本明細書において、前方とはフィルムの搬送方向をいい、左右とは前方に向かっていうものとする。また、上流や下流とは製造装置の動作方向(フィルムの搬送方向)に対していうものとする。
図1は、本発明で用いる光学フィルムの製造装置の一例を示す模式図である。この装置は溶液流延製膜法を用いた溶液流延成膜装置である。図1において、まず溶解釜1で、例えばセルロースエステル等の樹脂を、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤を添加してドープを調製する。
ついで、溶解釜1で調整されたドープを、加圧型定量ギヤポンプ2を通して、導管によって流延ダイ3に送液し、無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなるエンドレスベルト支持体6上の流延位置に、流延ダイ3からドープを流延し、これにより形成された流延膜(ウェブ)9を、エンドレスベルト支持体6上に接触させる。エンドレスベルト支持体6は、前後一対のドラム5、5及び中間の複数のロール(不図示)により保持されており、エンドレスベルト支持体6の両端巻回部のドラム5、5の一方又は両方に、エンドレスベルト支持体6に張力を付与する駆動装置(不図示)が設けられ、これによってエンドレスベルト支持体6は張力が掛けられて張った状態で使用される。
流延ダイ3によるドープの流延には、流延されたウェブをブレードで膜厚調節するドクターブレード法、流延されたウェブを逆回転するロールで膜厚調節するリバースロールコーターによる方法、加圧ダイを用いる方法等がある。その中でも、口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすい等の理由から加圧ダイを用いる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いることができる。
また流延ダイ3は、光学フィルムの製品となる流延膜の中央部を薄く、耳切処理される両端部を厚くするために、流延ダイ3の中央部のドープの流延量が少なく、両端部のドープの流延量が多くなるように、口金部分のスリット間隔などが調整される。
流延ダイ3の上流側には減圧チャンバー4が設けられている。減圧チャンバー4の減圧力は例えば−1000〜−100Paとすることができる。流延ダイ3の上流側を減圧することにより、支持体6の走行によって生じる同伴空気がある程度除去され、同伴空気による泡の巻き込みが抑制されるので、ウェブ9が支持体6上に密着しやすくなる。
また、支持体には他の形態のものが用いられる場合もある。図2は、本発明で用いる光学フィルムの製造装置の他の一例を示す模式図である。この溶液流延製膜装置は、流延支持体として、表面にハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼製の回転駆動ドラム7を用いている点で図1の装置と異なる。その他の構成は図1と同様であるので、同様の構成には同符号を付している。
次に、溶液流延製膜法について、さらに詳しく説明する。
溶液流延製膜法において、流延ダイ3から図1に示す回転駆動エンドレスベルト6又は図2に示す回転駆動ドラム7よりなる支持体上に流延するセルロースエステル等のドープの固形分濃度は、15〜30重量%であるのが、好ましい。ドープの固形分濃度が、15重量%未満であれば、支持体6、7上で十分な乾燥ができず、剥離時にウェブの一部が支持体6、7上に残り、ベルト汚染につながるため、好ましくない。また固形分濃度が30%を超えると、ドープ粘度が高くなり、ドープ調整工程でフィルター詰まりが早くなったり、支持体6、7上への流延時に圧力が高くなり、押し出せなくなるため、好ましくない。
また、支持体6、7の幅は1100〜2500mm、ドープの流延幅は1000〜2400mm、巻き取り後のフィルムの幅は800〜2400mmであるのが好ましい。これにより、金属支持体方式によって幅の広い液晶表示装置用光学フィルムを製造することができる。
支持体6、7としてエンドレスベルトを用いる場合には、製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲では0℃〜溶媒の沸点未満の温度、混合溶媒では最も沸点の低い溶媒の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶媒沸点−5℃の範囲が、より好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。なお、支持体6、7の周速度が40〜200m/minであることが好ましい。
このようにして支持体6、7表面に流延されたドープは、剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによってもゲル膜の強度(フィルム強度)が増加する。
回転駆動エンドレスベルトまたは回転駆動ドラムよりなる支持体6、7上では、ウェブ9中の残留溶媒量が250重量%以下まで乾燥させるのが好ましい。また、支持体6、7からウェブ9を剥離するときのウェブ温度は、−15〜30℃が好ましい。
ここで、残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
残留溶媒量(重量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mはウェブの任意時点での重量、Nは重量Mのものを温度115℃で、1時間乾燥させたときの重量である。
