JP2012252967A - 電子顕微鏡用絞りプレート板及びその製造方法 - Google Patents

電子顕微鏡用絞りプレート板及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】最近のナノテクノロジー技術の進展に伴う透過電子顕微鏡に対する新たなニーズにおいて、例えば電子線の平行性を維持したまま数nm領域に照射して、同サイズの物体の精密な構造解析や三次元可視化像の構築法が提案されているが、そのためには、孔径が1μm程度の超微小孔絞りが必要であり、このような超微小孔保有の絞り用プレート板を実現することを目的とする。
【解決手段】イオンビーム加工を用いた製造技術により、電子線を遮蔽するために要求される100μm程度の厚みを有する金属板7に対して、多段の円筒形状の空洞からなる孔11の加工を施し、目的の超微小の孔を逆方向から加工することにより得て、直径1μm程度の超微小孔径を有する顕微鏡用絞りプレート板とその製造方法を提供する。
【選択図】図2

Description

本発明は、超微小領域にのみ電子線を照射することにより、局所領域の構造解析や様々な顕微鏡技術を応用する計測、分析技術分野に用いられる電子顕微鏡用絞りプレート板及びその製造方法に関する。
従来、透過電子顕微鏡や走査電子顕微鏡などの電子線応用技術分野において、電子線のビーム径を調節するために絞りプレートが使用されている。絞りプレートに要求される仕様は、電子線を透過させずに遮断できる100μm程度の十分な厚みを有し、かつ長時間の電子線の照射に対して安定なプレート材料に対して、微小な孔が開けられたものであり、例えば、特許文献1に記載されているように、高融点金属のモリブデンのようなプレートに対して微小な孔を開け、帯電防止のために表面に白金や白金パラジウムなどをコーティングしたものが提案されている。
技術的課題としては、電子顕微鏡は数万倍から数十万倍以上に渡る高分解能領域にて観察するために、10μmから350μmという微小な孔を有する絞りプレートが要求され、その穴加工の形成技術に主眼が置かれてきた。特にモリブデンなどの高融点金属板に機械的に微細な孔をあけることは容易ではなく、半導体プロセス技術を応用したエッチング法による微小な電子線通過孔を形成させる方法が主流であった。ところが、耐熱性、耐蝕性、耐酸性に富むレジストを用いてのエッチング技術となるため、孔形成後にレジストが完全に除去されずに絞りプレート表面に残留し、その結果として、電子線の照射に対する帯電等の問題が発生し、実際の電子顕微鏡用に供する時の課題として認識されていた。これらの残留レジスト問題を含むエッチング処理の改善方法として、特許文献2に、エッチング処理後にオスミウムコーティングを施す技術が開示されている。さらにオスミウムコーティングを施す際に、プラズマを用いたスパッタリング法やプラズマ励起化学気相堆積法が提示されたが、均一なオスミウム薄膜の堆積技術に課題が残り、特許文献3ではさらに水素ガスを添加する技術が開示されている。
これらのエッチング法による孔形成技術に対して、特許文献4において、集束したイオンビームを穿孔部に照射し、イオンエッチングの作用により高融点金属板に絞り孔を形成する技術が開示されている。これは、従来のエッチング処理を用いないために残留レジスト問題が発生せず、電子線の照射に対する帯電等の問題が生じない優れた方法である。しかし、特許文献4には、集束したイオンビームを最適条件で照射すれば矩形状や円形状の孔を開けることができ、時間がかかる場合は、穿孔部の内周部だけを丸くイオンビーム加工することで中心部を脱落させて絞り用の孔を開けることができると記載されているだけで、実際の加工時間や孔のサイズに対する技術情報は開示されていない。さらに同文献では、透過電子顕微鏡用の制限視野絞りとしてよく使われるセンチメートル長さの一枚のプレートに4つの絞り孔を持つ場合に対して、同様なイオンビーム加工により孔を開けることができるとしているので、汎用的な電子顕微鏡用絞りプレート板に当てはまる孔径でφ50、150、200、300μm型の絞り用プレート板を対象にしていることが容易に理解できる。
