JP2013184962A - ジペプチジルペプチダーゼ−iv阻害剤 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 下記の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる選ばれる1種又は2種以上のものを有効成分として含有するジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、血管内皮障害抑制剤;下記の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるから選ばれる1種又は2種以上のものを有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
(a)Val−Ala(配列番号1)
(b)Ile−Ala(配列番号2)
(c)Leu−Ala(配列番号3)
【選択図】なし
Description
また、例えば、特許文献2には、カゼインを、pH及び温度を調整してアルカリ分解した後、さらにプロテアーゼ等の各種酵素を調整して酵素加水分解した加水分解物から、種々のペプチドを分離精製し、さらにその中からジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用のあるものを見出したことが開示されている。その他にも食品由来のジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害物質についての開示がある(例えば、特許文献3〜5参照)。
よって、本発明は、優れたジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤を提供することにある。
以上のことから、本開示のジペプチドは、より付加価値のある有効な物質と言える。
また、下記の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のものを有効成分として含有する血糖値上昇抑制剤、抗糖尿病剤、血圧降下剤、抗高血圧剤又は血管内皮障害抑制剤である。
(a)Val−Ala(VA:配列番号1)
(b)Ile−Ala(IA:配列番号2)
(c)Leu−Ala(LA:配列番号3)
ここで、本開示において、Ala(A)はL−アラニン残基、Val(V)はL−バリン残基、Ile(I)はL−イソロイシン残基、Leu(L)はL−ロイシン残基を示す。
ジペプチドVal−Ala(VA:配列番号1)、ジペプチドIle−Ala(IA:配列番号2)及びジペプチドLeu−Ala(LA:配列番号3)から選ばれる1種又は2種以上のものを有効成分として使用することができる。
ジペプチドVA、ジペプチドIA及びジペプチドLAは、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用を有するジペプチドである。また、ジペプチドVA及びジペプチドIAは、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有するジペプチドである。
例えば、配列番号1(VA)、配列番号2(IA)及び配列番号3(LA)で表されるアミノ酸配列から選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸配列を含む蛋白質やペプチドを加水分解等にて分解し、得られた分解物から分離精製して得る方法;ペプチドの化学合成方法にて本開示のジペプチドを合成した後、得られた合成物から本開示のジペプチドを分離精製して得る方法;本開示のジペプチド及びこれを含むペプチド等を生産する植物、動物や微生物から抽出し、得られた抽出物から分離精製する方法等が挙げられる。
原料蛋白質を加水分解酵素で加水分解して前記ジペプチドを得る方法を例示する。
まず、原料蛋白質を酵素で加水分解する前に、蛋白質を水に溶解、分散又は懸濁させる。
前記原料蛋白質は、本開示のジペプチドを含む蛋白質であって、適宜加水分解酵素で消化したときに本開示のジペプチドが生成可能なものであれば、特に限定されない。前記蛋白質として、例えば、動物由来や微生物由来のもの等が挙げられ、大量に入手可能なカゼインが好適である。
このとき、原料蛋白質の性状により処法は異なるが、原料蛋白質が可溶性の場合には、原料蛋白質を水又は温水に分散し、溶解すればよく、また、難溶性の場合には熱水に蛋白質を混合撹拌にてホモジナイズすればよい。
前記アルカリ剤又は酸剤として、特に限定されず、食品又は医薬品に許容されるものを使用すればよい。アルカリ剤として、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム等の水酸化物;炭酸カリウム等の炭酸塩などが挙げられ、これらはアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩でもよい。また、酸剤として、例えば、塩酸、リン酸等の無機酸;クエン酸、酢酸、ギ酸等の有機酸などが挙げられる。これらのうち、適宜1種又は2種以上を使用すればよい。
また、前記蛋白質を含有する溶液を70〜90℃で15秒〜10分間程度加熱殺菌することが、雑菌汚染による変敗防止の点から望ましい。
このとき、前記加水分解酵素を添加し後、当該溶液を、酵素の種類に応じて適当な温度、例えば30〜60℃、望ましくは45〜55℃に保持して、蛋白質の加水分解を開始するのが望ましい。
また、加水分解反応時間は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達するまで反応を続ければよい。前記原料蛋白質の分解率は20〜30%が、本開示のジペプチドを得るためには、望ましい。
