JP2013218715A - 電気機器推定装置並びにその方法およびプログラム - Google Patents

電気機器推定装置並びにその方法およびプログラム Download PDF

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Abstract

【課題】取得される電流情報から電気機器を推定する場合において、パラメータの算出及び調整が簡単であり、かつ、事前のデータベースが不要な手法を確立することができるようにする。
【解決手段】センサ部21は、住宅内の各場所に設置された複数の電気機器の使用状態の組み合わせでなる消費電流の合計値の時系列データを取得する。パラメータ推定部22は、取得された時系列データに基づいて、複数の電気機器の稼働状態を確率モデルによりモデル化したときのモデルパラメータを求める。本発明は、例えば、分電盤で計測した電流の情報から、その先につながっている電気機器を推定する電気機器推定装置に適用できる。
【選択図】図5

Description

本発明は、電気機器推定装置並びにその方法およびプログラムに関し、特に、取得される電流情報から電気機器を推定する場合において、パラメータの算出及び調整が簡単であり、かつ、事前のデータベースが不要な手法を確立することができるようにする電気機器推定装置並びにその方法およびプログラムに関する。
分電盤で計測した電流の情報から、その先につながっている電気機器を推定する技術は、Non-intrusive load monitoring (以下、NILMという。)と呼ばれ、1980年代から研究されている。NILMは、個々の電気機器(負荷)それぞれに測定機器を必要とせず、一箇所の計測結果だけに基づいて、そこから先につながっている電気機器全ての状態を把握できることが大きな利点となっている。
NILMの代表的なものとして、例えば、特許文献1には、電流と電圧の計測から、有効電力(real power)及び無効電力(reactive power)を算出し、その変化量をクラスタリングすることで、電気機器の同定を行う技術が開示されている。変化量を取るのは、電気機器のオン、オフ時に、計測される有効電力及び無効電力が変化するからである。
図1は、特許文献1において図8として示されている図である。図1では、有効電力及び無効電力を軸とする2次元平面に、冷蔵庫(Refrigerator)と暖房(Heater)のオン、オフ時の有効電力と無効電力がプロットされている。図1によれば、電気機器のオンとオフが点対称の位置にプロットされていることがわかる。
特許文献1の方法は、オン、オフ時の差分を取るので、変化した瞬間の情報しか利用していない。また、変化点の検出器(Change detector)が必要となるが、この変化点検出器が失敗する(オン若しくはオフを取り逃す、または、過剰に変化を誤検出する)と、後段の処理全体が失敗してしまう。
即ち、特許文献1の方法には、次のような問題がある。第1に、オン、オフ時の差分を取るので、変化した瞬間の情報しか利用していない。第2に、変化点検出のしきい値調整が難しく、変化点検出器(net change detection)が失敗すると後段の処理が全て失敗してしまう。第3に、80年代の当時の家電はシンプルな負荷であるものが多かったため適用できたが、現代の電気機器ではオン、オフだけに分類できず、うまく機能しないものが多い。
近年の複雑な電力消費を行う電気機器に対応するため、NILMの側も何らかの複雑な処理を行う必要が出てきている。その試みとして、識別モデル(判別モデル、Classification)を用いる方法が多く提案されている。識別モデルにSupport Vector MachineなどのLMC(Large Margin Classifier)を利用した方法として、例えば、特許文献2及び3に開示された方法がある。
AdaBoostやSupport Vector Machineなどの識別モデルは、特徴量をうまく選択し、かつ学習用のサンプルデータが十分に多い場合は、非常に高い識別性能を示すことが知られているため、この手法は精度向上には有効であるとも思われる。しかし、一方で、識別モデルはHMMなどの生成モデルとは違い、事前に学習データを用意して学習を済ませておく必要があり、更にその学習結果をデータベースとして保持しておく必要がある。つまり、未知の電気機器に対応することはできないという欠点がある。
特許文献4及び非特許文献1のように、単純な線形モデルで判別を行うものもあるが、事前のデータベースが必要であるという点では、特許文献2及び3に開示された技術と同じ問題を抱えている。事前に用意したデータベースを用いる手法は、その他、特許文献5や6として提案されているものがある。
結局のところ、上述した従来の手法は、精度を取るか、または、事前登録が不要な手法を取るか、のトレードオフになっている。近年、家庭の電気機器は非常に多様化しており、事前学習が必要である識別モデルでは、事実上、家庭での使用に耐えられないと考えられるため、やはり、事前登録不要な手法の方が望ましい。
そこで、事前学習が必要な識別モデルではなく、生成モデルを使う試みも既に行われている。例えば、生成モデルとしてHidden Markovモデル(HMM)を適用したものが提案されている(例えば、非特許文献2,3参照)。
しかし、生成モデルとして単純なHMMを適用した場合には、電気機器の数が増えると状態数が爆発し(膨大となり)、現実的なシステムを構築することができないという問題がある。例えば、個々の電気機器が、仮にオンとオフの2状態をもち、電気機器の数をnとしたとき、必要な状態数は、2である。更に、状態遷移確率のサイズはその二乗(2となる。一般家庭の全ての電気機器が仮に20個あったとして(近年では決して多いとは言えない)、必要な状態数は220=1,048,576 であり、状態遷移確率は1,099,511,627,776 の大きさとなる。これはテラオーダーのサイズであり、近年のパーソナルコンピュータでも取り扱うのは困難である。
ちなみに、特許文献1の方法も、クラスタリングをベースとしており、原始的な生成モデルと考えることができるため、事前登録は不要である。特許文献1の方法のような、確率モデルによるアプローチが一般化する以前の時代の、モデル化をせずに問題を解く方法は、ヒューリスティックな方法と呼ばれる。ヒューリスティックな方法は、ファーストステップとしては良いが、方法を拡張していくうちに閾値などのパラメータがどんどん増えていき、それらの調整が困難になるという問題を抱えている。
近年、コンピュータを利用した自動認識技術は、確率モデルの導入により様々な難しい問題が解決できるようになってきている。確率モデルによりうまくモデル化できれば、ほとんどのパラメータが最尤推定(ML推定、Maximum Likelihood)や事後確率最大化(MAP推定、Maximum A Posteriori)、最小識別誤差(MCE、Minimum Classification Error)などにより求めることが可能である。Support Vector Machineのような識別モデルや、HMMのような生成モデルを利用することが、確率モデルによるモデル化に相当する。
米国特許第4858141号明細書 特開2001−330630号公報 国際公開第01/077696号パンフレット 特開2008−039492号公報 特開2006−017456号公報 特開2009−257952号公報
