐遅れ破壊特性が大きく変動し、遅れ破壊特性のバラツキが生じる原因は、鋼中のPの含有量の増加により、鋼の脆化が促進され、水素脆化の破面形成後に生成する通常の脆性破壊が促進されためと推定した。
この結果を検証するため、本発明者らはP添加量の最適範囲を実験により検討した。炭素量1.0%(0.25%Si−1.0%Mn−0.0005〜0.0200%P)をベース成分として、水素量2.5ppm、S添加量を0.0200%、0.0250%、0.0350%に変化させた鋼を溶解し、レール圧延・熱処理を行い、頭表部(頭部外郭表面を起点として深さ20mmまでの範囲)をパーライト組織としたレールを用いて、頭部に引張応力を負荷する3点曲げ試験により遅れ破壊特性を評価した。遅れ破壊特性は、頭部に引張応力が作用するように3点曲げ(スパン長:1.5m)方式で行った。応力条件は200〜400MPa、応力負荷時間は500時間とし、500時間負荷した場合に未破断であった場合の応力の最大値を限界応力値とした。
図2にP添加量と限界応力値の関係を示す。P含有量を0.0100%以下の範囲に制御すると、いずれのS含有量の鋼においても、耐遅れ破壊特性が大きく向上し、限界応力値が300MPa以上まで増加した。また、いずれのS含有量の鋼においても、P含有量がある一定範囲まで低減すると、限界応力値が頭打ちとなり、P量の低減効果を得るには、P含有量に下限値が存在することがわかった。
この結果をさらに詳細に調査した結果、P含有量0.0100%以下において、限界応力値が大きく向上する範囲は、鋼のS含有量との相関が強く、耐遅れ破壊特性を効率的に向上させるには、鋼のS含有量とP含有量を相互に考慮した制御が必要なことを見出した。
そこで、本発明者らは、鋼のS含有量とP含有量を相互に考慮した最適範囲の検討を行った。様々な数値解析を行った結果、S添加量(質量%)とP添加量(質量%)の積からなる下記に示した式1のU値を50〜200の範囲に収めることにより、鋼のS含有量とP含有量を相互に考慮して、限界応力値の向上が効果的に図れることがわかった。
U=P×S×10 ・・・式1
図3に図2の遅れ破壊試験の結果をS添加量とP添加量の積の関係で整理して示す。式1のU値が200以下になると、いずれのS含有量の鋼においても、限界応力値が増加し、耐遅れ破壊特性が大きく向上する。また、いずれのS含有量の鋼においても、式1のU値が50前後になると、いずれのS含有量の鋼においても、限界応力値が飽和し、耐遅れ破壊特性のより一層の向上が望めない。
さらに、本発明者らは、式1のU値と限界応力値の関係を詳細に検討した。その結果、式1のU値をさらに150以下に制御することにより、いずれのS含有量の鋼においても、耐遅れ破壊特性が大きく向上することを見出した。
これらのMnS系硫化物の制御に加えて、本発明者らは遅れ破壊特性さらに向上する方法を検討した。溶鋼の二次精錬(脱ガス)強化や鋼片での脱水素処理を適用し、鋼中の水素量を2.0ppm以下に制御することにより、いずれのS含有量の鋼においても、遅れ破壊の限界応力値がさらに向上し、耐遅れ破壊特性がより一層向上することを確認した。
すなわち、本発明は、レール鋼の成分、組織を制御し、鋼中のMnS系硫化物の量、すなわち、Sの含有量と不純物元素であるPの含有量を相互に制御し、さらに、水素の含有量を低減することにより、海外の貨物鉄道で使用されるレールの耐遅れ破壊特性を向上させ、使用寿命を大きく向上させることを目的としたレールに関するものである。
次に、本発明の限定理由について詳細に説明する。以下、鋼組成における質量%は、単に%と記載する。
(1)鋼の化学成分の限定理由
本発明のレールにおいて、鋼の化学成分を前述した数値範囲に限定する理由について詳細に説明する。
Cは、パーライト変態を促進させて、かつ、耐摩耗性を確保する有効な元素である。C量が0.85%以下になると、本成分系では、レールに要求される最低限の強度や耐摩耗性が維持できない。さらに、軟質で歪を蓄積し易い初析フェライト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。また、C量が1.20%を超えると、靭性の低い初析セメンタイト組織が多量に生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、C添加量を0.80〜1.20%に限定した。なお、パーライト組織の生成を安定化し、耐遅れ破壊特性を向上させるには、C添加量を0.85超〜1.10%とすることが望ましい。
