JP2013124387A - 打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract


【課題】引張強さ900MPa以上の強度と優れた加工性(特に打ち抜き性)を兼ね備えた高強度熱延鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C :0.05%以上0.11%以下、Si:0.3%以下、Mn:0.5%未満、P :0.03%以下、S :0.005%以下、Al:0.1%以下、N :0.01%以下、B :0.0005%以上0.005%以下、Nb:0.01%以上0.25%以下、V :0.05%以上0.4%以下を、[Nb]/93+[V]/51 ≧ 0.0043([Nb]、[V]:各元素の含有量(質量%))を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相の面積率が95%以上、該フェライト相の平均結晶粒径が10μm以下であり、前記フェライト相の結晶粒内の炭化物の平均粒子径が10nm未満である組織とすることで、引張強さが900MPa以上であり打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板とする。
【選択図】 なし

Description

本発明は、自動車用部材の使途に有用な、引張強さ(TS):900MPa以上の高強度と優れた加工性(特に打ち抜き性)を兼ね備えた高強度熱延鋼板およびその製造方法に関する。
近年地球環境保全の観点から、CO2排出量の規制を目的として自動車業界全体で自動車の燃費改善が指向されている。自動車の燃費改善には、使用部材の薄肉化による自動車の軽量化が最も有効であるため、近年、自動車部品用素材としての高強度熱延鋼板の使用量が増加しつつある。一方、鋼板を素材とする自動車部品の多くは、プレス加工やバーリング加工等によって成形されるため、自動車部品用鋼板には高強度に加えて優れた加工性(打ち抜き性や伸びフランジ性など)を有することも要求される。
しかしながら、一般的に鉄鋼材料は高強度化に伴い延性が低下して加工性が劣化する。そのため、引張強さを900MPa以上にまで高強度化した鋼板では、所望の部品形状に成形加工する際、様々な支障をきたす。例えば、引張強さ:900MPa以上の鋼板に打ち抜き加工を施すと、打ち抜き穴端面において亀裂や段差、めくれ、はがれ等の発生が顕著となり、部品の疲労特性や寸法精度が低下する。また、このような打ち抜き穴端面の性状の劣化は、伸びフランジ性にも悪影響を及ぼす。
したがって、高強度熱延鋼板を自動車部品等に適用するうえでは、打ち抜き性や伸びフランジ性などの加工性を兼ね備えた高強度熱延鋼板の開発が必須となり、現在までに様々な技術が提案されている。
例えば、特許文献1では、鋼板組成を質量%で、C:0.010〜0.200%、Si:0.01〜1.50%、Mn:0.25〜3.00%、B:0.0002〜0.0030%をそれぞれ含有し、P:0.05%以下に制限し、更に、Ti:0.03〜0.20%、Nb:0.01〜0.20%、V:0.01〜0.20%、Mo:0.01〜0.20%のうちの何れか1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成とし、フェライトの大角結晶粒界へのCの偏析量とBの偏析量との合計を4〜10atms/nm2の範囲とする技術が提案されている。そして、この技術によると、析出強化元素であるTi、V、Nb、Moを添加して炭化物等を析出させることで鋼板強度を引張強さ:690MPa以上とし、しかも、Bおよび Cの粒界偏析量を制御することで極めて厳しい条件で打ち抜き加工を行った場合でも確実に端面の損傷を防止することができるとされている。
また、特許文献2では、鋼板組成を質量%で、C:0.015〜0.06%、Si:0.5%未満、Mn:0.1〜2.5%、P≦0.10%、S≦0.01%、Al:0.005〜0.3%、N≦0.01%、Ti:0.01〜0.30%、B:2〜50ppmを含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成とし、更に炭化物生成元素とCとの原子比を特定するとともに、鋼のγ/α変態温度を制御する元素であるSi、Mn、B、Moの含有量が所定の関係を満足するように規定し、フェライトとベイニティックフェライトの一方又は双方の面積率の合計が90%以上でありセメンタイトの面積率が5%以下である鋼板組織とする技術が提案されている。そして、この技術によると、伸びフランジ成形性、耐打ち抜き割れ性及び表面状態の全てが良好であり、引張強度が690MPa以上という高強度の熱延鋼板を安価に、安定して製造することができるとされている。
特開2008−266726号公報 特開2007−302992号公報
しかしながら、特許文献1で提案された技術では、Bおよび Cの粒界偏析量を制御する目的で巻取温度を低くする必要があるため、フェライト中に析出する炭化物の析出量が十分でなく、引張強さ900MPa以上の高強度鋼板は得られない。また、特許文献2で提案された技術では、その実施例が示すように、所望の鋼板特性を得るために固溶強化元素であるMnを0.5%以上添加する必要があることから、鋼板にMnの中心偏析が生じ易く、中心偏析部での打ち抜き端面の状態は著しく劣位となる。更に、特許文献2にも明記されているように、特許文献2で提案された技術では、鋼板の引張強さを850MPa超とした場合、打ち抜き端面の損傷を抑えることが極めて困難である。
以上のように、従来技術ではいずれも、引張強さが900MPa以上を有する鋼板ではMnの固溶強化を用いていることから、中心偏析による打ち抜き端面の性状の劣化が抑制できなかった。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、900MPa以上の引張強さを有し、加工性、特に打ち抜き性にも優れた高強度熱延鋼板を提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく、本発明者らは、加工性が良好なフェライト単相組織である熱延鋼板に着目し、該熱延鋼板の高強度化と加工性、特に打ち抜き性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、従来、固溶強化元素として鋼板の高強度化に極めて有効であるとされ、高強度熱延鋼板に積極的に含有させていたMnが、鋼板の加工性、特に打ち抜き性や伸びフランジ性に悪影響を及ぼすことを知見した。また、鋼板に含まれるMnの中心偏析が打ち抜き性等の劣化の要因となっていること、更にこれらの偏析を抑制するうえではMn含有量を0.5%未満とする必要があることを知見した。
一方、固溶強化元素であるMn含有量の抑制に伴う鋼板強度の低減化は避けられない。そこで、本発明者らは、Mnによる固溶強化に代わる強化機構として、Nb炭化物、V炭化物ならびにNbとVの複合炭化物による析出強化を採用し、これらの炭化物を鋼板のマトリックスであるフェライト相に微細析出させることで、所望の鋼板強度(引張強さ:900MPa以上)とすることを試みた。また、フェライト相に析出させる炭化物が微細かつ析出量が多いほど鋼板強度の大幅な向上効果が期待できることから、炭化物の微細化を図る手段および十分な析出量を確保する手段について模索した。
その結果、上記炭化物は、鋼板製造時、熱間圧延終了後の冷却過程で析出するが、鋼板巻取り温度よりも高温域で析出する炭化物は粗大化し易い一方、炭化物を鋼板巻取り温度域で析出させると微細な炭化物が得られることが明らかになった。そして、Nb炭化物、V炭化物ならびにNbとVの複合炭化物は、熱間圧延終了後の冷却過程において鋼のオーステナイト→フェライト変態とほぼ同時に析出することから、鋼のオーステナイト→フェライト変態点を鋼板巻取り温度域に調整することで、微細な炭化物が得られることを知見した。
ここで、Mnは、鋼のオーステナイト→フェライト変態点を低下させる効果を有する元素であるが、先述のとおり鋼板に多量のMn(0.5%以上)を含有させると打ち抜き性や伸びフランジ性が低下してしまう。そこで、本発明者らは、Mn含有量を0.5%未満に抑制しつつ、鋼のオーステナイト→フェライト変態点を低下させる手段について検討した。その結果、鋼板に所定量のBを含有させ、更に鋼板の製造条件を規定することで、鋼板の諸特性を阻害することなく鋼のオーステナイト→フェライト変態点の低温化が可能であることを知見した。また、上記に加えてフェライト相の平均結晶粒径を10μm以下にすると、鋼板の打ち抜き性がより一層向上することを知見した。
更に、鋼板のマトリックスであるフェライト相の結晶粒内に析出する炭化物を、所望の鋼板強度(引張強さ:900MPa以上)が得られる程度に十分析出させるためには、炭化物形成元素(NbおよびV、或いは更にTi、W、Mo)の合計含有量を所定量以上とする必要があることを知見した。また、微細な炭化物を十分に析出させるためには、鋼板に添加する炭化物形成元素をNb単独ではなく、NbとVを複合添加することが極めて有効であることを知見した。
以上のように、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、打ち抜き端面の欠陥を安定して抑止するにはMnの中心偏析の発生を抑制することが重要であることが明らかになった。しかし従来は、鋼板のMn含有量を削減することにより炭化物粒子径が粗大化し、或いは固溶強化量が低減して鋼板が軟化することから、Mn量の低減は0.5%程度までしか行うことができず、引張強さ:900MPa以上の高強度かつ良好な打ち抜き性を有する鋼板はなかった。
このような従来技術が抱える問題に対し、本発明者らは、鋼板のMn含有量を0.5%未満とした場合であっても、鋼板に所定量のBを含有させることで、鋼板のマトリックスであるフェライト相の結晶粒内に平均粒子径が10nm未満の極めて微細な炭化物が析出可能であることを知見した。また、上記Bに加えて更に、炭化物形成元素(NbおよびV、或いは更にTi、W、Mo)の合計含有量を所定量以上とすることで、平均粒子径が10nm未満である微細な炭化物の析出量を十分に確保できることを知見した。そして、以上により、Mnの固溶強化を積極的に利用せずに鋼板強度を確保し、Mn量を低減することでMnの中心偏析の生成を防止できるため打ち抜き端面の性状が良好であり、さらに微細な炭化物を最大限生成せしめるべくBを添加することにより打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板が得られることを知見した。
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1] 質量%で、
C :0.05%以上0.11%以下、 Si:0.3%以下、
Mn:0.5%未満、 P :0.03%以下、
S :0.005%以下、 Al:0.1%以下、
N :0.01%以下、 B :0.0005%以上0.005%以下、
Nb:0.01%以上0.25%以下、 V :0.05%以上0.4%以下
を、NbおよびVが下記(1)式を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相の面積率が95%以上、該フェライト相の平均結晶粒径が10μm以下であり、前記フェライト相の結晶粒内の炭化物の平均粒子径が10nm未満である組織を有し、引張強さが900MPa以上であることを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。

