以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる定量分析装置、定量分析方法、脂質膜小胞、及び試薬を説明する。
本実施形態に係る定量分析装置は、遺伝子工学的手法を利用して測定対象を定量分析する装置である。主な測定対象としてはマイクロRNA(以下、miRNAと呼ぶ)が挙げられる。miRNAは、生体内に存在する20塩基程度の短い1本鎖RNAである。本実施形態の測定対象となるmiRNAは、がん等の腫瘍由来のmiRNAであるとする。がん細胞は、自己のmiRNAをエキソソームと呼ばれる脂質膜小胞に封入して体内に分泌している。なお、測定対象となるmiRNAは、がん等の腫瘍由来のmiRNAに限定されず、脂質膜小胞に封入にされている如何なるmiRNAにも適用可能である。
図1は、本実施形態において利用されるエキソソーム101の断面を模式的に示す図である。図1に示すように、エキソソーム101は、球状の脂質二分子膜からなる。エキソソーム101の内側には、miRNA103が封入されている。miRNA103は、タンパク質(miRNA結合タンパク質)105に結合された状態でエキソソーム101に内包されている。また、エキソソーム101の表面には、タンパク質(エキソソーム特異的タンパク質)107が結合されている。例えば、腫瘍由来のエキソソーム101の場合、エキソソーム特異的タンパク質107としてEpCAM等が挙げられる。このように、miRNA103は、エキソソーム101に封入された状態で血液中に輸送される。この際、エキソソーム101に封入されているので、miRNA103は、RNaseにより分解されにくい。なお、通常、エキソソーム101には測定対象のmiRNAのほか、複数種類のメッセンジャーRNAやタンパク質が内包されている。
本実施形態に係る定量分析装置は、RNaseによるmiRNAの分解による定量結果への影響を低減するための工夫を有している。以下、本実施形態に係る定量分析装置について詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係る定量分析装置1の構成を示す図である。図2に示すように、定量分析装置1は、定量分析機構2、機構制御部3、計算部4、表示部5、操作部6、記憶部7、及びシステム制御部8を有する。定量分析機構2は、定量分析装置1の筐体のステージに設けられている。定量分析機構2は、機構制御部3による制御に従って動作し、検体の分注から、miRNAの検出、より厳密には、miRNAに相補的なcDNAの検出までを自動的に行う。定量分析機構2は、前処理部10、合成・破砕部30、及びcDNA検出部50を搭載している。前処理部10は、miRNAを含むエキソソームを検体から単離するための機械である。合成・破砕部30は、脂質膜小胞内においてmiRNAに相補的なcDNAを合成し、cDNAを封入している脂質膜小胞を破砕する機械である。cDNA検出部50は、cDNAを検出する機械である。
機構制御部3は、miRNAの定量分析のための所定のシーケンスに従って定量分析機構2の各部・各機構を制御する。計算部4は、定量分析機構2からのcDNAの検出結果に基づいてmiRNAを定量分析する。表示部5は、計算部4によるmiRNAの定量分析結果を表示機器に表示する。表示機器としては、例えばCRTディスプレイや、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等が適用可能である。操作部6は、オペレータからの各種指示を入力するための入力機器を搭載している。入力機器としては、トラックボール、各種スイッチ、ボタン、マウス、キーボード等が適用可能である。記憶部7は、本実施形態に係る定量分析処理のための動作プログラムを記憶している。システム制御部8は、定量分析装置1の中枢として機能する。システム制御部8は、記憶部から動作プログラムを読み出し、このプログラムに従って各部を制御する。
次に、定量分析機構2の構成について詳細に説明する。図3は定量分析機構2の模式的な斜視図であり、図4は定量分析機構2の模式的な平面図である。なお、図3の点線で示されている部分は筐体の内部に収容されている部分である。
図3及び図4に示すように、例えば、合成・破砕部30は、ステージ9の略中央に設けられる。前処理部10とcDNA検出部50とは、合成・破砕部30を挟むようにステージ9に設けられている。
前処理部10は、磁気ビーズと磁石とを利用して検体からエキソソームを単離する。具体的には、前処理部10は、前処理用テーブル11、サンプルラック13、サンプリングアーム15、磁気ビーズ試薬アーム17、磁気式攪拌部19、磁気ビーズ洗浄部21、エキソソーム溶出部23、エキソソーム搬送アーム25、及び第1反応管洗浄部27を備える。
前処理用テーブル11は、円周状に配列された複数の第1反応管C1を保持する。前処理用テーブル11は、機構制御部3による制御に従って、一定の時間間隔で回転軸回りに所定角度だけ回動する。これにより、第1反応管C1は、回動と停止とを繰り返しながら円周状軌道を周回する。
サンプルラック13は、ステージ9上の所定位置に配置される。サンプルラック13は、サンプル管CSを着脱可能に保持する。サンプル管CSは、エキソソームを含む生体由来の溶液である検体を収容する。検体としては、測定対象者の全血、血清、血漿、腹水、尿、唾液等の、測定対象のmiRNAを封入するエキソソームを含むあらゆる溶液が挙げられる。
サンプリングアーム15は、サンプリングプローブ15pを装備している。サンプリングアーム15は、機構制御部3による制御に従って、上下動及び円周状の回動軌道に沿って回動する。また、サンプリングアーム15は、機構制御部3による制御に従って、サンプリングプローブ15pにより検体を吸入及び吐出する。サンプリングプローブ15pの回動経路とサンプル管CSの開口部とが交差する位置は、サンプル吸入位置に設定される。サンプリングプローブ15pの回動経路と前処理用テーブル11とが交差する位置は、サンプル吐出位置に設定される。
磁気ビーズ試薬アーム17は、磁気ビーズ試薬プローブ17pを装備している。磁気ビーズ試薬アーム17は、機構制御部3による制御に従って、上下動及び円周状の回動軌道に沿って回動する。また、磁気ビーズ試薬アーム17は、機構制御部3による制御に従って、磁気ビーズ試薬プローブ17pにより磁気ビーズ試薬を吸入及び吐出する。磁気ビーズ試薬は、磁気ビーズを含む試薬溶液である。磁気ビーズ試薬は、磁気ビーズ試薬容器に収容されている。磁気ビーズ試薬容器は、磁気ビーズ試薬ラック17rに着脱可能に保持されている。磁気ビーズ試薬プローブ17pの回動経路と磁気ビーズ試薬容器の開口部とが交差する位置は、磁気ビーズ試薬吸入位置に設定される。磁気ビーズ試薬プローブ17pの回動経路と前処理用テーブル11とが交差する位置は、磁気ビーズ試薬吐出位置に設定される。
磁気式攪拌部19は、ステージ9の内部に設けられている。磁気式攪拌部19は、前処理用テーブル11内の第1反応管C1の回動経路の一部分を挟むように設けられた一対の電磁石を有する。一対の電磁石に挟まれる空間領域は、攪拌位置に設定される。一対の電磁石は、機構制御部3による制御に従って攪拌位置に配置された第1反応管C1に交互に磁場を印加する。磁場の印加により反応管内の磁気ビーズが振動し、第1反応管C1内の検体と磁気ビーズ試薬との混合液が攪拌される。後述するように磁気式攪拌部19による攪拌は、比較的長時間行われる方が良い。従って、複数の第1反応管C1の停止位置を挟むように複数の対の電磁石が配置されるとよい。
磁気ビーズ洗浄部21は、前処理用テーブル11の洗浄位置に隣接してステージ9上に設けられている。洗浄位置は、磁気式攪拌部19による攪拌位置から第1反応管C1の移動方向に沿って所定距離だけ離れた位置に位置決めされている。磁気ビーズ洗浄部21は、磁気ビーズ吸着磁石29m−1、廃液プローブ29h−1、洗浄液吐出プローブ29s−1、及び洗浄用攪拌機構29k−1を有する。磁気ビーズ吸着磁石29m−1は、洗浄位置内の吸着位置の近傍に設定される。磁気ビーズ吸着磁石29m−1は、吸着位置に配置された第1反応管C1に磁場を印加する。磁気ビーズ吸着磁石29m−1は、磁場を発生可能であれば、永久磁石や電磁石等の如何なる磁石でもよい。廃液プローブ29h−1は、吸着位置に隣接してステージ9上に設けられている。廃液プローブ29h−1は、機構制御部3による制御に従って、吸着位置に配置された第1反応管C1から溶液を吸入する。洗浄液吐出プローブ29s−1は、洗浄位置内の洗浄液吐出位置に隣接して設けられる。洗浄液吐出位置は、吸着位置から第1反応管C1の移動方向に沿って所定距離だけ離れた位置に位置決めされる。洗浄液吐出プローブ29s−1は、機構制御部3による制御に従って、洗浄液を吐出する。洗浄用攪拌機構29k−1は、洗浄位置内の攪拌位置に隣接して設けられている。攪拌位置は、洗浄液吐出位置から第1反応管C1の移動方向に沿って所定距離だけ離れた位置に位置決めされる。洗浄用攪拌機構29k−1は、物理的な攪拌を行う物理的攪拌部であっても、磁気的な攪拌を行う磁気式攪拌部であってもどちらでもよい。洗浄用攪拌機構29k−1を具体的に説明するために、以下、洗浄用攪拌機構29k−1は、物理的攪拌部であるとする。この場合、洗浄用攪拌機構29k−1は、攪拌アームを有している。攪拌アームは、先端に、樹脂性等の攪拌子を有している。攪拌アームは、機構制御部3による制御に従って、攪拌子を上下動する。攪拌子にはピエゾ素子が結合されている。ピエゾ素子は、機構制御部3による制御に従って振動する。ピエゾ素子の振動に伴って攪拌子が振動し、第1反応管C1内の溶液が攪拌される。
