JP2013205221A - 中性糖鎖類の質量分析法 - Google Patents

中性糖鎖類の質量分析法 Download PDF

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Abstract

【課題】中性糖鎖から感度よくアニオン付加イオンを検出することができるMALDI質量分析法を提供する。
【解決手段】マトリックスとしてイオン性液体と、マトリックス添加剤としてテトラフルオロホウ酸及びその塩並びに気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質及びそれらの塩からなる群から選ばれる物質と、試料として糖鎖及び糖鎖誘導体からなる群から選ばれる中性の分子とを含む混合物を質量分析に供し、前記添加剤の物質を構成するアニオンが前記試料の分子に付加した分子量関連イオンを検出する、中性糖鎖類の質量分析法。
【選択図】図3

Description

本発明は、糖鎖類の質量分析法に関する。より具体的には、本発明は、質量分析を用いた中性糖鎖類の構造解析に関する。
本発明は、バイオマーカー検索等が行われる医療及び創薬分野において適用される。
特許文献1(特開2008−261824号公報)及び特許文献2(特表2005−536759号公報)に、テトラメチルグアニジンイオン及びp−クマル酸イオンから構成されるイオン性液体等を質量分析用マトリックス(すなわち液体マトリックス)として用いる質量分析法が開示されている。
非特許文献1(Anissa W. Wong et al. Anal.Chem. 71(1999)205-211)に、マトリックスとしてのDHAPやharmineに対して硫酸イオンを添加して用いる質量分析により、中性糖鎖の負イオン化が可能であることが記載されている。さらに、非特許文献2(Anissa W. Wong et al. Anal.Chem. 72(2000)1419-1425)に、上述の硫酸イオンの代わりにアルキルスルフォネートなどの酸性物質を用いる質量分析法が記載されている。
非特許文献3(Yang Cai et al. Anal.Chem. 75(2003)1638-1644)に、低分子量の中性糖鎖に対してClを付加させることで負イオン化し、MS分析による構造解析を行っている。マトリックスとして3−アミノキノリン、4−アミノフェノール、harmineを使用した場合にCl付加が起こったことが報告されている。さらに、マトリックスとしてharmineを使用した場合が最も好ましいことが記載されている。
非特許文献3に関連する非特許文献4(Jiang, Y. and Cole, R.B. Journal of the American Society for Mass Spectrometry 16(2005)60-70)では、上記の低分子量の中性糖鎖の負イオンMSスペクトルの取得に適するアニオンがClや酢酸イオン、Fであることが記載されている。
非特許文献5(Tohru Yamagaki et al. Anal.Chem. 77(2005)1701-1707)には、低分子量の中性糖鎖に対してharmineやnorharmanをマトリックスとして用い、Clを付加させて負イオン化することが記載されている。また、その負イオンのMSスペクトルから、糖鎖のリンケージ解析等を行ったことが記載されている。
非特許文献6(Paula Domann et al. Rapid Communications in Mass Spectrometry 26(2012)469-479)には、N型糖鎖をMALDIで負イオン化するためにマトリックスの種類とアニオンの種類との組み合わせを検討し、MS及びMS分析の観点から、THAP(2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン)とNO との組み合わせがベストであると結論付けられている。なお、非特許文献6及びその関連非特許文献7(Harvey, D.J. Journal of American Society for Mass Spectrometry 16(2005)622-630)には、中性N型糖鎖のIアダクトイオンのMSスペクトルからは、糖鎖の構造情報の取得がほとんど不可能であることが記載されている。
特開2008−261824号公報 特表2005−536759号公報
アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、1999年、第71巻、p.205−211 アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、2000年、第72巻、p.1419−1425 アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、2003年、第75巻、p.1638−1644 ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ソサイエティ・フォー・マス・スペクトロメトリ(Journal of the American Society for Mass Spectrometry)、2005年、第16巻、p.60−70 アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、2005年、第77巻、p.1701−1707 ラピッド・コミュニケーションズ・イン・マス・スペクトロメトリ(Rapid Communications in Mass Spectrometry)、2012年、第26巻、p.469−479 ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ソサイエティ・フォー・マス・スペクトロメトリ(Journal of the American Society for Mass Spectrometry)、2005年、第16巻、p.622−630