前記加水分解酵素反応の停止は、例えば、加水分解液中の酵素の失活により行われ、常法による加熱失活処理により実施することができる。加熱失活処理の加熱温度と保持時間は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができるが、例えば、80〜130℃の温度範囲で30分間〜2秒間の保持時間で行うことができる。
例えば、バチルス属細菌由来のプロテアーゼを使用する際には、蛋白質1g当たり100〜5000活性単位の割合で添加するのが望ましい。また、動物膵臓由来のプロテアーゼを使用する際には、蛋白質1g当たり3000〜8000活性単位の割合で添加するのが望ましい。
本開示において用いる加水分解酵素は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。2種以上の酵素を用いる場合には、それぞれの酵素反応は同時に又は別々に行ってもよい。
本開示において、ビオプラーゼsp−20、プロテアーゼN及びPTN6.0Sを併用するのが好ましく、これら3酵素を混合して使用することが特に好ましい。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
本開示のジペプチドの精製は、通常、オリゴペプチドの精製に用いられているのと同様の手法、例えばイオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー、溶媒沈殿、塩析、2種の液相間での分配等の方法を適宜組み合わせることによって、行うことができる。
本開示のジペプチドの化学合成は、オリゴペプチドの合成に通常用いられている液相法または固相法によって行うことができる。合成されたペプチドは必要に応じて脱保護され、未反応試薬や副生物等を除去して、本開示のジペプチドを単離することが可能である。
このようなペプチドの合成は、市販のペプチド合成装置を用いて行うことができる。目的とするペプチドが得られたことは、後述するジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用及び/又はアンジオテンシン変換酵素阻害作用を指標として確認することができる。
ジペプチジルペプチダーゼ−IVが、生体内の生理機能に関与している化合物を分解することで、種々の疾患や症状が生じる場合がある。このため、ジペプチジルペプチダーゼ−IVを阻害すると、ジペプチジルペプチダーゼ−IVによって分解されていた生体内の生理機能に関与している化合物の寿命が延びることを利用して、ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患や症状の予防、改善又は治療が可能となる。
前記生理機能に関与する化合物として、例えば、GLP−1やGIPが挙げられる。そして、このGLP−1の分解抑制によって、インスリンの生合成及び分泌に対するグルコース誘導性の刺激、グルカゴン分泌抑制、遺伝子発現の調整、Β細胞に対する栄養性の効果、食物摂取の抑制、及び胃内容排出の緩徐化などの各作用を奏することが可能である。これによって、上昇した血糖値の正常化、並びに空腹感及び体重の改善・調整に寄与することが可能である。
近年、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害薬の投与による内皮細胞の機能改善効果が多数報告されている(例えば、参考文献2〜5参照〔参考文献2〕Endocrine Journal 2011, 58 (1), 69-73;〔参考文献3〕J Am Coll Cardiol. 2012, 59(3), 265-76;〔参考文献4〕Diabetes Care. 2011, 34(9), 2072-7;〔参考文献5〕Cardiovascular Diabetology 2011, 10(85) (http://www.cardiab.com/content/10/1/85))。
これらの効果は単に血糖値を下げることによる改善の他に、インクレチンによる血管の保護作用を介していると考えられている。高血糖により内皮細胞の機能が低下し、血管のしなやかさが失われると、血圧が上昇し、上昇した血圧がさらに血管を傷めるという悪循環が、心臓・腎臓・脳といった臓器への悪影響となって現れる。この悪循環を断ち切るために、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害薬とアンジオテンシン変換酵素阻害薬の併用も試みられており、ジペプチジルペプチダーゼ−IVの阻害剤は循環器系の治療においても、重要な役割を果たすものと考えられている。
さらに、ジペプチジルペプチダーゼ−IVを阻害することで、ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患や症状の予防、改善又は治療が可能と考えられる。本開示のジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する各種疾患や症状として、例えば、高血糖症、糖尿病、糖尿病合併症、血管内皮障害、血管障害等が挙げられる。なお、ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する各種疾患等は、ジペプチジルペプチダーゼ−IVが介在する各種疾患等であってもよい。