[Nb]/93+[V]/51 ≧ 0.0043 ・・・ (1)
([Nb]、[V]:各元素の含有量(質量%))
[2] 前記[1]において、前記組成に加えてさらに、質量%でTi:0.01%以上0.13%以下、W :0.01%以上1.0%以下、Mo:0.01%以上0.5%以下のいずれか1種以上を、前記(1)式に代えて下記(2)式を満足するように含有することを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。

[Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96 ≧ 0.0043 ・・・ (2)
([Nb]、[V]、[Ti]、[W]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
[3] 前記[1]または[2]において、前記組成が、下記(3)式を満足することを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。

0.8≦([C]/12)/([Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96)≦1.5 ・・・ (3)
([C]、[Nb]、[V]、[Ti]、[W]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
[4] 前記[1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、REM、Zr、As、Cu、Ni、Sn、Pb、Ta、Cr、Sb、Mg、Ca、Co、Se、Zn、Cs、Ga、Ba、Srのうちの1種以上を合計で1.0%以下含有することを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。
[5] 前記[1]ないし[4]のいずれかにおいて、鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。
[6] 前記[5]において、前記めっき層が亜鉛めっき層であることを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。
[7] 前記[5]において、前記めっき層が合金化亜鉛めっき層であることを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。
[8] 鋼素材を加熱し、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、熱延鋼板とするにあたり、
前記鋼素材を、質量%で、
C :0.05%以上0.11%以下、 Si:0.3%以下、
Mn:0.5%未満、 P :0.03%以下、
S :0.005%以下、 Al:0.1%以下、
N :0.01%以下、 B :0.0005%以上0.005%以下、
Nb:0.01%以上0.25%以下、 V :0.05%以上0.4%以下
を、NbおよびVが下記(1)式を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成とし、
前記加熱の加熱温度を1100℃以上1350℃以下とし、前記仕上げ圧延の仕上げ圧延温度を850℃以上とし、前記冷却を仕上げ圧延終了後3秒以内に開始し、前記冷却の冷却速度を20℃/s以上とし、前記巻き取りの巻取り温度を550℃以上700℃以下とすることを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

