JP2013217493A - 焼結軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】 耐食性および強度、耐摩耗性などの機械的特性を向上させると共に、コンパクト化、低コスト化を図ったアルミニウム銅系焼結軸受を提供する。
【解決手段】 3〜12質量%のアルミニウムおよび0.05〜0.5質量%の燐を含有し、残部の主成分を銅とし、不可避不純物を含んだ焼結軸受1であって、この焼結軸受1が、原料粉末に添加した焼結助剤によりアルミニウム−銅合金が焼結された組織を有し、かつ焼結軸受1の表層部の気孔db、doを内部の気孔diより小さくしたことを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、耐食性および耐摩耗性に優れ、高強度を有する焼結軸受に関する。
従来、例えば、燃料としてガソリンや軽油などを用いるエンジンにはモータ式燃料ポンプが使用されている。近年、ガソリンや軽油などの燃料を用いるモータ式燃料ポンプを備えたエンジンは、世界各地で広く使用されており、使用されるガソリンや軽油などの品質は世界の各地域で異なっており、粗悪なガソリンが使用されている地域も多い。粗悪なガソリンの一種として有機酸を含むガソリンが知られているが、モータ式燃料ポンプに銅系焼結軸受を使用した場合、このような粗悪ガソリンに含まれている有機酸により、銅系焼結軸受が腐食される。この腐食は、軸受表面に開口する気孔の開口部周辺およびこの気孔の内面、さらには軸受の内部に内在し、かつ表面から内部に連通している気孔の内面などに進行して軸受の強度を低下させ、銅系焼結軸受の寿命が短くなる。
さらに、近年、自動車などのエンジンの小型化、軽量化はめざましく、これに伴って、燃料ポンプにも小型化および軽量化が求められ、これに組込まれる焼結軸受もコンパクト化が求められる。例えば、モータ式燃料ポンプでは、吐出性能を確保しつつ小型化するには、回転数を高める必要があり、これに伴い、燃料ポンプ内に取り込まれたガソリンなどの燃料が狭い隙間の流通路を高圧かつ高速で通過することになり、このような条件下では、焼結軸受にコンパクト化と共に一層の高強度と耐摩耗性が要求されることになる。このため、従来の銅系焼結軸受は、高強度を有するが、耐摩耗性については十分ではない。
このような用途に使用する焼結軸受として、例えば、特許文献1には、Cu−Ni−Sn−C−P系の焼結軸受が公開されている。
一方、機械的特性と耐食性に優れた焼結軸受として、アルミニウム青銅系の焼結軸受が知られている。この焼結軸受では、焼結時に生成されるアルミニウム含有銅合金粉末の表面を被覆する酸化アルミニウムが焼結を阻害するために十分な強度を有する焼結体を容易に得ることができないという問題がある。特許文献2には、前記問題を改良するために、焼結アルミニウム含有銅合金用混合粉末およびその製造方法に関する技術が公開されている。
特許第4521871号公報 特開2009−7650号公報
特許文献1に記載されたCu−Ni−Sn−C−P系の焼結軸受では、強度や耐摩耗性は向上するが、耐食性の面では十分なものとはいえない。また、希少金属であるNiを含有するので、コスト面でも問題がある。
特許文献2に記載されたアルミニウム含有銅合金粉末は成形性および焼結性に優れたものであるが、当該アルミニウム含有銅合金粉末を用いたアルミニウム青銅系焼結軸受として、安定した機械的特性、コンパクト化、低コスト化を満たす多量生産に適した製品を得るためには、更なる検討が必要である。
従来の問題に鑑み、本発明は、耐食性および強度、耐摩耗性などの機械的特性を向上させると共に、コンパクト化、低コスト化を図ったアルミニウム青銅系焼結軸受を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の目的を達成するために種々検討した結果、アルミニウム青銅系焼結軸受において、軸受機能の向上と共に、コンパクト化、低コスト化を図るために、焼結による膨張を有効利用するという新規な着想に至った。
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、3〜12質量%のアルミニウムおよび0.05〜0.5質量%の燐を含有し、残部の主成分を銅とし、不可避不純物を含んだ焼結軸受であって、この焼結軸受が、原料粉末に添加した焼結助剤によりアルミニウム−銅合金が焼結された組織を有し、かつ焼結軸受の表層部の気孔を内部の気孔より小さくしたことを特徴とする。これにより、耐食性および強度、耐摩耗性などの機械的特性や油膜形成性、保油性を向上させると共に、コンパクト化、低コスト化を図ることができる。
アルミニウムの含有量は3〜12質量%が好ましい。アルミニウムの含有量が3質量%未満では、アルミニウム青銅系焼結軸受としての耐食性、耐摩耗性の効果が得られず、焼結体の膨張も小さく、一方、12質量%を越えると、焼結しにくくなり強度が低下し、焼結体の膨張が大きくなりすぎるので好ましくない。
燐の配合量は、0.05〜0.5質量%が好ましい。0.05質量%未満では固液相間の焼結促進効果が乏しく、一方、0.5質量%を越えると、焼結が進み過ぎてアルミニウムが偏析しγ相の析出が増大し焼結体が脆くなるので好ましくない。銅とアルミニウムの合金相で、β相が共析温度(565℃)でγ相に変態する。
上記の焼結助剤として、原料粉末に1〜4質量%の珪素および0.5〜2質量%の錫を添加することにより、焼結を促進させ、強度を向上させることができる。
珪素の配合量は1〜4質量%が好ましい。1質量%未満では、発生する液相量が少なく低温下での液相焼結促進効果が不十分となり、緻密で適宜の硬さを有する焼結体が得られない。一方、4質量%を越えると、得られた焼結体は硬くて脆くなるので好ましくない。
錫の配合量は0.5〜2質量%が好ましい。0.5質量%未満では錫粉末添加による圧粉密度の上昇効果が得られず、一方、2質量%を越えると、粒界に高濃度の錫が析出し、焼結体の外観品質の低下をきたし好ましくない。
また、上記の焼結助剤として、アルミニウム、燐、残部の主成分を銅とする原料粉末および不可避不純物の合計100質量%に対して、フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムを合計で0.05〜0.2質量%添加することにより、焼結の昇温時に生成する酸化アルミニウムと反応して酸化アルミニウム皮膜を破壊し焼結を促進させることができる。フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムの合計配合量は0.05〜0.2質量%が好ましい。0.05量%未満では、焼結助剤としての効果が不十分となり、緻密で適宜の硬さを有する焼結体が得られない。一方、0.2質量%を越えると、それ以上添加しても焼結助剤としての効果は頭打ちとなり、コスト的な観点から0.2質量%以下に止めることが好ましい。
