JP2013033003A - 走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた溶液中イオン検出方法 - Google Patents

走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた溶液中イオン検出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】、試料から溶液中に溶出しているイオンを解析できる走査型プローブ顕微鏡およびそれを用いた溶液中イオンの検出方法を提供する。
【解決手段】試料1、参照極2、対極3、プローブ4を溶液中に設置した電気化学セル5を有し、試料表面の凹凸形状を、プローブ4を用いて測定する走査型プローブ顕微鏡であって、さらに、次の手段を備える。参照極2に対するプローブ4の電位を可変制御するプローブ電位制御手段(7,8,100)と、可変制御されるプローブ電位の下で、プローブ4と3対極との電気化学反応によりプローブに流れるプローブ電流を検出する電流検出手段と、を備える。前記プローブ電位及びプローブ電流から、溶液中に存在するイオンがプローブ4に捕獲されて酸化もしくは還元反応を示す電位の範囲を特定して、溶液中のイオンの同定と定量を行なうよう構成してある。
【選択図】図3

Description

本発明は、プローブ(探針)を用いて試料の表面形状を拡大観察する走査型プローブ顕微鏡に係り、さらに詳細には、表面形状の観察のほかに、プローブを利用して、試料から溶液中に溶出しているイオンを検出するためのプローブ顕微鏡とイオン検出方法に関する。
走査型プローブ顕微鏡としては、トンネル電流を利用して試料の表面凹凸形状の観察(以下、単に「試料の表面観察」或いは「試料の表面形状測定」などと称されることもある)を行なう走査型トンネル顕微鏡、原子間力を利用して試料の表面観察を行なう原子間力顕微鏡などが知られている。例えば、走査型トンネル顕微鏡は、特許文献1に示されるように、接近したプローブと試料との間に電圧を印加して、両者間に流れるトンネル電流(微少な電流)信号から試料の表面画像を形成している。
この種の走査型プローブ顕微鏡において、トンネル電流を利用した試料の表面観察を行なうと同時に、試料の電位を設定し、それにより試料に流れる電流(試料・対極間に流れる電流)を検出して試料の電気化学反応を解明する手法が知られている。試料の電気化学反応としては、例えば、試料の電気析出過程、腐食過程など各種反応がある。この電気化学反応を測定するために、装置として、プローブ顕微鏡に市販のポテンショスタットやポーラログラフィなどを組み込んで試料の電位を制御している。
上記したような電気化学測定およびトンネル電流同時測定方法としては、例えば、特許文献2に示すように、プローブ(チップ)と、試料の電位を設定する参照極と、試料に対する対極とを設けて、この試料と対極間に流れる電流を検出して、試料の電気化学反応を測定し、同時にプローブ・試料間に流れるトンネル電流を測定する技術が提案されている。なお、特許文献2に示す技術については、本願発明との技術的相違を明確にするため、発明の実施の態様の項で先行技術例としてさらに後述する。
米国特許第4343993号 特公平6−105262号公報
ところで、特許文献2に示すように、走査型プローブ顕微鏡の観察対象である試料に積極的に電気化学反応(電極反応)を起こして試料の電解析出過程、腐食過程などの電気化学反応を解明する以外にも、試料から溶液中に溶出(自然或いは意図的な溶出を問わない)するイオンの種類や量および傾向を解析できれば、走査型プローブ顕微鏡の応用範囲をさらに広げることが可能になる。例えば、異物(金属)が体内に入った場合や液中にある場合に、その成分の溶出の有無や同定、溶出の程度や傾向を、溶液に溶け出すイオンから模擬的に予測できれば有益である。従来は、かような見地からの走査型プローブ顕微鏡の課題の認識がなく、そのための課題解決の手段についての提案はなされていなかった。