稲垣伸吉、江上司、鈴木達也、中村久栄、伊藤公一、"電気機器の非侵入型稼働状態モニタリングシステム ―稼働の離散状態に着目した整数計画法による解法―"、計測自動制御学会 離散事象システム研究会講演論文集 第42回、pp.33-38、2007年 Bons M., Deville Y., Schang D. 1994. Non-intrusive electrical load monitoring using Hidden Markov Models.Third international Energy Efficiency and DSM Conference, October 31, Vancouver, Canada. , p. 7 中村久栄、伊藤公一、鈴木達也、「隠れマルコフモデルに基づいた電気機器の稼働状況モニタリングシステム」、電気学会論文誌B、Vol. 126、No. 12、pp. 12231229、2006年
以上のことから、次の3点を解決するNILMの手法が望まれる。第1に、ヒューリスティックな方法が抱えるようなパラメータ調整が困難であるという問題を解決すること、即ち、パラメータ調整が簡単であることが望まれる。第2に、識別モデルのように事前のデータベースが必要であると、近年益々増大する新しい電気機器に対応することが困難になることから、事前のデータベースが不要であることが望まれる。第3に、状態数が爆発してしまうパラメータ推定アルゴリズムでは実質的に解くことができないので、状態数がパラメータ算出可能な現実的な個数であることが必要である。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、取得される電流情報から電気機器を推定する場合において、パラメータの算出及び調整が簡単であり、かつ、事前のデータベースが不要な手法を確立することができるようにするものである。
本発明の一側面の電気機器推定装置は、複数の電気機器の消費電流の合計値の時系列データを取得するデータ取得手段と、取得された前記時系列データに基づいて、前記複数の電気機器の稼働状態を確率モデルによりモデル化したときのモデルパラメータを求めるパラメータ推定手段とを備える。
本発明の一側面の電気機器推定方法は、コンピュータが、複数の電気機器の消費電流の合計値の時系列データを取得するステップと、取得された前記時系列データに基づいて、前記複数の電気機器の稼働状態を確率モデルによりモデル化したときのモデルパラメータを求めるステップとを含む。
本発明の一側面の電気機器推定プログラムは、コンピュータに、複数の電気機器の消費電流の合計値の時系列データを取得するデータ取得機能と、取得された前記時系列データに基づいて、前記複数の電気機器の稼働状態を確率モデルによりモデル化したときのモデルパラメータを求めるパラメータ推定機能とを実現させる。
本発明の一側面においては、複数の電気機器の消費電流の合計値の時系列データが取得され、取得された時系列データに基づいて、複数の電気機器の稼働状態を確率モデルによりモデル化したときのモデルパラメータが求められる。
本発明の一側面によれば、取得される電流情報から電気機器を推定する場合において、パラメータの算出及び調整が簡単であり、かつ、事前のデータベースが不要な手法を確立することができる。
従来の特許文献1の方法を説明する図である。 本発明を適用したデータ処理装置としての電気機器推定装置の概要について説明する。 通常のHMMとFactorial HMMとの違いを説明する図である。 Factorial HMMと図2の各電気機器との対応を示す図である。 図2の電気機器推定装置の構成例を示すブロック図である。 センサ部の詳細構成例を示すブロック図である。 電流測定部と電圧測定部の例を示す図である。 電流測定部により測定された電流値の時系列データの例を示す図である。 Factorial HMMのモデルパラメータとNILMにおける事象との対応関係を示す図である。 完全に分解した変分法によるパラメータ推定処理を説明するフローチャートである。 図10のEステップ処理の詳細を説明するフローチャートである。 図10のMステップ処理の詳細を説明するフローチャートである。 構造を残した変分法によるパラメータ推定処理を説明するフローチャートである。 図13のEステップ処理の詳細を説明するフローチャートである。 パラメータ推定部によるMステップ処理について説明するフローチャートである。 本来の状態数Kが3である電気機器のパラメータ推定結果を示す図である。 同一機器判定部による同一機器判定処理を説明するフローチャートである。 図5の電気機器推定装置全体の処理を説明するフローチャートである。 本発明を適用したコンピュータの一実施の形態の構成例を示すブロック図である。
[本発明の概要]
初めに、図2を参照して、本発明を適用したデータ処理装置としての電気機器推定装置の概要について説明する。
住宅等においては、電力会社から供給される電気は、まず分電盤11に引き込まれ、分電盤11から、住宅内の各場所に設置された電気機器12に供給される。例えば、図2の例では、分電盤11から、電気機器12としての、照明装置(電球)12−1、エアコンディショナ12−2、洗濯機12−3、冷蔵庫12−4、及びテレビジョン受像機12−5に供給されている。
本発明を適用した電気機器推定装置1は、分電盤11の大元の2次側において、住宅内の各場所に設置された複数の電気機器12の使用状態の組み合わせでなる消費電流の合計値を測定することで、複数の電気機器12の稼働状態を推定する。電気機器推定装置1は、推定結果に基づいて、各電気機器12の現在の稼働状態を表示したり、現在より所定時間経過後の未来の電気機器12の稼働状態を予測する。
[Factorial HMMについて]
電気機器推定装置1は、NILM の解析手段としてFactorial HMM(Hidden Markov Model)を用いて、各電気機器12の稼働状態を推定する。換言すれば、電気機器推定装置1は、各電気機器12の稼働状態を、Factorial HMMによりモデル化したモデルパラメータを求める。
そこで、初めに、Factorial HMMについて簡単に説明する。図3は、通常のHMMとFactorial HMMをグラフィカルモデルで表現した図である。
図3Aが、通常のHMMを表現したグラフィカルモデルであり、図3BがFactorial HMMを表現したグラフィカルモデルである。
通常のHMMでは、時刻tの観測データYtに対して、1つの状態変数Stが対応する。この通常のHMMとFactorial HMMが異なる点は、状態変数StがSt (1),St (2),St (3),・・・St (m),・・・St (M)と、複数(図3ではM個)存在し、それらの複数の状態変数St (1)乃至St (M)から、1つの観測データYtが生成されることである。
図4は、図3BのFactorial HMMを、図2に示した各電気機器12と対応させて示した図である。
Factorial HMMのM個の状態変数S(1) 乃至S(M)のそれぞれが各電気機器12に対応する。また、状態変数S (m)の状態値は、電気機器12の状態(例えば、オン、オフの2状態)に対応する。
より具体的には、M個の状態変数S(1) 乃至S(M)のうち、1番目の状態変数S(1)の時間経過に応じた状態値S (1)乃至St (1)が、所定の電気機器12(例えば、冷蔵庫12−4)の状態に対応する。また、2番目の状態変数S(2)の時間経過に応じた状態値S (2)乃至St (2)が所定の電気機器12(例えば、テレビジョン受像機12−5)の状態に対応する。同様に、m番目の状態変数S(m)の時間経過に応じた状態値S (m)乃至St (m)が所定の電気機器12(例えば、洗濯機12−3)の状態に対応する。
また、住宅内の各場所に設置された複数の電気機器12の使用状態の組み合わせでなる消費電流の合計値が、観測データY乃至Ytとして得られる。
