JP2013042484A - 耐熱エレクトレット材及びコンデンサー型マイクロホン - Google Patents

耐熱エレクトレット材及びコンデンサー型マイクロホン Download PDF

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Abstract

【課題】帯電保持力が大きく、かつ帯電減衰が少なく、さらに金属基材と、フッ素樹脂、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるエレクトレット層との接着性にも優れた耐熱エレクトレット材を提供する。
【解決手段】金属基材1上に、フッ素樹脂と、ケイ素及び/又はケイ素化合物と、導電性カーボンとを含む下地樹脂層2を介して、フッ素樹脂からなるエレクトレット層3を形成してなる耐熱エレクトレット材10。金属親和性の高いケイ素及び/又はその化合物をエレクトレット材としての電荷保持特性を損なわない範囲で下地樹脂層中に導入することで、金属基材/下地樹脂層/エレクトレット層の層間密着性を向上させることができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、エレクトレット層のフッ素樹脂として高耐熱性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いた場合であっても、高い層間密着性と電荷保持特性を発現し得る耐熱エレクトレット材と、この耐熱エレクトレット材を用いたコンデンサー型マイクロホンに関する。
マイクロホンの一形式として、エレクトレット型のコンデンサマイクロホンが知られている。エレクトレット型のコンデンサマイクロホンは、小型化が比較的容易であるが、これを、近年更なる薄型化が進んでいる携帯電話機等に搭載して使用する場合には、小型化に加えて、薄型化することが望まれる。また、エレクトレット材を使用したコンデンサマイクロホンの特性として、エレクトレット層(絶縁性樹脂層)の膜厚を薄くした方が感度も向上する。
エレクトレットは強誘電性材料であり、これらは電荷を半恒久的に蓄積する(電荷エレクトレット)か若しくは配向された双極子により半恒久的電気極性を有する(ダイポールエレクトレット)という特性を持つ。マクロホンの場合には、エレクトレットは、エレクトレット固定電極若しくは対電極のいずれかが音波によって振動する際に生じる電位差変位によって、音響エネルギーを相応する電気信号に変換する目的で組み込まれる。
エレクトレット固定電極に用いられるエレクトレット材料としては、帯電量が他の樹脂に比べて大きいフッ素樹脂が用いられている。フッ素樹脂の中でも特にテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)は、帯電減衰が少ないことが知られており、FEPを金属板に融着させたものが、電子部品であるマイクロホン用コンデンサとして、現在広く使われている。フッ素含有ポリマーをベースとするエレクトレットの帯電は、例えば空気中での負のコロナ放電により行われることが一般的である。
近年、エレクトロニクス産業界は、環境問題の点から、有害物質の使用削減に取り組んでおり、その一つに「鉛フリー化」がある。このため、従来、電子部品同士を接合するために使用されてきた半田においても、鉛フリー化、即ち、鉛を含まない半田で接合することが要求されている。しかし、鉛を含有しない半田は、従来の半田に比べ、融点が高く、半田付け温度を従来より20〜30℃高くする必要があるため、エレクトレット固定電極の絶縁性樹脂層にFEPが用いられていると、半田付けの温度によりFEPが溶け出し、良好な帯電特性を得ることができなくなるという問題があった。
そこで、エレクトレット固定電極の樹脂材料として、鉛非含有の半田の半田付け温度に対して耐熱性を有し、かつ優れた帯電特性を有する材料が求められている。そのような材料として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が提案されている。PTFEは帯電量が大きく、かつ帯電減衰も少ないことから、エレクトレット固定電極の樹脂材料として好ましく、さらにFEPに比べて融点が高いことから、鉛非含有の半田の半田付け温度に対しても耐熱性を有する。しかしながら、PTFEフィルムは金属基材に対して接着し難いという問題があった。その接着性を高めるために、金属基材とPTFEフィルムとの間にPTFE以外の熱可塑性樹脂からなる接着層を設ける技術がある。
しかしながら、接着層を設けると、固定電極としての感度が損なわれる場合があり、さらにPTFE以外の熱可塑性樹脂の使用により帯電特性が劣化する(帯電減衰が大きくなる)という問題があった。また、接着層を設けないでPTFEフィルム単独で金属基材に対する接着性を向上させるには、PTFEの融点(約327℃)を大きく超えた温度で熱融着しなければならず、そのような高い温度で融着すると逆に帯電減衰が大きくなってしまう問題があった。
特開2002−125297号公報には、1枚の熱可塑性樹脂フィルムを金属板の表面に付着させたエレクトレット用積層板が記載されているが、熱可塑性樹脂フィルムとしてFEPフィルムを用いた例しか開示されておらず、PTFEフィルムを用いた場合に、どのようにして金属板の表面に接着させるかは明らかにされていない。
