JP2012219329A - 害虫忌避性に優れる表面処理鋼板およびその製造方法 - Google Patents

害虫忌避性に優れる表面処理鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ゴキブリなどの害虫に対する忌避性および耐食性の両方に優れる表面処理鋼板を提供すること。
【解決手段】本発明の表面処理鋼板は、めっき鋼板と、前記めっき鋼板の表面に形成され、バルブメタル化合物およびリン酸塩を含む化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜の上に形成され、かつピレスロイド系昆虫忌避剤を0.1〜10質量%、疎水性のオルガノポリシロキサンを0.01〜1質量%含む、膜厚0.2〜5μmの有機樹脂皮膜とを有する。
【選択図】図2

Description

本発明は、生活害虫や衛生害虫、不快害虫などの害虫に対する忌避性および耐食性に優れる表面処理鋼板およびその製造方法に関する。
ガステーブル、ガスコンロ、IHクッキングヒーターなどの調理家電や、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの生活家電などの内部は、暖かく、かつ湿度も高いため、ゴキブリなどの害虫が好む環境となっている。実際、これらの家電製品の内部に害虫が侵入し、安全面および衛生面で様々な被害を発生させている。
このような問題に対して、家電製品に用いられる鋼板の表面に、昆虫忌避剤を含む有機樹脂皮膜(忌避皮膜)を形成することが提案されている。たとえば、特許文献1,2には、ピレスロイド系昆虫忌避剤を含む水系の有機樹脂処理液を鋼板の表面に塗布し、乾燥させて、有機樹脂皮膜(忌避皮膜)を形成した防虫鋼板が開示されている。ピレスロイド系昆虫忌避剤は水系溶媒に難溶性であることから、特許文献1,2に記載の防虫鋼板では、有機樹脂皮膜中にピレスロイド系昆虫忌避剤の粒子が分散していると考えられる。なお、特許文献1,2に記載の防虫鋼板では、溶接性を確保するために、有機樹脂皮膜の膜厚を0.5〜4μm(付着量で0.5〜4g/m)と薄くしている。
特開2006−231690号公報 特開2009−114169号公報
特許文献1,2に記載の防虫鋼板を使用することで、ゴキブリなどの害虫による被害を防ぐことができる。しかしながら、特許文献1,2に記載の防虫鋼板には、基材鋼板が腐食しやすいという問題がある。
前述の通り、家電製品の内部などの害虫が好んで集まる場所は、高温かつ高湿であるため、基材鋼板が腐食しやすい。特許文献1,2に記載の防虫鋼板は、基材鋼板の表面に、1層の薄い有機樹脂皮膜を形成することで製造される。したがって、有機樹脂皮膜にピンホールなどの欠陥が存在すると、水分や塩などの腐食性成分がこの欠陥部を通して容易に基材鋼板に到達し、基材鋼板を腐食させてしまう。特に、分散している昆虫忌避剤が有機樹脂皮膜を貫通している場合、昆虫忌避剤そのものが欠陥となってしまい、耐食性を低下させてしまう。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、害虫に対する忌避性だけでなく、耐食性にも優れる表面処理鋼板(防虫鋼板)およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、基材鋼板と有機樹脂皮膜(忌避皮膜)との間にバルブメタルおよびリン酸塩を含む化成処理皮膜を形成することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の表面処理鋼板に関する。
[1]めっき鋼板と;前記めっき鋼板の表面に形成された、バルブメタル化合物およびリン酸塩を含む化成処理皮膜と;前記化成処理皮膜の上に形成され、かつピレスロイド系昆虫忌避剤を0.1〜10質量%、疎水性のオルガノポリシロキサンを0.01〜1質量%含む、膜厚0.2〜5μmの有機樹脂皮膜とを有する、表面処理鋼板。
[2]前記バルブメタルは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wまたはこれらの組み合わせである、[1]に記載の表面処理鋼板。
[3]前記化成処理皮膜は、可溶性または難溶性の金属リン酸塩もしくは複合リン酸塩を含む、[1]または[2]に記載の表面処理鋼板。
[4]前記化成処理皮膜は、有機酸、有機樹脂またはこれらの組み合わせをさらに含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
[5]前記有機樹脂皮膜は、潤滑剤をさらに含む、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
[6]前記ピレスロイド系昆虫忌避剤は、(S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−[2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル]シクロプロパンカルボキシラートである、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
[7]前記疎水性のオルガノポリシロキサンは、融点が35〜70℃の範囲内のポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサンの1種または2種以上の組み合わせである、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
