以下、図面を参照しながら、実施形態を詳細に説明する。
図1は、実施形態に従ったアンテナ設計装置の機能的構成図である。
アンテナ設計装置100には、入力部110、記憶部120、処理部130、および表示部140が含まれる。
入力部110は、アンテナ設計に必要な各種データを入力する装置である。入力部110は、例えば、キーボードやマウス等である。
入力部110により入力される各種データには、モデルの形状、モデルの材質、波源、回路部品、解析条件、および解析出力項目に関するデータが含まれる。
モデルの材質に関するデータは、例えば、導電率、誘電率、透磁率、および各種損失等に関するデータである。解析条件に関するデータは、例えば、解析する周波数の上限および下限、周波数の刻み、および高速処理設定の有無等に関するデータである。解析出力項目に関するデータは、例えば、放射効率、トータル効率、およびSパラメータ(Scattering parameter)に関するデータである。また、解析出力項目に関するデータには、例えば、アンテナインピーダンス、整合素子のインピーダンス、線路の特性インピーダンス、および伝達係数も含まれる。
なお、放射効率とは、図3を示して後述するように、波源側の線路の挿入位置でアンテナ側に入る正味の電力とアンテナからの放射電力との比である。ただし、線路および整合回路を含まないアンテナ素子単体のモデルでは、線路および整合回路に含まれる損失を考慮する必要がないため、放射効率は、アンテナに入る正味の電力とアンテナからの放射電力との比ということになる。
また、トータル効率とは、波源からの全入力電力とアンテナからの放射電力との比を指す。
記憶部120は、処理部130による処理データが格納されるアンテナ特性ファイル121、線路特性ファイル122、および計算処理データファイル123を含む記憶装置である。
また、実施形態によっては、記憶部120は、整合素子データファイル124をさらに含む。整合素子データファイル124には、例えば、回路部品メーカー等により市販されている整合素子の各種データが格納される。格納される整合素子の各種データの一例としては、整合素子の種別、整合素子の静電容量またはインダクタンス、整合素子のサイズ、寄生インダクタンスまたは寄生静電容量、損失抵抗、耐圧、および価格等に関するデータが挙げられる。
記憶部120は、例えば、Read Only Memory(ROM)、Random Access Memory(RAM)、およびハードディスクドライブ(HDD)等である。
処理部130は、実施形態に従ったアンテナ設計処理を実行する装置である。処理部130は、例えば、Central Processing Unit(CPU)である。
表示部140は、入力部110への入力を促す表示を行い、および処理部130による処理結果を表示する装置である。表示部140は、例えば、液晶ディスプレイ装置である。
処理部130には、アンテナ特性シミュレーション処理部131、線路特性計算処理部132、およびアンテナ特性計算処理部133が含まれる。
アンテナ特性シミュレーション処理部131は、入力部110の入力に従い作成された、整合回路を含まないアンテナモデルのアンテナ特性をシミュレーションにより取得し、取得されたアンテナ特性が所望の規格を満たすか否かを判定する。
以下の説明において、「整合回路を含まないアンテナモデル」あるいは「整合回路なしアンテナモデル」とは、アンテナ素子単体のモデル、またはアンテナ素子および線路を含むモデルを指す。
アンテナ特性シミュレーション処理部131には、整合回路なしアンテナモデル作成部131a、シミュレーション実行部131b、およびシミュレーション結果判定部131cが含まれる。
整合回路なしアンテナモデル作成部131aは、入力部110からの入力データに従って、整合回路を含まないアンテナモデルを作成する。
シミュレーション実行部131bは、整合回路なしアンテナモデル作成部131aにより作成されたアンテナモデルに対するシミュレーションを実行する。
シミュレーション実行部131bにより実行されるシミュレーションは、例えば、モーメント法、有限要素法、および有限差分時間領域法等を用いた電磁界シミュレーションである。
シミュレーション実行部131bのシミュレーションによって、整合回路を含まないアンテナモデルに対するアンテナ特性が取得される。取得されるアンテナ特性には、入力部110の入力により設定された周波数ごとのインピーダンス、Sパラメータ、放射効率、およびトータル効率が含まれる。これらのアンテナ特性は、記憶部120のアンテナ特性ファイル121に格納される。
シミュレーション結果判定部131cは、アンテナ素子および線路を含むアンテナモデルのアンテナ特性が所望の規格を満たすか否かを判定する。
シミュレーション結果判定部131cによる判定結果は、アンテナ特性ファイル121に格納される。
線路特性計算処理部132は、入力部110の入力に従い作成された線路のモデルに対する特性を計算する。
線路特性計算処理部132には、線路モデル作成部132aおよび線路特性計算部132bが含まれる。
線路モデル作成部132aは、入力部110の入力により設定された線路のデータおよび基板のデータを取得して、線路モデルを作成する。線路のデータには、線路の長さおよび幅に関するデータが含まれる。基板のデータには、基板の比誘電率、誘電正接、厚さ、導体の高さ、および誘電率等に関するデータが含まれる。
線路特性計算部132bは、線路モデル作成部132aにより作成された線路モデルについて、入力部110の入力により設定された周波数ごとの線路の特性インピーダンス、伝達係数、減衰定数、および位相定数を計算する。
線路特性計算部132bにより計算された線路の特性インピーダンス、伝達係数、減衰定数、および位相定数に関する各データは、線路特性ファイル122に格納される。
アンテナ特性計算処理部133は、入力部110の入力に従い作成された、整合回路を含むアンテナモデルのアンテナ特性を実施形態に従った計算方法を用いて計算し、計算されたアンテナ特性が所望の規格を満たすか否かを判定する。
以下の説明において、「整合回路を含むアンテナモデル」あるいは「整合回路付きアンテナモデル」とは、アンテナ、線路、および整合回路を含むモデルを指す。
アンテナ特性計算処理部133による処理は、整合回路を含まないアンテナモデルのアンテナ特性が所望の規格値を満たさない場合に実行される。
実施形態によっては、シミュレーション結果判定部131cによる判定の結果、アンテナおよび線路を含むアンテナモデルの対象周波数でのトータル効率が所望の規格値未満である場合に、アンテナ特性計算処理部133による処理が実行される。
実施形態によっては、シミュレーション結果判定部131cによる判定結果に関係なく、アンテナ特性計算処理部133による処理が実行される。例えば、アンテナ素子単体の特性、整合回路を構成する各整合素子の特性、および線路の特性が任意の手段により取得されている場合には、アンテナ特性計算処理部133は、取得されているこれらの特性を用いて処理を実行する。
アンテナ特性計算処理部133には、整合回路付きアンテナモデル作成部133a、計算実行部133b、および計算結果判定部133cが含まれる。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合回路を含むアンテナモデルを作成する。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、アンテナ特性ファイル121に格納されたアンテナ素子単体のアンテナ特性をインポートする。すなわち、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、対象となる周波数ごとの放射効率、アンテナインピーダンス、およびSパラメータに関する各データをインポートする。また、実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110により入力された対象となる周波数ごとの放射効率、アンテナインピーダンス、およびSパラメータに関する各データをインポートする。
また、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、線路特性ファイル122に格納された線路の特性をインポートする。すなわち、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、対象となる周波数ごとの線路の特性インピーダンス、伝達係数、減衰定数、および位相定数に関する各データをインポートする。また、実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110により入力された対象となる周波数ごとの線路の特性インピーダンス、伝達係数、および減衰定数に関する各データをインポートする。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、インポートされたアンテナインピーダンスに基づいて、整合回路の回路構成を算出する。また、実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110により入力された整合回路の回路構成のデータを取得する。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、算出または取得された回路構成に従って、サイズや耐圧等の使用条件に適合する、整合回路を構成する整合素子を決定する。サイズや耐圧等の使用条件のデータは、入力部110による入力等によって予め与えられる。
実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合素子データファイル124に格納された整合素子のデータを参照することによって、整合回路を構成する整合素子を決定する。また、実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110から入力された整合素子のデータに基づいて、使用条件に適合する整合素子を決定する。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、決定された整合素子の静電容量またはインダクタンスに加えて、寄生インダクタンスまたは寄生静電容量と損失抵抗とを取得する。
寄生インダクタンスまたは寄生静電容量と損失抵抗とは、実施形態によっては、整合素子データファイル124に格納された該当する整合素子のデータを参照することによって取得される。また、実施形態によっては、入力110から入力されることによって、整合素子の寄生インダクタンスまたは寄生静電容量と損失抵抗とが取得される。