特許第3692090号公報には、金属板上にFEPフィルムとPTFEフィルムを順次溶融接着した多層エレクトレット材が記載されているが、このエレクトレット材では、フッ素樹脂層を積層することにより、電荷保持性が損なわれる欠点がある。また、接着層にFEPを用いると、接着層を厚くしないと充分な接着力と電荷保持姓を得られないばかりか、接着層が厚くなるため、小型・薄型低コストが求められる携帯機器等には向かないという欠点がある。
特開2010−279024号公報には、金属基材とエレクトレット層との間に設けた下地樹脂層にカーボン(炭素)を添加することにより導電性を付与して電荷保持性を高める方法が示されている。しかし、この方法では、カーボン自体の金属親和性が低いために金属基材と下地樹脂層との層間密着力が低下し、また、下地樹脂層とエレクトレット層との層間密着力も不足するという問題がある。
特開2002−125297号公報 特許第3692090号公報 特開2010−279024号公報
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するものであって、帯電保持力が大きく、かつ帯電減衰も少なく、さらに金属基材と、フッ素樹脂、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるエレクトレット層との接着性にも優れた耐熱エレクトレット材を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、金属親和性の高いケイ素(Si)、ケイ素化合物、又はこれらの混合物をエレクトレット材としての電荷保持特性を損なわない範囲で下地樹脂層中に導入することで、金属基材/下地樹脂層/エレクトレット層の層間密着性を向上させることができることを見出した。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
[1] 金属基材上に、フッ素樹脂と、ケイ素、ケイ素化合物、又はこれらの混合物と、導電性カーボンとを含む下地樹脂層を介して、フッ素樹脂からなるエレクトレット層を形成してなることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
[2] [1]において、前記金属基材の厚さが10〜500μmで、前記下地樹脂層の厚さが1〜50μmで、前記エレクトレット層の厚さが8〜50μmであることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
[3] [1]又は[2]において、前記下地樹脂層に含まれるフッ素元素、ケイ素元素及び炭素元素の合計100モル%に占めるケイ素元素の割合が1〜50モル%であり、炭素元素の割合が5〜10モル%であることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
[4] [3]において、前記下地樹脂層に含まれるケイ素元素と炭素元素の割合が前記金属基材側ではケイ素元素の割合の方が炭素元素の割合より少なく、かつ、前記エレクトレット層側ではケイ素元素の割合の方が炭素元素の割合より多いことを特徴とする耐熱エレクトレット材。
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記下地樹脂層のフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」と称す)を主成分とすることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記エレクトレット層のフッ素樹脂がPTFEを主成分とすることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
[7] [1]ないし[6]のいずれかにおいて、前記金属基材が、ステンレス鋼、アルミニウム、真鍮、鉄、あるいはそれらの酸化物、及びこれらの内1種類以上を含む合金からなる金属薄板、またはステンレス鋼、アルミニウム、真鍮、鉄、あるいはそれらの酸化物、及びこれらの内1種類以上を含む合金からなる金属薄板の表面にニッケル、金、銀、銅、錫、亜鉛、及び白金の中から選ばれる少なくとも1種の導電性金属を被覆した金属薄板からなることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
[8] [1]ないし[7]のいずれかにおいて、前記エレクトレット層側の前記下地樹脂層表面の体積抵抗値が1010Ω・m以上1013Ω・m以下であり、前記エレクトレット層の体積抵抗値が1015Ω・m以上であることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
[9] [1]ないし[8]のいずれかにおいて、前記下地樹脂層の厚さ方向の体積抵抗値が前記金属基材側より前記エレクトレット層側の方が大きいことを特徴とする耐熱エレクトレット材。
[10] [9]において、前記下地樹脂層の厚さ1/2における体積抵抗値が10Ω・mより大きく1012Ω・m以下であることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
[11] [1]ないし[10]のいずれかに記載の耐熱エレクトレット材を用いたコンデンサー型マイクロホン。
