JP2013146757A - アルミニウム合金ブレージングシートとその製造方法、およびアルミニウム製熱交換器のろう付け方法 - Google Patents
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Abstract
【目的】Mgを含有するアルミニウム合金を心材とし、フラックスを用いることなく、不活性ガス雰囲気中でろう付けすることを可能とするアルミニウム合金ブレージングシートを提供する。
【構成】アルミニウム合金心材の片面または両面に、Al−Si系アルミニウム合金ろう材を、アルミニウム合金の中間材を介してクラッドしてなり、心材が0.1〜1.3%のMgを含むアルミニウム合金、ろう材がSi:6〜13%を含むAl−Si系アルミニウム合金、中間材がSi:6%未満を含むアルミニウム合金で、ろう材と中間材の界面には、CsFを5〜60モル%含み、残部K−Al−F系化合物からなるCs含有弗化物フラックスが内包しており、該フラックスの一部または全部は溶融した後に凝固したものであり、心材に含まれるMg量をx(%)、中間材の厚さをy(mm)としたときに、心材に含まれるMg量と中間材の厚さの関係が下記の式を満足することを特徴とする。
y(mm)≧0.007ln(x)+0.018 但し、lnは自然対数を表す。
【選択図】なし
【構成】アルミニウム合金心材の片面または両面に、Al−Si系アルミニウム合金ろう材を、アルミニウム合金の中間材を介してクラッドしてなり、心材が0.1〜1.3%のMgを含むアルミニウム合金、ろう材がSi:6〜13%を含むAl−Si系アルミニウム合金、中間材がSi:6%未満を含むアルミニウム合金で、ろう材と中間材の界面には、CsFを5〜60モル%含み、残部K−Al−F系化合物からなるCs含有弗化物フラックスが内包しており、該フラックスの一部または全部は溶融した後に凝固したものであり、心材に含まれるMg量をx(%)、中間材の厚さをy(mm)としたときに、心材に含まれるMg量と中間材の厚さの関係が下記の式を満足することを特徴とする。
y(mm)≧0.007ln(x)+0.018 但し、lnは自然対数を表す。
【選択図】なし
Description
本発明は、アルミニウム合金ブレージングシート、詳しくは、ろう付け加熱の際にフラックスを塗布することなしに、ろう付けを可能とするアルミニウム合金ブレージングシートとその製造方法、および当該アルミニウム合金ブレージングシートを組み付けたアルミニウム製熱交換器のろう付け方法に関する。
現在、自動車用熱交換器の多くはAl−Mn系心材にAl−Si系ろう材をクラッドしてなるブレージングシートにK−Al−F系化合物からなる弗化物フラックス、いわゆるノコロックフラックスを塗布し、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気炉で加熱することによってろう付け接合されている。しかしながら、近年の自動車部品の電子化に伴い、一部の熱交換器においては、ろう付け後のフラックス残渣が表面処理性を阻害するなどの問題が指摘されており、また、高性能化のために冷媒通路を微細にした熱交換器においては、フラックス残渣が冷媒通路を閉塞させ、熱交換性能が大幅に低下するという問題も生じている。
このような問題を解決するために、フラックスを塗布することなしにろう付けする技術が求められている。フラックスを塗布することなしにろう付けする技術としては、従来、Al−Si−Mg系ろう材を用い、真空炉中で加熱することによりろう付け接合する真空ろう付け法があり、真空ろう付け法によれば、完全にフラックス無しでの接合が可能であるが、ろう付け設備費が高価であり、Mg清掃やポンプ・計器類のメンテナンスにも費用がかかり、輻射加熱に頼っているため不活性ガス炉でのろう付けに比べて生産性も劣るという難点がある。
電子部品や冷媒通路が狭い精密なろう付け品に対しては、完全にフラックス無しで接合する以外に、フラックスの使用量を問題のないレベルにまで低減することでもよいが、従来のブレージングシートでは、一般的なろう付け環境においてフラックスの塗布量が3g/m2を下まわるとろう付け性が急激に低下する。これは単にフラックス量が少なくなることに加え、ろう付け加熱中に雰囲気中に微量に含まれる酸素がフラックスと反応して酸化するためフラックスとしての機能が劣化してしまうことが原因と考えられている。また、このような酸化劣化によるフラックス機能の低下は、特に低い温度から溶融するCsFを配合したフラックスやCs系フラックスではさらに顕著となり、Csを含むような低融点フラックスは炉中ろう付けでは使用し難いという問題がある。