(1)本発明は、以上の課題に着目してなされたものであり、主たる目的は、試料から溶液中に溶出しているイオンを解析できる走査型プローブ顕微鏡およびそれを用いた溶液中イオンの検出方法を提供することにある。
(2)ちなみに、特許文献2のように、試料の電位を設定して試料に電気化学反応を起こす場合には、試料が変質することは避け難たい。さらに、参照極を用いて試料の電位を設定しつつ(試料の電気化学反応を起こしつつ)、トンネル電流が流れるように試料とプローブ間に一定の電位差を与えるためには、参照極により設定された試料電位を基準に、プローブと対極と参照極とによりプローブの電位設定を行う必要がある。そのために、プローブが溶液中のあるイオン(金属元素など)の電析によって汚染されるおそれがある。
本願発明の副次的な目的は、上記(1)の主たる目的を達成するために走査型プローブ顕微鏡を使用する場合にも、試料の変質を防止し且つプローブ表面の汚染の機会をできるだけ防ぐことにある。
本発明は、上記目的を達成するために、基本的には次のように構成される。
(I)一つは、装置(走査型プローブ顕微鏡)に関する発明である。
すなわち、試料、参照極、対極、プローブを溶液中に設置した電気化学セルを有し、試料表面の凹凸形状を、前記プローブを用いて測定する走査型プローブ顕微鏡において、
前記参照極に対する前記プローブの電位を可変制御するプローブ電位制御手段と、
可変制御されるプローブ電位の下で、前記プローブと前記対極との電気化学反応により前記プローブに流れるプローブ電流を検出する電流検出手段と、を備え、
前記プローブ電位と前記プローブ電流から、前記溶液中に存在するイオンが前記プローブに捕獲されて酸化もしくは還元反応を示す電位の範囲を特定して、溶液中のイオンの同定と定量を行なうよう構成したことを特徴とする。
(II)もう一つは、走査型プローブ顕微鏡を用いて溶液中のイオン検出方法に関する発明である。
すなわち、試料表面凹凸形状を測定する走査型プローブ顕微鏡の電気化学セルを構成する試料、参照極、対極、プローブを溶液中に設置し、この走査型プローブ顕微鏡を用いて前記溶液中に存在するイオンを検出する方法であって、
参照極に対する前記プローブの電位を可変制御して、このプローブ電位制御により前記プローブと前記対極との間に電気化学反応を生じさせて、前記溶液中に存在するイオンを前記プローブにより捕獲し酸化もしくは還元反応させ、この電気化学反応により前記プローブと前記対極との間に流れるプローブ電流を検出するプローブ電流検出ステップと、
前記プローブ電位及びプローブ電流を入力してプローブに関する電位−電流曲線データを作成し、この電位−電流曲線データを、予め記憶しておいた種々の元素に関する標準電極電位及び検量線と照合して、前記溶液中のイオンを同定し且つ定量するイオン判定ステップと、を有することを特徴とする。
これらの装置及び方法に関連して、次のような任意に採用し得る手段も提案する。
例えば、前記参照極に対する前記プローブの電位は、ファンクションジェネレータで印加される電圧入力部により且つ前記プローブと前記参照極との間に配置されるボルテージフォロアとポテンショスタットを介して設定されるようにしてもよい。
また、前記プローブ顕微鏡が走査型トンネル顕微鏡である場合には、前記プローブと前記試料の間にトンネル電流を流して前記試料の表面凹凸形状が測定されている時には、前記プローブの電位を該プローブと前記対極の間に電流が流れないように自然電位に設定してもよい。
さらに、前記プローブ電位の可変制御により溶液中に存在するイオンの同定と定量のためのプローブ電流検出を行なう時には、前記試料の電位を該試料に電流が流れないように自然電位になるように設定してもよい。
さらに、前記プローブ顕微鏡が原子間力顕微鏡である場合には、前記プローブと前記試料の間の原子間力を利用して前記試料の表面凹凸形状が測定されている時には、前記プローブの電位を該プローブと前記対極の間に電流が流れないように自然電位に設定してもよい。
さらに原子間力顕微鏡の場合にも、前記プローブ電位の可変制御により溶液中に存在するイオンの同定と定量のためのプローブ電流検出を行なう時には、前記試料の電位を該試料に電流が流れないように自然電位を設定するようにしてもよい。