本発明によれば、金属親和性の高いケイ素(Si)、ケイ素化合物、又はこれらの混合物(以下、これらを「Si成分」と称す場合がある。)を下地樹脂層中に導入することにより、金属基材/下地樹脂層/エレクトレット層の層間密着性を高めることができる。即ち、ケイ素は、元素周期表からも明らかなように、炭素よりも金属に近く、より金属親和性が高い物質であるとともに、フッ素(フッ化物イオン)とも親和性が高い物質である。従って、このようなSi成分を下地樹脂層に含有させることによって、下地樹脂層と金属基材との層間密着性を高めることができ、この結果、金属基材/下地樹脂層/エレクトレット層の層間密着性に優れた耐熱エレクトレット材を実現することが可能となる。
本発明によれば、エレクトレット層のフッ素樹脂として、帯電量が大きく、かつ帯電減衰も少ないことから、エレクトレット固定電極の樹脂材料として好ましく、さらにFEPに比べて融点が高いことから、鉛非含有の半田の半田付け温度に対しても耐熱性を有するPTFEを用いて、層間密着性と電荷保持特性に優れた耐熱エレクトレット材を提供することができる。
本発明の耐熱エレクトレット材の実施の形態を示す断面図である。 実施例1,2、比較例1,2及び参考例1,2の電荷保持特性の評価結果を示すグラフである。 下地樹脂層の厚さと不良率との関係を示すグラフである。 エレクトレット層の厚さと電荷保持率との関係を示すグラフである。 実施例1のサンプルの下地樹脂層の厚さ方向におけるケイ素元素と炭素元素のモル%の変位を示すグラフである。 実施例2のサンプルの下地樹脂層の厚さ方向におけるケイ素元素と炭素元素のモル%の変位を示すグラフである。 下地樹脂層の厚さ方向における体積抵抗値の変位を示すグラフである。
以下に図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の耐熱エレクトレット材の実施の形態の一例を示す断面図であり、1は金属基材、2は下地樹脂層、3はエレクトレット層を示す。
本発明に用いられる金属基材は、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン、真鍮、銅、鉄、あるいはそれらの酸化物、及びこれらの内1種類以上を含む合金からなる金属薄板、またはステンレス鋼、アルミニウム、チタン、真鍮、銅、鉄、あるいはそれらの酸化物、及びこれらの内1種類以上を含む合金からなる金属薄板の表面に、ニッケル、金、銀、銅、錫、亜鉛、白金の中から選ばれる少なくとも1種の導電性金属を被覆(めっきまたは蒸着)した金属薄板であることが好ましい。
金属基材の厚さは電荷保持の点においては特に限定しないが、通常10〜500μmであり、加工性の点と昨今では電子機器に対して小型軽量化が求められる点からは50〜200μmとするのが好ましい
本発明に用いられる金属基材の10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値は、60×10−8Ω・mを超え、且つ100×10−8Ω・m未満であることが好ましい。
金属基材の体積抵抗値が、60×10−8Ω・m以下である場合には、エレクトレット層中に保持した電荷の長期安定して保持できなくなるため好ましくなく、100×10−8Ω・m以上の場合には、エレクトレット層中に保持できる電荷の絶対量が少なくなってしまうため好ましくない。
本発明の下地樹脂層及びエレクトレット層に用いられるフッ素樹脂は、熱溶融性であっても非熱溶融性であってもよく、不飽和フッ素化炭化水素、不飽和フッ素化塩素化炭化水素、エーテル基含有不飽和フッ素化炭化水素などの重合体又は共重合体、或はこれら不飽和フッ素化炭化水素類とエチレンの共重合体などが挙げられる。例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ビニリデンフルオライド及びビニルフルオライドから選ばれるモノマーの重合体又は共重合体、或いはこれらモノマーとエチレンの共重合体などを挙げることができる。これらは勿論単独で使用することもできるし、2種以上の混合物として使用することもできる。
より具体的には、テトラフルオロエチレン重合体(PTFE)、テトラフルオロエチレンと2質量%未満の共重合可能な含フッ素単量体との共重合体(変性PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリビニリデンフルオライド、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、テトラフルオロエチレン重合体(ポリテトラフルオロエチレン)及び/またはテトラフルオロエチレンと2質量%未満の共重合可能な含フッ素単量体との共重合体(変性PTFE)であることがより好ましい。
エレクトレット層が、PTFE及び/または変性PTFEである場合、エレクトレット層の形成後に結晶化度を高める処理を加えても良い。PTFE樹脂層の結晶化度を高める方法は特に限定されず、例えば、圧延、アニーリング、電子線照射等の手段が挙げられる。オーブンや加熱炉により加熱処理後の徐冷する方法が最も簡易的で一般的であるが、この方法では長時間の処理を必要とするために、近年では他の方法として特開2007−039672号公報に記載されているEB(電子線)照射による方法がある。PTFE層(エレクトレット層)の結晶化度としては、20〜80%の範囲が好ましい。結晶化度が20%未満では電荷保持性が悪くなる反面、80%を超える場合には材料の弾性が低下して硬く脆くなる為に各種の後加工(折り曲げ、切断、打ち抜き、孔明け等)性が悪くなる。
