JP2013073854A - チタン酸リチウムとカーボンナノファイバーとの複合体、その製造方法、この複合体を用いた電極及び電気化学素子 - Google Patents

チタン酸リチウムとカーボンナノファイバーとの複合体、その製造方法、この複合体を用いた電極及び電気化学素子 Download PDF

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Abstract

【課題】チタン酸リチウムとカーボンナノファイバーとを複合化すると共に、チタン酸リチウムの表面に炭素化膜を形成したチタン酸リチウムとカーボンファイバーの複合体、及びその製造方法に関する。
【解決手段】旋回する反応容器内で、チタン酸リチウムを含むチタン酸源と、スクロースを含むリチウムを含むリチウム源と、カーボンナノファイバーとを含む溶液にずり応力と遠心力を加えて反応させてチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーとの複合体を生成する複合化処理を行う。この複合化処理を経た複合体を真空中において加熱する加熱処理を行う。この複合体のチタン酸リチウムの表面にスクロースからなる炭素皮膜が形成する。
【選択図】図4

Description

本発明は、チタン酸リチウム複合体と、その製造方法、この複合体を用いた電極及び電気化学素子に関する。
現在、リチウム電池の電極としてリチウムを貯蔵、放出するカーボン材料等が用いられているが、マイナス電位が水素の還元分解電位より小さいので電解液の分解という危険性がある。そこで、マイナス電位が水素の還元分解電位より大きいチタン酸リチウムの使用が検討されている(例えば、特許文献1,2参照)。
このチタン酸リチウムの化学式はLiTi12である。チタン酸リチウムは、次の式(1)で表すようにLiの挿入脱離でエネルギーを放出・貯蔵することができるリチウムイオンインターカレート材料である。
[式1]
LiTi12 + 3Li+ + 3e → LiTi12 ・・・(1)
このチタン酸リチウムは空間群Fd3mに属し、図21に示すようなスピネル型の構造を有する。また、Li挿入後のチタン酸リチウムは、空間群Fm3m
に属し、図22に示すような岩塩型の構造を有する。
チタン酸リチウムの格子定数は8.358Åであるので、Li挿入・脱離による体積変化率は、0.2%となる。つまり、Liが挿入する際、チタン酸リチウムの16dサイトのLiとTiの位置と、32eサイトのOの位置は変化せず、8aサイトのLiだけが移動する。したがって、Liの挿入・脱離を繰り返してもLiTi12の結晶構造は崩れないので、電極材料として用いた場合、サイクル性に優れたエネルギー貯蔵デバイスとなる。
特開2007−160151号公報 特開2008−270795号公報
一方、チタン酸リチウムの理論容量は175mAhg−1であり、金属リチウムの酸化還元電位に対して1.55Vの電位でLiの挿入脱離が起こる。チタン酸リチウムの電気伝導度は10-13Scm−1、Li拡散係数は10-11cm−1であり、非常に小さい。
そのため、大きな電気伝導度や大きなLi拡散係数が求められる高出力用途のエネルギー貯蔵デバイスとして用いる場合には、電気伝導度とLi+拡散係数の問題を克服する必要がある。
電気伝導度とLi拡散係数を大きくするためには、次の(1)(2)の方法がある。
(1)チタン酸リチウムのナノ粒子化
(2)チタン酸リチウムと導電補助剤との複合化
(1)Li4Ti5O12のナノ粒子化
チタン酸リチウムの電気伝導度、Li拡散係数が小さいのであれば、チタン酸リチウム中のLi拡散距離、電子移動距離を短くすることでチタン酸リチウムの電気伝導度、Li拡散係数を大きくすることができる。しかしながら、チタン酸リチウムの粒子がnmオーダーサイズになると、粒子全体に対する、表面原子の割合が高くなる。この粒子の表面は、粒子内部に比べて不規則な構造になっており不安定であり、nmオーダーサイズの粒子は不安定である。従って、nmオーダーサイズの粒子は安定になろうと、つまり表面積を減らそうとして凝集しようという傾向がある。従って、低いLi拡散距離、電子移動距離を克服するためナノ粒子化するには限界がある。
(2)チタン酸リチウムと導電補助剤との複合化
