JP2013163884A - カーボンナノチューブを含有するビニロン繊維およびその製造方法 - Google Patents

カーボンナノチューブを含有するビニロン繊維およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の目的は、表面に凹凸を有するビニロン繊維及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記ビニロン繊維を用いて製造されたカーボンナノチューブ集合体及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明のビニロン繊維の製造方法は、ポリビニルアルコール系重合体、カーボンナノチューブ及び水を含有し、円すい−平板形回転粘度計により温度25℃の条件において測定される、せん断速度100(1/秒)における粘度に対するせん断速度10(1/秒)における粘度の割合であるチキソトロピー指数(TI)が2.1〜3.0である紡糸原液を、湿式紡糸により繊維化する段階を含むことを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、カーボンナノチューブを含有するビニロン繊維及びその製造方法に関する。より詳しくは、表面に凹凸を有する、カーボンナノチューブ含有ビニロン繊維及びその製造方法に関する。
ポリビニルアルコール系重合体より形成されるビニロン繊維は、ロープ、資材用縫い糸、畳糸、漁網、ゴム強化用繊維、セメント強化用繊維等として広く用いられている(特許文献1、2等)。
従来のビニロン繊維は、一般的には、図10に示されるように、平滑な表面と扁平な断面形状を有している。
特開平5−86504号公報 特開2004−256315号公報
従来のビニロン繊維の特性を変化させる観点や、従来のビニロン繊維に様々な機能を付与する観点から、ビニロン繊維の表面形状や断面形状を変化させること、例えば、凹凸を有する表面形状とすることなどが考えられる。
即ち、本発明の目的は、表面に凹凸を有するビニロン繊維及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記ビニロン繊維を用いて製造されたカーボンナノチューブ集合体及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ポリビニルアルコール系重合体、カーボンナノチューブ及び水を必須成分として含有し、チキソトロピー指数を特定範囲に制御した紡糸原液を湿式紡糸により繊維化することにより、繊維の表面に凹凸を有する特有の表面形状を有するビニロン繊維(カーボンナノチューブを含有するビニロン繊維)が得られることを見出した。さらに、上記のカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維を焼成することにより、特定の方向に優れた配向性を有するカーボンナノチューブ集合体が得られることを見出した。これらにより、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、ポリビニルアルコール系重合体、カーボンナノチューブ及び水を含有し、円すい−平板形回転粘度計により温度25℃の条件において測定される、せん断速度100(1/秒)における粘度に対するせん断速度10(1/秒)における粘度の割合であるチキソトロピー指数(TI)が2.1〜3.0である紡糸原液を、湿式紡糸により繊維化する段階を含むことを特徴とするビニロン繊維の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、前記紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、2以上のカーボンナノチューブが束状に集合した集合物の割合が10%以下である前記のビニロン繊維の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、前記紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、直径が0.3〜40nmであるカーボンナノチューブの割合が80〜100%である前記のビニロン繊維の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、前記紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、長さ1〜10μmのカーボンナノチューブの割合が80〜100%である前記のビニロン繊維の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、前記紡糸原液100重量%中の前記ポリビニルアルコール系重合体の含有量が6〜13重量%である前記のビニロン繊維の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、前記紡糸原液100重量%中の全てのカーボンナノチューブの含有量が0.3〜0.8重量%である前記のビニロン繊維の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、前記紡糸原液を、口金から吐出量1〜50g/分で凝固液中に吐出して繊維化する前記のビニロン繊維の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記のビニロン繊維の製造方法によりビニロン繊維を得る工程と、前記ビニロン繊維を焼成してカーボンナノチューブ集合体を得る工程とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記のビニロン繊維の製造方法により製造されたビニロン繊維を提供する。
また、本発明は、前記のカーボンナノチューブ集合体の製造方法により製造されたカーボンナノチューブ集合体を提供する。
本発明のビニロン繊維の製造方法は上記の特徴を有しているため、上記製造方法によれば、カーボンナノチューブを含有し、且つ、表面に凹凸を有する、特有の表面形状のビニロン繊維を製造することができる。また、本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法によれば、特定の方向に優れた配向性を有するカーボンナノチューブ集合体を製造することができる。
図1は、実施例1で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の断面写真である。 図2は、実施例1で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の断面写真である。 図3は、実施例1で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の表面写真である。 図4は、実施例2で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の断面写真である。 図5は、実施例2で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の表面写真である。 図6は、実施例3で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の断面写真である。 図7は、実施例3で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の表面写真である。 図8は、比較例1で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の断面写真である。 図9は、比較例1で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の表面写真である。 図10は、比較例2で得られたビニロン繊維の断面写真である。 図11は、比較例2で得られたビニロン繊維の表面写真である。 図12は、実施例1で得られた線状カーボンナノチューブ集合体のSEM写真である。 図13は、実施例1で得られた線状カーボンナノチューブ集合体のSEM写真である 図14は、実施例1で得られた膜状カーボンナノチューブ集合体のSEM写真である。 図15は、実施例1で得られた膜状カーボンナノチューブ集合体のSEM写真である。 図16は、実施例1で得られた線状カーボンナノチューブ集合体の断面のSEM写真である。 図17は、紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の束状集合物の割合の評価における、実施例1の紡糸原液より作製した評価サンプルのSEM写真の1例である。 図18は、抵抗加熱による温度上昇測定の測定方法を示した説明図である。
本発明のビニロン繊維の製造方法は、ポリビニルアルコール系重合体、カーボンナノチューブ及び水を含有し、円すい−平板形回転粘度計により温度25℃の条件において測定される、せん断速度100(1/秒)における粘度に対するせん断速度10(1/秒)における粘度の割合であるチキソトロピー指数(TI)が2.1〜3.0である紡糸原液を、湿式紡糸により繊維化する段階を少なくとも含む。本発明のビニロン繊維の製造方法は、さらに、上記段階以外の段階を含んでもよい。
本明細書では、上記「ポリビニルアルコール系重合体、カーボンナノチューブ及び水を含有し、円すい−平板形回転粘度計により温度25℃の条件において測定される、せん断速度100(1/秒)における粘度に対するせん断速度10(1/秒)における粘度の割合であるチキソトロピー指数(TI)が2.1〜3.0である紡糸原液」を「本発明の紡糸原液」と称する場合がある。また、「円すい−平板形回転粘度計により温度25℃の条件において測定される、せん断速度100(1/秒)における粘度に対するせん断速度10(1/秒)における粘度の割合であるチキソトロピー指数(TI)」を、単に「チキソトロピー指数(TI)」、「チキソトロピー指数」、又は「TI」と称する場合がある。
[本発明の紡糸原液]
本発明の紡糸原液は、ポリビニルアルコール系重合体、カーボンナノチューブ、及び水を必須成分として含有する。なお、本発明の紡糸原液中の各成分は、それぞれ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