なお、以下では、M個の状態変数S(1) 乃至S(M)のうちの、m番目の状態変数S(m)を、m番目のファクタ、または、ファクタmとも記述する。
Factorial HMMの詳細は、Zoubin Ghahramani, and Michael I. Jordan, Factorial Hidden Markov Models’, Machine Learning Volume 29, Issue 2-3 ,Nov./Dec. 1997(以下、文献Xという。)に、記載されている。
[電気機器推定装置1の構成例]
図5は、電気機器推定装置1の構成例を示すブロック図である。
電気機器推定装置1は、センサ部21、パラメータ推定部22、データベース23、同一機器判定部24、状態予測部25、機器特定部26、及び表示部27により構成される。
センサ部21は、観測データYt(t=1,2,・・・,T)としての、住宅内の各場所に設置された複数の電気機器12の使用状態の組み合わせでなる消費電流の合計値を測定(取得)し、パラメータ推定部22に供給する。
パラメータ推定部22は、複数の電気機器12の消費電流の合計値の時系列データである観測データ{Y,Y,Y,・・・Yt,・・YT}に基づいて、各電気機器12の稼働状態をFactorial HMMによりモデル化したモデルパラメータを求める。Factorial HMMの学習処理により得られたモデルパラメータは、データベース23に保存される。
また、パラメータ推定部22は、センサ部21から新たな観測データYtが供給された場合、モデルパラメータをデータベース23から取得し、更新する。即ち、新たな観測データYtに基づいて、現在のモデルパラメータが更新される。
同一機器判定部24は、M個のファクタのうち、同一の電気機器12をモデル化した複数のファクタを検出し、検出結果をデータベース23に記憶させる。換言すれば、同一機器判定部24は、M個のファクタのうち、第1のファクタmと第2のファクタm(m≠m)が同一の電気機器12を表現したものであるかを判定し、判定結果をデータベース23に登録する。
Factorial HMM自体は、汎用の時系列データのモデル化手法であり、NILM以外の様々な問題に適用可能なものであるため、従来のFactorial HMMを用いた推定手法そのままでは、NILMにうまく適用できない。その問題の1つが、1つの電気機器12が複数のファクタでモデル化される場合があることである。そこで、同一機器判定部24は、1つの電気機器12が複数のファクタで表現されている場合、その複数のファクタが同一の電気機器12に対応するものであることを検出する。
状態予測部25は、データベース23に記憶されているモデルパラメータを用いて、現在時刻から所定時間経過後の未来のファクタm(の電気機器12)の状態を予測する。Factorial HMMは、言うまでもなくHMMをベースとした確率モデルであるため、未来の時刻の状態確率を確率的に予測することができる。状態予測部25は、現在時刻から所定時間経過後の未来のファクタmの状態の予測結果を、例えば、図示せぬ関連機器制御部等に出力する。これにより、関連機器制御部は、未来のファクタm(の電気機器12)の状態の予測結果に基づいて、ファクタmの電気機器12に関連する他の電気機器12を制御することができる。
機器特定部26は、ファクタmがどの電気機器12に対応するのかを特定する。即ち、状態予測部25までの処理では、各ファクタmの状態変化の認識及び予測を行うことはできるが、各ファクタmが住宅内の各場所に設置されたどの電気機器12に対応するかは特定できない。機器特定部26は、各ファクタと住宅内の電気機器12とを対応付ける。例えば、機器特定部26は、電気機器12の製品の種類ごと(洗濯機、冷蔵庫、エアコン、など)に代表的な電流波形パターンを記憶し、その代表的な電流波形パターンと、実際に取得されたファクタの観測データYとを比較して、電気機器12(の種類)を特定する。また例えば、機器特定部26は、不図示の操作部において、各ファクタに対するユーザによる電気機器12の種類の入力操作を受け付け、入力された電気機器12の種類(製品)とファクタの観測データYとを対応付ける。
表示部27は、液晶ディスプレイ等により構成され、パラメータ推定部22による推定結果に基づいて、機器特定部26により特定された電気機器12の稼働状況を表示する。
以下、電気機器推定装置1を構成する各部の詳細について説明する。
[センサ部21の詳細構成例]
図6は、センサ部21の詳細構成例を示すブロック図である。
センサ部21は、住宅内の各場所に設置された複数の電気機器12の電流及び電圧の合計値を測定する電流測定部41及び電圧測定部42、電流波形切り出し部43、並びに、時系列保持部44により構成される。
図7は、単相三線式の配線により複数の電気機器12に電気が供給される場合の、電流測定部41と電圧測定部42の例である。
電流測定部41は、例えば、2つのクランプ型電流計54及び55により構成され、分電盤11内の大元のアンペアブレーカの2次側に接続された2つの電圧線(ケーブル)51及び53にクランプされ、そこに流れる電流を計測する。
電圧測定部42は、電圧計56により構成され、所定の電線間の電圧を測定する。電圧は、電流の位相を電圧の位相に同期させるために測定される。従って、電圧測定部42は、電圧線51と中性線52間の電圧、または、中性線52と電圧線53間の電圧のいずれか一方を計測すればよい。図7の例では、電圧計56が電圧線51と中性線52間の電圧を測定している。
図6に戻り、電流波形切り出し部43は、時々刻々と得られる電流値の時系列データ(電流波形)を時間方向に間引いて代表サンプルを生成し、時刻tの観測データYtとして時系列保持部44に供給する。
図8は、電流測定部41により測定された電流値の時系列データの例を示している。
図8上段の波形は、所定の期間内に、電流測定部41により測定された電流値の時系列データであり、振幅の大きさが消費電流の大きさを表す。
図8中段の波形は、図8上段に示した時系列データのうち、4周期分の時系列データを拡大して示したものであり、さらに、図8下段の波形は、中段の4周期分の時系列データのうちの1周期分を拡大して示したものである。
電流波形切り出し部43は、最初に、電流波形の位相を、電圧の位相に同期させる。具体的には、電流波形切り出し部43は、電圧値のゼロ交差の瞬間を、電流波形の位相0として扱う。次に、電流波形切り出し部43は、所定の時間間隔で、1周期分の電流波形をサンプリングする。全ての周期をサンプリングするとデータ量が膨大となってしまうからである。例えば、1秒間に1周期の電流波形を1サンプルとして取得するようにした場合、商用電源周波数50Hzの地域においては、1/50にデータ量を削減することができる。
商用電源周波数50Hzの地域において、1回のサンプリングを50Hzでサンプリングすることとすると、即ち、1周期分の電流波形を50Hzでサンプリングすると、図8下段に示されるように、1回のサンプリングで1000個の電流値が得られる。電流波形切り出し部43は、1回のサンプリングで得られた1000個の電流値を1000次元の電流値ベクトルで表し、現在の時刻tにおける観測データYtとして、時系列保持部44に供給する。従って、観測データYtは、D次元(D=1000)の実数ベクトルとなる。
図6に戻り、時系列保持部44は、電流波形切り出し部43から順次供給される観測データYtを記憶し、保持する。これにより、時系列保持部44には、1サンプルが1000次元の電流値ベクトルで表される観測データ{Y,Y,Y,・・・Yt,・・YT}が格納される。
