JP2013217896A - リチウム試薬組成物、リチウム試薬キット、及びリチウムイオン測定方法。 - Google Patents
リチウム試薬組成物、リチウム試薬キット、及びリチウムイオン測定方法。 Download PDFInfo
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Abstract
Description
液体中のリチウムの定量測定に用いるリチウム試薬組成物として、一般的には、双極性障害(躁うつ病)の治療薬、或いは抗うつ薬とともに気分安定薬として炭酸リチウム錠(経口投与)が広く処方されている。炭酸リチウム(Li2CO3)はリチウム中毒となる血中濃度近辺まで処方しないと投与効果が現れないという特徴を有しており、治療域と中毒域とが極めて近いため、薬物血中濃度モニタリングが必要項目(TDM)に指定されている。
このように、リチウム塩の抗うつ薬は鬱病患者の治療等に効果があるものの、過剰投与の場合には重大な障害が生じるので、リチウム含有の抗うつ薬を投与する場合は、常に血清中のリチウム濃度を0.6〜1.2 mEq/Lになるように監視することが必須事項である。
この先行技術として、特許文献1には原色体クリプタンドイノフォアを用いた生物学的検体中のリチウムの濃度を測定する試薬組成物が開示されている。
また、特許文献2には、ピロール環を持つ大環状化合物であって、ピロール環のβ位に8個の臭素(Br)原子を結合させ、リチウムイオンと反応する分析試薬である。
これらを克服したとされる特許文献2に開示された技術は、発色法を可能としているが、発色感度が大きすぎるため検体の希釈処理が必要であり、試薬組成物の仕様がpH11以上であるため空気中のCO2により変質しやすく、測定データが不安定で、更に、pH11以上となると、もはや水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような濃厚な水酸化物溶液しか使えないのでpHを一定に維持していくことができず、また、これらは劇物であるので使用者にとっても忌避的なもので取り扱いが厄介であることや、実際の保存には汎用ではなく専用容器が必要であり、これらの欠陥を補うため機械的設備が大型かつ専用機器が必要で汎用性に欠くといった問題点があった。このため、オンサイトモニタリング、POCT(Point Of Care Testing)に適用させることが困難であるといった問題点もあった。
また、非特許文献1である小柳らの論文は、F28テトラフェニルポルフィリンを用いてリチウムイオンの分離・検出ができることが開示されているが、油性、且つ毒劇物であるクロロホルムを用いた溶媒抽出を行わなければ、リチウムの検出・分離はできなかった。何よりも、水溶液中のリチウムを煩雑な前処理なしに直接定量することはできず、特に、血清中のリチウムイオンを迅速、且つ定量的に測定することはできないといった問題点があった。このように、F28テトラフェニルポルフィリンを用いて水溶液中のリチウムイオンの検出は難しく、定量的に濃度を測定することは困難で今までに実現されていなかった。
請求項2の発明は、請求項1に記載のリチウム試薬組成物に、トリエタノールアミン又はエチレンジアミン四酢酸二カリウム等のマスキング剤を含有を包含したことを特徴とするリチウム試薬組成物であり、請求項3は後述する具体的なマスキング剤を指定したものである。
請求項4の発明は、請求項1に記載のリチウム試薬組成物に、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商標登録:TritonX-100 )等の安定剤を含有したことを特徴とするリチウム試薬組成物であり、請求項5乃至請求項7は後述する具体的な安定剤を指定したものである。
F28テトラフェニルポルフィリン化合物とリチウムイオンとの発色反応である黄色から赤色への呈色変化を得るのは難しいが、血清のリチウム濃度が0.6mg/dL〜2.0mg/dL(0.9mM〜3 mM)の範囲において定量値の正確さが求められているので、本発明の実施例では、上記のリチウムの濃度範囲においては、F28テトラフェニルポルフィリンの化合物の濃度を0.1〜1.0g/Lとし、好ましくは、0.5g/Lとすれば正確に測定できることも見出した。
本発明のpH調節剤について、それが、pH5.0未満の酸性側では、本発明の発色剤(キレート剤)であるF28テトラフェニルポルフィリン化合物とリチウムイオンは結合しないため、呈色変化が起こらず、リチウムの定量は困難である。また、pHが5〜7の間では前記発色剤とリチウムイオンは特異的に反応するが、発色速度が緩やかである。一方、pH8〜11では前記発色剤とリチウムイオンは速やかに反応し、且つ安定な発色錯体を得られる。pH11を越えるアルカリ性側では、前記キレート剤、生成した発色錯体の色調の経時的な安定性が悪い。これは、空気中の二酸化炭素を吸収することによるpHの変動が生じやすいことに起因する。したがって、リチウム試薬組成物のpH調節剤としてはpHを7から12の範囲とするpH調節剤、或いはpH調節剤としてのpH緩衝剤が必要であり、より好ましくは、pH8〜11なるようなpH調節剤、pH緩衝剤の使用が必要である。
前記pH調節剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアを含むアルカリ剤、酢酸、リン酸、くえん酸、炭酸、重炭酸、しゅう酸、塩酸、硝酸を含む酸剤、及び、これらの塩類から選択されるものを使用し、前記pH調節剤はpH緩衝剤でもよく、クエン酸、炭酸、重炭酸、りん酸、コハク酸、フタル酸、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、Goodの緩衝剤としてMES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPSO、CAPS、及び、これらの塩類から選択されるものを使用する。