上記ポリビニルアルコール系重合体は、公知のポリビニルアルコールを用いることができる。上記ポリビニルアルコール系重合体は、例えば、[−CH2CH(OH)−]で表される構成単位(構造単位)を含む重合体であり、ポリ酢酸ビニルをケン化して製造された重合体が挙げられる。上記ポリビニルアルコール系重合体のケン化度は、特に限定されないが、紡糸性、糸強度の観点から、85〜99.5モル%が好ましく、より好ましくは95〜99.5モル%である。また、上記ポリビニルアルコール系重合体の平均重合度は、特に限定されないが、糸強度の観点から、1000〜2500が好ましく、より好ましくは1500〜2400である。上記ケン化度、平均重合度は、JIS K6726に準拠して求めることができる。
上記ポリビニルアルコール系重合体は、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、株式会社クラレ製、商品名「クラレポバール PVA−117」、「クラレポバール PVA−217」、「クラレポバール PVA−205」、「クラレポバール PVA−105」等が挙げられる。
なお、上述のポリビニルアルコール系重合体についての説明は、後述のポリビニルアルコール系重合体(PVA1)及びポリビニルアルコール系重合体(PVA2)についても適用される。
上記カーボンナノチューブは、特に限定されず、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)のいずれでもよく、また、両者が混合したカーボンナノチューブであってもよい。中でも、剛性に優れ、繊維化する際に配向しやすい観点から、多層カーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブであることが好ましい。なお、本明細書では、「カーボンナノチューブ」を「CNT」と称する場合があり、「カーボンナノチューブ集合体」を「CNT集合体」と称する場合がある。また、本明細書におけるカーボンナノチューブには、表面が官能基で修飾されたカーボンナノチューブの意味も含まれるものとする。
本発明の紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中(即ち、本発明の紡糸原液中のカーボンナノチューブ全量100%中)の、2以上のカーボンナノチューブが束状(バンドル状)に集合した集合物の割合(個数の割合)は、チキソトロピー指数(TI)を制御する観点から、10%以下(0〜10%)が好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下である。なお、カーボンナノチューブの生産技術的困難性の観点から、上記割合は、0.01%以上、さらに0.1%以上となる場合が多い。2以上のカーボンナノチューブが束状に集合した集合物(束状集合物)が10%より多く含まれるカーボンナノチューブを用いた場合には、TIが低下する場合がある。また、ビニロン繊維中のカーボンナノチューブの配向が乱れ、カーボンナノチューブ集合体の配向性が低下する場合がある。なお、上記割合は、カーボンナノチューブの個数(本数)を基準とする割合であり、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定することができる。より具体的には、後述の「(評価)」に記載された方法で測定することができる。
なお、本明細書では、上記「2以上のカーボンナノチューブが束状に集合した集合物」を「束状集合物」と称する場合があり、「2以上のカーボンナノチューブが塊状に集合した集合物」を「塊状集合物」と称する場合がある。
さらに、本発明の紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、2以上のカーボンナノチューブが集合した集合物の割合(個数の割合)は、特に限定されないが、本発明のビニロン繊維の生産性やカーボンナノチューブ集合体の配向性をより向上させる観点から、10%以下(0〜10%)が好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下である。なお、カーボンナノチューブの生産技術的困難性の観点から、上記割合は、0.01%以上、さらに0.1%以上となる場合が多い。
本発明の紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、長さ1〜10μmのカーボンナノチューブの割合(個数の割合)は、特に限定されないが、80〜100%が好ましく、より好ましくは、90〜100%、さらに好ましくは95〜100%である。上記長さは、より好ましくは3〜10μmであり、さらに好ましくは5〜10μmある。上記条件を満たし、紡糸原液中のカーボンナノチューブの長さが特定範囲であり、かつ、長さのばらつきが小さい場合に、繊維化する際にカーボンナノチューブが特に配向しやすくなるため好ましい。なお、上記割合は、カーボンナノチューブの個数(本数)を基準とする割合であり、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定することができる。より具体的には、後述の「(評価)」に記載された方法で測定することができる。
本発明の紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、アスペクト比が50〜1000であるカーボンナノチューブの割合(個数の割合)は、特に限定されないが、チキソトロピー指数(TI)を制御する観点から、50〜100%が好ましく、より好ましくは、70〜100%、さらに好ましくは80〜100%である。上記アスペクト比は、より好ましくは100〜500である。カーボンナノチューブのアスペクト比は、カーボンナノチューブの直径に対するカーボンナノチューブの長さの比(長さ/直径)を意味する。アスペクト比が50以上のカーボンナノチューブはTIを高めやすいため好ましい。一方、アスペクト比が1000を超えるカーボンナノチューブは、長すぎて絡まりやすく好ましくない場合がある。
本発明の紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、直径が0.3〜40nmであるカーボンナノチューブの割合(個数の割合)は、特に限定されないが、チキソトロピー指数(TI)を制御する観点から、80〜100%が好ましく、より好ましくは、90〜100%、さらに好ましくは95〜100%である。上記直径は、より好ましくは5〜40nmであり、さらに好ましくは10〜30nmである。カーボンナノチューブの直径を40nm以下と比較的細くすることにより、カーボンナノチューブのアスペクト比が高くなるため、TIを高めやすく好ましい。また、上記条件を満たし、直径のばらつきが小さい場合に、特に優れた配向性のカーボンナノチューブ集合体が得られるため好ましい。なお、上記割合は、カーボンナノチューブの個数(本数)を基準とする割合であり、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。より具体的には、後述の「(評価)」に記載された方法で測定することができる。
本発明の紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、層数が2層以上である多層カーボンナノチューブの割合は、特に限定されないが、80〜100%が好ましく、より好ましくは、90〜100%、さらに好ましくは95〜100%である。上記層数は、より好ましくは2〜35層であり、さらに好ましくは5〜20層である。上記層数が2層以上である多層カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブよりも剛性に優れるため、繊維化する際に配向しやすい。また、特に優れた配向性のカーボンナノチューブ集合体が得られるため好ましい。なお、上記割合は、カーボンナノチューブの個数(本数)を基準とする割合であり、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。
本発明の紡糸原液中のカーボンナノチューブ(全てのカーボンナノチューブ)のラマン分光分析から算出されるG/D比は、特に限定されないが、本発明のカーボンナノチューブ集合体の電気伝導性や強度等の観点から、1.0以上(例えば、1.0〜20.0)が好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上である。上記G/D比は、ラマンスペクトルにおける、1580cm-1付近のグラファイト結晶由来のGピークと1350cm-1付近の炭素のディスオーダー成分を示すDピークの比(Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の割合)である。上記G/D比はラマン分光分析により算出することができ、例えば、レニショー(RENISHAW)社製、レーザーラマンマイクロスコープ(Laser Raman microscope)を用いて測定及び算出することができる。
本発明の紡糸原液は、上記ポリビニルアルコール系重合体、上記カーボンナノチューブ、及び水以外にも、さらに、界面活性剤(ポリビニルアルコール系重合体以外の界面活性剤)等の分散剤、ホウ酸、ホウ酸塩などを含有してもよい。
本発明の紡糸原液100重量%中の上記ポリビニルアルコール系重合体の含有量(濃度)は、特に限定されないが、6〜13重量%が好ましく、より好ましくは8〜12重量%である。上記含有量を13重量%以下とすることにより、紡糸原液の粘度が高くなりすぎず、紡糸性(曳糸性)が向上するため好ましい。また、上記含有量を6重量%以上とすることにより、紡糸原液の粘度がある程度高くなることにより、紡糸原液中のカーボンナノチューブの集合(凝集)を抑制できるため好ましい。従来のビニロン繊維の製造方法では、ポリビニルアルコール系重合体の含有量が13重量%を超える紡糸原液を用いることが一般的である。これに対して、カーボンナノチューブを含有する本発明の紡糸原液では、ポリビニルアルコール系重合体の含有量を、従来の紡糸原液と比べて、低く調整することが好ましい。
本発明の紡糸原液100重量%中の、カーボンナノチューブ(全てのカーボンナノチューブ)の含有量は、特に限定されないが、チキソトロピー指数(TI)を制御する観点から、0.3〜0.8重量%が好ましく、より好ましくは0.35〜0.75重量%、さらに好ましくは0.4〜0.75重量%である。上記含有量が0.3重量%未満の場合には、TIが2.1未満となる場合があり、上記含有量が0.8重量%を超える場合には、TIが3.0を超える場合がある。
本発明の紡糸原液のチキソトロピー指数(TI)は、2.1〜3.0であり、好ましくは2.3〜2.9、さらに好ましくは2.45〜2.85である。紡糸原液のTIを2.1以上とすることにより、該紡糸原液より得られるビニロン繊維の表面に凹凸が形成される。一方、紡糸原液のTIが3.0を超える場合には、低せん断速度における粘度が高くなりすぎることにより、紡糸性(曳糸性)が低下する。
