[実施例1]
(1)画像形成装置例
図11は本発明に係る像加熱装置を定着装置として搭載した画像形成装置の一例の概略構成模式図である。この画像形成装置は電子写真プロセスを用いたレーザープリンタである。
本実施例に示す画像形成装置は、画像形成部としての第1〜第4の4つの画像形成ステーションSa,Sb,Sc,Sdを、第2の像担持体としての回転可能な中間転写ベルト13の回転方向に沿って配置してある。本実施例では、中間転写ベルト13の回転方向上流側から第1の画像形成ステーションSaの画像形成色をイエロー(Y)、第2の画像形成ステーションSbの画像形成色をマゼンタ(M)としている。また第3の画像形成ステーションScの画像形成色をシアン(C)、第4の画像形成ステーションSdの画像形成色をブラック(K)としている。
各画像形成ステーションSa,Sb,Sc,Sdは、第1の像担持体としてのドラム形状の電子写真感光体(以下、感光ドラムと記す)1a,1b,1c,1dと、帯電手段としての帯電ローラ2a,2b,2c,2dなどを有している。また各画像形成ステーションSa,Sb,Sc,Sdは、現像手段としての現像ユニット8a,8b,8c,8dと、クリーニングユニット3a,3b,3c,3dなどを有している。現像ユニット8a,8b,8c,8dは、現像スリーブ4a,4b,4c,4dと、非磁性一成分現像剤5a,5b,5c,5dと、現像剤塗布ブレード7a,7b,7c,7dなどを有している。
非磁性一成分現像剤5a,5b,5c,5dのうち、5aはイエロートナーであり、5bはマゼンタトナーであり、5cはシアントナーであり、5dはブラックトナーである。そして感光ドラム1a,1b,1c,1dと、帯電ローラ2a,2b,2c,2dと、現像ユニット8aと、クリーニングユニット3a,3b,3c,3dは、プロセスカートリッジ9a,9b,9c,9dとして一体化されている。これらのプロセスカートリッジ9a,9b,9c,9dは画像形成装置の筐体を構成する画像形成装置本体(不図示)に取り外し可能に装着されている。
また各画像形成ステーションSa,Sb,Sc,Sdは、露光手段11a,11b,11c,11dと、1次転写部材10a,10b,10c,10dなどを有している。露光手段11a,11b,11c,11dは、レーザー光を多面鏡によって走査させるスキャナユニットまたはLEDアレイにより構成されている。そしてホストコンピュータなどの外部装置から取り込んだ画像信号に基づいて変調された走査ビーム12aを感光ドラム1a,1b,1c,1dの外周面(表面)に照射する。
中間転写ベルト13は、張架部材としての3本のローラ即ち2次転写対向ローラ24と、駆動ローラ14と、テンションローラ15の3本のローラに掛け回されて支持され、テンションローラ15により適当なテンションが維持されるようになっている。そしてこの中間転写ベルト13は、中間転写ベルト13の外周面(表面)が4つの感光ドラム1a,1b,1c,1dの全てと接触する様に配置されている。駆動ローラ14を駆動させることにより中間転写ベルト13は感光ドラム1a〜1dに対して矢印方向に感光ドラム1a,1b,1c,1dと略同じ回転速度で移動(回転)する。
中間転写ベルト13の内側には、中間転写ベルト13を挟んで感光ドラム1a,1b,1c,1dと対向するように1次転写部材10a,10b,10c,10dが配置されている。25は2次転写対向ローラ24と中間転写ベルト13を挟んで対向するように配置された2次転写ローラ25である。
帯電ローラ2a,2b,2c,2dには、それぞれ、帯電ローラ2a,2b,2c,2dへの電圧供給手段である帯電バイアス電源20a,20b,20c,20dが電気的に接続されている。
現像スリーブ4a,4b,4c,4dには、それぞれ、現像スリーブ4a,4b,4c,4dへの電圧供給手段である現像バイアス電源21a,20b,20c,20dが電気的に接続されている。
1次転写部材10a,10b,10c,10dには、それぞれ、1次転写部材10a,10b,10c,10dへの電圧供給手段である1次転写電源22a,22b,22c,22dが電気的に接続されている。
2次転写ローラ25には、2次転写ローラ25への電圧供給手段である2次転写電源26が電気的に接続されている。
本実施例の画像形成装置は、プリント指令に応じて、第1〜第4の画像形成ステーションSa〜Sdの感光ドラム1a〜1dや中間転写ベルト13などが所定のプロセススピードで矢印方向に回転される。第1の画像形成ステーションSaにおいて、帯電ローラ2aは帯電バイアス電源20aから印加される帯電バイアスによって感光ドラム1a表面を一様に負極性に帯電する(帯電工程)。続いてこの感光ドラム1a表面の帯電面に露光手段11aからの走査ビーム12aによって画像情報に従った静電潜像を形成する(露光工程)。
現像ユニット8a内のトナー5aは、現像剤塗布ブレード7aによって負極性に帯電されて現像スリーブ4aに塗布される。そして現像スリーブ4aには、現像バイアス電源21aより現像バイアスが印加され、感光ドラム1aが回転して感光ドラム1a表面に形成された静電潜像が現像スリーブ4aに到達する。すると、静電潜像は負極性のトナーによって可視化(現像)され、感光ドラム1a表面に第1色目のイエローのトナー画像が形成される(現像工程)。
第2〜第4の画像形成ステーションSb〜Sdにおいても、同様の帯電工程、露光工程、現像工程の画像形成プロセスが行われる。これにより、第2の画像形成ステーションSbの感光ドラム1b表面に第2色目のマゼンタのトナー画像が形成され、第3の画像形成ステーションScの感光ドラム1c表面に第3色目のシアンのトナー画像が形成される。そして第4の画像形成ステーションSdの感光ドラム1d表面に第4色目のブラックのトナー画像が形成される。