これらの含有によって前記リチウム試薬組成物は、pH5からpH12の範囲でリチウムに対して、特異的な発色反応が可能である。
前記有機溶剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)から選択される。
これらの安定剤は、非イオン性界面活性剤又は陰イオン性界面活性剤であり、非イオン性界面活性剤は、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商標登録:TritonX-100 ) 、p−ノニルフェノキシポリグリシドール及び、これらの塩類から選択されるものを使用する。
好ましい非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(Triton X-100(登録商標)等) 、p-ノニルフェノキシポリグリシドールなどである。
これらリチウム試薬組成物に加えるマスキング剤としては、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、N,N,N',N'-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、ピリジン、2,2-ビピリジン、プロピレンジアミン、 ジエチレントリアミン、ジエチレントリアミン−N,N,N',N",N"-五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラアミン、トリエチレンテトラミン-N,N,N',N",N"',N"'-六酢酸(TTHA)、1,10-フェナントロリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、O,O'-ビス(2-アミノフェニル)エチレングリコール-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、N,N-ビス(2-ハイドロキシエチル)グリシン(Bicine)、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'-四酢酸(CyDTA)、O,O'-ビス(2-アミノエチル)エチレングリコール-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、N-(2-ハイドロキシル)イミノ二酢酸(HIDA)、 イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、 ニトリロトリスメチルりん酸(NTPO)及び、これらの塩類から選択されるものを使用する。好ましくは、トリエタノールアミンが最適である。
前記テトラフェニルポルフィリンの炭素に結合している水素を全部フッ素に置き換えた構造式
なお、請求項1乃至8のリチウム試薬組成物は、リチウム錯体の吸光度、及びそのスペクトルを測定し、同様に濃度既知のリチウム標準試料のそれを基準濃度として未知試料の定量値を算出することも可能で、特に、リチウム錯体の発色、及びそのスペクトルにおいて、波長550nm、或いはその近傍の波長530nmから560nmの波長帯を測定波長としてその感度を測定し、又は、波長570nm、或いはその近傍の波長565nmから650nmの波長帯の感度を測定してリチウムの濃度を算出することが好ましい。
上述した波長550nm、或いは、その近傍の波長530nmから560nmの波長帯はソーレー帯を測光波長とした場合よりも検量線の直線性が良好であるので、簡単な比色計や分光光度計での濃度の演算が容易であり、色調が黄色から赤色に鮮やかに変化するので、目視による濃度レベル判定も可能である。従って、従来のリチウム濃度の測定には大型の専用機器を必要としていたが、携帯型比色計や汎用されている紫外可視分光光度計でリチウム濃度を計測することができ、POCTキットとして構成することもできる。
一方、本発明は前記ソーレー帯波長よりも数倍感度が低い波長である550nm、或いは、その近傍の530nmから560nmの波長帯を測光波長とすることにより、検体に含まれる濃度に対して最適な感度が得られることにより、希釈操作、或いは希釈装置等の煩雑な操作、それに伴う付帯設備が不必要となる。さらに、本発明である当該波長帯はソーレー帯を測光波長とした場合よりも検量線の直線性が良好であるので、簡単な比色計、紫外可視分光光度計による測定値からの濃度の演算が容易であり、色調が黄色から赤色に鮮やかに変化するので、目視による濃度レベル判定も可能である。
また、ソーレー帯を測光波長とした場合はその波長帯の色調と重なる他の有機物や着色成分、例えば硝酸イオン、クレアチニン、ビリルビン、ビリベルジン、溶血ヘモグロビン等に起因するリチウム定量値への影響が懸念されるが、本発明にかかる波長帯を測光波長とした場合はその影響が少なく、より正確なリチウム濃度を求めることが可能である。
従って、従来のリチウム濃度の測定には大型の専用機器を必要としていたが、本発明により携帯型比色計でリチウム濃度を計測することができ、POCTキットとして構成することもできる。
実施例1ではpH緩衝液としての第1試薬を作製し、発色試液として第2試薬を作製し、測定直前に両液を混合してリチウム試薬組成物を作製した。これは、両液を最初から作製しておいても良いが、長時間の保存により試薬が劣化することを避けるためである。
