JP2013053979A - 位相型回折格子の製造方法および位相型回折格子ならびにx線撮像装置 - Google Patents

位相型回折格子の製造方法および位相型回折格子ならびにx線撮像装置 Download PDF

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    • A61B6/48Diagnostic techniques
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Abstract

【課題】位相型回折格子の機能劣化を低減しつつ加工精度のより高い位相型回折格子の製造方法、該位相型回折格子およびX線撮像装置を提供する。
【解決手段】位相型回折格子の製造方法は、シリコン基板30をエッチングして所定の深さのスリット溝を形成する凹部形成工程と、前記深さの方向における設計値の長さとなるように金属35をスリット溝内に形成する金属形成工程(図4(A))と、金属形成工程でスリット溝内に形成された金属35における前記深さの方向の長さを実際に計測する計測工程(図4(B))と、設計値の位相差を生じさせるように、計測工程で計測された金属35の実際の長さに応じてスリット溝の側壁に対応する部分における前記深さの方向の長さを調整する調整工程(図4(C))とを備える。
【選択図】図4

Description

本発明は、位相型回折格子を製造する位相型回折格子の製造方法に関し、特に、位相型回折格子の機能劣化を低減しつつ加工精度のより高い位相型回折格子の製造方法に関する。そして、本発明は、この位相型回折格子の製造方法によって製造された位相型回折格子および該位相型回折格子を用いたX線撮像装置に関する。
回折格子は、多数の平行な周期構造を備えた分光素子として様々な装置の光学系に利用されており、近年では、X線撮像装置への応用も進展しつつある。回折格子には、回折方法で分類すると、透過型回折格子と反射型回折格子とがあり、さらに、透過型回折格子には、光を透過させる基板上に光を吸収する部分を周期的に配列した振幅型回折格子(吸収型回折格子)と、光を透過させる基板上に光の位相を変化させる部分を周期的に配列した位相型回折格子とがある。ここで、吸収とは、50%より多くの光が回折格子によって吸収されることをいい、透過とは、50%より多くの光が回折格子を透過することをいう。
この位相型回折格子は、例えば、第1光学的距離に対応する第1屈折率および第1厚さを有して一方向に線状に延びる複数の第1光学的距離部分と、前記第1光学的距離部分を通過した波に対して所定の位相差を生じさせる第2光学的距離に対応する第2屈折率および第2厚さを有して前記一方向に線状に延びる複数の第2光学的距離部分とを入射面と射出面との間に備え、これら複数の第1光学的距離部分と複数の第2光学的距離部分とは、交互に平行に配設される。なお、光路中に複数の媒質が存在する場合では、この光路における光学的距離は、各媒質での各光学的距離の和となる。このような位相型回折格子は、例えば、特許文献1に開示されている。
この特許文献1に開示の位相格子は、シリコンウェハ内に長方形構造体である複数の隙間をドライエッチングで空けることによって形成された、交互に平行に配設される複数の突条部および複数の前記隙間を備えている。そして、この特許文献1に開示の位相格子は、さらに、前記突条部を通過したX線と前記隙間を通過したX線との強度(振幅)を一致させ、0次回折光を消すために、前記複数の隙間における各底部には、充填材料がさらに配設されている([0032]段落、[0049]段落および図4)。そして、このような構成の位相格子は、特許文献1の[0050]段落によれば、前記充填材料を格子にスパッタリングし、引き続き格子の表面、つまり突条部の末端を化学−機械的に研磨することによって製造される。
一方、このような位相型回折格子は、前記特許文献1やあるいは特許文献2に開示されているように、X線干渉計、例えばタルボ干渉計に利用され、さらに、このタルボ干渉計を用いたいわゆる位相コントラスト法によるX線撮像装置に利用されている。
図20は、従来技術におけるX線撮像装置の概略的な構成を示す図である。図20(A)は、特許文献2に記載のX線撮像装置の概略的な構成を示す説明図であり、図20(B)は、その上面図である。図20において、この特許文献2に記載のX線撮像装置1000は、X線源1001と、X線源1001から照射されるX線を回折する位相型回折格子1002と、位相型回折格子1002により回折されたX線を回折することにより画像コントラストを形成する振幅型回折格子1003と、振幅型回折格子1003により画像コントラストの生じたX線を検出するX線画像検出器1004とを備え、位相型回折格子1002および振幅型回折格子1003がタルボ干渉計を構成する条件に設定される。この条件は、次の式1および式2によって表される。式2は、X線源1001側に配置される回折格子1002が位相型回折格子であることを前提としている。
l=λ/(a/(L+Z1+Z2)) ・・・(式1)
Z1=(m+1/2)×(d/λ) ・・・(式2)
ここで、lは、可干渉距離であり、λは、X線の波長(通常は中心波長)であり、aは、回折格子の回折部材にほぼ直交する方向におけるX線源1001の開口径であり、Lは、X線源1001から位相型回折格子1002までの距離であり、Z1は、位相型回折格子1002から振幅型回折格子1003までの距離であり、Z2は、振幅型回折格子1003からX線画像検出器1004までの距離であり、mは、整数であり、dは、回折部材の周期(回折格子の周期、格子定数、隣接する回折部材の中心間距離)である。
このような構成のX線撮像装置1000では、X線源1001と位相型回折格子1002との間に被検体1010が配置され、X線源1001から位相型回折格子1002に向けてX線が照射される。この照射されたX線は、位相型回折格子1002でタルボ効果を生じ、タルボ像を形成する。このタルボ像が振幅型回折格子1003で作用を受け、モアレ縞の画像コントラストを形成する。そして、この画像コントラストがX線画像検出器1004で検出される。このモアレ縞は、被検体1010によって変調を受けており、この変調量が被検体1010による屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。このため、モアレ縞を解析することによって被検体1010およびその内部の構造を検出することができる。
ここで、タルボ効果とは、回折格子に光が入射されると、或る距離に前記回折格子と同じ像(前記回折格子の自己像)が形成されることをいい、この或る距離をタルボ距離Lといい、この自己像をタルボ像という。タルボ距離Lは、回折格子が位相型回折格子の場合では、上記式2に表されるZ1となる(L=Z1)。タルボ像は、Lの奇数倍(=(2m+1)L、mは、整数)では、反転像が現れ、Lの偶数倍(=2mL)では、正像が現れる。
特開2007−203064号公報 国際公開第2004/058070号パンフレット
ところで、位相型回折格子は、入射面と射出面との間に光学的距離の異なる複数の第1および第2光学的距離部分を交互に備えることによって、第1光学的距離部分を通過した第1X線と第2光学的距離部分を通過した第2X線との間に所定の位相差を生じさせる。このため、第1および第2光学的距離部分は、設計値通りの位相差を生じさせるために、第1および第2光学的距離部分の長さ(厚さ、X線の通過長)を設計値通りに、少なくとも許容される誤差範囲内で厳密に形成する必要がある。
例えば、28keV(波長0.04nm)のX線に適用されるπ/2型位相型回折格子であって、第1および第2光学的距離部分が金および空気で形成される場合、金は、比較的大きく位相を変化させるため、金の厚さは、2.7μmとなり、±10%の誤差が許容される場合でも、金の厚さは、2.7μm±0.27μmとなる。このような膜(層)としては比較的厚い金を形成する手法は、電鋳法が好適である。このため、前記第1および第2光学的距離部分が金および空気である位相型回折格子を製造する方法として、例えば、基板の主面上にレジスト層を形成し、このレジスト層をパターニングすることによって溝を形成し、電鋳法(湿式電界メッキ法)で前記溝内に金を成長させる手法が好適であるが、電鋳法によって2.7μm±0.27μmの精度で金の第1光学的距離部分を形成することは、難しい。
このため、加工精度の高いシリコン基板や石英基板を用い、エッチングによってシリコン基板や石英基板に溝を形成することで、位相型回折格子を製造する方法が考えられる。このような第1および第2光学的距離部分がシリコンおよび空気で形成される位相型回折格子の場合、上述と同じ条件で、すなわち、28keVのX線に適用されるπ/2型位相型回折格子では、シリコンの場合、その厚さは、18μmとなる。このような厚さの格子を持つ位相型回折格子では、X線源1001から放射したX線は、X線源1001が一般に略点光源であるため、放射状に拡がるので、位相型回折格子1002の中心領域では、X線が格子と略平行に入射され、タルボ干渉計として機能するが、位相型回折格子1002の両サイドの各領域では、X線が格子に対して斜めに入射されるため、位相型回折格子の機能を適切に発揮することができず、タルボ干渉計として適切に機能しなくなってしまう。
このため、加工精度の高いシリコン基板を用いるとともに、比較的大きく位相を変化させる金を用い、エッチングによってシリコン基板に溝を形成して電鋳法(メッキ法)で前記溝内に金を成長させることで、位相型回折格子を製造する方法が考えられる。このような第1および第2光学的距離部分がシリコンおよび金で形成される位相型回折格子の場合、上述と同じ条件で、すなわち、28keVのX線に適用されるπ/2型位相型回折格子では、シリコンの厚さおよび金の厚さは、3.2μm±0.32μmとなる。この場合では、シリコン基板の加工によって溝を3.2μm±0.32μmの深さで形成することができたとしても、電鋳法によって3.2μm±0.32μmの精度で金の第2光学的距離部分を形成することは、やはり難しく、さらに、金が溝を超えて成長すると互いに隣接する溝に成長した金同士が接続されてしまう。
すなわち、比較的大きく位相を変化させる例えば金等の比較的重い元素を用いる位相型回折格子の製造方法は、厚さの薄い位相型回折格子となるため、斜め入射による位相型回折格子の機能劣化を低減することができる。しかしながら、前記厚さが薄いが故に、厚さの誤差に対する位相差の誤差も大きくなるため、厳密にその厚さを制御する必要があるが、そのような前記厚さの膜(層)を形成することに好適な電鋳法では、その厚さを制御することが難しく、高い加工精度で位相型回折格子を製造することができない。
一方、加工精度の高いシリコン基板や石英基板を用いる位相型回折格子の製造方法は、高い加工精度で位相型回折格子を製造することができるが、厚さの厚い位相型回折格子となるため、斜め入射による位相型回折格子の機能劣化が生じてしまう。
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、位相型回折格子の機能劣化を低減しつつ加工精度のより高い位相型回折格子の製造方法を提供することである。そして、本発明は、この位相型回折格子の製造方法によって製造された位相型回折格子および該位相型回折格子を用いたX線撮像装置を提供することである。
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる位相型回折格子の製造方法は、基板をエッチングして所定の深さの凹部を形成する凹部形成工程と、前記深さの方向における設計値の長さとなるように金属を前記凹部内に形成する金属形成工程と、前記金属形成工程で前記凹部内に形成された金属における前記深さの方向の長さを実際に計測する計測工程と、設計値の位相差を生じさせるように、前記計測工程で計測された前記金属の実際の長さに応じて前記凹部の側壁に対応する部分における前記深さの方向の長さを調整する調整工程とを備えることを特徴とする。そして、好ましくは、前記凹部内に形成された前記金属における屈折率の実部は、前記凹部における屈折率の実部よりも小さい。
このような構成の位相型回折格子の製造方法では、金属形成工程で凹部内に形成された金属における深さ方向の長さ(厚さ)が設計値からずれた場合でも、金属形成工程で凹部内に形成された金属における深さ方向の長さ(厚さ)が実測され、この実測結果に基づいて、設計値の位相差を生じさせるように、凹部の側壁に対応する部分における前記深さ方向の長さ(基板の厚さ)が調整される。例えば前記凹部の側壁がその頂部からエッチングされることによって前記凹部の側壁に対応する部分における前記深さ方向の長さ(基板の厚さ)が調整される。また例えば前記凹部の側壁が全て除去されさらに該側壁があった領域部分が前記深さ方向にエッチングされることによって前記凹部の側壁に対応する部分における前記深さ方向の長さ(基板の厚さ)が調整される。また例えば、前記凹部の前記側壁に対応する前記シリコン基板の表面部分が削られることによって前記凹部の側壁に対応する部分における前記深さ方向の長さ(基板の厚さ)が調整される。このように加工精度のあまい電鋳法によって形成された金属の厚さにおける設計値からのズレが、高い加工精度で加工することができる基板の加工によって修正される。このように加工精度の基板の加工で設計値の位相差を実現するので、このような構成の位相型回折格子の製造方法は、より高い加工精度で位相型回折格子を製造することができる。そして、このような構成の位相型回折格子の製造方法は、比較的大きな位相変化を生じさせる金属を用いるので、シリコンと空気または真空との組み合わせの位相型回折格子よりも薄い格子で位相型回折格子を製造することができる。したがって、このような構成の位相型回折格子の製造方法は、点光源のX線源が用いられた場合でも、位相型回折格子の周辺部領域におけるいわゆる斜め入射が低減され、位相型回折格子の性能劣化を低減することができる。