LiTi12の電気伝導度は小さいので、電子がチタン酸リチウム以外を移動する時は電気伝導度の高い材料を電子移動パスとすれば良い。従って、チタン酸リチウムの周りを貴金属やカーボンといった電気伝導性の高い物質で覆うことにより、チタン酸リチウムの電気伝導度、Li拡散係数を大きくすることができる。しかしながら、チタン酸リチウムの粒径が大きいと、チタン酸リチウムの内部は電気化学反応に関与しないことになるので、根本的な問題解決にはなっていない。
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであって、(1)チタン酸リチウムのナノ粒子化(2)チタン酸リチウムと導電補助剤との複合化を同時に併用するものである。すなわち、チタン酸リチウムとカーボンナノファイバーとを複合化すると共に、チタン酸リチウムの表面に炭素皮膜を形成したチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体、及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記複合体を用いた電極及び電気化学素子を提供することにある。
前記の目的を達成するため本発明のチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体は、チタン酸リチウムの表面にスクロースからなる炭素皮膜が形成されることを特徴とする。
また、前記炭素皮膜の厚さは1〜2nmであることも本発明の一態様である。
前記炭素皮膜は、チタン酸リチウムに対して10−4wt%〜10−3wt%の割合のスクロースを添加したものであることも本発明の一態様である。
チタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの組成比が、80〜70:20〜30であることも本発明の一態様である。
前記チタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体をバインダーを用いて成形することによって形成された電極も本発明の一態様である。
前記電極を用いた電気化学素子も本発明の一態様である。
また、チタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの製造方法も本発明の一態様である。
本発明によれば、チタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体において、優れたLiTi12の電気伝導度、Li拡散係数、及び大容量の充放電特性を発現することができる。
スクロースの構造を示す模式図である。 カーボンナノファイバーのTEM像である。 本発明の製造方法に使用する反応器の一例を示す斜視図である。 本発明の実施形態におけるチタン酸リチウム及びカーボンナノファイバーの表面にスクロースによる炭素皮膜を形成する場合の作業手順を示したブロック図である。 本発明の実施形態における比較例3複合体のTG測定の結果を表したグラフである。 本発明の実施形態における実施例1,2及び比較例1〜3の複合体に対して行ったXRD(X線粉末回折法)による結晶構造解析の結果を表した図である。 本発明の実施形態における実施例1,2及び比較例1〜3の複合体の(111)、(311)、(400)面の結晶子サイズを示した図である。 本発明の実施形態における比較例1〜3の複合体の充放電試験結果を示したグラフである。 本発明の実施形態における実施例1,2の複合体の充放電試験結果を示したグラフである。 本発明の実施形態における比較例3の複合体のLiTi12周辺のHR−TEM像を表した図である。 本発明の実施形態における比較例3の複合体のCNF周辺のHR−TEM像を表した図である。 本発明の実施形態における比較例2の複合体のLiTi12周辺のHR−TEM像を表した図である。 本発明の実施形態における比較例2の複合体のCNF周辺のHR−TEM像を表した図である。 本発明の実施形態における実施例1の複合体のLiTi12周辺のHR−TEM像を表した図である。 本発明の実施形態におけるチタン酸リチウムの表面にスクロースによる炭素皮膜を形成する場合の作業手順を示したブロック図である。 本発明の実施形態における実施例4の複合体のTG測定の結果を表したグラフである。 本発明の実施形態における実施例3,4の複合体に対して行ったXRD(X線粉末回折法)による結晶構造解析の結果を表した図である。 本発明の実施形態における実施例3,4の複合体の(111)、(311)、(400)面の結晶子サイズを示した図である。 本発明の実施形態における実施例2,4の複合体の充放電試験結果を示したグラフである。 本発明の実施形態における実施例1,3の複合体の充放電試験結果を示したグラフである。 チタン酸リチウムのスピネル型の構造を示す模式図である。 チタン酸リチウムの岩塩型の構造を示す模式図である。
