JP2013023670A - 発光体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】グラフェン構造体を含む基材と、前記基材の表面を被覆する被覆材とを備えた発光体。前記グラフェン構造体は、単層又は多層のグラフェンナノシートからなり、シートの端部にアームチェア型端面部を含むシート部と、前記アームチェア型端面部と1辺のみを共有して結合している末端6員環と、前記末端6員環を構成する炭素原子の内、前記アームチェア型端面部と結合していない炭素原子、及び、前記シート部を構成する炭素原子から選ばれるいずれか1以上の炭素原子に結合している窒素含有官能基とを備えているものが好ましい。
【選択図】図3
Description
発光体の内、蛍光を発する蛍光体としては、
(1)酸化物、窒化物、硫化物などを母体とし、発光中心となるイオンがドープされた無機蛍光体、
(2)希土類錯体などの有機蛍光体、
(3)カーボンナノ粒子、グラフェンナノシートなどのカーボン蛍光体、
などが知られている。
これらの中でも、グラフェンをベースとするカーボン蛍光体は、電気的特性、熱的特性及び機械的特性に優れ、かつ、化学的にも安定であるという特徴を持つ。
例えば、非特許文献1には、
(1)出発原料として、グラフェン酸化物(GO)の熱還元により得られるマイクロメートルサイズの波形のグラフェンナノシート(GSs)を用い、
(2)GSsを高濃度のH2SO4及びHNO3で酸化処理することにより、エッジ及び基底面上にC=O/COOH、OH、C−O−Cなどの酸素含有官能基を導入し、
(3)酸化処理されたGSsを200℃で水熱処理し、
(4)得られたコロイド溶液をろ過及び透析する
ことにより得られるグラフェン量子ドット(GQDs)が開示されている。
同文献には、
(a)水熱処理によって脱酸素が生じ、GQDsの(002)面間隔は、バルクのグラファイトに近づく点、
(b)水熱処理によってGSsの大きさが著しく小さくなり、透析によって極めて微細なGQDs(平均直径:9.6nm)を分離することができる点、
(c)酸化処理されたGSsは、フォトルミネセンス(PL)挙動を示さないのに対し、GQDsは、中性の媒体中においても、明るい青色のルミネセンスを放出する点、
(d)GQDsは、320nmの励起によって、430nmに強いピークを持つPLスペクトルを示す点、及び、
(e)GQDsのPL量子効率は6.9%であり、発光性のカーボンナノ粒子と同等である点、
が記載されている。
同文献には、
(a)GOのPL特性は、sp3マトリックス中に埋め込まれた小さなsp2カーボンクラスターの中に局在している電子−ホール(e−h)対の再結合に由来する点、
(b)GOの吸光度は、ヒドラジン暴露時間と共に増加し、酸素の変化(出発原料のGOの〜39at%から還元処理されたGOの7〜8at%まで)と一致する点、
(c)GO薄膜のPLピーク位置は、還元処理による変化が少なく、390nm付近に中心がある点、及び、
(d)形成直後のGO薄膜のPL強度は弱いのに対し、短時間のヒドラジン蒸気の暴露はPL強度の劇的な増加をもたらす点、
が記載されている。
同文献には、
(a)このグラフェンは、種々の有機溶媒中において凝集することなく安定である点、
(b)このグラフェンをトルエン中に分散させ、室温において、510nmで励起すると、670nmと740nmに発光ピークが現れる点、
(c)740nmの発光は、燐光であり、その時間依存挙動は、室温において、4μsの時定数を持つ単一の指数関数減衰で表される点、及び、
(d)670nmの発光は、蛍光であり、5.4nsと1.7nsの時定数を持つ双指数間数減衰に適合する点、
が記載されている。