支持体6、7上に流延されたドープにより形成されたウェブ9を、支持体6、7上で加熱し、支持体6、7から剥離ロール8によってウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法や、支持体6、7の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、適宜、単独であるいは組み合わせて用いればよい。
支持体6、7とウェブ9を剥離ロール8によって剥離する際の剥離張力は、JIS Z 0237のような剥離力測定で得られる剥離力より大きな張力で剥がしているが、これは高速製膜時に、剥離張力をJIS測定法で得られた剥離力同等にすると剥離位置が下流側に持っていかれたりする場合があるため、安定化のため高めで行なっている。但し、工程で同じ剥離張力で製膜していても、JIS測定方法による剥離力が下がると、フィルムのクロスニコル透過率(CNT)のバラツキが大きく低減することも確かめられている。
工程での剥離張力値としては、通常、50〜250N/mで剥離が行なわれるが、従来よりも薄膜化されている本発明の方法により作製された光学フィルムでは、剥離の際にウェブ9の残留溶媒量が多く、搬送方向に伸びやすいために、幅手方向にフィルムは縮みやすく、乾燥と縮みが重なると、端部がカールし、折れ込むことにより、シワが入りやすいため、剥離できる最低張力〜170N/mで剥離することが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜140N/mで剥離することである。
支持体6、7上でウェブ9が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させた後に、ウェブ9を剥離ロール8によって剥離し、ついで、延伸工程のテンター10においてウェブ9を延伸する。延伸工程では、ウェブ9の左右両端部付近(耳部)をピンで刺し保持して搬送、左右に延伸するピンテンター方式を用いる。なお、ウェブ9の左右両端部をクリップで挟んで搬送するクリップテンター方式を用いてもよい。
図3は、テンター10の一例を示す模式図である。テンター10は、前後一対のスプロケット20、20と、スプロケット20、20の外周を覆うレール21と、レール21に等間隔で取り付けられた複数のピンキャリアー22と、スプロケット20、20の間に設けられウェブ9の裏面側(下面側)に送風する第1送付装置23と、第1送風装置23にウェブ9を挟んで対向して設けられウェブ9の表面側(上面側)に送風する第2送風装置24と、テンター10の最下流に設けられた耳切装置25とを備えている。
スプロケット20、20は、その歯(不図示)がピンキャリアー22の噛合溝22a(図4参照)と噛み合っている。レール21はウェブ9の搬送路の両側にそれぞれ設置されており、フィルムの延伸率に応じてその幅や拡幅パターンが決定されている。レール21は上下方向に対向する一対のレール21a、21b(図4参照)から構成されている。そして、スプロケット20がモーター等の駆動源によって回転すると、ピンキャリアー22がレール21に沿って走行する。
図4に、片側のピンキャリアー22の模式断面図を示す。ピンキャリアー22は、両レール21a、21b間に配されたキャリアー本体22bと、キャリアー本体22bの上下に複数設けられレール21a、21bを挟持する回転可能なガイドローラー22cと、キャリアー本体22bから水平方向に延出した板状のピンプレート22dと、ピンプレート22d上に前後左右方向に配設された複数のピン22eとを備えている。ウェブ9をピン22eからスムーズに抜くために、例えば、ウェブ9をピン22eに刺す深さが5mmから20mm程度に設計される。
各キャリアー本体22bの前端部及び後端部には、各キャリアー本体22bを相互に連結する連結ブラケット(不図示)が設けられており、この連結ブラケットに連結ピン(不図示)が水平方向に取り付けられている。したがって、連結ピンを介して各キャリアー本体22bは連結されるため、鉛直面内で走行移動することができる。なお、ブロック状のキャリアー本体22bを連結ピンで相互に連結してピンキャリアー22を構成する代わりに、チェーンを用いてピンキャリアーを構成してもよい。
次に、第1送付装置23はウェブ9の裏面側に一様な風速で送風するものであり、例えば、複数のスリット状の吹出口から均一に送風するものである。吹出口から送風される乾燥した温風は、100〜200℃であることが好ましく、110〜190℃であることがより好ましく、さらに115〜185℃であることが望ましい。なお、ウェブ9の自重による撓みや伸びが発生しないように、第1送風装置23の風量又は風速を調整する。
第2送風装置24はウェブ9の表面側に一様な風速で送風するものであり、例えば、複数のスリット状の吹出口から均一に送風すればよい。吹出口から送風される乾燥した温風は、100〜200℃であることが好ましく、110〜190℃であることがより好ましく、さらに115〜185℃であることが望ましい。また、耳切装置25は、ピン22eから抜かれたウェブ9の耳部を切断する装置である。
次に、ウェブ9の形状と、ピン22eとウェブ9の位置関係について2つの例を挙げて説明する。図5は、図4のウェブ9周辺の拡大図の一例であり、図6は、図4のウェブ9周辺の拡大図の他の一例である。
図5及び図6に示すように、ウェブ9はその幅方向に見たとき、平坦な中央部9aと、中央部9aの端から端部へ向けて徐々に膜厚が増している傾斜部9bと、傾斜部9bの端と同じ膜厚で平坦な端部9cとで構成される。中央部9a(膜厚D4)は、トリミング後に製品となる部分であり、平坦で均一な膜厚であることが求められ、その膜厚(乾燥後の膜厚)は求められている薄膜化を考慮すると40μm以下が好ましい。
