JP2013079445A - 硬質膜および硬質膜形成体 - Google Patents

硬質膜および硬質膜形成体 Download PDF

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Abstract

【課題】高い耐摩耗性を有するとともに、耐剥離性に優れ、長期にわたり剥離を防止できる硬質膜、および、該硬質膜が形成された硬質膜形成体を提供する。
【解決手段】基材2の表面2a上に直接成膜されるCrとWCとを主体とする第1混合層1aと、第1混合層1aの上に成膜されるWCとDLCとを主体とする第2混合層1bと、第2混合層1bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層1cとからなる構造の硬質膜1であり、第1混合層1aは、基材側から第2混合層側へ向けて連続的または段階的に、Crの含有率が小さくなり、WCの含有率が高くなる層であり、第2混合層1bは、第1混合層側から表面層側へ向けて連続的または段階的に、WCの含有率が小さくなり、DLCの含有率が高くなる層であり、第2混合層1bにおける水素含有量が10〜45原子%である。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車部品や各種成形金型など、鉄系基材や超硬材からなる部材に形成される耐摩耗性や耐剥離性に優れる硬質膜に関するものである。
硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素、無定形炭素、硬質無定形型炭素、i−カーボン、ダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。
このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドとグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性、固体潤滑性、熱伝導性、化学安定性、耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型・工具類(寸法測定治具など含む)、耐摩耗性機械部品、研磨材、摺動部材、磁気・光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法やイオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロン・スパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。
このような優れた特性を有する一方で、DLC膜は膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、密着性が弱く、剥離しやすい等の欠点を持っている。この密着性の改良技術として、例えば、比較的厚く形成しても優れた密着性を発揮させる技術が知られている(特許文献1参照)。この技術はDLCを主体とする膜を最表面層とし、さらに中間層および基材を含んでおり、この基材は鉄系材料から成ると共に、上記中間層を下記(1)〜(4)の4層構造とするものである。
(1)Crおよび/またはAlの金属層からなる第1層
(2)Crおよび/またはAlの金属と、W、Ta、MoおよびNbよりなる群から選択される1種類以上の金属の混合層からなる第2層
(3)W、Ta、MoおよびNbからなる群から選択される1種類以上の金属層からなる第3層
(4)W、Ta、MoおよびNbよりなる群から選択される1種類以上の金属と炭素を含む非晶質層からなる第4層
また、密着性向上を図るため、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用して用い、所定の条件下のUBMS法でDLC膜を形成する技術が知られている(特許文献2参照)。
特開2003−171758号公報 特開2011−68941号公報
しかしながら、特許文献1の技術を用いた場合でも、膜構造や成膜条件によっては、基材との密着性に劣り、また、成膜後の残留応力などにより剥離しやすくなるおそれがある。DLC膜が剥離すると、DLC膜本来の優れた特性を発揮することができない。特に、長期にわたり高い接触応力を受ける部位に該硬質膜を形成する場合において、耐剥離性などを向上させるには、静的な密着性や機械的特性のみでなく、疲労特性も重要になる。特許文献2の技術では、密着性の向上が図られているが、上記のような、より厳しい条件下で使用される部位に使用するためには、更なる膜構造などの改良が望まれている。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、高い耐摩耗性を有するとともに、耐剥離性に優れ、長期にわたり剥離を防止できる硬質膜、および、該硬質膜が形成された硬質膜形成体を提供することを目的とする。