第1反応管C1内から不要な成分をできるだけ除去するために、磁気ビーズ洗浄部21による洗浄は、複数回繰り返されると良い。洗浄を前処理テーブル11を回動しながら繰り返すため、磁気ビーズ洗浄部21は、第1反応管C1の移動方向に沿って複数設けられると良い。図3及び図4においては、具体例を示すため、2つの磁気ビーズ洗浄部21が設けられているが、3つ以上の磁気ビーズ洗浄部21が設けられても良い。
エキソソーム溶出部23は、前処理用テーブル11上の溶出位置に隣接してステージ9上に設けられている。溶出位置は、洗浄位置から第1反応管C1の移動方向に沿って所定距離だけ離された位置に位置決めされている。エキソソーム溶出部23は、磁気ビーズ洗浄部21と略同一の構成を有している。すなわち、エキソソーム溶出部23は、第1反応管C1の移動方向に沿って磁気ビーズ吸着磁石29m−3、廃液プローブ29h−3、溶出液吐出プローブ29y、及び溶出用攪拌機構29k−3を有する。溶出液吐出プローブ29yは、前処理用テーブル11上の溶出位置内の溶出液吐出位置上に配置されている。溶出液吐出位置は、磁気ビーズ洗浄部21に関する洗浄位置から第1反応管C1の移動方向に沿って所定距離だけ離れた位置に位置決めされる。溶出液吐出プローブ29yは、機構制御部3による制御に従って、溶出液を吐出する。磁気ビーズ吸着磁石29m−3は磁気ビーズ吸着磁石29m−1と、廃液プローブ29h−3は廃液プローブ29h−1と、溶出用攪拌機構29k−3は洗浄用攪拌機構29k−1と略同一の構造を有する。
エキソソーム搬送アーム25は、エキソソーム搬送プローブ25pを装備している。エキソソーム搬送アーム25は、機構制御部3による制御に従って、上下動及び円周状の回動軌道に沿って回動する。また、エキソソーム搬送アーム25は、機構制御部3による制御に従って、エキソソーム搬送プローブ25pによりエキソソームを含む溶出液を吸入及び吐出する。エキソソーム搬送プローブ25pの回動経路と前処理用テーブル11とが交差する位置は、エキソソーム吸入位置に設定される。また、エキソソーム搬送プローブ25pの回動経路と後述する合成・破砕用テーブル31とが交差する位置は、エキソソーム吐出位置に設定される。
第1反応管洗浄部27−1は、前処理用テーブル11の第1反応管洗浄位置に隣接してステージ9上に設けられている。第1反応管洗浄部27−1は、例えば、洗浄液吐出プローブ、廃液プローブ、乾燥プローブを有する。洗浄液吐出プローブは、機構制御部3による制御に従って、反応間洗浄位置内の洗浄液吐出位置に配置された第1反応管C1に洗浄液を吐出する。廃液プローブは、機構制御部3による制御に従って、第1反応間洗浄位置内の廃液位置に配置された第1反応管C1から溶液を吸入する。乾燥プローブは、機構制御部による制御に従って、第1反応間洗浄位置内の乾燥位置に配置された第1反応管C1を乾燥する。
合成・破砕部30は、合成・破砕用テーブル31、リポソーム試薬アーム33、攪拌機構29k、融合用エネルギー印加部35、促進用エネルギー印加部37、破砕用エネルギー印加部39、cDNA溶液搬送アーム41、及び反応管洗浄部27を備える。
合成・破砕用テーブル31は、円周状に配列された複数の第2反応管C2を保持する。合成・破砕用テーブル31は、機構制御部3による制御に従って、一定の時間間隔で所定角度だけ回動する。これにより、第2反応管C2は、回動と停止とを繰り返しながら円周状軌道を周回する。
リポソーム試薬アーム33は、エキソソームとは異なる脂質膜小胞を含む試薬を吸入及び吐出するためのリポソーム試薬プローブ33pを装備している。脂質膜小胞は、典型的には、リポソームと呼ばれる球形の脂質膜小胞である。以下、この脂質膜小胞はリポソームであるとする。また、リポソームを含む試薬をリポソーム試薬と呼ぶことにする。リポソーム試薬アーム33は、機構制御部3による制御に従って、上下動及び円周状の回動軌道に沿って回動する。また、リポソーム試薬アーム33は、機構制御部3による制御に従って、リポソーム試薬プローブ33pによりリポソーム試薬を吸入及び吐出する。リポソーム試薬プローブ33pの回動経路と合成・破砕用テーブル31とが交差する位置は、リポソーム試薬吐出位置に設定される。リポソーム試薬が収容された試薬容器は、リポソーム試薬ラック33rに着脱可能に保持されている。リポソーム試薬プローブ33pの回動経路上に配置されている。詳細は後述するが、リポソームは、球形の脂質膜を有している。本実施形態に係るリポソームの内側には、エキソソーム内のmiRNAに相補的なcDNA(complementary DNA)の合成に必要な物質が人工的に封入されている。
融合用攪拌機構29k−4は、合成・破砕用テーブル31上の攪拌位置に隣接してステージ9上に設けられている。この攪拌位置は、溶出液吐出位置から第2反応管C2の移動方向に沿って所定距離だけ離れた位置に位置決めされる。融合用攪拌機構29k−4は、洗浄用攪拌機構29k−1と略同一の構造を有している。
融合用エネルギー印加部35は、合成・破砕用テーブル31上の融合位置に隣接してステージ9上に設けられている。融合位置は、融合用攪拌機構29k−4に関する攪拌位置から第2反応管C2の移動方向に沿って所定距離だけ離れた位置に位置決めされる。具体的には、融合用エネルギー印加部35は、機構制御部3による制御に従って、融合位置に配置された第2反応管C2内においてエキソソームとリポソームとを整列させるために、融合位置に配置された第2反応管C2にエネルギーを印加する。エネルギーとしては、エキソソームとリポソームとを整列させる効果を有するものであれば手段を限定しないが、交流電場が望ましい。
このように、エキソソームとリポソームとが接近した状態においてエキソソームとリポソームとにエネルギーを印加することで、エキソソームとリポソームとが融合する。エネルギーとしては、電気エネルギーや音響エネルギー等の如何なるエネルギーでも良い。融合後の脂質膜小胞を融合膜小胞と呼ぶことにする。エキソソームとリポソームとが融合されることにより、逆転写酵素によるmiRNAを鋳型としたcDNA合成反応が開始される。cDNA合成反応により、融合膜小胞内において、miRNAに相補的なcDNAが合成される。
促進用エネルギー印加部37は、合成・破砕用テーブル31上の促進位置に隣接してステージ37内に設けられている。促進位置は、融合位置から第2反応管C2の移動方向に沿って所定距離だけ離れた位置に位置決めされる。具体的には、促進用エネルギー印加部37は、機構制御部3による制御に従って、促進位置に配置された第2反応管C2内におけるcDNA合成反応を促進するために、促進位置に配置された第2反応管C2にエネルギーを与える。具体的には、促進用エネルギー印加部37は、ヒーター等の熱発生装置からなる。この場合、促進用エネルギー印加部37は、機構制御部3による制御に従って、促進位置に配置された第2反応管C2内をcDNA合成に適した温度に調整するために、促進位置に配置された第2反応管C2に熱エネルギーを与える。また、促進用エネルギー印加部37は、cDNA合成反応をさらに促進するために超音波発生装置を含んでいても良い。この場合、超音波発生装置は、合成・破砕用テーブル31のうちの、促進位置に配置された第2反応管C2の底面近傍に取り付けられる。この状態において超音波発生装置は、機構制御部3による制御に従って、促進位置に配置された第2反応管C2に超音波を照射する。なお、cDNA合成反応の促進手段は、超音波発生装置のみに限定されず、電場発生装置であってもよい。
破砕用エネルギー印加部39は、合成・破砕用テーブル31上の破砕位置に隣接してステージ9内に設けられている。破砕位置は、促進位置から第2反応管C2の移動方向に沿って所定距離だけ離れた位置に位置決めされる。具体的には、破砕用エネルギー印加部39は、機構制御部3による制御に従って、破砕位置に配置された第2反応管C2内の融合膜小胞を破砕するために、融合位置に配置された第2反応管C2にエネルギーを印加する。エネルギーとしては、電気エネルギーや音響エネルギー等の如何なるエネルギーでも良い。また、第2反応管C2に界面活性剤を添加することにより融合膜小胞を破砕しても良い。
融合膜小胞が破砕されることにより、第2反応管C2内の溶出液に融合膜小胞からcDNAが流出する。以下、cDNAを含む溶出液をcDNA溶液と呼ぶことにする。
