以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明をする。
<第1実施形態>
(ツインクラッチ式変速機1の構造)
図1は、本発明の第1実施形態に係るクラッチ装置を備えたツインクラッチ式変速機の概略構成を示す図である。図2は、第1実施形態に係るクラッチ装置を備えたツインクラッチ式変速機の要部の断面図である。図3は、本発明の第1実施形態のクラッチ装置に係るクラッチ機構の基本的構造を模式的に示す断面図であり、遮断状態を示す図である。
第1実施形態のツインクラッチ式変速機1は、二輪車、特に、自動二輪車等の車両に搭載されるものであり、図1及び図2に示すように、変速機本体2と、シフト駆動機構部3と、ツインクラッチ装置4とを備えている。変速機本体2は、クランクシャフト(不図示)からの駆動力をツインクラッチ装置4から入力され、入力された駆動力をシフト駆動機構部3の操作に応じて所望の変速段で変速するようになっている。ツインクラッチ装置4は、変速機本体2に対する駆動力の入力を接続又は遮断するようになっている。
図1及び図2に示すように、変速機本体2は、エンジンケース5に収容されている。変速機本体2は、内シャフト6及び外シャフト7からなる二重構造のメインシャフト8と、このメインシャフト8と平行に配置されるカウンタシャフト9と、メインシャフト8とカウンタシャフト9とに跨って配置される変速ギヤ群10等を備えている。メインシャフト8は、エンジンケース5の左右方向に延びる軸方向を有し、エンジンケース5に回転可能に支持されている。内シャフト6の右側部は、外シャフト7内に挿通されている。メインシャフト8は、ボールベアリング11,12に回動可能に支持されている。カウンタシャフト9は、ボールベアリング13,14に回動可能に支持されている。ボールベアリング11〜14は、エンジンケース5に設けられている。
図2に示すように、内外シャフト6,7の外周には、変速ギヤ群10における六速分の駆動ギヤ15a〜15fが振り分けて配置されている。一方、カウンタシャフト9の外周には、変速ギヤ群10における六速分の従動ギヤ16a〜16fが配置されている。各駆動ギヤ15a〜15f及び従動ギヤ16a〜16fは、各変速段同士で互いに噛み合い、それぞれ各変速段に対応する変速ギヤ対17a〜17fを構成している。詳しくは、変速ギヤ対17a,17c,17eには、1,3,5速の減速比が割り当てられている。変速ギヤ対17b,17d,17fには、2,4,6速の減速比が割り当てられている。カウンタシャフト9の左端部には、後輪に駆動力を伝達するドライブスプロケット18が設けられている。ドライブスプロケット18には、後輪(不図示)に動力を伝達するチェーン(不図示)が巻き掛けられている。
図1に示すように、シフト駆動機構部3は、メインシャフト8とカウンタシャフト9との両方に平行に配置されたシフトドラム19と、シフトドラム19の回転により移動されるシフトフォーク20a〜20dと、を備えている。シフトフォーク20a〜20dの端部は、変速機本体2の変速ギヤ対17a,17c,17e側、変速ギヤ対17b,17d,17f側に係合されている。シフトフォーク20a〜20dは、シフトドラム19の回転によりメインシャフト8及びカウンタシャフト9の軸方向に移動される。
シフトフォーク20a〜20dは、シフトドラム19の回転に応じて、変速ギヤ対17a,17c,17e及び変速ギヤ対17b,17d,17fの全てをニュートラル状態とするポジションと、変速ギヤ対17a(1速)を確立してその他をニュートラル状態とするポジションと、変速ギヤ対17a(1速)を確立しつつ変速ギヤ対17b(2速)を確立して、その他をニュートラル状態とするポジションと、変速ギヤ対17b(2速)のみを確立して、その他をニュートラル状態とするポジション等を設定することが可能になっている。
シフトドラム19の端部には、シフトドラム19を回転させるためのシフト入力部21が固定されている。このシフト入力部21がアクチュエータ(不図示)により回転駆動されることで、シフトドラム19が回転し、確立する変速ギヤの切り替えが行われる。
ツインクラッチ装置4は、エンジンの動力を変速機1に伝達し又は遮断する。ツインクラッチ装置4は、メインシャフト8の右端部に互いに同軸に隣接して配置されたクラッチ機構としての油圧式の第1クラッチ22及び第2クラッチ23と、クランクシャフト(不図示)に設けられたプライマリドライブギヤ24と噛み合うプライマリドリブンギヤ25と、第1クラッチ22及び第2クラッチ23を接続又は遮断するための駆動力を付与する接続遮断作動機構部26と、接続遮断作動機構部26を油圧作用により駆動する油圧供給部27と、を備えている。
第1クラッチ22及び第2クラッチ23は、それぞれ特定の変速段に対応する。図2に示すように、第1クラッチ22は、第2クラッチ23の内側に配置されている。第1クラッチ22及び第2クラッチ23の基本的構造は、同一である。その基本的構造については、図3に基づいて詳述する。第1クラッチ22は、内シャフト6に連結されている。第2クラッチ23は、外シャフト7に連結されている。アウターハウジング34は、プライマリドリブンギヤ25と結合して円筒状に突出し、クランクシャフト(不図示)からの駆動力を伝達される。
図2及び図3に示すように、内側に位置する第1クラッチ22は、アウターハウジング34と一体的に接続されて内周側に設けられたインナーハウジング40と、このインナーハウジング40の内側に設けられたクラッチインナ41と、インナーハウジング40とクラッチインナ41との間に交互に積層状に設けられた複数のフリクションディスク42及びクラッチディスク43と、軸方向に移動可能な油圧受圧部材としてのプレッシャープレート44と、プレッシャープレート44がクラッチインナ41から離間できるようにし且つフリクションディスク42とクラッチディスク43との圧接を解除するクラッチスプリング78(図3参照)と、プレッシャープレート44とプレッシャー部材28との間に配置される付勢手段としての皿ばね76(図3参照)等を備えている。
第1クラッチ22は、油圧回路57に発生する制御油圧によって、接続又は遮断の制御が行われる。第1クラッチ22は、操作されない通常時においては、クラッチが遮断されている状態となるいわゆる「ノーマリーオープン」タイプのクラッチとして構成されており、発進クラッチを兼ねている。
この第1クラッチ22においては、プレッシャープレート44が内側に押圧されると、プレッシャープレート44がフリクションディスク42及びクラッチディスク43を摩擦係合させ、接続状態(動力が伝達される状態)になる。また、第1クラッチ22においては、プレッシャープレート44に対する押圧が解除されると、クラッチスプリング78及び皿ばね76の付勢力により、プレッシャープレート44がクラッチインナ41側から離間され、遮断状態(動力が伝達されない切り離し状態)になる。