また、本発明は、以下の表面処理鋼板の製造方法に関する。
[8]めっき鋼板を準備するステップと、前記めっき鋼板の表面にバルブメタル化合物およびリン酸塩を含む化成処理液を塗布し、乾燥させて、化成処理皮膜を形成するステップと、前記化成処理皮膜の上に、有機樹脂、数平均粒径が3μm以下のピレスロイド系昆虫忌避剤、および疎水性のオルガノポリシロキサンを含む水系の有機樹脂処理液を塗布し、乾燥させて、膜厚0.2〜5μmの有機樹脂皮膜を形成するステップとを有し;前記水系の有機樹脂処理液は、固形分100質量部に対して、前記ピレスロイド系昆虫忌避剤を0.1〜10質量部、前記疎水性のオルガノポリシロキサンを0.01〜1質量部含む、表面処理鋼板の製造方法。
[9]前記バルブメタルは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wまたはこれらの組み合わせである、[8]に記載の表面処理鋼板の製造方法。
[10]前記化成処理液は、可溶性または難溶性の金属リン酸塩もしくは複合リン酸塩を含む、[8]または[9]に記載の表面処理鋼板の製造方法。
[11]前記化成処理液は、有機酸、有機樹脂またはこれらの組み合わせをさらに含む、[8]〜[10]のいずれか一項に記載の表面処理鋼板の製造方法。
[12]前記水系の有機樹脂処理液は、潤滑剤をさらに含む、[8]〜[11]のいずれか一項に記載の表面処理鋼板の製造方法。
[13]前記ピレスロイド系昆虫忌避剤は、(S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−[2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル]シクロプロパンカルボキシラートである、[8]〜[12]のいずれか一項に記載の表面処理鋼板の製造方法。
[14]前記疎水性のオルガノポリシロキサンは、融点が35〜70℃の範囲内のポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサンの1種または2種以上の組み合わせである、[8]〜[13]のいずれか一項に記載の表面処理鋼板の製造方法。
本発明によれば、害虫に対する忌避性および耐食性の両方に優れる表面処理鋼板を提供することができる。本発明の表面処理鋼板は、害虫に対する忌避性および耐食性の両方が求められる用途に好適である。たとえば、本発明の表面処理鋼板は、ガステーブル、ガスコンロ、IHクッキングヒーターなどの調理家電や、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの生活家電などの用途に好適である。
本発明の表面処理鋼板の表面のSEM像 本発明の一実施の形態に係る表面処理鋼板の構成を示す模式図 ゴキブリ忌避性の評価に用いたシェルターの構成を示す模式図 ゴキブリ忌避性の評価におけるシェルターの配置を示す模式図
1.表面処理鋼板
本発明の表面処理鋼板は、害虫忌避性に優れる表面処理鋼板であって、1)めっき鋼板と、2)めっき鋼板の表面に形成された化成処理皮膜と、3)化成処理皮膜の上に形成された、昆虫忌避剤を含む有機樹脂皮膜(忌避皮膜)とを有する。すなわち、本発明の表面処理鋼板は、めっき鋼板の表面に化成処理皮膜および有機樹脂皮膜(忌避皮膜)を順次形成することで製造される。
以下、本発明の表面処理鋼板の各構成要素について説明する。
1)めっき鋼板
基材鋼板(原板)としては、耐食性および意匠性に優れるめっき鋼板が使用される。めっき鋼板の種類は、特に限定されない。めっき鋼板の例には、亜鉛めっき鋼板(電気Znめっき、溶融Znめっき)、合金化亜鉛めっき鋼板(溶融Znめっき後に合金化処理した合金化溶融Znめっき)、亜鉛合金めっき鋼板(溶融Zn−Mgめっき、溶融Zn−Al−Mgめっき、溶融Zn−Alめっき)、溶融Alめっき鋼板、溶融Al−Siめっき鋼板などが含まれる。
めっき鋼板の下地鋼は、特に限定されず、低炭素鋼や中炭素鋼、高炭素鋼、合金鋼などが使用される。加工性が必要とされる場合は、低炭素Ti添加鋼、低炭素Nb添加鋼などの深絞り用鋼が下地鋼として好ましい。
2)化成処理皮膜
化成処理皮膜は、めっき鋼板の表面に形成されており、バルブメタル化合物およびリン酸塩を含む。化成処理皮膜は、めっき鋼板の耐食性を向上させるとともに、めっき鋼板に対する有機樹脂皮膜の密着性を向上させる。
化成処理皮膜は、耐食性および皮膜密着性を向上させるバルブメタル化合物を含む。バルブメタルの例には、TiやZr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wなどが含まれる。これらは1種で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
バルブメタル化合物の種類は、特に限定されない。耐食性および自己修復性を付与する観点からは、化成処理皮膜は、バルブメタル化合物としてバルブメタルの酸化物または水酸化物とバルブメタルのフッ化物とを含むことが好ましい。
バルブメタルの酸化物および水酸化物は高い絶縁抵抗を示すため、バルブメタルの酸化物または水酸化物を含む化成処理皮膜は、電子の移動に対する抵抗体として作用する。したがって、バルブメタルの酸化物または水酸化物を含む化成処理皮膜により、雰囲気中の水分に含まれている溶存酸素の還元反応が抑制され、対となるめっき鋼板の酸化反応も抑制される。その結果、めっき鋼板からの金属成分の溶出(腐食)が抑制される。