上記のフッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムを焼結助剤とした場合、亜鉛が2〜4質量%添加されていることが好ましい。亜鉛は、融点が低く、銅、アルミニウムの焼結を促進、また、アルミニウムの拡散を促進する。さらに、耐食性に優れる。亜鉛の配合量は2質量%未満では、銅、アルミニウムの焼結促進やアルミニウムの拡散促進の効果が得られない。一方、4質量%を越えると、焼結時に亜鉛が蒸発し焼結炉を汚すと共に、アルミニウムが偏析し、拡散が阻害され好ましくない。
さらに、珪素が0.5〜3質量%添加されていることが好ましい。珪素は、焼結過程で形成された焼結進行阻害相に対して、銅珪素系液相を発生させ、焼結を促進させる。珪素は、焼結過程でアルミニウムの拡散を増進するので、アルミニウム量を減らし、γ相を削減できる。珪素の配合量は0.5〜3質量%が好ましい。0.5質量%未満では、焼結過程でアルミニウムの拡散を増進効果が不十分であり、これに伴いγ相の削減効果が不十分となる。一方、3質量%を越えると、焼結の昇温時に珪素が反応しアルミニウムが黒く酸化し、変色不具合が生じる。
上記の銅の原料粉末が電解銅粉を主体とすることが好ましい。電解銅粉は、樹枝状であるので、銅にアルミニウムを十分に拡散させることができ、成形性、焼結性、摺動特性に優れる。
上記の原料粉末および不可避不純物の合計100質量%に対して、1〜5質量%の黒鉛を添加することができる。これにより、分散分布する気孔内に遊離黒鉛として存在し、焼結軸受に優れた潤滑性を付与し、耐摩耗性の一段の向上を図ることができる。黒鉛の配合上は1〜5質量%が好ましい。1質量%未満では黒鉛添加による潤滑性、耐摩耗性の向上効果が得られない。一方、5質量%を越えると、強度が低下し好ましくない。
上記の焼結軸受の表層に圧縮層を有し、この圧縮層の密度比α1が内部の密度比α2より高く、密度比α1を80%≦α1≦95%とすると共に、上記の圧縮層の深さの平均値Tと前記軸受面の内径寸法D1との比T/D1を1/100≦T/D1≦1/15とすることが好ましい。ここで、密度比αは次式で表される。
α(%)=(ρ1/ρ0)×100
ただし、ρ1:多孔質体の密度、ρ0:その多孔質体に細孔がないと仮定した場合の密度
上記の構成により、コンパクトな設計の中で、強度、耐摩耗性などの機械的特性を向上させると共に、耐食性、油膜形成性、保油性を向上することができる。
上記の焼結軸受の外表面のうち、軸受面の気孔をその他の外表面の気孔より大きく設定することが好ましい。これにより、内径面側の軸受面では、耐食性、油膜形成性を向上させることができ、一方、封孔状態に近い外径面や端面では、耐食性、保油性を向上することができる。
上記の焼結軸受を含油軸受とすることにより、運転開始時より良好な潤滑状態を得ることができる。潤滑剤としては鉱油、ポリαオレフィン(PAO)、エステル、液状グリース等を使用することができる。
燃料ポンプ用焼結軸受として、アルミニウムの含有量が8〜9質量%であることが好ましい。これにより、粗悪なガソリンによる硫化腐食および有機酸腐食を抑制し、かつ、初期なじみ、耐久性等の性能に優れる。
本発明による焼結軸受は、耐食性および強度、耐摩耗性などの機械的特性や油膜形成性、保油性を向上させると共に、コンパクト化、低コスト化を図ることができる。
本発明の第1〜3の実施形態に係る焼結軸受の縦断面図である。 上記焼結軸受の金属組織を拡大した模式図である。 上記焼結軸受の製造工程を説明する図である。 原料粉末の混合機の概要図である。 メッシュベルト式連続炉の概要図である。 サイジング工程を説明する図である。 サイジング工程における製品の圧縮状態を示す図である。 含油装置の概要図である。 燃料ポンプの縦断面図である。
以下、本発明の第1の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の焼結軸受1は、内周に軸受面1aを有する円筒状に形成される。焼結軸受1の内周に軸2を挿入し、その状態で軸2を回転させと、焼結軸受1の無数の空孔に保持された潤滑油が温度上昇に伴って軸受面1aに滲み出す。この滲み出した潤滑油によって、軸2の外周面と軸受面1aの間の軸受隙間に油膜が形成され、軸2が軸受1によって相対回転可能に支持される。
本実施形態の焼結軸受1は、各種粉末を混合した原料粉末を金型に充填し、これを圧縮して圧粉体を成形した後、圧粉体を焼結することで形成される。
原料粉末は、銅粉末、銅、アルミニウムおよびアルミニウム銅合金組成からなる粉末、珪素粉末、錫粉末、燐合金粉末、黒鉛粉末を主成分とする混合粉末である。各粉末の詳細を以下に述べる。
[銅粉末]
銅粉末は、焼結軸受用として汎用されている球状や樹枝状の銅粉が使用可能であり、例えば、還元粉、電解粉、水アトマイズ粉等が用いられる。粒度は、100mesh通過粉末で350mesh通過粉末比率が40%以下である。
[銅、アルミニウムおよびアルミニウム銅合金組成からなる粉末]
40〜60質量%のアルミニウム合金粉末と残部を銅粉末とした混合粉末を還元性又は不活性雰囲気中において加熱処理した後、粉砕し、粒度調整した銅、アルミニウムおよびアルミニウム銅合金組成からなる粉末(以下、アルミニウム−銅合金粉末という)である。アルミニウム−銅合金粉末の好ましい粒度は、80mesh通過粉末で350mesh通過粉末比率が60%以下である。アルミニウム−銅合金粉末を用いることにより、粉末の硬さに起因する成形性の低下による圧粉体の強度不足の問題が改善され、比重の小さいアルミニウム単体粒子の飛散に伴う取り扱い上の問題はない。
アルミニウム−銅合金粉末の組成は40〜60質量%のアルミニウムの範囲が好ましい。40質量%未満のアルミニウムを含有する粉末は、銅粉末混合比率の減少による加圧成形時の圧粉体密度の低下と融点の高い合金相生成による低温焼結下での銅珪素系液相の発生量を減少させ、焼結促進元素の添加効果が小さくなる。一方、60質量%を越えるアルミニウムを含有する粉末は、銅粒子と未反応のアルミニウム粒子の増加により、未反応アルミニウム粒子が飛散し、これに対する取り扱い上の問題が生じる。