本発明を実施する形態について、以下、説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
本実施形態に係るチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーとの複合体は、チタン源(以下、Ti源)、スクロースを含有するリチウム源(以下、Li源という)及びカーボンナノファイバー(以下、CNFという)を加えて、メカノケミカル反応の一つである超遠心力処理(Ultra-Centrifugal force processing method:以下、UC処理という)し、その生成物を真空乾燥し、その後、焼成することにより、得られる。
(チタン源)
チタン源として、チタン(IV)テトラブトキシモノマー(Ti[O(CHCH、和光純薬工業株式会社製、一級)を用いることができる。チタン(IV)テトラブトキシモノマー以外のものとしては、イソプロピルアルコキシド、塩化チタンなどを利用することができる。Ti源の溶液は、キレート試薬として酢酸(CH3COOH、関東化学株式会社製、特級)、溶媒としてイソプロピルアルコール((CHCHOH、和光純薬工業社製、有機合成用)を加えて調製する。
(リチウム源)
リチウム源として酢酸リチウム(CH3COOLi、和光純薬工業株式会社製、特級)を用いることができる。酢酸リチウム以外のリチウム源としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム等を利用することができる。Li源の溶液は、蒸留水、酢酸、イソプロピルアルコールの混合溶液に、酢酸リチウムを溶解させることにより調製した。
(スクロース)
リチウム源に添加するスクロースはグルコースとフルクトースがグリコシド結合した二糖類である。スクロースは、化学式C122211
で表すことができ、図1の構造を有している。スクロースの物性は、密度1.587gcm−3、融点186℃、水への溶解度211.5g(100ml,20℃)であり、広い意味ではポリアルコールに相当する。
スクロースはLi源に添加され、Ti源とCNFと共にUC処理することにより、チタン酸リチウムの表面及びCNFの表面に炭素皮膜を形成する。また、複合体内部において非晶質カーボンを形成する。特に、チタン酸リチウムの表面に形成した炭素皮膜は、チタン酸リチウムの結晶の成長を抑制する。このときの炭素皮膜の厚さは1〜2nmが好ましい。
このときのスクロースの添加量は、チタン酸リチウムに対して10−4wt%以上10−3wt%以下が適量である。スクロースの割合が、10−4wt%より少ないとLiTi12上の炭素皮膜が不足し、炭素皮膜を持つLiTi12前駆体と持たないLiTi12前駆体が混在することになる。炭素皮膜を持たないLiTi12前駆体には、無添加系の時よりも多くのTi源とLi源が反応してしまい、より大きな粒子が生成される。この大きな粒子により容量が低下するからである。
また、添加するスクロースの割合が10−3wtよりも多いと、複合体全体への非晶質カーボンの形成によりLi拡散が妨害されると共に、CNF上への厚い炭素皮膜が形成されることにより電気伝導度が失われる。これにより、チタン酸リチウムの利用率とレート特性が低下する。
(カーボンナノファイバー)
反応過程で所定のCNFを加えることによって、チタン酸リチウムとCNFとの複合体を得ることができる。CNFは、数百nmの径のファイバーも含まれる多層カーボンナノチューブ(CNT)である。本実施例のCNFは、図2に示したTEM像のように、直径は15−30nmを使用した。このCNFは、電気伝導度は25Ω-1cm-1、比表面積は322m−1であり、一酸化炭素と原料とした触媒化学気相析出(CCVD ; catalytic chemical vapordeposition)法で作製した物である。
