図1は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10を模式的に示す図である。クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置やスパッタリング装置等の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望のプロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。クライオポンプ10は、クライオポンプ容器30と、放射シールド40と、冷凍機50と、を含んで構成される。
冷凍機50は、例えばギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)などの冷凍機である。冷凍機50は、第1シリンダ11、第2シリンダ12、第1冷却ステージ13、第2冷却ステージ14、バルブ駆動モータ16を備える。第1シリンダ11と第2シリンダ12は直列に接続される。第1シリンダ11の第2シリンダ12との結合部側には第1冷却ステージ13が設置され、第2シリンダ12の第1シリンダ11から遠い側の端には第2冷却ステージ14が設置される。図1に示す冷凍機50は、二段式の冷凍機であり、シリンダを直列に二段組み合わせてより低い温度を達成している。冷凍機50は冷媒管18を介して圧縮機52に接続される。
圧縮機52は、例えばヘリウム等の冷媒ガス、すなわち作動気体を圧縮して、冷媒管18を介して冷凍機50に供給する。冷凍機50は、作動気体を蓄冷器を通過させることにより冷却しつつ、まず第1シリンダ11の内部の膨張室で、次いで第2シリンダ12の内部の膨張室で膨張させてさらに冷却する。蓄冷器は膨張室内部に組み込まれている。これにより、第1シリンダ11に設置される第1冷却ステージ13は第1の冷却温度レベルに冷却され、第2シリンダ12に設置される第2冷却ステージ14は第1の冷却温度レベルよりも低温の第2の冷却温度レベルに冷却される。例えば、第1冷却ステージ13は65K〜100K程度に冷却され、第2冷却ステージ14は10K〜20K程度に冷却される。
膨張室で順次膨張することで吸熱し、各冷却ステージを冷却した作動気体は、再び蓄冷器を通過し、冷媒管18を経て圧縮機52に戻される。圧縮機52から冷凍機50へ、また冷凍機50から圧縮機52への作動気体の流れは、冷凍機50内のロータリバルブ(図示せず)により切り替えられる。バルブ駆動モータ16は、外部電源から電力の供給を受けて、ロータリバルブを回転させる。
冷凍機50を制御するための制御部20が設けられている。制御部20は、第1冷却ステージ13または第2冷却ステージ14の冷却温度に基づいて冷凍機50を制御する。そのために、第1冷却ステージ13または第2冷却ステージ14に温度センサ(図示せず)が設けられていてもよい。制御部20は、バルブ駆動モータ16の運転周波数を制御することにより冷却温度を制御してもよい。そのために制御部20は、バルブ駆動モータ16を制御するためのインバータを備えてもよい。制御部20は圧縮機52、及び後述する各バルブを制御するよう構成されていてもよい。制御部20はクライオポンプ10に一体に設けられていてもよいし、クライオポンプ10とは別体の制御装置として構成されていてもよい。
図1に示されるクライオポンプ10は、いわゆる横型のクライオポンプである。横型のクライオポンプとは一般に、冷凍機の第2冷却ステージ14が筒状の放射シールド40の軸方向に交差する方向(通常は直交方向)に沿って放射シールド40の内部に挿入されているクライオポンプである。なお、本発明はいわゆる縦型のクライオポンプにも同様に適用することができる。縦型のクライオポンプとは、放射シールドの軸方向に沿って冷凍機が挿入されているクライオポンプである。
クライオポンプ容器30は、一端に開口を有し他端が閉塞されている円筒状の形状に形成された部位(以下、「胴部」と呼ぶ)32を有する。この開口は、クライオポンプが接続されるスパッタ装置等の真空チャンバから排気されるべき気体を受け入れるためのポンプ口34として、設けられている。ポンプ口34はクライオポンプ容器30の胴部32の上端部内面により画定される。また胴部32にはポンプ口34としての開口とは別に、冷凍機50を挿通するための開口37が形成されている。胴部32の開口37には円筒状の冷凍機収容部38の一端が取り付けられ、他端は冷凍機50のハウジングに取り付けられている。冷凍機収容部38は冷凍機50の第1シリンダ11を収容する。
