JP2013079979A - 卵巣明細胞腺癌に特異的に発現しているタンパク質とその応用 - Google Patents

卵巣明細胞腺癌に特異的に発現しているタンパク質とその応用 Download PDF

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Abstract

【課題】 卵巣明細胞腺癌細胞が特異的に産生するタンパク質を探索し、その利用を図る。
【解決手段】 明細胞腺癌を評価及び/又は鑑別するために、生体試料における組織因子経路インヒビター2の発現を測定する方法。明細胞腺癌の治療及び/又は予防に効果のある物質を同定する方法並びに明細胞腺癌の抗癌剤耐性を低下させる物質を同定する方法も提供される。
【選択図】 なし

Description

本発明は、卵巣明細胞腺癌に特異的に発現しているタンパク質とその応用に関し、より詳細には、悪性度の高い卵巣明細胞腺癌細胞が特異的に産生しているタンパク質を診断マーカーおよび創薬ターゲットとして使用する技術に関する。
卵巣癌はそのほとんどが上皮性腫瘍であり、組織学的にもっとも変化に富んだ腫瘍のグループである。卵巣癌の治療成績はプラチナ製剤やタキサン製剤の導入で改善傾向が見られるものの、いまだ不良といわれている。それは、早期発見が困難であるため進行例が多く、抗悪性腫瘍薬に抵抗を示す組織型が存在するためである。したがって最近では組織型別治療の必要性も提唱されている。特に明細胞腺癌は抗悪性腫瘍薬に著しい抵抗性を示し、血行転移を起こしやすい、非常に悪性度の高い組織型である。現在、我が国における明細胞腺癌の発生頻度は増加の傾向をたどっているにもかかわらず、明細胞腺癌特異的な腫瘍マーカーは未だ確率しておらず、また明細胞腺癌に適した化学療法も不明なままである。
明細胞腺癌の組織細胞形態はバリエーションに富むため、しばしば他の組織型と類似した形態をとり、正確な診断を必要とする。卵巣癌の組織型判定は臨床病理医師行うが、明細胞癌に関しては経験例が少ない事もあり、さらなる検討が必要とされており、明細胞腺癌の特異的マーカーは明らかにされていない。
明細胞腺癌は現在、化学療法で主に使用されているプラチナ製剤やタキサン製剤に抵抗性である。その耐性機序の詳細はいまだ明らかにされていない。新しい抗悪性腫瘍薬の開発が必須である。
本発明は、卵巣明細胞腺癌細胞が特異的に産生するタンパク質を探索し、その利用を図ることを目的とする。
本発明者らは、卵巣明細胞腺癌細胞が特異的に産生するタンパク質をプロテオミクス手法を用いて探索し、いくつかのマーカー候補タンパク質、新規薬剤ターゲット候補タンパク質を見いだした。より詳細には、明細胞腺癌細胞株OVISEおよびOVTOKO、および比較対照として粘液性腺癌細胞株MCASを用いてプロテオーム解析を行い、明細胞腺癌細胞に特異的に発現しているタンパク質の網羅的な検出・同定を行い、これまで報告のなかったタンパク質を25種検出した。これらのタンパク質は明細胞腺癌の新規診断マーカーとなる。また、当該タンパク質のうち、7種のタンパク質の発現をRNAiにより抑制したところ、2種のタンパク質の発現抑制において著しい明細胞腺癌細胞の増殖阻害が観察された。これらを標的とした新しい卵巣癌治療薬の開発が可能になる。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択される少なくとも1個のタンパク質について、生体試料における発現を測定することを含む、明細胞腺癌の評価及び/又は鑑別方法。
(2)生体試料における発現をタンパク質レベルで測定する(1)記載の方法。
(3)生体試料における発現を核酸レベルで測定する(1)記載の方法。
(4)生体試料が、被験者から得た細胞、組織又は体液である(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)体液が血液である(4)記載の方法。
(6)血液が、全血、血清、血漿又は血漿交換外液である(5)記載の方法。
(7)被験者から得た細胞、組織又は体液における発現が、健常者から得た細胞、組織又は体液における発現と比較して、タンパク質レベルで2倍以上の上昇が確認された場合には、明細胞腺癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞腺癌であると評価する(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)被験者から得た細胞、組織又は体液における発現が、健常者から得た細胞、組織又は体液における発現と比較して、核酸レベルで2倍以上の上昇が確認された場合には、明細胞腺癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞腺癌であると評価する(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(9)組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択される少なくとも1個のタンパク質について、生体試料における発現を測定することができる試薬を含む、明細胞腺癌の評価及び/又は鑑別のためのキット。
(10)生体試料における発現を測定することができる試薬が、下記(i)、(ii)又は(iii)のいずれかである(9)記載のキット。
(i)組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択されるタンパク質を特異的に認識できる抗体
(ii)組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチン
からなる群より選択されるタンパク質をコードするmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブ
(iii)組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択されるタンパク質をコードするmRNAを鋳型として合成されるcDNAを特異的に増幅できる少なくとも1対の核酸プライマー
(11)明細胞腺癌の治療及び/又は予防に効果のある物質を同定する方法であって、以下の工程:
(a)被験物質を明細胞腺癌細胞に接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞腺癌細胞を所定時間培養する工程、
(c)組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択される少なくとも1個のタンパク質について、工程(b)で培養した明細胞腺癌細胞における発現を測定する工程、及び
(d)工程(c)で測定した明細胞腺癌細胞における発現を被験物質に接触させなかった対照細胞における発現と比較することにより、明細胞腺癌細胞における発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む前記方法。
