検出および治療の進歩にも関わらず、癌は主要な公衆衛生課題のままである。癌細胞は、癌関連マーカータンパク質の産生を特徴とする。癌関連タンパク質は、癌細胞を有する個体の組織内および体液中の両方に見られる。そのレベルは、通常、癌進行の早期病期では低く、疾患の進行中に増大し、稀な症例では、疾患進行過程でレベルの減少を示すタンパク質が観察される。これらのタンパク質の感度のよい検出は、癌の診断、特に癌の早期病期の診断において有利で有望なアプローチである。最も罹病率が高い癌の型は、乳癌(BC)、肺癌(LC)および結腸直腸癌(CRC)である。
固形腫瘍のための最も重要な治療アプローチは、
a)腫瘍の外科切除、
b)化学療法、
c)放射線療法、
d)生物製剤、例えば抗腫瘍抗体または抗脈管形成抗体を用いた治療、および
e)上記方法の組み合わせ
である。
腫瘍の外科切除は、初期病期の固形腫瘍の第一線治療として広く受け入れられている。しかし、ほとんどの癌は、症状が出た場合、即ち患者が既に疾患進行のかなり後期病期にある場合にのみ検出される。
癌の病期分類は、程度、進行、および重症度の点での疾患の分類である。これは、一般化が予後および治療の選択について行われ得るように、癌患者を分類する。
異なる病期のBCまたはCRCは、デュークスの病期A〜Dに従って分類されている。今日、TNMシステムは、癌の解剖学的程度の最も広く使用される分類である。これは、国際的に受け入れられた統一病期分類システムを表す。3つの基本変数:T(原発性腫瘍の程度)、N(限局的リンパ節の状態)およびM(遠位転移の存在または非存在)がある。TNM基準は、UICC(国際対癌連合), Sobin, L.H., Wittekind, Ch. (編):TNM Classification of Malignant Tumours, 第6版, 2002)によって公表されている。TNM状態が決定されると、患者は、I〜IVのローマ数字で示される疾患病期に分類され、IVが最も進行した病期となる。TNM病期分類およびUICC疾患病期は、Sobin L.H. and Wittekind (編)上掲から得られる以下の表に示されるように互いに対応する。
特に重要なことは、癌、例えばBCまたはCRCの早期診断が非常に良好な予後に解釈されることである。CRCにおいて、結腸直腸の悪性腫瘍は、良性腫瘍、即ち腺腫から生じる。従って、最良の予後は腺腫病期で診断される患者にある。病期Tis、N0、M0またはT1〜3;N0;M0ほどの早期で診断された患者は、適切に治療されると、遠位転移が既に存在するときに診断された患者のわずか10%の5年生存率と比べて、90%を超える診断後の5年の生存機会を有する。
現在の検出方法、例えば、X線または核共鳴画像化などの画像化方法は、理論的に、一般的なスクリーニングツールとしての使用に少なくとも部分的に適切であり得る。しかし、これらは、非常に費用がかかり、多数の被験体、特になにも腫瘍症状がない被験体のマススクリーニングにおける一般的で広範な使用のための健康管理システムには価格が手頃ではない。
従って、本発明の課題は、単純で費用効率的な腫瘍評価の手順を提供すること、例えば癌を有すると疑われる個体を同定することである。この目的のために、組織試料または体液、例えば血液または血清または血漿で検出可能な一般腫瘍マーカーあるいはかかるマーカーのパネルが望ましい。
多くの血清腫瘍マーカーが既に臨床使用中である。例えば、サイトケラチン19(CYFRA 21-1)の可溶性30kDa断片、癌胎児性抗原(CEA)、神経特異的エノラーゼ(NSE)および扁平上皮癌抗原(SCC)が最も顕著なLCマーカーである。しかし、これらのいずれもがスクリーニングツールに必要な感度および特異性の基準を満たさない(Thomas, L., Labor und Diagnose, TH Books Verlagsgesellschaft, Frankfurt/Main, Germany (2000))。
臨床で有用であるために、単一マーカーとしての新規診断マーカーは、当該技術分野で公知の他のマーカーに同等であるべきか、または該マーカーよりも優れているべきである。即ち、それぞれ単独または1つ以上の他のマーカーと併用される場合のいずれかで、新規マーカーは診断感度および/または特異性の進歩をもたらすべきである。試験の診断感度および/または特異性は受信者動作特性によって最も評価され、これは以下で詳細に記載する。
全血、血清または血漿は、臨床ルーチンで最も広く使用される試料の供給源である。信頼性の高い癌検出を補助し、または初期予後情報を提供する初期腫瘍マーカーの同定によって、この疾患の診断および管理を大いに補助する方法がもたらされる。従って、癌、特にLCまたはCRCのインビトロ評価を改善するための緊急の臨床必要性が存在する。早期に診断される患者の生存機会は疾患の進行した段階で診断された患者と比べて非常に高いために、癌、例えばLCまたはCRCの早期診断を改善することが特に重要である。
肺癌における生化学マーカーの臨床有用性が最近概説されている(Duffy, M.J., Critical Reviews in Clinical Laboratory Sciences 38 (2001) 225-262)。
Cyfra 21-1は、現在公知の肺癌の腫瘍マーカーのうちで現在最良のものであるとみなされている。臓器特異的ではないが、これは主に肺組織で見られる。肺癌についてのCyfra 21-1の感度は、他の良性肺疾患に対して95%の特異性で46〜61%であると記載されている。Cyfra 21-1の増大した血清レベルはまた、顕著な良性肝臓疾患、腎臓機能不全および浸潤性膀胱癌と関連している。Cyfra 21-1試験は、手術後治療サーベイランスに推奨される。
CEAは癌胎児抗原の群に属し、通常胚発生中に生成される。CEAは、臓器特異的ではなく、主に結腸直腸癌のモニタリングに使用される。悪性疾患の他にも、いくつかの良性疾患、例えば肝硬変、気管支炎、膵臓炎および自己免疫疾患がCEA血清レベルの増大と関連している。良性肺疾患に対する95%特異性で、肺癌についての感度は29〜44%であると報告されている。CEAの好ましい使用は、肺癌の治療サーベイランスである。
FERR(フェリチン)は、約20%の鉄を含むタンパク質であり、小腸、肝臓および脾臓に見られる。フェリチンは、鉄を体内に貯蔵する主要な形態の1つである。体内の鉄貯蔵は、結腸直腸新形成のリスクを増加させることが報告されている。148名の患者(明らかな結腸直腸癌を有する50名の患者、結腸疾患を有さない49名の患者および結腸の腺腫を有する患者)由来の試料を使用したScholefield, J.H. et al. (Dis. Colon Rectum 41 (1998) 1029-1032) らの研究では、血清フェリチンがアッセイされた。3つの群のいずれの間にも血清フェリチンレベルの有意な変化はなかった。
OPN(オステオポンチン)は、骨に特異的な細胞結合シアロタンパク質である(Kiefer, M.C. et al., Nucl. Acids Res. 17 (1989) 3306)。転換関連分泌リンタンパク質(Senger, D.R. et al., Anticancer Res. 9 (1989) 1291-1299)、または初期Tリンパ球活性化-1(Patarca, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88 (1991) 2736-2739)としても知られているオステオポンチンは(Oldberg, A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 8819-8823; Oldberg, A. et al., J. Biol. Chem. 263 (1988) 19433-19436)、骨(Oldberg et al., J. Biol. Chem. 263 (1986) 19433-19436)、活性化Tリンパ球(Patarca, R. et al., J. Exp. Med. 170 (1989) 145-161; Patarca, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88 (1991) 2736-2739)、マクロファージ(Singh, R.P. et al., J. Exp. Med. 171 (1990) 1931-1942)、管系の平滑筋(Giachelli, C. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 177 (1991) 867-873)、ならびに癌腫および肉腫(Senger, D.R. et al., Anticancer Res. 9 (1989) 1291-1299) により発現される分泌グリコシル化リンタンパク質である。
最初に170kDa膜結合ゼラチナーゼとして同定されたセプラーゼは、高度に攻撃性の黒色腫LOX細胞の浸潤突起上に発現される(Aoyama, A. and Chen, W.T., PNAS 87 (1990) 8296-8300; Mueller, S.C. et al., J. Biol. Chem. 274 (1999) 24947-24952; Monsky, W.L. et al., Cancer Res. 54 (1994) 5702-5710)。活性酵素は2つのサブユニットのホモ二量体である(Pineiro-Sanchez, M.L. et al., J. Biol. Chem. 272 (1997) 7595-7601; Park, J.E. et al., J. Biol. Chem. 274 (1999) 36505-36512)。97kDaサブユニットをコードするcDNA由来の推定アミノ酸配列の解析により(Goldstein, L.A. et al., Biochem. Biophys. Act. 1361 (1997) 11-19)、セプラーゼは線維芽細胞活性化タンパク質α(FAPα)と本質的に同一であり(Scanlan, M.J. et al., PNAS 91 (1994) 5657-5661)、上皮癌および治癒中の創傷の反応性ストロマ線維芽細胞上に発現される(Garin-Chesa, P. et al., PNAS 87 (1990) 7235-7239)ことが明らかにされた。
NNMT(ニコチンアミドN-メチルトランスフェラーゼ;Swiss-PROT: P40261)は、29.6kDaの見かけ分子量および5.56の等電点を有する。NNMTは、ニコチンアミドおよび他のピリジンのN-メチル化を触媒する。この活性は多くの薬物および生体異物化合物の生体内変化に重要である。該タンパク質は主に肝臓で発現することが報告されており、細胞質に存在する。NNMTは、ヒト肝臓のcDNAからクローニングされ、29.6kDaの計算分子量を有する264アミノ酸のタンパク質をコードする792ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む(Aksoy, S. et al., J. Biol. Chem. 269 (1994) 14835-14840)。文献ではヒトの癌における酵素の潜在的役割についてはほとんど知られていない。ある論文では、肝臓NNMT酵素活性の増大がマウスにおける癌悪液質のマーカーとして報告された(Okamura, A., et al., Jpn. J. Cancer Res. 89 (1998) 649-656)。最近の報告で、放射線感受性細胞株において放射線に応答したNNMT遺伝子の下方調節が示された(Kassem, H.S. et al., Int. J. Cancer 101 (2002) 454-460)。最近、NNMTがCRCの評価において重要であることが見い出された(WO 2004/057336)。