cDNA溶液搬送アーム41は、cDNA溶液搬送プローブ41pを装備している。cDNA溶液搬送アーム41は、機構制御部3による制御に従って、上下動及び円周状の回動軌道に沿って回動する。また、cDNA溶液搬送アーム41は、機構制御部3による制御に従って、cDNA溶液搬送プローブ41pによりcDNA溶液を吸入及び吐出する。cDNA溶液プローブ41pの回動経路と合成・破砕用テーブル31とが交差する位置は、cDNA溶液吸入位置に設定される。cDNA溶液プローブ41pの回動経路と後述のcDNA溶液保持板51とが交差する位置は、cDNA溶液吐出位置に設定される。
第2反応管洗浄部27−2は、合成・破砕用テーブル31の第2反応管洗浄位置に隣接してステージ9上に設けられている。第2反応管洗浄部27−2は、第1反応管洗浄部27−1と略同一の構造を有している。従って、第2反応管洗浄部27−2についての詳細な構成の説明については省略する。
cDNA検出部50は、cDNAを増幅及び検出する。本実施形態においてcDNA検出部50は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応:Polymerase Chain Reaction)法やICAN(isothermal and chimeric primer initiated amplification of nucleic acids)法等によりcDNAを増幅及び検出する。以下の説明を具体的に行うため、cDNA検出部50は、PCR法、特に定量PCR法(リアルタイムPCR法)によりcDNAを増幅及び検出するものとする。
定量PCR法の実行のため、cDNA検出部50は、cDNA溶液保持板51、プレート搬送部53、PCR試薬アーム55、PCR用温度調節部57、及び蛍光検出部59を備えている。
cDNA溶液保持板51は、cDNA溶液を収容可能な複数の収容部CWを有する板状構造物である。具体的には、cDNA溶液保持板51は、cDNA溶液を収容可能な複数の窪み(以下、ウェルと呼ぶ)CWを有するマルチウェルプレートである。以下、cDNA溶液保持板51をマルチウェルプレート51と呼ぶことにする。例えば、マルチウェルプレート51には、複数のウェルCWが2次元状に配列されている。cDNA溶液吐出位置に配置されたウェルCWには、cDNA溶液搬送アーム41によりcDNA溶液が吐出される。マルチウェルプレート51は、既存のものが用いられれば良い。
プレート搬送部53は、機構制御部3からの制御に従って、マルチウェルプレート51を直線的に移動し、PCR用温度調節部57の上部に配置する。具体的には、プレート搬送部53は、プレート搬送機構と駆動装置とからなる。プレート搬送機構は、マルチウェルプレート51を直線的に往復移動可能に支持している。駆動装置は、機構制御部3からの制御に従って駆動し、マルチウェルプレート51を直線的な移動経路に沿って移動し、マルチウェルプレート51をPCR用温度調節部57の上部に配置する。
PCR試薬アーム55は、マルチウェルプレート51のプレート搬送部53に隣接してステージ9上に設けられる。PCR試薬アーム55は、PCR溶液を吸入及び吐出するための複数のPCR溶液プローブ55pを装備している。複数のPCR試薬プローブ55pの鉛直下は、PCR試薬吐出位置に設定される。PCR試薬は、PCR反応によりmiRNAを増幅するための物質を含む溶液である。PCR試薬は、測定対象のmiRNA毎に用意される。PCR試薬は、DNAポリメラーゼ、dNTP、緩衝液、及び測定対象のmiRNAに応じたプローブ(DNA分子)のセットを含んでいる。さらに、PCR試薬は、cDNAの検出のための蛍光色素を含んでいてもよい。PCR試薬アーム55は、機構制御部3による制御に従って、複数のPCR試薬プローブ55pにより、PCR試薬吐出位置に配置された複数のウェルCWにPCR溶液を吐出する。
PCR用温度調節部57は、マルチウェルプレート51の移動方向に沿ってプレート搬送部53に隣接してステージ9の内部に設けられている。PCR用温度調節部57は、機構制御部3による制御に従って熱エネルギーを発生し、ウェルCW内のcDNAがPCR反応を起こすようにマルチプレート51の温度を段階的に変化させる。具体的には、PCR用温度調節部57は、ヒーター装置により実現される。
蛍光検出部59は、PCR用温度調節部57の近傍に設けられる。蛍光検出部59は、機構制御部3による制御に従って、ウェルCW内のcDNAを光学的に検出する。検出結果は、計算部4に転送される。具体的には、蛍光検出部59は、蛍光励起用の光源と光検出器とを装備している。光源は、励起光を発生する。励起光が照射されるとcDNAは蛍光を発生する。光検出器は、発生された蛍光を検出する。例えば、光検出器は、蛍光を検出可能な複数の光検出素子を有している。光検出素子としては、蛍光を検出可能なものであれば、光電子増倍管やフォトダイオード、CCD(charge coupled device)、CMOS(complementary metal-oxide semiconductor)等の如何なる素子でもよい。また、光検出器は、分光器であってもよい。しかしながら、以下の説明を具体的に行うため、光検出素子はCCDであり、光検出器は複数のCCDを備えるCCDカメラであるとする。CCDカメラは、ウェルCWがCCDカメラの撮像視野に含まれる位置に配置される。CCDカメラにより発生された画像データは、蛍光検出部59の検出結果として、計算部4に転送される。
以上で、定量分析機構2の構成についての説明を終了する。
次に、本実施形態に係る定量分析装置1の動作例について説明する。図5は、システム制御部8の制御のもとに行われる自動定量分析処理の大局的な流れを示す図である。システム制御部8は、オペレータにより操作部6を介して開始指示がなされたことを契機として、自動定量分析処理を開始する。まず、システム制御部8は、機構制御部3に前処理工程を実行させる(ステップSA)。前処理工程において機構制御部3は、前処理部10を制御し、検体から測定対象のmiRNAを含むエキソソームを単離する。ステップSAが行われるとシステム制御部8は、機構制御部3に融合工程を実行させる(ステップSB)。融合工程において機構制御部3は、単離されたエキソソームとリポソームとを融合し、融合膜小胞を生成する。融合膜小胞が生成されることにより、融合膜小胞内においてmiRNAに相補的なcDNAの合成反応が開始される。ステップSBが行われるとシステム制御部8は、機構制御部3に破砕工程を実行させる(ステップSC)。破砕工程において機構制御部3は、cDNAを封入する融合膜小胞を破砕し、融合膜小胞からcDNAを抽出する。ステップSCが行われるとシステム制御部8は、機構制御部3に検出工程を実行させる(ステップSD)。検出工程において機構制御部3は、cDNAを定量PCR反応により増幅及び検出する。ステップSDが行われるとシステム制御部8は、計算部4に定量分析工程を実行させる(ステップSE)。定量分析工程において計算部4は、cDNAの検出結果に基づいて測定対象のmiRNAの定量分析を行う。ステップSEが行われるとシステム制御部8は、本実施形態に係る自動定量分析処理を終了する。
次に、ステップSA〜SEまでの各工程について詳細に説明する。
図6と図7とは機構制御部3の制御のもとに実行される前処理工程(ステップSA)の典型的な流れを示す図である。図8は、前処理工程(ステップSA)の典型的な流れを模式的に示す図である。ステップSAにおいて機構制御部3は、前処理部10を制御し、前処理工程を実行する。前処理工程において機構制御部3は、前処理用テーブル11を所定期間毎に第1反応管CE一個分ずつ回動させる。例えば、前処理用テーブル11は、30秒毎に回動される。
前処理工程において、まず、機構制御部3は、サンプリングアーム15を制御する(ステップSA1)。ステップSA1においてサンプリングアーム15は、サンプリングプローブ15pにより検体吸入位置に配置されたサンプル管CWから検体を吸入し、サンプリングプローブ15pを前処理用テーブル11の検体吐出位置に回動し、検体吐出位置に配置された第1反応管C1に検体を吐出する。検体には、測定対象のmiRNAを含むエキソソームが含まれている。検体は、サンプリングプローブ15pにより適量が分取される。複数の検体を定量分析する場合、サンプリングアーム15は、前処理用テーブル11が回動する毎に検体の吸入及び吐出を繰り返す。
ステップSA1が行われると機構制御部3は、引き続き前処理用テーブル11を制御する(ステップSA2)。ステップSA2において前処理用テーブル11は、回動と停止とを交互に繰り返しながら、検体が収容された第1反応管C1を磁気ビーズ試薬吐出位置に配置する。