[Nb]/93+[V]/51 ≧ 0.0043 ・・・ (1)
([Nb]、[V]:各元素の含有量(質量%))
[9] 前記[8]において、前記組成に加えてさらに、質量%でTi:0.01%以上0.13%以下、W :0.01%以上1.0%以下、Mo:0.01%以上0.5%以下のいずれか1種以上を、前記(1)式に代えて下記(2)式を満足するように含有することを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

[Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96 ≧ 0.0043 ・・・ (2)
([Nb]、[V]、[Ti]、[W]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
[10] 前記[8]または[9]において、前記組成が、下記(3)式を満足することを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

0.8≦([C]/12)/([Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96)≦1.5 ・・・ (3)
([C]、[Nb]、[V]、[Ti]、[W]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
[11] 前記 [8]ないし[10]のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、REM、Zr、As、Cu、Ni、Sn、Pb、Ta、Cr、Sb、Mg、Ca、Co、Se、Zn、Cs、Ga、Ba、Srのうちの1種以上を合計で1.0%以下含有することを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
[12] 前記[8]ないし[11]のいずれかにおいて、前記熱延鋼板の表面にめっき層を形成することを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
[13] 前記[12]において、めっき層が亜鉛めっき層であることを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
[14] 前記[12]において、めっき層が合金化亜鉛めっき層であることを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
本発明によると、自動車の構造部材等の使途に好適な、引張強さ:900MPa以上であり且つ打ち抜き性に優れた高強度鋼板が得られ、自動車部材の軽量化や自動車部材成形を可能とする等、その効果は著しい。また、本発明によると、加工性(打ち抜き性、伸びフランジ性)を兼ね備えた引張強さ:900MPa以上の高強度熱延鋼板が得られることから、高強度熱延鋼板の更なる用途展開が可能となり、産業上格段の効果を奏する。
熱延鋼板の打ち抜き端面性状(打ち抜き性)と穴拡げ率(伸びフランジ性)との関係を示す図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明鋼板の組織および炭化物の限定理由について説明する。
本発明の熱延鋼板は、フェライト相の面積率が95%以上、該フェライト相の平均結晶粒径が10μm以下であり、前記フェライト相の結晶粒内の炭化物平均粒子径が10nm未満である組織を有する。
フェライト相の面積率:95%以上
熱延鋼板のマトリックスは、加工性に優れたフェライト単相組織とすることが好ましい。先述のとおり、本発明では熱延鋼板のマトリックスであるフェライトの結晶粒内に微細な炭化物を析出させることで所望の鋼板強度を確保する。そのため、本発明では、鋼素材に添加したCを微細な炭化物として析出させる必要があるところ、セメンタイトのような粗大な炭化物が存在すると微細な炭化物を形成するC量が減じ、鋼板強度が低下する。更に、セメンタイトのような粗大な炭化物とフェライトとの界面ではミクロボイドが発生しやすいため、打ち抜き端面の性状が悪化する。
また、ベイナイト、マルテンサイトが形成されると、フェライト相との組織間の硬度差が大きくなり、組織間でミクロボイドが発生し易くなるため、前記と同様に打ち抜き性が低下する。以上の理由により、フェライト相の面積率が95%を下回ると、ミクロボイド発生による悪影響が顕在化して打ち抜き端面性状が劣化する、或いはフェライト結晶粒内の微細な炭化物の析出量が不足して所望の鋼板強度(引張強さ:900MPa)が得られない。したがって、本発明の熱延鋼板組織は実質的にフェライト単相、すなわちフェライト相の面積率を95%以上とする必要がある。好ましくは98%以上である。
なお、本発明の熱延鋼板において、マトリックスに含有され得るフェライト相以外の組織としては、セメンタイト、パーライト、ベイナイト相、マルテンサイト相等が挙げられる。これらの組織が、多量にマトリックス中に存在すると鋼板特性(打ち抜き性、伸びフランジ性等)が低下する。そのため、これらの組織は極力低減することが好ましいが、マトリックス組織全体に対する合計面積率が5%以下であれば許容される。好ましくは2%以下である。
フェライト相の平均結晶粒径:10μm以下
フェライト相の平均結晶粒径が10μmを上回ると、打ち抜き時の変形が不均一となり、打ち抜き端面での亀裂が生じ易くなることから打ち抜き性が低下する。そのため、フェライト相の平均結晶粒径の上限を10μmとする。好ましくは、8μm以下である。
フェライト結晶粒内の炭化物
上記のとおり、本発明の熱延鋼板では、打ち抜き性や伸びフランジ性に悪影響を及ぼす板厚中央部のMn偏析を抑制する目的で固溶強化元素であるMn含有量を低減するため、固溶強化による鋼板強度の向上化は期待できない。そこで、本発明の熱延鋼板では、強度を確保する上でフェライト相の結晶粒内に炭化物を微細析出させることが必須となる。本発明においてフェライト相の結晶粒内に微細析出させる炭化物としては、Nb炭化物、V炭化物、およびNbとVの複合炭化物、或いは更にTi、W、Moを炭化物中に含むものが挙げられる。なお、これらの炭化物の多くは、熱延鋼板製造工程における仕上げ圧延終了後の冷却過程で、オーステナイト→フェライト変態と同時に相界面析出する炭化物である。
フェライト結晶粒内の炭化物平均粒子径:10nm未満
本発明鋼では前記したNbやVなどの炭化物を微細に分散させることで強化を図っている。炭化物が粗大化すると、鋼板に変形が加わった際に生じる転位の運動を阻害する炭化物数が減じることから、炭化物が微細化するほど鋼板は高強度化する。引張強さ900MPa以上の高強度熱延鋼板を得るには、上記炭化物の平均粒子径を10nm未満とする必要がある。好ましくは6nm以下である。
次に、本発明熱延鋼板の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は、特に断らない限り質量%(mass%)を意味するものとする。
C :0.05%以上0.11%以下