本発明の硬質膜は、基材の表面に成膜される硬質膜であって、上記硬質膜は、上記基材の表面上に直接成膜されるクロム(以下、Crと記す)とタングステンカーバイト(以下、WCと記す)とを主体とする第1混合層と、該第1混合層の上に成膜されるWCとDLCとを主体とする第2混合層と、該第2混合層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、上記第1混合層は、上記基材側から上記第2混合層側へ向けて連続的または段階的に、該第1混合層中の上記Crの含有率が小さくなり、該第1混合層中の上記WCの含有率が高くなる層であり、上記第2混合層は、上記第1混合層側から上記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該第2混合層中の上記WCの含有率が小さくなり、該第2混合層中の上記DLCの含有率が高くなる層であり、上記第2混合層における水素含有量が10〜45原子%であることを特徴とする。
上記硬質膜は、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、上記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が200×10−10mm/(N・m)未満であることを特徴とする。また、上記硬質膜は、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaであることを特徴とする。また、上記硬質膜は、スクラッチテストにおける臨界剥離荷重が50N以上であることを特徴とする。
上記表面層は、スパッタリングガスとしてアルゴン(以下、Arと記す)ガスを用いたUBMS装置を使用して成膜した層であり、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、上記Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合が1〜5であり、上記装置内の真空度が0.2〜0.8Paであり、上記基材に印加するバイアス電圧が70〜150Vである条件下で、上記炭素供給源から生じる炭素原子を、上記第2混合層上に堆積させて成膜されたものであることを特徴とする。また、上記炭化水素系ガスが、メタンガスであることを特徴とする。
なお、基材に対するバイアスの電位は、アース電位に対してマイナスとなるように印加しており、例えば、バイアス電圧150Vとは、アース電位に対して基材のバイアス電位が−150Vであることを示す。
上記表面層は、上記第2混合層との隣接側に緩和層部分を有し、該緩和層部分は、上記炭化水素系ガスの導入量の割合、上記装置内の真空度、および上記基材に印加するバイアス電圧の少なくとも1つを、連続的または段階的に変化させて形成された部分であることを特徴とする。
上記硬質膜の膜厚が0.5〜3μmであり、かつ該硬質膜の膜厚に占める上記表面層の厚さの割合が0.7以下であることを特徴とする。
本発明の硬質膜形成体は、基材と、該基材の表面に成膜される硬質膜とからなる硬質膜形成体であって、上記硬質膜が、上記本発明の硬質膜であることを特徴とする。また、上記基材が、超硬合金材料または鉄系材料からなることを特徴とする。特に、上記基材が鉄系材料からなり、該鉄系材料が、高炭素クロム鋼、炭素鋼、工具鋼、またはマルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする。
上記基材の表面粗さが、0.05μmRa以下であることを特徴とする。また、上記基材の表面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることを特徴とする。
上記基材の表面に、上記硬質膜の形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることを特徴とする。上記窒化処理が、プラズマ窒化処理であり、上記窒化処理後の表面の硬さが、ビッカース硬さでHv1000以上であることを特徴とする。
本発明の硬質膜は、上記のとおり、基材側から(1)Cr/WCの第1混合層(組成傾斜)、(2)WC/DLCの第2混合層(組成傾斜)、(3)DLCの表面層、からなる構造の硬質膜である。基材上に直接成膜される第1混合層は、Crを含むので鉄系材料等と相性がよく、AlやWなどと比較して密着性に優れる。また、上記構造において、WCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有するので、第1混合層、第2混合層、ともにWCを含む傾斜組成とすることにより、成膜後の残留応力の集中が発生し難い。また、第1混合層および第2混合層が、傾斜組成であるので、異なる材質を物理的に結合する構造となっている。さらに、第2混合層における水素含有量が10〜45原子%であるので、高い接触応力を受ける部位等に形成した場合でも、長期間にわたり剥離を防止できる。
上記構造により、該硬質膜は、高い接触応力を受ける部位に形成された場合でも耐剥離性に優れ、DLC膜本来の特性を発揮できる。この結果、本発明の硬質膜形成体は、耐摩耗性、耐腐食性、耐フレッティング性などに優れる部材として、多種の用途に利用できる。
本発明の硬質膜の構造を示す模式断面図である。 UBMS法の成膜原理を示す模式図である。 AIP機能を備えたUBMS装置の模式図である。 摩擦試験機を示す図である。 スラスト型転動疲労試験機を示す図である。 GDS分析結果の一例を示す図である。 図6における第2混合層(WC/DLC層)部分の拡大図である。 GDS分析における水素量出力値とERDA分析で測定した水素量の関係(検量線)を示す図である。 微動摩耗試験機を示す図である。
