以下、本発明のセルロースアシレート積層フィルムやその製造方法、それに用いる添加剤などについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。さらに、本明細書中において、特に断りなく「Re」および「Rth」との語を用いている場合、これらは波長590nmにおける値をそれぞれ表すものとする。
≪セルロースアシレート積層フィルム≫
本発明の一形態は、セルロースアシレート積層フィルムに関する。より具体的には、セルロースアシレートを含む一対のスキン層(A)により、セルロースアシレートを含むコア層(B)が挟持されてなる3層構造を有するセルロースアシレート積層フィルムに関する。ただし、本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは上記3層構造「のみからなる」ものに限られず、その他の層が上記3層構造の上下または各層間に配置されたものであってもよい。また、本明細書では、スキン層(A)に含まれるセルロースアシレートを「セルロースアシレート(A)」とも称し、コア層(B)に含まれるセルロースアシレートを「セルロースアシレート(B)」とも称する。また、一対のスキン層(A)のそれぞれに含まれるセルロースアシレート(A)の構成は、互いに同一であってもよいし異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
そして、本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは、以下の特徴を有する:
・スキン層(A)の双方およびコア層(B)が位相差調整剤を含有する;
・セルロースアシレート(A)の総アシル基置換度(DS(A))およびセルロースアシレート(B)の総アシル基置換度(DS(B))が、下記式(1)〜(3)を満たす:
<セルロースアシレート>
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムにおいて、スキン層(A)およびコア層(B)はともに、その主成分としてセルロースアシレートを含む(それぞれ、セルロースアシレート(A)およびセルロースアシレート(B))。
セルロースアシレートとは、セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位中の2位、3位および6位の水酸基(−OH)の水素原子の一部または全部がアシル基で置換されたセルロース誘導体をいう。
セルロースアシレートとしては、特に制限されない。例えば、セルロースの水酸基部分の水素原子が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ラウロイル基、ステアロイル等の炭素数2〜20の脂肪族アシル基で置換されたセルロースアシレートが挙げられる。これらのうち、炭素数2〜4のアシル基を有するものが好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基がより好ましい。なお、セルロースアシレート中のアシル基は単一種であってもよいし、複数のアシル基の組み合わせであってもよい。
具体的な好ましいセルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースアシレートが挙げられ、本発明においてはセルロースアセテートであることが好ましい。
セルロースアシレートの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹由来、広葉樹由来)、ケナフ等を挙げることができる。またそれらから得られたセルロースアシレートはそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。
本形態に係るセルロースアシレートは、公知の方法により製造することができる。一般的には、原料のセルロースと所定の有機酸(酢酸、プロピオン酸など)と酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸など)、触媒(硫酸など)と混合して、セルロースをエステル化し、セルロースのトリエステルができるまで反応を進める。トリエステルにおいてはグルコース単位の3個の水酸基は、有機酸のアシル基で置換されている。同時に2種の有機酸を使用すると、混合エステル型のセルロースアシレート、例えばセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートを作製することができる。次いで、セルロースのトリエステルを加水分解することで、所望のアシル置換度を有するセルロースアシレートを合成する。その後、濾過、沈殿、水洗、脱水、乾燥などの工程を経て、セルロースアシレートが得られる。
具体的には、特開平10−45804号、特開2005−281645、特開2003−270442号などに記載の方法を参考にして、セルロースアシレートを合成することができる。
市販品としては、ダイセル社L20、L30、L40、L50、イーストマンケミカル社のCa398−3、Ca398−6、Ca398−10、Ca398−30、Ca394−60S等が挙げられる。
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムにおいては、スキン層(A)に含まれるセルロースアシレート(A)の総アシル基置換度(DS(A))およびセルロースアシレート(B)の総アシル基置換度(DS(B))が下記式(1)および(2)を満たすことが、本発明の効果を発現させるという観点からは必須である。また、DS(A)がDS(B)よりも大きいことが好ましい。かような構成とすることで、フィルムを溶液製膜した際の支持体からのフィルムの剥離性が改善されるという利点も得られる。
なお、本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは、一対の(つまり、2つの)スキン層(A)を有するが、それぞれのスキン層(A)に含まれるセルロースアシレート(A)のそれぞれの総アシル基置換度(DS(A))がともに、上記式(1)を満たすことが必要である。なお、双方の総アシル基置換度(DS(A))がともに上記式(1)を満たしている限り、双方の総アシル基置換度(DS(A))の値は互いに異なっていてもよい。また、本発明の効果をよりいっそう顕著に発現させるという観点からは、DS(A)およびDS(B)が下記式(9)および(10)を満たすことがより好ましい。
また、フィルムの内部ヘイズを低減させるという観点からは、DS(A)およびDS(B)が下記式(3)を満たすことが必須である。
そして、フィルムの内部ヘイズをよりいっそう低減させるという観点からは、DS(A)およびDS(B)が下記式(11)を満たすことがより好ましい。
ここで、DS(A)とDS(B)との差が0.33よりも大きいと、スキン層(A)とコア層(B)とを積層した際にその界面で微細な相分離が発生し、内部ヘイズ値が上昇してフィルムの特性が劣化してしまうことが判明した。従来、セルロースアシレート積層フィルムはスキン層(A)およびコア層(B)の粘度調整や、流延条件の調整によりスキン層(A)とコア層(B)との界面でのヘイズの発生を抑制する検討が行われていたが、相分離を発生してしまう特性の樹脂をこれらの手法で改良するのには限界があったが、上記制御によって積層フィルムの内部ヘイズを改善することができたのである。
コア層(B)の総アシル基置換度(DS(B))は、低いほど位相差の発現性が向上し、フィルムの膜厚を薄くしても目的の位相差を得ることができるため好ましいが、フィルムの耐久性の観点からスキン層(A)が上記式(1)を満たしつつ、上記式(3)を満たし薄膜化できる総アシル基置換度は、鋭意検討を行った結果、上記式(2)の範囲であることが見出されたものである。
なお、セルロースアシレートの総アシル基置換度を求める最も一般的な方法は、ASTM−D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定方法である。
セルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)は100,000〜250,000が好ましく、150,000〜200,000がさらに好ましい。重量平均分子量(Mw)が100,000以上であれば、破断点伸度が十分高く確保される。一方、重量平均分子量(Mw)が250,000以下であれば、粘度の上昇が抑えられ、良好な濾過性が得られる。なお、セルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。測定条件は以下の通りである。
溶剤: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムに含まれるカルシウムおよびマグネシウムの総量(質量ppm)と酢酸量(質量ppm)とは下記式(12)を満たすことが好ましい。
カルシウムおよびマグネシウムは、フィルムの原料となるセルロースアシレートに含まれるが、セルロースアシレート製造過程に添加される酸触媒(特に硫酸)を中和・安定化するため、金属酸化物、金属水酸化物、金属塩(無機酸塩、有機酸塩)として添加されてもよい。またフィルム製膜時に金属酸化物、金属水酸化物、金属塩(無機酸塩、有機酸塩)として添加してもよい。本発明における「カルシウムおよびマグネシウムの総量(質量ppm)」とは、それらの合計量を指すものとする。
また、セルロースアシレートの製造過程においては、反応溶剤やエステル化剤として無水酢酸、酢酸が用いられる。未反応の無水酢酸は反応停止剤(水、アルコール、酢酸等)により加水分解され酢酸を生じる。本形態に係る「酢酸量(質量ppm)」は、それらの残留酢酸や、遊離酢酸の総量を指すものとする。
上記式(12)に示すように、酢酸量(質量ppm)/カルシウムおよびマグネシウムの総量(質量ppm)は1以上30以下である。この比の値が1以上のとき、酢酸量がカルシウムおよびマグネシウムの総量以上であることを意味するが、この場合にはカルシウムおよびマグネシウム金属塩による光散乱の発生が抑制され、コントラストの低下が防止されうる。また、この比の値が30以下のとき、カルシウムおよびマグネシウムの総量に対して酢酸が過剰でないことを意味するが、この場合にはセルロースアシレートを偏光子に貼り合わせた後の酢酸による偏光子の劣化が抑制されるため、好ましい。
なお、本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムに含まれるカルシウムおよびマグネシウムの総量(絶対値)は好ましくは5〜130質量ppmであり、より好ましくは5〜80質量ppmであり、さらに好ましくは5〜50質量ppmである。また、セルロースアシレート積層フィルムに含まれる酢酸量は、好ましくは20〜500質量ppmであり、より好ましくは25〜250質量ppmであり、さらに好ましくは30〜150質量ppmである。ここで、フィルムに含まれるカルシウムおよびマグネシウムの総量の測定には公知の方法を用いることができるが、例えば、乾燥したフィルムを完全に燃焼させた後、灰分を塩酸に溶解した前処理を行った上で原子吸光法により測定することができる。測定値は絶乾状態のフィルム1g中のカルシウムおよびマグネシウム含有量の合計として質量ppmを単位として得られる。また、フィルムに含まれる酢酸量の測定にも公知の方法を用いることができるが、例えば、フィルムをメチレンクロライドに溶解し、さらにメタノールを加えて再沈殿を行う。上澄み液をろ過し、その上澄み液をガスクロマトグラフィーにて測定することで、酢酸量を質量ppmを単位として得ることができる。
<マット剤(微粒子)>
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムにおいては、スキン層(A)の少なくとも一方がマット剤を含有することが好ましく、スキン層(A)の双方がマット剤を含有することが好ましい。「マット剤」とは、「微粒子」とも称され、フィルムに滑り性を付与する目的で添加される。すなわち、本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムにおいてスキン層(A)の少なくとも一方がマット剤(微粒子)を含むと、フィルムに滑り性が付与される。
マット剤(微粒子)の平均一次粒子径としては、20nm以下が好ましく、さらに好ましくは5〜16nmであり、特に好ましくは5〜12nmである。マット剤(微粒子)は0.1〜5μmの粒径の二次粒子を形成してフィルムに含まれることが好ましく、好ましい平均二次粒子径は0.1〜2μmであり、さらに好ましくは0.2〜0.6μmである。これにより、フィルム表面に高さ0.1〜1.0μm程度の凹凸を形成し、これによってフィルム表面に適切な滑り性を与えることができる。