なお、上述した例では、単純に1秒間に1回サンプリングすることで、観測データを時間方向に間引いたが、観測データの間引き方はこれに限られない。例えば、50サンプルの電流値ベクトルの平均ベクトルを計算し、その計算結果を1サンプルの観測データYtとしてもよい。また、50サンプルの電流値ベクトルのうち、50サンプルの平均ベクトルに最も近い電流値ベクトルを、1サンプルの観測データYtとしてもよい。あるいは、50サンプルの電流値ベクトルをK-means法でクラスタリングし、最もサンプル数の多いクラスタの平均ベクトル、または、50サンプルの電流値ベクトルのベクトル間距離が最小となる2サンプルの平均ベクトルを、1サンプルの観測データYtとしてもよい。
時系列保持部44に格納されている観測データ{Y,Y,Y,・・・Yt,・・YT}に基づいて、パラメータ推定部22は、複数の電気機器12の稼働状態をモデル化したFactorial HMMのモデルパラメータを推定する。
[Factorial HMMについて]
次に、パラメータ推定部22の詳細について説明するが、初めに、Factorial HMMにおけるモデルパラメータの推定について説明する。
観測データ{Y,Y,Y,・・・,Yt,・・・,YT}に対する隠れ状態を{S,S,S,・・・,St,・・・ST}とすると、隠れ状態Sと観測データYの同時確率は、次式(1)で与えられる。
Figure 2013218715
式(1)中の、P(S)は初期確率、P(St|St-1)は状態遷移確率、P(Yt|St)は観測確率を表し、それぞれ、式(2)、式(3)、式(4)で計算される。
Figure 2013218715
上述したように複数のファクタが1つの電気機器12に対応する場合もあるが、最もシンプルな例として1つのファクタが1つの電気機器12に対応するものとして、Factorial HMMにおけるモデルパラメータの推定について説明する。1つのファクタが1つの電気機器12に対応するとした場合の、ファクタmに対応する電気機器12を、m番目の電気機器12とも称する。
式(2)乃至式(4)中のSt (m)は、時刻tにおけるm番目の電気機器12の状態(オン、オフ、強運転、弱運転など)を表し、m番目の電気機器12の状態数がKであるとすると、St (m)は、K次元の縦ベクトル(K行1列のベクトル)で構成される。
式(2)の初期確率P(S)は、M個のπ(m)の掛け算で計算される。π(m)は、m番目の電気機器12の初期状態確率を表し、K次元の縦ベクトルである。
式(3)の状態遷移確率P(St|St-1)は、M個のA(m)の掛け算で計算される。A(m)は、例えば、オンからオフへの切り替わりやすさなどに対応する、m番目の電気機器12の状態遷移確率を表し、K行K列(K×K)の正方行列で構成される。
式(4)の観測確率P(Yt|St)は、観測平均μt,共分散行列Cの多変量正規分布で計算される。式(4)において、ダッシュ(’)は転置を表し、右上の”−1”は逆数を表す。また、|C|はCの絶対値を表す。
式(4)のW(m)は、m番目の電気機器12が消費する電流波形のパターンに対応する観測確率P(Yt|St)のパラメータである。電気機器12の状態ごとに電流波形のパターンは異なるため、W(m)は、観測データの次元数Dを行数、状態数Kを列数としたD行K列(D×K)の行列となる。
μtは、時刻tにおける観測平均を表し、行列W(m)の状態St (m)に対応する列要素をM個足し合わせたものとなる。換言すれば、μtは、全ての電気機器12の状態に応じた電流値を足し合わせたものに相当する。従って、観測平均μtが時刻tにおける観測データYtに近ければ、モデルパラメータが尤もらしいということになる。共分散行列Cは、電流パターンに乗るノイズの強度に対応し、全時刻、全ての電気機器12で共通とされる。
以上より、パラメータ推定部22によるFactorial HMMのモデルパラメータの推定とは、具体的には、m番目の電気機器12の初期状態確率π(m)、状態遷移確率A(m)、観測確率のパラメータW(m)、及び共分散行列Cを求めることである。図9に、Factorial HMMのモデルパラメータφ={π(m),A(m),W(m),C}とNILMにおける事象との対応関係を示す。
上述した文献Xには、モデルパラメータφ={π(m),A(m),W(m),C}の推定方法として、4つの推定手法が開示されている。具体的には、1)厳密な推定 (exact inference)、2)ギブスサンプリングを使った近似推定 (inference using Gibbs sampling)、3)完全に分解した変分法による近似推定 (completely factorized variational inference)、4)構造を残した変分法による近似推定 (structured variational inference)が開示されている。
4つの推定手法は、いずれもEMアルゴリズムを用いた手法であり、パラメータ推定部22が行う推定処理のベースとして採用することができる。「1)厳密な推定」は、演算量が多いが高精度で安定した推定が可能であるため、電気機器12の数が少ない小規模のシステムや開発段階で利用することは有益である。実行速度、実行時のメモリ使用量、及び実行精度のそれぞれについて総合的に判断すると、「4)構造を残した変分法による近似推定」が最も有効である。
以下では、4つの推定手法のうち、「3)完全に分解した変分法による近似推定」と、「4)構造を残した変分法による近似推定」について、パラメータ推定部22が行うとして説明する。
[完全に分解した変分法によるパラメータ推定処理]
図10は、「3)完全に分解した変分法による近似推定」である、完全に分解した変分法によるパラメータ推定処理のフローチャートである。
初めに、ステップS1において、パラメータ推定部22は、パラメータ推定処理における作業用変数などを初期化する初期化処理を行う。具体的には、パラメータ推定部22は、全ての時刻t及びファクタm(t=1,・・・,T,m=1,・・・,M)について、変分パラメータθt (m)、ファクタmの観測確率のパラメータW(m)、共分散行列C、及び、状態遷移確率Ai,j (m)を初期化する。変分パラメータθt (m)と状態遷移確率Ai,j (m)には、初期値として1/Kが代入される。ファクタmの観測確率のパラメータW(m)には、初期値として所定の乱数が代入される。共分散行列Cの初期値には、C=aI(aは任意の実数、IはD行D列(D×D)の単位行列)が設定される。
ステップS2において、パラメータ推定部22は、状態確率の推定を行うEステップ処理を実行する。Eステップ処理の詳細は、図11を参照して後述する。
ステップS3において、パラメータ推定部22は、遷移と観測のパラメータを推定するMステップ処理を実行する。Mステップ処理の詳細は、図12を参照して後述する。
ステップS4において、パラメータ推定部22は、モデルパラメータの収束条件を満たしたかを判定する。例えば、パラメータ推定部22は、ステップS2乃至4の処理の繰り返し回数が予め設定した所定の回数に到達した場合、または、モデルパラメータの更新による状態尤度の変化量が所定値以内である場合に、モデルパラメータの収束条件を満たしたと判定する。
ステップS4で、モデルパラメータの収束条件をまだ満たしていないと判定された場合、処理はステップS2に戻り、ステップS2乃至S4の処理が繰り返される。
一方、ステップS4で、モデルパラメータの収束条件を満たしたと判定された場合、パラメータ推定部22は、パラメータ推定処理を終了する。
[Eステップ処理の詳細フローチャート]
次に、図11のフローチャートを参照して、図10のステップS2として実行されるEステップ処理の詳細について説明する。
Eステップ処理では、初めに、ステップS11において、パラメータ推定部22は、ファクタに対応する変数mに1を代入する。