本実施形態では、アルミニウム含有量が3〜10質量%、珪素が1〜4質量%、錫が0.5〜2質量%および燐が0.05〜0.5質量%で、残部の主成分が銅となるような割合で、銅粉末、アルミニウム−銅合金粉末、および後述する燐合金粉末、珪素粉末、錫粉末を混合し、この合計100質量%に対して、黒鉛の配合量が1〜5質量%になるように黒鉛粉末を混合して原料粉末とする。
[燐合金粉末]
燐は、焼結時の固液相間の濡れ性を高め、珪素粉末添加により生ずる液相発生温度を低温側へ移行させる窒化物被膜生成を抑制する。燐の配合量は、0.05〜0.5質量%が好ましい。0.05質量%未満では固液相間の焼結促進効果が乏しく、一方、0.5質量%を越えると、焼結が進み過ぎてアルミニウムが偏析しγ相が増え焼結体が脆くなる。
[珪素粉末]
珪素は焼結助剤として添加する。珪素は、焼結過程で形成された焼結進行阻害相に対して、銅珪素系液相を発生させ、焼結を促進させる。珪素の配合量は1〜4質量%が好ましい。1質量%未満では、発生する液相量が少なく低温下での液相焼結促進効果が不十分となり、緻密で適宜の硬さを有する焼結体が得られない。一方、4質量%を越えると、焼結が進み過ぎてアルミニウムが偏析しγ相が増え焼結体が脆くなる。
[錫粉末]
錫は焼結助剤として添加する。錫は、珪素粉末添加に伴う成形性の低下を補い、さらに燐と同様に珪素粉末添加により生成される液相発生温度を低下させる効果がある。錫の配合量は0.5〜2質量%が好ましい。0.5質量%未満では錫粉末添加による圧粉密度の上昇効果が得られず、一方、2質量%を越えると、粒界に高濃度の錫が析出し、焼結体の外観品質の低下をきたし好ましくない。
[黒鉛粉末]
黒鉛は、主として素地に分散分布する気孔内に遊離黒鉛として存在し、焼結軸受に優れた潤滑性を付与し、耐摩耗性の向上に寄与する。黒鉛の配合量は、アルミニウム、珪素、錫、燐、銅および不可避不純物の合計100質量%に対して、1〜5質量%が好ましい。1質量%未満では黒鉛添加による潤滑性、耐摩耗性の向上効果が得られない。一方、5質量%を越えると、強度が低下し好ましくない。
図2に本実施形態に係る焼結軸受の断面の金属組織の模式図を示す。図2(a)は図1のA部を拡大した図である。同様に、図2(b)は図1のB部を、図2(c)は図1のC部を、それぞれ、拡大した図である。すなわち、図2(a)は内径側の軸受面の表層部の金属組織を示し、図2(b)は内部の金属組織を示し、図2(c)は外径面の表層部の金属組織を示す。図2(a)、(b)、(c)に示すように、ハッチングを付した3がアルミニウム−銅合金組織で、表面および内部気孔の周りに酸化アルミニウム皮膜4が存在する。このため、耐食性および耐摩耗性に優れる。図示は省略するが、アルミニウム−銅合金組織3の粒界部には錫、燐が多くあり、珪素は点在している。気孔内には遊離黒鉛5が分布しているので、潤滑性、耐摩耗性に優れる。
図2(a)に示すように、内径側の軸受面に形成された開放気孔db1と軸受面の表層の内部気孔db2が形成されている。図2(b)に示すように軸受内部には気孔diが形成され、図2(c)に示すように外径面に形成された解放気孔do1と外径面の表層に形成された内部気孔do2が形成されている。軸受面に形成された開放気孔db1、軸受面の表層の内部気孔db2、軸受内部には気孔di、外径面に形成された解放気孔do1および外径面の表層に形成された内部気孔do2は、それぞれ連通している。
焼結軸受1は、後述する製造方法(図7参照)において、焼結後に軸受の外径面1bと内径側の軸受面1aの両方がサイジング加工されている。そして、アルミニウム青銅系焼結軸受は、焼結することにより膨張するので、軸受の外径面1bが内径側の軸受面1aよりも大きな量でサイジングされる。そのため、外径面1b側の表層部の気孔do(図2(c)参照)は、軸受面1a側の表層部の気孔db(図2(a)参照)よりも多くつぶされる。外径面1b側の表層部の気孔do、軸受面1a側の表層部の気孔dbおよびつぶされない軸受内部の気孔di(図2(b)参照)の大きさを比較すると、do<db<diの関係になる。このような関係になっているので、軸受面1a側では、耐食性、油膜形成性を向上させることができ、一方、封孔状態に近い外径面1b側や端面1c側では、耐食性、保油性を向上させることができる。
焼結軸受1の気孔do、db、di内には、潤滑油が含浸されている。これにより、運転開始時より良好な潤滑状態を得ることができる。潤滑油としては鉱油、ポリαオレフィン(PAO)、エステル、液状グリース等を使用することができる。ただし、軸受の使用用途にとっては、必ずしも潤滑油を含浸する必要はない。
図1に焼結軸受1の表層の圧縮層をハッチングで示す。ハッチングは、軸受1の半径方向の上側半分にだけに付して、下側半分は図示を省略する。焼結軸受1の表層は圧縮層を有する。外径面1b側の表層の圧縮層Poの密度比αoおよび軸受面1a側の表層の圧縮層Pbの密度比αbは、いずれも内部の密度比αiより高く、密度比αo、αbのいずれもが80%≦αoおよびαb≦95%の範囲に設定されている。密度比αoおよびαbが80%未満では軸受強度が不十分となり、一方、95%を越えると含油量が不足し、好ましくない。本明細書では、αoおよびαbを総称してαという。
そして、外径面1b側の表層の圧縮層Poの深さの平均値をTo、軸受面1a側の表層の圧縮層Pbの深さの平均値をTbとし、軸受面の内径寸法D1との比をそれぞれTo/D1およびTb/D1とすると、1/100≦To/D1およびTb/D1≦1/15に設定することが好ましい。ここで、密度比αは次式で表される。
α(%)=(ρ1/ρ0)×100
ただし、ρ1:多孔質体の密度、ρ0:その多孔質体に細孔がないと仮定した場合の密度
To/D1およびTb/D1が1/100未満では気孔のつぶれが不十分となり、一方、1/15を越えると気孔がつぶれ過ぎて好ましくない。なお、本明細書ではToおよびTbを総称してTという。
次に、焼結軸受1の製造方法について説明する。図3に示すような原料粉末準備工程S1、圧粉工程S2、焼結工程S3、サイジング工程S4、含油工程S5を経て製造される。
[原料粉末準備工程S1]
原料粉末準備工程S1では、焼結軸受1の原料粉末が準備・生成される。原料粉末は、銅粉末を81質量%、50質量%アルミニウム−銅合金粉末を12質量%、珪素粉末を3質量%、錫粉末を1質量%、8質量%燐−銅合金粉末を3質量%とする合計100質量%に対して、黒鉛粉末を3質量%、成形性を容易にするためにステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の潤滑剤を0.5質量%添加した。潤滑剤を添加することにより、後述する圧粉体をスムーズに離型することができ、離型に伴う圧粉体の形状の崩れを回避することができる。具体的には、上記の原料粉末Mを、例えば、図4に示すV型混合機10の缶体11に投入し、缶体11を回転させて均一に混合する。
