JP2013068556A - 放射性セシウムで汚染された環境の浄化方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 低濃度の放射性セシウムで広範囲に汚染された環境を低コストで効率的かつ安全に浄化する方法を提供する
【解決手段】 放射性セシウムで汚染された環境を浄化する方法であって、環境中の放射性セシウムをロドバクター・スファエロイデスSSI株(FERM P−21462)の菌体に吸着させ、放射性セシウムを吸着した菌体を環境中から回収することを特徴とする。回収を容易にするために、ロドバクター・スファエロイデスSSI株の菌体を多孔質担体に固定化した菌体固定化担体を使用することが好ましい。
【選択図】 図1
【解決手段】 放射性セシウムで汚染された環境を浄化する方法であって、環境中の放射性セシウムをロドバクター・スファエロイデスSSI株(FERM P−21462)の菌体に吸着させ、放射性セシウムを吸着した菌体を環境中から回収することを特徴とする。回収を容易にするために、ロドバクター・スファエロイデスSSI株の菌体を多孔質担体に固定化した菌体固定化担体を使用することが好ましい。
【選択図】 図1
Description
本発明は、放射性セシウムに対して高い吸着能力を示す光合成細菌株を使用した放射性セシウム汚染環境の浄化方法に関する。特に、本発明は、低濃度の放射性セシウムで広範囲に汚染された水や土壌環境を低コストで効率的かつ安全に浄化することができる方法に関する。
近年、原子力発電所からの事故やトラブルによる放射性物質の漏れに起因する水や土壌環境の放射能汚染が問題となっている。原子力発電所から大気中に放出された放射性物質は、大気中を浮遊しながら周囲に拡散する。そして、降雨により地上に落下し、河川などの水や田畑などの土壌に侵入し、これらの環境を放射能で汚染する。
環境の放射能汚染の原因となる放射性物質としては、放射性セシウム(セシウム137、セシウム134)、放射性ヨウ素(ヨウ素131)、放射性ストロンチウム(ストロンチウム90)などが挙げられるが、このうち特に問題となる物質は、半減期の長い放射性セシウムである。放射性セシウムが土壌中に侵入すると、放射性セシウムは、土壌に含まれる粘土や有機物と強く結合し、土壌中に長期間残留し、放射能を放出しつづけ、外部被ばくをもたらす。また、放射性セシウムで汚染された土壌や水を使用して栽培された農作物を人間が摂取することにより放射性セシウムが体内に取り込まれると、放射性セシウムは、体全体に分配され、長期間にわたって内部被ばくをもたらす。
放射性セシウムの除去方法としては、例えば無機イオン交換体や選択性イオン交換樹脂による物理的吸着法や、クラウンエーテルを用いる溶媒抽出法などの化学的処理法が従来より知られている(特許文献1)。また、最近では、ゼオライト等の粘土による物理的吸着法も報道等で知られている。これらの物理的又は化学的方法は、高レベル放射性廃液から放射性セシウムを回収するためにはある程度有効であるが、原子力発電所からの放射能漏れにより低濃度で広範囲に汚染された水や土壌環境から放射性セシウムを回収するためには効率が極めて悪く、高コストである。それに加えて、化学的方法については安全性に欠け、実用的でない。さらに、物理的方法については、放射性セシウムを吸着した吸着剤が膨大な量になり、中間処理や最終処分の用地確保が問題となっている。
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、低濃度の放射性セシウムで広範囲に汚染された環境を低コストで効率的かつ安全に浄化する方法を提供することである。
本発明者は、かかる目的を達成するために、放射性セシウムの除去方法として、物理的又は化学的除去方法ではなく、微生物を使用した生物学的除去方法に着目した。微生物を使用した生物学的除去方法は一般的に、物理的、化学的方法よりも低コストであり、広範囲の低濃度汚染環境を効率的に浄化することができる。しかも、使用後の微生物は、粉じんの出ない高性能焼却炉で焼却でき、体積及び重量を100分の1以下に減容でき、中間処理や最終処分量を低減することができる。そして放射性セシウムを吸着する能力を有する微生物を鋭意スクリーニングした結果、光合成細菌の一種であるロドバクター・スファエロイデスの特定の菌株が放射性セシウムの吸着能力に特に優れることを見出した。また、この菌株が人体や環境に対して特に害を与えず、安全であることも見出した。
本発明は、これらの知見に基づき完成されたものであり、以下(1)〜(8)からなるものである。
