まず、本発明の実施形態の説明をする前に、本発明に適用する磁気冷暖房の原理を図面に基づいて詳細に説明する。
(磁気冷暖房の原理)
図1は、本発明に適用する磁気冷暖房の原理図である。磁性体10A−10Fには、発現される磁気熱量効果の種類が同じ同一材料の磁性体として正の磁性体を用いる。
磁気印加除去部20A、20B、磁気印加除去部20C、20D、磁気印加除去部20E、20Fは、磁性体10A−10Fを挟むようにして、磁性体10A−10Fの間で往復移動する。つまり、図1Aの状態から、磁気印加除去部20A、20Bが磁性体10Aから10Bに、磁気印加除去部20C、20Dが磁性体10Cから10Dに、磁気印加除去部20E、20Fが磁性体10Eから10Fに、一斉に移動して、図1Bの状態になる。
次に、図1Bの状態から、磁気印加除去部20A、20Bが磁性体10Bから10Aに、磁気印加除去部20C、20Dが磁性体10Dから10Cに、磁気印加除去部20E、20Fが磁性体10Fから10Eに、一斉に移動して、磁気印加除去部と磁性体の位置関係が図1Aの状態に戻る。したがって、磁気印加除去部が往復移動すると、図1Aと図1Bの状態が交互に繰り返される。
本実施形態では、磁性体10A−10Fには正の磁性体を用いている。しかし、負の磁性体を用いても良い。正の磁性体は磁気印加除去部20A−20Fで磁気を印加すると発熱し除去すると吸熱する。一方、負の磁性体は磁気印加除去部20A−20Fで磁気を印加すると吸熱し除去すると発熱する。このように、正の磁性体と負の磁性体とでは、発現される磁気熱量効果が正反対であり、磁気熱量効果の種類が異なる。本実施形態の場合、負の磁性体に比較して安価で発熱量が大きい正の磁性体を用いる。負の磁性体は希少な磁性材料から製造しなければならないのでコスト高になり、また、負の磁性体の磁気熱量効果の大きさが正の磁性体の磁気熱量効果の大きさよりも小さいからである。
磁気印加除去部20A−20Fには永久磁石を用いる。磁気印加除去部20A、20B、磁気印加除去部20C、20D、磁気印加除去部20E、20Fは、それぞれが一体となって、図示左右方向に往復移動する。したがって、磁気印加除去部20A−20Fは磁性体10A−10Fに個別に磁気を印加する。
熱伝導部30A−30Gは、磁性体10A−10Fが磁気熱量効果により発生した熱を低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに向けて伝導する。熱伝導部30A−30Gは、微小振動の印加、除去により熱伝導率が大きく変化する特性を持つ、いわゆるドリームパイプの原理を用いて形成する。熱伝導部30A−30G内は液体冷媒で満たされている。この液体冷媒に高周波の微小な振幅の振動(微小振動)を与えると液体冷媒の熱伝導率が極端に大きくなる。本実施形態の熱伝導部30A−30Gは、液体冷媒のこのような性質を積極的に利用する。熱伝導部30A−30Gは、図1A、Bに示すように、微小振動を印加(ON)すると熱伝導率が大きくなり、微小振動を除去(OFF)すると熱伝導率が小さくなる。このため、熱伝導部30A−30Gは、微小振動の印加、除去を制御することで磁性体10A−10Fに熱を伝導させたりさせなかったりすることができ、磁性体の並び方向に向けて効率的に熱を伝達させることができる。
熱伝導部30Aは、低温側熱交換部40Aとこれと隣り合う磁性体10Aとを機械的に接続する。熱伝導部30Bは、磁性体10Aと10Bとを機械的に接続する。同様に、熱伝導部30C、30D、30E、30Fは、磁性体10Bと10Cとの間、磁性体10Cと10Dとの間、磁性体10Dと10Eとの間、磁性体10Eと10Fとの間を機械的に接続する。熱伝導部30Gは、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間を機械的に接続する。
熱伝導部30B、30D、30Fは、同じタイミングで、磁性体10Aと10Bとの間、磁性体10Cと10Dとの間、磁性体10Eと10Fとの間の熱伝導を断続する。また、熱伝導部30A、30C、30E、30Gも、同じタイミングで、低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間、磁性体10Bと10Cとの間、磁性体10Dと10Eとの間、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間の熱伝導を断続する。熱伝導部30B、30D、30Fと熱伝導部30A、30C、30E、30Gとには交互に微小振動が印加、除去されて、熱伝導の断続を繰り返す。
図1Aに示すように、磁気印加除去部20A、20Bが磁性体10Aに、磁気印加除去部20C、20Dが磁性体10Cに、磁気印加除去部20E、20Fが磁性体10Eに、それぞれ位置する。このときには、磁性体10A、10C、10Eに対して磁気が印加され、磁性体10B、10D、10Fには磁気が印加されておらず磁気が除去されている。したがって、磁性体10A、10C、10Eは発熱する。そして同時に、熱伝導部30Bが磁性体10Aと10Bとの間を、熱伝導部30Dが磁性体10Cと10Dとの間を、熱伝導部30Fが磁性体10Eと10Fとの間の熱伝導を可能にする。
したがって、磁性体10A、10C、10Eが磁気熱量効果により発生した熱は磁性体10B、10D、10Fにそれぞれ移動する。このときには、熱伝導部30B、30D、30Fには微小振動を印加し、磁性体10Aと10Bとの間、磁性体10Cと10Dとの間、磁性体10Eと10Fとの間の熱伝導を可能にする。一方、熱伝導部30Aと30Gには微小振動は印加せず低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間及び高温側熱交換部40Bと磁性体10Fとの間の熱伝導を遮断する。また、熱伝導部30C、30Eにも微小振動は印加せずに磁性体10B、10Cとの間及び磁性体10D、10Eとの間の熱伝導を遮断する。
次に、図1Bに示すように、磁気印加除去部20A、20Bが磁性体10Bに、磁気印加除去部20C、20Dが磁性体10Dに、磁気印加除去部20E、20Fが磁性体10Fに、それぞれ位置する。このときには、磁性体10B、10D、10Fに対して磁気が印加され、磁性体10A、10C、10Eには磁気が印加されておらず磁気が除去されている。したがって、磁性体10B、10D、10Fは発熱する。そして同時に、熱伝導部30Aが低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間を、熱伝導部30Cが磁性体10Bと10Cとの間を、熱伝導部30Eが磁性体10Dと10Eとの間を、熱伝導部30Gが磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間の熱伝導を可能にする。