上記チキソトロピー指数(TI)は、円すい−平板形回転粘度計により温度25℃の条件において測定される、せん断速度100(1/秒)における粘度に対するせん断速度10(1/秒)における粘度の割合である。即ち、下記式で表される。
チキソトロピー指数(TI)=η10/η100
上記式中、η10はせん断速度10(1/秒)における粘度、η100はせん断速度100(1/秒)における粘度である(η10とη100の単位は同じである)。
上記粘度測定は、円すい−平板形回転粘度計(コーンプレート型粘度計とも称する)を用いて行うことができる。より具体的には、例えば、ブルックフィールド社製、コーンプレート型粘度計「HBDV−2+PRO」を用いて行うことができる。また、粘度測定は、測定対象である紡糸原液を1時間静置した後に、25℃の条件で測定する。
本発明の紡糸原液の、円すい−平板形回転粘度計により温度25℃の条件において測定される、せん断速度10(1/秒)における粘度η10は、特に限定されないが、紡糸性(曳糸性)の観点から、1000〜50000mPa・sが好ましく、より好ましくは3000〜30000mPa・s、さらに好ましくは4000〜25000mPa・sである。なお、上記η10は、上記TIにおけるη10である。
[本発明のビニロン繊維の製造方法]
本発明のビニロン繊維の製造方法は、本発明の紡糸原液を、湿式紡糸により繊維化する段階を少なくとも含む。
(本発明の紡糸原液を湿式紡糸により繊維化する段階)
本発明の紡糸原液を湿式紡糸により繊維化する段階においては、本発明の紡糸原液を紡糸原液(紡糸溶液)として用い、湿式紡糸(湿式紡糸法)により繊維化し、紡出糸(繊維)を得る。上記湿式紡糸法は、公知のビニロン繊維(ポリビニルアルコール系繊維)の製造方法における湿式紡糸法を用いることができる。具体的には、例えば、本発明の紡糸原液を口金(紡糸口金)から凝固液中に吐出(紡出)して繊維化し、紡出糸を得る。
吐出の際の吐出量(単位時間当たりの吐出量)は、特に限定されないが、せん断によりカーボンナノチューブの配向性を向上させる観点から、1〜50g/分が好ましく、より好ましくは10〜15g/分である。吐出する際には、異物やカーボンナノチューブの粗大な集合物を除去する観点から、フィルターを用いて紡糸原液を濾過することが好ましい。
上記の繊維化の際の紡糸ドラフト(吐出速度に対する、紡出糸の引き上げのローラー速度の割合)は、2以下が好ましく、より好ましくは1以下である。
上記凝固液としては、特に限定されないが、硫酸ナトリウム(Na2SO4)水溶液、硫酸アンモニウム((NH42SO4)水溶液、硫酸亜鉛(ZnSO4)水溶液、硫酸マグネシウム(MgSO4)水溶液、硫酸アルミニウム(Al2(SO43)水溶液等が挙げられる。中でも、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液が好ましい。
本発明のビニロン繊維の製造方法は、本発明の紡糸原液を湿式紡糸により繊維化する段階以外の段階を含んでもよい。例えば、洗浄段階、油剤浸漬段階、乾燥段階、繊維を延伸する段階を含むことが好ましい。
上記洗浄段階は、本発明の紡糸原液を湿式紡糸により繊維化する段階で得られた紡出糸を洗浄する段階である。また、上記油剤浸漬段階は、上記紡出糸又は洗浄後の紡出糸を脂肪酸エステル等の油剤に浸漬する段階である。さらに、上記乾燥段階は、上記紡出糸、洗浄後の紡出糸又は油剤浸漬後の紡出糸を乾燥する段階である。
上記繊維を延伸する段階における延伸は、熱延伸が好ましい。延伸倍率は、特に限定されないが、本発明のビニロン繊維の強度を向上させる観点や本発明のビニロン繊維中やカーボンナノチューブ集合体中のカーボンナノチューブの配向性をより向上させる観点から、2〜20倍が好ましく、より好ましくは7〜10倍である。また、延伸温度は、特に限定されないが、延伸性を向上させる観点から、200〜250℃が好ましく、より好ましくは210〜230℃である。
[本発明のビニロン繊維]
本発明のビニロン繊維の製造方法により、本発明のビニロン繊維が得られる。本発明のビニロン繊維(本発明のビニロン繊維の製造方法により製造されたビニロン繊維)は、ポリビニルアルコール系重合体より形成されたポリビニルアルコール系繊維である。本発明のビニロン繊維はカーボンナノチューブを少なくとも含有する。本発明のビニロン繊維は、未延伸糸であってもよいし、延伸糸であってもよい。
本発明のビニロン繊維100重量%中の、ポリビニルアルコール系重合体の含有量は、特に限定されないが、90〜97.5重量%が好ましく、より好ましくは92〜97重量%である。
本発明のビニロン繊維100重量%中の、カーボンナノチューブ(全てのカーボンナノチューブ)の含有量は、特に限定されないが、カーボンナノチューブの分散性や生産性の観点から、2.5〜7.0重量%が好ましく、より好ましくは3.0〜6.0重量%である。
本発明のビニロン繊維の繊度は、特に限定されないが、0.5〜10dtexが好ましく、より好ましくは1〜5dtexである。
本発明のビニロン繊維は、繊維の表面に凹凸(シワ状の凹凸)を有する。言い換えると、繊維の表面がシワがよったようにうねっている。図1に本発明のビニロン繊維の一例の断面写真を、図10に本発明のビニロン繊維以外のビニロン繊維の一例の断面写真を示す。従来の一般的な製造方法で製造した本発明のビニロン繊維以外のビニロン繊維は、繊維の表面が平滑である(図10)のに対して、本発明のビニロン繊維はシワ状の凹凸を有している(図1)。上記の繊維の表面に凹凸を有する特有の表面形状により、本発明のビニロン繊維は、従来のビニロン繊維に比べ表面積が大きいことにより、低光沢性(艶消し性)、曲げ強度向上などの効果を有することが推定される。
また、本発明のビニロン繊維中では、カーボンナノチューブが、それぞれのカーボンナノチューブの長さ方向(即ち、円筒軸方向)が本発明のビニロン繊維の繊維軸方向と一致するように、優れた配向性で配向している。これにより、本発明のビニロン繊維は、曲げ強度向上などの効果を有することが推定される。
本発明のビニロン繊維は、高い曲げ強度を利用して、例えば、セメントの強化用繊維などに用いることができる。
本発明のビニロン繊維の製造方法により、上記の特有の表面形状を有するビニロン繊維が得られる理由は以下のように推定される。なお、本発明は以下の記載により限定されない。本発明の紡糸原液は、チキソトロピー指数(TI)が2.1〜3.0であり、粘度のせん断速度依存性を有する。特に、高せん断速度における粘度が低せん断速度における粘度よりも小さくなる。湿式紡糸においては、凝固液中に吐出された紡糸原液(繊維状の紡糸原液)は、脱水しながら、繊維の表面側から内部に順に固化する。この際、吐出された繊維状の紡糸原液の表面近傍と内部では紡糸原液に加わるせん断力が異なる。このため、本発明の紡糸原液の場合には、吐出された繊維状の紡糸原液の表面側と内部には粘度勾配が生じ、それに伴い脱水速度勾配が生じ、それに起因して、固化の過程で繊維の表面にシワが入りやすくなり、湿式紡糸により得られたビニロン繊維の表面にシワ状の凹凸が形成されると推定される。
本発明の紡糸原液にせん断力が加わると、紡糸原液中のカーボンナノチューブがせん断力の方向に配向するため、本発明の紡糸原液の粘度が低下し、粘度のせん断速度依存性が発現すると推定される。さらに、以下のように推定される。カーボンナノチューブは、比較的直径が小さく、アスペクト比が高い場合や、束状集合物の含有量が少ない場合により配向しやすく、そのようなカーボンナノチューブを用いることにより、粘度のせん断速度依存性を発現する効果がより一層向上する。また、節状の突起を有するカーボンナノチューブよりも、滑らかな表面のカーボンナノチューブの方が配向しやすく、粘度のせん断速度依存性を発現する効果が高い。上記の滑らかな表面のカーボンナノチューブは、例えば、後述の基板成長CVD法により得られやすい。さらに、カーボンナノチューブは、ナノメートルオーダーのサイズのため、吐出時に口金を通過することができるため、紡糸過程で粘度のせん断速度依存性発現の効果を維持することができる。
上述のとおり、紡糸の際に本発明の紡糸原液にせん断力が加わることにより、紡糸原液中のカーボンナノチューブが紡出方向、即ち繊維軸方向に配向する。これにより、本発明のビニロン繊維の製造方法により製造されたビニロン繊維中では、カーボンナノチューブが、それぞれのカーボンナノチューブの長さ方向(即ち、円筒軸方向)が本発明のビニロン繊維の繊維軸方向と一致するように、優れた配向性で配向している。さらに、延伸(特に、熱延伸)を行うことにより、カーボンナノチューブの配向性がより一層向上する。なお、本発明の紡糸原液中に束状集合物が多く含まれる場合や、本発明の紡糸原液中に含まれるカーボンナノチューブの直径のばらつきが大きい場合には、本発明のビニロン繊維中のカーボンナノチューブの配向性は不十分となる場合がある。
[本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法]
本発明のビニロン繊維はカーボンナノチューブを含有するため、本発明のビニロン繊維を焼成することにより、カーボンナノチューブの集合体(本発明のカーボンナノチューブ集合体)を得ることができる。本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法は、本発明のビニロン繊維の製造方法によりビニロン繊維(本発明のビニロン繊維)を得る工程と、上記本発明のビニロン繊維を焼成してカーボンナノチューブ集合体を得る工程とを少なくとも含む。本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法は、上記工程以外の工程を含んでもよい。なお、上記「本発明のビニロン繊維を焼成してカーボンナノチューブ集合体を得る工程」を「焼成工程」と称する場合がある。
(焼成工程)
上記焼成工程においては、少なくとも1本の本発明のビニロン繊維を焼成することにより、カーボンナノチューブ集合体を作製する。
上記焼成工程においては、所望のカーボンナノチューブ集合体の形態に応じて、1本のみの本発明のビニロン繊維を焼成してカーボンナノチューブ集合体を作製してもよいし、2本以上の本発明のビニロン繊維を焼成してカーボンナノチューブ集合体を作製してもよい。また、本発明のビニロン繊維を、直線状に固定したり、所定の形状にして固定した後、焼成してもよい。さらに、例えば、基板上に、複数本の本発明のビニロン繊維を繊維軸が一定方向に向くように配列させた形態で並べて固定した後に焼成することにより、膜状(薄膜状)のカーボンナノチューブ集合体を作製することもできる。