端部9c(膜厚D3)は、ピン22eが刺さり、耳切装置25によって切り落とされる部分である。薄膜化した場合でもピン22eで保持したときに破れないように、端部9cは一定以上の膜強度が必要であり、そのためには中央部9aの膜厚より数十μm厚くする必要がある。中央部9aの乾燥後の膜厚が40μm以下となるような薄膜化に対しては、端部9cの乾燥後の膜厚が中央部9aの乾燥後の膜厚より20μm以上厚いことが好ましい。
傾斜部9b(幅方向の長さL1、厚み方向の変化量D1)は、中央部9aと端部9cとを繋いでいる部分であり、図5の形態ではピン22eが刺さっていないが、図6の形態ではピン22eが刺さっている。傾斜部9bは、テンター10において幅方向の5cm当たりの膜厚の変化量が2.5μm以上10μm以下となるように制御され、好ましくは5μm以上9μm以下となるように制御される。このような変化量にすることにより、端部9cと中央部9aとの膜厚が薄膜化によって大きく異なるような場合に、中央部9aに発生する擦り傷を抑制することができる。
上記の変化量が10μmを超える場合、つまり傾斜部9bの傾斜が大きい場合、ウェブ9の幅方向の膜厚が急激に変化している状態であるため、搬送中にロールと接触する部分が端部9cのみとなり、傾斜部9b及び中央部9aではばたつきが生じロールに接触したりしなかったりする。その結果、傾斜部9b及び中央部9aがロールに接触したときに擦り傷が発生すると考えられる。
また、上記の変化量が2.5μm未満である場合、つまり傾斜部9bの傾斜が小さい場合、ウェブ9の幅方向の膜厚が緩やかに変化している状態であるため、ロールによって擦り傷が発生することはないが、テンター10での延伸時に中央部9aでも延伸むらが発生し、製品部分で幅方向に膜厚が変動してしまう。また、傾斜部9bが長くなり中央部9aが短くなるので、製品として採れる部分が小さくなる。
図5の形態のように、全てのピン22eがウェブ9の端部9cに刺さっている場合、全てのピン22eが刺さっている箇所の膜厚が同じであるため、ピン22eの上端からウェブ9までの長さ(ウェブ9がピン22eに刺さっている長さ)も全て同じになる。これにより、ウェブ9をピン22eから抜く際に、特定のピン22eがウェブ9に引っかかることなく、スムーズに抜くことができる。そのため、製膜速度を上げても安定した生産が可能となる。
また図6の形態のように、ウェブ9の端部9cに刺さっているピン22eと傾斜部9bに刺さっているピン22eとがある場合、ピン22eが刺さっている箇所によって膜厚が異なるため、ピン22eの上端からウェブ9までの長さ(ウェブ9がピン22eに刺さっている長さ)も異なる。この長さが大きく異なると、ウェブ9をピン22eから抜く際に、特定のピン22eがウェブ9に引っかかり、スムーズに抜くことができなくなり、ウェブ9が破れるおそれもある。そこで、このような状況を避けるためには、ウェブ9のピン22eが刺さる部分における乾燥後の膜厚の最も厚い部分(D3)と最も薄い部分(D2)との差(D3−D2)が5μm以下であることが好ましい。さらに好ましくはその差が3μm以下である。このように、ピン22eが刺さる部分の膜厚差を小さくすることで、ウェブ9をピン22eから抜く際に、特定のピン22eがウェブ9に引っかかることなく、スムーズに抜くことができる。そのため、製膜速度を上げても安定した生産が可能となる。
続いて、延伸工程のテンター10の後には、乾燥装置11を設けることが好ましい。乾燥装置11内では、側面から見て千鳥状に配置された複数の搬送ロールによってウェブ9が蛇行させられ、その間にウェブ9が乾燥されるものである。また、乾燥装置11でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、乾燥温度等に影響を受けるが、乾燥時のフィルム搬送張力は、10〜300N/m幅であり、20〜270N/m幅が、より好ましい。
なお、ウェブ(フィルム)9を乾燥させる手段は、特に制限はなく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば乾燥装置11の温風入口から吹込まれる乾燥風12によって乾燥され、乾燥装置11の出口から排気風が排出されることによって乾燥される。乾燥風12の温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
搬送乾燥工程を終えた光学フィルムFに対し、巻取工程に導入する前に、光学フィルムFの端部に多数の凹凸を有するエンボス部を形成するのが好ましい。
次に、エンボス部の形成加工が終了したフィルムを、巻取り装置13によって巻き取り、光学フィルムの元巻を得る。乾燥を終了するフィルムの残留溶媒量は、1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0〜0.01重量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。巻取りコア(巻芯)への、フィルムの接合は、両面接着テープでも、片面接着テープでもどちらでもよい。
セルロースエステル等の樹脂フィルムの乾燥後の膜厚は、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして、20〜150μmの範囲が好ましい。製品とならない端部の膜厚の測定は耳切後に回収した部分を120℃で20分間乾燥した後で測定し、中央部の膜厚の測定はフィルムを巻き取った後のサンプルで測定した。測定にはSONY製デジタルマイクロメーターM−30を用いた。