このように、実施形態では、整合素子の寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合回路付きのアンテナモデルが整合回路付きアンテナモデル作成部133aによって作成される。また、作成された整合回路を構成する整合素子の寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む各値は、整合素子データファイル124から取得され、または入力部110からの入力により指定される。
したがって、実施形態では、整合回路を構成する各整合素子の静電容量またはインダクタンスに加えて、寄生リアクタンスおよび損失抵抗の各モデルを個別に作成したり、それらの値を個別に設定したりする必要がない。このため、整合素子の寄生リアクタンスおよび損失抵抗を加味した整合回路付きアンテナモデルを迅速かつ効率的に作成することができる。
アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより作成された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性を、実施形態の計算方法に従って計算する。実施形態では、アンテナ特性計算部133bは、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子のインピーダンス、および線路の特性インピーダンスが加味された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性をシミュレーションによらないで、すなわち解析的手法により計算する。アンテナ特性計算部133bにより計算されるアンテナ特性には、Sパラメータ、放射効率、およびトータル効率が含まれる。
また、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデルに含まれる線路および整合素子のそれぞれの消費電力を計算する。
寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子のインピーダンス、および線路の特性インピーダンスが加味された整合回路付きアンテナモデルについて、実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法を以下に説明する。
説明の前提として、実施形態に従ったアンテナ特性の計算処理に用いられ得る各パラメータを図2および図3を参照しながら説明する。
図2は、実施形態に従ったアンテナモデル中の素子の各パラメータの説明図である。
図2に示すように、整合回路付きアンテナモデルの等価回路200には、アンテナ210、第1線路221、第2線路222、整合回路230、および波源240が含まれる。
図2に示されるRrは、アンテナ210の放射抵抗である。また、RLは、アンテナ210の損失抵抗である。アンテナ素子210単体のインピーダンスをZaとすると、アンテナインピーダンスZaは、アンテナの放射抵抗Rrおよびアンテナの損失抵抗RLの関数であり、次の式(2)で表される。
式(2)中のRaは、アンテナインピーダンスZaの実数部であり、Xaは、アンテナインピーダンスZaの虚数部である。
前述したように、実施形態では、アンテナインピーダンスZaの実数部Raおよび虚数部Xaは、既知の値である。すなわち、アンテナインピーダンスZaの実数部Raおよび虚数部Xaは、実施形態によっては、シミュレーション実行部131bのシミュレーションにより取得されてアンテナ特性ファイル121に格納されており、また、実施形態によっては、入力部110による入力により取得される。
図2に示されるl1は、第1線路221の線路長である。Zl1は、第1線路221の特性インピーダンスである。γ1は、第1線路221の伝達係数である。第1線路221の減衰定数をα1、位相定数をβ1とすると、伝達係数γ1は、次の式(3)で表される。
前述したように、実施形態では、線路長l1、特性インピーダンスZl1、減衰定数α1、および位相定数β1は、既知の値である。すなわち、線路長l1は、入力部110の入力により取得される。また、特性インピーダンスZl1、減衰定数α1、および位相定数β1は、実施形態によっては、線路特性計算部132bの計算により取得され線路特性ファイル122に格納されており、実施形態によっては、入力部110による入力により取得される。
図2に示されるRmiは、整合回路220を構成するi番目(iは1以上の整数)の整合素子の損失抵抗である。i番目の整合素子のリアクタンスをXmiとすると、i番目の整合素子のインピーダンスZmiは、次の式(4)で表される。
前述したように、実施形態では、i番目(iは1以上の整数)の整合素子の損失抵抗Rmiおよびi番目の整合素子のリアクタンスXmiは、既知の値である。すなわち、これらの値は、実施形態によっては、整合素子データファイル124に格納された整合素子のデータを参照することによって取得される。また、実施形態によっては、これらの値は、入力部110からの入力によって取得される。
図2に示されるl2は、第2線路222の線路長である。Zl2は、第2線路222の特性インピーダンスである。γ2は、第2線路222の伝達係数である。第2線路222の減衰定数をα2、位相定数をβ2とすると、伝達係数γ2は、次の式(5)で表される。
前述したように、実施形態では、線路長l2、特性インピーダンスZl2、減衰定数α2、および位相定数β2は、既知の値である。すなわち、線路長l2は、入力部110の入力により取得される。また、特性インピーダンスZl2、減衰定数α2、および位相定数β2は、実施形態によっては、線路特性計算部132bの計算により取得され線路特性ファイル122に格納されており、実施形態によっては、入力部110による入力により取得される。
図2に示されるZ0は、波源240の内部インピーダンスである。波源240の内部インピーダンスZ0は、例えば50オーム(Ω)である。
図2に示されるZin1は、第1線路221の入力端から見たアンテナモデル200のインピーダンスである。Zinmは、整合回路230の入力端から見たアンテナモデル200のインピーダンスである。Zin2は、第2線路222の入力端から見たアンテナモデル200のインピーダンスである。
図3は、実施形態に従ったアンテナモデル中のパワーダイアグラムである。
図3に示したアンテナモデル300において、Pi2は、波源240から送り出され、第2線路222に入力する電力である。
Pn2は、第2線路222に入力する正味の電力であり、第2線路222の入力側における反射(不整合による損失)電力をPr2とすると、関係式Pn2=Pi2-Pr2で表される。
Pimは、第2線路222から送り出され、整合回路230に入力する電力であり、第2線路222における損失電力をPl2とすると、関係式Pim=Pn2-Pl2で表される。
Pnmは、整合回路230に入力する正味の電力であり、整合回路230の入力側における反射電力をPrmとすると、関係式Pnm=Pim-Prmで表される。
Pi1は、整合回路230から送り出され、第1線路221に入力する電力であり、整合回路230における損失電力をPlmとすると、関係式Pi1=Pnm-Plmで表される。
Pn1は、第1線路221に入力する正味の電力であり、第1線路221の入力側における反射電力をPr1とすると、関係式Pn1=Pi1-Pr1で表される。
Piaは、第1線路221から送り出され、アンテナ210に入力する電力であり、第1線路221における損失電力をPl1とすると、関係式Pia=Pn1-Pl1で表される。
Pnaは、アンテナ210に入力する正味の電力であり、アンテナ210の入力側における反射電力をPraとすると、関係式Pna=Pia-Praで表される。
Pradは、放射電力であり、誘電損および導体損等のアンテナ210に含まれる損失によって失われる電力をPlaとすると、関係式Prad=Pna-Plaで表される。
実施形態では、放射効率ηとは、第2線路222の挿入位置でアンテナ230側へ入る正味の電力Pn2とアンテナ230からの放射電力Pradとの比を指し、次の式(6)で表される。
ただし、仮に、アンテナモデル300に第2線路222が含まれない場合、第2線路222に含まれる損失を考慮する必要がないので、放射効率ηは、整合回路230に入る正味の電力Pnmとアンテナからの放射電力Pradとの比である。同様に、第2線路222および整合回路230を含まないアンテナモデル300の放射効率ηは、第1線路221に入る正味の電力Pn1とアンテナからの放射電力Pradとの比である。第2線路222、整合回路230、および第1線路221を含まないアンテナモデル300、すなわちアンテナ210単体のアンテナモデル300の放射効率ηは、アンテナに入る正味の電力Pnaとアンテナからの放射電力Pradとの比である。
トータル効率ηtとは、波源240からの全入力電力Pi2とアンテナ230からの放射電力Pradとの比を指し、次の式(7)で表される。
図2および図3を参照しながら前述した各パラメータの説明を前提として、実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法を、整合回路230として3つの整合素子が整合回路付きアンテナモデル200にパイ(π)型に挿入されたケースを一例として説明する。
なお、以下の説明は、実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法を説明するための一例にすぎず、実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法が以下の一例に限られないことに留意すべきである。
すなわち、整合回路230として3つの整合素子がアンテナモデル200にパイ(π)型に挿入されたケースを説明すれば、整合回路230として1つの整合素子がアンテナモデル200に直列または並列に挿入されたケースに関しても実施形態のアンテナ特性の計算方法が実行可能なことは明らかである。また、整合回路230として3つ以上の整合素子が様々な接続形態でアンテナモデル200に挿入されたケースに関しても実施形態のアンテナ特性の計算方法が実行可能なことは明らかである。さらに、第1線路221、整合回路230、および第2線路222の何れか1つまたは2つが存在しないケースに関しても実施形態のアンテナ特性の計算方法が実行可能なことは明らかである。