このときには、磁性体10A、10C、10Eが磁気熱量効果により吸熱され、磁性体10B、10D、10Fが磁気熱量効果により発熱する。したがって、低温側熱交換部40Aから磁性体10Aに、磁性体10Bから磁性体10Cに、磁性体10Dから磁性体10Eに、磁性体10Fから高温側熱交換部40Bに熱が移動する。このときには、熱伝導部30A、30C、30E、30Gには微小振動を印加し、低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間、磁性体10Bと10Cとの間、磁性体10Dと10Eとの間、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間の熱伝導を可能にする。一方、熱伝導部30B、30D、30Fには微小振動を印加せず磁性体10Aと10Bとの間、磁性体10Cと10Dとの間、及び磁性体10Eと10Fとの間の熱伝導を遮断する。
以上のように、磁気印加除去部を図示左右方向に連動して往復移動させることによって、磁性体は発熱と吸熱を交互に繰り返す。さらに、磁気印加除去部の移動に連動して、熱伝導部30A−30Gは、低温側熱交換部40A、磁性体10A−10F、高温側熱交換部40Bそれぞれの間で熱伝導の断続を繰り返す。このため、磁気熱量効果により得られた磁性体の熱が低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに移動する。
図2は、本発明の磁気冷暖房の効果を示すグラフである。このグラフに示すように、磁気冷凍機が動作を開始した後の比較的初期時には、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差は小さい。時間が経過するにしたがって低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差が次第に大きくなっていき、最終的には、長時間経過後の直線で示すように、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差が最大になる。この状態で、低温側熱交換部40Aの熱を利用して、たとえば室内の温度を下げることができ、高温側熱交換部40Bの熱を利用して、たとえば室内の温度を上げることができる。
次に、図1のように、各磁性体ブロックに対応して設けた磁気印加除去部を図示左右方向に連動して往復移動させたときに熱が移動していく様子を図3の模式図に基づいて説明する。
まず前提として、全ての磁性体は同一材料で形成されており、全ての磁性体の磁気熱量効果が同一の種類であって、温度変化量が5℃のものを用いた場合を想定する。具体的には、全ての磁性体は、磁気を印加されると5℃温度が上昇し、磁気が除去されると5℃温度が下降する特性を持っていると想定する。
まず、図3の(1)に示すように、初期の状態では全ての磁性体10A−10Fが室温の20℃になっている。このときには、図示のように全ての熱伝導部30A−30Gに微小振動は印加せず(OFF)、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間で全ての磁性体10A−10Fを熱伝導部30A−30Gで熱的に切り離す。なお、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間で、交互に配置する磁性体と熱伝導部は熱輸送器を形成する。
次に、図3の(2)に示すように、この状態で磁気印加除去部20A−20Fを一斉に右側に移動させ、右隣に位置する磁性体10B、10D、10Fに磁気を印加する。これと同時に、図3の(2)に示すように、熱伝導部30A、30C、30E、30Gに微小振動を印加し、低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間、磁性体10Bと10Cとの間、磁性体10Dと10Eとの間、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間で熱伝導ができるようにする。
図3の(2)の状態では、磁気が除去された磁性体10A、10C、10Eの温度が15℃に低下し、磁気が印加された磁性体10B、10D、10Fの温度が25℃に上昇する。このため、図に示すように、熱伝導部を介して温度の高い方から温度の低いほうに熱が移動する。
この熱の移動によって、図3の(2)´に示すように、磁性体10Aと低温側熱交換部40Aの温度が17.5℃になり、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bの温度が22.5℃になる。
次に、図3の(3)に示すように、磁気印加除去部20A−20Fを一斉に左側に移動させ、左隣に位置する磁性体10A、10C、10Eに磁気を印加する。これと同時に、図3の(3)に示すように、熱伝導部30B、30D、30Fに微小振動を印加し、磁性体10Aと10Bとの間、磁性体10Cと10Dとの間、磁性体10Eと10Fとの間で熱伝導ができるようにする。一方、熱伝導部30A、30C、30E、30Gには微小振動を印加せず、低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間、磁性体10Bと10Cとの間、磁性体10Dと10Eとの間、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間の熱伝導を遮断する。
図3の(3)の状態では、磁気が印加された磁性体10A、10C、10Eの温度が図3の(2)´の状態の温度から5℃上昇し、磁気が除去された磁性体10B、10D、10Fの温度が図3の(2)´の状態の温度から5℃低下する。このため、図に示すように、熱伝導部を介し隣接する磁性体との間で温度の高い方から温度の低い方に熱が移動する。
この熱の移動によって、図3の(3)´に示すように、低温側熱交換部40Aの温度が17.5℃になり、磁性体10A、10Bの温度が18.75℃になる。磁性体10C、10Dの温度が20℃になり、磁性体10E、10Fの温度が21.25℃になる。高温側熱交換部40Bの温度が22.5℃になる。
以上のように、磁気印加除去部を磁性体に沿って左右に往復移動させ、磁気印加除去部の移動に同期させて熱伝導部に印加する微小振動をON、OFFさせることによって、低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに熱が移動していく。時間が経過するにしたがって、図2に示したように、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差が大きくなっていく。最終的には、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差が安定する。この状態で、低温側熱交換部40Aの熱を利用して、たとえば室内の温度を下げることができ、高温側熱交換部40Bの熱を利用して、たとえば室内の温度を上げることができる。
なお、図1及び図3の説明は、発現される磁気熱量効果の種類が同じ同一材料の磁性体として正の磁性体を用いた場合に当てはまる。発現される磁気熱量効果の種類が同じ同一材料の磁性体として負の磁性体を用いた場合には、熱の移動方向は図1及び図3に示した方向とは逆になる。したがって、負の磁性体を用いた場合、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bの位置が図1及び図3とは逆になる。