本発明によれば、試料の表面形状観察に加えて、試料から溶液中に溶出するイオンを、走査型プローブ顕微鏡を利用して検出および解析でき、その試料の人体や水環境、各種装置などに及ぼす影響を知ることができる。特に、試料表面から溶液中に溶け出すイオンの種類と量、さらには試料表面の場所の依存性がわかる。
また、副次的には、上記のような金属イオンの検出を行う場合でも、試料の変質を防止し且つプローブ表面の汚染の機会をできるだけ防ぐことができる。
公知の先行技術(特許文献2)により開示された走査型プローブ顕微鏡の回路構成の一例を示す図。 公知の先行技術(特許文献2)により開示された走査型プローブ顕微鏡の回路構成の他の例を示す図。 本発明の実施例1に係る走査型プローブ顕微鏡(走査型トンネル顕微鏡)の回路構成を示す図。 本発明の実施例2に係る走査型プローブ顕微鏡(走査型トンネル顕微鏡)の回路構成を示す図。 本発明の実施例3に係る走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)の回路構成を示す図。 本発明の実施例4に係る走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)の回路構成を示す図。
以下に本願発明の実施の形態を、図3から図5に示す実施例に基づき詳述するが、その説明に先立ち、特許文献2(特公平6−105262号公報)に開示された先行技術との相違点も比較説明する便宜上、先ず、この先行技術の一例について、図1、図2に用いて説明する。
[従来先行技術]
図1は、公知の先行技術(特許文献2)の走査型プローブ顕微鏡として、走査型トンネル顕微鏡の回路構成の一例を示すものである。
試料(試料極)1、参照極2、対極3、プローブ4の4電極により構成された電気化学セル5において、電圧入力部6で印加された入力電圧e1を用い且つボルテージフォロア7およびポテンショスタット8を介して、試料1の電位が参照極2に対してe1になるように設定される。ボルテージフォロア7およびポテンショスタット8は、電力入力部6に接続されると共に、電力入力部6の下流で参照極2と対極3との間に配置される。
電気化学セル5が溶液中に浸漬され、試料1が電位e1で設定されることで、試料1と対極3間で電気化学反応が行われ、それにより試料1・対極3間に流れる電流が、試料1に接続された電流フォロア9を経て、試料電流出力部10により検出される。電圧入力部6と試料1の電流出力部10とを記録部に入力することで、試料の電位−電流曲線等の電気化学測定が可能になる。一方、プローブ4には、電圧入力部11によりe2の電圧が加わり、参照極2に対してe1+e2の電位に設定される。プローブ4の電位と試料の電位との電位差e2により、試料1とこれに極く接近しているプローブ4との間にトンネル電流が流れる。トンネル電流は、トンネル電流出力部12により測定される。プローブ4は、試料表面に沿って走査するので、トンネル電流を記録することで試料表面の凹凸形状測定が可能になる。
図2は、先行技術(特許文献2)の走査型トンネル顕微鏡の回路構成の他の例を示すものである。
この場合にも、電気化学セル5は、試料(試料極)1、参照極2、対極3、プローブ4の4電極により構成するが、電力入力部6の下流で参照極2と試料1との間にボルテージフォロア7とポテンショスタット8を配置する点で、図1の例と異なる。この場合にも、電圧入力部6で印加された入力電圧e1を用い且つボルテージフォロア7およびポテンショスタット8を介して、試料1の電位が参照極2に対してe1になるように設定される。電位e1で試料1が設定されることで、試料1と対極3間で電気化学反応が起こり、それにより試料1・対極3間に流れる電流は、対極3に接続された電流フォロア9を経て、試料電流出力部10により検出される。プローブ4の電圧e2の印加や、試料1とプローブ4との間に流れるトンネル電流の原理は、図1の例と同様である。