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子の製造方法において、前記調整工程は、前記凹部の側壁における前記凹部の開口面側の部分を除去することによって、前記凹部の側壁に対応する部分における前記深さの方向の長さを調整することを特徴とする。
このような構成の位相型回折格子の製造方法では、前記凹部の側壁における前記凹部の開口面側の部分を除去することによって、前記凹部の側壁における前記深さの方向の長さを調整した位相型回折格子が提供される。
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子の製造方法において、前記調整工程は、前記凹部の側壁における前記凹部の底面側の部分を除去することによって、前記凹部の側壁に対応する部分における前記深さの方向の長さを調整することを特徴とする。
このような構成の位相型回折格子の製造方法では、前記凹部の側壁における前記凹部の底面側の部分を除去することによって、前記凹部の側壁における前記深さの方向の長さを調整した位相型回折格子が提供される。
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子の製造方法において、前記凹部の側壁における前記深さの方向の長さは、シリコンと空気または真空とで位相型回折格子を形成した場合における前記シリコンの設計値の長さであることを特徴とする。
このような構成の位相型回折格子の製造方法では、前記凹部の側壁における前記深さの方向の長さが調整されるので、シリコンと空気または真空とで位相型回折格子を形成した場合におけるいわゆる斜め入射による機能劣化を低減することが可能となる。
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子の製造方法において、前記金属形成工程は、前記金属を前記凹部内に電鋳法によって形成することを特徴とする。
このような構成の位相型回折格子の製造方法では、前記凹部内に電鋳法によって金属を形成した位相型回折格子が提供される。
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子の製造方法において、前記基板は、シリコン基板であり、前記金属形成工程は、前記基板における前記凹部の内表面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記凹部の底部に形成された前記絶縁層の部分を除去する除去工程と、前記深さの方向における設計値の長さとなるように金属を前記凹部内に電鋳法によって形成する電鋳工程とを備えることを特徴とする。
このような構成の位相型回折格子の製造方法では、基板に導電性を有し加工精度の高いシリコン基板が用いられる場合に、凹部の側面が絶縁層によって絶縁状態となるとともに、凹部の底部分が通電可能な状態となる。このため、凹部の壁面(内側側面)から金属がより確実に析出および成長することがなく、凹部の底部分から金属がより確実に析出し成長する。したがって、このような構成の位相型回折格子の製造方法は、金属が前記凹部の底部分から選択的に成長するので、成長した金属内におけるボイドの発生を効果的に抑制することができる。
また、他の一態様では、上述の位相型回折格子の製造方法において、前記除去工程は、前記凹部の底部に形成された前記絶縁層の部分を除去するとともに、前記凹部の底部における前記シリコン基板をさらにエッチングすることによって前記凹部の底部分の表面積を該エッチング前より広くする除去広表面積化工程であることを特徴とする。
このような構成の位相型回折格子の製造方法では、除去広表面積化工程で、凹部の底部の絶縁層が除去されるだけでなく、凹部の底部に露出したシリコン基板がさらにエッチングされ、前記凹部の底部分の表面積が該エッチング前より広くされるので、シリコン基板が露出する面積がより広くなる。この結果、金属形成工程での電鋳法における通電面積がより広くなり、各凹部における金属の成長速度のばらつきが低減される。したがって、このような構成の位相型回折格子の製造方法は、電鋳法によって各凹部における金属の成長長の略均一な位相型回折格子を製造することができる。
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子の製造方法において、前記基板は、前記所定の深さに相当する厚さを有する石英層を積層したシリコン基板であり、前記凹部形成工程は、前記石英層を前記シリコン基板が露出するまでエッチングして前記所定の深さの凹部を形成することを特徴とする。
このような構成の位相型回折格子の製造方法では、基板に前記所定の深さに相当する厚さを有する石英層を積層したシリコン基板が用いられ、凹部形成工程では、前記石英層を前記シリコン基板が露出するまでエッチングして前記所定の深さの凹部が形成される。したがって、このような構成の位相型回折格子の製造方法では、絶縁性の石英層に凹部が形成されるとともに、凹部の底部分では、導電性のシリコン基板が露出される。この結果、凹部の側面が絶縁状態となるとともに、凹部の底部分が通電可能な状態となる。このため、凹部の壁面(内側側面)から金属がより確実に析出および成長することがなく、凹部の底部分から金属がより確実に析出し成長する。したがって、このような構成の位相型回折格子の製造方法は、金属が前記凹部の底部分から選択的に成長するので、成長した金属内におけるボイドの発生を効果的に抑制することができる。
また、他の一態様では、上述の位相型回折格子の製造方法において、前記凹部の底部における前記シリコン基板をさらにエッチングすることによって前記凹部の底部分の表面積を該エッチング前より広くする広表面積化工程をさらに備えることを特徴とする。
このような構成の位相型回折格子の製造方法では、広表面積化工程で、凹部の底部に露出したシリコン基板がさらにエッチングされ、前記凹部の底部分の表面積が該エッチング前より広くされるので、シリコン基板が露出する面積がより広くなる。この結果、金属形成工程での電鋳法における通電面積がより広くなり、各凹部における金属の成長速度のばらつきが低減される。したがって、このような構成の位相型回折格子の製造方法は、電鋳法によって各凹部における金属の成長長の略均一な位相型回折格子を製造することができる。
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子の製造方法は、X線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計に用いられる位相型回折格子を製造する場合に用いられる。
上述したように、これら上述の位相型回折格子の製造方法は、位相型回折格子の機能劣化を低減しつつ加工精度のより高い位相型回折格子を製造することができるので、この構成によれば、性能の高いX線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計を実現することが可能となる。
また、本発明の他の一態様にかかる位相型回折格子は、これら上述のいずれかの位相型回折格子の製造方法によって製造される。
この構成によれば、機能劣化が低減され加工精度がより高い位相型回折格子を実現することが可能となる。
また、本発明の他の一態様にかかる位相型回折格子は、第1光学的距離に対応する第1厚さを有して所定の規則に従って配列された複数の第1光学的距離部分と、前記第1光学的距離部分を通過したX線に対して所定の位相差を生じさせる第2光学的距離に対応する第2厚さを有して前記複数の第1光学的距離部分に応じて配列された第2光学的距離部分とを入射面と射出面との間に備え、前記第1光学的距離部分と前記第2光学的距離部分との間には、絶縁層をさらに備え、前記第1光学的距離部分は、1個の光学的要素で構成され、前記第2光学的距離部分は、複数の光学的要素で構成され、前記複数の光学的要素の各厚さの和は、前記第2光学的距離部分の前記第2厚さに等しく、かつ、前記複数の光学的要素のそれぞれについて求められる屈折率と厚さとの積のそれぞれの和は、前記第2光学的距離に等しいことを特徴とする。
一態様では、好ましくは、前記第1光学的距離部分の光学的要素は、シリコンであり、前記第2光学的距離部分における複数の光学的要素は、金属および空気(または真空)である。また、他の一態様では、好ましくは、前記第1光学的距離部分の光学的要素は、金属であり、前記第2光学的距離部分における複数の光学的要素は、シリコンおよび空気(または真空)である。また、他の一態様では、好ましくは、前記第1光学的距離部分の光学的要素は、空気(または真空)であり、前記第2光学的距離部分における複数の光学的要素は、金属およびシリコンである。また、他の一態様では、好ましくは、これら各態様において、前記金属は、積層された複数の金属であってよい。
このような構成の位相型回折格子は、前記第1光学的距離部分に用いられる光学的要素および前記第2光学的距離部分に用いられる前記複数の光学的要素のいずれかに加工精度の高い材料を用いることが可能となり、そして、前記第1光学的距離部分に用いられる光学的要素および前記第2光学的距離部分に用いられる前記複数の光学的要素のいずれかに比較的大きな位相変化を生じさせる材料を用いることが可能となる。したがって、このような構成の位相型回折格子では、機能劣化が低減され、加工精度もより高い。
なお、光学的要素とは、当該媒質を伝播する電磁波の光学的距離に作用するものであり、例えば、物質、空気および真空等である。光学的距離は、入射する電磁波の波長に対し、その屈折率とその厚さ(長さ)との積によって与えられる。
また、本発明の他の一態様にかかるX線撮像装置は、X線を放射するX線源と、前記X線源から放射されたX線が照射されるタルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計と、前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計によるX線の像を撮像するX線撮像素子とを備え、前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計は、これら上述のいずれかの位相型回折格子を含むことを特徴とする。
このような構成のX線撮像装置は、タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計を構成する位相型回折格子に、機能劣化が低減され加工精度がより高い位相型回折格子を用いるので、より確実に回折され、より鮮明なX線の像を得ることができる。
本発明にかかる位相型回折格子の製造方法は、位相型回折格子の機能劣化を低減しつつ加工精度のより高い位相型回折格子を製造することができる。そして、本発明では、このような位相型回折格子の製造方法によって製造される位相型回折格子およびこの位相型回折格子を用いたX線撮像装置が提供される。
第1実施形態における位相型回折格子の構成を示す斜視図である。 第1実施形態における位相型回折格子の製造方法を説明するための図(その1)である。 第1実施形態における位相型回折格子の製造方法を説明するための図(その2)である。 第1実施形態における位相型回折格子の製造方法を説明するための図(その3)である。 第1実施形態における位相型回折格子の製造工程中のシリコン基板を示す斜視図である。 第1実施形態における位相型回折格子の一設計例(実施例)を説明するための図である。 図6に示す設計例に基づいて製造される位相型回折格子の第1態様の製造例を説明するための図である。 図6に示す設計例に基づいて製造される位相型回折格子の第2態様の製造例を説明するための図である。 図6に示す設計例に基づいて製造される位相型回折格子の第3態様の製造例を説明するための図である。 シリコン、金および空気の3個の光学的要素によって位相型回折格子を製造する場合におけるシリコン、金および空気の各長さ(各厚さ)を示す図である。 第2実施形態における位相型回折格子の構成を示す斜視図である。 第2実施形態における位相型回折格子の製造方法を説明するための図(その1)である。 第2実施形態における位相型回折格子の製造方法を説明するための図(その2)である。 第2実施形態における位相型回折格子の製造方法を説明するための図(その3)である。 第3実施形態における位相型回折格子の製造方法を説明するための図である。 第3実施形態における位相型回折格子の構成を示す斜視図である。 実施形態におけるX線用タルボ干渉計の構成を示す斜視図である。 実施形態におけるX線用タルボ・ロー干渉計の構成を示す上面図である。 実施形態におけるX線撮像装置の構成を示す説明図である。 従来技術におけるX線撮像装置の概略的な構成を示す図である。
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
(第1実施形態の位相型回折格子)
図1は、第1実施形態における位相型回折格子の構成を示す斜視図である。本実施形態の位相型回折格子DGAは、図1に示すように、第1シリコン部分11と、第1シリコン部分11上に形成された回折格子12Aとを備えて構成される。第1シリコン部分11は、図1に示すようにDxDyDzの直交座標系を設定した場合に、DxDy面に沿った板状または層状である。回折格子12Aは、位相型回折格子であって、入射面と射出面との間に複数の第1光学的距離部分12aと、複数の第2光学的距離部分12b(12b1、12b2)とを備えている。複数の第1光学的距離部分12aは、第1光学的距離h1に対応する第1屈折率n1および第1厚さH1を有して所定の規則に従って配列され、複数の第2光学的距離部分12bは、この第1光学的距離部分12aを通過した例えばX線や光等の電磁波に対して所定の位相差Cを生じさせる第2光学的距離h2に対応する第2屈折率n2および第2厚さH2を有して複数の第1光学的距離部分12aに応じて配列される。