本発明の下地樹脂層に用いられる導電性カーボンとしては、カーボンブラック(ケッチェンブラックEC、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等)、ブラックパール、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、グラフェン、フラーレンなどを用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、下地樹脂層中にSi成分を導入するための材料(以下「Si成分材料」と称す場合がある。)としては、加熱硬化によって塗膜中でシロキサン結合(−O−Si−O−)を形成するものが好ましく用いられ、後述の実施例において使用したトリエチルシラノール等のシランカップリング剤や、アルコキシシラン、シリコーン、金属アルコキシド、有機シロキサン、ケイ酸塩水溶液などを用いることができる。
より具体的には、シランカップリング剤としては、トリエチルシラノール、加水分解性オルガノシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン、エポキシシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン等を用いることができる。
アルコキシシランとしては、下記式(1)で表されるものを用いることができる。
(Si)(OR)4-n (1)
(式中、R1はHまたは炭素数1〜8の直鎖状、分岐状および環状のアルキル基またはアリール基を表し、R2は炭素数1〜6の直鎖状または分岐状アルキル基を表す。またnは0〜2の整数である)。
ここで、式(1)で表されるアルコキシシランにおいて、nが0の場合、即ちSi(OR2)を4官能性のアルコキシシランといい、nが1の場合、即ちR1(Si)(OR2)を3官能性のアルコキシシラン、nが2の場合、即ちR1 2(Si)(OR2)を2官能性のアルコキシシラン、nが3の場合、即ちR1 3(Si)(OR2)を1官能性のアルコキシシランとする。
本発明において用いることができる4官能性のアルコキシシランの具体的な例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(t−ブトキシ)シランなどが挙げられる。
3官能性のアルコキシシランの具体的な例としてトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシランなどが挙げられる。
2官能性のアルコキシシランの具体的な例として、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。
これらの中でも特に好ましいのがテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等である。
シリコーンとしては、置換基にメチル基もしくはフェニル基のみからなるストレートシリコン以外にもポリエーテル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、等を用いることができる。
金属アルコキシドとしては、テトラエチルチタネート、テトラエチルジルコネート、アルミニウムイソプロピオネート等を用いることができる。
有機シロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、等を用いることができる。
ケイ酸塩水溶液のケイ酸塩としては、ケイ酸アトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ハフニウム等を用いることができる。
上記Si成分材料は1種を単独で用いてもよく、任意の2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
本発明の耐熱エレクトレット材の下地樹脂層は、フッ素樹脂、Si成分材料及び導電性カーボンを含む下地樹脂層形成用塗布液を、バーコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、ローラーコート、含浸塗装、静電塗装、カーテンフローコート(スクリーンコート)、グラビアコート、ダイコート、スライドコート、ワイヤーバーコート、ナイフコート、スピンフローコート等任意の塗装方法で金属基材上に塗布し、慣用の装置を用いて室温〜400℃程度の温度で、5〜60分間乾燥及び/又は焼成することにより得ることができる。また、スクリーン印刷、グラビア印刷、或いは予め用意した下地樹脂層のフィルムをラミネート(熱圧着)するなどの方法によっても得ることができる。コーティング(塗工)方式による場合には、フィルムラミネート方式よりも、耐熱エレクトレット材を薄膜・薄型化することが可能となる。
上記下地樹脂層形成用塗布液は、バインダー樹脂を含むことができ、バインダー樹脂と、フッ素樹脂との質量比は、5〜50:95〜50であることが好ましい。
バインダー樹脂としては、例えば、フッ素樹脂と同等の耐熱性、即ち熱分解開始温度300℃以上を有し、金属基材に接着性を有するものが好ましい。このようなバインダー樹脂として特に好適なものは、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、エポキシ樹脂、或いはこれらの混合物である。より好ましくは、PAIである。