以上が、本発明に適用する磁気冷暖房の原理である。以上では、2つの磁性体を1組として磁性体ブロックを形成し、この磁性体ブロックをさらに3つ一列に配列して磁性体ユニットを形成する形態について述べた。
しかし、本発明は、この形態には限られず、さらに多くの磁性体を一列に配列して磁性体ブロックを形成し、さらに多くの磁性体ブロックを一列に配列して磁性体ユニットを形成する形態にも適用できる。さらに、本発明は、磁性体ユニットを複数並列に環状に配置する形態にも適用できる。これらの形態の場合にも、磁性体ブロックごとに磁気印加除去部を設けるのは、上記の形態の場合と同一である。
(熱伝導部の構造)
次に、本実施形態に係る磁気冷暖房装置が採用する熱伝導部の具体的な構造について説明する。図4から図6は本実施形態に係る熱伝導部の構造図である。
図1に示したように、低温側熱交換部40Bと磁性体10Aとの間に熱伝導部30Aを、磁性体10A−10Fのそれぞれの磁性体間に熱伝導部30B−30Fを、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間に熱伝導部30Gをそれぞれ接続する。
図4では、磁性体10Aの対向する両面に接続する熱伝導部30Aと30Bを例示する。熱伝導部30A、30Bは、磁性体10Aの対向する両面に接合又は接着によって一体化する。図4では磁性体10Aのみを示している。磁性体10Aの隣には、図3に示したように、低温側熱交換部40Aと磁性体10Bが存在する。熱伝導部30Aは低温側熱交換部40Aと磁性体10Aに接合又は接着され、熱伝導部30Bは磁性体10Aと磁性体10Bに接合又は接着される。したがって、低温側熱交換部40A、熱伝導部30A、磁性体10A、熱伝導部30B、磁性体10B…は一体化する。
熱伝導部30Aと30Bは、微小振動が印加されると、印加される前よりも熱伝導率が大きくなる。熱伝導の大きさの変化は、100倍から30000倍の範囲である。したがって、熱伝導部30Aと30Bは、微小振動が印加されなければ熱伝導率は極めて小さくなり、接続されている低温側熱交換部40A、磁性体10A、磁性体10Bの間には熱を伝導しない。一方、熱伝導部30Aと30Bは、微小振動が印加されると熱伝導率は極めて大きくなり、接続されている低温側熱交換部40A、磁性体10A、磁性体10Bの間で熱が伝導する。図4の場合、熱伝導部30Aは微小振動が印加されてなく(OFF)、熱伝導部30Bは微小振動が印加されている(ON)ので、図3に示したように、低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間では熱が伝導せず、磁性体10Aと磁性体10Bとの間で熱が伝導する。
熱伝導部30Aは、図5に示すように、冷媒配管31を介して微小振動印加部32が接続される。微小振動印加部32は、例えばピエゾアクチュエータなど高周波振動が可能な素子から構成される。ピエゾアクチュエータには高周波の電圧が印加され、ピエゾアクチュエータはその電圧の周波数に応じて振動する。電圧の周波数を変化させることで任意の周波数の振動を生じさせることができる。また、電圧の大きさを変化させることで任意の大きさの振幅を生じさせることができる。ピエゾアクチュエータの振動は、冷媒配管31を介して熱伝導部30Aに伝達する。
熱伝導部30Aは図6に示すように構成される。熱伝導部30Aは筐体33で囲まれている。筐体33は、熱伝導を阻害するものであってはならないので、例えば、ステンレスなどの熱伝導性の良好な金属を用いる。筐体33には、冷媒の入口34Aと出口34Bとが形成される。筐体33内には冷媒通路36が形成される。冷媒通路36は入口34Aと出口34Bとの間を筐体33内に設けた隔壁37によって複数回折り返して連通する。筐体33内には液体冷媒として水を封入する。本実施形態では、液体冷媒として水を用いたが、微小振動が印加されたときと印加されないときとで熱伝導率が大きく変化する特性を有するものであれば、水以外の液体冷媒を用いても良い。
(熱伝導部の動作)
熱伝導部30Aは微小振動印加部32から冷媒配管31を介して微小振動が印加される。微小振動が印加されると、筐体33内の水は入口34Aと出口34Bとの間で微小振動の振幅分だけ振動する。この微小振動が水の熱伝導率を著しく高める。水の熱伝導率は0.6W/mKであるが、微小振動を与えると16000W/mKまで上昇する。実に30000倍近くまで熱伝導率が大きくなる。因みに、銅の熱伝導率は400W/mKであるので、微小振動が与えられた水は、銅の40倍の熱伝導率を示すことになる。
熱伝導部30Aの熱伝導率は、微小振動の周波数及び振幅によって変化する。微小振動の周波数及び振幅は、根伝導部30Aの筐体33の容量や冷媒通路36の構造、微小振動印加部32と熱伝導部30Aとを連結する冷媒配管31の距離などの要因によって、最適値が異なる。最適値は、微小振動印加時の熱伝導部30Aの熱伝導率が最も大きくなる周波数及び振幅である。最適値は実機に印加する微小振動の周波数及び振幅を変化させながら、熱伝導率の変化を測定することによって求める。なお、本実施形態で想定している微小振動の周波数はMHzオーダーであり、振幅はμmオーダーである。
このように、微小振動の印加、除去によって熱伝導率が変化する熱伝導部30A、30Bに用いると、隣接する磁性体との熱伝導を、微小振動の印加、除去だけで断続させることができる。このため、従来のように、熱伝導を断続させるために熱伝導部を磁性体間で摺動させる必要がなく、熱伝導部の耐久性が向上し、同時に信頼性も向上する。磁気冷暖房装置を車載するためには小型化が要求され、小型化するためには磁気冷暖房装置の高周波化が必要である。高周波化するためには、磁性体間の熱伝達を高速(例えば0.1秒程度)で行う必要がある。本実施形態の熱伝導部30A−30Gは、微小振動をON、OFFする周期を短くすることで高周波化できる。
次に、図7−図9を参照して本実施形態に係る磁気冷暖房装置の構成について説明する。本実施形態に係る磁気冷暖房装置は、図1に示した磁気冷暖房と同一の原理を用いる。図7は、本実施形態に係る磁気冷暖房装置の固定部の構成図である。図8は、本実施形態に係る磁気冷暖房装置の回転部の構成図である。図9は、本実施形態に係る磁気冷暖房装置の断面図である。
(磁気冷暖房装置の構成)
図7及び図9に示すように、磁気冷暖房装置の固定部100は円形状に形成する。固定部100の中心部分には円筒状の高温側熱交換部40Bを設け、高温側熱交換部40Bを取り囲むように円形状の低温側熱交換部40Aを設ける。低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の空間に1mm程度の厚みの熱輸送器配置板150(図7参照)をはめ込み、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとで固定する。