Siは、パーライト組織のフェライト相に固溶し、レール頭部の硬度(強度)を上昇させ、耐摩耗性を向上させる元素である。さらに、靭性の低い初析セメンタイト組織の生成を抑制し、遅れ破壊の発生を抑制する元素である。しかし、Si量が0.10%未満では、これらの効果が十分に期待できない。また、Si量が2.00%を超えると、熱間圧延時に表面疵が多く生成する。さらに、焼入性が著しく増加し、頭表部に靭性の低いマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊が発生しやすくなる。このため、Si添加量を0.10〜2.00%に限定した。なお、パーライト組織の生成を安定化し、耐遅れ破壊特性を向上させるには、Si添加量を0.20〜1.50%とすることが望ましい。
Pは、鋼中に不可避的に含有される元素である。転炉での精錬を行うと、P含有量は0.0010〜0.0250%まで低減する。P含有量と遅れ破壊の限界応力値にはよい相関あり、P含有量が0.0100%を超えると、限界応力値の向上が期待できず、耐遅れ破壊特性の安定的な向上が困難となる。このため、P含有量を0.0100%以下に限定した。なお、P含有量の下限値については限定していないが、精錬工程での脱燐能力を考慮すると、P含有量は0.0020%程度が実際に製造する際の限界になると考えられる。
Sは、鋼中に不可避的に含有される元素である。溶銑鍋での脱硫を行うと、S含有量は0.0030〜0.0500%まで低減する。S含有量とMnS系硫化物の生成量には相関があり、S含有量が増加するとMnS系硫化物が増加する。S含有量が0.0200%未満ではMnS系硫化物の生成量の増加が期待できず、耐遅れ破壊特性の確保が困難となる。また、S含有量が0.0350%を超えると、MnS系硫化物の粗大化や生成密度の増加により、応力集中の促進や組織の脆化が発生し、遅れ破壊が発生しやすくなる。このため、S含有量を0.0200〜0.0350%に限定した。
また、MnS系硫化物の生成量を増加させ、耐遅れ破壊特性を確実に向上させるには、本発明の一態様に限定したようにS含有量を0.0250〜0.0350%に限定する。
Mnは、焼き入れ性を高め、パーライト変態を安定化すると同時に、パーライト組織のラメラ間隔を微細化し、パーライト組織の硬度を確保し、耐摩耗性を向上させる元素である。しかし、Mn量が0.10%未満では、その効果が小さく、軟質で歪を蓄積し易い初析フェライト組織の生成を誘発し、耐摩耗性や耐遅れ破壊特性の確保が困難となる。また、Mn量が2.00%を超えると、焼入性が著しく増加し、頭表部に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、Mn添加量を0.10〜2.00%に限定した。なお、パーライト組織の生成を安定化し、耐遅れ破壊特性を向上させるには、Mn添加量を0.20〜1.50%とすることが望ましい。
Hは、遅れ破壊の原因となる元素である。レール圧延前の鋼片(ブルーム)のH含有量が2.0ppmを超えると、MnS系硫化物の界面に集積するH量が増加し、遅れ破壊の発生が促進される。このため、本発明の一態様において、H含有量を2.0ppm以下に限定した。なお、H含有量の下限値については限定していないが、精錬工程での二次精錬(脱ガス)能力や鋼片の脱水素処理能力を考慮すると、H含有量1.0ppm程度が実製造での限界になると考えられる。
また、上記の成分組成で製造されるレールは、MnS系硫化物の微細分散化による耐遅れ破壊性の向上、パーライト組織の硬度(強度)の増加による耐摩耗性の向上、靭性の向上、溶接熱影響部の軟化の防止、レール頭部内部の断面硬度分布の制御を図る目的で、Mg、Ca、REM、Cr、Mo、Co、B、Cu、Ni、V、Nb、Ti、Zr、Nの元素を必要に応じて1種または2種以上を添加する。
ここで、Mg、Ca、REMは、MnS系硫化物を微細分散させる。Cr、Moは、平衡変態点を上昇させ、パーライト組織のラメラ間隔を微細化し、硬度を向上させる。Coは、摩耗面の基地フェライト組織を微細化し、摩耗面の硬度を高める。Bは、パーライト変態温度の冷却速度依存性を低減させ、レール頭部の硬度分布を均一にする。Cuは、パーライト組織中のフェライトに固溶し、硬度を高める。Niは、パーライト組織の靭性と硬度を向上させ、同時に、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止する。V、Nb、Tiは、熱間圧延やその後の冷却課程で生成した炭化物や窒化物により、オーステナイト粒の成長を抑制し、さらに、析出硬化により、パーライト組織の靭性と硬度を向上させる。また、再加熱時に炭化物や窒化物を安定的に生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止する。Zrは、凝固組織の等軸晶化率を高めることにより、鋳片中心部の偏析帯の形成を抑制し、初析セメンタイト組織やマルテンサイト組織の生成を抑制する。Nは、オーステナイト粒界に偏析することによりパーライト変態を促進させ、パーライト組織を微細化することが主な添加目的である。