中性糖鎖は容易に脱プロトン化する部位を有しないため負イオンになり難い。例えば特許文献1及び特許文献2の方法では、誘導体化を施していない中性の糖鎖を負イオン化することはできない。
また、糖鎖が脱プロトン化したとしても、得られた脱プロトン体は不安定であるため即座にフラグメンテーションを起こしてしまう。このため、中性糖鎖を比較的安定に負イオン化するため、アニオン付加体としてイオン化する技術が開発されてきた。
N型糖鎖などの比較的分子量の大きな中性糖鎖に対してアニオンを付加し負イオンとして検出する技術は、主にエレクトロスプレーイオン化(ESI)で検討されてきた。負イオンを不安定化させてしまうアニオン種もあるが、Cl-、Br-、I-、H2PO4 -、HSO4 -及びNO3 -などのアニオンは安定なアニオンアダクトを生じさせることが知られている。ESIでの中性糖鎖の負イオン化は、そのフラグメンテーションを含めて精力的に研究されてきた。
N型糖鎖の正イオンフラグメンテーションが、糖鎖の構成単糖が次々と脱離していく態様であることと異なり、N型糖鎖の負イオンフラグメンテーションは、ブランチ構造を反映するフラグメントが生成する態様であるため、構造解析には特に有用とされている。しかし、ESIでは多価のイオンが生成するため、ピークが分散してしまい、糖鎖のプロファイリングには向かないといわれている。また、アニオン付加体を含む糖鎖の負イオンは不安定で、イオン化の条件や質量分析計内の電圧の勾配によってはフラグメンテーションが起こりやすいことが知られている。
一方で、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)では、一価のイオンのみが生成するため、糖鎖プロファイリングが容易に行える。さらに、近年のMALDI-IT(ion trap)-TOF(time-of-flight)又はMALDI-Q(quadrupole)-TOF, MALDI-IT-Orbitrapのような質量分析計の登場により、MALDIによる糖鎖の検出・構造解析技術は有用な手法となってきている。上記のようにN型糖鎖の負イオンフラグメンテーションは構造解析に有用な情報を与えるが、MALDIにおいては、効率的な中性糖鎖の負イオン化は特に困難とされてきた。
その大きな理由のひとつがマトリックスの存在である。マトリックスは通常、プロトンを供給する能力を有する。従って、マトリックスから供給されるプロトンがアニオンを中性化し、糖鎖へのアニオン付加を妨げるため、効率的な負イオン化は困難であると考えられてきた。プロトンを捕獲する能力の低いアニオン(すなわち気相塩基性度(gas-phase basicity: GB)の低いアニオン)を使用することがそのひとつの解決策であり、非特許文献1及び2に、マトリックスに硫酸アニオンを添加することで糖鎖の負イオン化が可能であると報告されている。
しかし、GBの低いアニオンの使用は、衝突誘起解離(Collision-induced dissociation:CID)を用いたMS2分析において支障を来す。ここで、中性糖鎖のアニオン付加イオンのCIDでは、理想的には、まずアニオンが中性糖鎖からプロトンを引き抜き、糖鎖の脱プロトン化体を形成することが初期反応となる。この糖鎖の脱プロトン化体は非常に不安定であるため、即座にフラグメンテーションを起こし、結果としてCIDスペクトルには糖鎖の構造情報を反映するピークが観測されることとなる。しかし、硫酸アニオンのようなGBの低いアニオンは、糖鎖からプロトンを引き抜くことができないため、糖鎖そのものがニュートラルロスしてしまい、CIDスペクトルにはアニオンのピークだけが観測されてしまう。当然、糖鎖の構造情報は得られない。一方、レーザーパワーを上げて硫酸と糖鎖との脱水縮合を生じさせることにより、硫酸化誘導体化させた状態のイオンをプリカーサイオンとしてMS分析することで構造情報を取得しているが、硫酸誘導体化糖鎖のフラグメンテーション機構は、理想的な中性糖鎖の負イオンフラグメンテーション機構とは大きく異なり、ブランチ構造を反映するような構造解析に有用なプロダクトイオンは得られない。
以上のように、GBの低いアニオンの使用はMS2分析に支障を来す。
反対に、GBの高いアニオンの使用は、そのようなアニオンがマトリックスからのプロトンを受け取って中性化しやすく、糖鎖へのアニオン付加が妨げられることから、MS1分析の段階で糖鎖の効率よい負イオン化を不可能にする。
中性糖鎖の構造解析を目的としたMALDI測定は、このようなジレンマの問題を抱えている。
その解決策の1つとなるのが、プロトンを放出しにくい塩基性マトリックス、すなわち脱プロトン化した状態のGBが高いマトリックスの使用である。非特許文献3では中性糖鎖を負イオン化するのにharmineマトリックスが用いられた。harmineは最もGBの高いマトリックスのひとつであり、この性質を用いて中性糖鎖にCl-を付加させてそのPSD分析が行われた。非特許文献5でも同様の分析が行われた。
しかしながら、これらの手法は糖鎖にGBの高いCl-アニオンを付加させることができても、感度の面で問題がある。また、N型糖鎖への応用がなされていない。
近年、非特許文献6において、N型糖鎖の負イオン化のためにマトリックスとアニオンとが検討され、MS1及びMS2分析両方の観点から、THAPマトリックスとNO3 -の使用が最適であったことが報告されている。
THAPは、harmineほどではないが脱プロトン化した状態でのGBが高いマトリックスである。しかし、この場合においても、感度の面の問題が解消されたとは言えない。具体的には、標準的なN型糖鎖の検出限界が、Bruker社製のMALDI-MSを使用した場合で2 pmolである。この感度は、正イオンモードの検出限界と比べても桁違いに悪い。
そこで本発明の目的は、中性糖鎖から感度よくアニオン付加イオンを検出することができるMALDI質量分析法を提供することにある。