熱輸送器配置板150上の中心角30度の扇状の空間に、図7及び図9に示すように、磁気熱量効果を有する磁性体10A−10Fとこれらの磁性体の熱を輸送する熱伝導部30A−30Gとを交互に配置する。交互に配置した磁性体10A−10Fと熱伝導部30A−30Gで1つの熱輸送器50を構成する。したがって、図7に示すように、熱輸送器配置板150上には、中心角30度ごとに1つの扇状の熱輸送器50が配置され、熱輸送器配置板150上には、並列に合計12個の扇状の熱輸送器50が形成される。なお、12個の扇状の熱輸送器50のそれぞれの間には熱絶縁を図るための空間を形成してある。また、低温側熱交換部40Aは熱輸送器50の一端に熱伝導部30Aを介して配置される。さらに、高温側熱交換部40B熱輸送器50の他端に熱伝導部30Gを介して配置される。低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bの内部には、熱交換効率を向上させるためフィン41(図9参照)と42(図7参照)を設けている。
熱輸送器配置板150は、互いに独立して分離された12個の熱輸送器50を配置しているので、熱輸送器50が輸送している熱を奪わないように、熱輸送器配置板150は断熱性の高い材料で形成するか、熱輸送器配置板150と熱輸送器50との間に断熱性の高い材料を挟む。また、図が複雑になるので省略したが、熱輸送器配置板150上には、全ての熱輸送器50の全ての熱伝導部に連結する微細な冷媒配管31を形成してある。1つの熱伝導部は2つの冷媒配管31を有するので、熱輸送器配置板150上には2×7×12=168個の冷媒配管31を形成する。この冷媒配管31は微小振動印加部32に接続する。なお、熱輸送器配置板150は磁性体に印加される磁束を減少させてはならないので、透磁率の非常に高い鉄などの材料で形成することが好ましい。また、熱輸送器50は熱輸送器配置板150の上側に設けたが、熱輸送器配置板150の下側に設けても良い。また、熱輸送器配置板150は上下の熱輸送器配置板150に挟まれるように設けても良い。
磁性体10A−10Fは、本実施形態では同一材料で形成しており、同一材料として正の磁性体を用いる。正の磁性体は、磁気を印加していないときには常磁性状態(磁気スピンが無秩序の状態)となり、磁気を印加すると強磁性状態(磁気スピンが一方向に揃う状態)となる、常磁性状態と強磁性状態が可逆的に生じる材料を用いて製造する。
正の磁性体の材料としては、GdやGdをベースとした合金である、Gd−Y系、Gd−Dy系、Gd−Er系、Gd−Ho系、La(Fe,Si)13やLa(Fe,Al)13などの磁性材料を用いることができる。
一方、本実施形態では用いていないが、磁性体10A−10Fに同一材料として負の磁性材料を用いることもできる。負の磁性体は、磁気を印加していないときには強磁性状態(磁気スピンが一方向に揃う状態)となり、磁気を印加すると常磁性状態(磁気スピンが無秩序の状態)となる、強磁性状態と常磁性状態が可逆的に生じる材料を用いて製造される。
負の磁性体の材料としては、FeRh合金、CoMnSiGe系、NiMnSn系などの磁性材料を用いることができる。
一般的に、正の磁性体と負の磁性体は、磁気の印加に対して、熱発生が、発熱するか、吸熱するか反対なので、正の磁性体と負の磁性体の磁気熱量効果による温度変化の大きさは相違する。したがって、本実施形態のように、正か負のどちらか一方の磁性体を用いた場合には、全ての磁性体の磁気熱量効果による温度変化の大きさが同一になる。したがって、磁気冷暖房装置全体として安定した熱伝達特性が得られ熱輸送効率が向上する。また、正の磁性体の磁気熱量効果に比較して負の磁性体の磁気熱量効果の方が小さいので、熱輸送効率を考慮すると、正の磁性体を用いることが好ましい。さらに、負の磁性体の材料は正の磁性体の材料に比較して希少な材料を用いることになるので、コストの面でも正の磁性体を用いることが好ましい。
本実施形態では、磁性体10A−10F及び熱伝導部30A−30Gの形状を、扇を径方向に一定の幅で切り取ったような形状とした。しかし、これ以外の形状、例えば、球状、楕円体状、立方体状、円柱状、楕円柱状などの形状を採用しても良い。
熱輸送器50の各磁性体10A−10Fに選択的に磁気を印加し除去する磁気印加除去部20A−20Fは、図8、図9に示す回転部200A、200Bに形成する。
回転部200A、200Bはその中心部が開口し、その中心部にはベアリング210A、210Bを設けてある。また、回転部200A、200Bの外周部にはベアリング220A、220Bを設けてある。ベアリング210A、210B、ベアリング220A、220Bは、回転部200A、200Bを固定部100の上下面で回転自在に支持する。したがって、回転部200A、200Bは高温側熱交換部40Bを回転軸として図示矢印方向(図8参照)に回転する。
回転部200A、200Bの一方の面の外周にはリングギア230A、230Bを取り付ける。リングギア230A、230Bは、サーボモータ300A、300Bのギア310A、310Bに噛み合う。サーボモータ300Aが回転すると、ギア310Aと噛み合うリングギア230Aが自転して回転部200Aが回転する。また、サーボモータ300Bが回転すると、ギア310Aと噛み合うリングギア230Aが自転して回転部200Aが回転する。サーボモータ300Aと300Bを同期して回転させると、回転部200Aと200Bが一体となって回転する。
本実施形態では、サーボモータ300A、300Bを同期して回転させる。したがって、回転部200Aと200Bは高温側熱交換部40Bを中心に、固定部100を挟むようにして同一の回転速度で回転する。回転部200Aと200Bを同期させて回転するには、回転部200Aと200Bの基準位置とサーボモータ300A、300Bの回転位置を検出することが必要である。そのため、図9に示すように、回転部200Aと200Bの基準位置を検出するための基準位置検出センサ250A、250Bを設けてある。また、サーボモータ300Aと300Bの回転位置を検出するための回転位置検出センサをサーボモータ300Aと300Bに内蔵してある。
図8及び図9に示すように、回転部200Aの片面とその面に対向する回転部200Bの片面に、環状かつ放射状に永久磁石を配置する。回転部200Aと回転部200Bの永久磁石はN極とS極とが対峙するように極性を考慮して配置する。回転部200Aの片面に配置した永久磁石と回転部200Bの片面に配置した永久磁石は、常に対峙した状態となるように、回転部200Aと200Bは同期して回転させる。図9に示すように、回転部200Aの永久磁石20A、20C、20Eと回転部200Bの永久磁石20B、20D、20Fは、回転部200Aと200Bが回転中または停止中にかかわらず常に対峙した状態である。なお、本実施形態では、磁気印加除去部に永久磁石を用いたが、電磁石を用いても良い。電磁石を用いた場合には、回転部200A及び200Bの構造が複雑になる。回転した状態で、電磁石への給電ができるようにしなければならないからである。したがって、本実施形態では、永久磁石を用いている。
なお、図9に示すように、固定部100に回転部200Aと回転部200Bを取り付けた状態で、固定部100、回転部200A、回転部200Bで囲まれた内部空間は減圧または真空に近い環境にする。内部空間を減圧または真空に近い環境にすれば、各熱輸送器50は、真空内、または減圧下の環境内で設置されることになって、内部の空気への放熱が防止され、また、永久磁石が回転することによる空気抵抗が減少されるからである。