図4は、3つの整合素子がパイ(π)型に挿入されたアンテナモデルの等価回路図である。
図4に示した整合回路付きアンテナモデル400において、整合回路230は、3つの整合素子230a〜230cを含む。3つの整合素子230a〜230cは、図4に示すように、アンテナモデル400にパイ型に挿入される。
図4において、Rm1は、整合素子230aの損失抵抗であり、Xm1は、整合素子230aのリアクタンスであり、整合素子230aのインピーダンスZm1は、式(4)のように、Zm1=Rm1+jXm1で表される。Rm2は、整合素子230bの損失抵抗であり、Xm2は、整合素子230bのリアクタンスであり、整合素子230bのインピーダンスZm2は、式(4)のように、Zm2=Rm2+jXm2で表される。Rm3は、整合素子230cの損失抵抗であり、Xm3は、整合素子230cのリアクタンスであり、整合素子230cのインピーダンスZm3は、式(4)のように、Zm3=Rm3+jXm3で表される。
整合回路付きアンテナモデル400のSパラメータであるS11、すなわち、第2線路222の入力端で見た反射係数Γ2について、実施形態に従った計算方法を説明する。
まず、図4に示すように、第1線路221の入力端から見たインピーダンス、すなわちアンテナ210に第1線路221を接続したときのインピーダンスZin1は、次の式(8)のように表される。
前述したように、式(8)中の各パラメータは、既知の値である。したがって、Zin1は、式(8)により計算可能である。
次に、図4に示すように、パイ型に整合素子が挿入された整合回路230の入力端から見たインピーダンス、すなわち、アンテナ210に第1線路221および整合回路230を接続したときのインピーダンスZinmは、次の式(9)のように表される。
ここで、式(9)中のZam2は、次の式(10)で示すとおりである。
前述したように、式(9)中のZm3、および式(10)中のZm1およびZm2は、既知の値である。また、Zin1は、式(8)により計算可能である。したがって、Zinmは、式(9)により計算可能である。
そして、図4に示すように、第2線路222の入力端から見たインピーダンス、すなわち、アンテナ210に第1線路221、整合回路230、および第2線路222を接続したときのインピーダンスZin2は、次の式(11)のように表される。
前述したように、式(11)中のZinmは、式(9)により計算可能である。また、式(11)中のZinm以外の各パラメータは、既知の値である。したがって、Zin2は、式(11)により計算可能である。
第2線路222の入力端で見た反射係数Γ2は、次の式(12)で表される。
前述したように、式(12)中のZin2は、式(11)により計算可能である。また、Z0は、既知の値である。
したがって、整合回路付きアンテナモデル400のSパラメータであるS11、すなわち、第2線路222の入力端で見た反射係数Γ2を式(12)により計算できる。
以上のように、アンテナ特性計算部133bは、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子のインピーダンス、および線路の特性インピーダンスが加味された整合回路付きアンテナモデルのSパラメータをシミュレーションによらずに取得する。すなわち、アンテナ特性計算部133bは、アンテナ210単体の特性、整合回路230を構成する各整合素子の特性、および線路221および222の特性を用いて、整合回路付きアンテナモデル400のSパラメータを解析的手法により計算する。
整合回路付きアンテナモデル400の放射効率ηについて、実施形態に従った計算方法を説明する。
実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法では、式(6)で示した放射効率ηを、次の式(13)のように分解して計算する。
以下の説明では、式(13)中のPrad/Pnaを第1パート、Pna/Pn1を第2パート、Pn1/Pnmを第3パート、Pnm/Pn2を第4パートと便宜的にそれぞれ呼ぶこととする。
前述したように、式(13)中の第1パートは、実施形態では既知の値である。すなわち、Prad/Pnaは、アンテナ210単体のアンテナモデルの放射効率ηであり、実施形態によっては、シミュレーション実行部131bのシミュレーションにより取得されてアンテナ特性ファイル121に格納されており、また、実施形態によっては、入力部110の入力により取得される。
式(13)中の第2パートは、第1線路221に入る正味の電力とアンテナ210に入る正味の電力の比であり、次の式(14)により表される。
ここで、式(14)中の第1線路221の線路長l1および減衰定数α1は、実施形態では、前述したように既知の値である。すなわち、線路長l1は、入力部110の入力により取得される。また、減衰定数α1は、実施形態によっては、線路計算部132bの計算により取得されて線路特性ファイル122に格納されており、実施形態によっては、入力部110による入力により取得される。
また、式(14)中のΓaは、アンテナ210の反射係数であり、Γ1は、第1線路221の入力端で見た反射係数であり、ΓaおよびΓ1は、次の式(15)および式(16)でそれぞれ表される。
前述したように、式(15)中のアンテナインピーダンスZaは、実施形態では、既知の値である。すなわち、実施形態によっては、シミュレーション実行部131bのシミュレーションにより取得されてアンテナ特性ファイル121に格納されており、また、実施形態によっては、入力部110による入力により取得される。したがって、式(15)は、全て既知の値から構成されるので、アンテナ特性計算部133bは、アンテナ210の反射係数Γaを計算できる。
また、式(16)中の伝達係数γ1は、式(3)により計算可能であり、式(3)中の減衰定数α1および位相定数β1は、既知の値である。すなわち、実施形態によっては、これらの値は、線路特性計算部132bの計算により取得されて線路特性ファイル122に格納されており、実施形態によっては、入力部110による入力により取得される。したがって、式(16)は、全て既知の値から構成されるので、アンテナ特性計算部133bは、第1線路221の入力端で見た反射係数Γ1を計算できる。
このように、アンテナ特性計算部133bは、式(14)を構成する各パラメータの値を取得あるいは計算できるので、式(13)中の第2パートの値を計算できる。
式(13)中の第3パートは、次の式(17)のように表すことができる。
図4に示すように、式(17)中のiin1は、アンテナ210および第一線路221の合成回路に流れる電流であり、im1は、整合素子230aに流れる電流であり、im2は、整合素子230bに流れる電流であり、im3は、整合素子230cに流れる電流である。また、Rin1は、アンテナ210および第一線路221の合成回路のインピーダンスZin1を抵抗成分およびリアクタンス成分で表した場合(すなわち、Zin1=Rin1+jXin1)の抵抗である。
式(17)中の分母および分子の各項には、これらの電流の絶対値の二乗がそれぞれ乗算されているから、式(17)を計算するためにこれらの電流の値が既知である必要はなく、これらの電流の相対的な値が分かればよい。そこで、整合素子230cに流れる電流im3を1とすると、整合素子230bに流れる電流im2、整合素子230aに流れる電流im1、およびアンテナ210および第一線路221の合成回路に流れる電流iin1は、次の式(18)〜式(20)のようにそれぞれ表される。
式(18)〜式(19)中の値は、既知の値であるか、前述の式(8)および式(10)により計算可能な値である。したがって、式(17)中のim3を1とし、式(18)〜式(20)により計算された値を式(17)に代入することによって、アンテナ特性計算部133bは、式(13)中の第3パートの値を計算することができる。
式(13)中の第4パートは、次の式(21)のように表すことができる。
式(21)中のΓmは、整合回路230の入力端で見た反射係数であり、Γ2は、第2線路222の入力端で見た反射係数であり、ΓmおよびΓ2は、次の式(22)および式(23)でそれぞれ表される。
式(22)中のインピーダンスZinmは、式(9)により計算可能である。したがって、式(22)は、全て既知の値から構成されるので、アンテナ特性計算部133bは、整合回路230の入力端で見た反射係数Γmを計算できる。
また、式(23)中の伝達係数γ2は、式(5)により計算可能であり、式(5)中の減衰定数α2および位相定数β2は、既知の値である。すなわち、実施形態によっては、アンテナ特性計算部133bの計算により取得されて線路特性ファイル122に格納されており、また、実施形態によっては、入力部110による入力により取得される。したがって、式(23)は、全て既知の値から構成されるので、アンテナ特性計算部133bは、第2線路222の入力端で見た反射係数Γ2を計算できる。
このように、アンテナ特性計算部133bは、式(14)を構成する各パラメータの値を取得あるいは計算できるので、式(13)中の第4パートの値を計算できる。
アンテナ特性計算部133bは、式(13)中の第1パート〜第4パートを以上の説明のように計算することによって、放射効率ηを取得する。
以上のように、アンテナ特性計算部133bは、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子のインピーダンスや線路のインピーダンスが加味された整合回路付きアンテナモデルの放射効率ηをシミュレーションによらずに取得する。すなわち、実施形態では、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデルの放射効率ηを、アンテナ素子単体の特性、整合回路を構成する各整合素子の特性、および線路特性を用いて解析的手法により計算する。
整合回路付きアンテナモデル400のトータル効率ηtついて、実施形態に従った計算方法を説明する。
アンテナモデル400のトータル効率ηtは、次の式(24)のように表される。
式(24)中のΓ2は、式(12)または式(23)により計算可能である。したがって、アンテナ特性計算部133bは、トータル効率ηtを式(24)を用いて計算する。