さらに、高血糖症、糖尿病及び高血糖状態によって引き起こされる種々の疾患として、例えば、糖尿病性の細小血管症(例えば、網膜症、腎症、神経障害等)及び大血管合併症(例えば、狭心症・心筋梗塞等の虚血性心疾患、脳梗塞、閉塞性動脈硬化、壊疽等)等が挙げられる。
よって、本開示のジペプチドは、上述のような、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害、血糖値上昇抑制、高血糖改善、血管内皮障害抑制、及び抗糖尿病等のために使用してもよく、また、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、血管内皮障害抑制剤及び抗糖尿病剤等の上述のような使用を目的とした各種製剤に使用することができ、これら各種製剤を製造するために使用することができる。
ここで、アンジオテンシン変換酵素は、レニンによる切断によりアンジオテンシノーゲンから生じるアンジオテンシンIに働き、C末端の2個のアミノ酸を遊離させて、アンジオテンシンIIに変換する酵素である。
アンジオテンシン変換酵素は強い昇圧作用を有するアンジオテンシンIIを生成させるとともに、降圧作用を有するブラジキニンを不活性化する作用も有している。このため、既にアンジオテンシン変換酵素阻害剤は高血圧の治療薬として使用されており、カプトプリル及びレニベースなどが医薬品に使用されている。しかしながら、副作用として、カプトプリル及びレニベースでは過度の降圧作用や腎機能障害が見られることがある。このようなことから、サプリメントや食品添加物として提供しても安全性が高いものが望まれ、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する物質の探索が多数報告されている(参考文献1、6〜8参照。〔参考文献1〕国際公開2003/044044号パンフレット;〔参考文献6〕特開平6−40944号号公報;〔特許文献7〕特開2001−136995号号公報:〔参考文献8〕特開平7−101982号公報)。
例えば、参考文献6及び7には、カゼイン等を乳酸菌又はプロテイナーゼとペプチダーゼの組み合わせにより分解して得たVal−Pro−ProとIle−Pro−Proにアンジオテンシン変換酵素阻害作用があることが知られている。この他、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有するトリペプチドとして、例えば、参考文献8にはLeu−Leu−Trpが知られ、また参考文献1にはMet−Lys−Proが知られている。
さらに、アンジオテンシン変換酵素を阻害することで、アンジオテンシン変換酵素に起因する疾患や症状予防、改善又は治療が可能と考えられる。
アンジオテンシン変換酵素に起因する疾患や症状として、例えば、高血圧症、心臓肥大、腎臓肥大等が挙げられる。なお、アンジオテンシン変換酵素に起因する各種疾患等は、アンジオテンシン変換酵素が介在する各種疾患等であってもよい。
また、高血圧症又は高血圧状態によって引き起こされる種々の疾患や症状は、例えば、脳出血、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、腎不全、視力障害、血管浮腫等の心血管疾患や血管障害が挙げられる。
なお、アンジオテンシン変換酵素阻害剤が前記種々の疾患の予防剤や治療剤として利用できることについては、前記の特許文献1及び6〜8にも開示されているとおりであり、本開示のジペプチドについても同様に前記種々の疾患の予防剤や治療剤としても実施できることについては言うまでもない。
よって、本開示のジペプチドは、アンジオテンシン変換酵素阻害、血圧降下及び高血圧症等のために使用してもよく、またアンジオテンシン変換酵素阻害剤、血圧降下剤及び抗高血圧剤等の上述のような使用を目的とした各種製剤に使用することができ、これら各種製剤を製造するために使用することができる。
ところで、高血糖値状態が続くと、血管の内皮細胞の機能が低下し、血管内皮障害が生じやすいが、さらにその血管に強い負荷を与えるような高血圧は血管障害を引き起こす危険性を高めることで知られている。血管内皮細胞からは、血管平滑筋を弛緩させる因子(NOやPGI2)が産生されている。そして、高血糖により血管内皮細胞の機能が低下するとそれらの遊離能力も低下する。結果として、糖尿病患者は高血圧を併発する。さらに、高い血圧が血管内皮細胞に負荷をかける悪循環に陥る。
このような効能を併せ持つことにより、薬剤の使用量も減らすことが可能となるので、副作用の低減が期待できる。
本開示の血管内皮障害の具体的な疾患及び症状として、例えば、糖尿病性の血管障害などが挙げられる。
また、前記ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤等は、上述のような高血糖症、糖尿病、血管障害、高血圧症等の予防、改善及び/又は治療のためのヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、皮膚外用剤、化粧品及び食品等の有効成分としてこれらに配合して使用可能である。
医薬品に配合する場合、経口投与剤や非経口投与剤などとすることができる。また、食品に配合する場合には、上述のジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する各種疾患及び/又はアンジオテンシン変換酵素に起因する各種疾患、並びに高血糖状態及び/又は高血圧症によって引き起こされる各種疾患などの予防、改善又は治療、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害、血糖値上昇抑制、高血糖改善、アンジオテンシン変換酵素阻害及び血圧降下等の生理機能をコンセプトとする機能性食品、病者用食品、特定保健用食品などに応用できる。
