JP2012250870A - 圧電磁器組成物及び圧電部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】非鉛系でありながら安価で実用価値のある圧電部品を容易に得ることがきる圧電磁器組成物及び圧電部品を実現する。
【解決手段】圧電磁器組成物は、一般式{(1−x)(Bi,Na)TiO3・xBa(Cu,Nb)O3}で表わされる複合酸化物を主成分として含有し、前記xが、0.02≦x≦0.08(好ましくは、0.0475≦x≦0.055)である。MnO2が、主成分100モル部に対し、0.98モル部以下の範囲で含有されているのが好ましい。また、Ba(Cu,Nb)O3を組成式{Ba(Cu(1+Z)/3Nb2/3)O(9+Z)/3}で表した場合、zが0.10〜0.15であるのが好ましい。この圧電磁器組成物を使用して圧電セラミック素体1を製造し、圧電部品を得る。
【選択図】図1
【解決手段】圧電磁器組成物は、一般式{(1−x)(Bi,Na)TiO3・xBa(Cu,Nb)O3}で表わされる複合酸化物を主成分として含有し、前記xが、0.02≦x≦0.08(好ましくは、0.0475≦x≦0.055)である。MnO2が、主成分100モル部に対し、0.98モル部以下の範囲で含有されているのが好ましい。また、Ba(Cu,Nb)O3を組成式{Ba(Cu(1+Z)/3Nb2/3)O(9+Z)/3}で表した場合、zが0.10〜0.15であるのが好ましい。この圧電磁器組成物を使用して圧電セラミック素体1を製造し、圧電部品を得る。
【選択図】図1
Description
本発明は、鉛を実質的に含まない非鉛系の圧電磁器組成物及び圧電部品に関する。
今日、情報、通信、自動車、家電、医療及び航空宇宙関連等の多様な分野で、種々の圧電部品が広く使用されている。そして、従来より、この種の圧電部品に使用される圧電セラミック材料としては、(Pb,Zr)TiO3等の鉛を大量に含有した複合酸化物が広く知られている。
しかしながら、近年では、鉛を含有した圧電部品の廃棄が、河川や湖沼等の地球環境への影響が懸念されている。このため鉛系の圧電セラミック材料に代えて、鉛を実質的に含まない非鉛系の圧電セラミック材料の研究・開発が盛んに行われている。
例えば、非特許文献1には、非鉛系の圧電材料として、(Na0.5Bi0.5)TiO3−NaNbO3セラミックスの圧電特性が報告されている。
非特許文献1では、一般式(Na0.5(1+x)Bi0.5(1-x))Ti(1-x)NbxO3で示されるNBT−NN系ペロブスカイト型複合酸化物において、xを0〜0.08の範囲で異ならせ、圧電歪定数d33を測定している。この非特許文献1では、xが0.01〜0.02のNaNbO3添加量の少ない領域で、80〜88pC/Nと比較的大きな圧電歪定数d33が得ることができ、また電気機械結合係数kpも17.92%と比較的大きな値が得られることが報告されている。
また、非特許文献2には、反応性テンプレート粒成長(Reactive Templated Grain Growth;以下、「RTGG」という。)法を使用して得られたBi0.5(Na1-xKx)0.5TiO3(以下、「BNKT−x」という。)の圧電性について報告されている。
RTGG法は、異方形状単結晶粉末である層状ペロブスカイト型物質の板状粉末をテンプレートとして用い、該テンプレートを使用して配向ペロブスカイト型多結晶を作製し、かつテンプレート自体も反応により単純ペロブスカイト型物質に転換する方法である。
この非特許文献2では、Naの一部を0.15のモル比でKと置換したBNKT−0.15焼結体をRTGG法で作製している。そして、このBNKT−0.15焼結体では、配向度が0.8以上に達し、無配向のBNKT−0.15焼結体に比べ、50〜60%高い圧電定数を示すことが報告されている。
Yueming Li, 外5名,"Dielectric and piezoelectric properties of lead-free (Na0.5Bi0.5)TiO3-NaNbO3 Ceramics", Materials Science & Engineering B 112、2004年,p.5-9
谷 俊彦、外1名、「RTGG法によるペロブスカイト型圧電セラミックスの配向制御に関する研究」、粉体および粉末冶金、第50巻第4号 、2003年、p.284−291