ろう付け加熱中にフラックスの酸化による劣化を生じさせないために、ブレージングシートにフラックスを封入することが試みられ、その手法として、フラックスを封入したアルミニウム合金材からなるフラックス封入部材を、ろう材と心材との界面またはろう材の表面に配置する方法(特許文献1)、アルミニウム合金からなるスペーサによって区画形成される空間部分に粉末状フラックスを充填し、その全体を熱間圧延してアルミニウム合金板およびスペーサを熱間圧着すると同時に、内部の粉末状フラックスを圧粉して固形化する方法(特許文献2)が提案されている。
しかしながら、いずれの方法においてもフラックスが障壁となって熱間圧延性が阻害されると共に、熱間圧延時にフラックスが装置の周辺に飛散して装置を汚染するという問題や、他の圧延材料へ混入するおそれがあるため、工業的には実現が困難である。また、アルミニウム箔にフラックスを包み込んで形成したフラックス含有線材を、心材とろう材の層間に配設し、この積層物を圧延してアルミニウムろう付け用ブレージングシートを製造する方法(特許文献3)も提案されているが、熱間圧延性の確保とフラックスの飛散という課題は解決できていない。
一方、近年、熱交換器においては、省スペース、耐高温特性、耐圧等の観点から、熱交換器を構成するアルミニウム部材について、ろう付け後の引張強さが200MPa以上、場合によっては240MPa程度の引張強さを有する材料が望まれている。このような高強度の材料を得るためには、Mg添加が効果的であるが、Mgを添加したアルミニウム部材を、ノコロックフラックスを用いてろう付け加熱すると、フラックスとMgが反応してKMgF3やK3AlF3等を生じてしまい、有効なフラックス機能が低下する。そのため、材料中へのMg含有量が0.3%を超えると、一般のノコロックフラックスではろう付けが困難となっていた。
Mgを含有したアルミニウム合金のろう付けに対応するため、Csを含む弗化物フラックス、Cs−Al−F系またはCs−K−Al−F系フラックスを使用することができるが、これらCsを含む弗化物フラックスは、一般のノコロックフラックスと比べてきわめて高コストであり、さらに溶融開始温度が低いため、不活性ガス中で加熱しても酸化消耗し易いという問題がある。このため、Mgを含有するアルミニウム材を不活性ガス中でろう付けするには、Csを含む弗化物フラックスを多量に塗布する必要があり、コスト面できわめて不利となる。フラックスを多量に塗布すると、ろう付け後にフラックス残渣が多く残るため、特に電子部品を含むあるいは電子部品に近接する熱交換器においては、品質的に重大な問題がある。
本発明は、Mgを添加したアルミニウム部材を弗化物フラックスでろう付けするための手法について、種々の試験、検討を行った結果としてなされたものであり、その目的は、Mgを含有するアルミニウム合金を心材とし、多量のフラックスを用いることなく、不活性ガス雰囲気中でろう付けすることを可能とするアルミニウム合金ブレージングシートとその製造方法、および当該ブレージングシートを組み込んだアルミニウム製熱交換器のろう付け方法を提供することにある。
上記の目的を達成するための請求項1によるアルミニウム合金ブレージングシートは、アルミニウム合金心材(以下、心材)の片面または両面に、Al−Si系アルミニウム合金ろう材(以下、ろう材)を、アルミニウム合金の中間材(以下、中間材)を介してクラッドしてなり、不活性ガス雰囲気中でフラックスを塗布することなしに加熱することによりろう付け接合される熱交換器に用いられるブレージングシートであって、心材が0.1〜1.3%(質量%、以下同じ)のMgを含むアルミニウム合金、ろう材がSi:6〜13%を含むAl−Si系アルミニウム合金、中間材がSi:6%未満を含むアルミニウム合金で、ろう材と中間材の界面には、CsFを5〜60モル%含み、残部K−Al−F系化合物からなるCs含有弗化物フラックスが内包しており、該フラックスの一部または全部は溶融した後に凝固したものであり、心材に含まれるMg量をx(%)、中間材の厚さをy(mm)としたときに、心材に含まれるMg量と中間材の厚さの関係が下記の式を満足することを特徴とする。
y(mm)≧0.007ln(x)+0.018 但し、lnは自然対数を表す。
y(mm)≧0.007ln(x)+0.018 但し、lnは自然対数を表す。
請求項2によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1において、前記ろう材および前記中間材のMg含有量がいずれも0.05%以下に制限され、ろう材と中間材の界面に内包される前記Cs含有弗化物フラックスの量が0.5g/m2以上2.0g/m2以下であることを特徴とする。
請求項3によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1において、前記ろう材と前記中間材の界面には弗化物フラックスが内包しており、該フラックスの一部または全部は溶融した後に凝固したものであり、心材に含まれるMg量をx(%)、中間材の厚さをy(mm)としたときに、心材に含まれるMg量と中間材の厚さの関係が下記の式を満足することを特徴とする。