ここで、試薬組成物の作製方法を説明する。
先ず、主に、pH緩衝液としての第1試薬を作製するが、その組成は次のとおりである。
(1)第一試薬(安定剤・緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):
TritonX-100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
以上に、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
なお、TritonX-100(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)を1.0重量%としたが、少なすぎると測定時に希に濁りが発生したり、多すぎると、反応容器内で泡が発生したり、両因とも再現性に影響する可能性があるため0.1〜5.0重量%の範囲がよく、好ましくは、1.0 重量%である。
また、マスキング剤はトリエタノールアミンを10mM)としたが、少なすぎるとリチウムイオン以外の夾雑イオンが過剰に含まれた試料においてそのマスキング効果が低下したり、多すぎるとリチウムイオン自体をマスキングしてしまったり、測定誤差の原因になり得るため、1.0〜100mMの範囲が良く、好ましくは、10mMである
(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10mM
これに、0.05M(mol/L)になるようにMOPS(Good緩衝剤)を加えpH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
リチウム濃度が0.6mM〜3mMの範囲では、F28テトラフェニルポルフィリンを最終的な試薬組成物での濃度を1L当たり0.1〜1.0g/Lの範囲で測定可能で、好ましくは0.5 g/Lが良い。少なすぎるとF28テトラフェニルポルフィリンとリチウムイオンとの反応が十分に起こらず、多すぎると、F28テトラフェニルポルフィリン由来のブランクの吸光度が増加してしまうといった不都合が生じるため、好ましくは0.5 g/Lである。
この点を、更に詳しく説明すると、F28テトラフェニルポルフィリンとリチウムイオンはモル比で1:1のキレート錯体を形成する反応である。ここで、検体中のリチウム濃度が3mM含まれた検体を、本試薬組成物を用いた実施例1の条件で反応させる場合は、その反応系でのリチウム濃度は約0.02 mMとなる。従って、1:1で反応するF28テトラポルフィリン濃度も反応系内で0.02mM 以上存在していないと、検体中のリチウムを過不足なく反応させることができない。
以上のように、キレート剤とリチウムとの反応モル比の条件さえ達成できればよいので、例えば、第二試薬のキレート剤(F28テトラポルフィリン)の濃度を1.0 g/Lとした場合は反応時の第二試薬添加量を半量にすることができる。あるいは、その検体量を半減させた場合は同様にキレート剤濃度を半分量とすることもできる。
このように、本実施例1では、F28テトラフェニルポルフィリンを0.5 g/Lとしたが、反応モル量を満たし、且つ試薬ブランク値を最小限にすることを考慮した結果、0.1〜1.0 g/Lの範囲が最適である。
ここで、本実施例でのF28テトラフェニルポルフィリンは、テトラフェニルポルフィリンの炭素に結合している水素を全部フッ素に置き換えた下記に示すような構造式である。
実施例1では、試料6μLに第一試薬(緩衝液)720μL、第二試薬(発色試液)240μLを加えた。この場合に第一試薬はpH10における緩衝能があり、試験時の第一試薬、第二試薬、試料を混合した時の試験液のpHはほぼpH=10となる。
このように、キレート剤としてF28テトラフェニルポルフィリンを使用することにより、pH5〜10の範囲で発色反応を達成することができるため、pH10以下の強いpH緩衝作用をもつリチウム測定試薬を構成するので、空気中のCO2の吸収によるpH変動を減らすことができ、結果として測定値への悪影響を回避することができる。また、これにより汎用の容器に保存可能となった。
なお、第一試薬と第二試薬は使用直前に同じ割合で混合し、混合液を試料に同様の容量で添加してもよく、この場合は、試料6μLに混合液940μLを加えて測定対象の試験液としてもよい。
テトラフェニルポルフィリン金属錯体に典型的なソーレー帯(380nmから460nm近傍)と呼ばれる最大感度が得られる波長ではなく、血清検体中リチウム濃度範囲に対して最適な感度が得られる波長550nm、或いは、その近傍の波長530nmから560nmの波長帯を測光波長とすることにより、希釈操作、或いは希釈装置等の煩雑な操作、それに伴う付帯設備が不必要となる。
さらに、図3のLi濃度mg/dLと吸光度のグラフ(光波長*405nm,×415nm,●550nm)に示すように、上述した波長550nm、或いは、その近傍の波長530nmから560nmの波長帯はソーレー帯を測光波長とした場合よりも検量線の直線性が良好であるので、簡単な比色計や分光光度計での濃度の演算が容易であり、色調が黄色から赤色に鮮やかに変化するので、目視による濃度レベル判定も可能である。従って、従来のリチウム濃度の測定には大型の専用機器を必要としていたが、本発明により携帯型比色計や汎用されている紫外可視分光光度計でリチウム濃度を計測することができ、POCTキットとして構成することもできる。