Cは、NbやV、或いは更にTi、Mo、Wと結合し炭化物として鋼板中に微細分散する。すなわちCは、微細な炭化物を形成してフェライト組織を著しく強化させる元素であり、熱延鋼板を強化する上で必須の元素である。引張強さ900MPa以上の高強度熱延鋼板を得るには、C含有量を少なくとも0.05%以上とする必要がある。一方、C含有量が0.11%を超えると、大量のセメンタイトが析出する。そして、セメンタイトとマトリックス(フェライト)界面でミクロボイドが生成し易いことから、打ち抜き端面性状を著しく劣化させることとなる。したがって、C含有量は0.05%以上0.11%とする。好ましくは0.06%以上0.10%以下である。
Si:0.3%以下
Siは、延性(伸び)の低下をもたらすことなく鋼板強度を向上させる有効な元素として、従来の高強度鋼板では積極的に含有されている。しかしながら、Siは、鋼板表面に濃化し易く、この濃化により鋼板表面が部分的に硬化することから、鋼板の打ち抜き時にバリが発生し易くなり、打ち抜き性を劣化させる。したがって、本発明ではSi含有量を極力低減することが望ましいが、0.3%までは許容できるため、Si含有量の上限を0.3%とする。好ましくは0.1%以下である。なお、Si含有量は、不純物レベルまで低減してもよい。
Mn:0.5%未満
Mn含有量は、本発明において、重要な要件のひとつである。Mnは、固溶強化元素であり、Siと同様、従来の高強度鋼板では積極的に含有されている。しかしながら、Mnは、鋳造の際に不可避的な中心偏析を発生させる。そして、この中心偏析部分は非常に硬質かつ延性に劣るため、打ち抜き加工時に亀裂が発生し端面性状を劣化させる。そのため、本発明では、良好な打ち抜き端面性状を確保すべくMn含有量を極力低減し、0.5%未満とする必要がある。好ましくは0.4%以下である。なお、Mn含有量は不純物レベルまで低減してもよい。
P:0.03%以下
Pは、粒界に偏析して加工時に粒界割れの起点となり、打ち抜き端面の性状を劣化させる有害な元素であるため、極力低減することが好ましい。そこで、本発明では上記問題点を回避すべくP含有量を0.03%以下とする。好ましくは0.02%以下である。
S :0.005%以下
Sは、鋼中でMnSなどの介在物として存在する。この介在物は、鋼板の打ち抜き時に楔状に伸び変形が不均一となるため、打ち抜き性に著しい悪影響をもたらす。したがって、本発明では、S含有量を極力低減することが好ましく、0.005%以下とする。好ましくは0.003%以下である。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためには0.02%以上含有することが望ましいが、Al含有量が0.1%を超えるとアルミナなどの介在物による打ち抜き性への悪影響が顕在化する。したがって、Al含有量は0.1%以下とする。好ましくは0.08%以下である。
N :0.01%以下
Nは、製鋼の段階で炭化物形成元素であるNbやVなどと結合して粗大な窒化物を形成し、微細な炭化物の形成を阻害するため著しく鋼板強度を低下させる。また、粗大な窒化物は、鋼板の打ち抜き性をも低下させる。したがってN含有量は極力低減することが好ましく、0.01%以下とする。好ましくは0.008%以下である。
B :0.0005%以上0.005%以下
Bは、本発明において重要な元素である。先述のとおり本発明では、フェライト結晶粒内に析出する炭化物を微細化する目的で、熱間圧延終了後の冷却過程における鋼のオーステナイト→フェライト変態点を後述する巻取り温度の温度範囲に調整する必要があるため、Bを添加する。Mn含有量を低減した鋼について、そのオーステナイト→フェライト変態点を巻取り温度の上限である700℃まで下げるためにはB含有量を0.0005%以上とする必要がある。一方、B含有量が0.005%を超えると、上記変態点を制御する効果が飽和する。したがって、B含有量は0.0005%以上0.005%以下とする。好ましくは0.0008%以上0.003%以下である。
Nb:0.01%以上0.25%以下
Nbは、熱間圧延時にオーステナイトの再結晶を阻害することで、熱間圧延に続く冷却・巻取り工程においてオーステナイト→フェライト変態後のフェライト粒を細粒化するとともに、変態後にはフェライト粒内に微細な炭化物を形成することで鋼板の高強度化に寄与する。このような効果を得るには、Nb含有量を0.01%以上とする必要がある。一方、Nb含有量が0.25%を超えると、熱延鋼板を製造する際、熱間圧延前の鋼素材の加熱時に粗大なNb炭化物が完全に溶解せず、最終的に得られる(巻取り後の)熱延鋼板に粗大なNb炭化物が残存する。そして、この粗大なNb炭化物は、打ち抜き時でのミクロボイド発生の原因となり、鋼板の打ち抜き性の劣化を招く。したがって、Nb含有量は0.01%以上0.25%以下とする。好ましくは0.05%以上0.2%以下である。
V :0.05%以上0.4%以下
Vは、Nbと同様、Cと炭化物を形成して鋼板の高強度化に寄与する元素である。また、Vは、Nbと結合して微細な複合炭化物を形成するため、鋼板の高強度化に有効である。所望の鋼板強度(引張強さ:900MPa以上)を確保するためには、V含有量を0.05%以上とする必要がある。一方、V含有量が0.4%を超えると、熱延鋼板を製造する際、熱間圧延終後の巻取り時に炭化物が粗大化し易くなり、熱延鋼板が軟化する。したがって、V含有量は0.05%以上0.4%以下とする。このましくは0.05%以上0.35%以下である。
このように、本発明では、鋼中における溶解度の小さいNbを利用したうえ、更に溶解度の大きいVを効果的に複合添加することが重要である。本発明では、NbとVを複合添加することで引張強さが900MPa以上の熱延鋼板が得られるのであり、少なくともNb単独添加では微細炭化物の析出量を十分に確保して所望の鋼板強度とすることができない。
本発明の熱延鋼板は、NbおよびVを、上記した範囲で且つ(1)式を満足するように含有する。
[Nb]/93+[V]/51 ≧ 0.0043 ・・・ (1)
([Nb]、[V]:各元素の含有量(質量%))
上記(1)式は、熱延鋼板の引張強さを900MPa以上とするために満足すべき要件であり、本発明において重要な指標である。
先述のとおり、本発明においては熱延鋼板のマトリックスであるフェライト相の結晶粒内に微細な炭化物を析出させることで、所望の鋼板強度を確保する。ここで、微細な炭化物の析出量が多いほど鋼板強度が向上することから、本発明では、炭化物形成元素であるNbおよびVの合計含有量を所定量以上とし、鋼板に900MPa以上の引張強さを付与するに十分な微細炭化物析出量を確保する必要がある。
そこで、本発明者らは、鋼板に含まれる炭化物形成元素の原子%について検討し、これらの合計([Nb]/93+[V]/51)が0.0043以上であれば、引張強さ900MPa以上の熱延鋼板が得られることを知見した。したがって、本発明では、[Nb]/93+[V]/51の値を0.0043以上とする。好ましくは0.0045以上である。但し、[Nb]/93+[V]/51の値が0.011を超えると、上記のように熱間圧延前の鋼素材の加熱で粗大な炭化物を溶解することができず、NbおよびV添加による強度上昇の効果が飽和することが懸念されるため、上記値は0.011以下とすることが好ましい。