バルブメタルのフッ化物は、化成処理皮膜から欠陥部に溶出し、難溶性の酸化物または水酸化物となってめっき鋼板の表面に析出する。したがって、成形加工などの際に化成処理皮膜に欠陥が生じてしまっても、バルブメタルのフッ化物を含む化成処理皮膜は、化成処理皮膜の欠陥を修復し、耐食性を維持することができる。
化成処理皮膜が、バルブメタルの酸化物または水酸化物とバルブメタルのフッ化物とを含む場合、バルブメタルの酸化物または水酸化物とバルブメタルのフッ化物との比率は、O原子に対するF原子の比率(F/O)として1/100以上であることが好ましい。原子比率F/Oが1/100未満の場合、自己修復性を十分に付与することができない。化成処理皮膜中のO濃度およびF濃度は、蛍光X線やESCAなどを用いた元素分析により測定することができる。
バルブメタル化合物の付着量は、耐食性を確保する観点から、バルブメタル換算で1mg/m以上であることが好ましい。バルブメタル化合物の付着量がバルブメタル換算で1mg/m未満の場合、耐食性を十分に向上させることができないおそれがある。
化成処理皮膜は、耐食性および皮膜密着性を向上させるリン酸塩も含む。リン酸塩の種類は、特に限定されない。耐食性および自己修復性を付与する観点からは、化成処理皮膜は、リン酸塩として可溶性または難溶性の金属リン酸塩もしくは複合リン酸塩を含むことが好ましい。
可溶性の金属リン酸塩および複合リン酸塩は、化成処理皮膜から欠陥部に溶出し、めっき鋼板のめっき成分(ZnやAlなど)と反応して不溶性リン酸塩となって、めっき鋼板の表面に析出する。このように、可溶性の金属リン酸塩および複合リン酸塩は、バルブメタルのフッ化物の自己修復作用を補完する。また、可溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩が解離する際に、雰囲気が若干酸性化するため、バルブメタルのフッ化物の加水分解、およびバルブメタルの酸化物または水酸化物の生成が促進される。可溶性の金属リン酸塩を構成する金属は、例えばアルカリ金属やアルカリ土類金属、Mnなどである。
難溶性の金属リン酸塩および複合リン酸塩は、化成処理皮膜中に分散して欠陥を生じにくくするとともに化成処理皮膜の強度を向上させる。難溶性の金属リン酸塩を構成する金属は、例えばAl、Ti、Zr、Hf、Znなどである。
リン酸塩の付着量は、耐食性を確保する観点から、P換算で5〜100mg/mの範囲内であることが好ましい。リン酸塩の付着量がP換算で5mg/m未満の場合、耐食性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、リン酸塩の付着量がP換算で100mg/m超の場合、耐食性作用が飽和してしまうだけでなく、化成処理皮膜中に含まれる可溶成分が多くなるため、耐水性や皮膜密着性が低下するおそれがある。
化成処理皮膜は、有機酸または有機樹脂をさらに含んでいてもよい。有機酸および有機樹脂は、化学構造中のヒドロキシ基がめっき鋼板表面または有機樹脂皮膜の官能基(例えばヒドロキシ基)と結合することで、めっき鋼板に対する有機樹脂皮膜の密着性を向上させる。有機樹脂皮膜に配合されるピレスロイド系昆虫忌避剤(後述)は、それ自身の密着性が低いため、配合されることにより有機樹脂皮膜の密着性を低下させてしまう。したがって、ピレスロイド系昆虫忌避剤による皮膜密着性の低下を補う観点から、化成処理皮膜中に有機酸または有機樹脂を配合することが好ましい。化成処理皮膜は、有機酸および有機樹脂のいずれか一方のみを含んでいてもよいし、両方を含んでいてもよい。
有機酸の種類は、化学構造中にヒドロキシ基を有するものであれば特に限定されない。有機酸の例には、タンニン酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸、乳酸などが含まれる。これらのなかでも、酒石酸などのオキシカルボン酸およびタンニン酸などの多価フェノール類は、バルブメタルのフッ化物による自己修復作用も補完するため、特に好ましい。
有機樹脂の種類も、化学構造中にヒドロキシ基を有するものであれば特に限定されない。有機樹脂の例には、ウレタン樹脂やアクリル樹脂、エポキシ樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂などが含まれる。
有機酸および有機樹脂の添加量は、特に限定されないが、皮膜密着性を十分に向上させる観点からは、金属イオンに対する有機酸および有機樹脂の総量のモル比(有機酸および有機樹脂/金属イオン)が0.02以上となる量であることが好ましい。
3)有機樹脂皮膜(忌避皮膜)
有機樹脂皮膜は、化成処理皮膜の表面に形成されており、ピレスロイド系昆虫忌避剤および疎水性のオルガノポリシロキサンを含む。有機樹脂皮膜は、めっき鋼板に害虫(昆虫)に対する忌避効果を付与するとともに、めっき鋼板の耐食性を向上させる。
有機樹脂皮膜を構成する有機樹脂の種類は、特に限定されない。有機樹脂の例には、ポリエステルやウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、オレフィン樹脂、フッ素樹脂などが含まれる。これらの有機樹脂は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