外側に位置する第2クラッチ23は、アウターハウジング34と、このアウターハウジング34の内側に設けられたクラッチインナ35と、アウターハウジング34とクラッチインナ35との間に交互に積層状に設けられた複数のフリクションディスク36及びクラッチディスク37と、軸方向に移動可能なプレッシャープレート38と、プレッシャープレート38がクラッチインナ35から離間できるようにし且つフリクションディスク36とクラッチディスク37との圧接状態を解除するクラッチスプリング79(図3参照)と、プレッシャープレート38とプレッシャー部材29との間に配置される皿ばね77(図3参照)等を備えている。
第2クラッチ23は、油圧回路58に発生する制御油圧によって、接続又は遮断の制御が行われる。第2クラッチ23は、操作されない通常時においては、クラッチが遮断されている状態となるいわゆる「ノーマリーオープン」タイプのクラッチとして構成されており、発進クラッチを兼ねている。
この第2クラッチ23においては、プレッシャープレート38が内側に押圧されると、プレッシャープレート38がフリクションディスク36及びクラッチディスク37を摩擦係合させ、接続状態(動力が伝達される状態)になる。また、第2クラッチ23においては、プレッシャープレート38に対する押圧が解除されると、後述するクラッチスプリング79と皿ばね77とによりプレッシャープレート38がクラッチインナ35側から離間され、遮断状態(動力が伝達されない切り離し状態)になる。
(第1クラッチ22及び第2クラッチ23の基本的構造)
第1クラッチ22及び第2クラッチ23の基本的構造について、図3を参照して模式的に(簡易化して)説明する。なお、以下の説明において、第1クラッチ22の部品符号を、第2クラッチ23の部品符号より先に記載する。
図3に示すように、第1クラッチ22のシャフト6には、インナーハウジング40が回転自在に設けられている。第2クラッチ23のシャフト7には、アウターハウジング34が回転自在に設けられている。インナーハウジング40には、フリクションディスク42が回転方向で一体的に設けられている。アウターハウジング34にも、フリクションディスク36が回転方向で一体的に設けられている。
シャフト6には、クラッチインナ41が一体的に設けられている。シャフト7には、クラッチインナ35が一体的に設けられている。クラッチインナ41には、クラッチディスク43が回転方向で一体的に設けられている。クラッチインナ35には、クラッチディスク37が回転方向で一体的に設けられている。フリクションディスク42,36と、クラッチディスク43,37とは、シャフト6,7のスラスト方向に交互に配置されている。この配置の両端には、クラッチディスク43,37が配置されている。
クラッチインナ41には、プレッシャー部材28,29(図1、図2には不図示)が、一番外側のクラッチディスク43,37の外側に位置して一体的に連結されている。
クラッチインナ41,35と、油圧回路57,58からの油圧を受けるプレッシャープレート44,38との間には、クラッチスプリング78,79(図1、図2には不図示)を介在させてある。クラッチスプリング78,79は、油圧に抗して第1クラッチ22,第2クラッチ23を開放側に付勢する。クラッチスプリング78,79は、コイルばねからなる。
プレッシャー部材28,29とプレッシャープレート44,38との間には、アキュームレイトスプリングとしての皿ばね76,77(図1、図2には不図示)を介在させてある。
皿ばね76,77は、クラッチスプリング78,79の外周を囲むように配置されている。皿ばね76,77は、クラッチスプリング78,79が圧縮されて第1クラッチ22,第2クラッチ23が完全に接続された状態よりも過度に圧縮する押圧力を、圧縮して吸収する。皿ばね76,77は、クラッチスプリング78,79より剛性が強く(ばね常数が高く)形成されている。そのため、バルブユニット100からの作動油によってプレッシャープレート44,38がクラッチインナ41,35に接近すると、クラッチスプリング78,79は、皿ばね76,77より先に圧縮され、その後、皿ばね76,77が圧縮される。また、プレッシャープレート44,38がクラッチインナ41,35から離れるとき、クラッチスプリング78,79よりも皿ばね76,77が先に復元し、その後、クラッチスプリング78,79が復元する。
図2に示すように、接続遮断作動機構部26は、第1クラッチ22のプレッシャープレート44をクラッチスプリング78(図3参照)及び皿ばね76の付勢力に抗して内側に押圧する第1作動機構部45と、第2クラッチ23のプレッシャープレート38をクラッチスプリング79及び皿ばね77の付勢力に抗して内側に押圧する第2作動機構部46と、を備えている。
第1作動機構部45は、ベアリング47を介してプレッシャープレート44を回転可能に支持すると共に、ベアリング47を介してプレッシャープレート44を車幅方向内側に押圧可能なロッドサポート48と、ロッドサポート48に基端を結合し且つメインシャフト8の軸線上に配置されるプッシュロッド49と、プッシュロッド49を介してロッドサポート48を車幅方向内側に移動させる第1スリーブシリンダ50等を備えている。第1作動機構部45は、第1スリーブシリンダ50によりプッシュロッド49を車幅方向内側(矢印a方向)に押圧するようになっている。
これにより、第1クラッチ22のプレッシャープレート44が押されて、第1クラッチ22は、接続状態になる。なお、第1管路57は、図1に示すバルブユニット100を介して油圧供給部27に接続されており、制御油圧を発生させて、第1スリーブシリンダ50に制御油圧を供給する管路である。
第2作動機構部46は、プレッシャープレート38と当接するリンクロッド51と、リンクロッド51の他端と当接する円環状の中間プレート52と、ベアリング53を介して中間プレート52を回転可能に支持すると共にベアリング53を介して中間プレート52を車幅方向内側に押圧可能な円環状のロッドサポート54と、ロッドサポート54に基端を結合したプッシュロッド55と、プッシュロッド55を介してロッドサポート54を車幅方向内側に移動させる第2スリーブシリンダ56等を備えている。第2作動機構部46は、第2スリーブシリンダ56によりプッシュロッド55を車幅方向内側(矢印b方向)に押圧するようになっている。
これにより、第2クラッチ23のプレッシャープレート38が押されて、第2クラッチ23は、接続状態となる。なお、第2管路58は、図1に示すバルブユニット100を介して油圧供給部27に接続されており、制御油圧を発生させて、第2スリーブシリンダ56に制御油圧を供給する管路である。
リンクロッド51がプレッシャープレート38の周方向に120度間隔で3本配置されているので、第2作動機構部46は、プレッシャープレート38に対して偏りなく引っ張り力を与えることができるようになっている。また、リンクロッド51は、インナーハウジング40に形成された貫通孔40Aを挿通して中間プレート52に至り、インナーハウジング40に係動して回転する。しかし、中間プレート52が回転可能に支持されているため、ロッドサポート54に回転が伝わることはない。
また、中間プレート52及びロッドサポート54は、メインシャフト8と同軸に配置されている。第1作動機構部45のプッシュロッド49は、中間プレート52及びロッドサポート54の内周内部を挿通されている。また、プッシュロッド55は、ロッドサポート54の直径方向において対向するように一対設けられている。これによりロッドサポート54に対して偏りなく引っ張り力を与えることができるようになっている。