(12)さらに、明細胞腺癌細胞増殖に対する被験物質の効果を調べる工程を含む(11)記載の方法。
(13)明細胞腺癌の抗癌剤耐性を低下させる物質を同定する方法であって、以下の工程:
(a)被験物質を明細胞腺癌細胞に接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞腺癌細胞を所定時間培養する工程、
(c)組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択される少なくとも1個のタンパク質について、工程(b)で培養した明細胞腺癌細胞における発現を測定する工程、及び
(d)工程(c)で測定した明細胞腺癌細胞における発現を被験物質に接触させなかった対照細胞における発現と比較することにより、明細胞腺癌細胞における発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む前記方法。
(14)さらに、明細胞腺癌細胞の抗癌剤耐性に対する被験物質の効果を調べる工程を含む(13)記載の方法。
(15)タンパク質が、成長分化因子15、オステオポンチン及びインスリン様成長因子結合タンパク質1からなる群より選択される(1)記載の方法。
(16)タンパク質が、成長分化因子15、オステオポンチン及びインスリン様成長因子結合タンパク質1からなる群より選択される(9)記載のキット。
(17)タンパク質が、成長分化因子15、オステオポンチン及びインスリン様成長因子結合タンパク質1からなる群より選択される(11)記載の方法。
(18)タンパク質が、成長分化因子15、オステオポンチン及びインスリン様成長因子結合タンパク質1からなる群より選択される(13)記載の方法。
本発明者らが検出・同定したタンパク質を診断マーカーとして利用することで、卵巣明細胞腺癌の正確な診断が可能になる。また当該タンパク質の機能を阻害もしくは発現を抑制するような薬剤を使用することで、今まで不可能だった明細胞腺癌の治療が可能になる。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2010‐035737の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
種々の卵巣癌細胞株における組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6、オステオポンチンの遺伝子発現量。リアルタイム-RT-PCR法にて、当該タンパク質群の遺伝子発現量を測定した。 種々の卵巣癌細胞株におけるラミニンサブユニットガンマ1、N-Myc下流制御遺伝子1、ダブルコルチン含有タンパク質2、スポンジン1、オステオポンチン、リボヌクレアーゼT2のタンパク質量。当該タンパク質群の発現量をウエスタンブロット法にて解析した。 種々の卵巣組織検体における組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6、オステオポンチンの遺伝子発現量。リアルタイム-RT-PCR法にて、当該タンパク質群の遺伝子発現量を測定した。 卵巣癌患者血清中における成長分化因子15、オステオポンチン、およびインスリン様成長因子結合タンパク質1の検出と定量。
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
本発明は、組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択される少なくとも1個のタンパク質について、生体試料における発現を測定することを含む、明細胞腺癌の評価及び/又は鑑別方法を提供する。本発明者らは、上記タンパク質は、非明細胞線癌の細胞株(OVCAR-3、OVSAHO、OVKATE、RMUG-SまたはMCAS)や組織と比較して、卵巣明細胞腺癌細胞由来の細胞株(OVTOKO、OVISE、RMG-I、RMG-II、OVMANAまたはOVSAYO)や組織にて2倍以上発現上昇していることを確認した(後述の実施例2、3、4)。さらに、卵巣癌患者血清中における成長分化因子15、オステオポンチン、およびインスリン様成長因子結合タンパク質1の濃度が対照群(健常人、良性卵巣腫瘍患者)と比べて高い値であることを確認した(後述の実施例5)。
組織因子経路インヒビター2(Tissue factor pathway inhibitor 2)分子量26,934、トリプシン、プラスミン、VIIa因子/組織因子などのプロテアーゼに対して阻害活性を示し、マトリクスリモデリングに関与していると考えられている。胎盤に高い発現がみられ、細胞外に分泌される。UniProtKB/Swiss-Prot 登録番P48307 (TFPI2_HUMAN)。
セルロプラスミン(Ceruloplasmin)分子量122,205、本タンパク質1分子につき、6〜7原子の銅イオンと結合する。また、2荷鉄イオンを3鉄荷鉄に酸化するフェロキシダーゼ活性を持つ。種々の組織にて広範囲に発現し、血液中に多く存在する。UniProtKB/Swiss-Prot登録番号 P00450 (CERU_HUMAN) 。
インスリン様成長因子結合タンパク質1 (Insulin-like growth factor-binding protein 1) 分子量27,904、インスリン様成長因子IやIIと結合し、血液中に含まれている。胎盤や羊水にて多く存在している。UniProtKB/Swiss-Prot登録番号 P08833 (IBP1_HUMAN)。
ダブルコルチン含有タンパク質2(Doublecortin domain-containing protein 2)分子量は52834であり、機能は不明。種々の組織にて広範囲に発現する。SwissProt登録番号Q9UHG0 (DCDC2_HUMAN)。
N-Myc下流制御1(N-Myc downstream regulated gene 1 protein)分子量42835、機能は不明。種々の組織にて広範囲に発現する。SwissProt登録番号Q92597 (NDRG1_HUMAN)。
リボヌクレアーゼT2(Ribonuclease T2 precursor)分子量29481、リボヌクレアーゼ活性を持つ。種々の組織にて広範囲に発現する。SwissProt登録番号O00584 (RNT2_HUMAN)。
成長分化因子15(Growth/differentiation factor 15)分子量34,154、胎盤にて強く発現し、前立腺や大腸にて弱く発現する。細胞外に分泌され、サイトカインや増殖因子として機能する。UniProtKB/Swiss-Prot登録番号 Q99988 (GDF15_HUMAN)。