有機樹脂皮膜の膜厚は、0.2〜5μmの範囲内が好ましい。有機樹脂皮膜の膜厚が0.2μm未満の場合、害虫に対する忌避効果および耐食性を十分に付与することができない。一方、有機樹脂皮膜の膜厚が5μm超の場合、厚みの増加に伴う性能向上を期待できず、製造コストの観点から好ましくない。
有機樹脂皮膜は、害虫(昆虫)に対する忌避効果を付与するピレスロイド系昆虫忌避剤を含む。ピレスロイド系昆虫忌避剤は、粒子状の状態で有機樹脂皮膜中に分散しており、その一部が有機樹脂皮膜の表面において外部に露出している。ピレスロイド系昆虫忌避剤は、害虫の直接接触により忌避効果を発現するため、少なくとも一部は有機樹脂皮膜の表面において外部に露出していなければならない。
ピレスロイド系昆虫忌避剤の種類は、特に限定されない。ピレスロイド系昆虫忌避剤の例には、アクリナトリンやペルメトリン、アレスリン、D−テトラメトリン、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、ブラトリン、エトフェンプロックス、シフルトリンなどが含まれる。たとえば、後述する実施例に示されるように、アクリナトリン((S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−[2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル]シクロプロパンカルボキシラート)や、ペルメトリン(3−フェノキシベンジル=(1RS,3RS)−(1RS,3SR)−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート)は好適に使用されうる。
有機樹脂皮膜中のピレスロイド系昆虫忌避剤の量は、0.1〜10質量%の範囲内が好ましい。ピレスロイド系昆虫忌避剤の量が0.1質量%未満の場合、害虫に対する忌避効果を十分に付与することができない。一方、ピレスロイド系昆虫忌避剤の量が10質量%超の場合、耐食性が低下するおそれがある。また、ピレスロイド系昆虫忌避剤の量を10質量%超としても、害虫に対する忌避効果が飽和するため、製造コストの観点からも好ましくない。
有機樹脂皮膜は、疎水性のオルガノポリシロキサンも含む。疎水性のオルガノポリシロキサンは、皮膜形成時(乾燥工程)において表面に移動する。このとき、ピレスロイド系昆虫忌避剤も、疎水性のオルガノポリシロキサンとともに表面に移動し、表層に濃化する。すなわち、疎水性のオルガノポリシロキサンは、ピレスロイド系昆虫忌避剤の表層濃化を促進する。また、疎水性のオルガノポリシロキサンは、疎水性が高いため、その周囲にピット(空孔;ハジキの一種)を形成する。その結果、有機樹脂皮膜の内部に存在するピレスロイド系昆虫忌避剤が表層に移動しやすくなるため、害虫に対する忌避効果の持続性が向上する。
図1は、本発明の表面処理鋼板(ピレスロイド系昆虫忌避剤:5質量%、オルガノポリシロキサン:0.2質量%)の表面のSEM像である。図1Aは、倍率1000倍のSEM像であり、図1Bは、倍率5000倍のSEM像であり、図1Cは、倍率10000倍のSEM像である。これらのSEM像に示されるように、疎水性のオルガノポリシロキサンを含む有機樹脂処理液を用いて有機樹脂皮膜を形成することで、有機樹脂皮膜の表面にピットが形成される。
疎水性のオルガノポリシロキサンの種類は、特に限定されず、直鎖状のものであってもよいし、分岐状のものであってもよい。たとえば、疎水性のオルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で示される、融点が35〜70℃の範囲内のポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサンであればよい。
SiO−(R SiO)−SiR …(1)
上記式(1)において、Rは、同一または異種の置換または非置換の炭素原子数1〜18の一価炭化水素基である。Rの例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;スチリル基、α−メチルスチリル基などのアラルキル基;これらの基の水素原子の一部または全部をハロゲン原子、シアノ基、アミノ基などで置換したクロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノエチル基、3−アミノプロピル基、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピル基などが含まれる。経済性の観点からは、Rの80モル%以上は、メチル基であることが好ましい。
は、下記一般式(2)で示されるポリオキシエチレン基である。
−R−O(CHCHO)−R …(2)
上記式(2)において、Rは、炭素原子数2〜6のアルキレン基などの二価炭化水素基である。Rの例には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基などが含まれる。また、Rは、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基である。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などが含まれる。