感光ドラム1a〜1d表面の各色のトナー画像は1次転写部材10a〜10dより中間転写ベルト13表面に順次重ね転写される(転写工程)。これによって4色のフルカラーの未定着トナー画像が中間転写ベルト13表面に担持される。
トナー画像転写後の感光ドラム1a〜1d表面に残留する転写残トナーなどの残留物はクリーニングユニット3a〜3dによって除去される。これにより感光ドラム1a〜1d表面はクリーニングされて次の画像形成に供される。
一方、露光による静電潜像の作像に合わせて、記録材カセット16に積載収納されている記録紙などの記録材Pは、給紙ローラ17によりピックアップされ、不図示の搬送ローラによりレジストローラ18に搬送される。この記録材Pは、中間転写ベルト13表面上のトナー画像に同期してレジストローラ18により中間転写ベルト13と2次転写ローラ25とで形成される転写部へ搬送される。そしてこの記録材Pは転写部で中間転写ベルト13の外周面(表面)と2次転写ローラ25の外周面(表面)とで挟持搬送される。この搬送過程で2次転写ローラ25には2次転写電源26からトナーと逆極性の転写バイアスが印加される。これにより中間転写ベルト13表面に担持された4色の多重トナー画像(以下、トナー画像と記す)は記録材P上に一括して2次転写される。
4色の未定着のトナー画像を担持した記録材Pは定着装置19の後述する定着ニップ部(ニップ部)に導入される。そしてこの定着ニップ部を通過することによりトナー画像は熱と圧力を受けて記録材上に加熱定着される。この記録材Pは定着装置19から画像形成装置の排出トレー(不図示)へと搬送されて画像形成物(プリント、コピー)として排出される。
2次転写を終えた後、中間転写ベルト13表面上に残留している転写残トナーや、記録材Pから中間転写ベルト13表面上に転移した紙粉は、中間転写ベルト13表面に当接配置されたベルトクリーニング手段27により除去・回収される。ベルトクリーニング手段27では、ウレタンゴム等で形成された弾性を有するクリーニングブレードを用いて転写残トナーや紙粉などを除去している。
(2)定着装置全体の構成
以下の説明において、定着装置及びこの定着装置を構成する部材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向をいう。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向をいう。長さとは長手方向の寸法である。幅とは短手方向の寸法である。記録材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向をいう。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向をいう。幅とは長手方向の寸法をいう。
図1は定着装置19の記録材導入側からの概略構成模式図である。図2は定着装置19の概略構成を表わす分解斜視図である。図3は定着装置19の概略構成を表わす横断側面図である。この定着装置19はテンションレスタイプのフィルム加熱方式の定着装置である。このタイプの定着装置は、エンドレスベルト状もしくは円筒状の耐熱性フィルムを定着フィルムとして用いている。そして定着フィルムの周長の少なくとも一部は常にテンションフリー(テンションが加わらない状態)とし、定着フィルムを加圧ローラの回転駆動力で回転するように構成したものである。
本実施例に示す定着装置19は、ヒータアッセンブリユニット50と、加圧ローラ(加圧部材)31と、に大別される。ヒータアッセンブリユニット50は、定着フィルム(可撓性部材)30と、セラミックヒータ(加熱体)32と、剛性ステー(補強部材)33と、ヒータホルダ(加熱体支持部材)34と、規制フランジ(規制部材)36などを有する組み立て体である。定着フィルム30と、セラミックヒータ(以下、ヒータと記す)32と、剛性ステー33と、ヒータホルダ34と、加圧ローラ31は、何れも長手方向に長い部材である。
図2及び図3を参照して、ヒータアッセンブリユニット50の構成と加圧ローラ31について説明する。ヒータホルダ34は横断面形状が略樋型となるように形成してある。このヒータホルダ34の短手方向中央の上面には長手方向に沿って剛性ステー33が配設される。またヒータホルダ34の短手方向中央の下面には長手方向に沿ってヒータ受け溝34aが設けられており、このヒータ受け溝34aにヒータ32を嵌合させて支持させてある。またヒータホルダ34にはサーミスタ(温度検知部材)41(図3参照)が取り付けてある。サーミスタ41は、ヒータ32をヒータ受け溝34aで支持したときにヒータ32と接触する位置に配設してある。
剛性ステー33、ヒータ32及びサーミスタ41が組み付けられたヒータホルダ34には円筒状(筒状)の定着フィルム30がルーズに外嵌される。剛性ステー33の長手方向両側の端部に設けられた張り出し部33aは定着フィルム30の長手方向両側の端面から突き出ており、この張り出し部33aのそれぞれに規制フランジ36を嵌着させてある。ヒータ32の長手方向両側に設けられた給電用電極32a(図6参照)は定着フィルム30の長手方向両側の端面よりも外側に配設してある。
