以下、本発明に係わる太陽電池モジュールの故障診断装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係わる太陽電池モジュールの故障診断装置の一実施形態を示す概略構成図である。同図において、本実施形態の故障診断装置1は、例えば乗用車等のルーフに設置された太陽電池モジュール2の故障を診断するものである。
太陽電池モジュール2は、図2に示すように、複数(ここでは16個)の太陽電池(セル)3を4行4列のマトリクス状に集合させてなるものである。これらの太陽電池3は、単結晶Siセルであり、直列接続されている。各太陽電池3により得られる発電電力は、バッテリー(図示せず)に蓄電される。
故障診断装置1は、各太陽電池3の発電電圧(出力電圧)を検出する複数の電圧計4と、波長感度の異なる4つのフォトダイオード5A〜5Dと、入力器6と、検査用治具7と、故障判定用コントローラ8と、表示器9とを備えている。
フォトダイオード5A〜5Dは、図2に示すように、太陽電池モジュール2に設けられている。フォトダイオード5A〜5Dは、太陽電池モジュール2に入射される光の光量を検出する受光素子であり、異なる4つの太陽電池3間の隙間に配置されている。また、フォトダイオード5A〜5Dは、太陽光スペクトルの主要部の波長範囲(400〜1000nm)内で互いに異なる波長感度を有している。具体的には、フォトダイオード5A〜5Dの受光中心波長は、それぞれ1000nm、800nm、600nm、400nmである。なお、使用する受光素子としては、フォトトランジスタやCdS等であっても良い。
入力器6は、操作者が太陽電池モジュール2の故障診断を指示入力するものであり、太陽電池モジュール2の出荷検査時または入荷検査時(以下、単に検査時)の故障診断と太陽電池モジュール2の使用時(動作時)の故障診断とを選択することができる。
検査用治具7は、太陽電池モジュール2の検査時においてのみ使用される。検査用治具7は、図3に示すように、遮光シート10と4つの光源11とを有している。遮光シート10は、光源11以外の光が太陽電池モジュール2に入らないように遮光するものであり、例えば太陽電池モジュール2に対する位置決め機能を兼ね備えたフレーム付き遮光布で構成されている。光源11は、太陽電池モジュール2に入射させる検査光として、例えば発光中心波長が700nmの光を発生させるLEDである。
検査用治具7は、図4に示すように、太陽電池モジュール2上にセットされた状態で使用される。このとき、各光源11は、検査光を全ての太陽電池3に入射させるように、検査用治具7におけるフォトダイオード5A〜5Dに対応する位置に設けられている。
故障判定用コントローラ8は、各電圧計4及びフォトダイオード5A〜5Dと検査用配線を介して接続されており、各セル3及びフォトダイオード5A〜5Dの出力を監視して異常(故障)判定を行い、その判定結果を表示器9に表示させる。また、故障判定用コントローラ8は、光源11のON/OFF制御及び光量制御を行う。なお、光源11から出射される検査光の光量は予め設定されている。
故障判定用コントローラ8のメモリ8aには、太陽電池モジュール2に入射される複数の太陽光スペクトル分布の状態に対応する各セル3の出力予想値と、光源11からの検査光が太陽電池モジュール2に入射されたときの各セル3の出力予想値とが予め記憶されている。
一般に太陽光のスペクトル分布は、図5に示すように、朝と昼と夕方とで変化する。図5において、横軸は波長を表し、縦軸はスペクトル強度を表している。また、太陽電池モジュール2が車両等の移動体に備えられている場合には、太陽電池モジュール2に対する太陽光の入射状態(入射角や入射光量等)が刻々と変化し、また太陽光だけでなく人工光も入射されやすくなる。従って、数多くの太陽光(人工光を含む)のスペクトル状態に対応する各セル3の出力予想値を事前に設定しておく。なお、太陽光スペクトル状態に対応する各セル3の出力予想値の設定は、例えば太陽光シミュレータを使用して行う。
図6は、故障判定用コントローラ8により実行される故障判定処理手順を示すフローチャートである。
同図において、まず入力器6により太陽電池モジュール2の故障診断が指示入力されたかどうかを判断し(手順S51)、故障診断が指示入力されたときは、引き続いて検査時の故障診断が選択されたか使用時の故障診断が選択されたかを判断する(手順S52)。このとき、検査時の故障診断が選択されたときは、検査時診断処理を実行し(手順S53)、使用時の故障診断が選択されたときは、使用時診断処理を実行する(手順S54)。
上記手順S53の検査時診断処理の詳細を図7に示す。なお、この検査時診断処理を実行するときには、太陽電池モジュール2上には、図4に示すように検査用治具7がセットされた状態となっている。
図7において、まず光源11をオンにし、太陽電池モジュール2の各セル3に検査光を入射させる(手順S61)。そして、フォトダイオード5A〜5Dの出力値(電圧値)を入力し、光源11から照射される検査光の光量に応じた出力値が得られるか否かを判断することによって、フォトダイオード5A〜5Dの故障診断を行う(手順S62)。
このとき、検査光の光量に応じた出力値が得られるときは、フォトダイオード5A〜5Dが故障していないと判断し、その旨を表示器9に表示させる(手順S63)。一方、検査光の光量に応じた出力値が得られないときは、フォトダイオード5A〜5Dの何れかが故障していると判断し、故障しているフォトダイオードを特定し、その旨を表示器9に表示させる(手順S64)。