しかしながら、非特許文献1は、鉛を含んでいない非鉛系であるので、環境面への影響は排除することが可能であるが、圧電歪定数d33が90pC/N未満と小さく、また電気機械結合係数kpも18%未満と低く、従来の鉛系圧電セラミック材料に比べて圧電性能に劣るという問題点があった。
また、非特許文献2は、上述したようにRTGG法を使用して配向性を有する圧電セラミック材料を作製し、これにより圧電性を向上させているものの、配向性を付与するための特別の材料と製法が必要となり、製造工程の煩雑化を招く上、コスト的にも高価なものになるという問題点があった。
本発明はこのような事情に鑑みなされてものであって、非鉛系でありながら安価で実用価値のある圧電部品を容易に得ることがきる圧電磁器組成物及び圧電部品を提供することを目的とする。
ペロブスカイト型結晶構造(一般式ABO3)を有する複数の複合酸化物同士を固溶させた混晶系の強誘電体材料は、結晶構造が変化するモルフォトロピック相境界(Morphotropic phase boundary;以下、「MPB」という。)の近傍領域で圧電歪定数や電気機械結合係数等の各種圧電特性が向上することが知られている。
本発明者らは、斯かる点に着目し、鋭意研究を行ったところ、結晶系が菱面体晶系の(Bi,Na)TiO3を母材とし、該(Bi,Na)TiO3の一部をモル比が0.02〜0.08となるように、正方晶系のBa(Cu,Nb)O3で置換することにより、結晶組成は(Bi,Na)TiO3相とBa(Cu,Nb)O3相とが共存するMPB近傍領域となり、これにより圧電特性が向上するという知見を得た。
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る圧電磁器組成物は、鉛を実質的に含まない非鉛系の圧電磁器組成物であって、一般式{(1−x)(Bi,Na)TiO3・xBa(Cu,Nb)O3}で表わされる複合酸化物を主成分として含有し、前記xが、0.02≦x≦0.08であることを特徴としている。
また、本発明の圧電磁器組成物は、前記xが、0.0475≦x≦0.055であるのが好ましい。
さらに、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、MnをMnO2に換算し、主成分100モル部に対し0.98モル部以下の範囲で含ませることにより、より一層良好な圧電特性を有する圧電磁器組成物が得られることが分かった。
すなわち、本発明の圧電磁器組成物は、Mnが、MnO2換算で主成分100モル部に対し、0.98モル部以下(0を含まず。)の範囲で含有されているのが好ましい。
また、本発明者らの更なる鋭意研究の結果、Ba(Cu,Nb)O3を組成式{Ba(Cu(1+z)/3Nb2/3)O(9+z)/3}で表した場合、zを0.10〜0.15の範囲とすることにより、分極不良が生じることもなく、焼結性向上を図れることが分かった。
すなわち、本発明の圧電磁器組成物は、前記Ba(Cu,Nb)O3は、組成式{Ba(Cu(1+z)/3Nb2/3)O(9+z)/3}で表されると共に、前記zが0.10〜0.15であるのが好ましい。
また、本発明に係る圧電部品は、圧電セラミック素体の表面に電極が形成された圧電部品において、前記圧電セラミック素体が、上記いずれかに記載の圧電磁器組成物で形成されていることを特徴としている。
本発明の圧電磁器組成物によれば、一般式{(1−x)(Bi,Na)TiO3・xBa(Cu,Nb)O3}で表わされる複合酸化物を主成分として含有し、前記xが、0.02≦x≦0.08であるので、結晶組成は(Bi,Na)TiO3相とBa(Cu,Nb)O3相とが共存するMPB近傍領域となって圧電特性を向上させることが可能となり、したがって特別な材料を使用しなくても、良好な圧電特性を有する非鉛系圧電磁器組成物を容易に得ることができる。
特に、前記xが、0.0475≦x≦0.055とした場合は、より一層良好な圧電特性を有する非鉛系圧電磁器組成物を安価に得ることが可能となる。
また、Mnが、MnO2換算で主成分100モル部に対し、0.98モル部以下(0を含まず。)の範囲で含有されることにより、更により一層良好な圧電磁器組成物を得ることが可能となる。
前記Ba(Cu,Nb)O3は、組成式{Ba(Cu(1+z)/3Nbz/3)O(9+z)/3}で表されると共に、前記zが0.10〜0.15である場合は、分極不良が生じることもなく焼結性の良好な圧電磁器組成物を得ることができる。すなわち、より低温での焼結が可能となることから、製造コストの削減が可能となる。