上記した公知の先行技術と以下に述べる本発明の実施例(図3〜図6)は、走査型プローブ顕微鏡を用いて表面形状観察を行う点は共通するが、先行技術が、表面形状観察(プローブ4・試料1間のトンネル電流測定)と同時に試料の電気化学反応測定(試料1・対極3間に流れる電流の測定)を行うのに対して、本実施例では、表面形状観察のほかに、後述するように、(i)試料から溶液中に溶出したイオンの測定(プローブ4・対極3間に流れる電流の測定)を行なう点と、(ii)溶液中のイオン検出は、表面形状観察(トンネル電流測定)と同時に行うのではなく、(i)及び(ii)の両者を切り換えて実施する点が異なる。
まず、本発明の実施例1に係る走査型プローブ顕微鏡について図3により説明する。
図3の実施例は走査型トンネル顕微鏡を用いたものであり、試料(試料極)1、参照極2、対極3、プローブ4により電気化学セル5を構成し、電気化学セル5は、溶液中に設置される点については、先行技術同様である。
相違する点は、まず、先行技術では、ボルテージフォロア7とポテンショスタット8を電圧入力部6の下流で、且つ参照極2と対極3間(図1)或いは参照極2と試料1間(図2)に配置したのに対して、本実施例では電圧入力部6の下流で参照極2とプローブ4間に配置した点にある。これにより、電圧入力部6で印加された電圧e1を用いて且つボルテージフォロア7とポテンショスタット8を介して、プローブ4の電位が参照極2に対して電位e1になるように設定されている。対極3は電流フォロア9の仮想グランドに設定されており、電流フォロア9のネガティブフィードバック抵抗Roを介して電流出力部10に接続されている。
また、先行技術では、参照極2に対する試料電位e1が固定されているの対して、本実施例では、参照極2に対するプローブ電位e1が、コントローラ100および電圧入力部6,ボルテージフォロア7,ポテンショスタット8を介して可変制御されるように設定されている。コントローラ100は、コンピュータにより構成される。このコンピュータ100は、コントローラとして機能するほかに、次に述べるイオンの同定及び量を求める判定手段として機能する。
本実施例では、溶液中のプローブ周囲におけるイオン検出を行う場合に、参照極に対するプローブ電位e1の設定により、プローブ4と対極3間で電気化学反応が行われ、それによりプローブ4・対極3間に流れる電流Iが、対極3に接続された電流フォロア9を経て電流出力部10により検出される。すなわち、溶液中のイオンが酸化もしくは還元電位のプローブ4により補獲され、それによりイオンの種類が特定(同定)される。さらに、イオンの量を酸化もしくは還元電流の値から求める。より詳細には、コンピュータ100(プローブ電位制御手段の指令系)は、プローブ電位e1を可変制御して、電流出力部10の電流Iを検出し、そのプローブの電位−電流データから、溶液中のイオンが酸化もしくは還元反応を示す電位の範囲にあって、プローブ4・対極3間に流れる電流が最も流れる電位となった時の電位e1を特定する。さらに、その特定した電位を予め記憶しておいた各元素の標準電極電位と照らし合わせることにより、溶液中のイオンの種類を高感度に特定し、また、予め記憶しておいた検量線からその量を求める。イオンの量は、プローブ4・対極3間に流れる電流I、すなわちイオンの酸化もしくは還元電位で流れる電流値から、以下の式で示すように定量的に求められる。
I1p=4nFcDa
ここで、I1pは検出された電流I1pのピーク電流値、nは反応に関与する電子数、Fはファラデー定数、cは検出されたイオンの濃度、Dは拡散定数、aはプローブの半径である。この式から明らかなように、プローブ4に流れる電流(すなわちプローブ4・対極3間に流れる電流I)は、拡散定数Dが同じ場合、例えば、反応が同じである場合、イオンの種類が同じである場合などでは、イオンの濃度に比例する。本実施例では、予め濃度が既知の溶液を数種類の濃度で準備し、濃度に対するピーク電流値の変化を調べて検量線を作成し記憶しておき、これを用いて、イオン判定手段としてのコンピュータ100によりイオンの定量を行う。