本実施例では、チタン酸リチウムに対して20〜30wt%の範囲の割合のカーボンナノファイバーを添加する。チタン酸リチウムに対して添加するカーボンナノファイバーの割合が20wt%未満であると、カーボンナノファイバーに担持したチタン酸リチウムが減少して、容量、レート特性が低下するからであり、また、添加するカーボンナノファイバーの割合が30wt%超であると、チタン酸リチウムが減少して、容量が低下するであるからである。
(溶媒)
溶媒としては、アルコール類、水、これらの混合溶媒を用いることができる。例えば、酢酸と酢酸リチウムをイソプロパノールと水の混合物に溶解した混合溶媒を使用することができる。
(UC処理)
本実施形態で用いるUC処理は、メカノケミカル反応を利用した処理である。このメカノケミカル反応は、化学反応の過程で、旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加えて化学反応を促進させる。
この反応方法は、例えば、図3に示すような反応器を用いて行うことができる。図3に示すように、反応器は、開口部にせき板1−2を有する外筒1と、貫通孔2−1を有し旋回する内筒2からなる。この反応器の内筒2内部に反応物を投入し、内筒2を旋回することによってその遠心力で内筒2内部の反応物が内筒2の貫通孔2−1を通って外筒1の内壁1−3に移動する。この時反応物は内筒2の遠心力によって外筒1の内壁1−3に衝突し、薄膜状となって内壁1−3の上部へずり上がる。この状態では反応物には内壁1−3との間のずり応力と内筒2からの遠心力の双方が同時に加わり、薄膜状の反応物に大きな機械的エネルギーが加わることになる。この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われるが、短時間で反応が進行する。
この反応において、薄膜状であると反応物に加えられる機械的エネルギーは大きなものとなるため、薄膜の厚みは5mm以下、好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。なお、薄膜の厚みはせき板の幅、反応物の量によって設定することができる。
この反応方法は、反応物に加えられるずり応力と遠心力の機械的エネルギーによって実現できるものと考えられるが、このずり応力と遠心力は内筒内の反応物に加えられる遠心力によって生じる。したがって、本実施形態に必要な内筒内の反応物に加えられる遠心力は1500N(kgms-2)以上、好ましくは60000N(kgms-2)以上、さらに好ましくは270000N(kgms-2)以上である。
この反応方法においては、反応物にずり応力と遠心力の双方の機械的エネルギーが同時に加えられることによって、このエネルギーが化学エネルギーに転化することによるものと思われるが、従来にない速度で化学反応を促進させることができる。
(乾燥・焼成処理)
本実施形態では、メカノケミカル反応によりチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーとの複合体を得た後、この複合体を真空中で乾燥及び焼成することにより、この複合体を使用した電極や電気化学素子の容量、出力特性を向上させる。
すなわち本実施形態では、複合体の乾燥処理工程において、真空中において80℃の温度で17時間乾燥を行う。その後、焼成工程において、真空中において900℃の温度で3分間焼成を行う。このことによって、ナノ粒子の凝集が抑制されて、カーボンナノファイバーに高分散担持され、容量、レート特性が向上する。
(電極)
本実施形態により得られたチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーとの複合体は、バインダーと混錬、成型し、電気化学素子の電極、すなわち電気エネルギー貯蔵用電極とすることができ、その電極は高出力特性、高容量特性を示す。
(電気化学素子)
