JP2013213259A - 結合相をNiとした超微粒超硬合金およびそれを用いた工具 - Google Patents

結合相をNiとした超微粒超硬合金およびそれを用いた工具 Download PDF

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Abstract

【課題】結合相をNiとした耐摩耗工具用高硬度超微粒超硬合金を提供する。
【解決手段】原料粉末に超微粒のWCを用い、Niの量、VおよびCrの添加量を調整することにより、合金組織中にVおよびCrを含む第3相を微細分散して晶出させるとともに、Niプールの寸法をWCの平均粒度以下とした、高鏡面性およびまたは高強度、高硬度、かつ高耐摩耗性の超微粒超硬合金とする。これを用いて、非球面ガラスレンズ成形用金型、中性子回折用の超高圧発生用容器、および非磁性の耐食耐摩耗工具等への応用範囲を拡大する。
【選択図】図4

Description

本発明は、特に非球面ガラスレンズ成形用金型、中性子回折用超高圧発生用容器、非磁性で耐食性および高耐摩耗性を必要とする耐摩耗工具などで、優れた鏡面性が得易く、放射線的により安全で、かつ長寿命の、結合相をNiとしたWC基超微粒超硬合金に係わる。
耐摩耗工具のうち、高鏡面性が要求される用途では、結合相を含まないWC基超硬合金が用いられている。また、高圧下での物質特性を研究するために用いる超高圧容発生用容器(アンビル、シリンダーなど)では、結合相がCoで、かつ結合相が比較的少ない、WC基超硬合金およびWC基超微粒超硬合金が用いられている。さらに、強度を必要とする超高圧発生用容器および非磁性の耐食耐摩工具では、結合相を10mass%NiとしたWC−VC−Cr−10mass%Ni超微粒超硬合金が使用されている。
耐摩耗工具用超硬合金のうち、非球面ガラスレンズの成形で用いられる金型では、約600℃の高温下でガラスレンズ素球をプレスして成形するため、金型には、耐酸化性、高硬度、高鏡面性が必要となっている。特に高鏡面性は、表面粗さが数nm Raとする必要がある。これを満たすには、結合相を含まないか、極少量とする。
主に用いられているのは特許文献1に見られるWCとTiC−WC固溶体複炭化物相の超硬合金である。WCとTiC−WC固溶体複炭化物相の合金は結合相を含まないため、耐酸化性が優れ、高硬度であり、なによりも鏡面性が優れる。さらに、TiC−WC固溶体複炭化物相があるため焼結性がよく、普通焼結と熱間静水圧プレス(Hot Isostatic Press、以下HIPと記載する)で作ることが出来て生産性がよい。ただし、TiC−WC固溶体複炭化物相は被研削性がWCと比べると高硬度でやや脆性があり、加工し難い場合がある。
そこで、TiC−WC固溶体複炭化物相を用いない合金が望まれ、特許文献2が、粒径が0.5μm以下のWCを用いるWC−W系の合金を提供する。しかし、ホットプレスを用いることが望まれ、普通の真空焼結では作ることが出来ず、生産性が劣っている。
また、特許文献3では、粒径が0.3μm未満のWC単一相のWC系合金を提供するが、やはり、パルス通電加圧焼結法によって作られるため生産性が著しく劣っている。
ここで、特許文献4により、予備焼結とHIPで作ることが出来る生産性のよいWC基超微粒超硬合金が古くから提供されている。これは、粒径2μm以下のWCを用いるWC−2.0〜7.0mass%(Mo又はMoC)−0.2〜0.6mass%VC−0.2〜1.0mass%Co合金である。しかし、Co系であるため、高圧水流ノズル用、切削、摺動、線引きダイス等の工具用素材には応用されているが、非球面ガラスレンズ成形用金型への応用は開示されていない。これは、組成より、耐酸化性が、前述のWCとTiC−WC固溶体複炭化物相の合金、WC−W系の合金、および単一WCの合金より劣っているためと思われる。
ここで、CoをNiに替えることにより、耐酸化性が改善されると思われるが、非特許文献1で述べているように、Coと異なってNiは、原料粉末を粉砕・混合する過程で寸法の大きいNiの凝集粉を生じやすく、0.12〜0.3mass%程度の極少量添加する場合でも得られる合金中に粗大なポアとなって、HIP後に、WCの平均粒度より大きいNi部分(Niプールとよばれる)を生じ、これが原因で、高鏡面性が損なわれるので実用化が難しい。
