本発明の粘着シートは、透明フィルム基材の少なくとも片面側にアクリル系粘着剤層を有する。なお、本明細書において「粘着シート」という場合には、テープ状のもの、即ち「粘着テープ」も含まれるものとする。また、本発明の粘着シートの粘着剤層(アクリル系粘着剤層)の表面を、「粘着面」と称する場合がある。
本発明の粘着シートは、両側の表面が粘着面となっている両面粘着シートであってもよいし、一方の表面のみが粘着面となっている片面粘着シートであってもよい。中でも、被着体の表面を保護する観点からは、片面粘着シートであることが好ましい。即ち、本発明の粘着シートは、透明フィルム基材の片面側にアクリル系粘着剤層を有する粘着シート(片面粘着シート)であることが好ましい。特に、帯電防止性の観点で、上記粘着シート(片面粘着シート)は、一方の表面が後述のトップコート層表面であり、他方の表面が粘着面である構成を有することが好ましい。
[透明フィルム基材]
本発明の粘着シートにおける透明フィルム基材は、樹脂材料からなるベース層と、該ベース層の第一面上に設けられた後述のトップコート層とを少なくとも有する。上記透明フィルム基材は、上記ベース層の一方の面(第一面)側にのみ上記トップコート層を有する構成(積層構成)であってもよいし、上記ベース層の両面(第一面及び第二面)側に上記トップコート層を有する構成(積層構成)であってもよい。中でも、上記透明フィルム基材は、上記ベース層の一方の面(第一面)側にのみ上記トップコート層を有する構成(「ベース層/トップコート層」の積層構成)であることが好ましい。
[ベース層]
上記透明フィルム基材のベース層は、樹脂材料により構成された透明なフィルム状(薄膜状)の成型体である。即ち、上記ベース層としては、各種の樹脂材料をフィルム状に成型してなる樹脂フィルムを好ましく使用できる。上記ベース層を構成する樹脂材料としては、特に限定されないが、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、及び等方性などのうち、1又は2以上の特性に優れた樹脂フィルムを形成し得る樹脂材料が好ましく、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系ポリマー;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー;ポリカーボネート系ポリマー;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマーなどを主たる成分(樹脂成分)(上記樹脂材料の主成分、例えば、樹脂材料(100重量%)の50重量%以上を占める成分)とする樹脂材料が好ましく、より好ましくはポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートを主たる成分とする樹脂材料である。なお、上記樹脂材料には、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状乃至ノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル系ポリマー;ナイロン6、ナイロン6,6、芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー;イミド系ポリマー;スルホン系ポリマー;ポリエーテルスルホン系ポリマー;ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー;ポリフェニレンスルフィド系ポリマー;ポリビニルアルコール系ポリマー;ポリオキシメチレン系ポリマー;エポキシ系ポリマーなども使用できる。上記ベース層は、上記ポリマーの二種以上のブレンド物から形成されたものであってもよい。上記ベース層は、光学特性(位相差等)の異方性が小さいほど好ましい。特に、光学部材用の表面保護フィルム用途においては、上記ベース層の光学的異方性を小さくすることが有益である。上記ベース層は、単層構造であってもよいし、組成の異なる複数の層が積層された構造であってもよい。中でも、上記ベース層は単層構造であることが好ましい。
上記ベース層には、必要に応じて、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止成分、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)などの各種の添加剤が含まれていてもよい。
上記ベース層の第一面(トップコート層が設けられる側の面)には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理、下塗り剤の塗布などの公知乃至慣用の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、例えば、ベース層とトップコート層との密着性を高めることを目的として施され、特に、上記ベース層の第一面にヒドロキシル基(−OH基)等の極性基が導入されるような表面処理が好ましく採用される。
また、上記ベース層の第二面(通常、アクリル系粘着剤層が形成される側の面)にも、上記と同様の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、例えば、透明フィルム基材とアクリル系粘着剤層との密着性(アクリル系粘着剤層の投錨性)を高めることを目的として施される。
上記ベース層の厚みは、用途や目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、強度や取り扱い性等の作業性と、コストや外観検査性等との兼ね合いから、10〜200μmが好ましく、より好ましくは15〜100μm、さらに好ましくは20〜70μmである。
上記ベース層の屈折率は、特に限定されないが、外観特性の観点で、1.43〜1.6が好ましく、より好ましくは1.45〜1.5である。
上記ベース層の可視光波長領域における全光線透過率(JIS K7361−1に準ずる)は、特に限定されないが、外観特性の観点で、80〜97%が好ましく、より好ましくは85〜95%である。
上記ベース層の表面の算術平均粗さ(Ra)は、特に限定されないが、例えば、第二面(通常、アクリル系粘着剤層が形成される側の面)の算術平均粗さが、0.001〜1μmであることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.7μmである。上記第二面の算術平均粗さが1μmを超える場合には、本発明の粘着シートにおけるアクリル系粘着剤層は溶剤不溶分が高いため、塗工面(糊面)の厚み精度が低下する場合や、粘着剤が透明フィルム基材の表面の凹凸の内部まで浸入せず接触面積が低下してアクリル系粘着剤層と透明フィルム基材の投錨性が低下する場合がある。一方、上記算術平均粗さが0.001μm未満では、ブロッキングが生じやすくなる場合や、ハンドリング性が低下したり、工業的に製造し難い場合がある。
[トップコート層]
本発明の粘着シートにおける透明フィルム基材のトップコート層は、上記ベース層の少なくとも第一面側に形成される表面層であり、少なくともポリチオフェン、アクリル樹脂、及びメラミン系架橋剤を必須の成分として構成される。上記トップコート層を有することにより、本発明の粘着シートは、耐スクラッチ性、帯電防止性、耐溶剤性、印字性、印字密着性などの各種機能を発揮することができる。本発明の粘着シートが上記機能を有する場合には、特に、光学フィルムの表面保護用途として好ましく使用できる。
上記トップコート層におけるアクリル樹脂は、トップコート層の成膜に寄与する基本成分(ベース樹脂)であり、アクリル系ポリマーをベースポリマー(ポリマー成分の中の主成分、即ち、50重量%以上を占める成分をいう)として含有する樹脂である。即ち、上記アクリル樹脂(100重量%)における上記アクリル系ポリマーの含有量は、50重量%以上(例えば、50〜100重量%)であり、好ましくは70〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%である。
上記「アクリル系ポリマー」とは、一分子中(分子内)に少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(以下、「アクリル系モノマー」と称する場合がある)を主たるモノマー成分として含有するポリマーをいう。即ち、上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)のうち、アクリル系モノマーの含有量は50重量%以上である。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基(アクリロイル基及びメタクリロイル基のうち、いずれか一方又は両方)を意味する。
上記アクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、熱硬化型アクリル樹脂、紫外線硬化型アクリル樹脂、電子線硬化型アクリル樹脂、二液混合型アクリル樹脂等の各種タイプのアクリル樹脂などを使用できる。上記各種タイプのアクリル樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、耐スクラッチ性に優れ(例えば、後述の「(評価)」の項の耐スクラッチ性評価による結果が良好(○)であり)、かつ光線透過性に優れたトップコート層を形成可能なアクリル樹脂を選択することが好ましい。上記アクリル樹脂は、上記トップコート層において、ポリチオフェン(帯電防止成分)のバインダ(バインダ樹脂)としても把握され得る。
上記アクリル樹脂のベースポリマーであるアクリル系ポリマーは、特に限定されないが、メタクリル酸メチル(MMA)を主たるモノマー成分(単量体成分)として含有するアクリル系ポリマーであることが好ましく、より好ましくは、メタクリル酸メチルとその他の一種又は二種以上のモノマー(好ましくは、メタクリル酸メチル以外のアクリル系モノマー)との共重合体である。上記アクリル系ポリマーにおけるメタクリル酸メチルの共重合割合は、特に限定されないが、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)に対して、50重量%以上(例えば、50〜90重量%)が好ましく、より好ましくは60重量%以上(例えば、60〜85重量%)である。
上記アクリル系ポリマーにおいて、メタクリル酸メチルと共重合されるモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられ、より具体的には、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、脂環式のアルキル基(シクロアルキル基)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル((メタ)アクリル酸シクロアルキル)などが好ましく例示される。
上記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル(BA)、アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)などのアルキル基の炭素数が1〜12であるアクリル酸アルキル(アクリル酸アルキルエステル);メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどのアルキル基の炭素数が2〜6であるメタクリル酸アルキル(メタクリル酸アルキルエステル)などが挙げられる。また、上記脂環式のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシルなどのシクロアルキル基の炭素数が5〜7であるアクリル酸シクロアルキル;メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)などのシクロアルキル基の炭素数が5〜7であるメタクリル酸シクロアルキルなどが挙げられる。
上記アクリル系ポリマーの好ましい具体的態様としては、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)及びメタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)を少なくとも含むモノマー成分より構成されたアクリル系ポリマーが挙げられる。この場合、メタクリル酸シクロヘキシルの共重合割合は、特に限定されないが、例えば、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)に対し、25重量%以下(例えば、0.1〜25重量%)が好ましく、より好ましくは15重量%以下(例えば、0.1〜15重量%)である。
上記アクリル系ポリマーの他の好ましい具体的態様としては、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)、並びに、アクリル酸n−ブチル(BA)及び/又はアクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)を少なくとも含むモノマー成分より構成されたアクリル系ポリマーが挙げられる。この場合、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルの共重合割合(両者を含む場合には、これらの合計量)は、特に限定されないが、例えば、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)に対し、40重量%以下(例えば、1〜40重量%)が好ましく、より好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは30重量%以下(例えば、3〜30重量%)、特に好ましくは15〜30重量%である。
上記アクリル系ポリマーの特に好ましい具体的態様としては、例えば、実質的に、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)、並びに、アクリル酸n−ブチル(BA)及び/又はアクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)からなるモノマー成分より構成されたアクリル系ポリマーが挙げられる。具体的には、MMA、CHMA、並びに、BA及び/又は2EHAを含むモノマー成分より構成され、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)に対し、MMA、CHMA、BA、及び2EHAの含有量の合計(合計含有量)が52重量%以上であるアクリル系ポリマーが好ましい。
上記アクリル系ポリマーには、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、上記以外のモノマー(その他モノマー)が共重合されていてもよい。上記その他モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等のアミド基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有モノマー;シクロヘキシルマレイミド等のイミド基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリロイルモルホリン;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチルアクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ビニルアルコール、アリルアルコール、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等のヒドロキシル基含有モノマーなどが挙げられる。このような「その他モノマー」の共重合割合(二種以上を用いる場合にはその合計量)は、特に限定されないが、20重量%以下が好ましく、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下である。なお、上記「その他モノマー」は、実質的に共重合されていなくてもよく、例えば、その他モノマーの含有量が、アクリル系ポリマーを構成するモノマー全量(100重量%)に対して、0.1重量%以下であってもよい。