バーシカンコアタンパク質(Versican core protein)分子量372,820、脳、甲状腺、精巣、子宮にて発現が高い。細胞外マトリクスの構成成分であり、細胞間情報伝達に関与していると考えられている。 UniProtKB/Swiss-Prot登録番号 P13611 (CSPG2_HUMAN)。
ラミニンサブユニットガンマ1前駆体(Laminin subunit gamma-1 precursor)分子量177602、細胞外マトリックスの構成成分であり、細胞の増殖や遊走に関与する。種々の組織にて広範囲に発現する。SwissProt登録番号P11047 (LAMC1_HUMAN)。
スポンジン1(Spondin-1)分子量90973、細胞外マトリックスの構成成分。種々の組織に広範囲に発現。SwissProt登録番号Q9HCB6 (SPON1_HUMAN)。
インスリン様成長因子結合タンパク質7(Insulin-like growth factor-binding protein 7)分子量29,130、インスリン様成長因子IやIIとの結合親和性は低い。プロスタサイクリン合成を促進させる。UniProtKB/Swiss-Prot登録番号 Q16270 (IBP7_HUMAN)。
インターロイキン6(Interleukin-6)分子量23,718、細胞外に分泌されサイトカインや増殖因子として機能する。UniProtKB/Swiss-Prot P05231 (IL6_HUMAN)。
オステオポンチン(Osteopontin)分子量35,423、細胞外に分泌され、サイトカインとして機能する。様々な組織にて産生される。 UniProtKB/Swiss-Prot登録番号 P10451 (OSTP_HUMAN)。
本発明において、生体試料は、被験者に由来する試料であればよく、被験者から得た細胞、組織、体液など、具体的には、被験者の卵巣から採取又は切除した組織、被験者の血液(例えば、全血、血清、血漿、血漿交換外液など)などを例示することができる。通常の血液検査(臨床検査)で得られる全血、血清あるいは血漿を血液サンプルとして使用するとよい。
本発明の方法において、生体試料における発現はタンパク質レベルで測定してもよいし、核酸レベルで測定してもよい。例えば、ノーザンブロット法、RT-PCR法、ウェスタンブロット法、免疫組織化学分析法などで測定することができる。あるいはまた、cDNAマイクロアレイ、ELISA法などを利用して測定してもよい。
上記タンパク質の発現をタンパク質レベルで測定するためには、上記タンパク質を特異的に認識する抗体を用いるとよい。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれであってもよい。これらの抗体は公知の方法で製造することができる。ウェスタンブロット法で測定する場合には、抗体は、125I標識プロテインA、ペルオキシダーゼ結合IgGなどを用いて二次的に検出される。免疫組織化学分析法で測定する場合には、抗体は、蛍光色素、フェリチン、酵素などで標識するとよい。
上記タンパク質の発現を核酸レベルで測定するためには、上記タンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを用いるとよい(ノーザンブロット法で測定する場合)。あるいはまた、上記タンパク質のmRNAを鋳型として合成されるcDNAを特異的に増幅できる少なくとも1対の核酸プライマーを用いてもよい(RT-PCR法で測定する場合)。核酸プローブ及び核酸プライマーは、上記タンパク質の遺伝子情報(核タンパク質の遺伝子のNCBI/GenBank登録番号は、組織因子経路インヒビター2(NM_006528.2)、セルロプラスミン(NM_000096.3)、インスリン様成長因子結合タンパク質1(NM_000596.2)、ダブルコルチン含有タンパク質2( NM_016356.3)、N-Myc下流制御遺伝子1(NM_001135242.1)、リボヌクレアーゼT2(NM_003730.4)、成長分化因子15(NM_004864.2)、バーシカンコアタンパク質(NM_001126336.2)、ラミニンサブユニットガンマ1(NM_002293.3)、スポンジン1(NM_006108.2)、インスリン様成長因子結合タンパク質7(NM_001553.1)、インターロイキン6(NM_000600.3)、オステオポンチン(NM_000582.2))に基づいて設計することができる。核酸プローブは、通常、約15〜1500塩基のものが適当である。核酸プローブは、放射性元素、蛍光色素、酵素などで標識するとよい。核酸プライマーは、通常、約15〜30塩基のものが適当である。核酸プライマーを放射性元素、蛍光色素、酵素などで標識してもよい。
本発明において、生体試料における上記タンパク質の発現(タンパク質レベル又は核酸レベル)の有無を検出してもよいし、発現量を測定してもよい。上記タンパク質及び/又はそのmRNAの発現の有無は所定の位置におけるスポットやバンドの出現の有無により確認できる。上記タンパク質及び/又はそのmRNAの発現量はスポットやバンドの染色強度により測定できる。あるいはまた、上記タンパク質及び/又はそのmRNAを定量してもよい。
発現を測定するタンパク質又は遺伝子は1種類でもよいし、複数種類であってもよい。複数の遺伝子発現や複数のタンパク発現データを参照することにより、より正確な評価が可能となりうる。複数の遺伝子発現や複数のタンパク発現を同時に検出するためには、DNAアレイ(プローブを基板に固定)(NATURE REVIEWS, DRUG DISCOVERY, VOLUME 1, DECEMBER 2002, 951-960)、プロテインチップ(抗体を基板に固定)(NATURE REVIEWS, DRUG DISCOVERY, VOLUME 1, SEPTEMBER 2002, 683-695)、ルミネックス(NATURE REVIEWS, DRUG DISCOVERY, VOLUME 1, JUNE 2002, 447-456)等の検出法を用いることが好ましい。
被験者は、明細胞腺癌(特に、卵巣明細胞腺癌)への罹患が疑われる患者であるが、発病危険性が考えられるすべてのヒトを対象としてもよい。
本発明の一つの例として、明細胞腺癌(特に、卵巣明細胞腺癌)の評価・鑑別は、以下のような基準で行うことができる。
被験者から得た細胞、組織又は体液における上記タンパク質の少なくとも1個の発現を測定し、健常者から得た細胞、組織又は体液におけるそれと比較した結果、タンパク質レベルで2倍以上の増加が確認された場合には、明細胞腺癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞腺癌であると評価する。タンパク質レベルで2倍以上の発現の増加が確認されたタンパク質の数が多いほど、明細胞腺癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞腺癌であるという評価の確実性が増すと考えられる。
また、本発明の別の例として、明細胞腺癌(特に、卵巣明細胞腺癌)の評価・鑑別は、以下のような基準で行うことができる。