マーカーのプロファイリングに関して、および肺癌の診断の改善を目的として、Cyfra 21-1、NSEおよび一般的な炎症マーカーのC反応性タンパク質(CRP)の血清レベルを組み合わせるファジー論理系分類アルゴリズムを使用する方法が公表された(Schneider, J.ら、Int. J. Clin. Oncol. 7 (2002) 145-151)。筆者らは、95%の特異性で92%の感度を報告している。しかし、この研究で、例えば単一腫瘍マーカーとしてCyfra 21-1の感度は、95%の特異性で72%であると報告され、これは多くの他の報告された研究よりも有意に高い。Duffy,M.J.,in Critical Reviews in Clinical Laboratory Sciences 38(2001)225-262は、46%〜61%の感度を報告している。Schneiderらによって達成されたこの普通ではない高性能には、いくつかの事実のためにある疑いが生じる。第一に、対照患者の集団は患者集団よりも若いように思われ、即ち両方の集団は十分に年齢適合されておらず、患者集団には多くの後期病期が含まれる。第二におよびさらにより決定的に、アルゴリズムの性能が、ファジー論理修飾子の決定に使用された訓練集団の試料について調べられている。したがって、これらの修飾子は、厳密に言うとこの集団に「仕立て」たものであって、独立した確認集団には適用されない。通常の状況下では、大きく、独立し、かつ十分にバランスがとれた確認集団に適用される同じアルゴリズムでは大きく低下した全体性能がもたらされることが予想されるはずである。NSEはSCLCの腫瘍マーカーである。一般的に、NSE血清レベルの増大は、神経外胚葉腫瘍および神経内分泌腫瘍に関連していることが分かっている。また、増大した血清レベルは、良性肺疾患および脳疾患、例えば髄膜炎または脳の他の炎症疾患ならびに頭部への外傷損傷を有する患者でも見られる。95%特異性でのSCLCの感度は60〜87%であると報告されているが、NSCLCのNSE試験の性能は不十分である(感度7〜25%)。NSEは、SCLCの治療サーベイランスに推奨される。
PSE3遺伝子は最初に1990年に単離され、その対応するタンパク質はKiと称された。全身性エリテマトーデス(SLE)を有する患者は、とりわけいくつかの核抗原Kiに対する自己抗原を生成する。Nikaido et al. (Nikaido, T. et al., Clin. Exp. Immunol. 79 (1990) 209-214)は、プローブとして、ウシcDNAを使用して、SLE患者のcDNAライブラリーをスクリーニングして、対応するcDNAを単離した。その後、組み換えKiがプロテオソームを活性化することが見出され、該タンパク質がPSE3として同定された(Realini, C. et al., J. Biol. Chem. 272 (1997) 25483-25492; Tanahashi, N. et al., Genes to Cells 2 (1997) 195-211)。Tanahashi, N.ら上記にはまた、P28γ、すなわちPSE3に対する抗体が記載されている。Miyagi, T.ら(Journal of Gastroenterology and Hepatology 18 (2003) 32-40)では、プロテオソームサブユニットおよびヒト白血球抗原クラスIの発現がヒト結腸癌細胞では障害されることが報告されている。PSE3は、甲状腺癌、特に甲状腺の成長促進細胞では、免疫組織化学染色およびウェスタンブロットで予測される場合、異常に高く発現される(Okamura, T. et al., J. Clin. Endocrin. Metab. 88 (2003) 1374-1383)。
S100A12はまた、CAAF1;CAGC;羊水中カルシウム結合タンパク質;カルグラニュリン関連タンパク質;CGRP;羊水中カルシウム結合タンパク質1;カルグラニュリンC;ENRAGE(細胞外新規同定RAGE結合タンパク質);好中球S100タンパク質;S100カルシウム結合タンパク質A12とも称される。この遺伝子にコードされるタンパク質は、2 EF-ハンドカルシウム結合モチーフ含有タンパク質のS100ファミリーの一員である。S100タンパク質は、種々の細胞の細胞質および/または核に局在し、細胞周期進行および分化などの種々の細胞プロセスの調節に関与している。S100遺伝子は、染色体1q21上にクラスターとして局在する少なくとも13種の構成員を含む。このタンパク質は、特定のカルシウム依存的シグナル伝達経路に関連すると考えられ、細胞骨格成分に対するその制御効果により、種々の好中球活性が調節され得る。
CYBP (S100A6)は、S100タンパク質のファミリーに属するカルシウム結合タンパク質である(Zimmer, D. B. et al., Brain Res. Bull. 37 (1995) 417-429 and Heizmann, C. W. et al., Biometals 11 (1998) 383-397に概説)。CYBPの遺伝子は、その細胞周期依存的発現に基づいて発見された(Calabretta, B. et al., J. Biol. Chem. 261 (1986) 12628-12632)。この遺伝子は、細胞周期のG0からS期への移行の間に最大レベルで発現されるが、その発現は急性アミロイド白血病では減少する(Calabretta, B. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 83 (1986) 1495-1498)。該タンパク質は、最初に、腹水腫瘍(EAT)1細胞から精製されて特徴付けられた(Kuznicki, J. et al., Biochem. J. 247 (1987) 663-667, and Kuznicki, J. et al., Biochem. J. 263 (1989) 951-956)。その後、カルシクリンは、高い増殖活性を有し、分化している線維芽細胞および上皮細胞において高レベルで発現されることが見出された(Leonard, D.G. et al., Mol. Cell. Biol. 7 (1987) 3156-3167; Guo, X. J. et al., Cell Growth Differ. 1 (1990) 333-338; Tonini, G. P. et al., Cancer Res. 51 (1991) 1733-1737; Kuznicki, J. et al., Exp. Cell Res. 200 (1992) 425-430)。
ASC、「カスパーゼ動員ドメイン含有アポトーシス関連スペック様タンパク質(apoptosis-associated speck-like protein containing a caspase-associated recruitment domain)」はまた、「メチル化誘導サイレンシングの標的(target of methylation-induced silencing)1」(TMS1)としても公知である(Swiss-PROT: Q9ULZ3)。カスパーゼ動員ドメイン(CARD)は、アポトーシスに関与するAPAF1(アポトーシスプロテアーゼ活性化因子1)などのアダプタータンパク質とカスパーゼのプロ形態(例えばCASP9)の間の相互作用を媒介する。ASCは、CARD含有アダプタータンパク質ファミリーの一員である。
NSE:糖分解酵素エノラーゼは、α、βおよびγと称される3種類の免疫学的に異なるサブユニットを含む種々の二量体化形態で生じる。エノラーゼアイソフォームαγおよびγγは、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)またはγ-エノラーゼと称され、主にニューロンおよび神経内分泌細胞ならびにこれらに由来する腫瘍中で高濃度で検出される(Lamerz R., NSE (Neuronen-spezifische Enolase), γ-Enolase, In: Thomas L (ed) Clinical Laboratory Diagnosis, TH-Books, Frankfurt, 1st English Edition 1998: 979-981, 5. deutsche Auflage 1998:1000-1003)。NSEは、小細胞気管支癌のモニタリングにおいて第一の選択マーカーとして記載される(Lamerz R., NSE (Neuronen-spezifische Enolase), γ-Enolase, In: Thomas L (ed) Clinical Laboratory Diagnosis, TH-Books, Frankfurt, 1st English Edition 1998: 979-981, 5. deutsche Auflage 1998:1000-1003)。小細胞気管支癌の60〜81%の症例においてNSE濃度の上昇が見られる。
糖脂質上のCA 19-9(糖鎖抗原19-9)、シアリル化ルイス(a)抗原)は、胃腸の癌の腫瘍マーカーである。これは、胎児の胃、腸および膵臓の上皮に生じる。また、肝臓、肺および膵臓の成人組織にも低濃度で見られ得る。腫瘍質量とCA 19-9アッセイ値との間に相関性はない。したがって、CA 19-9の測定を膵臓の癌腫の早期検出に使用することはできない。ムチンは肝臓でのみ分泌されるため、場合によっては、わずかな胆汁欝滞でさえ、明白なCA 19-9血清レベルの上昇をもたらし得る。該マーカーは、主に、確実に膵臓の癌(感度70〜87%)を有する患者の疾患状態のモニタリングの補助に使用される。該集団の3〜7%は、ルイスa陰性/b陰性血液型構成を有し、決定基CA 19-9と反応性であるムチンを発現することができない。このことは、所見を解釈する際に考慮されなければならない。
CA 125は、上皮起源の非ムチン性卵巣腫瘍の大部分で見られ、血清中で測定され得る。卵巣癌は、婦人科腫瘍の約20%を占めている。最も高いCA 125の値は、卵巣癌に苦しむ患者に生じるが、子宮内膜、乳房、胃腸管の悪性腫瘍および種々の他の悪性腫瘍においても明らかに高い値が観察される。増大した値は、しばしば種々の良性婦人科疾患、例えば卵巣嚢胞、卵巣変質形成、子宮内膜症、子宮筋腫(myomatosus)または子宮頚炎に見られる。このマーカーのわずかな上昇は、妊娠初期および種々の良性疾患にも生じる(例えば、急性および慢性膵臓炎、良性胃腸疾患、腎不全、自己免疫疾患など)。肝硬変および肝炎などの良性肝臓疾患においては著しく増加したレベルが見られる。悪性および良性疾患のために、任意の種類の腹水には極端な増加が生じる。CA 125は、比較的に非特異的なマーカーであるが、今日では、漿液性の卵巣癌を有する患者の治療および進行のモニタリングのための最も重要な腫瘍マーカーである。82〜93%の特異性について69〜79%の感度が報告されている。