このように、アンテナ特性計算部133bは、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子のインピーダンスや線路のインピーダンスが加味された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性をシミュレーションによらずに取得する。すなわち、実施形態では、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性を、アンテナ素子単体の特性、整合回路を構成する各整合素子の特性、および線路特性を用いて解析的手法により計算する。
したがって、実施形態に従えば、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子のインピーダンスや線路のインピーダンスが加味された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性を短時間で取得することができ、所望のアンテナ設計を効率的に行なうことができる。
実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法が実用に耐え得る十分な計算精度を有することを、具体例を用いて以下に説明する。以下の説明では、実施形態に従った計算方法によるアンテナ特性と、電磁界シミュレーションによるアンテナ特性と比較する。電磁界シミュレーションによるアンテナ特性は、Poynting(登録商標)等の任意の電磁界シミュレーションソフトウェアに従うコンピュータによっても取得することが可能である。
なお、以下に示す具体例は、実施形態のアンテナ特性の計算方法の計算精度を説明するための一例であり、以下の具体例に示される各パラメータの値によらなければ実施形態に従った計算方法が実用に耐え得る計算精度を得られないことを意味するものではない。
まず、第1検証例として、アンテナ210および第1線路221を含むモデルについて、実施形態のアンテナ特性計算方法により得られるアンテナ特性とシミュレーションにより得られるアンテナ特性とを比較する。
図5は、第1検証例におけるアンテナ素子および第1線路を含むモデル図である。
図5に示すアンテナ210および第1線路221を含むモデル500において、アンテナ210については、幅を0.5(mm)、長さを35(mm)、厚さを2(mm)とする。基板250については、厚さを0.2(mm)、比誘電率εrを4.4、誘電正接tanδを0.02、接地導体の面積を50×100(mm2)、導体の厚さを35(μm)、導体の導電率σを5.88×107(S/m)とする。
また、モデル500は、整合回路230および第2線路222を含まない。モデル500において、第1線路221については、線路幅を0.35(mm)、線路長を50(mm)、インピーダンスZ0を50(Ω)とする。
モデル500について解析周波数を880(MHz)としてシミュレーションが実行され、シミュレーションにより得られたインピーダンスZin1および放射効率ηの各値を図6に示す。
一方、実施形態では、アンテナ210および第1線路221を含むモデル500のアンテナ特性は、アンテナ210単体の特性および第1線路221の特性を用いて計算される。
アンテナ210単体の特性は、実施形態によっては、アンテナ特性シミュレーション処理部131によって取得される。また、実施形態によっては、任意の電磁界シミュレーションソフトウェアに従うコンピュータによってアンテナ210単体の特性が取得され、取得されたアンテナ210単体の特性が入力部110により入力される。
第1線路221の特性は、実施形態によっては、線路特性計算処理部132によって取得される。また、実施形態によっては、オープンソース・ソフトウェアであるQuite Universal Circuit Simulator(QUCS)等に従うコンピュータによって第1線路221の特性が取得され、取得された第1線路221の特性が入力部110により入力される。
図7は、第1検証例におけるアンテナ素子単体のモデル図である。
図7に示すアンテナ素子単体モデル600において、アンテナ210および基板250についてのパラメータの設定値は、図5に示したアンテナ素子および線路を含むモデル500と同様とする。
アンテナ素子単体モデル600について解析周波数を880(MHz)としてシミュレーションが実行され、シミュレーションにより得られたアンテナインピーダンスZaおよび放射効率ηaの各値を図6に示す。
図6を参照すると、アンテナ210単体のモデル600の放射効率ηが0.771(すなわち、77.1(%))であるのに対して、アンテナ210および第1線路221を含むモデル600の放射効率ηは、0.308(すなわち、30.8(%))に減少する。したがって、アンテナ210の厚さが2(mm)というように薄い場合、線路の損失を考慮してアンテナ設計を行なう必要があることが分かる。
図8は、第1検証例における線路のモデル図である。図8には、第1線路221がマイクロストリップ線路である場合の線路モデル700が示されている。
図8示す線路モデル700において、基板250および第1線路221についてのパラメータの設定値は、図5に示したアンテナ素子および線路を含むモデル500と同様とする。すなわち、基板250については、厚さを0.2(mm)、比誘電率εrを4.4、誘電正接tanδを0.02、接地導体の面積を50×100(mm2)、導体の厚さを35(μm)、導体の導電率σを5.88×107(S/m)とする。また、第1線路221については、線路幅を0.35(mm)、線路長l1を50(mm)、インピーダンスZ0を50(Ω)とする。
このような線路モデル700について解析周波数を880(MHz)として線路の特性を計算すると、線路のインピーダンスZl1の値50.94(Ω)、減衰定数α1の値0.56、位相定数β1の値32.4、および伝達係数γ1の値0.56+32.4jがそれぞれ得られる。
アンテナ特性計算部133bは、アンテナ210単体の特性および第1線路221の特性を用いて、アンテナ210および第1線路221を含むモデル500のアンテナ特性を計算する。
アンテナ特性計算部133bは、モデル500のインピーダンスZin1を式(8)を用いて計算する。すなわち、アンテナ特性計算部133bは、アンテナインピーダンスZaの値2.13+29.33j、線路長l1の値0.05、線路のインピーダンスZl1の値50.94、および伝達係数γ1の値0.56+32.4jを式(8)に代入してインピーダンスZin1の値3.68+34.917j(Ω)を計算する。
アンテナ特性計算部133bは、モデル50のSパラメータであるS11、すなわち、第1線路221の入力端で見た反射係数Γ1を式(12)を用いて計算する。式(12)を用いる場合には、アンテナ特性計算部133bは、式(12)中のZin2をZin1に変換して反射係数Γ1を計算する。あるいは、アンテナ特性計算部133bは、式(15)および式(16)を用いて計算する。式(15)および式(16)を用いて計算する場合、アンテナ特性計算部133bは、取得されたアンテナインピーダンスZaの値2.13+29.33jを式(15)に代入して、アンテナ210の反射係数Γaの値0.443−0.852jを計算する。そして、アンテナ特性計算部133bは、線路長l1の値0.05、伝達係数γ1の値0.56+32.4j、アンテナ210の反射係数Γaの値0.443−0.852jを式(16)に代入して、第1線路221の入力端で見た反射係数Γ1の値-0.339+0.843jを計算する。
アンテナ特性計算部133bは、モデル500の放射効率ηを式(13)および式(14)を用いて計算する。すなわち、アンテナ特性計算部133bは、式(15)および式(16)を用いて計算された反射係数Γaおよび反射係数Γ1の各値を式(14)に代入して、式(13)中の第2パートの値0.423(-3.74(dB))を計算する。また、本具体例では、整合回路230および第2線路222を含まないので、アンテナ特性計算部133bは、式(13)中の第3および第4パートの値に1を代入する。式(13)中の第1パートの値は、図6に示すようにシミュレーション実行部131bのシミュレーションまたは入力部110の入力により取得されており、0.771である。アンテナ特性計算部133bは、式(13)中に第1〜第4パートの値をそれぞれ代入して、モデル500の放射効率ηの値0.326(-4.87(dB))を計算する。
実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法により取得されたインピーダンスZin1および放射効率ηの各値を図6に示す。
図6に示した実施形態のアンテナ計算方法により取得されたアンテナ特性の値とシミュレーションにより取得されたアンテナ特性の値とを比較する。
図9は、第1検証例におけるインピーダンスの比較図である。図6には、図6に示した各インピーダンスの値がスミスチャート上に示されている。
図9を参照すると、実施形態のアンテナ計算方法とシミュレーションとでは、アンテナ210および第1線路221を含むモデル500のインピーダンスZin1の値がアンテナ210単体のモデル600のインピーダンスZaの値に対して近似することが分かる。
また、図6を参照すると、実施形態のアンテナ計算方法による反射係数ηの値とシミュレーションによる反射係数ηの値との差は、0.24(dB)であり、実施形態のアンテナ計算方法による反射係数ηの値とシミュレーションによる反射係数ηの値とが近似することが分かる。
したがって、第1検証例により、実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法がアンテナ設計の実用に耐え得る十分な計算精度を有することが分かる。
次に、第2検証例として、アンテナ210、整合回路230、および第2線路222を含むモデルについて、実施形態のアンテナ特性計算方法により得られるアンテナ特性とシミュレーションにより得られるアンテナ特性とを比較する。
図10は、第2検証例におけるアンテナ素子、整合回路、および第2線路を含むモデル図である。
図10に示すアンテナ210、整合回路230、および第2線路222を含むモデル800において、アンテナ210および基板250についてのパラメータの設定値は、図5に示したモデル500および図7に示したモデル600と同様とする。すなわち、アンテナ210については、幅を0.5(mm)、長さを35(mm)、厚さを2(mm)とする。基板250については、厚さを0.2(mm)、比誘電率εrを4.4、誘電正接tanδを0.02、接地導体の面積を50×100(mm2)、導体の厚さを35(μm)、導体の導電率σを5.88×107(S/m)とする。