上記式(2)において、cは、20〜100、好ましくは25〜50の整数である。cが20未満の場合、式(1)のポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサンの乳化分散性が低下する(このとき、室温で液体となる)。一方、100超の場合、融点および溶融粘度が高くなり、作業性が低下する。
また、上記式(1)において、nは、1〜150、好ましくは10〜100の整数である。nが150超の場合、式(1)のポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサンの乳化分散性が低下する(このとき、室温で液体となる)。
式(1)のポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサンは、1種で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。いずれの場合であっても、ポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサンの融点は、35〜70℃、好ましくは40〜60℃である。
有機樹脂皮膜中の疎水性のオルガノポリシロキサンの量は、0.01〜1質量%の範囲内が好ましい。疎水性のオルガノポリシロキサンの量が0.01質量%未満の場合、害虫に対する忌避効果が短期間しか持続しなくなるおそれがある。一方、疎水性のオルガノポリシロキサンの量が1質量%超の場合、有機樹脂皮膜に過剰な数のピットが形成されてしまい、耐食性が低下するおそれがある。
有機樹脂皮膜は、ピレスロイド系昆虫忌避剤および疎水性のオルガノポリシロキサンに加えて、加工性を向上させる潤滑剤をさらに含んでいてもよい。
潤滑剤の種類は、特に限定されない。潤滑剤の例には、フッ素系、ポリエチレン系、スチレン系などの有機質潤滑剤(低融点ワックスまたは高融点ワックス)や、シリカ、二硫化モリブデン、タルクなどの無機質潤滑剤などが含まれる。低融点有機ワックスは、有機樹脂処理液を乾燥させるときに皮膜表面にブリードし、潤滑性を発現する。一方、高融点有機ワックスおよび無機質潤滑剤は、有機樹脂皮膜の内部では分散して存在するが、最表層では島状に分布することによって潤滑性を発現する。
有機樹脂皮膜中の潤滑剤の量は、0.5〜5質量%の範囲内が好ましい。潤滑剤の量が0.5質量%未満の場合、加工性を十分に向上させることができない。一方、潤滑剤の量が5質量%超の場合、コイルが変形しやすくなったり、荷崩れが生じやすくなったりするおそれがある。
図2は、本発明の一実施の形態に係る表面処理鋼板の構成を示す模式図である。図2に示されるように、本発明の表面処理鋼板100は、基材鋼板110およびめっき層120からなるめっき鋼板130と、めっき鋼板130の表面に形成された化成処理皮膜140と、化成処理皮膜140の上に形成された有機樹脂皮膜(忌避膜)150とを有する。有機樹脂皮膜150中には、ピレスロイド系昆虫忌避剤160が分散している。また、有機樹脂皮膜150には、ピット170が形成されている。
これまで説明したように、本発明の表面処理鋼板では、めっき鋼板(基材鋼板)と有機樹脂皮膜(忌避皮膜)との間に、バルブメタルおよびリン酸塩を含む化成処理皮膜が形成されている。
本発明の表面処理鋼板では、有機樹脂皮膜にピレスロイド系昆虫忌避剤が添加されている。ピレスロイド系昆虫忌避剤は、疎水性のオルガノポリシロキサンにより有機樹脂皮膜の表層に濃化している。このようにピレスロイド系昆虫忌避剤を添加することで、害虫(昆虫)に対する忌避性を付与することができるが、その一方で、有機樹脂皮膜の密着性および耐水性が低下するおそれがある。しかしながら、本発明の表面処理鋼板では、めっき鋼板と有機樹脂皮膜との間に化成処理皮膜が形成されているため、有機樹脂皮膜にピレスロイド系昆虫忌避剤を添加しても、皮膜密着性および耐食性が低下することはない。
また、本発明の表面処理鋼板では、有機樹脂皮膜に疎水性のオルガノポリシロキサンが添加されている。疎水性のオルガノポリシロキサンは、ピレスロイド系昆虫忌避剤の表面濃化を促進するとともに、有機樹脂皮膜にピットを形成する。このように疎水性のオルガノポリシロキサンを配合することで、有機樹脂皮膜にピットが形成され、害虫(昆虫)に対する忌避性を長期間維持することができるようになるが、その一方で、有機樹脂皮膜の耐食性が低下するおそれがある。しかしながら、本発明の表面処理鋼板では、めっき鋼板と有機樹脂皮膜との間に化成処理皮膜が形成されているため、有機樹脂皮膜にピレスロイド系昆虫忌避剤を添加しても、耐食性が低下することはない。
以上のように、本発明の表面処理鋼板は、害虫に対する忌避性を長期間維持できるとともに、耐食性にも優れている。
本発明の表面処理鋼板の製造方法は、特に限定されない。たとえば、以下の手順により、本発明の表面処理鋼板は製造されうる。
2.表面処理鋼板の製造方法
本発明の表面処理鋼板の製造方法は、害虫忌避性に優れる表面処理鋼板の製造方法であって、1)めっき鋼板を準備する第1のステップと、2)めっき鋼板の表面に化成処理皮膜を形成する第2のステップと、3)化成処理皮膜の上に有機樹脂皮膜を形成する第3のステップとを有する。
以下、本発明の表面処理鋼板の製造方法の各ステップについて説明する。
1)第1のステップ
第1のステップでは、基材鋼板(原板)としてめっき鋼板を準備する。前述の通り、めっき鋼板の種類は、特に限定されず、公知のめっき鋼板から適宜選択されうる。
2)第2のステップ