p53(TP53、細胞腫瘍抗原p53、腫瘍抑制因子p53またはリンタンパク質p53)は、細胞増殖の停止またはアポトーシスを誘導する転写因子である(Appella, E. et al., Pathol. Biol. 48 (2000) 227-245)。p53は、多くの腫瘍型において腫瘍抑制因子として働き、その遺伝子の不活性型変異体は、ヒトにおける癌の発症を促進する最も一般的な遺伝的事象である(Olivier, M.and Petitjean, A., Cancer Gene Ther. 16 (2009) 1-12; Petitjean, A. et al., Oncogene 26 (2007) 2157-2165に概説)。p53変異は、結腸直腸癌の40〜50%で観察され、癌の積極性に関連している(Soussi, T., Cancer Res. 60 (2000) 1777-1788)。p53遺伝子における変異は、タンパク質機能の乱れを引き起こすだけでなく、腫瘍関連抗原(TAA)の発現および自己免疫応答の開始および癌患者の血清における特異的な抗p53自己抗体の生成も引き起こす(Zhang, J.Y. et al., Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention 12 (2003) 136-143; Soussi, T., Cancer Res. 60 (2000) 1777-1788)。ヒト血清中の抗p53自己抗体の検出は、癌の診断および管理のための新生のツールである。癌型に依存して、血清中の抗p53自己抗体の頻度は17.8% (CRC)〜16.1% (LC)および7.8% (乳癌)の範囲である(Tan, E.M., Immunological Reviews 222 (2008) 328-340; Zhang, J.Y. et al., Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention 12 (2003) 136-143)。
癌疾患の評価に使用され得る生化学マーカーが同定され得るかどうかを調べることが本発明の目的である。特に、本発明の発明者らは、種々の癌型、例えば肺癌、乳癌、結腸癌、前立腺癌および腎臓癌の評価のための生化学マーカーが体液中で同定され得るかどうかを調査した。本発明の非常に好ましい局面において、肺癌(LC)または結腸直腸癌(CRC)の評価のための生化学マーカーの同定が調べられた。
驚くべきことに、DPPIV/セプラーゼの使用は、当該技術分野において現在公知のマーカーの課題のいくつかを少なくとも一部克服し得ることが見出された。
発明の詳細な説明
好ましい態様において、本発明は、試料中のDPPIV/セプラーゼの濃度を測定する工程、および測定結果、特に測定した濃度を癌の評価に使用する工程を含む、インビトロにおける癌の評価方法に関する。
別の好ましい態様において、本発明は、液体試料中の、(a) DPPIV/セプラーゼ、(b)任意に癌の1つ以上の他のマーカーの濃度を測定する工程、ならびに(c)工程(a)および任意に工程(b)の測定結果を癌の評価に使用する工程を含み、DPPIV/セプラーゼの濃度の低下が癌を示す、インビトロにおける癌の評価方法に関する。
驚くべきことに、試験試料中のDPPIV/セプラーゼの濃度の低下は、癌の出現と関連することが見出された。DPPIV/セプラーゼは、単一の型の癌に特異的なマーカーではなく、種々の型の癌のためのマーカー、すなわち一般的な腫瘍マーカーであることが示された。DPPIV/セプラーゼは、腫瘍性プロセスにかなり特異的であるように思われるので、新規の腫瘍マーカーDPPIV/セプラーゼは、種々の腫瘍型に非常に大きな臨床有用性を有する。
驚くべきことに、本発明において、試料および/または体液中のDPPIV/セプラーゼの濃度の測定により、癌、例えば肺癌、結腸癌、頭部および頚部癌、膵臓癌、胃癌、胆管癌、食道癌、腎臓癌、子宮頚癌、卵巣癌、乳癌、膀胱癌、子宮内膜癌または前立腺癌の評価が可能になることが見出された。より驚くべきことに、正常対照と比較した試料および/または体液中のDPPIV/セプラーゼまたはその断片の濃度の低下は、癌のリスクまたは出現を示すことが見出された。
本発明は、試料中のDPPIV/セプラーゼの濃度を、免疫学的検出法により測定する工程、および測定結果、特に測定された濃度を癌の評価に使用する工程を含む、インビトロにおける癌の評価方法に関する。
本発明の方法は、多くの種々の型の癌の評価に適切である。正常対照と比較した際の試料中のDPPIV/セプラーゼの濃度の低下は、例えば肺癌、結腸癌、頭部および頚部癌、膵臓癌、胃癌、胆管癌、食道癌、腎臓癌、子宮頚癌、卵巣癌、乳癌、膀胱癌、子宮内膜癌または前立腺癌などのそれぞれの特定の癌に見られる。
本発明の好ましい態様によると、DPPIV/セプラーゼの濃度は、特定の癌の型、例えば肺癌、結腸癌、頭部および頚部癌、膵臓癌、胃癌、胆管癌、食道癌、腎臓癌、子宮頚癌、卵巣癌、乳癌、膀胱癌、子宮内膜癌または前立腺癌をインビトロにおいて評価するために試料中で測定される。
本発明の別の好ましい態様によると、DPPIV/セプラーゼの濃度は、癌、例えば肺癌、結腸癌、頭部および頚部癌ならびに膵臓癌をインビトロにおいて評価するために、試料中で測定される。
本発明の別の好ましい態様によると、DPPIV/セプラーゼの濃度は、癌、例えば肺癌(LC)または結腸直腸癌(CRC)をインビトロにおいて評価するために、試料中で測定される。
本発明の別の好ましい態様によると、DPPIV/セプラーゼの濃度は、癌、例えばLCをインビトロにおいて評価するために、試料中で測定される。
本発明の別の好ましい態様によると、DPPIV/セプラーゼの濃度は、癌、例えばCRCをインビトロにおいて評価するために、試料中で測定される。
本発明の一態様は、おそらくは癌を有さない個体と癌が「疑われる」と分類され得る個体を区別するための集団のマススクリーニングに関する。後者の個体の群は、その後、例えば画像化法または他の適切な手段により、さらなる診断手順に供され得る。
本発明のさらなる態様は、一般的な癌の診断に適した腫瘍マーカーパネルまたは特異的な腫瘍型、例えば肺癌または結腸癌の診断に適した腫瘍マーカーパネルの改善に関する。
本発明はまた、試料中のDPPIV/セプラーゼおよび癌に特異的な1つ以上の他のマーカーの濃度を測定する工程、ならびに測定結果、特に測定した濃度を癌の評価に使用する工程を含む、生化学マーカーによりインビトロで癌を評価する方法に関する。DPPIV/セプラーゼとの併用に好ましいマーカーは、一方は、一般的な腫瘍マーカーであるマーカー(すなわち単一の腫瘍型に特異的でないマーカー)で、他方は、特異的腫瘍マーカー(単一の腫瘍型に特異的なマーカー)である。例えば肺癌または結腸癌などの癌の評価に好ましいマーカーは、Cyfra 21-1、CEA、FERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、NNMT、PSE3、S100A12、CYBP、ASC、NSE、CA19-9およびCA125である。これらのマーカーは、それぞれ個々に使用され得るか、またはDPPIV/セプラーゼとの任意の組合せで使用され得る。
本発明はまた、試料中のDPPIV/セプラーゼの濃度および1つ以上の他の癌マーカー、例えば肺癌または結腸癌の1つ以上の他のマーカーの濃度を測定する工程、ならびに測定結果、特に測定した濃度を癌の評価に使用する工程を含む、生化学マーカーによるインビトロでの肺癌または結腸癌などの癌の評価方法に関する。1つ以上の他のマーカーがCyfra 21-1、CEA、FERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、NNMT、PSE3、S100A12、CYBP、ASC、NSE、CA19-9およびCA125からなる群より選択されることが好ましい。
本発明はまた、LC、より具体的にはNSCLCの評価における、少なくともDPPIV/セプラーゼならびにCYBP、NNMT、PSE3、ASC、OPN、セプラーゼ、S100A12、NSE、CEAおよびCyfra 21-1からなる群より選択される1つ以上の他のマーカーを含むマーカーパネルの使用に関する。
本発明はまた、結腸癌、より具体的にはCRCの評価における、少なくともDPPIV/セプラーゼならびにFERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、CEAおよびCyfra 21-1からなる群より選択される1つ以上の他のマーカーを含むマーカーパネルの使用に関する。
本発明はまた、癌の評価におけるDPPIV/セプラーゼの使用に関し、DPPIV/セプラーゼの濃度の低下は癌を示す。
本発明はまた、いくつかの特定の種類の癌、特に肺癌、結腸癌、頭部および頚部癌、膵臓癌、食道癌、胃癌、胆管癌、腎臓癌、子宮頚癌、卵巣癌、乳癌、膀胱癌、子宮内膜癌または前立腺癌の評価におけるDPPIV/セプラーゼの使用に関する。
本発明はまた、いくつかの特定の癌、特に肺癌、結腸癌、頭部および頚部癌または膵臓癌の評価におけるDPPIV/セプラーゼの使用に関する。
本発明はまた、癌の評価における、可溶性DPPIV、可溶性セプラーゼまたはDPPIV/セプラーゼのいずれかに対する特異的結合剤の組み合わせの使用に関し、DPPIV/セプラーゼの濃度の低下は癌を示す。
好ましくは、DPPIV/セプラーゼは、サンドイッチ型イムノアッセイ形式(=サンドイッチイムノアッセイ)で検出される。
本発明はまた、DPPIV/セプラーゼの一部の可溶性DPPIVに結合する第一の特異的結合剤およびDPPIV/セプラーゼの一部の可溶性セプラーゼに結合する第二の特異的結合剤のそれぞれによるサンドイッチイムノアッセイ形式に関する。
本発明はまた、可溶性DPPIV/セプラーゼタンパク質複合体には結合するが可溶性DPPIVまたは可溶性セプラーゼのそれぞれには結合しない特異的結合剤によるサンドイッチイムノアッセイ形式に関する。
本発明はまた、それぞれ、第一の特異的結合剤または第二の特異的結合剤のいずれかが捕捉結合剤として使用され、前記第二の特異的結合剤または前記第一の特異的結合剤のいずれかが検出結合剤として使用されることを特徴とする結合剤によるサンドイッチイムノアッセイ形式に関する。
本発明はまた、少なくとも、DPPIV/セプラーゼおよび癌の1つ以上の他のマーカーを特異的に測定するために必要な試薬を含む、本発明の方法を実施するためのキットを提供する。
本発明はまた、少なくとも、上述のようなDPPIV/セプラーゼおよび癌の1つ以上のマーカー、例えば肺癌、結腸癌、頭部および頚部癌、膵臓癌、食道癌、胃癌、胆管癌、腎臓癌、子宮頚癌、卵巣癌、乳癌、膀胱癌、子宮内膜癌または前立腺癌のマーカーを特異的に測定するために必要な試薬を含む、本発明の方法を実施するためのキットを提供し、ここで他のマーカーは、それぞれ個々に使用され得るかまたはその任意の組合せで使用され得る。