以上が、本発明における基本組成であるが、上記した基本組成に加えてさらにTi:0.01%以上0.13%以下、W :0.01%以上1.0%以下、Mo:0.01%以上0.5%以下のいずれか1種以上を、上記(1)式に代えて下記(2)式を満足するように含有してもよい。
[Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96 ≧ 0.0043 ・・・ (2)
([Nb]、[V]、[Ti]、[W]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
Ti、WおよびMoは、NbやVと共にCと結合して微細な複合炭化物を形成し、鋼板の高強度化に寄与する元素である。さらにTi、WおよびMoを含む炭化物は粗大化し難く、後述する700℃以下の巻取り温度域で鋼板の軟化を抑制する効果も期待できる。このような効果を得るには、Ti含有量を0.01%以上、W含有量を0.01%以上、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、W含有量が1.0%、Mo含有量が0.5%を超えると、熱延鋼板製造時、熱間圧延終了後の冷却過程においてオーステナイト→フェライト変態がコイル巻取り時に完了せず、フェライトの面積率を95%以上とすることが困難となり、熱延鋼板の打ち抜き性が低下するおそれがある。また、Ti含有量が0.13%を超えると粗大なTi炭化物やTiおよびNbを含有する炭化物が熱間圧延前の鋼素材の加熱時に溶解できなくなり、熱延鋼板強度が上昇しなくなる。したがって、Ti含有量は0.01%以上0.13%以下、W含有量は0.01%以上1.0%以下、Mo含有量は0.01%以上0.5%以下とすることが好ましい。また、Ti含有量は0.01%以上0.1%以下、W含有量は0.01%以上0.3%以下、Mo含有量は0.01%以上0.35%以下とすることがより好ましい。
また、前記のように、熱延鋼板に900PMa以上の引張強さを付与するに十分な微細炭化物析出量を確保するうえでは、炭化物形成元素の原子%の合計を0.0043以上とする必要がある。そこで、炭化物形成元素としてNbおよびVに加えてTi、WおよびMoのいずれか1種以上を含有させる場合には、これらの原子%の合計、すなわち[Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96の値を0.0043以上とする。好ましくは0.0045以上である。但し、[Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96の値が0.011を超えると、熱間圧延前の加熱時で粗大な炭化物を溶解することができなくなったり、フェライト変態が巻取工程で完了しなくなることが懸念されるため、上記値は0.011以下とすることが好ましい。
また、本発明の熱延鋼板は、C、NbおよびV、或いは更にTi、W、Moを、上記した範囲で且つ(3)式を満足するように含有することが好ましい。
0.8≦([C]/12)/([Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96)≦1.5 ・・・ (3)
([C]、[Nb]、[V]、[Ti]、[W]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
熱延鋼板に含まれる炭化物形成元素の合計原子%([Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96)に対するC原子%([C]/12)の比率が0.8を下回ると、炭化物形成元素が炭化物として十分に析出しない場合があり、900MPa以上の引張強さが得られなくなることが懸念される。一方、熱延鋼板に含まれる炭化物形成元素の合計原子%([Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96)に対するC原子%([C]/12)の比率が1.5を超えると、炭化物形成元素と結合しないCが粗大なセメンタイトを生成するおそれがある。そして、この粗大なセメンタイトは、鋼板変形時にミクロボイドの発生起点となり易いため、打ち抜き時に亀裂発生の要因となり、良好な打ち抜き性が得られなくなる場合がある。
したがって、([C]/12)/([Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96)の値は0.8以上1.5以下とすることが好ましい。より好ましくは0.9以上1.4以下である。なお、上記(3)式において([C]/12)/ ([Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96)の値を算出するに際し、熱延鋼板がTi、W、Moを含有しない場合には、[Ti]、[W]、[Mo]の値をゼロとして算出する。
また、上記した基本組成に加えて更にREM、Zr、As、Cu、Ni、Sn、Pb、Ta、Cr、Sb、Mg、Ca、Co、Se、Zn、Cs、Ga、Ba、Srのいずれか1種以上を合計で1%以下含有してもよい。なお、打ち抜き性の観点からは、これらの元素の含有量を合計で0.5%以下とすることが好ましい。上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。
引張強さ:900MPa以上
900MPa以上の引張強さを有する鋼板では、打ち抜き加工時のダレの発生量が引張強さ900MPa未満の鋼板よりも小さい。そのため、本発明では、熱延鋼板の引張強さの下限を900MPaとした。
本発明の熱延鋼板は、後述する巻取り温度の上限である700℃までの加熱処理を施しても材質変動が小さい。そのため、鋼板に耐食性を付与する目的で、本発明の熱延鋼板にめっき処理を施し、その表面にめっき層を具えることができる。めっき鋼板は、めっき処理における加熱温度が700℃以下でも製造可能であることから、本発明の熱延鋼板にめっき処理を施しても前記した本発明の効果を損なうことはない。めっき層の種類は特に問わず、電気めっき層、無電解めっき層のいずれも適用可能である。また、めっき層の合金成分も特に問わず、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層などが好適な例として挙げられるが、勿論、これらに限定されず従前公知のものがいずれも適用可能である。
次に、本発明の熱延鋼板の製造方法について説明する。
本発明は、上記した組成の鋼素材(鋼スラブ)を加熱し、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、熱延鋼板とする。この際、前記加熱の加熱温度を1100℃以上1350℃以下とし、前記仕上げ圧延の仕上げ圧延温度を850℃以上とし、前記冷却を仕上げ圧延終了後3秒以内に開始し、前記冷却の平均冷却速度を20℃/s以上とし、前記巻き取りの巻取り温度を550℃以上700℃以下とすることを特徴とする。