また、本発明の圧電部品によれば、圧電セラミック素体の表面に電極が形成された圧電部品において、前記圧電セラミック素体が、上記いずれかに記載の圧電磁器組成物で形成されているので、安価で実用価値を有する圧電部品を容易に得ることができる。
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
本発明に係る圧電磁器組成物の一実施の形態は、主成分が、下記一般式(A)で表される。
(1−x)(Bi0.5Na0.5)TiO3・xBa(Cu1/3Nb2/3)O3 …(A)
ここで、前記xは、数式(1)を満足している。
ここで、前記xは、数式(1)を満足している。
0.02≦x≦0.08…(1)
すなわち、本実施の形態の圧電磁器組成物は、結晶系が菱面晶系の(Bi0.5Na0.5)TiO3(以下、「BNT」という。)を母材とし、数式(1)を満足する範囲でBa(Cu1/3Nb2/3)O3(以下、「BCN」という。)をBNTに固溶させている。
すなわち、本実施の形態の圧電磁器組成物は、結晶系が菱面晶系の(Bi0.5Na0.5)TiO3(以下、「BNT」という。)を母材とし、数式(1)を満足する範囲でBa(Cu1/3Nb2/3)O3(以下、「BCN」という。)をBNTに固溶させている。
〔課題を解決するための手段〕の項でも述べたように、ペロブスカイト型結晶構造(一般式ABO3)を有する複数の複合酸化物同士を固溶させた混晶系の強誘電体材料は、結晶構造が変化するMPBの近傍領域で圧電歪定数や電気機械結合係数、誘電率等の各種の圧電特性が極めて高くなることが知られている。
そして、数式(1)の範囲でBCNをBNTに固溶させて該BCNを主成分中に含有させることにより、結晶組成はBNT相とBCN相とが共存するMPB近傍領域となり、これにより良好な圧電特性を得ることが可能となる。
特に、BCNの含有モル比xが0.0475〜0.055の範囲では、結晶組成が、よりMPB近傍領域となることから、より一層良好な圧電特性を有する圧電磁器組成物を得ることが可能となる。
尚、BCNの含有モル比xが0.02未満又は0.08を超えると、結晶組成はMPB近傍領域からの偏位が大きくなり、圧電特性が低下するため好ましくない。
また、本圧電磁器組成物は、主成分100モル部に対し0.98モル部以下(0を含まず。)の範囲でMnO2を含有させ、BNTに固溶させるのも好ましい。
この場合、主成分は、一般式(B)で表わすことができる。
100{(1−x)(Bi0.5Na0.5)TiO3・xBa(Cu1/3Nb2/3)O3}+yMnO2 …(B)
ここで、前記yは、数式(2)を満足している。
ここで、前記yは、数式(2)を満足している。
0<y≦0.98…(2)
このように焼結助剤としての作用を奏するMnO2を組成物中に適量含有させることにより、より一層の圧電性向上を図ることができる。ただし、MnO2を組成物中に含有させる場合、主成分100モル部に対し含有モル量yが0.98モル部を超えると、却って圧電特性が急激に低下し、所望の圧電特性を得ることができなくなるおそれがあることから、好ましくない。
このように焼結助剤としての作用を奏するMnO2を組成物中に適量含有させることにより、より一層の圧電性向上を図ることができる。ただし、MnO2を組成物中に含有させる場合、主成分100モル部に対し含有モル量yが0.98モル部を超えると、却って圧電特性が急激に低下し、所望の圧電特性を得ることができなくなるおそれがあることから、好ましくない。
したがって、MnO2を含有させる場合は、数式(2)に示すように、主成分100モル部に対し含有モル量yが0.98モル部以下(0を含まず。)であるのが好ましい。
さらに、本圧電磁器組成物は、上記一般式(B)に加え、BCN中のCu成分を化学量論組成よりもモル比で0.10〜0.15の範囲で過剰に含有させるのも好ましい。
この場合、主成分は、一般式(C)で表わすことができる。
100{(1−x)(Bi0.5Na0.5)TiO3・xBa(Cu(1+Z)/3Nb2/3)O(9+z)/3}+yMnO2 …(C)
ここで、前記zは、数式(3)を満足している。
ここで、前記zは、数式(3)を満足している。
0.10≦y≦0.15…(3)
