JP2013205221A - 中性糖鎖類の質量分析法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】マトリックスとしてイオン性液体と、マトリックス添加剤としてテトラフルオロホウ酸及びその塩並びに気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質及びそれらの塩からなる群から選ばれる物質と、試料として糖鎖及び糖鎖誘導体からなる群から選ばれる中性の分子とを含む混合物を質量分析に供し、前記添加剤の物質を構成するアニオンが前記試料の分子に付加した分子量関連イオンを検出する、中性糖鎖類の質量分析法。
【選択図】図3
Description
本発明は、バイオマーカー検索等が行われる医療及び創薬分野において適用される。
非特許文献3に関連する非特許文献4(Jiang, Y. and Cole, R.B. Journal of the American Society for Mass Spectrometry 16(2005)60-70)では、上記の低分子量の中性糖鎖の負イオンMS2スペクトルの取得に適するアニオンがCl−や酢酸イオン、F−であることが記載されている。
また、糖鎖が脱プロトン化したとしても、得られた脱プロトン体は不安定であるため即座にフラグメンテーションを起こしてしまう。このため、中性糖鎖を比較的安定に負イオン化するため、アニオン付加体としてイオン化する技術が開発されてきた。
反対に、GBの高いアニオンの使用は、そのようなアニオンがマトリックスからのプロトンを受け取って中性化しやすく、糖鎖へのアニオン付加が妨げられることから、MS1分析の段階で糖鎖の効率よい負イオン化を不可能にする。
中性糖鎖の構造解析を目的としたMALDI測定は、このようなジレンマの問題を抱えている。
しかしながら、これらの手法は糖鎖にGBの高いCl-アニオンを付加させることができても、感度の面で問題がある。また、N型糖鎖への応用がなされていない。
THAPは、harmineほどではないが脱プロトン化した状態でのGBが高いマトリックスである。しかし、この場合においても、感度の面の問題が解消されたとは言えない。具体的には、標準的なN型糖鎖の検出限界が、Bruker社製のMALDI-MSを使用した場合で2 pmolである。この感度は、正イオンモードの検出限界と比べても桁違いに悪い。
(1)
マトリックスとしてイオン性液体と、マトリックス添加剤としてテトラフルオロホウ酸及びその塩並びに気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質及びそれらの塩からなる群から選ばれる物質と、試料として糖鎖及び糖鎖誘導体からなる群から選ばれる中性の分子とを含む混合物を質量分析に供し、前記添加剤の物質を構成するアニオンが前記試料の分子に付加した分子量関連イオンを検出する、中性糖鎖類の質量分析法。
前記マトリックス添加剤が気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質又はそれらの塩である場合に、前記イオン性液体が、アミンのイオンと2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸及びクマル酸からなる群から選ばれる酸のイオンとから構成されるものである、(1)の方法。
(3)
前記アミンが、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンである、(2)の方法。
気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質が、NO3 −、Br−、SCN−、H2PO4 −、Cl−及びF−からなる群から選ばれるアニオンを含む酸性物質である、(2)又は(3)の方法。
前記マトリックス添加剤がテトラフルオロホウ酸又はその塩である場合に、前記イオン性液体が、アミンのイオンと、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸及びクマル酸からなる群から選ばれる酸のイオンとから構成されるものである、(1)の方法。
(6)
前記アミンが、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン及びn−ブチルアミンからなる群から選ばれる(5)の方法。
前記気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質の塩がアンモニウム塩である、請求項(1)〜(6)のいずれかの方法。
試料分析に供される対象は、糖鎖類である。糖鎖類の分子は、中性であることすなわち電荷を持たないことを条件とし、天然の構造を有するもの(糖鎖)及び非天然の構造を有するもの(糖鎖誘導体)の両方を含む。糖鎖類は、例えば種々の生物の生体内からの単離により得られたものであってもよいし、例えば複合糖質から糖鎖部分を遊離させる場合のように、化学的又は酵素学的手法により人工的に調製されたものであってもよい。