ステップS12において、パラメータ推定部22は、テンポラリ変数△(m)を、次式(5)により求める。
Figure 2013218715
式(5)のdiag(・)は、(・)内の行列の対角成分をベクトルとして取り出す関数である。
ステップS13において、パラメータ推定部22は、式(6)と式(7)により、全ての時刻t(t=1,・・・,T)についてテンポラリ変数ηt (m)と変分パラメータθt (m)を求める。
Figure 2013218715
式(6)のサメーション(Σ)は、lをm以外の1からMとしたときの和を意味する。また、式(7)のSoftmax関数は、式(8)で表される処理を行う関数である。
Figure 2013218715
ステップS14において、パラメータ推定部22は、変数mが状態変数の数Mと等しいか、即ち、全てのファクタ1乃至Mについて変分パラメータθt (m)を求めたかを判定する。ステップS14で、変数mが状態変数の数Mと等しくないと判定された場合、処理はステップS15に進み、パラメータ推定部22は、変数mを1だけ増加させた後、処理をステップS12に戻す。これにより、更新後の変数mについて、ステップS12乃至S14の処理が繰り返される。
一方、ステップS14で、変数mが状態変数の数Mと等しいと判定された場合、即ち、全てのファクタ1乃至Mについて変分パラメータθt (m)が得られた場合、処理はステップS16に進み、パラメータ推定部22は、変分パラメータθt (m)の収束条件を満たしたかを判定する。ステップS16では、例えば、繰り返し回数が予め設定した所定の回数に到達した場合に、変分パラメータθt (m)の収束条件を満たしたと判定される。
ステップS16で、変分パラメータθt (m)の収束条件を満たしていないと判定された場合、処理はステップS11に戻る。そしてステップS11乃至S16が再度実行されることにより、再度、変分パラメータθt (m)が計算(更新)される。
一方、ステップS16で、変分パラメータθt (m)の収束条件を満たしたと判定された場合、処理はステップS17に進み、パラメータ推定部22は、再度、ファクタに対応する変数mに1を代入する。
そして、ステップS18において、パラメータ推定部22は、期待値変数<St (m)>,<S’t (m)>,<St (m)S’t (m)>を、次式(9)乃至式(11)により求める。
Figure 2013218715
さらに、ステップS19において、パラメータ推定部22は、変数nを1乃至Mとした期待値変数<St (m)S’t (n)>を、次式(12)により求める。
Figure 2013218715
ステップS20において、パラメータ推定部22は、変数mが状態変数の数Mと等しいか、即ち、全てのファクタ1乃至Mについて、期待値変数<St (m)>,<S’t (m)>,<St (m)S’t (m)>、及び<St (m)S’t (m)>を求めたかを判定する。
ステップS20で、変数mが状態変数の数Mと等しくないと判定された場合、処理はステップS21に進み、パラメータ推定部22は、変数mを1だけ増加させた後、処理をステップS18に戻す。これにより、更新後の変数mについて、ステップS18乃至S20の処理が再度繰り返される。
一方、ステップS20で、変数mが状態変数の数Mに等しいと判定された場合、即ち、全てのファクタ1乃至Mについて期待値変数<St (m)>,<S’t (m)>,<St (m)S’t (m)>、及び<St (m)S’t (m)>が得られた場合、Eステップ処理は終了する。
[Mステップ処理の詳細フローチャート]
Eステップ処理が終了すると、図10のステップS3におけるMステップ処理が実行される。図12は、ステップS3におけるMステップ処理の詳細を説明するフローチャートである。
Mステップ処理では、ステップS31において、パラメータ推定部22は、全てのファクタm=1乃至Mについて、初期状態確率π(m)を、次式(13)により求める。
Figure 2013218715
ステップS32において、パラメータ推定部22は、全てのファクタmについて、状態Sj (m)から状態Si (m)への状態遷移確率Ai,j (m)を、次式(14)により求める。
Figure 2013218715
ここで、St-1,j (m)は、遷移前の状態Sj (m)が時刻t−1の状態変数St-1 (m)であり、St,i (m)は、遷移後の状態Si (m)が時刻tの状態変数St (m)であることを表す。
ステップS33において、パラメータ推定部22は、観測確率のパラメータWを、次式(15)により求める。
Figure 2013218715
式(15)において、観測確率のパラメータWは、D行K列(D×K)のパラメータW(m)を、列方向に全てのファクタmについてM個連結した、D行MK列(D×MK,MKはMとKの積)の行列を表す。従って、ファクタmの観測確率のパラメータW(m)は、観測確率のパラメータWを列方向に分解することで得られる。また、式(15)におけるpinv(・)は、疑似逆行列を求める関数である。
ステップS34において、パラメータ推定部22は、共分散行列Cを、次式(16)により求める。
Figure 2013218715
上述したステップS31乃至S34により、Factorial HMMのモデルパラメータφが求められ(更新され)、Mステップ処理が終了して、図10のステップS4の処理が進められる。
[構造を残した変分法によるパラメータ推定処理]
次に、「4)構造を残した変分法による近似推定」である、構造を残した変分法によるパラメータ推定処理について説明する。図13は、構造を残した変分法によるパラメータ推定処理のフローチャートである。
初めに、ステップS41において、パラメータ推定部22は、パラメータ推定処理における作業用変数などを初期化する初期化処理を行う。具体的には、パラメータ推定部22は、全ての時刻t及びファクタm(t=1,・・・,T,m=1,・・・,M)について、変分パラメータht (m)、期待値変数<St (m)>、ファクタmの観測確率のパラメータW(m)、共分散行列C、及び、状態遷移確率Ai,j (m)を初期化する。変分パラメータht (m)には初期値として1/Kが代入され、それ以外については、上述したステップS1の初期化処理と同様の値が代入される。
続くステップS42乃至S44の処理は、図10のステップS2乃至S4と、それぞれ同様であるので、その説明は省略する。
[Eステップ処理の詳細フローチャート]
次に、図14のフローチャートを参照して、図13のステップS42として実行されるEステップ処理の詳細について説明する。
構造を残した変分法によるパラメータ推定処理のEステップ処理では、初めに、ステップS61において、パラメータ推定部22は、ファクタに対応する変数mに1を代入する。
そして、ステップS62において、パラメータ推定部22は、テンポラリ変数△(m)を、上述した式(5)により求める。即ち、ステップS61及びS62の処理は、上述した図11のステップS11及びS12と同様である。
ステップS63において、パラメータ推定部22は、式(17)と式(18)により、全ての時刻t(t=1,・・・,T)についてテンポラリ変数ηt (m)と変分パラメータht (m)を求める。
Figure 2013218715
ステップS64において、パラメータ推定部22は、変数mが状態変数の数Mと等しいか、即ち、全てのファクタ1乃至Mについて変分パラメータht (m)を求めたかを判定する。ステップS64で、変数mが状態変数の数Mと等しくないと判定された場合、処理はステップS65に進み、パラメータ推定部22は、変数mを1だけ増加させた後、処理をステップS62に戻す。これにより、更新後の変数mについて、ステップS62乃至S64の処理が繰り返される。