回転部200Aと200Bが回転すると、30度回転するごとに、固定部100の各熱輸送器50の磁性体は、1つおきに交互に磁気が印加または除去される。つまり、各熱輸器50において、図1Aのように磁性体10A、10C、10Eに磁気が印加される状態と図1Bのように磁性体10B、10D、10Fに磁気が印加される状態とが交互に起こる。このため、回転部200Aと200Bが30度回転するごとに、各熱輸器50の磁性体が発熱と吸熱を繰り返す。磁性体の単位時間当たりの発熱量は、回転部200Aと200Bの回転速度によって変化する。発熱量を大きくしたければ回転部200Aと200Bの回転速度を速くする。大きな発熱量が必要なければ200Aと200Bの回転速度を遅くする。
各熱輸送器50の磁性体が発熱しまた吸熱するときの熱を、低温側熱交換器40Aから高温側熱交換器40Bに伝達させるには、最適なタイミングで各熱伝導部に微小振動を印加または除去しなければならない。熱伝導部の微小振動の印加または除去のタイミングを制御するものが、図10以降に示す制御系である。
図10は、本実施形態に係る磁気冷暖房装置の制御系のブロック図である。また、図11は、図10の空調制御部と空調情報入力部のさらに具体的な制御系のブロック図である。
図10に示すように、本実施形態に係る磁気冷暖房装置の制御系は、基準位置検出センサ250A、基準位置検出センサ250B、空調情報入力部260、サーボモータ300A、サーボモータ300B、サーボモータ制御部350、ピエゾアクチュエータ32A、32B、微小振動印加制御部35、空調制御部400を有する。サーボモータ300A、サーボモータ300Bは、自身の回転位置を検出する回転位置検出センサ320A、320Bを備えている。
基準位置検出センサ250Aは回転部200A(図9参照)に設定した基準位置を検出する。基準位置は回転部200Aの外周に設ける。例えば、光を反射する反射体を回転部200Aの外周に取り付けた場合には、その反射体の取り付け位置が基準位置となる。この場合、基準位置検出センサ250Aには受発光素子を用い、反射体が受発光素子からの光を反射すると、基準位置が検出される。
基準位置検出センサ250Bは回転部200Bに設定した基準位置を検出する。その他は基準位置検出センサ250Aと同一である。
回転部200Aと回転部200Bに設ける基準位置は、回転部200Aと回転部200Bの永久磁石が固定部100を介して正しく向き合うように(図7に示すように)、正確な位置に設定する。したがって、回転部200Aと回転部200Bは、基準位置検出センサ250Aと基準位置検出センサ250Bが、基準位置を常に同時に検出するように、同一の速度で同期して回転する。
空調情報入力部260は空調に必要な情報を入力する。空調に必要な情報は、設定温度、低温側熱交換部入口温度、低温側熱交換部出口温度、高温側熱交換部入口温度、高温側熱交換部出口温度である。空調情報入力部260の具体的な説明については、後述の図10に基づいて行う。
サーボモータ300A、サーボモータ300Bは、熱輸送器50の各磁性体に選択的に磁気を印加し除去するため磁気印加除去部を駆動するモータである。具体的には、サーボモータ300Aは、図8に示したように永久磁石が配置してある回転部200Aを回転させる。また、サーボモータ300Bは、図8に示したように永久磁石が配置してある回転部200Bを回転させる。サーボモータ300A、サーボモータ300Bには、それぞれのサーボモータの回転位置を検出する回転位置検出センサ320A、320Bを設けてある。回転位置検出センサ320A、320Bで検出した回転位置は、サーボモータ300A、サーボモータ300Bの回転速度を同期させるために用いる。
サーボモータ制御部350は、回転位置検出センサ320A、320Bで検出した回転位置と、基準位置検出センサ250A、250Bで検出した基準位置を用いて、サーボモータ300A、300Bの回転を制御する。
熱伝導部30A−30Gは、上述の通り、微小振動が印加されると熱伝導率が大きくなり、微小振動が除去されると熱伝導率が小さくなる。熱輸送器50の磁性体間の熱伝導を断続させるものである。
微小振動印加制御部35は、サーボモータ300A、サーボモータ300Bの回転位置に応じてピエゾアクチュエータ32Aまたは32Bのどちらかに電圧を印加し、各熱伝導部30A−30Gに選択的に微小振動を印加し除去する。固定部100に多くの熱伝導部があるのに2つのピエゾアクチュエータ32A、32Bしか設けていないのは、全ての熱伝導部は2つのON、OFFのグループに分けられるからである。サーボモータ300A、サーボモータ300Bの回転位置は、回転位置検出センサ320A、320Bで検出した回転位置と、基準位置検出センサ250A、250Bで検出した基準位置によって判別できる。つまり、各永久磁石の位置が、各熱輸送器50の磁性体に対してどの位置にあるのかが認識できる。微小振動印加制御部35は、各永久磁石の位置が各熱輸送器50の磁性体の位置に対して最適な位置となったときに、ピエゾアクチュエータ32Aまたは32Bを動作させ、各熱伝導部30A−30Gに選択的に微小振動を印加し除去する。このように、微小振動印加制御部35は、磁気印加除去部が各磁性体に選択的に磁気を印加し除去するタイミングと同期させて各熱伝導部に微小振動を印加し除去することにより、低温側熱交換部から高温側熱交換部に熱を輸送させる。
微小振動印加制御部35は、運転条件ごとに定めた、微小振動の印加、除去のタイミングを用いてピエゾアクチュエータ32Aまたは32Bを動作させ、各熱伝導部30A−30Gに微小振動を印加し除去する。運転条件ごとに定めた、微小振動の印加、除去のタイミングは、磁気冷暖房装置の運転に伴って、最適なタイミングに書き換える。運転条件は、熱輸送器50の要求熱量、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差または磁気印加除去部の駆動パターンの少なくともいずれかである。駆動パターンは、磁気印加除去部を図16のように一定の速度で駆動するか、図17のように一定ではない速度で駆動するか、のいずれかである。
空調制御部400は、本実施形態に係る磁気冷暖房装置の動作を総括的に制御する。空調制御部400の具体的な説明については、後述の図11に基づいて行う。
図11に示すように、空調情報入力部260は、温度設定部262、低温側熱交換部入口温度センサ264、低温側熱交換部出口温度センサ266、高温側熱交換部入口温度センサ268、高温側熱交換部出口温度センサ270を有する。
温度設定部262は、磁気冷暖房装置が空調する車室内の温度を設定するコントローラである。低温側熱交換部入口温度センサ264は、図7に示した固定部100の低温側熱交換部40Aに供給される冷媒の温度を検出する。低温側熱交換部入口温度センサ264は、低温側熱交換部40Aの冷媒入口部分に設ける。