ステップSA2が行われると機構制御部3は、磁気ビーズ試薬アーム17を制御する(ステップSA3)。ステップSA3において磁気ビーズ試薬アーム17は、磁気ビーズ試薬プローブ17pにより磁気ビーズ試薬位置に配置された第1反応管C1に磁気ビーズ試薬を吐出する。これにより第1反応管C1内に検体と磁気ビーズ試薬とが収容される。磁気ビーズ試薬は、磁気ビーズが分散されている懸濁液である。図8の(a)に示すように、磁気ビーズ201の表面には複数の抗体(抗エキソソーム特異的タンパク質抗体)203が人工的に固定されている。抗エキソソーム特異的タンパク質抗体203は、エキソソーム101の表面に提示されたエキソソーム特異的タンパク質107に特異的に結合可能なタンパク質である。例えば、エキソソーム101が腫瘍由来の場合、エキソソーム101の表面にはEpCAM等の腫瘍特異的タンパク質107が提示されている。
ステップSA3が行われると機構制御部3は、引き続き前処理用テーブル11を制御する(ステップSA4)。ステップSA4において前処理用テーブル11は、回動と停止とを交互に繰り返しながら、磁気ビーズ試薬が収容された第1反応管C1を攪拌位置に配置する。
ステップSA4が行われると機構制御部3は、磁気式攪拌部(電磁石板)19を制御する(ステップSA5)。ステップSA5において、攪拌位置を挟む一対の電磁石板19は、機構制御部3の制御の下に交互に繰り返し磁場を発生する。具体的には、内側の電磁石板19が磁場を発生し、かつ、外側の電磁石板19が磁場を発生しないように、あるいは、内側の電磁石板19が磁場を発生せず、かつ、外側の電磁石板が磁場を発生するように、機構制御部3は一対の電磁石板19の磁場のONとOFFとを切替える。ONとOFFとの切替えは、10Hz程度の周波数で行われるとよい。一対の電磁石板19から交互に磁場が発生することにより、第1反応管C1内の磁気ビーズが泳動する。磁気ビーズの泳動により第1反応管C1内の混合液が攪拌する。混合液の攪拌により、図8の(b)に示すように、磁気ビーズ201とエキソソーム101とが接近し、エキソソーム101が磁気ビーズ201に吸着する。より詳細には、エキソソーム101の表面に提示されたエキソソーム特異的タンパク質107と磁気ビーズ201の表面に提示された抗エキソソーム特異的タンパク質抗体203とが結合する。多くのエキソソーム101を磁気ビーズ201に吸着させるために、第1反応管C1は、例えば、10分等、比較的長時間かけて攪拌位置を通過するとよい。
ステップSA5が行われると機構制御部3は、引き続き前処理用テーブル11を制御する(ステップSA6)。ステップSA6において前処理用テーブル11は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第1反応管C1を洗浄位置に配置する。より詳細には、まず、洗浄位置の吸着位置に反応管が配置される。図8の(c)に示すように、吸着位置における前処理用テーブル11の壁面には磁気ビーズ吸着磁石29mが設けられている。吸着位置に第1反応管C1が配置されると、磁気ビーズ吸着磁石29mからの磁場により磁気ビーズ201が第1反応管C1の壁面に引き寄せられる。これにより、第1反応管C1内の磁気ビーズ201とエキソソーム101との結合体301が他の不用な成分から分離される。不用な成分は、例えば、エキソソーム以外の血清や血漿等である。
ステップSA6が行われると機構制御部3は、磁気ビーズ洗浄部21を制御する(ステップSA7)。ステップSA7において磁気ビーズ洗浄部21は、廃液プローブ29hにより、吸着位置に配置された第1反応管C1内のエキソソーム―磁気ビーズ結合体以外の他の不用な成分を廃棄する。結合体は、磁気ビーズ吸着磁石29mからの磁場により第1反応管C1の内壁に引き寄せられているので、エキソソーム―磁気ビーズ結合体を誤って廃棄することを防止できる。なお、廃棄後においても、不用な他の成分(残渣成分)がエキソソーム―磁気ビーズ結合体に付着している可能性は十分にある。
ステップSA7が行われると機構制御部3は、引き続き前処理用テーブル11を制御する(ステップSA8)。ステップSA8において前処理用テーブル11は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第1反応管C1を洗浄位置内の洗浄液吐出位置に配置する。なお、洗浄液吐出位置は、磁気ビーズ吸着磁石29mからの磁場の影響を受けない位置に設定されている。
ステップSA8が行われると機構制御部3は、磁気ビーズ洗浄部21を制御する(ステップSA9)。ステップSA9において磁気ビーズ洗浄部21は、洗浄液吐出プローブ29sにより、洗浄液吐出位置に配置された第1反応管C1内に洗浄液を吐出する。洗浄液は、エキソソーム―磁気ビーズ結合体から残渣成分を引き離すための液体である。洗浄液は、界面活性剤などエキソソームを破壊する成分を含まず、タンパク質の除去効果を有するものが望ましい。具体的には、中性のリン酸緩衝液などが望ましい。
ステップSA9が行われると機構制御部3、引き続き前処理用テーブル11を制御する(ステップSA10)。ステップSA10において前処理用テーブル11は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第1反応管C1を洗浄位置内の攪拌位置に配置する。
ステップSA10が行われると機構制御部3は、磁気ビーズ洗浄部21を制御する(ステップSA11)。ステップSA11において磁気ビーズ洗浄部21は、攪拌機構29kにより、攪拌位置に配置された第1反応管C1内の洗浄液を攪拌する。これにより洗浄液内において残渣成分とエキソソーム―磁気ビーズ結合体とが分散される。
第1反応管C1内から残渣成分をできるだけ除去するために、ステップSA6〜SA11の磁気ビーズ洗浄部21による洗浄工程は、設置されている磁気ビーズ洗浄部21の数だけ繰り返される。
図7に示すように、ステップSA11が行われると機構制御部3は、引き続き前処理用テーブル11を制御する(ステップSA12)。ステップSA12において前処理用テーブル11は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第1反応管C1を溶出位置内の吸着位置に配置する。前述のように、吸着位置における前処理用テーブル11の壁面には磁気ビーズ吸着磁石29m−3が設けられている。吸着位置に第1反応管C1が配置されると、磁気ビーズ吸着磁石29m−3からの磁場により磁気ビーズが第1反応管C1の壁面に引き寄せられる。これにより、第1反応管C1内のエキソソーム―磁気ビーズ結合体が残渣成分から分離される。
ステップSA12が行われると機構制御部3は、エキソソーム溶出部23を制御する(ステップSA13)。ステップSA13においてエキソソーム溶出部23は、廃液プローブ29h−3により、吸着位置に配置された第1反応管C1内のエキソソーム―磁気ビーズ結合体以外の残渣成分を廃棄する。
ステップSA13が行われると機構制御部3は、引き続き前処理用テーブル11を制御する(ステップSA14)。ステップSA14において前処理用テーブル11は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第1反応管C1を溶出位置内の溶出液吐出位置に配置する。なお、溶出液吐出位置は、磁気ビーズ吸着磁石29mからの磁場の影響を受けない位置に設定されている。
ステップSA14が行われると機構制御部3は、エキソソーム溶出部23を制御する(ステップSA15)。ステップSA15においてエキソソーム溶出部23は、溶出液プローブ29yにより、溶出液吐出位置に配置された第1反応管C1内に溶出液を吐出する。溶出液は、磁気ビーズからエキソソームを溶出するための緩衝液である。溶出液は、界面活性剤などエキソソームを破壊する成分を含まず、磁気ビーズに結合された抗体からエキソソームを解離させる効果を有するものが望ましい。例えば、溶出液としては酸性緩衝液などが用いられる。図8の(d)に示すように、緩衝液により第1反応管C1内の溶液のpHが変化し、抗エキソソーム特異的タンパク質抗体203とエキソソーム特異的タンパク質107との結合力が弱まり、磁気ビーズ201とエキソソーム101とが分離する。
ステップSA15が行われると機構制御部3は、引き続き前処理用テーブル11を制御する(ステップSA16)。ステップSA16において前処理用テーブル11は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第1反応管C1を溶出位置内の攪拌位置に配置する。
ステップSA16が行われると機構制御部3は、エキソソーム溶出部23を制御する(ステップSA17)。ステップSA17においてエキソソーム溶出部23は、攪拌機構29k−3により、攪拌位置に配置された第1反応管C1内の溶出液を攪拌する。攪拌により磁気ビーズからのエキソソームの溶出が促進される。なお、磁気ビーズ表面の抗体の非特異反応を抑制するため、前処理用テーブル11において第1反応管C1が4〜10℃に調整されていると良い。