上記アクリル系ポリマーは、酸性官能基を有するモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸)を実質的に含まない共重合組成であることが好ましい。具体的には、上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量に対し、酸性官能基を有するモノマーの含有量は0.1重量%以下であることが好ましい。上記トップコート層の構成成分として、上記酸性官能基を有するモノマーを実質的に含まないアクリル系ポリマーと、メラミン系架橋剤とを組み合わせて用いることにより、トップコート層の硬度を高めることができ、かつトップコート層のベース層に対する密着性を高めることができる傾向にある。なお、本明細書において、上記「酸性官能基」とは、カルボキシル基、酸無水物基などの酸性を呈し得る官能基を意味し、以下も同様である。
上記アクリル系ポリマーは、ヒドロキシル基を有するモノマー(ヒドロキシル基含有モノマー)を含む共重合組成であることが好ましい。上記ヒドロキシル基含有モノマーを共重合することにより、トップコート層のベース層に対する密着性を高めることができる。
上記トップコート層を構成する上記アクリル樹脂には、上記アクリル系ポリマー以外にもその他の樹脂成分(但し、ポリチオフェンを除く)が含まれていてもよい。なお、上記アクリル樹脂(100重量%)における上記その他の樹脂成分の含有量は、50重量%未満である。
上記トップコート層におけるポリチオフェンは、本発明の粘着シートの帯電を防止する作用を有する成分(帯電防止成分)である。本発明の粘着シートは、上記トップコート層にポリチオフェンを含むことによって優れた帯電防止性を示すため、液晶セルや半導体装置等のように静電気を嫌う物品の加工又は搬送過程等において使用される表面保護フィルムとして特に好ましく利用できる。
さらに、上記ポリチオフェンは疎水性が高く、高湿度環境下(加湿下)で吸湿しにくいため、透明フィルム基材の白化(より詳しくは、トップコート層の白化)の原因となりにくい。これに対して、トップコート層の帯電防止成分として吸湿性の高いもの(例えば、アンモニウム塩など)を使用した場合には、高湿度環境下で基材の白化(より詳しくは、トップコート層の白化)を生じやすい。
上記ポリチオフェンには、例えば、無置換のチオフェンの重合体のほか、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどの置換チオフェンの重合体なども含まれる。中でも、帯電防止性の観点で、上記ポリチオフェンとしては、3,4−エチレンジオキシチオフェンの重合体であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。
上記ポリチオフェンのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、40×104以下(例えば、0.1×104〜40×104)が好ましく、より好ましくは0.5×104〜30×104以下である。上記ポリチオフェンのMwが40×104を超えると、トップコート層を構成する他の成分との組み合わせによっては相溶性が不足して外観特性が低下したり、耐溶剤性が低下する場合がある。一方、上記ポリチオフェンのMwが0.1×104未満であると、耐スクラッチ性に劣る場合がある。
上記ポリチオフェンの使用量(トップコート層中の含有量)は、特に限定されないが、トップコート層中のアクリル系ポリマー100重量部に対して、10〜200重量部が好ましく、より好ましくは25〜150重量部、さらに好ましくは40〜120重量部である。使用量が10重量部未満であると、透明フィルム基材のトップコート層側の表面の表面抵抗率が大きくなり過ぎて、帯電防止性が低下する場合がある。一方、使用量が200重量部を超えると、トップコート層の厚みのバラツキ△Dが大きくなりやすく、粘着シートが部分的に白っぽく見えてしまい、外観特性が低下する場合がある。また、トップコート層を構成する他の成分との組み合わせによっては、ポリチオフェンの相溶性が不足して外観特性が低下したり、耐溶剤性が低下する場合がある。
トップコート層を形成する方法として、後述のように、上記ベース層の表面に液状組成物(トップコート層形成用のコーティング組成物)を塗布して乾燥又は硬化させる方法を採用する場合、該組成物の調製に用いるポリチオフェンとして、該ポリチオフェンが水に溶解又は分散した形態のもの(ポリチオフェン水溶液又は分散液)を好ましく使用できる。このようなポリチオフェン水溶液又は分散液は、例えば、親水性官能基を有するポリチオフェン(分子内に親水性官能基を有するモノマーを共重合させる等の手法により合成できる)を水に溶解又は分散させることにより調製することができる。上記親水性官能基としては、例えば、スルホ基、アミノ基、アミド基、イミノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、ヒドラジノ基、カルボキシル基、四級アンモニウム基、硫酸エステル基(−O−SO3H)、リン酸エステル基(例えば、−O−PO(OH)2)等が例示される。なお、これら親水性官能基は塩を形成していてもよい。ポリチオフェン水溶液としては、商品名「デナトロン」シリーズ(ナガセケムテックス(株)製)等の市販品を用いることもできる。
上記ポリチオフェン水溶液の中でも、特に、安定した帯電特性が得られる点で、ポリスチレンスルホネート(PSS)を含むポリチオフェン水溶液(ポリチオフェンにPSSがドーパントとして添加された形態で有り得る)が好ましい。上記PSSを含むポリチオフェン水溶液における、ポリチオフェンとポリスチレンスルホネートの割合[ポリチオフェン:ポリスチレンスルホネート]は、特に限定されないが、1:5〜1:10が好ましい。また、上記PSSを含むポリチオフェン水溶液中のポリチオフェン及びポリスチレンスルホネートの含有量の合計(合計含有量)は、特に限定されないが、1〜5重量%が好ましい。上記PSSを含むポリチオフェン水溶液としては、例えば、商品名「ベイトロン(Baytron)」(H.C.Stark社製)などの市販品を使用することもできる。なお、PSSを含むポリチオフェン水溶液を使用する場合、ポリチオフェンとポリスチレンスルホネートの合計量は、特に限定されないが、トップコート層中のアクリル系ポリマー100重量部に対して、10〜200重量部とするのが好ましく、より好ましくは25〜150重量部、さらに好ましくは40〜120重量部である。
上記トップコート層は、ベース樹脂として上記アクリル樹脂を、さらに帯電防止成分としてポリチオフェンを組み合わせて用いることにより、トップコート層の厚みが薄くても表面抵抗率の小さな透明フィルム基材を得ることができる。特に、上記アクリル樹脂として、酸性官能基を有するモノマーを実質的に含まない共重合組成のアクリル系ポリマーを主成分とするアクリル樹脂を用いた場合には、さらに良好な結果が得られる。
上記トップコート層におけるメラミン系架橋剤は、上記アクリル系ポリマーを架橋させることによって、耐スクラッチ性向上、耐溶剤性向上、印字密着性向上、及び摩擦係数低下のうち、少なくとも1以上の効果(特に、耐スクラッチ性向上)を発現させる役割を担う。上記メラミン系架橋剤とは、メラミン構造を有する化合物である。上記メラミン系架橋剤としては、例えば、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンなどのメチロールメラミン;メトキシメチルメラミン、エトキシメチルメラミン、プロポキシメチルメラミン、ブトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサプロポキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミン、ヘキサペンチルオキシメチルメラミン、ヘキサヘキシルオキシメチルメラミン等のアルコキシメチルメラミンや、メトキシブチルメラミン、エトキシブチルメラミン、プロポキシブチルメラミン、ブトキシブチルメラミン等のアルコキシブチルメラミンなどのアルコキシアルキルメラミンなどが挙げられる。
上記メラミン系架橋剤としては、例えば、商品名「サイメル202」、「サイメル212」、「サイメル232」、「サイメル235」、「サイメル253」、「サイメル266」、「サイメル267」、「サイメル270」、「サイメル272」、「サイメル285」、「サイメル300」、「サイメル301」、「サイメル303」、「サイメル327」、「サイメル350」、「サイメル370」、「サイメル701」、「サイメル703」、「サイメル771」(以上、サイテックインダストリーズ社製)や、商品名「ニカラック MW−30」、「ニカラック MW−30M」、「ニカラック MW−30HM」、「ニカラック MW−45」、「ニカラック MW−390」、「ニカラック MX−270」、「ニカラック MX−302」、「ニカラック MX−706」、「ニカラック MX−750」(以上、(株)三和ケミカル製)などの市販品を使用することもできる。
上記メラミン系架橋剤の使用量(後述のトップコート層形成用のコーティング組成物中の含有量)は、特に限定されないが、トップコート層中のアクリル系ポリマー100重量部に対して、5〜100重量部が好ましく、より好ましくは10〜80重量部、さらに好ましくは20〜50重量部である。使用量が5重量部未満であると、耐スクラッチ性に劣る場合がある。一方、使用量が100重量部を超えると、印字性に劣る場合がある。また、トップコート層を構成する他の成分との組み合わせによっては、メラミン系架橋剤の相溶性が不足して外観特性が低下したり、耐溶剤性が低下する場合がある。
上述のように、上記アクリル系樹脂の主成分として、上記酸性官能基を有するモノマーを実質的に含まないアクリル系ポリマーを使用し、これをメラミン系架橋剤と組み合わせて用いることにより、トップコート層をより高硬度とし、かつトップコート層のベース層に対する密着性を高めることができる傾向にある。
上記トップコート層には、本発明の粘着シートに対してより良好な耐スクラッチ性を発揮させるために、滑剤を含有させることが好ましい。上記滑剤としては、公知乃至慣用の滑剤を用いることができ、例えば、フッ素系やシリコーン系の滑剤等を好ましく使用できる。中でも、シリコーン系の滑剤(シリコーン系滑剤)が好ましい。上記シリコーン系滑剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサン等が挙げられる。また、上記滑剤としては、アリール基やアラルキル基を有するフッ素化合物又はシリコーン化合物を含む滑剤(特に印字性を向上させるため、「印字性滑剤」と称される場合がある)を用いてもよい。また、架橋性反応基を有するフッ素化合物又はシリコーン化合物を含む滑剤(反応性滑剤)を用いてもよい。
上記滑剤の使用量は、特に限定されないが、トップコート層中のアクリル系ポリマー100重量部に対して、5〜90重量部が好ましく、より好ましくは10〜70重量部、さらに好ましくは15重量部以上(例えば、15〜50重量部)、特に好ましくは20重量部以上、最も好ましくは25重量部以上である。滑剤の使用量が5重量部未満であると、耐スクラッチ性が低下する場合がある。一方、滑剤の使用量が90重量部を超えると、印字性が不足したり、トップコート層(ひいては、透明フィルム基材、粘着シート)の外観特性が低下する場合がある。
上記滑剤は、トップコート層の表面にブリードして該表面に滑り性を付与することにより、摩擦係数を低下させるものと推察される。従って、上記滑剤を適切に使用することにより、摩擦係数の低下を通じて耐スクラッチ性を向上させることができる。上記滑剤は、後述のトップコート層形成用組成物の表面張力を均一化し、トップコート層の厚さムラの低減や干渉縞の軽減(ひいては外観特性の向上)にも寄与し得る。このような外観特性の向上は、光学部材用の表面保護フィルムにおいて特に有意義である。また、上記トップコート層を構成するアクリル樹脂が、紫外線硬化型アクリル樹脂である場合、これにフッ素系又はシリコーン系の滑剤を添加すると、後述のトップコート層形成用組成物をベース層に塗布して乾燥させる際に該滑剤が塗膜表面(空気との界面)にブリードし、これにより紫外線照射時に酸素による硬化阻害が抑制されて、トップコート層の最表面においても紫外線硬化型アクリル樹脂を十分に硬化させることができる。
上記トップコート層は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、ポリチオフェン以外の帯電防止成分、酸化防止剤、着色剤(顔料、染料等)、流動性調整剤(チクソトロピー剤、増粘剤等)、造膜助剤、触媒(例えば、紫外線硬化型アクリル樹脂を含む組成における紫外線重合開始剤)などの添加剤を含んでいてもよい。
上記ポリチオフェン以外の帯電防止成分としては、公知乃至慣用の帯電防止成分を用いることができ、特に限定されないが、例えば、有機又は無機の導電性物質、各種の帯電防止剤などを使用することができる。
上記有機導電性物質としては、特に限定されないが、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリエチレンイミン、アリルアミン系重合体などのポリチオフェンを除く導電性ポリマーが挙げられる。上記導電性ポリマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、その他の帯電防止成分(無機導電性物質、帯電防止剤など)と組み合わせて使用してもよい。
上記ポリアニリンとしては、例えば、商品名「aqua−PASS」(三菱レイヨン(株)製、ポリアニリンスルホン酸の水溶液)などの市販品を用いることもできる。
上記無機導電性物質としては、特に限定されないが、例えば、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化チタン、酸化亜鉛、インジウム、スズ、アンチモン、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、チタン、鉄、コバルト、ヨウ化銅、ITO(酸化インジウム/酸化スズ)、ATO(酸化アンチモン/酸化スズ)などが挙げられる。
本発明の粘着シートにおける透明フィルム基材のトップコート層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、上記アクリル樹脂、ポリチオフェン、メラミン系架橋剤、及び必要に応じて使用される添加剤が適当な溶媒に分散又は溶解した液状組成物(トップコート層形成用組成物)を、上記ベース層の表面に付与することを含む手法が挙げられる。より具体的には、例えば、上記液状組成物をベース層の表面に塗布して乾燥させ、必要に応じて硬化処理(熱処理、紫外線処理など)を行うことによって上記トップコート層を形成する方法を好ましく採用できる。
上記液状組成物(トップコート層形成用組成物)の固形分含量(NV)は、特に限定されないが、5重量%以下(例えば、0.05〜5重量%)が好ましく、より好ましくは1重量%以下(例えば、0.1〜1重量%)、さらに好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.3重量%以下である。上記固形分含量が5重量%を超えると、上記液状組成物の粘度が高くなり、場所による乾燥時間のバラツキが生じやすくなること等により、薄く均一な(即ち、厚みのバラツキΔDが小さい)トップコート層を形成することが困難となる場合がある。上記液状組成物の固形分含量の下限の値は、特に限定されないが、0.05重量%が好ましく、より好ましくは0.1重量%である。上記固形分含量が0.05重量%未満であると、ベース層の材質や表面状態等によっては塗膜にハジキが生じやすくなり、これによりΔDが高くなる場合がある。