第2のステップでは、第1のステップで準備しためっき鋼板の表面にバルブメタル化合物およびリン酸塩を含む化成処理液を塗布し、乾燥させて、化成処理皮膜を形成する。
化成処理液は、水系溶媒に、前述のバルブメタル化合物やリン酸塩、有機酸、有機樹脂などを溶解または分散させることで調製されうる。
化成処理皮膜中にバルブメタルの酸化物または水酸化物を含ませるには、化成処理液中にバルブメタル塩を添加すればよい。バルブメタル塩を含む化成処理液を乾燥させることで、バルブメタル塩がバルブメタルの酸化物または水酸化物になる。バルブメタル塩は、例えばバルブメタルのハロゲン化物や酸素酸塩などである。たとえば、チタン塩の例には、KTiF(K:アルカリ金属またはアルカリ土類金属、n:1または2)やK[TiO(COO)]、(NHTiF、TiCl、TiOSO、Ti(SO、Ti(OH)などが含まれる。
化成処理皮膜中にバルブメタルのフッ化物を含ませるには、化成処理液中にバルブメタルのフッ化物をそのまま添加してもよいし、バルブメタル塩と可溶性フッ化物(例えば(NH)Fなど)とを組み合わせて添加してもよい。
化成処理皮膜に可溶性または難溶性の金属リン酸塩もしくは複合リン酸塩を含ませるには、化成処理液に各種金属リン酸塩をそのまま添加してもよいし、各種金属塩とリン酸、ポリリン酸またはリン酸塩とを組み合わせて添加してもよい。
化成処理液の塗布方法は、特に限定されない。化成処理液の方法の例には、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などが含まれる。
化成処理液の塗布量は、特に限定されないが、バルブメタルの付着量が1mg/m以上となるように調整されることが好ましい。前述の通り、バルブメタルの付着量が1mg/m未満の場合、耐食性および皮膜密着性を十分に向上させることができないおそれがある。
化成処理液の乾燥は、常温乾燥であってもよいが、連続操業を考慮すると50℃以上に保持して乾燥時間を短縮することが好ましい。ただし、220℃を超える高温加熱は、化成処理液に含まれる有機成分が熱分解し、忌避性、潤滑性、耐食性などの特性が低下してしまうおそれがあるため、好ましくない。
3)第3のステップ
第3のステップでは、第2のステップで形成した化成処理皮膜の上に有機樹脂、ピレスロイド系昆虫忌避剤および疎水性のオルガノポリシロキサンを含む水系の有機樹脂処理液を塗布し、乾燥させて、膜厚0.2〜5μmの有機樹脂皮膜を形成する。
水系の有機樹脂処理液は、前述の有機樹脂の水系エマルションに、前述のピレスロイド系昆虫忌避剤や疎水性のオルガノポリシロキサン、潤滑剤などを溶解または分散させることで調製されうる。
ピレスロイド系昆虫忌避剤の数平均粒径は、3μm以下であることが好ましく、有機樹脂皮膜の膜厚未満であることが特に好ましい。ピレスロイド系昆虫忌避剤が大きい場合、ピレスロイド系昆虫忌避剤が有機樹脂皮膜を貫通して、有機樹脂皮膜に大きな欠陥を形成してしまい、表面処理鋼板の耐食性を低下させてしまうおそれがある。ピレスロイド系昆虫忌避剤の粒径は、ボールミルやローラーミル、遠心粉砕機、ミキサーミル、ディスクミルなどにより調整されうる。ピレスロイド系昆虫忌避剤の数平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布装置により計測することができる。
ピレスロイド系昆虫忌避剤を有機樹脂皮膜に含ませるには、所定のサイズのピレスロイド系昆虫忌避剤粒子をそのまま有機樹脂の水系エマルションに分散させればよい。ピレスロイド系昆虫忌避剤は、水系溶媒に対して難溶性であるため、有機樹脂処理液中においても溶解せずに粒子の状態で分散する。
ピレスロイド系昆虫忌避剤の添加量は、有機樹脂処理液の固形分100質量部に対して0.1〜10質量部とすればよい。また、疎水性のオルガノポリシロキサンの添加量は、有機樹脂処理液の固形分100質量部に対して0.01〜1質量部とすればよい。
有機樹脂処理液の塗布方法は、特に限定されない。有機樹脂処理液の方法の例には、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などが含まれる。
有機樹脂処理液の塗布量は、有機樹脂皮膜の膜厚が0.2〜5μmの範囲内となるように調整されることが好ましい。前述の通り、有機樹脂皮膜の膜厚が0.2μm未満の場合、害虫に対する忌避性および耐食性を十分に付与できないおそれがある。一方、有機樹脂皮膜の膜厚が5μm超の場合、厚みの増加に伴う性能向上を期待できず、製造コストの観点から好ましくない。
有機樹脂処理液の乾燥は、常温乾燥であってもよいが、連続操業を考慮すると50℃以上に保持して乾燥時間を短縮することが好ましい。ただし、220℃を超える高温加熱は、化成処理皮膜および有機樹脂処理液に含まれる有機成分が熱分解し、忌避性、潤滑性、耐食性などの特性が低下してしまうおそれがあるため、好ましくない。
以上の手順により、めっき鋼板(基材鋼板)と有機樹脂皮膜(忌避皮膜)との間に化成処理皮膜を有し、かつ有機樹脂皮膜中にピレスロイド系昆虫忌避剤が分散した、害虫に対する忌避性および耐食性に優れる表面処理鋼板を製造することができる。
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
1.表面処理鋼板の作製
溶融亜鉛めっき鋼板(板厚0.5mm、片面めっき付着量45g/m)をアルカリ脱脂して原板を準備した。