本発明において、鋼の溶製方法は特に限定されず、転炉、電気炉等、公知の溶製方法を採用することができる。また、真空脱ガス炉にて2次精錬を行ってもよい。その後、生産性や品質上の問題から連続鋳造法によりスラブ(鋼素材)とするのが好ましいが、造塊−分塊圧延法、薄スラブ連鋳法等、公知の鋳造方法でスラブとしても良い。なお、本発明においては、Mnを削減したことから700℃以上の絞り性が良好であるため、連続鋳造による製造が容易となる。
鋼素材の加熱温度:1100℃以上1350℃以下
上記の如く得られた鋼素材に、粗圧延および仕上げ圧延を施すが、本発明においては、粗圧延に先立ち鋼素材を加熱して実質的に均質なオーステナイト相とし、粗大な炭化物を溶解する必要がある。鋼素材の加熱温度が1100℃を下回ると、粗大な炭化物が溶解しないため、熱間圧延終了後の冷却・巻取り工程で微細分散する炭化物の量が減じることとなり、最終的に得られる熱延鋼板の強度が著しく低下する。一方、上記加熱温度が1350℃を上回ると、スケールが噛み込み、鋼板表面性状を悪化させる。
以上の理由により、鋼素材の加熱温度は1100℃以上1350℃以下とする。好ましくは1150℃以上1300℃以下である。但し、鋼素材に熱間圧延を施すに際し、鋳造後の鋼素材が1100℃以上1350℃以下の温度域にある場合、或いは鋼素材の炭化物が溶解している場合には、鋼素材を加熱することなく直送圧延してもよい。なお、粗圧延条件については特に限定されない。
仕上げ圧延温度:850℃以上
仕上げ圧延温度が850℃を下回ると、仕上げ圧延中にフェライト変態が開始してフェライト粒が伸展された組織となるうえ、部分的にフェライト粒が成長した混粒組織となるため、熱延鋼板の打ち抜き性が著しく低下する。したがって、仕上げ圧延温度は850℃以上とする。好ましくは870℃以上である。仕上げ圧延温度の上限は特に定めないが、仕上げ圧延温度は熱間圧延前の加熱温度と通板速度、鋼板板厚により、自ずと決定される。この観点から仕上げ圧延温度は実質的に980℃以下である。
仕上げ圧延終了後、強制冷却を開始するまでの時間:3s秒以内
仕上げ圧延直後の高温状態の鋼板においては、オーステナイト相に蓄積されたひずみエネルギーが大きいため、ひずみ誘起析出による炭化物が生じる。この炭化物は、高温で析出することから粗大化し易いため、ひずみ誘起析出が生じると微細な析出物が得られ難くなる。したがって、本発明では、ひずみ誘起析出を抑制する目的で熱間圧延終了後速やかに強制冷却を開始する必要があり、仕上げ圧延終了後、少なくとも3s以内に冷却を開始する。好ましくは2s以内である。
平均冷却速度:20℃/s以上
上記のとおり、仕上げ圧延終了後の鋼板の高温に維持される時間が長いほど、ひずみ誘起析出による炭化物の粗大化が進行し易くなる。また、本発明においては、鋼板に所定量のBを含有させることによってオーステナイト→フェライト変態を抑制しているものの、冷却速度が小さいと高温でフェライト変態が開始し、炭化物が粗大化し易くなる。そのため、仕上げ圧延後は急冷する必要があり、上記問題を回避するには20℃/s以上の平均冷却速度で冷却する必要がある。好ましくは40℃/s以上である。但し、仕上げ圧延終了後の冷却速度が過剰に大きくなると、巻取温度の制御が困難となるおそれがあるため、150℃/s以下とすることが好ましい。
巻取り温度:550℃以上700℃以下
巻取り温度が550℃を下回ると十分な量の析出物が得られず、熱延鋼板強度が低下する。一方、巻取り温度が700℃を超えると、析出した炭化物が粗大化するため熱延鋼板強度が低下する。したがって、巻取温度の範囲は550℃以上700℃以下とする。好ましくは580℃以上680℃以下である。
以上のように、本発明によると、鋼板組成および製造条件を適正化することで、フェライト相の面積率が95%以上、該フェライト相の平均結晶粒径が10μm以下であり、前記フェライト相の結晶粒内の炭化物平均粒子径が10nm未満である組織を有する熱延鋼板が得られる。また、本発明では、打ち抜き性を高める目的で鋼板のMn含有量を0.5%未満に低減し、Mnによる固溶強化に代わり粒子分散強化機構により高強度化を図っているため、打ち抜き性や伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板とすることができる。更に、本発明では、鋼板に含まれる炭化物形成元素(NbおよびV、或いは更にTi、W、Mo)の含有量を最適化し、炭化物の粗大化を抑制する効果を有するBを所定量含有させたうえ、熱延鋼板の製造条件を規定している。これにより、フェライト結晶粒内に上記した平均粒子径が10nm未満である炭化物を十分に析出させることができ、打ち抜き性等の加工性を維持しつつ熱延鋼板の引張強さを900MPa以上にまで高めることができる。
粒子分散強化機構による強化は、成分組成や製造方法などを適切に選択しなければ引張強さ900MPaを得ることはできない。それは、粒子分散強化機構による強化量は炭化物の粒子径と体積分率に関係し、粒子分散強化量を最大化するには析出物の粒子径を出来る限り小さくし、その体積分率を大きくすることが重要となるためである。ここで、本発明は、打ち抜き性等を高める目的でMnの含有量を0.5%未満にまで抑制するが、Mnは固溶強化元素であり且つ炭化物粗大化抑制効果を有する元素であるから、Mn含有量を低減することは鋼板強度を確保するうえで不利になる。しかしながら、本発明では、析出物粗大化抑制に有効であるBを所定量含有させ、炭化物形成元素として鋼中における溶解度の小さいNbと溶解度の大きいVを効果的に複合添加し、更に熱延鋼板の製造条件を最適化することで粒子分散強化機構を最大限利用している。そのため、打ち抜き性に優れるともに引張強さ900MPa以上の強度を有する高強度熱延鋼板が得られる。
なお、熱間圧延した巻き取り後の本発明熱延鋼板は、表面にスケールが付着した状態であっても、酸洗を行うことによりスケールを除去した状態であっても、その特性が変わることはなく、いずれの状態においても前記した優れた特性を発現する。また、本発明では、巻き取り後の熱延鋼板にめっき処理を施して、熱延鋼板表面にめっき層を形成してもよい。めっき処理の種類は特に問わず、電気めっき処理、無電解めっき処理のいずれも適用可能である。例えば、めっき処理として溶融亜鉛めっき処理を施して溶融亜鉛めっき層を形成することができる。或いは更に、上記溶融亜鉛めっき処理後、更に合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき層を形成してもよい。また、溶融めっきには亜鉛の他に、アルミもしくはアルミ合金等、その他の金属や合金をめっきすることもできる。
本発明により得られる熱延鋼板は、700℃以下までの温度域であれば析出物の状態が変わることはない。そのため、例えば焼鈍温度を700℃以下とした連続めっきラインを通板させることができる。めっき層の付着方法としては、例えば、めっき浴に鋼板を浸漬して引き上げる方法などが挙げられる。合金化処理方法としては、例えば、めっき処理後にガス炉など、鋼板表面を加熱することができる炉内で行う方法などが挙げられる。