y(mm)≧0.007ln(x)+0.024 但し、lnは自然対数を表す。
y(mm)≧0.007ln(x)+0.024 但し、lnは自然対数を表す。
請求項4によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項3において、前記ろう材および前記中間材のMg含有量がいずれも0.05%以下に制限され、ろう材と中間材の界面に内包される前記弗化物フラックスの量が0.5g/m2以上2.0g/m2以下であることを特徴とする。
請求項5によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記ろう材および前記中間材のいずれか一方または両方に、さらにZn:0.5〜10%、Cu:0.2〜3.0%のうちの1種または2種を含有することを特徴とする。
請求項6によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1、2および5のいずれかにおいて、前記ろう材と中間材の界面には、前記Cs含有弗化物フラックスと共に、固相線温度が565℃以下の金属が内包しており、該フラックスおよび金属の一部または全部は溶融した後に凝固したものであることを特徴とする。
請求項7によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項3、4および5のいずれかにおいて、前記ろう材と中間材の界面には、前記弗化物フラックスと共に、固相線温度が565℃以下の金属が内包しており、該フラックスおよび金属の一部または全部は溶融した後に凝固したものであることを特徴とする。
請求項8によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1〜7のいずれかにおいて、前記中間材と前記心材の界面に、Cs含有弗化物フラックス、またはCs含有弗化物フラックスと共に固相線温度が565℃以下の金属が内包しており、フラックス、またはフラックスと金属の一部または全部は溶融した後に凝固したものであることを特徴とする。
請求項9によるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、請求項1〜5および8のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートを製造する方法であって、クラッド構成材として心材、中間材およびろう材を積層し、前記界面に、Cs含有弗化物フラックスまたは弗化物フラックスを内包させ、熱間クラッド圧延するに際し、熱間クラッド圧延に先だって、積層されたクラッド構成材を加圧しながら加熱して接合することを特徴とする。
請求項10によるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、請求項6、7および8のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートを製造する方法であって、クラッド構成材として心材、中間材およびろう材を積層し、前記界面に、Cs含有弗化物フラックスまたは弗化物フラックスと共に、固相線温度が565℃以下の金属を内包させ、熱間クラッド圧延するに際し、熱間クラッド圧延に先だって、積層されたクラッド構成材を加圧しながら加熱して接合することを特徴とする。
請求項11によるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、請求項9または10において、前記クラッド構成材としての心材、中間材およびろう材を積層するに際し、前記界面に凹部を設けて、該凹部に前記フラックス、またはフラックスと共に前記金属を内包させ、積層されたクラッド構成材を加圧、加熱することにより、フラックス、またはフラックスと金属の一部または全部を溶融させて接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする。
請求項12によるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、請求項9〜11のいずれかにおいて、前記フラックス、またはフラックスと金属を挟持する界面の周囲を囲むようにフラックス流出防止部材を設けることを特徴とする。
請求項13によるアルミニウム製熱交換器のろう付け方法は、請求項1〜8のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートで、前記界面に内包する前記Cs含有弗化物フラックスまたは弗化物フラックスの量を0.8g/m2以下としたものを組み付けて、不活性ガス雰囲気中でフラックスを塗布することなしに、450℃から590℃までの昇温時間を4分以内とする加熱を行うことを特徴とする。