なお、マット剤(微粒子)の平均一次粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡(倍率50万〜200万倍)で粒子の観察を行い、粒子100個を観察し、粒子径を測定しその平均値をもって、平均一次粒子径とする。
マット剤(微粒子)の見掛け比重としては、70g/リットル以上が好ましく、さらに好ましくは、90〜200g/リットルであり、特に好ましくは、100〜200g/リットルである。見掛け比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
一次粒子の平均粒子径が20nm以下、見掛け比重が70g/リットル以上の二酸化珪素微粒子は、例えば、気化させた四塩化珪素と水素を混合させたものを1000〜1200℃にて空気中で燃焼させることで得ることができる。また例えばアエロジル200V、アエロジルR972、アエロジルR972V(以上、日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、それらを使用することができる。
上記記載の見掛け比重は二酸化珪素微粒子を一定量メスシリンダーに採り、このときの重さを測定し、下記式(13)に従って算出したものである。
本発明に用いられるマット剤(微粒子)の分散液を調製する方法としては、例えば以下に示すような3種類が挙げられる。
《調製方法A》
溶剤と微粒子を攪拌混合した後、分散機で分散を行う。これを微粒子分散液とする。微粒子分散液をドープ液に加えて攪拌する。
《調製方法B》
溶剤と微粒子を攪拌混合した後、分散機で分散を行う。これを微粒子分散液とする。別に溶剤に少量のセルロースアシレートを加え、攪拌溶解する。これに前記微粒子分散液を加えて攪拌する。これを微粒子添加液とする。微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する。
《調製方法C》
溶剤に少量のセルロースアシレートを加え、攪拌溶解する。これに微粒子を加えて分散機で分散を行う。これを微粒子添加液とする。微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する。
調製方法Aは二酸化珪素微粒子の分散性に優れ、調製方法Cは二酸化珪素微粒子が再凝集しにくい点で優れている。中でも、上記記載の調製方法Bは二酸化珪素微粒子の分散性と、二酸化珪素微粒子が再凝集しにくい等、両方に優れている好ましい調製方法である。
《分散方法》
二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5質量%〜30質量%が好ましく、10質量%〜25質量%が更に好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度は高い方が、添加量に対する液濁度は低くなる傾向があり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
使用される溶剤は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶剤としては特に限定されないが、セルロースアシレートの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
スキン層(A)におけるマット剤(微粒子)の添加量は、それぞれのスキン層(A)に含まれるセルロースアシレート(A)100質量部に対して、好ましくは0.01〜5.0質量部であり、より好ましくは0.05〜1.0質量部であり、さらに好ましくは0.1〜0.5質量部である。添加量が多いと動摩擦係数に優れ、添加量が少ないと凝集物が少なくなる。
分散機としては通常の分散機が使用できる。分散機は大きく分けてメディア分散機とメディアレス分散機に分けられる。二酸化珪素微粒子の分散にはメディアレス分散機がヘイズ低減性能に優れるため好ましい。メディア分散機としてはボールミル、サンドミル、ダイノミルなどが挙げられる。
メディアレス分散機としては超音波型、遠心型、高圧型などがあるが、本発明においては高圧分散装置が好ましい。高圧分散装置は、微粒子と溶剤を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
高圧分散装置で処理する場合、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が9.807MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは19.613MPa以上である。またその際、最高到達速度が100m/秒以上に達するもの、伝熱速度が420kJ/時間以上に達するものが好ましい。
上記のような高圧分散装置には、Microfluidics Corporation社製超高圧ホモジナイザ(商品名マイクロフルイダイザ)またはナノマイザ社製ナノマイザがあり、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えば、イズミフードマシナリ製ホモジナイザ、三和機械(株)製UHN−01等が挙げられる。
また、流延によってフィルムを作製する場合には、マット剤(微粒子)を含むドープを流延支持体に直接接するように流延することが、滑り性が高く内部ヘイズが低いフィルムが得られるので好ましい。
<位相差調整剤>
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムの他の特徴は、スキン層(A)の双方およびコア層(B)が位相差調整剤を含有するという点にある。ここで、「位相差調整剤」とは、添加量を調節することにより、得られる積層フィルムの位相差(Reおよび/またはRth)の発現の程度を調整するという機能を有する添加剤の総称である。位相差調整剤としては、糖エステル化合物、非リン酸エステル系の化合物、アクリル系化合物が挙げられる。以下、これらの具体的な形態について説明するが、下記の形態のみには限定されず、その他の位相差調整剤が用いられてもよい。
〈糖エステル化合物〉
糖エステル化合物はオクタノール−水分配係数(logP)の平均値(平均logP値)が7以上11未満のものが好ましい。平均logP値が7以上であれば、偏光板製造の際の鹸化耐性が十分に確保され、また平均logP値が11未満であれば、セルロースアシレートとの相溶性が十分に確保される結果、湿熱によるブリードアウトの発生が防止される。ここで、「logP値」とは、n−オクタノールおよび水からなる二相溶媒系の各相へのある物質の分配濃度の比の値の常用対数として定義される。そして、「平均logP値」としたのは、糖エステル化合物が複数の化合物の混合物として用いられる場合を考慮したものであり、かような場合において「平均logP値」は、混合物を構成する各化合物の固有のlogP値をまず求めた後、混合物における各化合物の混合比率(質量比)によって重みづけすることにより算出される。なお、本明細書において、logP値としては、JIS Z−7260−107:2000に記載のフラスコ振盪法により測定が可能である。また、logP値については、実測に代わって、計算化学的手法または経験的方法により見積もることも可能である。
計算方法としては、Crippen’s fragmentation法(“J.Chem.Inf.Comput.Sci.”,27巻、p21(1987年))、Viswanadhan’s fragmentation法(“J.Chem.Inf.Comput.Sci.”,29巻、p163(1989年))、Broto’s fragmentation法(“Eur.J.Med.Chem.−Chim.Theor.”,19巻、p71(1984年))、CLogP法(参考文献Leo,A.,Jow,P.Y.C.,Silipo,C.,Hansch,C.,J.Med.Chem.,18,865 1975年)などが好ましく用いられるが、Crippen’s fragmentation法(“J.Chem.Inf.Comput.Sci.”,27巻、p21(1987年))がより好ましい。ただし、上述したフラスコ振盪法による測定値と計算化学的手法または経験的方法によって見積もられた値とが有意に異なる場合には、フラスコ振盪法による測定値が優先するものとする。
本発明において用いられうる糖エステル化合物のlogP値は、好ましくは7.5以上であり、より好ましくは8.0以上であり、さらに好ましくは9.0以上であり、特に好ましくは9.5以上である。糖エステル化合物のlogP値がかような範囲内の値であると、少ない添加量でも優れた位相差調整作用が発揮されうる。このため、添加剤を多量に添加せざるを得ない場合などに発生するブリードアウト等の問題の発生が防止されうる。一方、糖エステル化合物のlogP値の上限値について特に制限はないが、セルロースアシレートとの相溶性という観点からは、通常は13.0以下程度であることが好ましい。
糖エステル化合部は、例えば、ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造の水酸基の一部がエステル化されたエステル化合物の混合物を好ましく用いることができる。
ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造の水酸基のすべてまたは一部をエステル化したエステル化合物のエステル化の割合としては、ピラノース構造またはフラノース構造内に存在する水酸基の70%以上であることが好ましい。
本発明に用いられる糖エステル化合物を構成する糖の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない:グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノース、ケストース。このほか、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。これらの化合物のなかでも、特にピラノース構造およびフラノース構造の双方を有する化合物が好ましい。例としては、スクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、さらに好ましくはスクロースである。
ピラノース構造またはフラノース構造中の水酸基のすべてまたは一部をエステル化するのに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種単独でもよいし、2種以上の混合であってもよい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体が挙げられ、より具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸が挙げられ、特に安息香酸およびナフチル酸が好ましい。
オリゴ糖のエステル化合物を、「ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1〜12個を有する化合物」として適用することもできる。
オリゴ糖は、澱粉、ショ糖等にアミラーゼ等の酵素を作用させて製造されるもので、本発明に適用できるオリゴ糖としては、例えば、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖が挙げられる。
また、前記エステル化合物は、下記一般式(A)で表されるピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下縮合した化合物である。ただし、R11〜R15、R21〜R25は、炭素数2〜22のアシル基または水素原子を表し、m、nはそれぞれ0〜12の整数であり、m+nは1〜12の整数を表す。
R11〜R15、R21〜R25は、ベンゾイル基または水素原子であることが好ましい。ベンゾイル基はさらに置換基R26を有していてもよく、R26としては例えばアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、フェニル基が挙げられ、さらにこれらのアルキル基、アルケニル基、フェニル基は置換基を有していてもよい。オリゴ糖も本発明のエステル化合物と同様な方法で製造することができる。
以下に、本発明に係る糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
〈非リン酸エステル系の化合物〉
前述の糖エステル以外の非リン酸エステル系の化合物を位相差調整剤として用いてもよい。このような非リン酸エステル系の化合物を含むことにより、本形態に係るフィルムは低ヘイズ化されうるという効果もある。また、本明細書中、「非リン酸エステル系の化合物」とは、「エステル結合を有する化合物であって、該エステル結合に寄与する酸がリン酸以外である化合物」を意味する。すなわち、「非リン酸エステル系の化合物」は、リン酸を含まず、エステル系である、化合物を意味する。