上記焼成工程における焼成温度は、特に限定されないが、200〜600℃が好ましく、より好ましくは300〜500℃、さらに好ましくは350〜450℃である。上記焼成温度が200℃未満では、焼成後に、多くのポリビニルアルコール系重合体が残存して、カーボンナノチューブ集合体の特性(剛性、電気伝導性、熱伝導性等)が低下する場合がある。一方、上記焼成温度が600℃を超えると、カーボンナノチューブが熱によるダメージを受けカーボンナノチューブ集合体の特性(剛性、電気伝導性、熱伝導性等)が低下する場合やカーボンナノチューブが焼損する場合がある。
上記焼成工程における焼成時間は、特に限定されないが、10分〜24時間が好ましく、より好ましくは30分〜12時間、さらに好ましくは1〜8時間である。上記焼成時間が10分未満では、焼成後に、多くのポリビニルアルコール系重合体が残存して、カーボンナノチューブ集合体の特性(剛性、電気伝導性、熱伝導性等)が低下する場合がある。一方、上記焼成時間が24時間を超えると、カーボンナノチューブが熱によるダメージを受けカーボンナノチューブ集合体の特性(剛性、電気伝導性、熱伝導性等)が低下する場合がある。
上記焼成工程における焼成では、特に限定されないが、例えば、電気炉、マッフル炉、赤外線ゴールドイメージ炉などを用いることができる。
上記焼成工程では、本発明のビニロン繊維を焼成することにより、繊維中のポリビニルアルコール系重合体を焼損させて除去することにより、カーボンナノチューブ集合体を作製する。本発明のビニロン繊維中のカーボンナノチューブが繊維軸方向に優れた配向性で配向しているため、本発明のビニロン繊維より得られたカーボンナノチューブ集合体においては、カーボンナノチューブ集合体を構成するそれぞれのカーボンナノチューブが、特定の方向(即ち、本発明のビニロン繊維の繊維軸方向であった方向)に優れた配向性で配向している。
本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法においては、1本の本発明のビニロン繊維を焼成することにより、カーボンナノチューブ集合体を構成するそれぞれのカーボンナノチューブが1方向に優れた配向性で配向している線状のカーボンナノチューブ集合体を得ることができる。また、複数本の本発明のビニロン繊維を、それぞれのビニロン繊維の繊維軸が同一方向となるように配列した後に焼成することにより、カーボンナノチューブ集合体を構成するそれぞれのカーボンナノチューブが1方向に優れた配向性で配向しているカーボンナノチューブ集合体(例えば、膜状のカーボンナノチューブ集合体)を得ることができる。
なお、本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法においては、カーボンナノチューブ集合体を構成するそれぞれのカーボンナノチューブの配向方向は1方向に限らず、カーボンナノチューブが複数方向に配向した複数方向の配向性を有するカーボンナノチューブ集合体(例えば、膜状のカーボンナノチューブ集合体)を得ることもできる。例えば、複数本の本発明のビニロン繊維をそれらの繊維軸が1方向(「X方向」とする)となるように、さらに他の複数本の本発明のビニロン繊維をそれらの繊維軸が上記X方向と直交する1方向(「Y方向」とする)となるように組み合わせて配列した後に焼成することにより、上記X方向と上記Y方向の2方向に優れた配向性を有する膜状のカーボンナノチューブ集合体を得ることができる。
また、本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法においては、焼成工程によりカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維からポリビニルアルコール系重合体を除去する方法により製造するため、カーボンナノチューブを高密度に含有するカーボンナノチューブ集合体を得ることができる。
さらに、本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法は、紡糸を利用することにより、簡便な方法によって、カーボンナノチューブの集合体を得ることができ、生産性に優れる。また、長尺の線状カーボンナノチューブ集合体や大面積の膜状カーボンナノチューブ集合体を得ることができる。
[本発明のカーボンナノチューブ集合体]
本発明のカーボンナノチューブ集合体は、複数のカーボンナノチューブが集合して構成された集合体である。本発明のカーボンナノチューブ集合体は、複数のカーボンナノチューブを必須の構成成分として構成されている。本発明のカーボンナノチューブ集合体は、カーボンナノチューブ以外の構成成分を含有してもよい。上記カーボンナノチューブ以外の構成成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系重合体(焼成工程で残存したもの等)、分散剤などの添加剤(焼成工程で残存したもの等)などが挙げられる。
本発明のカーボンナノチューブ集合体100重量%中の、カーボンナノチューブの含有量は、特に限定されないが、80重量%以上(80〜100重量%)が好ましく、より好ましくは85重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。上記含有量が80重量%以上であることにより、優れた剛性、電気伝導性、熱伝導性が得られるため好ましい。なお、生産技術上の困難性やカーボンナノチューブ集合体の脆化抑制の観点から、上記含有量は99重量%以下が好ましく、より好ましくは98重量%以下である。
本発明のカーボンナノチューブ集合体の形状は、特に限定されないが、例えば、直線状、曲線状や折れ線状などの線状(配線状)、膜状(薄膜状)などが挙げられる。
本発明のカーボンナノチューブ集合体のサイズ(長さ、幅、厚み)は、形状や用途等によっても異なり、特に限定されないが、生産性などの観点から、以下の範囲が好ましい。本発明のカーボンナノチューブ集合体の長さは、1mm〜1mが好ましく、さらに好ましくは1cm〜50cmである。本発明のカーボンナノチューブ集合体の幅は、1μm〜1mが好ましく、さらに好ましくは5μm〜50cmである。本発明のカーボンナノチューブ集合体の厚さは、3nm〜3μmが好ましく、さらに好ましくは10nm〜2μmである。
本発明のカーボンナノチューブ集合体においては、カーボンナノチューブ集合体を構成するそれぞれのカーボンナノチューブが、特定の方向(即ち、本発明のビニロン繊維の繊維軸方向であった方向)に優れた配向性で配向している。なお、本明細書では、本発明のカーボンナノチューブ集合体を構成するそれぞれのカーボンナノチューブが配向している方向(即ち、上記特定の方向)を「CNT配向方向」と称する場合がある。具体的には、例えば、本発明のカーボンナノチューブ集合体が、線状の形状を有するカーボンナノチューブ集合体(線状カーボンナノチューブ集合体)である場合には、CNT配向方向は、線状カーボンナノチューブ集合体の長さ方向である。また、本発明のカーボンナノチューブ集合体が、膜状の形状を有するカーボンナノチューブ集合体(膜状カーボンナノチューブ集合体)である場合には、CNT配向方向は、膜状カーボンナノチューブ集合体の面方向(厚さ方向と直交する方向)のうちの少なくとも1方向である。上記膜状カーボンナノチューブ集合体のCNT配向方向は、特に限定されないが、1方向又は2方向(特に互いに直交する2方向)が好ましい。
本発明のカーボンナノチューブ集合体は、CNT配向方向に高い剛性を有する。一方、CNT配向方向と直交する方向には、可撓性を有する。また、CNT配向方向に高い導電性、熱伝導性を有する。また、膜状カーボンナノチューブ集合体の場合には、膜の平面内において光学的異方性を有する。例えば、CNT配向方向とそれと直交する方向に、光学的異方性を有する。
グラフェンシートがナノメートルオーダーの直径の円筒状に丸まった中空の管状の構造(単層又は多層の構造)を有する物質であるカーボンナノチューブ(CNT)は、電気特性、力学特性や熱伝導特性に優れ、特に、円筒軸(チューブ軸)方向に、高い弾性率、熱伝導性、導電性を有する等の特徴を有する。これらの特徴に基づき、特定の方向に配向した複数のカーボンナノチューブを含有する材料、即ち、カーボンナノチューブ配向材料は、様々な工業材料としての利用が期待される。本発明のカーボンナノチューブ集合体は、高い導電性を利用して、例えば、電極、配線などに用いることができる。また、熱伝導性を利用して、ヒーター線やヒートシンク(放熱板)、特に異方熱伝導性ヒートシンクに用いることができる。さらに、特に膜状カーボンナノチューブ集合体は、光学的異方性を利用して、偏光材料に用いることができる。即ち、本発明のカーボンナノチューブ集合体より、本発明のカーボンナノチューブ集合体を含む、電極、配線、ヒーター線、ヒートシンク(異方熱伝導性ヒートシンク等)、偏光材料が得られる。
[本発明に用いるカーボンナノチューブの好ましい製造方法]
本発明のビニロン繊維の製造方法及び本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法に用いる、カーボンナノチューブの好ましい製造方法を以下に記載する。ただし、本発明は以下の記載により限定されない。以下のカーボンナノチューブの製造方法によれば、得られたカーボンナノチューブ中に含まれる束状集合物の割合が少なく、直径のばらつきの小さなカーボンナノチューブであって、なおかつ滑らかな表面のカーボンナノチューブが得られやすい。また、紡糸原液中で独立した状態で分散しやすいカーボンナノチューブが得られやすい。このため、上記カーボンナノチューブを用いることにより紡糸原液の粘度のせん断速度依存性を発現する効果がより一層向上する。また、上記カーボンナノチューブを用いることにより、ビニロン繊維中でのカーボンナノチューブの配向性がより一層向上し、より優れた配向性を有するカーボンナノチューブ集合体が得られるため好ましい。なお、以下では、カーボンナノチューブの好ましい製造方法により得られるカーボンナノチューブを「カーボンナノチューブ(B)」と称する場合がある。また、「カーボンナノチューブの好ましい製造方法」を「カーボンナノチューブ(B)の製造方法」と称する場合がある。
カーボンナノチューブ(B)の製造方法(カーボンナノチューブの好ましい製造方法)は、化学気相成長法のうち基板成長法によりカーボンナノチューブを合成する段階を含む、カーボンナノチューブ(A)を得る工程と、上記カーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬する段階を含む、カーボンナノチューブ(B)を得る工程とを少なくとも含む。