しかしながら、従来の方法により得られるカーボン蛍光体は、非特許文献3に記載されているように、発光寿命が極めて短い。また、これまでに報告されているカーボン蛍光体の発光効率は、非特許文献1に記載されているように、最大で6.9%である。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、相対的に高い発光効率を示す新規な発光体を提供することにある。
グラフェン構造体を含む基材と、
前記基材の表面を被覆する被覆材とを備え、
前記グラフェン構造体は、
単層又は多層のグラフェンナノシートからなり、シートの端部にアームチェア型端面部を含むシート部と、
前記アームチェア型端面部と1辺のみを共有して結合している末端6員環と
を備えていることを要旨とする。
(a)前記末端6員環を構成する炭素原子の内、前記アームチェア型端面部と結合していない炭素原子、及び、
(b)前記シート部を構成する炭素原子(末端6員環と共有している辺上の炭素原子を含む)
から選ばれるいずれか1以上の炭素原子に結合している窒素含有官能基をさらに備えているものが好ましい。
これは、
(1)被覆材中の官能基の回転運動や振動運動がグラフェン構造体のスピン−軌道相互作用を増大させ、スピン多重度の異なる励起準位への項間交差が起こるため、
(2)被覆材と基材との間に形成される水素結合が、グラフェン構造体の三重項励起状態と溶存酸素との反応による消光を抑制するため、又は、
(3)グラフェン構造体のエッジ構造に形成されているσ−π電子対がスピン−起動相互作用を増大させ、スピン多重度の異なる励起準位への項間交差が起こるため、
と考えられる。
さらに、グラフェン構造体に窒素を導入すると、発光効率がさらに増大する。これは、窒素の導入によって、非輻射再結合が抑制されるためと考えられる。
[1. 発光体]
本発明に係る発光体は、基材と、被覆材とを備えている。
[1.1. 基材]
本発明において、「基材」とは、グラフェン構造体を含むものをいう。基材は、グラフェン構造体のみからなるもの(狭義のグラフェン構造体)であっても良く、あるいは、窒素をさらに含むもの(窒素含有グラフェン構造体)であっても良い。基材は、形態(例えば、シートの積層数、サイズなど)や窒素含有量がほぼ同一である1種類のグラフェン構造体のみからなるものでも良く、あるいは、形態及び/又は窒素含有量が異なる2種以上のグラフェン構造体の混合物であっても良い。
本発明において、「グラフェン構造体」とは、シート部と、末端6員環とを備えているものをいう。グラフェン構造体は、さらに窒素含有官能基を備えているもの(窒素含有グラフェン構造体)であっても良い。
本発明において「シート部」とは、単層又は多層のグラフェンナノシートからなり、シートの端部にアームチェア型端面部(図1(a)参照)を含むものをいう。シート部の端部は、アームチェア型端面部のみからなるものが望ましいが、一部にジグザグ型端面部(図1(b)参照)を含んでいても良い。
また、本発明において「シート部」というときは、グラフェンナノシートを構成する6員環の内、1辺を介してアームチェア型端面部に結合している末端6員環(図1(a)中、点線で表示)は含まれない。
シート部は、単層のグラフェンナノシートからなるものでも良く、あるいは、多層のグラフェンナノシートからなるものでも良い。
PL特性を示すためには、グラフェンナノシートは、sp3型の混成軌道をもつ炭素からなる絶縁性のマトリックス(sp3マトリックス)中に、sp2型の混成軌道をもつ炭素からなる微細なクラスター(sp2クラスター)が埋め込まれた構造を備えている必要があると考えられている。すなわち、PL特性を示すグラフェンナノシートにおいて、sp2クラスターは、発光中心として機能すると考えられている。
本発明において、「窒素が導入されている」とは、
(1)グラフェンナノシートを構成する炭素の一部が窒素で置換されていること、
(2)グラフェンナノシートのエッジ(末端6員環と共有している辺上の原子を含む)及び/又は基底面に窒素含有官能基が結合していること、又は、