バインダー樹脂は、液状媒体中に溶解されていても、微粒子として液状媒体中に均一に分散されていても良い。使用できる液状媒体としては、水、極性有機溶媒、非極性有機溶媒、及びこれらの混合物が挙げられる。液状媒体として水を使用する場合には、液状媒体の表面張力を低下させ、バインダー樹脂及びフッ素樹脂粉末等の分散性を向上させるため、界面活性剤を液状媒体に添加することが好ましい。
バインダー樹脂がPI、PAI、及びPES等で、有機溶媒、例えばN−メチルピロリドン、或いはN−メチルピロリドンとジアセトンアルコール又はキシレン等の混合物等に比較的容易に溶解する場合には、バインダー樹脂を液状媒体中に溶解して用いることが好ましく、バインダー樹脂がPPS等で、有機溶媒に溶解が困難な場合には、液状媒体として界面活性剤を添加した水を使用し、バインダー樹脂を液状媒体中に均一に分散して用いることが好ましい。
この様にして得られる下地樹脂層の厚さは特に限定されないが、1〜50μmであることが望ましい。導電性を有し、かつ層間密着性に寄与する下地樹脂層の厚さは厚い方が電荷保持性及び層間密着性の点から望ましいが、過度に大きくてもかえって層内の凝集剥離で層間密着性が低下する。また、一般的に耐熱エレクトレット材をコンデンサー型マイクロホンとして使用する際の電荷保持率としては、80%以上あれば十分であることから、下地樹脂層の膜厚としては特に3〜30μmの範囲が好ましく、5〜20μmの範囲がより好ましい。
また、10℃から350℃の温度範囲に於けるエレクトレット層側の下地樹脂層表面の体積抵抗値は、1010〜1013Ω・mであることが好ましい。エレクトレット層側の下地樹脂層表面の体積抵抗値が、小さ過ぎる場合には、エレクトレット層中に保持した電荷の長期安定して保持できなくなるため好ましくなく、大き過ぎる場合には、エレクトレット層中に保持できる電荷の絶対量が少なくなってしまうため好ましくない。
また、下地樹脂層は、厚さ方向において、金属基材側からエレクトレット層側に向かって順次体積抵抗値が増加する特徴を有し、下地樹脂層の厚さ1/2における体積抵抗値は10Ω・mより大きく1012Ω・m以下であり、エレクトレット層側の下地樹脂層表面における体積抵抗値は1010Ω・m以上、より好ましくは1011Ω・m以上1013Ω・m以下となる。
下地樹脂層の体積抵抗値が金属基材側よりエレクトレット層側の方が大きくなる理由は明らかではないが、後述するように下地樹脂層に含まれる導電性カーボン(炭素元素)の割合が金属基材側からエレクトレット層側に亘り増大することに伴い絶縁性のケイ素元素の割合が減少することに起因すると考えられる。
なお、本発明の耐熱エレクトレット材の下地樹脂層は、Si成分を含むことによる層間密着性の向上効果と、導電性カーボンを含むことによる導電性の向上効果とをバランスよく得る上で、元素分析により求められる、下地樹脂層に含まれるフッ素元素、ケイ素元素及び炭素元素の合計100モル%に占めるケイ素元素の割合が1〜5モル%で、炭素元素の割合が5〜10モル%であることが好ましい。この範囲よりもケイ素元素の割合が少な過ぎると下地樹脂層にSi成分を導入することによる層間密着性の向上効果を十分に得ることができず、多過ぎると下地樹脂層の導電性が低下して電荷保持特性が低下する。また、上記炭素元素の割合は、フッ素樹脂由来の炭素元素と導電性カーボン由来の炭素元素と、その他、下地樹脂層中のバインダー樹脂等の他の炭素含有成分由来の炭素元素の合計に相当するが、この割合が上記範囲よりも少な過ぎると下地樹脂層の導電性が不十分であり、電荷保持特性が低下するばかりか、柔軟性が損なわれてしまい、曲げや打抜き時の剪断応力により、膜の破損(欠け)やクラックが入るといった問題が生じる。多過ぎるとハンダ付け時の高温下での耐熱性が低下するという不具合が生じる。
また、本発明の耐熱エレクトレット材の下地樹脂層は、含まれているケイ素元素と炭素元素の割合が、金属基材側ではケイ素元素の割合の方が炭素元素の割合より少なく、かつ、エレクトレット層側ではケイ素元素の割合の方が炭素元素の割合より多くなる。その理由は明らかではないが、炭素元素とケイ素元素の比重差により溶剤が揮発していく過程にて成分傾斜が生じていくことにより金属基材側にケイ素元素より炭素元素の方が多く集まり、かつエレクトレット層側に炭素元素よりケイ素元素の方が多く集まる傾向があるため、下地樹脂層とエレクトレット層との密着性を向上することができ、かつ下地樹脂層に導電性を付与することができるようになると考えられる。
特に、上述のような層間密着性と電荷保持特性の両立のために、前述の下地樹脂層形成用塗布液におけるSi成分材料の含有量は、下地樹脂層形成用塗布液中のフッ素樹脂に対して1.0〜115.0質量%、特に1.1〜111.0質量%であることが好ましい。また、導電性カーボンの含有量は、下地樹脂層形成用塗布液中のフッ素樹脂に対して10.0〜20.0質量%、特に11.0〜15.0質量%であることが好ましい。
本発明の耐熱エレクトレット材のエレクトレット層は、導電性カーボン及びSi成分材料を含まないこと以外は、上記下地樹脂層形成用塗布液と同様にして調製されたフッ素樹脂含有エレクトレット層形成用塗布液を用いて、下地樹脂層上に、下地樹脂層と同様の方法にて形成することが出来る。