前記ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤等は、上述のような、高血糖症、糖尿病、高血圧症、血管障害等の予防、改善及び/又は治療のためのヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、皮膚外用剤、化粧品及び食品等の有効成分としてこれらに配合して使用可能である。
製剤化に際しては、乳蛋白質加水分解物や本開示のジペプチドの他に、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。また、公知の又は将来的に見出されるジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用及び/又はアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する薬、抗糖尿病薬、高血糖改善薬、血圧降下薬などを併用することも可能である。
このような食品として、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食、飼料(ペット用を含む)等のほか、例えば、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料・食品類、冷凍食品、飲料、これら以外の市販品等が挙げられる。
例えば、前記農産加工品として、 農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等が挙げられる。前記水産加工品として、水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等が挙げられる。前記畜産加工品として、畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等が挙げられる。
例えば、前記乳・乳製品として、加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等が挙げられる。前記油脂類として、バター、マーガリン類、植物油等が挙げられる。
例えば、前記基礎調味料として、しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等が挙げられ、前記複合調味料・食品類として、調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等が挙げられる。
例えば、前記冷凍食品として、素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等が挙げられる。
例えば、前記菓子類として、キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、その他の菓子等が挙げられる。
例えば、前記飲料類として、炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等が挙げられる。
例えば、上記以外の市販食品として、ベビーフード、ふりかけ、お茶潰けのり等が挙げられる。
本開示のジペプチドの投与量は、年齢、症状等により異なるが、通常、0.001〜3000mg/日、好ましくは0.01〜30mg/日であり、1日1回から3回に分けて投与してもよい。
<1>カゼインの酵素分解
市販のカゼイン(ニュージーランドデーリーボード製)10gに水90gを加え、よく分散させ、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを7.0に調整し、カゼインを完全に溶解し、濃度約10%のカゼイン水溶液を調製した。該カゼイン水溶液を85℃で10分間加熱殺菌し、50℃に温度調整し、水酸化ナトリウムを添加してpHを9.5に調整した後、ビオプラーゼsp−20(長瀬生化学工業社製)10,000活性単位(蛋白質1g当り1,250活性単位)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)17,000活性単位(蛋白質1g当り2,000活性単位)、及びPTN6.0S(ノボザイムズ・ジャパン社製)60,000活性単位(蛋白質1g当り7,000活性単位)を添加して、加水分解反応を開始した。カゼインの分解率が24.5%に達した時点で、80℃で7分間加熱して酵素を失活させて酵素反応を停止し、10℃に冷却した。この加水分解液を分画分子量10、000の限外ろ過膜(旭化成社製)で限外ろ過し、濃縮後凍結乾燥し、凍結乾燥品8gを得た。
逆相HPLCで上記カゼイン加水分解物の分離を行った。このHPLC条件は下記HPLC条件1に示した。
〔HPLC条件1〕
カラム:Cadenza CD−C18
10mmI.D.×250mm (インタクト(株)製)
検出:UV 215nm
流速:3ml/分
溶離液A:0.1% TFAを含む水溶液
溶離液B:0.1% TFAを含むアセトニトリル溶液
溶離液Aの割合98%から、30分後に75%、40分後に50%、43分後に20%、になるようなグラジエント条件で、加水分解物を分離し、溶出液を0.75ml毎に分画した。溶出画分について、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害能を測定したところリテンションタイム10.25分に溶出された画分に強い阻害活性能が認められた。