図1に示すように、油圧供給部27は、第1管路57に接続された油圧シリンダ又は油圧供給源としての第1マスタシリンダ60と、第2管路58に接続された油圧シリンダ又は油圧供給源としての第2マスタシリンダ61と、第1マスタシリンダ60及び第2マスタシリンダ61にオイルを供給するリザーバタンク62と、第1マスタシリンダ60に内挿されたピストン(リフタ)63及び第2マスタシリンダ61に内挿されたピストン(リフタ)64と、エンジンケース5内に回転自在に支持された単一のシャフトとしてのカムシャフト65と、カムシャフト65に設けられ且つ相互間に位相差を有する作動カムとしての第1カム66及び第2カム67と、カムシャフト65を回転駆動するモータ68と、カムシャフト65の回転角度を検出することで現在接続中のクラッチを検出する角度センサ69等を備えている。
第1マスタシリンダ60及び第2マスタシリンダ61は、それぞれ相互に独立した油圧回路57,58に接続されている。この油圧供給部27は、バルブユニット100を介して接続遮断作動機構部26に制御油圧を供給するようになっている。
第1カム66及び第2カム67は、それぞれ第1マスタシリンダ60及び第2マスタシリンダ61に対応して設けられるカム山66a,67aを有する。第1カム66及び第2カム67は、それぞれカム山66a,67aの形状に基づいて、第1マスタシリンダ60及び第2マスタシリンダ61を押圧する。
図5に示すように、第1カム66と第2カム67は、共通のカムシャフト65に固定的に設けられている。カムシャフト65には、カム山66a,67aが径方向に突出して形成されている。カム山66a,67aは同じ形状をしている。第1カム66のカム山66aは、第2カム67のカム山67aよりも回転方向に所定の位相が進んだ位置に設けられている。
カムシャフト65とモータ68との間には、駆動ギヤ70及び被動ギヤ71が設けられている。第1マスタシリンダ60のピストン63は、一端で第1カム66に当接している。第2マスタシリンダ61のピストン64は、一端で第2カム67に当接している。ピストン63、ピストン64は、カムシャフト65の回転に伴って、それぞれ第1マスタシリンダ60内、第2マスタシリンダ61内を進退動するようになっている。
これにより、第1マスタシリンダ60及び第2マスタシリンダ61は、制御油圧をそれぞれ油圧回路57,58に発生させる。詳細には、第1マスタシリンダ60及び第2マスタシリンダ61は、第1管路57及びバルブユニット100を介して第1スリーブシリンダ50に制御油圧を伝達すると共に、第2管路58及びバルブユニット100を介して第2スリーブシリンダ56に制御油圧を伝達するようになっている。そして、第1作動機構部45は、第1クラッチ22を接続又は遮断し、第2作動機構部46は、第2クラッチ23を接続又は遮断するようになっている。
図1に示すように、第1実施形態においてツインクラッチ装置4は、ECU(Engine Control Unit)85を備えている。ECU85は、アクチュエータ制御部及び弁制御部として機能する。ECU85は、モータ68を駆動制御し、カムシャフト65を時計回り又は反時計回りに回転させることで、第1カム66及び第2カム67を回転させて、第1クラッチ22及び第2クラッチ23の接続又は遮断を制御するようになっている。
ECU85は、カムシャフトの回転方向を判定する回転方向判定部86を有している。回転方向判定部86は、角度センサ69から現在接続中のクラッチが第1クラッチ22又は第2クラッチ23であるのかを示す情報と、クランクシャフトの近傍に配されたトルクセンサ87から出力されるエンジントルク(クランクシャフトの回転トルク)の情報を基に、モータ68の回転方向を決定するようになっている。
すなわち、回転方向判定部86は、内部に予め保持した持ち替え判定トルクと、上記エンジントルクを比較した上で、モータ68の回転方向を決定するようになっている。回転方向判定部86は、例えば、ECU85内に設けられるROMに格納されたプログラムをRAMに展開することでモータ68の回転方向を決定するようになっている。また、ECU85は、シフト駆動機構部3及びバルブユニット100も制御するようになっている。
(バルブユニット100)
バルブユニット100の詳細について説明する。
図4は、ツインクラッチ式変速機が搭載されている二輪車のエンジンが停止しているときのクラッチ装置のバルブユニットと油圧供給部との状態を示す図である。図5は、第1カム(第2カム)を軸方向に視た図である。図5(a)は第1カム(第2カム)が第1マスタシリンダ(第2マスタシリンダ)を作動させていない状態の図である。図5(b)は第1カム(第2カム)が第1マスタシリンダ(第2マスタシリンダ)を作動させている状態の図である。
図6は、図4の状態から二輪車を発進させ、加速させた時におけるクラッチ装置の状態図であり、第1クラッチが遮断状態から接続状態に移行し始めた図である。図7は、図6の状態から二輪車を走行状態にさせたときのクラッチ装置の状態図であり、第1クラッチが遮断状態から接続状態に移行した図である。図8は、図7の状態から二輪車の走行状態を継続させているときのクラッチ装置の状態図であり、第1クラッチが接続状態を維持されている図である。図9は、図8の状態から二輪車のギヤチェンジをするときのクラッチ装置の状態図であり、第1クラッチが接続状態を維持されたまま、第2クラッチが遮断状態から接続状態に移行し始めた図である。
図10は、図9の状態から二輪車のギヤチェンジが行われているクラッチ装置の状態図であり、第1クラッチが接続状態から遮断状態に移行し、第2クラッチが遮断状態から接続状態に移行している図である。図11は、図10の状態から二輪車のギヤチェンジが行われたクラッチ装置の状態図であり、第1クラッチが遮断状態に移行し、第2クラッチが遮断状態から接続状態に移行した図である。図12は、図11の状態から二輪車のギヤチェンジが行われたクラッチ装置の状態図であり、第1クラッチが遮断状態に移行し、第2クラッチが遮断状態から接続状態に維持された図である。
図1及び図4に示すように、バルブユニット100は、油圧制御弁としての第1電磁弁111及び第2電磁弁121と、第1油圧力検知センサ112と、第2油圧力検知センサ122と、を備えている。
第1電磁弁111は、第1スリーブシリンダ50に制御油圧を供給する第1管路57の途中に設けられており、油圧回路57を開放し、又は遮断する。第1電磁弁111は、2ポート単動常時開電磁弁であり、ソレノイド111aの消磁時には、スプリング111bにより弁111cが開き(図6参照)、ソレノイド111aの励磁時には、スプリング111bに抗して弁111cが閉じる(図7参照)ようになっている。したがって、第1電磁弁111は、通常、開いており、第1管路57を作動油が流れるのを許容して、第1管路57内が低圧になるようにしている。そのため、二輪車の電気系統に問題が発生して、各電気系統に電流が流れなくなったとき、第1電磁弁111が開状態になり、これに伴って、第1クラッチ22も開状態(遮断状態)になり、エンジンの回転が車輪に伝達しないようにできる機構となっている。