すなわち、非球面ガラスレンズ成形用金型では、よい生産性、よい被加工性および耐酸化性の全てを有した素材が得られていない。
次に、5GPa以上の高圧を発生させるために用いる超高圧発生用容器についてであるが、この耐摩耗工具の場合は、高強度、高硬度を必要とするが、そのため一般には5mass%以上6mass%以下の低結合相のWC−Co系超硬合金を用いる。さらに、6GPaを越す超高圧下での物質の基礎的性質を調べる場合では、より硬質とするため、WC−VC−Cr−5〜10mass%Co超微粒超硬合金が用いられる。
ここで、基礎的性質を調べるために中性子回折を行うが、この時、中性子線は超微粒超硬合金製の超高圧発生用容器を貫通する。その際、結合相がCo(市販のCoは100at%が59Co)であると、59Coが放射性物質の60Coとなりγ線を放出するようになる。よって、実験後の超微粒超硬合金製の超高圧発生用容器は作業者にとって取扱いが極めて危険となる。
ここで結合相をNiとすると放射性物質の63Niを生じるが、Niのうち63Niに変化する62Niは市販のNi中に約4at%しか含まれておらず、また63Niはβ線しか放出しない。そして他の96at%のNiは放射線を出さないか、あるいは半減期が極めて短いので、Coより放射線の危険度がはるかに少ない。よって、中性子回折用超高圧発生用容器の材質は、超微粒超硬合金製の結合相をCoとするよりNiが望まれる。Co、Niの同位体については非特許文献2によった。
すなわち、中性子回折に用いる超高圧容発生用容器としては、WC−VC−Cr−Co系超微粒超硬合金よりWC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金で低結合相の場合が望まれるが、既に述べているように、Coと異なってNiは、原料粉末を粉砕・混合する過程で寸法の大きい凝集粉を生じやすく、得られる合金中に粗大なポアとなって、HIP後に、WCの平均粒度より大きいNiプールを生じ、これが原因で前述のように極少量添加では、高鏡面性が損なわれたり、数%の添加では大きなNiプールを生じて、高強度を得にくい性質があり、低結合相のWC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金では高強度が得られず、非特許文献3にあるWC−VC−Cr−10mass%Ni合金しか中性子回折に用いる超高圧発生用容器に用いられていない。
ここで、特許文献5では、WC−0.2mass%Cr−0.6mass%Ta−5mass%Niを開示するが、抗折力が220kgf/mm(2.16GPa)と低い。これは、低Ni合金のためNiプールの寸法制御ができていなかったためと思われる。また、特許文献5では粒成長抑制剤(Cr、VC、TaC、NbCなど)は、第3相として晶出しない量としている。
また、非特許文献3では、Niプールを解決する方法として、凝集粉末を#1000の篩で除去し、1500℃、1500気圧(147MPa)の高温高圧HIPすることにより、WC−0.4〜0.6mass%VC−10mass%Niにおいて抗折力が4.4GPaを達成しているが、硬さは1800HVに留まっている。また、より低Niとした結果は見られない。さらに、#1000で篩っても20〜30μmの凝集粉末除去ができるだけであること、Niの粘性流動がなくなる組成およびまたは焼結ほど低強度となることを開示している。すなわち、より低Niとした結果が見られないのは、低Niとすると通常焼結温度下でのNiの粘性流動が容易でなくなるため、粗大なポア(HIP後はNiプールになる)を生じて高強度が得にくいためと思われる。
特許文献6においても、請求項は3〜30mass%Niを開示するが、実施例はWC−0.2〜0.6mass%VC−10mass%Niに留まっている。また、結合相中のV最大添加量は6.5mass%とするも、VとCrの複合添加は開示していない。