本発明はまた、少なくともDPPIV/セプラーゼならびにCyfra 21-1、CEA、FERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、NNMT、PSE3、S100A12、CYBP、ASC、NSE、CA19-9およびCA125からなる群より選択される1つ以上の他のマーカーを特異的に測定するために必要な試薬、ならびに任意に該測定を実施するための補助試薬を含む、本発明の方法を実施するためのキットを提供する、
本発明はまた、DPPIV/セプラーゼならびにCyfra 21-1、CEA、FERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、NNMT、PSE3、S100A12、CYBP、ASC、NSE、CA19-9およびCA125からなる群より選択される1つ以上の他のマーカーを特異的に測定するための本発明の方法を実施するためのバイオチップアレイ、ならびに任意に該測定を実施するための補助試薬を提供する。
本発明はまた、LC、より具体的にはNSCLCの評価における、DPPIV/セプラーゼならびにCYBP、NNMT、PSE3、ASC、OPN、セプラーゼ、S100A12、NSE、CEAおよびCyfra 21-1からなる群より選択される1つ以上の他のマーカーを特異的に測定する、本発明の方法を実施するためのバイオチップアレイを提供する。
本発明はまた、結腸癌、より具体的にはCRCの評価における、DPPIV/セプラーゼならびにFERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、CEAおよびCyfra 21-1からなる群より選択される1つ以上の他のマーカーを特異的に測定する、本発明の方法を実施するためのバイオチップアレイを提供する。
用語「測定」は、好ましくは試料中のDPPIV/セプラーゼの半定性的または定量的測定を含む。好ましい態様において、測定は、半定量的測定であり、即ち、濃度DPPIV/セプラーゼがカットオフ値より上にあるか下にあるかが測定される。当業者に認識されるように、はい(存在)またはいいえ(非存在)アッセイで、アッセイ感度は、通常、カットオフ値に適合するように設定される。例えばカットオフ値は、健常個体の群の試験から決定され得る。好ましくは、カットオフは90%の特異性をもたらすように設定され、また好ましくはカットオフは95%の特異性をもたらすように設定され、あるいはまた好ましくはカットオフは98%の特異性をもたらすように設定される。存在またはカットオフ値より下の値は、癌の存在を示し得る。特に、存在またはカットオフ値より下の値は、例えば肺癌、結腸癌、食道癌、頭部および頚部癌、胃癌、胆管癌、膵臓癌、腎臓癌、子宮頚癌、卵巣癌、乳癌、膀胱癌、子宮内膜癌または前立腺癌の存在を示し得る。さらに好ましい態様において、DPPIV/セプラーゼの測定値は、定量的測定値である。さらなる態様において、DPPIV/セプラーゼの濃度は、基礎にある診断問題、例えば疾患の病期、疾患進行、または治療への応答などに相関させられる。
特定の他の好ましい態様において、例えば治療または追跡のモニタリングにおいて、カットオフは90%の感度がもたらされるように設定され、また、好ましいカットオフは95%の感度がもたらされるように設定され、または好ましいカットオフは98%の感度がもたらされるように設定される。
カットオフ値より上の値は、例えば、癌がないことを示すものであり得る。特に、カットオフ値より上の値は、例えば、乳癌、結腸直腸癌および/または卵巣癌がないことを示すものであり得る。
さらに好ましい態様において、DPPIV/セプラーゼの測定値は定量的測定値である。さらなる態様において、可溶性DPPIV/セプラーゼタンパク質複合体の濃度は、基礎にある診断疑問、例えば疾患の病期、疾患進行または治療に対する応答などに相関される。
線維芽細胞活性化タンパク質(=FAP)としても公知のヒト膜結合セプラーゼは、2つの同一の単量体セプラーゼ単位からなるゼラチナーゼおよびジペプチジルペプチダーゼ活性を有する170kDaの糖タンパク質である(Pineiro-Sanchez, M.L. et al., J. Biol. Chem. 272 (1997) 7595-7601; Park, J.E. et al., J. Biol. Chem. 274 (1999) 36505-36512)。ヒトセプラーゼタンパク質の単量体は、配列番号:1に示される760アミノ酸を含む(Swissprotデータベース受託番号Q12884)。
より短い形態のヒトセプラーゼタンパク質は、可溶性セプラーゼまたは循環抗プラスミン切断酵素(=APEC)として当業者に公知である(Lee, K.N. et al., Blood 103 (2004) 3783-3788; Lee, K.N. et al., Blood 107 (2006) 1397-1404)。ヒト可溶性セプラーゼアミノ酸配列は配列番号:4に示され、Swissprotデータベース受託番号Q12884のアミノ酸位置26〜760を含む。ヒトセプラーゼは、線維芽細胞細胞質内にその最初の4個のN末端残基を有し、それに21残基の膜貫通ドメインが続き、734残基の細胞外C末端触媒ドメインが続くと考えられている(Goldstein, L.A. et al., Biochim Biophys Acta. 1361 (1997) 11-19; Scanlan, M.J. et al., Proc Natl Acad Sci USA 91 (1994) 5657-5661)。可溶性セプラーゼのダイマーは、2つの同一の単量体可溶性セプラーゼタンパク質単位からなる160kDa糖タンパク質である。可溶性セプラーゼはさらにN末端で70kDaまたは50kDa断片にプロセッシングされ得る(Chen, D. et al., Cancer Res. 66 (2006) 9977-9985)。
Pineiro-Saenchez et al. (上記)に、セプラーゼの発現の増加は、ヒト黒色腫および腺癌細胞の浸潤性表現型と相関することが見出された。Henry, L.R. et al., Clin. Cancer Res. 13 (2007) 1736-1741には、高レベルのストロマセプラーゼを有するヒト結腸腫瘍患者は、積極性の疾患進行および潜在的な転移または再発の発症を有する可能性が高いことが記載されている。
CD26としても公知のヒトジペプチジルペプチダーゼIV(=DPPIV)は、110kDa細胞表面分子である。ヒトDPPIVタンパク質のアミノ酸配列は、766アミノ酸を含み、これを配列番号:2に示す(Swissprotデータベース受託番号P27487)。これは、3番目のアミノ酸位置にプロリンまたはアラニンを有するペプチドからN末端ジペプチドを選択的に除去する固有のジペプチジルペプチダーゼIV活性を含む。これは種々の細胞外分子と相互作用し、また細胞内シグナル伝達カスケードにも関与する。ヒトDPPIVの多機能活性は、細胞型、ならびにタンパク質分解酵素、細胞表面受容体、共刺激性相互作用タンパク質およびシグナル伝達メディエーターとしてのその機能に影響を及ぼす細胞内または細胞外の状態に依存する。ヒトDPPIVは、アミノ酸位置1〜6由来の短い細胞質ドメイン、アミノ酸位置7〜28由来の膜貫通領域、および固有のジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)活性を有するアミノ酸位置29〜766由来の細胞外ドメインを有する。
ヒト可溶性ジペプチジルペプチダーゼIV(=可溶性DPPIV)アミノ酸配列を配列番号:3に示し、これはSwissprotデータベース受託番号P27487のアミノ酸位置29〜766を含む。可溶性DPPIVのダイマーは、2つの同一の単量体可溶性DPPIV単位からなる170kDa糖タンパク質である。
膜結合ヒトDPPIV/セプラーゼタンパク質複合体は、220kDa DPPIVホモダイマーおよび170kDaセプラーゼホモダイマーから形成され、分子量410kDaを有する。特定の条件下では、この複合体は分子量820kDaを有する二重複合体を形成し得る。この膜結合DPPIV/セプラーゼタンパク質複合体はGhersi, G. et al., J. Biol. Chem. 277 (2002) 29231-29241; Ghersi, G. et al., Adv. Exp. Med. Biol. 524 (2003) 87-94, およびGhersi, G. et al., Cancer Res. 66 (2006) 4652-4661 in human endothelial cellsに報告されている。
本発明によると、用語「可溶性DPPIV/セプラーゼタンパク質複合体」(=DPPIV/セプラーゼ)は、可溶性DPPIVホモダイマー(170kDa)および可溶性セプラーゼホモダイマー(160kDa)から形成され、分子量330kDaを有する可溶性複合体のことをいう。特定の条件下では、この複合体は、分子量660kDaの二重複合体を形成し得る。
そのため、当該技術分野の上記文献のいずれにも、体液中のDPPIV/セプラーゼの濃度の低下が癌を示し得ることは示唆されていない。
当業者に明らかなように、本発明は、配列番号:3の可溶性DPPIVおよび配列番号:4の可溶性セプラーゼから形成される複合体に限定されると解釈されるべきではない。DPPIV/セプラーゼはまた、DPPIVもしくはセプラーゼの生理学的断片または人工断片、DPPIVもしくはセプラーゼの二次修飾物、ならびにDPPIVもしくはセプラーゼの対立遺伝子バリアントを含み得る。そのため、セプラーゼまたはその断片、修飾物およびバリアントに結合したDPPIVならびにDPPIVの断片、修飾物およびバリアントも本発明に包含される。
DPPIV/セプラーゼは、適切な試料中で検出される。好ましい試料は、血液、血漿、血清、唾液、上皮層液(=ELF;LCが疑われる場合に好ましい)、気管支肺胞洗浄液(=BAL;LCが疑われる場合に好ましい)などの体液である。好ましくは、試料はヒト被験体、例えば腫瘍患者または腫瘍のリスクがあるヒトまたは腫瘍を有すると疑われるヒト由来である。また、DPPIV/セプラーゼは血清または血漿試料中で検出されることが好ましい。
これらの全ての検出技術は、マイクロアレイ、タンパク質アレイ、抗体マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、電子バイオチップマイクロアレイまたはタンパク質チップ系技術の形式で使用され得る(Schena M., Microarray Biochip Technology, Eaton Publishing, Natick, Mass., 2000参照)。
本明細書において使用されるように、以下の用語のそれぞれはこのセクションにおけるものと関連する意味を有する。
冠詞「a」および「an」は、1つまたは1つより多く(即ち少なくとも1つ)の冠詞の文法上の目的語を示すために本明細書で使用される。例として、「マーカー(a marker)」は、1つのマーカーまたは1つより多くのマーカーを意味する。用語「少なくとも」は、任意に1つ以上のさらなる目的語が存在し得ることを示すために使用される。例として、少なくとも(マーカー)DPPIV/セプラーゼおよびCyfra 21-1を含むマーカーパネルは、任意に1つ以上の他のマーカーを含み得る。