本発明の硬質膜の構造を図1に基づいて説明する。図1は、基材表面に成膜される硬質膜1の構造を示す模式断面図である。図1に示すように、該硬質膜1は、(1)基材2の表面2a上に直接成膜されるCrとWCとを主体とする第1混合層1aと、(2)第1混合層1aの上に成膜されるWCとDLCとを主体とする第2混合層1bと、(3)第2混合層1bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層1cとからなる3層構造を有する。硬質膜は、膜内に残留応力があり、残留応力は膜構造や成膜条件の影響を受け大きく異なる。本発明では、硬質膜の膜構造を、上記のような3層構造とすることで、急激な物性(硬度・弾性率等)変化を避けるようにしている。
第1混合層1aが、基材表面に直接成膜される下地層である。第1混合層1aは、Crを含むので超硬合金材料や鉄系材料からなる基材との相性がよく、W、Ti、Si、Alなどを用いる場合と比較して基材との密着性に優れる。また、第1混合層1aに用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。
また、第1混合層1aが、基材2側から第2混合層1b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる傾斜組成であるので、基材2と第2混合層1bとの両面での密着性に優れる。また、該混合層内において、CrとWCとが物理的に結合する構造となっており、該混合層内での破損などを防止できる。さらに、第2混合層1b側ではWC含有率が高められているので、第1混合層1aと第2混合層1bとの密着性に優れる。
第2混合層1bが、下地層と表面層との間に介在する中間層となる。第2混合層1bに用いるWCは、上述のように、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。第2混合層1bが、第1混合層1a側から表面層1c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成であるので、第1混合層1aと表面層1cとの両面での密着性に優れる。また、該混合層内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっており、該混合層内での破損などを防止できる。さらに、表面層1c側ではDLC含有率が高められているので、表面層1cと第2混合層1bとの密着性に優れる。
第2混合層1bは、非粘着性の高いDLCをWCによって第1混合層1a側にアンカー効果で結合させる層であり、高面圧で疲労を伴う苛酷条件でも高い密着性を発現させるためには、この層中のDLCおよびWC両方の機械的特性や疲労特性が重要と考えられる。そこで、本発明者らは、実験を重ねて第2混合層(WC/DLC)の成膜条件の最適化を行った結果、第2混合層中の水素含有量を、一般的なスパッタリング条件に比べて極端に多くすることによって、転がり接触下などの高い接触応力を受け疲労を伴う環境下において、剥離寿命を著しく向上できることを見出した。
第2混合層における水素含有量は、10〜45原子%とする。15〜45原子%とすることがより好ましい。第2混合層における水素含有量が10原子%より少ない場合、機械的特性は十分であるので静的な密着性は高いが、疲労特性が劣るため転がり接触下などでは剥離し易い。一方、水素含有量が45原子%をこえると、その機械的特性が不十分となり、硬質膜が転がり接触などの高面圧に耐えられずに大きく変形し、隣接する層に応力が集中するため長寿命は発現しにくい。
ここで、本発明における「第2混合層における水素含有量」は、GDS分析(グロー放電発光分光分析)で求めた水素含有量(原子%)である。GDS分析は深さ方向と元素量の関係を調べることができる分析であり、各元素の検量線を用意すれば定量が可能である。水素量検量線は、水素の絶対量測定が可能なERDA分析(弾性反跳粒子検出法)を用いて作成した。また、水素以外の構成元素の検量線についてはEDX分析を用いて作成した。詳細を以下に示す。
図6にGDS分析結果の一例を、図7に図6における第2混合層(WC/DLC層)部分の拡大図をそれぞれ示す。横軸のスパッタ時間は、表面からの深さを表している。WC/DLC層は、CピークとWピークが共存する範囲であり、この共存範囲内の水素ピークの最大値(原子%)を本発明における「第2混合層における水素含有量」として定義している。なお、縦軸の「原子%」は、GDS分析における水素量出力値(V)から下記の方法で算出している。
GDS分析における水素量出力値(V)は、試験片材質の違いによって異なるため、第2混合層(WC/DLC層)を構成しているDLCとWCそれぞれについて水素量検量線を作成する必要がある。そこで、DLC単層膜試験片およびWC単層膜試験片のそれぞれについて、WC/DLC層の成膜条件に合わせた条件でメタンガス導入量を調整することで水素含有量の異なる試験片を作製し、ERDA分析とGDS分析を行なった。GDS分析における水素量出力値(V)とERDA分析で測定した水素量(原子%)の関係(検量線)の一例を図8に示す。GDS分析における水素量出力値は水素量と直線関係があることが分かる。上記DLC水素量検量線で求めた水素含有量と、上記WC水素量検量線で求めた水素含有量とは異なるため、これら両方の検量線で求めた水素含有量の平均をとることで、任意の水素量出力値(V)に対応する水素含有量(原子%)が算出できる。