Mgは、Sと結合して微細な硫化物を形成し、MgSがMnSを微細に分散させ、水素のトップサイトを増加させ、耐遅れ破壊性を向上させる元素である。しかし、0.0005%未満ではその効果は弱く、0.0200%を超えて添加すると、Mgの粗大酸化物が生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Mg量を0.0005〜0.0200%に限定した。
Caは、Sとの結合力が強く、CaSとして硫化物を形成し、さらに、CaSがMnSを微細に分散させ、水素のトップサイトを増加させ、耐遅れ破壊性を向上させる元素である。しかし、0.0005%未満ではその効果は弱く、0.0200%を超えて添加すると、Caの粗大酸化物が生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Ca量を0.0005〜0.0200%に限定した。
REMは、脱酸・脱硫元素であり、添加によりREMのオキシサルファイド(REMS)を生成し、Mn硫化物系介在物の生成核となる。また、この核であるオキシサルファイド(REMS)の融点が高いため、圧延後のMn硫化物系介在物の延伸を抑制する。この結果、MnSを微細に分散させ、水素のトップサイトを増加させ、耐遅れ破壊性を向上させる元素である。しかし、REM量が0.0005%未満では、その効果が小さく、MnS系硫化物の生成核としては不十分となる。また、REM量が0.0500%を超えると、硬質なREMのオキシサルファイド(REMS)が生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、REM添加量を0.0005〜0.0500%に限定した。
なお、REMとはCe、La、PrまたはNd等の希土類金属である。上記添加量はこれらの全REMの添加量を限定したものである。全添加量の総和が上記範囲内であれば、単独、複合(2種類以上)のいずれの形態であっても同様な効果が得られる。
Crは、平衡変態温度を上昇させ、過冷度の増加により、パーライト組織のラメラ間隔を微細化し、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を向上させる元素である。しかし、Cr量が0.01%未満ではその効果は小さく、レール鋼の硬度を向上させる効果が全く見られなくなる。また、Cr量2.00%を超える過剰な添加を行うと、焼入れ性が著しく増加し、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、Cr添加量を0.01〜2.00%に限定した。
Moは、Crと同様に平衡変態温度を上昇させ、過冷度の増加により、パーライト組織のラメラ間隔を微細化し、パーライト組織の硬度(強度)を向上させる元素である。しかし、Mo量が0.01%未満ではその効果が小さく、レール鋼の硬度を向上させる効果が全く見られなくなる。また、Mo量が0.50%を超える過剰な添加を行うと、変態速度が著しく低下し、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、Mo添加量を0.01〜0.50%に限定した。
Coは、パーライト組織のフェライト相に固溶し、レール頭表部の摩耗面において、車輪との接触により形成させる微細なフェライト組織をより一層微細化し、硬さを高めることにより耐摩耗性を向上させる元素である。しかし、Co量が0.01%未満では、フェライト組織の微細化が促進せず、耐摩耗性の向上効果が期待できない。また、Co量が1.00%を超えると、上記の効果が飽和し、添加量に応じたフェライト組織の微細化が図れない。また、合金添加コストの増大により経済性が低下する。このため、Co添加量を0.01〜1.00%に限定した。