(1)放射性セシウムで汚染された環境を浄化する方法であって、環境中の放射性セシウムをロドバクター・スファエロイデスSSI株(FERM P−21462)の菌体に吸着させ、放射性セシウムを吸着した菌体を環境中から回収することを特徴とする方法。
(2)ロドバクター・スファエロイデスSSI株の菌体を多孔質担体に固定化した菌体固定化担体を環境と接触させて、環境中の放射性セシウムを菌体固定化担体の菌体に吸着させ、放射性セシウムを吸着した菌体固定化担体を環境中から回収することを含むことを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)環境が土壌又は水であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4)土壌が田畑の土、住宅の庭の土、又は学校の校庭の土であることを特徴とする(3)に記載の方法。
(5)水が土壌洗浄水、地下水、河川の水、池の水又は水田の水であることを特徴とする(3)に記載の方法。
(6)多孔質担体が、廃棄物ガラスから作られたものであることを特徴とする(2)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)多孔質担体が磁性体を含んでおり、菌体固定化担体の回収が、磁石に菌体固定化担体を磁力で吸着させることにより行われることを特徴とする(2)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)放射性セシウムを吸着するために使用されることを特徴とする、ロドバクター・スファエロイデスSSI株の菌体を多孔質担体に固定化した菌体固定化担体。
(1)放射性セシウムで汚染された環境を浄化する方法であって、環境中の放射性セシウムをロドバクター・スファエロイデスSSI株(FERM P−21462)の菌体に吸着させ、放射性セシウムを吸着した菌体を環境中から回収することを特徴とする方法。
(2)ロドバクター・スファエロイデスSSI株の菌体を多孔質担体に固定化した菌体固定化担体を環境と接触させて、環境中の放射性セシウムを菌体固定化担体の菌体に吸着させ、放射性セシウムを吸着した菌体固定化担体を環境中から回収することを含むことを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)環境が土壌又は水であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4)土壌が田畑の土、住宅の庭の土、又は学校の校庭の土であることを特徴とする(3)に記載の方法。
(5)水が土壌洗浄水、地下水、河川の水、池の水又は水田の水であることを特徴とする(3)に記載の方法。
(6)多孔質担体が、廃棄物ガラスから作られたものであることを特徴とする(2)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)多孔質担体が磁性体を含んでおり、菌体固定化担体の回収が、磁石に菌体固定化担体を磁力で吸着させることにより行われることを特徴とする(2)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)放射性セシウムを吸着するために使用されることを特徴とする、ロドバクター・スファエロイデスSSI株の菌体を多孔質担体に固定化した菌体固定化担体。
本発明の環境浄化方法は、放射性セシウム吸着能力に優れる無害な微生物を使用しているため、原子力発電所からの放射能漏れにより低濃度の放射性セシウムで広範囲に汚染された水や土壌などの環境を、低コストで効率的かつ安全に浄化することができる。
本発明の方法は、特定の微生物菌株の放射性セシウム吸着能力を利用して、放射性セシウムで汚染された環境から放射性セシウムを低コストで効率的かつ安全に除去することを特徴とする。
本発明の方法の浄化対象となる放射性セシウムで汚染された環境としては、例えば事故やトラブルにより放射能漏れを起こした原子力発電所の近隣の環境(例えば、土壌又は水)が挙げられる。具体的には、土壌としては、原子力発電所の近隣の田畑の土や住宅の庭の土、学校の校庭の土が挙げられ、水としては、原子力発電所の近隣の地下水や河川の水、池の水、水田の水が挙げられる。また、放射性セシウムで汚染された土壌を洗浄した後の水(土壌洗浄水)も、放射性セシウムで汚染された環境に含まれる。