具体的には、プローブ4・対極3間に流れる電流を電流出力部10で検出し、これをプローブ電位e1と関連付けて記録部に入力し、それをプローブ4の電位−電流曲線と照らし合わせることで、溶液中のイオンの特定と定量が可能になる。
本実施例では、イオン検出では、試料1に電流が流れないように、試料電位e2を自然電位にしておく。すなわち、イオン検出の際、電圧入力部11により試料1に印加される電圧値e2を、プローブ4と試料1間に流れる電流の出力がゼロになるように設定する。この自然電位設定もコンピュータ100により行なわれる。これにより、イオン検出モードでは、溶液中のイオンを、プローブ4と対極3の電気化学作用によりプローブ4が捕獲し、試料1には電気化学反応を起こさせないので、試料1の変質を防止することができる。
一方、プローブ4・試料1間にトンネル電流Iを生じさせて、試料1の表面形状を観察する場合(トンネル電流測定の場合)には、試料1には電圧入力部11により、e2の電圧をトンネル電流用の電圧に制御して、e2を試料1に加える。これにより、試料1は、参照極2に対してe1+e2の電位に設定される。プローブ4の電位と試料1の電位との電位差e2によりプローブ4と試料1間に流れるトンネル電流Iがトンネル電流出力部12によって測定される。このトンネル電流測定では、プローブ電位e1を、プローブ4・対極3間に電流が流れないように自然電位にしておく。即ち、表面形状測定の際、電圧入力部6で印加された電圧値e1を、電流出力部10により検出されるプローブ4の電流出力がゼロになるように設定する。これにより、プローブ4の表面を溶液中のイオンによって汚染する機会を減らすことができる。この時、電圧入力部6、電圧入力部11はファンクションジェネレータであっても良い。
本発明の実施例2に係る走査型プローブ顕微鏡について図4により説明する。
図4の実施例も走査型トンネル顕微鏡を用いたものであり、実施例1と同一符号は、同一或いは共通する要素を示すものである。
本実施例は、実施例1と基本的な概念は同様であり、試料1、参照極2、対極3、探針4の電極を溶液中に設置した電気化学セル5を備え、ボルテージフォロア7とポテンショスタット8を電圧入力部6の下流で参照極2とプローブ4間に配置している。
溶液中に溶出するイオンを、プローブ4・対極3間に流れる電流I(電流出力部10)により測定する点、この場合の試料電位e1を自然電位に設定する点、試料1・プローブ4間に流れるトンネル電流Iを測定する場合には、プローブ電位を自然電位にしておく点、対極3は電流フォロー9の仮想グランドに設定されている点も実施例1同様である。実施例1と相違する点は、試料1・プローブ4間に流れるトンネル電流を測定する場合の回路構成である。
すなわち本実施例では、トンネル電流Iを測定する場合には、試料1には、ボルテージフォロア14および電流フォロー13を介して、電圧入力部15によりe2の電圧が加わり、試料1は、参照極2に対してe1+e2の電位に設定される。プローブ4の電位と試料1の電位との電位差e2によりプローブ4と試料1間に流れるトンネル電流がトンネル電流出力部16によって測定される。試料1は、電流フォロー13の仮想グラウンドに接続されて、電圧入力e2がボルテージフォロア14および上記仮想グラウンドを介して試料1に与えられている。
本実施例によれば、参照極2に対するプローブ4の電位e1は、電圧入力部6の電圧e1を用いて且つボルテージフォロア7とポテンショスタット8を介して規制され、一方、参照極2に対する試料1の電位e2+e1は、上記電圧入力部6、ボルテージフォロア7、ポテンショスタット8および電圧入力部15、ボルテージフォロア14により規制される、いわゆるバイポテンショスタット回路構成を採用することで、ノイズに左右されない試料電位やプローブ電位の規制を確実に行うことができる。この場合の電圧入力部6、電圧入力部15はファンクションジェネレータであっても良い。
イオン検出の際(プローブ4・対極3間に流れる電流I1を電流出力部10により測定する場合)に、試料1の電位を自然電位に設定するのは、電圧入力部15、ボルテージフォロア14、電流フォロー13を介して行なわれる。