第1油圧力検知センサ112は、第1電磁弁111と第1スリーブシリンダ50との間の第1管路57内の作動油の油圧を検知し、その作動油の油圧が所定の油圧になったとき、その検知信号をECU85に出力するようになっている。
ECU85は、第1油圧力検知センサ112から、第1管路57内の作動油の油圧が所定の油圧に上昇したことの検知信号を受信すると、今まで開状態(図6参照)にあった、第1電磁弁111のソレノイド111aを作動させて、第1電磁弁111の弁111cを閉じる(図7参照)ようになっている。
また、ECU85は、第1油圧力検知センサ112から、第1管路57内の作動油の油圧が所定の油圧未満に下がったことの検知信号を受信すると、今まで閉状態(図9参照)にあった第1電磁弁111のソレノイド111aの作動を解除して、スプリング111bによって、弁111cを開かせる(図10参照)ようになっている。
第2電磁弁121は、第2スリーブシリンダ56に制御油圧を供給する第2管路58の途中に設けられており、油圧回路58を開放し、又は遮断する。第2電磁弁121も、2ポート単動常時開電磁弁であり、ソレノイド121aの消磁時には、スプリング121bにより弁121cが開き(図6参照)、ソレノイド121aの励磁時には、スプリング121bに抗して弁121cが閉じる(図11参照)ようになっている。したがって、第2電磁弁121は、通常、開いており、第2管路58を作動油が流れるのを許容して第2管路58内が低圧になるようにしている。そのため、二輪車の電気系統に問題が発生して、各電気系統に電流が流れなくなったとき、第2電磁弁121が開状態になり、これに伴って、第2クラッチ23も開状態(遮断状態)になり、エンジンの回転が車輪に伝達しないようにできる機構となっている。
第2油圧力検知センサ122は、第2電磁弁121と第2スリーブシリンダ56との間の第2管路58内の作動油の油圧を検知し、その作動油の油圧が所定の油圧になったとき、その検知信号をECU85に出力するようになっている。
ECU85は、第2油圧力検知センサ122から、第2管路58内の作動油の油圧が所定の油圧に上昇したことの検知信号を受信すると、今まで開状態(図6参照)にあった、第2電磁弁121のソレノイド121aを作動させて、第2電磁弁121の弁121cを閉じる(図11参照)ようになっている。
また、ECU85は、第2油圧力検知センサ122から、第2管路58内の作動油の油圧が所定の油圧未満に下がったことの検知信号を受信すると、今まで閉状態(図11参照)にあった、第2電磁弁121のソレノイド121aの作動を解除して、スプリング121bによって、弁121cを開かせる(図6参照)ようになっている。
要するに、弁制御部としてのECU85は、第1カム66及び第2カム67の回転位置に拘わらず、油圧回路57,58それぞれに発生する所定の油圧であって第1クラッチ22及び第2クラッチ23を接続させる所定の油圧を維持するように、第1電磁弁111,第2電磁弁121を遮断する側に制御する。また、弁制御部としてのECU85は、第1カム66、第2カム67及びモータ68の動作に拘わらず、油圧回路57,58それぞれに発生する油圧を所定時間保持した後に、それぞれ第1電磁弁111,第2電磁弁121を開放する側に制御する。
また、一方の第1クラッチ22に対応する一方の第1電磁弁111は、第2クラッチ23の作動タイミングに基づいて、開放される。その作動タイミングは、第2クラッチ23に対応する油圧回路58における制御油圧の変化に基づいて検知される。
(ツインクラッチ式変速機1の動作)
以下、ツインクラッチ式変速機1の動作を図1乃至図17に基づいて説明をする。但し、本発明の特徴であるバルブユニット100を主体に説明をし、ツインクラッチ式変速機1のシフト駆動機構部3及びツインクラッチ装置4の動作の説明は、簡略化する。
図13は、第1管路の1次側と2次側との圧力変化を示す図である。図14は、第1管路と第2管路との1次側と2次側との圧力変化を示す図である。図15は、第1スリーブシリンダ(第2スリーブシリンダ)に流入する油量と、第1クラッチ(第2クラッチ)に加わる油圧との関係を示す図である。図16は、第1クラッチ(第2クラッチ)が半クラッチの接続状態の図である。図17は、図16に示す状態から第1クラッチ(第2クラッチ)が更に圧接された接続状態を示す図である。
図5(a)に示すように、第1カム66のカム山66a(第2カム67のカム山67a)の円弧部66b(67b)がピストン63(64)に対向して、第1カム66のカム山66a(第2カム67のカム山67a)が第1マスタシリンダ60のピストン63(第2マスタシリンダ61のピストン64)から離れていると、ピストン63(64)は、押されず、突出した状態になる。
ピストン63(64)が突出した状態の場合には、油圧供給部27は、作動油を第1クラッチ22及び第2クラッチ23に送る状態になっていない。また、バルブユニット100の第1電磁弁111と第2電磁弁121には、ECU85の制御によって、電流が流れていないため、第1電磁弁111及び第2電磁弁121は、図4に示す開状態になっている。
このように、第1電磁弁111と第2電磁弁121が開状態になっていても、油圧供給部27から、第1スリーブシリンダ50、第2スリーブシリンダ56に作動油の油圧が加わっていないため、第1クラッチ22及び第2クラッチ23は、図4に示す遮断状態に維持されている。図13の油圧の変化を示す図において、符号[1]は、図4における状態を示すものであり、1次側及び2次側の制御油圧が低圧のP1になっている。
なお、「1次側」とは、図4において、第1電磁弁111及び第2電磁弁121と第1マスタシリンダ60及び第2マスタシリンダ61との間における第1管路57及び第2管路58の部分をいう。「2次側」とは、図4において、第1電磁弁111及び第2電磁弁121と第1スリーブシリンダ50及び第2スリーブシリンダ56との間における第1管路57及び第2管路58の部分をいう。
したがって、第1クラッチ22及び第2クラッチ23は、2次側の制御油圧が低圧のP1であるので、殆ど制御油圧を受けておらず、図3に示すように、クラッチスプリング78,79及び皿ばね76,77は、弾性変形していない。すなわち、クラッチディスク43,37とフリクションディスク42,36とが接触しておらず、第1クラッチ22及び第2クラッチ23は遮断状態になっており、二輪車は停止している。
二輪車が始動されると、図6に示すように、ECU85は、モータ68を回転させるように制御する。モータ68が回転すると、カムシャフト65、第1カム66及び第2カム67は回転する。第1カム66は、第2カム67よりも所定の位相が進んだ位置でカムシャフト65に設けられているので、カム山66aは、第1マスタシリンダ60のピストン63を押す(図5(b)参照)。
ピストン63を押された第1マスタシリンダ60は、作動油を圧縮して、図13に符号[2]に示すように、作動油の油圧をP1からP2に上昇させる。第1電磁弁111は、まだ、開状態になっているため、作動油の油圧P2は、第1スリーブシリンダ50に伝わり、図16に示すように、第1スリーブシリンダ50はプレッシャープレート44を押圧する。プレッシャープレート44は、クラッチスプリング78を圧縮させると共に、皿ばね76,プレッシャー部材28を介して、クラッチディスク43をフリクションディスク42に軽く接触させる。