低温側熱交換部出口温度センサ266は、図7に示した固定部100の低温側熱交換部40Aから排出される冷媒の温度を検出する。低温側熱交換部出口温度センサ266は、低温側熱交換部40Aの冷媒出口部分に設ける。高温側熱交換部入口温度センサ268は、図7または図9に示した高温側熱交換部40Bに供給される冷媒の温度を検出する。高温側熱交換部入口温度センサ268は、高温側熱交換部40Bの冷媒入口部分に設ける。高温側熱交換部出口温度センサ270は、高温側熱交換部40Bから排出される冷媒の温度を検出する。高温側熱交換部出口温度センサ270は、高温側熱交換部40Bの冷媒出口部分に設ける。
温度設定部262、低温側熱交換部入口温度センサ264、低温側熱交換部出口温度センサ266、高温側熱交換部入口温度センサ268、高温側熱交換部出口温度センサ270を設けるのは、固定部100でどの程度の熱量を低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに移動させなければならないかを知るためである。移動させなければならない熱量がわかれば、サーボモータ300A、300Bの回転速度や、熱伝達部の微小振動のON、OFFのタイミングを調整することができる。
空調制御部400は、スイッチング制御部410とスイッチングパターン記憶部420を有する。スイッチング制御部410は、設定温度、低温側熱交換部入口温度、低温側熱交換部出口温度、高温側熱交換部入口温度、高温側熱交換部出口温度を用いて、各熱伝導部30A−30Gに印加する微小振動のON、OFFのスイッチングを制御する。スイッチングパターン記憶部420は、例えば、図16及び図17に示すような、各熱伝導部30A−30Gに印加する微小振動のON、OFFのスイッチングのパターンを記憶する。
図14は、熱伝導の態様(ステップ0から4)と熱伝導部の位置関係(aからg)を示す図である。また、図15は、位置bにおける熱伝導部とそれに隣接する磁性体から構成される一組のユニット(破線で囲まれた部分)について熱伝導の態様(ステップ1から4)と磁気の印加状態、微小振動の有無、熱流束の関係を示す図である。
図14に示すように、熱伝導におけるステップ1の態様では、a、c、e、gの位置にある熱伝導部に微小振動が印加される。そのため、a、c、e、gの位置にある熱伝導部は熱を伝導させる。一方、b、d、fの位置にある熱伝導部には微小振動が印加されない。そのため、b、d、fの位置にある熱伝導部は熱の伝導を遮断する。ステップ2の態様もステップ1と同じである。熱伝導におけるステップ3の態様では、b、d、fの位置にある熱伝導部に微小振動が印加される。そのため、b、d、fの位置にある熱伝導部は熱を伝導させる。一方、a、c、e、gの位置にある熱伝導部には微小振動が印加されない。そのため、a、c、e、gの位置にある熱伝導部は熱の伝導を遮断する。ステップ4の態様もステップ3と同じである。
図15に示すように、図14のbの位置にある熱伝導部に着目すると、熱伝導におけるステップ1の態様では、磁性体に磁気は印加されておらず、熱伝導部による熱の伝導が遮断(電圧OFF)されているので、熱流束は0である。ステップ2の態様に移行しても、ステップ1と同じである。次に、熱伝導におけるステップ3の態様では、磁性体に磁束密度B0の磁気が印加されて、熱伝導部により熱が伝導(電圧ON)されるので、qの熱流束が生じる。ステップ4の態様に移行すると、熱流束の大きさがステップ3の態様のときよりも低下する。熱の移動によりbの位置にある熱伝導部の両側に位置する磁性体の温度差が小さくなっていくからである。
図16のスイッチングパターンは、永久磁石(PM)が磁性体(MCM)に対して定速度移動する場合のパターンを示す。
図14のb、c、d、e、f、gの位置にある各熱伝導部は、図中のイ−ハに示すように、永久磁石が磁性体とオーバーラップする少し前までまたは完全にオーバーラップしてから少し後までは、熱伝導部には微小振動が印加される。一方、図中のハ−イに示すように、永久磁石が磁性体と完全にオーバーラップして少し後からオーバーラップが開始する少し前までは、熱伝導部に微小振動が印加されない。したがって、永久磁石と磁性体との位置関係がイ−ハにある熱伝導部は、隣接する磁性体などとの間で熱伝導を行い、二、ホにある熱伝導部は、隣接する磁性体などとの間で熱伝導を行わない。
図14のaの位置にある各熱伝導部において、図中のイ−ハに示すように、永久磁石が磁性体とオーバーラップを開始する少し前から完全にオーバーラップする少し前までは、熱伝導部に微小振動は印加されない。一方、図中のハ−イに示すように、永久磁石が磁性体と完全にオーバーラップする少し前から完全にオーバーラップした後オーバーラップを開始するする少し前までは、熱伝導部には微小振動が印加される。したがって、永久磁石と磁性体との位置関係がイ−ハにある熱伝導部は、隣接する磁性体などとの間で熱伝導を行なわず、二、ホにある熱伝導部は、隣接する磁性体などとの間で熱伝導を行なう。
図17のスイッチングパターンは、永久磁石(PM)が磁性体(MCM)に対して不定速度移動する場合のパターンを示す。
図14のb、c、d、e、f、gの位置にある各熱伝導部は、図中のイ−ホに示すように、永久磁石が磁性体とオーバーラップを開始する少し前からオーバーラップしなくなる少し前までは、熱伝導部に微小振動が印加される。一方、図中のホ−イに示すように、永久磁石が磁性体とオーバーラップしていないときには、熱伝導部には微小振動が印加されない。したがって、永久磁石と磁性体との位置関係がイ−ホにある熱伝導部は、隣接する磁性体などとの間で熱伝導を行い、ホ−イにある熱伝導部は、隣接する磁性体などとの間で熱伝導を行わない。
図14のaの位置にある各熱伝導部において、図中のイ−ニに示すように、永久磁石が磁性体とオーバーラップを開始する少し前からオーバーラップしなくなる少し前までは熱伝導部には微小振動が印加されない。一方、図中のホ−イに示すように、永久磁石が磁性体とオーバーラップしていないときには、熱伝導部に微小振動が印加される。したがって、永久磁石と磁性体との位置関係がイ−ニにある熱伝導部は、隣接する磁性体などとの間で熱伝導を行なわず、ホ−イにある熱伝導部は、隣接する磁性体などとの間で熱伝導を行なう。
次に、本実施形態に係る磁気冷暖房装置の動作を、図12及び図13のフローチャート、及び図16、図17のスイッチングパターンに基づいて詳細に説明する。図12は、本実施形態に係る磁気冷暖房装置の動作フローチャートである。図13は、本実施形態に係る磁気冷暖房装置のサブルーチンフローチャートである。図16は、図11のスイッチングパターン記憶部が記憶するスイッチングパターンの一例である。図17は、図11のスイッチングパターン記憶部が記憶するスイッチングパターンの他の例である。
(磁気冷暖房装置の動作)
まず、操作者は、温度設定部262から車室内の設定温度を入力する。設定温度が入力されると、空調制御部400は、要求熱量と要求温度差を入力する(S1)。空調制御部400は、車室内の空間容量、現在の車室内の温度、車室内の設定温度を参照して、車室内を設定温度にするために必要な要求熱量を求める。また、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの温度差を求める。この求めた値を、要求熱量、要求温度差として入力する。