本発明によれば、Mgを含有するアルミニウム合金を心材とし、多量のフラックスを用いることなく、不活性ガス雰囲気中でろう付けすることを可能とするアルミニウム合金ブレージングシートとその製造方法、および当該ブレージングシートを組み込んだアルミニウム製熱交換器のろう付け方法が提供される。
本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの第1の実施形態は、心材の片面または両面に、ろう材を、中間材を介してクラッドしてなり、心材が0.1〜1.3%のMgを含むアルミニウム合金、ろう材がSi:6〜13%を含むAl−Si系アルミニウム合金、中間材がSi:6%未満を含むアルミニウム合金で、ろう材と中間材の界面には、CsFを5〜60モル%含み、残部K−Al−F系化合物からなるCs含有弗化物フラックスが内包しており、該フラックスの一部または全部は溶融した後に凝固したものとし、心材に含まれるMg量をx(%)、中間材の厚さをy(mm)としたとき、心材に含まれるMg量と中間材の厚さの関係を、y(mm)≧0.007ln(x)+0.018(lnは自然対数を表す)とすることである(請求項1)。
心材としては、0.1〜1.3%のMgを含有するAl−Mn系アルミニウム合金が用いられる。このAl−Mn系アルミニウム合金としては、さらにCu、Si、Fe、Cr、Zn、Ti、Zrなどを添加したA3003、A3203、A3004などのAl−Mn系アルミニウム合金をベースとすることができる。Mgが0.1%未満では、ろう付け後の引張強さが115MPaに満たないため、Mg無添加材との強度差が乏しく、1.3%を超えると、ろう付け性が劣り、後述する間隙充填試験において、間隙充填長さが25mmに満たなくなる。
ろう材としては、Si:6〜13%を含有するAl−Si合金、さらにZn:0.5〜10%、Cu:0.2〜3.0%のうちの1種または2種を含有させたAl−Si系合金を用いることができ、Zn、Cuの添加により、ろう材の融点が低下するため、熱間圧延前の加熱でろう材と心材が接合し易くなる。10%を超えるZn、3.0%を超えるCuの含有は、耐食性が低下するため好ましくない。その他の添加成分を少量含むAl−Si系合金を用いることも可能である。Siの含有量が6%未満ではろうの流動性が低下し、十分な接合ができなくなる。13%を超えると粗大Si粒が形成され、溶融したろうが心材や他の部材を溶融するため好ましくない。
中間材としては、Si:6%未満を含有し、さらにZn:0.5〜10%、Cu:0.2〜3.0%のうちの1種または2種を含有し得るアルミニウムを用いることができる(請求項5)。Zn、Cuの添加により、中間材の融点が低下するため、熱間圧延前の加熱でろう材と心材が接合し易くなる。10%を超えるZn、3.0%を超えるCuの含有は、耐食性が低下するため好ましくない。Si:6%以上では、ろう付け時に過度に溶融して中間層としての役目を果たさなくなる。
前記の構成において、優れたフィレット形成能を得るためには、ろう材および中間材のMg含有量をいずれも0.05%以下に制限し、ろう材と中間材の界面に内包されるCs含有弗化物フラックスの量を0.5g/m2以上2.0g/m2以下とするのが好ましい(請求項2)。
本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの第2の実施形態は、ろう材と中間材の界面には弗化物フラックスが内包しており、該フラックスの一部または全部は溶融した後に凝固したものとし、心材に含まれるMg量をx(%)、中間材の厚さをy(mm)としたとき、心材に含まれるMg量と中間材の厚さの関係を、y(mm)≧0.007ln(x)+0.024(lnは自然対数を表す)とすることである(請求項3)。
この場合、心材としては、0.05%を超え1.3%以下のMgを含有するAl−Mn系アルミニウム合金が用いられる。このAl−Mn系アルミニウム合金としては、さらにCu、Si、Fe、Cr、Zn、Ti、Zrなどを添加したA3003、A3203、A3004などのAl−Mn系アルミニウム合金をベースとすることができる。Mgが0.05%以下では、ろう付け後の引張強さが115MPaに満たないため、Mg無添加材との強度差が乏しく、1.3%を超えると、ろう付け性が劣り、後述する間隙充填試験において、間隙充填長さが25mmに満たなくなる。
上記の構成において、優れたフィレット形成能を得るためには、ろう材および中間材のMg含有量をいずれも0.05%以下に制限し、ろう材と中間材の界面に内包される前記弗化物フラックスの量を0.5g/m2以上2.0g/m2以下とするのが好ましい(請求項4)。