モデル800は、整合回路230として、図4に示した整合素子230bおよび整合素子230cを含む。整合素子230bは、アンテナ210に対して直列に接続され、整合素子230cは、アンテナ210に対して並列に接続される。整合素子230bについて、12.5(nH)+0.5(Ω)とし、整合素子230cについて、2.6(nH)+0.5(Ω)とする。
モデル800は、第1線路221を含まない。モデル800において、第2線路222については、図5に示したモデル500および図8に示したモデル700と同様に、線路幅を0.35(mm)、線路長を50(mm)、インピーダンスZ0を50(Ω)とする。
モデル800について解析周波数を880(MHz)としてシミュレーションが実行され、シミュレーションにより得られたインピーダンスZin2および放射効率ηの各値を図11に示す。
一方、実施形態では、アンテナ210、整合回路230、および第2線路222を含むモデル800のアンテナ特性は、アンテナ210単体の特性、整合回路230を構成する整合素子230bおよび整合素子230cの各特性、および第2線路222の特性を用いて計算される。
第2検証例では、図7に示したアンテナ素子単体モデル600により取得されたアンテナ特性をアンテナ210単体のアンテナ特性として便宜的に用いることとする。アンテナ素子単体モデル600について解析周波数を880(MHz)としてシミュレーションして得られたアンテナ210単体のインピーダンスZaおよび放射効率ηaの各値を図11に示す。
第2検証例では、モデル800中の第2線路の形状および材質は、図8に示したモデル700と同様とすることから、線路モデル700により取得された線路特性を第2線路222の特性として便宜的に用いることとする。前述したように、線路モデル700について解析周波数を880(MHz)として線路の特性を計算すると、線路のインピーダンスZl1の値50.94(Ω)、減衰定数α1の値0.56、位相定数β1の値32.4、および伝達係数γ1の値0.56+32.4jがそれぞれ得られる。
アンテナ特性計算部133bは、アンテナ210単体の特性、整合回路230を構成する整合素子230bおよび整合素子230cの各特性、および第2線路222の特性を用いて、アンテナ210、整合回路230、および第2線路222を含むモデル800のアンテナ特性を計算する。
アンテナ特性計算部133bは、モデル800のインピーダンスZin2の値を式(9)〜式(11)を用いて計算する。まず、整合素子230aが存在しないので、インピーダンスZm1=∞である。整合素子230bのインピーダンスZm2の値は、0.5+2π×880×106×12.5×10-9j、すなわち0.5+69.115jと計算される。整合素子230cのインピーダンスZm3の値は、0.5+2π×880×106×2.6×10-9j、すなわち0.5+14.376jと計算される。アンテナ特性計算部133bは、式(9)および式(10)にこれらの値を代入して、インピーダンスZinmの値40.39+1.15jを算出する。そして、アンテナ特性計算部133bは、インピーダンスZinmの値40.39+1.15j、線路長l2の値0.05、線路のインピーダンスZl2の値50.94、および伝達係数γ2の値0.56+32.4jを式(11)に代入してインピーダンスZin2の値63.09-3.05j(Ω)を計算する。
アンテナ特性計算部133bは、モデル800のSパラメータであるS11、すなわち、第2線路221の入力端で見た反射係数Γ2を式(12)を用いて計算する。あるいは、アンテナ特性計算部133bは、式(22)および式(23)を用いて計算する。式(22)および式(23)を用いて計算する場合、アンテナ特性計算部133bは、式(9)より取得されたインピーダンスZinmの値40.39+1.15jを式(22)に代入して、反射係数Γmの値-0.106+0.0141jを計算する。そして、アンテナ特性計算部133bは、線路長l2の値0.05、伝達係数γ2の値0.56+32.4j、反射係数Γmの値-0.106+0.0141jを式(23)に代入して、第2線路222の入力端で見た反射係数Γ2の値0.099-0.023j(Ω)を計算する。
アンテナ特性計算部133bは、モデル800の放射効率ηを式(13)および式(17)〜式(21)用いて計算する。すなわち、アンテナ特性計算部133bは、取得されたインピーダンスの各値を式(18)〜式(20)に代入して、im2の値-0.904−0.328j、im1の値0、iin1の値-0.904−0.328jを取得する。アンテナ特性計算部133bは、取得したこれらの値を式(17)に代入し、式(13)の第3パートの値0.784を取得する。また、アンテナ特性計算部133bは、式(22)を用いて計算した反射係数Γmの値-0.106+0.0141j、および式(23)を用いて計算した反射係数Γ2の値0.099-0.023jを式(21)に代入して、式(13)中の第4パートの値0.945を計算する。本具体例では、第1線路221を含まないので、アンテナ特性計算部133bは、式(13)中の第2パートの値に1を代入する。式(13)中の第1パートの値は、シミュレーション実行部131bのシミュレーションまたは入力部110の入力により取得されており0.771である。アンテナ特性計算部133bは、式(13)中に第1〜第4パートの値をそれぞれ代入して、モデル800の放射効率ηの値0.571(-2.43(dB))を計算する。
実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法により取得されたインピーダンスZin2および放射効率ηの各値を図11に示す。
図11に示した実施形態のアンテナ計算方法により取得されたアンテナ特性の値とシミュレーションにより取得されたアンテナ特性の値とを比較する。
図12は、第2検証例におけるインピーダンスの比較図である。図12には、図11に示した各インピーダンスの値がスミスチャート上に示されている。
図12を参照すると、実施形態のアンテナ計算方法とシミュレーションとでは、アンテナ210、整合回路230、および第2線路222を含むモデル800のインピーダンスZin2の値がアンテナ210単体のモデル600のインピーダンスZaの値に対して近似することが分かる。
また、図12を参照すると、実施形態のアンテナ計算方法による反射係数ηの値とシミュレーションによる反射係数ηの値との差は、0.11(dB)であり、実施形態のアンテナ計算方法による反射係数ηの値とシミュレーションによる反射係数ηの値とが近似することが分かる。
したがって、第1検証例に加えて第2検証例からも、実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法がアンテナ設計の実用に耐え得る十分な計算精度を得られることが分かる。
以上の検証結果に示されるように、実施形態のアンテナ特性の計算方法によれば、長時間のシミュレーションを実行しなくても、短時間の解析的手法を用いた計算処理によってアンテナ設計の実用に耐え得る十分な計算精度のアンテナ特性を得ることができる。
したがって、実施形態に従えば、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子のインピーダンスや線路のインピーダンスが加味された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性を短時間で取得することができ、所望のアンテナ設計を効率的に行なうことができる。
実施形態によっては、アンテナ特性計算部133bは、上述のようなアンテナ特性の計算処理に加えて、次のような計算処理を実行することも可能である。すなわち、アンテナ特性計算部133bは、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子のインピーダンスや線路のインピーダンスに加えて、ビアのインピーダンスを加味して整合回路付きアンテナモデル200のアンテナ特性を計算する。
例えば、図4に示される整合素子230aおよび整合素子230cのようにアンテナ210に対して並列に実装される整合素子は、接地ビアを介して接地導体と接続される。整合素子と接続される接地ビアのインピーダンスが無視できない場合には、整合回路にビアのインピーダンスを追加した合成インピーダンスを用いて、アンテナ特性を計算する必要がある。
そこで、整合回路付きアンテナモデル作成部133aによって算出または取得された整合回路230の回路構成が、整合素子がアンテナ210に対して並列に実装される回路構成である場合、アンテナ特性計算部133bは、整合素子と接地導体とを接続するビアのインピーダンスを加味した整合回路付きアンテナモデル200のアンテナ特性を計算する。すなわち、アンテナ特性計算部133bは、ビアのインダクタンスおよび/または抵抗を加味して整合回路付きアンテナモデル200のアンテナ特性を計算する。
例えば、接地ビアが円筒状の形状である場合、アンテナ特性計算部133bは、接地ビアのインダクタンスLvを次の式(25)により計算する。
式(25)において、μ0は、真空の透磁率である。hは、ビア長である。rは、ビアの半径であり、ビア径をDとすると、r=D/2である。
例えば、整合素子がアンテナ210に対して並列に実装される回路構成を整合回路付きアンテナモデル作成部133aが算出または取得する場合、表示部140は、ビア長hおよびビア径Dの各値の入力を促す表示をする。そして、ビア長hおよびビア径Dの各値は、入力部110によって入力される。アンテナ特性計算部133bは、入力部110によって入力されたビア長hおよびビア径Dの各値を用いてビアのインダクタンスLvを計算する。
例えば、接地ビアが円筒状の形状である場合、アンテナ特性計算部133bは、接地ビアの抵抗Rvを次の式(26)により計算する。
式(26)において、fは、信号周波数であり、Rv0は、ビアの直流抵抗である。また、式(26)中のfδは、次の式(27)によって表される。
式(27)において、ρは、導体の抵抗率である。tは、ビア内のメタライゼーションの厚さであり、前述のビア径Dをビアの外径とし、ビアの内径をD´とすると、t=D−D´である。
例えば、整合素子がアンテナ210に対して並列に実装される回路構成を整合回路付きアンテナモデル作成部133aが算出または取得する場合、表示部140は、ビアの外径D、ビアの内径D´、抵抗率ρ、および直流抵抗Rv0の各値の入力を促す表示をする。そして、ビアの外径D、ビアの内径D´、抵抗率ρ、および直流抵抗Rv0の各値は、入力部110によって入力される。アンテナ特性計算部133bは、入力部110によって入力されたビアの外径D、ビアの内径D´、抵抗率ρ、および直流抵抗Rv0の各値を用いてビアの抵抗Rvを計算する。