またクライオポンプ容器30の胴部32の上端には径方向外側に向けて取付フランジ36が延びている。クライオポンプ10は、取付フランジ36を用いて取付先の真空チャンバに取り付けられる。
クライオポンプ容器30は、クライオポンプ10の内部と外部とを隔てるために設けられている。上述のようにクライオポンプ容器30は胴部32と冷凍機収容部38とを含んで構成されており、胴部32及び冷凍機収容部38の内部は共通の圧力に気密に保持される。これによりクライオポンプ容器30は、クライオポンプ10の排気運転中は真空容器として機能する。クライオポンプ容器30の外面は、クライオポンプ10の動作中、すなわち冷凍機が作動している間も、クライオポンプ10の外部の環境にさらされるため、放射シールド40よりも高い温度に維持される。典型的にはクライオポンプ容器30の温度は環境温度に維持される。ここで環境温度とは、クライオポンプ10が設置されている場所の温度、またはその温度に近い温度をいい、例えば室温程度である。
また、クライオポンプ容器30の冷凍機収容部38の内部に圧力センサ54が設けられている。圧力センサ54は、冷凍機収容部38の内部圧力すなわちクライオポンプ容器30の圧力を周期的に測定し、測定圧力を示す信号を制御部20に出力する。圧力センサ54はその出力を通信可能に制御部20に接続されている。なお圧力センサ54はクライオポンプ容器30の胴部32に設けられてもよい。
圧力センサ54は、クライオポンプ10により実現される高い真空レベルと大気圧レベルの両方を含む広い計測範囲を有する。少なくとも再生処理中に生じ得る圧力範囲を計測範囲に含むことが望ましい。圧力センサ54として、本実施形態では例えばクリスタルゲージを使用することが好ましい。クリスタルゲージとは、水晶振動子の振動抵抗が圧力によって変化する現象を利用して圧力を測定するセンサである。あるいは圧力センサ54はピラニー真空計であってもよい。なお、真空レベルの測定用の圧力センサと、大気圧レベルの測定用の圧力センサとが、個別にクライオポンプ10に設けられていてもよい。
クライオポンプ容器30には、ベントバルブ70、ラフバルブ72、及びパージバルブ74が接続されている。ベントバルブ70、ラフバルブ72、及びパージバルブ74はそれぞれ制御部20により開閉が制御される。
ベントバルブ70は、排出ライン80の例えば末端に設けられている。あるいはベントバルブ70は排出ライン80の中途に設けられ末端には放出された流体を回収するためのタンク等が設けられていてもよい。ベントバルブ70が開弁されることにより排出ライン80の流れが許容され、ベントバルブ70が閉弁されることにより排出ライン80の流れが遮断される。排出される流体は基本的にはガスであるが、液体または気液の混合物であってもよい。例えばクライオポンプ10に凝縮されたガスの液化物が排出流体に混在していてもよい。ベントバルブ70が開弁されることにより、クライオポンプ容器30の内部に生じた陽圧を外部に解放することができる。
排出ライン80は、クライオポンプ10の内部を外部に連通するための、ポンプ口34とは異なる流体経路であると言える。よって、排出ライン80に適切な真空ポンプを設けることにより、または排出ライン80を適切な真空ポンプへと接続することにより、排出ライン80を通じてクライオポンプ10の内部を減圧することが可能である。
排出ライン80は、クライオポンプ10の内部空間から外部環境へと流体を排出するための排出ダクト82を含む。排出ダクト82は例えばクライオポンプ容器30の冷凍機収容部38に接続されている。排出ダクト82は流れ方向に直交する断面が円形のダクトであるが、その他のいかなる断面形状を有してもよい。排出ライン80は、排出ダクト82を排出される流体から異物を除去するためのフィルタを含んでもよい。このフィルタは、排出ライン80においてベントバルブ70の上流に設けられていてもよい。
ベントバルブ70は、いわゆる安全弁としても機能するよう構成されている。ベントバルブ70は、排出ダクト82に設けられている例えば常閉型の制御弁である。ベントバルブ70は更に、所定の差圧が作用したときに機械的に開弁されるよう閉弁力が予め設定されている。この設定差圧は例えば、クライオポンプ容器30に作用し得る内圧やポンプ容器30の構造的な耐久性等を考慮して適宜設定することができる。クライオポンプ10の外部環境は通常大気圧であるから、設定差圧は大気圧を基準として所定の値に設定される。