表面層1cは、DLCを主体とする膜である。表面層1cにおいて、第2混合層1bとの隣接側に、緩和層部分1dを有することが好ましい。これは、第2混合層1bと表面層1cとで成膜条件パラメータ(炭化水素系ガス導入量、真空度、バイアス電圧)が異なる場合、これらパラメータの急激な変化を避けるために、該パラメータの少なくとも1つを連続的または段階的に変化させることで得られる緩和層部分である。より詳細には、第2混合層1bの最表層形成時の成膜条件パラメータを始点とし、表面層1cの最終的な成膜条件パラメータを終点として、各パラメータをこの範囲内で連続的または段階的に変化させる。これにより、第2混合層1bと表面層1cとの急激な物性(硬度・弾性率等)の差がなくなり、第2混合層1bと表面層1cとの密着性がさらに優れる。なお、バイアス電圧を連続的または段階的に上昇させることで、DLC構造におけるグラファイト構造(sp)とダイヤモンド構造(sp)との構成比率が後者に偏っていき、硬度が傾斜(上昇)する。
硬質膜1の膜厚(3層の合計)は0.5〜3.0μmとすることが好ましい。膜厚が0.5μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣る場合があり、3.0μmをこえると剥離し易くなる。さらに、該硬質膜1の膜厚に占める表面層1cの厚さの割合が0.7以下であることが好ましい。この割合が0.7をこえると、第2混合層1bにおけるWCとDLCの物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となりやすく、密着性が劣化する可能性が高い。
硬質膜1を以上のような組成の第1混合層1a、第2混合層1b、表面層1cからなる3層構造とすることで、耐剥離性に優れる。
硬質膜1の物性としては、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、上記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が200×10−10mm/(N・m)未満であることが好ましい。該試験で比摩耗量が200×10−10mm/(N・m)未満であれば、耐摩耗性に優れ、摩耗粉の発生を防止し得る。
また、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaであることが好ましい。この範囲であると、硬質膜を摺動面に形成する場合、該摺動面に硬質な異物が介入した際に発生するアブレッシブ摩耗にも高い効果を発揮する。
また、スクラッチテストにおける臨界剥離荷重が50N以上であることが好ましい。スクラッチテストにおける臨界剥離荷重の測定方法は、後述の実施例に示すとおりである。臨界剥離荷重が50N未満である場合には、高荷重条件で使用した場合に硬質膜が剥離する可能性が高い。また、臨界剥離荷重が50N以上であっても、本発明のような膜構造でなければ場合によっては容易に剥離することもある。
以下、硬質膜の形成方法について説明する。硬質膜は、基材表面に対して、下地層1a、混合層1b、表面層1cをこの順に成膜して得られる。
表面層1cの形成は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。UBMS装置を用いたUBMS法の成膜原理を図2に示す模式図を用いて説明する。図中において、基材12は、成膜対象の基材である。図2に示すように、丸形ターゲット15の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する内側磁石14a、外側磁石14bが配置され、ターゲット15付近で高密度プラズマ19を形成しつつ、上記磁石14a、14bにより発生する磁力線16の一部16aがバイアス電源11に接続された基材12近傍まで達するようにしたものである。この磁力線16aに沿ってスパッタリング時に発生したArプラズマが基材12付近まで拡散する効果が得られる。このようなUBMS法では、基材12付近まで達する磁力線16aに沿って、Arイオン17および電子が、通常のスパッタリングに比べてイオン化されたターゲット18をより多く基材12に到達させるイオンアシスト効果によって、緻密な膜(層)13を成膜できる。
表面層1cは、この装置を利用して、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、上記Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合を1〜5とし、上記装置内の真空度を0.2〜0.8Paとし、基材に印加するバイアス電圧を70〜150Vとした条件下で、上記炭素供給源から生じる炭素原子を、第2混合層1b上に堆積させて成膜されたものとすることが好ましい。この好適条件について以下に説明する。
炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用することで、第2混合層1bとの密着性を向上させることができる。炭化水素系ガスとしては、メタンガス、アセチレンガス、ベンゼンなどが使用でき、特に限定されないが、コストおよび取り扱い性の点からメタンガスが好ましい。
上記炭化水素系ガスの導入量の割合を、ArガスのUBMS装置内(成膜チャンバー内)への導入量100(体積部)に対して1〜5(体積部)とすることで、表面層1cの耐摩耗性などを悪化させずに、第2混合層1bとの密着性の向上が図れる。