本発明者らは、液体マトリックスと、特定の酸性物質及びそれらの塩を液体マトリックスの添加剤として用いることによって、上記本発明の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の発明を含む。
(1)
マトリックスとしてイオン性液体と、マトリックス添加剤としてテトラフルオロホウ酸及びその塩並びに気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質及びそれらの塩からなる群から選ばれる物質と、試料として糖鎖及び糖鎖誘導体からなる群から選ばれる中性の分子とを含む混合物を質量分析に供し、前記添加剤の物質を構成するアニオンが前記試料の分子に付加した分子量関連イオンを検出する、中性糖鎖類の質量分析法。
前記の分子量関連イオンをさらに質量分析に供することによって、糖鎖類の構造情報を与えるプロダクトイオンを検出することができる。
(2)
前記マトリックス添加剤が気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質又はそれらの塩である場合に、前記イオン性液体が、アミンのイオンと2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸及びクマル酸からなる群から選ばれる酸のイオンとから構成されるものである、(1)の方法。
(3)
前記アミンが、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンである、(2)の方法。
(4)
気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質が、NO 、Br、SCN、HPO 、Cl及びFからなる群から選ばれるアニオンを含む酸性物質である、(2)又は(3)の方法。
(5)
前記マトリックス添加剤がテトラフルオロホウ酸又はその塩である場合に、前記イオン性液体が、アミンのイオンと、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸及びクマル酸からなる群から選ばれる酸のイオンとから構成されるものである、(1)の方法。
(6)
前記アミンが、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン及びn−ブチルアミンからなる群から選ばれる(5)の方法。
(7)
前記気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質の塩がアンモニウム塩である、請求項(1)〜(6)のいずれかの方法。
本発明により、中性糖鎖から感度よくアニオン付加イオンを検出することができるMALDI質量分析法が可能となる。アニオン付加イオンは、MS分析において構造情報の取得を可能にする。
液体マトリックスとしてG3CAを用い、マトリックス添加剤として(a)PF6 -、(b)BF4 -、(c)HSO4 -、(d)I-、(e)NO3 -、(f)Br-、(g)SCN-、(h)H2PO4 -又は(i)Cl-のアニオン物質を用いて取得した、中性糖鎖NA2(100fmol)のMS1スペクトルである。 液体マトリックスG3CAを用い、マトリックス添加剤としてNO3 -を用いて取得した、検出限界濃度(b)及び検出限界の10倍濃度(a)の中性糖鎖NA2のMS1スペクトルである。 液体マトリックスG3CAを用い、マトリックス添加剤としてBF4 -を用いて取得した、検出限界濃度(b)及び検出限界の10倍濃度(a)の中性糖鎖NA2のMS1スペクトルである。 液体マトリックスG3CAを用い、マトリックス添加剤として(a)PF6 -、(b)BF4 -又は(c)HSO4 -を用いて取得したアニオンアダクト中性糖鎖NA2のMS2スペクトルである。 液体マトリックスG3CAを用い、マトリックス添加剤として(d)I-、(e)NO3 -又は(f)Br-を用いて取得したアニオンアダクト中性糖鎖NA2のMS2スペクトルである。 液体マトリックスG3CAを用い、マトリックス添加剤として(g)SCN-、(h)H2PO4 -又は(i)Cl-を用いて取得したアニオンアダクト中性糖鎖NA2のMS2スペクトルである。
[1.質量分析対象]
試料分析に供される対象は、糖鎖類である。糖鎖類の分子は、中性であることすなわち電荷を持たないことを条件とし、天然の構造を有するもの(糖鎖)及び非天然の構造を有するもの(糖鎖誘導体)の両方を含む。糖鎖類は、例えば種々の生物の生体内からの単離により得られたものであってもよいし、例えば複合糖質から糖鎖部分を遊離させる場合のように、化学的又は酵素学的手法により人工的に調製されたものであってもよい。
糖鎖誘導体のより具体的な一例としては、酸性糖鎖を中性化処理したものが挙げられる。酸性糖鎖は、シアル酸、硫酸基含有糖、リン酸基含有糖などの酸性糖を構成糖として含むものであり、中性化処理の例としては、酸性糖の中性基による修飾や酸性糖の遊離が挙げられる。修飾の例としては、アルキルエステル化等が挙げられる。
糖鎖誘導体のより具体的な他の一例としては、還元末端をラベル化したものが挙げられる。ラベル化の例としては、ピリジルアミノ化に代表される還元アミノ化によるラベル基の導入が挙げられる。
本発明における糖鎖類は、好ましくは糖タンパク質由来の糖鎖である。より具体的には、アスパラギン残基に結合したN−結合型と、セリンやトレオニン残基に結合したO−結合型とが挙げられる。本発明は特にN−結合型糖鎖の解析に好適に用いられる。