このとき、図15に示すように、作動油は、[100]から[101]まで流れることが無いので、第1クラッチ22には、油圧が作用していない(P0)。作動油が[101]から流れ始めて[102]までの間に、油圧がPAに上昇し、図16に示すように、クラッチディスク43とフリクションディスク42とが軽く接触した状態になる。そのため、第1クラッチ22は、エンジンの回転力をシャフト7に伝達し始める。
第1カム66は、さらに回転して第1マスタシリンダ60のピストン63をさらに押し込む。すると、第1スリーブシリンダ50に流れ込んで溜まっている作動油の量は、図15に示すように、[102]から[103]に増える。この間、クラッチディスク43とフリクションディスク42との接触圧は、PAからPBに増える。しかし、皿ばね76は、まだ弾性変形していない。
その後、図15に示すように、第1スリーブシリンダ50に流れ込んで溜まっている作動油の量は、[103]から[104]に増える。このとき、第1マスタシリンダ60による作動油の油圧は、1次側及び2次側において、図13に示す符号[3]の領域のように、P3(図15においてPB)に上昇する。すると、プレッシャープレート44は、クラッチスプリング78の他に、皿ばね76も押圧して弾性変形させ、クラッチディスク43をフリクションディスク42に強く押し付ける。これにより、二輪車は、発進し始める。
図17に示すように、最終的に、プレッシャープレート44がクラッチインナ41に受け止められて、第1クラッチ22は、クラッチディスク43とフリクションディスク42とを過度に圧接させることを防止する。この時点で、第1クラッチ22は、エンジンの回転力をシャフト7に完全に伝達する。二輪車は、発進を完了して、所望の速度で走行を開始する。また、1次側の油圧が所定のP3になったことを第1油圧力検知センサ112が検知し、ECU85は、第1電磁弁111のソレノイド111aを作動させる。換言すると、第1クラッチ22の作動タイミングは、油圧回路57における制御油圧の変化に基づいて検知される。
すると、図7に示すように、第1電磁弁111は、ソレノイド111aがスプリング111bに抗して作動し、弁111cを閉じる。この結果、図13に符号[3]で示すように、2次側の作動油の油圧は、P3に保持される。つまり、ECU85は、第1カム66の回転位置に拘わらず、第1クラッチ22を接続させる所定の油圧を維持するように第1電磁弁111を遮断する側に制御する。換言すると、ECU85は、第1カム66,モータ68の動作に拘わらず、油圧回路57に発生する油圧を所定時間保持した後に第1電磁弁111を開放する側に制御する。更に換言すると、一方のクラッチに対応する一方電磁弁は、他方のクラッチの作動タイミングに基づいて、開放される。
これに伴って、第1クラッチ22は、伝達状態を保つ。これによって、エンジンによって回転するプライマリドライブギヤ24の回転力は、プライマリドリブンギヤ25、アウターハウジング34、インナーハウジング40、第1クラッチ22及び内シャフト6を介して、駆動ギヤ15a,15c,15eに伝達される。そして、駆動ギヤ15a,15c,15eに伝達された回転力は、3つの変速ギヤ対17a,17c,17eのうち、噛み合い状態になっている1つの変速ギヤ対、カウンタシャフト9、ドライブスプロケット18、ドライブスプロケット18に巻き掛けられているチェーン(不図示)を介して、後輪に伝達される。すなわち、第1クラッチ22は、伝達状態を保って、エンジンの回転力を内シャフト6に伝達し続ける走行ロック状態になる。
第1カム66は、なおも回転する。このとき、カム山66aの頂部が第1マスタシリンダ60のピストン63を多少押しているため、図13に符号[4]で示すように、作動油の油圧は、多少上昇したP4になる。しかし、第1電磁弁111が閉じられているので、このP4の油圧が第1クラッチ22に作用することはない。
そして、第1カム66のカム山66aが第1マスタシリンダ60のピストン63を通過すると、ピストン63は、第1マスタシリンダ60から突出した元の位置に戻る。この結果、図13に符号[5]で示すように、第1マスタシリンダ60による作動油の油圧は、P1になる。作動油の油圧がP1になっても、第1電磁弁111が閉じられているので、P1の油圧が第1クラッチ22に作用することがなく、第1クラッチ22には、P3の油圧が作用したままになっている。
その後、図8に示すように、第1カム66は、なおも回転して、円弧部66bが第1マスタシリンダ60のピストン63に対向する。そのため、ピストン63が元に戻り、一次側の作動油の油圧は、P1になる。しかし、第1電磁弁111が閉じられているため、2次側の第1管路57内の作動油の油圧は、P3に保たれたままであり、第1クラッチ22は、伝達状態に維持される。また、第2マスタシリンダ61は、停止状態が維持されている。そのため、図14に符号[6]で示すように、第1クラッチ22側の1次側の油圧はP1に維持され、2次側の油圧はP3に維持され、第2クラッチ23側の1次側の油圧及び2次側の油圧はP1に維持されている。
カムシャフト65は、さらに回転を継続する。すると、図9に示すように、第2カム67のカム山67aは、第2マスタシリンダ61のピストン64を押圧する。そのため、図14に符号[7]で示すように、油圧はP1からP2に上昇する。第2電磁弁121は、まだ開状態になっているため、作動油の油圧P2は、第2スリーブシリンダ56に伝わり、図16のように示すように、第2スリーブシリンダ56は、プレッシャープレート38を押圧する。プレッシャープレート38は、図16に示すように、クラッチスプリング79を圧縮させると共に、皿ばね77及びプレッシャー部材29を介して、クラッチディスク37をフリクションディスク36に軽く接触させる。
このとき、図15に示すように、作動油は、[100]から[101]まで流れることが無いので、第2クラッチ23には、油圧が作用していない(P0)。作動油が[101]から流れ始めて[102]までの間に、油圧がPAに上昇し、図16に示すように、クラッチディスク43とフリクションディスク42とが軽く接触した状態になる。しかし、第1クラッチ22の作動油の油圧がP3に維持されて、第1クラッチ22は接続状態を維持されている。つまり、第2クラッチ23は、半クラッチ状態になっている。ここで、第1クラッチ22から第2クラッチ23へのクラッチ動作の持ち替えが行われる。
そして、第2油圧力検知センサ122が、第2管路58内の油圧がP2に到達したことを検知すると、ECU85は、モータ68の回転を一旦停止させて、図14に符号[8]に示すように、第2クラッチ23に加わる作動油の油圧をP2の状態に維持する。それと同時に、ECU85は、図10に示すように、第1電磁弁111を開状態にする。すると、図14の符号[8]に示すように、第1クラッチ22に加わる作動油の油圧がP3からP1に下がる。すなわち、第1管路57の全体において作動油の油圧がP1に下がる。
このように、第2クラッチ23は、第1管路57の全体における作動油の油圧がP1になるまで、作動油の油圧がP2に維持されて、半クラッチ状態になっている。そのため、第2クラッチ23及び第1クラッチ22が同時に遮断状態になることがなく、第2クラッチ23及び第1クラッチ22に破損が生じないようにしている。