[圧粉工程S2]
圧粉工程S2では、上記の原料粉末を圧粉することにより、焼結軸受1の形状をなした圧粉体1’(図7参照)を形成する。圧粉体1’は、焼結温度以上で加熱することにより形成される焼結体1”の密度比αが70%以上で80%以下となるように圧縮成形される。図7では、簡便的に、圧粉体には符号1’、焼結体には符号1”を併記している。
具体的には、例えばサーボモータを駆動源としたCNCプレス機に圧粉体形状に倣ったキャビティを画成してなる成形金型をセットし、キャビティ内に充填した上記の原料粉末を200〜700MPaの加圧力で圧縮することにより圧粉体1’を成形する。圧粉体1’の成形時において、成形金型は70℃以上に加温してもよい。
本実施形態の焼結軸受1の製造方法では、アルミニウム源として、アルミニウム−銅合金粉末を用いることにより、流動性に起因する成形性の低下による圧粉体の強度不足の問題が改善され、比重の小さいアルミニウム単体粒子の飛散に伴う取り扱い上の問題はない。また、生産効率がよく多量生産に好適である。
[焼結工程S3]
焼結工程S3では、圧粉体1’を焼結温度で加熱し、隣接する原料粉末同士を焼結結合させることによって焼結体1”を形成する。図5に示すメッシュベルト式連続炉15を使用し、メッシュベルト16に圧粉体1’を多量に投入し、酸化を可及的に防止するために還元雰囲気である窒素ガスおよび水素ガスの混合ガス雰囲気下、あるいは、窒素ガス雰囲気下で、圧粉体1’を850〜950℃(例えば900℃)で10〜60分間加熱することにより焼結体1”を形成する。これにより、メッシュベルト式連続炉の負荷が軽減され、安定した品質、製造方法を実現することができる。
アルミニウム−銅合金粉末は、共晶温度548℃以上になると様々な液相が発生する。液相が発生すると膨張し、発生した液相により焼結ネックが形成され、緻密化に至り、寸法が収縮していく。本実施形態では、メッシュベルト式連続炉15で焼結することにより、焼結体1”の表面が酸化され、焼結が阻害されることにより緻密化に至らず、寸法が膨張したままとなる。ただし、焼結体1”の内部は、酸化されず焼結されるため、焼結体1”の強度は十分確保することができる。メッシュベルト式連続炉15を使用したので、圧粉体1’の投入から取出しまで焼結時間を短く多量生産でき、コスト低減を図ることができる。また、焼結軸受の機能面では、強度は十分確保することができる。
上記の焼結工程においては、添加された燐合金粉末、錫粉末、珪素粉末、黒鉛粉末が以下に述べる相乗効果を発揮することにより、良質の焼結体を形成することができる。まず、燐により、焼結時の固液相間の濡れ性を高め、珪素粉末添加により生ずる液相発生温度を低温側へ移行させる効果があるので、良好な焼結体が得られる。燐の配合量としては、0.05〜0.5質量%が好ましい。0.05質量%未満では固液相間の焼結促進効果が乏しく、一方、0.5質量%を越えると、得られた焼結体が脆くなる。また、焼結助剤としての珪素は、焼結過程で形成された焼結進行阻害相に対して、銅珪素系液相を発生させ、焼結を促進させる。珪素の配合量は1〜4質量%が好ましい。1質量%未満では、発生する液相量が少なく低温下での液相焼結促進効果が不十分となり、緻密で適宜の硬さを有する焼結体が得られない。一方、4質量%を越えると、得られた焼結体は硬くて脆くなる。
加えて、焼結助剤としての錫は、珪素粉末添加に伴う成形性の低下を補い、さらに燐と同様に珪素粉末添加により生成される液相発生温度を低下させる効果を発揮する。錫の配合量は0.5〜2質量%が好ましい。0.5質量%未満では錫粉末添加による圧粉密度の上昇効果が得られず、一方、2質量%を越えると、粒界に高濃度の錫が析出し、アルミニウムの拡散を阻害し好ましくない。
上記のように原料粉末Mに焼結助剤が添加されているので、アルミニウム−銅合金が焼結された組織を有する焼結体1”を得ることができ、強度と耐腐蝕性を向上させることができる。
さらに、黒鉛は、主として素地に分散分布する気孔内に遊離黒鉛として存在し、焼結軸受に優れた潤滑性を付与し、耐摩耗性の向上に寄与する。黒鉛の配合量は、アルミニウム、珪素、錫、燐、銅および不可避不純物の合計100質量%に対して、1〜5質量%が好ましい。1質量%未満では黒鉛粉末添加による潤滑性、耐摩耗性の向上効果が得られない。一方、5質量%を越えると、強度が低下し好ましくない。
[サイジング工程S4]
サイジング工程S4では、焼結により圧粉体1’と比較して膨張した焼結体1”の寸法整形する。図6にサイジング工程S4の詳細を示す。サイジング加工の金型は、ダイス20、上パンチ21、下パンチ22およびコア23とからなる。図6(a)に示すように、コア23と上パンチ21が上方に後退した状態で、下パンチ22上に焼結体1”をセットする。図6(b)に示すように、最初にコア23が焼結体1”の内径に入り、その後、図6(c)に示すように、上パンチ21により焼結体1”がダイス20に押し込まれ、上下パンチ21、22により圧縮される。これにより、焼結体1”の表面が寸法整形される。サイジング加工により、膨張した焼結体1”の表層の気孔をつぶし、製品内部と表層部に密度差が生じる。
図7にサイジング加工により焼結体1”が圧縮される状態を示す。サイジング加工前の焼結体1”を2点鎖線で示し、サイジング加工後の製品1を実線で示す。2点鎖線で示すように、焼結体1”は径方向および幅方向に膨張している。このため、焼結体1”は、外径面1bを内径側の軸受面1aより多く圧縮される。その結果、外径面1b側の表層の気孔do(図2(c)参照)は、内径側の軸受面1bの表層の気孔db(図2(a)参照)よりも多く潰され、潰されない軸受内部の気孔di(図2(b)参照)に対して、do<db<diの関係になる。このような関係になっているので、内径側の軸受面1aでは、耐食性、油膜形成性を向上させることができる。一方、封孔状態に近い外径面1bや端面1cでは、耐食性、保油性を向上させることができる。
上記のサイジング工程の金型をダイス20、一対のパンチ21、22およびコア23から構成し、パンチ21、22とダイス20により焼結体1”の軸方向両側と外径側から圧縮することにより、焼結体1”の内径側をコア23により整形することにより、アルミニウム青銅系焼結軸受の焼結による膨張を有効利用し、焼結軸受1の寸法整形と共に所望の気孔を形成することができる。