上記液状組成物(トップコート層形成用組成物)を構成する溶媒としては、上記トップコート層の構成成分(アクリル樹脂、ポリチオフェン、メラミン系架橋剤など)を安定して溶解又は分散できるものが好ましい。上記溶媒としては、例えば、有機溶剤、水、これらの混合溶媒などが使用できる。上記有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル等のエステル類;メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の環状エーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール等の脂肪族又は脂環族アルコール類;グリコールエーテル類等から選択される一種又は二種以上を用いることができる。中でも、安定した塗膜形成の観点で、グリコールエーテル類を主成分とする溶媒(例えば、グリコールエーテル類を50重量%以上含む溶媒)が好ましい。
上記グリコールエーテル類としては、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びジアルキレングリコールモノアルキルエーテルから選択される1種又は2種以上を好ましく使用できる。具体的には、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール−モノ−2−エチルヘキシルエーテルなどが挙げられる。
上記トップコート層の平均厚みDaveは2〜50nmであり、好ましくは2〜30nm、より好ましくは2〜20nm、さらに好ましくは2〜10nmである。上記トップコート層の平均厚みDaveが50nmを超えると、透明フィルム基材の外観が全体として白っぽく見え、透明フィルム基材(ひいては該透明フィルム基材を有する粘着シート)の外観特性が低下しやすくなる。一方、上記トップコート層の平均厚みDaveが2nm未満であると、上記トップコート層を均一に形成することが困難となる。
上記トップコート層の平均厚みDaveは、トップコート層を横切る直線(例えば、トップコート層を幅方向に横切る直線)に沿って均等な間隔で配置された5箇所の測定点について、上記トップコート層の厚みを測定し、上記5箇所の測定点における厚みの算術平均値を算出することにより求めることができる。なお、上記測定点は、隣り合う測定点が2cm以上(好ましくは5cm以上)離れていることが好ましい。
なお、上記トップコート層の厚み(上記各測定点におけるトップコート層の厚み)は、例えば、透明フィルム基材(又は粘着シート)の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することによって測定することができる。具体的には、例えば、透明フィルム基材(又は粘着シート)を試料とし、トップコート層を明瞭に判別するために重金属染色処理を行った後、樹脂包埋を行い、超薄切片法により上記試料の断面をTEM観察して得られた結果を、上述のトップコート層の厚みとして採用することができる。TEMとしては、例えば、(株)日立製作所製の透過型電子顕微鏡(型式「H−7650」)などを用いることができる。
後述の実施例では、加速電圧:100kV、倍率:60,000倍の条件で得られた断面画像について二値化処理を行った後、視野内のサンプル長さでトップコート層の断面積を除算することで、トップコート層の厚み(視野内の平均厚み)を実測した。
なお、重金属染色を行わなくてもトップコート層を十分明瞭に観察し得る場合には、重金属染色を省略してもよい。
あるいは、TEMにより把握される厚みと、各種の厚み検出装置(例えば、表面粗さ計、干渉厚み計、赤外分光測定機、各種X線回折装置等)による検出結果との相関につき、検量線を作成して計算することにより、トップコート層の厚みを求めてもよい。
上記トップコート層の厚みのバラツキΔDは、40%以下(例えば、0〜40%)であり、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。
上記トップコート層の厚みのバラツキΔDは、トップコート層を横切る直線(例えば、トップコート層を幅方向に横切る直線)に沿って均等な間隔で配置された5箇所の測定点について、上記トップコート層の厚みを測定し、これら測定値の最大値Dmaxと最小値Dminとの差を平均厚みDaveで割った値[ΔD(%)=(Dmax−Dmin)/Dave×100]として定義される。なお、上記測定点は、隣り合う測定点が2cm以上(好ましくは5cm以上)離れていることが好ましい。また、上記トップコート層の各測定点における厚みは、上述の方法(例えば、TEM観察により直接測定してもよいし、適当な厚み検出装置による検出結果を検量線により厚みに換算してもよい)により測定できる。
より具体的には、後述の実施例に記載の厚みの測定方法に従って、トップコート層の平均厚みDave、厚みのバラツキΔDを測定できる。
上記トップコート層の厚みのバラツキΔDが40%以下であると、部分的に白っぽくなることによるスジやムラが視認されにくくなり、良好な外観特性を発揮する。即ち、上記ΔDは小さいほど、より優れた外観特性を発揮できる。また、上記ΔDが小さいと、Daveが小さく、かつ表面抵抗率の小さな透明フィルム基材を形成する上でも有利である。
上記トップコート層の、蛍光X線(XRF)分析によるX線強度のバラツキΔIは、特に限定されないが、40%以下(例えば、0〜40%)が好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下、特に好ましくは20%以下である。上記X線強度のバラツキΔIは、トップコート層を横切る直線(例えば、トップコート層を幅方向に横切る直線)に沿って均等な間隔で配置された5箇所の測定点について、XRF分析を行ってX線強度Iを測定し、これら測定値の最大値Imaxと最小値Iminとの差を平均X線強度Iaveで割った値[ΔI(%)=(Imax−Imin)/Iave×100]として定義される。なお、上記測定点は、隣り合う測定点が2cm以上(好ましくは5cm以上)離れていることが好ましい。
ここで、上記平均X線強度Iaveは、上記5箇所の測定点におけるX線強度Iの算術平均値である。X線強度の単位としては、通常、kcps(1秒あたりに計数管窓を通して入射するX線光量子の数(カウント数))を用いる。具体的には、例えば、後述する実施例に記載のX線強度のバラツキ測定方法に従って、Iave及びΔIを測定することができる。上記トップコート層のΔIが40%以下であると、部分的に白っぽくなることによるスジやムラが視認されにくくなり、良好な外観特性を発揮する傾向にある。なお、一般に、上述の厚みのバラツキΔDが小さいほどΔIも小さくなる。従って、ΔIが小さいことは、Daveが小さく、且つ表面抵抗率が小さな透明フィルム基材を形成する上でも有利である。
上記XRF分析の対象とする元素は、トップコート層に含まれる元素のうちXRF分析が可能な元素であればよく、特に限定されない。例えば、硫黄原子(例えば、トップコート層に含まれるポリチオフェンに由来する硫黄原子(S)など)、ケイ素原子(例えば、トップコート層に含まれるシリコーン系滑剤に由来するケイ素原子(Si)など)、スズ原子(例えば、トップコート層にフィラーとして含まれる酸化スズ粒子に由来するスズ原子(Sn)など)等を、上記XRF分析の対象として好ましく採用できる。中でも、硫黄原子のXRF分析に基づくX線強度のバラツキΔIが40%以下であること、又は、ケイ素原子のXRF分析に基づくX線強度のバラツキΔIが40%以下であることが好ましい。
上記XRF分析は、例えば、以下のようにして行うことができる。即ち、XRF装置としては、市販のものを好ましく使用でき、また、分光結晶は適宜選択して使用でき、例えば、Geクリスタルなどを好ましく使用できる。出力設定等は使用する装置に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、通常は、50kV、70mA程度の出力で十分な感度を得ることができる。より具体的には、例えば、後述する実施例に記載のXRF分析の条件を好ましく採用できる。
なお、測定精度を高める観点からは、所定のXRF分析の条件において、直径30mmの円に相当する面積あたりのX線強度が概ね0.01kcps以上(より好ましくは0.03kcps以上、例えば、0.05〜3.00kcps)となる元素を分析対象とすることが好ましい。
本発明の粘着シートにおける透明フィルム基材は、透明な基材である。具体的には、上記透明フィルム基材の可視光波長領域における全光線透過率(JIS K7361−1に準ずる)は、特に限定されないが、80〜97%が好ましく、より好ましくは85〜95%である。また、上記透明フィルム基材のヘイズ(JIS K7136に準ずる)は、特に限定されないが、1.0〜5.0%が好ましく、より好ましくは2.0〜3.5%である。上記透明フィルム基材の全光線透過率及び/又はヘイズが上記範囲を外れると、被着体の外観検査を精度良く実施することが困難となる傾向がある。
上記透明フィルム基材の厚さは、特に限定されないが、10〜150μmが好ましく、より好ましくは30〜100μmである。厚さが10μm未満であると、光学部材の傷防止効果が損なわれる場合がある。一方、厚さが150μmを超えると、コストが高くなる場合がある。
[アクリル系粘着剤層]
本発明の粘着シートにおけるアクリル系粘着剤層(粘着剤層)は、アクリルエマルション系重合体(A)及び化合物(B)を必須の成分として含有する水分散型アクリル系粘着剤組成物(再剥離用水分散型アクリル系粘着剤組成物)(「本発明の粘着剤組成物」と称する場合がある)により形成される。本発明の粘着剤組成物は、さらに、非水溶性架橋剤(C)を含有することが好ましい。
[アクリルエマルション系重合体(A)]
本発明の粘着剤組成物におけるアクリルエマルション系重合体(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及びカルボキシル基含有不飽和単量体を必須の原料モノマー(原料モノマー成分)として構成された重合体(アクリル系重合体)である。即ち、アクリルエマルション系重合体(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及びカルボキシル基含有不飽和単量体を必須成分とするモノマー混合物より得られる重合体である。アクリルエマルション系重合体(A)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、本明細書では、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及び/又は「メタクリル」(「アクリル」及び「メタクリル」のうち、いずれか一方又は両方)のことをいう。
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する主たるモノマー成分として用いられ、主に接着性、剥離性などの粘着剤(又は粘着剤層)としての基本特性を発現する役割を担う。中でも、アクリル酸アルキルエステルは粘着剤層(アクリル系粘着剤層)を形成するポリマーに柔軟性を付与し、粘着剤層に密着性、粘着性を発現させる効果を発揮する傾向があり、メタクリル酸アルキルエステルは粘着剤層を形成するポリマーに硬さを与え、粘着剤層の再剥離性を調節する効果を発揮する傾向がある。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されないが、炭素数が1〜16(より好ましくは2〜10、さらに好ましくは4〜8)の、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
中でも、アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素数が2〜14(より好ましくは4〜8)のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソノニルなどの直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルやアクリル酸イソボルニル等の脂環式のアクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。中でも好ましくは、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソボルニルである。
また、メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素数が1〜16(より好ましくは1〜8)のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸t−ブチルなどの直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルやメタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸イソボルニル等の脂環式のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。中でも好ましくは、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチルである。
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、目的とする粘着性などに応じて適宜選択することができ、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総量(全量)(全原料モノマー)(100重量%)中、70〜99.5重量%であり、より好ましくは85〜99重量%である。含有量が99.5重量%を超えるとカルボキシル基含有不飽和単量体の含有量が低下することにより、粘着剤組成物より形成されたアクリル系粘着剤層の投錨性、低汚染性やエマルションの安定性が低下し、70重量%未満ではアクリル系粘着剤層の接着性、再剥離性が低下する。2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられている場合には、全ての(メタ)アクリル酸アルキルエステルの合計量(合計含有量)が上記範囲を満たせばよい。なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステル中におけるアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルの含有量比(アクリル酸アルキルエステルの含有量:メタクリル酸アルキルエステルの含有量)は特に限定されないが、100:0〜30:70(重量比)程度が好ましく、より好ましくは100:0〜50:50である。
上記カルボキシル基含有不飽和単量体は、アクリルエマルション系重合体(A)からなるエマルション粒子表面に保護層を形成し、エマルション粒子の剪断破壊を防ぐ機能を発揮することができる。これはカルボキシル基を塩基で中和することによってさらに向上する。なお、エマルション粒子の剪断破壊に対する安定性は、より一般的には機械的安定性という。また、カルボキシル基と反応する多官能化合物(例えば、多官能性エポキシ化合物)を1種あるいは2種以上組み合わせて使用することで、水除去によるアクリル系粘着剤層の形成段階での架橋点としても作用することができる。さらに多官能化合物を介し、アクリル系粘着剤層と基材との密着性(投錨性)を向上させることもできる。このようなカルボキシル基含有不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸(アクリル酸、メタクリル酸)、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレートなどが挙げられる。なお、カルボキシル基含有不飽和単量体には、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有不飽和単量体も含むものとする。これらの中でも、エマルション粒子表面での相対濃度が高く、より高密度な保護層を形成し易いことから、アクリル酸が好ましい。なお、上記カルボキシル基含有不飽和単量体は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