ステップSA17が行われると機構制御部3は、引き続き前処理用テーブル11を制御する(ステップSA18)。ステップSA18において前処理用テーブル11は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第1反応管C1をエキソソーム吸入位置に配置する。なお、図4に示すように、エキソソーム吸入位置の近傍には、磁石29m−4が設置されている。磁石29m−4から発生される磁場によりエキソソーム吸入位置に配置された第1反応管C1の壁面に磁気ビーズが引き寄せられる。これにより磁気ビーズとエキソソームとが第1反応管C1内において分離される。
ステップSA18が行われると機構制御部3は、エキソソーム搬送アーム25を制御する(ステップSA19)。ステップSA19においてエキソソーム搬送アーム25は、エキソソーム搬送プローブ25pによりエキソソーム吸入位置に配置された第1反応管C1からエキソソームを含む溶出液(以下、エキソソーム溶液と呼ぶ)を所定量だけ吸入し、エキソソーム搬送プローブ25pを合成・破砕用テーブル31のエキソソーム吐出位置に回動し、エキソソーム吐出位置に配置された第2反応管C2にエキソソーム溶液を吐出する。
以上で前処理部10による前処理工程が終了する。その後、第1反応管C1は、第1反応管洗浄部27−1により洗浄され、再び初期位置に戻る。そして再び、サンプリングアーム15により第1反応管C1に検体が分注される。
前述のように、本実施形態において前処理部10は、磁気ビーズと磁石とを利用して検体からのエキソソームを単離するとした。これにより大型の遠心分離器を用いることなくエキソソームを単離することを実現している。しかしながら、エキソソームの単離手段は、単離されたエキソソームが破壊されなければ、磁気ビーズと磁石とを用いる方法に限定されない。例えば、前処理部10は、限外ろ過膜、クロマトグラフ、遠心分離器等により検体からエキソソームを単離しても良い。
なお、検体からエキソソームを単離する必要がない場合、前処理部10は不用である。例えば、人為的に検体から単離されたエキソソームを用意し、このエキソソームをエキソソーム搬送アーム25により第2反応管C2に分注してもよい。
次に、機構制御部3による制御のもとに合成・破砕部30により行われる融合工程の詳細について説明する。図9は機構制御部3の制御のもとに実行される融合工程(ステップSB)の典型的な流れを示す図である。図10は、合成・破砕部30による融合工程(ステップSB)と破砕工程(ステップSC)との典型的な流れを模式的に示す図である。
なお、以下の説明を具体的に行うため、融合用エネルギー印加部35と破砕用エネルギー印加部39とが印加するエネルギーは、電気エネルギーであるとする。この場合、図10に示すように、各第2反応管C2の両側面には、一対の電極C2eが取り付けられている。一対の電極C2eは、後述する融合膜小胞の合成や破砕の際に利用される。電極C2eは、各第2反応管C2の外壁に露出されている。
ステップSBにおいて機構制御部3は、合成・破砕部30を制御し、融合工程を実行する。融合工程において機構制御部3は、合成・破砕用テーブル31を所定期間毎に第2反応管C2一個分ずつ回動させる。例えば、合成・破砕用テーブル31は、30秒毎に回動される。
融合工程において、まず、機構制御部3は、合成・破砕用テーブル31を制御する(ステップSB1)。ステップSB1において合成・破砕用テーブル31は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第2反応管C2をリポソーム試薬吐出位置に配置する。
ステップSB1が行われると機構制御部3は、リポソーム試薬アーム33を制御する(ステップSB2)。ステップSB2においてリポソーム試薬アーム33は、図10の(a)に示すように、リポソーム試薬プローブ33pにより、リポソーム試薬吐出位置に配置された第2反応管C2に、リポソーム401を含むリポソーム試薬403を吐出する。これにより第2反応管C2内にエキソソーム溶液111とリポソーム試薬403との両方が収容される。前述のように、リポソーム試薬403は、リポソーム401と緩衝液との混合液である。リポソーム試薬403は、miRNAを分解するRNaseを含まないように生成される。
図11は、本実施形態に係るリポソーム401の断面を模式的に示す図である。リポソーム401の内側には、逆転写酵素405、プライマー(DNA断片)407、デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP:deoxyribonucleotide triphosphate)、及び緩衝液が封入されている。典型的には、リポソーム410は、リン脂質から人工的に再構成される。逆転写酵素405は、miRNAからcDNAを合成するための酵素である。プライマー407は、miRNAを鋳型としたcDNAの合成の開始点となるオリゴヌクレオチドである。本実施形態に係るプライマー407としては、如何なる構造のものも適用可能である。しかし、本実施形態においてはプローブ407としてステムループ・プライマーが利用されることが望ましい。その理由は後述する。dNTPは、例えば、アデニン、グアニン、シトシン、及びチミンの4種類の塩基のヌクレオチド三リン酸である。緩衝液は、例えば、リポソーム401内の逆転写酵素405、ステムループ・プライマー407、及びdNTPを保護するためにpHを一定に保つために利用される。さらに、リポソーム401の内側には、エキソソーム内のmiRNA結合タンパク質を不活性化させるための界面活性剤409が内包されてもよい。
図11に示すように、リポソーム401の膜成分は、エキソソームとリポソーム401との接近を促進するために、少なくとも外膜が正電荷を帯びていると良い。あるいは、図12に示すように、リポソーム201の表面にエキソソームを特異的に認識する抗エキソソーム特異的タンパク質抗体203を結合してもよい。例えば、エキソソームが腫瘍由来の場合、抗エキソソーム特異的タンパク質抗体203は抗EpCAM抗体であると良い。また、エキソソームとの融合の障壁を失くすため、リポソーム401の膜構造はシングルラメラ構造(脂質二分子膜)であり、膜厚はエキソソームと略同じ3〜6nmであると良い。理由は後述するが、リポソーム401は、エキソソームに比して十分に大きく生成されると良い。
ステップSB2が行われると機構制御部3は、引き続き合成・破砕用テーブル31を制御する(ステップSB3)。ステップSB3において合成・破砕用テーブル31は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第2反応管C2を攪拌位置に配置する。
ステップSB3が行われると機構制御部3は、攪拌機構29k−4を制御する(ステップSB4)。ステップSB4において攪拌機構29k−4は、攪拌子により、攪拌位置に配置された第2反応管C2内のエキソソーム溶液とリポソーム試薬溶液とを攪拌する。
ステップSB4が行われると機構制御部3は、引き続き合成・破砕用テーブル31を制御する(ステップSB5)。ステップSB5において合成・破砕用テーブル31は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第2反応管C2を融合位置に配置する。
ステップSB5が行われると機構制御部3は、融合用エネルギー印加部35を制御する(ステップSB6)。ステップSB6において融合用エネルギー印加部35は、融合位置に配置された第2反応管C2に交流電場を印加し、第2反応管C2内においてエキソソームとリポソームとを整列させる。具体的には、融合用エネルギー印加部35は、図10の(b)に示すように、一対の電極接点35cと電力発生器35eとを有している。一対の電極接点35cは、融合位置における合成・破砕用テーブル31の壁面に、第2反応管C2に設けられた一対の電極板C2eに接触するように取り付けられている。融合位置に第2反応管C2が配置されると、電極板C2eと電極接点35cとが接触する。一対の電極接点35cは、配線を介して電力発生器35eに接続されている。電力発生器35eは、機構制御部3による制御に従って、電力を発生する。これにより、一対の電極接点35cの間に電場が与えられる。ステップSB6において電力発生器35eは、図10の(b)に示すように、機構制御部3の制御に従って、一対の電極板C2eの間に交流電場を付加する。エキソソーム101とリポソーム401とは、電気粘性効果により電場に沿って接近し整列する。
前述のようにエキソソームとリポソームとは異なる大きさを有している。大きさの異なるエキソソームとリポソームとを整列させるため、誘電泳動がおこらないように、電場は空間的に均一である。そのため、電極板C2eは、電極板C2e間距離に比して十分な面積を有する平行電極板であることが望ましい。例えば、電極板C2e間に付加される電場の交流周波数は、例えば、500〜1000kHzであり、電場の強さは10V/mm程度に設定されると良い。エキソソームの表面には、負電荷を帯びた脂質ホスファチジルセリンが存在する。従って、前述のように、リポソームの膜成分が正電荷を帯びている場合、エキソソームとリポソームとの接近及び吸着が促進される。また、リポソームの表面に抗エキソソーム特異的タンパク質抗体が結合されている場合も、エキソソームとリポソームとの接近及び吸着が促進される。