Bは、オーステナイト粒界に鉄炭ほう化物(Fe23(CB))を形成し、パーライト変態の促進効果により、パーライト変態温度の冷却速度依存性を低減させ、頭表面から内部までより均一な硬度分布をレールに付与し、レールを高寿命化する元素である。しかし、B量が0.0001%未満では、その効果が十分でなく、レール頭部の硬度分布には改善が認められない。また、B量が0.0050%を超えると、粗大な鉄炭ほう化物が生成し、応力集中によりレール損傷が発生しやすくなる。このため、B添加量を0.0001〜0.0050%に限定した。
Cuは、パーライト組織のフェライト相に固溶し、固溶強化により硬度(強度)を向上させ、耐摩耗性を向上させる元素である。しかし、0.01%未満ではその効果が期待できない。また、Cu量が1.00%を超えると、著しい焼入れ性向上により、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、Cu添加量を0.01〜1.00%に限定した。
Niは、パーライト組織の靭性を向上させ、同時に、固溶強化により硬度(強度)を向上させ、耐摩耗性を向上させる元素である。さらに、溶接熱影響部においては、Tiと複合でNiTiの金属間化合物が微細に析出し、析出強化により軟化を抑制する元素である。また、Cu添加鋼において粒界の脆化を抑制する元素である。しかし、Ni量が0.01%未満では、これらの効果が著しく小さく、また、Ni量が1.00%を超えると、著しい焼入れ性向上により、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、Ni添加量を0.01〜1.00%に限定した。
Vは、通常の熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、V炭化物やV窒化物が析出し、ピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、パーライト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したV炭化物、V窒化物による析出硬化により、パーライト組織の硬度(強度)を高め、耐摩耗性を向上させる元素である。また、Ac1点以下の温度域に再加熱された熱影響部において、比較的高温度域でV炭化物やV窒化物を生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止するのに有効な元素である。しかし、V量が0.005%未満ではこれらの効果が十分に期待できず、靭性や硬度(強度)の向上は認められない。また、V量が0.50%を超えると、Vの炭化物や窒化物の析出硬化が過剰となり、パーライト組織が脆化し、レールの靭性が低下する。このため、V添加量を0.005〜0.50%に限定した。
Nbは、Vと同様に、通常の熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、Nb炭化物やNb窒化物のピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、パーライト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したNb炭化物、Nb窒化物による析出硬化により、パーライト組織の硬度(強度)を高め、耐摩耗性を向上させる元素である。また、Ac1点以下の温度域に再加熱された熱影響部において、低温度域から高温度域までNbの炭化物やNb窒化物を安定的に生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止するのに有効な元素である。しかし、その効果は、Nb量が0.0010%未満では、これらの効果が期待できず、パーライト組織の靭性や硬度(強度)の向上は認められない。また、Nb量が0.050%を超えると、Nbの炭化物や窒化物の析出硬化が過剰となり、パーライト組織が脆化し、レールの靭性が低下する。このため、Nb添加量を0.0010〜0.050%に限定した。
Tiは、通常の熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、Ti炭化物やTi窒化物が析出し、ピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、パーライト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したTi炭化物、Ti窒化物による析出硬化により、パーライト組織の硬度(強度)を高め、耐摩耗性を向上させる元素である。また、溶接時の再加熱において析出したTiの炭化物、Tiの窒化物が溶解しないことを利用して、オーステナイト域まで加熱される熱影響部の組織の微細化を図り、溶接継ぎ手部の脆化を防止するのに有効な成分である。しかし、Ti量が0.0030%未満ではこれらの効果が少ない。また、Ti量が0.0500%を超えると、粗大なTiの炭化物、Tiの窒化物が生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Ti添加量を0.0030〜0.0500%に限定した。