これらに対して、最近のナノテクノロジー技術の発展の中で、透過電子顕微鏡を活用して、微細な構造物からの構造解析や三次元可視化像を得る技術が検討されている。この場合、微細領域に対応して制限視野絞りの孔径として1μm程度の絞りプレート板が望まれている。また電子線回折を利用した構造解析分野においても、基本回折班点の周辺の衛星回折班点からの顕微鏡像を得るために、孔径1μm前後またはそれ以下の対物絞り用の絞りプレート板が望まれている。
特開平04−206244号公報 特開2000−299076号公報 特開2005−191014号公報 特開2007−329043号公報
本発明は、孔直径が1μm前後またはそれ以下の超微小孔の絞り用プレート板の提供とその製造法に関するものである。元来、絞りプレート板は電子線を遮断するために100μm程度の厚みが要求される。このような厚みの金属板に対して、汎用的な絞り孔径は10μmから350μm程度であり、最小径は厚みに対して1/10程度であることが通常であった。
これに対して、最近のナノテクノロジー技術の進展に伴う透過電子顕微鏡に対する新たなニーズにおいて、例えば電子線の平行性を維持したまま数nm領域に照射して、同サイズの物体の精密な構造解析や三次元可視化像の構築法が検討されている。また従来からの電子線回折法で課題として残っていた基本回折班点の周囲に観察される衛星回折班点や散漫散乱の構造解析技術分野において、孔径が1μm程度の絞りが必要であることを鑑み、このような超微小孔保有の絞り用プレート板を実現することを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明の要旨とするところは次の通りである。
(1)非磁性材料からなる金属板の中心に貫通した孔を有する電子顕微鏡用絞りプレート板であって、前記孔は、nを2以上の正の整数として、直径が異なるn個の円筒形状の空洞からなり、前記金属板の下面と垂直な中心軸上に同軸に、前記下面に繋がる円筒形状の空洞を先頭に前記金属板の上面に向けて直径が大きくなっていく順に前記n個の円筒形状の空洞が連続して配列した形状であり、前記下面における孔径が1.5μm以下であることを特徴とする電子顕微鏡用絞りプレート板。
(2)iを1から前記nまでの正の整数として、i番目の円筒形状の空洞の直径をd、高さをLとした時に、前記金属板の厚みが50μm≦(L+L+・・+L)≦150μmであり、前記下面に繋がる1番目の円筒形状の空洞の直径dが0.5μm≦d≦1.5μm、高さLが10μm≦L≦20μm、前記金属板の上面に繋がるn番目の円筒形状の空洞の直径dが10μm≦d≦20μmであることを特徴とする(1)に記載の電子顕微鏡用絞りプレート板。
(3)前記金属板は、モリブデン、タングステン、白金、銅からなることを特徴とする(1)または(2)に記載の電子顕微鏡用絞りプレート板。
(4)集束したイオンビームを用いて、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電子顕微鏡用絞りプレート板の前記孔を加工することを特徴とする電子顕微鏡用絞りプレート板の製造方法。
(5)前記下面に繋がる1番目の円筒形状の空洞のみ、前記金属板の下面側から加工することを特徴とする(4)に記載の電子顕微鏡用絞りプレート板の製造方法。
上記のように、本発明の電子顕微鏡用絞りプレート板及びその製造方法によれば、上記の目的を達成するために、電子線を超微小領域に絞ることが可能となり、従来不可能であった電子線の平行性を維持したまま数nm領域に照射して、同サイズの物体の精密な構造解析や三次元可視化像の構築法が可能になり、また電子線回折法で課題として残っていた基本回折班点の周囲に観察される衛星回折班点や散漫散乱の構造解析が可能になる。