上述のように組み立てられたヒータアセンブリユニット50は、ヒータアセンブリユニット50の長手方向両側の規制フランジ36をそれぞれ定着装置19の天板側筐体39(図1参照)にブラケット(不図示)を介して支持させている。このヒーターアセンブリユニット50のヒータ32の給電用電極32aには給電コネクタ35が連結され、この給電コネクタ35から給電用電極32aを介してヒータ32の後述する通電発熱抵抗体32bに給電される。
加圧ローラ31は、ヒータアセンブリユニット50の下方で定着装置19の底側筐体40(図1参照)に支持される。そして加圧ローラ31は、ヒータアセンブリユニット50のヒータ32と定着フィルム30を挟んで定着ニップ部(ニップ部)N(図2参照)を形成する。この加圧ローラ31は芯金31bを有し、この芯金31bの長手方向片側の端部に駆動ギア31dが取り付けてある。
各部材を更に詳しく説明する。ヒータ32は、アルミナや窒化アルミニウムなどのセラミック製の細長いヒータ基板32pを有している。このヒータ基板32pの定着フィルム30側の表面には、通電発熱抵抗体32bと給電用電極32aがパターン印刷されている。またヒータ基板32pの表面には、通電発熱抵抗体32bと給電用電極32aの一部を保護するガラスコート層32cが設けられている。つまりガラスコート層32cは定着フィルム30の内周面(内面)と接触するヒータ32の表面に配設されている。
ヒータホルダ34は、ヒータ32を支持する支持部材として機能すると共に、円筒状(筒状)の定着フィルム30の回転をガイドするガイド部材として機能する。ヒータホルダ34の材料としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PPS、液晶ポリマー等の高耐熱性樹脂や、これらの樹脂とセラミックス、金属、ガラス等との複合材料等を好適に用いることができる。本実施例では液晶ポリマーを用いた。
剛性ステー33は、鉄等の金属材料により横断面形状が略逆U字形状となるように形成してあり、ヒータホルダ34を加圧ローラ31側に押圧する圧力でも大きく変形しないような強度となっている。この剛性ステー33は張り出し部33aで後述する加圧バネ(加圧部材)により加圧ローラ31側に加圧される。
定着フィルム30は、定着ニップ部Nでヒータ32の熱を効率よく記録材Pに与えるために厚みを50〜500μm程度としてある。この定着フィルム30は、円筒状のフィルム基層と、このフィルム基層の外周面上に設けられたゴム層と、このゴム層の外周面上に設けられた離型性層の3層で構成されている。
フィルム基層、ゴム層、離型性層の3層のうち、最も内面側のフィルム基層がヒータ32のガラスコート層32cの表面と接する層である。最も外側の離型層がトナー画像Ta、記録材P、もしくは加圧ローラ31の後述する離型層31cと接触する層である。フィルム基層の材料としては、耐熱性に優れ、可撓性を有するポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK等が用いられている。そしてフィルム基層の厚みは15〜100μm程度としてある。またこのフィルム基層により定着フィルム30全体の引き裂き強度等の機械的強度を保っている。本実施例では、マイクロメータで計測した厚みが50μm、内径が18mmの円筒状のポリイミド樹脂を用いてフィルム基層を形成した。
ゴム層としては、厚み100〜500μm程度のシリコーンゴムを好適に用いることができる。本実施例では、ゴム層として、熱伝導フィラを分散した厚み200μmのシリコーンゴムをフィルム基層の外周面上に被覆した。
離型層は、ゴム層の外周面にトナーが付着することを防止するための層である。離型層として、厚み5〜70μm程度の離型性の良好なPFA、PTFE、FEP等のフッ素樹脂を好適に用いることができる。本実施例では厚み20μmのPFAチューブを用いた。
加圧ローラ31は、金属材料からなる芯金31bと、芯金31bの外周面上に設けられた弾性層31aと、弾性層31aの外周面上に設けられた離型層31cからなる。弾性層31aの材料として、弾性特性を有するシリコーンゴムを用いている。離型層31cは、弾性層31aの外周面にトナーが付着することを防止するための層である。離型層として、定着フィルム30の離型層と同じフッ素樹脂が用いられている。
ヒータアセンブリユニット50は、ヒータアセンブリユニット50の長手方向への移動を規制し、かつ上下方向への移動を可能とするように規制フランジ36がブラケット(不図示)を介して天板側筐体39に支持されている。天板側筐体39の長手方向両側には加圧バネ(加圧部材)38が圧縮された状態で取り付けられている。この加圧バネ38の押圧力を剛性ステー33の張り出し部33aで受けることによって、剛性ステー33、ヒータホルダ34を介してヒータアッセンブリユニット50全体を加圧ローラ31側に押圧している。
加圧ローラ31は、加圧ローラ31の外周面(表面)が定着フィルム30の外周面(表面)と対向するように定着フィルム30の下方でヒータホルダ34と平行に配置されている。そして芯金31bの長手方向両側の端部を底側筐体41に軸受け37を介して回転可能に支持させている。
この軸受け37はヒータアッセンブリユニット50からの押圧力を加圧ローラ31を介して受け止めている。軸受け37は比較的高温になる加圧ローラ31の芯金31bを回転可能に支持するために、軸受け37の材料としては耐熱性があって、かつ摺動性に優れる材料が用いられる。
ヒータアッセンブリユニット50からの押圧力により定着フィルム30表面と加圧ローラ31表面を加圧状態に接触させて加圧ローラ31の弾性層31aを弾性変形させている。これにより定着フィルム30表面と加圧ローラ31表面とで所定幅の定着ニップ部Nを形成している。