被験者から得た細胞、組織又は体液における上記タンパク質の少なくとも1個の発現を測定し、健常者から得た細胞、組織又は体液におけるそれと比較した結果、核酸レベルで2倍以上の増加が確認された場合には、明細胞腺癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞腺癌であると評価する。核酸レベルで2倍以上の発現の増加が確認されたタンパク質の数が多いほど、明細胞腺癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞腺癌であるという評価の確実性が増すと考えられる。
本発明は、組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択される少なくとも1個のタンパク質について、生体試料における発現を測定することができる試薬を含む、明細胞腺癌の評価及び/又は鑑別のためのキットも提供する。
一つの例として、本発明のキットは、上記タンパク質を特異的に認識できる抗体を試薬として含む。抗体は基板に固定されていてもよい(プロテインチップの場合)。キットには、さらに、生体試料を採取するための器具、抗凝固剤、上記タンパク質を検出するための試薬一式、取扱説明書などが含まれてもよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、明細胞腺癌の評価及び/又は鑑別基準なども記載しておくとよい。
別の一例として、本発明のキットは、上記タンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを試薬として含む。核酸プローブは基板に固定されていてもよい(DNAアレイの場合)。キットには、さらに、生体試料を採取するための器具、抗凝固剤、生体試料からRNAを抽出するための試薬類、RNAを検出するための試薬類、取扱説明書などが含まれてもよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、明細胞腺癌の評価及び/又は鑑別基準なども記載しておくとよい。
さらに別の一例として、本発明のキットは上記タンパク質のmRNAを鋳型として合成されるcDNAを特異的に増幅できる少なくとも1対の核酸プライマーを試薬として含む。キットには、さらに、生体試料を採取するための器具、抗凝固剤、生体試料からRNAを抽出するための試薬類、RNAを検出するための試薬類、取扱説明書などが含まれるとよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、明細胞腺癌の評価及び/又は鑑別基準なども記載しておくとよい。
本発明は、明細胞腺癌の治療及び/又は予防に効果のある物質を同定する方法も提供する。この方法は、以下の工程:
(a)被験物質を明細胞腺癌細胞に接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞腺癌細胞を所定時間培養する工程、
(c)組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択される少なくとも1個のタンパク質について、工程(b)で培養した明細胞腺癌細胞における発現を測定する工程、及び
(d)工程(c)で測定した明細胞腺癌細胞における発現を被験物質に接触させなかった対照細胞における発現と比較することにより、明細胞腺癌細胞における発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む。
被験物質は、いかなる物質であってもよく、タンパク質、ペプチド、ビタミン、ホルモン、多糖、オリゴ糖、単糖、低分子化合物、核酸(DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド等)、脂質、上記以外の天然化合物、合成化合物、植物抽出物、植物抽出物の分画物、それらの混合物などを挙げることができる。
本発明の方法に用いられる明細胞腺癌細胞は、組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択される少なくとも1個のタンパク質の発現がタンパク質レベル又は核酸レベルで観察されるものであれば、いかなる生物に由来するものであってもよく、ヒト、ブタ、サル、チンパンジー、イヌ、ウシ、ウサギ、ラット、マウスなどの哺乳動物などに由来するものを挙げることができるが、ヒト由来の明細胞腺癌細胞(特に、株化されている細胞、具体的には、OVTOKO、OVISE、OVMANA、OVSAYO、RMG-I、RMG-II(JCRBから入手可能))を使用することが好ましい。
被験物質と明細胞腺癌細胞との接触は、いかなる方法によってもよく、例えば、被験物質を明細胞腺癌細胞に添加する方法などを挙げることができる。また、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタなど)などの生体に明細胞腺癌細胞を移植してから、被験物質を投与してもよい。
被験物質と接触後の明細胞腺癌細胞の培養時間は特に限定されず、明細胞腺癌細胞における上記タンパク質の発現に対する被験物質の効果の有無が確認できる程度の時間であればよい。
比較の対照となる被験物質に接触させなかった対照細胞は、被験物質を接触させる前の明細胞腺癌細胞であってもよいし、被験物質を接触させないこと以外は同様の処理を行った明細胞腺癌細胞であってもよい。
本発明の一つの例として、被験物質を接触させた明細胞腺癌細胞において、上記タンパク質の発現量がタンパク質レベル又は核酸レベルで対照細胞と比較して減少しており、被験物質が上記タンパク質の発現をタンパク質レベル又は核酸レベルで減少させる効果があると評価できた場合には、この被験物質は、明細胞腺癌の治療及び/又は予防に効果がある物質と同定することができる。
さらに、明細胞腺癌細胞増殖に対する被験物質の効果を調べる工程を含んでもよい。明細胞腺癌細胞増殖に対する被験物質の効果は、例えば、明細胞腺癌細胞に被験物質を接触させ、所定時間培養した後に生細胞数を測定することにより調べることができる。
本発明の一つの例として、被験物質を接触させた明細胞腺癌細胞において、明細胞腺癌細胞の増殖が対照細胞と比較して阻害されている場合には、この被験物質が明細胞腺癌の治療及び/又は予防に効果がある確実性が増すと考えられる。
本発明は、明細胞腺癌の抗癌剤耐性を低下させる物質を同定する方法も提供する。この方法は、以下の工程:
(a)被験物質を明細胞腺癌細胞に接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞腺癌細胞を所定時間培養する工程、
(c)組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択される少なくとも1個のタンパク質について、工程(b)で培養した明細胞腺癌細胞における発現を測定する工程、及び