集束イオンビーム加工装置の概要図。 本発明の電子顕微鏡用絞りプレート板の孔部分の断面模式図。 集束イオンビームで孔加工する時の幾何学的条件の検討結果を示し、(A)は説明図、(B)は結果を示す表。 n段円筒形状の空洞からなる孔における最下面の直径dと高さLの関係を示すグラフ。 実際に作製した絞りプレート板の孔部分の走査イオン顕微鏡像の写真。 電子回折像における基本回折班点の衛星回折班点に絞りを入れた図。
電子顕微鏡用絞りプレート板の製造方法としてのエッチング法では、100μm厚みの金属板に対して、その1/100の直径となる1μmの孔をあけることは、技術的に困難である。そこで、本発明では、集束されたイオンビームを用いた加工技術により製造する方法を提案する。そのイオンビーム加工に関わる装置の概要を図1に示す。集束イオンビーム加工装置10は、本体部分が真空チャンバー1内に設けられ、真空系で接続されたGaイオン銃2を備えたイオンビーム光学系3でGaがイオン化され、かつそのGaイオンビームは30〜40kVに加速されて、集束レンズ系(図示省略)を経て、据え付け台6に据え付けられた金属板7に照射される。金属板7にGaイオンビームが照射された部位からは二次電子が発生し、これを二次電子検出器4で受けて、画像表示装置5で画像化する。走査されたGaイオンビームと発生した二次電子強度を電気量に変換する二次電子検出器4を通じて同期させることにより、走査イオン顕微鏡像が得られる。なお集束されたGaイオンビームの直径は0.1μm以下であり、任意形状加工機能を利用して円形状に走査することで、金属板7に対して自由な直径での円筒加工をすることが可能である。
なお、一連のこれらのイオンビーム加工装置は、集束イオンビーム装置、或いは収束イオンビーム装置と呼ばれていて、広く汎用的に普及している装置である。
集束イオンビーム加工装置10を使って、nを2以上の正の整数として、n段の円筒形状の空洞を段階的に開けて孔を形成することにより、本発明の電子顕微鏡用絞りプレート板を作製することができる。その孔11部分の断面形状を模式的に示した図2を用いて、本発明の詳細を説明する。まず金属板7の下面から、1番目の円筒形状の空洞11aの直径をd、高さをLとし、続いて2番目の円筒形状の空洞11bの直径をd、高さをLとする。この両者(空洞11a、11b)は、金属板7の下面と垂直な中心軸上に、ほぼ同軸上に配列され、2番目の円筒形状の空洞11bの直径は、必ず1番目の円筒形状の空洞11aの直径よりも大きい。このように、一般に、iを1からnまでの正の整数として、i番目の円筒形状の空洞の直径をd、高さをLとし、d<di+1となるようにn個の円筒形状の空洞の直径が徐々に大きくなる円筒形状の空洞を組み合わせていくと、最後のn番目の円筒形状の空洞11nの時に金属板7の上面に繋がり、金属板7を貫通する孔11が形成される。ここで金属板7の総厚みtは、t=L+L+L+・・・+Lで表わされることになる。実際の円筒形状の孔加工は、金属板7の上面から行うので、n番目の円筒形状の空洞11nから先に加工される。もちろん、n=1で100μm程度の金属板7全面にわたって、d=1μmの孔をあけることができれば一番良いが、実際には、孔径が小さいと加工孔中にイオンビームで削った残りが堆積し、それ以上の孔加工ができなくなるという事象に遭遇し、技術的に困難であることが判る。具体的には、厚み100μmの金属板に対して直径1μmで孔を掘っていくと途中で加工ができなくなり、種々の条件を工夫して鋭意検討した結果、直径d[μm]に対して5倍の高さ、即ちL=5d[μm]程度であれば、数時間という現実的な加工作業時間の中で所望の円筒形状の加工ができることを見出した。すなわち、L≦5d[μm](但し、i=1は1.5μm以下の孔径であり加工制約条件が異なるので除く)という経験則が成り立つ。