上記カルボキシル基含有不飽和単量体の含有量は、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総量(全原料モノマー)(100重量%)中、0.5〜10重量%であり、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは2〜4重量%である。含有量が10重量%を超える場合には、カルボキシル基含有不飽和単量体(例えば、アクリル酸)は一般的に水溶性であるため、水中で重合して増粘(粘度増加)を引き起こす。さらには、アクリル系粘着剤層を形成した後、被着体である偏光板表面の官能基との相互作用が増大して、経時で粘着力が増大、剥離が困難になる場合がある。一方、0.5重量%未満では、エマルション粒子の機械的安定性が低下する。また、アクリル系粘着剤層と透明フィルム基材との密着性(投錨性)が低下し、糊残りの原因となる。
アクリルエマルション系重合体(A)を構成するモノマー成分(原料モノマー)としては、特定の機能付与を目的として、上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステルやカルボキシル基含有不飽和単量体以外の他のモノマー成分を併用してもよい。このようなモノマー成分としては、例えば、凝集力向上の目的で、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマーやN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマーを、それぞれ0.1〜10重量%程度添加(使用)してもよい。また、屈折率調整、リワーク性などの目的で、(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン等のスチレン系モノマーを、それぞれ15重量%以下の割合で添加(使用)してもよい。さらに、エマルション粒子内架橋および凝集力向上の目的で、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマーやトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能モノマーを、それぞれ5重量%未満の割合で添加(使用)してもよい。さらに、ヒドラジド系架橋剤を併用してヒドラジド架橋を形成し、特に低汚染性を向上させる目的で、ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)、アリルアセトアセテート、2−(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート等のケト基含有不飽和単量体を10重量%未満の割合で(好ましくは0.5〜5重量%)添加(使用)してもよい。
また、上記他のモノマー成分として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチルアクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ビニルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等のヒドロキシル基含有不飽和単量体を使用してもよい。ヒドロキシル基含有不飽和単量体は、白化汚染をより低減する観点からは添加量(使用量)は少ない方が好ましい。具体的には、ヒドロキシル基含有不飽和単量体の添加量は、1重量%未満が好ましく、より好ましくは0.1重量%未満、さらに好ましくは実質的に含まない(例えば、0.05重量%未満)ことが好ましい。ただし、水酸基とイソシアネート基の架橋や金属架橋の架橋等の架橋点の導入を目的とする場合には、0.01〜10重量%程度添加(使用)してもよい。
なお、上記他のモノマー成分の添加量(使用量)は、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総量(全原料モノマー)(100重量%)中の含有量である。
特に、本発明の粘着シートの外観を向上させる観点からは、アクリルエマルション系重合体(A)を構成するモノマー成分(原料モノマー)として、メタクリル酸メチル、イソボルニルアクリレート及び酢酸ビニルからなる群より選ばれた少なくとも1つのモノマーを使用することが好ましい。特に好ましくは、メタクリル酸メチルである。アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総量(全原料モノマー)(100重量%)中の、上記モノマー(メタクリル酸メチル、イソボルニルアクリレート及び酢酸ビニルからなる群より選ばれたモノマー)の含有量は、1〜15重量%が好ましく、より好ましくは2〜10重量%、さらに好ましくは2〜5重量%である。含有量が1重量%未満では外観を向上させる効果が得られない場合があり、15重量%を超えるとアクリル系粘着剤層が硬くなりすぎて密着性が低下する場合がある。なお、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマー中に、メタクリル酸メチル、イソボルニルアクリレート及び酢酸ビニルからなる群より選ばれた2以上のモノマーが含まれる場合には、メタクリル酸メチル、イソボルニルアクリレート及び酢酸ビニルの含有量の合計量(合計含有量)が上記の範囲を満たせばよい。
本発明におけるアクリルエマルション系重合体(A)は、上記の原料モノマー(モノマー混合物)を、乳化剤、重合開始剤によりエマルション重合することによって得られる。
上記アクリルエマルション系重合体(A)のエマルション重合に用いる乳化剤は、分子中にラジカル重合性官能基が導入された反応性乳化剤(ラジカル重合性官能基を含む反応性乳化剤)である。即ち、上記アクリルエマルション系重合体(A)は、分子中にラジカル重合性官能基を含む反応性乳化剤を用いて重合されたアクリルエマルション系重合体である。上記ラジカル重合性反応基を含む反応性乳化剤は単独で、又は2種以上が用いられる。
上記ラジカル重合性官能基を含む反応性乳化剤(以下、「反応性乳化剤」と称する)は、分子中(1分子中)に少なくとも1つのラジカル重合性官能基を含む乳化剤である。上記反応性乳化剤としては、特に限定されず、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基(ビニルオキシ基)、アリルエーテル基(アリルオキシ基)等のラジカル重合性官能基を有する種々の反応性乳化剤から、1種又は2種以上を選択して使用できる。当該反応性乳化剤を用いることにより、乳化剤が重合体中にとりこまれ、乳化剤由来の汚染が低減するため好ましい。
上記反応性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどのノニオンアニオン系乳化剤(非イオン性の親水性基を持つアニオン系乳化剤)にプロペニル基やアリルエーテル基等のラジカル重合性官能基(ラジカル反応性基)が導入された形態を有する(又は該形態に相当する)反応性乳化剤が挙げられる。なお、以下では、アニオン系乳化剤にラジカル重合性官能基が導入された形態を有する反応性乳化剤を「アニオン系反応性乳化剤」と称する。また、ノニオンアニオン系乳化剤にラジカル重合性官能基が導入された形態を有する反応性乳化剤を「ノニオンアニオン系反応性乳化剤」と称する。
特に、アニオン系反応性乳化剤(中でも、ノニオンアニオン系反応性乳化剤)を使用した場合に、乳化剤が重合体中にとりこまれることにより、低汚染性を向上させることができる。さらに、特に非水溶性架橋剤(C)がエポキシ基を有する多官能性エポキシ系架橋剤である場合には、その触媒作用により架橋剤の反応性を向上させることができる。アニオン系反応性乳化剤を使用しない場合、エージングでは架橋反応が終了せず、経時で、粘着剤層の粘着力が変化する問題が生じる場合がある。さらに、未反応のカルボキシル基により被着体との粘着力が経時で上昇する問題が生じる場合がある。また、当該アニオン系反応性乳化剤は重合体中にとりこまれるため、エポキシ系架橋剤の触媒として一般的に使用される、第4級アンモニウム化合物(例えば、特開2007−31585号公報参照)のように被着体の表面に析出しないため、白化汚染の原因になり得ないため好ましい。
このような反応性乳化剤としては、商品名「アデカリアソープSE−10N」((株)ADEKA製)、商品名「アクアロンHS−10」(第一工業製薬(株)製)、商品名「アクアロンHS−05」(第一工業製薬(株)製)などの市販品を用いることも可能である。
また、特に不純物イオンが問題となる場合があるため、不純物イオンを取り除き、SO4 2-イオン濃度が100μg/g以下の反応性乳化剤を用いることが望ましい。また、アニオン系乳化剤の場合、アンモニウム塩反応性乳化剤を用いることが望ましい。反応性乳化剤から不純物を取り除く方法としては、イオン交換樹脂法、膜分離法、アルコールを用いた不純物の沈殿ろ過法など適宜な方法を用いることができる。
上記反応性乳化剤の配合量(使用量)は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総量(全原料モノマー)100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3重量部である。配合量が5重量部を超えると粘着剤(粘着剤層)の凝集力が低下して被着体への汚染量が増加したり、また乳化剤による汚染が起こる場合がある。一方、配合量が0.1重量部未満では安定した乳化が維持できない場合がある。
上記アクリルエマルション系重合体(A)のエマルション重合に用いる重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2´−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2´−アゾビス(N,N´−ジメチレンイソブチルアミジン)などのアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素などの過酸化物系重合開始剤;過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤、例えば、過酸化物とアスコルビン酸との組み合わせ(過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ等)、過酸化物と鉄(II)塩との組み合わせ(過酸化水素水と鉄(II)塩との組み合わせ等)、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせによるレドックス系重合開始剤などを用いることができる。なお、上記重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記重合開始剤の配合量(使用量)は、開始剤や原料モノマーの種類などに応じて適宜決定することができ、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総量(全原料モノマー)100重量部に対して、0.01〜1重量部が好ましく、より好ましくは0.02〜0.5重量部である。
上記アクリルエマルション系重合体(A)のエマルション重合は、一般的な一括重合、連続滴下重合、分割滴下重合など任意の方法を用いることができ、その方法は特に限定されるものではない。なお、低汚染化の観点からは、一括重合でかつ低温(例えば55℃以下、好ましくは30℃以下)で重合することが望ましい。このような条件で重合を行うと、高分子量体が得られやすく、低分子量体が少なくなるため、汚染が減少するものと推定される。
上記アクリルエマルション系重合体(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位及びカルボキシル基含有不飽和単量体に由来する構成単位を必須の構成単位とする重合体である。アクリルエマルション系重合体(A)中の、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位の含有量は、70〜99.5重量%が好ましく、より好ましくは85〜99重量%である。アクリルエマルション系重合体(A)中の、カルボキシル基含有不飽和単量体に由来する構成単位の含有量は、0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%、さらに好ましくは2〜4重量%である。
上記アクリルエマルション系重合体(A)の溶剤不溶分(溶剤不溶成分の割合、「ゲル分率」と称する場合もある)は70%(重量%)以上が好ましく、より好ましくは75重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。溶剤不溶分が70重量%未満では、アクリルエマルション系重合体(A)中に低分子量体が多く含まれるため、架橋の効果のみでは十分に粘着剤層中の低分子量成分を低減できず、低分子量成分等に由来する被着体汚染が生じたり、粘着力が高くなりすぎる場合がある。上記溶剤不溶分は、重合開始剤、反応温度、乳化剤や原料モノマーの種類等により制御できる。上記溶剤不溶分の上限値は、特に限定されないが、例えば、99重量%が好ましい。
なお、本発明において、アクリルエマルション系重合体(A)の溶剤不溶分は、以下の「溶剤不溶分の測定方法」により算出される値である。
(溶剤不溶分の測定方法)
アクリルエマルション系重合体(A):約0.1gを採取し、平均孔径0.2μmの多孔質テトラフルオロエチレンシート(商品名「NTF1122」、日東電工(株)製)に包んだ後、凧糸で縛り、その際の重量を測定し、該重量を浸漬前重量とする。なお、該浸漬前重量は、アクリルエマルション系重合体(A)(上記で採取したもの)と、テトラフルオロエチレンシートと、凧糸の総重量である。また、テトラフルオロエチレンシートと凧糸の合計重量も測定しておき、該重量を包袋重量とする。
次に、上記のアクリルエマルション系重合体(A)をテトラフルオロエチレンシートにて包み凧糸で縛ったもの(「サンプル」と称する)を、酢酸エチルで満たした50ml容器に入れ、23℃にて7日間静置する。その後、容器からサンプル(酢酸エチル処理後)を取り出して、アルミニウム製カップに移し、130℃で2時間、乾燥機中で乾燥して酢酸エチルを除去した後、重量を測定し、該重量を浸漬後重量とする。
そして、下記の式から溶剤不溶分を算出する。
溶剤不溶分(重量%)=(X−Y)/(Z−Y)×100 (1)
(式(1)において、Xは浸漬後重量であり、Yは包袋重量であり、Zは浸漬前重量である。)
上記アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分(「ゾル分」と称する場合がある)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、4万〜20万が好ましく、より好ましくは5万〜15万、さらに好ましくは6万〜10万である。アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分の重量平均分子量が4万以上であることにより、粘着剤組成物の被着体への濡れ性が向上し、被着体への接着性が向上する。また、アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分の重量平均分子量が20万以下であることにより、被着体への粘着剤組成物の残留量が低減し、低汚染性が向上する。
上記アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分の重量平均分子量は、前述のアクリルエマルション系重合体の溶剤不溶分の測定において得られる酢酸エチル処理後の処理液(酢酸エチル溶液)を常温下で風乾して得られるサンプル(アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分)を、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定して求めることができる。具体的な測定方法は、以下の方法が挙げられる。
[測定方法]