Zrは、ZrO2介在物がγ−Feとの格子整合性が良いため、γ−Feが凝固初晶である高炭素レール鋼の凝固核となり、凝固組織の等軸晶化率を高めることにより、鋳片中心部の偏析帯の形成を抑制し、レール偏析部に生成するマルテンサイトや初析セメンタイト組織の生成を抑制する元素である。しかし、Zr量が0.0001%未満では、ZrO2系介在物の数が少なく、凝固核として十分な作用を示さない。その結果、偏析部にマルテンサイトや初析セメンタイト組織が生成し、レールの靭性が低下する。また、Zr量が0.0200%を超えると、粗大なZr系介在物が多量に生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Zr添加量を0.0001〜0.0200%に限定した。
Nは、オーステナイト粒界に偏析することにより、オーステナイト粒界からのパーライト変態を促進させ、主に、組織を微細化することにより、靭性を向上させるのに有効な元素である。また、VやAlと同時に添加することで、VNやAlNの析出を促進させ、通常の熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、VNやAlNのピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、パーライト組織やベイナイト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、N量が0.0060%未満では、これらの効果が弱い。また、N量が0.0200%を超えると、鋼中に固溶させることが困難となり、疲労損傷の起点となる気泡が生成し、レール折損が発生し易くなる。このため、N添加量を0.0060〜0.0200%に限定した。
Alは、脱酸材として必須の成分である。また、共析変態温度を高温側へ移動させる元素であり、パーライト組織の高硬度(強度)化に寄与し、パーライト組織の耐摩耗性を向上させる元素である。しかし、Al量が0.0100%未満では、その効果が弱い。また、Al量が1.00%を超えると、鋼中に固溶させることが困難となり、粗大なアルミナ系介在物が生成し、この粗大な析出物から疲労損傷が発生し、脆性破壊を冗長し、レールの靭性が低下する。さらに、溶接時に酸化物が生成し、溶接性が著しく低下する。このため、Al添加量を0.0100〜1.00%に限定した。
上記のような成分組成で構成されるレール鋼は、転炉、電気炉などの通常使用される溶解炉で溶製を行い、この溶鋼を造塊・分塊法あるいは連続鋳造法、次に、熱間圧延を経てレールとして製造される。さらに、必要に応じてレール頭頂部の金属組織を制御する目的から熱処理を行う。
(2)金属組織の限定理由
本発明のレールにおいて、レールの頭表部の少なくとも一部がパーライト組織に限定する理由について詳細に説明する。
まず、パーライト組織に限定した理由について説明する。
車輪と接触するレール頭表部では耐摩耗性の確保が最も重要である。金属組織と耐摩耗性の関係を調査した結果、パーライト組織が最もよいことが確認された。さらに、耐遅れ破壊特性についても、パーライト組織を用いることにより、その低下がないことが実験により確認された。そこで、耐摩耗性および耐遅れ破壊特性を確保する目的からパーライト組織に限定した。
ここで、図4に本発明の耐遅れ破壊特性に優れたレールの頭部断面表面位置での呼称、および、パーライト組織が必要な領域を示す。レール頭部3は、頭頂部1と、前記頭頂部1の両端に位置する頭部コーナー部2を有する。頭部コーナー部2の一方は、車輪と主に接触するゲージコーナー(G.C.)部である。
前記頭部コーナー部2および前記頭頂部1の表面を起点として深さ20mmまでの範囲を頭表部(3a、斜線部)と呼ぶ。図4に示すように、頭部コーナー部2及び頭頂部1の表面を起点として深さ20mmまでの頭表部にパーライト組織が配置されていれば、レール頭表部において、耐摩耗性の確保および耐遅れ破壊特性の向上が図れる。