中性子回折用超高圧発生用容器以外でも、強度を必要とする超高圧発生用容器では、WC−VC−Cr−10mass%Ni合金が用いられているが、それより結合相が少ない合金は強度が不足するため用いられていない。また、非磁性の耐食耐摩耗工具、すなわち超高圧発生用容器、金型、ダイ、パンチ、カッター、ダイス、プラグ、プレートなどでも、WC−VC−Cr−10mass%Ni合金が用いられているが、それより結合相が少ない合金は強度が不足する場合が多いためほとんど用いられていない。
なお、いずれの従来技術でも、VC、Crの添加量は、Niに固溶できる少量に限られており、V、Crを含む第3相が析出するほど多量には想定されていない。
本発明者らも、WC−VC−Cr−3〜9mass%Ni系超微粒超硬合金を通常の混合・粉砕、乾燥、プレス、焼結、HIPで作ったところ、数μmのNiプールを生じた。図1はWC−0.2mass%VC−0.3mass%Cr−3mass%Ni中炭素の組成とし、通常の混合・粉砕をし、1440℃×1hrで焼結し、1440℃、100MPaでHIPして得た合金の鏡面を光学顕微鏡で観察した結果である。白いコントラストを示す部分がNiプールである。すなわち、WC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金で結合相が10mass%Ni未満の場合では、Niプールを生じないものを容易に作ることができないことを確かめた。
次に、本発明者らが発明した特許文献7は、VC、Crの適正な添加量を見出すことにより、WC−VC−Cr−Co合金についてWCの平均粒度を0.3μm以下とし、従来より高強度で高硬度とした発明であるが、このようにWCの平均粒度を0.3μm以下とすることは、非球面ガラスレンズ成形用金型では、高鏡面性につながり、中性子回折用超高圧発生用容器では、高強度、高硬度となるので有利であり、非磁性の耐食耐摩耗工具をより高強度で高硬度とできて長寿命化できるが、WC−VC−Cr−Ni系については開示されていない。
すなわち、WC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金でNiプールを生じないように、WC−VC−Cr−10mass%Ni合金より低Niとし、かつWCの平均粒度を0.3μm以下とすると、非球面ガラスレンズ成形用金型や中性子回折用超高圧発生用容器および非磁性の耐食耐摩耗工具として従来よりも優れた性能が期待できる。
よって、本発明者らは、はじめにNiが混合・粉砕により凝集しないようにしてWC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金を作ることに鋭意取り組んだ。次に、WCの平均粒度を0.3μm以下とすることに取り組んだ。
Niが凝集しないようにする方法として、はじめに、Niのかわりに、Ni化合物粉末、例えばNiOを用いることを試みた。NiOは酸化物であるためより容易に粉砕でき、極少量添加では本目的を達成できた。しかし、酸化物は合金中に酸素に起因するポアを発生し易いのと、NiOは発ガン物質であり、労働安全衛生上、好ましくはない。しかし、この知見からNiを脆化すれば粗大な凝集粉末を生じにくくなることを発見した。これが第1の知見である。
そこで、予め炭化物とNiを強粉砕して加工硬化させ、それをNiの原料として用いWC−VC−Cr−3〜6mass%Ni超微粒超硬合金を作った。その結果、予想通り粗大な凝集粉末を生じず、Niの凝集部分が最大0.3μm以下の優れた低結合相のWC−VC−Cr−3〜6mass%Ni超硬合金が出来ることを発見した。これが第2の知見である。ここでNiの凝集部分の寸法は、光学顕微鏡ないしSEM写真で長軸径を測定した値である。また、Niの凝集部分の最大寸法がWCの平均粒度より小となることを確認する方法は、抗折力試験片の破壊の起源にWCの平均粒度より大きいNiプールが現れないことで確認した。
次に、WC−VC−Cr−Ni合金をWCの平均粒度を0.3μm以下とし、従来より高強度で高硬度とすることに鋭意取り組んだ。