ただし、図3のグラフでは、波長●550nmは実施例1そのもの、ソーレー帯の測光波長である*405nm,×415nmは、実施例1と同様に第1試薬、第2試薬を添加したが、感度が高すぎるため、試料を5倍に希釈して測定反応を実施し、405nmと415nmの波長を使用した。図3のグラフから判るように、405nmと415nmの波長の検量線は直線にはならないが、本実施例の550nmを測光波長とした場合は、直線性が良好な検量線が得られる。
もっとも、本実施例1では550nmの吸光度としたが、波長540nmから560nmの波長帯を測光範囲としても良い。これは、測定機器によっては550nmの測光フィルターがない場合があり、この場合はその近傍として感度が生じている540nmとか560nmとかを測光波長に設定すればよい。図4の実施例1でのリチウム濃度による吸光度のグラフに示すように、570nmの感度の減少もリチウム濃度に対して定量的なので、これも試薬ブランクを対照として吸光度差(ΔAbs)を求めることが可能で、測光波長として利用できる。
更に、稀に患者検体の試料によっては、波長550nmに干渉する夾雑物質が生じ、550nm波長ではデータに誤差を生じてしまう場合は、それを回避するため波長570nm、或いはその近傍の565nmから650nmの範囲から測光波長を選択し、感度の減少を吸光度差として用いてリチウム濃度を算出してもよい。
[紫外-可視分光光度計(日立U-3900形)での実験結果]
図2のグラフは、紫外-可視分光光度計(日立U-3900形)での測定試験結果である。横軸Xに予め調剤した既知のリチウムイオン濃度(Li濃度mg/dL)、縦軸Yは紫外可視分光光度計による550nmの吸光度差をプロットし、直線回帰した結果である。
この図2のグラフから判ることは、得られた吸光度はリチウム濃度に比例し、直線性良好な検量線が描かれることである。
図5のグラフは、図2に説明した実施例1での測定法、同じ血清を試料とした従来の原子吸光法(従来法)でのリチウム濃度測定値との相関試験結果である。縦軸Yは本発明によるリチウム濃度測定値で、横軸Xは原子吸光法(従来法)によるリチウム濃度測定値であるが、図2に示す回帰線から両測定値は95%以上の良好な相関を示した。従って、同じ血清試料に対し本発明の試薬組成物による紫外−可視吸光光度定量法でも、正しく血清試料中のリチウムを定量できていることが示された。
リチウム濃度が値付けされた管理血清としてプレチノルムU(PrecinormU)(ロシュ製)、プレチパスU(PrecipathU)(ロシュ製)、パソノルムH(PathonormH)(SERO AS製)、オートノルム(Auto norm)(SERO AS製)を試料として生化学自動分析装置(日立H-7700形)にて546nm(550nmに近い波長で本機に実装されている波長)を測光波長として1ポイントエンド法により測定した。
(装置パラメータ)
試薬:0.24 mL
試料:0.005 mL
測光波長(主/副):546 nm / 700 nm
測光時間:10 分
温度:37℃
1ポイントエンド・増加法
上記の設定条件での実験結果を図6の[表1]に示すが、本発明の実施例での測定値が、保証値に対して良好に一致しており、臨床検査用自動分析装置でも血清中リチウムを十分に測定できることが判る。
測定対象の試験液の目視により観察した結果を図7の[表2]に示す。
試料8μLに第一試薬と第二試薬を混合した発色試液920μLを加え、常温で10分間反応後、その呈色を目視により観測した。試料は色調見本として所定濃度のリチウム標準液、濃度レベル別の管理血清を用いて比較した。
各、濃度域において黄色から赤へ呈色変化が確認され、管理血清の呈色は色調見本とも良い一致を示す。特別な装置を用いなくても迅速かつ簡便に血清中のリチウム濃度を判定できることが判る。
以上のように、本発明の実施例1のリチウム試薬でほぼ正確にリチウム濃度が測定できることが判る。
[ 実施例2 ]
(1)第一試薬(安定剤・緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100(商標登録)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10mM
以上に、0.1MとなるようにMOPSを加えてpH8に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
図8のグラフは、紫外-可視分光光度計(日立U-3900形)での実験結果であり、横軸Xに予め調剤した既知のリチウムイオン濃度(Li濃度mg/dL)、縦軸Yは紫外可視分光光度計の550nmでの吸光度差をプロットし直線回帰した結果である。
この図8のグラフから判ることは、pH8で構成された試薬組成物、即ちpH8の測定条件にしても得られる吸光度差はリチウム濃度に依存的に比例し、直線性が良好な検量線となっていることである。
このように、本発明のリチウム試薬組成物のpH調節剤としてはpHを7から12の範囲とするpH調節剤、或いはpH調節剤としてのpH緩衝剤が必要であり、より好ましくは、pH8〜11なるようなpH調節剤、pH緩衝剤の使用であり、更に好ましくは、pH10前後になるようなpH調節剤、pH緩衝剤の使用がよい。
そこで、実施例1、3とは異なった水に混合し得る有機溶剤を実施例3で説明する。実施例3は、基本的に実施例1と調製方法は同じであるが、下記のようにリチウム試薬において第二試薬の有機溶剤をジメチルスルホキシド(DMSO)(20重量%)ではなくジメチルホルムアミド(DMF)(20重量%)とした点が異なる。
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