また、上記のダイス20の内径寸法と焼結体1”の外径寸法との寸法差およびコア23の外径寸法と焼結体1”の内径寸法との寸法差を加減することにより、焼結体1”の表面の気孔の大きさを設定することができる。これにより、焼結軸受1の表面の気孔の大きさを容易にコントロールすることができる。
[含油工程S5]
含油工程S5は、製品1(焼結軸受)に潤滑油を含浸する工程である。図8に含油装置を示す。含油装置25のタンク26内に製品1を投入し、その後、潤滑油27をタンク26内に注入する。そして、タンク26内を減圧することにより、製品1の気孔do、db、di(図2参照)内に潤滑油27を含浸する。これにより、運転開始時より良好な潤滑状態を得ることができる。潤滑油としては鉱油、ポリαオレフィン(PAO)、エステル、液状グリース等を使用することができる。ただし、軸受の使用用途に応じて実施すればよく、必ずしも実施する必要はない。
以上のような工程で製造された本実施形態の焼結軸受1は、耐食性および強度、耐摩耗性などの機械的特性や油膜形成性、保油性を向上させると共に、コンパクト化、低コスト化を図ることができる。
次に本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態における焼結助剤が珪素および錫であるに対して、本実施形態では焼結助剤をフッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムとした点が異なる。
本実施形態の原料粉末は、第1の実施形態で用いた銅粉末、アルミニウム−銅合金粉末、燐合金粉末および黒鉛粉末に、焼結助剤として、フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムを主成分とする混合粉末である。銅粉末、アルミニウム−銅合金粉末、燐合金粉末および黒鉛粉末の内容については、第1の実施形態と同じであるので重複説明を省略する。
第2の実施形態においては、アルミニウム含有量が7〜12質量%、燐が0.05〜0.5質量%で、残部の主成分が銅となるような割合で、銅粉末、アルミニウム−銅合合金粉末および燐合金粉末を混合し、この合計100質量%に対して、焼結助剤としてのフッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムを合計で0.05〜0.2質量%、黒鉛を1〜5質量%混合して原料粉末とする。
[フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウム]
アルミニウム含有銅系合金粉末は、焼結時にその表面に生成する酸化アルミニウムの皮膜が焼結を著しく阻害するが、焼結助剤としてのフッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムは、アルミニウム含有銅系合金粉末の焼結温度である850〜900℃で溶融しながら徐々に蒸発し、アルミニウム含有銅系合金粉末の表面を保護して酸化アルミニウムの生成を抑制することにより、焼結を促進しアルミニウムの拡散を増進させる。フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムは、焼結時に蒸発、揮散するので、焼結軸受の完成品には殆ど残らない。
焼結助剤としてのフッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムは、アルミニウム、燐、残部の主成分を銅とする原料粉末および不可避不純物の合計100質量%に対して、合計で0.05〜0.2質量%程度で添加することが好ましい。0.05量%未満では、焼結助剤としての効果が不十分となり、緻密で適宜の硬さを有する焼結体が得られない。一方、0.2質量%を越えると、それ以上添加しても焼結助剤としての効果は頭打ちとなり、コスト的な観点から0.2質量%以下に止めることが好ましい。
本実施形態に係る焼結軸受の断面の金属組織は、図2の模式図で示した第1の実施形態と同様であるので、主な部分のみを説明し、その他の部分については重複説明を省略する。本実施形態の焼結軸受1は、図2(a)、(b)、(c)に示すように、ハッチングを付した3がアルミニウム−銅合金組織で、表面および内部気孔の周りに酸化アルミニウム皮膜4が存在する。このため、耐食性および耐摩耗性に優れる。図示は省略するが、アルミニウム−銅合金組織3の粒界部には燐が存在する。気孔内には遊離黒鉛5が分布しているので、潤滑性、耐摩耗性に優れる。
また、本実施形態の焼結軸受1においても、図7に示すように、焼結後に軸受の外径面1bと内径側の軸受面1aの両方がサイジング加工されている。そして、アルミニウム銅系焼結軸受は、焼結することにより膨張するので、軸受の外径面1bが内径側の軸受面1aよりも大きな量でサイジングされる。そのため、外径面1b側の表層部の気孔do(図2(c)参照)は、軸受面1a側の表層部の気孔db(図2(a)参照)よりも多くつぶされる。外径面1b側の表層部の気孔do、軸受面1a側の表層部の気孔dbおよびつぶされない軸受内部の気孔di(図2(b)参照)の大きさを比較すると、do<db<diの関係になる。このような関係になっているので、軸受面1a側では、耐食性、油膜形成性を向上させることができ、一方、封孔状態に近い外径面1b側や端面1c側では、耐食性、保油性を向上させることができる。焼結軸受1の気孔do、db、di内には、潤滑油が含浸されている。これにより、運転開始時より良好な潤滑状態を得ることができる。潤滑油としては鉱油、ポリαオレフィン(PAO)、エステル、液状グリース等を使用することができる。ただし、軸受の使用用途にとっては、必ずしも潤滑油を含浸する必要はない。
さらに、第2の実施形態の焼結軸受1の表層の圧縮層の状態も、図1に示す第1の実施形態の焼結軸受と同様である。すなわち、本実施形態の焼結軸受1においても図1に示すように、焼結軸受1の表層はハッチングを付した圧縮層を有する。前述した密度比αの式で表すと、外径面1b側の表層の圧縮層Poの密度比αoおよび軸受面1a側の表層の圧縮層Pbの密度比αbは、いずれも内部の密度比αiより高く、密度比αo、αbのいずれもが80%≦αoおよびαb≦95%の範囲に設定されている。
そして、外径面1b側の表層の圧縮層Poの深さの平均値をTo、軸受面1a側の表層の圧縮層Pbの深さの平均値をTbとし、軸受面の内径寸法D1との比をそれぞれTo/D1およびTb/D1とすると、1/100≦To/D1およびTb/D1≦1/15に設定されている。