(3)定着装置19の加熱定着動作
本実施例の定着装置19は、プリント指令に応じて駆動モータM(図3参照)が回転駆動して駆動ギア31dを回転させる。これにより加圧ローラ31は矢印方向へ所定の周速度(プロセススピード)で回転される。
加圧ローラ31の回転は定着ニップ部Nにおける加圧ローラ31表面と定着フィルム30表面との摩擦力によって定着フィルム30表面に伝わる。これにより定着フィルム30は、定着フィルム30の内周面(内面)がヒータ32の表面のガラスコート層32cと接触しながら加圧ローラ31の回転に追従して矢印方向へ回転(移動)する。定着フィルム30内面とヒータ32のガラスコート層32cとの摺動抵抗を緩和するために、ヒータ32のガラスコート層32cに潤滑剤として潤滑グリースが塗布されている。
また本実施例の定着装置19は、プリント指令に応じてトライアック(不図示)をオンする。トライアックはヒータ32の給電用電極32aを介して通電発熱抵抗体32bへの通電を開始する。これにより通電発熱抵抗体32bが発熱し、ヒータ32は急速に昇温して定着フィルム30を加熱する。
このヒータ32の温度をサーミスタ41で検知し、サーミスタ41から出力される温度情報をCPU(不図示)が取り込む。CPUはサーミスタ41からの温度情報を基にトライアックによりAC電圧を位相制御或いは波数制御等の電力駆動制御を行い、サーミスタ41によるヒータ32の温度情報が略一定となるようにヒータ32に対する通電量を制御する。これによりヒータ32の温度は記録材Pが担持する未定着のトナー画像Taを記録材上に加熱定着するための所定の定着温度(目標温度)に維持される。
加圧ローラ31が回転され、かつヒータ32の温度が所定の定着温度に維持されると、記録材Pはトナー画像担持面を上向きにして導入ガイド42より定着ニップ部Nに導入される。この記録材Pは定着ニップ部Nで定着フィルム30表面と加圧ローラ31表面とで挟持されその状態に搬送(挟持搬送)される。そしてこの搬送過程において定着フィルム30の熱と定着ニップ部Nの圧力を受けることによってトナー画像Taは記録材上に加熱定着される。トナー画像Taが加熱定着された記録材Pは定着フィルム30表面から分離しながら定着ニップ部Nより排出される。
(4)ヒータ32、定着フィルム30及び規制フランジ36の説明
図1に示すように、ヒータ32は、ヒータ基板32pの長手方向両側の給電用電極32aが規制フランジ36よりも外側に位置しており、ヒータコネクタ35に設けられている給電用接点35aが給電用電極32aと電気的に接触して給電経路を作っている。
剛性ステー33の長手方向両側の張り出し部33aにそれぞれ配設された規制フランジ36は、定着フィルム30側の内側面36aが定着フィルム30の長手方向両側の端部を規制する規制面36aとなっている。そして規制フランジ36の規制面36a間の長さL1は定着フィルム30の長さL2よりも長くなっている。これは加熱定着動作中に定着フィルム30の長手方向両側の端部にダメージを与えないためである。
また定着フィルム30よりも加圧ローラ31の長さL3が約10mm程度短くなっている。これは定着フィルム30の長手方向両側の端部からはみ出したグリースが加圧ローラ31に接触してグリップを失いスリップが発生することを防止するためである。
(5)定着フィルム30内面の平滑領域と粗面領域の説明
図1に示す定着フィルム30において、斜線で示される部分は定着フィルム30内面に設けられている平滑化処理された領域SArである。そしてこの平滑化処理された領域SAr以外の定着フィルム30内面の部分は粗面化処理された領域CArである。以下、説明の便宜上、平滑化処理された領域SArを平滑化された領域又は平滑領域とも記す。粗面化処理された領域CArを粗面化された領域又は粗面領域とも記す。
粗面化処理された領域CArの表面粗さはJIS B0601による十点平均粗さRzで約8μmである。平滑化処理された領域SArと粗面化処理された領域CArの表面粗さの測定には、接触式表面粗さ計[(株)小坂研究所製:サーフコーダーSE−3300]を用いた。測定条件は、カットオフ値が0.8mm、測定長さが2.5mm、送りスピードが0.1mm/秒、倍率が5000倍である。
定着フィルム30の内面で平滑化された領域SArの表面粗さは前述のRzで1μmである。定着フィルム30には後述するメカニズムによって図中左側に寄る力が働く。定着フィルム30の平滑化された領域SArを有する端部近傍が規制フランジ36の規制面36aに突き当たり、定着フィルム30の位置が決まる構成となっている。
フィルム加熱方式の定着装置19に用いられる定着フィルム30はヒータ32と加圧ローラ31が対向する定着ニップ部Nではヒータ32に十分ならって密接している。このためヒータ32の熱を定着ニップ部Nに伝えるために定着フィルム30に可撓性を有することが重要である。
可撓性を向上させるためにはよりフィルム基層(ポリイミド樹脂層)を薄くすることが有効である。しかし極端にフィルム基層の厚みが薄い場合、定着フィルム30の剛性が低下してしまう。すると、定着フィルム30が回転中に図1の左側に寄って長手方向左側の端部が規制フランジ36の規制面36aに突き当たり、そのときに定着フィルム30の左側端部が変形して、定着フィルム30にシワが入ってしまう。これを防止するためにフィルム基層の厚みは10μm以上は必要である。