表現「1つ以上」は、1〜50、好ましくは1〜20、また好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、または15を示す。
用語「バイオチップ」、「ポリマーチップ」または「タンパク質チップ」は互換的に使用され、シリコンウェハー、ナイロン細片、プラスチック細片またはスライドガラスの一部であり得る共有された基材上に配置されたいくつかのプローブ、マーカーまたは生化学マーカーの集合のことをいう。
「アレイ」、「マクロアレイ」または「マイクロアレイ」は、ガラス、プラスチック、シリコンチップもしくはアレイを形成する他の材料などの基材または固相表面上に結合されるかまたは製造される、計画的に作成された分子、マーカー、開口、マイクロコイル、検出器および/またはセンサーなどの物質の集合である。アレイは、多数、例えば数十、数千または数百万の反応物または組合せのレベルを同時に測定するために使用され得る。アレイはまた、少数、例えば1個、数個または1ダースの物質を含み得る。アレイ中の物質は、互いに同一であっても異なってもよい。アレイには、種々の形式、例えば可溶性分子のライブラリー、固定化分子のライブラリー、固定化抗体のライブラリー、樹脂ビーズ、シリカチップまたは他の固相支持体につながれた化合物のライブラリーが構想され得る。アレイは、アレイ上のパッドの大きさに応じて、マクロアレイまたはマイクロアレイのいずれかであり得る。マクロアレイは一般的に、約300ミクロン以上のパッドサイズを含み、ゲルおよびブロットスキャナーにより容易に画像化され得る。マイクロアレイは一般的に300ミクロン未満のパッドサイズを含む。
「固相支持体」は、ライブラリーのメンバーまたは試薬が固定され得るか、または過剰な試薬、可溶性反応副産物もしくは溶媒から(ろ過、遠心分離、洗浄等により)容易に分離され得るように(しばしばリンカーを介して)結合もしくは共有結合され得る不溶性で、分画されたポリマー性物質である。
用語「マーカー」または「生化学マーカー」は、本明細書で使用される場合、患者の試験試料を分析するための標的として使用される分子のことをいう。かかる分子標的の例は、タンパク質またはポリペプチドである。本発明でマーカーとして使用されるタンパク質またはポリペプチドは、前記タンパク質の天然バリアントおよび前記タンパク質または前記バリアントの断片、特に免疫学的に検出可能な断片を含むことを企図する。免疫学的に検出可能な断片は、好ましくは前記マーカーポリペプチドの少なくとも6、7、8、10、12、15または20個の連続アミノ酸を含む。当業者は、細胞によって放出されるタンパク質または細胞外マトリックスに存在するタンパク質が、例えば炎症中に損傷され得、かかる断片に分解または切断され得ることを理解する。特定のマーカーは不活性化形態で合成され、次にタンパク質分解によって活性化され得る。当業者に認識されるように、タンパク質またはその断片は複合体の一部としても存在し得る。また、かかる複合体も、本発明の意味において、マーカーとして使用され得る。マーカーポリペプチドのバリアントは、同じ遺伝子によってコードされるが、例えば選択的mRNA、プレmRNAのプロセッシングまたはタンパク質プロセッシングの結果として等電点(=PI)または分子量(=MW)あるいは両方で異なり得る。バリアントのアミノ酸配列は、対応するマーカー配列に95%以上同一である。付加的にまたは代替的に、マーカーポリペプチドまたはそのバリアントは、翻訳後修飾を有し得る。好ましい翻訳後修飾は、グリコシル化、アシル化、および/またはリン酸化である。
特異的結合剤は、例えばDPPIV/セプラーゼに対する受容体、DPPIV/セプラーゼに結合するレクチンまたはDPPIV/セプラーゼと反応性の抗体である。特異的結合剤は、その対応する標的分子に対して少なくとも107l/molの親和性を有する。好ましくは、特異的結合剤はその標的分子に対して108l/molの親和性、好ましくは109l/molの親和性を有する。
好ましくは、一対の特異的結合剤は、可溶性DPPIVと反応性の第一の抗体および可溶性セプラーゼと反応性の第二の抗体を、一対の抗体がDPPIV/セプラーゼと複合体を形成し得るように含む。
さらに、特異的結合剤は、好ましくはDPPIV/セプラーゼと特異的に反応するが、可溶性DPPIVまたは可溶性セプラーゼ単独とは反応しない抗体である。
また、本発明には未結合可溶性DPPIVに対する特異的結合剤も包含され、好ましくは、該特異的結合剤は、可溶性DPPIVが可溶性セプラーゼに結合している場合はマスクされている可溶性DPPIVのエピトープと反応する抗体である。また、本発明には、未結合可溶性セプラーゼに対する特異的結合剤も包含され、好ましくは、特異的結合剤は、可溶性セプラーゼが可溶性DPPIVに結合している場合はマスクされている可溶性セプラーゼのエピトープと反応する抗体である。
用語抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、かかる抗体の抗原結合断片、単鎖抗体ならびに抗体の結合ドメインを含む遺伝子構築物のことをいう。
特異的結合剤の上記の基準を保有する任意の抗体断片が使用され得る。抗体は、Tijssen (Tijssen, P., Practice and theory of enzyme immunoassays, 11, Elsevier Science Publishers B.V., Amsterdam, 書籍全体、特に43-78頁)に記載されるように、当該技術分野の技術水準により作製される。また、当業者は、抗体の特異的単離に使用され得る免疫吸着に基づく方法に充分に精通している。これらの手段によりポリクローナル抗体の質、およびそれによりイムノアッセイにおける抗体の性能が向上され得る(Tijssen, P., supra, pages 108-115)。
本発明に開示される成果のために、ウサギにおいて惹起されたポリクローナル抗体が使用され得る。しかし、明らかに、異なる種、例えばヒツジまたはヤギのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体も使用され得る。モノクローナル抗体は任意の必要量で一定した性質で生成され得るために、これらは臨床ルーチンのアッセイの開発における理想的なツールを表す。本発明の方法におけるDPPIV/セプラーゼに対するモノクローナル抗体の作製および使用のそれぞれは、さらに他の好ましい態様を表す。
イムノアッセイは当業者に周知である。かかるアッセイを行なうための方法ならびに実際の適用および手順は、関連する教科書にまとめられている。関連する教科書の例は、Tijssen,P.,Preparation of enzyme-antibody or other enzyme-macromolecule conjugates、In: Practice and theory of enzyme immunoassays、pp. 221-278、Burdon,R.H. and v. Knippenberg,P.H. (編)、Elsevier、Amsterdam (1990)、ならびに免疫学的検出方法を扱っている“Methods in Enzymology”(S.P. Colowick、N.O. Caplan編、Academic Press) の種々の巻、特に70、73、74、84、92および121巻である。
本発明によれば、DPPIV/セプラーゼの濃度が測定される。一態様において、マーカーDPPIV/セプラーゼは、特異的結合剤の使用によって試料から特異的に測定される。
ここで、当業者に認識されるように、DPPIV/セプラーゼは、癌、好ましくは肺癌または結腸癌の評価において有用なマーカーとして同定された。本発明の成果に匹敵する結果に達するために様々な免疫診断方法が使用され得る。例えば、抗体を作製するための代替的戦略が使用され得る。かかる戦略は、中でも免疫化のためのDPPIV、セプラーゼまたはDPPIV/セプラーゼのエピトープを表す合成ぺプチドの使用を含む。あるいは、DNAワクチン接種としても公知のDNA免疫化が使用され得る。
測定のために、個体から得られた試料は、結合剤-DPPIV/セプラーゼの複合体形成に適切な条件下でDPPIV/セプラーゼの特異的結合剤とインキュベートされる。当業者はいかなる発明の努力をすることなく、かかる適切なインキュべーション条件を容易に特定し得るために、かかる条件は特定される必要はない。結合剤-DPPIV/セプラーゼの量が測定され、癌、好ましくは肺癌の評価に使用される。当業者に認識されるように、特異的結合剤-DPPIV/セプラーゼの量を測定する多くの方法が存在し、全ては関連の教科書に詳細に記載されている(例えば、Tijssen, P., 上掲、またはDiamandis, E.P., and Christopoulos, T.K. (編), Immunoassay, Academic Press, Boston (1996)参照)。
好ましくは、DPPIV/セプラーゼは、サンドイッチ型アッセイ形式(=サンドイッチイムノアッセイ)で検出される。かかるサンドイッチイムノアッセイにおいて、一方でDPPIV/セプラーゼを捕捉するために固相支持体に結合された第一特異的結合剤が使用され、他方で直接的または間接的に検出可能に標識される第二特異的結合剤が使用される。サンドイッチ型アッセイ形式で使用される特異的結合剤は、DPPIVおよびセプラーゼのそれぞれに対して特異的な抗体の組合せであり得る。
また、可溶性DPPIVに対する捕捉抗体および可溶性セプラーゼに対する検出抗体(またはその逆)を用いるサンドイッチイムノアッセイも好ましい。
また、DPPIV/セプラーゼ複合体に結合するが、可溶性DPPIVまたは可溶性セプラーゼには結合しない抗体を用いるサンドイッチイムノアッセイも好ましい。
一部の診断状況において、非複合体形態の可溶性DPPIVまたは可溶性セプラーゼのみを認識する抗体も使用され得る。
本発明の意味において「癌のマーカー」、特に「肺癌のマーカー」および「結腸癌のマーカー」は、マーカーDPPIV/セプラーゼと組み合わせた場合に、癌の評価において、例えば一般的な癌の評価または特定の癌の型の評価において、例えばLCまたはCRCの評価において関連する情報を付加する任意のマーカーである。癌の評価に対して、所定の特異性での感度または所定の感度での特異性それぞれが、マーカーDPPIV/セプラーゼを既に含むマーカー組み合わせに前記マーカーを含ませることによって改善され得る場合に、情報は関連するまたは付加的な価値とみなされる。癌評価の好ましい態様において、感度または特異性それぞれの改善は、p = .05、.02, .01以下の有意さのレベルで統計学的に有意である。好ましくは、1つ以上の他の腫瘍マーカーは、Cyfra 21-1、CEA、FERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、NNMT、PSE3、S100A12、CYBP、ASC、NSE、CA19-9およびCA125からなる群より選択される。
用語「試料」は、本明細書で使用される場合、インビトロでの評価の目的で得られる生物学的試料のことをいう。本発明の方法において、試料または患者試料は、好ましくは任意の体液を含み得る。好ましい試料としては、血液、血清、血漿、痰、ELFおよびBALが挙げられる。好ましい試料は、血液、血清、血漿、ELFであり、血漿または血清が最も好ましい。