本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの第3の実施形態は、第1の実施形態において、前記ろう材と中間材の界面に、前記Cs含有弗化物フラックスと共に、固相線温度が565℃以下の金属が内包しており、該フラックスおよび金属の一部または全部は溶融した後に凝固したものとすることである(請求項6)。
本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの第4の実施形態は、第2の実施形態において、前記ろう材と中間材の界面には、前記弗化物フラックスと共に、固相線温度が565℃以下の金属が内包しており、該フラックスおよび金属の一部または全部は溶融した後に凝固したものとすることである(請求項7)。
また、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートにおいては、中間材と心材の界面にもCs含有弗化物フラックス、または該フラックスと共に固相線温度が565℃以下の金属を内包させ、フラックス、またはフラックスと金属の一部または全部は溶融した後に凝固したものとすることにより、より安定したろう付け性を得ることができる(請求項8)。
本発明の第一の特徴は、ブレージングシートにフラックスを内包させることにより、ろう付け加熱時の酸化劣化を防いでフラックス使用量を低減することにある。その効果は、一般の弗化物フラックスに比べて、CsF含有弗化物フラックスや、Cs−Al−F系、Cs−K−Al−F系フラックスにおいて顕著である。
第二の特徴は、ろう材と中間材の界面、さらには中間材と心材の界面にフラックスを未溶融のまま内包させるのではなく、界面に内包させたフラックスが、一部または全部が溶融した後に凝固したものである点にある。具体的な手法としては、熱間クラッド圧延前、ろう材、中間材および心材からなるクラッド構成材の界面にフラックスを封入し、均質化処理あるいは熱間圧延前の加熱処理を利用してフラックスの一部または全部を溶融させ、クラッド構成材を接合させた後、熱間クラッド圧延を行う。
上記クラッド構成材の接合により、熱間クラッド圧延時の皮剥がれなどの圧延不良が生じ難くなり、クラッド率や材料強度に制限されることなく自由な仕様のクラッド材を製造することが可能となる。さらにクラッド率の精度が安定し、膨れなどの表面欠陥も生じ難くなり、また、従来の熱間クラッド圧延において必ず行われていた積層された材料の界面周囲の溶接固定を省くことができるという利点もある。
第三の特徴について説明すると、フラックスをクラッド構成材の界面に内包させるため、熱交換器の製造におけるろう付け加熱の昇温工程で、フラックスが酸化劣化することがなく、ろう付け加熱により熱交換器の温度がフラックスの融点を超え、フラックスが再溶融して、フラックスとしての機能を十分に果たすことができる。再溶融したフラックスはアルミニウムよりも比重が軽いため、ろう材が溶融を開始すると、フラックスはろう材表面に浮上して酸化皮膜の破壊、剥離に寄与し、その後、冷却すると、材料表面に残留する余剰フラックスの量が通常のフラックス塗布の場合に比べて少なくなる。
従って、冷媒通路が微小であっても、フラックスの残渣が冷媒通路を塞いでしまうという不具合が生じ難くなる。また、フラックスを酸化劣化させることなく再溶融することにより、材料表面に塗布して使用するのに比べてフラックスの使用量を低減することができる。以上説明した第一〜第三の特徴により、Mgを含有する高強度心材をクラッドしたブレージングシートにより、低コストで且つ高品質の接合を実現することができる。
通常のフラックスろう付けにおいて、KF−AlF3を基本構成とするノコロックフラックスを用いる場合には、ろう付け加熱中にフラックスの酸化劣化が生じるため、熱交換器の外面側ではフラックスを3g/m2以上塗布することが必要であるが、本発明においては、フラックスを酸化劣化させずにクラッド構成材間に封じ込めることができるため、ろう付け加熱において、450℃から590℃までを4分以内で加熱した場合、中間材とろう材の界面に内包されるフラックス量を0.8g/m2以下としても良好なろう付け性が得られることが確認された。
以下、クラッド構成材の界面にフラックスを内包させる手法について説明する。クラッド構成材としてろう材、中間材および心材を積層し、ろう材と中間材の界面に、Cs含有弗化物フラックスあるいは弗化物フラックス、または該フラックスと共に固相線温度が565℃以下の金属を封入し、さらには必要に応じて中間材と心材の界面にCs含有弗化物フラックス、または該フラックスと共に固相線温度が565℃以下の金属を封入して、積層されたクラッド構成材を加圧しながら加熱して接合した後、熱間クラッド圧延する。