第2の実施形態の焼結軸受1の製造方法についても、図3に示す第1の実施形態の焼結軸受の製造方法と同様であるので、原料粉末準備工程S1および焼結工程S3における具体的な内容で相違するところのみを説明する。
[原料粉末準備工程S1]
原料粉末は、銅粉末を残質量%、40〜60質量%アルミニウム−銅合金粉末を14〜20質量%、8質量%燐−銅合金粉末を2〜4質量%とする合計100質量%に対して、焼結助剤として、フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムを合計で0.05〜0.2質量%、黒鉛粉末を1〜5質量%、成形性を容易にするためにステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の潤滑剤を0.5質量%添加した。
[焼結工程S3]
焼結工程において、添加された燐合金粉末、フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムが以下に述べる効果を発揮することにより、良質の焼結体を形成することができる。まず、燐により、焼結時の固液相間の濡れ性を高める効果があるので、良好な焼結体が得られる。燐の配合量としては、0.05〜0.5質量%が好ましい。0.05質量%未満では固液相間の焼結促進効果が乏しく、一方、0.5質量%を越えると、得られた焼結体が脆くなる。また、焼結助剤としてのフッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムは、アルミニウム含有銅系合金粉末の焼結温度である850〜900℃で溶融しながら徐々に蒸発し、アルミニウム含有銅系合金粉末の表面を保護して酸化アルミニウムの生成を抑制することにより、焼結を可能にする。フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムは、焼結時に蒸発、揮散するので、焼結軸受の完成品には殆ど残らない。尚、蒸発、揮散するので、圧粉体をケース等に入れて焼結する。焼結助剤としてのフッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムは、アルミニウム、燐、残部の主成分を銅とする原料粉末および不可避不純物の合計100質量%に対して、合計で0.05〜0.2質量%程度で添加することが好ましい。
本実施形態の焼結軸受においても、第1の実施形態と同様、図6に示すように、サイジング工程でパンチ21、22とダイス20により焼結体1”の軸方向両側と外径側から圧縮することにより、焼結体1”の内径側をコア23により整形することにより、アルミニウム青銅系焼結軸受の焼結による膨張を有効利用し、焼結軸受1の寸法整形と共に所望の気孔を形成することができる。また、上記のダイス20の内径寸法と焼結体1”の外径寸法との寸法差およびコア23の外径寸法と焼結体1”の内径寸法との寸法差を加減することにより、焼結体1”の表面の気孔の大きさを設定することができる。これにより、焼結軸受1の表面の気孔の大きさを容易にコントロールすることができる。
本実施形態の焼結軸受においても、耐食性および強度、耐摩耗性などの機械的特性や油膜形成性、保油性を向上させると共に、コンパクト化、低コスト化を図ることができる。
本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態に係る焼結軸受は、自動車エンジンの燃料ポンプ用に特化したもので、粗悪なガソリンによる硫化腐食および有機酸腐食を抑制し、かつ、初期なじみ、耐久性等の性能に優れる。
第3の実施形態の焼結軸受を組み込んだ自動車エンジンの燃料ポンプの一例を図9に示す。この燃料ポンプ40では、焼結軸受1が回転側に設けられる。具体的には、液体入口41a及び液体出口41bを有するケーシング41と、ケーシング41に固定され、ケーシング41の内部空間に突出した固定軸2と、固定軸2に対して回転自在に設けられたインペラ42と、モータ43と、インペラ42に取り付けられたマグネット44と、モータ43の回転軸に取り付けられ、インペラ42側のマグネット44と半径方向に対向したマグネット45とを備える。焼結軸受1は、インペラ42の内周面に固定され、焼結軸受1の内周面(軸受面1a、図1参照)と固定軸2の外周面とが回転方向に摺動自在に嵌合している。モータ43を回転駆動すると、モータ43側のマグネット45とインペラ42側のマグネット44との間の吸引力により、インペラ42が回転する。これにより、液体入口41aからケーシング41の内部空間に流入した燃料を、液体出口42aから送り出す。
上記のような常にガソリン34と接触する環境下において、粗悪なガソリンによる硫化腐食および有機酸腐食を抑制し、かつ、初期なじみ、耐久性等の性能を確保するために、種々の検討と試験評価を行い、以下の知見により本実施形態に至った。
(1)アルミニウム配合量と耐腐食性の関係では、アルミニウムの量が増えると銅へ拡散が増進し耐腐食性効果が大きい。
(2)焼結温度と耐腐食性の関係では、焼結温度を高くするとアルミニウムの拡散が増進し耐腐食性効果が大きい。
(3)焼結軸受の密度と耐腐食性の関係では、密度を高くすると耐腐食性効果が僅かに向上する。
(4)添加剤(燐、亜鉛、珪素)は、焼結過程でのアルミニウムの拡散の促進で、アルミニウム量を減らすことができ耐腐食性と初期なじみを劣化するアルミニウム組織のγ相の析出を削減できる。
燃料ポンプ用焼結軸受として、硫化腐食および有機酸腐食を抑制し、かつ、初期なじみ、耐久性等の性能を向上させるため、本実施形態においては、アルミニウム含有量が8〜9質量%、燐が0.05〜0.5質量%、珪素が0.5〜3質量%、亜鉛が2〜4質量%で、残部の主成分が銅となるような割合で、銅粉末、アルミニウム−銅合金粉末、燐合金粉末、珪素粉末および亜鉛合金粉末を混合し、この合計100質量%に対して、フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムを合計で0.05〜0.2質量%、黒鉛を1〜5質量%混合して原料粉末とする。原料粉末については、前述した第1および第2の実施形態と同様の部分もあるが、各粉末の詳細を以下に述べる。
[銅粉末]
銅粉末は、アトマイズ粉、電解粉、粉砕粉があるが、銅にアルミニウムを十分に拡散させるには、樹枝状の電解粉が有効であり、成形性、焼結性、摺動特性に優れる。そのため、本実施形態では、銅粉として電解粉を用いた。粒度は、100mesh通過粉末で350mesh通過粉末比率が40%以下とする。