さらに、精製するため、別条件のHPLCで精製した。このときの条件を下記HPLC条件2に示した。このとき、条件1の溶離液A、Bを、それぞれ条件2の溶離液A、Bに変更し、その他の条件は条件1と同様に行った。
〔HPLC条件2〕
カラム:Cadenza CD−C18
10mmI.D.×250mm (インタクト(株)製)
検出:UV 215nm
流速:3ml/分
溶離液A:0.2% ギ酸を含む水溶液
溶離液B:0.2% ギ酸を含むアセトニトリル溶液
上記活性ピークの化合物を、島津製作所製のプロテイン・シーケンサー(PPSQ−23A)で同定した。その結果、Val−Ala(配列番号1)という構造をもつことがわかった。なお、これらアミノ酸残基はL−型であった。
更に、サーモクエスト社製質量分析計LTQにより、分子量は188.1、m/z=189.1(MH+)を親イオンとするMS/MS分析により、図1に示す通り、m/z=72.0等の娘イオンが検出された。
こうして、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害能を有するペプチドの構造は、Val−Alaであることが明らかとなった
また、後述の製造例2で得られた合成ペプチドVA(配列番号1)での50%阻止濃度は、12.2μg/mlであり、精製フラクションの値と一致した。
ペプチドシンセサイザー(Model 433A型、アプライドバイオシステムズ社)を使用し、Fmoc−Val((株)ペプチド研究所))、Fmoc−Ala−Wang−PEG Resin(渡辺化学工業(株))を原料に用いて、固相合成法によりトリペプチドVal−Alaを合成した。
操作はアプライドバイオシステムズ社のマニュアルに従って行った後、脱保護した。このペプチドは、上記HPLC条件1で精製した。
得られたジペプチドVal−Alaは、質量分析により分子量(M)は188.1と測定され、m/z=189.1(MH+)を親イオンとするMS/MS分析により、精製フラクションでのスペクトルと同様のスペクトルが得られた(図1参照)。
また、Val−Pro−Pro(VPP:配列番号4)、Ile−Pro−Pro(IPP:配列番号5)、Leu−Tyr(LY:配列番号6)を化学合成した。
表1に示す、製造例2で得た各ペプチドのジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害活性確認試験を行い、その結果を表1に示した。
また、VA(配列番号1)及びIA(配列番号2)のアンジオテンシン変換酵素阻害活性確認試験を行った結果、50%阻止濃度は、VAは52μg/ml及びIAは91μg/mlであった。よって、このVA及びIAは、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用及びアンジオテンシン変換酵素阻害作用の両方の性質を有するため、血管改善、血管内皮障害抑制及び糖尿病の予防、改善又は治療に非常に有効なものと言える。
さらに、VA及び/又はIAを含むカゼインの酵素分解物は、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用やアンジオテンシン変換酵素阻害作用等を有する素材又は食材として、食品、医薬品等に利用可能であると考える。
VA及び/又はIAを少なくとも含む市販品のカゼイン分解物を検索したところ、森永ミルクペプチドMKP(森永乳業社製)にVA及びIAが認められた。
森永ミルクペプチドMKP(森永乳業社製)のジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害の50%阻止濃度は、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害活性:84μg/mlであった。ジペプチドVA及びIAは、森永ミルクペプチドMKP(森永乳業社製)のジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用に寄与していると考えられる。
ジペプチジルペプチダーゼ(DPP−4)阻害の測定は、カトウらの方法「Kato, T. et al. Biochem. Med. 19, p351, 1978」に準じて行った。
具体的には、酵素(DPP-4)は Recombinant Human DPPIV/CD26 (R&D Systems, Inc.)、基質はH-Gly-Pro-AMC (Biomol GmbH) を用いて、酵素反応を行なった。
96穴マイクロプレート(nunc 137101)の各ウエルに、水又は各濃度の試験物質の水溶液または、HPLCの分画フラクションを添加し、Tris−HCl(0.25M,pH8.0)を20μl添加して全量を80μlに調製した。撹拌の後プレートを37℃のインキュベーターで約10分程度温め、DPP−4溶液10μlと、基質溶液10μlを添加し(全液量100μl)、撹拌して反応を開始した。酵素の代わりに水を添加したウエルをコントロールとした。
酵素反応の測定はマイクロプレートリーダー(SH-9000,コロナ電気(株))を用い、庫内温度を37℃に保った条件下で測定した(5分間隔、ex360nm/em460nm)。
蛍光強度の経時的な増加が直線的な期間(反応開始から30分以内)の蛍光強度の値から、下式により阻害活性を算出した陽性対象として Vildagliptin (JS Research Chemicals Trading 社)を用いた。
X:水+酵素+基質
Y:試験物質+酵素+基質
a:水+基質
b:試験物質+基質
<IC50の濃度の求め方>