用語「癌の評価」、特に「肺癌の評価」または「結腸癌の評価」は、本発明の方法が(単独または他のマーカーもしくは変数、例えばUICC(上記参照)に示される基準と共に)、例えば医師が癌、特にLCまたはCRCの非存在または存在を確立または確認することを補助し、あるいは予後、再発の検出(手術後の患者の追跡)および/または治療のモニタリング、特に化学療法のモニタリングにおいて医師を補助することを示すために使用される。
当業者に認識されるように、任意のかかる評価はインビトロで行われる。患者試料は後で廃棄される。患者試料は、本発明のインビトロ診断方法だけに使用され、患者試料の物質は、患者の体に戻されない。典型的に、試料は、液体試料、例えば全血、血清、または血漿である。
特に記載のない限り、技術用語は従来どおりの用法に従って使用される。細胞分子生物学における一般的な用語の定義は、Lewin,B.,Genes、V.,Oxford University Press 出版(1994)、ISBN 0-19-854287 9; Kendrew,J. et al. (編)、The Encyclopedia of Molecular Biology、Blackwell Science Ltd. 出版(1994)、ISBN 0-632-02182-9; およびMeyers、R.A. (編)、Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference、VCH Publishers,Inc. 編(1995)、ISBN 1-56081-569 8に見られ得る。
好ましい態様において、本発明は、DPPIV/セプラーゼの濃度を試料中で測定する工程、および測定された濃度を癌、例えばLCまたはCRCの評価において使用する工程を含む、生化学マーカーによるインビトロでの癌、例えばLCまたはCRCの評価方法に関する。
本発明の発明者らは、癌、特に肺、結腸、頭頸部、膵臓、食道、胃、胆管、腎臓、頸部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌を有する患者に由来する試料から有意な割合でマーカーDPPIV/セプラーゼの濃度の減少を驚くべきことに検出できた。さらにより驚くべきことに、発明者らは、個体から得られたかかる試料中のDPPIV/セプラーゼの濃度の減少が癌、特に上記癌疾患の評価において使用され得ることを示すことができた。
診断の理想的なシナリオは、単一の事象またはプロセスがそれぞれの疾患、例えば感染性疾患を引き起こす状況である。全ての他の症例において、正確な診断は、特に疾患の病因が、多くの癌の種類、例えばLCについて当てはまるように十分に理解されていない場合に非常に困難であり得る。当業者が理解するように所定の多要因疾患例えばLCについて100%特異性および同時に100%感度で診断する生化学マーカーはない。むしろ、生化学マーカー、例えばCyfra21-1、CEA、NSE、または本明細書に示されるDPPIV/セプラーゼが、特定の可能性または予測値で、例えば疾患の存在、非存在または重症度を評価するために使用され得る。従って、日常業務の臨床診断では、一般的に様々な臨床症状および生物学的マーカーは、基礎にある疾患の診断、治療および管理において共に考慮される。
生化学マーカーは、独立して測定され得るか、または本発明の好ましい態様においてこれらはバイオチップまたはビーズ系アレイ技術の使用によって同時に測定され得るかのいずれかである。生物マーカーの濃度は、次に例えば各マーカーの個々のカットオフを使用して独立して解釈されるか、またはこれらが解釈のために組み合わされるかのいずれかである。
さらに好ましい態様において、本発明の癌の評価は、a)DPPIV/セプラーゼ、b)癌の1つ以上の他のマーカーの濃度を試料中で測定する工程、ならびにc)癌の評価において測定結果、例えば工程(a)および工程(b)それぞれで測定された濃度を使用する工程を含む方法において行われる。
癌の評価において、マーカーDPPIV/セプラーゼは以下の局面:スクリーニング;診断補助;予後;化学療法、放射線療法、および免疫療法などの療法のモニタリングの1つ以上で有利である。
スクリーニング:
スクリーニングは、疾患の表示、例えば癌の存在について、個体、例えばリスクのある個体を同定するための試験の体系的な適用として規定される。好ましくは、スクリーニング集団は、癌のリスクが平均より高いことが知られた個体で構成される。例えば、肺癌のスクリーニング集団は、喫煙者、元喫煙者、およびウラン、石英またはアスベスト曝露労働者などの肺癌のリスクが平均より高いことが知られた個体で構成される。
好ましい態様では、全血、血漿、血清、痰、上皮裏層液 (=ELF; LCが疑われる場合、好ましい)または気管支肺胞洗浄液 (=BAL; LCが疑われる場合、好ましい)などの体液が癌、例えば、肺または結腸直腸癌のスクリーニングにおける試料として使用される。
多くの疾患について、スクリーニング目的に必要な感度および特異性の基準を常に満たす、循環中の単一生化学マーカーはない。このことは癌、特に肺癌についてもいえると思われる。複数のマーカーを含むマーカーパネルが癌のスクリーニングに使用されなければならないことが予想されるばずである。本発明において確立されたデータは、マーカーDPPIV/セプラーゼがスクリーニング目的に適したマーカーパネルの不可欠な部分を形成することを示す。したがって、本発明は、癌マーカーパネル、すなわち、癌スクリーニング目的のためのDPPIV/セプラーゼおよび1つ以上のさらなるマーカーを含むマーカーパネルのマーカーの1つとしてのDPPIV/セプラーゼの使用に関する。特に、本発明は、一般的な癌マーカーパネルのマーカーの1つとしてのDPPIV/セプラーゼの使用に関する。かかるマーカーパネルは、マーカーDPPIV/セプラーゼおよび1つ以上のさらなるマーカー、例えば、一般的な癌マーカーおよび/または上記の型の癌のマーカーを含む。
また、DPPIV/セプラーゼは、おそらく、ある種の特定の型の癌、例えば、肺、結腸、頭頸部、膵臓、食道、胃、胆管、腎臓、頸部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌のマーカーパネルに寄与する。
DPPIV/セプラーゼを含むマーカーパネルで評価される癌の他の好ましい型は、肺、結腸、頭頸部または膵臓の癌である。
DPPIV/セプラーゼを含むマーカーパネルで評価される癌の他の好ましい型は、肺癌(LC)または結腸癌(CRC)である。
DPPIV/セプラーゼを含むマーカーパネルで評価される癌の好ましい型はCRCである。
DPPIV/セプラーゼを含むマーカーパネルで評価される癌の好ましい型はLCである。
本発明のデータは、さらに、マーカーの特定の組合せが癌のスクリーニングに有利であることを示す。
例えば、癌のスクリーニングの態様に関して、本発明はまた、DPPIV/セプラーゼならびにCyfra 21-1、CEA、FERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、NNMT、PSE3、S100A12、CYBP、ASC、NSE、CA19-9およびCA125からなる群より選択される1つ以上の他の腫瘍マーカーを含むマーカーパネルの使用に関する。
例えば、CRCのスクリーニングの態様に関して、本発明はまた、DPPIV/セプラーゼならびにCyfra 21-1、CEA、FERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、NNMT、PSE3、S100A12、CA19-9およびCA125からなる群より選択される1つ以上の他の腫瘍マーカーを含むマーカーパネルの使用に関する。
例えば、LCのスクリーニングの態様に関して、本発明はまた、DPPIV/セプラーゼならびにCYBP、NNMT、PSE3、ASC、OPN、セプラーゼ、S100A12、NSE、Cyfra 21-1、CEA、CA19-9およびCA125からなる群より選択される1つ以上の他の腫瘍マーカーを含むマーカーパネルの使用に関する。
診断補助:
マーカーは、特定の臓器の良性疾患対悪性疾患の鑑別診断を補助するか、異なる組織学的腫瘍型の識別を補助するか、または手術前のベースラインマーカー値を確立するかのいずれかであり得る。
好ましい態様において、マーカーDPPIV/セプラーゼは、癌の異なる組織学的型を確立または確認するために免疫組織学的方法において使用される。
単一マーカーとしてのDPPIV/セプラーゼは、例えばLCの場合において、CEAまたはNSEなどの他のマーカーより卓越し得るため、DPPIV/セプラーゼは、特に、手術前のベースライン値を確立することにより診断補助として使用されることが予測されるはずである。したがって、本発明はまた、手術前の癌のベースライン値を確立するためのDPPIV/セプラーゼの使用に関する。
予後:
予後指標は、一定の尤度で疾患結果を予測する癌患者およびその腫瘍の臨床的、病理学的、または生化学的特徴と定義され得る。その主な使用は、患者管理の合理的な計画、すなわち、それぞれ急性進行性疾患の過少治療および進行が遅い疾患の過剰治療の回避を補助すべきである。Molina、R.,et al.,Tumor Biol. 24 (2003)209-218では、NSCLCにおいてCEA、CA 125、Cyfra 21-1、SSCおよびNSEの予後値が評価された。彼らの研究では、マーカーNSE、CEA、およびLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)の異常血清レベルは、短い生存を示すようであった。
DPPIV/セプラーゼは単独で癌患者、例えば、LCまたはCRC患者と健常対照との識別に有意に寄与するため、癌、好ましくはLCまたはCRCを患う患者の予後の評価を補助することが予測されるはずである。手術前のDPPIV/セプラーゼのレベルは、たいてい、癌の1つ以上の他のマーカーおよび/またはTNM病期分類システムと組み合わされる。好ましい態様において、DPPIV/セプラーゼはLCまたはCRCを有する患者の予後に使用される。
治療のモニタリング:
Merle,P.,et al.,Int. J. of Biological Markers 19 (2004)310-315では、導入補助化学療法で治療された局所進行NSCLCを有する患者におけるCyfra21-1血清レベルの変化が評価された。彼らは、Cyfra21-1血清レベルの早期モニタリングが病期III NSCLC患者の腫瘍応答および生存の有用な予後ツールであり得ると結論づけた。また、報告により、LCを有する患者の治療のモニタリングにおけるCEAの使用が記載された(Fukasawa, T. et al., Gan to Kagku Ryoho 13 (1986) 1862-1867)。これらの研究のほとんどは、遡及的でランダムではなく、少数の患者を含んだ。Cyfra21-1での研究の場合のように、CEA研究は、a)化学療法を受けている間にCEAレベルが減少した患者は、一般的に、CEAレベルが減少しなかった患者よりも良好な結果を有し、(b)ほぼすべての患者で、CEAレベルの増加は疾患の進行と関連したことを示した。