したがって、パーライト組織は、車輪とレールが主に接し、耐摩耗性と耐遅れ破壊特性が要求される頭表部に配置することが望ましく、これらの特性が必要とされないそれ以外の部分はパーライト組織以外の金属組織であってもよい。
なお、これらの金属組織の硬さについては特に限定しない。敷設される軌道条件に応じて硬さを調整することが望ましい。なお、耐摩耗性を十分に確保するには、硬さはHv300〜500程度に制御することが望ましい。硬さHv300〜500のパーライト組織を得る方法としては、適切な合金選択を行い、圧延後、または、再加熱後のオーステナイト領域のある高温のレール頭部に加速冷却を行うことが望ましい。加速冷却の方法としては、引用文献2、引用文献5等に記載されているような方法で熱処理を行うことにより、所定の組織と硬さを得ることができる。
また、本発明レールの頭表部の金属組織は、上記限定のようなパーライト組織であることが望ましい。しかし、レールの成分系や熱処理製造方法によっては、これらの組織中に面積率で5%以下の微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、ベイナイト組織やマルテンサイト組織が混入することがある。しかし、これらの組織が混入しても、レールの耐遅れ破壊特性や頭表部の耐摩耗性には大きな悪影響を及ぼさないため、耐遅れ破壊特性に優れたレールの組織としては、5%以下の微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、ベイナイト組織、マルテンサイト組織の混在も含んでいる。言い換えれば、本発明レールの頭表部の金属組織は、95%以上がパーライト組織であれば良く、耐遅れ破壊特性を確保し、耐摩耗性を十分に向上させるには、頭表部金属組織の98%以上をパーライト組織とすることが望ましい。なお、表1及び表2におけるミクロ組織の欄でパーライト組織以外の組織が記載されているものは全て面積率で5%超の量を意味する。
(3)質量%で式1に示すU値の数の限定理由
本発明の一態様において質量%で式1に示すU値を50〜200の範囲に限定した理由について詳細に説明する。
鋼のS含有量とP含有量を相互に考慮し、遅れ破壊特性の向上を図る最適範囲の検討を行った。様々な数値解析を行った結果、S添加量とP添加量の積からなる下記に示した式1のU値を制御することにより、鋼のS含有量とP含有量を相互に考慮して、遅れ破壊の限界応力値の向上が効果的に図れることがわかった。
さらに、その最適範囲を検討した結果、式1に示すU値が200を超えると、鋼中のPの含有量が過剰となり、遅れ破壊の限界応力値の向上が認められなくなる。また、式1に示すU値が50未満になると、鋼中のPの含有量の低減効果が飽和し、過剰遅れ破壊の限界応力値が頭打ちになり、効果の改善が認められなくなる。このため、式1に示すS添加量とP添加量の積からなる下記に示した式1のU値を50〜200の範囲に限定した。
次に、本発明の一態様において、S:0.0250〜0.0350%の範囲に制御することに加えて、質量%で式1に示すU値を50〜150の範囲に限定した理由について詳細に説明する。
式1に示す値を150以下に制御すると、水素のトラップサイトであるMnS系硫化物量の確保、Pの含有量の低減が可能となり、水素脆化の抑制、水素脆化の破壊から最終的な脆性破壊へ遅延が生じ、耐遅れ破壊特性が大幅に向上する。このため、式1に示すS添加量とP添加量の積からなる下記に示した式1のU値を50〜150の範囲に限定した。
U=P×S×10 ・・・式1
(4)P量の制御方法
P量を制御する望ましい製造方法を説明する。
溶銑段階ではPは不純物として多量に含まれている。P量の制御は転炉で行われるのが一般的である。転炉ではCaOを添加し、CaO・PとしてPをスラグへ排出する。一般的な転炉での精錬を行うとP量は0.0020〜0.0300%まで低減する。この転炉での脱燐処理の時間やCaOの添加量を制御することにより、P量を0.0100以下に制御することが望まし。この結果、限界応力値が向上し、耐遅れ破壊特性が安定的に向上する。
(5)S量の制御方法
S量を制御する望ましい製造方法を説明する。
溶銑段階ではSは不純物として多量に含まれている。S量の制御は転炉での精錬前の溶銑鍋で行われるのが一般的である。溶銑鍋ではCaOを添加し、CaSとしてSをスラグへ排出する。一般的な溶銑鍋での脱硫を行うとS量は0.0030〜0.0500%まで低減する。この脱硫処理の時間やCaOの添加量を調整することにより、S量を0.0200〜0.0350%または0.0250〜0.0350%に制御することが望まし。この結果、MnS系硫化物の生成量が増加し、耐遅れ破壊特性が向上する。