(3)グラフェンナノシートの表面又はシート間に窒素含有化合物が吸着していること、
をいう。
グラフェンナノシートに導入された窒素は、置換、結合又は吸着のいずれか1種の形態で存在していても良く、あるいは、2種以上の形態で存在していても良い。また、窒素含有グラフェンナノシートは、これらのいずれか1種の窒素含有官能基又は窒素含有化合物が置換、結合又は吸着しているものでも良く、あるいは、2種以上が置換、結合又は吸着してるものでも良い。
窒素含有官能基及び窒素含有化合物については、後述する。
本発明において「末端6員環」とは、シート部のアームチェア型端面部と1辺のみを共有して結合している炭素6員環をいう。
図1(a)に、アームチェア型端面部に結合している末端6員環を示す。図1(a)中、シート部は実線で表され、末端6員環は破線で表されている。高い発光特性を得るためには、1個のシート部に含まれる末端6員環の数は、多いほど良い。
上述したように、基材を構成するグラフェン構造体は、さらに窒素を含むもの(窒素含有グラフェン構造体)であっても良い。この場合、窒素は、窒素含有官能基がグラフェン構造体を構成する炭素原子に結合する形態で含まれているのが好ましい。
すなわち、基材が窒素含有グラフェン構造体を含む場合において、窒素含有グラフェン構造体は、
(a)末端6員環を構成する炭素原子の内、アームチェア型端面部と結合していない炭素原子、及び、
(b)シート部を構成する炭素原子(末端6員環と共有している辺上の炭素原子を含む)
から選ばれるいずれか1以上の炭素原子に結合している窒素含有官能基を備えているものが好ましい。
末端6員環又はシート部は、これらのいずれか1種の窒素含有官能基が結合しているものでも良く、あるいは、2種以上が結合しているものでも良い。また、末端6員環に窒素含有官能基が結合している場合、末端6員環の一部に窒素含有官能基が結合していても良く、あるいは、すべての末端6員環に窒素含有官能基が結合していても良い。
グラフェン構造体に含まれる窒素含有量は、発光効率及び発光波長に影響を与える。一般に、窒素含有量が多くなるほど、発光波長の変化量が大きくなる。このような効果を得るためには、窒素含有量は、0.5wt%以上が好ましい。窒素含有量は、さらに好ましくは1wt%以上、さらに好ましくは2wt%以上、さらに好ましくは5wt%以上である。
一方、窒素含有量が多くなりすぎると、電子状態が大幅に変化し、PL特性が得られない。従って、窒素含有量は、50wt%以下が好ましい。窒素含有量は、さらに好ましくは40wt%以下、さらに好ましくは30wt%以下、さらに好ましくは20wt%以下、さらに好ましくは10wt%以下である。
グラフェン構造体の平均質量は、発光効率及び発光波長に影響を与える。
ここで、「平均質量」とは、質量スペクトルを測定することにより得られる単位電荷当たりのグラフェン構造体の質量の平均値をいう。平均質量とグラフェン構造体のサイズには相関があり、平均質量が小さくなるほど、グラフェン構造体のサイズが小さくなることを表す。
一般に、グラフェン構造体のサイズが小さくなるほど、量子サイズ効果により、発光波長は短くなる。可視光領域で発光させるためには、グラフェン構造体の平均質量は、500m/z以上が好ましい。平均質量は、さらに好ましくは、1000m/z以上である。
一方、グラフェン構造体のサイズが大きくなりすぎると、可視光領域で発光しなかったり、あるいは、発光中心からの蛍光がシートに再吸収される、いわゆる「消光」が起こるため、発光効率が低下する。従って、グラフェン構造体の平均質量は、50000m/z以下が好ましい。平均質量は、さらに好ましくは10000m/z以下、さらに好ましくは5000m/z以下、さらに好ましくは3000m/z以下である。
グラフェン構造体の厚さ(すなわち、シート部の積層数)は、発光効率及び発光波長に影響を与える。