ステップSB6が行われると機構制御部3は、融合用エネルギー印加部35を制御する(ステップSB7)。ステップSB7において融合用エネルギー印加部35は、電気穿孔法(エレクトロポレーション)により、エキソソームとリポソームとを融合する。具体的には、融合用エネルギー印加部35の電力発生装置35eは、機構制御部3による制御に従って、図10の(c)に示すように、一対の電極板C2e間にパルス状の直流電場を印加する。パルス状の直流電場の印加により、エキソソーム101とリポソーム401との脂肪膜に孔が形成される。電極板C2e間に印加される電場は、エキソソーム101とリポソーム401とに可逆的な孔が形成される程度の強さに設定される。例えば、電場の強さ50〜100V/mm程度に設定され、パルス幅は50μsecに設定されるとよい。
エキソソームとリポソームとが接近した状態においてエキソソームとリポソームとの脂肪膜に孔が形成されると、エキソソームとリポソームとが融合し、融合膜小胞を形成する。融合過程において反応管内の外部溶液が融合膜小胞内に流入する可能性がある。外部溶液の流入を防止するため、例えば、外部溶液(すなわち、エキソソーム溶液及びリポソーム試薬)を融合膜小胞内の溶液(すなわち、エキソソーム内の溶液及びリポソーム内の溶液)よりも浸透圧が高い高張液にすると良い。
ステップSB7が行われると機構制御部3は、合成・破砕用テーブル31を制御する(ステップSB8)。ステップSB8において合成・破砕用テーブル31は、引き続き回動と停止とを交互に繰り返しながら第2反応管C2を合成促進位置に配置する。
ステップSB8が行われると機構制御部3は、促進用エネルギー印加部37を制御する(ステップSB9)。ステップSB9において促進用エネルギー印加部37は、合成促進位置に配置された第2反応管C2にエネルギーを与え融合反応やcDNA合成反応を促進させる。具体的には、図10の(d)に示すように、促進用エネルギー印加部37として、第2反応管C2に熱エネルギーを与えるヒーター装置(合成用ヒータ装置)等が利用される。第2反応管C2内の溶液をcDNA合成に適した温度、すなわち、50℃〜60℃に上昇させる。また、超音波発生装置により、促進位置の第2反応管C2の底面から超音波を照射してもよい。超音波の照射により第2反応管C2内の溶液内の種々の分子のブラウン運動が促進し、融合膜小胞501の生成が促進されたり、融合膜小胞501内におけるcDNA合成反応が促進されたりする。第2反応管C2は、十分な数のcDNAを合成するため、少なくとも10分間に亘って促進位置に曝されると良い。そのため、促進位置は、複数の反応管位置に設置されるとよい。合成・破砕用テーブル31は、第2反応管C2が促進位置を少なくとも10分かけて通り過ぎるよりに、回動と停止とを交互に繰り返す。
ステップSB7〜SB9において、融合膜小胞が生成されると、融合膜小胞の内部においてcDNAの合成反応が開始される。図13は、cDNAの合成反応を模式的に示す図である。図13の(a)に示すように、cDNA合成反応の開始前において、融合膜小胞の内部溶液には、miRNA103、逆転写酵素405、ステムループ・プライマー407、及び界面活性剤409が含まれる。融合膜小胞の内部溶液においてmiRNA103は、miRNA結合タンパク質105に結合された状態で存在する。すなわち、miRNA結合タンパク質105は、cDNA合成の阻害要因となる。miRNA結合タンパク質105を不活性化するために、リポソームに界面活性剤409が封入される。界面活性剤409は、図13の(b)に示すように、miRNA結合タンパク質105に結合し、miRNA結合タンパク質105からmiRNA103を引き離す。界面活性剤409としては、例えば、Tween20等が適当である。
エキソソーム内には測定対象のmiRNAの他に複数種類のタンパク質やmRNA(messenger RNA)が含まれている。融合膜小胞の内部溶液にも、エキソソームに由来するmRNAが含まれる可能性がある。従って、mRNAからcDNAが合成されることを防止することが望ましい。そのために、プライマーとしてステムループ・プライマー407が用いられると良い。ステムループ・プライマー407は、図13の(a)に示すように、立体構造を有し、3´末端が突出した構造を有する。この突出した塩基配列部分が相補配列の検出部位となる。すなわち、ステムループ・プライマー407には、相補配列が3´末端にあるRNAのみ結合可能である。mRNAや未成熟なmiRNAは3´末端にポリA配列を有している。従って、成熟したmiRNA103のみがステムループ・プライマー407に結合可能である。なお、リポソームに封入されるステムループ・プライマー407は、測定対象のmiRNA103に応じた塩基配列を有するものがプライマーライブラリから選択される。
図13の(b)に示すように、ステムループ・プライマー407にmiRNA103が結合すると、逆転写酵素405によりcDNAの合成反応が開始される。逆転写酵素405は、図13の(c)に示すように、miRNA103を鋳型として融合膜小胞内に存在するdNTPを次々に重合しcDNA601を合成する。なお、miRNA103の3´末端とステムループ・プライマー407の5´末端とは結合されない。結果的に、miRNA103の3´末端とcDNA601の5´末端とも結合されていない。従って、miRNA103とcDNA601との結合体に熱を加えることにより比較的容易にmiRNA103とcDNA601とを分離することができる。なお、miRNA103とcDNA601との分離は、後述するPCR反応の第一段階である熱変性工程で実施される。
以上で合成・破砕部30による融合工程が終了する。
なお、融合工程において、一個の融合膜小胞のもととなるエキソソームの個数とリポソームの個数との比率(以下、融合比率と呼ぶ)はランダムである。従って、融合膜小胞ごとに融合比率がばらついてしまう。融合比率のばらつきにより、融合膜小胞毎の内部溶液に占めるエキソソーム溶液とリポソーム試薬との濃度の比率がばらついてしまう。この濃度のばらつきを無視可能なように、本実施形態に係るリポソームは、エキソソームに比して十分に大きく生成されるとよい。エキソソームの直径は0.1μmである。従って、例えば、リポソームの直径が0.5μmの場合、リポソームの容積はエキソソームの容積に比して略125倍となる。また、リポソームの直径が2.0μmの場合、リポソームの容積はエキソソームの容積に比して略8000倍となる。このように、リポソームをエキソソームに比して十分に大きくなるよう生成することで、融合比率のばらつきに伴う融合膜小胞内のエキソソーム溶液とリポソーム試薬との濃度のばらつきを無視することができる。すなわち、本実施形態に係るリポソームの直径は、0.5μm〜2.0μm程度が望ましい。
前述のように、本実施形態においては、miRNAを含むエキソソームと、miRNAの逆転写に必要な物質を含むリポソームとを融合し、融合膜小胞内でcDNA合成反応を行っている。従って本実施形態によれば、RNaseによるmiRNAの分解を防止したうえで、miRNAに相補的なcDNAを合成することができる。
次に、機構制御部3による制御のもとに合成・破砕部30により行われる破砕工程の詳細について説明する。図14は、機構制御部3の制御のもとに実行される破砕工程(ステップSC)の典型的な流れを示す図である。ステップSCにおいて機構制御部3は、合成・破砕部30を制御し、破砕工程を実行する。破砕工程において機構制御部3は、引き続き合成・破砕用テーブル31を所定期間毎に第2反応管C2一個分ずつ回動させる。
破砕工程において、まず、機構制御部3は、合成・破砕用テーブル31を制御する(ステップSC1)。ステップSC1において合成・破砕用テーブルは、回動と停止とを交互に繰り返しながら第2反応管C2を破砕位置に配置する。