この電極を用いることができる電気化学素子は、リチウムやマグネシウムなどの金属イオンを含有する電解液を用いる電気化学キャパシタや電池である。すなわち、本実施形態の電極は、金属イオンの吸蔵、脱着を行うことができ、負極や正極として作動する。したがって、金属イオンを含有する電解液を用い、対極として活性炭、金属イオンが吸蔵、脱着するチタン酸リチウムや金属酸化物等を用いることによって、電気化学キャパシタや電池を構成することができる。
[第1の特性比較]
本特性比較では、チタン酸リチウム及びカーボンナノファイバーの表面にスクロースによる炭素皮膜を形成する工程における特性比較である。図4は、本特性比較の工程を表す図であり、本図に従い実施例1,2及び比較例1〜3の複合体を合成した。
実施例1はLi源側の溶液に添加するスクロースの割合が10−3wt%であり、実施例2はLi源側の溶液に添加するスクロースの割合が10−4wt%である。また、比較例1は、Li源側の溶液に添加するスクロースの割合が10−2wt%であり、比較例2は、Li源側の溶液に添加するスクロースの割合が10−1wt%であり、比較例3は、Li源側の溶液に添加するスクロースの割合が2wt%である。
本特性比較では、Ti源の溶液はイソプロピルアルコール300molにテトラブトキシチタン5molを加えて調製した。
一方、Li源の溶液として蒸留水50mol、酢酸9mol及びイソプロピルアルコール36molの混合溶液に、酢酸リチウム5molを溶解させることにより調製した。実施例1,2及び比較例1〜3の複合体を作成するために、チタン酸リチウムに対して10−2wt%、10−3wt%、10−4wt%の割合でスクロースをLi源に添加した。このとき添加量を制御するためにスクロース水溶液を以下のように調製・滴下した。
(1)実施例1:10−3wt%のスクロースを添加する時は、0.0178gのスクロースを100mLの蒸留水に溶かした水溶液を56.2μLだけチタン酸リチウム原料溶液に滴下した。
(2)実施例2:10−4wt%のスクロースを添加する時は、0.0025gのスクロースを25mLの蒸留水に溶かした水溶液を10.0μLだけチタン酸リチウム原料溶液に滴下した。
(3)比較例1:10−2wt%のスクロースを添加する時は、0.1978gのスクロースを20mLの蒸留水に溶かした水溶液を10.1μLだけチタン酸リチウム原料溶液に滴下した。
(4)比較例2:10−1wt%のスクロースを添加する時は、チタン酸リチウムに対して10−1wt%の割合のスクロースをUC反応原料溶液に加えた。
(5)比較例3:2wt%のスクロースを添加する時は、チタン酸リチウムに対して2wt%の割合のスクロースをUC反応原料溶液に加えた。
以上の様に調製したTi源溶液にLi源溶液を加え、さらにLiTi12:CNF=70:30の重量比でCNFを原料溶液に加えた。この原料溶液に対して、超遠心力場におけるUC処理を行い前駆体を生成した。その後、得られた前駆体を真空下で17時間乾燥させた後、900℃の真空下で3分間焼成を行うことにより実施例1,2及び比較例1〜3の複合体を得た。
この実施例1,2及び比較例1〜3の複合体に対して、XRD(X線粉末回折法)による結晶構造の解析、TG(熱重量分析)による熱特性及びカーボン比率の算出、及びHR−TEM(透過型電子顕微鏡)による結晶系の同定およびSTEM(走査透過電子顕微鏡)観察を行った。
[TGによる熱特性、カーボン比率の算出]
複合体中のLiTi12
とCNFの組成比を確かめるため、TG測定を行った。雰囲気は空気下(N+O)、測定温度は30−900℃とした。昇温速度は20℃
min−1、900℃において10分間温度を保持した。
図5は、比較例3のチタン酸リチウムに対して2wt%の割合のスクロースを添加した複合体のTG
測定の結果を表したグラフである。図からは、実施例1,2及び比較例1〜3の複合体の中で最もスクロース添加率が大きい2wt%の時でも、組成比が仕込み比のLiTi12/CNF=70:30とほぼ一致していた。この結果から、スクロースの添加量が比較例3より少ない実施例1,2及び比較例1,2の複合体においても組成制御は可能であることが判る。
[XRDによる結晶構造解析]
結晶構造を同定するためXRD測定を行った。またXRD結果より、次に示すシェラーの式(2)から結晶子サイズd[nm]を求めた。
d=(Kλ)/(β cosθ)・・・・(2)
K は構造因子、λはX 線波長、βは半値幅