表1に示す組成の化成処理液を原板の表面に塗布し、水洗することなく電気オーブンに収容し、板温50〜200℃で加熱乾燥して、化成処理皮膜を形成した。ウレタン樹脂は、APX−601(DIC株式会社)を使用した。アクリル樹脂は、アクアロンAN−50(第一工業製薬株式会社)を使用した。
次いで、表2に示す組成の水系の有機樹脂処理液を化成処理めっき鋼板の表面に塗布し(液膜の厚さ:2.5〜25μm)、120℃で乾燥させて、有機樹脂皮膜(忌避皮膜)を形成した。ウレタン樹脂の水系エマルションは、スーパーグレックス130(第一工業製薬株式会社)を使用した。アクリル樹脂の水系エマルションは、アクアブリッド(ダイセル化学工業株式会社)を使用した。ピレスロイド系昆虫忌避剤(アクリナトリンおよびペルメトリン)の数平均粒径は、いずれも3μm以下であった。オルガノポリシロキサンは、KM−7752(信越化学工業株式会社)を使用した。潤滑剤は、CJ−137(興洋化学株式会社)を使用した。SiOは、スノーテックス−N(日産化学株式会社)を使用した。得られた表面処理鋼板の構成を表3に示す。
2.表面処理鋼板の評価
作製した表面処理鋼板から試験片を切り出し、以下の評価試験を行った。
(1)ゴキブリ忌避性の評価
本評価試験は、財団法人日本環境衛生センターの試験方法に準拠して行った。
図3は、本評価試験で用いたシェルターの構成を説明するための模式図である。まず、図3Aに示すように、70mm×70mmの試験片200を切り出した。次いで、図3Bに示すように、この試験片200の上に、縦5mm×横5mm×長さ50mmの角材210を4本配置した。最後に、図3Cに示すように、この角材210の上に、70mm×70mmのベニヤ板220を配置して、シェルターを作製した。
図4は、本評価試験におけるシェルターの配置を示すための模式図である。図4に示すように、横260mm×縦150mm×高さ200mmの樹脂製の上部開放型容器300内に、前述のシェルターを2つ配置した。一方は、試験片200として評価対象の表面処理鋼板を使用したシェルターであり、他方は、試験片210’として未処理の溶融亜鉛めっき鋼板を使用したシェルターである。これら2つのシェルターの間には、水を含ませた脱脂綿310および固形飼料320を置いた。ゴキブリの逃亡を防止するため、容器300の上部内面にワセリンを薄く塗った。
図4に示される容器300内にゴキブリの成虫を20匹入れて、1日後および2ヵ月後に各シェルター内にいるゴキブリの数を計測し、以下の計算式により忌避率を算出した。以下の式において、「処理区のゴキブリの数」とは、評価対象の表面処理鋼板を使用したシェルター内のゴキブリの数を意味し、「未処理区のゴキブリの数」とは、未処理の溶融亜鉛めっき鋼板を使用したシェルター内のゴキブリの数を意味する。

忌避率(%)=(1−処理区のゴキブリの数/未処理区のゴキブリの数)×100
光源や温湿度差、個体差などによるバラつきを考慮して、同じ試験を3回行い、その合計値によって忌避率を算出した。なお、処理区のゴキブリの数が未処理区のゴキブリの数を1回でも超えた場合は、忌避効果は認められないものとして、その試験片の忌避率を「0%」とした。
各表面処理鋼板について、忌避率が90%以上の場合は「◎」、70%以上90%未満の場合は「○」、40%以上70%未満の場合は「△」、40%未満の場合は「×」と評価し、「◎」および「○」を合格とした。
(2)耐食性の評価
作製した表面処理鋼板から150mm×70mmの試験片を切り出し、各試験片の端面と裏面をシールした。シールした各試験片を用いて塩水噴霧試験(JIS Z2371に準拠;120時間)を行い、平坦部の白錆発生面積率を評価した。
各表面処理鋼板について、白錆発生面積率が5%以下の場合は「◎」、5%を超え10%以下の場合は「○」、10%を超え40%以下の場合は「△」、40%を超える場合は「×」と評価し、「◎」および「○」を合格とした。
(3)皮膜密着性の評価
作製した表面処理鋼板から100mm×80mmの試験片を切り出し、90℃の熱水中に24時間浸漬した。熱水から引き上げた試験片について碁盤目試験(JIS K5400に準拠)を行い、有機樹脂皮膜の残存率により皮膜密着性を評価した。
各表面処理鋼板について、有機樹脂皮膜の残存率が90%以上の場合は「◎」、70%以上90%未満の場合は「○」、40%以上70%未満の場合は「△」、40%未満の場合は「×」と評価し、「◎」および「○」を合格とした。
(4)耐カジリ性の評価
作製した表面処理鋼板から300mm×30mmの試験片を切り出し、端面のバリを取り除いた後、ドロービード試験(金型:ビード高さ4mm、加圧力:3kN、引き抜き速度:1.67×10−3m/秒)を行った。試験後の試験片の表面を観察し、金型摺動部における有機樹脂皮膜の残存率により耐カジリ性を評価した。
各表面処理鋼板について、有機樹脂皮膜の残存率が90%以上の場合は「◎」、70%以上90%未満の場合は「○」、40%以上70%未満の場合は「△」、40%未満の場合は「×」と評価し、「◎」および「○」を合格とした。
(5)評価結果
各表面処理鋼板(実施例1〜12、比較例1〜7)の評価結果を表4に示す。
表4に示されるように、バルブメタルまたはリン酸塩を含まない化成処理皮膜を形成した比較例1〜3の表面処理鋼板は、耐食性および皮膜密着性が劣っていた。
また、ピレスロイド系昆虫忌避剤を10質量%超含む有機樹脂皮膜を形成した比較例4の表面処理鋼板は、耐食性が劣っていた。一方、ピレスロイド系昆虫忌避剤を0.1質量%未満含む有機樹脂皮膜を形成した比較例6の表面処理鋼板は、昆虫忌避性が劣っていた。