より具体的には、位相型回折格子DGAが図1に示すように1次元である場合に、回折格子12Aは、前記第1厚さH1(格子面DxDyに垂直なDz方向(格子面DxDyの法線方向)の長さ)を有して一方向Dxに線状に延びる複数の第1光学的距離部分12aと、前記第2厚さH2(格子面DxDyに垂直なDz方向(格子面DxDyの法線方向)の長さ、H2=H1)を有して前記一方向Dxに線状に延びる複数の第2光学的距離部分12bとを備え、これら複数の第1光学的距離部分12aと複数の第2光学的距離部分12bとは、交互に平行に配設される。このため、複数の第1光学的距離部分12aは、前記一方向Dxと直交する方向Dyに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。言い換えれば、複数の第2光学的距離部分12bは、前記一方向Dxと直交する方向Dyに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。この所定の間隔(ピッチ)Pは、本実施形態では、一定とされている。すなわち、複数の第1光学的距離部分12a(複数の第2光学的距離部分12b)は、前記一方向Dxと直交する方向Dyに等間隔Pでそれぞれ配設されている。第1光学的距離部分12aは、前記DxDy面に直交するDxDz面に沿った板状または層状であり、第2光学的距離部分12bもこのDxDz面に沿った板状または層状である。
そして、複数の第1光学的距離部分12aと複数の第2光学的距離部分12bとの各間には、複数の絶縁層12cがそれぞれさらに備えられている。すなわち、第1光学的距離部分12aの両側面には、位相差性能に影響を与えない程度の非常に薄い絶縁層12cが形成されている。言い換えれば、第2光学的距離部分12bの両側面には、絶縁層12cが形成されている。絶縁層12cは、第1光学的距離部分12aと第2光学的距離部分12bとを電気的に絶縁するように機能し、例えば、酸化膜によって形成される。酸化膜は、例えば、酸化シリコン膜(SiO膜、シリコン酸化膜)やアルミナ膜(Al膜、酸化アルミニウム膜)等である。このような絶縁層12cが設けられているのは、この位相型回折格子DGAの製造方法において、後述するように、電鋳法によって第2光学的距離部分12bの金属部分12b1が形成されるからである。ここで、前記特許文献1に開示の位相格子は、電鋳法ではなく、上述したように、前記充填材料を格子にスパッタリングし、引き続き格子の表面、つまり突条部の末端を化学−機械的に研磨することによって製造されるので、前記特許文献1に開示の位相格子には、本実施形態の位相型回折格子DGAのような絶縁層12cは、存在しない。
さらに、第1光学的距離部分12aは、1個の光学的要素で構成されている。光学的要素とは、上述したように、当該媒質を伝播する電磁波の光学的距離に作用するものであり、例えば、物質、空気および真空等である。光学的距離hは、入射する例えばX線や光等の電磁波の波長に対し、その屈折率nとその厚さ(長さ)Hとの積によって与えられる(h=n×H)。したがって、第1光学的距離h1は、n1×H1である(h1=n1×H1)。第1光学的距離部分12aは、一態様では、例えばシリコンで形成されている。そして、第2光学的距離部分12bは、複数の光学的要素で構成されており、これら複数の光学的要素の各厚さの和は、第2光学的距離部分12bの第2厚さH2に等しく、かつ、これら複数の光学的要素のそれぞれについて求められる屈折率と厚さとの積のそれぞれの和は、第2光学的距離h2に等しい。第2光学的距離部分12bは、例えば、金属および空気の2個の光学的要素で構成されており、金属部分12b1の屈折率および厚さをそれぞれn21およびH21とし、空気部分12b2の屈折率および厚さをそれぞれn22およびH22とする場合に、H21+H22=H2(=H1)であり、n21×H21+n22×H22=h2である。ここで、前記特許文献1に開示の位相格子では、前記充填材料は、前記突条部を通過したX線と前記隙間を通過したX線との強度(振幅)を一致させ、0次回折光を消すために、前記複数の隙間における各底部に設けられるものであるから、充填材料の光学的距離だけでなく、充填材料での減衰量も考慮されており、前記特許文献1に開示の位相格子では、充填材料は、本実施形態の位相型回折格子DGAのような上記関係式だけでは決定(設計)することができず、本実施形態の位相型回折格子DGAの金属部分12b1とは異なる。
金属部分12b1の金属は、入射する電磁波に対して比較的大きな位相変化を生じさせる元素が好適に選択される。また、好ましくは、金属部分12b1の金属における屈折率の実部は、空気部分12b2(あるいは後述の真空部分12b2)における屈折率の実部よりも小さい。この位相型回折格子DGAがX線用である場合には、金属部分12b1の金属は、X線に対して比較的大きな位相変化を生じさせる元素が好適に選択され、例えば、原子量が比較的重い元素の金属や貴金属、より具体的には、例えば、金(Au)、プラチナ(白金、Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)およびイリジウム(Ir)等である。金属部分12b1の幅Wは、前記一方向(長尺方向)Dxに直交する方向(幅方向)Dyにおける金属部分12b1の長さであり、金属部分12b1の厚さH21は、前記一方向Dxとこれに直交する前記方向Dyとで構成される平面DxDyの法線方向(深さ方向)Dzにおける金属部分12b1の長さである。同様に、空気部分12b2の幅Wは、前記一方向(長尺方向)Dxに直交する方向(幅方向)Dyにおける空気部分12b2の長さであり、空気部分12b2の厚さH22は、前記一方向Dxとこれに直交する前記方向Dyとで構成される平面DxDyの法線方向(深さ方向)Dzにおける空気部分12b2の長さである。なお、空気部分12b2は、空気に代えて所定の真空度の真空とされた真空部分12b2であってもよい。
なお、上述では、前記第1光学的距離部分の光学的要素は、シリコンであり、前記第2光学的距離部分における複数の光学的要素は、金属および空気(または真空)であるが、他の態様も可能である。例えば、前記第1光学的距離部分の光学的要素は、金属であり、前記第2光学的距離部分における複数の光学的要素は、シリコンおよび空気(または真空)である。また例えば、前記第1光学的距離部分の光学的要素は、空気(または真空)であり、前記第2光学的距離部分における複数の光学的要素は、金属およびシリコンである。
このような位相差を生じさせる部分が複数の光学的要素から成る位相型回折格子DGAは、基板をエッチングして所定の深さの凹部を形成する凹部形成工程と、前記深さの方向における設計値の長さとなるように金属を前記凹部内に電鋳法によって形成する金属形成工程と、前記金属形成工程で前記凹部内に形成された金属における前記深さの方向の長さを実際に計測する計測工程と、設計値の位相差を生じさせるように、前記計測工程で計測された前記金属の実際の長さに応じて前記凹部の側壁に対応する部分における前記深さの方向の長さを調整する調整工程とによって製造される。前記凹部は、1次元格子では、例えば、スリット溝であり、また2次元格子では、柱状穴(柱状孔)等である。以下、前記凹部がスリット溝である1次元の前記位相型回折格子DGAの製造方法について、詳述する。なお、凹部が例えば柱状穴等の他の形状であっても同様である。
(第1実施形態の製造方法)
図2ないし図4は、第1実施形態における位相型回折格子の製造方法を説明するための図である。図5は、第1実施形態における位相型回折格子の製造工程中のシリコン基板を示す斜視図である。
第1実施形態における位相型回折格子DGAの製造方法では、基板としてシリコン基板が用いられる。そして、前記金属形成工程は、前記基板における前記凹部の内表面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記凹部の底部に形成された前記絶縁層の部分を除去する除去工程と、前記深さの方向における設計値の長さとなるように金属を前記凹部内に電鋳法によって形成する電鋳工程とを備えている。第1実施形態における位相型回折格子DGAの製造方法は、より具体的には、以下の各工程を備えている。
本実施形態の位相型回折格子DGAを製造するために、まず、シリコン基板30が用意される(図2(A))。好ましくは、シリコン基板30は、多数キャリアが電子であるn型シリコンである。
ここで、n型シリコンは、伝導体電子を豊富に持つため、シリコンを陰極に接続して負電位を印加しカソード分極をすると、後述の電鋳工程では、メッキ液46といわゆるオーミック接触になり、電流が流れて還元反応が起き易くなり、結果として金属がより析出し易くなる。
次に、シリコン基板30を所定の手法でエッチングして所定の深さの凹部が形成される(凹部形成工程、図2(A)〜(D)、図3(A))。より具体的には、まず、シリコン基板30の主面上にレジスト層33が形成され(レジスト層形成工程)、次に、このレジスト層33をパターニングして前記パターニングした部分のレジスト層33が除去され(パターニング工程)、そして、このレジスト層33を除去した部分に対応するシリコン基板30が、前記法線方向Dzに所定の深さH0までエッチングされる(エッチング工程)。これによってスリット溝SDが形成される。レジスト層とは、エッチングの際に、該エッチングに抗して保護膜として機能する層である。
このレジスト層33は、レジスト層形成工程の後に実施されるエッチング工程のエッチング処理に対し耐性のある材料、例えば、感光性樹脂層(フォトレジスト膜)33dが用いられてもよいが、より前記耐性の高い例えば、シリコン酸化膜33a、金属膜(例えばアルミニウム膜等)33bおよび金属酸化膜(例えばアルミナ膜等)33cが用いられる。耐性のあるとは、エッチング処理において、全くエッチングされないという意味である必要はなく、比較的エッチングされ難いという意味であり、エッチングすべきエッチング対象部分がエッチングされる間、エッチングすべきではない非エッチング対象部分を保護する保護膜として機能するという意味である。これらシリコン酸化膜33a、金属酸化膜33cおよび感光性樹脂層33dは、絶縁性を有し、金属膜33bも酸化することによって金属酸化膜化され、絶縁性を獲得することができる。これらシリコン酸化膜33a、金属膜33b、金属酸化膜33cおよび感光性樹脂層33d、その膜の物性の利用やその膜厚の調整等によって、エッチング工程および後述の除去工程の後に残留可能に形成される。
図1に示す例では、シリコン酸化膜33aが、パターニングされたレジスト層33として用いられる。このシリコン酸化膜33aがパターニングされたレジスト層33として用いられる場合について、凹部形成工程をより具体的に説明すると、次の通りである。
まず、シリコン基板30の主表面にレジスト層33としてのシリコン酸化膜33aが形成される(図2(B))。このシリコン酸化膜33aは、例えば、公知の常套手段である熱酸化法、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)、陽極酸化法およびスパッタ法等の種々の成膜方法によって形成される。例えば、熱酸化法では、シリコン基板30が配置された石英管内に酸素雰囲気(不活性ガスを含んでもよい)または水蒸気が導入され、前記酸素雰囲気または前記水蒸気の気体雰囲気中でシリコン基板30が、前記石英管をヒータによって加熱することで高温加熱され、その表面に所定の厚さ(例えば約200nm等)のシリコン酸化膜33aが形成される。また例えば、陽極酸化法では、シリコン基板30に電源の陽極が接続され、電源の陰極に接続された陰極電極およびシリコン基板30が電解液に浸けられる。そして、通電されると、シリコン基板30の表面に所定の厚さ(例えば約200nm等)のシリコン酸化膜33aが形成される。前記電解液は、酸化力が強く、かつ陽極酸化により生成された酸化膜を溶解しない酸性溶液、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、シュウ酸および燐酸等の溶液が好ましい。陰極電極は、この電解液に対して溶解しない金属、例えば、金(Au)および白金(Pt)等で形成されることが好ましい。シリコン酸化膜33aは、シリコン基板30の少なくとも上面に形成されるが、裏面や側面にも形成されてもよい。このようにレジスト層33としてシリコン酸化膜33aが用いられるので、公知、常套手段の熱酸化法、化学気相成長法、陽極酸化法およびスパッタ法等の種々の成膜方法を用いることができるから、比較的容易にシリコン酸化膜33aを形成することが可能となる。なお、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)およびスパッタ法等の堆積法については、後述の絶縁層形成工程を参考にすることができる。
続いて、シリコン基板30に形成されたシリコン酸化膜33aをパターニングするために、このシリコン酸化膜33a上に感光性樹脂層40が例えばスピンコート等によって形成される(図2(B))。ここで、感光性樹脂層40は、リソグラフィーにおいて使用され、光(可視光だけでなく紫外線等も含む)や電子線等によって溶解性等の物性が変化する材料である。なお、これに限定されるものではなく、例えば、感光性樹脂層40に代え、電子線露光用のレジスト層であってもよい。
続いて、フォトリソグラフィー工程として、リソグラフィー法によって感光性樹脂層40がパターニングされ(図2(C))、このパターニングした部分の感光性樹脂層40が除去される(図2(D))。より具体的には、感光性樹脂層40にリソグラフィーマスク41を押し当てて、感光性樹脂層40にリソグラフィーマスク41を介して紫外線42が照射され、感光性樹脂層40がパターン露光され、現像される(図2(C))。そして、露光されなかった部分(あるいは露光された部分)の感光性樹脂層40が除去される(図2(D))。