一方、ステップS64で、変数mが状態変数の数Mと等しいと判定された場合、即ち、全てのファクタ1乃至Mについて変分パラメータht (m)が得られた場合、処理はステップS66に進み、パラメータ推定部22は、変分パラメータht (m)の収束条件を満たしたかを判定する。ステップS66では、例えば、繰り返し回数が予め設定した所定の回数に到達した場合、パラメータ推定部22は、変分パラメータht (m)の収束条件を満たしたと判定する。
ステップS66で、変分パラメータht (m)の収束条件を満たしていないと判定された場合、処理はステップS61に戻る。そしてステップS61乃至S66が再度実行されることにより、再度、変分パラメータht (m)が計算(更新)される。
一方、ステップS66で、変分パラメータht (m)の収束条件を満たしたと判定された場合、処理はステップS67に進み、パラメータ推定部22は、変分パラメータht (m)と状態遷移確率Ai,j (m)を用いたフォーワードバックワードアルゴリズムを用いて、期待値変数<St (m)>及び<St-1 (m)S’t (m)>を求める。
ステップS68において、パラメータ推定部22は、変数nを1乃至Mとした期待値変数<St (m)S’t (n)>を次式(19)により求め、Eステップ処理を終了して、図13に戻る。
Figure 2013218715
構造を残した変分法によるパラメータ推定処理において、Eステップ処理の次に実行されるMステップ処理は、図12を参照して説明した、完全に分解した変分法によるパラメータ推定処理のMステップ処理と同様であるので、その説明は省略する。
[パラメータ推定部22によるFactorial HMMの手法]
以上、文献Xに開示されているFactorial HMMのモデルパラメータφを求める4つの推定手法のうち、完全に分解した変分法によるパラメータ推定処理と、構造を残した変分法によるパラメータ推定処理について説明した。
Factorial HMM自体は、汎用の時系列データのモデル化手法であり、NILM以外の様々な問題に適用可能なものである。しかしながら、Factorial HMMは汎用モデルであるが故に、Factorial HMMをNILMにそのまま適用すると、次の2つの問題が生じてしまう。
1)物理的に存在し得ない「負の消費電力」を持つファクタが発生する。これは、Factorial HMMのパラメータの自由度が大きすぎるため、Factorial HMMのパラメータW(m)が負の値をも取り得ることに対応する。
2)各ファクタと住宅内に設置された各電気機器12とが1対1に対応しないことがある。換言すれば、1つの電気機器12が複数のファクタと対応する場合がある。これは、Factorial HMMの表現力が高いために、一つの観測データを二通り以上の方法で説明できてしまうからである。
そこで、本発明を適用した電気機器推定装置1のパラメータ推定部22では、NILMに適用するため、ベースとなる文献Xに開示されているFactorial HMMに対して、以下に示す改良を施した手法が採用されている。
パラメータ推定部22は、Factorial HMMの改良として、第1に、Factorial HMMにおける観測確率のパラメータW(m)が非負行列であるという制約(非負制約)を付加する。供給電源は交流であるため、観測データYとなる電流値は正値と負値を交互に取る。そこで、パラメータ推定部22は、次のいずれかの方法を前処理として行うことにより、観測データYとなる電流値を正のみの値に変換する。具体的には、パラメータ推定部22は、1)電流値の絶対値を観測データYとして用いる、2)正値を取る半周期分のみを観測データYとして用いる、3)電力値(電流値と電圧値の積)を観測データYとして用いる。
さらに、パラメータ推定部22は、上述した式(15)を用いず、次式(20)で表される目的関数を最小化する観測確率のパラメータWを、制約付き2次計画法により求める。
Figure 2013218715
即ち、パラメータ推定部22は、上述した式(15)に代えて、制約条件Wvertical≧0の下で、目的関数としての、FとWverticalの積ベクトルとgベクトルとの差の絶対値の二乗を最小化するWverticalを求める。式(20)は、Factorial HMMの全てのファクタについての、パラメータW(m)が表す電流波形のパターンと、観測データYが表す前記消費電流の合計値のパターンとの誤差を最小とするWverticalを求めることを意味する。なお、reshape_to_vertical_vector(・)は、行列の列成分を縦に連結して、例えば、a行b列(a×b)の行列を、ab行1列(ab×1,abはaとbの積)のベクトルに変形する操作を表す関数である。
求めるべきパラメータWverticalには、
Wvertical=reshape_to_vertical_vector(W)という関係があるため、式(20)で求められたab行1列のWverticalを、a行b列に変換することで、観測確率のパラメータWが得られる。
式(20)の最適化処理の実行には、文献「Lawson, C. L. and R. J. Hanson, Solving Least Squares Problems, Prentice-Hall, 1974, Chapter 23.」を基に実装したFortranのコードnnls.fや、そのC言語版であるnnls.cが広く知られている。また、Matlab(登録商標)やPython (登録商標)などでも、式(20)の最適化処理を簡単に実行するツールが提供されている。
パラメータ推定部22は、Factorial HMMの改良として、第2に、状態数Kを、オン、オフのみに対応する2(K=2)に固定し、観測確率のパラメータWの第1列目または第2列目のいずれか一方を常に0ベクトルに設定する。これは、電気機器12の状態がオンとオフの2状態しかないこと、及び、状態がオフのときは、消費電力が常に0であること、を仮定したものである。
このオンオフ2状態の制約条件の利点は、Factorial HMMのパラメータ推定結果が現実の電気機器12の動作モードに対応するようになり、Factorial HMMのパラメータの学習の安定性が向上することである。白熱灯などの、いくつかのシンプルな電気機器12は、このオンオフ2状態の制約条件を完全に満たすが、動作モードが複数ある電気機器12であっても、現実の電気機器12の動作モードに、より対応するようになる。この制約条件を付さないと、Factorial HMMのパラメータ推定結果が現実の電気機器の動作モードと対応しない一つの理由としては、Factorial HMMは非常に表現力豊かな手法であるため、現実には対応しないが高い尤度を持つ局所解がいくつも存在してしまうことが考えられる。
[パラメータ推定部22によるMステップ処理]
図15を参照して、パラメータ推定部22によるMステップ処理について説明する。
なお、Mステップ処理以外の処理については、図10及び図11、図13及び図14等を参照して説明した処理と同様である。但し、時系列保持部44に保存されている観測データYが正のみの値に変換されたものである点、及び、パラメータW(m)の状態数Kが2(K=2)で、第1列目または第2列目のいずれか一方が常に0ベクトルである点は異なる。
Mステップ処理では、ステップS81において、パラメータ推定部22は、全てのファクタm=1乃至Mについて、初期状態確率π(m)を、上述した式(13)により求める。
ステップS82において、パラメータ推定部22は、全てのファクタmについて、状態Sj (m)から状態Si (m)への状態遷移確率Ai,j (m)を、上述した式(14)により求める。