本明細書では、上記「化学気相成長法のうち基板成長法によりカーボンナノチューブを合成する段階を含む、カーボンナノチューブ(A)を得る工程」を「CNT作製工程」と称する場合がある。また、上記「カーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬する段階を含む、カーボンナノチューブ(B)を得る工程」を「CNT精製工程」と称する場合がある。また、「化学気相成長法」を「CVD法」と称する場合があり、「化学気相成長法のうち基板成長法」を「基板成長CVD法」と称する場合がある。
(CNT作製工程)
上記カーボンナノチューブ(A)を得る工程(CNT作製工程)は、化学気相成長法のうち基板成長法(基板成長CVD法)によりカーボンナノチューブを合成する段階を少なくとも含む。上記CNT作製工程は、さらに、基板成長CVD法によりカーボンナノチューブを合成する段階以外の段階を含んでもよい。
上記基板成長CVD法によりカーボンナノチューブを合成する方法は、公知の基板成長CVD法を用いることができ、例えば、齋藤弥八編著、「カーボンナノチューブの材料科学入門」、初版、株式会社コロナ社、2006年9月、p.16−19に記載されている。上記基板成長CVD法としては、より具体的には、小向拓治、他5名、「Density Control of Carbon Nanotubes through the Thickness of Fe/Al Multilayer Catalyst」、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス、2006年、第45巻、第7号、p.6043−6045(Japanese Journal of Applied Physics,Vol.45,No.7,2006,p.6043−6045)に記載された方法を用いることが好ましい。上記基板成長CVD法は、熱CVD法であることが好ましい。
上記基板成長CVD法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、基板上に触媒を固定する。好ましくは、基板上に触媒膜を成膜し、さらに触媒(特に金属触媒)を微粒子化する。次いで、加熱雰囲気中で、炭素含有ガスを上記触媒に接触させることにより、カーボンナノチューブを合成する。上記炭素含有ガスを上記触媒に接触させる際の雰囲気温度は、特に限定されないが、350〜900℃が好ましく、より好ましくは600〜800℃である。
上記基板としては、例えば、シリコン基板、石英ガラス基板、金属基板(例えば、ステンレス基板等)、セラミックス基板等が挙げられ、中でも、シリコン基板が好ましい。また、上記触媒は、一般的にカーボンナノチューブの成長を促進させる物質であり、特に限定されないが、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の金属やその酸化物等が挙げられる。中でも、金属及び/又は金属酸化物が好ましく、特に好ましくは、鉄(Fe)やその酸化物である。なお、本明細書では、金属及び/又は金属酸化物である触媒を「金属触媒」と称する場合がある。上記の基板上に触媒を固定したものとしては、基板上にアルミニウムの薄膜、鉄の薄膜をそれぞれ、基板/アルミニウム薄膜/鉄薄膜の順に形成したものが好ましい。基板上に触媒膜を成膜する方法、例えば、上記のアルミニウムの薄膜、鉄の薄膜を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、電子ビーム物理蒸着法(EB−PVD法)、スパッタリング法、触媒を含む液体を基板に塗布する方法などが挙げられる。
上記炭素含有ガスは、いわゆる炭素源である。上記炭素含有ガスは、炭化水素ガスが好ましい。上記炭素含有ガスとしては、例えば、アセチレン、メタン、エチレン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトン、一酸化炭素などが挙げられ、中でも、アセチレン(即ち、アセチレンガス)が好ましい。
上記CNT作製工程は、基板成長CVD法によりカーボンナノチューブを合成する段階以外の段階を含んでもよい。例えば、合成されたカーボンナノチューブを基板より剥離する段階、不活性ガス中で加熱処理する段階等が挙げられる。上記合成されたカーボンナノチューブを基板より剥離する方法としては、特に限定されないが、基板上に成長したカーボンナノチューブを、スクレーパで基板より剥離する方法、ガス圧により基板より剥離する方法などが挙げられる。さらに、例えば、特開2011−6822号公報、特開2011−6306号公報、特開2011−79711号公報に記載の方法が挙げられる。
上記CNT作製工程では、カーボンナノチューブ(B)の粗原料であるカーボンナノチューブ(即ち、粗カーボンナノチューブ)を作製する。上記CNT作製工程では、上記基板成長CVD法を用いることにより、滑らかな表面を有し、直線性が高く、絡み合いが少ないカーボンナノチューブ(特に、多層カーボンナノチューブ)を合成することができる。また、合成されたカーボンナノチューブの直径のばらつきが小さく、比較的直径の揃ったカーボンナノチューブを得ることができる。さらに、副生成物(副産物)として生成するアモルファスカーボンが比較的少なく精製工程等で除去しやすい。基板成長CVD法により、上記のような特徴を有する粗カーボンナノチューブを作製して用いることにより、粘度のせん断速度依存性に優れた紡糸原液、カーボンナノチューブの配向性に優れたビニロン繊維及びカーボンナノチューブ集合体が得やすいため好ましい。これに対して、例えば、合成方法として気相流動床法(気相流動法とも称する)を用いる場合には、直径のばらつきが大きく、また、節状の突起の多いカーボンナノチューブが合成される傾向にあり、紡糸原液の粘度のせん断速度依存性が低下する場合や、ビニロン繊維及びカーボンナノチューブ集合体中のカーボンナノチューブの配向性が低下する場合がある。
(CNT精製工程)
上記カーボンナノチューブ(B)を得る工程(CNT精製工程)は、上記CNT作製工程で得られた上記カーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬する段階を少なくとも含む。上記CNT精製工程は、さらに、カーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬する段階以外の段階を含んでもよい。
上記カーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬する段階における酸は、特に限定されないが、例えば、硫酸、硝酸、クロロ硫酸、塩酸、カロ酸、過マンガン酸カリウムの希硫酸溶液、硫酸及び過酸化水素水の混合物が挙げられる。中でも、硫酸、硝酸、硫酸及び硝酸の混合物(特に、濃硫酸及び濃硝酸の混合物)、硫酸及び過酸化水素水の混合物(例えば、硫酸過水)が好ましい。上記硫酸及び硝酸の混合物における、硝酸に対する硫酸の割合(硫酸/硝酸)(体積割合)は、0.25〜9が好ましく、より好ましくは1〜4である。特に硝酸に対する硫酸の割合が約3(硫酸:硝酸=3:1)である、いわゆる混酸が好ましい。なお、上記酸は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
上記カーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬する段階における浸漬時間は、特に限定されないが、1〜48時間が好ましく、より好ましくは1〜24時間、さらに好ましくは2〜12時間である。上記浸漬時間を1時間以上とすることにより、金属触媒の除去効果、カーボンナノチューブ表面の改質効果をより一層得られやすい。また、48時間以下とすることにより、カーボンナノチューブの構造破壊が抑制されるため好ましい。なお、浸漬温度は、特に限定されないが、20〜80℃が好ましい。
上記CNT精製工程は、カーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬する段階以外の段階を含んでもよい。例えば、濾過段階、中和段階、洗浄段階、乾燥段階、クロマトグラフィーにより分離する段階、超音波を照射する段階が挙げられる。
上記濾過段階は、例えば、上記カーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬する段階を経て得られたカーボンナノチューブ組成物を濾過する段階である。濾過方法としては、公知の濾過方法を用いることができ、例えば、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過、クロスフロー濾過などが挙げられる。
上記中和段階は、カーボンナノチューブの表面に付着した酸を中和する段階であり、例えば、上記濾過段階で濾過されたカーボンナノチューブを中和する段階である。上記中和段階で用いる中和剤としては、公知の中和剤を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
上記洗浄段階は、カーボンナノチューブを洗浄する段階であり、例えば、上記中和段階で中和されたカーボンナノチューブまたは上記濾過段階で濾過されたカーボンナノチューブを洗浄する段階である。洗浄方法としては、公知の洗浄方法を用いることができ、例えば、純水による洗浄等が挙げられる。
上記乾燥段階は、カーボンナノチューブを乾燥する段階であり、例えば、上記洗浄段階で洗浄されたカーボンナノチューブを乾燥する段階である。乾燥方法としては、公知の乾燥方法を用いることができ、例えば、熱風乾燥機による乾燥、自然乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。乾燥温度は、特に限定されないが、20〜100℃が好ましい。また、乾燥時間は、特に限定されないが、1〜48時間が好ましい。
上記クロマトグラフィーにより分離する段階は、クロマトグラフィーによりカーボンナノチューブを分離して特定の成分を採取する段階である。特に、クロマトグラフィーにより、クロマトグラフィー処理前のカーボンナノチューブより、2以上のカーボンナノチューブが集合(凝集)した集合物(凝集物)を除去することが好ましい。さらに特定範囲の長さのカーボンナノチューブを採取することが好ましい。なお、上記2以上のカーボンナノチューブが集合した集合物としては、例えば、2以上のカーボンナノチューブが束状(バンドル状)に集合した集合物(束状集合物)や、2以上のカーボンナノチューブが塊状に集合した集合物(塊状集合物)が挙げられる。上記束状集合物は、紡糸原液のTIを低下させる場合やビニロン繊維及びカーボンナノチューブ集合体中のカーボンナノチューブの配向性を低下させる場合があり、上記塊状集合物は、紡糸過程でフィルター詰まりなどの悪影響を及ぼす場合がある。上記クロマトグラフィーによりカーボンナノチューブを分離する方法としては、特開2011−230952号公報に記載された長尺CNTの単離分散液の製造方法を用いることが好ましい。