続いて、パターニングされた感光性樹脂層40をマスクに、エッチングによって感光性樹脂層40の除去された部分のシリコン酸化膜33aが除去されてシリコン酸化膜33aがパターニングされる(図3(A))。より具体的には、例えば、CHFガスの反応性リアクティブエッチング(RIE)によってシリコン酸化膜33aがパターニングされる。また例えば、フッ酸のウェットエッチングによってシリコン酸化膜33aがパターニングされる。このパターニング工程におけるレジスト層33としてのシリコン酸化膜33aのエッチングは、他のエッチング方法であってもよい。
そして、次に、ドライエッチング法によって感光性樹脂層40およびレジスト層33のシリコン酸化膜33aを除去した部分に対応するシリコン基板30が、前記法線方向Dzに所定の深さH0までエッチングされる(図3(B)、エッチング工程)。これによってスリット溝SDが形成される。なお、図5には、エッチング工程後におけるシリコン基板30の一構造例が示されており、この場合では、図3(B)には、図5に示すAA’線でのこのシリコン基板30の断面が示されている。
このエッチング工程後にDxDz面に沿って残ったシリコン基板30の板状部分(層状部分、壁部)32は、後述の電鋳工程によって形成された金属部分12b1の実測値に合わせて設計値の位相差となるように削り取られてその厚さが調整されるから、前記壁部32の厚さ(長さ)を決める前記所定の深さH0は、金属部分12b1の設計値に応じて前記壁部32に削りしろが存在するように適宜に設定される。好ましくは、前記所定の深さH0は、シリコンと空気または真空とで位相型回折格子DGAを形成した場合における前記シリコンの設計値の厚さである。このよう前記所定の深さH0を設定することにより、後述の調整工程でシリコン基板30の厚さが調整されるので、シリコンと空気または真空とで位相型回折格子を形成した場合におけるいわゆる斜め入射による機能劣化を低減することが可能となる。
より具体的には、パターニングされた感光性樹脂層40およびレジスト層33をマスクとして、シリコン基板30における表面から所定の深さH0まで、ICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングでシリコン基板30がエッチングされる。なお、このICPドライエッチングによって感光性樹脂層40は、除去される。ただし、上述したように、レジスト層33として感光性樹脂層33dが用いられる場合には、このエッチング工程後にも残留する厚さで感光性樹脂層33dが形成される。なお、このエッチング工程において、レジスト層33が若干エッチングされてもよい。
このICPドライエッチングは、高アスペクト比で垂直なエッチングができるため、好ましくは、ICP装置によるASEプロセスである。このASE(Advanced Silicon Etch)プロセスとは、SFプラズマ中のFラジカルとFイオンによるRIE(反応性イオンエッチング)によってシリコン基板のエッチングを行う工程と、Cプラズマ中のCFラジカルおよびそれらのイオンの重合反応によって、テフロン(登録商標)に近い組成を有するポリマー膜を壁面に堆積させて保護膜として作用させる工程とを繰り返し行うものである。また、高アスペクト比でより垂直なエッチングができるため、より好ましくは、ボッシュ(Bosch)プロセスのように、SFプラズマがリッチな状態と、Cプラズマがリッチな状態とを交互に繰り返すことで、側壁保護と底面エッチングとを交互に進行させてもよい。なお、ドライエッチング法は、ICPドライエッチングに限定するものではなく、他の手法であってもよい。例えば、いわゆる、並行平板型リアクティブイオンエッチング(RIE)、磁気中性線プラズマ(NLD)ドライエッチング、化学支援イオンビーム(CAIB)エッチングおよび電子サイクロトロン共鳴型リアクティブイオンビーム(ECRIB)エッチング等のエッチング技術であっても良い。
このエッチングされてDxDy面に沿って残ったシリコン基板30の板状部分(基部)31が第1シリコン部分11となる。
次に、シリコン基板30におけるスリット溝SDを形成した主面側の表面全体に、所定の成膜法によって、後述の電鋳工程の電鋳法に対し絶縁性を有するように所定の厚さの絶縁層34が形成される(図3(C)、絶縁層形成工程)。絶縁層34は、例えば、公知の常套手段である熱酸化法、陽極酸化法および堆積法等の種々の成膜方法によって形成される。堆積法は、例えば、化学気相成長法、スパッタ法および真空蒸着法等である。絶縁層34は、例えば、シリコン酸化膜34aおよび金属酸化膜(例えばアルミナ膜等)34b等である。なお、この絶縁層34は、シリコン基板30の裏面や側面にも形成されてもよい。
より具体的には、シリコン基板30におけるスリット溝SDを形成した主面側の表面全体に、化学気相成長法(CVD法)によって絶縁層34を堆積して形成する場合には、例えば、有機シランの一種であるテトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane、TEOS)が加温され、キャリアガスによってバブリングされることによってTEOSガスが生成され、このTEOSガスに例えば酸素やオゾン等の酸化ガスおよび例えばヘリウム等の希釈ガスが混合されて原料ガスが生成される。そして、この原料ガスが例えばプラズマCVD装置や常温オゾンCVD装置等のCVD装置に導入され、CVD装置内のシリコン基板30の表面に所定の厚さ(例えば約40nm等)のシリコン酸化膜34aが形成される。ここで、テトラエトキシシランの代わりに、アルミニウムイソプロポキシド(Aluminium isopropoxide)を用いることによって、絶縁層34として所定の厚さ(例えば約30nm等)のアルミナ膜34bがCVD法によって成膜される。このCVD法は、原料ガスの表面化学反応であるため、特別な工夫を行うことなく、構造物内壁(本実施形態ではスリット溝SDの内表面)に緻密な膜を形成することができ、その膜厚も数nm〜数μmまで比較的容易に成膜することができる。
また、シリコン基板30におけるスリット溝SDを形成した主面側の表面全体に、スパッタ法によって絶縁層34を堆積して形成する場合には、例えば、真空チャンバー内に絶縁層34として成膜させたい物質(例えば石英やアルミナ等)のターゲットが設置され、高電圧を印加することによってイオン化されたアルゴン等の希ガス元素(普通はアルゴンを用いる)が前記ターゲットに照射および衝突される。この衝突によって前記ターゲットの表面の原子がはじき飛ばされる(スパッタリングされる)。このはじき飛ばされた原子(スパッタリング粒子)が、前記主面側の表面に到達することで、前記主面側の表面に前記スパッタリング粒子が降り積もって堆積し成膜される。なお、前記スパッタリング粒子を底部BTに到達させて高アスペクトなスリット溝SDの内表面に均一かつ緻密に製膜する場合には、前記ターゲットとシリコン基板30とを100mm程度の所定の距離まで離間することによって、前記スパッタリング粒子の指向性を向上させることが好ましい。また、イオン化されたガスであるアルゴン等の希ガス中に、例えば微量の窒素ガスを混合すると、スリット溝SDの開口付近に窒素による薄い潤滑層のようなものが形成され、その結果、前記スパッタリング粒子を滑り込ませてスリット溝SDの底部BTまでより到達させ易くすることができ、より好ましい。このスパッタ法は、成膜時間を長くしたり、希ガスをイオン化させるための電圧を高くすること等によって、前記スパッタリング粒子の個数を増加させたり、条件を適宜に設定することによって、構造物内壁(本実施形態ではスリット溝SDの内表面)に緻密な膜を形成することができ、その膜厚も数nm〜数μmまで比較的容易に成膜することができる。
また、シリコン基板30におけるスリット溝SDを形成した主面側の表面全体に、真空蒸着法によって絶縁層34を堆積して形成する場合には、真空チャンバー内で絶縁層34として成膜させたい物質 (蒸着源)と対面させるようにシリコン基板30が配置され、蒸着源を加熱することによって発生した気体状態の成膜物質(蒸着物質)が前記主面側の表面に照射される。この蒸着物質が、前記主面側の表面に到達することで、前記主面側の表面に前記蒸着物質が降り積もって堆積し成膜される。真空蒸着法は、通常、10−2〜10−4Pa程度の低気圧下で実施されるため、蒸着物質の平均自由行程は、数10cm〜数10m程度と長く、ほとんど衝突することなくシリコン基板30に到達するため蒸着源から気化した蒸着物質は、極めて良い指向性を有している。このため、比較的高アスペクトなスリット溝SDの内表面を、スリット溝SDの奥深くまで、均一かつ緻密に製することができる。また、真空蒸着法では、蒸着物質の指向性が極めて高いため、スリット溝SDの内側面に成膜し難い場合には、シリコン基板30を蒸着源に対しやや斜めに傾けて側面を含めて1回目の成膜を行い、続けて、前記1回目の成膜とは反対にシリコン基板30を傾けて2回目の成膜を行うことで、スリット溝SDの両側面を成膜することができる。また、さらに緻密で強度の高い絶縁層34を形成するために、真空蒸着中にイオン銃で、数100eV程度のガスイオンを基板に照射するイオンビームアシスト蒸着(Ion-beam Assisted Deposition:IAD )が用いられてもよい。このように真空蒸着法も構造物内壁(本実施形態ではスリット溝SDの内表面)に緻密な膜を形成することができ、その膜厚も数nm〜数μmまで比較的容易に成膜することができる。
なお、熱酸化法および陽極酸化法については、前述の凹部形成工程を参考にすることができる。
ここで、レジスト層33と絶縁層34との材質の点における具体的な組み合わせは、一例として、第1に、レジスト層33がシリコン酸化膜33aであって絶縁層34もシリコン酸化膜34aである第1ケース(シリコン酸化膜33a/シリコン酸化膜34a)、第2に、レジスト層33がシリコン酸化膜33aであって絶縁層34が金属酸化膜(例えばアルミナ膜等)34bである第2ケース(シリコン酸化膜33a/金属酸化膜34b)、第3に、レジスト層33が金属酸化膜(例えばアルミナ膜等)33cであって絶縁層34がシリコン酸化膜34aである第3ケース(金属酸化膜33c/シリコン酸化膜34a)、そして、第4に、レジスト層33が金属酸化膜(例えばアルミナ膜等)33cであって絶縁層34も金属酸化膜(例えばアルミナ膜等)34bである第4ケース(金属酸化膜33c/金属酸化膜34b)である。なお、レジスト層33が金属膜33bである場合には、電鋳工程において壁部32の頂部の絶縁を実現するために、絶縁層形成工程において、金属膜33bは、金属酸化膜化されることが好ましい。そして、前記具体的な組み合わせは、第5に、レジスト層33が感光性樹脂層33dであって絶縁層34がシリコン酸化膜34aである第5ケース(感光性樹脂層33d/シリコン酸化膜34a)、第6に、レジスト層33が感光性樹脂層33dであって絶縁層34が金属酸化膜34bである第6ケース(感光性樹脂層33d/金属酸化膜34b)である。
次に、スリット溝SDの底部BTに形成された絶縁層34の部分が除去される(除去工程、図3(D))。より具体的には、ドライエッチング法のICPドライエッチングによってスリット溝SDの底部BTに形成された絶縁層34の部分が除去される。
ここで、ICPドライエッチングは、垂直指向性の高いので、スリット溝SDの内側側面に形成された絶縁層34(シリコン基板30の壁部32の両壁面(両側面)に形成された絶縁層34)は、スリット溝SDの底部BTに形成された絶縁層34の部分が除去された時点では、絶縁層として機能するために充分な厚さで残る。スリット溝SDの内側側面に形成された絶縁層34は、絶縁性を持つレジスト層33と協働することによって、次の電鋳工程においてシリコン基板30の壁部32に掛かる電圧を遮断する機能(この壁部32を電気的に絶縁する機能)を奏する程度の厚さを確保しつつ、位相差性能にほとんど影響を与えない程度の厚さが望ましく、例えば、10nm〜30nm程度あればよい。製造工程の都合上、絶縁層34の厚さの位相差への影響が無視できない場合は、適宜、絶縁層34の厚さを考慮した上で位相差の設計を行ってもよい。これら各スリット溝SDの内側側面にそれぞれ形成された各絶縁層34(シリコン基板30の壁部32の両壁面(両側面)にそれぞれ形成された各絶縁層34)は、複数の第1光学的距離部分12aと複数の第2光学的距離部分12bとの各間における複数の絶縁層12cとなる。
次に、電鋳法(電気メッキ法)によって、シリコン基板30に電圧を印加して前記スリット溝SDが深さ方向における設計値の長さ(厚さ)を目標に金属で埋められる(金属形成工程(電鋳工程)、図4(A))。より具体的には、シリコン基板30に電源44の陰極が接続され、電源44の陽極に接続された陽極電極45およびシリコン基板30がメッキ液46に浸けられる。なお、シリコン基板30における、電源44の陰極に接続される部分に絶縁性の膜が形成されている場合には、電源44の陰極とシリコン基板30との導通を図るために、その部分が除去される。これによって電鋳によりスリット溝SDの底部におけるシリコン基板30(シリコン基板30の基部31)側から金属が析出し、成長する。
そして、この金属が深さ方向における設計値の長さ(厚さ)になったと推定されるタイミング(電流×経過時間=積算電流量)で、電鋳が終了される。こうしてスリット溝SD内に金属35が形成される(図4(B))。このスリット溝SD内に形成された金属が金属部分12b1となる。この金属は、X線に対し大きな位相変化を生じさせるものが好適に選択され、例えば、原子量が比較的重い元素の金属や貴金属、より具体的には、例えば、金(Au)、プラチナ(白金、Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、インジウム(In)およびニッケル(Ni)等である。
次に、この金属形成工程(電鋳工程)でスリット溝SD内に形成された金属35(金属部分12b1)の深さ方向の長さ(厚さ)が、実際に計測される(計測工程)。例えば、前記金属35の前記長さ(前記厚さ)がレーザ顕微鏡によって実測される。また例えば、X線を照射することによって得られた金属35の透過率からその長さ(厚さ)が求められる。