CuOは、焼結助剤としての作用を有するため、BCN中のCu成分を化学量論組成、すなわちCu/Nb=1/2よりも過剰に含有させることにより焼結性を向上させることが可能となる。そして、そのためには化学量論組成に対し過剰に含有されるCu量、すなわち過剰モル比zは、少なくとも0.10以上が好ましい。一方、Cuの過剰モル比zが0.15を超えると、焼成時に絶縁抵抗の低い二次相が生成されるため、分極不良を招くおそれがあり、好ましくない。
CuOは、焼結助剤としての作用を有するため、BCN中のCu成分を化学量論組成、すなわちCu/Nb=1/2よりも過剰に含有させることにより焼結性を向上させることが可能となる。そして、そのためには化学量論組成に対し過剰に含有されるCu量、すなわち過剰モル比zは、少なくとも0.10以上が好ましい。一方、Cuの過剰モル比zが0.15を超えると、焼成時に絶縁抵抗の低い二次相が生成されるため、分極不良を招くおそれがあり、好ましくない。
したがって、BCN中の過剰モル比zは、数式(3)に示すように、0.10〜0.15の範囲とするのが好ましい。
次に、上記圧電磁器組成物を使用して得られた圧電部品について説明する。
図1は、上記圧電部品の一実施の形態を示す断面図であって、該圧電部品は、上述した本発明の圧電磁器組成物からなる圧電セラミック素体1と、該圧電セラミック素体1の両主面に形成されたAg等の導電性材料を主成分とした電極2a、2bとを有し、矢印Aで示す厚み方向に分極処理が施されている。
上記圧電部品は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、第1のセラミック素原料として、Bi化合物、Na化合物、及びTi化合物を用意し、これら第1のセラミック素原料を所定量秤量する。次いで、これら秤量物をボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕する。その後、脱水・乾燥し、所定温度(例えば、600〜800℃程度)で仮焼処理を行い、これにより一般式(Bi,Na)TiO3で表わされるBNT原料粉末(第1の合成物)を得る。
次いで、第2のセラミック素原料として、Ba化合物、Cu化合物、及びNb化合物を用意し、これら第2のセラミック素原料を所定量秤量する。次いで、これら秤量物をボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕する。その後、脱水・乾燥し、所定温度(例えば、600〜800℃程度)で仮焼処理を行い、これにより一般式Ba(Cu,Nb)O3で表わされるBCN原料粉末(第2の合成物)を得る。
次いで、BNT原料粉末、BCN原料粉末、及び必要に応じてMnO2を所定量秤量し、ボールミルに投入し、湿式で十分に混合粉砕し、脱水、乾燥する。尚、この場合、必要に応じて分散剤を添加するのも好ましい。その後、プレス成形を行い、所定形状のセラミック成形体を得る。
次いで、例えば、400〜600℃程度の温度で、このセラミック成形体に脱バインダ処理を施した後、該セラミック成形体を密閉された匣(さや)に収容し、大気雰囲気〜高酸素濃度雰囲気下、900℃〜1250℃程度の温度で、0.5〜10時間、焼成処理を行いセラミック焼結体を作製する。その後、該セラミック焼結体の両主面に研磨処理を施して圧電セラミック素体1を作製する。この後、スパッタリング法や真空蒸着法等の薄膜形成法やめっき法、導電性ペーストの焼付け処理法等、任意の方法で圧電セラミック素体1の両主面に電極2a、2bを形成する。
この後、所定温度に加熱されたシリコーンオイル中で所定電界を印加して分極処理を行い、これにより圧電部品が製造される。
このように上記製造方法によれば、BNT原料、BCN原料、さらには必要に応じてMnO2を混合し、成形加工をした後、所定雰囲気下で焼成を行なうことにより良好な圧電特性を有する圧電磁器組成物を製造しているので、特許文献2のように煩雑な配向処理を行わなくてもよく、煩雑な工程や配向制御のための特別な材料を要することもなく、所望の圧電磁器組成物を容易かつ安価に製造することができる。
しかも、BCNのCu成分が、0.10〜0.15の範囲の過剰モル比zを含有することにより、焼結性が促進されて1150℃以下の焼成温度で焼結させることが可能となり、エネルギー損失も抑制され、より低コストでの圧電部品の製造が可能となる。