図6は、実施例1,2及び比較例1〜3の複合体に対して行ったXRD(X線粉末回折法)による結晶構造解析の結果を表した図である。この図によれば、実施例1,2及び比較例1〜3において、約25°のところにカーボン由来のピークがある以外は、アナターゼ型TiOやルチル型TiOなどの不純物を含まないLiTi12が生成していることが判る。
また、図7は、実施例1,2及び比較例1〜3の複合体における結晶子サイズを各XRD結果とシェラーの式から求めた(111)、(311)、(400)面の結晶子サイズを示した図である。この図からは、スクロースを添加しない場合に比べてスクロースを添加した複合体では、結晶子サイズが小さくなることが判る。
[充放電試験結果]
充放電試験は放電側(LiがLiTi12に挿入する側)のレートを10Cに固定し、充電のレートを10、30、60、120、180、300Cと変えていき、各レートで3回ずつ測定を行った。測定電位は1−3Vvs.Li/Liの範囲とした。
図8は、比較例1〜3の複合体の充放電試験結果を示した。前記XRDによる結晶構造解析で述べたように、スクロースを添加した複合体では、スクロースを添加しない複合体に比べて結晶子サイズが小さくなる。それにも関わらず、図8からは、スクロースを添加していない複合体よりも容量が低下することが判る。つまり、比較例1〜3の複合体においては、全てのレートにおいてLiTi12の利用率が低下する。
一方、図9は、実施例1,2の複合体の充放電試験結果を示した。図9からは、実施例1の複合体は、全レートにおいてスクロースを添加していない複合体よりも容量が大きいことが判る。また、実施例2の複合体は、低レート側においてスクロースを添加していない複合体よりも容量が大きいことが判る。つまり、10−4wt%〜10−3wt%の割合のスクロースを添加することによりLiTi12の利用率が向上することにより容量が大きくなる。特に10−3wt%の割合のスクロースを添加することにより全レートでの容量が向上する。
[HR−TEMによる結晶系の同定および形態観察]
図10〜14は、実施例1及び比較例2,3の複合体の結晶構造を表した写真である。複合体の結晶構造は、HR−TEM(高分解能透過電子顕微鏡)を使用することにより観察した。
図10,11は、比較例3の複合体のLiTi12とCNF周辺のHR−TEM像を表した図である。また、図12,13は、比較例2の複合体のLiTi12とCNF周辺のTEM像を表した図である。
図10,12からは、LiTi12の表面に炭素皮膜が形成されていることが判る。この炭素皮膜により、LiTi12の結晶の成長が抑制されている。また、図11,13からは、複合体全体に対して大きな非晶質カーボンが形成されていることが判る。これにより、Liの拡散が妨害され、LiTi12の利用率が低下が起こる。
一方、図14は、実施例1の複合体のLiTi12とCNF周辺のHR−TEM像を表した図である。図14からは、LiTi12の表面に炭素皮膜が形成されていることが判る。つまり、比較例2,3と同様にLiTi12の結晶の成長が抑制されている。しかしながら、LiTi12の表面に炭素皮膜の厚さは約1〜2nmしかなく、比較例2,3と比較して大幅に薄くなっている。また、複合体全体に対する非晶質カーボンは形成されていないことが判る。CNF上の炭素皮膜が薄くなったことにより、LiTi12利用率が向上する。
[まとめ]
以上より、スクロースを添加することにより、LiTi12の表面に炭素皮膜が形成されLiTi12の結晶成長は抑制される。しかしながら、スクロース添加率が10−2wt%以上になると、CNF上の炭素皮膜はCNFが本来持つ電気伝導性を失わせるほど厚くなる。また、複合体全体に対して非晶質カーボンが形成され、Liの拡散が妨害されるため、スクロースを添加していない複合体よりもLiTi12利用率が低下する。
これに対して、スクロース添加率をさらに減らし10−3wt%としたところ、複合体全体に対する非晶質カーボンが形成されなくなり、CNF上の炭素皮膜も薄くなっていた。その結果、スクロース無添加系よりもLiTi12利用率が向上する。
[第2の特性比較]
本特性比較は、チタン酸リチウムの表面にスクロースによる炭素皮膜を形成する工程における特性比較である。図15は、本特性比較の工程を表す図であり、図15に従い実施例3,4の複合体を合成した。