第1管路57の全体の作動油の油圧がP1になったことを第1油圧力検知センサ112が検知すると、ECU85は、モータ68を再始動して、カムシャフト65を回転させ、第2カム67を回転させる。第2カム67は、カム山67aで第2マスタシリンダ61のピストン64を押し、第2管路58内の油圧を上昇させる。
図14に符号[10]に示すように、第2管路58内の油圧がP3に上場したことを第2油圧力検知センサ122が検知すると、ECU85は、第2電磁弁121のソレノイド121aを作動させる。換言すると、第2クラッチ23の作動タイミングは、油圧回路58における制御油圧の変化に基づいて検知される。
第2電磁弁121は、スプリング121bに抗して弁121cを閉じる。この結果、第2管路58の2次側は、図14の符号[11]で示すように作動油の油圧をP3に維持することができる。つまり、ECU85は、第2カム67の回転位置に拘わらず、第2クラッチ23を接続させる所定の油圧を維持するように第2電磁弁121を遮断する側に制御する。換言すると、ECU85は、第2カム67,モータ68の動作に拘わらず、油圧回路58に発生する油圧を所定時間保持した後に第2電磁弁121を開放する側に制御する。更に換言すると、一方のクラッチに対応する一方電磁弁は、他方のクラッチの作動タイミングに基づいて、開放される。これにより、第2クラッチ23の伝達状態は維持される。
この状態で、図12に示すように、第2カム67が回転を継続すると、円弧部67bが第2マスタシリンダ61のピストン64が対向して、第2カム67は、ピストン64の押圧を解除する。ピストン64は、第2マスタシリンダ61から突出した元の位置に戻る。
これによって、図14の符号[11]で示すように、第2管路58の1次側の油圧は、P3からP1に下がる。
ここで、エンジンによって回転するプライマリドライブギヤ24の回転力は、プライマリドリブンギヤ25、アウターハウジング34、インナーハウジング40、第2クラッチ23及び外シャフト7を介して、駆動ギヤ15b,15d,15fに伝達される。そして、駆動ギヤ15b,15d,15fに伝達された回転力は、3つの変速ギヤ対17b,17d,17fのうち、噛み合い状態になっている1つの変速ギヤ対、カウンタシャフト9、ドライブスプロケット18、ドライブスプロケット18に巻き掛けられているチェーン(不図示)を介して、後輪に伝達される。
第1実施形態のツインクラッチ装置4によれば、例えば以下の効果が奏される。
第1実施形態のツインクラッチ装置4は、油圧回路57,58の途中に設けられ、油圧回路57,58を開放し又は遮断する第1電磁弁111,第2電磁弁121と、第1カム66,第2カム67の回転位置に拘わらず、第1クラッチ22,第2クラッチ23を接続させる所定の油圧を維持するように第1電磁弁111,第2電磁弁121を遮断する側に制御するECU85と、を備える。
そのため、第1実施形態のツインクラッチ装置4によれば、第1カム66,第2カム67のカム山66a,67aの形状に拘わらず、油圧回路57,58中の油圧に応じたECU85の制御によって第1電磁弁111,第2電磁弁121を開放又は遮断して、油圧回路57,58中の油圧を所定の大きさに維持できる。その結果、第1カム66,第2カム67が加工誤差により変形していたり、長期間の使用により摩耗したり、回転位置に誤差が生じたりしても、第1クラッチ22,第2クラッチ23の接続状態を維持する油圧を自由に制御することができる。そのため、エンジンの動力を変速機に伝達し又は遮断する際に、適切なタイミングで、第1クラッチ22,第2クラッチ23の接続又は遮断を行うことができる。
また、第1実施形態のツインクラッチ装置4は、複数の油圧回路57,58それぞれの途中に設けられ、油圧回路57,58を開放し又は遮断する第1電磁弁111,第2電磁弁121と、第1カム66,第2カム67,モータ68の動作に拘わらず、油圧回路57,58に発生する油圧を所定時間保持した後に第1電磁弁111,第2電磁弁121を開放する側に制御するECU85と、を備える。
そのため、第1実施形態のツインクラッチ装置4によれば、油圧回路57,58中の油圧に応じたECU85の制御によって第1電磁弁111,第2電磁弁121を開放又は遮断して、油圧回路57,58中の油圧を所定の大きさに維持できるようにしたので、アクチュエータに作動誤差があっても、油圧を自由に制御することができる。そのため、複数の第1クラッチ22,第2クラッチ23同士の遮断動作と接続動作とを同時平行的に行うときに生じるタイミングのずれを少なくでき、エンジンの動力を変速機に伝達し又は遮断する際に、適切なタイミングで、第1クラッチ22,第2クラッチ23の接続又は遮断を行うことができる。
また、第1実施形態のツインクラッチ装置4によれば、第1クラッチ22,第2クラッチ23、油圧回路57,58、及び第1電磁弁111,第2電磁弁121は、2つ設けられ、一方のクラッチ機構に対応する一方の油圧制御弁は、他方のクラッチ機構の作動タイミングに基づいて、開放されるようになっている。そのため、2つの第1クラッチ22,第2クラッチ23の切り替わりの際の駆動トルクの変動を抑制して、第1クラッチ22,第2クラッチ23同士の切り替わりを円滑に行うことができる。
また、第1実施形態のツインクラッチ装置4によれば、第1クラッチ22,第2クラッチ23の作動タイミングは、当該第1クラッチ22,第2クラッチ23に対応する油圧回路57,58における制御油圧の変化に基づいて検知されるようになっている。そのため、他方のクラッチ機構の作動タイミングを当該油圧回路の油圧変化から検知できるので、他方のクラッチ機構の接続状態をより正確に把握できる。従って、一方のクラッチ機構の接続又は遮断を、より緻密に高精度で、他方のクラッチ機構の作動状態に合わせてタイミング良く行うことができる。
また、第1実施形態のツインクラッチ装置4によれば、各油圧回路57,58の油圧供給源としての第1マスタシリンダ60,第2マスタシリンダ61と、カム山66a,67aの形状に基づいて第1マスタシリンダ60,第2マスタシリンダ61を押圧する第1カム66,第2カム67とを用いているので、低コストで油圧を発生する機構を実現することができる。また、第1クラッチ22,第2クラッチ23と第1マスタシリンダ60,第2マスタシリンダ61との間における油圧回路57,58の途中に第1電磁弁111,第2電磁弁121を設けたので、第1カム66,第2カム67の形状や回転位置に誤差があっても、油圧回路57,58の開放制御を自由に行うことができる。
また、第1実施形態のツインクラッチ装置4においては、第1クラッチ22,第2クラッチ23は、油圧に抗して第1クラッチ22,第2クラッチ23を開放側に付勢するクラッチスプリング78,79と、クラッチスプリング78,79が圧縮されて第1クラッチ22,第2クラッチ23が完全に接続された状態よりも過度に圧縮する押圧力を、圧縮して吸収する皿ばね76,77と、を備えている。