[アルミニウム−銅合金粉末]
50質量%アルミニウム−銅合金粉末を粉砕し、粒度調整した。アルミニウム銅合金粉末の好ましい粒度は145mesh通過粉末で350mesh通過粉末比率が60%以上である。アルミニウム−銅合金粉末を用いることで、黒鉛、燐、亜鉛等の添加剤の効果を引き出し、焼結軸受材として耐腐食性、強度、摺動特性等に優れる。また、合金化されているので、比重の小さいアルミニウム単体粉体の飛散に伴う取り扱い上の問題はない。
アルミニウム組織は、α相が最も硫化腐食、有機酸腐食に対する耐腐食性および初期なじみに優れる。50質量%アルミニウム−銅合金粉末を用いることで、黒鉛が添加されても強度が得られ焼結軸受が製造可能となる。組織がγ相になると、耐摩耗性には優れるが、耐腐食性および初期なじみが劣化する。
そして、銅とアルミニウムの焼結を促進させるために、燐合金粉末、亜鉛合金粉末、フッ化物(フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム)を添加する。これにより、液相焼結、固相焼結において銅に対するアルミニウムの拡散を増進する。アルミニウムの拡散が増進すると、耐腐食性が向上する。
[燐合金粉末]
燐合金粉末は、前述した第1および第2の実施形態と同様、8質量%燐−銅合金粉末を用いた。燐は、焼結時の固液相間の濡れ性を高め、珪素粉末添加により生ずる液相発生温度を低温側へ移行させる効果がある。燐の配合量は、0.05〜0.5質量%が好ましい。0.05質量%未満では固液相間の焼結促進効果が乏しく、一方、0.5質量%を越えると、焼結が進み過ぎてアルミニウムが偏析しγ相の析出が増え焼結体が脆くなる。
[亜鉛合金粉末]
亜鉛合金粉末として、亜鉛−銅合金粉末を用いた。亜鉛は、融点が低く、銅、アルミニウムの焼結を促進、また、アルミニウムの拡散を促進する。さらに、耐食性に優れる。
亜鉛の配合量は、1質量%〜5質量%が好ましい。1質量%未満では、銅、アルミニウムの焼結促進やアルミニウムの拡散促進の効果が得られない。一方、5質量%を越えると、焼結時に亜鉛が蒸発し焼結炉を汚すと共に、焼結が進み過ぎてアルミニウムが偏析しアルミニウムの拡散が阻害される。
[珪素粉末]
珪素は焼結助剤として添加する。珪素は、焼結過程で形成された焼結進行阻害相に対して、銅珪素系液相を発生させ、焼結を促進させる。珪素は、焼結過程でアルミニウムの拡散を増進するので、アルミニウム量を減らし、γ相を削減できる。珪素の配合量は0.5〜3質量%が好ましい。0.5質量%未満では、焼結過程でアルミニウムの拡散を増進効果が不十分であり、これに伴いγ相の削減効果が不十分となる。一方、3質量%を越えると、焼結の昇温時に珪素が反応しアルミニウムが黒く酸化し、変色不具合が生じる。
[黒鉛粉末]
黒鉛は、主として素地に分散分布する気孔内に遊離黒鉛として存在し、焼結軸受に優れた潤滑性を付与し、耐摩耗性の向上に寄与する。黒鉛の配合量は、アルミニウム、珪素、錫、燐、銅および不可避不純物の合計100質量%に対して、1〜5質量%が好ましい。1質量%未満では黒鉛添加による潤滑性、耐摩耗性の向上効果が得られない。一方、5質量%を越えると、強度が低下し好ましくない。
[フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウム]
フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムは、前述した第2の実施形態と同様であるので、重複説明を省略する。
第3の実施形態に係る焼結軸受の断面の金属組織も、図2の模式図で示した第1および第2の実施形態と同様であるので、主な部分のみを説明し、その他の部分については重複説明を省略する。本実施形態の焼結軸受1は、図2(a)、(b)、(c)に示すように、ハッチングを付した3がアルミニウム−銅合金組織で、表面および内部気孔の周りに酸化アルミニウム皮膜4が存在する。このため、耐食性および耐摩耗性に優れる。図示は省略するが、アルミニウム−銅合金組織3の粒界部には燐が存在する。気孔内には遊離黒鉛5が分布しているので、潤滑性、耐摩耗性に優れる。
また、本実施形態の焼結軸受1においても、図7に示すように、焼結後に軸受の外径面1bと内径側の軸受面1aの両方がサイジング加工されている。そして、アルミニウム銅系焼結軸受は、焼結することにより膨張するので、軸受の外径面1bが内径側の軸受面1aよりも大きな量でサイジングされる。そのため、外径面1b側の表層部の気孔do(図2(c)参照)は、軸受面1a側の表層部の気孔db(図2(a)参照)よりも多くつぶされる。外径面1b側の表層部の気孔do、軸受面1a側の表層部の気孔dbおよびつぶされない軸受内部の気孔di(図2(b)参照)の大きさを比較すると、do<db<diの関係になる。このような関係になっているので、軸受面1a側では、耐食性、油膜形成性を向上させることができ、一方、封孔状態に近い外径面1b側や端面1c側では、耐食性、保油性を向上させることができる。焼結軸受1の気孔do、db、di内には、潤滑油が含浸されている。これにより、運転開始時より良好な潤滑状態を得ることができる。潤滑油としては鉱油、ポリαオレフィン(PAO)、エステル、液状グリース等を使用することができる。ただし、軸受の使用用途にとっては、必ずしも潤滑油を含浸する必要はない。
さらに、第3の実施形態の焼結軸受1の表層の圧縮層の状態も、図1に示す第1および第2の実施形態の焼結軸受と同様である。すなわち、本実施形態の焼結軸受1においても図1に示すように、焼結軸受1の表層はハッチングを付した圧縮層を有する。前述した密度比αの式で表すと、外径面1b側の表層の圧縮層Poの密度比αoおよび軸受面1a側の表層の圧縮層Pbの密度比αbは、いずれも内部の密度比αiより高く、密度比αo、αbのいずれもが80%≦αoおよびαb≦95%の範囲に設定されている。
そして、外径面1b側の表層の圧縮層Poの深さの平均値をTo、軸受面1a側の表層の圧縮層Pbの深さの平均値をTbとし、軸受面の内径寸法D1との比をそれぞれTo/D1およびTb/D1とすると、1/100≦To/D1およびTb/D1≦1/15に設定されている。
第3の実施形態の焼結軸受1の製造方法についても、図3に示す第1および第2の実施形態の焼結軸受の製造方法と同様であるので、原料粉末準備工程S1、焼結工程S3およびサイジング工程S4における具体的な内容で相違するところのみを説明する。