アンテナ特性計算部133bは、計算されたビアのインダクタンスLvをそのビアと接続する整合素子のリアクタンスをXmiに加算する。また、アンテナ特性計算部133bは、計算されたビアの抵抗Rvをそのビアと接続する整合素子の損失抵抗をRmiに加算する。ビアのインダクタンスLvおよび/またはビアの抵抗Rvを加算した後にアンテナ特性計算部133bにより実行される整合回路付きアンテナモデル200のアンテナ特性の計算方法は、前述した方法と同様である。
実施形態では、アンテナ特性計算部133bは、線路および整合素子のそれぞれの消費電力を、既知の値である波源110の電圧値および各素子のインピーダンスの値等を用いて計算する。
計算結果判定部133cは、整合回路付きアンテナモデル200が所望の規格を満足するか否かを、アンテナ特性計算部133bにより計算されたトータル効率を用いて判定する。
整合回路付きアンテナモデルが所望の規格を満足すると判定する場合には、計算結果判定部133cは、判定結果を表示部140に表示させる。また、計算結果判定部133cは、判定結果を計算処理データファイル123に格納する。
一方、整合回路付きアンテナモデルが所望の規格を満足しないと判定する場合には、計算結果判定部133cは、第1線路221、第2線路222、および整合回路230を構成する各整合素子のそれぞれの消費電力を表示部140に表示させる。前述したように、これらの素子のそれぞれの消費電力は、アンテナ特性計算部133bにより計算され、計算処理データファイル123に格納されている。また、実施形態によっては、計算結果判定部133cは、整合素子の損失抵抗の許容される上限値または閾値を表示部140に表示させる。
また、計算結果判定部133cは、整合回路330を構成する整合素子と同じ静電容量またはインダクタンスであって損失抵抗の低い整合素子を探索し、整合回路230を構成する整合素子を、探索された整合素子に置き換える。実施形態によっては、計算結果判定部133cによる探索は、整合素子データファイル124を参照することにより行なわれる。また、実施形態によっては、入力部110により入力された整合素子の素子特性データを参照して行なわれる。
計算結果判定部133cにより整合素子が置き換えられた整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性は、アンテナ特性計算部133bにより計算される。アンテナ特性計算部133bによりアンテナ特性が計算された後、計算結果判定部133cは、置き換えられた整合素子を含む整合回路付きアンテナモデル200が所望の規格を満足するか否かを判定する。
整合回路付きアンテナモデル200が所望の規格を満足すると判定する場合には、計算結果判定部133cは、判定結果を表示部140に表示させる。また、計算結果判定部133cは、判定結果を計算処理データファイル123に格納する。
一方、整合回路付きアンテナモデル200が所望の規格を満足しないと判定する場合には、計算結果判定部133cは、整合回路付きアンテナモデル200に含まれる第1線路221および/または第2線路222の線路長を変更する。
計算結果判定部133cにより線路長が変更された整合回路付きアンテナモデル200のアンテナ特性は、アンテナ特性計算部133bにより計算される。アンテナ特性計算部133bによりアンテナ特性が計算された後、計算結果判定部133cは、線路長が変更された整合回路付きアンテナモデル200が所望の規格を満足するか否かを判定する。
このように、実施形態では、整合素子の寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合回路のインピーダンス、および線路のインピーダンスを加味した整合回路付きアンテナモデルが所望のトータル効率を満足するか否かを計算結果判定部133cが判定することによって、所望の規格を満足する整合回路付きアンテナモデルが決定される。
したがって、実施形態に従えば、整合回路および線路の損失を考慮した所望のアンテナ設計を効率的に行なうことができる。
実施形態に従ったアンテナ設計方法の処理フローの一例を説明する。
図13は、実施形態に従ったアンテナ設計方法の処理フローの例図である。
step1301において、整合回路なしアンテナモデル作成部131aは、入力部110により入力されたモデルの条件データに従って、アンテナ素子および線路を含むモデルを作成する。前述したように、入力部110により入力されるモデルの条件データには、モデルの形状、モデルの材質、波源、回路部品、解析条件、および解析出力項目に関するデータが含まれる。
実施形態によっては、整合回路なしアンテナモデル作成部131aは、アンテナ素子および線路を含むモデルに加えて、アンテナ素子単体のモデルを作成する。
実施形態によっては、線路モデル作成部132aは、入力部110により入力されたモデルの条件データに従って、線路のモデルを作成する。
step1302において、シミュレーション実行部131bは、整合回路なしアンテナモデル作成部131aにより作成された、アンテナ素子および線路を含むモデルに対してシミュレーションを実行し、アンテナ特性を取得する。シミュレーション実行部131bが取得するアンテナ特性には、入力部110の入力により設定された周波数ごとの放射効率、インピーダンス、および反射係数が含まれる。
実施形態によっては、シミュレーション実行部131bは、整合回路なしアンテナモデル作成部131aにより作成された、アンテナ素子単体のモデルに対してシミュレーションを実行し、アンテナ特性を取得する。シミュレーション実行部131bが取得するアンテナ特性には、入力部110の入力により設定された周波数ごとの放射効率ηa、インピーダンスZa、および反射係数Γaが含まれる。シミュレーション実行部131bにより取得されたアンテナ素子単体のモデルに対するアンテナ特性は、アンテナ特性ファイル121に格納される。
実施形態によっては、線路特性計算部132bは、線路モデル作成部132aにより作成された線路のモデルを用いて線路の特性を計算する。計算される線路の特性には、入力部110の入力により設定された周波数ごとの線路のインピーダンス、伝達係数、減衰定数、および位相定数が含まれる。線路特性計算部132bにより計算された線路の特性は、線路特性ファイル122に格納される。
step1303において、シミュレーション結果判定部131cは、シミュレーション実行部131bの実行結果から取得される、アンテナ素子および線路を含むモデルのトータル効率ηtが所望の規格値以上であるか否かを判定する。
step1303においてトータル効率ηtが所望の規格値以上であると判定される場合には、アンテナ設計処理は、step1310に進んで終了する。そして、整合回路なしアンテナモデル作成部131aにより作成されたアンテナモデルに基づいて、アンテナの試作または製造が行なわれる。
step1303においてトータル効率ηtが所望の規格値未満であると判定される場合には、アンテナ設計処理は、step1304に進む。
step1304において、表示部140は、整合回路を含むアンテナモデルを設計するためのツール画面を表示する。
図14は、整合回路付きアンテナモデルを設計のためのツール画面の一例である。
図14に示すように、実施形態に従ったツール画面1400には、対象周波数を表示する領域1410および基板の誘電率を表示する領域1420が含まれる。
また、ツール画面1400には、アンテナインピーダンスの実数部Raおよび虚数部Xa、および放射効率ηaを表示する領域1430が含まれる。
実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、アンテナ特性ファイル121に格納された周波数ごとの放射効率ηa、アンテナインピーダンスZa、反射係数Γaをインポートする。そして、入力部110により対象周波数が入力されると、整合回路付きアンテナモデル作成部133aによりインポートされた対象周波数のアンテナインピーダンスZaの実数部Raおよび虚数部Xa、および放射効率ηaが表示部140により領域1430に表示される。
実施形態によっては、入力部110により入力された対象周波数、アンテナインピーダンスZaの実数部Raおよび虚数部Xa、および放射効率ηaが表示部140により領域1430に表示される。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、実施形態によっては、インポートされた反射係数Γaに基づいて、所望の整合回路の回路構成を算出する。また、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、実施形態によっては、入力部110により入力された整合回路の回路構成のデータを取得する。
図14に示すように、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより算出または取得された整合回路の回路構成は、整合回路付きアンテナモデルの等価回路が表示される領域1440に表示部140によって表示される。図14に示したツール画面1400では、整合素子である素子1〜素子3がパイ型にアンテナモデルに挿入された回路構成が示されている。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、算出または取得された回路構成に従って、使用条件に適合する、整合回路を構成する整合素子を決定する。図14に示したツール画面では、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合回路を構成する素子1〜素子3を決定する。整合素子の使用条件は、入力部110からの入力により整合回路付きアンテナモデル作成部133aに取得されている。
実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合素子データファイル124に格納された整合素子のデータを参照することによって整合回路を構成する整合素子を決定する。
整合素子の種別がコンデンサの場合、整合素子データファイル124には、整合素子名、メーカー名、サイズ、静電容量、等価直列インダクタンス(Equivalent Series Resistance、ESR)、等価直列抵抗(Equivalent Series Inductance、ESL)、耐圧、および価格に関するデータが含まれる。