また、フィルム基層とヒータ32の表面のガラスコート層32cとが接触して摺動する。この摺動抵抗を下げるために潤滑グリースがヒータ32表面に塗布される。この潤滑グリースを保持する目的で定着フィルム30の内面は粗面化処理されている。また粗面化処理を行うことで定着フィルム30とヒータ32との接触面積も低減させることができ、摩擦抵抗を軽減することが出来る。
粗面化処理された定着フィルム30の内面はグリースの固形分の粒子が粗面化処理で設けられる凹凸の中に入る程度の表面粗さを有することが好ましい。これはフッ素オイルを枯渇させないことが潤滑において重要であることと関連する。グリースに含まれる固形分はその表面にフッ素オイルを保持しており、比表面積が大きいほどオイル分を保持する性能が高まる。よってグリースの保持を効果的に行うためにはオイル分を保持する固形分粒子が嵌る程度の大きさの凹凸を設けることが好ましい。本実施例ではグリースの固形分であるフッ素樹脂粉体の2次凝集粒子径が2μm程度のものを使用した。この場合、粗面化処理で設ける凹凸の大きさとして深さで3μm以上が好ましい。
更に定着フィルム30の内面はヒータ32との摺動によって数μmは削れることがある。この削れによって定着フィルム30内面の凹凸が平滑化してしまい、グリス保持性能が低下することを考慮すると凹凸の深さは最初から5μm以上であることがより好ましい。
規制フランジ36の規制面36aと接触する定着フィルム30の端部の内面に粗面化処理を行うと次のような問題があることを見出した。定着フィルム30が回転している状態で規制フランジ36の規制面36aと定着フィルム30の端部の端面とが摺擦した場合に規制フランジ36の規制面36aと定着フィルム30端面の凹凸の凸部が摺動して摩擦力が生じる。この摩擦力によって定着フィルム30端面の凸部を起点とした引き裂き力が定着フィルム30の端部に働くことがある。
粗面化処理を行うと定着フィルム30の凹凸に応じて厚みが薄いところと厚いところが存在する。この引き裂き力は厚みが薄いところに力が集中し、定着フィルム30端部が裂けることがあった。特にポリイミドを代表とする樹脂製のフィルム基層であって、フィルム基層の厚みが100μm以下の場合にフィルム基層の内面に2μmの深さ(表面粗さでRz=2μm)の凹凸があるとこの引き裂き力に対しての耐力の低下は無視できないものがある。
そこで、本実施例では、図1に示すように、定着フィルム30の左側の規制フランジ36と接触する端部の内面を平滑領域SArに形成している。つまり、定着フィルム30は、ヒータ32と接触する内面に、粗面化された領域CArと、平滑化された領域SArと、を有し、定着フィルム30の少なくとも規制フランジ36と接触する長手方向端面側に平滑化された領域SArを有している。この平滑化された領域SArにより定着フィルム30端部に働く引き裂き力を低減でき、長期の使用においても定着フィルム30の破壊を防止することができる。
定着装置19の構成上、定着フィルム30が突き当たる側の規制フランジ36を予め決めている場合は少なくとも定着フィルム30が突き当たる一方の端部の内面に平滑化された領域SArを設けることで本発明の効果を得ることが出来る。少なくとも上記端面に平滑領域SArを設ける方法としては粗面化された端面を研磨して平滑化する方法がある。端面を研磨することにより端面の破壊に対しての効果がある。
(6)定着フィルム30の寄り移動の説明
図4は本実施例に係る定着装置19の定着フィルム30の寄り移動のメカニズムを説明する図である。本実施例の定着装置19を搭載する画像形成装置は、定着ローラ30の長手方向片側を通紙基準としている。記録材Pは記録材Pの幅に因らず一方の端部(右側の端部)が通紙基準線に沿って搬送されるように通紙位置規制手段(例えば斜行ローラ)によって定着装置19の定着ニップ部Nに通紙(導入)される。このように記録材Pの一方の端部を通紙基準に沿って記録材Pの搬送を行う搬送形態を片側搬送基準と称する。
記録材Pの幅が異なる場合、記録材Pの一方の端部はほぼ通紙基準に沿って定着ニップ部Nに導かれ、一方の端部とは反対側の他方の端部(左側の端部)は記録材Pの幅によって通過する位置が異なる。つまり、本実施例の定着装置19では、定着ローラ30の長手方向に対して通紙される記録材Pの一方の端部位置と他方の端部位置は定着ローラ30の長手方向の中央に対して非対称となっている。
片側搬送基準の定着装置19において、図中に示した通紙領域よりも大きい幅の記録材Pを連続して定着ニップ部Nに通紙すると、記録材Pが通過する領域(通紙領域)と通過しない領域(非通紙領域)とで加圧ローラ31の温度に差が生じる。これはヒータ32で長手方向にほぼ均等に発せられた熱は通紙領域中は主に記録材Pに伝達され加圧ローラ31に届く分は減少するのに対し、非通紙領域では加圧ローラ31に直接伝達され、熱を蓄え続けるために温度が大きく上昇する(非通紙部昇温)ためである。この非通紙部昇温と呼ばれる現象によって加圧ローラ31の非通紙領域の弾性層31aが膨張して外径が大きくなる。
図4に示す加圧ローラ31は非通紙領域で弾性層31aが膨張して外径が大きくなった様子を模式的に表わしている。加圧ローラ31の非通紙領域側の外径が大きくなると、非通紙領域側の定着フィルム30が通紙領域側よりも速く送られる。これにより非通紙領域側の定着フィルム30が定着ニップ部Nの記録材搬送方向下流側に移動する状態となり、定着フィルム30は加圧ローラ31に対して後述する交差角を持つようになる。この交差角によって定着フィルム30に図中の矢印(寄り力)方向に移動する力が働くと考えられる。