これは幾何学的に考察してみると、図3(A)に示すように、入射したイオンビームに対してスパッタリングされた部分が見込み角度θで系外へ排出されると考える。もちろんこれ以外に、スパッタリングされて浮遊している状態で、真空中の系外へ引張り出されるものもあると考えられるので、あくまで図3は簡単な見積もりである。図3(B)に、直径dを1μmとした時のこの見込み排出角度に依存した高さLを幾何学的に求めた結果を示す。上述のL≦5d[μm]という経験則は、凡そ5°程度以上の見込み角度が、金属板7材料のスパッタリングされた部分が主に除去されるのに必要であることを示している。なお、孔径が小さくなると加工時間そのものが短くなるので、より長時間の加工が可能になり、5°よりも浅い見込み角度で少しずつ排出される部分も時間をかけて取り除けると考えられ、深堀りが可能になる。但しその傾向を数式化するのは、現象が十分に解明されていないので困難であり、後述するが、実験条件に基づき1μm以下の超微小孔に対する加工条件を本発明では見出している。他方、d≧10μmであればサブミクロン以下に絞られた加工用のイオンビーム径に対して10倍以上の面積となるので、イオンビーム加工で削った残りが孔部に堆積するようなことはなく、このような空間的な高さ制約は必要でなかった。
種々の条件で本発明のn段の孔加工をした例として、n=5またはn=4の場合の円筒形状の空洞に対する各直径dと高さL、及び目的の最小絞り孔径(d)と金属板の総厚みtについて、超微小孔を得るためのn個の円筒形状の組み合わせ表を表1に示す。各工程の加工時間は数時間以内であり、イオンビーム加工作業全体についても8時間以内という現実的な作業時間内で検討した。この作業工程において、目的とする電子顕微鏡用絞りプレート板を加工できた例を○とし、目的とする形状が作製できなかった例を×とした。
表1に示すように、No.1〜No.4及びNo.7、No.8については、本発明に応じた適正な電子顕微鏡用絞りプレート板の孔加工ができた。No.5は孔径dが0.3μmであるので、本発明の1.5μm以下を満足する。ところが、孔径dは0.3μmと超微小であるがその部分の厚みLが6μmであり、dとLに関する本発明の請求項2の範囲外である。実際に電子顕微鏡用絞りプレート板としてテストすると、加速電圧が200kVから300kVの汎用型の電子顕微鏡の場合、L=6μmのために、電子線を完全に遮断できずに本発明の電子顕微鏡用絞りとして適用できなかった。但し、100kV以下の低加速電圧領域での透過電子顕微鏡には適用できるので、△という評価をした。つまり、100kV以下の低加速の透過電子顕微鏡も最近はバイオ分野やソフトマテリアル分野での応用が進みつつあり、このような低加速の透過電子顕微鏡であれば十分に適用できるという意味である。No.6は、孔径の直径2μmのものを製作し、絞りプレート板として透過電子線を十分に活用することができることを確認したが、絞り径が2μmでは、後述する実施例に示した図6において、特定領域の衛星回折班点を選定することができなかったので、本発明範囲外である。
さて、上述の電子線の遮蔽効果の観点からの実験検討に基づき、以下より詳細な本発明の説明を行う。全体厚みtと最上面(n個目)に繋がる円筒条件について検討した。元来、電子顕微鏡用絞りプレート板は200kVから300kVという高電圧で飛来する電子線を遮蔽する効果が必要であり、その上で、孔部分だけで電子線を通す役割を果たしている。この遮蔽の観点で、ある一定以上の金属板の厚みが必要であり、金属板の厚みの総厚みtは(L+L+L+・・・+L)≧50μmである。なお、より好ましくは、80μm以上の厚みが良い。また電子顕微鏡用絞りプレート板として装着する際に、金属板の厚みがあり過ぎると余分なスペースを必要とすることになり、総厚みtの上限は、150μmであることが良い。さらに好ましくは、総厚みtは、120μm以下である。このようにある一定の厚みを確保する上では、絞り孔として設ける空洞直径も超極小絞りの作製が目的であるので、小さい方が望ましい。しかしながら、上述したように、直径1μmの孔径のまま貫通させることはできないので、n段の円筒形状の空洞を組み合わせる結果、どうしてもn段目の円筒の直径は、ある程度の大きさになる。透過する電子線の遮蔽という観点から鋭意検討した結果、n段目の円筒の直径として、20μm以下という条件を得た。望ましくは直径15μm以下である。このサイズから、n段の円筒を組み合わせて、最終下面での直径1.5μm以下の孔を形成させる技術が本発明である。