GPC測定は、東ソー(株)製GPC装置「HLC−8220GPC」を用いて行い、ポリスチレン換算値にて分子量を求める。測定条件は下記の通りである。
サンプル濃度:0.2wt%(THF溶液)
サンプル注入量:10μl
溶離液:THF
流速:0.6ml/min
測定温度:40℃
カラム:サンプルカラム;TSKguardcolumn SuperHZ−H 1本+TSKgel SuperHZM−H 2本
リファレンスカラム;TSKgel SuperH−RC 1本
検出器:示差屈折計
本発明の粘着剤組成物中のアクリルエマルション系重合体(A)の含有量は、特に限定されないが、粘着剤組成物の不揮発分100重量%に対して、80重量%以上が好ましく、より好ましくは90〜99重量%である。
[化合物(B)]
本発明の粘着剤組成物(水分散型アクリル系粘着剤組成物)における化合物(B)は、下記式(I)で表される化合物である。
R1O−(PO)a−(EO)b−(PO)c−R2 (I)
上記式(I)中、R1及びR2は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は、水素原子を表す。R1とR2は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基が好ましく例示される。上記R1及びR2は、共に水素原子であることが特に好ましい。
上記式(I)中、POはオキシプロピレン基[−CH2CH(CH3)O−]を表す。また、a及びcは、それぞれ、正の整数(1以上の整数)であり、1〜100が好ましく、より好ましくは10〜50、さらに好ましくは10〜30である。aとcは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
上記式(I)中、EOはオキシエチレン基[−CH2CH2O−]を表す。また、bは、正の整数(1以上の整数)であり、1〜50が好ましく、より好ましくは1〜30、さらに好ましくは1〜15である。
上記式(I)において、EOとPOの付加形態(共重合形態)はブロック型である。即ち、上記化合物(B)は、EOからなるブロック[ポリオキシエチレンブロック、ポリエチレングリコール(PEG)ブロック]の両側にPOからなるブロック[ポリオキシプロピレンブロック、ポリプロピレングリコール(PPG)ブロック]を有するトリブロック共重合体またはその誘導体である。
上記化合物(B)を粘着剤組成物中に配合することで、その消泡性により、気泡由来の欠点をなくすことが可能となる。
上記化合物(B)は、ポリオキシエチレンブロックが分子の中央部に位置するブロック型の構造であり、分子の両端部に疎水基であるPOからなるブロックが存在する構造であるため、気−液界面に均一に並びにくく、消泡性を発揮できる。ポリオキシエチレンブロックを分子の両端部に有するPEG−PPG−PEGトリブロック共重合体やポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのジブロック共重合体は、PPG−PEG−PPGトリブロック共重合体に比べて気−液界面に均一に並びやすいため、泡沫を安定させる作用を有する。
さらに、上記化合物(B)は、疎水性が高いため、高湿度環境下で被着体上に生じる白化汚染の原因となりにくく、低汚染性が向上する。親水性の高い化合物(特に水溶性の化合物)の場合には、高湿度環境下では、化合物が水分に溶けて被着体に転写しやすくなったり、被着体にブリードした化合物が膨潤して白化しやすくなったりするため、白化汚染を引き起こしやすい。
また、上記化合物(B)を用いることにより、本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層(アクリル系粘着剤層)は加湿保存下でも白化(吸湿白化)しにくい。粘着シートを光学部材用の表面保護フィルムに用いる場合には、粘着剤層が白化(即ち、粘着シートが白化)すると光学部材の検査工程に支障が生じる場合がある。
上記化合物(B)の、「化合物(B)の総重量」に対する「EOの総重量」の割合[(EOの総重量)/(化合物(B)の総重量)×100](単位:重量%(%))は、特に限定されないが、50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。上記割合(EO含有率)が50重量%を超えると、化合物(B)の親水性が高くなり、消泡性が失われる場合がある。また、上記割合が5重量%未満では、化合物(B)の疎水性が高くなりすぎ、ハジキの原因となる場合がある。上記の「化合物(B)の総重量」とは、「本発明の粘着剤組成物中の全ての化合物(B)の重量の合計量」であり、「EOの総重量」とは、「本発明の粘着剤組成物中の全ての化合物(B)に含まれるEOの重量の合計量」である。なお、上記の「化合物(B)の総重量」に対する「EOの総重量」の割合を、「EO含有率」と称する場合がある。EO含有率の測定方法は、例えば、NMR、クロマト法(クロマトグラフィー)またはTOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)が挙げられる。
本発明の粘着剤組成物中の、上記化合物(B)の数平均分子量は、1500〜4000が好ましい。数平均分子量が1500未満では、化合物(B)の、系(粘着剤組成物の系)への相溶性が高くなりすぎるため、消泡効果が得られない場合がある。一方、数平均分子量が4000を超えると、系への非相溶性が高くなりすぎるため、消泡性は高くなるが、粘着剤組成物を基材等に塗布する際のハジキの原因となる場合がある。
上記化合物(B)は市販品を用いることも可能であり、具体的には、例えば、(株)ADEKA製、商品名「アデカプルロニック 25R−1」、「アデカプルロニック 25R−2」、「アデカプルロニック 17R−2」、「アデカプルロニック 17R−3」;BASFジャパン(株)製、「プルロニックRPEシリーズ」などが挙げられる。
上記化合物(B)は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
本発明の粘着剤組成物の作製時に上記化合物(B)を配合する際には、溶媒を用いず化合物(B)のみを配合することが好ましいが、配合作業性を向上させる等の観点から、各種溶媒に化合物(B)を分散または溶解させたものを用いてもよい。上記溶媒としては、2−エチルヘキサノール、ブチルセルソルブ、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロパノールなどが挙げられる。
上記化合物(B)の配合量(本発明の粘着剤組成物中の含有量)は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体(A)100重量部に対して、0.01〜1重量部が好ましく、より好ましくは0.02〜0.8重量部、さらに好ましくは0.02〜0.5重量部、最も好ましくは0.02〜0.3重量部である。上記配合量が0.01重量部未満では、消泡性を付与することができない場合があり、1重量部を超えると、汚染が生じやすくなる場合がある。
[非水溶性架橋剤(C)]
本発明の粘着剤組成物に使用する架橋剤は、特に限定されないが、低汚染で粘着力の上昇を妨げることが可能である観点から、非水溶性架橋剤が好ましい。さらに、分子中(1分子中)にカルボキシル基と反応し得る官能基を2個以上有する非水溶性架橋剤(C)が好ましい。本明細書においては、上記の「分子中にカルボキシル基と反応し得る官能基を2個以上有する非水溶性架橋剤(C)」を単に「非水溶性架橋剤(C)」と称する場合がある。即ち、本発明の粘着剤組成物は、非水溶性架橋剤(C)をさらに含むことが好ましい。
上記の非水溶性架橋剤(C)は、非水溶性の化合物であり、分子中(1分子中)にカルボキシル基と反応し得る官能基を2個以上(例えば、2〜6個)有する化合物である。1分子中のカルボキシル基と反応し得る官能基の個数は、特に限定されないが、3〜5個が好ましい。1分子中のカルボキシル基と反応し得る官能基の個数が多くなるほど、粘着剤組成物が密に架橋する(即ち、アクリル系粘着剤層を形成するポリマーの架橋構造が密になる)。このため、アクリル系粘着剤層形成後の該粘着剤層のぬれ広がりを防ぐことが可能となる。また、アクリル系粘着剤層を形成するポリマーが拘束されるため、アクリル系粘着剤層中の官能基(カルボキシル基)が被着体面に偏析して、アクリル系粘着剤層と被着体との粘着力が経時で上昇することを防ぐことが可能となる。一方、1分子中のカルボキシル基と反応し得る官能基の個数が6個を超えて多すぎる場合には、ゲル化物が生じる場合がある。
上記非水溶性架橋剤(C)におけるカルボキシル基と反応し得る官能基としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基などが挙げられる。中でも、反応性の観点からエポキシ基が好ましい。さらに、反応性が高いため、架橋反応における未反応物が残りにくく低汚染性に有利であり、アクリル系粘着剤層中の未反応のカルボキシル基により被着体との粘着力が経時で上昇することを防止できるという観点から、グリシジルアミノ基が好ましい。即ち、非水溶性架橋剤(C)としては、エポキシ基を有するエポキシ系架橋剤が好ましく、中でも、グリシジルアミノ基を有する架橋剤(グリシジルアミノ系架橋剤)が好ましい。なお、非水溶性架橋剤(C)がエポキシ系架橋剤(特にグリシジルアミノ系架橋剤)である場合には、1分子中のエポキシ基(特にグリシジルアミノ基)の個数は2個以上(例えば、2〜6個)であることが好ましく、より好ましくは3〜5個である。
上記非水溶性架橋剤(C)は、非水溶性の化合物である。なお、「非水溶性」とは、25℃における水100重量部に対する溶解度(水100重量部に溶解し得る化合物(架橋剤)の重量)が5重量部以下であることをいい、好ましくは3重量部以下、さらに好ましくは2重量部以下である。非水溶性の架橋剤を使用することにより、架橋せずに残存した架橋剤が、高湿度環境下(加湿下)で被着体上に生じる白化汚染の原因となりにくく、低汚染性が向上する。水溶性の架橋剤の場合には、高湿度環境下(加湿下)では、残存した架橋剤が水分に溶けて被着体に転写しやすくなるため、白化汚染を引き起こしやすい。また、非水溶性架橋剤は、水溶性架橋剤と比較して、架橋反応(カルボキシル基との反応)への寄与が高く、粘着力の経時上昇防止効果が高い。さらに、非水溶性架橋剤は架橋反応の反応性が高いため、エージングで速やかに架橋反応が進行し、粘着剤層中の未反応のカルボキシル基により被着体との粘着力が経時で上昇することを防止できる。
なお、上記の架橋剤の水に対する溶解度は、例えば、以下のようにして測定し得る。
(水に対する溶解度の測定方法)
同重量の水(25℃)と架橋剤を、攪拌機を用いて回転数300rpm、10分の条件で混合し、遠心分離により水相と油相に分ける。次いで、水相を採取し120℃で1時間乾燥して、乾燥減量から水相中の不揮発分(水100重量部に対する不揮発成分の重量部)を求める。
具体的には、非水溶性架橋剤(C)としては、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(例えば、三菱ガス化学(株)製、商品名「TETRAD−C」等)[25℃における水100重量部に対する溶解度2重量部以下]、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン(例えば、三菱ガス化学(株)製、商品名「TETRAD−X」等)[25℃における水100重量部に対する溶解度2重量部以下]等のグリシジルアミノ系架橋剤;Tris(2,3−epoxypropyl)isocyanurate(例えば、日産化学工業(株)製、商品名「TEPIC−G」等)[25℃における水100重量部に対する溶解度2重量部以下]等のその他のエポキシ系架橋剤などが例示される。なお、上記非水溶性架橋剤(C)は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の粘着剤組成物の作製時に上記非水溶性架橋剤(C)を配合する際には、非水溶性架橋剤(C)は、液状の非水溶性架橋剤(C)をそのまま添加(配合)してもよいし、有機溶剤で溶解及び/又は希釈して添加してもよい(但し、有機溶剤の使用量はなるべく少ない方が好ましい)。なお、非水溶性架橋剤(C)を乳化剤により乳化して添加する方法は、乳化剤がブリードして、汚染(特に白化汚染)を引き起こしやすく好ましくない。
上記非水溶性架橋剤(C)の配合量(本発明の粘着剤組成物中の含有量)は、アクリルエマルション系重合体(A)の原料モノマーとして用いられるカルボキシル基含有不飽和単量体のカルボキシル基1モルに対する、非水溶性架橋剤(C)のカルボキシル基と反応し得る官能基のモル数が0.3〜1.3モルとなる配合量とすることが好ましい。即ち、「アクリルエマルション系重合体(A)の原料モノマーとして用いられる全てのカルボキシル基含有不飽和単量体のカルボキシル基の総モル数」に対する、「全ての非水溶性架橋剤(C)のカルボキシル基と反応し得る官能基の総モル数」の割合[カルボキシル基と反応し得る官能基/カルボキシル基](モル比)が0.3〜1.3であることが好ましく、より好ましくは0.4〜1.1、さらに好ましくは0.5〜1.0である。[カルボキシル基と反応し得る官能基/カルボキシル基]が0.3未満では、アクリル系粘着剤層中に未反応のカルボキシル基が多く存在し、カルボキシル基と被着体との相互作用のため、経時による粘着力上昇が生じる場合がある。また、1.3を超えると、アクリル系粘着剤層中に未反応の非水溶性架橋剤(C)が多く存在し、外観不良が生じる場合がある。
特に、非水溶性架橋剤(C)がエポキシ系架橋剤である場合には、[エポキシ基/カルボキシル基](モル比)が0.3〜1.3であることが好ましく、より好ましく0.4〜1.1、さらに好ましくは0.5〜1.0である。さらに、非水溶性架橋剤(C)がグリシジルアミノ系架橋剤である場合には、[グリシジルアミノ基/カルボキシル基](モル比)が上記範囲を満たすことが好ましい。
なお、例えば、粘着剤組成物中に、カルボキシル基と反応し得る官能基の官能基当量が110(g/eq)の非水溶性架橋剤(C)を4g添加(配合)する場合、非水溶性架橋剤(C)の有するカルボキシル基と反応し得る官能基のモル数は、例えば、以下のように算出できる。
非水溶性架橋剤(C)の有するカルボキシル基と反応し得る官能基のモル数 = [非水溶性架橋剤(C)の配合量(添加量)]/[官能基当量] = 4/110
例えば、非水溶性架橋剤(C)として、エポキシ当量が110(g/eq)のエポキシ系架橋剤を4g添加(配合)する場合、エポキシ系架橋剤の有するエポキシ基のモル数は、例えば、以下のように算出できる。
エポキシ系架橋剤の有するエポキシ基のモル数 = [エポキシ系架橋剤の配合量(添加量)]/[エポキシ当量] = 4/110
本発明の粘着剤組成物は、水分散型の粘着剤組成物である。なお、「水分散型」とは、水性媒体に分散可能なことをいい、即ち、本発明の粘着剤組成物は水性媒体に分散可能な粘着剤組成物である。上記水性媒体は、水を必須成分とする媒体(分散媒)であり、水単独のほかに、水と水溶性有機溶剤との混合物であっても良い。なお、本発明の粘着剤組成物は上記水性媒体等を用いた分散液であってもよい。
本発明の粘着剤組成物は、上記非水溶性架橋剤(C)以外のその他の架橋剤として、多官能性ヒドラジド系架橋剤を含有していてもよい。多官能性ヒドラジド系架橋剤を用いることで、粘着剤組成物より形成されるアクリル系粘着剤層の再剥離性、接着性及び基材との投錨性を向上させることができる。多官能性ヒドラジド系架橋剤(単に「ヒドラジド系架橋剤」と称する場合がある)は、分子中(1分子中)にヒドラジド基を少なくとも2個有する化合物である。1分子中のヒドラジド基の個数は、2または3個が好ましく、より好ましくは2個である。このようなヒドラジド系架橋剤として用いられる化合物としては、特に限定されないが、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド、ナフタル酸ジヒドラジド、アセトンジカルボン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、トリメリット酸ジヒドラジド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸ジヒドラジド、ピロメリット酸ジヒドラジド、アコニット酸ジヒドラジドなどのジヒドラジド化合物が好ましく挙げられる。中でも、特に好ましくは、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドである。これらのヒドラジド系架橋剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記ヒドラジド系架橋剤は、市販品を用いてもよく、例えば、東京化成工業(株)製「アジピン酸ジヒドラジド(試薬)」、和光純薬工業(株)製「アジポイルジヒドラジド(試薬)」等が使用できる。