シート部が単層であっても、蛍光体として機能する。単層のグラフェンナノシートの厚さは、約0.3nmである。すなわち、グラフェン構造体の平均厚さは、0.3nm以上であれば良い。
しかしながら、グラフェン構造体の厚さが厚くなりすぎると、電子構造がバルクに近づくため、効率的な発光が得られない。従って、グラフェン構造体の平均厚さは、50nm以下が好ましい。平均厚さは、さらに好ましくは、10nm以下、さらに好ましくは、5nm以下である。
厚さの測定方法としては、
(1)原子間力顕微鏡(AFM)を用いてシートの厚さを直接測定する方法、
(2)透過電子顕微鏡(TEM)写真で観察されるシートの層数から理想的な1層分の厚み(0.34nm)を考慮して厚さを求める方法、
などがある。いずれの方法を用いても、ほぼ同等の結果が得られる。
「酸素含有官能基」とは、酸素を構成元素として含む官能基をいう。酸素含有官能基は、酸素原子を含んでいるため、電子吸引性が高い。酸素含有官能基としては、例えば、=O(キノン基)などがある。
シート部又は末端6員環を構成する炭素原子に酸素含有官能基の酸素原子が直接結合していると、発光効率が低下することが知られている。この点は、本願のグラフェン構造体も同様である。高い発光効率を得るためには、酸素含有官能基の量は、少ないほど良く、酸素含有官能基を含まないのが好ましい。
ここで、「酸素含有官能基を含まない」とは、XPS(X線光電子分光法)C 1sスペクトルをピーク分離したときに、全ピーク面積に対するC−Oに相当するピーク面積の比率が1%以下であることをいう。
基材の表面は、被覆材により被覆されている。被覆材は、基材の表面の全面を被覆するものでも良く、あるいは、基材の表面の一部を被覆するものでも良い。
本発明において、「被覆材」とは、極性基を有し、かつ、π共役性の結合を含んでいない化合物をいう。グラフェンナノシートは親水性であり、水に良く分散する。この点は、適量の窒素を含む窒素含有グラフェンナノシートも同様である。極性基を持つ被覆材と親水性のシートとは互いの親和性があるので、両者を極性溶媒中で混合すると、容易に結合して複合化する。
(1)イプシロンカプロラクタム、
(2)ポリアクリル酸樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレングリコール、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンオキサイド、ポリアミド樹脂、
(3)シラン、シラン化合物、
などがある。
被覆材には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
被覆材の量は、発光寿命に影響を与える。
一般に、被覆材の量が多くなるほど、発光寿命が増大する。一方、被覆材による必要以上の被覆は、効果が飽和し、実益がない。最適な被覆材の量は、基材の種類及び被覆材の種類に応じて選択する。通常、被覆材の量は、0.01〜99.9wt%である。
本発明に係る発光体は、従来のグラフェンをベースとする蛍光体に比べて、発光寿命が長い。平均厚さ、平均サイズ、窒素含有量などを最適化すると、発光寿命は、10ns以上、あるいは、100ns以上となる。
ここで、「発光寿命」とは、
(1)波長:320nmの光(励起光)を試料に照射し、
(2)励起光照射を遮断した後、波長:430nmの残光を測定間隔:0.01秒の条件で、残光強度が励起光照射中の発光強度に対して0.01%以下になるまで測定し、
(3)得られた時間と残光強度との関係を指数関数でフィッティングした時の係数(1/eになる時間)
をいう。
本発明に係る発光体は、1%以上の発光効率を示す。基材の平均厚さ(シート部の層数)、平均サイズ、窒素含有量などを最適化すると、発光効率は、さらに増大する。具体的には、これらを最適化することによって、発光体の発光効率は、7%以上、10%以上、15%以上、あるいは、20%以上となる。