そのため、第1実施形態のツインクラッチ装置4によれば、油圧回路57,58の変形や油漏れによる微小な油圧変化による第1クラッチ22,第2クラッチ23の接続状態への影響を、皿ばね76,77を設けることで吸収させることができる。そのため、クラッチスプリング78,79への押圧力の変化の影響を低減して、クラッチ接続状態の変化を少なくした接続制御を行うことができる。
また、第1実施形態のツインクラッチ装置4によれば、付勢手段にクラッチスプリング78,79よりもばね定数が高いスプリングを用いたので、付勢手段を第1クラッチ22,第2クラッチ23内のプレッシャープレート44,38とプレッシャー部材28,29との間に配置することができ、付勢手段を内蔵したクラッチ装置として小型化することができる。
また、第1実施形態のツインクラッチ装置4によれば、クラッチスプリング78,79は、コイルばねからなり、付勢手段のスプリングは、皿ばね76,77からなる。そのため、皿ばね76,77を、クラッチスプリング78,79の外周を囲むように配置できるので、クラッチ装置の大型化を抑制することができる。
<第2実施形態>
(ツインクラッチ式変速機201の構造)
以上、説明した第1実施形態のツインクラッチ式変速機1は、第1クラッチ22が回転力を伝達する内シャフト6が、第2クラッチ23が回転力を伝達するパイプ状の外シャフト7内に同心状に配置されており、これに伴って、第1クラッチ22が、第2クラッチ23内に同心状に配置された構成になっている。
これに対して、図18、図19に基づいて説明する第2実施形態のツインクラッチ式変速機201は、第1クラッチ247が回転力を伝達する第1メインシャフト219と、第2クラッチ248が回転力を伝達する第2メインシャフト220とが互いに平行に配置され、これに伴って、第1クラッチ247と第2クラッチ248とが平行に配置された構成になっている。このようなツインクラッチ式変速機201にも、本発明のクラッチ装置を適用することができる。第2実施形態のツインクラッチ式変速機201においても、第1実施形態と同様の効果が奏される。
図18は、本発明の第2実施形態に係るクラッチ装置を備えたエンジンの外観図である。図19は、第2実施形態に係るクラッチ装置を備えたツインクラッチ式変速機の要部の断面図である。
なお、第2実施形態における第1クラッチ247及び第2クラッチ248の基本構造は、図3に示す第1実施形態における第1クラッチ22,第2クラッチ23の基本構造と同様であるので、その説明を省略する。
図18、図19に示すように、第2実施形態に係るツインクラッチ式変速機201も、二輪車、特に、自動二輪車等の車両に搭載されるものであり、変速機本体及びクランクケース212と、シフト駆動機構部203と、ツインクラッチ装置204とを備えている。
クランクケース212は、クランクシャフト218からの駆動力をツインクラッチ装置204から入力され、入力された駆動力をシフト駆動機構部203の操作に応じて所望の変速段で変速するようになっている。ツインクラッチ装置204は、クランクケース212に対する駆動力の入力を接続又は遮断するようになっている。
パワーユニットは、車両である二輪車、特に、自動二輪車等に搭載されるものである。パワーユニットの一部を構成する空冷式単気筒エンジンのエンジン本体211は、クランクケース及び変速機本体212と、自動二輪車への搭載状態で前上がりとなるように傾斜してクランクケース212に結合されるシリンダブロック213と、このシリンダブロック213の上部に結合されるシリンダヘッド214と、このシリンダヘッド214の上部に結合されるヘッドカバー215と、を備えている。
シリンダブロック213に摺動自在に嵌合されるピストン216は、自動二輪車の左右方向に沿う軸線を有してクランクケース212で回転自在に支承されたクランクシャフト218に、コネクティングロッド217を介して連接されている。
クランクケース212には、クランクシャフト218以外に、第1メインシャフト219、第2メインシャフト220、カウンタシャフト221が、軸心を互いに平行にして回転自在に支承されている。
図19に示すように、第1メインシャフト219及び第2メインシャフト220と、カウンタシャフト221との間には、選択的に確立される複数変速段、例えば6速のギヤ列が設けられている。第1メインシャフト219とカウンタシャフト221との間には、第1、第3及び第5速用ギヤ列GA1,GA3,GA5が、択一的に確立可能に設けられている。第2メインシャフト220とカウンタシャフト221との間には、第2、第4及び第6速用ギヤ列GA2,GA4,GA6が、択一的に確立可能に設けられている。カウンタシャフト221の回転駆動力は、不図示の伝動装置を介して自動二輪車の後輪に伝達されるようになっている。
第1速用ギヤ列GA1は、第1メインシャフト219と一体の第1速用駆動ギヤ222と、カウンタシャフト221に相対回転自在に支承された第1速用被動ギヤ223とが、噛み合っている。第2速用ギヤ列GA2は、第2メインシャフト220に相対回転不能に結合された第2速用被動ギヤ224と、カウンタシャフト221に相対回転自在に支承された第2速用被動ギヤ225とが、噛み合っている。第3速用ギヤ列GA3は、第1メインシャフト219に相対回転不能に結合された第3速用駆動ギヤ226と、カウンタシャフト221に相対回転自在に支承された第3速用被動ギヤ227とが、常時噛み合っている。
第4速用ギヤ列GA4は、第2メインシャフト220に相対回転不能に結合された第4速用駆動ギヤ228と、カウンタシャフト221に相対回転自在に支承された第4速用被動ギヤ229とが、常時噛み合っている。第5速用ギヤ列GA5は、第1メインシャフト219に相対回転可能に支承された第5速用駆動ギヤ230と、カウンタシャフト221に相対回転不能に結合された第5速用被動ギヤ231とが、常時噛み合っている。第6速用ギヤ列GA6は、第2メインシャフト220に相対回転可能に支承された第6速用駆動ギヤ232と、カウンタシャフト221に相対回転不能に結合された第6速用被動ギヤ233とが、常時噛み合っている。
第1メインシャフト219には、第5速用駆動ギヤ230に係合して第5速用ギヤ列GA5を確立する位置と第5速用駆動ギヤ230との係合を解除する位置との間で移動可能で且つ第3速用駆動ギヤ226と一体の第1シフタ235が、相対回転不能に且つ軸方向移動を可能に、結合されている。また、第2メインシャフト220には、第6速用駆動ギヤ232に係合して第6速用ギヤ列GA6を確立する位置と第6速用駆動ギヤ232との係合を解除する位置との間で移動可能で且つ第4速用駆動ギヤ228と一体の第2シフタ236が、相対回転不能に且つ軸方向移動を可能に、結合されている。
さらに、カウンタシャフト221には、第3及び第4シフタ237,238が相対回転不能に且つ軸方向移動を可能に結合されている。第3シフタ237は、第5速用被動ギヤ231と一体であり、第1速用被動ギヤ223に噛合して第1速用ギヤ列GA1を確立する位置、第3速用被動ギヤ227に係合して第3速用ギヤ列GA3を確立する位置、並びに、第1速用被動ギヤ223及び第3速用被動ギヤ227のいずれにも係合しない中立位置間で移動可能である。第4シフタ238は、第6速用被動ギヤ233と一体であり、第2速用被動ギヤ225に係合して第2速用ギヤ列GA2を確立する位置、第4速用被動ギヤ229に係合して第4速用ギヤ列GA4を確立する位置、並びに、第2速用被動ギヤ225及び第4速用被動ギヤ229のいずれにも係合しない中立位置間で移動可能である。