表1に示す組成を有する肉厚250mmの鋼素材を、表2に示す熱延条件で板厚1.2〜3.2mmの熱延鋼板とした。なお、表2に記載の冷却速度は、仕上げ圧延温度から巻取り温度までの平均冷却速度である。また、得られた熱延鋼板の一部については、焼鈍温度700℃の溶融亜鉛めっきラインに通板し、その後、460℃のめっき浴(めっき組成:Zn-0.13mass%Al)に浸漬し、溶融亜鉛めっき材(GI材)とした。また、該溶融亜鉛めっき材(GI材)の一部については、上記めっき浴への浸漬に次いで、520℃で合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき材(GA材)とした。めっき付着量はGI材、GA材ともに片面当たり45g/m2とした。
なお、表2中の鋼板No.3〜7,16〜18を除き、巻き取りまでの冷却中にオーステナイトからフェライトへの変態は生じていないことを、別途確認している。
Figure 2013124387
Figure 2013124387
上記により得られた熱延鋼板(熱延鋼板、GI材、GA材)から試験片を採取し、組織観察および引張試験を行い、フェライト相の面積率、フェライト相以外の組織の種類および面積率、フェライト相の平均結晶粒径、炭化物の平均粒子径、降伏強度、引張強さ、伸び、穴拡げ率を求めた。また、上記により得られた熱延鋼板から試験片を採取し、打ち抜き加工試験および穴拡げ試験を行い、打ち抜き端面の性状評価、伸びフランジ性評価、および板厚中心部における偏析の有無の確認を行った。試験方法は次のとおりとした。
(i)組織観察
フェライト相の面積率は以下の手法により評価した。圧延方向に平行な断面の板厚中心部について、5%ナイタールによる腐食現出組織を走査型光学顕微鏡で400倍に拡大して10視野分撮影した。フェライト相は粒内に腐食痕やセメンタイトが観察されない形態を有する組織である。また、ポリゴナルフェライト、ベイニティックフェライト、アシキュラーフェライトおよびグラニュラーフェライトをフェライトとして面積率や粒径を求めた。
フェライト相の面積率は画像解析によりフェライト相とベイナイトやマルテンサイト等のフェライト相以外を分離し、観察視野に対するフェライト相の面積率によって求めた。このとき、線状の形態として観察される粒界はフェライト相の一部として計上した。
フェライト相の平均結晶粒径は、上記400倍に拡大して撮影し代表的な写真3枚について水平線および垂直線をそれぞれ3本ずつ引きASTM E 112-10に準拠した切断法によって求め、最終的に3枚の平均値を表3に記した。
フェライト相の結晶粒内の炭化物の平均粒子径は、得られた熱延鋼板の板厚中央部から薄膜法によってサンプルを作製し、透過型電子顕微鏡(倍率:120000倍)で観察を行い、100点以上の析出物粒子径の平均によって求めた。この析出物粒子径を算出する上で、粒子径が1.0μm以上の粗大なセメンタイトや窒化物は含まないものとした。
(ii)引張試験
得られた熱延鋼板から圧延方向と垂直方向にJIS13号B引張試験片を作製し、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠した引張試験を5回行い、平均の降伏強度(YS)、引張強さ(TS)、全伸び(El)を求めた。引張試験のクロスヘッドスピードは10mm/minとした。
(iii)打ち抜き加工試験(打ち抜き端面性状評価)
得られた熱延鋼板の各々について、鋼板長手方向に50点の打ち抜き加工を行い、その端面の欠陥の有無を目視により観察した。端面に亀裂や段差、めくれ、はがれなど端面に異常部が観察された場合には評価を“×”、これらの異常部が観察されない場合には“○”とした。
(iv)穴拡げ試験(伸びフランジ性評価)
上記打ち抜き端面性状を観察した試験片(各熱延鋼板につき50個)を用いて穴拡げ試験を行い、伸びフランジ性評価を行った。試験条件は日本鉄鋼連盟規格(T1001-1996)に準拠し、100W×100L mmのサンプル中央にクリアランス12%とした直径10mmの打抜加工を行い、円錐台のポンチを用いた。各試験片について次式で示される穴広げ率(λ)を算出し、熱延鋼板毎に試験片50個の平均値を求めた。なお、次式において「試験後孔径」は、打抜加工によって得られた初期孔(直径10mm)に円錐台のポンチを挿入し、該孔を押し広げ、亀裂が熱延鋼板(試験片)を貫通したときの孔の径である。
(穴広げ率λ%)=(試験後孔径−初期孔径(10mm))/(初期孔径)×100
(v)中心偏析の観察
上記穴拡げ試験後の試験片(各熱延鋼板につき50個)から圧延方向に平行な断面を切り出し、その断面をEPMAを用いた板厚方向の線分析により、板厚中央部に中心偏析が認められるか調査した。板厚中央部におけるMnのX線強度が、板厚1/4部分におけるMnのX線強度の1.5倍以上であれば、中心偏析があるとして評価を“×”、1.5倍未満であれば“○”とした。
得られた結果を表3に示す。
Figure 2013124387
本発明例はいずれも、引張強さTS:900MPa以上であり且つ打ち抜き端面性状にも優れ、強度と加工性を兼備した熱延鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、所定の高強度が確保できていないか、良好な打ち抜き端面性状や十分な穴拡げ率が得られていない。
また、図1は、表3に示す鋼板No.17の打ち抜き端面における欠陥の有無に対する穴拡げ率の関係を図示したものである。図1における横軸のサンプルNo.は、上記(iii)打ち抜き加工試験(打ち抜き端面性状評価)の試験片50点に対応している。また、図1における縦軸の穴拡げ率λ(%)は、上記(iv)穴拡げ試験(伸びフランジ性評価)で求めた穴拡げ率に対応しており、上記(iii)の試験で打ち抜き端面に欠陥が観察されたものを“●”、打ち抜き端面に欠陥が観察されなかったものを“■”で示している。図1が示すように、打ち抜き端面に欠陥がある部分では穴拡げ率が低下した。また、打ち抜き端面に欠陥がある部分には中心偏析が認められた。
表4は、表3に示す鋼板No.17の打ち抜き端面における欠陥の有無に対する穴拡げ率および中心偏析の関係を表示したものである。表4中の「サンプルNo.」は、上記(iii)打ち抜き加工試験(打ち抜き端面性状評価)の試験片50点に対応している。また、表4中の「穴拡げ率λ(%)」は、上記(iv)穴拡げ試験(伸びフランジ性評価)で求めた穴拡げ率に対応している。更に、表4中の「中心偏析の有無」は上記(v)中心偏析の観察の結果を表している。表4が示すように、打ち抜き端面に欠陥がある部分には中心偏析が認められ、穴拡げ率が低下した。以上の結果が示すように、打ち抜き性が良好であれば伸びフランジ性をも改善する。また、鋼板の長手方向に安定して良好な端面性状を得るには中心偏析を完全に防止することが重要であるといえる。
Figure 2013124387