ここで、巻取り後の光学フィルムの膜厚が薄過ぎると、例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。一方、フィルムの膜厚が厚過ぎると、従来のセルロースエステル等の樹脂フィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、流延ダイ3の口金のスリット間隙、流延ダイ3の押し出し圧力、支持体6、7の速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
溶液流延製膜法を通しての流延直後から乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行なってもよい。ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことは、もちろんである。
ところで、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法においては、主材としてセルロースエステル等の樹脂を含むドープに、可塑剤、紫外線吸収剤、微粒子、及び低分子量物質のうちの少なくとも1種以上の物質及び溶媒が含まれている。以下、これらについて説明する。
溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法においては、フィルム材料として、種々の樹脂を用いることができるが、その中でもセルロースエステルを用いるのが好ましい。
セルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明で用いられるセルロースエステルには、その他の置換基が含まれていてもよい。
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が2.0以上、3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所望の面内レタデーション(Ro)、及び厚み方向レタデーション(Rt)を得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なレタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
セルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
セルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらには70000〜200000が好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムは、本発明の効果を得る上で必要に応じて可塑剤を含有することができる。可塑剤は特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(a)で表される。
一般式(a) R1−(OH)n
(但し、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/またはフェノール性水酸基を表す。)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基或いはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
脂肪酸エステル系可塑剤としては、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
多価カルボン酸エステル化合物としては、2価以上、好ましくは2価〜20価の多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。多価カルボン酸は次の一般式(b)で表される。
一般式(b) R2(COOH)m(OH)n
(但し、R2は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOH基はカルボキシル基、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す)
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることができる。特にオキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては特に制限はなく公知のアルコール、フェノール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いることができる。
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性またはフェノール性の水酸基をモノカルボン酸を用いてエステル化しても良い。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上もつ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に酢酸、プロピオン酸、安息香酸であることが好ましい。
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステル化合物の酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、リターデーションの環境変動も抑制されるため好ましい。