次に、設計値の位相差を生じさせるように、計測工程で計測された金属35(金属部分12b1)の実際の長さ(厚さ)に応じてシリコン基板30の壁部32に対応する部分における前記深さ方向の長さ(シリコン基板30の厚さ)が調整される(調整工程)。より具体的には、スリット溝SDの壁部32の頂部を被覆しているレジスト層33が適宜なエッチング剤を用いたエッチングによって除去され、続いて、例えばシリコンのエッチングに適したSFガスを用いたICPドライエッチングによってスリット溝SDの壁部32がその頂部から削られて調整される。レジスト層33の除去には、レジスト層33がシリコン酸化膜33aである場合には、例えば、CHFガスのRIEによってこのシリコン酸化膜33aが除去され、レジスト層33がアルミナ膜33bである場合には、例えば、塩素ガスを用いたRIEによってこのアルミナ膜33bが除去され、そして、レジスト層33が感光性樹脂層33dである場合には、例えば、感光性樹脂の種類に応じた適宜な有機溶剤によってこの感光性樹脂層33dが除去される。なお、上述では、シリコン基板30の壁部32のエッチングにICPドライエッチングを用いたが、シリコン基板30が(110)基板であって、<112>方位方向に沿ってスリット溝SDが形成されている場合には、水酸化カリウム(KOH)や水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等のエッチング液を用いたウエットエッチングが用いられてもよい。
ここで、この調整工程におけるシリコン基板30の壁部32の厚さの調整についてより具体的に説明する。図6は、第1実施形態における位相型回折格子の一設計例(実施例)を説明するための図である。図7は、図6に示す設計例に基づいて製造される位相型回折格子の第1態様の製造例を説明するための図である。図8は、図6に示す設計例に基づいて製造される位相型回折格子の第2態様の製造例を説明するための図である。図9は、図6に示す設計例に基づいて製造される位相型回折格子の第3態様の製造例を説明するための図である。図6(A)は、設計された位相型回折格子を示す断面図であり、図7(A)、図8(A)および図9(A)は、それぞれ各態様における製造後の位相型回折格子を示す断面図である。図6(B)、図7(B)、図8(B)および図9(B)は、金(Au)で形成した金属部分12b1の厚さとシリコン基板30の壁部32の厚さとの関係を示す図である。これら図6(B)、図7(B)、図8(B)および図9(B)に示す前記関係は、28keVのX線に適用される、シリコン、金および空気で格子を構成したπ/2型位相型回折格子の場合について求められた。実線は、設計値を示し、各破線は、前記設計値に対して±10%の誤差を含む場合の各値を示し、各破線間は、前記設計値に対して許容される範囲を示す。これら図6(B)、図7(B)、図8(B)および図9(B)において、縦軸のシリコンの厚さがプラス(+)である領域は、第1光学的距離部分がシリコンのみで形成されるとともに第2光学的距離部分が金および空気で形成される場合、あるいは、第1光学的距離部分がシリコンおよび空気で形成されるとともに第2光学的距離部分が金のみで形成される場合、に対応し、縦軸のシリコンの厚さがマイナス(−)である領域は、第1光学的距離部分が空気のみで形成されるとともに第2光学的距離部分が金およびシリコンで形成される場合に対応する。すなわち、これら図6(B)、図7(B)、図8(B)および図9(B)では、シリコンと金との界面のレベルが厚さの基準とされている。縦軸のシリコンの厚さがマイナス(−)である領域では、シリコンの厚さは、そのマイナス値の絶対値となる。図10は、シリコン、金および空気の3個の光学的要素によって位相型回折格子を製造する場合におけるシリコン、金および空気の各厚さを示す図である。
図6に示す例では、位相型回折格子DGAは、厚さ5μmのシリコンで第1光学的距離部分12aを形成するように設計された。この場合には、図6(B)から分かるように、第2光学的距離部分12bの金属部分12b1は、長さ(厚さ)3.5μmの金(Au)となり、第2光学的距離部分12bの空気部分12b2の長さ(厚さ)は、第1光学的距離部分12aのシリコンの長さ(厚さ)から第2光学的距離部分12bの金属部分12b1の長さ(厚さ)を差し引いた1.5μmとなる。
このような設計諸元に対し、電鋳工程(金属形成工程)において形成される任意の金の長さ(厚さ)に対処可能とするために、凹部形成工程で形成されるスリット溝SDの前記所定の深さH0は、シリコンと空気とで格子を形成する場合に対応する、金の長さ(厚さ)が0μmである場合におけるシリコンの長さ(厚さ)以上であり、図6(B)から18μm以上であればよい。このため、前記凹部形成工程では、シリコン基板30が18μmの深さでエッチングされ、深さ18μmのスリット溝SDが形成される。電鋳工程では、設計値の3.5μmの長さ(厚さ)を目標にスリット溝SDが金で埋められる。そして、電鋳工程が終了されると計測工程が行われ、金の長さ(厚さ)が実測される。その結果は、金の長さ(厚さ)が許容誤差を超えて長い(厚い)第1の場合、金の長さ(厚さ)が許容誤差を超えて短く(薄く)かつ図6(B)でシリコンの長さ(厚さ)がプラス(+)である領域の第2の場合、金の長さ(厚さ)が許容誤差を超えて短く(薄く)かつ図6(B)でシリコンの長さ(厚さ)がマイナス(−)である領域の第3の場合、そして、金の長さ(厚さ)が許容誤差内である第4の場合がある。なお、金の長さ(厚さ)が許容誤差を超えて短く(薄く)かつ図6(B)でシリコンの長さ(厚さ)が0である領域の場合は、前記第2の場合および前記第3の場合のうちのいずれかに含まれる。
まず、前記第1の場合では、例えば、金35の長さ(厚さ)が実測値4μmであったとすると、図7(B)から分かるように、シリコン基板30の壁部32の長さ(厚さ)は、8.3μmである。そこで、調整工程において、シリコン基板30の壁部32の頂部から削り取られ、設計値の位相差を生じさせるように、計測工程で計測された金35の実際の長さ(厚さ)4μmに応じて、シリコン基板30の壁部32の長さ(厚さ)が、8.3μmに調整される。この結果、図7(A)に示すような長さ(厚さ)4μmの金35および長さ(厚さ)4.3μmの空気と長さ(厚さ)8.3μmのシリコンの壁部32とで構成された格子を持つ位相型回折格子DGAが作られ、この位相型回折格子DGAは、28keVのX線に対し第1および第2光学的距離部分間において設計値通りにπ/2だけ位相を変化させる。
また、前記第2の場合では、例えば、金35の長さ(厚さ)が実測値3.1μmであったとすると、図8(B)から分かるように、シリコン基板30の壁部32の長さ(厚さ)は、2.4μmである。そこで、調整工程において、シリコン基板30の壁部32の頂部から削り取られ、設計値の位相差を生じさせるように、計測工程で計測された金35の実際の長さ(厚さ)3.1μmに応じて、シリコン基板30の壁部32の長さ(厚さ)が、2.4μmに調整される。この結果、図8(A)に示すような長さ(厚さ)3.1μmの金35と長さ(厚さ)0.7μmの空気と長さ(厚さ)2.4μmのシリコンの壁部32とで構成された格子を持つ位相型回折格子DGAが作られ、この位相型回折格子DGAは、28keVのX線に対し第1および第2光学的距離部分間において設計値通りにπ/2だけ位相を変化させる。
また、前記第3の場合では、例えば、金35の長さ(厚さ)が実測値2.5μmであったとすると、図9(B)から分かるように、シリコン基板30の壁部32の長さ(厚さ)は、−1.6μmである。そこで、調整工程において、シリコン基板30の壁部32の頂部から削り取られ、設計値の位相差を生じさせるように、計測工程で計測された金35の実際の長さ(厚さ)2.5μmに応じて、シリコン基板30の壁部32の長さ(厚さ)が、−1.6μmに調整される。すなわち、シリコン基板30の壁部32を全て削り取った後に、さらに、シリコン基板30の壁部32があった領域部分が深さ1.6μmでエッチングされ、削り取られる。この場合、金35がエッチングマスクとなって、このような削り取りが可能となる。この結果、図9(A)に示すような長さ(厚さ)4.1μmの空気と長さ(厚さ)2.5μmの金と長さ(厚さ)1.6μmのシリコンとで構成された格子を持つ位相型回折格子DGAが作られ、この位相型回折格子DGAは、28keVのX線に対し第1および第2光学的距離部分間において設計値通りにπ/2だけ位相を変化させる。
なお、前記第4の場合では、許容誤差範囲内であるので、そのままでよいが、さらに、調整工程が行われてもよい。
図10には、シリコン、金および空気の各長さ(各厚さ)の各設計値が示されている。図10の領域Aは、第1光学的距離部分が空気のみであって第2光学的距離部分がシリコンおよび金で形成されている場合の位相型回折格子DGAにおける前記シリコン、前記金および前記空気の各長さ(各厚さ)の各設計値が示されており、図10の領域Bは、第1光学的距離部分が金のみであって第2光学的距離部分が空気およびシリコンで形成されている場合の位相型回折格子DGAにおける前記シリコン、前記金および前記空気の長さ(各厚さ)の各設計値が示されており、そして、図10の領域Cは、第1光学的距離部分がシリコンのみであって第2光学的距離部分が金および空気で形成されている場合の位相型回折格子DGAにおける前記シリコン、前記金および前記空気の長さ(各厚さ)の各設計値が示されている。
シリコンおよび金の屈折率をそれぞれnSiおよびnAuとし、シリコンおよび金の長さ(厚さ)をそれぞれHSiおよびHAuとし、X線の波長をλとし、位相差をN(位相差πの場合はN=1であり、位相差π/2の場合はN=2である)とする場合に、図10の前記領域Aでは、次式1が用いられ、図10の前記領域Bでは、次式2が用いられ、そして、図10の前記領域Cでは、次式3が用いられる。
Si={−(1−nAu)×HAu+(λ/(2×N))}/(1−nSi) ・・・(1)
Si={(1−nAu)×HAu−(λ/(2×N))}/(1−nSi) ・・・(2)
Si={(1−nAu)×HAu+(λ/(2×N))}/(1−nSi) ・・・(3)
これら式1〜式3は、金の長さ(厚さ)が決定された後に、シリコンの長さ(厚さ)を如何に決定するかを示している。なお、28keV(波長0.04nm)のX線に対し、シリコンの屈折率nSiは、0.999999384−i1.2829685e−9であり、金の屈折率nAuは、0.99999596−i2.12384805e−7である。ここで、iは、虚数単位であり、i=−1である。なお、位相差設計には、屈折率の虚部は、関係なく、その実部だけが関係し、その実部だけが位相差設計の計算に用いられる。
以上のような各製造工程を経ることによって、図1に示す構成の位相型回折格子DGAが製造される。
このような位相型回折格子DGAの製造方法では、金属形成工程でスリット溝SD内に形成された金属35における深さ方向の長さ(厚さ)が設計値からずれた場合でも、金属形成工程でスリット溝SD内に形成された金属35における深さ方向の長さ(厚さ)が実測され、この実測結果に基づいて、設計値の位相差を生じさせるように、シリコン基板30の壁部32(スリット溝SDの側壁)に対応する部分における深さ方向の長さが調整され、シリコン基板30の厚さが調整される。このように加工精度のあまい電鋳工程(金属形成工程)の電鋳法によって形成された金属35における深さ方向の長さ(厚さ)における設計値からのズレが、高い加工精度で加工することができるシリコン基板30の加工によって修正される。このように加工精度の高いシリコン基板30の加工で設計値の位相差を実現するので、このような位相型回折格子DGAの製造方法は、より高い加工精度で位相型回折格子DGAを製造することができる。そして、上記位相型回折格子DGAの製造方法は、比較的大きな位相変化を生じさせる例えば金(Au)等の金属35を用いるので、シリコンと空気または真空との組み合わせの位相型回折格子よりも薄い格子で位相型回折格子を製造することができる。したがって、上記位相型回折格子DGAの製造方法は、点光源のX線源が用いられた場合でも、位相型回折格子DGAの周辺部領域におけるいわゆる斜め入射が低減され、位相型回折格子DGAの性能劣化を低減することができる。
また、X線波長帯では、金属の屈折率の実部は、比較的小さいため、例えば、金の長さ(厚さ)で位相差を調整しようとすると、位相差の許容誤差が±10%である場合に、金の長さの許容誤差△HAuは、次式4で表される。例えば、上述の例の28keVのX線用の位相型回折格子の場合では、金の長さの許容誤差△HAuは、±0.27μmであって、比較的小さい。一方、X線波長帯での屈折率の実部が金属のそれよりも比較的大きいシリコンの長さ(厚さ)で位相差を調整しようとすると、位相差の許容誤差が±10%である場合に、シリコンの長さの許容誤差△HSiは、次式5で表される。例えば、上述の例の28keVのX線用の位相型回折格子の場合では、シリコンの許容誤差△HSiは、±1.8μmであって、比較的大きい。上記位相型回折格子DGAの製造方法は、シリコンの長さ(厚さ)を調整することで設計値の位相差を実現するので、この点からも設計値通りの位相差を生じさせる位相型回折格子DGAを製造し易い。
△HAu=±0.1×λ/(2×N×(1−nAu)) ・・・(4)
△HSi=±0.1×λ/(2×N×(1−nSi)) ・・・(5)