また、前記非リン酸エステル系の化合物は、低分子化合物であっても、ポリマー(高分子化合物)であってもよい。以下、ポリマー(高分子化合物)である非リン酸エステル系の化合物のことを、非リン酸エステル系ポリマーとも称する。
非リン酸エステル系の化合物として用いられる高分子量添加剤は、その化合物中に繰り返し単位を有するものであり、数平均分子量が700〜10000のものが好ましい。高分子量添加剤は、溶液流延法において、溶媒の揮発速度を速める機能や、残留溶媒量を低減する機能も有する。さらに、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
ここで、非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤の数平均分子量は、より好ましくは700〜8000であり、さらに好ましくは700〜5000であり、特に好ましくは1000〜5000である。
以下、本発明に用いられる非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、本発明で用いられる非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤がこれらのものに限定されるわけではない。
非リン酸エステル系の化合物である高分子系添加剤としては、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)、ポリエステル系成分と他の成分の共重合体などが挙げられ、脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とアクリル系ポリマーの共重合体およびポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とスチレン系ポリマーの共重合体が好ましく、少なくとも共重合成分の1つとして芳香族環を含有するポリエステル化合物であることがより好ましい。
前記脂肪族ポリエステル系ポリマーとしては、炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸と、炭素数2〜12の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のジオールとの反応によって得られるものが挙げられる。ここで、反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸類やモノアルコール類またはフェノール類を反応させて、いわゆる末端封止を実施してもよい。この末端封止は、特に遊離のカルボン酸類を含有させないために実施されることが保存性などの点で有効である。ポリエステル系ポリマーに使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
本発明で好ましく用いられる炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
これらのなかでも好ましい脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。また、脂肪族ジカルボン酸成分として特に好ましくはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸である。
前記高分子量添加剤に利用されるジオールは、例えば、炭素数2〜20の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれるものである。
炭素原子2〜20の脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールおよび脂環式ジオール類を挙げることができ、例えば、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−
ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等が挙げられる。これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくはエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールとしては、好ましくは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。その平均重合度は、特に限定されないが好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、さらには2〜5であり、特に好ましくは2〜4である。これらの例として、典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics) レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。
本発明においては、特に末端がアルキル基または芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましい。これは、末端を疎水性官能基で保護することにより、高温高湿での経時劣化に対して有効であり、エステル基の加水分解を遅延させる役割を示すためである。
本発明のポリエステル添加剤の両末端がカルボン酸や水酸基とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。
この場合、モノアルコールとしては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
好ましく使用されうる末端封止用アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールであり、特にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ベンジルアルコールである。
また、モノカルボン酸残基で封止する場合、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族環含有カルボン酸でもよい。好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族環含有モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等が挙げられ、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
高分子量添加剤の合成は、常法により上記脂肪族ジカルボン酸とジオールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系添加剤については、村井孝一編者「添加剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
前記芳香族ポリエステル系ポリマーは、前記ポリエステルポリマーに芳香環を有するモノマーを共重合することによって得られる。芳香環を有するモノマーとしては、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸、炭素数6〜20の芳香族ジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のモノマーである。炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸等がある。これらのなかでも好ましい芳香族ジカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、である。
炭素数6〜20の芳香族ジオールとしては、特に限定されないがビスフェノールA、1,2−ヒドロキシベンゼン、1,3−ヒドロキシベンゼン、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールが挙げられ、好ましくはビスフェノールA、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールである。
本発明では、芳香族ポリエステル系ポリマーは前述のポリエステルに芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールのそれぞれの少なくとも1種を組み合わせて用いられるが、その組み合わせは特に限定されるものではなく、それぞれの成分を数種類組み合わせても問題ない。本発明においては、前述のように、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましく、封止には前述の方法を使用することができる。
〈アクリル系化合物〉
セルロースアシレート積層フィルムには、アクリル系化合物(以下、「アクリルポリマー」とも称する)を位相差調整剤として添加してもよい。このアクリル系化合物(アクリルポリマー)は、延伸時のヘイズの上昇や位相差の安定性の観点からは、重量平均分子量が500以上30000以下であることが好ましい。なかでも分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有さず親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーX、より好ましくは、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有さず親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーXと、芳香環を有しないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下のポリマーYとを含有することが好ましい。
(ポリマーX)
ポリマーXは分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有さず親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーである。
好ましくは、Xaは分子内に芳香環と親水性基を有しない(メタ)アクリルモノマーであり、Xbは分子内に芳香環を有さず親水性基を有する(メタ)アクリルモノマーである。
ポリマーXは、下記一般式(X)で表されるものである。
一般式(X)において、Xaは分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーを表し、Xbは分子内に芳香環を有さず親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーを表し、XcはXa、Xbと共重合可能なモノマー単位を表す。m、nおよびpは、モル組成比を表す。ただしm≠0、n≠0、m+n+p=100である。
ポリマーXは、下記一般式(X−1)で表されるものであることが好ましい。
式中、R1、R3は、水素原子またはメチル基を表し、R2は炭素数1〜12のアルキル基または炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、R4は−CH2−、−C2H4−または−C3H6−を表す。Xcは、Xa、Xbと共重合可能なモノマー単位を表す。m、nおよびpは、モル組成比を表す。ただしm≠0、n≠0、m+n+p=100である。
ポリマーXにおいて、「親水性基」とは、水酸基、およびポリオキシアルキレン鎖(例えば、ポリオキシエチレン鎖)を有する基をいう。
分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。なかでも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル(i−、n−)であることが好ましい。
分子内に芳香環を有さず親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbは、水酸基を有するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)である。
Xcとしては、Xa、Xb以外のものでかつ共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はないが、芳香環を有していないものが好ましい。
XaとXbとのモル組成比(m:n)は99:1〜65:35の範囲が好ましく、さらに好ましくは95:5〜75:25の範囲である。XaとXbとのモル組成比がこの範囲内の値であれば、セルロースアシレートとの相溶性を確保しつつフィルム厚み方向の位相差値Rtが大きくなりすぎるのを抑えることができる。また、Xbのモル組成比がこの範囲内の値であれば、製膜時のヘイズの発現も抑えることができる。なお、Xcのモル組成比(p)は0〜10である。また、Xcは複数のモノマー単位であってもよい。