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、上記一般式(A)に所定量のMnO2を含有させ、さらにBCN中のCu成分を過剰モル比z含有させているが、用途に応じMnO2を含有させずに上記一般式(A)にBCN中のCu成分を過剰モル比z含有させた形態でもよく、これによっても良好な圧電性を維持しつつ焼結性の向上を図ることが可能である。
また、本発明では、鉛は実質的に含まなければよく、環境面に影響を及ぼさない範囲で不可避的に微量に含まれる場合までも排除するものではない。
また、上記実施の形態では、単板型の圧電部品を例示しているが、積層型の圧電部品にも適用できるのはいうまでもない。
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
第1のセラミック素原料として、Bi2O3、TiO2、C6H5Na3O7・2H2Oを用意した。そして、これら各第1のセラミック素原料を所定量秤量し、遊星式ボールミルを使用して1時間湿式で混合粉砕し、その後、この粉砕物を脱水・乾燥し、酸素雰囲気中、600℃の温度で3時間仮焼し、組成式(Bi0.5Na0.5)TiO3で表わされるBNT原料粉末を得た。
次いで、第2のセラミック素原料として、BaCO3、CuO、Nb2O5を用意した。そして、Cu成分の過剰モル比zが0.10となるように、上記各第2のセラミック素原料を所定量秤量し、遊星式ボールミルを使用して1時間湿式で混合粉砕し、その後、この粉砕物を脱水・乾燥した後、大気雰囲気中、800℃の温度で2時間仮焼し、組成式(Cu1.1/3Nb2/3)O9.1/3で表わされるBCN原料粉末を得た。
次に、上記BNT原料粉末及びBCN原料粉末を所定量秤量すると共に、MnO2の含有モル比yが0.0037となるようにMnO2を秤量する。そして、これら秤量物を混合し、適量のアクリル系バインダを添加した後、遊星式ボールミルを用い、3.3s-1(200rpm)の回転速度で12時間湿式混合粉砕し、混合物を得た。
次いで、105℃の温度で1.5時間乾燥し、結晶粒子が120メッシュ以下となるように整粒し、その後200MPaの圧力で加圧成形し、直径10mm、厚さ1.2mmの円盤状成形体を作製した。
その後、この成形体を焼成炉に入れ、20kPaの酸素分圧下、1150℃の温度で2時間焼成処理を行い、これにより組成式100{(1−x)(Bi0.5Na0.5)TiO3・x(Cu1.1/3Nb2/3)O9.1/3}+0.37MnO2(xは0.01〜0.20)で表される圧電セラミック素体を得た。
次いで、この圧電セラミック素体の両主面にAgぺ一ストを塗布し、600℃の温度で10分間、焼付け処理を行い、圧電セラミック素体の両主面にAg電極を形成した。次いで、Ag電極の形成された圧電セラミック素体をシリコーンオイル中に浸漬し、室温で60kV/cmの電界を30分間、印加して分極処理を行い、試料番号1〜14の試料を得た。作製された各試料の外形寸法は、直径:9.7mm、厚さ:0.6mmであった。
次に、試料番号1〜14の各試料について、d33メータを使用し、圧電歪定数d33を測定した。
また、試料番号1〜14の各試料について、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー社製、4294A)を使用し、比誘電率εr及び電気機械結合係数kpを測定した。ここで、比誘電率εrは周波数1kHzで1Vの直流電圧を印加して測定し、電気機械結合係数kpは共振−反共振法を使用して測定した。
表1は、試料番号1〜14の各組成と測定結果を示している。
試料番号1は、BCNの含有モル比xが0.01と過少であるため、圧電歪定数d33が84pC/N、比誘電率εrが317、電気機械結合係数kpが17%といずれも低かった。これはBCNの含有モル比xが少ないため、結晶組成がMPB近傍領域から大きく偏位し、このため圧電特性の低下を招いたものと思われる。
試料番号12〜14は、BCNの含有モル比xが0.10〜0.20と多すぎるため、比誘電率εrこそ1641〜1729と大きいものの、圧電歪定数d33が69〜83pC/Nと小さくなった。これはBCNの含有モル比xが多すぎるため、この場合も結晶組成がMPB近傍領域から大きく偏位し、圧電特性の低下を招いたものと思われる。
このように結晶組成が、MPB近傍領域から大きく偏位すると圧電特性が低下することが確認された。