上記クロマトグラフィーは、カラムクロマトグラフィーが好ましい。カラムクロマトグラフィーにより分離する方法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、カーボンナノチューブと水とを混合し、カーボンナノチューブを分散させてカーボンナノチューブ分散液を作製する。次いで、所定の粒径範囲のガラスビーズを固定相として充填したカラム中に、上記カーボンナノチューブ分散液を移動相として展開する。さらに、カラム中を透過した透過液(流出液)を一定量ずつ分取する。分取した透過液から、特定の長さの独立したカーボンナノチューブに対応する透過液を採取する。なお、本明細書では、他のカーボンナノチューブと集合(凝集)して集合物を形成しておらず、独立して1本のカーボンナノチューブの状態で存在しているカーボンナノチューブを「独立したカーボンナノチューブ」と称する場合がある。
上記カーボンナノチューブ分散液は、界面活性剤等の分散剤を含んでもよい。また、カーボンナノチューブを分散させてカーボンナノチューブ分散液を作製する際には、例えば、バス式超音波分散機、バス式超音波洗浄機、超音波ホモジナイザー、圧力式ホモジナイザー、回転式ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル等の分散装置を用いることが好ましい。
上記ガラスビーズの粒径は、特に限定されないが、長尺のカーボンナノチューブと短尺のカーボンナノチューブの分離や塊状集合物、束状集合物の分離の観点から、0.05〜5mmが好ましく、より好ましくは0.05〜2mm、さらに好ましくは0.10〜0.13mmである。即ち、上記クロマトグラフィーは、粒径0.05〜5mmのガラスビーズを固定相とするカラムクロマトグラフィーが好ましい。
上記クロマトグラフィーにより分離する段階は、カーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬する段階、及び必要に応じて設けられる濾過段階、中和段階、洗浄段階、乾燥段階の後に設けられることが好ましい。また、上記クロマトグラフィーにより分離する段階の後に、さらに濾過段階、乾燥段階を設けてもよい。
上記CNT精製工程により、カーボンナノチューブ(B)が得られる。カーボンナノチューブ(B)は、例えば、乾燥状態(例えば、粉末などの状態)で得られてもよく、水分散液の状態で得られてもよい。
上記CNT精製工程では、CNT作製工程で得られたカーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬すること(「酸処理」と称する場合がある)により、カーボンナノチューブ(A)に付着している触媒(金属触媒)を溶解させる。また、上記酸処理により、カーボンナノチューブ(A)中の束状集合物等の集合物がバラバラになり、独立したカーボンナノチューブとなる。さらに、上記酸処理により、カーボンナノチューブの表面が親水性に改質され、水やポリビニルアルコール系重合体に対する親和性が高まり、水やポリビニルアルコール系重合体の中での分散性が向上する。上記効果により、上記CNT精製工程で得られたカーボンナノチューブ(B)は、2以上のカーボンナノチューブが集合した集合物(特に束状集合物)の含有割合が少なく、紡糸原液のTIを制御する観点で好ましい。また、紡糸過程で配向しやすくなり、ビニロン繊維及びカーボンナノチューブ集合体中のカーボンナノチューブの配向性が向上するため好ましい。
上記酸処理に加え、上記CNT精製工程では、濾過段階、中和段階、洗浄段階、乾燥段階等により、カーボンナノチューブより不純物を除去することが好ましい。さらに、クロマトグラフィーにより分離する段階、超音波を照射する段階からなる群より選ばれた少なくとも1の段階を設けることにより、カーボンナノチューブ中の集合物をより一層低減し、独立したカーボンナノチューブを増やすことができるためより好ましい。
[本発明の紡糸原液の好ましい製造方法]
本発明のビニロン繊維の製造方法及び本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法に用いる、本発明の紡糸原液の好ましい製造方法を以下に記載する。ただし、本発明は以下の記載により限定されない。なお、以下の本発明の紡糸原液の好ましい製造方法により得られる本発明の紡糸原液を「紡糸原液(C)」と称する場合がある。また、「本発明の紡糸原液の好ましい製造方法」を「紡糸原液(C)の製造方法」と称する場合がある。
本発明の紡糸原液は、カーボンナノチューブ(紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ)として上記カーボンナノチューブ(B)を用いることが好ましい。即ち、紡糸原液(C)の製造方法(本発明の紡糸原液の好ましい製造方法)は、上記カーボンナノチューブ(B)とポリビニルアルコール系重合体と水とを混合する段階を少なくとも含む。紡糸原液(C)の製造方法は、さらに、カーボンナノチューブ(B)とポリビニルアルコール系重合体と水とを混合する段階以外の段階を含んでもよい。
(カーボンナノチューブ(B)とポリビニルアルコール系重合体と水とを混合する段階)
上記カーボンナノチューブ(B)とポリビニルアルコール系重合体と水とを混合する段階においては、カーボンナノチューブ(B)とポリビニルアルコール系重合体と水とを少なくとも含む混合液が得られればよい。上記混合液は、界面活性剤等の分散剤を含有してもよい。上記界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
上記の混合には、回転式ホモジナイザー、遊星式攪拌機(自転・公転ミキサー)等を用いることが好ましい。
カーボンナノチューブ(B)とポリビニルアルコール系重合体と水とを混合する方法としては、例えば、カーボンナノチューブ(B)とポリビニルアルコール系重合体と水とを一時に混合する方法;カーボンナノチューブ(B)をポリビニルアルコール系重合体の水溶液に混合する方法;カーボンナノチューブ(B)の水分散液とポリビニルアルコール系重合体の水溶液を混合する方法などが挙げられる。上記CNT精製工程により、カーボンナノチューブ(B)が水分散液の状態で得られた場合には、該水分散液を上記カーボンナノチューブ(B)の水分散液として用いてもよい。
上記の中でも、カーボンナノチューブ(B)の分散性を向上させる観点から、カーボンナノチューブ(B)の水分散液とポリビニルアルコール系重合体の水溶液を混合する方法が好ましい。ポリビニルアルコール系重合体の水溶液は比較的粘度が高いため、ポリビニルアルコール系重合体の水溶液に直接カーボンナノチューブ(B)を添加、混合すると、混合液中のカーボンナノチューブ(B)の分散性が低下する場合がある。このため、一旦、カーボンナノチューブ(B)の水分散液を作製した後に、該水分散液とポリビニルアルコール系重合体の水溶液を混合することにより、混合液中のカーボンナノチューブ(B)の分散性が向上するため好ましい。なお、上記カーボンナノチューブ(B)の水分散液は、少量のポリビニルアルコール系重合体を含有してもよい。少量のポリビニルアルコール系重合体は、界面活性剤として、水分散液中のカーボンナノチューブ(B)の分散性を向上させる効果を有する。
より詳しくは、上記カーボンナノチューブ(B)とポリビニルアルコール系重合体と水とを混合する段階は、カーボンナノチューブ(B)及びポリビニルアルコール系重合体(PVA1)を含有し、上記ポリビニルアルコール系重合体(PVA1)の濃度が0.1〜10重量%である水分散液(c1)と、ポリビニルアルコール系重合体(PVA2)を含有し、上記ポリビニルアルコール系重合体(PVA2)の濃度が0.1〜20重量%である水溶液(c2)とを混合する段階であることが好ましい。上記ポリビニルアルコール系重合体(PVA1)とポリビニルアルコール系重合体(PVA2)とは、同一でもよく、互いに異なっていてもよい。
上記水分散液(c1)100重量%中の、ポリビニルアルコール系重合体(PVA1)の濃度は0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。上記濃度を0.1重量%以上とすることにより、ポリビニルアルコール系重合体(PVA1)の界面活性剤としての効果が効果的に発揮され、カーボンナノチューブ(B)の分散性が向上するため好ましい。また、上記濃度を10重量%以下とすることにより、水分散液(c1)の粘度が低く維持され、粘度増加によるカーボンナノチューブ(B)の分散性の低下を抑制できるため好ましい。上記水分散液(c1)においては、ポリビニルアルコール系重合体(PVA1)を界面活性剤として用いることにより、ポリビニルアルコール系重合体以外の界面活性剤を用いなくてもよい。これにより、ビニロン繊維中の、カーボンナノチューブ(B)及びポリビニルアルコール系重合体以外の添加成分を低減でき、添加成分による悪影響を抑制できるため好ましい。
上記水分散液(c1)100重量%中の、カーボンナノチューブ(B)の濃度は、特に限定されないが、カーボンナノチューブ(B)の分散性の観点や、紡糸原液(C)中のカーボンナノチューブ(B)の濃度を好ましい範囲に制御する観点等から、0.001〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。
上記水溶液(c2)100重量%中の、ポリビニルアルコール系重合体(PVA2)の濃度は、紡糸原液(C)中のポリビニルアルコール系重合体の濃度を好ましい範囲に制御する等の観点から、0.1〜20重量%が好ましく、より好ましくは3〜15重量%、さらに好ましくは4〜12重量%である。
(濃度を調整する段階)
紡糸原液(C)の製造方法は、さらに、上記カーボンナノチューブ(B)とポリビニルアルコール系重合体と水とを少なくとも含む混合液の濃度を調整する段階を含んでもよい。上記の濃度を調整する方法としては、例えば、上記混合液中に含まれる水の一部を減圧留去する方法(減圧留去法)、混合液中に含まれる水の一部を加熱により除去する方法等が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコール系重合体の固化抑制の観点から、減圧留去法が好ましい。即ち、紡糸原液(C)の製造方法は、例えば、上記水分散液(c1)と上記水溶液(c2)とを混合して混合液(c3)を得る段階と、上記混合液(c3)中に含まれる水の一部を減圧留去する段階とを含んでもよい。減圧留去法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ロータリーエバポレーター、蒸留装置を用いた減圧留去法が挙げられる。