(d)工程(c)で測定した明細胞腺癌細胞における発現を被験物質に接触させなかった対照細胞における発現と比較することにより、明細胞腺癌細胞における発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む。
被験物質は、いかなる物質であってもよく、タンパク質、ペプチド、ビタミン、ホルモン、多糖、オリゴ糖、単糖、低分子化合物、核酸(DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド等)、脂質、上記以外の天然化合物、合成化合物、植物抽出物、植物抽出物の分画物、それらの混合物などを挙げることができる。
本発明の方法に用いられる明細胞腺癌細胞は、組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6及びオステオポンチンからなる群より選択される少なくとも1個のタンパク質の発現がタンパク質レベル又は核酸レベルで観察されるものであれば、いかなる生物に由来するものであってもよく、ヒト、ブタ、サル、チンパンジー、イヌ、ウシ、ウサギ、ラット、マウスなどの哺乳動物などに由来するものを挙げることができるが、ヒト由来の明細胞腺癌細胞(特に、株化されている細胞、具体的には、OVTOKO、OVISE、OVMANA、OVSAYO、RMG-I、RMG-II(JCRBから入手可能))を使用することが好ましい。
被験物質と明細胞腺癌細胞との接触は、いかなる方法によってもよく、例えば、被験物質を明細胞腺癌細胞に添加する方法などを挙げることができる。また、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタなど)などの生体に明細胞腺癌細胞を移植してから、被験物質を投与してもよい。
被験物質と接触後の明細胞腺癌細胞の培養時間は特に限定されず、明細胞腺癌細胞における上記タンパク質の発現に対する被験物質の効果の有無が確認できる程度の時間であればよい。
比較の対照となる被験物質に接触させなかった対照細胞は、被験物質を接触させる前の明細胞腺癌細胞であってもよいし、被験物質を接触させないこと以外は同様の処理を行った明細胞腺癌細胞であってもよい。
本発明の一つの例として、被験物質を接触させた明細胞腺癌細胞において、上記タンパク質の発現量がタンパク質レベル又は核酸レベルで対照細胞と比較して減少しており、被験物質が上記タンパク質の発現をタンパク質レベル又は核酸レベルで減少させる効果があると評価できた場合には、この被験物質は、明細胞腺癌の抗癌剤耐性を低下させる物質と同定することができる。
さらに、明細胞腺癌細胞の抗癌剤耐性に対する被験物質の効果を調べる工程を含んでもよい。明細胞腺癌細胞の抗癌剤耐性に対する被験物質の効果は、例えば、明細胞腺癌細胞を被験物質と接触させる前、後又は同時に、抗癌剤を添加し、適当な時間培養した後に生細胞数を測定することにより調べることができる。被験物質を接触させた明細胞腺癌細胞の生細胞数が、対照細胞の生細胞数と比較して、少なければ、明細胞腺癌細胞の抗癌剤耐性が低下していると看做すことができる。
本発明の一つの例として、被験物質を接触させた明細胞腺癌細胞において、明細胞腺癌細胞の抗癌剤耐性が対照細胞と比較して低下している場合には、この被験物質が明細胞腺癌の抗癌剤耐性を低下させる確実性が増すと考えられる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕卵巣明細胞腺癌細胞のプロテオーム解析
方法
卵巣明細胞腺癌が特異的に産生されているタンパク質を探索するために、まず培養卵巣癌細胞を用いて細胞内タンパク質の網羅的解析を行った。卵巣明細胞腺癌細胞株OVTOKOおよびOVISE、比較対照として粘液性腺癌細胞株MCASを10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地中にて培養し、それぞれの細胞を7 M尿素、2 Mチオ尿素、4%CHAPSを含む30 mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)で溶解することでタンパク質を抽出した。得られたタンパク質抽出液をマイクロセップ 3 K OMEG限外濾過膜(第一化学)を用いて濃縮および0.5 M トリメチルアンモニウムジカーボネイト溶液への溶媒置換を行った。次に50 mM トリス-(2-カルボキシエチル)ホスフィン)および200 mMメチルメタンチオスルホン酸を用いて還元アルキル化を行い、37℃、16時間のトリプシン消化を行った。得られた各トリプシン消化ペプチドをiTRAQ試薬(アプライドバイオシステムズ)にて標識した。各iTRAQタグの質量と細胞の組み合わせは、OVTOKOから得られたペプチドは115、OVISEから得られたペプチドは116、MCASから得られたペプチドは114および117にて標識した。各試料を混合後、Sep-Pak C18カラムにより精製し、質量分析装置による解析に供した。iTRAQタグにて標識したペプチド試料を遠心エバポレーターで濃縮後、陽イオン交換カラム(Hi Still SCX 0.8 mm I.D x 35 mm, KYA)と逆層カラム(HiQ Still C18-3 W-3 0.15 mm I.D x 35 mm、 KYA)を用いた2DナノLCシステム (Dina-2A, KYA)およびダイレクトナノLC/MALDIプレートスポッティングシステム(Dina Map System, KYA)を連結した装置を用いて、試料の分離と同時にターゲットプレートへの滴下を行った。陽イオン交換カラムを用いた分離は、25および50、75、100,150,200,300,500 mMの濃度のギ酸アンモニウムを用いたステップワイズ法にて、逆層カラムでの分離は0.1%トリフルオロ酢酸を含む2%アセトニトリルで吸着を行い、2.0-80%のアセトニトリルの直線濃度勾配により行った。マトリクスとしてα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸を用いた。マトリクスと混合したペプチドをターゲットプレートに滴下し、MALDI-TOF/TOF質量分析装置AB4800(アプライドバイオシステムズ)およびProteinPilot解析ソフトウェアを用いてタンパク質の同定および定量を行った。
また、培養上清に含まれるタンパク質もまた同様に解析した。細胞をそれぞれ150 mm培養皿に10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地中にて培養し、24時間後、培地を4.0 nMの上皮増殖因子(シグマ)を含むRPMI1640培地(無血清培地)20 mLに交換した。さらに2日間培養後、培地を0.22μmのフィルターにて濾過し凍結乾燥した。得られた培養上清の粉末を7 M尿素、2 Mチオ尿素、4%CHAPSを含む30 mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)で溶解し、アセトン沈殿により培養上清を脱塩濃縮し、界面活性剤RapiGest1%を含む10 mMトリエタノールアンモニウム二炭酸緩衝液(pH8.5, シグマ)にて再び溶解した。得られたタンパク質試料を上述した方法と同様に質量分析装置にて解析した。