(酸価)
酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
特に好ましい多価カルボン酸エステル化合物の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
(ポリエステル系化合物)
ポリエステル系化合物は、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系化合物を用いることが好ましい。ポリエステル系化合物としては、下記一般式(I)で表せる芳香族末端エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
一般式(I) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(I)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
エステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
エステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
また、上記芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
エステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものである。
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、上記ポリエステル系化合物を、フィルム中に1〜20質量%、特に3〜11質量%含むことが好ましい。これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
可塑剤の使用量は、1〜20重量%が好ましい。6〜16重量%がさらに好ましく、特に好ましくは8〜13重量%である。可塑剤の使用量が、セルロース誘導体に対して1重量%未満では、フィルムの透湿度を低減させる効果が少ないため、好ましくなく、20重量%を越えると、フィルムから可塑剤がブリードアウトし、フィルムの物性が劣化するため、好ましくない。
溶液流延製膜法におけるセルロース誘導体には、滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、R805、OX50、TT600などが挙げられる。
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
微粒子の平均粒径は、セルロースエステルフィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される粒子であれば、1次粒子であっても、1次粒子が凝集した2次粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次粒子である。
測定方法の一例としては、1つのフィルムにつき、ランダムに10箇所の垂直断面写真を撮影し、各断面写真について、長軸長さが、0.05〜5μmの範囲にある100μm2中の粒子個数をカウントする。このときカウントした粒子の長軸長さの平均値を求め、10箇所の平均値を平均した値を平均粒径とする。
微粒子の場合は、1次粒径、溶媒に分散した後の粒径、フィルムに添加された粒径が変化する場合が多く、重要なのは、最終的にフィルム中で微粒子がセルロースエステルと複合し凝集して形成される粒径をコントロールすることである。
ここで、微粒子の平均粒径が5μmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻状態での故障を発生する原因にもなる。また、微粒子の平均粒径が、0.05μm未満の場合は、フィルムに滑り性を付与するのが難しくなる。
上記の微粒子は、セルロースエステルに対して、0.04〜0.5重量%添加して使用される。好ましくは、0.05〜0.3重量%、さらに好ましくは0.05〜0.25重量%添加して使用される。微粒子の添加量が0.04重量%以下では、フィルム表面粗さが平滑になりすぎて、摩擦係数の上昇によりブロッキングを発生する。微粒子の添加量が0.5重量%を超えると、フィルム表面の摩擦係数が下がりすぎて、巻き取り時に巻きズレが発生したり、フィルムの透明度が低く、ヘイズが高くなるため、液晶表示装置用フィルムとしての価値を持たなくなるので、上記の範囲が必須である。
微粒子の分散は、微粒子と溶媒を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。溶液流延製膜法で用いる高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が980N/cm2以上であることが好ましい。さらに好ましくは、装置内部の最大圧力条件が1960N/cm2以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが、好ましい。
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザーなどが挙げられる。
溶液流延製膜法において、微粒子は、低級アルコール類を25〜100重量%含有する溶媒中で分散した後、セルロースエステル(セルロース誘導体)を溶媒に溶解したドープと混合し、該混合液を支持体上に流延し、乾燥して製膜することを特徴とするセルロースエステルフィルムを得る。