さらに1番目の円筒形状について検討した。実際に透過電子顕微鏡にて、絞り孔に依存した電子線の透過能を調査したところ、d=1μmに対して、L=10μm以上が必要であることが判った。これはLが10μm未満の絞り径を作製して電子線を透過させると、本来の絞り孔(1μm)よりも広い領域においても蛍光が観察され、透過電子線を絞りきれていないことが判ったので、制約条件とした。電子線の加速条件は、通常観察条件の200kVである。通常、100kV電子線の透過能は0.1μm程度であり、1000kVでもその3.3倍の0.33μm程度と教科書レベルで知られている。しかし本発明において、種々の条件で検討し、透過電子顕微鏡に充分な絞りとして電子線を遮蔽できる最小限の厚み、即ちLの下限値として10μmという値を見出したのである。なお実験に供した種々の金属材料の中で、モリブデン、タングステン、白金、銅においては、ほとんどその遮断能力において顕著な差は見られなかった。種々のdの条件において行った実験結果を、図4に示す。特に超微小孔である直径1μm以下のdを実現させるためには、上面から段階的にイオンビーム加工により孔を作製してもよいが、しばしば歩留まりに支障をきたすことが判った。そこで、最後の円筒形状の空洞のイオンビーム加工においては、所定の絞りプレート板用金属板の上面と下面を反転させ、下面側からイオンビームで加工する方法が適していることを見出した。この場合、少し時間は要するが、直径1μmでも深さ15μm程度まで加工できることが判った。図3で検討した簡単な幾何学的考察では、排出可能な見込み角は2°程度になっていると考えられる。直径0.5μmでは10μm、また、直径0.3μmでは6μm程度しか加工できず、これらの条件から、図4で示した斜線部分が、n=1の円筒径のサイズに関する制約条件となり、直径dの最小値については0.5μm以上とした。なおこの超微小な孔径加工においては、削り取る領域が小さいため1〜2時間でもかなりの加工ができ、上述した図3の単純な幾何学的考察以上に深く加工できることが判っており、図4で示したような実験事実に基づき、得られる絞り孔径と高さ条件を決定した。なお直径dの最大値について1.5μmとしたのは、本発明の目的が超微小な孔径を持つ電子顕微鏡用絞りプレート板の発明にある点であり、望ましくは、直径1μm以下の孔径の絞りを対象とするからである。なお金属板の上下を反転させて、裏側からイオンビーム加工することで、Lとして加工可能な高さは20μm以下であった。また既に述べたように実用的な電子線遮断性の観点から、Lは10μm以上であることが要求される。
次に金属板の材質であるが、電子線を十分に遮断でき、また電子顕微鏡特有の磁界レンズの中に挿入する絞りプレート板であるために、非磁性材質であることが制約条件として発生する。これらの条件下の中で、鋭意、種々の金属を検討し、またコスト面からも検討した結果、本発明の金属板として、モリブデン、タングステン、白金、銅が適用できることを確認した。Niも非常に使いやすい材料であったが、その磁性のために、透過電子顕微鏡用としては活用できなかった。