図5は、本発明を原子間力顕微鏡に適用した実施例である。
原子間力顕微鏡の測定原理は、周知のように、プローブと試料に作用する原子間力を検出するタイプの顕微鏡である。
ばね部材で形成されたカンチレバー4bの先端に支持されたプローブ4が、試料1の表面に微小な力で接触する。試料1の表面を、プローブ4を用いて走査するときに(コントローラ23によるXYステージ25の走査)、その試料表面の凹凸形状によりカンチレバー4bが撓み変形する。この撓み量は、レーザ光源20および光センサ21により検出される。すなわち、レーザ光源20によりカンチレバー4b上を照射し、その反射光の位置の変化を光センサ21およびプリアンプ22を介して検出することで、撓み量が求められる。この撓み量が一定になるように、コントローラ23により試料1のZ軸調整機構24を制御することで、その制御信号を基に試料表面の凹凸形状が測定される。
本実施例では、走査型トンネル顕微鏡と異なるので、当然ながら試料1・プローブ4a間にはトンネル電流生成用の電圧を加えないが、その他の構成は実施例1(図3)と同様の構成である。上記した原子間力顕微鏡用のコントローラ23は、コンピュータ100により構成され、その他の機能として、実施例1、2で述べたようなプローブ電位制御手段やイオン判定手段として機能する。
すなわち、この場合にも、試料1、参照極2、対極3、プローブ4aの電極を溶液中に設置した電気化学セル5において、電圧入力部6で印加された電圧値e1を用いて且つボルテージフォロア7およびポテンショスタット8を介して、プローブ4aの電位が参照極2に対してe1になるよう設定される。プローブ電位e1は、溶液中のイオン検出モードの場合に、コンピュータ100により可変制御される。この電位制御において、プローブ4aと対極3間で行われる電気化学反応によって流れる電流Iは、対極3に接続された電流フォロー9を経て電流出力部10により検出される。電圧入力部6とプローブ4aの電流出力部10とを記録部に入力することで、プローブ4aの電位−電流曲線等の電気化学測定が可能となる。
電圧入力部6および電圧入力部11はファンクションジェネレータであっても良い。また、対極3は、電流フォロー9の仮想グランドに設定されている。本実施例においても、原子間力による試料表面観察では、何らかの理由でプローブ電位が生じてプローブ4a・対極3間に電流が流れないように、上記プローブ電位制御手段(コンピュータ100)、電圧入力部6、ボルテージフォロワ7およびポテンショスタット8を介して、プローブ電位e1を自然電位にしておく。すなわち、試料表面の形状測定の際、部6で印加された電圧値e1を、電流出力部10により検出されるプローブ4aの電流出力部がゼロになるように設定する。これにより、プローブ4aの表面を溶液中のイオンによって汚染することがない。
さらに、本実施例においても、溶液中のイオンをプローブ4a・対極3間で検出する時には、試料1に電流が流れないように、試料電位を自然電位にしておく。すなわち、この場合には、電圧入力部11は、実施例1のようにトンネル電流測定のために用いるものではないが、イオン検出の際の自然電位設定に利用される。換言すれば、イオン検出の際、電圧入力部11で印加された電圧値e2を、電流出力部12により検出されるプローブ4aと試料1間に流れる電流出力部がゼロになるように設定する。これにより、試料1を変質させることがない。
図5は、本発明を原子間力顕微鏡に適用した実施例である。
本実施例のトンネル電流測定の測定原理は、実施例3と同様であるので、その説明を省略する。
また、本実施例では、走査型トンネル顕微鏡と異なり、試料1・プローブ4a間にはトンネル電流生成用の電圧を加えないが、その他の構成は実施例2(図4)と同様の構成であり、プローブによる溶液中のイオン検出のメカニズムについては、上記実施例3(図5)同様であるのでその説明を省略する。
本実施例と実施例3との相違点は、溶液中のイオンをプローブ4a・対極3間で検出する時に試料1に電流が流れないように設定される試料の自然電位を、電圧入力部15、ボルテージフォロア14、電流フォロー13により設定する点である。