[原料粉末準備工程S1]
原料粉末は、電解銅粉末を残質量%、40〜60質量%アルミニウム−銅の合金粉末を14〜20質量%、8質量%燐−銅合金粉末を2〜4質量%、珪素粉末を1〜3質量%および20〜40質量%亜鉛−銅合金粉末を6〜8質量%とする合計100質量%に対して、焼結助剤として、フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムを合計で0.05〜0.2質量%、黒鉛粉末を1〜5質量%、成形性を容易にするためにステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の潤滑剤を0.5質量%添加した。
[焼結工程S3]
焼結工程において重要なことは、銅にアルミニウムを十分拡散させ耐腐食性を向上させることと、アルミニウム組織をα相にすることで、耐腐食性と軸受性能(初期なじみ)を向上させることである。γ相になると硬くなり、耐摩耗性には優れるが、耐腐食性は低下する。そのため、できる限りγ相の析出は抑えるようにアルミニウム量を減らすことが必要であることが判明した。
上記を満足する焼結条件として、焼結温度は900〜950℃が好ましく、さらに、燃料ポンプ用焼結軸受としては、900〜920℃(例えば、920℃)が好ましい。また、雰囲気ガスは、水素ガス、窒素ガスあるいはこれらの混合ガスとし、焼結時間は、長くした方が耐腐食性に良く、燃料ポンプ用焼結軸受では20〜60分(例えば、30分)が好ましい。
[サイジング工程S4]
本実施形態の焼結軸受においても、第1および第2の実施形態と同様、図6に示すように、サイジング工程でパンチ21、22とダイス20により焼結体1”の軸方向両側と外径側から圧縮することにより、焼結体1”の内径側をコア23により整形することにより、アルミニウム青銅系焼結軸受の焼結による膨張を有効利用し、焼結軸受1の寸法整形と共に所望の気孔を形成することができる。また、上記のダイス20の内径寸法と焼結体1”の外径寸法との寸法差およびコア23の外径寸法と焼結体1”の内径寸法との寸法差を加減することにより、焼結体1”の表面の気孔の大きさを設定することができる。これにより、焼結軸受1の表面の気孔の大きさを容易にコントロールすることができる。さらに、図示は省略するが、軸受面1a(図7参照)を回転サイジングすることで、軸受面1aの気孔を小さくすることができる。
第3の実施形態の焼結軸受においても、耐食性および強度、耐摩耗性などの機械的特性や油膜形成性、保油性を向上させると共に、コンパクト化、低コスト化を図ることができる。特に、燃料ポンプ用焼結軸受として、粗悪なガソリンによる硫化腐食および有機酸腐食を抑制し、かつ、初期なじみ、耐久性等の性能に優れる。
以上の実施形態に係る焼結軸受の用途として、燃料ポンプを例示したが、これに限られず、例えば、排気ガス再循環装置(EGR)や釣具のリールなどの耐腐食性が要求される用途の軸受に適宜適用することができる。
以上の各実施形態の説明では、本発明を、軸受面1aを真円形状とした真円軸受に適用する場合を例示したが、本発明は真円軸受に限らず、軸受面1aや軸2の外周面にヘリングボーン溝、スパイラル溝等の動圧発生部を設けた流体動圧軸受にも同様に適用することができる。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
1 焼結軸受
1’ 圧粉体
1” 焼結体
1a 軸受面
1b 外径面
1c 端面
2 軸
3 アルミニウム銅合金組織
4 酸化アルミニウム皮膜
5 遊離黒鉛
15 メッシュベルト式連続炉
20 ダイス
21 上パンチ
22 下パンチ
23 コア
40 燃料ポンプ
D1 軸受面の内径寸法
db 気孔
di 気孔
do 気孔
Ti 圧縮層
To 圧縮層

Claims (11)

  1. 3〜12質量%のアルミニウムおよび0.05〜0.5質量%の燐を含有し、残部の主成分を銅とし、不可避不純物を含んだ焼結軸受であって、この焼結軸受が、原料粉末に添加した焼結助剤によりアルミニウム−銅合金が焼結された組織を有し、かつ前記焼結軸受の表層部の気孔を内部の気孔より小さくしたことを特徴とする焼結軸受。
  2. 前記焼結助剤として、原料粉末に1〜4質量%の珪素および0.5〜2質量%の錫が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の焼結軸受。
  3. 前記焼結助剤として、前記アルミニウム、燐、残部の主成分を銅とする原料粉末および不可避不純物の合計100質量%に対して、フッ化アルミニウムおよびフッ化カルシウムが合計で0.05〜0.2質量%添加されていることを特徴とする請求項1に記載の焼結軸受。
  4. 請求項3に記載の焼結軸受に亜鉛が2〜4質量%添加されていることを特徴とする焼結軸受。
  5. 請求項3又は請求項4に記載の焼結軸受に珪素が0.5〜3質量%添加されていることを特徴とする焼結軸受。
  6. 前記銅の原料粉末が電解銅粉を主体とすることを特徴とする請求項1および請求項3〜5のいずれか一項に記載の焼結軸受。
  7. 前記原料粉末および不可避不純物の合計100質量%に対して、1〜5質量%の黒鉛が添加されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の焼結軸受。
  8. 前記焼結軸受の表層に圧縮層を有し、この圧縮層の密度比(α1)が内部の密度比(α2)より高く、前記密度比(α1)が80%≦α1≦95であると共に、前記圧縮層の深さの平均値(T)と前記軸受面の内径寸法(D1)との比(T/D1)が1/100≦T/D1≦1/15であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の焼結軸受。
  9. 前記焼結軸受の外表面のうち、軸受面の気孔がその他の外表面の気孔より大きいことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の焼結軸受。
  10. 前記焼結軸受が含油軸受であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の焼結軸受。
  11. 請求項1および請求項3〜9のいずれか一項に記載の焼結軸受が燃料ポンプに使用され、アルミニウムの含有量を8〜9質量%としたことを特徴とする焼結軸受。
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