実施例3はLi源側の溶液に添加するスクロースの割合が10−3wt%であり、実施例4はLi源側の溶液に添加するスクロースの割合が10−4wt%である。
本特性比較では、Ti源の溶液はイソプロピルアルコール300molにテトラブトキシチタン5molを加えて調製した。
一方、Li源の溶液として蒸留水50mol、酢酸9mol及びイソプロピルアルコール36molの混合溶液に、酢酸リチウム5molを溶解させることにより調製した。実施例3,4の複合体を作成するために、チタン酸リチウムに対して10−3wt%1、10−4wt%の割合でスクロースをLi源に添加した。このとき添加量を制御するためにスクロース水溶液を以下のように調製・滴下した。
(1)実施例3:10−3wt%のスクロースを添加する時は、0.0178gのスクロースを100mLの蒸留水に溶かした水溶液を56.2μLだけチタン酸リチウム原料溶液に滴下した。
(2)実施例4:10−4wt%のスクロースを添加する時は、0.0025gのスクロースを25mLの蒸留水に溶かした水溶液を10.0μLだけチタン酸リチウム原料溶液に滴下した。
以上の様に調製したTi 源溶液にLiTi12:CNF=70:30の重量比でCNFをTi源溶液に加えて、超音波処理を3分間行った。その後、Li 源溶液を原料溶液に加えた。この原料溶液に対して、超遠心力場におけるUC処理を行い前駆体を生成した。その後、得られた前駆体を真空中において80℃の温度で17時間乾燥させた後、900℃の真空下で3分間焼成を行うことにより実施例1,2及び比較例1〜3の複合体を得た。
この実施例3,4の複合体及び前記特性比較で作製した実施例1,2の複合体に対して、XRD(X線粉末回折法)による結晶構造の解析、TG(熱重量分析)による熱特性及びカーボン比率の算出、及びHR−TEM(透過型電子顕微鏡)による結晶系の同定およびSTEM(走査透過電子顕微鏡)観察を行った。
[TGによる熱特性、カーボン比率の算出]
複合体中のLiTi12
とCNFの組成比を確かめるため、TG測定を行った。雰囲気は空気下(N+O)、測定温度は30-900℃とした。昇温速度は20℃min−1、900℃において10分間温度を保持した。
図16は、実施例4の複合体のTG測定の結果を表したグラフである。図16からは、実施例4の複合体においても、組成比が仕込み比のLiTi12/CNF=70:30とほぼ一致していた。この結果から、スクロースの添加量が実施例3の複合体においても組成制御は可能であることが判る。
[XRDによる結晶構造解析]
図17は、実施例3,4の複合体に対して行ったXRD(X線粉末回折法)による結晶構造解析の結果を表した図である。この図によれば、実施例3,4において、25°付近にカーボン由来のピークがあり、アナターゼ型TiOやルチル型TiOなどの不純物を含まないLiTi12が生成していることが判る。
また、図18は、実施例3,4の複合体における結晶子サイズを各XRD結果とシェラーの式である前述の式(2)から求めた(111)、(311)、(400)面の結晶子サイズを示した図である。この図からは、スクロース添加率10−3wt%の時は、合成スキーム変更後と変更前で結晶子サイズはほとんど変化しないことが判る。このときの結晶子のサイズは、スクロースを添加しない場合よりも小さいことが判る。一方、スクロース添加率が10−4wt%の時は、合成スキーム変更前に比べて、変更後は結晶子サイズが小さくなった。この結果から、スキームを変更することにより結晶粒径抑制が行われていることが判る。
[充放電試験結果]
第1の特性比較と同様に、充放電試験は放電側(LiがLiTi12に挿入する側)のレートを10Cに固定し、充電のレートを10、30、60、120、180、300Cと変えていき、各レートで3回ずつ測定を行った。
図19は、実施例2と実施例4のレート特性を示した図である。この図からは、製造工程を変化させた実施例4において、高レート側での容量が向上することが判る。すなわち、実施例2,4ともに低レート側においては、スクロースを添加していない場合よりも容量か向上している。特に、実施例4においては、高レート側のLiTi12利用率が向上することが判る。
これは、合成スキームを変更することにより、LiTi12に選択的に炭素皮膜が形成されるからである。