はじめに、Niドメイン(ドメインとは結合相の結晶粒、すなわち結晶方位が同一の領域)に及ぼすWC−VC−Cr−Ni超微粒超硬合金のWCの平均粒度の影響を鋭意研究した結果、WCの微粒化により、Niドメイン寸法が図3のように微細化することをまず発見した。ここでNiドメインの寸法は光学顕微鏡による写真で長軸径を測定した値である。これが第3の知見である。図3の白丸は通常の焼結条件1450℃×1hrで焼結後0.07℃/sで冷却した場合で、黒丸は通常の焼結条件1450℃×1hrで焼結後0.23℃/sで冷却した場合である。
さらに、WC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金の合金組織に及ぼすV、Cr添加量の影響を鋭意研究した結果、3〜9mass%Ni合金では、V添加量を、Niに対して5mass%以上、15mass%以下、Cr添加量を、Niに対して11mass%以上、50mass%以下と、従来より多く添加しても、VおよびCrを含む第3相が最大0.3μm以下の寸法で合金組織中に分散することを発見した。
従来の技術ではV、Crを含む第3相が組織中にあることを避けてきた。これは、粗大なV、Crを含む第3相があると、これが破壊の起源となって、抗折力が低下し、高強度を得にくくなるためである。
しかし、はじめに発見したようにWCの微粒化により、Niドメインも微細化するため、一つのドメインとなる液相領域から晶出するVおよびCr量が減少するため、ドメインの4重点、5重点に晶出するV、Crを含む第3相を微細分散させることが可能となるのである。
これにより、WC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金においてV、Crを含む第3相を微細分散して晶出させることに成功、V、Crを含む第3相による強度低下を避けることができることを発見した。これが第4の知見である。なお、言うまでもないがV、Crを含む第3相を晶出するほどVCおよびCrを添加することは、WCの異常成長を抑制することに対して有利である。また、V、Crを含む第3相の微細分散は、硬さに対しても有効である。
さらに、研究を進めて、結合相を極端に少なくした0.12〜0.3mass%Niの場合についてのV、Cr添加量についても研究を続けた結果、0.12mass%Ni以上0.3mass%Ni以下に対してV添加量は、100〜30mass%を、Cr添加量は、300〜130mass%とそれぞれ結合相に対して多量に添加しても、V、Crを含む第3相を0.3μm以下に微細分散できることを発見した。
これは、予備粉砕しているため、Niの凝集がなくなり、焼結性が改善され、普通の焼結によりポアに基づくNiプールが出現しなくなったことに加えて、Ni量が極端に少なくなることにより、焼結温度下での液相が少なくなりほぼ固相の状態で存在できること、およびまたはNiドメインが極端に小さくなり、一つのNiドメインになる液相領域から晶出する量が少なくなるため、焼結後の冷却過程で著しく微細分散して晶出しやすいためと思われる。この発見が第5の知見である。
ここで、V、Crを含む第3相の最大寸法がWCの平均粒度より小となることを確認する方法は、抗折力試験片の破壊の起源にWCの平均粒度より大きいV、Crを含む第3相が現れないことで確認した。抗折力試験片の破壊の起源の寸法はSEMによる写真で長軸径を測定した値である。
第4および第5の知見は、V、Crを含む第3相が晶出しないようにVC、Crの添加量を少なくするよう制御した従来技術とは異なるものである。
ここまでの知見で、本発明者らは、炭化タングステン(WC)および0.12mass%Ni以上9mass%Ni以下の超硬合金において、V添加量を、Niに対して5mass%以上100mass%以下、Cr添加量を、Niに対して11mass%以上300mass%以下とすることにより、V、Crを含む第3相を最大0.3μm以下の寸法で合金組織中に分散させ、硬さを2100〜2800HV10、WC平均粒度が0.3μm以下で、Niプールの寸法がWCの平均粒度以下の、WC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金を発明した。