上記CNT作製工程及び上記CNT精製工程を経て得られたカーボンナノチューブ(B)を用いることにより、上記紡糸原液(C)は、2以上のカーボンナノチューブが集合した集合物の含有割合が少なく、上記紡糸原液(C)中のカーボンナノチューブのほとんどが独立したカーボンナノチューブの状態で分散している。さらに、カーボンナノチューブ(B)の水分散液を作製した後に、該水分散液とポリビニルアルコール系重合体の水溶液を混合する特定の混合方法を用いる場合には、紡糸原液(C)中のカーボンナノチューブの分散性をより一層向上させることができる。このため、上記紡糸原液(C)の製造方法は、紡糸原液のTIを制御する観点で好ましい。また、上記紡糸原液(C)を用いることにより、ビニロン繊維及びカーボンナノチューブ集合体中のカーボンナノチューブの配向性が向上するため好ましい。
上述のとおり、本発明のビニロン繊維の製造方法は、化学気相成長法のうち基板成長法によりカーボンナノチューブを合成する段階を含む、カーボンナノチューブ(A)を得る工程と、前記カーボンナノチューブ(A)を酸に浸漬する段階を含む、カーボンナノチューブ(B)を得る工程と、前記カーボンナノチューブ(B)とポリビニルアルコール系重合体と水とを混合する段階を含む、本発明の紡糸原液を得る工程と、本発明の紡糸原液を湿式紡糸により繊維化する段階を含む、本発明のビニロン繊維を得る工程とを含むことが好ましい。本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法は、さらに、本発明のビニロン繊維を焼成してカーボンナノチューブ集合体を得る工程を含むことが好ましい。
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
(CNT作製工程)
電子ビーム物理蒸着(EB−PVD)法を用いて、表面積約50mm2のシリコン基板上に、厚さ3nmのアルミニウム(Al)の薄膜を蒸着し、さらにその上に、厚さ2nmの鉄(Fe)の薄膜を蒸着して、シリコン基板/アルミニウム薄膜/鉄薄膜の構成を有する多層基板を作製した。
直径160mmの石英管中に、上記多層基板を置き、真空下で700℃まで加熱した。次いで、上記石英管中にアセチレンガスを、200Paの条件で流し、上記多層基板上で、カーボンナノチューブを合成した。
多層基板上に成長したカーボンナノチューブ[カーボンナノチューブ(A)に相当する]を多層基板より剥離、採取した。
(CNT精製工程)
上記で得られたカーボンナノチューブを、混酸[濃硫酸(濃度98%):濃硝酸(濃度60%、密度1.38g/cm3)=3:1(体積比)]中に2時間浸漬した。その後、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブレンフィルター(孔径:0.2μm)により濾過し、フィルターに捕集されたカーボンナノチューブを0.1モル/Lアンモニア水で中和し、純水で洗浄し、60℃、24時間の条件で乾燥した。
上記乾燥後のカーボンナノチューブ100mgと水100gとを混合し、分散装置として回転式ホモジナイザー(アズワン株式会社製、商品名「CM−100」)を用いて、1時間分散させ、CNT水分散液(1)を得た。
クロマトグラフィー用のカラム管(ホウケイ酸ガラス製、カラム長300mm、内径20mm)にガラスビーズ(ソーダガラス製、直径0.105〜0.125mm)と水とを高さ100mmとなるように充填し、カラムを作製した。次いで、上記CNT水分散液(1)10mlをカラムに展開した。さらに、カラム中を透過した透過液のうち、カラムからの流出開始後3ml〜5mlの間の透過液を分取した。次いで、上記のカラムからの流出開始後3ml〜5mlの間の透過液2mlに対し、ポリビニルアルコール系重合体20mgを混合し、溶解させて、CNT水分散液(2)を得た。
上記CNT水分散液(2)中のカーボンナノチューブの濃度は0.1重量%であった。
(紡糸原液の作製)
上記CNT水分散液(2)216gと、ポリビニルアルコール系重合体の水溶液(ポリビニルアルコール系重合体の濃度:4.8重量%)30gとを混合し、遊星式攪拌機(株式会社シンキー製、商品名「AR−100」)を用いて、攪拌、混合した。
さらに、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧留去法により、上記で得られた混合液の濃度調整を行い、紡糸原液[紡糸原液(C)に相当する]を得た。
上記紡糸原液のチキソトロピー指数(TI)は2.77、η10は22225mPa・s、η100 は8032mPa・sであった。また、上記紡糸原液中のカーボンナノチューブの含有量(濃度)は0.72重量%であり、ポリビニルアルコール系重合体の含有量(濃度)は12.0重量%であった。
上述のCNT作製工程、CNT精製工程、紡糸原液の作製工程を複数回行うことにより、約100gの紡糸原液を得た。なお、上記ポリビニルアルコール系重合体としては、株式会社クラレ製、商品名「クラレポバール PVA−117」(平均重合度1700、ケン化度98〜99モル%)を用いた。
(ビニロン繊維の作製)
95℃の上記紡糸原液を、ギヤポンプを用いて、口金(白金口金、孔の口径0.1mm、孔数250個)から、吐出量13.1g/分の条件で、42℃の飽和硫酸ナトリウム水溶液中に紡出し、繊維化した(工程速度4.5m/分)。
次いで、得られた繊維を水で洗浄、80℃で乾燥し、さらに、延伸温度200℃、延伸倍率7倍の条件で熱延伸して、カーボンナノチューブを含有するビニロン繊維を得た。
上記ビニロン繊維の平均繊度は1.6dtexであった。また、上記ビニロン繊維100重量%中のカーボンナノチューブの含有量は6重量%であった。
(線状カーボンナノチューブ集合体の作製)
長さ5cmに切断した上記ビニロン繊維1本を、シリコン基板上に置き、繊維の両端を接着剤で固定した。
次いで、上記で得られたビニロン繊維を固定した基板を、マッフル炉(ヤマト科学株式会社製、型式「FO100」)を用いて、400℃で2時間焼成し、カーボンナノチューブ集合体を得た。
上記カーボンナノチューブ集合体は、長さ5cm、幅10μm、厚さ0.7μmの線状であった。
(膜状カーボンナノチューブ集合体の作製)
長さ5cmに切断した上記ビニロン繊維250本を、シリコン基板上に、それぞれの繊維軸方向が同一の方向となるように、繊維軸方向と直交方向に並べ、それぞれの繊維の両端を接着剤で固定した。
次いで、上記で得られたビニロン繊維を固定した基板を、マッフル炉(ヤマト科学株式会社製、型式「FO100」)を用いて、400℃で2時間焼成し、カーボンナノチューブ集合体を得た。
上記カーボンナノチューブ集合体は、長さ5cm、幅3mm、厚さ0.7μmの膜状であった。
実施例2、実施例3、比較例1
「紡糸原液の作製」の工程における、ポリビニルアルコール系重合体の水溶液の濃度(ポリビニルアルコール系重合体の濃度)を4.8重量%から表1に示す量に変更し、さらに、ポリビニルアルコール系重合体の水溶液30gに対するCNT水分散液(2)の混合量を216gから表1に示す量に変更し、実施例1と同様にして、紡糸原液を得た。得られた紡糸原液のチキソトロピー指数(TI)、紡糸原液中のカーボンナノチューブの含有量(濃度)、ポリビニルアルコール系重合体の含有量(濃度)は、表1のとおりである。
さらに、得られた紡糸原液を用いて、実施例1と同様にして、カーボンナノチューブを含有するビニロン繊維を得た。
比較例2
ポリビニルアルコール系重合体の水溶液(ポリビニルアルコール系重合体の濃度:12.0重量%)を紡糸原液とし、実施例1と同様にして、ビニロン繊維(カーボンナノチューブを含有しないビニロン繊維)を得た。なお、上記ポリビニルアルコール系重合体は、株式会社クラレ製、商品名「クラレポバール PVA−117」(実施例1と同じ)である。
(評価)
実施例、比較例で得られた、カーボンナノチューブ、紡糸原液、CNT水分散液(2)、ビニロン繊維、カーボンナノチューブ集合体について、以下の評価を行った。
(1)紡糸原液のチキソトロピー指数(TI)、 η10、η100
実施例、比較例で得られたそれぞれの紡糸原液を評価サンプルとした。評価サンプルは、1時間静置した後に評価に用いた。
円すい−平板形回転粘度計(コーンプレート型粘度計)(ブルックフィールド社製、「HBDV−2+PRO」)を用い、温度25℃、せん断速度10(1/秒)の条件下で粘度を測定し、せん断速度10(1/秒)における粘度η10(単位:mPa・s)とした。また、同様にして、温度25℃、せん断速度100(1/秒)の条件下で粘度を測定し、せん断速度100(1/秒)における粘度η100(単位:mPa・s)とした。
せん断速度100(1/秒)における粘度η100に対する、せん断速度10(1/秒)における粘度η10の割合[=η10/η100]を求め、チキソトロピー指数(TI)とした。
(2)紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の束状集合物(束状凝集物)の割合
実施例1〜3、比較例1で得られた紡糸原液を、シリコン基板上に、塗布厚み4μmで塗布し、400℃で2時間焼成して、評価サンプルとした。電界放出走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「S−4300」)を用い、倍率5万倍で、視野面積4.4μm2を観察した。なお、1つの評価サンプルについて、20点で観察を行った。実施例1の紡糸原液より作製した評価サンプルを上記方法で観察した1例(SEM写真)を図17に示した。図17中の繊維状の物質がカーボンナノチューブである。
上記視野面積内のカーボンナノチューブの総個数を数えた。なお、2以上のカーボンナノチューブが集合した集合物(凝集物)については、集合物を1個として数えた。さらに、上記視野面積内の2以上のカーボンナノチューブが束状に集合した集合物(束状集合物)の個数を数えた。
上記カーボンナノチューブの総個数に対する上記束状集合物の個数の割合(%)[=(束状集合物の個数)/(カーボンナノチューブの総個数)×100]を算出し、紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の束状集合物の割合(%)とした。
(3)紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の長さ1〜10μmのカーボンナノチューブの割合
実施例1〜3、比較例1で得られたCNT水分散液(2)を、シリコン基板上に、塗布厚み4μmで塗布し、乾燥して、評価サンプルとした。電界放出走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「S−4300」)を用い、倍率5万倍で、視野面積4.4μm2を観察した。なお、1つの評価サンプルについて、4点で観察を行った。