ステップS83において、パラメータ推定部22は、観測確率のパラメータWを、上述した式(15)を用いず、式(20)の制約付き2次計画法によって求める。
ステップS84において、パラメータ推定部22は、共分散行列Cを、上述した式(16)により求める。
以上の処理により、パラメータ推定部22によるMステップ処理が実行される。
[同一機器判定部24の処理]
次に、同一機器判定部24の処理について説明する。
図16は、本来の状態数Kが3(K=3)である電気機器12、例えば、停止モード、弱運転モード、及び強運転モードの3つの動作モードを持つ扇風機を、オンオフ2状態の制約条件下で推定したときのパラメータ推定結果を示している。
本来の状態数Kが3(K=3)である電気機器12をオンオフ2状態の制約条件下で推定すると、パラメータ推定結果は、図16の可能性Aか、または、可能性Bに収束する。
図16では、オンオフ2状態として推定したときの推定結果としての状態1と状態2を分かりやすくするため、”ON”と”OFF”と記述している。実際には、例えば、状態1がOFF(オフ)で状態2がON(オン)として、ONのときはSt (m)=[状態1,状態2]=[0.0,1.0]、オフのときはSt (m)= [状態1,状態2]=[0.9, 0.1]などのようになっている。
可能性Aは、強運転モードを2つのファクタの同時生起として表現し、可能性Bは弱運転モードと強運転モードを2つのファクタに別々に表現している。
可能性Aと可能性Bはどちらも、扇風機の稼動状態を正しくモデル化しているが、これら2つのファクタが2つの別々の電気機器12を表現するのか、1つの電気機器12の異なるモードを表現しているのかは、このままではわからない。しかし、1つの電気機器12である場合は、以下の条件が常に成立することがわかっている。
可能性Aの場合:
必要条件 : S(2)=ONのとき、必ずS(1)=ONになっている。
ヒント条件: S(1)=ONからS(1)=OFFに遷移するとき、同時刻にS(2)=ONからS(2)=OFFに遷移することがある。
ヒント条件: S(1)=OFFからS(1)=ONに遷移するとき、同時刻にS(2)=OFFからS(2)=ONに遷移することがある。
可能性Bの場合:
必要条件: S(1)=ONのとき、必ずS(2)=OFFになっている。
必要条件: S(2)=ONのとき、必ずS(1)=OFFになっている。
ヒント条件: S(1)=ONからS(1)=OFFに遷移するとき、同時刻にS(2)=OFFからS(2)=ONに遷移することがある。
ヒント条件: S(1)=OFFからS(1)=ONに遷移するとき、同時刻にS(2)=ONからS(2)=OFFに遷移することがある。
従って、この条件を評価することで、状態S(1)と状態S(2)が同一の電気機器12に起因していることを推定することが可能である。
図17は、同一機器判定部24による同一機器判定処理のフローチャートを示している。
初めに、ステップS101において、同一機器判定部24は、Factorial HMMの各ファクタの全組み合わせを、同一機器候補として作成する。
ステップS102において、同一機器判定部24は、必要条件による同一機器候補の選別を行う。即ち、同一機器判定部24は、各ファクタの全組み合わせのうち、必要条件を常に満たす組み合わせを、同一機器候補として選別する。
ステップS103において、同一機器判定部24は、ヒント条件による同一機器候補の選別を行う。即ち、同一機器判定部24は、ステップS102で選別された組み合わせのうち、ヒント条件をZ回(Zは2以上の整数)以上満たしたことがある組み合わせを同一機器と判定する。同一機器判定部24は、同一機器と判定したファクタについての情報をデータベース23に保存して、処理を終了する。
[電気機器推定装置1の全体処理]
図18のフローチャートを参照して、電気機器推定装置1の処理全体について説明する。
初めに、ステップS121において、センサ部21は、観測データYとしての、住宅内の消費電流の合計値を測定し、取得された合計値に対して、正のみの値に変換する前処理を施してから、時系列保持部44に保存する。
ステップS122において、パラメータ推定部22は、観測データ{Y,Y,Y,・・・Yt,・・YT}に基づいて、Factorial HMMのモデルパラメータを推定するパラメータ推定処理を行う。そして、推定結果としてのモデルパラメータ(の値)が、データベース23に保存される。
ステップS122のパラメータ推定処理としては、例えば、図10の完全に分解した変分法によるパラメータ推定処理や図13の構造を残した変分法によるパラメータ推定処理が行われる。ただし、図10のステップS3及び図13のステップS43のMステップ処理としては、図15のMステップ処理が実行される。
ステップS123において、同一機器判定部24は、図17を参照して説明した同一機器判定処理を行う。
ステップS124において、状態予測部25は、現在時刻から所定時間経過後の未来のファクタmの状態を予測する予測処理を行う。具体的には、状態予測部25は、ファクタmが現在時刻Tから所定時間L経過後の未来の時刻T+Lにどの状態になっているかを表す、時刻T+Lにおけるファクタmの状態確率ST+L (m)を、次式(21)により求める。
Figure 2013218715
状態予測部25は、予測結果を、例えば、図示せぬ関連機器制御部等に出力して、処理を終了する。
以上、説明した電気機器推定装置1の電気機器推定処理によれば、住宅内の各場所に設置された複数の電気機器12の消費電流の合計値でなる観測データYをFactorial HMMによりモデル化し、モデルパラメータを求める。このFactorial HMMには、NILMに適用するため、従来のFactorial HMMに対して改良が施されている。具体的には、電気機器推定装置1は、観測確率のパラメータW(m)を非負の値となるように変換し、制約付き2次計画法により求める。また、電気機器推定装置1は、状態変数S(1)乃至S(M)の状態数Kを、オン、オフのみに対応する2(K=2)に固定し、観測確率のパラメータWの第1列目または第2列目のいずれか一方を常に0ベクトルとする。換言すれば、Factorial HMMの各状態が取り得る状態数を2とし、Factorial HMMのファクタmの電流波形のパターンに対応する観測確率のパラメータW(m)が非負であって、状態数に対応する第1列目または第2列目のいずれか一方が常に0であるという制約条件の下で、Factorial HMMが、時系列データが表す消費電流の合計値のパターンを説明する度合いである尤度関数を最大化することにより、モデルパラメータとしての観測確率のパラメータW(m)が求められる。これにより、事前のデータベースが不要で、Factorial HMMのモデルパラメータを容易に求めることができる。即ち、パラメータの算出及び調整が簡単であり、かつ、事前のデータベースが不要な手法を確立することができる。
上述した一連の処理は、ハードウエアにより実行することもできるし、ソフトウエアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウエアにより実行する場合には、そのソフトウエアを構成するプログラムが、コンピュータにインストールされる。ここで、コンピュータには、専用のハードウエアに組み込まれているコンピュータや、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどが含まれる。
図19は、上述した一連の処理をプログラムにより実行するコンピュータのハードウエアの構成例を示すブロック図である。