本発明の方法では、環境中の放射性セシウムをロドバクター・スファエロイデスSSI株(以下、単にSSI株と称する)という特定の微生物菌株の菌体に吸着させる。SSI株は、光合成細菌ロドバクター・スファエロイデスS株(以下、単にS株と称する)を継代培養する間に得られた自然変異株である。SSI株は、茨城県つくば市東1−1−1中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−21462として寄託されている(平成19年12月7日寄託)。
従来の光合成細菌株は、親株であるS株を含め、凝集性を全く示さないが、SSI株は、培養中に多量の細胞表面タンパク質やRNAを生産するため、これらのタンパク質やRNAによって菌体細胞同士が凝集する。これらのタンパク質やRNAの存在により、SSI株は、放射性セシウムを電気的に吸着すると考えられる。なお、SSI株の菌学的性質は、多量の細胞表面タンパク質やRNAの生産による凝集性を示す点を除いて親のS株と全く同じである。
本発明者は、SSI株が人体や環境に対して特に害を与えず、安全であることを確認している。実際、SSI株が属する光合成細菌は、自然界の環境浄化に重要な働きをする土壌細菌であり、し尿や食品廃水中の有機質を分解することができ、水質の浄化に有用な細菌である。
SSI株の増殖は、菌株が効果的に増殖できる限りいかなる培養条件でも行うことができるが、例えば実施例の表1に記載される培地(グルタメート−マレート培地)を使用して30℃〜35℃の温度で、好気暗条件又は静置明条件(5klux〜10kluxのタングステン光照射下)で培養することによって容易に行うことができる。
環境中の放射性セシウムのSSI株への吸着は、具体的には、放射性セシウムで汚染された環境とSSI株を接触させることによって行う。例えばこの環境が土壌である場合は、土壌を掘り起こしてそこにSSI株を添加する。また、この環境が水である場合は、水にSSI株を直接添加するか又は予め何らかの容器に水を採取しておき、そこにSSI株を添加する。この際、SSI株を適当な担体に予め固定化して担体とともに添加することが好ましい。これは、放射性セシウム吸着後の菌体の回収を容易にするためである。かかる担体としては、菌体を固定化できる表面構造を有するものが使用でき、例えば多孔質担体が比表面積の大きさの点で好ましい。多孔質担体の原料は、特に限定されないが、廃棄物ガラスを使用することがコストを抑える点で好ましい。多孔質担体は、表面の一部に鉄粉を塗布して焼結させるなどの手段により磁性体を含ませることが、磁石による回収を容易にする点で好ましい。
環境中に存在する放射性セシウムは、水に溶けてイオン化状態にあり、正に帯電している。一方、SSI株は、環境中で多量の細胞表面タンパク質やRNAを生産し、これらのタンパク質やRNAは負に帯電している。従って、SSI株の細胞表面タンパク質やRNAと環境中の放射性セシウムは互いに電気的に吸引し、これにより放射性セシウムがSSI株によって吸着されると考えられる。
SSI株が放射性セシウム吸着能力を発揮するためには、細菌株が回収されるまで生きた状態であることが必要であり、環境中で細菌株が死んでしまうと、せっかく細菌株の細胞表面に吸着された放射性セシウムが再び放出されてしまうことがある。従って、環境中にSSI株の栄養源が不足していると考えられる場合は栄養源を添加して細菌株が死なないようにすることが好ましい。この栄養源としては、例えば下水や農業排水などを使用することができる。同様に、温度条件や通気条件などがSSI株にとって好適な条件でないと考えられる場合は、これらの条件を人工的に調節することが好ましい。
栄養源には通常、K2HPO4などのカリウム化合物が含有されるが、本発明の環境浄化方法では、これらのカリウム化合物の濃度をできるだけ低くして、全カリウムイオン濃度を低く抑えることが、環境浄化効率を高める点で好ましい。具体的には、全カリウムイオン濃度を5mg/l以下にすることが好ましく、4mg/l以下にすることがさらに好ましい。放射性セシウムは水中で一価の陽イオンとして存在し、カリウムイオンと似た挙動を示す。このため、全カリウムイオン濃度を低く抑えると、SSI株の菌体の細胞膜中のカリウムポンプを介した放射性セシウムの菌体細胞内への取り込みが促進されると考えられる。
SSI株は、放射性セシウムを吸着するが、放射性セシウムの分解をほとんどしない。そこで、本発明の環境浄化方法では、放射性セシウム吸着後の細菌株を環境中から回収することが必要である。この回収方法は、特に限定されず、例えば、SSI株を担体に固定化して使用した場合は、この担体を吸引することにより、SSI株を担体とともに環境中から容易に回収することができる。また、担体を利用しない場合は、SSI株が含まれている液体をポンプで吸引して分離することにより、SSI株を環境中から回収することができる。