溶液中におけるイオンの溶出挙動は、電気化学の重要な分野であり、電解工業、防食、表面処理技術、メッキ工業、半導体工業、バイオセンサ、或いは医療などと密接な関係がある。これらの現象の多くは試料近傍で起っており、試料表面の構造が本質を握っており、表面の構造を原子レベルで観察し、且つそこで溶解するイオンを補獲し、どの種類のイオンがその位溶け出しているかを観測することは様々な電気化学反応を解明する上で重要なことである。本発明は、溶液中に存在する微量のイオンをプローブの電気化学反応により検出する走査型プローブ顕微鏡装置を提供するものであり、これによりプローブ顕微鏡に化学的選択性を付与することができる。
なお、上記した実施例では、発明の適用対象の走査型プローブ顕微鏡として、走査型トンネル顕微鏡及び原子間力顕微鏡を例示したが、これに限定するものではなく、構造的に試料、参照極、対極、プローブを有する電気化学セルを有し、参照極に対するプローブ電位を設定可能であれば、他の方式の走査型プローブ顕微鏡、例えば、磁気力顕微鏡、QUID顕微鏡、ホール素子顕微鏡、静電気力顕微鏡などの種々のプローブ使用顕微鏡に適用可能であり、その方式を限定するものではない。
1…試料、2…参照極、3…対極、4…プローブ、5…電気化学セル、6…電圧入力部、7…ボルテージフォロア、8…ポテンショスタット、9…電流フォロー、10…電流出力部、11…電圧入力部、12…電流出力部、100…コンピュータ(可変電圧制御手段の指令部、イオン判定手段)。

Claims (12)

  1. 試料、参照極、対極、プローブを溶液中に設置した電気化学セルを有し、試料表面の凹凸形状を、前記プローブを用いて測定する走査型プローブ顕微鏡において、
    前記参照極に対する前記プローブの電位を可変制御するプローブ電位制御手段と、
    可変制御されるプローブ電位の下で、前記プローブと前記対極との電気化学反応により前記プローブに流れるプローブ電流を検出する電流検出手段と、を備え、
    前記プローブ電位と前記プローブ電流から、前記溶液中に存在するイオンが前記プローブに捕獲されて酸化もしくは還元反応を示す電位の範囲を特定して、溶液中のイオンの同定と定量を行なうよう構成したことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
  2. 請求項1において、前記走査型プローブ顕微鏡は、走査型トンネル顕微鏡あるいは原子間力顕微鏡である走査型プローブ顕微鏡。
  3. 請求項1又は2において、
    前記プローブ電位制御手段は、電圧入力部の下流で且つ前記プローブと前記参照極との間に配置されるボルテージフォロアとポテンショスタットを含んでいる走査型プローブ顕微鏡。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項において、
    前記プローブ電位と前記プローブ電流の関係を示す電位−電流データを入力し、これらのデータを、予め記憶しておいた種々の元素に関する標準電極電位及び検量線と照合して、前記溶液中のイオンを同定し且つ定量するイオン判定手段を備える走査型プローブ顕微鏡。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項において、
    前記プローブ顕微鏡が走査型トンネル顕微鏡であり、
    前記プローブと前記試料の間にトンネル電流を流して前記試料の表面凹凸形状が測定されている時には、前記プローブ電位制御手段を介して、前記プローブの電位を該プローブと前記対極の間に電流が流れないように自然電位にし、
    前記プローブ電位の可変制御により前記プローブと前記対極との間に電気化学反応を生じさせて前記溶液中に存在するイオンの同定と定量のためのプローブ電流検出を行なう時には、試料電位制御手段を介して、前記試料の電位を該試料に電流が流れないように自然電位にする設定するよう構成した走査型プローブ顕微鏡。