また、このような位相型回折格子DGAの製造方法は、シリコン基板30をドライエッチングするので、スリット溝SDにおける幅Wに対する深さHの比(スリット溝SDのアスペクト比=深さH/幅W)の高いスリット溝SDを形成することができる。この結果、このような位相型回折格子DGAの製造方法は、この高アスペクト比のスリット溝SDを金属で埋めることで、高アスペクト比の金属部分12b1を持つ位相型回折格子DGAを製造することができる。そして、電鋳工程で電鋳法によってスリット溝SDを金属で埋める際に、まず、絶縁層形成工程で、絶縁層34が少なくともスリット溝SDの内表面に形成され、そして、除去工程で、スリット溝SDの底部部分BTに形成された絶縁層34の部分が除去される。したがって、電鋳工程の電鋳法に対し電気的な絶縁を確保することができる所定膜厚の例えばシリコン酸化膜(SiO膜)34aやアルミナ膜(Al膜)34b等の絶縁層34を形成することができ、スリット溝SDを構成する壁部であってエッチング工程で残留したシリコン基板30の壁部32(シリコン基板30の各板状部分32)における壁面部分(スリット溝SDの壁面部分(内側側面部分))が絶縁層34によって絶縁状態となるとともに、スリット溝SDの底部が通電可能な状態となる。このため、スリット溝SDの壁面(内側側面)から金属がより確実に析出および成長することがなく、スリット溝SDの底部から金属がより確実に析出し成長する。したがって、このような位相型回折格子DGAの製造方法は、このように金属35がスリット溝SDの底部から選択的に成長するので、金属35内におけるボイドの発生を効果的に抑制することができる。この結果、このような位相型回折格子DGAの製造方法は、電鋳法によって格子の金属部分12b1をより緻密に形成することができる。なお、このような位相型回折格子DGAの製造方法は、このような高アスペクト比、例えば5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上に対応することができ、しかもより緻密な金属部分12b1を形成することができる。
また、本実施形態における位相型回折格子DGAの製造方法は、レジスト層33は、エッチング工程および除去工程の後に残留するように、レジスト層33が形成されているので、スリット溝SDを構成する壁部であってエッチング工程で残留したシリコン基板30の壁部(シリコン基板30の各板状部分32)における頂部(上面)も電鋳工程の電鋳法において絶縁される。このため、絶縁層34は、この残留したレジスト層33と協働することによって、該壁部の、電鋳法に対する絶縁性をより確実に確保することができる。
また、本実施形態における位相型回折格子DGAの製造方法は、エッチング工程にRIE(Reactive Ion Etching、反応性イオンエッチング)を用いるので、いわゆる異方性エッチングを行うことができるから、深さ方向(積層方向)に沿ってシリコン基板30をエッチングすることができ、比較的容易にスリット溝SDを形成することができる。
また、本実施形態における位相型回折格子DGAの製造方法は、ボッシュプロセスによってシリコン基板30がドライエッチングされるので、スリット溝SDの側面がより平坦となり、この結果、高精度な位相型回折格子DGAを形成することができる。特に、位相型回折格子DGAが回折格子として機能する場合には、入射面あるいは出射面がより平坦となるので、好ましい。
次に、別の実施形態について説明する。
(第2実施形態の位相型回折格子)
図11は、第2実施形態における位相型回折格子の構成を示す斜視図である。本実施形態の位相型回折格子DGBは、図11に示すように、第1シリコン部分11と、第1シリコン部分11上に形成された回折格子12Bとを備えて構成される。第1シリコン部分11は、図1に示す第1シリコン部分11と同様であり、図11に示すようにDxDyDzの直交座標系を設定した場合に、DxDy面に沿った板状または層状である。回折格子12Bは、図1に示す複数の絶縁層12cを備えていない点で、図1に示す回折格子12Aと異なるが、この点を除く残余の構成は、図1に示す回折格子12Aと同様である。すなわち、この回折格子12Bは、位相型回折格子であって、入射面と射出面との間に複数の第1光学的距離部分12aと、複数の第2光学的距離部分12b(12b1、12b2)とを備えている。複数の第1光学的距離部分12aは、第1光学的距離h1に対応する第1屈折率n1および第1厚さH1を有して所定の規則に従って配列され、複数の第2光学的距離部分12bは、この第1光学的距離部分12aを通過した例えばX線や光等の電磁波に対して所定の位相差Cを生じさせる第2光学的距離h2に対応する第2屈折率n2および第2厚さH2を有して複数の第1光学的距離部分12aに応じて配列される。
第1光学的距離部分12aは、1個の光学的要素で構成されている。そして、第2光学的距離部分12bは、複数の光学的要素で構成されており、これら複数の光学的要素の各厚さの和は、第2光学的距離部分12bの第2厚さH2に等しく、かつ、これら複数の光学的要素のそれぞれについて求められる屈折率と厚さとの積のそれぞれの和は、第2光学的距離h2に等しい。なお、上述の図11に示す例では、前記第1光学的距離部分の光学的要素は、石英(二酸化シリコン)であり、前記第2光学的距離部分における複数の光学的要素は、金属(例えば金等)および空気(または真空)であるが、図1に示す例と同様な他の態様も可能である。
このような位相差を生じさせる部分が複数の光学的要素から成る位相型回折格子DGBは、上述した、凹部形成工程、金属形成工程、計測工程および調整工程とによって製造される。前記凹部は、1次元格子では、例えば、スリット溝であり、また2次元格子では、柱状穴(柱状孔)等である。以下、前記凹部がスリット溝である1次元の前記位相型回折格子DGBの製造方法について、詳述する。なお、凹部が例えば柱状穴等の他の形状であっても同様である。
(第2実施形態の製造方法)
図12ないし図14は、第2実施形態における位相型回折格子の製造方法を説明するための図である。
第2実施形態における位相型回折格子DGBの製造方法では、基板として前記所定の深さH0に相当する厚さH0を有する石英層50を積層したシリコン基板30であり、前記凹部形成工程は、前記石英層50を前記シリコン基板30が露出するまでエッチングして前記所定の深さH0の凹部を形成するものである。第2実施形態における位相型回折格子DGBの製造方法は、より具体的には、以下の各工程を備えている。
本実施形態の位相型回折格子DGBを製造するために、まず、シリコン基板30および石英基板が用意される(図12(A))。好ましくは、シリコン基板30は、多数キャリアが電子であるn型シリコンである。なお、本実施形態では、このシリコン基板30そのものが第1シリコン部分11となる。
次に、これらシリコン基板30および石英基板50が例えばウェハ直接接合技術によって互いに接合され、前記所定の深さH0に相当する厚さH0となるまで石英基板50が研磨され、前記所定の深さH0に相当する厚さH0を有する石英層50となる(図12(B))。例えば、前記厚さH0は、18μmである。
このウェハ直接接合技術(Wafer Direct Bonding)では、より具体的には、まず、シリコン基板30および石英基板50が表面処理され、それらの接合面が親水化処理される。次に、各基板の前記親水化処理された各接合面が互いに重ね合わされ、貼り合わせられる。この処理は、各接合面にゴミが付着することを防止するために、クリーンルーム内で実施される。そして、接合強度を上げるために、この張り合わされたシリコン基板30および石英基板50が熱処理される。こうしてシリコン基板30と石英基板50との積層基板が形成される。
次に、シリコン基板30上の石英層50を前記シリコン基板30が露出するまで所定の手法でエッチングして所定の深さH0の凹部が形成される(凹部形成工程、図12(C)、図13(A)〜(C))。より具体的には、まず、シリコン基板30上に積層された石英層50をパターニングするために、この石英層50上に感光性樹脂層40が例えばスピンコート等によって形成される(レジスト層形成工程、図12(C))。続いて、リソグラフィー法によって感光性樹脂層40がパターニングされ(図13(A))、このパターニングした部分の感光性樹脂層40が除去される(パターニング工程、図13(B))。より具体的には、感光性樹脂層40にリソグラフィーマスク41を押し当てて、感光性樹脂層40にリソグラフィーマスク41を介して紫外線42が照射され、感光性樹脂層40がパターン露光され、現像される(図13(A))。そして、露光されなかった部分(あるいは露光された部分)の感光性樹脂層40が除去される(図13(B))。続いて、パターニングされた感光性樹脂層40をマスクに、エッチングによって感光性樹脂層40の除去された部分の石英層50が、前記法線方向Dzにシリコン基板30が露出するまでエッチングされて石英層50がパターニングされる(エッチング工程、図13(C))。これによってスリット溝SDが形成される。より具体的には、例えば、CHFガスの反応性リアクティブエッチング(RIE)によって石英層50がパターニングされる。このCHFガスの反応性リアクティブエッチング(RIE)では、シリコンは、エッチングされないので、加工精度の高い所定の深さH0のスリット溝SDが形成される。
この凹部形成工程のエッチング工程後にDxDz面に沿って残った板状(層状、壁部)の石英層50は、後述の電鋳工程によって形成された金属部分12b1の実測値に合わせて設計値の位相差となるように削り取られてその長さ(厚さ)が調整される部分となる。したがって、前記石英層50の厚さ(長さ)H0は、金属部分12b1の設計値に応じて前記板状の石英層50に削りしろが存在するように適宜に設定され、好ましくは、上述のように、前記石英層50の厚さ(長さ)H0は、石英と空気または真空とで位相型回折格子DGBを形成した場合における前記石英の設計値の厚さである。このよう石英層50の厚さH0を設定することにより、後述の調整工程で板状の石英50の長さ(厚さ)が調整されるので、石英と空気または真空とで位相型回折格子を形成した場合におけるいわゆる斜め入射による機能劣化を低減することが可能となる。
次に、電鋳法(電気メッキ法)によって、シリコン基板30に電圧を印加して前記スリット溝SDが深さ方向における設計値の長さ(厚さ)を目標に金属で埋められる(金属形成工程(電鋳工程)、図14(A))。より具体的には、シリコン基板30に電源44の陰極が接続され、電源44の陽極に接続された陽極電極45およびスリット溝SDとしてパターニングされた石英層50を形成したシリコン基板30がメッキ液46に浸けられる。これによって電鋳によりスリット溝SDの底部におけるシリコン基板30(シリコン基板30の基部31)側から金属が析出し、成長する。
そして、この金属が深さ方向における設計値の長さ(厚さ)になったと推定されるタイミング(電流×経過時間=積算電流量)で、電鋳が終了される。こうしてスリット溝SD内に金属35が形成される(図14(B))。このスリット溝SD内に形成された金属が金属部分12b1となる。この金属は、X線に対し大きな位相変化を生じさせるものが好適に選択される。
次に、この金属形成工程(電鋳工程)でスリット溝SD内に形成された金属35(金属部分12b1)の深さ方向の長さ(厚さ)が、実際に計測される(計測工程)。例えば、前記金属35の前記長さ(前記厚さ)がレーザ顕微鏡によって実測される。また例えば、X線を照射することによって得られた金属35の透過率からその長さ(厚さ)が求められる。
次に、設計値の位相差を生じさせるように、計測工程で計測された金属35(金属部分12b1)の実際の長さ(厚さ)に応じて板状の石英層50に対応する部分における前記深さ方向の長さ(石英層50を積層したシリコン基板30の厚さ)が調整される(調整工程)。より具体的には、第1実施形態で説明した第1ないし第3態様に応じた調整で、例えば石英のエッチングに適したCHFガスを用いたICPドライエッチングによってスリット溝SDの壁部を形成する板状の石英層50がその頂部から削られて調整される。例えば、実測の結果、金属35(金属部分12b1)の実際の長さ(厚さ)が4.3μmであった場合には、この調整工程において、板状の石英層50が長さ(厚さ)10.8μmとなるように、長さ(厚さ)7.2μmだけ削られる。
以上のような各製造工程を経ることによって、図11に示す構成の位相型回折格子DGBが製造される。
このような位相型回折格子DGBの製造方法では、金属形成工程でスリット溝SD内に形成された金属35における深さ方向の長さ(厚さ)が設計値からずれた場合でも、金属形成工程でスリット溝SD内に形成された金属35における深さ方向の長さ(厚さ)が実測され、この実測結果に基づいて、設計値の位相差を生じさせるように、板状の石英層50(スリット溝SDの側壁)に対応する部分における深さ方向の長さが調整され、石英層50を形成したシリコン基板30の厚さが調整される。このように加工精度のあまい電鋳工程(金属形成工程)の電鋳法によって形成された金属35における深さ方向の長さ(厚さ)における設計値からのズレが、高い加工精度で加工することができる石英層50やシリコン基板30の加工によって修正される。このように加工精度の高い石英層50およびシリコン基板30の加工で設計値の位相差を実現するので、このような位相型回折格子DGBの製造方法は、より高い加工精度で位相型回折格子DGBを製造することができる。そして、上記位相型回折格子DGBの製造方法は、比較的大きな位相変化を生じさせる例えば金(Au)等の金属35を用いるので、シリコンと空気または真空との組み合わせの位相型回折格子よりも薄い格子で位相型回折格子を製造することができる。したがって、上記位相型回折格子DGBの製造方法は、点光源のX線源が用いられた場合でも、位相型回折格子DGBの周辺部領域におけるいわゆる斜め入射が低減され、位相型回折格子DGBの性能劣化を低減することができる。また、上記位相型回折格子DGBの製造方法は、許容誤差の比較的大きい石英層50およびシリコン基板30の長さ(厚さ)を調整することで設計値の位相差を実現するので、この点からも設計値通りの位相差を生じさせる位相型回折格子DGBを製造し易い。
次に、別の実施形態について説明する。
(第3実施形態)
また、上述の第1実施形態では、除去工程によってスリット溝SDの底部BTに形成された絶縁層34の部分が除去されたが、前記除去工程に代え除去広表面積化工程が用いられ、凹部の一例であるスリット溝SDの底部BTに形成された絶縁層34の部分を除去するとともに、前記スリット溝SDの底部BTにおけるシリコン基板30をさらにエッチングすることによって前記スリット溝SDの底部分の表面積が該エッチング前より広くされてもよい。