図20は、実施例1と実施例3のレート特性を示した図である。この図からは、実施例1,3において、低レート側においてはスクロースを添加していない場合よりも容量が向上している。しかしながら、実施例3において高レート側の容量が向上しているが、実施例1においては、高レート側の容量が低下していることが判る。
これは、CNF上に存在していた炭素皮膜も、全てLiTi12表面に担持したために、LiTi12表面の炭素皮膜が厚くなるからである。
[HR−TEMによる結晶系の同定および形態観察]
図21は、比較例3の複合体のLiTi12とCNF周辺のHR−TEM像を表した図である。図21からは、LiTi12の表面に炭素皮膜が形成されている。また、この炭素皮膜により、LiTi12の結晶の成長が抑制されていることが判る。これにより、Liの拡散が妨害され、LiTi12の利用率が低下が起こる。
[まとめ]
以上より、CNFを先にTi源溶液に溶解させることで、CNF表面に優先的にTi源が担持させることにより、後から投入されるスクロースがCNF表面に担持しない。これにより、LiTi12表面に選択的に炭素皮膜が形成することができるので、CNFの表面に炭素皮膜を形成する場合に比べて少ないスクロースで、LiTi12の結晶成長は抑制され、LiTi12利用率が向上する。
1 …外筒
1−2…せき板
1−3…内壁
2… 内筒
2−1…貫通孔

Claims (10)

  1. 前記チタン酸リチウムの表面にスクロースからなる炭素皮膜が形成されることを特徴とするチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体。
  2. 前記炭素皮膜の厚さは1〜2nmであることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体。
  3. 前記炭素皮膜は、チタン酸リチウムに対して10−4wt%〜10−3wt%の割合のスクロースを添加したものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体。
  4. チタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの組成比が、80〜70:20〜30であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体をバインダーを用いて成形することによって形成されたことを特徴とする電極。
  6. 請求項5に記載の電極を用いたことを特徴とする電気化学素子。
  7. 旋回する反応容器内で、チタン酸リチウムを含むチタン源と、スクロースを含有するリチウム源と、カーボンナノファイバーとを含む溶液にずり応力と遠心力を加えて反応させてチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーとの複合体を生成する複合化処理と、
    この複合化処理を経た複合体を真空中において加熱する加熱処理と、
    を有することを特徴とするチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体の製造方法。
  8. 前記スクロースの添加量は、チタン酸リチウムに対して10−4wt%〜10−3wt%であることを特徴とする請求項7に記載のチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体の製造方法。
  9. 前記複合化処理は、
    チタン酸リチウムを含むチタン酸源にスクロースを含有するリチウム源を添加した後、カーボンナノファイバーを添加した溶液にずり応力と遠心力を加えて反応させる処理であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体の製造方法。
  10. 前記複合化処理は、
    チタン酸リチウムを含むチタン酸源にカーボンナノファイバーを添加した後、スクロースを含むリチウムを含むリチウム源を添加した溶液にずり応力と遠心力を加えて反応させる処理である特徴とする請求項7または請求項8に記載のチタン酸リチウムとカーボンナノファイバーの複合体の製造方法。
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