そしてこの知見にもとづいて、ガラスレンズ成形用金型および中性子回折用超高圧発生用容器および非磁性の一般耐食耐摩耗工具の開発を進めた。その結果、予め炭化物とNiを強粉砕して加工硬化させ、それをNiの原料として用いてNi系超微粒超硬合金を作るのは同様でよいが、以下に記すようにそれぞれについて適正な結合相量のあることが分かり、規定することでそれぞれに適した工具組成を発明した。
ガラスレンズ成形用金型の場合、耐酸化性、高硬度、高鏡面性を必要とするが、強度の要求についてはそれほどではないので、主として高鏡面性を得るためNi量を0.12〜0.3mass%と極少量とする。ここで、0.12mass%より少ないと、あまりにも少なくなりすぎて、焼結性が劣化して普通焼結ではポアを発生しやすくなり、高鏡面性が得られなくなる。0.3mass%より多いとたとえ微細分散してもNi部分が研摩時に凹部となる寸法が無視できなくなるほど大きくなって高鏡面性が得られなくなる。
なお、V添加量を、Niに対して30mass%以上、100mass%以下、Cr添加量を、Niに対して130mass%以上、300mass%以下とし、V、Crを含む第3相を最大0.3μm以下の寸法で合金組織中に分散させる。V、Crの添加量の下限より少ないと粒成長を抑えられず、結果として微細分散できなくなるとともに、耐酸化性が不足する。V、Crの添加量の上限より多いとあまりにも添加量が大となって微細分散させられなくなる。
中性子回折用の超高圧発生用容器および非磁性の一般耐食耐摩耗工具の場合、高強度、高硬度を必要とし、高鏡面性は要求されないので、主として高強度を得るためNi量を3〜9mass%とする。3mass%より少ないと、結合相が少なすぎて強度が不足するようになる。9mass%より多いと硬度が不足する。
なお、V添加量は、Niに対して5mass%以上、15mass%以下、Cr添加量は、Niに対して11mass%以上、50mass%以下とし、V、Crを含む第3相を最大0.3μm以下の寸法で合金組織中に分散させる。V、Cr添加量の下限より少ないと粒成長を抑えられず強度が不足し、結果としてV、Crを含む第3相の微細分散もできなくなる。V、Cr添加量の上限より多いとあまりにも添加量が大となってV、Crを含む第3相を微細分散させられなくなり強度が低下する。
なお、前記2種類の工具でNi量の幅と、V、Cr添加量の幅の関係が異なるのは、Ni量が多くなるほど、Niドメイン寸法が大きくなり、V、Crを含む第3相の寸法が大きくなるので、VおよびCr添加量を少なくする必要があるためである。
また、V、Crはそれぞれの炭化物で添加することが望ましいことは言うまでもない。
炭化タングステン(WC)および0.12〜9mass%Niの超硬合金において、V添加量を、Niに対して5mass%以上100mass%以下、Cr添加量を、Niに対して11mass%以上300mass%以下とすることにより、V、Crを含む第3相を最大0.3μm以下の寸法で合金組織中に分散させ、硬さを2100〜2800HV10、Niプールの最大寸法を0.3μm以下とした、WC平均粒度が0.3μm以下の耐摩耗工具用WC基超微粒超硬合金は、従来のWCとTiC−WC固溶体複炭化物相の合金より加工性が優れ、WC−W系の合金および単一WCの合金より、生産性に優れると共に、WC−VC−Cr−Co系超微粒超硬合金よりも耐酸化性に優れ、従来のWC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金よりも低結合相量でも高強度であり、高鏡面性の得られる非球面ガラスレンズ成形用金型を容易に作れ、中性子回折用超高圧発生用容器として使用した後でも低放射能化出来てより安全に取り扱える。さらに、高強度を必要とする超高圧発生用容器で用いることが出来、非磁性の耐食耐摩耗工具として長寿命を発揮する。
特開平2−120244号公報 特許第3310138号 特開2004−91241号公報 特開平5−59405号公報 特開昭64−52043号公報 特開昭56−130450号公報 特開2008−38242号公報
鈴木壽、寺田修、池浩之:粉体および粉末冶金、42(1995)、p.1341. 化学便覧 基礎編 改訂5版、丸善株式会社、2004年、I−43〜I−44ページ 鈴木壽、寺田修、池浩之:粉体および粉末冶金、42(1995)、p.1345.