積層されるクラッド構成材の界面に、フラックスと共に、固相線温度が565℃以下の金属を封入して加熱溶融させることにより、クラッド構成材同士をより確実に接合させることができる。金属としては粉末や板材が好ましく、例えば、低融点のZn粉末、Al−Zn合金粉末、Al−Cu合金粉末、Al−Zn−Cu合金粉末、あるいは、Al−Zn合金板材、Al−Zn−Cu合金板材を適用することができる。これらの合金にSiを添加したものでもよい。また、純Cu粉末のように、Alと共晶融解を生じ、且つ565℃以下の共晶温度を有する金属を適用することもできる。封入する金属量としては3〜10g/m2が好ましい。
積層されたクラッド構成材の界面にフラックスを確実に封入するためには、ろう材と中間材の界面、中間材と心材の界面に凹部を設け、この凹部にフラックスを封入して積層するのが好ましい。凹部の形状としては、三角形、四角形、半円形など種々の形状のものとすることができ、連続した凹部でも、ディンプル状に独立した凹部でもよい。凹部の形成方法としては、切削加工やプレス成形、凸部が形成されたロールで圧下するなどの方法により形成するのが好ましい。
ろう材と中間材の界面、中間材と心材の界面の周囲を囲むようにフラックス流出防止部材を配設してもよい。フラックス流出防止部材としては、例えば、アルミニウムの押出形材からなるアルミニウム枠を用いることもできる。フラックス流出防止部材は、積層されたクラッド構成材と共に熱間圧延されるが、クラッド構成材の幅方向および長手方向の端部にのみ位置するため、圧延工程の途中で切り落されることとなり、材料の品質や歩留を損ねることはない。
前記のように、界面にフラックス、またはフラックスと金属を封入したクラッド構成材を加圧、加熱することにより、フラックス、またはフラックスと金属の一部または全部を溶融させて、クラッド構成材を接合した後、熱間クラッド圧延する。
この場合、積層したクラッド構成材を加熱しながらその全面を加圧することが接合を確実にする上で有効である。全面を加圧する方法としては、積層されたクラッド構成材の表面に耐熱ばねを挟んだ板状の冶具を乗せて加圧する方法、ボルトで固定する方法、積層されたクラッド構成材の上にアルミニウム製のスラブや鋼鈑などの重量物を乗せ、重量物の自重でクラッド構成材を加圧する方法、プレス機内で加圧しながら加熱する方法がある。溶融したフラックスが積層したクラッド構成材の側面から漏れるのを回避するために、加圧力は10×10−3MPa以下が好ましい。
本発明においては、積層されたクラッド構成材の界面に封入したフラックス、またはフラックスと金属を溶融させ、クラッド構成材を全面的あるいは部分的に接合させることを特徴とするものであるため、溶融、凝固したフラックスはクラッド構成材の界面に閉じ込められ、クラッド構成材の側面に一部流出したフラックスも凝固してクラッド構成材に密着するため、熱間クラッド圧延時の飛散を生じることはない。
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
実施例1、比較例1
心材の片面に、ろう材を、中間材を介してクラッドした片面ブレージングシートを、本発明に従う方法によって製造した。心材は、連続鋳造により造塊し、厚さ26mmまで面削して、縦175mm、横175mmの寸法に切断し、ろう材および中間材は、連続鋳造により造塊し、所定厚さまで熱間圧延した後、縦175mm、横175mmの寸法に切断した。ろう材、中間材および心材の組み合わせを表1〜2に示す。表1〜2において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
心材の片面に、ろう材を、中間材を介してクラッドした片面ブレージングシートを、本発明に従う方法によって製造した。心材は、連続鋳造により造塊し、厚さ26mmまで面削して、縦175mm、横175mmの寸法に切断し、ろう材および中間材は、連続鋳造により造塊し、所定厚さまで熱間圧延した後、縦175mm、横175mmの寸法に切断した。ろう材、中間材および心材の組み合わせを表1〜2に示す。表1〜2において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
熱間クラッド圧延に先立って、積層されるろう材と中間材の接合面、一部については、中間材と心材の接合面にも、フラックスをアルコールで溶いてスラリー状にしたものを塗布して材料を積層した。また、フラックスと共に固相線温度が565℃以下の低融点金属を封入して積層したものも準備した。積層したクラッド構成材を冶具に組み付け、耐熱性のスプリングで加圧し、大気炉に装入して、540℃まで50℃/hの昇温速度で昇温し、その後120℃/hの昇温速度で所定温度まで昇温して30分間保持し、その後、300℃まで炉内冷却した。熱間クラッド圧延前のフラックス封入条件を表3〜4に示す。表3〜4において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