(6)S添加量とP添加量の積の制御方法(U=P×S×10
S添加量とP添加量の積(U=P×S×10)の制御方法を説明する。
溶銑の精錬は、転炉精錬前の溶銑鍋での脱硫、転炉での脱燐の順で行われるのが一般的である。溶銑鍋での脱硫後、溶鋼の分析を行い、そのS量をベースに転炉での脱燐量を定め、脱燐処理の時間やCaOの添加量を制御することにより、S添加量とP添加量の積のU値を制御する。この結果、MnS系硫化物の生成量の確保、Pの含有量の低減が可能となり、水素脆化の抑制、水素脆化の破壊から最終的な脆性破壊へ遅延が生じ、耐遅れ破壊特性が大幅に向上する。
(7)H量の制御方法
遅れ破壊特性をさらに改善するH量の制御について望ましい製造方法を説明する。
溶銑段階ではHは不純物して含まれている。H量の制御は転炉の後の二次精錬(脱ガス)で行われるのが一般的である。二次精錬ではレードルを真空状態にし、鋼中のHを排出する。この二次精錬での処理時間を制御することにより、H量を2.0ppm以下に制御し、さらに耐遅れ破壊特性を向上させることが望ましい。
また、水素は上記の精錬後に大気から侵入し、鋳造後の鋼片の水素量を増加させる場合もある。このような場合は、鋼片を除冷または鋼片を再加熱することにより鋼片内部の水素を外部へ拡散させる方法を適用することが望ましい。
次に、本発明の実施例について説明する。
表1に本発明レールの化学成分と諸特性を示す。表1には、化学成分値、S添加量とP添加量の積(U=P×S×10)の値、頭表部のミクロ組織、頭表部の硬さを示す。さらに、図7に示す方法で行った遅れ破壊試験の結果(限界応力値)も併記した。尚、頭表部のミクロ組織は、面積率で5%以下の微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、ベイナイト組織やマルテンサイト組織が混入しているものも含んでいる。
表2に比較レールの化学成分と諸特性を示す。表1には、化学成分値、S添加量とP添加量の積(U=P×S×10)の値、頭表部のミクロ組織、頭表部の硬さを示す。さらに、図7に示す方法で行った遅れ破壊試験の結果(限界応力値)も併記した。尚、頭表部のミクロ組織は、面積率で5%以下の微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、ベイナイト組織やマルテンサイト組織が混入しているものも含んでいる。
なお、表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの製造工程および製造条件の概略は下記に示すとおりである。
溶鋼⇒成分調整(溶銑鍋:脱硫、転炉:脱燐、二次精錬:脱水素)⇒鋳造(ブルーム)⇒再加熱(1250℃)⇒熱間圧延(仕上げ温度950℃)⇒熱処理(開始温度800℃、加速冷却)⇒放冷
Figure 2013224472
Figure 2013224472
Figure 2013224472
<水素量分析の方法>
表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの水素量分析の方法は下記のとおりである。
(1)分析工程:鋼片鋳造時のモールド内より溶鋼をサンプリング
(2)サンプル保持方法:サンプリング後、急速冷却⇒液体窒素に浸漬
(3)分析方法 熱伝導度法
サンプルサイズ:直径6mm、厚さ1mmの円筒
加熱温度:1900℃(黒鉛るつぼ上でサンプルをインダクションヒーティング)
雰囲気:不活性ガス(Ar)
キャリアガス:N2
分析装置:熱伝導度検出器
<硬度の測定方法>
表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの頭表部のミクロ組織、頭表部の硬さは、レール頭表部表面から3mm深さの位置で行った。また、硬さはビッカース硬度計で測定した。測定方法は下記に示すとおりである。
(1)事前処理:レール切断⇒横断面研摩。
(2)測定方法:JIS Z 2244に準じて測定。
(3)測定機:ビッカース硬度計(荷重98N)。
(4)測定箇所:レール頭表部表面から3mm深さの位置。
(5)測定数:5点以上測定し、平均値を鋼レールの代表値とすることが望ましい。
<遅れ破壊試験の条件>
表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの遅れ破壊試験の条件は下記に示すとおりである。
(1)レール形状:136ポンドレール(67kg/m)