ここで、「発光効率」とは、吸収された光子数に対する蛍光として発光される光子数の割合をいう。
グラフェン構造体の内、窒素含有量が所定量以上であるもの(窒素含有グラフェン構造体)は、以下のような方法により製造することができる。
すなわち、窒素含有グラフェン構造体の製造方法は、
窒素含有化合物を溶解させた水溶液に酸化グラファイト又はグラフェン酸化物を分散させる分散工程と、
前記水溶液を60℃以上で加熱する加熱工程と
を備えている。
[2.1.1. 窒素含有化合物]
「窒素含有化合物」とは、窒素を構成元素として含む化合物であって、水に溶解又は分散可能なものをいう。
窒素含有化合物としては、例えば、
(1)尿素、アンモニア、チオ尿素、ヒドラジン、硝酸エステル、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、ヒドロキシルアミン、ピリジンN−オキシド、N−ヒドロキシルアルキレンイミン、アジ化ナトリウム、ナトリウムアミド、カルボン酸アジド、
(2)メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミンなどのアルキルアミンやそのハロゲン酸塩、
(3)エチレンジアミン、プロパンジアミンなどのジアミン類、
などがある。
出発原料には、いずれか1種の窒素含有化合物を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
「酸化グラファイト」とは、グラファイトを構成するグラフェン層のエッジ及び/又は基底面上に酸素含有官能基(例えば、−COOH基、−OH基、−C−O−C−基など)が結合しているものをいう。酸化グラファイトは、例えば、強酸(濃硫酸)中で酸化剤(過マンガン酸カリウム、硝酸カリウムなど)を用いてグラファイトを酸化させることにより得られる。
「グラフェン酸化物」とは、酸化グラファイトの層間を剥離させることにより得られるシート状物質をいう。グラフェン酸化物は、例えば、酸化グラファイトを水溶液中に分散させ、超音波を照射することにより得られる。
本発明において、出発原料には、層間剥離を行う前の酸化グラファイト又は層間剥離させたグラフェン酸化物のいずれか一方を用いても良く、あるいは、双方を用いても良い。
窒素含有化合物を分散させた水溶液に酸化グラファイト及び/又はグラフェン酸化物を分散させた後、水溶液を加熱する。加熱は、反応速度を速くするために行う。加熱温度が水溶液の沸点を超える場合、加熱は、密閉容器内で行う。
加熱温度が低すぎると、現実的な時間内に反応が十分進行しない。従って、加熱温度は、60℃以上である必要がある。加熱温度は、さらに好ましくは、70℃以上、さらに好ましくは、80℃以上である。
一方、加熱温度が高くなりすぎると、置換や結合した窒素が脱離するおそれがある。また、高価な耐圧容器が必要となり、製造コストが増大する。従って、加熱温度は、260℃以下が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、240℃以下、さらに好ましくは、220℃以下である。
加熱条件を最適化すると、窒素含有グラフェン構造体の窒素含有量、平均厚さ、及び、平均サイズを制御できる。一般に、加熱温度が高くなるほど、及び/又は、加熱時間が長くなるほど、窒素含有量が減少し、平均厚さが薄くなり、あるいは、平均サイズが小さくなる。
得られた窒素含有グラフェン構造体は、そのまま各種の用途に用いても良く、あるいは、必要に応じて、洗浄、ろ過及び/又は透析を行っても良い。
グラフェン構造体の内、窒素含有量が所定量以下であるもの(狭義のグラフェン構造体)は、窒素含有化合物を溶解させた水溶液に代えて水を用いる以外は、窒素含有グラフェン構造体と同様の方法により製造することができる。
この場合、水素イオン指数が8以上の条件下で加熱を行うと、多量の末端6員環を含むグラフェン構造体が得られる。