SSI株の環境中からの回収は、SSI株が放射性セシウムを十分に吸着したと思われる時期に行えばよい。回収時期は、細菌株の濃度や培養条件によって変動するが、一般に細菌株の添加から約1日〜約2週間後である。
環境中から回収した担体を塩酸又は硝酸で洗浄することにより、担体から放射性セシウムと菌体を分離して、放射性セシウムを高濃度で含有する水溶液を調製することができる。この水溶液は、さらなる焼却処理や化学的処理、最終処分に供することができる。例えば、この水溶液を脱水して、焼却炉(セシウムを含む粉じんが飛散しない高性能のもの)で焼却すれば、有機物はすべて焼却されて、微生物バイオマスはセシウムを含む灰分のみになり、バイオマスとしては1/100以下に減容できる。無機系吸着剤やゼオライト粘土で放射性セシウムを吸着する従来の技術では、このような大幅減容は不可能であり、本発明は、従来技術と比較して中間処理、最終処分の量を大きく減容できるものである。また、放射性セシウムと菌体を取り除いた後の担体は再度SSI株を固定化して何回も再利用できる利点がある。
以下、本発明のSSI株の高い放射性セシウム吸着能力を実施例によって具体的に実証する。なお、実施例の記載は純粋に発明の理解のためのみに挙げるものであり、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
細菌株の増殖及び菌体の固定化
ロドバクター・スファエロイデスSSI株を、以下の表1に示す組成の培養液中で、30℃、10kluxのタングステン光の照射下で4日間静置培養して増殖させた。
ロドバクター・スファエロイデスSSI株を、以下の表1に示す組成の培養液中で、30℃、10kluxのタングステン光の照射下で4日間静置培養して増殖させた。
増殖後、菌体を遠心分離によって回収し、OD660≒50(25g/l)になるように濃度を調整し、そこに3.6重量%のアルギン酸ナトリウムを等量添加して混合液を調製した。この混合液を、廃棄物ガラスを粉砕して焼成発泡させることにより製造された多孔質セラミック担体((株)トリム製のスーパーソルL1)に浸漬させた。混合液が多孔質セラミック担体中の細孔に十分浸透した後、多孔質セラミック担体を1.8重量%の塩化カルシウム溶液に浸漬し、ナトリウムイオンとカルシウムイオンを交換させた後、室温で水分を切り、菌体が担体中の細孔及び担体表面に固定化された多孔質セラミック担体(以下、菌体固定化担体と称する)を得た。
実施例1
放射性セシウム汚染環境中でのロドバクター・スファエロイデスSSI株の栄養源として、以下の表2に示す組成の人工下水を調製した。
放射性セシウム汚染環境中でのロドバクター・スファエロイデスSSI株の栄養源として、以下の表2に示す組成の人工下水を調製した。
上述のようにして調製した人工下水に、非放射性のセシウム133(Cs)を塩化セシウムの形で添加して、Csを溶解させた培養液を調製し、この培養液を容積1.5lの蓋付きのプラスチック容器に入れた。この際、Csの元素としての初発濃度が5mg/lになるように調節した。
この培養液に、菌体を固定化していない担体を1l当たり4個入れたもの(コントロール)、菌体固定化担体を1l当たり4個入れたもの、及び菌体固定化担体を1l当たり8個入れたものをそれぞれ準備し、それぞれ屋内の開放系で3日間好気暗培養した。培養条件は、通気が1vvm、pHが6.5〜7.5、温度が約30℃になるように制御した。培養中、1日目、2日目及び3日目にサンプル溶液を採集してICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法によりサンプル溶液中のCsの濃度を測定した。各実験は、3連で行い、3回の測定値の平均値を各時点での培養液中のCs濃度とした。測定結果を図1に示す。
図1から、菌体固定化担体を使用した系では、コントロールの菌体を固定化していない担体を使用した系より培養液中のCs濃度が有意に低下したことがわかる。なお、コントロールでもかなりの濃度減少が見られるが、これは、時間が経過するにつれてCsが一部酸化して沈殿物となり、ICP法では濃度測定ができなくなったためであると考えられる。また、本実施例では安全のためセシウムとして放射性のものではなく非放射性のものを使用しているが、SSI株のセシウムの吸着は、電気的吸引力によるものなので、放射性セシウムを使用しても同様の結果が得られると考えられる。従って、本発明の環境浄化方法によれば、水中の放射性セシウムを効率的に除去できると言える。