これに対し試料番号2〜11の各試料は、BCNの含有モル比xが0.02〜0.08と本発明範囲内にあり、MnO2の含有モル比yは0.37、Cuの過剰含有モル比zは0.10といずれも本発明の好ましい範囲であるので、1150℃の低温で焼成しても、圧電歪定数d33が90〜162pC/N、比誘電率εrは388〜1620、電気機械結合係数kpは18〜31%と、非鉛系でありながら特許文献1よりも良好な圧電特性を得ることができた。
特に、BCNの含有モル比xが0.0475〜0.055の試料番号6〜9は、圧電歪定数d33が150〜162pC/Nとなって150pC/N以上の高圧電歪定数を得ることができ、電気機械結合係数kpも27〜31%と高く、比誘電率εrも1074〜1620と1000以上の高比誘電率を得ることができ、圧電特性のより一層の向上を図ることができることが分かった。
このようにBCNの含有モル比xは、0.0475〜0.055の範囲がより好ましいことが確認された。
BCNの含有モル比xを0.055、BCN中のCu成分の過剰モル比zを0.10と一定にし、MnO2の含有モル量yを種々異ならせた以外は、実施例1と同様の方法・手順で実施例21〜28の試料を作製した。
次いで、試料番号21〜28の各試料について、d33メータを使用し、圧電歪定数d33を測定した。
表2は、試料番号21〜28の各組成と測定結果を示している。
試料番号28は、MnO2の含有モル量yが、主成分100モル部に対し1.25モル部と多すぎるため、圧電歪定数d33が72pC/Nと急激に低下した。
これに対し試料番号22〜27は、含有モル量yが、主成分100モル部に対し、0.98モル部以下の範囲でMnO2を含有しているので、試料番号115〜150pC/Nの高圧電歪定数が得られた。すなわち、所定量のMnO2を含有した試料番号22〜27は、MnO2を含有していない試料番号21に比べ、より高い圧電歪定数d33を有する圧電磁器組成物が得られることが分かった。
したがって、所定量のMnO2を主成分中に含有させることにより、所定量のBCNをBNTに固溶させることと相俟って、圧電特性のより一層向上した圧電部品が得ることが可能になると考えられる。
BCNの含有モル比xを0.0437、MnO2の含有モル比yを0.37と一定にし、BCN中の過剰モル比zを0〜0.15の範囲で異ならせた以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料を作製した。
その結果、過剰モル比zが0、すなわちBCNが化学量論組成の場合は、1150℃の温度で焼結させようとしても焼結させることができず、焼結不良となり、焼結性に劣ることが分かった。
一方、過剰モル比zが0.15を超えると、分極不良が生じた。これはCuOを大量に添加したため、焼成時に絶縁抵抗の低い二次相が生成され、このため分極不良を招いたものと思われる。
非鉛系であっても、実用性に耐えうる圧電磁器組成物を容易かつ安価に実現する。
1 圧電セラミック素体
2a、2b 電極
2a、2b 電極
Claims (5)
- 鉛を実質的に含まない非鉛系の圧電磁器組成物であって、
一般式{(1−x)(Bi,Na)TiO3・xBa(Cu,Nb)O3}で表わされる複合酸化物を主成分として含有し、
前記xが、0.02≦x≦0.08であることを特徴とする圧電磁器組成物。 - 前記xは、0.0475≦x≦0.055であることを特徴とする請求項1記載の圧電磁器組成物。
- Mnが、MnO2換算で主成分100モル部に対し、0.98モル部以下(0を含まず。)の範囲で含有されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の圧電磁器組成物。
- 前記Ba(Cu,Nb)O3は、組成式{Ba(Cu(1+z)/3Nb2/3)O(9+z)/3}で表されると共に、
前記zが0.10〜0.15であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の圧電磁器組成物。 - 圧電セラミック素体の表面に電極が形成された圧電部品において、
前記圧電セラミック素体が、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の圧電磁器組成物で形成されていることを特徴とする圧電部品。
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