UBMS装置内(成膜チャンバー内)の真空度は上記のとおり0.2〜0.8Paであることが好ましい。より好ましくは、0.25〜0.8Paである。真空度が0.2Pa未満であると、チャンバー内のArガス量が少ないため、Arプラズマが発生せず、成膜できない場合がある。また、真空度が0.8Paより高いと、逆スパッタ現象が起こり易くなり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
基材に印加するバイアス電圧は上記のとおり70〜150Vであることが好ましい。より好ましくは、100〜150Vである。バイアス電圧が70V未満であると、緻密化が進行せず、耐摩耗性が極端に悪化するので好ましくない。また、バイアス電圧が150Vをこえると、逆スパッタ現象が起こり易くなり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。また、バイアス電圧が高すぎると、表面層が硬くなりすぎ、使用時に剥離しやすくなるおそれがある。
また、スパッタリングガスであるArガスの導入量は40〜150ml/minであることが好ましい。より好ましくは50〜150ml/minである。Arガス流量が40ml/min未満であると、Arプラズマが発生せず、成膜できない場合がある。また、Arガス流量が150ml/minよりも多いと、逆スパッタ現象が起こり易くなるため、耐摩耗性が悪化するおそれがある。Arガス導入量が多いと、成膜チャンバー内でAr原子と炭素原子の衝突確率が増す。その結果、膜表面に到達するAr原子数が減少し、Ar原子による膜の押し固め効果が低下し、膜の耐摩耗性が悪化する。
第1混合層1aおよび第2混合層1bの形成も、上記のスパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。第1混合層1aを形成する際には、ターゲット15として、CrターゲットおよびWCターゲットを併用する。また、第2混合層1bを形成する際には、(1)WCターゲット、および、(2)黒鉛ターゲットおよび炭化水素系ガスを用いる。各層の形成毎に、それぞれに用いるターゲットを逐次取り替える。
第1混合層1aは、連続的または段階的に、WCターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、Crターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより第2混合層1b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる傾斜組成の層とできる。
第2混合層1bは、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより表面層1c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成の層とできる。
第2混合層1b中の水素含有量を上記範囲(10〜45原子%)とするため、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、該炭化水素系ガスの導入量の割合を、通常のスパッタリング条件と比較して多くする。例えば、炭化水素系ガスの導入量の割合を、ArガスのUBMS装置内(成膜チャンバー内)への導入量100(体積部)に対して5〜40、より好ましくは10〜40(体積部)とする。第2混合層成膜時における装置内の真空度、バイアス電圧などの他の条件は、上述の表面層の好適な成膜条件と同様である。
本発明の硬質膜形成体は、基材と、基材の表面に成膜される硬質膜とからなる。この硬質膜が、上述の本発明の硬質膜である。
基材の材質としては、特に限定されないが、超硬合金材料または鉄系材料を用いることができる。超硬合金材料としては、機械的特性が最も優れるWC−Co系合金の他に、耐酸化性を向上させた、WC−TiC−Co系合金、WC−TaC−Co系合金、WC−TiC−TaC−Co系合金などが挙げられる。鉄系材料としては、高炭素クロム鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などが挙げられる。
これらの基材において、硬質膜が形成される基材表面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることが好ましい。Hv650以上とすることで、硬質膜(第1混合層)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。
硬質膜が形成される基材表面において、硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、基材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカース硬さでHv1000以上であることが、硬質膜(第1混合層)との密着性をさらに向上させるために好ましい。
硬質膜が形成される基材表面の表面粗さRaは、0.05μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.05μmをこえると、粗さの突起先端に硬質膜が形成され難くなり、局所的に膜厚が小さくなる。