また、上述の第2実施形態では、凹部形成工程によってシリコン基板30上の石英層50を前記シリコン基板30が露出するまで所定の手法でエッチングして所定の深さH0の凹部が形成されたが、その後、さらに、スリット溝SDの底部におけるシリコン基板30をさらにエッチングすることによってスリット溝SDの底部分の表面積を該エッチング前より広くする広表面積化工程が実施されてもよい。
ここでは、上述の第1実施形態における除去工程に代えて除去広表面積化工程が用いられる場合について説明するが、上述の第2実施形態における凹部形成工程と電鋳法の金属形成工程との間に、後述の広表面積化工程が実施されることで、上述の第2実施形態に対しても後述と同様な第3実施形態が実施可能である。
図15は、第3実施形態における位相型回折格子の他の製造方法を説明するための図である。図16は、第3実施形態における位相型回折格子の他の構成を示す斜視図である。
この第3実施形態の製造方法では、まず、シリコン基板30が用意され、続いて、上述の第1実施形態の製造方法と同様に、凹部形成工程のレジスト層形成工程、パターニング工程、エッチング工程および絶縁層形成工程がそれぞれ実施される(図2(A)〜図2(D)、図3(A)、図15(A)(図3(B)))。続いて、上述の製造方法における除去工程に代え、図15(B)に示す除去広面積化工程が実施される。
この除去広面積化工程では、スリット溝SDの底部BTに形成された絶縁層34の部分が除去されるとともに、スリット溝SDの底部BTにおけるシリコン基板30の基部31を所定の深さでさらにエッチングすることによってスリット溝SDの底部分の表面積が該エッチング前より広くされる(図15(B)、除去広表面積化工程)。すなわち、まず、スリット溝SDの底部BTに形成された絶縁層34の部分が除去され(図3(D)に示す上述の除去工程と同様の工程)、続いて、スリット溝SDの底部BTにおけるシリコン基板30の基部31が所定の深さでさらにエッチングされる(図15(B)、広表面積化工程)。この広表面積化工程によって、スリット溝SDの底部分の表面積が該エッチング前より広くなる。
より具体的には、前記除去工程では、CHFガスを用いたICPドライエッチングによってスリット溝SDの底部BTに形成された絶縁層34の部分がエッチングされ、除去される。そして、前記広表面積化工程では、ガスをシリコンのエッチングに適したガスに変え、ICPドライエッチングによってスリット溝SDの底部BTにおけるシリコン基板30の基部31が所定の深さでさらにエッチングされる(図15(B))。例えば、ボッシュ(Bosch)プロセスのように、SFプラズマがリッチな状態と、Cプラズマがリッチな状態とを交互に繰り返すICPドライエッチングが行われる。
なお、上述では、除去工程と広表面積化工程とでは、エッチング対象に適したガスを用いるために、ガス種を変えたが、スリット溝SDの底部BTに形成された絶縁層34の厚さが比較的薄い場合には、広表面積化工程で用いるシリコンのエッチングに適したガスが除去工程に用いられてもよい。前記シリコンのエッチングに適したガスであっても、イオン化した分子が前記絶縁層34にイオン衝突することによって、前記シリコンのエッチングに適したガスが持っている運動エネルギーで前記絶縁層34を徐々に除去することができる。逆に、除去工程に用いるガスがそのまま広表面積化工程に用いられてもよく、徐々にシリコンをエッチングすることができる。このように除去工程と広表面積化工程とで同じガスを用いることによって、各工程間でガス種を変更する必要がないので、工程が簡略化される。
続いて、この広表面積化されたシリコン基板30を用いて、上述の製造方法と同様に、金属形成工程(電鋳工程、図15(C))、計測工程および調整工程が実施される。
以上のような各製造工程を経ることによって、図16に示す位相型回折格子DGcが製造される。より詳しくは、この図16に示す位相型回折格子DGCは、図1に示す位相型回折格子DGAの第1シリコン部分11と同様の第1シリコン部分11と、第1シリコン部分11上に形成された格子12Cとを備えて構成される。格子12Cは、大略図1に示す位相型回折格子DGAの格子12Aと同様に、互いに交互に平行に配設された複数の第1光学的距離部分12aおよび複数の第2光学的距離部分12b’と、複数の第1光学的距離部分12aと複数の第2光学的距離部分12b’との各間にそれぞれ配設された複数の絶縁層12cとを備えているが、この図16に示す位相型回折格子DGCでは、複数の第2光学的距離部分12b’の金属部分12b1’は、互いに隣接する第1光学的距離部分12aに挟まれた、DxDz面に沿った板状または層状の格子部分12b1aと、この格子部分12b1aの一方端から第1シリコン部分11内へ延びる成長始端部分12b1bとを備えている。この成長始端部分12b1bが、前記広表面積化工程で形成された成長始端凹部AP内に、電鋳工程で形成された金属35の部分である。
なお、第2実施形態の製造方法に対する第3実施形態の製造方法によって製造される位相型回折格子DGCは、上述の複数の絶縁層12cを備えない点を除き、図16に示す位相型回折格子DGCと同様である。
このような位相型回折格子DGCの製造方法では、第1実施形態に対する第3実施形態において、除去広表面積化工程で、スリット溝SDの底部BTの絶縁層34が除去されるだけでなく、スリット溝SDの底部BTに露出したシリコン基板30がさらにエッチングされ、前記スリット溝SDの底部分の表面積が該エッチング前より広くされるので、シリコン基板30が露出する面積がより広くなる。あるいは、第2実施形態に対する第3実施形態において、広面積化工程で、スリット溝SDの底部BTに露出したシリコン基板30がさらにエッチングされ、前記スリット溝SDの底部分の表面積が該エッチング前より広くされるので、シリコン基板30が露出する面積がより広くなる。この結果、電鋳工程(金属形成工程)における通電面積がより広くなり、各スリット溝SDにおける金属35の成長速度のばらつきが低減される。したがって、このような位相型回折格子DGCの製造方法は、電鋳法によって各スリット溝SDにおける金属35の成長長の略均一な位相型回折格子DGCを製造することができる。
なお、上述の実施形態では、スリット溝SDの開口面側におけるシリコン基板30の壁部32(スリット溝SDの側壁)の頂部が削られることによって、シリコン基板30の壁部32(スリット溝SDの側壁)の長さ(厚さ)が調整されたが、これに代え、または、これと合わせて、シリコン基板30の壁部32がある領域に対応して対向する前記シリコン基板の表面部分が削られて調整されてもよい。すなわち、スリット溝SDの底面側における、シリコン基板30の壁部32(スリット溝SDの側壁)がある領域に対応する部分が削られて調整されてもよい。
また、上述の実施形態では、第2光学的距離部分12bの金属部分12b1、12b1’は、単層の金属であったが、複数の金属を積層した多層構造であってもよい。例えば、金とシリコン基板30との間に下地層としてクロム(Cr)が設けられ、第2光学的距離部分12bの金属部分12b1、12b1’は、クロムの層上に金を積層したCr/Auの多層構造であってもよい。また例えば、金の上に調整工程における前記金の保護膜としてクロムが設けられ、第2光学的距離部分12bの金属部分12b1、12b1’は、金の層上にクロムを積層したAu/Crの多層構造であってもよい。また例えば、これらの組み合わせ、第2光学的距離部分12bの金属部分12b1、12b1’は、Cr/Au/Crの多層構造であってもよい。なお、この段落において、“A/B”は、A層上にB層が形成され、A層上にB層が積層されていることを意味する。
また、上述の実施形態において、第2光学的距離部分12bの空気部分12b2には、例えばPMMA等の樹脂が前記調整工程後に充填され、樹脂部分とされてもよい。
また、上述の実施形態では、回折格子DGA、DGB、DGCは、一次元周期構造であったが、これに限定されるものではない。回折格子DGA、DGB、DGCは、例えば、二次元周期構造の回折格子であってもよい。例えば、二次元周期構造の回折格子DGA、DGB、DGCは、回折部材となるドットが線形独立な2方向に所定の間隔を空けて等間隔に配設されて構成される。このような二次元周期構造の回折格子は、平面に高アスペクト比の穴を二次元周期で空け、上述と同様に、その穴を金属で埋める、あるいは、平面に高アスペクト比の円柱を二次元周期で立設させ、上述と同様に、その周りを金属で埋めることによって形成することができる。
(タルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計)
上記実施形態の位相型回折格子の製造方法は、その機能劣化を低減しつつ加工精度のより高い位相型回折格子DGA、DGB、DGCを製造することができるので、この位相型回折格子DGA、DGB、DGCは、X線用のタルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計に好適に用いることができる。この位相型回折格子DGA、DGB、DGCを用いたX線用タルボ干渉計およびX線用タルボ・ロー干渉計について説明する。
なお、以下のX線用タルボ干渉計およびX線用タルボ・ロー干渉計の説明および後述のX線撮像装置の説明において、位相型回折格子DGは、記載の簡略化のため、位相型回折格子DGA、DGB、DGCを含むものとする。
図17は、実施形態におけるX線用タルボ干渉計の構成を示す斜視図である。図18は、実施形態におけるX線用タルボ・ロー干渉計の構成を示す上面図である。
実施形態のX線用タルボ干渉計100Aは、図17に示すように、所定の波長のX線を放射するX線源101と、X線源101から照射されるX線を回折する位相型の第1回折格子102と、第1回折格子102により回折されたX線を回折することにより画像コントラストを形成する振幅型の第2回折格子103とを備え、第1および第2回折格子102、103がX線タルボ干渉計を構成する条件に設定される。そして、第2回折格子103により画像コントラストの生じたX線は、例えば、X線を検出するX線画像検出器105によって検出される。そして、このX線用タルボ干渉計100Aでは、第1回折格子102が前記位相型回折格子DGである。タルボ干渉計100Aを構成する前記条件は、上述した式1および式2によって表される。
このような構成のX線用タルボ干渉計100Aでは、X線源101から第1回折格子102に向けてX線が照射される。この照射されたX線は、第1回折格子102でタルボ効果を生じ、タルボ像を形成する。このタルボ像が第2回折格子103で作用を受け、モアレ縞の画像コントラストを形成する。そして、この画像コントラストがX線画像検出器105で検出される。
ここで、X線源101と第1回折格子102との間に被検体Sが配置されると、前記モアレ縞は、被検体Sによって変調を受け、この変調量が被検体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。このため、モアレ縞を解析することによって被検体Sおよびその内部の構造が検出される。
このような図17に示す構成のタルボ干渉計100Aでは、X線源101は、単一の点光源であり、このような単一の点光源は、単一のスリット(単スリット)を形成した単スリット板をさらに備えることで構成することができ、X線源101から放射されたX線は、前記単スリット板の前記単スリットを通過して被写体Sを介して第1回折格子102に向けて放射される。前記スリットは、一方向に延びる細長い矩形の開口である。
一方、タルボ・ロー干渉計100Bは、図18に示すように、X線源101と、マルチスリット板104と、第1回折格子102と、第2回折格子103とを備えて構成される。すなわち、タルボ・ロー干渉計100Bは、図17に示すタルボ干渉計100Aに加えて、X線源101のX線放射側に、複数のスリットを並列に形成したマルチスリット板104をさらに備えて構成される。このタルボ・ロー干渉計100Bでは、このマルチスリット板104を用いることによって、マルチスリット板104の各スリットがそれぞれX線の点光源となるから、タルボ干渉計100Aよりも、被写体Sを介して第1回折格子102に向けて放射されるX線量が増加する。このため、このタルボ・ロー干渉計100Bは、より良好なモアレ縞が得られる。
このようなタルボ干渉計100Aやタルボ・ロー干渉計100Bに用いられる第1回折格子102、第2回折格子103およびマルチスリット板104の一例を挙げると、諸元は、次の通りである。なお、これらの例では、第2シリコン部分12aと金属部分12bとは、同幅に形成され、金属部分12bは、金によって形成される。
一例として、X線源101またはマルチスリット板104から第1回折格子102までの距離R1が2mであって、X線源101またはマルチスリット板104から第1回折格子102までの距離R2が2.5mである場合では、第1回折格子102は、そのピッチPが5μmであり、その金属部分12bの厚さが3μmであり、第2回折格子103は、そのピッチPが6μmであり、その金属部分12bの厚さが100μmであり(アスペクト比=100/3)、そして、マルチスリット板104は、そのピッチPが30μmであり、その金属部分12bの厚さが100μmである。
また、他の一例として、X線源101またはマルチスリット板104から第1回折格子102までの距離R1が1.8mであって、X線源101またはマルチスリット板104から第1回折格子102までの距離R2が2.5mである場合では、第1回折格子102は、そのピッチPが7μmであり、その金属部分12bの厚さが3μmであり、第2回折格子103は、そのピッチPが10μmであり、その金属部分12bの厚さが100μmであり(アスペクト比=100/5)、そして、マルチスリット板104は、そのピッチPが20μmであり、その金属部分12bの厚さが100μmである。