ベントバルブ70は通常、例えば再生中などのようにクライオポンプ10から流体を放出するときに制御部20によって開弁される。放出すべきでないときは制御部20によってベントバルブ70は閉弁される。一方、ベントバルブ70は、設定差圧が作用したときに機械的に開弁される。このため、クライオポンプ内部が何らかの理由で高圧となったときに制御を要することなくベントバルブ70は機械的に開弁される。それにより内部の高圧を逃がすことができる。こうしてベントバルブ70は安全弁として機能する。このようにベントバルブ70を安全弁と兼用することにより、2つの弁をそれぞれ設ける場合に比べてコストダウンや省スペース化という利点を得られる。
ラフバルブ72は、粗引きポンプ73に接続される。ラフバルブ72もまた、クライオポンプ10の内部を外部に連通するポンプ口34とは異なる流体経路に設けられている。ラフバルブ72の開閉により、粗引きポンプ73とクライオポンプ10とが連通または遮断される。粗引きポンプ73は典型的にはクライオポンプ10とは別の真空装置として設けられ、例えばクライオポンプ10が接続される真空チャンバを含む真空システムの一部を構成する。ラフバルブ72を開きかつ粗引きポンプ73を動作させることにより、クライオポンプ10の内部を減圧することができる。
パージバルブ74は図示しないパージガス供給装置に接続される。パージガスは例えば窒素ガスである。制御部20がパージバルブ74を制御することにより、パージガスのクライオポンプ10への供給が制御される。
放射シールド40は、クライオポンプ容器30の内部に配設されている。放射シールド40は、一端に開口を有し他端が閉塞されている円筒状の形状、すなわちカップ状の形状に形成されている。放射シールド40は、図1に示されるような一体の筒状に構成されていてもよく、また、複数のパーツにより全体として筒状の形状をなすように構成されていてもよい。これら複数のパーツは互いに間隙を有して配設されていてもよい。
クライオポンプ容器30の胴部32及び放射シールド40はともに略円筒状に形成されており、同軸に配設されている。クライオポンプ容器30の胴部32の内径が放射シールド40の外径を若干上回っており、放射シールド40はクライオポンプ容器30の胴部32の内面との間に若干の間隔をもってクライオポンプ容器30とは非接触の状態で配置される。すなわち、放射シールド40の外面は、クライオポンプ容器30の内面と対向している。なお、クライオポンプ容器30の胴部32および放射シールド40の形状は、円筒形状には限られず、角筒形状や楕円筒形状などいかなる断面の筒形状でもよい。典型的には、放射シールド40の形状はクライオポンプ容器30の胴部32の内面形状に相似する形状とされる。
放射シールド40は、第2冷却ステージ14およびこれに熱的に接続される低温クライオパネル60を主にクライオポンプ容器30からの輻射熱から保護する放射シールドとして設けられている。第2冷却ステージ14は、放射シールド40の内部において放射シールド40のほぼ中心軸上に配置される。放射シールド40は、第1冷却ステージ13に熱的に接続された状態で固定され、第1冷却ステージ13と同程度の温度に冷却される。
低温クライオパネル60は、例えば複数のパネル64を含む。パネル64は例えば、それぞれが円すい台の側面の形状、いわば傘状の形状を有する。各パネル64は、第2冷却ステージ14に取り付けられているパネル取付部材66に取り付けられている。各パネル64には通常、活性炭等の吸着剤(図示せず)が設けられている。吸着剤は例えばパネル64の裏面に接着されている。パネル取付部材66に複数のパネル64が互いに間隔をあけて取り付けられている。複数のパネル64は、ポンプ口34から見てポンプ内部に向かう方向に配列されている。
放射シールド40の吸気口には、真空チャンバ等からの輻射熱から第2冷却ステージ14およびこれに熱的に接続される低温クライオパネル60を保護するために、バッフル62が設けられている。バッフル62は、例えば、ルーバ構造やシェブロン構造に形成される。バッフル62は、放射シールド40の中心軸を中心とする同心円状に形成されていてもよいし、あるいは格子状等他の形状に形成されていてもよい。バッフル62は放射シールド40の開口側の端部に取り付けられており、放射シールド40と同程度の温度に冷却される。