なお、下地樹脂層とエレクトレット層との積層製膜工程を簡略化するために、金属基材上に前述の下地樹脂層形成用塗布液を塗布して100〜200℃程度で1〜10分程度乾燥し、この乾燥塗膜上にエレクトレット層形成用塗布液を塗布して100〜200℃程度で1〜10分程度乾燥し、最後に350〜450℃程度で1〜10分程度加熱焼成して、金属基材上にこれら下地樹脂層とエレクトレット層とを積層形成することが好ましい。
このようにして得られるエレクトレット層の膜厚は特に限定されないが、8〜50μm、特に15〜45μmであることが好ましい。また、エレクトレット層の10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値は、1015Ω・m以上であることが好ましい。エレクトレット層の体積抵抗値が、1015Ω・m未満である場合には、エレクトレット層中に保持する電荷の絶対量が少なくなり、また、保持した電荷の長期の保持安定性も悪くなるため好ましくない。
本発明の耐熱エレクトレット材は、好ましくは金属基材の厚さが50〜500μm、より好ましくは80〜300μm、下地樹脂層の厚さが1〜50μm、より好ましくは2〜20μm、エレクトレット層の厚さが8〜50μm、より好ましくは15〜45μmである積層部材であって、且つ金属基材上に、体積抵抗値の小さい樹脂層を順次形成した積層部材である。即ち、体積抵抗値Aの金属基材上に、体積抵抗値Bの下地樹脂層を形成し、更にその上に体積抵抗値Cのエレクトレット層を最表層として形成した積層部材であって、10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値の値はA<B<Cを満たし、且つ10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値が60×10−8Ω・m<A<100×10−8Ω・m、1010Ω・m<B<1013Ω・m、C≧1015Ω・mを満たす積層部材であることが好ましい。
本発明の耐熱エレクトレット材は、金属製の薄板基材とエレクトレット層であるフッ素樹脂層の間に、フッ素樹脂とSi成分と導電性カーボンを含む、導電性を有しかつ金属基材及びエレクトレット層の双方に対する接着性に優れた下地樹脂層を設けることで、コロナ放電によりチャージした電荷の安定的な長期保持が可能となると共に、層間密着性に優れ、耐久性に優れたものとなるため、エレクトレット材の薄膜化が可能となる。
このような本発明の耐熱エレクトレット材は、高度な防塵設備を必要とするドライプロセスではなくウェットプロセスのみにより製造可能なのでエレクトレット材を低コストで提供する事が出来る。また、本発明の耐熱エレクトレット材は、電荷保持性が高く薄膜のエレクトレット材であるため、これを使用する部材(イヤホン、ヘッドホン、マイクロホン等)をよりコンパクト化することができる。
以下、実施例、参考例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
[実施例1,2、参考例1,2、比較例1,2]
<下地樹脂層形成用塗布液の調製>
固形分としてPTFE(ダイキン工業社製、商品名「ポリフロンM−112」)を9.0質量%、カーボンブラック(東海カーボン社製、商品名「トーカブラック#5500」)を1.0質量%、溶媒として蒸留水を80.0質量%、フルフリルアミンを4.0質量%、N−メチル−2−ピロリドンを2.0質量%、ノニオン界面活性剤を2.0質量%、トリエチルアミンを1.5質量%、2−(ジエチルアミノ)エタノールを0.5質量%からなるA液を調製した。
別に、下地樹脂層にケイ素(Si)ないしケイ素化合物を導入する目的で、東京化成工業社製トリエチルシラノール(シランカップリング剤)を蒸留水にて10質量%となる様に調整した液をB液として使用した。
A液とB液を表1に示す配合量で混合して下地樹脂層形成用塗布液とした。
なお、表1には、調製された下地樹脂層形成用塗布液中のPTFEに対するカーボンブラックの割合とトリエチルシラノールの純分の割合を併記する。
Figure 2013042484
<エレクトレット層形成用塗布液>
固形分としてPTFE樹脂(ダイキン工業社製、商品名「ポリフロンM−112」)を50.0質量%、及び溶媒として水を35.0質量%と、トリエタノールアミン5.0質量%、芳香族重質油3.0質量%、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル3.0質量%、ノニオン界面活性剤を3.0質量%、1,2,4−トリメチルベンゼン0.7質量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.3質量%からなるエレクトレット層形成用塗布液を調製した。
<耐熱エレクトレット材の製造>
金属基材として厚さ100μmのステンレス304鋼板(25℃における体積抵抗値72.7×10−8Ω・m、260℃における体積抵抗値90.0×10−8Ω・m)を用い、このステンレス304鋼板に、下地樹脂層形成用塗布液をバーコーターにより塗布した後、100℃で20分間乾燥し、次いで形成された下地樹脂層用の塗膜上にエレクトレット層形成用塗布液を同じくバーコーターにて塗布して100℃で20分間乾燥し、更に420℃で5分間加熱焼成して、図1に示すように、金属基材上に下地樹脂層とエレクトレット層を積層形成した積層部材を得た。