ポリマーXの分子量は重量平均分子量が5000以上30000以下であり、さらに好ましくは8000以上25000以下である。ポリマーXの重量平均分子量を5000以上とすることにより、ポリマーXが添加される層(スキン層(A)および/またはコア層(B))の高温高湿下における寸法変化が低減され、位相差フィルムとして用いた場合にカールが少ない等の利点が得られるため、好ましい。重量平均分子量が30000以下であれば、セルロースアシレートとの相溶性がより向上し、高温高湿下におけるブリードアウトが防止され、さらに延伸時におけるヘイズの発生も抑制される。
ポリマーXの重量平均分子量(Mw)は、公知の分子量調節方法で調整することができる。そのような分子量調節方法としては、例えば四塩化炭素、ラウリルメルカプタン、チオグリコール酸オクチル等の連鎖移動剤を添加する方法等が挙げられる。また、重合温度は通常室温から130℃、好ましくは50℃から100℃で行われるが、この温度または重合反応時間を調整することで可能である。
なお、ポリマーXの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。測定条件はセルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)の測定条件として上述した通りである。
(ポリマーY)
ポリマーYは芳香環を有しないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下のポリマーである。重量平均分子量500以上ではポリマーの残存モノマーが減少するため好ましい。また、重量平均分子量が3000以下であれば、膜厚方向の位相差Rthを低下させる性能が維持されうる。Yaは、好ましくは芳香環を有さない(メタ)アクリルモノマーである。ポリマーYは、下記一般式(Y)で表されるものである。
一般式(Y)において、Yaは芳香環を有しないエチレン性不飽和モノマーを表し、YbはYaと共重合可能なモノマー単位を表す。kおよびqは、モル組成比を表す。ただしk≠0、k+q=100である。
ポリマーYは、下記一般式(Y−1)で表されるものであることが好ましい。
一般式(Y−1)において、R5は水素原子またはメチル基を表し、R6は炭素数1〜12のアルキル基または炭素数3〜12のシクロアルキル基を表す。また、Ybは、Yaと共重合可能なモノマー単位を表す。kおよびqは、モル組成比を表す。ただしk≠0、k+q=100である。
Ybは、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はない。Ybは複数であってもよい。qは好ましくは0〜30である。
芳香環を有しないエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマーYを構成するエチレン性不飽和モノマーYaは、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたもの;不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
Ybは、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はないが、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル等が好ましい。Ybは複数であってもよい。
ポリマーX、Yを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量を余り大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、さらに特開2000−128911号または特開2000−344823号公報にあるような1つのチオール基と第2級水酸基とを有する化合物、または、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等が挙げられ、いずれも本発明において好ましく用いられるが、特に、ポリマーYは、分子中にチオール基と第2級水酸基とを有する化合物を連鎖移動剤として使用する重合方法が好ましい。この場合、ポリマーYの末端には、重合触媒および連鎖移動剤に起因する水酸基、チオエーテルを有することとなる。この末端残基により、Yとセルロースアシレートとの相溶性を調整することができる。
ポリマーXおよびポリマーYの水酸基価は、ともに30〜150[mgKOH/g]であることが好ましい。これらのポリマーの水酸基価は、JIS K 0070(1992)に準拠して測定される。具体的には、この水酸基価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。具体的には試料Xg(約1g)をフラスコに精秤し、これにアセチル化試薬(無水酢酸20mLにピリジンを加えて400mLにしたもの)20mLを正確に加える。フラスコの口に空気冷却管を装着し、95〜100℃のグリセリン浴にて加熱する。1時間30分後、冷却し、空気冷却管から精製水1mLを加え、無水酢酸を酢酸に分解する。次に電位差滴定装置を用いて0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。さらに空試験として、試料を入れないで滴定し、滴定曲線の変曲点を求める。水酸基価は、下記式(14)によって算出する。
式中、Bは空試験に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、Cは滴定に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、fは0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Dは酸価、28.05は水酸化カリウムの1mol量56.11の1/2を表す。
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムのスキン層(A)およびコア層(B)に含まれる位相差調整剤の量について特に制限はなく、所望の位相差調整効果に応じて適宜決定されうる。ただし、積層フィルムの内部ヘイズを低下させ、かつセルロースアシレート積層フィルムの耐久性を向上させるという観点から、スキン層(A)の双方における位相差調整剤の含有量は、それぞれのスキン層(A)に含まれるセルロースアシレート(A)100質量部に対して5〜15質量部であることが好ましい。また、コア層(B)における前記位相差調整剤の含有量は、コア層(B)に含まれるセルロースアシレート(B)100質量部に対して5〜20質量部であることが好ましい。
<その他の添加剤>
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは、上述したもの以外にも種々の添加剤を含みうる。以下、そのいくつかについて説明するが、これらに制限されることはない。
〈可塑剤〉
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは、可塑剤を含んでもよい。可塑剤としては、セルロースアシレートの可塑剤として知られる多くの化合物が好適に用いられうる。可塑剤として、例えば、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが挙げられる。リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が挙げられる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルとしては、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が挙げられる。クエン酸エステルとしては、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が挙げられる。その他のカルボン酸エステルとしては、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが挙げられる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられ、DEPおよびDPPが特に好ましい。
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムのスキン層(A)またはコア層(B)に含まれる可塑剤の量について特に制限はなく、所望の可塑作用に応じて適宜決定されうる。ただし、スキン層(A)の双方における可塑剤の含有量は、それぞれのスキン層(A)に含まれるセルロースアシレート(A)100質量部に対して5〜15質量部であることが好ましい。また、コア層(B)における可塑剤の含有量は、コア層(B)に含まれるセルロースアシレート(B)100質量部に対して5〜20質量部であることが好ましい。
〈位相差上昇剤〉
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは、位相差上昇剤を含んでもよい。ここで、「位相差上昇剤」とは、位相差を上昇させる機能を有する添加剤の総称である。位相差上昇剤としては、棒状化合物からなるものや、シクロアルカンまたは芳香族環といった環状構造を有する化合物からなるものが挙げられる。環状構造を有する化合物としては、円盤状化合物が好ましい。上記棒状化合物または円盤状化合物としては、少なくとも2つの芳香族環を有する化合物が好ましい。なお、上述した位相差調整剤のなかには、位相差上昇剤としての機能も有するものが存在する(例えば、非リン酸エステル系の化合物など)が、本願においてかような化合物は位相差調整剤として分類し、位相差上昇剤の概念には含めないものとする。
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムのスキン層(A)またはコア層(B)に含まれる位相差上昇剤の量について特に制限はなく、所望の位相差上昇作用に応じて適宜決定されうる。ただし、スキン層(A)の双方における位相差上昇剤の含有量は、それぞれのスキン層(A)に含まれるセルロースアシレート(A)100質量部に対して0.1〜3.0質量部であることが好ましい。また、コア層(B)における位相差上昇剤の含有量は、コア層(B)に含まれるセルロースアシレート(B)100質量部に対して0.1〜3.0質量部であることが好ましい。なかでも、本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムにおいては、添加した位相差上昇剤が経時でフィルム表面にブリードアウトする虞が小さいという観点からは、コア層(B)が位相差上昇剤を必須に含有することが好ましい。
〈剥離促進剤〉
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは、剥離促進剤を含むことが、より剥離性と高める観点から好ましい。剥離促進剤としては、公知のものが採用でき、有機、無機の酸性化合物、界面活性剤、キレート剤等を使用することができる。なかでも、多価カルボン酸およびそのエステルが効果的であり、特に、クエン酸のエチルエステル類が効果的に使用することができる。
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムのスキン層(A)またはコア層(B)に含まれる剥離促進剤の量について特に制限はなく、所望の剥離促進作用に応じて適宜決定されうる。ただし、スキン層(A)の双方における剥離促進剤の含有量は、それぞれのスキン層(A)に含まれるセルロースアシレート(A)100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましく、0.005〜0.5質量部であることがより好ましく、0.01〜0.3質量部であることがさらに好ましい。剥離促進剤の含有量が上述した下限値以上の値であれば、所望の剥離促進効果を発揮することができる。また、その含有量が上述した上限値以下の値であれば、剥離促進剤のフィルムからの分離等が発生しにくいため、好ましい。また、コア層(B)における剥離促進剤の含有量についても上記と同様である。ただし、本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムにおいては、フィルムの製造時に流延ベルトと接する側(いわゆるB面側)のスキン層(A)が上述した含有量で剥離促進剤を必須に含有することが好ましい。
〈紫外線吸収剤〉
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは、紫外線吸収剤を含有することもできる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である。