実施例2
培養容器を大型化し、培養場所を屋内から屋外に変更した以外は、実施例1と同様の実験を行った。
培養容器を大型化し、培養場所を屋内から屋外に変更した以外は、実施例1と同様の実験を行った。
具体的には、実施例1と同様にして調製した培養液を容積1トンの蓋付きのプラスチック容器に入れた。この際、Csの元素としての初発濃度が5mg/lになるように調節した。
この培養液に、菌体固定化担体を500l当たり1700個入れたものを準備し、屋外の開放系で4日間好気暗培養した。培養条件は、通気が1vvm、pHが6.5〜7.5になるように制御した。温度は、特に制御せず、25〜30℃の範囲で変動させた。培養中、1日目、2日目、3日目及び4日目にサンプル溶液を採集して、実施例1と同様の方法によりサンプル溶液中のCsの濃度を測定した。実験は、3連で行い、3回の測定値の平均値を各時点での培養液中のCs濃度とした。測定結果を図2に示す。
図2から、本発明の環境浄化方法は、屋外で大規模に実施した場合でも、放射性セシウムを効率的に除去できると言える。
実施例3
浄化対象の環境を水から土壌に変更し、土壌かん水による屋外実験を行った。
浄化対象の環境を水から土壌に変更し、土壌かん水による屋外実験を行った。
具体的には、土壌として腐葉土砂を含有する真砂10kgを準備し、これを園芸プランターに入れ、10lの水道水及び5mg/lのCsを添加し、よく撹拌した。そこに、菌体固定化担体を6個入れ、通気条件下で屋外(温度25〜30℃)に2週間、時々よく撹拌しながら放置した。1週間目及び2週間目にサンプルかん水を採集して、実施例1と同様の方法によりサンプルかん水中のCsの濃度を測定した。実験は、3連で行い、3回の測定値の平均値を各時点での培養液中のCs濃度とした。測定結果を図3に示す。
図3から、本発明の環境浄化方法は、土壌を浄化対象とする場合でも、放射性セシウムを効率的に除去できると言える。
実施例4
培養液中のカリウムの濃度が放射性セシウムの除去に及ぼす影響を調べるため、培養液中のカリウム濃度を変化させて実施例1と同様の実験を行った。
培養液中のカリウムの濃度が放射性セシウムの除去に及ぼす影響を調べるため、培養液中のカリウム濃度を変化させて実施例1と同様の実験を行った。
具体的には、表2に示した人工下水中の全カリウム濃度は6.70mg/lであるので、表2中の人工下水の組成中のカリウム化合物(K2HPO4,KH2PO4,KNO3)の配合量を2分の1、4分の1又は0にすることにより、それぞれ全カリウム濃度3.35mg/l、1.75mg/l又は0mg/lの人工下水を調製した。これらの人工下水に、活性化剤として0.5g/lのアミノ・バチルス粉末及びCsを添加して培養液を調製し、この培養液を容積1.5lの蓋付きのプラスチック容器に入れた。この際、Csの元素としての初発濃度が5mg/lになるように調節した。
この培養液に、菌体固定化担体を1l当たり4個入れたものを準備し、実施例1と同様の条件で4日間培養した。培養中、1日目、2日目、3日目及び4日目にサンプル溶液を採集して、実施例1と同様の方法によりサンプル溶液中のCsの濃度を測定した。実験は、3連で行い、3回の測定値の平均値を各時点での培養液中のCs濃度とした。測定結果を図4に示す。
図4から、培養液中のカリウム濃度が低いほど放射性セシウムの除去効率が向上すると言える。
実施例5
菌体固定化担体が繰り返し使用できるかどうかを調べるため、実施例2と同様の実験を行った後、菌体固定化担体を回収して塩酸で洗浄し、担体から菌体と放射性セシウムを分離し、新しい菌体を担体に再度固定し、得られた菌体固定化担体を使用して再度実施例2と同様の実験を行った。ただし、菌体固定化担体の添加量は、培養液500l当たり1200個に変更した。その結果を図5に示す。
菌体固定化担体が繰り返し使用できるかどうかを調べるため、実施例2と同様の実験を行った後、菌体固定化担体を回収して塩酸で洗浄し、担体から菌体と放射性セシウムを分離し、新しい菌体を担体に再度固定し、得られた菌体固定化担体を使用して再度実施例2と同様の実験を行った。ただし、菌体固定化担体の添加量は、培養液500l当たり1200個に変更した。その結果を図5に示す。
図5から、菌体固定化担体は、二回目の使用時にも一回目の使用と同レベルの放射性セシウム吸着能力を示すと言える。従って、菌体固定化担体は繰り返し使用することができると言える。
実施例6