また、オルガノポリシロキサンを含まない有機樹脂皮膜を形成した比較例5の表面処理鋼板は、昆虫忌避性が劣っていた。一方、オルガノポリシロキサンを2質量%含む有機樹脂皮膜を形成した比較例8の表面処理鋼板は、耐食性および耐カジリ性が劣っていた。
また、有機樹脂皮膜の膜厚が0.2μm未満の比較例7の表面処理鋼板は、昆虫忌避性、耐食性および耐カジリ性が劣っていた。
これに対し、実施例1〜12の表面処理鋼板は、昆虫忌避性、耐食性、皮膜密着性および耐カジリ性のすべてについて良好な結果が得られた。
本発明の表面処理鋼板は、生活害虫や衛生害虫、不快害虫などの害虫に対する忌避性および耐食性に優れているため、例えば、ガステーブル、ガスコンロ、IHクッキングヒーターなどの調理家電や、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの生活家電などの用途に有用である。
100 表面処理鋼板
110 基材鋼板
120 めっき層
130 めっき鋼板
140 化成処理皮膜
150 有機樹脂皮膜
160 ピレスロイド系昆虫忌避剤
170 ピット
200 試験片
210 角材
220 ベニヤ板
300 樹脂製の容器
310 水を含ませた脱脂綿
320 固形飼料

Claims (14)

  1. めっき鋼板と、
    前記めっき鋼板の表面に形成された、バルブメタル化合物およびリン酸塩を含む化成処理皮膜と、
    前記化成処理皮膜の上に形成され、かつピレスロイド系昆虫忌避剤を0.1〜10質量%、疎水性のオルガノポリシロキサンを0.01〜1質量%含む、膜厚0.2〜5μmの有機樹脂皮膜と、
    を有する、表面処理鋼板。
  2. 前記バルブメタルは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wまたはこれらの組み合わせである、請求項1に記載の表面処理鋼板。
  3. 前記化成処理皮膜は、可溶性または難溶性の金属リン酸塩もしくは複合リン酸塩を含む、請求項1に記載の表面処理鋼板。
  4. 前記化成処理皮膜は、有機酸、有機樹脂またはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の表面処理鋼板。
  5. 前記有機樹脂皮膜は、潤滑剤をさらに含む、請求項1に記載の表面処理鋼板。
  6. 前記ピレスロイド系昆虫忌避剤は、(S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−[2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル]シクロプロパンカルボキシラートである、請求項1に記載の表面処理鋼板。
  7. 前記疎水性のオルガノポリシロキサンは、融点が35〜70℃の範囲内のポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサンの1種または2種以上の組み合わせである、請求項1に記載の表面処理鋼板。
  8. めっき鋼板を準備するステップと、
    前記めっき鋼板の表面にバルブメタル化合物およびリン酸塩を含む化成処理液を塗布し、乾燥させて、化成処理皮膜を形成するステップと、
    前記化成処理皮膜の上に、有機樹脂、数平均粒径が3μm以下のピレスロイド系昆虫忌避剤、および疎水性のオルガノポリシロキサンを含む水系の有機樹脂処理液を塗布し、乾燥させて、膜厚0.2〜5μmの有機樹脂皮膜を形成するステップと、を有し、
    前記水系の有機樹脂処理液は、固形分100質量部に対して、前記ピレスロイド系昆虫忌避剤を0.1〜10質量部、前記疎水性のオルガノポリシロキサンを0.01〜1質量部含む、
    表面処理鋼板の製造方法。
  9. 前記バルブメタルは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wまたはこれらの組み合わせである、請求項8に記載の表面処理鋼板の製造方法。
  10. 前記化成処理液は、可溶性または難溶性の金属リン酸塩もしくは複合リン酸塩を含む、請求項8に記載の表面処理鋼板の製造方法。
  11. 前記化成処理液は、有機酸、有機樹脂またはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項8に記載の表面処理鋼板の製造方法。
  12. 前記水系の有機樹脂処理液は、潤滑剤をさらに含む、請求項8に記載の表面処理鋼板の製造方法。
  13. 前記ピレスロイド系昆虫忌避剤は、(S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−[2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル]シクロプロパンカルボキシラートである、請求項8に記載の表面処理鋼板の製造方法。
  14. 前記疎水性のオルガノポリシロキサンは、融点が35〜70℃の範囲内のポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサンの1種または2種以上の組み合わせである、請求項8に記載の表面処理鋼板の製造方法。
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