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖および側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328等のチヌビン類があり、これらはいずれもBASFジャパン社製の市販品であり好ましく使用できる。
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
この他、1,3,5トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは紫外線吸収剤を2種以上含有することが好ましい。
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶剤あるいはこれらの混合溶剤に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。
無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースアシレート中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、セルロースアシレート積層フィルムの全量100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましく、0.6〜4質量部がさらに好ましい。
〈酸化防止剤〉
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは、酸化防止剤を含有することもできる。酸化防止剤は「劣化防止剤」とも称される添加剤であり、高湿高温の状態に液晶画像表示装置などが置かれた場合に生じるフィルムの劣化を防止する機能を有する添加剤である。
酸化防止剤としては、例えば、フィルム中の残留溶剤に含まれるハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等によりフィルムが分解するのを遅らせたり防いだりする役割を有するため、本形態に係るフィルムにおいても好ましく添加されうるのである。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。
特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
これらの酸化防止剤の含有量は、セルロースアシレート積層フィルムの全量100質量部に対して、0.0001質量〜1.0質量%が好ましく、0.001〜0.1質量部がさらに好ましい。
<セルロースアシレート積層フィルムの物性>
(膜厚)
セルロースアシレート積層フィルムの膜厚について特に制限はなく、薄膜化に対する要求やそれに耐えうる物性等を考慮して適宜設定されうる。一例として、コア層(B)の平均膜厚は、好ましくは20〜50μmであり、より好ましくは30〜40μmである。また、スキン層(A)の少なくとも一方の平均膜厚はコア層(B)の平均膜厚の0.6%以上5%未満であることが好ましく、1〜3%であることがより好ましい。この割合が0.5%以上であれば剥離性が十分確保され、スジ状のムラ、フィルムの膜厚不均一、光学特性不均一などが抑制され、5%未満であればコア層(B)の光学発現性を有効に利用することができ、積層フィルムが十分な光学特性を得ることができる。なお、スキン層(A)の膜厚(絶対値)は、好ましくは0.6〜5.0μmであり、より好ましくは1.0〜3.0μmである。
また、セルロースアシレート積層フィルムにおける一対のコア層(A)およびスキン層(B)の平均膜厚の合計は、好ましくは0.6〜5.0μmであり、より好ましくは1.0〜3.0μmである。なお、コア層(A)の平均膜厚およびスキン層(B)のそれぞれの平均膜厚は、膜厚計を用いて10点以上の測定を行い、これらの測定値の相加平均値として算出される値である。
(内部ヘイズ)
セルロースアシレート積層フィルムの内部ヘイズは、0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.03以下である。従来、CR(コントラスト)を改良させるためにはフィルムの内部ヘイズを低下させることが必要であるとされてきたが、ヘイズをフィルム内部のものと表面のものに分離した場合その改善効果が内部のものの方が大きいということがわかってきた。内部ヘイズとは、フィルムの内部の散乱因子により発生するヘイズであり、内部とは、フィルム表面から0.1μm以上の部分である。この内部ヘイズは、フィルム屈折率±0.05の屈折率の溶剤をフィルム界面に滴下して、フィルム表面のヘイズをできるだけ無視できる状態にして、ヘイズメーターにより測定される。内部ヘイズ測定装置としてはヘイズメーター(濁度計)(型式:NDH 2000、日本電色(株)製)を用い、光源としては5V9Wハロゲン球を用い、受光部にはシリコンフォトセル(比視感度フィルター付き)を用いる。また、測定はJIS K−7136に準拠して後述する実施例に記載の手法により行うものとする。
また、セルロースアシレート積層フィルムを延伸した際にスキン層(A)とコア層(B)との微小な界面での相分離や界面の破壊といった問題の発生を防止し、かつ内部ヘイズをより低下させることができるという観点からは、スキン層(A)の少なくとも一方のガラス転移温度(Tg(A))が、コア層(B)のガラス転移温度(Tg(B))との間で下記式(4)を満たすことが好ましく、下記式(15)を満たすことがより好ましい。
なお、スキン層(A)およびコア層(B)のそれぞれのガラス転移温度の値としては、後述する実施例に記載の手法により測定される値を採用するものとする。
セルロースアシレート積層フィルムは、生産性および搬送が容易であるという観点から、好ましくは幅1〜4mのものが用いられる。より好ましくは幅1.4〜4mのものが用いられ、特に好ましくは1.6〜3mである。
セルロースアシレート積層フィルムの透湿度は、40℃、90%RHで300〜1800g/m2・24hが好ましく、さらに400〜1500g/m2・24hが好ましく、40〜1300g/m2・24hが特に好ましい。透湿度はJIS‐Z‐0208に記載の方法に従い測定することができる。
セルロースアシレート積層フィルムの破断伸度は5〜80%であることが好ましく10〜50%であることがさらに好ましい。
セルロースアシレート積層フィルムの可視光透過率は90%以上であることが好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。
セルロースアシレート積層フィルムの有する位相差について、波長630nmにおける面内方向の位相差Re(630)、および波長450nmにおける面内方向の位相差Re(450)は、下記式(5)を満たすことが好ましい。これはセルロースアシレート積層フィルムが逆波長分散性を有することを意味し、カラーシフトの発生を防止することによる視野角特性の改善に寄与しうる。
また、波長590nmにおける面内方向の位相差Re(590)は下記式(6)を満たすことが好ましい。また、波長590nmにおける膜厚方向の位相差Rth(590)は下記式(7)を満たすことが好ましい。これにより、液晶表示装置(特に、VAモードの液晶表示装置および/または大型の液晶表示装置)に好適に適用されうるフィルムが得られる。
さらに、波長630nmにおける膜厚方向の位相差Rth(630)、および波長450nmにおける膜厚方向の位相差Rth(450)は下記式(8)を満たすことが好ましい。これは位相差の波長分散が逆波長分散であるということを意味し、カラーシフト改善に寄与しうる。
また、23℃55%RH及び50℃20%RHの環境にて調湿した後、同環境でそれぞれ測定した位相差値(Rt)の比を取り、位相差値変動を測定した際のRthの変動や分布の幅は±50%未満であることが好ましく、±30%未満であることが好ましく、±20%未満であることがより好ましい。±15%未満であることがさらに好ましく、±10%未満であることがいっそう好ましく、±5%未満であることがさらに好ましく、±1%未満であることが特に好ましい。最も好ましくはRthの変動がないことである。
なお、位相差値ReおよびRthは下記式(16)および下記式(17)によって求めることができる。
式(16)および式(17)において、dはフィルムの膜厚(nm)を表し、nxはフィルムの面内の最大の屈折率(遅相軸方向の屈折率ともいう)を表し、nyはフィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率を表し、nzはフィルムの厚み方向におけるフィルムの屈折率を表す。また、位相差値ReおよびRthは自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、所望の測定波長(例えば、450nm、590nm、および630nm)で求めることができる。
本形態に係るセルロースアシレート積層フィルムは、その表面に鹸化処理などの表面活性化処理を施されていないものであることが好ましい。
≪セルロースアシレート積層フィルムの製造方法≫
上述した形態のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法について特に制限はない。例えば、スキン層(A)を形成するためのドープAおよびコア層(B)を形成するためのドープBをそれぞれ調製し、これらを溶液流延法や溶融流延法などの流延技術を用いて逐次に製膜または同時に製膜(共流延)することで、セルロースアシレート積層フィルムの製造が可能である。本発明における好ましい製造方法は、以下の工程を含む:
・セルロースアシレート(A)および位相差調整剤を含むドープ(A)と、セルロースアシレート(B)および位相差調整剤を含むドープ(B)とを調製する工程;
・上記で調製されたドープ(A)およびドープ(B)を、ドープ(A)がスキン層(A)となり、ドープ(B)がコア層(B)となるように支持体上に流延してウェブを形成する工程;並びに、
・形成されたウェブを支持体から剥離し、残留溶媒量が5質量%以上の状態で、当該ウェブを「コア層(B)のTg−30」℃以上の温度で延伸する工程。
ここで、セルロースアシレート(A)およびセルロースアシレート(B)は、上述したのと同様のものである。すなわち、セルロースアシレート(A)の総アシル基置換度(DS(A))およびセルロースアシレート(B)の総アシル基置換度(DS(B))は、下記式(1)〜(3)を満たす:
以下では、このような製造方法を溶液流延法により実施する場合を例に挙げて、セルロースアシレート積層フィルムの製造方法を具体的に説明するが、かような形態のみには制限されない。
<ドープの調製>
まず、セルロースアシレート、添加剤および有機溶媒を溶解釜中で攪拌しながら溶解し、ドープを調製する。溶解方法としては特に制限はなく、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、冷却溶解法で行う方法、高圧で行う方法等種々の溶解方法が採用できる。
本形態の製造方法では、ドープ(A)およびドープ(B)の少なくとも2種類のドープを調製する。ドープ(A)は、セルロースアシレート(A)および位相差調整剤を含む。一方、ドープ(B)は、セルロースアシレート(B)および位相差調整剤を含む。
ドープ(A)はスキン層(A)を構成するためのものであり、ドープ(B)はコア層(B)を構成するためのものである。フィルム構成はA/B/Aのように両スキン層を構成するドープ処方が同じでもよいし、例えばA1/B/A2のように両スキン層のドープ処方が異なっていてもよい。
ドープ(A)およびドープ(B)中への添加剤の添加方法としては、溶解釜中に添加してもよいし、溶解釜〜共流延ダイまでの間で添加剤や添加剤を溶解または分散した溶液を、送液中のドープに添加してもよい。後者の場合は混合性を高めるため、スタチックミキサー等の混合手段を設けることが好ましい。
セルロースアシレートには未酢化物等の不純物が含まれている場合があることから、上記のようにしてセルロースアシレートを有機溶媒に溶解した後、ドープを濾材で濾過することが好ましい。例えばフィルタープレス型の濾過装置を用いて、粗いフィルターから精細なフィルターへドープを通過させることで実施できる。濾過の操作はドープを循環させて繰り返し行ってもよい。用いる濾紙としては、例えば安積濾紙製のNo.142451、No.244、No.260の各グレードの濾紙を積層したものが好ましい。濾過流量はゆっくりである程ゲル等の通過を防げるので好ましい。通常毎分5L/m2以下とするのが好ましい。濾過圧力は小さい程、ゲル等の通過を防げるので好ましい。通常2MPa以下が好ましい。また、メタルファイバータイプのリーフディスク型フィルターも好ましく用いることができる。例えば日本精線製NF−06D2やNF12Nなどが挙げられる。フィルタープレスとリーフディスク型のフィルターは併用してもよい。