N−結合型糖鎖には、Manα1→6(Manα1→3)Manβ1→4GlcNAcβ1→4GlcNAcという分岐5糖が共通の母核として含まれている。N−結合型糖鎖はさらに、この5糖母核の外側に結合する糖鎖の構造によって、5糖母核にさらにα−マンノシル残基のみが結合した高マンノース型、5糖母核の2つのα−マンノシル残基にN−アセチルグルコサミンに始まる側鎖が1〜5本結合している複合型、ならびに5糖母核のManα1→3側に複合型と同様の側鎖がつき、Manα1→6側には1〜2個のα−マンノシル残基がついた高マンノース型と複合型の混成体の構造を有する混成型の3つのグループに分類される。複合型糖鎖と混成型糖鎖には、さらに根のN−アセチルグルコサミン残基のC−6位に結合したα−フコシル残基の有無と、5糖母核のβ−マンノシル残基のC−4位に結合したN−アセチルグルコサミン残基もしくはさらにガラクトースが結合している残基の有無とによって構造の多様性がある。
本発明における糖鎖類の分子量は、例えば300〜6,000、好ましくは900〜5,000、より好ましくは1,200〜4,000である。
[2.液体マトリックス]
本発明においては、マトリックスとしてイオン性液体を用いる。イオン性液体は、室温で液体の状態で存在し、その実態は塩である物質をいう。本発明においては、イオン性液体であるマトリックスを、液体マトリックスと表記する。
より具体的には、液体マトリックスとしては、アミンのイオンと酸性基含有有機物質のイオンとから構成されるイオン性液体が用いられる。これらのアミン及び酸性基含有有機物質のいずれかは、紫外〜可視領域から選ばれる波長を有するレーザー光を吸収する。
前記のアミンは、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン(TMG)、n−ブチルアミン(BA)、エチルアミン、N,N−ジエチルアミン(DEA)、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジエチルメチルアミン、ジエチルベンゼンアミン、N,N−ジメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、エタノールアミン、ポリエーテルテールドトリエチルアミン、ポリエステルテールドトリエチルアミン、ニトロフェノール、アニリン、2,4−ジニトロアニリン、2−ニトロフェニルオクチルエーテル、ピリジン、2−ピリジンプロパノール(2PP)、2−エチルピリジン(2EP)、2−アミノ−4−メチル−5−ニトロピリジン、3−アミノキノリン(3AQ)、3−ヒドロキシピリジン、1−メチルイミダゾール、1−ブチル−3−メチルイミダゾール、1−(1−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾール、1,3−ジメチルイミダゾール、1,5−ジアミノナフタレン、6−アザ−2−チオチミン、クマリン、6,7−ジヒドロキシクマリン、1,8−ジヒドロキシ−9[10H]−アントラセノン、カルボリン類(ノルハルマン、ハルマン、ハルミン、ハルモル、ハルマリン、ハルマロールなど)などから選択することができる。
一方、前記の酸性基含有有機物質は、p−クマル酸(p−CA)、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)、α−シアノ−3−ヒドロキシケイ皮酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、4−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシフェニルピルビン酸、3−ヒドロキシピコリン酸、3,5−ジメソキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸(シナピン酸)、4−ヒドロキシ−3−メソキシケイ皮酸(フェルラ酸)、カフェイン酸(3,4−ジヒドロキシケイ皮酸)、5−メソキシサリチル酸、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸(HABA)、ニコチン酸、ピコリン酸、3−アミノピコリン酸、3−ヒドロキシピコリン酸、2−アミノ安息香酸、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸、6−アザ−2−チオチミン、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)、1,4−ジヒドロ−2−ナフトエ酸、3−インドールアクリル酸、インドール−2−カルボン酸、チオグリコール酸などから選択される。
[3.マトリックス添加剤]
マトリックス添加剤は、基本的に、糖鎖の脱プロトン化体の気相塩基性度(Gas phase basicity: GB)より高い気相塩基性度を有するアニオンを含んで構成される物質である。このようなマトリックス添加剤を用いることにより、プロダクトイオンを効率的に生じさせることができる。逆に、糖鎖の脱プロトン化体の気相塩基性度より低い気相塩基性度を有するアニオンを含んで構成される物質をマトリックス添加剤として用いると、MS分析において添加剤のアニオンのロスが優先的に生じるため、糖鎖のプロダクトイオンが効率的に得られない。
ここで、糖鎖の脱プロトン化体の気相塩基性度は、糖鎖によって異なりうる。
例えば、2個の糖残基から構成される糖鎖の気相塩基性度が1373kJ/molであるという報告がある(Anal.Chem. 75(2003)1638-1644(非特許文献3))。また、この糖鎖のMSスペクトル取得に適するアニオンはClや酢酸イオン、Fであるという報告もある(Journal of the American Society for Mass Spectrometry 16(2005)60-70(非特許文献4))。従って、本発明におけるマトリックス添加剤のアニオンとしては、ClやFが有する程度の気相塩基性度(具体的には、Clの1373kJ/mol、酢酸イオンの1427kJ/mol、Fの1529kJ/mol)を有するものが少なくとも許容される。