Claims (14)

  1. 質量%で、
    C :0.05%以上0.11%以下、 Si:0.3%以下、
    Mn:0.5%未満、 P :0.03%以下、
    S :0.005%以下、 Al:0.1%以下、
    N :0.01%以下、 B :0.0005%以上0.005%以下、
    Nb:0.01%以上0.25%以下、 V :0.05%以上0.4%以下
    を、NbおよびVが下記(1)式を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相の面積率が95%以上、該フェライト相の平均結晶粒径が10μm以下であり、前記フェライト相の結晶粒内の炭化物の平均粒子径が10nm未満である組織を有し、引張強さが900MPa以上であることを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。

    [Nb]/93+[V]/51 ≧ 0.0043 ・・・ (1)
    ([Nb]、[V]:各元素の含有量(質量%))
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%でTi:0.01%以上0.13%以下、W :0.01%以上1.0%以下、Mo:0.01%以上0.5%以下のいずれか1種以上を、前記(1)式に代えて下記(2)式を満足するように含有することを特徴とする、請求項1に記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。

    [Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96 ≧ 0.0043 ・・・ (2)
    ([Nb]、[V]、[Ti]、[W]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
  3. 前記組成が、下記(3)式を満足することを特徴とする、請求項1または2に記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。

    0.8≦([C]/12)/([Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96)≦1.5 ・・・ (3)
    ([C]、[Nb]、[V]、[Ti]、[W]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%で、REM、Zr、As、Cu、Ni、Sn、Pb、Ta、Cr、Sb、Mg、Ca、Co、Se、Zn、Cs、Ga、Ba、Srのうちの1種以上を合計で1.0%以下含有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。
  5. 鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。
  6. 前記めっき層が亜鉛めっき層であることを特徴とする、請求項5に記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。
  7. 前記めっき層が合金化亜鉛めっき層であることを特徴とする、請求項5に記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板。
  8. 鋼素材を加熱し、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、熱延鋼板とするにあたり、
    前記鋼素材を、質量%で、
    C :0.05%以上0.11%以下、 Si:0.3%以下、
    Mn:0.5%未満、 P :0.03%以下、
    S :0.005%以下、 Al:0.1%以下、
    N :0.01%以下、 B :0.0005%以上0.005%以下、
    Nb:0.01%以上0.25%以下、 V :0.05%以上0.4%以下
    を、NbおよびVが下記(1)式を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成とし、
    前記加熱の加熱温度を1100℃以上1350℃以下とし、前記仕上げ圧延の仕上げ圧延温度を850℃以上とし、前記冷却を仕上げ圧延終了後3秒以内に開始し、前記冷却の冷却速度を20℃/s以上とし、前記巻き取りの巻取り温度を550℃以上700℃以下とすることを特徴とする、打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

    [Nb]/93+[V]/51 ≧ 0.0043 ・・・ (1)
    ([Nb]、[V]:各元素の含有量(質量%))
  9. 前記組成に加えてさらに、質量%でTi:0.01%以上0.13%以下、W :0.01%以上1.0%以下、Mo:0.01%以上0.5%以下のいずれか1種以上を、前記(1)式に代えて下記(2)式を満足するように含有することを特徴とする、請求項8に記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

    [Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96 ≧ 0.0043 ・・・ (2)
    ([Nb]、[V]、[Ti]、[W]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
  10. 前記組成が、下記(3)式を満足することを特徴とする、請求項8または9に記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

    0.8≦([C]/12)/([Nb]/93+[V]/51+[Ti]/48+[W]/184+[Mo]/96)≦1.5 ・・・ (3)
    ([C]、[Nb]、[V]、[Ti]、[W]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
  11. 前記組成に加えてさらに、質量%で、REM、Zr、As、Cu、Ni、Sn、Pb、Ta、Cr、Sb、Mg、Ca、Co、Se、Zn、Cs、Ga、Ba、Srのうちの1種以上を合計で1.0%以下含有することを特徴とする、請求項8ないし10のいずれかに記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
  12. 前記熱延鋼板の表面にめっき層を形成することを特徴とする、請求項8ないし11のいずれかに記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
  13. 前記めっき層が亜鉛めっき層であることを特徴とする、請求項12に記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
  14. 前記めっき層が合金化亜鉛めっき層であることを特徴とする、請求項12に記載の打ち抜き性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
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