即ち、片側搬送基準の定着装置19の定着ニップ部Nに記録材Pの通紙を行うと定着フィルム30が搬送基準と反対側に寄る力が働くため、定着フィルム30の寄り方向に関して搬送基準と反対側に制御されているということができる。よって、定着フィルム30の少なくとも長手方向片側の端部の内面は粗面化処理せずに平滑化された領域とし、その平滑化された領域を通紙基準と反対側に配置する。これにより片側搬送基準の定着装置19において寄り力による定着フィルム30の破壊を抑制することができる。
図4において定着フィルム19の長手方向片側の端部と接触する規制フランジ36近傍を上(矢印V方向)から見た断面図を図5(a)に示した。寄り力が強く働く状態で長時間定着装置19の稼動を行うと、図5(a)のように定着フィルム30が規制フランジ36と接触する近傍で、定着フィルム30の端部のみ他の部分より外径がより広がるように、言わばラッパ状に変形することがある。これにより定着フィルム30の端面だけではなく一部は内面で規制フランジ36の規制面36aと接触して寄り力に耐え定着フィルム30の位置が規制される。
このように寄り力によって定着フィルム30の端部のみにラッパ状の変形が生じると直ちにラッパ状の根元(図中B)近傍に定着フィルム30の回転に応じて径方向へ突出と後退を繰り返す振動が発生する。この突出と後退を繰り返す波打ち状の運動によって定着フィルム30のラッパ状の根元近傍は局所的に屈曲を繰り返す。このときに定着フィルム30の端部内面がRz=2μmで粗面化されている場合、定着フィルム30の端部表面に言わば深さ2μm以上の傷があるのと同じであるため、この凹みが起点となって屈曲により定着フィルム30の端部に亀裂が生じやすい。この亀裂が継続的な屈曲運動によって拡大し、ひいては破壊をもたらすことを見出した。
以上の現象に対して、ラッパ形状となりうる部分は少なくとも粗面化処理を行わず平滑領域SArに形成することにより、このような屈曲による破壊を抑制することが出来る。
図5(b)に図2に示す円Aの拡大図を示した。加圧ローラ31表面が定着フィルム30表面と接触する定着ニップ部Nの領域は図5(b)中に加圧領域として示されている。寄り力によって定着フィルム30の端部が規制フランジ36の規制面36aに摺動し、図中の摺動領域で寄り力を受け止めて定着フィルム30の長手方向の移動を規制している。
このとき寄り力は定着フィルム30の端面のみならず、摺動領域と加圧領域との間の領域Ar1近傍の定着フィルム30自身の剛性によっても受け止められ、定着フィルム30を寄り力とは逆側に押し戻している。よって領域Ar1の部分は剛性が必要とされる上にラッパ形状となって屈曲を受ける領域でもある。このため、破壊を抑制するために領域Ar1の定着フィルム30内面は粗面化処理されずに平滑化された領域とすることが好ましい。
そこで、本実施例では、定着フィルム30の長手方向において少なくとも定着フィルム30の端面から加圧領域までの領域Ar1を平滑化された領域SArとしている。そして定着フィルム30の長手方向において平滑化された領域SArより定着フィルム30の内側の領域Ar2を粗面化された領域CArとしている。しかしながら、加圧ローラ31は長手方向に移動するガタがあることや、定着フィルム30も端部がラッパ状になると見かけの全長が若干小さくなることも考慮して、平滑領域SArは加圧領域と重なるように少し大きめに採っておくことが好ましい。
定着フィルム30の製造方法としては、円筒状の金型表面に、ポリイミド前駆体液をキャスティング成形後、加熱によりイミド転化してポリイミド樹脂とする方法を好適に用いることができる。このとき使用する金型の外表面をあらかじめ粗面化しておき、その外側に接触するポリイミド樹脂の内壁面に金型の粗面を転写することで粗面化領域を形成することができる。金型において定着フィルム30の端部にあたる部分は金型を粗面化せずに平滑領域とすることで定着フィルム30の端部内面のみ平滑領域を形成することが出来る。
他の製造方法として、内面が平滑なフィルムを製造し、内面端部のみをマスキングしたうえで、内面をブラスト処理や薬品処理などの粗面化後処理によって粗らす方法もある。
更には粗面化された金型を用いて内面全域が粗面化された定着フィルムを成型し、端部近傍の内面を研磨して平滑化後処理工程を設けて平滑化する方法もある。
上記の後処理工程を要しない金型にあらかじめ平滑領域と粗面化領域を設けておくのが簡便で好ましい製造方法である。平滑領域の表面粗さは破壊の基点とならないためにRzで2μm未満が好ましく、より好ましくは1μm以下である。
図6はヒータ32に対する定着フィルム30と加圧ローラ31との位置関係を表わす模式図である。ヒータ32は平板状のヒータ基板32pに給電用電極32aをパターン印刷し、両給電用電極32a間に通電発熱抵抗体32bをパターン印刷で形成している。給電用電極32aの一部と通電発熱抵抗体32b全体を覆うようにガラスコート層32cが最上層に設けられている。このガラスコート層32cにより通電発熱抵抗体32bを保護するとともに定着フィルム32の導体(フィルム基層)との絶縁を確保している。
図6において定着フィルム摺動領域とはヒータ32の表面に接触しつつ定着フィルム32が回転する領域である。給電用電極32aと通電発熱抵抗体32bはいずれもパターン印刷によって形成され、その電気抵抗が異なる。給電用電極32aでの発熱は減らしたいので電気抵抗はなるべく少ないほうが良い。