DPPIV/セプラーゼは、それぞれCyfra21-1またはCEAと少なくとも同程度に良好な化学療法のモニタリングのためのマーカーであることが予測される。したがって、本発明はまた、治療下の癌患者、好ましくはLCまたはCRC患者のモニタリングにおけるDPPIV/セプラーゼの使用に関する。
治療のモニタリングにおいて、好ましい一態様では、DPPIV/セプラーゼの測定値とCYBP、NNMT、PSE3、ASC、OPN、セプラーゼ、S100A12、NSE、CEA、Cyfra 21-1、CA 19-9およびCA 125からなる群より選択される少なくとも1つのマーカーの測定値が、LCの評価において組み合わされ、使用される。
治療のモニタリングにおいて、好ましい一態様では、DPPIV/セプラーゼの測定値とCEA、Cyfra 21-1、フェリチン、OPN、抗p53自己抗体、NNMT、PSE3、S100A12、CA 19-9およびCA 125からなる群より選択される少なくとも1つのマーカーの測定値が、CRCの評価において組み合わされ、使用される。
追跡:
癌性組織の完全な除去を目的とした外科的切除を受けるLC患者の大部分は、
後に再発性または転移性の疾患を発症する(Wagner, H. Jr., Chest 117 (2000) 110S-118S; Buccheri, G. et al., Ann. Thorac. Surg. 75 (2003) 973-980)。これらの再発のほとんどは、手術後最初の2〜3年以内に起こる。再発性/転移性疾患は、検出が遅すぎた場合は常に致死的であるため、相当な研究が、その初期ひいては潜在的に治療可能な病期での癌再発に焦点を当てている。
その結果、多くの癌患者、例えばLC患者は、多くの場合CEAの定期的モニタリングを含む、術後のサーベイランスプログラムを受ける。外科的切除後1年間のCEAの連続モニタリングにより、再発性/転移性疾患が、疑わしい症状または徴候がない場合であっても、早期の術後再発性/転移性疾患がほぼ97%の特異性でほぼ29%の感度で検出されることが示された(Buccheri,G.,et al.,Ann. Thorac. Surg. 75 (2003)973-980)。したがって、手術後のLCを有する患者の追跡は、適切な生化学的マーカーの使用の最も重要な領域の1つである。調査したLC患者におけるDPPIV/セプラーゼの高い感度のため、おそらく、DPPIV/セプラーゼ単独または1つ以上の他のマーカーとの組合せは、LC患者の追跡、特に手術後のLC患者の追跡に非常に有用である。LC患者の追跡におけるDPPIV/セプラーゼおよびLCの1つ以上の他のマーカーを含むマーカーパネルの使用は、本発明のさらに好ましい態様を示す。
本発明は、好ましい態様において、癌の診断分野におけるDPPIV/セプラーゼの使用に関する。好ましくは、DPPIV/セプラーゼは、肺(LC)、結腸(CRC)、食道、頭頸部、胃、胆管、膵臓、腎臓、頚部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌のそれぞれの評価に使用される。
またさらに好ましい態様において、本発明は、癌の1つ以上のさらなるマーカー分子と組み合わせた、癌、例えば、一般的な癌または肺、結腸、頭頸部、膵臓、食道、胃、胆管、腎臓、頸部、卵巣、乳房、膀胱、子宮内膜または前立腺の癌などの特定の型の癌のマーカー分子としてのDPPIV/セプラーゼの使用に関する。さらなるマーカー分子は、癌の型に非特異的な一般マーカー分子および/または癌の型に特異的なマーカー分子、例えば、LCまたはCRCのマーカー分子であり得る。DPPIV/セプラーゼおよび少なくとも1つのさらなるマーカーが、個体から得られた液体試料において癌、例えばLCまたはCRCの評価に使用される。DPPIV/セプラーゼの測定と組み合わされ得る、選択される好ましい他の癌マーカーは、Cyfra 21-1、CEA、FERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、NNMT、PSE3、S100A12、CYBP、ASC、NSE、CA19-9およびCA125である。特に、DPPIV/セプラーゼの測定と組み合わされ得る、選択される好ましい他のLCまたはCRCのマーカーは、Cyfra 21-1、CEAおよび/またはNSEである。またさらに好ましくは、癌、例えばLCの評価において使用されるマーカーパネルは、DPPIV/セプラーゼならびにCyfra 21-1およびCEAからなる群より選択される少なくとも1つの他のマーカー分子を含む。
当業者に理解されるように、調査中の診断上の疑問を改善するために、2種類以上のマーカーの測定値を使用する多くの方法がある。全く単純に、しかしながら、しばしば効果的なアプローチにおいて、調査された少なくとも1種類のマーカーについて試料が陽性である場合、陽性の結果が仮定される。このことは、例えばAIDSのような感染性疾患の診断の場合であり得る。
しかしながら、頻繁にマーカーの組み合わせが評価される。好ましくは、マーカーパネルのマーカー、例えばDPPIV/セプラーゼおよびCyfra21-1についての測定値は、数学的に組み合わされ、組み合わされた値は診断的疑問の原因と相関される。マーカー値は、当該技術分野の技術水準の任意の適切な数学的方法により組み合わされ得る。マーカーの組み合わせを疾患に相関させる周知の数学的方法には、判別分析(DA)(即ち、一次、二次、標準化DA)、Kernel法(即ちSVM)、ノンパラメトリック法(即ちk-最近接分類)、PLS(部分最小二乗)、ツリーベース法(即ち論理回帰、CART、ランダムフォレスト法、ブースティング/バギング(Boosting/Bagging)法)、一般化線形モデル(即ちロジスティック回帰)、主成分ベース法(即ちSIMCA)、汎用付加モデル、ファジー理論ベース法、ニューラルネットワークおよび遺伝的アルゴリズムベース法などの方法を用いる。当業者は、本発明のマーカーの組み合わせを評価するための適切な方法の選択において何の問題も持たない。好ましくは、本発明のマーカーの組み合わせを、例えばLCの有無に相関させることに用いられる方法は、DA(即ち一次、二次、標準化判別分析)、Kernel法(即ちSVM)、ノンパラメトリック法(即ちk-最近接分類)、PLS(部分最小二乗)、ツリーベース法(即ち論理回帰、CART、ランダムフォレスト法、ブースティング法)、または一般化線形モデル(即ちロジスティック回帰)から選ばれる。これらの統計的方法に関する詳細は、以下の参考文献、Ruczinski,I.,et al,J. of Computational and Graphical Statistics,12 (2003)475-511;Friedman,J. H.,J. of the American Statistical Association 84 (1989)165-175;Hastie,T. et al., The Elements of Statistical Learning,Springer Series in Statistics (2001);Breiman,L. et al., Classification and regression trees,California:Wadsworth (1984);Breiman,L.,Random Forests,Machine Learning 45 (2001)5-32;Pepe,M. S.,The Statistical Evaluation of Medical Tests for Classification and Prediction,Oxford Statistical Science Series 28 (2003);およびDuda,R. O. et al., Pattern Classification,Wiley Interscience,第2版 (2001)に見られる。
生物学的マーカーの基礎的な組合せに対して最適な多変量カットオフを使用し、状態Aを状態Bと、例えば、疾患状態を健常と区別することは、本発明の好ましい態様である。この型の解析では、マーカーは、もはや独立的ではなくマーカーパネルを形成する。
診断方法の精度は、その受信者動作特性(ROC)によって最もよく示される(特にZweig, M. H.およびCampbell, G., Clin. Chem. 39 (1993)561-577参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって判定閾値を連続的に変えることにより得られる全ての感度/特異性ペアのプロットである。
実験室での試験の臨床成績は、その診断の精度または被験体を臨床的に関連する亜群へと正確に分類する能力に依存している。診断の精度は、検査を受けた被験体の2つの異なる状態を正確に区別する試験の能力を評価するものである。かかる状態は、例えば健常と疾患または良性疾患対悪性疾患である。
各場合において、ROCプロットは、判定閾値の全範囲について1−特異性に対して感度をプロットすることにより2つの分布間の重複を示す。y軸上は感度、すなわち真陽性の割合[(真陽性試験結果の数)/(真陽性の数+偽陰性試験結果の数)として定義される]である。これはまた、疾患または状態の存在下での陽性度と称されている。それは罹患した亜群単独から算出される。x軸上は偽陽性の割合、すなわち1−特異性[(偽陽性結果の数)/(真陰性の数+偽陽性結果の数)として定義される]である。これは特異性の指標であり、罹患していない亜群全体から算出される。真陽性および偽陽性の割合は、2つの異なる亜群由来の試験結果を用いて全く別々に算出されるため、ROCプロットは試料中の疾患の罹患率から独立している。ROCプロット上の各点は、特定の判定閾値に対応する感度/1−特異性のペアを表している。完全な区別を伴う試験(結果の2つの分布に重複がない)は、左上の角を通るROCプロットを有し、この場合、真陽性の割合は1.0すなわち100%(完全な感度)であり、偽陽性の割合は0(完全な特異性)である。区別を伴わない試験の理論的プロット(2つの群の結果の分布が同一)は、左下の角から右上の角に向かって45度の斜め線となる。ほとんどのプロットはこれらの両極間に含まれる。(ROCプロットが45度の斜め線の下方に完全に含まれる場合、これは「陽性度」についての基準を「より大きい」から「より少ない」に入れ換えることにより容易に修正される。逆も同じ)。定性的には、プロットが左上の角に近づくにしたがって、試験の全体的な精度は高くなる。
実験室での試験の診断の精度を定量化するための好ましい方法の1つは、単一の数によりその成績を表すことである。かかる全般的パラメータは、例えば、いわゆる「総誤差」あるいは「曲線下面積=AUC」である。最も一般的な世界的尺度はROCプロット下面積である。慣例により、この面積は常に>0.5である(もしそうでなければ、そうなるように決定基準を入れ換え得る)。数値は1.0(2群の試験値の完全な分離)と0.5(2群間の試験値に明らかな分布の差が無い)の間の範囲である。該面積は、該斜め線に最も近い点または90%特異性での感度などのプロットの特定の部分だけでなく、全プロットにも依存する。これは、ROCプロットが完全なもの(面積=1.0)にどれだけ近いかということの定量的で説明的な表現である。