本発明の硬質膜形成体は、摺動部材、金型・工具類、研磨材、磁気・光学部品、その他、高い耐摩耗性や耐剥離性を要求される部位において使用できる。
本発明の硬質膜を所定の基材に形成し、該硬質膜の物性に関する評価した。これらを実施例、比較例、参考例として以下に説明する。
硬質膜の評価用に用いた基材、UBMS装置、スパッタリングガスは以下のとおりである。
(1)基材材質:各表に示す基材
(2)基材寸法等:各表に示す表面粗さの円板(φ48mm×φ8mm×7mm、平面に成膜)
(3)UBMS装置:神戸製鋼所製;UBMS202/AIP複合装置
(4)スパッタリングガス:Arガス
第1混合層(下地層)の形成条件を以下に説明する。成膜チャンバー内を5×10−3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、CrターゲットとWCターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、CrとWCの組成比を傾斜させた層を形成した。基材に印加するバイアス電圧は、150Vである。この層は、基材側から第2混合層側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる層である。なお、Cr/WC以外の混合層とする場合は、対応するターゲットを用いる以外は、同条件で形成した。
第2混合層(中間層)の形成条件を以下に説明する。成膜チャンバー内を5×10−3Pa程度まで真空引きし、Arプラズマにて基材表面(または上記下地層表面)をエッチング後、炭化水素系ガスであるメタンガスを供給しながら、WCターゲットと黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、WCとDLCの組成比を傾斜させた層を形成した。基材に印加するバイアス電圧は、150Vである。この層は、第1混合層側から表面層側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる層である。第2混合層における水素含有量(原子%)は、GDS分析(グロー放電発光分光分析)により上述の方法で求めた。なお、メタンガス導入比は、各表に示すとおりである。
表面層の形成条件は、各表に示すとおりである。
UBMS202/AIP複合装置の概要を図3に示す。図3はアークイオンプレーティング(以下、AIPと記す)機能を備えたUBMS装置の模式図である。図3に示すように、UBMS202/AIP複合装置は、円盤22上に配置された基材23に対し、真空アーク放電を利用して、AIP蒸発源材料21を瞬間的に蒸気化・イオン化し、これを基材23上に堆積させて被膜を成膜するAIP機能と、スパッタ蒸発源材料(ターゲット)24を非平衡な磁場により、基材23近傍のプラズマ密度を上げてイオンアシスト効果を増大すること(図2参照)によって、基材上に堆積する被膜の特性を制御できるUBMS機能を備える装置である。この装置により、基材上に、AIP被膜および複数のUBMS被膜(組成傾斜を含む)を任意に組合せた複合被膜を成膜することができる。この実施例では、基材に、第1混合層、第2混合層、表面層をUBMS被膜として成膜している。
実施例1〜10、12、比較例1〜7、参考例1〜9
表1〜表3に示す基材をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、基材をUBMS/AIP複合装置に取り付け、上述の形成条件にて各表に示す材質の第1混合層および第2混合層を形成した。その上に、各表に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。なお、各表における「真空度」は上記装置における成膜チャンバー内の真空度である。得られた試験片を以下に示す摩擦摩耗試験、膜厚試験、硬度試験、スクラッチテスト、およびスラスト型転動疲労試験(参考例以外)に供した。結果を各表に併記する。なお、表1下記の1)〜7)は、表2〜表4においても同じである。
実施例11
日本電子工業社製:ラジカル窒化装置を用いてプラズマ窒素処理が施された基材(ビッカース硬さHv1000)をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、基材をUBMS/AIP複合装置に取り付け、上述の形成条件にて表1に示す材質の第1混合層(Cr/WC)および第2混合層(WC/DLC)を形成した。その上に、表1に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。得られた試験片について、実施例1と同様の試験に供し、その結果を表1に併記する。
<摩擦摩耗試験>
得られた試験片を、図4に示す摩擦試験機用いて摩擦試験を行なった。図4(a)は正面図を、図4(b)は側面図を、それぞれ表す。表面粗さRaが0.01μm以下であり、ビッカース硬度Hvが780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材32として回転軸に取り付け、試験片31をアーム部33に固定して所定の荷重34を図面上方から印加して、ヘルツの最大接触面圧0.5GPa、室温(25℃)下、0.05m/sの回転速度で30分間、試験片31と相手材32との間に潤滑剤を介在させることなく、相手材32を回転させたときに、相手材32と試験片31との間に発生する摩擦力をロードセル35により検出した。これより、比摩耗量を算出した。