  6. 請求項1ないし4のいずれか1項において、
    前記プローブ顕微鏡が原子間力顕微鏡であり、
    前記プローブと前記試料の間の原子間力を利用して前記試料の表面凹凸形状が測定されている時には、前記プローブ電位制御手段を介して、前記プローブの電位を該プローブと前記対極の間に電流が流れないように自然電位にし、
    前記プローブ電位の可変制御により前記プローブと前記対極との間に電気化学反応を生じさせて前記溶液中に存在するイオンの同定と定量のためのプローブ電流検出を行なう時には、試料電位制御手段を介して、前記試料の電位を該試料に電流が流れないように自然電位にする設定するよう構成した走査型プローブ顕微鏡。
  7. 請求項5又は6において、前記プローブ電位設定のための電圧入力部および前記試料の電位設定のための電圧入力部は、ファンクションジェネレータで構成されている走査型プローブ顕微鏡。
  8. 請求項3において、
    ファンクションジェネレータで印加された入力電圧が、前記ボルテージフォロア及びポテンショスタットを介して前記参照極に対する前記プローブ電位となるよう設定され、このとき前記対極と前記プローブ間で行われる電気化学反応によって流れる電流が、対極に接続された電流フォロアを介して電流出力部により検出され、この電流と可変制御されるプローブ電位とによって、前記プローブの電流−電位曲線データを求めるよう構成した走査型プローブ顕微鏡。
  9. 試料表面凹凸形状を測定する走査型プローブ顕微鏡の電気化学セルを構成する試料、参照極、対極、プローブを溶液中に設置し、この走査型プローブ顕微鏡を用いて前記溶液中に存在するイオンを検出する方法であって、
    参照極に対する前記プローブの電位を可変制御して、このプローブ電位制御により前記プローブと前記対極との間に電気化学反応を生じさせて、前記溶液中に存在するイオンを前記プローブにより捕獲し酸化もしくは還元反応させ、この電気化学反応により前記プローブと前記対極との間に流れるプローブ電流を検出するプローブ電流検出ステップと、
    前記プローブ電位及びプローブ電流を入力してプローブに関する電位−電流曲線データを作成し、この電位−電流曲線データを、予め記憶しておいた種々の元素に関する標準電極電位及び検量線と照合して、前記溶液中のイオンを同定し且つ定量するイオン判定ステップと、を有することを特徴とする溶液中のイオン検出方法。
  10. 請求項9において、
    前記参照極に対する前記プローブの電位は、ファンクションジェネレータで印加される電圧入力部により且つ前記プローブと前記参照極との間に配置されるボルテージフォロアとポテンショスタットを介して設定されるようにしてある溶液中のイオン検出方法。
  11. 請求項9又は10において、
    前記プローブ顕微鏡が走査型トンネル顕微鏡であり、
    前記プローブと前記試料の間にトンネル電流を流して前記試料の表面凹凸形状が測定されている時には、前記プローブの電位を該プローブと前記対極の間に電流が流れないように自然電位にし、
    前記プローブ電位の可変制御により前記プローブと前記対極との間に電気化学反応を生じさせて前記溶液中に存在するイオンの同定と定量のためのプローブ電流検出を行なう時には、前記試料の電位を該試料に電流が流れないように自然電位にする設定する溶液中のイオン検出方法。
  12. 請求項9又は10において、
    前記プローブ顕微鏡が原子間力顕微鏡であり、
    前記プローブと前記試料の間の原子間力を利用して前記試料の表面凹凸形状が測定されている時には、前記プローブの電位を該プローブと前記対極の間に電流が流れないように自然電位にし、
    前記プローブ電位の可変制御により前記プローブと前記対極との間に電気化学反応を生じさせて前記溶液中に存在するイオンの同定と定量のためのプローブ電流検出を行なう時には、前記試料の電位を該試料に電流が流れないように自然電位にする設定する溶液中のイオン検出方法。
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