放射シールド40の側面には冷凍機取付孔42が形成されている。冷凍機取付孔42は、放射シールド40の中心軸方向に関して放射シールド40側面の中央部に形成されている。放射シールド40の冷凍機取付孔42はクライオポンプ容器30の開口37と同軸に設けられている。冷凍機50の第2シリンダ12及び第2冷却ステージ14は冷凍機取付孔42から放射シールド40の中心軸方向に垂直な方向に沿って挿入されている。放射シールド40は、冷凍機取付孔42において第1冷却ステージ13に熱的に接続された状態で固定される。
なお放射シールド40が第1冷却ステージ13に直接取り付けられる代わりに、接続用のスリーブによって放射シールド40が第1冷却ステージ13に取り付けられてもよい。このスリーブは例えば、第2シリンダ12の第1冷却ステージ13側の端部を包囲し、放射シールド40を第1冷却ステージ13に熱的に接続するための伝熱部材である。
上記の構成のクライオポンプ10による動作を以下に説明する。クライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前にラフバルブ72を通じて粗引きポンプ73でクライオポンプ容器30の内部を1Pa程度にまで粗引きする。圧力は圧力センサ54により測定される。その後クライオポンプ10を作動させる。制御部20による制御のもとで、冷凍機50の駆動により第1冷却ステージ13及び第2冷却ステージ14が冷却され、これらに熱的に接続されている放射シールド40、バッフル62、クライオパネル60も冷却される。
冷却されたバッフル62は、真空チャンバからクライオポンプ10内部へ向かって飛来する気体分子を冷却し、その冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えば水分など)を表面に凝縮させて排気する。バッフル62の冷却温度では蒸気圧が充分に低くならない気体はバッフル62を通過して放射シールド40内部へと進入する。進入した気体分子のうちクライオパネル60の冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体は、クライオパネル60の表面に凝縮されて排気される。その冷却温度でも蒸気圧が充分に低くならない気体(例えば水素など)は、クライオパネル60の表面に接着され冷却されている吸着剤により吸着されて排気される。このようにしてクライオポンプ10は取付先の真空チャンバの真空度を所望のレベルに到達させることができる。
図2は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10のためのポンプ蓋100を模式的に示す図である。図2には、ポンプ蓋100がクライオポンプ10に取り付けられている様子を示す。ポンプ蓋100は、取付フランジ36に取り付けられており、クライオポンプ10の内部を外部に対し気密に閉塞するための蓋構造として設けられている。よって、ポンプ蓋100でポンプ口34を塞ぐことにより、外部の常圧に対してクライオポンプ10の内部を負圧または真空に保つことができる。
ポンプ蓋100は、ポンプ口34を塞ぐための蓋本体102を備える。蓋本体102は例えば、ポンプ口34の形状に対応する形状を有する板状部材である。一実施例においては、ポンプ口34は円形であり、取付フランジ36はポンプ口34の外周に沿って環状に設けられている。この場合、蓋本体102は、ポンプ口34よりも大径の円板部材であり、例えば取付フランジ36の外径に等しい径を有する円板部材である。蓋本体102は例えば金属製である。蓋本体102は適切な取付方法により、例えばボルト及びナットを使用して、取付フランジ36に取り付けられる。例えば蓋本体102は取付フランジ36に等間隔に複数本のボルト及びナットにより固定される。なお以下では、クライオポンプ10の内部を向くほうの蓋本体102の面を便宜上「下面」と呼び、外部を向く蓋本体102の面を「上面」と呼ぶ。後述の閉塞部材106についても同様である。
蓋本体102は、クライオポンプ10の内部を外部に連通する小孔104を有する。小孔104は蓋本体102の上面と下面とを接続する開口である。小孔104は例えば円形開口であるが、任意の開口形状であってもよい。小孔104の大きさはポンプ口34よりも小さく、具体的には閉塞部材106に作用する圧力を考慮して設計される。小孔104の直径または幅は例えば1mm乃至10mmであることが好ましい。小孔104は蓋本体102の中心部に形成されているが、これに限られず、クライオポンプ10の内部を外部に連通するために蓋本体102の任意の位置に形成されてもよい。なお図2はクライオポンプ10の側面を示すため、小孔104についてはその形成箇所に対応する蓋本体102の部位に破線で図示している。