濾過されたドープは、ドープタンクに送液され静置され常法により脱泡される。例えばドープを30℃〜溶媒の沸点の温度で数時間静置することで脱泡できる。
<流延>
続いて、上記で調製されたドープ(A)およびドープ(B)を、ドープ(A)がスキン層(A)となり、ドープ(B)がコア層(B)となるように支持体上に逐次流延または同時共流延する。これにより、ウェブが形成される。
流延は、溶液流延法(ソルベントキャスト法)により実施することが好ましい。溶液流延法を利用したセルロースアシレートフィルムの製造例については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号および同2,739,070号の各明細書、英国特許第640731号および同736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号および同62−115035号等の公報を参考にすることができる。
溶液流延の方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるが、いずれも好ましく用いることができる。またここで挙げた方法以外にも、従来知られているセルロースアシレート溶液を流延製膜する種々の方法で実施することができる。
(共流延)
流延の手法について特に制限はなく、共流延法、逐次流延法、塗布法などの積層流延法を用いることが好ましく、特に同時共流延法を用いることが安定製造および生産コスト低減の観点からは特に好ましい。
共流延法(重層同時流延)は、流延用支持体(バンドまたはドラム)の上に、各層(3層またはそれ以上でもよい)各々の流延用ドープを別のスリットなどから同時に押出す流延用ギーサから押出して各層同時に流延し、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥してウェブを形成する流延法である。図1は、共流延用ダイを用いて同時共流延により3層構造のセルロースアシレート積層フィルムを流延するときの一例を示す概略図である。図1には、共流延ギーサ3を用いて、流延用の支持体4の上にスキン層(A)用のドープ(A)1とコア層(B)用のドープ(B)2とを3層同時に押出して同時共流延法により流延する状態が断面図として示されている。
逐次流延法は、流延用支持体の上にまず第1層(例えば、一方のスキン層(A))用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して、流延し、乾燥あるいは乾燥することなく、その上に第2層(例えば、コア層(B))用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して流延する要領で、必要なら第3層(例えば、他方のスキン層(A))以上まで逐次ドープを流延・積層して、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを形成する流延法である。
塗布法では、一般に、コア層(B)のフィルムを溶液製膜法により成形する。そして、スキン層(A)用の塗布液を調製し、当該塗布液を得られたフィルムの両面に適当な塗布機を用いて片面ずつまたは両面同時に塗布・乾燥して積層構造のフィルムをウェブとして形成する。
本形態に係る製造方法に用いられる支持体としては、無限に移送する無端の金属ベルト(バンド)または回転する金属ドラムなどがある。流延用支持体の表面は鏡面が好ましい。流延膜が接地する際の両端部(製品にならない部分)は、ウェブを支持体から剥離しやすくするために粗面化加工することが好ましい。共流延ダイとしては、共流延が可能な構造であれば制限はなく、例えばコートハンガーダイやTダイ等が好ましく用いられうる。マルチマニホールドタイプダイでもよいしフィードブロックタイプダイでもよい。使用されるダイは、支持体の上方に1基または2基以上の設置でもよい。好ましくは1基または2基である。2基以上設置する場合には、流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合に分けてもよく、複数の精密定量ギアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられるドープの温度は−10〜55℃が好ましく、より好ましくは25〜50℃である。その場合、工程のすべての溶液温度が同一でもよく、または工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
流延後には、ウェブ(支持体上にドープを流延した以降のドープ膜)を支持体上で加熱して支持体からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させることが好ましい。そのための手法としては、ウェブ側から風を吹かせる方法および/または支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が乾燥効率の観点からは好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。
<剥離・乾燥・延伸>
(剥離)
続いて、上記で形成されたウェブを支持体から剥離させる。この際、剥離する時点でのウェブの残留溶媒量があまり大き過ぎると剥離しにくくなる虞がある。一方、支持体上で充分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブの一部が裂けてしまう虞もある。
製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離するため製膜速度を上げることができる)として、残留溶媒量が多くとも剥離できるゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。この方法としては、ドープ中にセルロースアシレートに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。また、ドープ中に金属塩を加える方法もある。支持体上でゲル化させてウェブを強くすることによって、剥離を早め、製膜速度を上げることができるのである。残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合には、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性が損なわれたり、剥離張力によるツレや縦スジが発生しやすくなったりすることから、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
ウェブを支持体から剥離する際のウェブ温度については特に制限はないが、好ましくは10〜40℃であり、より好ましくは11〜30℃である。また、剥離位置におけるウェブの残留溶媒量を10〜120質量%とした時点でウェブを剥離することが好ましい。ウェブの剥離時の残留溶媒量をこの範囲にするには、流延後の支持体の表面温度を制御し、ウェブからの有機溶媒の蒸発を効率的に行えるように上記温度範囲にする方法が好ましく用いることができる。支持体温度を制御するには、伝熱効率のよい伝熱方法を使用するのがよい。例えば、液体による裏面伝熱方法が好ましい。ベルト(支持体)マシンにおいて、移送するベルトが下側にきた地点の温度制御には、緩やかな風でベルト温度を調節することができる。支持体の温度は、加熱手段を分割することによって、部分的に支持体温度を変えることができ、流延用支持体の流延位置、乾燥部、剥離位置等異なる温度とすることができる。
(乾燥)
以上のようにして支持体から剥離したウェブは必要により所望の残留溶媒量となるまで乾燥機等により乾燥される。乾燥方法は例えばウェブを千鳥状に配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置、またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて実施できる。これらを併用してもよい。
乾燥の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥は完成したフィルムの平面性を損ね易い。全体を通して、通常乾燥温度は通常40〜250℃であり、70〜180℃が好ましい。使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。
支持体面から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってウェブは幅方向に収縮しようとする。高い温度で急激に乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、完成したフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この観点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程または一部の工程を幅方向にクリップでウェブの幅両端を保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。この後、必要によりウェブの幅両端部をスリッターで裁ち落とし、延伸工程へ導入する。
(延伸)
次いで、ウェブの残留溶媒量が5質量%以上の状態で、当該ウェブを「コア層(B)のTg−30」℃以上の温度で延伸する。延伸処理の方法および条件については、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号等の各公報を参考にすることができる。
本形態に係る製造方法は、上記で得られた剥離後のウェブを、残留溶媒量が5質量%以上の状態で延伸する。好ましくは5〜20質量%、より好ましくは10〜15質量%の状態で、ウェブを延伸する。複数の延伸処理が行われる場合には、少なくとも1つ(例えば、最初)の延伸処理がこの条件を満たしていればよいが、より好ましくはすべての延伸処理がこの条件を満たすように行われる。上述したように、本発明に係るセルロースアシレート積層フィルムには波長分散特性が付与されていることが好ましいが、延伸処理によってこのような光学性能を付与することが可能となり、さらにセルロースアシレート積層フィルムに所望の位相差(リターデーション)を付与することが可能である。ウェブの延伸方向はフィルム搬送方向(長手方向;MD方向)、および搬送方向に直交する方向(幅方向;TD方向)のいずれでも好ましいが、フィルム搬送方向に直交する方向(幅方向)であることが、後に続く該フィルムを用いた偏光板加工プロセスの観点から特に好ましい。
幅方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号などの各公報に記載されている。一方、長手方向の延伸の場合、例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。幅方向の延伸の場合、フィルムの幅をテンターで保持しながら搬送して、テンターの幅を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)してもよい。
本形態に係る製造方法は、ウェブを延伸する際の温度(延伸温度)にも特徴がある。具体的には、「コア層(B)のTg−30」℃以上の延伸温度で、延伸を行う。このような延伸温度で延伸を行うことにより、内部ヘイズを低下させることができる。そして、延伸温度は、好ましくは「コア層(B)のTg−30」℃以上、「コア層(B)のTg−15」℃以下である。複数の延伸処理が行われる場合には、少なくとも1つ(例えば、最初)の延伸処理がこの条件を満たしていればよい。
延伸倍率は、5〜200%が好ましく、10〜100%がさらに好ましく、20〜50%が特に好ましい。複数の延伸処理が行われる場合には、少なくとも1つ(例えば、最初)の延伸処理がこの条件を満たしていればよいが、より好ましくはすべての延伸処理がこの条件を満たすように行われる。
製造されるセルロースアシレート積層フィルムを偏光子の保護膜として使用する場合には、偏光板を斜めから見たときの光漏れを抑制するため、偏光子の透過軸とセルロースアシレート積層フィルムの面内の遅相軸とを平行に配置する必要がある。連続的に製造されるロールフィルム状の偏光子の透過軸は、一般的にロールフィルムの幅方向に平行であるので、前記ロールフィルム状の偏光子とロールフィルム状のセルロースアシレート積層フィルムからなる保護膜とを連続的に貼り合せるためには、ロールフィルム状の保護膜(本発明に係るセルロースアシレート積層フィルム)の面内遅相軸を、フィルムの幅方向に平行にすることが必要となる。したがって、かような観点からは幅方向により多く延伸することが好ましい。また、延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよいが、本形態に係る製造方法では残留溶媒量が所定値以上の状態で延伸を行うため、製膜工程の途中で延伸することが好ましい。