糖鎖誘導体のより具体的な他の一例としては、還元末端をラベル化したものが挙げられる。ラベル化の例としては、ピリジルアミノ化に代表される還元アミノ化によるラベル基の導入が挙げられる。
本発明においては、マトリックスとしてイオン性液体を用いる。イオン性液体は、室温で液体の状態で存在し、その実態は塩である物質をいう。本発明においては、イオン性液体であるマトリックスを、液体マトリックスと表記する。
より具体的には、液体マトリックスとしては、アミンのイオンと酸性基含有有機物質のイオンとから構成されるイオン性液体が用いられる。これらのアミン及び酸性基含有有機物質のいずれかは、紫外〜可視領域から選ばれる波長を有するレーザー光を吸収する。
マトリックス添加剤は、基本的に、糖鎖の脱プロトン化体の気相塩基性度(Gas phase basicity: GB)より高い気相塩基性度を有するアニオンを含んで構成される物質である。このようなマトリックス添加剤を用いることにより、プロダクトイオンを効率的に生じさせることができる。逆に、糖鎖の脱プロトン化体の気相塩基性度より低い気相塩基性度を有するアニオンを含んで構成される物質をマトリックス添加剤として用いると、MS2分析において添加剤のアニオンのロスが優先的に生じるため、糖鎖のプロダクトイオンが効率的に得られない。
例えば、2個の糖残基から構成される糖鎖の気相塩基性度が1373kJ/molであるという報告がある(Anal.Chem. 75(2003)1638-1644(非特許文献3))。また、この糖鎖のMS2スペクトル取得に適するアニオンはCl−や酢酸イオン、F−であるという報告もある(Journal of the American Society for Mass Spectrometry 16(2005)60-70(非特許文献4))。従って、本発明におけるマトリックス添加剤のアニオンとしては、Cl−やF−が有する程度の気相塩基性度(具体的には、Cl−の1373kJ/mol、酢酸イオンの1427kJ/mol、F−の1529kJ/mol)を有するものが少なくとも許容される。
気相塩基性度が1300〜1550kJ/molの酸性物質の具体例としては、NO3 −、Br−、SCN−、H2PO4 −、Cl−及びF−からなる群から選ばれるアニオンを含む酸性物質が挙げられる。
本発明においては、質量分析用ターゲットプレート上に、液体マトリックス、添加剤及び糖鎖類を含む混合物を調製する。この混合物は、レーザー照射の対象となる。
混合物の調製法としては特に限定されず、当業者が適宜選択することができる。通常、液体マトリックス、添加剤及び糖鎖類を適当な溶媒中に含む混合液の液滴を質量分析用ターゲットプレート上に調製し、溶媒を除去して、レーザー対象となる混合物として残留液滴を得る。溶媒の除去には、自然乾燥及び減圧乾燥によるものを含む。
混合液の溶媒は特に限定されず、通常の質量分析で用いられるものを当業者が適宜選択することができる。例えば、アセトニトリル、水、トリフルオロ酢酸、メタノール及びエタノールからなる群から選ばれる。好ましくは、アセトニトリル水溶液が用いられる。この場合におけるアセトニトリルの濃度は例えば10〜90体積%、好ましくは40〜60体積%である。
MALDIイオン源が組み合わされた質量分析装置を用い、イオン性液体と、マトリックス添加剤と、糖鎖類とを含む混合物を質量分析(具体的にはMS1分析)に供することにより、添加剤の物質を構成するアニオンが糖鎖類の分子に付加した分子量関連イオン(アニオンアダクトイオン)を得る。この際、分子量関連イオンのフラグメントイオンの発生が抑えられることが好ましい。
CID,IRMPD,PIDなど積極的な開裂操作を伴うMS2分析の場合は、アニオンアダクトイオンがプリカーサとして選択され、フラグメンテーションを行う。PSD測定の場合は、レーザーパワーを上げる等してMALDIイオン源にて発生させるアニオンアダクトイオンに余剰な内部エネルギーを与え、そのアニオンアダクトイオンが分析部に向かって加速され、検出器に到達するまでの間に、その余剰な内部エネルギーによりフラグメンテーションが起こる。
液体マトリックスとして、表1に記載の5種のイオン性液体を作成した。これらのイオン性液体は、糖鎖のイオン化に適すると報告されているものである。
具体的には、表1中の酸(酸性基含有有機物質)及びアミンのメタノール溶液を調製し、表1中のモル比となるように、表1中の調製法に記載の量的関係で溶液を混合し、3分間の超音波処理に供した。その後、SpeedVac(R)を用い、一晩かけてメタノールと未反応試薬を除いた。得られたそれぞれの液体マトリックスは、100 mg/mLになるように50v/v%アセトニトリル(ACN)水溶液中に溶解してストック溶液とし、-20℃環境下で保管した。表1中の、DHBB、GTHAP、G2CHCA、G2HABA、G3CAは、各々、DHBとBA、THAPとTMG、 CHCAとTMG、 HABAとTMG、 CAとTMGとの組み合わせからなる液体マトリックスの略称である(後述表2においても同じ)。
プレート上に付着した液滴は完全に乾燥せず、質量分析計に導入した後の高真空下であっても比較的均一な液体状態を長時間維持した。
(*)アスタリスクを付した値は計算値であることを示す。その他の値は実験値である。