次いで、この積層部材を常温、常圧の大気中において、高圧電源増幅・制御装置(トレックジャパン株式会社製 MODEL610−C)を用いて、−1,000Vのコロナ放電を行うことにより着電処理を行って、それぞれエレクトレット材のサンプルを製造した。
各サンプルの下地樹脂層の厚さは5μmであり、エレクトレット層の厚さは25μmである。
<電荷保持特性の評価>
260℃に設定したホットプレート上に、各サンプルを載せて加熱した。加熱時間は30秒間を5回(ホットプレート上にサンプルを30秒載置した後取り上げて室温まで冷却した後、荷電量を測定し、その後再びホットプレート上にサンプルを30秒載置し、載置と測定の工程を5回繰り返す。)、以降は、常温・常湿・常圧下に24時間静置、荷電量測定、48時間静置、荷電量測定とした。荷電量は表面電位計(トレックジャパン株式会社製 MODEL344)により測定した。
初期の着電量に対する電荷の残存量を電荷保持率として算出し、結果を図2に示した。
<層間密着力の評価>
径φ300mmの金属ロール間を線圧10kgf/cmの荷重にて各サンプルを通過させて、初期の厚さ(金属基材=100μm、下地樹脂層=5μm、エレクトレット層=25μm;総厚=130μm)に対して80%厚さ(総厚=104μm)まで圧延した後、JIS−K5400に記載の方法によりクロスカットセロテープ剥離試験を行った。その結果(100個のマス目のうち、セロテープを密着させて引き剥したときに下地樹脂層が剥離せずに金属基材上に残ったマス目の数)を表2に示す。
Figure 2013042484
<下地樹脂層中の元素比の分析>
蛍光X線測定(島津製作所「EDX−720」による)により、各サンプルの下地樹脂層を構成する元素割合を分析した。結果を表3に示す。
Figure 2013042484
<体積抵抗値・表面抵抗値>
各サンプルの下地樹脂層について、ハイレスタUP(三菱化学社製)により体積抵抗値と表面抵抗値を測定した。結果を表4に示す。なお、エレクトレット層の体積抵抗値は、いずれも1015Ω・m以上であった。
Figure 2013042484
また、XPS装置「PHI−5600」(アルバック・ファイ(株)製)を用い、アルゴンプラズマを用いたエッチングにより、実施例1、実施例2及び比較例1で得られた下地樹脂層を厚さ0.5μm間隔で切削し、体積抵抗値の変位を測定した。結果を図7に示す。
<塗膜硬度>
各サンプルについて、塗膜硬度の評価を行った。結果を表5に示す。なお、硬度の測定は、安田精機社製「553−M1」にてJIS−K5400に基いて、エレクトレット層表面に対して行った。塗膜硬度の値は、B → HB → F → B → H → 2H →・・・4Hの順に塗膜硬度が高いことを表す。
Figure 2013042484
<以上の結果のまとめ>
(1)図2の結果から、下地樹脂層中にSi成分を含むと、若干の電荷保持性能低下が見られるものの、Si成分の含有量が元素比に換算して50モル%程度までであれば大幅な電荷保持性能の低下はないことが実施例2の結果から分かる。また、参考例2から、60モル%を超えてSi成分添加すると電荷保持性能の低下が顕著となることが分かる。
(2)表2より、下地樹脂層中にSi成分を含むと、層間密着力が上がることが分かる。但し、実施例2と参考例2の結果から、Si含有量50モル%を超えると顕著な差異は見られないことが分かる。
(3)表2の参考例1より、下地樹脂層のSi成分の含有量が1モル%未満では、層間密着力の顕著な向上効果は見られないことが分かる。
(4)表5の結果より、下地樹脂層がSi成分を含有することにより、塗膜の硬度が向上することが確認できる。但し、Si成分の含有量が多過ぎる場合は、上記(1)の電荷保持性能の観点から好ましくない。
<下地樹脂層の厚さの効果>
実施例1で用いたものと同じ下地樹脂層形成塗布液及びエレクトレット層形成用塗布液を用い、バーコーターの番手を変更して下地樹脂層形成用塗布液の塗布量を変え、下地樹脂層の厚さのみが異なるサンプルを作製した。作製したサンプルの下地樹脂層の厚さは、0.1,0.5,1,3,5,10,25,50,60μmであり、エレクトレット層膜厚は全て25μmとした。
それぞれのサンプルについて、φ5mmの径に打抜きプレスによって100個抜いた際に打抜き刃との摩擦や衝撃によって端部が剥離する個数の割合(剥離不良率)を求めた。結果を表6とそれを図示したグラフを図3に示す。
図3より明らかなように、下地樹脂層の厚さが1μm未満では、剥離不良率が高く、60μm以上の厚さでは層内での凝集剥離が生じてしまい逆に剥離不良率は高くなる傾向にある。
従って、下地樹脂層の厚さの範囲としては、1〜50μmが適当であることが分かる。
Figure 2013042484
<エレクトレット層の厚さの効果>
実施例1で用いたものと同じ下地樹脂層形成塗布液及びエレクトレット層形成用塗布液を用い、バーコーター番手を変更してエレクトレット層形成用塗布液の塗布量を変え、エレクトレット層の厚さのみが異なるサンプルを作製した。作製したサンプルの下地樹脂層の厚さは、全て5μmで、エレクトレット層の厚さは、1,2,5,6,10,20,30,40,60μmであった。それぞれのエレクトレット層厚さのサンプルについて前述の<電荷保持特性の評価>と同様に、5回の加熱と冷却(ホットプレート上にサンプルを30秒載置した後取り上げて室温まで冷却)を繰返し、更に48時間静置後の電荷保持性能を測定した。その結果を図4に示す。