(乾燥・再延伸)
本形態に係る製造方法の好ましい実施形態では、少なくとも一回の延伸処理が施されたウェブを乾燥した後、さらに少なくとも一回の延伸処理が施される。この際、後に行われる延伸処理の延伸温度は、「コア層(B)のTg−10」℃以上であり、好ましくは「コア層(B)Tg−10」℃以上、「コア層(B)のTg−5」℃以下である。このような構成とすることで、得られるセルロースアシレート積層フィルムの位相差発現性をよりいっそう向上させることができる。なお、乾燥の手法・条件については上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
得られるフィルムの膜厚や、フィルムを構成する各層(スキン層(A)およびコア層(B))の膜厚については、これらが所望の値となるように、ドープの固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押出し圧力、支持体速度等を調節すればよい。
(巻き取り)
以上のようにして得られた、セルロースアシレート積層フィルムは、1ロール当たりの長さが100〜10000mとなるようにロールに巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mmである。また、ナーリングの高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
一般的に、大画面表示装置では斜め方向のコントラストの低下および色味付きが顕著となるので、本発明に係るセルロースアシレート積層フィルムは、特に大画面液晶表示装置に用いるのに適している。大画面液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いる場合は、例えば、フィルム幅を1470mm以上とするのが好ましい。また、本発明のフィルムには、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の形状のもののみならず、連続生産により長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた形状のフィルムも含まれる。後者の形状の位相差フィルムは、その状態で保管・搬送等され、実際に液晶表示装置に組み込む際や偏光子等と貼り合わされる際に、所望の大きさに切断されて用いられる。また、同様に長尺状に作製されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子等と、長尺状のまま貼り合わされた後に、実際に液晶表示装置に組み込む際に所望の大きさに切断されて用いられる。ロール状に巻き上げられた位相差フィルムの一形態としては、ロール長が2500m以上のロール状に巻き上げられた形態が挙げられる。
また、延伸後にロール状に巻き取られた後、ハードコート層や反射防止層等の機能性薄膜が設けられてもよい。加工や出荷がなされるまでの間、汚れや静電気によるゴミ付着等から製品を保護するために通常、包装加工がなされる。
この包装材料については、上記目的が果たせれば特に限定されないが、フィルムからの残留溶媒の揮発を妨げないものが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリスチレン、紙、各種不織布等が挙げられる。繊維がメッシュクロス状になったものは、より好ましく用いられる。
≪偏光板≫
また、本発明の他の形態によれば、本発明のフィルムを少なくとも1つ有する偏光板も提供される。
本形態に係る偏光板は、偏光子と、当該偏光子の片面に配置された本発明に係るセルロースアシレート積層フィルムとを有するものである。かような構成とすることにより、本発明に係るセルロースアシレート積層フィルムは、偏光板において偏光子を保護するための保護フィルムとして機能する。
本発明に係るセルロースアシレート積層フィルムについて上述したのと同様に、本形態に係る偏光板の形状も、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の形状の偏光板のみならず、連続生産により長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた形状(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の形態)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上述した通り、偏光板の幅を1470mm以上とすることが好ましい。
偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。以下、偏光板の構成の一例について、簡単に説明する。
偏光板の主たる構成要素である偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられうる。偏光子の膜厚は5〜30μmが好ましく、特に10〜20μmであることが好ましい。
また、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、ケン化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。中でも、熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能および耐久性能に優れているうえに、色斑が少なく、大画面液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
偏光板を製造する際には、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、本発明のセルロースアシレート積層フィルムを完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液(いわゆる、水糊)により貼り合わせることが好ましい。
この際、本発明に係るセルロースアシレート積層フィルムの2つの主表面の間で純水接触角の値が異なる場合(好ましくは、これらの差が20〜40°である場合)には、当該純水接触角の値が小さい(つまり、より親水性が高い)方の主表面と、偏光子の一方の主表面とが貼合されることが好ましい。かような構成とすることで、偏光子と偏光板保護フィルムとを水糊を用いて貼合する際に、フィルムの表面に対する鹸化処理を省略することができるのである。
なお、上述したように、偏光板を構成する偏光子の一方の面には本発明に係るセルロースアシレート積層フィルムが配置(貼合)されているが、偏光子の他方の面には、本発明に係るセルロースアシレート積層フィルムを用いてもよいし、他の光学フィルムを貼合することも好ましい。かような他の光学フィルムとしては、例えば、市販のセルロースアシレートフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC、以上コニカミノルタオプト(株)製)が好ましく用いられる。他の偏光板保護フィルムの場合は、あらかじめ鹸化処理等の表面活性化処理を行う必要がある。
偏光子と、本発明に係るセルロースアシレート積層フィルムおよび必要に応じて他の光学フィルムとの貼合は、通常、接着剤を用いて行われる。この際に用いられうる接着剤としては、PVA系の接着剤やウレタン系の接着剤などが挙げられるが、中でもPVA系の接着剤が好ましく用いられる。
表示装置の表面側に用いられる偏光板の視認側に配置されるフィルムには、防眩層あるいはクリアハードコート層のほか、反射防止層、帯電防止層、防汚層、バックコート層を有することが好ましい。
≪液晶表示装置≫
上記形態により提供される偏光板は、液晶表示装置に用いることができる。本形態に係る液晶表示装置は、本発明により提供される、優れた耐久性を有するセルロースアシレート積層フィルムを備えた偏光板を用いていることから、同様に耐久性に優れたものである。
偏光板における偏光板保護フィルムの露出表面と、液晶セルの少なくとも一方の表面との貼合は、従来公知の手法により行われうる。場合によっては、接着層を介して貼合されてもよい。
液晶表示装置のモード(駆動方式)についても特に制限はなく、STN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPS、OCBなどの各種モード(駆動方式)の液晶表示装置が用いられうる。好ましくは、VA(MVA,PVA)型液晶表示装置である。これらの液晶表示装置に本発明により提供される偏光板を用いることで、特に30型以上の大画面の液晶表示装置であっても、環境変動が少なく、色ムラ、正面コントラストなど視認性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の技術的範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
≪フィルムの作製≫
(セルロースアシレートの調製)
特開平10−45804号公報、同08−231761号公報に記載の方法で、セルロースアシレートを合成し、その置換度を測定した。具体的には、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。このとき、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
(スキン層用セルロースアシレート溶液(ドープ(A))の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し撹拌することにより各成分を溶解して、実施例1のスキン層用セルロースアシレート溶液(ドープ(A))を調製した。
・セルロースアセテート(置換度2.11;Mw=123000) 100.0質量部
・位相差調整剤(H−1) 10.0質量部
・トリフェニルホスフェート 6.0質量部
・ジフェニルビフェニルホスフェート 5.0質量部
・シリカ微粒子 R972(日本エアロジル製) 0.15質量部
・メチレンクロライド 395.0質量部
・エタノール 59.0質量部
下記の表1に示すようにセルロースアシレートの置換度、添加剤の種類および量を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜24および比較例1〜23のスキン層用セルロースアシレート溶液(ドープ(A))を調製した。なお、ドープ(A)の調製において位相差調整剤として用いた化合物H−1は、テレフタル酸/コハク酸/プロピレンクリコール/エチレングリコール共重合体(共重合比[モル%]=27.5/22.5/25/25、Mw:1100、Mn:900、Mw/Mn=1.2)である。同様に、位相差調整剤として用いた化合物I−1はポリメタクリル酸メチル(Mw2000、アルドリッチ社製)であり、化合物J−1は上述した糖エステル化合物A−6である。また、実施例13において位相差上昇剤として用いた化合物K−1は、下記の化学式で表される構造を有する。
また、下記の表1には、上記で調製したドープ(A)から作製される単層フィルムのTg(ガラス転移温度)の値(Tg1)を併せて記載する。ここで、Tg1の値は、下記の測定装置を用いて、常温から15℃/sの昇温速度でフィルム(膜厚40μm)に熱を加え、表面が軟化し始める温度として測定した。試料の正確な表面軟化温度を計測するために、まずキャリブレーション曲線の作成を行い、その後試料の測定を行なった。キャリブレーション用サンプルとしては、ポリカプロラクトン(表面軟化温度:55℃)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA、表面軟化温度:131.5℃)、ポリエチレンテレフタレート(PET、表面軟化温度:235℃)の3つを用いた。測定位置を変えて2回または3回測定し、その平均値を表面軟化温度とした。
装置:局所熱解析(Nanoscale Thermal Analysis)システム nano−TA2(機種名および型番、アナシス・インスツルメンツ(Anasys Instruments)社製)
測定モード:クロースコンタクトモード(5μm角、スキャン速度;1Hz)
カンチレバー:AN2−200(アナシス・インスツルメンツ社製)。
(コア層用セルロースアシレート溶液(ドープ(B))の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、実施例1のコア層用セルロースアシレート溶液(ドープ(B))を調製した。