次に、空調制御部400は、入力した要求熱量と要求温度差をあらかじめ記憶しているマップと照合して磁気印加周波数fを求め、熱伝導部30A−30GのON、OFFのスイッチングパターンをスイッチングパターン記憶部420から取得する(S2)。スイッチングパターンのTSsは、熱伝導部30A−30GをONさせるタイミング、換言すれば熱伝導部30A−30Gに微小振動を印加するタイミングである。一方、スイッチングパターンのTSeは、熱伝導部30A−30Gによる熱伝導をOFFさせるタイミング、換言すれば熱伝導部30A−30Gから微小振動を除去するタイミングである。
空調制御部400は磁気冷暖房装置を運転する(S3)。つまり、空調制御部400は、求めた磁気印加周波数fを実現するために、サーボモータ制御部350に回転数の指示を出す。磁気印加周波数は、1つの磁性体に対して1秒間に何回磁気の印加除去をするかを示すものである。例えば、磁気印加周波数fが6Hzであったとすると、図7から図9に示す構成の磁気冷暖房装置の場合、回転部200A、200Bが1秒間に1回転すると6回磁気の印加除去が行われるので、回転部200A、200Bに要求される回転数は60rpmである。サーボモータ制御部350には、回転部200A、200Bが60rpmで回転するために必要なサーボモータ300A、300Bの回転数を指示する。また、空調制御部400は、スイッチングパターン記憶部420から取得したスイッチングパターンを再現するために、電圧印加制御部35にスイッチングパターンを送る。例えば、図16、図17に示すようなスイッチングパターンである。
空調制御部400はステップS3の運転が規定のサイクル行われたか否かを判断する(S4)。図2に示したように、磁気冷暖房装置の運転が開始された直後から、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間にだんだんと温度差が拡大していく。この温度差が要求温度差に達するまでには、あらかじめ規定してあるサイクルだけ磁気の印加、除去を繰り返さなければならない。本実施形態の磁気冷暖房装置の場合、回転部200A、200Bが1回転すると各熱輸送器50に磁気の印加、除去が6回繰り返される。したがって、例えば、規定サイクルが1200サイクルに設定されていたとすると、回転部200A、200Bが200回転したか否かが判断される。
空調制御部400はステップS3の運転が規定のサイクルまで達していなければ(S4:NO)、S3のステップの処理を繰り返す。一方、ステップS3の運転が規定のサイクルに達したら(S4:YES)次のステップの処理に進む。
次に、空調制御部400は、出力熱量と出力温度差を演算する(S5)。出力熱量は、低温側熱交換部入口温度センサ264が検出した冷媒の低温側熱交換部入口温度Tciと低温側熱交換部出口温度センサ266が検出した低温側熱交換部出口冷媒の温度Tcoとの温度差を求め、その温度差に冷媒の質量mcと比熱Cpを掛けることによって求める。また、出力温度差は、高温側熱交換部出口温度センサ268が検出した冷媒の高温側熱交換部出口温度Thoと低温側熱交換部出口温度センサ266が検出した冷媒の温度低温側熱交換部出口Tcoとの温度差である。
次に、空調制御部400は、ステップS1で入力した要求熱量とステップS5で求めた出力熱量との差を演算する。また、ステップS1で入力した要求温度差とステップS5で求めた出力温度差との差を演算する(S6)。
空調制御部400は、要求熱量と出力熱量との差と、要求温度差と出力温度差との差が規定範囲以内であるかを判断する(S7)。
空調制御部400は、要求熱量と出力熱量との差と、要求温度差と出力温度差との差が規定範囲以内であれば(S7:YES)、ステップS2で求めた磁気印加周波数fと、熱伝導部30A−30GのON、OFFのスイッチングパターンを更新してスイッチングパターン記憶部420に記憶させる。ステップS2で求めた磁気印加周波数fと、熱伝導部30A−30GのON、OFFのスイッチングパターンを用いて、磁気冷暖房装置の運転を継続する(S8)。
空調制御部400は、要求熱量と出力熱量との差と、要求温度差と出力温度差との差が規定範囲以内でなければ、ステップS2で求めた磁気印加周波数fをf+Δfにし、熱伝導部30A−30GのON、OFFのスイッチングパターンのTSsをTSs+ΔTSsに、TSeをTSe+ΔTSeに、それぞれ設定する(S9)。そして、ステップS3からステップS7までの処理を繰り返す。このようにして、最適な磁気印加周波数f及び最適なスイッチングパターンを学習させると、磁性体ごとに異なる熱発生特性及び熱伝導部ごとに異なる熱伝達特性のばらつきを補正することができる。
次に、図10のフローチャートのステップS3の詳しい処理を図11のサブルーチンフローチャートで説明する。
空調制御部400は、サーボモータ300A、300Bの回転位置検出センサ320A,320B、および基準位置検出センサ250A、250Bの検出信号から、回転部200A、200Bの回転位置を検出する(S11)。回転位置を検出することによって、図12および図13のイ−ホに示すように、回転部200A、200Bの永久磁石(PM)と固定部100の磁性体(MCM)との位置関係を知ることができる。
空調制御部400は、スイッチングパターン記憶部420に記憶されているスイッチングパターンから、永久磁石の位置が該当する熱伝導部をONさせなければならない区間(熱伝達をさせる区間)であるか否かを判断する(S12)。永久磁石の位置が該当する熱伝導部をONしなければならない区間であれば(S12:YES)、空調制御部400のスイッチング制御部410は、微小振動印加制御部35、ピエゾアクチュエータ32A、32Bを用いて該当する熱伝導部をONする(S13)。熱伝導部のONは磁性体との間で熱伝導を可能にすることであるので、該当する熱伝導部に微小振動を印加する。一方、永久磁石の位置が該当する熱伝導部をONしなくても良い区間であれば(S12:NO)、空調制御部400のスイッチング制御部410は、微小振動印加制御部35、ピエゾアクチュエータ32A、32Bを用いて該当する熱伝導部をOFFする(S14)。
例えば、スイッチングパターン記憶部420に図16に示すようなスイッチングパターンが記憶されていたとする。この場合、空調制御部400のスイッチング制御部410は、ステップS11で検出した永久磁石の位置が、例えば、各熱輸送器50の磁性体に対して図16のイ−ハの位置にあるときには、図3のb、c、d、e、f、gの位置にある熱伝導部に微小振動を印加する。一方、イ−ハの位置以外の位置にあるときには図3のaの位置にある熱伝導部に微小振動を印加し、他のb、c、d、e、f、gの位置にある熱伝導部には微小振動を印加しない。
また、スイッチングパターン記憶部420に図17に示すようなスイッチングパターンが記憶されていたとする。この場合には、空調制御部400のスイッチング制御部410は、ステップS11で検出した永久磁石の位置が、例えば、各熱輸送器50の磁性体に対して図17のイ−ホの位置にあるときには、図3のb、c、d、e、f、gの位置にある熱伝導部に微小振動を印加する。一方、イ−ホの位置以外の位置にあるときにはb、c、d、e、f、gの位置にある熱伝導部には微小振動を印加しない。また、図3のaの位置にある熱伝導部は、イの位置の少し手前の位置からホの位置の少し手前の位置まで微小振動を印加する。