上記視野面積内のカーボンナノチューブの総個数を数えた。さらに、上記視野面積内の長さ1〜10μmのカーボンナノチューブの個数を数えた。なお、2以上のカーボンナノチューブが集合した集合物(凝集物)は、個数の算出から除いた。
上記カーボンナノチューブの総個数に対する上記長さ1〜10μmのカーボンナノチューブの個数の割合(%)[=(長さ1〜10μmのカーボンナノチューブの個数)/(カーボンナノチューブの総個数)×100]を算出し、紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の長さ1〜10μmのカーボンナノチューブの割合(%)とした
(4)紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の直径が0.3〜40nmであるカーボンナノチューブの割合
実施例1〜3、比較例1で得られたCNT水分散液(2)中に、カーボンメッシュを浸漬して引き上げた後、乾燥して、評価サンプルとした。透過型電子顕微鏡(TEM)(FEI社製、「Tecnai 20 ST」)を用い、倍率285000倍で観察した。50個(50本)のカーボンナノチューブについて観察を行った。
上記カーボンナノチューブの直径を測定し、上記50個のカーボンナノチューブ中の、直径が0.3〜40nmであるカーボンナノチューブの個数を求めた。
観察対象であるカーボンナノチューブ総個数(50個)に対する直径が0.3〜40nmであるカーボンナノチューブの個数の割合(%)[=(直径が0.3〜40nmであるカーボンナノチューブの個数)/50個×100]を算出し、紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の直径が0.3〜40nmであるカーボンナノチューブの割合(%)とした。
(5)走査型電子顕微鏡(SEM)写真
株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「S−4300」を用いた。
(6)G/D比
実施例1〜3、比較例1のCNT精製工程で得られたカーボンナノチューブのG/D比を、以下の方法で測定した。
CNT精製工程で得られたカラムからの流出開始後3ml〜5mlの間の透過液(CNT水分散液(2)の作製に用いる透過液)を乾燥し、得られた粉末状のカーボンナノチューブを評価サンプルとした。
上記評価サンプルを、レニショー(RENISHAW)社製、レーザーラマンマイクロスコープ(Laser Raman microscope)を用いて、下記の条件で測定した。得られたスペクトルのGピーク(1580cm-1)とDピーク(1350cm-1)の強度比を求め、G/D比とした。
<測定条件>
励起光源:アルゴンレーザー(波長:514.5nm)
倍率:1200倍
測定スポット径:4μmφ
積算回数:5回
実施例1〜3、比較例1のCNT精製工程で得られたカーボンナノチューブのG/D比は、4.1であった。
(7)電気抵抗測定
実施例1で得られた線状カーボンナノチューブ集合体の電気抵抗を、以下の方法で測定した。
カーボンナノチューブ集合体上に、電極間距離10mmとなるように、2つの銀電極を取り付けた。上記電極に直流電源を取り付け、電圧を印加し、マルチメーターにより電流値を読み取った。なお、印加電圧は、0Vから150Vまで10V間隔で、測定を行った。得られた電圧と電流の関係から電気抵抗値を算出した。
実施例1で得られた線状カーボンナノチューブ集合体の電気抵抗値は、44.4kΩ/cm、体積抵抗率は3.11×10-3Ω・cmであった。
(8)抵抗加熱による温度上昇測定
実施例1で得られた線状カーボンナノチューブ集合体の抵抗加熱による温度上昇を、以下の方法で測定した。なお、線状カーボンナノチューブ集合体の作製の工程で、シリコン基板のかわりにホウケイ酸ガラス基板を用いて、ホウケイ酸ガラス基板上に線状カーボンナノチューブ集合体を作製して測定に用いた。測定に用いたホウケイ酸ガラス基板のサイズは、長さ75mm、幅75mm、厚さ0.7mmである。
図18に示すように、ホウケイ酸ガラス基板13上に作製したカーボンナノチューブ集合体11に、電極間距離10mmとなるように、2つの銀電極12を取り付けた。上記電極間の中間部分(片側の銀電極から約5mmの位置)であり、かつカーボンナノチューブ集合体11から0.5mm離れた位置の基板13上に、K熱電対15及び温度モニター16を取り付けた。電極12に直流電源14を取り付け150Vの電圧を印加し、上記K熱電対15により温度を測定した。なお、電圧を印加する前の基板温度及び雰囲気温度は23℃であった。
150Vの電圧を印加した際の電流値は3.38mAであった。150Vの電圧を印加して10秒後のK熱電対により測定した温度は83.3℃であった。また、150Vの電圧を印加して20秒後のK熱電対により測定した温度は105.6℃であった。さらに、150Vの電圧を印加して100秒後のK熱電対により測定した温度は133.2℃であった。なお、100秒後には温度は既に平衡に達していた。
実施例、比較例における、紡糸原液のチキソトロピー指数(TI)、粘度(η10及びη100);紡糸原液中のカーボンナノチューブの含有量(濃度)、ポリビニルアルコール系重合体の含有量(濃度);紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、束状集合物(束状凝集物)の割合、長さ1〜10μmのカーボンナノチューブの割合、直径が0.3〜40nmであるカーボンナノチューブの割合;得られたビニロン繊維の断面形状を表1に示した。
実施例1で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の断面写真(低倍率、高倍率)を図1、2に、表面写真を図3に示した。図2中に白い点状にみえるものがカーボンナノチューブである。実施例2で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の断面写真を図4に、表面写真を図5に示した。実施例3で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の断面写真を図6に、表面写真を図7に示した。比較例1で得られたカーボンナノチューブを含有するビニロン繊維の断面写真を図8に、表面写真を図9に示した。比較例2で得られたビニロン繊維の断面写真を図10に、表面写真を図11に示した。
本発明のビニロン繊維の製造方法により製造したビニロン繊維(実施例)は、繊維の表面に凹凸を有しており、のこぎり状の断面形状を有していた。一方、チキソトロピー指数(TI)の低い紡糸原液を用いて製造したビニロン繊維(比較例)は、繊維の表面が滑らかであり、U形扁平状の断面形状を有しており、一般的なビニロン繊維の表面形状及び断面形状であった。
さらに、実施例1で得られた線状カーボンナノチューブ集合体のSEM写真を図12、13に、膜状カーボンナノチューブ集合体のSEM写真を図14、15に示した。なお、図12、13においては写真の右下から左上への対角線方向がビニロン繊維の繊維軸方向であり、図14、15においては写真の横方向がビニロン繊維の繊維軸方向である。上記カーボンナノチューブ集合体においては、該集合体を構成するカーボンナノチューブが、ビニロン繊維の繊維軸方向に優れた配向性を有していた。さらに、線状カーボンナノチューブ集合体の断面のSEM写真を図16に示した。
本発明のビニロン繊維は、セメントの強化用繊維等として有用である。また、本発明のカーボンナノチューブ集合体は、電極、配線、ヒーター線、ヒートシンク(異方熱伝導性ヒートシンク等)、偏光材料等として有用である。
11 カーボンナノチューブ集合体
12 銀電極
13 ホウケイ酸ガラス基板
14 直流(DC)電源
15 K熱電対
16 温度モニター

Claims (10)

  1. ポリビニルアルコール系重合体、カーボンナノチューブ及び水を含有し、円すい−平板形回転粘度計により温度25℃の条件において測定される、せん断速度100(1/秒)における粘度に対するせん断速度10(1/秒)における粘度の割合であるチキソトロピー指数(TI)が2.1〜3.0である紡糸原液を、湿式紡糸により繊維化する段階を含むことを特徴とするビニロン繊維の製造方法。
  2. 前記紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、2以上のカーボンナノチューブが束状に集合した集合物の割合が10%以下である請求項1に記載のビニロン繊維の製造方法。
  3. 前記紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、直径が0.3〜40nmであるカーボンナノチューブの割合が80〜100%である請求項1または2に記載のビニロン繊維の製造方法。
  4. 前記紡糸原液中の全てのカーボンナノチューブ100%中の、長さ1〜10μmのカーボンナノチューブの割合が80〜100%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のビニロン繊維の製造方法。
  5. 前記紡糸原液100重量%中の前記ポリビニルアルコール系重合体の含有量が6〜13重量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載のビニロン繊維の製造方法。
  6. 前記紡糸原液100重量%中の全てのカーボンナノチューブの含有量が0.3〜0.8重量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載のビニロン繊維の製造方法。
  7. 前記紡糸原液を、口金から吐出量1〜50g/分で凝固液中に吐出して繊維化する請求項1〜6のいずれか1項に記載のビニロン繊維の製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載のビニロン繊維の製造方法によりビニロン繊維を得る工程と、前記ビニロン繊維を焼成してカーボンナノチューブ集合体を得る工程とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
  9. 請求項1〜7のいずれか1項に記載のビニロン繊維の製造方法により製造されたビニロン繊維。
  10. 請求項8に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法により製造されたカーボンナノチューブ集合体。
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