・セルロースアセテート(置換度2.31;Mw=170000) 100.0質量部
・位相差調整剤(H−1) 15.0質量部
・メチレンクロライド 365.5質量部
・エタノール 54.6質量部
下記の表2に示すようにセルロースアシレートの置換度、添加剤の種類および量を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜24および比較例1〜23のコア層用セルロースアシレート溶液(ドープ(B))を調製した。なお、ドープ(B)の調製において位相差調整剤として用いた化合物H−1、化合物I−1、および化合物J−1は上記と同様である。また、位相差上昇剤として用いた化合物K−1は上記と同様であり、化合物K−2は下記の化学式で表される構造を有する。
また、下記の表2には、上記で調製したドープ(B)から作製される単層フィルムのTg(ガラス転移温度)の値(Tg2)を併せて記載する。ここで、Tg2の値は、上述したTg1と同様の手法により測定した。
(セルロースアシレート積層フィルムの作製)
上記で調製したスキン層用セルロースアシレート溶液(ドープ(A))を上記表1に記載の膜厚のスキン層(A)になるように、また、上記で調製したコア層用セルロースアシレート溶液(ドープ(B))を上記表1に記載の膜厚のコア層(B)になるように、図1に示すような共流延ダイを用いて、無限に移行する無端のステンレスベルト上に同時共流延した。得られたウェブをベルトから剥離してクリップに挟み、ウェブの残留溶媒量が20〜5%の状態のときに、テンターを用いて「コア層(B)のTg(Tg2)−30」℃の延伸温度で1回目の横延伸(7%)を行った。その後、フィルムからクリップを外して130℃で20分間乾燥させた後、さらにテンターを用いて「コア層(B)のTg(Tg2)−10」℃の延伸温度で2回目の横延伸(19%)を行った。
なお、残留溶媒量は下記の式(18)に従って求めた。
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを120℃で2時間乾燥させたときの質量である。
[比較例24]
特開2011−118339号公報(特許文献1)の実施例23に記載の手法により、同実施例に記載のフィルム試料を作製した。
≪フィルムの評価≫
実施例および比較例で得られたそれぞれのフィルムの特性について、以下の測定および評価を実施した。結果を下記の表3に示す。
(位相差)
上記で作製したフィルムの位相差値ReおよびRthを、下記式(16)および下記式(17)によって求めた。
式(16)および式(17)において、dはフィルムの膜厚(nm)を表し、nxはフィルムの面内の最大の屈折率(遅相軸方向の屈折率ともいう)を表し、nyはフィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率を表し、nzはフィルムの厚み方向におけるフィルムの屈折率を表す。また、位相差値ReおよびRthは自動複屈折率計としてKOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用い、23℃、55%RHの環境下で、測定波長450nm、590nm、および630nmで測定した。
これらの測定結果に基づき、下記の表3には、Re(590)およびRth(590)の値、並びに、Re(630)/Re(450)の値およびRth(630)−Rth(450)の値を記載する。
(内部ヘイズ)
上記で作製したフィルムを、23℃55%RHの環境にて5時間以上調湿した後、下記の方法により内部ヘイズを評価した。
まず、フィルム以外の測定器具のブランクヘイズ1を測定する。
1.きれいにしたスライドガラスの上にグリセリンを一滴(0.05mL)たらす。このとき液滴に気泡が入らないように注意する。ガラスは見た目がきれいでも汚れていることがあるので必ず洗剤で洗浄したものを使用する(図2参照)。
2.その上にカバーガラスを載せる。カバーガラスは押さえなくてもグリセリンは広がる。
3.ヘイズメーターにセットしブランクヘイズ1を測定する。
次いで以下の手順で、試料を含めたヘイズ2を測定する。
4.スライドガラス上にグリセリン(0.05mL)を滴下する(図2参照)。
5.その上に測定する試料フィルムを気泡が入らないように乗せる(図3参照)。
6.試料フィルム上にグリセリン(0.05mL)を滴下する(図4参照)。
7.その上にカバーガラスを載せる(図5参照)。
8.上記のように作成した積層体(上から、カバーガラス/グリセリン/試料フィルム/グリセリン/スライドガラス)をヘイズメーターにセットしヘイズ2を測定する。
9.(ヘイズ2)−(ヘイズ1)=(フィルムの内部ヘイズ)を算出する。
なお、上記の測定において使用したガラスおよびグリセリンは以下の通りである。
ガラス:MICRO SLIDE GLASS S9213 MATSUNAMI
グリセリン:関東化学製 鹿特級(純度>99.0%) 屈折率1.47
(フィルムの耐湿熱性(寸法変化率))
上記で作製したフィルムについて、寸法変化率を測定することで耐湿熱性を評価した。60℃90%RHの環境下に24時間静置した場合(高湿)の寸法変化を初期長で除した値として測定される寸法変化率が小さいほど湿熱環境下で保持した場合の変化が小さく耐久性(耐湿熱性)に優れることを意味する。
寸法変化率の値を測定する際には、まず、フィルムの弾性率が最大となる方向を長手方向として切り出した長さ25cm(測定方向)、幅5cmのフィルム試料を用意し、該試料に20cmの間隔でピン孔を空け、25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL0とする)。次いで、試料を60℃、相対湿度90%の湿熱環境下で24時間保持した後、25℃、相対湿度60%にて2時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL1とする)。これらの測定値を用いて下記式(19)により寸法変化率を算出する。
測定結果を、以下の基準に従って、評価した。
◎:寸法変化率が0.5%未満
○:寸法変化率が0.5%以上3.0%未満
△:寸法変化率が3.0%以上5.0%未満
×:寸法変化率が5.0%以上
表3に示す結果から、本発明の実施例のセルロースアシレート積層フィルムはいずれも内部ヘイズが低く、逆波長分散性を有し、かつ薄膜でありながら、位相差発現性が良好であり耐久性にも優れていた。
一方、スキン層(A)の置換度が本発明の範囲よりも小さい比較例1は、置換度が低いために耐久性が不足した。また比較例2、17〜23は、コア層(B)との置換度の差が大きすぎるため、積層界面での相分離が発生し、内部ヘイズが劣化した。比較例3〜11はいずれも本発明のようにすべての特性を満たすことはできなかった。
≪偏光板の作製≫
上記で作製した各実施例および比較例のセルロースアシレート積層フィルムの表面をアルカリ鹸化処理した。具体的には、1.5N水酸化ナトリウム水溶液に55℃にて2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1N硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。続いて、膜厚80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3質量%水溶液を接着剤として、上記でアルカリ鹸化処理した各実施例および比較例のセルロースアシレート積層フィルムと、同様のアルカリ鹸化処理したコニカミノルタタック KC8UX(コニカミノルタオプト(株)製)を用意し、これらの鹸化した面が偏光子側となるようにして偏光子を間に挟んで貼り合わせ、各実施例および比較例のセルロースアシレート積層フィルム、偏光子、KC8UXがこの順に貼合されてなる偏光板をそれぞれ得た。この際、各セルロースアシレート積層フィルムのMD方向およびKC8UXの遅相軸が、偏光子の吸収軸と平行になるように貼合した。
≪液晶表示装置の作製≫
VAモードの液晶TV(REAL LCD−40MZW100、三菱電機(株)製)の表裏の偏光板および位相差フィルムを剥がして残った液晶セルを用いた。
実施例1〜10、14〜17、20〜24、比較例1、2、4〜7、10〜24については、図6に示す構成のように、上記で作製した偏光板を液晶セルの視認側へ、実施例・比較例のセルロースアシレート積層フィルム12が液晶セル13側に配置されるように粘着剤を用いて貼り合わせた。一方、液晶セルの反対側には、光学異方性フィルム(富士フイルム社製の「フジタックTD80UL」)14、偏光子15、偏光子保護フィルム(コニカミノルタオプト社製の「コニカミノルタタック KC8UX」)16の3層からなる偏光板を、フジタックTD80ULが液晶セル13側に配置されるように粘着剤で貼り合わせた。この際、上下の偏光板の吸収軸が直交するように貼り合わせた。
また、実施例11〜13、18、19、比較例3、8、9については、図7に示す構成のように、上記で作製した偏光板を液晶セルの視認側へ、実施例・比較例のセルロースアシレート積層フィルム12が液晶セル13側に配置されるように粘着剤を用いて貼り合わせた。一方、液晶セルの反対側には、光学等方性フィルム(富士フイルム社製の「ゼロタックZRF80」)17、偏光子15、偏光子保護フィルム(コニカミノルタオプト社製の「コニカミノルタタック KC8UX」)16の3層からなる偏光板を、ゼロタックZRF80が液晶セル13側に配置されるように粘着剤で貼り合わせた。この際、上下の偏光板の吸収軸が直交するように貼り合わせた。
≪液晶表示装置の評価≫
上記で作製したVAモードの液晶表示装置について、種々の特性評価を行った。結果を下記の表4に示す。
<パネルの色味視野角評価>
まず、パネルの色味視野角評価として、図6および図7における視認側とは反対の側にバックライトを設置し、各々について測定機(EZ−Contrast XL88、ELDIM社製)を用いて、暗室内で黒表示時および白表示時の輝度および色度を測定し、黒表示におけるコントラスト比(CR)およびカラーシフトを算出した。
(コントラスト比(CR))
コントラスト比(CR)の測定結果を、以下の基準に従って評価した。
◎:CRが3000以上であり、実用上好ましい。
○:CRが2000以上3000未満であり、実用上問題ない。
△:CRが1500以上2000未満であるが、実用に耐えうる。
×:CRが1500未満であり、実用上問題がある。
(視野角(極角方向のカラーシフト))
黒表示時において、液晶セルの法線方向から一対の偏光板の透過軸の中心線方向(方位角45度)に視角を倒した場合の色度の変化Δxθ、Δyθを、極角0〜80度の間で測定した。ここで、Δxθ=xθ−xθ0、Δyθ=yθ−yθ0であり、(xθ0、yθ0)は黒表示における液晶セル法線方向で測定した色度であり、(xθ、yθ)は黒表示における液晶セル法線方向から一対の偏光板の透過軸の中心線方向に極角θ度まで視角を倒した方向で測定した色度である。
カラーシフトの測定結果を、以下の基準に従って評価した。
◎:Δxθ、Δyθがともに0.02以下である。
○:Δxθ、Δyθがともに0.03以下である。
△:Δxθ、Δyθがともに0.05以下である。
×:Δxθ、Δyθがともに0.1より大である。
なお、極角方向のカラーシフトは、常に下記式(20)および(21)を満たすことが好ましい。
<正面方向の画面表示ムラ>
続いて、上記で作製したVAモードの液晶表示装置を、40℃80%RHの環境下で1週間保持した後に、25℃60%RHの環境に移し、黒表示状態で点灯させ続け、24時間後に目視観察して、光ムラを評価した。
装置正面から観察した場合の黒表示時の輝度ムラを観察し、以下の基準で評価した。
◎:照度100lxの環境下でムラがほとんど視認されない
○:照度100lxの環境下で淡いムラが視認される
△:照度100lxの環境下で明確なムラが視認される
×:照度300lxの環境下で明確なムラが視認される
表4に示す結果から、本発明の実施例101〜124の液晶表示装置は、コントラスト比および極角方向のカラーシフト(色味の視野角依存性)がともに良好であり、表示特性が明らかに改善されていることがわかった。加えて、画面表示ムラも改善されていた。
一方、内部ヘイズが高い比較例102〜110、117〜124は明らかにコントラストが低下していた。また、フィルムとして耐久性に問題があった比較例111〜116については、画面ムラが発生し好ましくなかった。さらに、フィルムが逆波長分散性を示さなかった比較例121では、光学補償が十分になされずカラーシフトが生じた結果、視野角特性が低下する結果となった。
以上より、本発明の構成のセルロースアシレート積層フィルムは内部ヘイズが低いほどコントラストがよく、同時に逆波長分散性であると、コントラストと視野角特性を高いレベルで満足していた。さらには、薄膜であってフィルム耐久性に優れていると画面ムラも改善することがわかった。