一方、分子量の大きい糖鎖、例えばN結合型糖鎖の気相塩基性度については、詳細な報告がなされていない。しかしながら、N結合型糖鎖のMSスペクトル取得に適した(すなわち糖鎖のフラグメントを生じさせることができた)アニオンが、BrやNO であり、一方で、Iの使用によってはN結合型糖鎖のMSスペクトルから構造情報を取得することがほとんど不可能であることが報告されている(Rapid Communications in Mass Spectrometry 26(2012)469-479(非特許文献6)及びJournal of American Society for Mass Spectrometry 16(2005)622-630(非特許文献7))。従って、本発明におけるマトリックス添加剤のアニオンとしては、BrやNO が有する程度の気相塩基性度(具体的には、Brの1332kJ/mol、NO の1330kJ/mol)を有するものが少なくとも許容される。また、本発明の一態様として、本発明におけるマトリックス添加剤のアニオンとして、Iが有する程度の気相塩基性度(具体的には1294kJ/mol)が排除されることができる。
具体的に、本発明におけるマトリックス添加剤は、テトラフルオロホウ酸(HBF)及びその塩、並びに気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質及びそれらの塩からなる群から選ばれる。
気相塩基性度が1300〜1550kJ/molの酸性物質の具体例としては、NO 、Br、SCN、HPO 、Cl及びFからなる群から選ばれるアニオンを含む酸性物質が挙げられる。
本発明においては、マトリックス添加剤がテトラフルオロホウ酸(HBF)及び/又はその塩である場合と、気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質及び/又はそれらの塩である場合とにおいて、それぞれ、特に好適な液体マトリックスとの組み合わせが存在する。
マトリックス添加剤としてテトラフルオロホウ酸(HBF)及び/又はその塩を用いる場合、液体マトリックスとしては幅広い種類のイオン性液体が許容される。その中でも、例えば、アミンのイオンとして、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン(TMG)、n−ブチルアミン(BA)、N,N−ジエチルアミン(DEA)、2−ピリジンプロパノール(2PP)、2−エチルピリジン(2EP)、及び3−アミノキノリン(3AQ)のイオンが好適に選択される場合があり、酸性基含有有機物質のイオンとして、p−クマル酸(p−QA)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)、及び2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸(HABA)のイオンが好適に選択される場合がある。より具体的には、TMGと4−CHCA、THAP、HABA、又はp−CAとの組み合わせ、BAとDHB又は4−CHCAとの組み合わせ、DEAと4−CHCAとの組み合わせ、2PPとDHB、4−CHCA又はTHAPとの組み合わせ、2EPとDHB、4−CHCA又はTHAPとの組み合わせ、3AQとDHB又は4−CHCAとの組み合わせが好適に選択される。
マトリックス添加剤として気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質及び/又はそれらの塩を用いる場合、アミノのイオンとしてTMGのイオン、酸性基含有有機物質のイオンとしてp−CA又はHABAのイオンが好適に選択される。特に、TMGのイオンとp−CAのイオンとの組み合わせが好適に選択される。
マトリックス添加剤が塩である場合、カウンターカチオンとしては、例えばアンモニウムイオンや金属イオン(アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等)が挙げられる。本発明においては、アンモニウム塩が好適に用いられる。
[4.液体マトリックス、添加剤及び糖鎖類を含む混合物]
本発明においては、質量分析用ターゲットプレート上に、液体マトリックス、添加剤及び糖鎖類を含む混合物を調製する。この混合物は、レーザー照射の対象となる。
混合物の調製法としては特に限定されず、当業者が適宜選択することができる。通常、液体マトリックス、添加剤及び糖鎖類を適当な溶媒中に含む混合液の液滴を質量分析用ターゲットプレート上に調製し、溶媒を除去して、レーザー対象となる混合物として残留液滴を得る。溶媒の除去には、自然乾燥及び減圧乾燥によるものを含む。
液体マトリックス、添加剤及び糖鎖類を含む混合液は、液体マトリックス溶液、添加剤溶液及び糖鎖類を含む溶液(試料溶液)を、任意の順番で混合することによって調製することができる。
混合液の溶媒は特に限定されず、通常の質量分析で用いられるものを当業者が適宜選択することができる。例えば、アセトニトリル、水、トリフルオロ酢酸、メタノール及びエタノールからなる群から選ばれる。好ましくは、アセトニトリル水溶液が用いられる。この場合におけるアセトニトリルの濃度は例えば10〜90体積%、好ましくは40〜60体積%である。
混合液を調製するための液体マトリックス溶液、添加剤溶液及び糖鎖類を含む溶液(試料溶液)それぞれの濃度及び混合量は、当業者が適宜決定することができる。例えば、混合液として調製された際に、混合液中の液体マトリックスの濃度が例えば0.1 mg/mL〜1 g/mL、好ましくは1 mg/mL〜100 mg/mLとなるように調製することができる。混合液中における添加剤の濃度は、例えば、1μmol/L〜1 mol/L、好ましくは0.1 mmol/L〜100 mmol/Lでありうる。混合液中における糖鎖類の濃度は、例えば0.1 amol/μL〜1 nmol/μL、好ましくは10 amol/μL〜10 pmol/μLでありうる。ターゲットプレート上における混合物の残留液滴1個につき、糖鎖類の量は、0.1 amol〜1μmol、又は50 amol〜100 fmol、又は100amol〜1fmolでありうる。
[5.質量分析]