コンデンサには、静電容量の他に、損失抵抗成分である等価直列抵抗と寄生リアクタンス成分である等価直列インダクタンスとが含まれる。実施形態では、コンデンサの静電容量に加えて等価直列インダクタンスおよび等価直列抵抗を考慮して、整合回路付きのアンテナモデルのアンテナ特性を計算する。そこで、等価直列インダクタンスおよび等価直列抵抗に関するデータが整合素子データファイルに格納されるようにする。
整合素子の種別がインダクタの場合、整合素子データファイルには、整合素子名、メーカー名、サイズ、インダクタンス、付随静電容量、付随抵抗、耐圧、および価格に関するデータが含まれる。
インダクタには、インダクタンスの他に、損失抵抗成分である付随抵抗と寄生リアクタンス成分である付随静電容量とが含まれる。実施形態では、インダクタのインダクタンスに加えて付随静電容量および付随抵抗を考慮して、整合回路付きのアンテナモデルのアンテナ特性を計算する。そこで、付随静電容量および付随抵抗に関するデータが整合素子データファイルに格納されるようにする。
整合素子データファイルを参照して整合素子を決定する場合には、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、まず、整合素子データファイルを静電容量またはインダクタンスについて昇順または降順に並べ替える。また、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、静電容量またはインダクタンスが同じ整合素子が存在する場合には、整合素子の価格について昇順または降順に並べ替える。そして、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合素子データファイルの中から、サイズおよび耐圧が整合素子の使用条件に適合する整合素子を選択する。サイズおよび耐圧が同じ整合素子が整合素子データファイル中に存在する場合には、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、価格の値が小さい整合素子を選択する。
整合回路を構成するアンテナ素子が整合回路付きアンテナモデル作成部133aによって整合素子データファイル124に従い決定されると、決定された整合素子の種別、静電容量またはインダクタンス、損失抵抗、および寄生リアクタンスがツール画面に表示される。図14に示したツール画面1400では、決定された素子1〜素子3それぞれの種別、静電容量またはインダクタンス、損失抵抗、および寄生リアクタンスが、領域1451〜領域1453に表示される。
なお、実施形態によっては、入力部110により入力された整合素子の種別、静電容量またはインダクタンス、損失抵抗、および寄生リアクタンスが領域1451〜領域1453に表示される。この場合、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110から入力された整合素子のデータによって使用条件に適合する整合素子を決定する。
実施形態によっては、整合素子がアンテナに対して並列に実装される回路構成を整合回路付きアンテナモデル作成部133aが算出または取得する場合、表示部140は、ビア長hおよびビア径Dの各値の入力を促す表示をする。
図14に示すツール画面1400では、アンテナに対して並列に実装された素子1のパラメータを入力および表示する領域1451中に、素子1と接続するビアのビア長およびビア径の各値の入力を促す表示が表示部140によりなされる。また、アンテナに対して並列に実装された素子3のパラメータを入力および表示する領域1453中に、素子3と接続するビアのビア長およびビア径の各値の入力を促す表示が表示部140によりなされる。表示部140の表示に従って、素子1および素子2のそれぞれのビア長およびビア径が入力部110によって入力される。アンテナ特性計算部133bは、入力部110によって入力されたビア長およびビア径の各値を用いて、素子1および素子2にそれぞれ接続されるビアのインダクタンスを計算する。計算された素子1に接続されるビアのインダクタンスは、素子1のインピーダンスのリアクタンス成分として加算される。また、計算された素子3に接続されるビアのインダクタンスは、素子3のインピーダンスのリアクタンス成分として加算される。
図14に示すように、整合回路付きアンテナモデルの等価回路が表示される領域1440には、アンテナモデルを構成する第1線路および第2線路が表示部140によって表示される。
また、ツール画面1400には、第1線路および第2線路それぞれの長さ、減衰定数α、および位相定数βが表示される領域1461および領域1462が含まれる。
第1線路および第2線路それぞれの長さ、減衰定数α、および位相定数βが入力部110により入力されると、それらの値は、表示部140によって領域1461および領域1462に表示される。
実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、線路特性ファイル122に格納された周波数ごとの線路のインピーダンス、減衰定数、および位相定数をインポートする。そして、入力部110により対象周波数が入力されると、インポートされた対象周波数の減衰定数および位相定数が表示部140により領域1461および領域1462に表示される。
step1305において、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより作成されたアンテナモデルのアンテナ特性を図2〜図4を参照しながら前述した計算手法に従って計算する。計算されるアンテナ特性には、反射係数S11、放射効率η、およびトータル効率ηtが含まれる。アンテナ特性計算部133bによる計算結果は、計算処理データファイル123に格納される。
また、アンテナ特性計算部133bは、第1線路、第2線路、および整合回路を構成する各整合素子のそれぞれの消費電力を計算する。アンテナ特性計算部133bによる計算結果は、計算処理データファイル123に格納される。
図14に示すように、アンテナ特性計算部133bにより計算された整合回路付きアンテナモデルの反射係数S11、放射効率η、およびトータル効率ηtは、ツール画面1400の領域1470に表示部140によって表示される。
step1306において、計算結果判定部133cは、アンテナ特性計算部133bにより計算されたトータル効率ηtが所望の規格値以上であるか否かを判定する。
step1306においてトータル効率ηtが所望の規格値以上であると判定される場合には、アンテナ設計処理は、step1310に進んで終了する。そして、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより作成されたアンテナモデルに基づいて、アンテナの試作または製造が行なわれる。
step1306においてトータル効率ηtが所望の規格値未満であると判定される場合には、アンテナ設計処理は、step1307に進む。
step1307では、計算結果判定部133cは、計算処理データファイル122に格納されている、整合回路を構成する各整合素子のそれぞれの消費電力を表示部140に領域1480に表示するように指示する。なお、実施形態によっては、計算結果判定部133cは、整合回路を構成する各整合素子のそれぞれの消費電力を、アンテナ設計装置100に接続された印刷装置(図示せず)に印刷させる。
また、step1307では、整合回路を構成する整合素子を交換する処理が実行される。step1307における整合素子の交換処理の詳細を図15に示す。
図15は、整合素子の交換処理フローの例図である。
step1501において、計算結果判定部133cは、整合回路を構成するn個(nは1以上の整数)の整合素子を消費電力が大きい順に並べ替え、並べ替えられた整合素子に1からnまでの整合素子番号を昇順に振る。また、計算結果判定部133cは、整合素子番号のカウント値iを1に設定する。
step1502において、計算結果判定部133cは、カウント値iと同じi番の整合素子番号の整合素子と同一の静電容量またはインダクタンスであり、かつi番の整合素子番号の整合素子よりも損失抵抗が小さい整合素子を探索する。実施形態によっては、計算結果判定部133cは、整合素子データファイル123の中から該当する整合素子を探索する。
step1502において該当する整合素子が存在する場合、step1503の処理に進む。
step1503において、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合回路を構成するi番の整合素子番号の整合素子を、計算結果判定部133cにより探索された整合素子に交換する。
step1504において、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより整合素子が交換された整合回路を含むアンテナモデルのアンテナ特性を前述した実施形態に従った計算方法により計算する。
step1505において、計算結果判定部133cは、整合素子が交換された整合回路を含むアンテナモデルのトータル効率ηtが所望の規格値以上であるか否かを判定する。
step1505においてトータル効率ηtが所望の規格値以上であると判定される場合には、アンテナ設計処理は、図13のstep1310に進んで終了する。そして、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより作成された、整合素子が交換された整合回路付きアンテナモデルに基づいて、アンテナの試作または製造が行なわれる。
step1505においてトータル効率ηtが所望の規格値未満であると判定される場合には、アンテナ設計処理は、step1506に進む。
step1502において該当する整合素子が存在しない場合には、アンテナ設計処理は、step1506に進む。
step1506において、計算結果判定部133cは、カウント値iを1つインクリメントする。そして、step1507において、カウント値iが整合回路を構成する整合素子の数n以下であるか否かを判定する。
step1506においてカウント値iが整合回路を構成する整合素子の数n以下であると判定される場合には、step1503に戻り、アンテナ設計処理は継続される。
step1506においてカウント値iが整合回路を構成する整合素子の数nを越えると判定される場合には、アンテナ設計処理は、図13のstep1308に進む。
図3のstep1308において、計算結果判定部133cは、整合回路付きアンテナモデルに含まれる線路の線路長を変更可能か否かを判定する。