実験結果
細胞からのタンパク質抽出液からは、総計1020種類のタンパク質が同定され、その中で、非明細胞腺癌細胞株であるMCASと比較して明細胞腺癌を由来とする細胞株(OVTOKOとOVISE)の両細胞において発現量が2倍以上高いタンパク質を37種類同定することができた。また、これらの細胞の培養上清に含まれるタンパク質を調べた結果、総計280種類のタンパク質が検出・同定され、明細胞腺癌の細胞群からのみ検出・同定されたタンパク質が58種類存在し、細胞外分泌型および細胞膜結合型として分類されるタンパク質は28種類含まれていた。これらのタンパク質が本当に明細胞腺癌においても発現上昇しているのかどうか確認するために、次にリアルタイムRT-PCR法を用いた発現解析を行った。
〔実施例2〕
明細胞腺癌由来細胞株における同定されたタンパク質群の遺伝子発現レベル
実験方法
明細胞腺癌細胞株群にて発現量が高かったタンパク質の遺伝子発現量を調べるために、定量的RT-PCR解析を行った。培養細胞漿液性3種(OVCAR-3、OVSAHO、OVKATE)、粘液性2種(RMUG-S、MCAS)、明細胞6種(OVTOKO、OVISE、RMG-I、RMG-II、OVMANA、OVSAYO)の卵巣癌細胞株からRNeasyスピンカラム(キアゲン)を用いて全RNAを抽出した。そして1.0 μgの全RNAをプライムスクリプト・ファーストストランドcDNA合成キット(タカラバイオ)を用いてランダムヘキサマープライマーとともに逆転写反応を行い、得られたcDNAをSYBR premix ExTaq II試薬(タカラバイオ)を用いて増幅反応した。定量にはリアルタイムPCR解析装置(アジレントP3000)を用いた。使用したプライマー配列を以下に示す。組織因子経路インヒビター2(センスプライマー:5’-TTGTTAGCAGGGAGGATTGC-3’(配列番号1)、アンチセンスプライマー:5’-TCCGGATTCTACTGGCAAAG-3’ (配列番号2))、セルロプラスミン(センスプライマー:5’-TGTGGAGAGGAGAACGGAGA-3’ (配列番号3)、アンチセンスプライマー:5’-CTTCATGCCGCCTGTGTAAT-3’ (配列番号4))、インスリン様成長因子結合タンパク質1(センスプライマー:5’-CTGCCAAACTGCAACAAGAA-3’ (配列番号5)、アンチセンスプライマー:5’-TATCTGGCAGTTGGGGTCTC-3’ (配列番号6))、ダブルコルチン含有タンパク質2(センスプライマー:5’-AGTCTCAAGGAGCTGGCAGTG-3’ (配列番号7)、アンチセンスプライマー:5’-CTAAGCCACGGCAGCATAGTC-3’ (配列番号8))、N-Myc下流制御遺伝子1(センスプライマー:5’-GTGGAGGGCCTTGTCCTTATC-3’ (配列番号9)、アンチセンスプライマー:5’-TTGATGAACAGGTGCAGGTTG-3’ (配列番号10))、リボヌクレアーゼT2(センスプライマー:5’-CGTGACAACCATGAGTGGAA-3’ (配列番号11)、アンチセンスプライマー:5’-TCGGGCCATAGTCCATGTAT-3’ (配列番号12))、成長分化因子15(センスプライマー:5’-CTCCAGATTCCGAGAGTTGC-3’ (配列番号13)、アンチセンスプライマー:5’-AGAGATACGCAGGTGCAGGT-3’ (配列番号14))、バーシカンコアタンパク質(センスプライマー:5’-CGTGAGACAGGATGCTTGTG-3’ (配列番号15)、アンチセンスプライマー:5’-GGTGCACTTTGTGAGCAAGA-3’ (配列番号16))、ラミニンサブユニットガンマ1(センスプライマー:5’-CAGCCTTCTTGACCGACTAC-3’ (配列番号17)、アンチセンスプライマー:5’-AGACGCACGTAAGTGATGTC-3’ (配列番号18))、スポンジン1(センスプライマー:5’-TCCCAGTGGTCGGAATGTAAC-3’ (配列番号19)、アンチセンスプライマー:5’-CTCCAGCGTAGCTTTTGGATG-3’ (配列番号20))、インスリン様成長因子結合タンパク質7(センスプライマー:5’-CATCCAATTCCCAAGGACAG-3’ (配列番号21)、アンチセンスプライマー:5’-TATAGCTCGGCACCTTCACC-3’ (配列番号22))、インターロイキン6(センスプライマー:5’-TGCCAGTATTCCCAGGAGTC-3’ (配列番号23)、アンチセンスプライマー:5’-CTCCAGCGTAGCTTTTGGATG-3’ (配列番号24))、オステオポンチン(センスプライマー:5’-GCCGAGGTGATAGTGTGGTT-3’ (配列番号25)、アンチセンスプライマー:5’-TGAGGTGATGTCCTCGTCTG-3’ (配列番号26))、アネキシン4(センスプライマー:5’-TGGCAACCAAAGGAGGTACTG-3’ (配列番号27)、アンチセンスプライマー:5’-TGGTGCTCTTGTAGGCTGTCC-3’ (配列番号28))。
実験結果
明細胞腺癌細胞株6種のうち5種類以上の細胞における発現量が、非明細胞腺癌由来細胞株4種類以上よりも高かった遺伝子が、これまで知られていたアネキシン4以外に13種類のタンパク質、組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、インターロイキン6、オステオポンチンが新たに見つかった(図1)。
[実施例3]
ウエスタンブロット法によるラミニンサブユニットガンマ1、N-Myc下流制御遺伝子1、ダブルコルチン含有タンパク質2、スポンジン1、オステオポンチン、リボヌクレアーゼT2の発現量の比較
実験方法
同定されたタンパク質が本当に明細胞腺癌細胞株群にて発現上昇しているのかどうか確認するために、ラミニンサブユニットガンマ1、N-Myc下流制御遺伝子1、ダブルコルチン含有タンパク質2、スポンジン1、オステオポンチン、リボヌクレアーゼT2のタンパク質発現量をウエスタンブロット法により調べた。細胞抽出液をアクリルアミド濃度12.5%のSDS-PAGEにて展開後、PVDF膜に転写した。ブロッキングワン試薬(ナカライテスク)にてブロッキング後、目的のタンパク質に対する抗体と反応させた。西洋ワサビペルオキシダーゼ標識された二次抗体と反応後、ECLプラス試薬によりタンパク質-抗体複合体を検出した。使用した一次抗体を以下に示す。抗ダブルコルチン含有タンパク質2ヤギ抗体(IMGENEX)、抗N-Myc下流制御遺伝子1ウサギ抗体(ZYMED)、抗リボヌクレアーゼT2ウサギ抗体(Proteintech)、抗ラミニンサブユニットガンマ1ヤギ抗体(Santa Cruz)、抗オステオポンチンマウス抗体(R&D Systems)。