具体的には、計算値はKoppel, I.A. et al. Journal of the American Chemical Society 122(2000)5114-5124からの引用であり、実験値はウェブサイトNIST Chemistry WebBook(http://webbook.nist.gov./chemistry/)からの引用である。
(a)[M+anion]-ピークがS/N<20の場合は+、20<S/N<100の場合は++、100<S/N<250の場合は+++、250<S/Nの場合は++++と表記した。
(b)DoFは、MS1分析におけるフラグメンテーションの度合いを示す。フラグメンテーションの度合いは、2,4A6フラグメントイオンのピーク強度(I[2,4A6]-)と[M+anion]-のピーク強度(I[M+anion]-)とをもとに以下の式により算出した:
DoF=I[2,4A6]-/(I[M+anion]-+I[2,4A6]-)
フラグメンテーションが起こっていないときは-、DoF<10%の場合はLow、10%<DoF<50%の場合はMiddle、50%<DoFの場合はHighと表記した。
(c)[M+anion]-のCIDスペクトル(MS2スペクトル)において、そのスペクトル内に2,4A-ionやD-ionなどの構造解析に有用なプロダクトイオンが十分な強度で観測されている場合は●印を表記した。
本発明において特に良好な結果を与えた添加剤のアニオンBF4 -又はNO3 -を固体マトリックスTHAPに添加し、添加剤混合固体マトリックス溶液(溶媒:50v/v% ACN水溶液)を調製した。添加剤混合固体マトリックス溶液中、アニオン濃度は20 mM, THAP濃度は10 mg/mLとした。なお、アニオン濃度を1〜200 mMの範囲で検討したところ、20 mM程度が従来技術の効果発揮に最適であったことが確認されたため、比較の実験ではこの濃度を採用した。
MALDIプレート上で、添加剤混合固体マトリックス溶液0.5μLを試料溶液0.5μLと混合し、20分程度常温で乾燥させ、質量分析を行った。その結果、この比較実験では検出限界が10 fmol程度であった(下記表3)。すなわち、比較実験における検出感度は、本発明の検出限界の1/100以下であった。
図4(c)(比較用)に示すように、HSO4 -アダクトイオンのMS2分析においては、他のアニオンアダクトイオンのMS2分析の場合とは異なり、アニオンを含んだプロダクトイオンピークが観測されたが、そのピーク強度は、プリカーサイオンの強度と比較して著しく低く、全く実用的ではなかった。糖鎖からプロトンを引き抜くことなく、アニオンの脱離が優先的に起こっているためと考えられる。
以上より、PF6 -アダクトイオン、HSO4 -アダクトイオン及びI-アダクトイオンは、構造解析に有用ではないことが分かった。
Claims (7)
- マトリックスとしてイオン性液体と、マトリックス添加剤としてテトラフルオロホウ酸及びその塩並びに気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質及びそれらの塩からなる群から選ばれる物質と、試料として糖鎖及び糖鎖誘導体からなる群から選ばれる中性の分子とを含む混合物を質量分析に供し、前記添加剤の物質を構成するアニオンが前記試料の分子に付加した分子量関連イオンを検出する、糖鎖類の質量分析法。
- 前記マトリックス添加剤が気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質又はそれらの塩である場合に、前記イオン性液体が、アミンのイオンと2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸及びクマル酸からなる群から選ばれる酸のイオンとから構成されるものである、請求項1の方法。
- 前記アミンが、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンである、請求項2の方法。
- 気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質が、NO3 −、Br−、SCN−、H2PO4 −、Cl−及びF−からなる群から選ばれるアニオンを含む酸性物質である、請求項2又は3の方法。
- 前記マトリックス添加剤がテトラフルオロホウ酸又はその塩である場合に、前記イオン性液体が、アミンのイオンと、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸及びクマル酸からなる群から選ばれる酸のイオンとから構成されるものである、請求項1の方法。
- 前記アミンが、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン及びn−ブチルアミンからなる群から選ばれる請求項5の方法。
- 前記テトラフルオロホウ酸の塩又は前記気相塩基性度1300〜1550kJ/molの酸性物質の塩がアンモニウム塩である、請求項1〜6のいずれかの方法。
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