図4より明らかなように、エレクトレット層の厚さが5μmを下回ると、電荷保持性能が顕著に悪くなり、逆に50μmを超えると、顕著な向上もなくなるばかりか、乾燥と焼成工程にも熱エネルギーが必要となり、材料とエネルギーが無駄になる。エレクトレット層の膜厚は薄い方がS/N比も良いと一般的に言われているが、本発明のエレクトレット材では、薄型化と低コストが求められるエレクトレット層の厚さの範囲として8〜50μmが適当であることが分かる。
<下地樹脂層に含まれるケイ素元素と炭素元素の分布>
X線光電子分光分析装置(島津製作所製「ESCA−3400」)により、実施例1及び実施例2の各サンプルの下地樹脂層を構成する元素(C,Si,F)のうち、ケイ素元素と炭素元素の割合(モル%)を以下の手順で測定した。
下地樹脂層をエレクトレット層側から金属基材層の深さ方向にArプラズマエッチングにより0.5μm単位で削り、表層元素を分析した。ここで検出された各深さでの元素比を下式によりモル%に換算した。エッチングの条件としては、Arによる2kV,20mAとし、エッチングレートは、5.0nm/minとした。元素比の分析条件としては、光源にはMg−Kαを使用し、出力8kW×30mA、真空度5×10-6Paの条件下で測定した。
結果を図5(実施例1)及び図6(実施例2)に示す。
Figure 2013042484
図5,6より、下地樹脂層の厚さ(深さ)方向には、金属基材層側からエレクトレット層側に向かって炭素元素とケイ素元素の含有率に分布が存在することが分かる。すなわち、下地樹脂層では、添加したシランカップリング剤に由来するケイ素元素の含有率が金属基材側からエレクトレット層側に向かって連続的に増加するのに対し、導電性カーボンに由来する炭素元素の含有率が連続的に減少する傾斜があることが分かる。
1 金属基材
2 下地樹脂層
3 エレクトレット層
10 耐熱エレクトレット材

Claims (11)

  1. 金属基材上に、フッ素樹脂と、ケイ素、ケイ素化合物、又はこれらの混合物と、導電性カーボンとを含む下地樹脂層を介して、フッ素樹脂からなるエレクトレット層を形成してなることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
  2. 請求項1において、前記金属基材の厚さが10〜500μmで、前記下地樹脂層の厚さが1〜50μmで、前記エレクトレット層の厚さが8〜50μmであることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
  3. 請求項1又は2において、前記下地樹脂層に含まれるフッ素元素、ケイ素元素及び炭素元素の合計100モル%に占めるケイ素元素の割合が1〜50モル%であり、炭素元素の割合が5〜10モル%であることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
  4. 請求項3において、前記下地樹脂層に含まれるケイ素元素と炭素元素の割合が前記金属基材側ではケイ素元素の割合の方が炭素元素の割合より少なく、かつ、前記エレクトレット層側ではケイ素元素の割合の方が炭素元素の割合より多いことを特徴とする耐熱エレクトレット材。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項において、前記下地樹脂層のフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」と称す)を主成分とすることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1項において、前記エレクトレット層のフッ素樹脂がPTFEを主成分とすることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
  7. 請求項1ないし6のいずれか1項において、前記金属基材が、ステンレス鋼、アルミニウム、真鍮、鉄、あるいはそれらの酸化物、及びこれらの内1種類以上を含む合金からなる金属薄板、またはステンレス鋼、アルミニウム、真鍮、鉄、あるいはそれらの酸化物、及びこれらの内1種類以上を含む合金からなる金属薄板の表面にニッケル、金、銀、銅、錫、亜鉛、及び白金の中から選ばれる少なくとも1種の導電性金属を被覆した金属薄板からなることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
  8. 請求項1ないし7のいずれか1項において、前記エレクトレット層側の前記下地樹脂層表面の体積抵抗値が1010Ω・m以上1013Ω・m以下であり、前記エレクトレット層の体積抵抗値が1015Ω・m以上であることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
  9. 請求項1ないし8のいずれか1項において、前記下地樹脂層の厚さ方向の体積抵抗値が前記金属基材側より前記エレクトレット層側の方が大きいことを特徴とする耐熱エレクトレット材。
  10. 請求項9において、前記下地樹脂層の厚さ1/2における体積抵抗値が10Ω・mより大きく1012Ω・m以下であることを特徴とする耐熱エレクトレット材。
  11. 請求項1ないし10のいずれかに記載の耐熱エレクトレット材を用いたコンデンサー型マイクロホン。
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