本発明に係る発光体は、基材及び被覆材を極性溶媒に分散又は溶解させ、極性溶媒を揮発させることにより製造することができる。
極性溶媒は、基材及び被覆材を分散又は溶解可能なものであればよい。極性溶媒としては、具体的には、水、エタノール、メタノール、ブタノール、アセトンなどがある。極性溶媒の揮発条件は、特に限定されるものではなく、極性溶媒の種類に応じて最適な条件を選択すればよい。
非特許文献1〜3には、種々の方法で合成されたグラフェンをベースとする蛍光体が記載されている。しかしながら、非特許文献3に記載されているように、従来の蛍光体は、発光寿命が極めて短い。また、従来の蛍光体は、発光効率が低い。
(1)極性を持つ被覆材で基材表面を被覆すると、被覆材中の官能基の回転運動や振動運動がグラフェンナノシートのスピン−軌道相互作用を増大させる。その結果、三重項状態への項間交差が起こり、励起電子の緩和時間が長くなる。
(2)極性を持つ被覆材で基材表面を被覆すると、被覆材と基材との間に水素結合が形成される。この水素結合が、グラフェンナノシートの三重項状態と溶存酸素との反応による消光を抑制するために、長寿命化する。
すなわち、酸化グラファイト及び/又はグラフェン酸化物を水に分散させ、所定の温度で加熱すると、酸化グラファイトの層間剥離、及び剥離したシート状のグラフェン酸化物のナノサイズ化が起こる。これと同時に、酸化グラファイト又はグラフェン酸化物に結合している酸素含有官能基(例えば、エポキシド基)の還元反応が起こり、発光中心となるsp2クラスターの濃度が増加する。
この時、水溶液中に窒素含有化合物を添加すると、酸化グラファイト又はグラフェン酸化物に結合している酸素含有官能基の還元と同時に、窒素の置換、結合及び/又は吸着が起こる。その結果、窒素含有化合物を添加しない場合に比べて、高い発光効率が得られる。また、窒素含有量、シートの厚さ、シートの積層数等を制御することにより、発光波長を比較的容易に制御できる。
(1)末端6員環への窒素含有官能基の導入によって、非輻射再結合が抑制されるため、
(2)粒径分布が小さく、かつ、電子吸引性の高い酸素含有官能基(例えば、キノン基)を構造中に有していないため、
(3)sp3マトリックス中の炭素が窒素で置換されることによって、置換領域がsp2クラスターに類似する発光中心となり、発光中心の濃度が増加するため、又は、
(4)sp3マトリックス中の炭素に窒素含有官能基が結合することによって、結合領域がsp2クラスター領域に類似する発光中心となり、発光中心の濃度が増加するため、
と考えられる。
窒素の導入によって発光波長が変化するのは、
(1)末端6員環への窒素含有官能基の導入が起こり、
(2)sp2クラスター中の炭素が窒素で置換され、
(3)sp3マトリックス中の炭素に窒素含有官能基が結合し、又は、
(4)sp2クラスターの近傍に窒素含有化合物が吸着する
ことによって、電子が、カーボンの電子励起状態であるπ*励起状態から、よりエネルギーの低い窒素のn*励起状態へエネルギー移動するためと考えられる。
[1. 蛍光体分散液の作製]
0.1gの酸化グラファイトを0.2mol/Lの尿素水溶液:5mLに分散させた。得られた水溶液を密閉容器中、150℃×10時間で加熱した。加熱後、十分に洗浄を行い、窒素含有グラフェン構造体を分離した。
次に、0.1mgの窒素含有グラフェン構造体が分散している水分散液:5mLに、10mgのポリアクリル酸(被覆材)を溶解させた。得られた溶液を乾燥させ、窒素含有グラフェン構造体/ポリアクリル酸複合体を得た。
[2.1. 発光スペクトル]
分光蛍光光度計(FP−6500、日本分光(株)製)を用いて、発光体の発光スペクトルを測定した。
[2.2. 発光効率]
絶対蛍光量子収率測定装置(C9920−02、浜松ホトニクス(株)製)を用いて、発光効率を測定した。
[2.3. 発光寿命]
分光蛍光光度計(FP−6500、日本分光(株)製)を用いて、発光寿命の測定を室温で行った。