<膜厚試験>
得られた試験片の硬質膜の膜厚を表面形状・表面粗さ測定器(テーラーホブソン社製:フォーム・タリサーフPGI830)を用いて測定した。膜厚は成膜部の一部にマスキングを施し、非成膜部と成膜部の段差から膜厚を求めた。
<硬度試験>
得られた試験片の押し込み硬さをアジレントテクノロジー社製:ナノインデンタ(G200)を用いて測定した。なお、測定値は表面粗さの影響を受けない深さ(硬さが安定している箇所)の平均値を示しており、各試験片10箇所ずつ測定している。
<スクラッチテスト>
得られた試験片について、ナノテック社製:レベテストRSTを用いてスクラッチテストを行ない臨界剥離荷重を測定した。具体的には、得られた試験片について、先端半径200μmのダイヤモンド圧子で、スクラッチ速度10mm/min、荷重負荷速度10N/mm(連続的に荷重を増加)で試験し、試験機画面で判定し、画面上の摩擦痕(摩擦方向長さ375μm、幅約100μm)に対し露出した基材の面積が50%に達する荷重を臨界剥離荷重として測定した。
<スラスト型転動疲労試験>
得られた試験片(φ48mm×φ8mm×7mm)について、図5に示す試験機を用いて、スラスト型転動疲労試験として、軸受の潤滑状態が苛酷な場合を想定した「低ラムダ条件」と、潤滑状態が良好な場合を想定した「高ラムダ条件」との2条件の試験を行い、硬質膜の転動疲労特性を評価した。「低ラムダ条件」は境界潤滑となるため、純粋な繰り返し転動疲労に加え接触による損傷が影響する。よって、硬質膜の耐摩耗性と密着性が要求される。各条件を以下に示す。
[低ラムダ条件]
潤滑油:VG2
ラムダ:0.6
最大接触面圧:2GPa
回転数:1000r/min
軌道径:φ20mm
転動体:サイズ7/32”、個数3、材質SUJ2、硬さHv750、表面粗さ0.005μmRa
油温度:70℃
打ち切り時間:なし
(1111hで負荷回数8乗回)

[高ラムダ条件]
潤滑油:VG32
ラムダ:9.2
最大接触面圧:3.5GPa
回転数:4500r/min
軌道径:φ20mm
転動体:サイズ7/32”、個数3、材質SUJ2、硬さHv750、表面粗さ0.005μmRa
油温度:70℃
打ち切り時間:300h
(247hで負荷回数8乗回)
図5に示すように、試験機は、転動体42が円板状の試験片41と軌道盤(51201)45との間で転動する構成であり、試験片41は調芯用ボール43を介して支持されている。また、図中44は、予圧のためのロータリーボールスプライン、46はヒータ、47は熱電対である。本試験機は、試験片41を取り付け直しても転走跡がずれない構造である。評価方法は、試験時間20h毎に試験片を取り外し、光学顕微鏡観察によって試験片からの硬質膜の剥離有無を確認する。例えば、20h確認時に剥離していれば寿命は20hとなる。20h確認時に剥離していなければ、再度試験片を取り付けて試験を継続する。寿命時間を表1および表2に併記する。また、寿命判定として、低ラムダ条件では、寿命が1500h以上のものを「○」、1500h未満のものを「×」として記録する。高ラムダ条件では、寿命が300h以上のものを「○」、300h未満のものを「×」として記録する。
表1に示すように、各実施例の硬質膜は、耐摩耗性や耐剥離性に優れることが分かる。一方、膜構造が異なる比較例1〜5では、耐剥離性などに劣る結果となっていた。また、膜構造(3層構造)は同等であるが、第2混合層における水素含有量が本発明の範囲にない比較例6、7では高ラムダ条件での耐剥離性に劣る結果となった。
実施例13〜18、比較例8〜10
本発明の硬質膜について以下の微動摩耗試験を行ない、フレッティング摩耗に対する耐性を評価した。試験片(φ48mm×φ8mm×7mm、平面に成膜)は、表4に示す条件で作製した。なお、各層の成膜は、表4に示す条件以外は実施例1と同様の条件で行なった。
<微動摩耗試験>
図9は微動摩耗試験機を示す図である。図9に示すように微動摩耗試験機51を用い、グリース55を塗布した試験片52に、ラジアル荷重54を負荷された鋼球53を載せ、下記条件にて水平方向A−Bに往復動させたときの試験片52の摩耗深さと比摩耗量、および、鋼球53の摩耗量を測定した。

[測定条件]
グリース:カルシウム・リチウム石けん/鉱油グリース
ラジアル荷重:10kgf
最大接触面圧:2.5GPa
振動数:30Hz
往復動振幅:0.47mm
試験時間:4時間
表4に示すように、各実施例の硬質膜は、耐フレッティング性に優れることが分かる。また、相手材である鋼球の摩耗も抑制できた。一方、第2混合層における水素含有量が本発明の範囲にない比較例8、膜構造が異なる比較例9、10では、耐フレッティング性に劣り、相手材である鋼球の摩耗量も多い結果となった。
本発明の硬質膜は、摺動部材、金型・工具類、研磨材、磁気・光学部品、その他、高い耐摩耗性や耐剥離性を要求される部位に形成する膜として好適に利用できる。
1 硬質膜
1a 第1混合層
1b 第2混合層
1c 表面層
1d 緩和層部分
2 基材
11 バイアス電源
12 基材
13 膜(層)
15 ターゲット
16 磁力線
17 Arイオン
18 イオン化されたターゲット
19 高密度プラズマ
21 AIP蒸発源材料
22 円盤
23 基材
24 スパッタ蒸発源材料(ターゲット)
31 試験片
32 相手材
33 アーム部
34 荷重
35 ロードセル
41 試験片