通電発熱抵抗体32bは定着に必要な電力が熱に変換されるようにある程度(数Ω〜数百Ω)の抵抗値になるように調整されている。通電発熱抵抗体32bが加圧領域からはみ出していると極端に発熱して、非通紙領域の温度が上がる要因となり、寄り力を強める方向にバランスがくずれてしまうと定着フィルム30の端部が破壊する可能性がある。このため、ヒータ32が長手方向両側にガタで動いた場合でも通電発熱抵抗体32bは加圧領域の内側に入っていることが好ましい。
粗面化領域CArは前述のように潤滑グリースを保持するために、潤滑グリースの塗布範囲をなるべく包含するように広く確保することが好ましい。平滑領域SArは前述のように定着フィルム30の端面から加圧領域までを少なくとも内包する領域に設けることが好ましい。
本実施例の定着フィルム30は、少なくとも規制フランジ36と接触する長手方向片側の端部の内面に平滑領域SArを有している。このため、定着フィルム30の端部からの引き裂きに因る定着フィルム30の破壊を防止できるとともに端部がラッパ形状になったあとの屈曲による破壊をも防止することができる。つまり、定着フィルム30の寄り力を支える壁となる定着フィルム30の端部での座屈強度(機械的強度)を向上できる。また定着フィルム30の長手方向において平滑領域SArより定着フィルム30の内側の内面に粗面化領域CArを有している。このため、定着フィルム30の粗面化領域CArでヒータ32の表面との摩擦抵抗を軽減できスティックスリップの発生を低減できる。
[変形例]
図7に本実施例の定着装置19の変形例に係る定着装置19を示す。図7は変形例に係る定着装置19の定着フィルム30と加圧ローラ31と規制フランジ36を図2の矢印V方向と同じ方向から見た図である。図7において、定着フィルム30は加圧ローラ31の上側に見えており、定着フィルム30の奥に加圧ローラ31が透けて見えている。
実施例1の定着装置19では、ヒータホルダ34と加圧ローラ31は平行に配置されていた。本変形例の定着装置19では、ヒータホルダ34の短手方向中心線に対して加圧ローラ31の回転軸線を記録材搬送方向下流側に0.15°程度の角度を設けるように加圧ローラ31を配置している。この角度のことを交差角と称する。またヒータホルダ34の短手方向中心線と略直交する方向に規制フランジ36は設けられている。加圧ローラ31を上述のように配置することにより定着フィルム30は回転に伴って図中の矢印の方向に寄り力が生じ、図中の左側の規制フランジ36に定着フィルム30の端部を突き当てて定着フィルム30の位置を決めている。
本変形例の定着装置19は、予めヒータホルダ34に対して加圧ローラ31を所定の交差角となるように配置するため、定着フィルム30の位置が安定し、ひいては定着装置19を通過する記録材Pの搬送も安定する。このときの交差角は大きすぎると寄り力が大きくなってしまい、定着フィルム30の端部にかける負荷が大きくなって好ましくない。よって定着フィルム30の端部が規制フランジ36に軽く突き当たる程度でなるべく最低限の交差角にとどめるべきである。交差角は、1°以下が好ましく、0.5°以下がより好ましい。
本変形例の定着フィルム30においても、少なくとも規制フランジ36と接触する端部の内面に平滑領域SArを有している。また定着フィルム30の長手方向において平滑領域SArより定着フィルム30の内側の内面に粗面化領域CArを有している。従って、実施例1の定着フィルム30と同じ作用効果を得ることができる。本変形例の定着装置19は、定着フィルム30に対して加圧ローラ31を所定の交差角をもって配置しているので、実施例1の定着装置19より比較的強い寄り力を発生させても定着フィルム30の端部の破壊を防止できるという特有の作用効果を得ることができる。
[実施例2]
図8は本実施例に係る定着装置19の記録材導入側からの概略構成模式図である。図9は本実施例に係る定着装置19の定着フィルム30の寄り移動のメカニズムを説明する図である。本実施例では実施例1の定着装置19と同じ部材には同一符号を付して、その部材についての説明を省略する。
本実施例に示す定着装置19は、図9に示すように、定着フィルム30の長手方向の略中央を通紙基準としている。記録材Pは記録材Pの幅に因らず長手方向を等分する線(不図示)が通紙基準と一致するように給送手段(例えばローラ)によって定着装置19の定着ニップ部Nに通紙(導入)される。このように記録材Pの長手方向を等分する線を通紙基準と一致するように記録材Pの搬送を行う搬送形態を中央搬送基準と称する。一方、加圧ローラ31表面が定着フィルム30表面と接触する定着ニップ部Nの領域は図9中に加圧領域として示してある。加圧領域の長手方向を等分する線は図9中にニップ中心と表記してある。
中央搬送基準の定着装置19では、ヒータ32と加圧ローラ31の長手方向の位置関係や、加圧ローラ31の長手方向の左右の芯金31bの露出長、加圧ローラ31の芯金31bの形状などによって加圧ローラ31の左右の温度が異なる場合がある。このため、記録材Pの定着性能をなるべく記録材Pの面内で均一にするために、ニップ中心と通紙基準線は近接しているものの必ずしも一致しない。
図示される通紙領域の大きさの記録材Pを連続して定着ニップ部Nに通紙すると、記録材Pが通過する領域(通紙領域)と通過しない領域(非通紙領域)とで加圧ローラ31の温度に差が生じる。これはヒータ32で長手方向にほぼ均等に発せられた熱は通紙領域中は主に記録材Pに伝達され加圧ローラ31に届く分は減少するのに対し、非通紙領域では加圧ローラ31に直接伝達され、熱を蓄え続けるために温度が大きく上昇する(非通紙部昇温)ためである。この非通紙部昇温と呼ばれる現象によって加圧ローラ31の非通紙領域の弾性層31aが膨張して外径が大きくなる。図9に示す加圧ローラ31は非通紙領域で弾性層31aが膨張して外径が大きくなった様子を模式的に表わしている。