フラックスが封入されたクラッド構成材は、ついで、熱間クラッド圧延、冷間圧延され、最終軟化処理して厚さ0.4mmのブレージングシートに仕上げた。得られたブレージングシートについて以下の方法により間隙充填性試験を行った。また、得られたブレージングシートを間隙充填試験片と同様に加熱処理した後、引張強さを測定し、115MPa以上を合格と評価した。ろう付け条件、ろう付け後の引張強さ、間隙充填長さを表5〜6に示す。
間隙充填試験:図1に示すように、脱脂処理したブレージングシートを水平材とし、3003合金板(厚さ1mm)を垂直材として組み付けて間隙充填試験片を構成した。内容積0.4m3の予熱室とろう付け室を備えた二室型炉からなる窒素ガス炉を使用し、間隙充填試験片をろう付け室に装入し、到達温度595℃でろう付け接合した。ろう付け条件は、窒素ガス炉の各室に20m3/hの窒素ガスを送り込み、450℃から590℃までを表3に示す条件で昇温した。加熱終了時のろう付け室の酸素濃度は16〜24ppmであった。ろう付け室にて間隙充填試験片の温度が595℃に到達したら間隙充填試験片を予熱室に移し、予熱室にて550℃まで冷却後、間隙充填試験片を取り出して大気中で冷却した。冷却後の間隙充填試験片より間隙充填長さを測定してフィレット形成能を評価した。間隙充填長さが25mm以上のものをフィレット形成能が良好と評価した。
表5〜6に示すように、本発明に従う試験材1〜14はいずれも、フラックスを塗布することなしにろう付けを行っても、フィレット形成能は良好であり、健全な接合部が形成された。試験材14においては、ろう付け後の間隙充填試験片にフラックスの残渣が観察されたが、実用上許容できるものと認められた。なお、試験材のうち、試験材6はフラックスを内包させるろう材と中間材の界面に溝加工により凹部を設けたものであり、試験材13はろう材と中間材の界面、中間材と心材の界面にアルミニウム形材からなるフラックス流出防止部材を設けたものである。
これに対して、弗化物フラックスを内包させたブレージングシートにおいては、試験材21はろう材のSi量が少ないため、間隙充填長さが短くフィレット形成能が劣っていた。試験材22はろう材のSi量が多いため、間隙充填試験において垂直材が過度に溶解した。試験材23はろう材のZn量が多いため、また試験材24はろう材のCu量が多いため、いずれも耐食性に問題があることが確認されている。
試験材25は関係式の値が小さいため、試験材26は中間材のMg量が多いため、間隙充填長さが短くフィレット形成能が劣っていた。試験材27は中間材のZn量が多いため、また試験材28は中間材のCu量が多いため、いずれも耐食性に問題があることが確認されている。試験材29は心材のMg量が多いため、間隙充填長さが短くフィレット形成能が劣っていた。試験材30はろう材と中間材の界面に内包されるフラックス量が少ないため、間隙充填長さが短くフィレット形成能が劣っていた。
Cs含有弗化物フラックスを内包させたブレージングシートにおいては、試験材31、32は関係式の値が小さいため、間隙充填長さが短くフィレット形成能が劣っていた。試験材33は弗化物フラックス中のCsFの含有量が少ないため、間隙充填長さが短くフィレット形成能が劣った。
Claims (13)
- アルミニウム合金心材(以下、心材)の片面または両面に、Al−Si系アルミニウム合金ろう材(以下、ろう材)を、アルミニウム合金の中間材(以下、中間材)を介してクラッドしてなり、不活性ガス雰囲気中でフラックスを塗布することなしに加熱することによりろう付け接合される熱交換器に用いられるブレージングシートであって、心材が0.1〜1.3%(質量%、以下同じ)のMgを含むアルミニウム合金、ろう材がSi:6〜13%を含むAl−Si系アルミニウム合金、中間材がSi:6%未満を含むアルミニウム合金で、ろう材と中間材の界面には、CsFを5〜60モル%含み、残部K−Al−F系化合物からなるCs含有弗化物フラックスが内包しており、該フラックスの一部または全部は溶融した後に凝固したものであり、心材に含まれるMg量をx(%)、中間材の厚さをy(mm)としたときに、心材に含まれるMg量と中間材の厚さの関係が下記の式を満足することを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