以上に、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルホルムアミド(DMF) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調整し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
[ 実施例4 ]
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
以上に、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調整し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルアセトアミド(DMA) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調整し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
図9の[本発明の有機溶剤の差異による測定値の比較]の[表3]結果から、本実施例1の水に混合し得る有機溶剤であるジメチルスルホキシド(DMSO)20重量%組成による測定値は0.83 mM(mmol/L)であり、本実施例3の水に混合し得る有機溶剤であるジメチルホルムアミド(DMF)20重量%組成による測定値は0.81 mMであり、実施例4のジメチルホルムアミド(DMF)20重量%組成による測定値は0.82 mMであり、原子吸光光度法による測定値の0.82 mMと95%以上一致する。従って、これらの有機溶媒によりF28テトラフェニルポルフィリンを均一に分散させ、液状試薬組成物として構成し、血清のような水溶液試料中のリチウムを正確に定量することができる。
先ず、実施例5の非イオン性界面活性剤(TritonX-100(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)のみの場合(実施例5、組成自体は実施例1と同じ)の組成を説明する。
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
[ 実施例6 ]
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:陰イオン界面活性剤のみ):
ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調整し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤(分散剤:陰イオン性界面活性剤)
ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調整し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
[ 実施例7 ]
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤):
(a)非イオン性界面活性剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
(b)陰イオン性界面活性剤:ドデシル硫酸ナトリウム
(和光純薬製) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤):
(a)非イオン性界面活性剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
(b)陰イオン性界面活性剤:ドデシル硫酸ナトリウム
(和光純薬製) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
図10の[表4]の実験結果から判ることは、非イオン性界面活性剤のみの測定値(0.82 mM)、陰イオン性界面活性剤のみの測定値(0.83 mM)、両安定剤を併用した場合の測定値(0.82 mM)は95%以上一致することが判り、界面活性剤の種類、併用の仕方に関わらず、その測定値はほぼ一致するので、懸濁が懸念されるような試料の場合にはこれらの界面活性剤を併用して差支えないことがわかる。
リチウム試薬組成物のマスキング剤として、前述の実施例はトリエタノールアミンのみの場合を説明したがエチレンジアミン四酢酸(EDTA)も使用可能であることを説明する。
比較対象としてトリエタノールアミンのみの場合は、実施例5のリチウム試薬組成物とし、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のみの場合(実施例8)と、両マスキング剤を併用した場合(実施例9)の組成を説明する。
マスキング剤としてエチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA・2K(カリウム))のみの場合。
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:エチレンジアミン四酢酸二カリウム
(EDTA・2K 同仁化学製) 10 mM
これに、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調整し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:エチレンジアミン四酢酸二カリウム
(EDTA・2K 同仁化学製) 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
マスキング剤としてトリエタノールアミンとエチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA・2K(カリウム)の併用の場合。
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:
トリエタノールアミン 10 mM
エチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA・2K 同仁化学製)0.1 mM
これに、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:
トリエタノールアミン 10 mM
エチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA・2K 同仁化学製)0.1 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
図11の[表5]の実験結果から判ることは、トリエタノールアミンのみの測定値(0.83 mM)、エチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA・2K 同仁化学製)のみの測定値(0.83 mM)、両マスキング剤を併用した場合の測定値(0.82 mM)は95%以上一致することが判り、主なマスキング剤の種類や併用の仕方に関わらず、その測定値はほぼ一致するので、保存試薬中に僅かに混入している微量金属イオンが原因で起こる試薬の劣化防止や、試料中の夾雑イオン種が過剰な場合に対応して、これらのマスキング剤を適宜使用して差支えないことが判る。
なお、本発明の特徴を損なうものでなければ、上記の各実施例に限定されるものでないことは勿論である。例えば、実施例1から実施例9ではリチウム濃度測定のための試薬組成物を第一試薬、第二試薬とセパレートして長期保存を可能としたが、短期間で測定するのであれば、最初から第一試薬、第二試薬を混合した単一の試薬を用事調製して使用しても良いことは勿論である。
Claims (10)
- 請求項1に記載のリチウム試薬組成物に、マスキング剤を含有したことを特徴とする請求項1に記載のリチウム試薬組成物。
- 前記マスキング剤は、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、N,N,N',N'-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、ピリジン、2,2-ビピリジン、プロピレンジアミン、 ジエチレントリアミン、ジエチレントリアミン−N,N,N',N",N"-五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラアミン、トリエチレンテトラミン-N,N,N',N",N"',N"'-六酢酸(TTHA)、1,10-フェナントロリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、O,O'-ビス(2-アミノフェニル)エチレングリコール-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、N,N-ビス(2-ハイドロキシエチル)グリシン(Bicine)、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'-四酢酸(CyDTA)、O,O'-ビス(2-アミノエチル)エチレングリコール-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、N-(2-ハイドロキシル)イミノ二酢酸(HIDA)、 イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、 ニトリロトリスメチルりん酸(NTPO)及び、これらの塩類から選択されるものを包含したことを特徴とする請求項2に記載のリチウム試薬組成物。
- 請求項1に記載のリチウム試薬組成物に、安定剤を含有したことを特徴とする請求項1に記載のリチウム試薬組成物。
- 請求項4における前記安定剤は、非イオン性界面活性剤及び/又は陰イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項4に記載のリチウム試薬組成物。
- 前記非イオン性界面活性剤は、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商標登録:TritonX-100 ) 、p−ノニルフェノキシポリグリシドール及び、これらの塩類から選択されることを特徴とする請求項5に記載のリチウム試薬組成物。
- 前記陰イオン性界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウムを含むアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムを含むポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含むアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩から選択されることを特徴とする請求項5に記載のリチウム試薬組成物。
- 請求項9の発色は黄色から赤へ呈色変化であることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン測定方法。
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