通常のNiを用い従来の方法で作った、1440℃×1hr焼結、1440℃、100MPaのHIPで作ったWC−0.2mass%VC−0.3mass%Cr−3mass%Ni合金の光学顕微鏡写真である。白いコントラストを示す部分はNiプールである。 本発明による、WCの平均粒度が0.3μmのWC−0.11mass%VC−0.45mass%Cr−0.2mass%Ni合金の光学顕微鏡写真である。 Niドメイン寸法に及ぼすWC平均粒度の影響を示す。白丸は、WC−(XC)−10mass%Ni合金(XはCrおよびまたはV)の、通常の焼結条件1450℃×1hrで焼結後0.07℃/sで冷却した場合で、黒丸は、同合金の、通常の焼結条件1450℃×1hrで焼結後0.23℃/sで冷却した場合である。 本発明による、WCの平均粒度が0.3μmのWC−0.44mass%VC−1.39mass%Cr−6mass%Ni合金のSEM写真である。白ないし灰色のコントラストを示す粒子はWC、黒色のコントラストを示す部分はNiである。V、Crを含む第3相は微細なためこの拡大ではよく分からない。
平均粒度(BET値より換算)が150nmのWC原料粉末を用い、配合組成をWC−5.5mass%VC−22.5mass%Cr−10mass%Niとし、ボールミルによる湿式強粉砕を、粉砕メディアの超硬ボールと粉末の比率を5対1として、72hr行った。強粉砕の後、スラリーを乾燥後、A粉末として保管した。そして、このA粉末を2mass%用いて、全体の組成がWC−0.11mass%VC−0.45mass%Cr−0.2mass%Niとなるように150nmのWC原料粉末を98mass%加えて、粉砕メディアの超硬ボールと粉末の比率を3対1として、72hrの湿式粉砕を行った。湿式粉砕後、乾燥し、冷間成形して、真空焼結を1500℃で1hr行い、1500℃、150MPa、1hrのAr雰囲気のHIPをして合金とした。
こうして得られたWC−0.11mass%VC−0.45mass%Cr−0.2mass%Ni超微粒超硬合金は、図2に示したようにNiプールが殆ど見られない素材となり、V、Crを含む第3相が最大0.3μm以下の寸法で合金組織中に分散し、Niの最大寸法を0.3μmとした、合金中のWC平均粒度が0.3μmとなり、硬さが2200HV10で、抗折力が2.4GPaで、かつ、非球面ガラスレンズ用金型とした場合に表面粗さが1nm Ra未満となり、従来合金より小とすることが出来、優れた高鏡面性を発揮した。また、大気中800℃で1hr保持した後の酸化増量は170g/mで、市販のWCとTiC−WC固溶体複炭化物相の合金の同酸化増量240g/mより少なく、優れていた。
ここで、WCの平均粒度測定方法は、得られた超硬合金について、破面および研摩・食刻面のSEM観察を行い、研摩・食刻面の2次元組織写真から3次元WC平均粒度をFullmanの式を用いて測定した。
この結果は、表1のNo.9であるが、No.8およびNo.10〜No.13の合金でも同様であった。
なお、ボールミルによる湿式強粉砕を遊星ミルなど別の強粉砕方法に置き換えても同様の結果が得られた。
平均粒度(BET値より換算)が150nmのWC原料粉末を用い、配合組成をWC−0.88mass%VC−2.78mass%Cr−12mass%Niとし、ボールミルによる湿式強粉砕を、粉砕メディアの超硬ボールと粉末の比率を5対1として、72hr行った。強粉砕の後、スラリーを乾燥後、B粉末として保管した。そして、このB粉末を50mass%用いて、全体の組成がWC−0.44mass%VC−1.39mass%Cr−6mass%Niとなるように150nmのWC原料粉末を50mass%加えて、粉砕メディアの超硬ボールと粉末の比率を3対1として、72hrの湿式粉砕を行った。湿式粉砕後、乾燥し、冷間成形して、真空焼結を1440℃で1hr行い、1440℃、100MPa、1hrのAr雰囲気のHIPをして合金とした。