上記の手順S63を実行した後、検査光の光量に応じた各セル3の出力予想値をメモリ8aから読み出す(手順S65)。そして、各電圧計4の測定値(各セル3の実出力値)を入力し、各電圧計4の測定値と各セル3の出力予想値との差が所定値以下であるかどうかを判断することによって、各セル3の故障診断を行う(手順S66)。
各電圧計4の測定値と各セル3の出力予想値との差が所定値以下であるときは、各セル3が故障していないと判断し、その旨を表示器9に表示させる(手順S67)。一方、各電圧計4の測定値と各セル3の出力予想値との差が所定値以下でないときは、何れかのセル3が故障していると判断し、故障しているセル3及びその故障モード(開放、短絡、出力低下等)を特定し、その旨を表示器9に表示させる(手順S68)。
なお、上述した検査時診断処理では、フォトダイオード5A〜5Dの故障診断を一括して行い、続いて各セル3の故障診断を一括して行うようにしたが、特にこの方法には限られない。例えば、まずフォトダイオード5Aの故障診断と当該フォトダイオード5Aの周囲に位置する4つのセル3の故障診断とを行い、続いてフォトダイオード5Bの故障診断と当該フォトダイオード5Bの周囲に位置する4つのセル3の故障診断とを行うというように、フォトダイオード5A〜5D毎に故障診断を実施しても良い。
上記手順S54の使用時診断処理の詳細を図8に示す。なお、この使用時診断処理を実行するときには、検査用治具7が太陽電池モジュール2から取り外された状態となっている。
図8において、まずフォトダイオード5A〜5Dの出力値に基づいて、太陽電池モジュール2が現在受けている太陽光のスペクトル状態を推定し(手順S71)、この推定した太陽光スペクトル状態に対応する各セル3の出力予想値をメモリ8aから読み出す(手順S72)。このとき、推定した太陽光スペクトル状態と一致するデータがメモリ8aに無い場合には、推定した太陽光スペクトル状態に最も近いデータに対応する各セル3の出力予想値を取得する。
続いて、各電圧計4の測定値(各セル3の実出力値)を入力し、各電圧計4の測定値と推定した太陽光スペクトル状態に対応する各セル3の出力予想値との差が所定値以下であるかどうかを判断することによって、各セル3の故障診断を行う(手順S73)。
各電圧計4の測定値と各セル3の出力予想値との差が所定値以下であるときは、各セル3が故障していないと判断し、その旨を表示器9に表示させる(手順S74)。一方、各電圧計4の測定値と各セル3の出力予想値との差が所定値以下でないときは、何れかのセル3が故障していると判断し、故障しているセル3及びその故障モード(開放、短絡、出力低下等)を特定し、その旨を表示器9に表示させる(手順S75)。
このとき、電圧計4の測定値の瞬間値、積分値、微分値の何れかをセル3の出力予想値と比較すると、故障しているセル3の特定をより正確に行うことができる。そして、故障したセル3がある場合には、そのセル3のみを回路から電気的に切り離し、例えば直列接続から並列接続へ切り換えるようにする。
以上において、図8に示す手順S71の処理は、複数の受光素子5A〜5Dの出力に基づいて、太陽電池モジュール2に入射される太陽光のスペクトル状態を推定する推定手段を構成する。メモリ8a及び図8に示す手順S72の処理は、推定手段により推定された太陽光のスペクトル状態に対応する太陽電池3の出力予想値を取得する第1取得手段を構成する。図8に示す手順S73の処理は、第1取得手段により取得された太陽電池3の出力予想値と検出手段4により検出された太陽電池3の実出力値とを比較して、太陽電池3の故障判断を行う第1判断手段を構成する。メモリ8a及び図7に示す手順S61,S65の処理は、太陽電池モジュール2に検査光が入射されたときの太陽電池3の出力予想値を取得する第2取得手段を構成する。図7に示す手順S66の処理は、第2取得手段により取得された太陽電池3の出力予想値と検出手段4により検出された太陽電池3の実出力値とを比較して、太陽電池3の故障判断を行う第2判断手段を構成する。
以上のように本実施形態にあっては、波長感度の異なるフォトダイオード5A〜5Dを太陽電池モジュール2に設けると共に、複数の太陽光スペクトル状態に対応する各セル3の出力予想値を故障判定用コントローラ8のメモリ8aに予め記憶させておく。そして、太陽電池モジュール2を使用する際には、フォトダイオード5A〜5Dの出力値から、太陽電池モジュール2に入射される現在の太陽光のスペクトル状態を推定し、この太陽光スペクトル状態に対応する各セル3の出力予想値と各セル3の実出力値とを比較することにより、各セル3の故障を判断する。従って、太陽電池モジュール2への太陽光の入力状態が刻々と変化しても、各セル3の故障診断を行うことができる。これにより、太陽電池モジュール2が移動車両に搭載されている場合でも、太陽電池モジュール2の使用(動作)中の故障診断を確実に行うことが可能となる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば1つの太陽電池モジュール2に含まれる太陽電池(セル)3及び受光素子の数としては、特に上記実施形態のものには限られない。
また、太陽電池モジュール2における各太陽電池3の接続形態については、上記実施形態のような直列接続ではなく並列接続でも良く、あるいは直列接続及び並列接続の両方を含むものであっても良い。各太陽電池3の接続形態が並列接続である場合には、太陽電池3の出力を検出する手段としては、上記の電圧計の代わりに電流計を用いる。
さらに、本発明の故障診断装置1は、上記実施形態のように車両等の移動体に太陽電池モジュール2が搭載されるものだけでなく、住宅用等のような定点設置型の太陽電池モジュールにも適用できることは言うまでもない。