MALDIイオン源が組み合わされた質量分析装置を用い、イオン性液体と、マトリックス添加剤と、糖鎖類とを含む混合物を質量分析(具体的にはMS分析)に供することにより、添加剤の物質を構成するアニオンが糖鎖類の分子に付加した分子量関連イオン(アニオンアダクトイオン)を得る。この際、分子量関連イオンのフラグメントイオンの発生が抑えられることが好ましい。
さらに、構造情報取得のための分子量関連イオンの測定(具体的にはMS分析)においては、糖鎖構造情報を与えるプロダクトイオンを得ることができる。より具体的には、まず、分子量関連イオンにおいて、アニオンが糖鎖からプロトンを引き抜き、糖鎖の脱プロトン化体を形成する。次に、糖鎖の脱プロトン化体がフラグメンテーションを起こし、糖鎖構造情報を与えるプロダクトイオンが生じる。
分子量関連イオンの開裂法としては、タンデム質量分析に用いられる既存または新規の手法から当業者によって適宜選択されるが、より具体的には、ポストソース分解(post source decay; PSD)、低エネルギー衝突誘起解離(low-energy collision induced dissociation; low-energy CID)、高エネルギー衝突誘起解離(high-energy collision induced dissociation; high-energy CID)、赤外多光子解離(infrared multi-photon dissociation;IRMPD)、及び光誘起解離(photo‐induced dissociation;PID)などが挙げられる。Low-energy CID、high-energy CID、IRMPD及びPIDを実施可能な質量分析装置としては、衝突室、又は、衝突室の機能を持つ四重極もしくはイオントラップを有する質量分析装置が挙げられる。具体的には、イオントラップ型質量分析計、三連四重極型質量分析計、四重極−飛行時間型質量分析計、イオントラップ−飛行時間型質量分析計、四重極−イオントラップ型質量分析計、四重極−フーリエ変換型質量分析計、イオントラップ−フーリエ変換型質量分析計、四重極−オービトラップ型質量分析計、イオントラップ−オービトラップ型質量分析計、飛行時間−飛行時間型質量分析計などが挙げられる。PSDを実施可能な質量分析装置としては、具体的には飛行時間型質量分析計や飛行時間−飛行時間型質量分析計が挙げられる。
CID,IRMPD,PIDなど積極的な開裂操作を伴うMS2分析の場合は、アニオンアダクトイオンがプリカーサとして選択され、フラグメンテーションを行う。PSD測定の場合は、レーザーパワーを上げる等してMALDIイオン源にて発生させるアニオンアダクトイオンに余剰な内部エネルギーを与え、そのアニオンアダクトイオンが分析部に向かって加速され、検出器に到達するまでの間に、その余剰な内部エネルギーによりフラグメンテーションが起こる。
本発明においては、添加剤の物質を構成するアニオンとして特定の範囲(1300〜1550kJ/mol)の気相塩基性度を有するものを用いるため、分子量関連イオンからのアニオン脱離が効果的に抑えられ、有用なプロダクトイオンを好ましく得ることができる。また、驚くべきことに、添加剤の物質を構成するアニオンとしてBF を用いた場合も、気相塩基性度が低いにも関わらず、有用なプロダクトイオンを得ることができる。
また、本発明においては、分子量関連イオンから得られるプロダクトイオンは、糖鎖構造解析に有用な態様で得られる。つまり、糖鎖構造情報を与える有用なプロダクトイオンが好ましい感度で得られ、且つ、それらの有用なプロダクトイオンの妨げになるような、例えば過剰なフラグメンテーションで生じうる不要なプロダクトイオンの出現が好ましく抑えられる。例えばN結合型糖鎖においては、構造解析に特に重要となるDイオン、Eイオン、Cイオン、及び/又は環開裂由来の2,4Aイオンを得ることができるが、それだけでなく、本来であればDイオンやEイオンのピークが出現する質量範囲において、不要なプロダクトイオンの出現が好ましく抑えられる。
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
液体マトリックスとして、表1に記載の5種のイオン性液体を作成した。これらのイオン性液体は、糖鎖のイオン化に適すると報告されているものである。
具体的には、表1中の酸(酸性基含有有機物質)及びアミンのメタノール溶液を調製し、表1中のモル比となるように、表1中の調製法に記載の量的関係で溶液を混合し、3分間の超音波処理に供した。その後、SpeedVac(R)を用い、一晩かけてメタノールと未反応試薬を除いた。得られたそれぞれの液体マトリックスは、100 mg/mLになるように50v/v%アセトニトリル(ACN)水溶液中に溶解してストック溶液とし、-20℃環境下で保管した。表1中の、DHBB、GTHAP、G2CHCA、G2HABA、G3CAは、各々、DHBとBA、THAPとTMG、 CHCAとTMG、 HABAとTMG、 CAとTMGとの組み合わせからなる液体マトリックスの略称である(後述表2においても同じ)。
マトリックス添加剤として、アニオンがそれぞれPF6 -、BF4 -、HSO4 -、I-、NO3 -、H2PO4 -、Br-、SCN-、及びCl-である9種のアンモニウム塩を用意した。それぞれの添加剤を50v/v% ACN水溶液に溶解して2.5 mM溶液に調製し、液体マトリックスのストック溶液に4倍量(v/v)加えて、添加剤混合マトリックス溶液とした。従って、添加剤混合マトリックス溶液中のアニオン濃度は2 mMとなる。なお、アニオン濃度を0.2〜200 mMの範囲で検討したところ、いずれのアニオンも2 mM程度が本発明の効果発揮に最適であったことが確認されたため、本実施例ではこの濃度を採用した。
試料としては二本鎖の中性糖鎖NA2を用いた。NA2は、下記式に示される通りである。NA2を水に溶解して200 fmol/Lの試料溶液を調製した。また、MALDIプレートとしてはμ-Focus MALDI plate (Hudson Surface Technology) を用いた。