蓋本体102の下面には、気密性を保証するためのシール部材例えばOリングが取付フランジ36に沿う環状の部位に設けられていてもよい。あるいは、蓋本体102の下面と取付フランジ36との間に環状の弾性部材(例えばゴム部材)が介装されてもよい。この場合、蓋本体102、弾性部材、及び取付フランジ36を貫通するボルトを使用して蓋本体102が取付フランジ36に取り付けられてもよい。調整された高さを有する弾性部材を介装することにより、蓋本体102の下面とバッフル62(図1参照)との間隙を適切に保つことができる。特に、バッフル62の上端が取付フランジ36よりも上方に突出している場合には、バッフル62の上端を収容するよう蓋本体102の下面に凹部を加工してもよいが、上記の弾性部材を介装することがより簡単であり好ましい。
ポンプ蓋100は、小孔104を塞ぐための閉塞部材106をさらに備える。閉塞部材106は例えば、小孔104の形状に対応する形状を有する板状部材である。一実施例においては、小孔104は円形であり、閉塞部材106は、小孔104よりも大径の円板小蓋である。閉塞部材106は、蓋本体102よりも小さい蓋部材である。閉塞部材106は例えば金属製である。
閉塞部材106は、蓋本体102の外側に取り付けられている。つまり、閉塞部材106の下面を蓋本体102の上面に当接させて、閉塞部材106は蓋本体102に取り付けられている。閉塞部材106は適切な取付方法により、例えばボルトまたはネジ等を使用して、小孔104を画定する蓋本体102の環状部位に取り付けられる。その環状部位に沿って閉塞部材106の下面には、蓋本体102との気密性を保証するためのシール部材例えばOリングが設けられていてもよい。このようにして、閉塞部材106は、クライオポンプ10の外側から取り外し可能に構成されている。
他の一実施例においては、閉塞部材106は、接着層を表面に有する基材、例えばシール、ステッカ、テープ等であってもよい。ポンプ蓋100は、こうしたシールを小孔104に貼り付けることにより、小孔104が塞がれる構造であってもよい。この場合、シールの上面と下面との(すなわちクライオポンプ内外の)差圧に対する耐久性を考慮して、小孔104は上述の小蓋閉塞構造の場合に比べて小さくすることが望ましい。
次に、図3及び図4を参照して、クライオポンプ10のためのポンプ蓋100の使用方法を説明する。図3は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10の保管方法を説明するためのフローチャートである。図4は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10の立ち上げ方法を説明するためのフローチャートである。
図3に示される方法は、クライオポンプ10を保管する際に作業者により行われ、例えば、クライオポンプ10の製造工程の最終段階において客先への出荷及び輸送のために実行されてもよい。クライオポンプ10の出荷に際してポンプ内部を負圧または真空保持し、客先への輸送時及び保管期間を通じてその負圧または真空保持を保持するクライオポンプの保管方法が提供される。
まず作業者は、クライオポンプにより排気する気体を受け入れるためのクライオポンプのポンプ口34を蓋で塞ぐ(S10)。一実施例においてはこの蓋は、上述のポンプ蓋100である。ポンプ蓋100の蓋本体102が適切な取付方法により、例えばボルト及びナットを使用して、クライオポンプ10の取付フランジ36に装着される。ポンプ蓋100の小孔104は、閉塞部材106により予め閉鎖されている。よって、ポンプ蓋100がクライオポンプ10に装着されることにより、クライオポンプ10の内部は気密状態となる。
次に作業者は、クライオポンプ10の内部を外部に連通する流体経路を通じてクライオポンプ10の内部を減圧する(S12)。一実施例においては、ポンプ口34はポンプ蓋100で既に塞がれているので、この流体経路はポンプ口34を経由する経路とは異なる流体経路である。一実施例においては、クライオポンプ10の内外をつなぐバルブのいずれかを通じてクライオポンプ10の内部を減圧する。