原子力発電所より実際に放出された放射性セシウムを吸着除去するSSI株の性能を確認するため、福島市内の主として放射性セシウムで汚染されたY学校のプールの水(底質も含む)の除染を行った。
原子力発電所より実際に放出された放射性セシウムを吸着除去するSSI株の性能を確認するため、福島市内の主として放射性セシウムで汚染されたY学校のプールの水(底質も含む)の除染を行った。
具体的には、底質を含むプールの水50lを、大型コンテナ(角型60l容)に採取し、硝酸でpH2.0とし、一晩放置し、放射性セシウムを水中に遊離させた。そして、水深1〜3cmのところで放射能強度を測定したところ、113cps(カウントパーセコンド、アロカTGS121サーベイメーターを使用して測定、14.8μSv/h相当)の放射能が検出された。なお、東日本大震災から6ヶ月近く経過していたため、事前調査により、この付近に放射性ヨウ素はもはや存在せず、この放射能の大部分は放射性セシウム137及び134によるものであることが確認されている。
この溶液に、実施例2の500lでの実験の1/10スケール(つまり、50l当たり170個)で菌体固定化担体を入れ、屋外の開放系で3日間培養した。培養条件は実施例2と同様に通気が1vvm、pHが6.5〜7.5になるように制御し、温度も25℃〜30℃の範囲で変動させた。培養中、1日目、2日目、及び3日目にサンプル溶液を採集して、アロカTGS121型サーベイメーターを使用して、水深1〜3cmのところで放射能強度を測定した。測定は、サンプリングした溶液を別の場所に移動して行った。実験は、3連で行い、3回の測定値の平均値を各時点での培養液中の放射能強度とした。測定結果を図6に示す。
図6から、SSI株は、実施例1〜5で使用した非放射性セシウムと同様に原子力発電所から実際に放出された放射性セシウムを効率的に吸着除去できることがわかる。なお、実験を行った福島市Y学校プール周辺では、実験実施期には15〜25cps(1.0〜1.25μSv/h相当)の放射能が検出されており、屋外実験であることを考慮すると、15〜25cpsの放射能強度はバッググラウンド値であり、これ以下にはなりにくい状況であった。つまり、実施例6では、3日間で放射能強度がバックグランド値(25cps)にまで低下しており、底質を含むプールの水の放射性セシウムのほぼすべてが菌体固定化担体に吸着されたと言える。
本発明の環境浄化方法は、低濃度の放射性セシウムで広範囲に汚染された水や土壌などの環境を、低コストで効率的かつ安全に浄化することができるため、原子力発電所の事故やトラブルにより放射能汚染された原子力発電所の近隣の環境の除染に極めて有用である。
Claims (8)
- 放射性セシウムで汚染された環境を浄化する方法であって、環境中の放射性セシウムをロドバクター・スファエロイデスSSI株(FERM P−21462)の菌体に吸着させ、放射性セシウムを吸着した菌体を環境中から回収することを特徴とする方法。
- ロドバクター・スファエロイデスSSI株の菌体を多孔質担体に固定化した菌体固定化担体を環境と接触させて、環境中の放射性セシウムを菌体固定化担体の菌体に吸着させ、放射性セシウムを吸着した菌体固定化担体を環境中から回収することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 環境が土壌又は水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
- 土壌が田畑の土、住宅の庭の土、又は学校の校庭の土であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
- 水が土壌洗浄水、地下水、河川の水、池の水又は水田の水であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
- 多孔質担体が、廃棄物ガラスから作られたものであることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
- 多孔質担体が磁性体を含んでおり、菌体固定化担体の回収が、磁石に菌体固定化担体を磁力で吸着させることにより行われることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の方法。
- 放射性セシウムを吸着するために使用されることを特徴とする、ロドバクター・スファエロイデスSSI株の菌体を多孔質担体に固定化した菌体固定化担体。
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