(X線撮像装置)
前記位相型回折格子DGは、種々の光学装置に利用することができるが、例えば、X線撮像装置に好適に用いることができる。特に、X線タルボ干渉計を用いたX線撮像装置は、X線を波として扱い、被写体を通過することによって生じるX線の位相シフトを検出することによって、被写体の透過画像を得る、位相コントラスト法の一つであり、被写体によるX線吸収の大小をコントラストとした画像を得る吸収コントラスト法に較べて、約1000倍の感度改善が見込まれ、それによってX線照射量が例えば1/100〜1/1000に軽減可能となるという利点がある。本実施形態では、前記位相型回折格子DGを用いたX線タルボ干渉計を備えたX線撮像装置について説明する。
図19は、実施形態におけるX線撮像装置の構成を示す説明図である。図19において、X線撮像装置200は、X線撮像部201と、第2回折格子202と、第1回折格子203と、X線源204とを備え、さらに、本実施形態では、X線源204に電源を供給するX線電源部205と、X線撮像部201の撮像動作を制御するカメラ制御部206と、本X線撮像装置200の全体動作を制御する処理部207と、X線電源部205の給電動作を制御することによってX線源204におけるX線の放射動作を制御するX線制御部208とを備えている。
X線源204は、X線電源部205から給電されることによって、X線を放射し、第1回折格子203へ向けてX線を照射する装置である。X線源204は、例えば、X線電源部205から供給された高電圧が陰極と陽極との間に印加され、陰極のフィラメントから放出された電子が陽極に衝突することによってX線を放射する装置である。
第1回折格子203は、X線源204から放射されたX線によってタルボ効果を生じる透過型の回折格子である。第1回折格子203は、例えば、上述した実施形態における位相型回折格子DGの製造方法によって製造された位相型回折格子DGである。第1回折格子203は、タルボ効果を生じる条件を満たすように構成されており、X線源204から放射されたX線の波長よりも充分に粗い格子、例えば、格子定数(回折格子の周期)dが当該X線の波長の約20以上である位相型回折格子である。
第2回折格子202は、第1回折格子203から略タルボ距離L離れた位置に配置され、第1回折格子203によって回折されたX線を回折する透過型の振幅型回折格子である。
これら第1および第2回折格子203、202は、上述の式1および式2によって表されるタルボ干渉計を構成する条件に設定されている。
X線撮像部201は、第2回折格子202によって回折されたX線の像を撮像する装置である。X線撮像部201は、例えば、X線のエネルギーを吸収して蛍光を発するシンチレータを含む薄膜層が受光面上に形成された二次元イメージセンサを備えるフラットパネルディテクタ(FPD)や、入射フォトンを光電面で電子に変換し、この電子をマイクロチャネルプレートで倍増し、この倍増された電子群を蛍光体に衝突させて発光させるイメージインテンシファイア部と、イメージインテンシファイア部の出力光を撮像する二次元イメージセンサとを備えるイメージインテンシファイアカメラなどである。
処理部207は、X線撮像装置200の各部を制御することによってX線撮像装置200全体の動作を制御する装置であり、例えば、マイクロプロセッサおよびその周辺回路を備えて構成され、機能的に、画像処理部271およびシステム制御部272を備えている。
システム制御部272は、X線制御部208との間で制御信号を送受信することによってX線電源部205を介してX線源204におけるX線の放射動作を制御すると共に、カメラ制御部206との間で制御信号を送受信することによってX線撮像部201の撮像動作を制御する。システム制御部272の制御によって、X線が被写体Sに向けて照射され、これによって生じた像がX線撮像部201によって撮像され、画像信号がカメラ制御部206を介して処理部207に入力される。
画像処理部271は、X線撮像部201によって生成された画像信号を処理し、被写体Sの画像を生成する。
次に、本実施形態のX線撮像装置の動作について説明する。被写体Sが例えばX線源204を内部(背面)に備える撮影台に載置されることによって、被写体SがX線源204と第1回折格子203との間に配置され、X線撮像装置200のユーザ(オペレータ)によって図略の操作部から被写体Sの撮像が指示されると、処理部207のシステム制御部272は、被写体Sに向けてXを照射すべくX線制御部208に制御信号を出力する。この制御信号によってX線制御部208は、X線電源部205にX線源204へ給電させ、X線源204は、X線を放射して被写体Sに向けてX線を照射する。
照射されたX線は、被写体Sを介して第1回折格子203を通過し、第1回折格子203によって回折され、タルボ距離L(=Z1)離れた位置に第1回折格子203の自己像であるタルボ像Tが形成される。
この形成されたX線のタルボ像Tは、第2回折格子202によって回折され、モアレを生じてモアレ縞の像が形成される。このモアレ縞の像は、システム制御部272によって例えば露光時間などが制御されたX線撮像部201によって撮像される。
X線撮像部201は、モアレ縞の像の画像信号をカメラ制御部206を介して処理部207へ出力する。この画像信号は、処理部207の画像処理部271によって処理される。
ここで、被写体SがX線源204と第1回折格子203との間に配置されているので、被写体Sを通過したX線には、被写体Sを通過しないX線に対し位相がずれる。このため、第1回折格子203に入射したX線には、その波面に歪みが含まれ、タルボ像Tには、それに応じた変形が生じている。このため、タルボ像Tと第2回折格子202との重ね合わせによって生じた像のモアレ縞は、被写体Sによって変調を受けており、この変調量が被写体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。したがって、モアレ縞を解析することによって被写体Sおよびその内部の構造を検出することができる。また、被写体Sを複数の角度から撮像することによってX線位相CT(computed tomography)により被写体Sの断層画像が形成可能である。
そして、本実施形態のX線撮像装置200では、タルボ干渉計を構成する第1回折格子201に、機能劣化が低減され加工精度がより高い位相型回折格子DGを用いるので、より確実に回折され、より鮮明なX線の像を得ることができる。
なお、上述のX線撮像装置200は、X線源204、第1回折格子203および第2回折格子202によってタルボ干渉計を構成したが、X線源204のX線放射側にマルチスリット板をさらに配置することで、タルボ・ロー干渉計を構成してもよい。このようなタルボ・ロー干渉計とすることで、単スリットの場合よりも被写体Sに照射されるX線量を増加することができ、より良好なモアレ縞が得られ、より高精度な被写体Sの画像が得られる。
また、上述のX線撮像装置200では、X線源204と第1回折格子203との間に被写体Sが配置されたが、第1回折格子203と第2回折格子202との間に被写体Sが配置されてもよい。
また、上述のX線撮像装置200では、X線の像がX線撮像部201で撮像され、画像の電子データが得られたが、X線フィルムによって撮像されてもよい。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
DG、DGA、DGB,DGC 位相型回折格子
SD スリット溝
11 第1シリコン部分
12A、12B、12C 格子
12a 第1光学的距離部分
12b、12b’ 第2光学的距離部分
30 シリコン基板
31 シリコン基板の基部
32 シリコン基板の壁部
33、33a、33b、33c、33d レジスト層
34、34a、34b 絶縁層
50 石英層
100A X線用タルボ干渉計
100B X線用タルボ・ロー干渉計
102、203 第1回折格子
103、202 第2回折格子
104 マルチスリット板
200 X線撮像装置

Claims (14)

  1. 基板をエッチングして所定の深さの凹部を形成する凹部形成工程と、
    前記深さの方向における設計値の長さとなるように金属を前記凹部内に形成する金属形成工程と、
    前記金属形成工程で前記凹部内に形成された金属における前記深さの方向の長さを実際に計測する計測工程と、
    設計値の位相差を生じさせるように、前記計測工程で計測された前記金属の実際の長さに応じて前記凹部の側壁に対応する部分における前記深さの方向の長さを調整する調整工程とを備えること
    を特徴とする位相型回折格子の製造方法。
  2. 前記凹部内に形成された前記金属における屈折率の実部は、前記凹部における屈折率の実部よりも小さいこと
    を特徴とする請求項1に記載の位相型回折格子の製造方法。
  3. 前記調整工程は、前記凹部の側壁における前記凹部の開口面側の部分を除去することによって、前記凹部の側壁に対応する部分における前記深さの方向の長さを調整すること
    を特徴とする請求項1または請求項2に記載の位相型回折格子の製造方法。
  4. 前記調整工程は、前記凹部の側壁における前記凹部の底面側の部分を除去することによって、前記凹部の側壁に対応する部分における前記深さの方向の長さを調整すること
    を特徴とする請求項1または請求項2に記載の位相型回折格子の製造方法。
  5. 前記凹部の側壁における前記深さの方向の長さは、シリコンと空気または真空とで位相型回折格子を形成した場合における前記シリコンの設計値の長さであること
    を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の位相型回折格子の製造方法。
  6. 前記金属形成工程は、前記金属を前記凹部内に電鋳法によって形成すること
    を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の位相型回折格子の製造方法。
  7. 前記基板は、シリコン基板であり、
    前記金属形成工程は、
    前記基板における前記凹部の内表面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
    前記凹部の底部に形成された前記絶縁層の部分を除去する除去工程と、
    前記深さの方向における設計値の長さとなるように金属を前記凹部内に電鋳法によって形成する電鋳工程とを備えること
    を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の位相型回折格子の製造方法。
  8. 前記除去工程は、前記凹部の底部に形成された前記絶縁層の部分を除去するとともに、前記凹部の底部における前記シリコン基板をさらにエッチングすることによって前記凹部の底部分の表面積を該エッチング前より広くする除去広表面積化工程であること
    を特徴とする請求項7に記載の位相型回折格子の製造方法。
  9. 前記基板は、前記所定の深さに相当する厚さを有する石英層を積層したシリコン基板であり、
    前記凹部形成工程は、前記石英層を前記シリコン基板が露出するまでエッチングして前記所定の深さの凹部を形成すること
    を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の位相型回折格子の製造方法。
  10. 前記凹部の底部における前記シリコン基板をさらにエッチングすることによって前記凹部の底部分の表面積を該エッチング前より広くする広表面積化工程をさらに備えること
    を特徴とする請求項9に記載の位相型回折格子の製造方法。
  11. X線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計に用いられる位相型回折格子を製造する請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の位相型回折格子の製造方法。
  12. 請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の位相型回折格子の製造方法によって製造された位相型回折格子。
  13. 第1光学的距離に対応する第1厚さを有して所定の規則に従って配列された複数の第1光学的距離部分と、前記第1光学的距離部分を通過したX線に対して所定の位相差を生じさせる第2光学的距離に対応する第2厚さを有して前記複数の第1光学的距離部分に応じて配列された第2光学的距離部分とを入射面と射出面との間に備え、
    前記第1光学的距離部分と前記第2光学的距離部分との間には、絶縁層をさらに備え、
    前記第1光学的距離部分は、1個の光学的要素で構成され、
    前記第2光学的距離部分は、複数の光学的要素で構成され、
    前記複数の光学的要素の各厚さの和は、前記第2光学的距離部分の前記第2厚さに等しく、かつ、前記複数の光学的要素のそれぞれについて求められる屈折率と厚さとの積のそれぞれの和は、前記第2光学的距離に等しいこと
    を特徴とする位相型回折格子。
  14. X線を放射するX線源と、
    前記X線源から放射されたX線が照射されるタルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計と、
    前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計によるX線の像を撮像するX線撮像素子とを備え、
    前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計は、請求項12または請求項13に記載の位相型回折格子を含むこと
    を特徴とするX線撮像装置。
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