y(mm)≧0.007ln(x)+0.018 但し、lnは自然対数を表す。 - 前記ろう材および前記中間材のMg含有量がいずれも0.05%以下に制限され、ろう材と中間材の界面に内包される前記Cs含有弗化物フラックスの量が0.5g/m2以上2.0g/m2以下であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記ろう材と前記中間材の界面には弗化物フラックスが内包しており、該フラックスの一部または全部は溶融した後に凝固したものであり、心材に含まれるMg量をx(%)、中間材の厚さをy(mm)としたときに、心材に含まれるMg量と中間材の厚さの関係が下記の式を満足することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
y(mm)≧0.007ln(x)+0.024 但し、lnは自然対数を表す。 - 前記ろう材および前記中間材のMg含有量がいずれも0.05%以下に制限され、ろう材と中間材の界面に内包される前記弗化物フラックスの量が0.5g/m2以上2.0g/m2以下であることを特徴とする請求項3記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記ろう材および前記中間材のいずれか一方または両方に、さらにZn:0.5〜10%、Cu:0.2〜3.0%のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記ろう材と中間材の界面には、前記Cs含有弗化物フラックスと共に、固相線温度が565℃以下の金属が内包しており、該フラックスおよび金属の一部または全部は溶融した後に凝固したものであることを特徴とする請求項1、2および5のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記ろう材と中間材の界面には、前記弗化物フラックスと共に、固相線温度が565℃以下の金属が内包しており、該フラックスおよび金属の一部または全部は溶融した後に凝固したものであることを特徴とする請求項3、4および5のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記中間材と前記心材の界面に、Cs含有弗化物フラックス、またはCs含有弗化物フラックスと共に固相線温度が565℃以下の金属が内包しており、フラックス、またはフラックスと金属の一部または全部は溶融した後に凝固したものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 請求項1〜5および8のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートを製造する方法であって、クラッド構成材として心材、中間材およびろう材を積層し、前記界面に、Cs含有弗化物フラックスまたは弗化物フラックスを内包させ、熱間クラッド圧延するに際し、熱間クラッド圧延に先だって、積層されたクラッド構成材を加圧しながら加熱して接合することを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
- 請求項6、7および8のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートを製造する方法であって、クラッド構成材として心材、中間材およびろう材を積層し、前記界面に、Cs含有弗化物フラックスまたは弗化物フラックスと共に、固相線温度が565℃以下の金属を内包させ、熱間クラッド圧延するに際し、熱間クラッド圧延に先だって、積層されたクラッド構成材を加圧しながら加熱して接合することを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
- 前記クラッド構成材としての心材、中間材およびろう材を積層するに際し、前記界面に凹部を設けて、該凹部に前記フラックス、またはフラックスと共に前記金属を内包させ、積層されたクラッド構成材を加圧、加熱することにより、フラックス、またはフラックスと金属の一部または全部を溶融させて接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする請求項9または10記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
- 前記フラックス、またはフラックスと金属を挟持する界面の周囲を囲むようにフラックス流出防止部材を設けることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートで、前記界面に内包する前記Cs含有弗化物フラックスまたは弗化物フラックスの量を0.8g/m2以下としたものを組み付けて、不活性ガス雰囲気中でフラックスを塗布することなしに、450℃から590℃までの昇温時間を4分以内とする加熱を行うことを特徴とするアルミニウム製熱交換器のろう付け方法。
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