上記ヒドラジド系架橋剤の配合量(本発明の粘着剤組成物中の含有量)は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体(A)の原料モノマーとして用いられるケト基含有不飽和単量体のケト基1モルに対して、0.025〜2.5モルが好ましく、より好ましくは0.1〜2モル、さらに好ましくは0.2〜1.5モルである。配合量が0.025モル未満では、架橋剤添加の効果が小さく、アクリル系粘着剤層又は粘着シートが重剥離化するとともに、アクリル系粘着剤層を形成するポリマーに低分子量成分が残存して、被着体の白化汚染が生じやすくなる場合がある。また2.5モルを超えると、未反応架橋剤成分が汚染の原因となる場合がある。
本発明の粘着剤組成物には、低汚染性の観点から、第4級アンモニウム塩を添加しないことが好ましく、さらに第4級アンモニウム化合物を添加しないことが好ましい。従って、本発明の粘着剤組成物は、第4級アンモニウム塩を実質的に含まないことが好ましく、さらに第4級アンモニウム化合物を実質的に含まないことが好ましい。これらの化合物は、エポキシ系架橋剤の反応性を向上させるための触媒等として一般的に使用される。しかし、これらの化合物は、粘着剤層を形成する重合体中に組み込まれず粘着剤層中を自由に移動できるため、被着体表面に析出しやすく、粘着剤組成物中にこれらの化合物が含まれる場合には、白化汚染が引き起こされやすく、低汚染性が達成できない場合がある。具体的には、本発明の粘着剤組成物中の第4級アンモニウム塩の含有量は、粘着剤組成物(不揮発分)100重量%に対して、0.1重量%未満が好ましく、より好ましくは0.01重量%未満、さらに好ましくは0.005重量%未満である。さらに、第4級アンモニウム化合物の含有量が上記範囲を満たすことが好ましい。
なお、第4級アンモニウム塩は、特に限定されないが、具体的には、例えば、下記式で表される化合物である。
上記式において、R3、R4、R5、R6は、水素原子を除き、アルキル基、アリール基又はそれらから誘導された基(例えば、置換基を有するアルキル基やアリール基等)を表す。また、X-は対イオンを表す。
上記の第4級アンモニウム塩や第4級アンモニウム化合物は、特に限定されないが、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化アルキルアンモニウムやその塩類、水酸化テトラフェニルアンモニウム等の水酸化アリールアンモニウムやその塩類、トリラウリルメチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ジココイルジメチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオン、ジオレイルジメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、ベヘニルトリメチルアンモニウムイオン、ココイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオン、ポリオキシエチレン(15)ココステアリルメチルアンモニウムイオン、オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオン、ココベンジルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオン、デシルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオンを陽イオンとする塩基やその塩類などが挙げられる。
さらに、本発明の粘着剤組成物には、低汚染性の観点から、上記の第4級アンモニウム塩(又は第4級アンモニウム化合物)と同様に、エポキシ系架橋剤の反応性を向上させるための触媒等として一般的に使用される第3級アミン及びイミダゾール化合物を添加しないことが好ましい。従って、本発明の粘着剤組成物は第3級アミン及びイミダゾール化合物を実質的に含まないことが好ましい。具体的には、本発明の粘着剤組成物中の、第3級アミン及びイミダゾール化合物の含有量(第3級アミン及びイミダゾール化合物の合計の含有量)は、特に限定されないが、粘着剤組成物(不揮発分)100重量%に対して、0.1重量%未満が好ましく、より好ましくは0.01重量%未満、さらに好ましくは0.005重量%未満である。
上記の第3級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン及びα−メチルベンジル−ジメチルアミンなどの第三級アミン系化合物が挙げられる。上記のイミダゾール化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、4−ドデシルイミダゾール、2−フェニル−4−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−エチル−4−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−4−メチルイミダゾール及び2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられる。
なお、本発明の粘着剤組成物は、汚染性に影響を与えない範囲で、上記以外の各種添加剤を含有してもよい。各種添加剤としては、例えば、顔料、充填剤、レベリング剤、分散剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、老化防止剤、防腐剤などが挙げられる。
上記レベリング剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレンジオール系化合物(分子内にアセチレン結合を有するジオール化合物)、フルオロカーボン変性ポリアクリレート等が挙げられる。レベリング剤の配合量(本発明の粘着剤組成物中の含有量)は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体(A)100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部である。なお、上記レベリング剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の粘着剤組成物は、上記アクリルエマルション系重合体(A)及び上記化合物(B)を混合することにより作製できる。必要に応じて、他にも、上記非水溶性架橋剤(C)やその他の架橋剤、各種添加剤を混合してもよい。なお、上記混合方法は、公知慣用のエマルションの混合方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、攪拌機を用いた攪拌が好ましい。攪拌条件は、特に限定されないが、例えば、温度は10〜50℃が好ましく、より好ましくは20〜35℃である。攪拌時間は5〜30分が好ましく、より好ましくは10〜20分である。攪拌回転数は、10〜2000rpmが好ましく、より好ましくは30〜1000rpmである。
上記混合において、化合物(B)を加えるタイミングは特に限定されず、アクリルエマルション系重合体(A)の重合中に化合物(B)を加えてもよいし、重合後のアクリルエマルション系重合体(A)と化合物(B)を混合してもよい。非水溶性架橋剤(C)を加えるタイミングも特に限定されないが、ポットライフの観点から、粘着剤組成物の塗布直前が好ましい。
上述のようにして得られた粘着剤組成物を上記透明フィルム基材の少なくとも片面側に塗布し、必要に応じて乾燥させることによりアクリル系粘着剤層を形成し、本発明の粘着シート(透明フィルム基材の少なくとも片面側に本発明の粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層を有する粘着シート)を得ることができる。架橋は、乾燥工程での脱水、乾燥後に粘着シートを加温すること等により行う。なお、本発明の粘着シートにおいてアクリル系粘着剤層は、上述のように、透明フィルム基材の表面に粘着剤組成物を直接塗布するいわゆる直写法により形成されることが好ましい。上記アクリル系粘着剤層は溶剤不溶分が高いため、剥離フィルム上に一旦アクリル系粘着剤層を設けた後に透明フィルム基材上に転写する(貼り合わせる)いわゆる転写法では、透明フィルム基材に対するアクリル系粘着剤層の十分な投錨性(密着性)が得られない場合があるため、直写法の方が好ましく用いられる。ただし、本発明の粘着シートは、基材の少なくとも片面側に本発明の粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層を有する粘着シートであればよく、製造方法は特に限定されない。
本発明の粘着シートにおけるアクリル系粘着剤層(架橋後)の厚みは、特に限定されないが、1〜50μmが好ましく、より好ましくは1〜35μm、さらに好ましくは3〜25μmである。
上記アクリル系粘着剤層(架橋後)の溶剤不溶分は、特に限定されないが、90重量%以上が好ましく、より好ましくは95重量%以上である。溶剤不溶分が90重量%未満では、被着体への汚染物の転写が増加し白化汚染が生じたり、再剥離性が不足(重剥離化)する場合がある。上記アクリル系粘着剤層(架橋後)の溶剤不溶分の上限値は、特に限定されないが、例えば、99重量%が好ましい。
なお、上記アクリル系粘着剤層(架橋後)の溶剤不溶分は、上述のアクリルエマルション系重合体の溶剤不溶分の測定方法と同様の方法で測定することができる。具体的には、上述の「溶剤不溶分の測定方法」において、「アクリルエマルション系重合体」を「アクリル系粘着剤層(架橋後)」に読み替えた方法で測定することができる。
また、上記アクリル系粘着剤層を形成するアクリルポリマー(架橋後)のガラス転移温度は、特に限定されないが、−70〜−10℃が好ましく、より好ましくは−70〜−20℃、さらに好ましくは−70〜−40℃、最も好ましくは−70〜−60℃である。ガラス転移温度が−10℃を超えると粘着力が不足して、加工時などに浮きや剥がれが生じる場合がある。また、−70℃未満ではより高速の剥離速度(引張速度)領域で重剥離化し、作業効率が低下するおそれがある。このアクリル系粘着剤層を形成するアクリルポリマー(架橋後)のガラス転移温度は、例えば、アクリルエマルション系重合体(A)を調製する際のモノマー組成によっても調整できる。
本発明の粘着シートは、引張速度0.3m/分における偏光板(トリアセチルセルロース(TAC)板)(表面の算術平均粗さRaが50nm以下のもの)に対する粘着力(180°剥離試験)(偏光板に貼付した粘着シートを剥離する際の剥離力)が、0.01〜5N/25mmであることが好ましく、より好ましくは0.02〜3N/25mm、さらに好ましくは0.03〜2N/25mm、最も好ましくは0.04〜1N/25mmである。上記粘着力が5N/25mmを超えると、偏光板や液晶表示装置の製造工程で粘着シートを剥離しにくく、生産性、取り扱い性が低下する場合がある。また、0.01N/25mm未満では、製造工程で粘着シートの浮きや剥がれが発生し、表面保護用の粘着シートとしての保護機能が低下する場合がある。なお、上記算術平均粗さRaは、例えば、ケーエルエー・テンコール(KLA Tencor)社製P−15(接触式の表面形状測定装置)を用いて測定することができる。表面粗さ(算術平均粗さRa)は、特に限定されないが、例えば、測定長1000μm、走査速度50μm/秒、走査回数1回、荷重2mgの条件で測定することができる。
本発明の粘着シートの可視光波長領域における全光線透過率(JIS K7361−1に準ずる)は、特に限定されないが、80〜97%が好ましく、より好ましくは85〜95%である。また、本発明の粘着シートのヘイズ(JIS K7136に準ずる)は、特に限定されないが、1.0〜3.5%が好ましく、より好ましくは2.0〜3.2%である。上記透明フィルム基材の全光線透過率及び/又はヘイズが上記範囲を外れると、被着体の外観検査を行うことが困難となる傾向がある。
上記透明フィルム基材のトップコート層表面、即ち、本発明の粘着シートのトップコート層表面の表面抵抗率は、特に限定されないが、100×108Ω/□以下(例えば、0.1×108〜100×108Ω/□)が好ましく、より好ましくは50×108Ω/□以下(例えば、0.1×108〜50×108Ω/□)、さらに好ましくは1×108〜50×108Ω/□である。表面抵抗率が100×108Ω/□以下であると、特に、液晶セルや半導体装置等のように静電気を嫌う物品の加工又は搬送過程等において使用される表面保護フィルムとして好ましく利用できる。上記表面抵抗率の値は、市販の絶縁抵抗測定装置を用いて、23℃、相対湿度55%RHの雰囲気下で測定される表面抵抗の値から算出することができる。具体的には、後述する実施例に記載の表面抵抗率の測定方法により得られた表面抵抗率の値を好ましく採用できる。
上記透明フィルム基材のトップコート層表面、即ち、本発明の粘着シートのトップコート層表面の摩擦係数は、特に限定されないが、0.4以下が好ましい。摩擦係数を0.4以下に小さく制御することにより、粘着シートのトップコート層表面に荷重(スクラッチ傷(擦過傷)を生じさせるような荷重)が加わった場合に、その荷重をトップコート層表面に沿って受け流し、摩擦力を軽減することができる。従って、トップコート層が凝集破壊したり、ベース層から剥がれたり(界面破壊)してスクラッチ傷を生じる事象をよりよく防止することができる。上記摩擦係数の下限の値は、特に限定されないが、他の特性(外観特性、印字性等)とのバランスを考慮して、例えば、0.1が好ましく、より好ましくは0.15である。即ち、上記摩擦係数は、特に限定されないが、0.1〜0.4が好ましく、より好ましくは0.15〜0.4である。
上記摩擦係数は、例えば、23℃、相対湿度50%RHの測定環境下において、透明フィルム基材(又は本発明の粘着シート)のトップコート層の表面を垂直荷重40mNで擦過して求められる値を採用できる。上記摩擦係数を低下させる(調整する)手法としては、トップコート層に各種滑剤(レベリング剤等)を含有させる方法、架橋剤の添加や成膜条件の調整によりトップコート層の架橋密度を高める方法等を適宜採用できる。
上記透明フィルム基材のトップコート層表面、即ち、本発明の粘着シートのトップコート層表面は、油性インキや水性インキにより(例えば、油性マーキングペンを用いて)容易に印字できる性質(「印字性」と称する場合がある)を有することが好ましい。このような表面保護フィルム(粘着シート)は、該表面保護フィルムを貼り合わせた被着体(例えば、光学部品など)の加工や搬送等の過程において、保護対象たる被着体の識別番号等を表面保護フィルムに記載して表示するのに適している。従って、本発明の粘着シートは、外観特性に加えて印字性にも優れた表面保護フィルムであることが好ましく、特に、溶剤がアルコール系であって顔料を含むタイプの油性インキに対して高い印字性を有することが好ましい。また、印字されたインキが擦れや転着により取れにくい特性(「印字密着性」と称する場合がある)を有することが好ましい。上記印字性の程度は、例えば、下記の印字性評価により把握することができる。
(印字性(印字密着性)評価)
23℃、50%RHの測定環境下でシャチハタ社製Xスタンパ−を用いて、トップコート層表面上に印字を施した後、その印字の上からニチバン社製のセロハン粘着テープ(品番No.405、幅19mm)を貼り付け、次いで、剥離速度30m/分、剥離角度180°の条件で剥離する。その後、剥離後の表面を目視観察し、印字面積の50%以上が剥離された場合を×(印字性不良)、印字面積の50%以上が剥離されずに残った場合を○(印字性良好)と評価する。