こうして得られたWC−0.44mass%VC−1.39mass%Cr−6mass%Ni超微粒超硬合金は、図4に示したようにWCの平均粒度0.3μmより大きいNi部分、すなわちNiプールが見られない素材となり、2160HV10、抗折力4.1GPaが得られ、中性子回折用超高圧発生用容器として十分な強度を有した。そして結合相がNiであるため、放射線の危険性が従来より著しく低下し取扱いが容易となった。この結果は、表1のNo.5であるがNo.1〜No.4およびNo.6〜No.7の合金でも同様であった。
なお、ボールミルによる湿式強粉砕を遊星ミルなど別の強粉砕方法におきかえても同様の結果が得られた。
平均粒度(BET値より換算)が70nmのWC原料粉末を用い、配合組成をWC−1.56mass%VC−2.70mass%Cr−18mass%Niとし、ボールミルによる湿式強粉砕を、粉砕メディアの超硬ボールと粉末の比率を5対1として、72hr行った。強粉砕の後、スラリーを乾燥後、C粉末として保管した。そして、このC粉末を50mass%用いて、全体の組成がWC−0.76mass%VC−1.35mass%Cr−9mass%Niとなるように70nmのWC原料粉末を50mass%加えて、粉砕メディアの超硬ボールと粉末の比率を3対1として、72hrの湿式粉砕を行った。湿式粉砕後、乾燥し、冷間成形して、真空焼結を1440℃で1hr行い、1440℃、100MPa、1hrのAr雰囲気のHIPをして合金とした。
こうして得られたWCの平均粒度が0.1μmのWC−0.76mass%VC−1.35mass%Cr−9mass%Ni超微粒超硬合金は、Niプールが殆ど見られない素材となり、2350HV10と高硬度でありながら抗折力が4.6GPaと優れ、強度を必要とする超高圧発生用容器、非磁性の耐食耐摩耗工具すなわち金型、ダイ、パンチ、カッター、ダイス、プラグ、プレートなどに使用して、従来のWC−0.62mass%VC−1.15mass%Cr−10mass%Ni超微粒超硬合金(表1のNo.14)の2倍以上の長寿命を達成した。この発明合金は、表1のNo.1であるが、No.2〜No.7の合金でも同様であった。
なお、ボールミルによる湿式強粉砕を遊星ミルなど別の強粉砕方法におきかえても同様の結果が得られた。
表1に本発明合金の特性を、従来合金、および特許文献1〜6、非特許文献3に開示された合金と共に示す。表2に本発明合金のNi部分の最大寸法を、従来合金と共に示す。
通常のNiを用い従来の方法で作った、1440℃×1hr焼結、1440℃、100MPaのHIPで作ったWC−0.2mass%VC−0.3mass%Cr−3mass%Ni合金の光学顕微鏡写真である。白いコントラストを示す部分はNiプールである。 本発明による、WCの平均粒度が0.3μmのWC−0.11mass%VC−0.45mass%Cr−0.2mass%Ni合金の光学顕微鏡写真である。 Niドメイン寸法に及ぼすWC平均粒度の影響を示す。白丸は、WC−(XC)−10mass%Ni合金(XはCrおよびまたはV)の、通常の焼結条件1450℃×1hrで焼結後0.07℃/sで冷却した場合で、黒丸は、同合金の、通常の焼結条件1450℃×1hrで焼結後0.23℃/sで冷却した場合である。 本発明による、WCの平均粒度が0.3μmのWC−0.44mass%VC−1.39mass%Cr−6mass%Ni合金のSEM写真である。白ないし灰色のコントラストを示す粒子はWC、黒色のコントラストを示す部分はNiである。V、Crを含む第3相は微細なためこの拡大ではよく分からないが、この中に晶出している。