図2に、実施例1で得られた発光体の発光スペクトルを示す。実施例1の場合、スペクトルのピーク位置は、424nmであり、半値幅は、90nmであった。また、実施例1の場合、発光効率は、22%であり、非特許文献1に比べて非常に高い値であった(表1)。さらに、図3に、実施例1で得られた発光体の発光寿命を示す。実施例1の場合、発光寿命は、0.54秒であり(表1)、非常に長い値であることがわかった。
[1. 試料の作製]
被覆材としてカルボキシルメチルセルロースを用いた以外は、実施例1と同様にして、窒素含有グラフェン構造体/カルボキシメチルセルロース複合体を得た。
[2. 試験方法]
実施例1と同一条件下で、発光スペクトル、発光効率、及び、発光寿命を測定した。
[3. 結果]
図2、図3及び表1に結果を示す。実施例2の場合、スペクトルのピーク位置は433nmであり、半値幅は90nmであった。また、発光効率は21%であり、非特許文献1に比べて非常に高い値であった。さらに、発光寿命は、0.47秒であり、非常に長い値であることが分かった。
[1. 試料の作製]
被覆材としてポリビニルアルコールを用いた以外は、実施例1と同様にして、窒素含有グラフェン構造体/ポリビニルアルコール複合体を得た。
[2. 試験方法]
実施例1と同一条件下で、発光スペクトル、発光効率、及び、発光寿命を測定した。
[3. 結果]
図2、図3及び表1に結果を示す。実施例3の場合、スペクトルのピーク位置は430nmであり、半値幅は78nmであった。また、発光効率は23%であり、非特許文献1に比べて非常に高い値であった。さらに、発光寿命は、0.38秒であり、非常に長い値であることが分かった。
[1. 試料の作製]
実施例1で得られた窒素含有グラフェン構造体をそのまま試験に供した。
[2. 試験方法]
実施例1と同一条件下で、発光スペクトル、発光効率、及び、発光寿命を測定した。
[3. 結果]
表1に結果を示す。比較例1の場合、スペクトルのピーク位置は430nmであり、半値幅は67nmであった。また、発光効率は24%であった。しかしながら、発光寿命は、測定装置の解析下限値(0.01秒)以下であることが分かった。
Claims (7)
- グラフェン構造体を含む基材と、
前記基材の表面を被覆する被覆材とを備え、
前記グラフェン構造体は、
単層又は多層のグラフェンナノシートからなり、シートの端部にアームチェア型端面部を含むシート部と、
前記アームチェア型端面部と1辺のみを共有して結合している末端6員環と
を備えている発光体。 - 前記グラフェン構造体は、
(a)前記末端6員環を構成する炭素原子の内、前記アームチェア型端面部と結合していない炭素原子、及び、
(b)前記シート部を構成する炭素原子(末端6員環と共有している辺上の炭素原子を含む)
から選ばれるいずれか1以上の炭素原子に結合している窒素含有官能基をさらに備えている請求項1に記載の発光体。 - 前記グラフェン構造体は、窒素含有化合物を溶解させた水溶液に酸化グラファイト及び/又はグラフェン酸化物を分散させ、前記水溶液を60℃以上で加熱することにより得られるものである請求項2に記載の発光体。
- 前記グラフェン構造体の窒素含有量は、0.5wt%以上50wt%以下である請求項1から3までのいずれかに記載の発光体。
- 前記グラフェン構造体の平均質量は、500m/z以上50000m/z以下である請求項1から4までのいずれかに記載の発光体。
- 発光効率が1%以上である請求項1から5までのいずれかに記載の発光体。
- 前記被覆材は、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、及び、ポリビニルアルコールから選ばれるいずれか1以上からなる請求項1から6までのいずれかに記載の発光体。
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