好ましい一実施例においては、粗引きポンプ73を使用してラフバルブ72を通じてクライオポンプ10の内部が真空引きされる。クライオポンプ10の内部は適切な設定圧力以下、例えば0.1気圧以下に減圧される。この圧力は例えば、クライオポンプ10に内蔵されている吸着剤をその圧力下で長期に保存したときの気体(特に水分)の吸着量が許容範囲となるように、適宜、実験によりまたは経験的見地から定めることができる。一実施例においては、この真空引きのための粗引きポンプ73の作動時間はクライオポンプ10の内部を設定圧力以下にするのに十分な長さに実験等により適宜定められる。
また、一実施例においては、真空引き後のクライオポンプ10の内部圧力を検証してもよい(S14)。例えば圧力センサ54(例えばクリスタルゲージ)を動作させることにより、クライオポンプ10の内部の負圧が上記の設定圧力以下にあるか否かを確認してもよい。内部負圧が設定圧力以下にあることが確認された場合には、作業者は処理を終了する。内部負圧が設定圧力まで減圧されていない場合には、再度真空引きを実行してもよい。なお、通常は上記の作動時間の真空引きにより設定圧力以下に到達するので、この検証工程は省略されてもよい。
一実施例においては、圧力センサ54を動作させる内部負圧の検証工程は、クライオポンプ10の保管中に随時実行するようにしてもよい。圧力センサ54により測定されたクライオポンプ10の圧力が設定圧力以下にある場合には、クライオポンプ10に内蔵される吸着剤がその時点まで継続して当初の保管状態に保たれていることが保証される。こうして、圧力センサ54の出力に基づいてクライオポンプ10の保管状態を検証する方法が提供される。クライオポンプ10が良好に保管されていたか否かを簡単に確認することができる。
本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10の保管方法によれば、内部を負圧または真空に保持することにより、余分な成分(例えば水分)のポンプ内部への侵入を防ぐことができる。よって、クライオパネル上の吸着剤例えば活性炭が保管中にこうした余分な成分を過度に吸着するのを防ぐことができる。また、乾燥空気または窒素を密封する代替案よりも低コストで良好に保管可能であると期待できる。窒素などが過度に吸着されることによる悪影響を懸念する必要もない。さらに、ポンプ口34に蓋をして保管することにより、異物の侵入も防止することができる。
図4に示される方法は、クライオポンプ10を真空チャンバ等のクライオポンプ取付先に取り付けて運転を開始する際に作業者により実行される。クライオポンプ10には、本発明の一実施形態に係るポンプ蓋100が装着されている。クライオポンプ10を新規に取り付けて、または既存のクライオポンプ10と交換して、クライオポンプ10の通常の真空排気運転を開始するためのクライオポンプ立ち上げ方法が提供される。この立ち上げ方法は、上記のクライオポンプ保管方法を適用したクライオポンプ10を予備機として準備することを含んでもよい。その予備機と使用中のクライオポンプ10とを交換し、予備機を稼動させる。取り外されたクライオポンプ10にはメンテナンスが施される。
一実施例においては、まず作業者は、保管されていたクライオポンプ10の内部圧力を検証してもよい(S20)。上記の検証工程と同様に、例えば圧力センサ54(例えばクリスタルゲージ)を動作させることにより、クライオポンプ10の内部の負圧が上記の設定圧力以下にあるか否かを確認してもよい。内部負圧が設定圧力以下にあることが確認された場合には、作業者は処理を続行する。内部負圧が設定圧力を超える場合には、処理を一旦終了し、別の予備機を準備する。
なお、この検証工程は省略されてもよく、作業者は次工程の閉塞部材106を取り外したときの外気の流入具合(例えば、流れによる生じる音など)から予備機の保管状態を推測してもよい。例えば、外気の流入音が感知されない場合には、何らかの原因で保管中にクライオポンプ内部が大気圧に戻っているものと考えられる。よって、こうした場合には処理を一旦終了し、別の予備機を準備する。
作業者は、ポンプ蓋100の閉塞部材106を蓋本体102から取り外す(S22)。閉塞部材106は、蓋本体102に比べて相当に寸法の小さい蓋部材またはシール等であるため、作用する差圧は十分に小さく、容易に取り外すことができる。こうして、クライオポンプ10の内部の負圧解除または真空破壊を簡単に行うことができる。