ここで、低級アルコールの含有比率としては、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは75〜100重量%である。
また、低級アルコール類の例としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。
低級アルコール以外の溶媒としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶媒を用いることが好ましい。
微粒子は、溶媒中で1〜30重量%の濃度で分散される。これ以上の濃度で分散すると、粘度が急激に上昇し、好ましくない。分散液中の微粒子の濃度としては、好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは、10〜20重量%である。
フィルムの紫外線吸収機能は、液晶の劣化防止の観点から、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどの各種光学フィルムに付与されていることが好ましい。このような紫外線吸収機能は、紫外線を吸収する材料をセルロース誘導体中に含ませてもよく、セルロース誘導体からなるフィルム上に紫外線吸収機能のある層を設けてもよい。
溶液流延製膜法において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、紫外線吸収剤の市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもBASFジャパン(株)製)を、好ましく使用できる。
また、溶液流延製膜法において使用し得る紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル(セルロース誘導体)に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、紫外線吸収剤の使用量が多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合があるので、好ましくない。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
また、溶液流延製膜法の光学フィルムに用いることのできる紫外線吸収剤は、特開平6−148430号公報及び特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)を好ましく用いることができる。とりわけ特開平6−148430号公報に記載の一般式(1)、あるいは一般式(2)、あるいは特開2002−47357号公報に記載の一般式(3)(6)(7)で表される高分子紫外線吸収剤が、好ましく用いられる。
酸化防止剤は、一般に、劣化防止剤ともいわれるが、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。すなわち、液晶画像表示装置などが高湿高温の状態に置かれた場合には、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えばフィルム中の残留溶媒中のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸などによりフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、フィルム中に含有させるのが好ましい。
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して重量割合で1ppm〜1.0重量%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
本発明による光学フィルムは、上記の光学フィルムの製造方法で製造されたものであり、フィルムの膜厚は、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして、20〜150μmの範囲が好ましい。
本発明が対象とする光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種ディスプレイ、特に液晶ディスプレイに用いられる機能フィルムのことであり、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、視野角拡大等の光学補償フィルムを含むものである。
本発明の光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。
ところで、偏光フィルムは、従来から使用されている、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような延伸配向可能なフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して縦延伸したものである。偏光フィルム自身では、十分な強度、耐久性がないので、一般的にはその両面に保護フィルムとしての異方性のないセルロースエステルフィルムを接着して偏光板としている。