42 転動体
43 調芯用ボール
44 ロータリーボールスプライン
45 軌道盤
46 ヒータ
47 熱電対
51 微動摩耗試験機
52 試験片
53 鋼球
54 ラジアル荷重
55 グリース

Claims (15)

  1. 基材の表面に成膜される硬質膜であって、
    前記硬質膜は、前記基材の表面上に直接成膜されるクロムとタングステンカーバイトとを主体とする第1混合層と、該第1混合層の上に成膜されるタングステンカーバイトとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする第2混合層と、該第2混合層の上に成膜されるダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、
    前記第1混合層は、前記基材側から前記第2混合層側へ向けて連続的または段階的に、該第1混合層中の前記クロムの含有率が小さくなり、該第1混合層中の前記タングステンカーバイトの含有率が高くなる層であり、
    前記第2混合層は、前記第1混合層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該第2混合層中の前記タングステンカーバイトの含有率が小さくなり、該第2混合層中の前記ダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層であり、
    前記第2混合層における水素含有量が10〜45原子%であることを特徴とする硬質膜。
  2. 前記硬質膜は、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、前記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が200×10−10mm/(N・m)未満であることを特徴とする請求項1記載の硬質膜。
  3. 前記硬質膜は、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaであることを特徴とする請求項2記載の硬質膜。
  4. 前記硬質膜は、スクラッチテストにおける臨界剥離荷重が50N以上であることを特徴とする請求項2または請求項3記載の硬質膜。
  5. 前記表面層は、スパッタリングガスとしてアルゴンガスを用いたアンバランスド・マグネトロン・スパッタリング装置を使用して成膜した層であり、
    炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、前記アルゴンガスの前記装置内への導入量100に対する前記炭化水素系ガスの導入量の割合が1〜5であり、前記装置内の真空度が0.2〜0.8Paであり、前記基材に印加するバイアス電圧が70〜150Vである条件下で、前記炭素供給源から生じる炭素原子を、前記第2混合層上に堆積させて成膜されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の硬質膜。
  6. 前記表面層は、前記第2混合層との隣接側に緩和層部分を有し、該緩和層部分は、前記炭化水素系ガスの導入量の割合、前記装置内の真空度、および前記基材に印加するバイアス電圧の少なくとも1つを、連続的または段階的に変化させて形成された部分であることを特徴とする請求項5記載の硬質膜。
  7. 前記炭化水素系ガスが、メタンガスであることを特徴とする請求項5または請求項6記載の硬質膜。
  8. 前記硬質膜の膜厚が0.5〜3μmであり、かつ該硬質膜の膜厚に占める前記表面層の厚さの割合が0.7以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の硬質膜。
  9. 基材と、該基材の表面に成膜される硬質膜とからなる硬質膜形成体であって、
    前記硬質膜が、請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載の硬質膜であることを特徴とする硬質膜形成体。
  10. 前記基材が、超硬合金材料または鉄系材料からなることを特徴とする請求項9記載の硬質膜形成体。
  11. 前記基材が前記鉄系材料からなり、該鉄系材料が、高炭素クロム鋼、炭素鋼、工具鋼、またはマルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項10記載の硬質膜形成体。
  12. 前記基材の表面粗さが、0.05μmRa以下であることを特徴とする請求項9、請求項10または請求項11記載の硬質膜形成体。
  13. 前記基材の表面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることを特徴とする請求項9ないし請求項12のいずれか1項記載の硬質膜形成体。
  14. 前記基材の表面に、前記硬質膜の形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることを特徴とする請求項9ないし請求項13のいずれか1項記載の硬質膜形成体。
  15. 前記窒化処理が、プラズマ窒化処理であり、前記窒化処理後の表面の硬さが、ビッカース硬さでHv1000以上であることを特徴とする請求項14記載の硬質膜形成体。
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