さらに、上記透明フィルム基材のトップコート層表面、即ち、本発明の粘着シートのトップコート層表面は、印字を修正または消去する際に該印字をアルコール(例えば、エチルアルコール)で拭き取っても外観に目立った変化(白化)を生じない程度の耐溶剤性を有することが好ましい。上記耐溶剤性の程度は、例えば、下記の耐溶剤性評価により把握することができる。
(耐溶剤性評価)
外光を遮った室内(暗室)において、エチルアルコールを染み込ませたウェス(布)でトップコート層表面を15回拭き、その外観を目視観察する。その結果、エチルアルコールで拭いた部分と他の部分との間に外観上の相違が観察されなかった(エチルアルコールで拭いたことによる外観変化が見られない)場合を○(耐溶剤性良好)、拭きムラが確認された場合を×(耐溶剤性不良)と評価する。
本発明の粘着シートは、被着体の白化汚染抑止性に優れる。これは例えば、以下のようにして評価できる。粘着シートを、偏光板(商品名「SEG1425DUHC」、日東電工(株)製)に、0.25MPa、0.3m/分の条件で貼り合わせ、80℃で4時間放置した後粘着シートを剥離する。該粘着シート剥離後の偏光板を、さらに23℃、90%RHの環境下で12時間放置した後に、表面を観察する。この際、偏光板表面に白化が見られないことが好ましい。粘着シートの貼付・剥離後に、加湿条件(高湿度条件)下、被着体である偏光板に白化が生じる場合には、光学部材の表面保護フィルム用途としては低汚染性が十分ではない。
本発明の粘着シートは巻回体とすることができ、剥離フィルム(セパレータ)でアクリル系粘着剤層を保護した状態でロール状に巻き取ることができる。また、粘着シートの背面(アクリル系粘着剤層が設けられた側とは反対側の面、通常はトップコート層表面)にはシリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系若しくは脂肪酸アミド系の離型剤、シリカ粉等による、離型処理及び/又は防汚処理を施し、背面処理層(離型処理層、防汚処理層など)が設けられていてもよい。本発明の粘着シートとしては、中でも、アクリル系粘着剤層/透明フィルム基材/背面処理層の形態が好ましい。
本発明の粘着シートは、接着性と再剥離性(易剥離性)に優れ、再剥離が可能であるため再剥離される用途(再剥離用)に用いられる。即ち、本発明の粘着シートは再剥離される用途[例えば、建築養生用マスキングテープ、自動車塗装用マスキングテープ、電子部品(リードフレーム、プリント基板等)用マスキングテープ、サンドブラスト用マスキングテープなどのマスキングテープ類、アルミサッシ用表面保護フィルム、光学プラスチック用表面保護フィルム、光学ガラス用表面保護フィルム、自動車保護用表面保護フィルム、金属板用表面保護フィルムなどの表面保護フィルム類、バックグラインドテープ、ペリクル固定用テープ、ダイシング用テープ、リードフレーム固定用テープ、クリーニングテープ、除塵用テープ、キャリアテープ、カバーテープなどの半導体・電子部品製造工程用粘着テープ類、電子機器や電子部品の梱包用テープ類、輸送時の仮止めテープ類、結束用テープ類、ラベル類]等に好ましく用いられる。
さらに、本発明の粘着シートは、凹みや気泡欠点などの粘着剤層の外観不良が低減されており、かつトップコート層を有するにもかかわらず白っぽく見えにくいため、優れた外観特性を有する。また、本発明の粘着シートは、上記トップコート層を有することによって、優れた耐スクラッチ性と帯電防止性を発揮できる。このため、本発明の粘着シートは、特に優れた外観特性、耐スクラッチ性、及び帯電防止性などが要求される、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)、フィールドエミッションディスプレイなどのパネルを構成する偏光板、位相差板、反射防止板、波長板、光学補償フィルム、輝度向上フィルムなど光学部材(光学プラスチック、光学ガラス、光学フィルム等)の表面保護用途(光学部材用の表面保護フィルム等)として好ましく用いられる。ただし、用途はこれに限定されるものではなく、半導体、回路、各種プリント基板、各種マスク、リードフレームなどの微細加工部品の製造の際の表面保護や破損防止、あるいは異物等の除去、マスキング等にも使用することができる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
製造例1[透明フィルム基材の製造例]
(トップコート層形成用組成物の調製)
反応器にトルエン25gを装入し、反応器内の温度を105℃まで上げた後、メチルメタクリレート(MMA)30g、n−ブチルアクリレート(BA)10g、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)5g、アゾビスイソブチロニトリル0.2gを混合した溶液を上記反応器に、2時間かけて連続的に滴下した。滴下完了後、反応器内の温度を110〜115℃に調整し、同温度に3時間保持して共重合反応を行った。3時間経過後、トルエン4gとアゾビスイソブチロニトリル0.1gとの混合液を反応器に滴下し、同温度に1時間保持した。その後、反応器内の温度を90℃まで冷却し、トルエンを投入してNV5重量%に調整し、バインダとしてのアクリル系ポリマー(バインダポリマー1;Tg48℃)をトルエン中に5重量%含む溶液(バインダ溶液1)を作製した。
次に、容量150mLのビーカーに、2gのバインダ溶液1(0.1gのバインダポリマー1を含む)と、40gのエチレングリコールモノエチルエーテルとを入れて攪拌混合した。さらに、このビーカーに、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)とポリスチレンスルホネート(PSS)を含むNV4.0重量%の導電性ポリマー溶液1(水溶液)を1.2gと、エチレングリコールモノメチルエーテル55gと、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン系レベリング剤(滑剤溶液)(BYK Chemie社製、商品名「BYK−300」、NV52重量%)0.05gと、メラミン系架橋剤((株)三和ケミカル製、商品名「ニカラック MW−30M」、不揮発分100%)0.02gとを加え、約20分間攪拌して十分に混合した。このようにして、バインダポリマー1(アクリル系ポリマー)100重量部に対して、導電性ポリマー48重量部、滑剤26重量部、及びメラミン系架橋剤20重量部(いずれも固形分換算)を含むトップコート層形成用組成物(NV:0.2重量%)を調製した。
(トップコート層の形成)
一方の面にコロナ処理が施された厚み38μm、幅30cm、長さ40cmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)のコロナ処理面に、上記トップコート層形成用組成物を、バーコーターを用いて乾燥後の厚みが約10nmとなるように塗布した。この塗布物を130℃で2分間加熱して乾燥させることにより、上記PETフィルムの一方の面にトップコート層を形成した。このようにして、PETフィルムの片面に透明なトップコート層を有する透明フィルム基材(「基材1」と称する場合がある)を作製した。
製造例2[透明フィルム基材の製造例]
製造例1において、導電性ポリマー溶液1の使用量を1.2gから2.5gに変更し、エチレングリコールモノメチルエーテルの使用量を55gから17gに変更した。また、トップコート層形成用溶液の塗布は、乾燥後の厚みが約20nmとなるように実施した。その他の点については製造例1と同様にして、PETフィルムの片面に透明なトップコート層を有する透明フィルム基材(「基材2」と称する場合がある)を作製した。
製造例3[透明フィルム基材の製造例]
製造例1において、エチレングリコールモノエチルエーテルの使用量を40gから19gに変更し、導電性ポリマー溶液1の使用量を1.2gから0.7gに変更し、エチレングリコールモノメチルエーテルは使用しなかった。また、トップコート層形成用溶液の塗布は、乾燥後の厚みが約40nmとなるように実施した。その他の点については製造例1と同様にして、PETフィルムの片面に透明なトップコート層を有する透明フィルム基材(「基材3」と称する場合がある)を作製した。
製造例4[透明フィルム基材の製造例]
エチレングリコールモノエチルエーテルの使用量を19gから15gに変更した。また、トップコート層形成用溶液の塗布は、乾燥後の厚みが約50nmとなるように実施した。その他の点については製造例3と同様にして、PETフィルムの片面に透明なトップコート層を有する透明フィルム基材(「基材4」と称する場合がある)を作製した。
製造例5[透明フィルム基材の製造例]
(トップコート層形成用組成物の調製)
反応器にトルエン25gを装入し、反応器内の温度を105℃まで上げた後、メチルメタクリレート(MMA)32g、n−ブチルアクリレート(BA)5g、メタクリル酸(MAA)0.7g、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)5g、アゾビスイソブチロニトリル0.2gを混合した溶液を上記反応器に、2時間かけて連続的に滴下した。滴下完了後、反応器内の温度を110〜115℃に調整し、同温度に3時間維持して共重合反応を行った。3時間経過後、トルエン4gとアゾビスイソブチロニトリル0.1gとの混合液を反応器に滴下し、同温度に1時間保持した。その後、反応器内の温度を90℃まで冷却し、トルエン31gを投入して希釈した。このようにして、バインダとしてのアクリル系ポリマー(バインダポリマー2;Tg72℃)をトルエン中に約42重量%含む溶液(バインダ溶液2)を作製した。
次に、容量150mLのビーカーに、5.5gのバインダ溶液2(2.3gのバインダポリマー2を含む)と30gのエチレングリコールモノエチルエーテルとを入れて攪拌混合した。さらにこのビーカーに、PEDT及びPSSを含むNV1.3重量%の導電性ポリマー溶液2(水溶液)を14g、エチレングリコールモノメチルエーテル6g、滑剤溶液(BYK−300)0.5gを加え、約30分間攪拌して十分に混合した。このようにして、100重量部のバインダポリマー2(アクリル系ポリマー)に対して、導電性ポリマー8重量部及び滑剤11重量部(いずれも固形分基準)を含むトップコート層形成用組成物を調製した。なお、このトップコート層形成用組成物には架橋剤は配合されていない。
(トップコート層の形成)
片面にコロナ処理が施された厚み38μm、幅30cm、長さ40cmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)のコロナ処理面に、上記トップコート層形成用組成物を、バーコーターを用いて乾燥後の厚みが約610nmとなるように塗布した。この塗布物を80℃に2分間加熱して乾燥させることにより、トップコート層を形成した。このようにして、PETフィルムの片面に透明なトップコート層を有する透明フィルム基材(「基材5」と称する場合がある)を作製した。
製造例6[透明フィルム基材の製造例]
(トップコート層形成用組成物の調製)
反応器にトルエン25gを装入し、反応器内の温度を105℃まで上げた後、メチルメタクリレート(MMA)30g、n−ブチルアクリレート(BA)10g、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)5g、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)5g、アゾビスイソブチロニトリル0.2gを混合した溶液を上記反応器に、2時間かけて連続的に滴下した。滴下完了後、反応器内の温度を110〜115℃に調整し、同温度に3時間維持して共重合反応を行った。3時間経過後、トルエン4gとアゾビスイソブチロニトリル0.1gとの混合液を反応器に滴下し、同温度に1時間保持した。その後、反応器内の温度を90℃まで冷却し、トルエンを投入して希釈した。このようにして、バインダとしてのアクリル系ポリマー(バインダポリマー3;Tg49℃)をトルエン中に約5重量%含む溶液(バインダ溶液3)を作製した。
次に、容量150mLのビーカーに、2gのバインダ溶液3(0.1gのバインダポリマー3を含む)と、40gのエチレングリコールモノエチルエーテルとを入れて攪拌混合した。さらに、このビーカーに、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)とポリスチレンスルホネート(PSS)を含むNV4.0重量%の導電性ポリマー溶液1(水溶液)を1.2gと、エチレングリコールモノメチルエーテル55gと、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン系レベリング剤(滑剤溶液)(BYK Chemie社製、商品名「BYK−300」、NV52重量%)0.05gと、メラミン系架橋剤((株)三和ケミカル製、商品名「ニカラック MW−30M」)0.02gとを加え、約20分間攪拌して十分に混合した。このようにして、バインダポリマー3(アクリル系ポリマー)100重量部に対して、導電性ポリマー48重量部、滑剤26重量部、及びメラミン系架橋剤20重量部(いずれも固形分換算)を含むトップコート層形成用組成物(NV:0.2重量%)を調製した。
(トップコート層の形成)
一方の面にコロナ処理が施された厚み38μm、幅30cm、長さ40cmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)のコロナ処理面に、上記トップコート層形成用組成物を、バーコーターを用いて乾燥後の厚みが約8nmとなるように塗布した。この塗布物を130℃で2分間加熱して乾燥させることにより、上記PETフィルムの一方の面にトップコート層を形成した。このようにして、PETフィルムの片面に透明なトップコート層を有する透明フィルム基材(「基材6」と称する場合がある)を作製した。
表1には、上記で作製した透明フィルム基材(基材1〜6)におけるトップコート層の組成、及び後述の評価手順によるこれら透明フィルム基材の評価結果を示した。
製造例7[水分散型アクリル系粘着剤組成物の製造例]
(アクリルエマルション系重合体の調製)
容器に、水90重量部、及び、表2に示すように、アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)96重量部、アクリル酸(AA)4重量部、ノニオンアニオン系反応性乳化剤(第一工業製薬(株)製、商品名「アクアロンHS−10」)3重量部を配合した後、ホモミキサーにより攪拌混合し、モノマーエマルションを調製した。
次いで、冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、水50重量部、重合開始剤(過硫酸アンモニウム)0.01重量部、及び、上記で調製したモノマーエマルションのうち10重量%にあたる量を添加し、攪拌しながら、75℃で1時間乳化重合した。その後、さらに重合開始剤(過硫酸アンモニウム)0.05重量部を添加し、次いで、攪拌しながら、残りのモノマーエマルションの全て(90重量%にあたる量)を3時間かけて添加して、その後、75℃で3時間反応させた。次いで、これを30℃に冷却して、濃度10重量%のアンモニア水を加えてpH8に調整して、アクリルエマルション系重合体の水分散液を調製した。
(水分散型アクリル系粘着剤組成物の調製)
上記で得られたアクリルエマルション系重合体の水分散液に、アクリルエマルション系重合体(固形分)100重量部に対して、化合物(B)である「アデカプルロニック25R−1」を1.0重量部、レベリング剤として「EFKA−3570」を0.2重量部、非水溶性架橋剤であるエポキシ系架橋剤[三菱ガス化学(株)製、商品名「テトラッド−C」、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、エポキシ当量:110、官能基数:4]3重量部を、攪拌機を用いて、23℃、300rpm、10分の攪拌条件で攪拌混合し、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「粘着剤1」と称する場合がある)を調製した。