中央搬送基準の場合は非通紙領域が加圧ローラ31の長手方向両側にあるため、定着フィルム30の寄る方向が一定しない。このような中央搬送基準の構成の方が片側搬送基準よりも非通紙部昇温が発生した際の寄り力自体は小さくすることが出来るため、定着フィルム30の端部の破壊の観点からは有利である。中央搬送基準の場合は定着フィルム30の寄る方向が決まらないため規制フランジ36と接触する可能性が定着フィルム30の長手方向両側の端部にある。このため図示の通り定着フィルム30の内面の平滑領域SArを定着フィルム30の長手方向両側の端部に設けることが好ましい。
そこで、本実施例では、前述の理由により、定着フィルム30の長手方向において少なくとも定着フィルム30の端面から加圧領域までの領域Ar1(図5(b)参照)を平滑化された領域SArとしている。また定着フィルム30の長手方向において平滑化された領域SArより定着フィルム30の内側の領域Ar2(図5(b)参照)を粗面化された領域CArとしている。つまり、定着フィルム30の端部の内面を平滑化された領域SArとし、この端部間の中央部の内面を粗面化された領域CArとしている。
そして定着フィルム30の端部内面の平滑化された領域SArは定着ニップ部Nの長手方向のニップ中心(中央)に対して対称であり、粗面化された領域CArも定着ニップ部Nの長手方向のニップ中心(中央)に対して対称である。
ところで、定着フィルム30の回転中に定着フィルム30内面とヒータ32表面とが摺擦することによって摩擦力が生じる。特に定着フィルム30表面と加圧ローラ31表面との接触圧の大きい加圧領域内での定着フィルム30内面とヒータ32表面との摺動抵抗が装置全体の摩擦力や駆動トルクに関して支配的である。
ここで、定着フィルム30の長手方向両側の摺動抵抗差が大きいと、摺動抵抗が大きい定着フィルム30の長手方向片側がブレーキとなり定着フィルム30の姿勢が加圧ローラ31に対して平行でなくなり定着フィルム30が傾く。
定着フィルム30が傾いた状態で回転すると、前述の交差角が大きくなった状態と同じように定着フィルム30に寄り力が生じて定着フィルム30の端部にストレスを与えるので好ましくない。よって平滑領域SArは加圧領域と重なるように少し大きめに採っておくことが好ましい。この場合、平滑領域SArのうち加圧領域内の端部と重なる領域はニップ中心に対して略均等(略対称)であることが好ましい。これにより定着フィルム30の長手方向両側の摺動抵抗の差によって定着フィルム30が傾くことを防止でき、定着フィルム30の端部に不要なストレスがかかることを防止することが出来る。
本実施例の定着装置19を搭載した画像形成装置を準備し、定着フィルム内面の平滑領域と粗面化領域の表面粗さを変更した定着フィルムをそれぞれ定着装置に装着して通紙試験を行った結果を図10に示した。図中「○」は問題が発生しなかったことを表し、「×」は問題が発生したことを示している。平滑領域にあたる部分の定着フィルム内面の粗さを端部粗さ、粗面化領域にあたる部分の定着フィルム内面の粗さを中央粗さとした。平滑領域と粗面化領域の表面粗さの計測方法は前述のRzと同じ測定装置と測定方法を用いて行った。
定着フィルム内面の全面が均等にRz=5.5近傍で粗面化された定着フィルム1を用いて通紙試験を行った。10k枚(10000枚)の通紙を行った後に定着装置を観察したところ定着フィルム1の端部に亀裂が入り破壊していた。
定着フィルム内面の全面が均等にRz=1.0近傍に平滑な内面を有する定着フィルム2を用いて通紙試験を行った。50k枚(50000枚)の通紙を行った後に、定着フィルム2の回転速度が最も遅い動作モードである厚紙モードでの通紙を行ったところ、定着装置から変音が発生した。変音は定着フィルム2とヒータ32との間で発生するスティックスリップによるものであることを確認した。
定着フィルムの端部の内面の表面粗さがRz=1.0μm、定着フィルムの端部間の中央部の内面がRz=5.5μmの定着フィルム3を用いて通紙試験を行ったところ、100k枚(100000枚)の通紙を行っても破壊の発生はなかった。また厚紙モードで厚紙を通紙しても変音の発生はなかった。
定着フィルムの端部の内面の表面粗さがRz=1.0μm、定着フィルムの端部間の中央部の内面がRz=8.4μmの定着フィルム4を用いて通紙試験を行ったところ、定着フィルム3と同様に変音の発生および破壊の発生はなかった。
本実施例の定着フィルム30は、規制フランジ36と接触する長手方向両側の端部の内面に平滑領域SArを有している。このため、定着フィルム30の端部からの引き裂きに因る定着フィルム30の破壊を防止できるとともに端部がラッパ形状になったあとの屈曲による破壊をも防止することができる。つまり、定着フィルム30の寄り力を支える壁となる定着フィルム30の端部での座屈強度(機械的強度)を向上できる。また平滑領域SAr間の定着フィルム30内面に粗面化領域CArを有している。このため、定着フィルム30の粗面化領域CArでヒータ32の表面との摩擦抵抗を軽減できスティックスリップの発生を低減できる。
[他の実施例]
実施例1、変形例及び実施例2の定着装置は、未定着のトナー画像を記録材に加熱定着する装置としての使用に限られない。例えば未定着のトナー画像を加熱して記録材に仮定着する装置、或いは記録材に加熱定着されているトナー画像を加熱してトナー画像表面に光沢を付与する装置としても使用できる。