(2)遅れ破壊試験
試験方法:3点曲げ(スパン長:1.5m、図6参照)
試験姿勢:レール底部に荷重負荷(頭部に引張応力作用)。
応力条件:200〜500MPa(レール頭部表面)
応力負荷時間:500時間
(3)限界応力値 :所定の応力で500時間負荷した場合に未破断であった場合の応力の最大値
表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの詳細は下記に示すとおりである。
(1)本発明レール(49本)
符号 A1〜A51:化学成分値、S添加量とP添加量の積(P×S×10)の値、頭表部のミクロ組織が本願発明範囲内のレール。
(2)比較レール(20本)
符号 B1〜B10(10本):C、Si、Mn、P、Sの添加量、頭表部のミクロ組織が本願発明範囲外のレール。
符号 B11〜B20:S添加量とP添加量の積(P×S×10)の値が本願発明範囲外のレール。
表1、表2に示すように、本発明レール(符号A1〜A51)は、比較レール(符号B1〜B10)と比べて、鋼のC、Si、Mn、P、Sの添加量を限定範囲内に収めることにより、初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、ベイナイト組織、マルテンサイト組織の生成を抑制し、頭表部をパーライト組織に制御することにより、遅れ破壊特性を向上させることができる。
また、表1、表2、さらに、図5に示すように、本発明レール鋼(符号A1〜A51)は、比較レール鋼(符号B11〜B20)と比べて、C、Si、Mn、P、Sの添加量に加えて、S添加量とP添加量の積(U=P×S×10)の値を限定範囲内に収めることにより、同一S添加量において、遅れ破壊特性を向上させることができる。
また、表1、表2、図6に示すように、本発明レール鋼(符号A11〜A13、A16〜A17、A20〜A22、A23〜A25、A26〜A28、A31〜A33、A35〜A37、A39〜A43、A45〜A47、A49〜A51)は、S添加量とP添加量の積(U=P×S×10)の値をさらに制御し、これに加えて、H添加量を制御することにより、遅れ破壊特性をより一層向上させることができる。
1:頭頂部
2:頭部コーナー部
3:レール頭部
3a:頭表部(頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲、斜線部)

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.85超〜1.20%、Si:0.10〜2.00%、Mn:0.10〜2.00%、P≦0.0100%、S:0.0200〜0.0350%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼レールにおいて、質量%で式1に示すU値が50〜200の範囲であり、かつ、前記鋼レールの頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲である頭表部の95%以上がパーライト組織であることを特徴とするレール。
    U=P×S×10 ・・・式1
  2. 質量%で、さらに、S:0.0250〜0.0350%を含有し、式1に示すU値が50〜150の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のレール。
  3. 質量%で、さらに、H:2.0ppm以下であることを特徴とする請求項2に記載のレール。
  4. 質量%で、さらに、
    Mg:0.0005〜0.0200%、
    Ca:0.0005〜0.0200%、
    REM:0.0005〜0.0500%、
    Cr:0.01〜2.00%、
    Mo:0.01〜0.50%、
    Co:0.01〜1.00%、
    B:0.0001〜0.0050%、
    Cu:0.01〜1.00%、
    Ni:0.01〜1.00%、
    V:0.005〜0.50%、
    Nb:0.0010〜0.050%、
    Ti:0.0030〜0.0500%、
    Zr:0.0001〜0.0200%、
    N:0.0060〜0.0200%、
    Al:0.0100〜1.00%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレール。
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