実施形態によっては、計算結果判定部133cは、線路の線路長変更の可否を入力部110に入力するよう促す表示を表示部140にさせる。そして、計算結果判定部133cは、入力部110により入力された線路の線路長変更の可否に関するデータに従って、整合回路付きアンテナモデルに含まれる線路の線路長を変更可能か否かを判定する。
step1308において線路の線路長を変更可能と判定される場合には、アンテナ設計処理は、step1309に進む。
step1309では、計算結果判定部133cは、計算処理データファイル122に格納されている、整合回路付きアンテナモデルを構成するそれぞれの線路の消費電力を表示部140に領域1480に表示するように指示する。なお、実施形態によっては、計算結果判定部133cは、整合回路付きアンテナモデルを構成するそれぞれの線路の消費電力を、アンテナ設計装置100に接続された印刷装置(図示せず)に印刷させる。
また、step1309では、整合回路付きアンテナモデルを構成する線路の線路長を変更する処理が実行される。step1309における線路の線路長の変更処理の詳細を図16に示す。
図16は、線路の線路長の変更処理フローの例図である。
step1601において、計算結果判定部133cは、整合回路付きアンテナモデルを構成するm個(mは1以上の整数)の線路を消費電力が大きい順に並べ替え、並べ替えられた線路に1からmまでの線路番号を昇順に振る。また、計算結果判定部133cは、線路番号のカウント値jを1に設定する。
step1602において、計算結果判定部133cは、カウント値jと同じ線路番号を有する線路の線路長を短くする。計算結果判定部133cにより変更された線路長の長さは、例えば、その線路によって接続される回路素子同士が互いに接触しない長さである。
step1603において、計算結果判定部133cは、線路長の短縮に起因する線路のインピーダンスの位相変化に伴い、線路に接続された回路素子の変更が必要か否かを判定する。
step1603において回路素子の変更が必要であると判定される場合には、アンテナ設計処理は、step1604に進む。
step1604では、回路素子の変更処理が実行される。step1604において実行される回路素子の変更処理は、例えば、step1304について前述した整合回路付きアンテナモデル作成部133aによる整合回路の回路構成の算出処理および整合素子の選択処理である。
step1605において、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、step1602における線路長の変更およびstep1604における回路素子の変更に基づいて、線路長が変更された整合回路付きアンテナモデルを再作成する。アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより再作成されたアンテナモデルのアンテナ特性を図2〜図4を参照しながら前述した計算方法に従って計算する。
step1606において、計算結果判定部133cは、線路長が変更された整合回路付きアンテナモデルのトータル効率ηtが所望の規格値以上であるか否かを判定する。
step1606においてトータル効率ηtが所望の規格値以上であると判定される場合には、アンテナ設計処理は、図13のstep1310に進んで終了する。そして、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより作成された、線路長が変更された整合回路付きアンテナモデルに基づいて、アンテナの試作または製造が行なわれる。
step1606においてトータル効率ηtが所望の規格値未満であると判定される場合には、アンテナ設計処理は、step1607に進む。
step1607において、計算結果判定部133cは、カウント値jを1つインクリメントする。そして、step1608において、カウント値jが整合回路付きアンテナモデルを構成する線路の数m以下であるか否かを判定する。
step1607においてカウント値jが線路の数m以下であると判定される場合には、step1602に戻り、アンテナ設計処理は継続される。
step1607においてカウント値jが線路の数mを越えると判定される場合には、アンテナ設計処理は、図13のstep1310に進む。
step1607からstep1310に進んだ後のアンテナ設計処理としては、実施形態によっては、step1301に戻って入力部110により入力されるアンテナモデルの条件データが変更され、実施形態に従ったアンテナ設計処理が再度行われる。また、実施形態によっては、step1304に戻り、整合素子のサイズ等の整合素子の使用条件が変更され、実施形態に従ったアンテナ設計処理が再度行われる。
なお、図13を参照しながら前述したアンテナ設計処理フローは、一例にすぎず、実施形態がこれに限定されることを意図するものではない。例えば、前述したアンテナ設計処理フローに以下の変更を追加することも可能である。
まず、アンテナ設計処理フローのstep1501では、入力部110は、アンテナモデルの条件データとして、前述した各種データに加えて、整合回路の回路構成に関するデータを入力する。
step1304では、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110により入力された整合回路の回路構成に関するデータに従って、寄生リアクタンス成分および損失抵抗成分を含まない整合素子により構成される整合回路のモデルを作成する。そして、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、作成された整合回路付きのアンテナモデル対するシミュレーションをシミュレーション実行部131bに実行させ、最適な回路定数を取得する。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、シミュレーション実行部131bにより取得された回路定数に従って、整合回路を構成する整合素子を決定する。実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合素子データファイルを参照して整合素子を決定する。また、実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110から入力された整合素子のデータに基づいて整合素子を決定する。
step1305では、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより決定された整合素子により構成される整合回路を含むアンテナモデルのアンテナ特性を、前述した実施形態に従った計算方法によって計算する。
また、前述した実施形態では、アンテナ設計装置100が実行するアンテナ設計方法を説明した。しかしながら、前述したアンテナ設計装置100が有する構成および処理機能を、アンテナ設計プログラムというソフトウェアによって実現することも可能である。したがって、アンテナ設計装置100が実行するアンテナ設計処理と同様のアンテナ設計処理を、アンテナ設計プログラムを実行するコンピュータによって実現することも可能である。
図17は、実施形態に従ったアンテナ設計プログラムを実行するコンピュータのハードウェア構成図である。
図17に示すように、コンピュータ1700には、入力装置1701、読み取り装置1702、通信インタフェース1703、ハードディスク(HDD)1704、Central Processing Unit(CPU)1705、Random Access Memory(RAM)1706、Read Only Memory(ROM)1707、表示装置1708、およびバス1709が含まれる。コンピュータ1700に含まれる装置1701〜1708は、バス1709によって相互に接続される。
入力装置1701は、コンピュータ1700のユーザが行なった操作を検出する装置であり、例えば、マウスおよびキーボードである。
読み取り装置1702は、磁気ディスク、光ディスク、および光磁気ディスク等の可変記録媒体に含まれるプログラムおよびデータを読み出す装置であり、例えば、Compact Disc/Digital Versatile Disc(CD/DVD)ドライブである。通信インタフェース1703は、Local Area Network(LAN)等の通信ネットワークにコンピュータ1700を接続するためのインタフェースである。HDD1704は、CPU1705が実行するプログラムおよびデータを記憶する記憶装置である。
実施形態に従ったアンテナ設計プログラムは、可変記録媒体に記録されたアンテナ設計プログラムを読み取り装置1702が読み取ることによって、HDD1704にインストールされる。または、実施形態に従ったアンテナ設計プログラムは、他のコンピュータ装置(図示せず)に格納されたアンテナ設計プログラムが通信インタフェース1703を介してコンピュータ1700が取得することによって、HDD1704にインストールされる。
CPU1705は、アンテナ設計プログラムをHDD1704からRAM1706に読み出してアンテナ設計プログラムを実行することによって、実施形態に従ったアンテナ設計処理を実行する処理装置である。
RAM1706は、HDD1704から読み出されたアンテナ設計プログラムの実行途中結果を記憶するメモリである。ROM1707は、定数データ等を記憶する読み出し専用メモリである。
表示装置1708は、CPU1705の処理結果等を表示する装置であり、例えば、液晶ディスプレイ装置である。
以上の説明のように、実施形態では、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子の損失、および線路の損失を加味したアンテナモデルのアンテナ特性は、アンテナ単体の特性、整合素子の特性、および線路の特性を用いて解析的手法により計算される。したがって、実施形態に従ったアンテナ特性計算方法に従えば、これらの損失が考慮されたアンテナ特性をシミュレーションにより取得する場合と比較して、短時間で取得することができ、所望のアンテナ設計を迅速かつ効率的に行なうことができる。
また、実施形態では、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子の損失、および線路の損失を加味したアンテナモデルが所望のトータル効率を満足するか否かによって、アンテナモデルに含まれる回路素子が変更される。したがって、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子の損失、および線路の損失を考慮したアンテナ設計処理を効率的に行なうことができる。