MALDIプレート上で、添加剤混合マトリックス溶液0.5μLを試料溶液0.5μL(試料溶液中の中性糖鎖NA2濃度は200 fmol/μL)と混合し、20分程度常温で乾燥させ、質量分析測定(MALDI-QIT-TOFMS装置:AXIMA Resonance(登録商標),(株)島津製作所製,以下同様)を行った。開裂操作を伴わないMS1分析を行った後、検出された分子量関連イオン(アニオンアダクトイオン)をプリカーサとして、low-energy CIDを実施してMS2分析を実施した。尚、アニオンアダクトイオンはこれ以外の開裂法によっても開裂させることが出来、実際にhigh-energy CIDで開裂させ解析した例がRapid Communications in Mass Spectrometry 26(2012)469-479(非特許文献6)に記載されている。
プレート上に付着した液滴は完全に乾燥せず、質量分析計に導入した後の高真空下であっても比較的均一な液体状態を長時間維持した。
100 fmolの中性糖鎖NA2の負イオン化を検討した結果を表2に示し、図中の注釈について、以下説明を加える。
(*)アスタリスクを付した値は計算値であることを示す。その他の値は実験値である。
具体的には、計算値はKoppel, I.A. et al. Journal of the American Chemical Society 122(2000)5114-5124からの引用であり、実験値はウェブサイトNIST Chemistry WebBook(http://webbook.nist.gov./chemistry/)からの引用である。
(a)[M+anion]-ピークがS/N<20の場合は+、20<S/N<100の場合は++、100<S/N<250の場合は+++、250<S/Nの場合は++++と表記した。
(b)DoFは、MS1分析におけるフラグメンテーションの度合いを示す。フラグメンテーションの度合いは、2,4A6フラグメントイオンのピーク強度(I[2,4A6]-)と[M+anion]-のピーク強度(I[M+anion]-)とをもとに以下の式により算出した:
DoF=I[2,4A6]-/(I[M+anion]-+I[2,4A6]-
フラグメンテーションが起こっていないときは-、DoF<10%の場合はLow、10%<DoF<50%の場合はMiddle、50%<DoFの場合はHighと表記した。
(c)[M+anion]-のCIDスペクトル(MS2スペクトル)において、そのスペクトル内に2,4A-ionやD-ionなどの構造解析に有用なプロダクトイオンが十分な強度で観測されている場合は●印を表記した。
表2に示されるように、添加剤に気相塩基性度(Gas phase basicity: GB)の低いアニオン(具体的には、PF6 -, BF4 -, HSO4 -, I-)を使用した場合、どの液体マトリックスと組み合わせても[M+anion]- のピークが強く得られた。添加剤にGBの高いアニオン(具体的には、Br-, NO3 -, H2PO4 -, SCN-, Cl-)を使用した場合は、特に、液体マトリックスとしてG3CAが組み合わされた場合に、比較的良好な強度で糖鎖のアニオンアダクトを得ることができた。また、MS1分析におけるフラグメンテーションに関しても、効果的に低く抑えることができた。液体マトリックスとしてG3CAを用い、マトリックス添加剤として(a)PF6 -、(b)BF4 -、(c)HSO4 -、(d)I-、(e)NO3 -、(f)Br-、(g)SCN-、(h)H2PO4 -又は(i)Cl-のアニオン物質を用いて取得した、中性糖鎖NA2(100fmol)のアニオンアダクトのMS1スペクトルを図1に示す。
添加剤のアニオンとしてBF4 -又はNO3 -を用い、液体マトリックスとしてG3CAを用いた場合の検出限界は、1 fmol(NO3 -を用いた場合)及び100 amol(BF4 -を用いた場合)であった(下記表3)。また、それぞれの場合において、検出限界濃度(b)及び検出限界の10倍濃度(a)のNA2を質量分析して得られたMS1スペクトルを、図2及び図3に示す。
従来技術、例えば文献Rapid Communications in Mass Spectrometry 26(2012)469-479においては、N型糖鎖の負イオンの感度は、NO3 -を添加したTHAPを用いた場合で検出限界2p〜350 fmol程度と報告されている。すなわち、この文献における検出感度は、本発明の検出限界の1/1000倍よりも劣る。
本発明と従来技術との効果の具体的な比較のため、上記従来技術の文献と同様の手法にて以下の実験を行った。
本発明において特に良好な結果を与えた添加剤のアニオンBF4 -又はNO3 -を固体マトリックスTHAPに添加し、添加剤混合固体マトリックス溶液(溶媒:50v/v% ACN水溶液)を調製した。添加剤混合固体マトリックス溶液中、アニオン濃度は20 mM, THAP濃度は10 mg/mLとした。なお、アニオン濃度を1〜200 mMの範囲で検討したところ、20 mM程度が従来技術の効果発揮に最適であったことが確認されたため、比較の実験ではこの濃度を採用した。
MALDIプレート上で、添加剤混合固体マトリックス溶液0.5μLを試料溶液0.5μLと混合し、20分程度常温で乾燥させ、質量分析を行った。その結果、この比較実験では検出限界が10 fmol程度であった(下記表3)。すなわち、比較実験における検出感度は、本発明の検出限界の1/100以下であった。
マトリックス添加剤として(a)PF6 -、(b)BF4 -、(c)HSO4 -、(d)I-、(e)NO3 -、(f)Br-、(g)SCN-、(h)H2PO4 -又は(i)Cl-のアニオン物質を用いて100 fmolのNA2から生じさせたアニオンアダクトイオンをプリカーサとしてCIDを行い、MSスペクトルを取得した。得られたMSスペクトル及びその解析結果を図4〜図6に示す。