DPPIV/セプラーゼの測定値を、Cyfra 21-1もしくはCEAなどの他のマーカー、またはまだ発見されていない癌の他のマーカーと組み合わせることで、DPPIV/セプラーゼは、癌の評価においてさらなる改善をもたらす、またはもたらすであろう。
さらに好ましい態様において、本発明は、試料中の少なくともDPPIV/セプラーゼならびにCyfra 21-1、CEA、FERR、OPN、抗p53自己抗体、セプラーゼ、NNMT、PSE3、S100A12、CYBP、ASC、NSE、CA19-9およびCA125からなる群より選択される1つ以上の他の腫瘍マーカーの濃度をそれぞれ測定し、測定された濃度を癌、例えばLCまたはCRCの有無と相関させることにより、癌、例えばLCまたはCRC対健常対照の診断の精度を改善するための方法であって、改善により、いずれかの単一マーカー単独での調査に基づいた分類と比べて、健常対照に対してより多くの患者が癌、例えばLCまたはCRCに苦しんでいると正確に分類される方法に関する。
好ましい態様において、本発明は、試料中の少なくともDPPIV/セプラーゼおよびCyfra 21-1の濃度、ならびに任意にCEAおよび/またはNSEの濃度をそれぞれ測定し、測定された濃度を癌、例えばLCまたはCRCの有無と相関させることにより、癌、例えばLCまたはCRC対健常対照の診断の精度を改善するための方法であって、改善により、いずれかの単一マーカー単独での調査に基づいた分類と比べて、健常対照に対してより多くの患者が癌、例えばLCまたはCRCに苦しんでいると正確に分類される方法に関する。
以下の実施例、配列表および図面は、本発明の理解を補助するために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示される。記載の手順において、本発明の精神を逸脱することなく変形が行なわれ得ることは理解されよう。
配列の記載
配列番号: 1は、ヒトセプラーゼタンパク質(アイソフォーム1); SwissProtデータベース受託番号Q12884のアミノ酸配列を示す。
配列番号: 2は、ヒトDPPIVタンパク質; SwissProtデータベース受託番号P27487のアミノ酸配列を示す。
配列番号: 3は、可溶性ヒトDPPIVタンパク質; Swissprotデータベース受託番号P27487の29〜766位のアミノ酸配列を示す。
配列番号: 4は、可溶性ヒトセプラーゼタンパク質; Swissprotデータベース受託番号Q12884の26〜760位のアミノ酸配列を示す。
実施例1
ラットモノクローナル抗DPPIVおよび抗セプラーゼ抗体(それぞれ、クローンE26およびD28)は、Vitatex Inc. (Stony Brook、NY、USA)から購入した。該抗体は、以前に、Ghersi,G. et al. (J. Biol. Chem. 277 (2002) 29231-29241)およびPineiro-Sanchez,M.-L. et al. (J. Biol. Chem. 12 (1997) 7595-7601)によって記載されている。
モノクローナルラットIgGのビオチン化
モノクローナルラットIgG(クローンE26)を、10mM NaH2PO4/NaOH、pH7.5、30mM NaCl中で10mg/mlにした。IgG溶液1mlあたり50μlのビオチン-N-ヒドロキシスクシンイミド(DMSO中3.6mg/ml)を添加した。室温で30分後、試料をSuperdex 200上でクロマトグラフィー処理した(10mM NaH2PO4/NaOH、pH7.5、30mM NaCl)。ビオチン化IgG含有画分を回収した。
モノクローナルラットIgGのジゴキシゲニン化
モノクローナルラットIgG(クローンD28)を10mM NaH2PO4/NaOH、30mM NaCl、pH7.5中で10mg/mlにした。IgG溶液1mlあたり50μlのジゴキシゲニン-3-O-メチルカルボニル-ε-アミノカプロン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Roche Diagnostics、Mannheim、Germany、カタログ番号1 333 054)(DMSO中3.8mg/ml)を添加した。室温で30分後、試料をSuperdex(登録商標)200(10mM NaH2PO4/NaOH、pH7.5、30mM NaCl)上でクロマトグラフィー処理した。ジゴキシゲニン化IgG含有画分を回収した。
実施例2
ヒト血清および血漿試料中のDPPIV/セプラーゼの測定のためのELISA
ヒト血清または血漿中のDPPIV/セプラーゼの検出のため、サンドイッチELISAを開発した。抗原の捕捉および検出のため、等分量の抗DPPIV モノクローナル抗体E26と抗セプラーゼモノクローナル抗体D28 (実施例1参照)を、それぞれ、ビオチンおよびジゴキシゲニンとコンジュゲートした。
試料(20μl)を、ストレプトアビジンコーティングマイクロタイタープレートの別々のウェル内で、0.12μg/mlのE26-ビオチンおよびD28-ジゴキシゲニン抗体のそれぞれを、pH7.4に調整し、ヒト抗ラット抗体応答(HARA)を排除するための200μg/mlのポリマーモノクローナルマウスIgG Fab-断片; Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germany、カタログ番号11096478-001)を加えたインキュベーションバッファー(40mMリン酸塩、200mM 酒石酸ナトリウム、10mM EDTA、0.05%フェノール、0.1% ポリエチレングリコール40000、0.1% Tween 20、0.2% BSA、0.1%ウシIgG、0.02% 5-ブロモ-5-ニトロ-1,3-ジオキサン)中に含む100μlの抗体試薬と混合した。
1時間のインキュベーション後、プレートを洗浄バッファー(10mM Tris、150mM NaCl、0.05% Tween 20)で3回洗浄した。
次の工程では、ウェルを30mU/mlの抗ジゴキシゲニン-HRPコンジュゲート(Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germany、カタログ番号1633716)とともに、ユニバーサルコンジュゲートバッファー(Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germany、カタログ番号11684825)中で60分間インキュベートし、前述のようにして洗浄した。
次いで、ウェルを100μlのTMB基質溶液(Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germany、カタログ番号12034425)とともに30分間インキュベートした。2N硫酸(50μl)の添加により発色を止め、青色から黄色に変わった。ELISAリーダーにより450nmにおけるODを測定した。
すべてのインキュベーションは室温で行なった。ヒト血清または血漿の試料をインキュベーションバッファーで5%に(ad)予備希釈した。較正のため、ヒト血清を標準として使用した。これは、インキュベーションバッファーで2/4/8/16/32%に希釈し、それぞれ、2/4/8/16/32単位/mlの任意の所定の値を有する標準物質を作製した。
較正曲線の等式を非線形最小二乗法曲線のあてはめ(Wiemer-Rodbard)によって計算し、ウェルの吸光度の読みを対応する濃度値に変換するのに使用した。結果に予備希釈係数を掛け、それぞれの試料自体の濃度を得た。
実施例3
CRC試験集団
第1の試験において、48名の充分特徴付けされた結腸直腸癌の患者(表1に示されたUICC分類)由来の試料を使用した。
表1の試料を、既知の悪性疾患はなにもない50名の明らかに健常な個体
から得られた対照試料(=対照コホート)と比較して評価した。
実施例4
DPPIV/セプラーゼ複合体は癌患者を健常対照と識別する
DPPIV/セプラーゼの血清濃度は、CRC患者と健常対照間で顕著に異なる(図1および2)。
CRC患者コホートの平均濃度は対照コホートよりも有意に低い: 患者では51.6U/mlに対して対照では85.8U/ml。それぞれの対照コホートに対して95%特異性をもたらすカットオフ値では、結腸直腸癌の感度は75%である。
感度は、すべての病期の癌で類似している(表2)。したがって、血清/血漿中のDPPIV/セプラーゼ濃度は、疾患の早期インジケータとして使用され得る。
実施例5
LC試験集団
第1の試験とは完全に独立した第2の試験では、肺癌(正確には、非小細胞肺癌: NSCLC)、頭頸部癌および膵臓癌に焦点を当てた。NSCLCでは、その2つの主要な型、腺癌および扁平上皮癌に苦しむ患者を調査した。表3は、肺癌コホートの型および病期分布を示す。
この試験の対照コホートは、表4に記載のように、特に、喫煙者および非喫煙者由来の試料を含むように規定した。肺活量測定肺機能試験(Miller,M.R. et al.,Eur. Respir. J. 26 (2005)319-338)を各個体について行なった。試料は、ドナーの結果が正常範囲内である場合のみ対照コホートに含まれた。同じ対照コホートを頭頸部癌および膵臓癌でのDPPIV/セプラーゼ試験の感度の評価に適用した。
実施例6
DPPIV/セプラーゼはLC患者を健常対照と識別する
DPPIV/セプラーゼの血清濃度は、LC患者と健常対照間で顕著に異なる(図3)。癌患者コホートの平均濃度は対照コホートよりも有意に低い: 患者では35U/mlに対して対照では75U/ml。それぞれの対照コホートに対して95%特異性をもたらすカットオフ値では、肺癌の感度は77%である。
感度は、すべての病期の肺癌で類似しているが、扁平上皮癌の感度は腺癌のものより高い(表5)。
実施例7
頭頸部試験集団
この試験では、頭頸部癌を有する充分特徴付けされた29名の患者由来の試料を使用した(表6に示すUICC分類)。試料を、既知の悪性疾患はなにもない明らかに健常な67名の個体から得た対照試料(=対照コホート)と比較して評価した。同じ対照コホートをLCおよび膵臓癌でのDPPIV/セプラーゼ試験の感度の評価に適用した。
実施例8
DPPIV/セプラーゼは頭頸部癌患者を健常対照と識別する
DPPIV/セプラーゼの血清濃度は頭頸部癌患者と健常対照間で異なる(図3)。頭頸部癌患者コホートの平均濃度は対照コホートよりも有意に低い: 患者では44U/mlに対して対照では75U/ml。それぞれの対照コホートに対して95%特異性をもたらすカットオフ値では、頭頸部癌の感度は59%である。
実施例9
膵臓癌試験集団
この試験では、膵臓癌を有する充分特徴付けされた44名の患者由来の試料を、対照コホートと比較して評価した。同じ対照コホートをLCおよび頭頸部癌でのDPPIV/セプラーゼ試験の感度の評価に適用した。表7は、膵臓癌コホートの型および病期分布を示す。
実施例10
DPPIV/セプラーゼ複合体は膵臓癌患者を健常対照と識別する
DPPIV/セプラーゼの血清濃度は膵臓癌患者と健常対照間で顕著に異なる(図3)。膵臓癌患者コホートの平均濃度は対照コホートよりも有意に低い: 患者では41U/mlに対して対照では75U/ml。それぞれの対照コホートに対して95%特異性をもたらすカットオフ値では、膵臓癌の感度は59%である。