上記偏光板には、本発明の方法により製造された光学フィルムを位相差フィルムとして貼り合わせて作製してもよいし、また本発明の方法により製造された光学フィルムを位相差フィルムと保護フィルムとを兼ねて、直接偏光フィルムと貼り合わせて作製してもよい。貼り合わせる方法は、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行なうことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。さらに、長手方向に延伸し、二色性染料処理した長尺の偏光フィルムと長尺の本発明の方法により製造された位相差フィルムとを貼り合わせることによって長尺の偏光板を得ることができる。偏光板はその片面または両面に感圧性接着剤層(例えば、アクリル系感圧性接着剤層など)を介して剥離性シートを積層した貼着型のもの(剥離性シートを剥すことにより、液晶セルなどに容易に貼着することができる)としてもよい。
このようにして得られた偏光板は、種々の表示装置に使用できる。特に電圧無印加時に液晶性分子が実質的に垂直配向しているVAモードや、電圧無印加時に液晶性分子が実質的に水平かつねじれ配向しているTNモードの液晶セルを用いた液晶表示装置が好ましい。
ところで、偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、光学フィルムあるいはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
本発明の方法により製造された光学フィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することができる。これらの機能層は塗布あるいは蒸着、スパッタ、プラズマCVD、常圧プラズマ照射処理等の方法で設けることができる。
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、液晶表示装置が得られる。
ここでいう液晶表示装置は、棒状の液晶分子が一対のガラス基板に挟持された液晶セルと、液晶セルを挾むように配置された偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる2枚の偏光板を持つものである。
なお、ここでいう偏光板は、平面性に優れた光学フィルムを、少なくとも一方の面に用いるものであるから、偏光板を液晶パネルに組み込んだ際、液晶パネルのコントラスト低下や濃淡ムラを生じることがなく、視認性に優れている。
また、ここでいう表示装置は、この平面性に優れた光学フィルムを具備する偏光板を用いているものであるから、液晶パネルのコントラスト低下や濃淡ムラを生じることがなく、視認性に優れているものである。
本発明の方法により製造された光学フィルムは、反射防止用フィルムあるいは光学補償フィルムの基材としても使用できる。
次に、本発明の実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(ドープの調製)
下記の材料を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過して、ドープを調製した。
(ドープ組成)
セルローストリアセテート(数平均分子量148000、重量平均分子量310000) 100重量部
トリフェニルホスフェート 8重量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 3重量部
メチレンクロライド 440重量部
メタノール 40重量部
ブタノール 10質量部
チヌビン326 0.5重量部
チヌビン328 1.0重量部
AEROSIL R972V 0.2重量部
次に、図2に示す溶液流延製膜装置によりセルローストリアセテートフィルムを製造した。テンター10は図4の構成とし、ウェブ9に対するピン22eの位置は図5又は図6の二通りの形態でそれぞれ実施した。上記のように濾過したドープを、幅方向に中央部9a、傾斜部9b、端部9cと異なる膜厚になるように、幅方向に流延量を変えて温度15℃の回転駆動ドラム7に流延した。
こうして、支持体7上に形成されたウェブ9を、支持体7上で搬送しながら乾燥風により残留溶媒量が200重量%程度になるように乾燥した後、10℃以下まで冷却した状態で剥離ロール8によって剥離し、テンター10で延伸、乾燥した。テンター10においてウェブ9中央部の残留溶媒量が100重量%以下になったところでピン22eから抜き取って耳部をトリミングした。テンター10の後は、ロール搬送しながら乾燥装置11で乾燥を終了させ、巻き取り装置13により巻き取った。
実施例1〜33及び比較例1〜12では、ウェブ9の中央部9a及び端部9cの膜厚、ウェブ9の傾斜部9bの膜厚の変化量を変えて製膜した。また、実施例1〜12及び比較例1〜12は図5の形態とし、実施例13〜33は図6の形態とした。そして、各実施例及び比較例で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、擦り傷の程度、レタデーションの変動、ピン22eを抜いた後のウェブ9のピン穴の形状(ピン跡)を評価した。
擦り傷の程度の評価は、ポラリオンライト(ガードナー社製SE7852)を用い、フィルムの擦り傷を目視にて調べ、以下の基準で評価した。すなわち、擦り傷が確認されなかった又は製品として使用可能なわずかな擦り傷のみ確認された場合を○、製品として使用不可能な擦り傷が確認された場合を×とした。
レタデーションの変動は、フィルムの延伸むらを見るために、複数の幅方向位置におけるレタデーション値の変動を測定した。延伸度合いによりレタデーション値が変動するので、レタデーション値を測定することにより、延伸むらを正確に判断することができる。