ステップSC1が行われると機構制御部3は、破砕用エネルギー印加部39を制御する(ステップSC2)。ステップSC2において破砕用エネルギー印加部39は、破砕位置に配置された第2反応管C2に直流電場を印加し、融合膜小胞を破砕し、融合膜小胞からcDNAを取り出す。具体的には、破砕用エネルギー印加部39は、図10の(e)に示すように、融合用エネルギー印加部35と同様に、一対の電極接点39cと電力発生器39eとを有している。一対の電極接点39cは、破砕位置における合成・破砕用テーブル31の壁面に、第2反応管C2に設けられた一対の電極板C2eに接触するように取り付けられている。破砕位置に第2反応管C2が配置されると、電極板C2eと電極接点39cとが接触する。一対の電極接点39cは、配線を介して電力発生器39eに接続されている。電力発生器39eは、機構制御部3による制御に従って電力を発生する。これにより、一対の電極接点39cの間に電場が与えられる。ステップSC2において電力発生器35eは、図10の(e)に示すように、機構制御部3の制御に従って、一対の電極板C2eの間に直流電場を付加する。ステップSC2における直流電場は、融合膜小胞501の破砕が目的なので、ステップSB7における直流電場よりも強度が高く設定される。このような直流電場の印加により、融合膜小胞501には不可逆的な多数の孔が形成され、形成された孔を介して融合膜小胞501からcDNAが漏出される。破砕用エネルギー印加部39において融合膜小胞を破砕後、さらにエネルギーを印加することで第2反応管C2内のcDNA溶液を攪拌し均質にする。また、物理的攪拌装置など他の攪拌手段を設けても良い。また、破砕用エネルギー印加部39は、電場エネルギー以外にも音響エネルギーなどを印加する装置であっても良い。
ステップSC2が行われると機構制御部3は、引き続き合成・破砕用テーブル31を制御する(ステップSC3)。ステップSC3において合成・破砕用テーブル31は、回動と停止とを交互に繰り返しながら第2反応管C2をcDNA溶液吸入位置に配置する。
ステップSC3が行われると機構制御部3は、cDNA溶液搬送アーム41を制御する(ステップSC4)。ステップSC4においてcDNA溶液搬送アーム41は、cDNA溶液搬送プローブ41pによりcDNA溶液吸入位置に配置された第2反応管C2からcDNA溶液を吸入し、cDNA溶液搬送プローブ41pをcDNA溶液吐出位置に回動し、cDNA溶液吐出位置に配置されたマルチウェルプレート51上のウェルCWにcDNA溶液を吐出する。この際、cDNA溶液は、測定対象となるmiRNAの数に応じて複数のウェルCWに等量ずつ吐出される。
以上で合成・破砕部30による破砕工程が終了する。その後、第2反応管C2は、第2反応管洗浄部27−2により洗浄され、再び初期位置に戻る。そして再び、エキソソーム搬送アーム25により第2反応管C2にエキソソーム溶液が分注される。
前述のように、本実施形態においては、融合膜小胞においてmiRNAを鋳型としてcDNAを合成し、融合膜小胞を破砕して融合膜小胞からcDNAを取り出している。cDNAは、miRNAとは異なりRNaseにより分解されないので、検出工程におけるRNase対策が不要となる。従って、cDNAを検出する場合、miRNAを直接的に検出する場合に比して、オペレータによる負担が軽減される。変形例として、融合膜小胞毎に検出工程を行うことも可能である。しかしながら、融合膜小胞の内部溶液の組成比は個別に異なっているため、融合膜小胞毎に検出結果が異なってしまう。一方、本実施形態は、複数の融合膜小胞を破砕してcDNAを取り出してcDNA溶液を生成する。このcDNA溶液を利用して検出工程を行う場合、各融合膜小胞の内部溶液の組成比が平均化される。従って、cDNA溶液を利用して検出工程を行う場合、融合膜小胞毎に検出工程を行う場合に比して、検出精度及び定量精度が向上する。
次に、機構制御部3による制御のもとにcDNA検出部50により行われる検出工程の詳細について説明する。図15は、機構制御部3の制御のもとに実行される検出工程(ステップSD)の典型的な流れを示す図である。ステップSDにおいて機構制御部3は、cDNA検出部50を制御し、検出工程を実行する。より詳細には、cDNA検出部50は、検出工程として定量PCR法を実行する。
図15に示すように、検出工程において機構制御部3は、まず、プレート搬送部53を制御する(ステップSD1)。ステップSD1においてプレート搬送部53は、マルチウェルプレート51を移動し、ウェルCWをPCR試薬吐出位置に配置する。
ステップSD1が行われると機構制御部3は、PCR試薬アーム55を制御する(ステップSD2)。ステップSD2においてPCR試薬アーム55は、複数のPCR試薬プローブ55pにより、PCR試薬吐出位置に配置された複数のウェルCWにPCR試薬を吐出する。
ここで、ウェルCWへのcDNA溶液とPCR試薬との分注について、図16を参照しながら説明する。図16に示すように、第2反応管C2内のcDNA溶液603は、複数のウェルCWに等量ずつ分注される。分注数は、測定対象のmiRNAの数に応じて変動する。また、一枚のマルチウェルプレート51の複数のウェルCWに、異なる第2反応管C2に収容された複数の検体に由来する複数のcDNA溶液603を分注することも可能である。この際、吐出位置と検体との対応関係は、システム制御部8により管理され、混合しないように制御される。また、PCR試薬アーム55により、複数のウェルCWにPCR試薬701が分注される。これによりウェル内には、cDNA溶液603とPCR試薬701とが収容される。以下、cDNA溶液603とPCR試薬701との混合液をPCR反応溶液と呼ぶことにする。異なるウェルCWにおいてPCR反応溶液の液量が同一になるようにcDNA溶液603とPCR試薬701とが分注される。PCR試薬701の吐出後、マルチウェルプレート51は、乾燥防止のためにシールされると良い。
ステップSD2が行われると機構制御部3は、プレート搬送部53を制御する(ステップSD3)。ステップSD3においてプレート搬送部53は、マルチウェルプレート51を移動し、マルチウェルプレート51をPCR用温度調節部57の上部に配置する。PCR用温度調節部57の上部がPCR反応位置をなす。
ステップSD3が行われると機構制御部3は、PCR用温度調節部57と蛍光検出部59とを個別に制御する(ステップSD4)。ステップSD4においてPCR用温度調節部57は、PCR反応位置に配置されたマルチウェルプレート51のウェルCW内のPCR反応溶液の温度を段階的に変化させ、PCR反応を実行する。PCR反応の1サイクルは、熱変性、アニーリング、及び伸長反応の3つの工程からなる。このサイクルを繰り返すことでcDNAを増幅する。熱変性工程においては、2本鎖cDNAが熱変性により二つの一本鎖cDNAに分離する。アニーリング工程においては、各cDNA鎖にプライマーセットが結合する。伸長反応においては、結合されたプライマーからDNAポリメラーゼにより新たなcDNA鎖が合成される。これらPCR反応の工程毎にウェルCW内の溶液の適切な温度が経験的に定められている。例えば、熱変性工程においては略95℃、アニーリング工程においては略50℃、伸長反応工程においては略70℃である。PCR用温度調節部57は、PCR反応の工程の各々について工程に応じた時間を割り当てている。例えば、熱変性工程には略1分、アニーリング工程には略2分、伸長反応工程には略3分が割り当てられる。PCR用温度調節部57は、熱変性工程、アニーリング工程、及び伸長反応工程の順番に、各工程に応じた時間に亘って各工程に応じた温度を保つようにウェルCW内の温度を調整する。
定量PCR反応中において、蛍光検出部59は、リアルタイムにcDNAを光学的に検出する。定量PCR法におけるcDNAの検出手段としては、大別してインターカレーター法と蛍光プローブ法等の蛍光色素を用いた蛍光検出手段がある。本実施形態においては、両者の何れの検出手段を採用しても良い。しかしながら、定量性がより高い蛍光プローブ法によりcDNAを検出することが望ましい。蛍光プローブ法を利用する場合、PCR試薬には、検出対象のcDNAに特異的な塩基配列を有する蛍光プローブが加えられる。蛍光プローブは、蛍光色素で修飾されたプローブで、蛍光色素は、プローブと結合した状態では蛍光を発しないように設計されている。PCR反応の実行中、鋳型のcDNAの中ほどに蛍光プローブが結合する。蛍光プローブは、伸長反応時に分解され、蛍光色素がプローブから遊離する。蛍光色素のプローブからの遊離時において、蛍光検出部59の光源からの励起光の曝露により蛍光が発生する。蛍光検出部59の光検出器(CCDカメラ)は、発生された蛍光を検出する。CCDカメラは、マルチウェルプレート51上の複数のウェル53を撮影視野に含むように配置されている。CCDカメラは、PCR反応中、機構制御部3による制御のもと一定時間間隔毎にマルチウェルプレート51を繰り返し撮影し、画像データを繰り返し生成する。生成された画像データは、計算部4に供給される。画像データの画素値は、蛍光強度に応じた値を有している。画像データは、蛍光強度の空間分布を表現する。
既定回数だけサイクルが終了すると機構制御部3は、PCR用温度調節部37と蛍光検出部39とを停止させる。サイクル数は、操作部6を介してオペレータにより任意に設定可能である。
以上でcDNA検出部50による検出工程が終了する。
前述のように、本実施形態においては、miRNAの逆転写反応により合成されたcDNAを検出することにより、測定対象のmiRNAを間接的に検出することができる。従って、本実施形態によれば、RNase対策を施すことなく、簡便にmiRNAを検出することができる。