実験結果
ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、ラミニンサブユニットガンマ1、スポンジン1、オステオポンチンのタンパク質量は、これまで知られていたアネキシン4と同様に、明細胞腺癌細胞株群において顕著に増加していることが認められた(図2)。
〔実施例4〕
明細胞腺癌組織における13種類のタンパク質群の遺伝子発現レベル
実験方法
細胞腺癌由来の細胞株にて発現が高かった13種類のタンパク質が卵巣癌組織においても発現上昇しているのかどうか確認するために、明細胞腺癌5症例、非明細胞線癌4症例、良性腫瘍4症例、組織検体からRNeasyスピンカラム(キアゲン)を用いて全RNAを抽出した。また健常者卵巣組織2例からの全RNAは、アンビオン社およびザイアゲン社から購入した。そして1.0 μgの全RNAをプライムスクリプト・ファーストストランドcDNA合成キット(タカラバイオ)を用いてランダムヘキサマープライマーとともに逆転写反応を行い、得られたcDNAをSYBR premix ExTaq II試薬(タカラバイオ)を用いて増幅反応した。定量にはリアルタイムPCR解析装置(アジレントP3000)を用いた。実施例2にて用いたプライマーを使用した。
実験結果
これまでの報告通りアネキシンA4遺伝子の発現量は正常組織および良性腫瘍組織、非明細胞線癌組織と比較して、明細胞腺癌組織にて非常に高いことが確認され、そして今回新たに同定された組織因子経路インヒビター2、セルロプラスミン、インスリン様成長因子結合タンパク質1、ダブルコルチン含有タンパク質2、N-Myc下流制御遺伝子1、リボヌクレアーゼT2、成長分化因子15、バーシカンコアタンパク質、ラミニンサブユニットガンマ1、インスリン様成長因子結合タンパク質7、オステオポンチンもまた、健常、良性腫瘍、非明細胞線癌の卵巣組織と比べて、明細胞腺癌の組織型の検体において有意に高い発現量が見られた。またインターロイキン6については、非明細胞線癌と比べて明細胞腺癌における発現量が有意に高いことが示された。
〔実施例5〕
卵巣癌患者血清中における成長分化因子15、オステオポンチン、およびインスリン様成長因子結合タンパク質1の検出と定量
実験方法
同定されたタンパク質のうち、成長分化因子15、オステオポンチン、およびインスリン様成長因子結合タンパク質1の卵巣癌患者血清(横浜市立大学付属病院およびGenomic Collaborative社の研究用ヒトサンプルバンクより入手)中の濃度を市販のELISAキットを用いて測定した。12例の対照群(健常人5例、良性卵巣腫瘍7例)、5例の非明細胞腺癌患者群(漿液性腺癌3例、粘液性腺癌2例)、5例の明細胞腺癌患者群の合計22例を対象とした。成長分化因子15についてはQuantkine Human GDF-15 Immunoassay Kit (R&D Systems)、オステオポンチンはHuman Osteopontin N-Half Assay Kit (IBL)、インスリン様成長因子結合タンパク質1はIGFBP-1 ELISA kit(Mediagnost)を用いて測定し、各群間で比較検討した。
実験結果
結果を図4に示す。成長分化因子15は、対照群(Control)と比べて明細胞患者群において相対的に高値であり、非明細胞腺癌患者群と比しても高い傾向が認められた。オステオポンチンの濃度は、非明細胞腺癌患者群で非常に高い値が示されたものの、明細胞腺癌患者群においても、対照群と比べれば相対的に高い傾向が見られた。また、インスリン様成長因子結合タンパク質1については、非常に高い値で検出される患者が明細胞腺癌、非明細胞腺癌患者の両群に存在した。これらの結果から、当該タンパク質群は明細胞腺癌を診断するためのマーカーとしての利用でき、特に成長分化因子15は、卵巣癌患者の中で明細胞腺癌患者を識別するのに有効であることが示された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
本発明の明細胞腺癌評価及び/又は鑑別方法は、明細胞腺癌の診断に利用できる。また、本発明の物質同定方法は、明細胞腺癌の治療薬の探索に利用できる。
<配列番号1>
配列番号1は、組織因子経路インヒビター2センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、組織因子経路インヒビター2アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、セルロプラスミンセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号4>
配列番号4は、セルロプラスミンアンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、インスリン様成長因子結合タンパク質1センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号6>
配列番号6は、インスリン様成長因子結合タンパク質1アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号7>
配列番号7は、ダブルコルチン含有タンパク質2センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号8>
配列番号8は、ダブルコルチン含有タンパク質2アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号9>
配列番号9は、N-Myc下流制御遺伝子1センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号10>
配列番号10は、N-Myc下流制御遺伝子1アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号11>
配列番号11は、リボヌクレアーゼT2センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号12>
配列番号12は、リボヌクレアーゼT2アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号13>
配列番号13は、成長分化因子15センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号14>
配列番号14は、成長分化因子15アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号15>