耐摩耗工具のうち、高鏡面性が要求される用途では、結合相を含まないWC基超硬合金が用いられている。また、高圧下での物質特性を研究するために用いる超高圧発生用容器(アンビル、シリンダーなど)では、結合相がCoで、かつ結合相が比較的少ない、WC基超硬合金およびWC基超微粒超硬合金が用いられている。さらに、強度を必要とする超高圧発生用容器および非磁性の耐食耐摩工具では、結合相を10mass%NiとしたWC−VC−Cr−10mass%Ni超微粒超硬合金が使用されている。
すなわち、中性子回折に用いる超高圧発生用容器としては、WC−VC−Cr−Co系超微粒超硬合金よりWC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金で低結合相の場合が望まれるが、既に述べているように、Coと異なってNiは、原料粉末を粉砕・混合する過程で寸法の大きい凝集粉を生じやすく、得られる合金中に粗大なポアとなって、HIP後に、WCの平均粒度より大きいNiプールを生じ、これが原因で前述のように極少量添加では、高鏡面性が損なわれたり、数%の添加では大きなNiプールを生じて、高強度を得にくい性質があり、低結合相のWC−VC−Cr−Ni系超微粒超硬合金では高強度が得られず、非特許文献3にあるWC−VC−Cr−10mass%Ni合金しか中性子回折に用いる超高圧発生用容器に用いられていない。

Claims (3)

  1. 炭化タングステン(WC)およびNiを主成分とする0.12mass%〜9mass%Niの超硬合金において、V添加量を、Niに対して5mass%以上100mass%以下、Cr添加量を、Niに対して11mass%以上300mass%以下とすることにより、V、Crを含む第3相を最大0.3μm以下の寸法で合金組織中に分散させ、硬さを2100〜2800HV10、Niプール(結合相のNiの凝集部分)の最大寸法を0.3μm以下とした、WC平均粒度が0.3μm以下の耐摩耗工具用WC基超微粒超硬合金。
  2. 炭化タングステン(WC)およびNiを主成分とする0.12mass%〜0.3mass%Niの超硬合金において、V添加量を、Niに対して30mass%以上100mass%以下、Cr添加量を、Niに対して130mass%以上300mass%以下とすることにより、V、Crを含む第3相を最大0.3μm以下の寸法で合金組織中に分散させ、硬さを2450〜2800HV10、Niプール(結合相のNiの凝集部分)の最大寸法を0.3μm以下とした、WC平均粒度が0.3μm以下の耐摩耗工具用WC基超微粒超硬合金を用いて作った、非球面ガラスレンズ成形用金型。
  3. 炭化タングステン(WC)およびNiを主成分とする3mass%〜9mass%Niの超硬合金において、V添加量を、Niに対して5mass%以上15mass%以下、Cr添加量を、Niに対して11mass%以上50mass%以下とすることにより、V、Crを含む第3相を最大0.3μm以下の寸法で合金組織中に分散させ、硬さを2100〜2700HV10、Niプール(結合相のNiの凝集部分)の最大寸法を0.3μm以下とした、WC平均粒度が0.3μm以下の耐摩耗工具用WC基超微粒超硬合金を用いて作った、中性子回折用の超高圧発生用容器、および非磁性の耐食耐摩耗工具。
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