コンピュータにおいて、CPU(Central Processing Unit)101,ROM(Read Only Memory)102,RAM(Random Access Memory)103は、バス104により相互に接続されている。
バス104には、さらに、入出力インタフェース105が接続されている。入出力インタフェース105には、入力部106、出力部107、記憶部108、通信部109、及びドライブ110が接続されている。
入力部106は、キーボード、マウス、マイクロホンなどよりなる。出力部107は、ディスプレイ、スピーカなどよりなる。記憶部108は、ハードディスクや不揮発性のメモリなどよりなる。通信部109は、ネットワークインタフェースなどよりなる。ドライブ110は、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリなどのリムーバブル記録媒体111を駆動する。
以上のように構成されるコンピュータでは、CPU101が、例えば、記憶部108に記憶されているプログラムを、入出力インタフェース105及びバス104を介して、RAM103にロードして実行することにより、上述した一連の処理が行われる。
コンピュータ(CPU101)が実行するプログラムは、例えば、パッケージメディア等としてのリムーバブル記録媒体111に記録して提供することができる。また、プログラムは、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル衛星放送といった、有線または無線の伝送媒体を介して提供することができる。
コンピュータでは、プログラムは、リムーバブル記録媒体111をドライブ110に装着することにより、入出力インタフェース105を介して、記憶部108にインストールすることができる。また、プログラムは、有線または無線の伝送媒体を介して、通信部109で受信し、記憶部108にインストールすることができる。その他、プログラムは、ROM102や記憶部108に、あらかじめインストールしておくことができる。
なお、本明細書において、フローチャートに記述されたステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる場合はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで実行されてもよい。
なお、本明細書において、システムとは、複数の装置により構成される装置全体を表すものである。
本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
1 電気機器推定装置, 11 分電盤, 12 電気機器, 21 センサ部, 22 パラメータ推定部, 23 データベース, 24 同一機器判定部, 25 状態予測部, 41 電流測定部, 42 電圧測定部, 43 電流波形切り出し部, 44 時系列保持部

Claims (14)

  1. 複数の電気機器の消費電流の合計値の時系列データを取得するデータ取得手段と、
    取得された前記時系列データに基づいて、前記複数の電気機器の稼働状態を確率モデルによりモデル化したときのモデルパラメータを求めるパラメータ推定手段と
    を備える電気機器推定装置。
  2. 前記確率モデルは、Factorial HMMである
    請求項1に記載の電気機器推定装置。
  3. 前記パラメータ推定手段は、EMアルゴリズムによるパラメータ推定処理において、前記Factorial HMMの各状態が取り得る状態数を2とし、前記Factorial HMMが、前記時系列データが表す前記消費電流の合計値のパターンを説明する度合いである尤度関数を最大化することにより、前記モデルパラメータとしての観測確率のパラメータW(m)を求める
    請求項2に記載の電気機器推定装置。
  4. 前記データ取得手段は、取得された前記消費電流の合計値を非負のデータに変換し、
    前記パラメータ推定手段は、EMアルゴリズムによるパラメータ推定処理において、前記Factorial HMMのファクタmの電流波形のパターンに対応する観測確率のパラメータW(m)が非負であるという制約条件の下で、前記Factorial HMMが、前記時系列データが表す前記消費電流の合計値のパターンを説明する度合いである尤度関数を最大化することにより、前記モデルパラメータとしての観測確率のパラメータW(m)を求める
    請求項2または3に記載の電気機器推定装置。
  5. 前記パラメータ推定手段は、EMアルゴリズムによるパラメータ推定処理において、前記Factorial HMMのファクタmの電流波形のパターンに対応する観測確率のパラメータW(m)の、前記Factorial HMMの各状態が取り得る状態数に対応する複数列のいずれか一列が常に0であるという制約条件の下で、前記Factorial HMMが、前記時系列データが表す前記消費電流の合計値のパターンを説明する度合いである尤度関数を最大化することにより、前記モデルパラメータとしての観測確率のパラメータW(m)を求める
    請求項2乃至4のいずれかに記載の電気機器推定装置。
  6. 前記Factorial HMMの所定の複数のファクタが同一の前記電気機器に対応するものであることを判定する同一機器判定手段をさらに備える
    請求項2乃至5のいずれかに記載の電気機器推定装置。
  7. 前記同一機器判定手段は、前記Factorial HMMの各ファクタの全組み合わせのうち、必要条件を常に満たす組み合わせを同一機器候補として選別し、選別された同一機器候補のうち、ヒント条件を所定回数以上満たしたことがある組み合わせを同一機器と判定することにより、所定の複数のファクタが同一の前記電気機器に対応するものであることを判定する
    請求項6に記載の電気機器推定装置。
  8. 現在時刻から所定時間経過後の未来の前記ファクタの状態を予測する状態予測手段をさらに備える
    請求項4乃至7のいずれかに記載の電気機器推定装置。
  9. 前記状態予測手段の予測結果に基づいて、前記ファクタに対応する前記電気機器に関連する機器を制御する関連機器制御手段をさらに備える
    請求項8に記載の電気機器推定装置。
  10. 前記複数の電気機器を特定する機器特定手段をさらに備える
    請求項1乃至9のいずれかに記載の電気機器推定装置。
  11. 前記パラメータ推定手段の結果に基づいて、前記機器特定手段により特定された前記複数の電気機器の稼働状態を表示する表示手段をさらに備える
    請求項10に記載の電気機器推定装置。
  12. 前記データ取得手段は、前記電気機器への供給電圧の位相に同期して、所定の周期で前記複数の電気機器の消費電流の合計値を取得する
    請求項1乃至11のいずれかに記載の電気機器推定装置。
  13. コンピュータが、
    複数の電気機器の消費電流の合計値の時系列データを取得するステップと、
    取得された前記時系列データに基づいて、前記複数の電気機器の稼働状態を確率モデルによりモデル化したときのモデルパラメータを求めるステップと
    を含む電気機器推定方法。
  14. コンピュータに、
    複数の電気機器の消費電流の合計値の時系列データを取得するデータ取得機能と、
    取得された前記時系列データに基づいて、前記複数の電気機器の稼働状態を確率モデルによりモデル化したときのモデルパラメータを求めるパラメータ推定機能と
    を実現させる電気機器推定プログラム。
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