次いで作業者は、蓋本体102をクライオポンプ10の取付フランジ36から取り外す(S24)。クライオポンプ10のポンプ口34が開放される。クライオポンプ10は取付フランジ36を介して取付先である真空チャンバ等に取り付けられる(S26)。粗引きポンプ73を使用して、クライオポンプ10は運転開始に必要とされる真空度まで真空引きされる。この予備的な真空引きの後に、クライオポンプ10の真空排気運転のためのクライオパネル冷却、いわゆるクールダウン工程が開始される。こうして、クライオポンプ10の装置据え付けが行われ、本発明の一実施形態に係る立ち上げ方法は終了する。引き続いて、クライオポンプ10の通常の排気運転へと移行する。
本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10の保管方法によれば、クライオポンプの装置据え付けの所要時間を短縮することができる。主としてクールダウン開始に必要な真空度に到達するまでの補助ポンプ(例えば粗びきポンプ73)による粗引き時間を大幅に短縮することができる。クライオパネル上の吸着剤は保管当初の新鮮な状態にあり真空引きの際に実質的にガスを放出しないと考えられ、保管状態が良好でなかった場合に比べて、例えば1〜2時間の粗引き時間の短縮が予測される。
クライオポンプ10の内部が真空である場合にポンプ口34から蓋本体102を取り外すのは、大気圧が外側から蓋を押さえる力として作用しているので、必ずしも容易でない。閉塞部材106が設けられていない実施例を想定すると、蓋をポンプ口34から直接取り外す代わりに、いずれかのバルブを通じて真空破壊をすることになる。これらのバルブはクライオポンプ10の真空排気運転において内部の高真空を確実に保持するための構成を有する真空バルブであるから、こうした場合に単純にバルブを開放するのはやはり必ずしも容易でない。よって、真空破壊はいずれかのバルブを取り外すことにより行うこととなる。取り外し作業が作業者の負担となるとともに、再度のバルブ取付作業において誤ってバルブに異物を噛み込んでしまうことにより真空保持機能の低下が生じるおそれもある。
本発明の一実施形態によれば、蓋本体102を直接取り外すよりも小さい力で容易に真空破壊をすることのできる閉塞部材106を蓋構造に組み込むことで、こうした問題が取り除かれる。クライオポンプ10の真空保持による保管を実際上容易に適用することができる。
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
閉塞部材106が小蓋部材である場合には再利用可能である点で好ましいが、本発明はそれに限られない。例えば、閉塞部材106は、蓋本体102に固定され、または一体に形成されている閉塞部分であってもよい。閉塞部分は例えばその周囲の部位よりも相当に薄く形成されている。作業者はこの閉塞部分に適切な工具で穴を開けることにより真空破壊をしてもよい。
閉塞部材106が接着層を表面に有する基材である場合には、蓋本体102の内側(すなわち下面)に貼り付けて小孔104を塞ぐようにしてもよい。この場合、作業者は蓋本体102の外側から適切な工具を小孔104に挿入し、閉塞部材106を破ることで真空破壊をしてもよい。閉塞部材106が内側に貼られているので、誤って(または意図的に)保管中に閉塞部材106が除去または損傷される可能性を減らすことができる。
上述の実施例においてはクライオポンプ10内部を外部に連通するポンプ口34とは異なる流体経路を通じて保管のための減圧が行われているが、クライオポンプ10内部を外部に連通する流体経路はポンプ口34を経由していてもよい。その場合、作業者は、ポンプ蓋100を通じてクライオポンプ10の内部を減圧してもよい。
一実施例においては、ポンプ蓋100の小孔104を通じてクライオポンプ10内部が減圧されてもよい。減圧後に、小孔104が閉塞部材106で閉鎖されてもよい。すなわち、上述の実施例では小孔104の閉鎖されたポンプ蓋100がクライオポンプ10に装着され減圧が行われるが、本変形例では、ポンプ蓋100のクライオポンプ10への取付及び内部減圧の後に、ポンプ蓋100の小孔104が閉鎖される。この場合、閉塞部材106は、接着層を表面に有する基材、例えばシール、ステッカ、テープ等であってもよい。速やかに小孔104を閉じることにより、減圧完了から小孔104の閉塞までの間のクライオポンプ10内部圧力の上昇は十分に小さく抑えることが可能である。