配列番号15は、バーシカンコアタンパク質センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号16>
配列番号16は、バーシカンコアタンパク質アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号17>
配列番号17は、ラミニンサブユニットガンマ1センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号18>
配列番号18は、ラミニンサブユニットガンマ1アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号19>
配列番号19は、スポンジン1センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号20>
配列番号20は、スポンジン1アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号21>
配列番号21は、インスリン様成長因子結合タンパク質7センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号22>
配列番号22は、インスリン様成長因子結合タンパク質7アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号23>
配列番号23は、インターロイキン6センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号24>
配列番号24は、インターロイキン6アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号25>
配列番号25は、オステオポンチンセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号26>
配列番号26は、オステオポンチンアンチセンスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号27>
配列番号27は、アネキシン4センスプライマーのDNA配列を示す。
<配列番号28>
配列番号28は、アネキシン4アンチセンスプライマーのDNA配列を示す。

Claims (13)

  1. 明細胞腺癌を評価及び/又は鑑別するために、生体試料における組織因子経路インヒビター2の発現を測定する方法。
  2. 生体試料における組織因子経路インヒビター2の発現をタンパク質レベルで測定する請求項1記載の方法。
  3. 生体試料における組織因子経路インヒビター2の発現を核酸レベルで測定する請求項1記載の方法。
  4. 生体試料が、被験者から得た細胞、組織又は体液である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 体液が血液である請求項4記載の方法。
  6. 血液が、全血、血清、血漿又は血漿交換外液である請求項5記載の方法。
  7. 被験者から得た細胞、組織又は体液における組織因子経路インヒビター2の発現が、健常者から得た細胞、組織又は体液における組織因子経路インヒビター2の発現と比較して、タンパク質レベルで2倍以上の上昇が確認された場合には、明細胞腺癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞腺癌であると評価する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 被験者から得た細胞、組織又は体液における組織因子経路インヒビター2の発現が、健常者から得た細胞、組織又は体液における組織因子経路インヒビター2の発現と比較して、核酸レベルで2倍以上の上昇が確認された場合には、明細胞腺癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞腺癌であると評価する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  9. 下記(i)、(ii)又は(iii)のいずれかの試薬を用いて、生体試料における組織因子経路インヒビター2の発現を測定する請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
    (i)組織因子経路インヒビター2を特異的に認識できる抗体
    (ii)組織因子経路インヒビター2をコードするmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブ
    (iii)組織因子経路インヒビター2をコードするmRNAを鋳型として合成されるcDNAを特異的に増幅できる少なくとも1対の核酸プライマー
  10. 明細胞腺癌の治療及び/又は予防に効果のある物質を同定する方法であって、以下の工程:
    (a)被験物質を明細胞腺癌細胞に接触させる工程、
    (b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞腺癌細胞を所定時間培養する工程、
    (c)組織因子経路インヒビター2について、工程(b)で培養した明細胞腺癌細胞における発現を測定する工程、及び
    (d)工程(c)で測定した明細胞腺癌細胞における組織因子経路インヒビター2の発現を被験物質に接触させなかった対照細胞における組織因子経路インヒビター2の発現と比較することにより、明細胞腺癌細胞における組織因子経路インヒビター2の発現に対する被験物質の効果を評価する工程
    を含む前記方法。
  11. さらに、明細胞腺癌細胞増殖に対する被験物質の効果を調べる工程を含む請求項10記載の方法。
  12. 明細胞腺癌の抗癌剤耐性を低下させる物質を同定する方法であって、以下の工程:
    (a)被験物質を明細胞腺癌細胞に接触させる工程、
    (b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞腺癌細胞を所定時間培養する工程、
    (c)組織因子経路インヒビター2について、工程(b)で培養した明細胞腺癌細胞における発現を測定する工程、及び
    (d)工程(c)で測定した明細胞腺癌細胞における組織因子経路インヒビター2の発現を被験物質に接触させなかった対照細胞における組織因子経路インヒビター2の発現と比較することにより、明細胞腺癌細胞における組織因子経路インヒビター2の発現に対する被験物質の効果を評価する工程
    を含む前記方法。
  13. さらに、明細胞腺癌細胞の抗癌剤耐性に対する被験物質の効果を調べる工程を含む請求項12記載の方法。
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