第1及び第2メインシャフト219,220の一端部には、クランクシャフト218に設けられた駆動ギヤ246から第1及び第2メインシャフト219,220への回転動力の伝達を接続又は遮断する第1及び第2クラッチ247,248が、それぞれ配設されている。
第1クラッチ247は、第1メインシャフト219の一端部に相対回転自在に支承された第1クラッチアウタ249と、第1クラッチアウタ249に係合された複数枚の第1摩擦板250,250…と、第1メインシャフト219に相対回転不能に結合される第1クラッチインナ251と、第1摩擦板250,250…と交互に配置されて第1クラッチインナ251に係合された複数枚の第2摩擦板252,252…と、交互に配置された第1及び第2摩擦板250,250…;252,252…のうち軸方向外方の摩擦板に対向して第1クラッチインナ251に一体に設けられた第1受圧板253と、交互に配置される第1及び第2摩擦板250,250…;252,252…のうち軸方向内方の摩擦板に外周部を対向させる皿状の第1押圧部材254と、第1メインシャフト219と平行な方向への移動を可能として第1押圧部材254に基端部が一体に連接された複数の連結筒部254a…の先端部にボルト255…で締結された第1リテーナ256と、第1受圧板253と第1押圧部材254との間で第1及び第2摩擦板250,250…;252,252…を圧着するように、第1クラッチインナ251と第1リテーナ256との間に介装されて第1押圧部材254を付勢する第1クラッチスプリング257と、第1リテーナ256の内周部に第1レリーズベアリング258を介して連結される第1リフタ259と、を備えている。
第1リフタ259には、第1実施形態と同様の第1スリーブシリンダ50が、第1リフタ259を軸方向に駆動することを可能として連結されている。第1実施形態と同様の油圧供給部(不図示)の非作動状態では、第1押圧部材254が第1クラッチスプリング257によって係合側に付勢されているので、第1クラッチ247は、動力伝達状態にある。第1クラッチ247は、油圧供給部を作動させて第1リフタ259を軸方向に移動させると、第1レリーズベアリング258を介して第1リテーナ256が、第1クラッチスプリング257を圧縮しながら第1及び第2摩擦板252,252…の圧着力が弱まる側に第1押圧部材254を押圧し、第1クラッチアウタ249及び第1クラッチインナ251間の動力伝達を遮断する。
第2クラッチ248は、第2メインシャフト220の一端部に相対回転自在に支承された第2クラッチアウタ261と、第2クラッチアウタ261に係合された複数枚の第3摩擦板262,262…と、第2メインシャフト220に相対回転不能に結合される第2クラッチインナ263と、第3摩擦板262,262…と交互に配置されて第2クラッチインナ263に係合された複数枚の第4摩擦板264,264…と、交互に配置された第3及び第4摩擦板262,262…;264,264…のうち軸方向外方の摩擦板に対向して第2クラッチインナ263に一体に設けられた第2受圧板265と、交互に配置される第3及び第4摩擦板262,262…;264,264…のうち軸方向内方の摩擦板に外周部を対向させる皿状の第2押圧部材266と、第1メインシャフト219と平行な方向への移動を可能として第2押圧部材266に基端部が一体に連接された複数の連結筒部266a…の先端部にボルト267…で締結された第2リテーナ268と、第2受圧板265と第2押圧部材266との間で第3及び第4摩擦板262,262…;264,264…を圧着するように、第2クラッチインナ263と第2リテーナ268との間に介装されて第2押圧部材266を付勢する第2クラッチスプリング269と、第2リテーナ268の内周部に第2レリーズベアリング270を介して連結される第2リフタ271とを備えている。
第2リフタ271には、第1実施形態と同様の第2スリーブシリンダ56が、第2リフタ271を軸方向に駆動することを可能として連結されている。このような第2クラッチ248も、上述の第1クラッチ247と同様に作動するものであり、油圧供給部の非作動状態で動力伝達状態にあり、油圧供給部の作動によって第2クラッチアウタ261と第2クラッチインナ263と間の動力伝達を遮断する。
クランクシャフト218から第1及び第2メインシャフト219,220へ回転動力を伝達する一次減速ギヤ機構245は、クランクシャフト218に設けられた単一の駆動ギヤ246と、第1メインシャフト219に相対回転を可能として支承されると共に駆動ギヤ246に噛合する第1被動ギヤ273と、第1被動ギヤ273と共に回転する中間駆動ギヤ274と、この中間駆動ギヤ274に噛合してカウンタシャフト221に相対回転可能に支承されたアイドルギヤ275と、第2メインシャフト220に相対回転可能に支承されてアイドルギヤ275に噛合する第2被動ギヤ276と、で構成されている。
第1被動ギヤ273は、第1クラッチアウタ249に、弾性部材であるダンパゴム277を介して連結されている。第2被動ギヤ276は、第2クラッチアウタ261に相対回転不能に連結されている。第1被動ギヤ273と中間駆動ギヤ274とは、一体に形成されている。
アイドルギヤ275と、第1及び第2クラッチ247,248との間には、第1被動ギヤ273が配置されている。
ツインクラッチ式変速機201の動作を説明する。クランクシャフト218の回転力は、一次減速ギヤ機構245の駆動ギヤ246、第1被動ギヤ273、中間駆動ギヤ274、アイドルギヤ275及び第2被動ギヤ276を介して、第1及び第2メインシャフト219,220に伝達される。
第1クラッチ247が接続状態の場合には、エンジンによって回転するクランクシャフト218の回転力は、駆動ギヤ246、第1被動ギヤ273、第1クラッチ247、第1メインシャフト219を介して、第1速用ギヤ列GA1、第3速用ギヤ列GA3、5速用ギヤ列GA5のうち、シフト駆動機構部203に選択されたいずれか1つのギヤ列によって、カウンタシャフト221に伝達される。これによって、二輪車は、走行する。
また、第2クラッチ248が接続状態の場合には、エンジンによって回転するクランクシャフト218の回転力は、駆動ギヤ246、第1被動ギヤ273、中間駆動ギヤ274、アイドルギヤ275、第2被動ギヤ276、第2クラッチ248、第2メインシャフト220を介して、第2速用ギヤ列GA2、第4速用ギヤ列GA4、第6速用ギヤ列GA6のうち、シフト駆動機構部203に選択されたいずれか1つのギヤ列によって、カウンタシャフト221に伝達される。これによって、二輪車は、走行する。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることなく、種々の形態で実施することができる。
例えば、油圧供給源は、油圧シリンダに制限されない。アクチュエータは、カムシャフト及びモータを利用したものに制限されない。
本発明は、二輪車以外の三輪又は四輪の鞍乗型車両に好ましく適用される。鞍乗型車両とは、車体にまたがって乗車する車両全般を含む。