レタデーションの変動の評価は、フィルムの巻き取り方向(搬送方向)に20cmおきの5点について、フィルムの幅方向の中央と、フィルム両端部から10cmの位置とからそれぞれ切り出すことでサンプルを採取し、そのサンプルを温度25℃湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(王子計測機器(株)製KOBRA21DH)により、632.8nmにおける式{(nx+ny)/2−nz}×d(dはフィルムの厚み、nxは面内における遅相軸方向の屈折率、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率)で求める厚み方向レタデーションRtを測定した。そして、フィルムの幅方向の中央における厚み方向レタデーションをRt(C)、フィルムの両端部から10cmの位置における厚み方向レタデーションをそれぞれRt(S1)、Rt(S2)とし、以下の基準で評価した。
すなわち、採取した全てのサンプルの測定結果が、0.90≦Rt(C)/Rt(S1)≦1.1かつ0.90≦Rt(C)/Rt(S2)≦1.1を満たす場合を○、測定結果が上記関係を満たさない場合を×とした。
ピン跡の評価は、図6の形態を採用した実施例13〜33について行い、ピン22eを抜いた後のウェブ9のピン穴の形状を目視にて確認し、以下の基準で評価した。すなわち、ピン穴が円形である場合を○、ピン穴がわずかに楕円形である場合を△とした。なお、△は製造には支障のない範囲である。
図7に、実施例1〜12及び比較例1〜12のフィルムの各部の膜厚と、擦り傷の程度及びレタデーションの変動の評価結果とを示す。まず実施例1〜4及び比較例1〜4を見ると、端部9cの膜厚D3及び中央部9aの膜厚D4は同じであり、傾斜部9bにおける幅方向の5cm当たりの膜厚の変化量がそれぞれ異なっている。実施例1〜4の該変化量を見ると2.5〜10μmの範囲となっており、このとき擦り傷の程度の評価及びレタデーションの変動の評価は良好である。一方、比較例1、2の該変化量を見ると11μm、13μmであり、このとき擦り傷の程度の評価が×になっている。このことから、該変化量が10μm以下であることが適切であるといえる。一方、比較例3、4の該変化量を見ると2μm、1μmであり、このときレタデーションの変動の評価が×になっている。このことから、該変化量が2.5μm以上であることが適切であるといえる。
次に実施例5〜8及び比較例5〜8を見ると、端部9cの膜厚D3及び中央部9aの膜厚D4は同じであり、実施例1〜4及び比較例1〜4とは端部9cの膜厚D3が異なっている。そして、実施例5〜8及び比較例5〜8はそれぞれ実施例1〜4及び比較例1〜4と同じ評価結果である。
次に実施例9〜12及び比較例9〜12を見ると、端部9cの膜厚D3及び中央部9aの膜厚D4は同じであり、実施例1〜4及び比較例1〜4とは端部9cの膜厚D3及び中央部9aの膜厚D4が異なっている。そして、実施例9〜12及び比較例9〜12はそれぞれ実施例1〜4及び比較例1〜4と同じ評価結果である。
以上より、実施例1〜12は端部9cの膜厚D3と中央部9aの膜厚D4の膜厚差が20μm又は30μmであることから、光学フィルムの両端部9cの乾燥後の膜厚が中央部9aの乾燥後の膜厚より20μm以上厚い場合に本発明を適用できるといえる。さらに、傾斜部9bにおける幅方向の5cm当たりの膜厚の変化量が2.5μm以上10μm以下であることが適切であるといえる。
図8に、実施例13〜33のフィルムの各部の膜厚と、ピン跡の評価結果とを示す。まず実施例13〜19を見ると、端部9cの膜厚D3、中央部9aの膜厚D4及び傾斜部9bにおける幅方向の5cm当たりの膜厚の変化量は同じであり、ウェブ9のピン22eが刺さる部分における乾燥後の膜厚の最も厚い部分(D3)と最も薄い部分(D2)との差(D3−D2)がそれぞれ異なっている。そして、実施例13〜19のピン跡の評価は、実施例13〜17が○、実施例18〜19が△になっている。このことから、D3−D2が5μm以下であることがより好ましいといえる。
次に実施例20〜26を見ると、端部9cの膜厚D3、中央部9aの膜厚D4及び傾斜部9bにおける幅方向の5cm当たりの膜厚の変化量は同じであり、実施例13〜19とは傾斜部9bにおける幅方向の5cm当たりの膜厚の変化量が異なっている。そして、実施例20〜26はそれぞれ実施例13〜19と同じ評価結果である。
次に実施例27〜33を見ると、端部9cの膜厚D3、中央部9aの膜厚D4及び傾斜部9bにおける幅方向の5cm当たりの膜厚の変化量は同じであり、実施例13〜19とは端部9cの膜厚D3及び傾斜部9bにおける幅方向の5cm当たりの膜厚の変化量が異なっている。そして、実施例27〜33はそれぞれ実施例13〜19と同じ評価結果である。
以上より、実施例13〜33は端部9cの膜厚D3と中央部9aの膜厚D4の膜厚差が20μm又は30μmであることから、光学フィルムの両端部9cの乾燥後の膜厚が中央部9aの乾燥後の膜厚より20μm以上厚い場合に本発明を適用できるといえる。さらに、ウェブ9のピン22eが刺さる部分における乾燥後の膜厚の最も厚い部分(D3)と最も薄い部分(D2)との差(D3−D2)が5μm以下であることが適切であるといえる。
実施例1〜33を総括すると、フィルム両端部と中央部との膜厚が大きく異なるような場合に、幅方向の5cm当たりの膜厚の変化量が2.5μm以上10μm以下となるように制御することでフィルム中央部に発生する擦り傷を抑制することができ、さらに、ピンが刺さる部分の膜厚差が5μm以下であるとピンをよりスムーズに抜くことができるといえる。