図4(a)(比較用)に示すように、PF6 -アダクトイオンからは有用なMS2スペクトルを得ることが出来なかった。これはPF6 -のGBが低く、糖鎖からプロトンを引き抜くことができないからであると考えられる。
図4(c)(比較用)に示すように、HSO4 -アダクトイオンのMS2分析においては、他のアニオンアダクトイオンのMS2分析の場合とは異なり、アニオンを含んだプロダクトイオンピークが観測されたが、そのピーク強度は、プリカーサイオンの強度と比較して著しく低く、全く実用的ではなかった。糖鎖からプロトンを引き抜くことなく、アニオンの脱離が優先的に起こっているためと考えられる。
また、図5(d)(比較用)に示すように、I-アダクトイオンからのMS2スペクトル取得は可能であったが、非常に多くの回数スペクトルを積算する必要があった。これもアニオンの脱離が優先的に起こっているからであると考えられる。しかも、得られたスペクトルは低m/z領域のフラグメントが強く検出され、さらに複数開裂と思われる多数のプロダクトイオンがm/z 700〜1200領域に観測された。この領域には構造解析に特に重要となるDイオンやEイオンが観測されることが多いため、スペクトル解釈に不利となる。従って、I-アダクトも構造解析には向かないと考えられる。
以上より、PF6 -アダクトイオン、HSO4 -アダクトイオン及びI-アダクトイオンは、構造解析に有用ではないことが分かった。
一方、図5(f)のBr-アダクトイオンのMS2分析では、図5(d)(比較用)と同様のスペクトルパターンが得られた。しかしながらBr-アダクトイオンはMS2スペクトル取得の際にI-ほど多くの積算は必要なく、比較的効率良くプロダクトイオンが生じた。
また、図5(e)、図6(g)、図6(h)及び図6(i)にそれぞれ示すように、NO3 -、SCN-、H2PO4 -及びCl-アダクトイオンからは、効率よく良好なS/Nで、MS2スペクトルが取得できた。これらのMS2スペクトルパターンはほぼ同じであり、比較用の図5(d)のI-アダクトイオンにおけるようなプロダクトイオン発生における非効率性もなかった。また、図5(f)のBr-アダクトイオンにおけるような複数開裂と思われるピークも観測されず、明確にDイオンやEイオンが観測され、構造解析においてより有用な態様であることが分かった。高感度な中性糖鎖の負イオン解析には、これらのアニオンアダクトイオンの中でもイオン生成量が高かった図5(e)のNO3 -アダクトイオンの態様が特に有用であることが分かった。
さらに、図4(b)のBF4 -アダクトイオンの態様においては、BF4 -のGBが低いにもかかわらず、驚くべきことに、効率よく良好なS/Nで、MS2スペクトルの取得が可能であった。特に好ましい態様である図5(e)のNO3 -アダクトイオンの態様における方が、プロダクトイオン発生における効率性が高いが、図4(b)のBF4 -アダクトイオンの態様においては、ある程度の積算を行えば構造解析に十分な質のスペクトルが得られた。一方、この態様においては、NO3 -アダクトイオンの態様よりも、BF4 -アダクトイオンのMS1分析における感度が高い。具体的には、MS1分析における検出感度はNO3 -の場合より一桁高い。従って、糖鎖のプロファイリングをMS1分析での感度の高いBF4 -アダクトに基づいて行い、ある程度強いピークのMS2スペクトルを取得した後、MS2分析が感度を必要とする場合はNO3 -アダクトを用いて行うことも可能である。

Claims (7)

  1. マトリックスとしてイオン性液体と、マトリックス添加剤としてテトラフルオロホウ酸及びその塩並びに気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質及びそれらの塩からなる群から選ばれる物質と、試料として糖鎖及び糖鎖誘導体からなる群から選ばれる中性の分子とを含む混合物を質量分析に供し、前記添加剤の物質を構成するアニオンが前記試料の分子に付加した分子量関連イオンを検出する、糖鎖類の質量分析法。
  2. 前記マトリックス添加剤が気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質又はそれらの塩である場合に、前記イオン性液体が、アミンのイオンと2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸及びクマル酸からなる群から選ばれる酸のイオンとから構成されるものである、請求項1の方法。
  3. 前記アミンが、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンである、請求項2の方法。
  4. 気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質が、NO 、Br、SCN、HPO 、Cl及びFからなる群から選ばれるアニオンを含む酸性物質である、請求項2又は3の方法。
  5. 前記マトリックス添加剤がテトラフルオロホウ酸又はその塩である場合に、前記イオン性液体が、アミンのイオンと、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸及びクマル酸からなる群から選ばれる酸のイオンとから構成されるものである、請求項1の方法。
  6. 前記アミンが、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン及びn−ブチルアミンからなる群から選ばれる請求項5の方法。
  7. 前記テトラフルオロホウ酸の塩又は前記気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質の塩がアンモニウム塩である、請求項1〜6のいずれかの方法。

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