図16のスイッチングパターンと図17のスイッチングパターンは若干異なる。図16のスイッチングパターンは、永久磁石を有する回転体200A、200Bが一定の速度で回転する場合を想定している。熱伝導部に微小振動が印加されている期間は、aの位置にある熱伝導部を除いて、磁性体に永久磁石がオーバーラップし始めてから完全にオーバーラップするまでの間である。この間に磁性体と熱伝導部との間で熱伝導が行われる。
図17のスイッチングパターンは、永久磁石を有する回転体200A、200Bが一定の速度ではなく、磁性体との間に生じる吸引力の影響でコギングを起こす場合を想定している。実機では、図16のように定速で回転させることは難しく、永久磁石が磁性体とオーバーラップしている間回転速度が一時的に落ちる。この場合には、熱伝導部に微小振動が印加されている期間は、aの位置にある熱伝導部を除いて、磁性体に永久磁石がオーバーラップし始めてからオーバーラップが終わるまでの間である。この間に磁性体と熱伝導部との間で熱伝導が行われる。図16のスイッチングパターンに比較して、図17のスイッチングパターンの方が、熱の移動時間が長くなる。したがって、磁性体が発生する熱を効率的に移動させることができる。
最後に、空調制御部400は、空調動作を終了する指示が成されたか否かを判断する(S15)。空調動作の終了が指示されなければ(S15:NO)、ステップS11に戻り、空調動作の終了が指示されると(S15:YES)、S4のステップに戻る。
以上のように、本実施形態に係る磁気冷暖房装置では、永久磁石が配置されている回転体200A、200Bを回転させ、スイッチングパターンに沿って熱伝導部に微小振動を印加するだけで、低温側熱交換器から高温側熱交換器に向けて熱を移動させることができる。
本実施形態に係る磁気冷暖房装置では、以下のような効果を得ることができる。
各熱伝導部30A−30Gは、微小振動の印加、除去に応じて熱伝導率が大きく変化するので、磁性体10A−10F、低温側熱交換部40A、高温側熱交換部40Bに対して摺動させずに熱を輸送させることができる。このため、各熱伝導部30A−30Gに摺動の耐久性を持たせる必要がなく、各熱伝導部30A−30Gの信頼性が向上する。また、摩擦による機械的な損失をなくすことができ、各熱伝導部30A−30Gを駆動するための損失を低減できる。
また、各熱伝導部30A−30Gは各磁性体10A−10Fとの並び方向にのみ熱を輸送できるので、熱の輸送に際して熱的な損失が小さくできる。
さらに、各熱伝導部30A−30Gは、微小振動の印加、除去に応じて、磁性体間10B−10E、磁性体10Aと低温側熱交換部40Aとの間、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間を、全ての接触面を使って接続するので、熱輸送能力及び熱輸送効率を向上させることができる。
磁気印加除去部の永久磁石20A−20Fを駆動することで各磁性体10A−10Fに連続的に熱を発生させることができ、各熱伝導部30A−30Gに微小振動印加部32が選択的に微小振動を印加し除去することで、各磁性体10A−10Fが発生した熱を熱輸送器50の一端から他端に輸送させることができる。
各磁性体10A−10Fに選択的に磁気を印加し除去するタイミングと同期させて各熱伝導部30A−30Gに微小振動を印加し除去するようにしたので、低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに熱を効率的に輸送させることができる。
運転条件ごとに定めた、微小振動の印加、除去のタイミングを用いて各熱伝導部30A−30Gに微小振動を印加し除去するようにしたので、運転条件に適合させて、最大限の効率で低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに熱を輸送させることができる。
運転条件ごとに定めた、微小振動の印加、除去のタイミングは、磁気冷暖房装置の運転に伴って、最適なタイミングに書き換えるようにしたので、磁性体10A−10Fごとに異なる熱発生特性及び熱伝導部30A−30Gごとに異なる熱伝達特性のばらつきを補正することができる。そのため、最大限の効率で低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに熱を輸送させることができ、磁気冷暖房装置の高出力化及びコンパクト化を達成することができる。
熱輸送器50の要求熱量、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差または磁気印加除去部の駆動パターンごとに、微小振動の印加、除去のタイミングを定めているので、それぞれの運転条件ごとに最大限の効率で低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに熱を輸送させることができる。そのため、磁気冷暖房装置の高出力化及びコンパクト化を達成することができる。
磁気印加除去部を一定の速度で駆動するか、一定ではない速度で駆動するかの駆動パターンごとに、微小振動の印加、除去のタイミングを定めているので、それぞれの運転条件ごとに最大限の効率で低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに熱を輸送させることができる。そのため、磁気冷暖房装置の高出力化及びコンパクト化を達成することができる。
真空内、または減圧下の環境内に熱輸送器50を設置すると、熱輸送器50を構成する磁性体10A−10Fと熱伝導部30A−30Gの断熱性を向上させることができる。そのため、低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに効率的に熱を輸送させることができ磁気冷暖房装置の高出力化及びコンパクト化を達成することができる。
熱伝導部30A−30Gは、筐体33と、筐体33に設けた冷媒の入口34Aと出口34Bとの間を筐体33内に設けた隔壁37によって複数回折り返して連通する冷媒通路36と、筐体33内を満たす冷媒と、を有する。そして、冷媒に微小振動を印加すると微小振動を印加しないときに比較して熱伝導率が大きくなり、一方、前記冷媒に微小振動を印加しないと微小振動を印加したときよりも熱伝導率が小さくなる。このため、熱伝導部30A−30Gに微小振動を印加除去するだけで、熱伝導を断続させることができ、熱伝導の制御が容易になる。
熱伝導部30A−30Gの熱伝導率は、微小振動を印加したときと印加しないときとで、100倍から30000倍の範囲で異なるので、熱伝導部30A−30Gに十分な熱輸送能力と断熱能力を備えさせることができる。
熱伝導部30A−30Gは、低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間、複数の磁性体10B−10Fとの間、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間で接合又は接着により一体化されるので、熱的な接触抵抗の低減が図れ、熱輸送器50の製造が容易になる。