以上の発明に基づいた多段の円筒形状の空洞からなる孔を有するモリブデン製の電子顕微鏡用絞りプレート板を、集束イオンビーム加工装置を用いて製作した。図5に、作製した絞りプレート板の走査イオン顕微鏡像の写真を示す。L=1μmであり、L=20μmである。対物視野絞りの一つとして使うために、絞りプレート板の直径は3mmφとし、予め上面と下面を1500番で機械研磨後、バフ研磨仕上げとして鏡面状態にした。イオンビーム加工は真空中で行われるため、その加工後に何か表面に蒸着等の処理を施すこと無く、すぐに真空中の透過電子顕微鏡の対物絞りプレート板として装着した。
このような超微小な孔径を持った対物絞りプレート板を実際の電子線構造解析に適用した。図6は、超微細な析出現象と思われる事象を持つSi含有鋼からの電子線回折像である。従来の絞り径の影を矢印Aで示し、本発明の絞り径の影を矢印Bで示す。種々の絞り径でこの基本回折班点の周りの特定の衛星回折班点を選択できるかどうか調べた所、絞り径が1μmであれば、自在に選択できることが判った。絞り径が2μmでは、必ずしも特定の衛星回折班点だけを絞ることができないことも判った。このような事例で代表されるように、1.5μm以下の超微小な孔径を持つ絞りプレート板の開発により、微細構造を調べたい局所領域を自在に選択することが可能になり、材料開発において従来の未解明であった問題が解決できるようになった。
本発明の超微小な孔径を持つ電子顕微鏡用絞りプレート板の実用化により、透過電子顕微鏡解析技術分野において、従来不可能であった微小領域からの構造解析、並びにそれらの3次元可視化が可能となり、これまで分析できなかったために未着手であった課題解明が可能となり、鉄鋼材料のような大規模生産プロセスにおいても、新しい材料設計指標が得られることになった。特に鉄鋼のように解析技術に卓越した部門を持つ企業が多い分野では、当然、多数の電子顕微鏡を保有しており、その各々における局所領域構造解析力、3次元可視化力が1グレードアップしたことになるので、企業間における産業競争力の向上が確実に期待される発明である。
1 真空チャンバー
2 Gaイオン銃
3 イオンビーム光学系
4 二次電子検出器
5 画像表示装置
6 据え付け台
7 金属板
10 集束イオンビーム加工装置
11 孔
11a、11b 空洞

Claims (5)

  1. 非磁性材料からなる金属板の中心に貫通した孔を有する電子顕微鏡用絞りプレート板であって、
    前記孔は、nを2以上の正の整数として、直径が異なるn個の円筒形状の空洞からなり、前記金属板の下面と垂直な中心軸上に同軸に、前記下面に繋がる円筒形状の空洞を先頭に前記金属板の上面に向けて直径が大きくなっていく順に前記n個の円筒形状の空洞が連続して配列した形状であり、前記下面における孔径が1.5μm以下であることを特徴とする電子顕微鏡用絞りプレート板。
  2. iを1から前記nまでの正の整数として、i番目の円筒形状の空洞の直径をd、高さをLとした時に、前記金属板の厚みが50μm≦(L+L+・・+L)≦150μmであり、前記下面に繋がる1番目の円筒形状の空洞の直径dが0.5μm≦d≦1.5μm、高さLが10μm≦L≦20μm、前記金属板の上面に繋がるn番目の円筒形状の空洞の直径dが10μm≦d≦20μmであることを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡用絞りプレート板。
  3. 前記金属板は、モリブデン、タングステン、白金、銅からなることを特徴とする請求項1または2に記載の電子顕微鏡用絞りプレート板。
  4. 集束したイオンビームを用いて、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子顕微鏡用絞りプレート板の前記孔を加工することを特徴とする電子顕微鏡用絞りプレート板の製造方法。
  5. 前記下面に繋がる1番目の円筒形状の空洞のみ、前記金属板の下面側から加工することを特徴とする請求項4に記載の電子顕微鏡用絞りプレート板の製造方法。
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