製造例8[水分散型アクリル系粘着剤組成物の製造例]
表2に示すように、反応性乳化剤として、「アクアロンHS−10」の代わりに、「アデカリアソープSE−10N」3重量部を使用した以外は製造例7と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「粘着剤2」と称する場合がある)を調製した。
製造例9[水分散型アクリル系粘着剤組成物の製造例]
表2に示すように、アクリルエマルション系重合体のモノマー原料を、アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)92重量部、メタクリル酸メチル(MMA)4重量部、アクリル酸(AA)4重量部に変更した以外は製造例7と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「粘着剤3」と称する場合がある)を調製した。
製造例10[水分散型アクリル系粘着剤組成物の製造例]
表2に示すように、化合物(B)として、「アデカプルロニック25R−1」の代わりに、「アデカプルロニック17R−3」0.5重量部を使用した以外は製造例8と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「粘着剤4」と称する場合がある)を調製した。
製造例11[水分散型アクリル系粘着剤組成物の製造例]
表2に示すように、化合物(B)として、「アデカプルロニック25R−1」の代わりに、「PPO−PEO−PPO」0.5重量部を使用し、非水溶性架橋剤(C)として、「テトラッド−C」の代わりに、「テトラッド−X」3重量部を使用した以外は製造例7と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「粘着剤5」と称する場合がある)を調製した。
製造例12[水分散型アクリル系粘着剤組成物の製造例]
表2に示すように、化合物(B)である共重合体を用いなかったこと以外は製造例7と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「粘着剤6」と称する場合がある)を調製した。
製造例13[水分散型アクリル系粘着剤組成物の製造例]
表2に示すように、化合物(B)である共重合体の代わりに、化合物(B)以外の化合物(「POLYRan(EO−PO)」0.5重量部)を用いたこと以外は製造例7と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「粘着剤7」と称する場合がある)を調製した。
製造例14[水分散型アクリル系粘着剤組成物の製造例]
表2に示すように、化合物(B)である共重合体の代わりに、化合物(B)以外の化合物(「PEO−PPO−PEO」3.0重量部)を用いたこと以外は製造例7と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「粘着剤8」と称する場合がある)を調製した。
製造例15[水分散型アクリル系粘着剤組成物の製造例]
表2に示すように、化合物(B)である「アデカプルロニック25R−1」の配合量を、アクリルエマルション系重合体(固形分)100重量部に対して0.1重量部に変更したこと以外は製造例7と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「粘着剤9」と称する場合がある)を調製した。
表2には、上記で作製した水分散型アクリル系粘着剤組成物(粘着剤1〜9)の組成を示した。
実施例1
表3に示すように、上記で得られた水分散型アクリル系粘着剤組成物(粘着剤1)を、上記で得られた透明フィルム基材(基材1)のトップコート層に対する反対側の表面に、テスター産業(株)製アプリケーターを用いて、乾燥後の厚みが15μmとなるように塗布(コーティング)し、その後、熱風循環式オーブンで120℃で2分間乾燥させ、乾燥後の粘着剤層にシリコーンで表面処理したPETフィルム(三菱樹脂(株)製、「MRF38」)のシリコーン処理面を貼り合わせた後、50℃で3日間養生(エージング)して粘着シートを得た。
実施例2〜9、比較例1〜6
表3に示すように、水分散型アクリル系粘着剤組成物、透明フィルム基材の種類を変更し、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
なお、比較例6で基材として用いた商品名「ダイヤホイルT100G」(三菱化学(株)製)は、一方の表面に帯電防止層を有するPETフィルム(帯電防止処理されたPETフィルム)である。上記帯電防止層には、帯電防止剤としてアンモニウム塩基を有する化合物が含まれる。
[評価]
上記で作製した透明フィルム基材、並びに、実施例および比較例で得られた粘着シートについて、下記の測定方法又は評価方法により評価を行った。なお、アクリルエマルション系重合体の溶剤不溶分、アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分の重量平均分子量、及びアクリル系粘着剤層(架橋後)の溶剤不溶分は、上述の測定方法で測定した。
評価結果を表1〜3に示した。
(1)トップコート層の厚み(平均厚み及び厚みのバラツキ)
製造例にて作製した透明フィルム基材の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察することにより、トップコート層の厚みを測定した。
一方、上記透明フィルム基材のトップコート層表面につき、蛍光X線分析装置(Rigaku社製、XRF装置、型式「ZSX−100e」)を用いて硫黄原子(トップコート層に含まれるPEDT及びPSSに由来する)のピーク強度を測定した。蛍光X線分析は以下の条件で行った。
[蛍光X線分析]
装置:Rigaku社製XRF装置、型式「ZSX−100e」
X線源:縦型Rh管
分析範囲:直径30mmの円内
検出X線:S−Kα
分光結晶:Geクリスタル
出力:50kV、70mA
上記TEM観察により得られたトップコート層の厚み(実測値)及び上記蛍光X線分析の結果に基づいて、蛍光X線分析におけるピーク強度からトップコート層の厚みを把握する検量線を作製した。
上記検量線を用いて、上記透明フィルム基材のトップコート層の厚みを測定した。具体的には、トップコート層が形成された領域を幅方向(バーコーターの移動方向に直交する方向)に横切る直線に沿って、該幅方向の一端から他端に向かって幅の1/6、2/6、3/6、4/6、5/6進んだ位置について蛍光X線分析を行い、その結果(硫黄原子のX線強度(kcps))、トップコート層の組成(PEDT及びPSSの含有量)及び上記検量線から、上記5箇所の測定位置におけるトップコート層の厚みを求めた。平均厚みDaveは、上記5箇所の測定点におけるトップコート層の厚みを算術平均することにより測定した。厚みのバラツキΔDは、上記平均厚みDaveと、上記5箇所の測定点におけるトップコート層の厚みのうちの最大値Dmax及び最小値Dminとを、次式:ΔD=(Dmax−Dmin)/Dave×100(%);に代入することにより算出した。
(2)トップコート層表面のX線強度のバラツキ
上記の各位置(5箇所の測定位置)について蛍光X線分析を行って得られた硫黄原子のX線強度(kcps)を算術平均することにより、平均X線強度Iaveを求めた。また、この平均X線強度Iaveと各位置(5箇所の測定位置)におけるX線強度の最大値Imax及び最小値Iminとを、次式:ΔI=(Imax−Imin)/Iave×100(%);に代入することにより、X線強度のバラツキΔIを算出した。
(3)透明フィルム基材の外観
外光の入る窓を有する室内(明室)にて、晴天の日中に、直射日光の当たらない窓際にて上記透明フィルム基材(基材1〜6)の背面(トップコート層側の表面)を目視観察した。これらの観察結果に基づき、以下の基準にて透明フィルム基材の外観を評価した。
○(外観良好):ムラやスジが確認されなかった
×(外観不良):ムラやスジが確認された
(4)トップコート層表面の表面抵抗率
JIS K6911に準拠し、絶縁抵抗計((株)三菱化学アナリテック製、商品名「Hiresta−up MCP−HT450」)を用いて、23℃、相対湿度55%の雰囲気下において、上記で作製した透明フィルム基材(基材1〜6)のトップコート層側の表面の表面抵抗Rsを測定した。印加電圧は100Vとし、表面抵抗Rsの読み取りは測定開始から60秒後に行った。その結果から、次式に従って表面抵抗率を算出した。
ρs=Rs×E/V×π(D+d)/(D−d)
ここで、上記式中のρsは表面抵抗率(Ω/□)、Rsは表面抵抗(Ω)、Eは印加電圧(V)、Vは測定電圧(V)、Dは表面の環状電極の内径(cm)、dは表面電極の内円の外径(cm)をそれぞれ表す。
(5)トップコート層表面の耐スクラッチ性
上記で作製した透明フィルム基材(基材1〜6)から10cm2(幅10cm×長さ10cm)のサンプルを切り出した。外光の入る窓を有する室内(明室)にて、試験者が上記サンプルの背面(トップコート層側の表面)を爪で擦り、これによる傷のつき方によって耐スクラッチ性を評価した。具体的には、爪で擦った後のサンプルの背面を光学顕微鏡で観察し、トップコート層の脱落屑の存在が確認された場合を×(耐スクラッチ性不良)、このような脱落屑の存在が確認されなかった場合を○(耐スクラッチ性良好)と評価した。
(6)粘着力上昇防止性
(初期粘着力)
実施例、比較例で得られた粘着シート(サンプルサイズ:25mm幅×100mm長さ)を、貼り合わせ機(テスター産業(株)製、小型貼り合せ機)を用いて、0.25MPa、0.3m/分の条件で、偏光板(材質:トリアセチルセルロース(TAC)、表面の算術平均粗さRaがMD方向で約21nm、TD方向で約31nm、MD方向とTD方向の平均で約26nmである)に貼り合わせた。
上記の粘着シートと偏光板の貼り合わせサンプルを用い、23℃、50%RHの環境下、20分間放置後に、下記の条件に従って180°剥離試験を行い、粘着シートの偏光板に対する粘着力(N/25mm)を測定し、「初期粘着力」とした。
(40℃1週間貼付保存後粘着力)
実施例、比較例で得られた粘着シート(サンプルサイズ:25mm幅×100mm長さ)を、貼り合わせ機(テスター産業(株)製、小型貼り合せ機)を用いて、0.25MPa、0.3m/分の条件で、偏光板(材質:トリアセチルセルロース(TAC)、表面の算術平均粗さRaがMD方向で約21nm、TD方向で約31nm、MD方向とTD方向の平均で約26nmである)に貼り合わせた。
上記の粘着シートと偏光板の貼り合わせサンプルを用い、40℃の環境に1週間保存した後、23℃、50%RHの環境下に2時間放置し、その後、下記の条件に従って180°剥離試験を行い、粘着シートの偏光板に対する粘着力(N/25mm)を測定し、「40℃1週間貼付保存後粘着力」とした。
上記の180°剥離試験は、引張試験機を用いて、23℃、50%RHの環境下、引張速度0.3m/分で行った。
初期粘着力と40℃1週間貼付保存後粘着力の差[(40℃1週間貼付保存後粘着力)−(初期粘着力)]が、0.10N/25mm以下であれば、粘着力上昇防止性に優れていると判断できる。
(7)加湿保存下での粘着シートの白化(白化性)
実施例、比較例で得られた粘着シートを50℃、95%RHの環境に24時間放置(加湿保存)後、日本電色工業(株)製、「デジタルヘイズメーター(DIGITAL HAZEMETER) NDH−20D」にてヘイズ値を測定した(「加湿保存後のヘイズ値」とした)。測定は、50℃×95%RHの環境からサンプルを取り出した後3分以内に行った。また、比較のため、加湿保存前のヘイズ値も測定した(「加湿保存前のヘイズ値」とした)。
(8)粘着シートの外観(外観特性)
実施例、比較例で得られた粘着シートのアクリル系粘着剤層表面の状態を目視で観察し、縦10cm×横10cmの観察範囲内の欠点(凹み及び気泡)の個数を測定した。上記透明フィルム基材の外観の評価結果と合わせて、以下の基準で粘着シートの外観(外観特性)を総合的に評価した。
粘着シートの外観が不良(×) : 透明フィルム基材の外観が不良である場合、又は、透明フィルム基材の外観は良好であるが、上記欠点の個数が101個以上である場合
粘着シートの外観が良好(○) : 透明フィルム基材の外観が良好であり、上記欠点の個数が0〜100個である場合
表2、3で用いた略号は以下のとおりである。
なお、以下では、「化合物(B)の総重量」に対する「EOの総重量」の割合を、「EO含有率」と表記した。
[原料モノマー]
2EHA : 2−エチルヘキシルアクリレート
MMA : メチルメタクリレート
AA : アクリル酸
[乳化剤]
HS−10 : 第一工業製薬(株)製、商品名「アクアロンHS−10」(ノニオンアニオン系反応性乳化剤)
SE−10N : (株)ADEKA製、商品名「アデカリアソープSE−10N」(ノニオンアニオン系反応性乳化剤)
[架橋剤]
テトラッドC : 三菱ガス化学(株)製、商品名「TETRAD−C(テトラッド−C)」(1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、エポキシ当量:110、官能基数:4)
テトラッドX : 三菱ガス化学(株)製、商品名「TETRAD−X(テトラッド−X)」(1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン、エポキシ当量:100、官能基数:4)
[化合物(B)]
アデカプルロニック25R−1 : (株)ADEKA製、商品名「アデカプルロニック25R−1」(数平均分子量2800、EO含有率10重量%、有効成分100重量%)
アデカプルロニック17R−3 : (株)ADEKA製、商品名「アデカプルロニック17R−3」(数平均分子量2000、EO含有率30重量%、有効成分100重量%)
PPO−PEO−PPO : SIGMA−ALDRICH(シグマ−アルドリッチ)社製、ポリ(プロピレングリコール)−block−ポリ(エチレングリコール)−block−ポリ(プロピレングリコール)(数平均分子量2000、EO含有率50重量%、有効成分100重量%)
[化合物(B)以外の化合物]
POLYRan(EO−PO) : SIGMA−ALDRICH(シグマ−アルドリッチ)社製、ポリ[エチレングリコール−ran−プロピレングリコール](数平均分子量2500、EO含有率75重量%、有効成分100重量%)
PEO−PPO−PEO : SIGMA−ALDRICH(シグマ−アルドリッチ)社製、ポリ(エチレングリコール)−block−ポリ(プロピレングリコール)−block−ポリ(エチレングリコール)(数平均分子量1900、EO含有率50重量%、有効成分100重量%)
[レベリング剤]
EFKA−3570 : BASF製、中和されたフルオロカーボン変性ポリマー
[基材(透明フィルム基材)]
T100G : 帯電防止処理PETフィルム、商品名「ダイヤホイルT100G」(三菱化学(株)製)
表3の結果から明らかなように、本発明の規定を満たす粘着シート(実施例)は外観が良好であり、貼付後の経時での粘着力上昇も小さかった。また、優れた帯電防止性及び耐スクラッチ性を有していた。さらに、加湿下に保存した場合にも白化しなかった。
一方、化合物(B)を添加しない比較例(比較例1〜3)、並びに基材のトップコート層の平均厚み及び/又は厚みのバラツキが本発明の規定を満たさない比較例(比較例4、5)では、粘着シートの外観が不良であった。また、トップコート層の構成成分としてメラミン系架橋剤を含有しない比較例(比較例5)は、耐スクラッチ性にも劣っていた。化合物(B)の代わりに、化合物(B)以外の化合物を用いた比較例(比較例2)では、加湿保存によりヘイズ値の大きな上昇が見られ、加湿保存下で粘着シートの白化が確認された。さらに、基材の帯電防止層が、ポリチオフェン、アクリル樹脂、及びメラミン系架橋剤を含む構成のトップコート層ではない場合(比較例6)は、加湿保存によるヘイズ値の上昇が見られ、且つ耐スクラッチ性にも劣っていた。