試験物質の濃度を段階的に希釈し(10〜2000μg/ml)、その阻害率を求めた。その結果を基に試験物質の添加濃度の対数(log10)と阻害率の間の関係式を求めた。そしてこの関係式から酵素の阻害率が50%になる濃度を逆算することで、IC50を算出した。
アンジオテンシン変換酵素阻害(ACE阻害)の測定は、Araujoらの方法〔Araujo, M.C., et al., Biochemistry 39, 8519, 2000〕に準じて行った。
酵素(ACE)は Angiotensin Converting Enzyme, from rabbit lung (SIGMA)、基質は Abz-FRK(Dnp)-P (Enzo Life Sciences International, Inc.)を用いて、酵素反応を行なった(Araujo, M.C., et al., Biochemistry 39, 8519, 2000)。
96穴マイクロプレート(nunc 137101)の各ウエルに、水または各濃度の試験物質の水溶液または、HPLC の分画フラクションを添加し、Tris-HCl(0.25M, pH 8.0)を20μl添加して全量を80μlに調製した。撹拌の後プレートを37℃のインキュベーターで約10分程度温め、ACE溶液10μlと、基質溶液10μlを添加し(全液量100μl)、撹拌して反応を開始した。酵素の代わりに水を添加したウエルをコントロールとした。
酵素反応の測定はマイクロプレートリーダー(SH-9000, コロナ電気(株))を用い、庫内温度を37℃に保った条件下で測定した(5分間隔、ex320nm/em420nm)。
蛍光強度の経時的な増加が直線的な期間(反応開始から30分以内)の蛍光強度の値から、下式により阻害活性を算出した。
阻害率(%)=100%−[(Y−b)/(X−a)]×100%
X:水+酵素+基質
Y:試験物質+酵素+基質
a:水+基質
b:試験物質+基質
<IC50の濃度の求め方>
試験物質の濃度を段階的に希釈し(10〜2000μg/ml)、その阻害率を求める。その結果を基に試験物質の添加濃度の対数(log10)と阻害率の間の関係式を求めた。そしてこの関係式から酵素の阻害率が50%になる濃度を逆算することで、IC50を算出した。
〔1〕下記の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選択される1種又は2種以上のものを有効成分として含有する、
ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、抗糖尿病剤、血管内皮障害抑制剤、血管改善剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、血圧降下剤又は抗高血圧症剤。
(a)Val−Ala(VA:配列番号1)
(b)Ile−Ala(IA:配列番号2)
(c)Leu−Ala(LA:配列番号3)
〔3〕ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害用食品、血糖値上昇抑制用食品、抗糖尿病用食品、血管内皮障害抑制用食品、血管改善用食品、アンジオテンシン変換酵素阻害用食品、血圧降下用食品の製造のための、VA、IA、LAから選ばれる1種又は2種以上のものの使用。
〔5〕ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患、高血糖状態に起因する疾患、糖尿病、血管内皮障害若しくは血管障害に起因する疾患、アンジオテンシン変換酵素に起因する疾患、高血圧状態に起因する疾患の、予防、改善又は治療のための、VA、IA、LAから選ばれる1種又は2種以上のものを有効成分として、ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患、高血糖状態に起因する疾患、糖尿病、血管内皮障害若しくは血管障害に起因する疾患、アンジオテンシン変換酵素に起因する疾患、高血圧状態に起因する疾患の、予防、改善又は治療方法。
前記アンジオテンシン変換酵素に起因する疾患及び/又は症状が、高血圧症、心血管疾患から選ばれるものであるのが好適である。
Claims (4)
- 下記の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のものを有効成分として含有するジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤。
(a)Val−Ala(配列番号1)
(b)Ile−Ala(配列番号2)
(c)Leu−Ala(配列番号3) - 下記の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のものを有効成分として含有する血糖値上昇抑制剤。
(a)Val−Ala(配列番号1)
(b)Ile−Ala(配列番号2)
(c)Leu−Ala(配列番号3) - 下記の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のものを有効成分として含有する血管内皮障害抑制剤。
(a)Val−Ala(配列番号1)
(b)Ile−Ala(配列番号2)
(c)Leu−Ala(配列番号3) - 下記の(a)及び/又は(b)のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
(a)Val−Ala(配列番号1)
(b)Ile−Ala(配列番号2)
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