次に、システム制御部8による制御のもとに計算部4により行われる定量分析工程の詳細について説明する。定量分析工程は、画像データがCCDカメラから供給される毎に実行されてもよいし、検出工程が終了したことを契機として実行されてもよいし、オペレータによる操作部6を介して開始指示がなされたことを契機として実行されてもよい。
定量分析工程において、計算部4は、画像データの画素値分布に基づいてウェルCW毎の蛍光強度を算出する。そして計算部4は、算出された蛍光強度に基づいて、PCR反応の開始時点におけるウェルCW内のPCR反応溶液に含有されるcDNA量を算出する。ここで、PCR反応の開始時点におけるウェルCW内のPCR反応溶液に含有されるcDNA量を初発のcDNA量と呼ぶことにする。cDNAの量は、miRNAの量に相関する。以下に、cDNA量、すなわち、miRNA量の算出原理について説明する。なおcDNA量(miRNA量)とは、cDNA(miRNA)の個数、cDNA(miRNA)の濃度、cDNA(miRNA)が占める体積、及びcDNA(miRNA)の重さを包括する表現であるとする。濃度は、重量パーセント濃度や体積パーセント濃度、モル濃度、規定度等の如何なる種類によるものであっても良い。
図17は、サイクル数に伴うcDNA量の増幅曲線を示す図である。計算部4は、サイクル毎に、各ウェルに含まれるPCR反応溶液内のcDNA量を算出する。計算部4は、算出されたcDNA量を、サイクル数が横軸に規定され、cDNA量が縦軸に規定された座標系にプロットし、cDNA量の増幅曲線を生成する。一般的に、cDNA量の増幅曲線は、図17に示すように、シグモイド曲線を描く。cDNA量が指数関数的に増加するまでに必要なサイクル数は、初発のcDNA量が多いほど少ない。初発のcDNA量の計算には、このようなPCRの増幅原理を利用する。具体的には、計算部4は、cDNA量が閾値Thに到達するまでのサイクル数(Ct値)を特定する。ここで、測定対象のmiRNAに関するCt値をtarと呼ぶことにする。計算部4は、特定されたサイクル数tarに基づいて初発のcDNA量を算出する。具体的には、計算部4は、予め作成された検量線にサイクル数tarを当てはめて、ウェル内の反応溶液に含まれるcDNA量(初発のcDNA量)、すなわち、miRNAを算出する。
図18は、初発のcDNA量の算出に利用される検量線を示す図である。図18に示すように、検量線は、Ct値が横軸に規定され、初発のcDNA量[log値]が縦軸に規定された座標系に描かれた直線である。検量線は、cDNA量が既知のコントロールにより得られたCt値に基づいて生成されている。計算部4は、検量線のデータを予め記憶している。計算部4は、測定対象のmiRNAに関するCt値tarに基づいて、検量線を利用して初発のcDNA量、すなわち、測定対象のmiRNAに関する初発のmiRNA量を算出する。算出された初発のmiRNA量は、表示部5により表示される。
以上で計算部4による定量分析工程が終了する。
前述のように、初発のmiRNA量は、PCR反応の初期段階においてウェルCW内のPCR反応溶液に含まれるmiRNA量を示す。検体に含まれる総miRNA量(すなわち、総エキソソーム量)は検体によって異なる。すなわち、初発のmiRNA量のみでは、測定の結果得られたmiRNA量の基準値に対する増加もしくは減少が判断できない。
そのために、本実施形態に係る定量分析装置1は、測定対象のmiRNAの量と同時に、エキソソーム中に含まれる指標分子の量を併せて測定するとよい。指標分子は、エキソソームに含まれる量が不変であるものが好ましい。例えば、指標分子として、miR−16やRNU62等のRNAが指標分子として適当である。
エキソソーム内には、測定対象のmiRNAの他にこれら指標分子が包含されている。この場合、指標分子に相補的なcDNAを生成するため、本実施形態に係るリポソームには、測定対象のmiRNAに相補的な塩基配列を有するプライマーの他に、指標分子に相補的な塩基配列を有するプライマーが封入される。これにより、融合膜小胞内において測定対象のmiRNAに相補的なcDNAとともに、指標分子に相補的なcDNAが合成される。破砕工程においては、融合膜小胞が破砕され、測定対象のmiRNAに相補的なcDNAと指標分子に相補的なcDNAとが混入されたcDNA溶液が生成される。このcDNA溶液は、測定項目に応じて複数のウェルCWに分注される。検出工程において、各ウェルCWに測定項目に応じたPCR溶液が吐出される。例えば、第1のウェルCWには、測定対象のmiRNAに相補的なcDNAに対応するプライマーセットやDNAポリメラーゼを含むPCR試薬が吐出される。第2のウェルCWには、指標分子に相補的なcDNAに対応するプライマーセットやDNAポリメラーゼを含むPCR試薬が吐出される。これにより、定量PCRにおいて、測定対象のmiRNAに相補的なcDNAと指標分子に相補的なcDNAとが異なるウェルCWにおいて個別に増幅される。そして、CCDカメラにより生成された画像データが繰り返し計算部4に転送される。
計算部4は、前述と同様の方法により、初発の測定対象のmiRNA量とともに、初発の指標分子量を算出する。そして計算部4は、初発の測定対象のmiRNA量と初発の指標分子量とに基づいてエキソソームに含まれる測定対象の相対的なmiRNA量を計算する。このようにして、臨床的に有用な、エキソソームに含まれる測定対象のmiRNA量の増減に関する情報が得られる。エキソソームに含まれる測定対象のmiRNA量は、表示部5により表示される。
測定対象とするmiRNA項目数は、必要に応じて任意の数に設定可能である。これらのプロファイルの解析により病変(例えば、腫瘍)の有無、組織の推定が可能になる。
以上で本実施形態に係る自動定量分析処理についての説明を終了する。
前述の通り、本実施形態に係る定量分析装置1は、合成・破砕用テーブル31、エキソソーム搬送アーム25、リポソーム試薬アーム33、融合用エネルギー印加部35、破砕用エネルギー印加部37、及びcDNA検出部50を有している。合成・破砕用テーブル31は、反応管C2を保持し、反応管C2を回動する。エキソソーム搬送アーム25は、合成・破砕用テーブル31上のエキソソーム溶液吐出位置に配置された反応管C2に測定対象のマイクロRNAを包含するエキソソームを吐出する。リポソーム試薬アーム33は、合成・破砕用テーブル31上のリポソーム試薬吐出位置に配置された反応管C2に、本実施形態に係るリポソームを吐出する。本実施形態に係るリポソームは、測定対象のマイクロRNAの逆転写のための逆転写酵素、プライマー、デオキシリボヌクレオチド三リン酸、及び緩衝液を含む溶液を内包する脂質膜小胞である。融合用エネルギー印加部35は、エキソソームとリポソームとからなる融合膜小胞を生成するために、反応管C2内のエキソソームと脂質膜小胞とにエネルギーを印加する。破砕用エネルギー印加部37は、融合膜小胞から測定対象のマイクロRNAの逆転写により合成された測定対象のマイクロRNAに相補的なcDNAを取り出すために、反応管C2内の融合膜小胞にエネルギーを印加する。cDNA検出部50は、取り出されたcDNAを検出する。
上記構成により、定量分析装置1は、RNaseにより分解されやすい測定対象のmiRNAを抽出せず、RNaseの影響を受けにくい脂質膜小胞中でcDNAを合成し、cDNAを検出することにより、miRNAを間接的に検出している。より詳細には、定量分析装置1は、本実施形態に係るリポソームとmiRNAを含むエキソソームとを融合している。本実施形態に係るリポソームは、測定対象のマイクロRNAの逆転写のための逆転写酵素、プライマー、デオキシリボヌクレオチド三リン酸、及び緩衝液を含み、RNaseeを含まない溶液を内包している。従って、リポソームとエキソソームとを融合することで、RNaseの存在しない環境下においてmiRNAからcDNAを合成することができる。従って、本実施形態によれば、RNaseによるmiRNAの分解の影響を最小にすることができる。これに伴い、RNase対策を施す必要がなくなる。さらに、定量分析装置1は、cDNA合成後のPCR反応においては、融合膜小胞を破砕し、融合膜小胞外の均一溶液を利用することで定量性を担保している。これにより、本実施形態によれば、RNaseの影響を排除しつつ定量性を確保することで操作を簡素化し、定量PCR法を一般的な検査室で実行することができる。
かくして、本実施形態によれば、エキソソーム中のmiRNAの定量分析におけるオペレータの負担の軽減が実現する。
なお、本実施形態に係る定量分析装置では、特にエキソソーム中のmiRNA定量方法について記述したが、本実施形態に係る定量分析装置はエキソソーム中の様々なRNA成分の定量に適用可能であり、本実施形態の測定対象はmiRNAに限定されるものではない。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。