1)第1実施形態
本発明の第1実施形態の車両用ブレーキ装置について、図1〜図7を参考にして説明する。図1は、本発明の第1実施形態の車両用ブレーキ装置1の構成を示す概要図である。車両用ブレーキ装置1は、マスタシリンダ2の基礎液圧PBに制御液圧発生装置51、52の制御液圧PCを加算してホイールシリンダWC1、WC2、WC3、WC4に供給する液圧ブレーキ装置であり、かつモータジェネレータ91の回生ブレーキ装置の機能を併用するようになっている。車両用ブレーキ装置1は、マスタシリンダ2、パイロット圧発生装置3、レギュレータ4、および制御液圧発生装置51、52などにより構成されている。レギュレータ4は、本発明の倍力装置、オフセット付与装置、および離間増大装置を兼ねている。
マスタシリンダ2は、図示されるようにタンデム式であり、基端部21aが開口して先端部21bが閉塞した円筒形状のハウジング21を有している。ハウジング21の内周面の基端部21a寄りには、内向きに縮径された隔壁部21cが形成されている。ハウジング21内の隔壁部21cよりも基端部21a側(後方側)に入力ピストン22が液密に内嵌され、隔壁部21cよりも先端部21b側(前方側)に第1マスタピストン23、および第2マスタピストン24が液密に内嵌されている。3つのピストン22、23、24は軸線AXを共通とする同軸配置とされて軸線AX方向に摺動し、第1および第2マスタピストン23、24は入力ピストン22に対し独立して摺動する。
入力ピストン22は、図示されるように前方に開いた有底円筒部22aを主に形成されており、円筒外周面でハウジング21に液密に摺接し、円筒内周面には第1マスタピストン23の後側の棒状部23bが内嵌している。入力ピストン22の後方端部22bは、ハウジング21の基端部21aの外方に突出しており、操作ロッド94を介してブレーキペダル95に連結している。入力ピストン22は、ドライバーによるブレーキペダル95の操作に連動してハウジング21内を軸線方向に摺動する。入力ピストン22の移動量Bは、ペダルストロークセンサ96により検出されるブレーキペダル95の踏み込み操作量に概ね比例するようになっている。また、入力ピストン22の前方端部22cは、ハウジング21の隔壁部21cまで前進し得るようになっている。入力ピストン22の有底円筒部22aと、ハウジング21の内周面および隔壁部21cにより、反力室21dが区画されている。
第1マスタピストン23は、図示されるように前側の前方に開いた有底円筒部23aおよび後側の棒状部23bが一体となって形成されている。第1マスタピストン23の棒状部23bは、ハウジング21の隔壁部21cを液密に貫通し、さらに、入力ピストン22の有底円筒部22aに液密に嵌入している。棒状部23bの後端23cは、有底円筒部22aの底面に対して離間距離D1で離間している。棒状部23bの後端23cと有底円筒部22aとの間に形成される離間室23gは、図略の液路を介してリザーバ25に連通されている。一方、第1マスタピストン23の有底円筒部23a後面および棒状部23b外周面と、ハウジング21の内周面および隔壁部21cとにより、サーボ室21eが区画されている。第1マスタピストン23の有底円筒部23aは、円筒外周面でハウジング21に液密に摺接し、内側には予圧縮されて保持された第1スプリング23dが前方に向けて圧縮可能に配設されている。
第2マスタピストン24は、図示されるように前方に開いた有底円筒形状に形成されており、後面が第1スプリング23dに付勢されるように配置されている。第2マスタピストン24の後面と、第1マスタピストン23の有底円筒部23aの前面と、ハウジング21の内周面とにより、第1液圧室21fが区画されている。第2マスタピストン24の有底円筒部の内側には、予圧縮されて保持された第2スプリング24aが前方に向けて圧縮可能に配設されている。第2スプリング24aは、ハウジング21の先端部21b内面に圧接している。第2マスタピストン24の前面と、ハウジング21の先端部21bの内面および内周面とにより、第2液圧室21gが区画されている。
図示されるように、ブレーキペダル95が操作されず入力ピストン22が移動していない初期状態で、第1マスタピストン23は第1スプリング23dに付勢されて隔壁部21cに接するまで後退している。同様に、第2マスタピストン24も第2スプリング24aに付勢されて後退している。マスタシリンダ2のサーボ室21eにサーボ圧Psが供給されると、第1マスタピストン23は第1スプリング23dに抗して前進し、第1液圧室21fに基礎液圧PBが発生する。さらに、第1液圧室21fの基礎液圧PBにより、第2マスタピストン24も第2スプリング24aに抗して前進し、第2液圧室21gにも基礎液圧PBが発生する。なお、基礎液圧PBは、サーボ圧Psと概ね比例関係にある。
また、ハウジング21には、反力室21dとパイロット圧発生装置3とを連通する反力ポート21hが穿設され、サーボ室21eとレギュレータ4とを連通するサーボ圧入力ポート21iが穿設されている。さらに、ハウジング21には、第1液圧室21fから前輪FR、FLのブレーキを構成するホイールシリンダWC1、WC2に連通するための第1出力ポート21jが穿設されている。同様に、ハウジング21には、第2液圧室21gから後輪RR、RLのブレーキを構成するホイールシリンダWC3、WC4に連通するための第2出力ポート21kが穿設されている。
また、ハウジング21には、ブレーキ液量を調整するリザーバ25に連通する第1液量調整ポート21lおよび第2液量調整ポート21mが穿設されている。図示される第1マスタピストン23が前進していない初期状態で、第1液量調整ポート21lは、第1液圧室21fをリザーバ25に連通している。そして、ブレーキペダル95が踏み込まれて第1マスタピストン23が前進する初期の段階で、第1液量調整ポート21lは第1マスタピストン23により閉止される。同様に、第2マスタピストン24が前進していない初期状態で、第2液量調整ポート21mは、第2液圧室21gをリザーバ25に連通している。そして、ブレーキペダル95が踏み込まれて第2マスタピストン24が前進する初期の段階で、第2液量調整ポート21mは第2マスタピストン24により閉止される。
第1出力ポート21jは、第1出力管路57を介して前輪FR、FLのホイールシリンダWC1、WC2に連通している。第1出力管路57の途中に分流点571が設けられ、分流点571とホイールシリンダWC1、WC2の間に第1液圧制御装置51が設けられている。第1液圧制御装置51は、制御弁53およびポンプ54が並列に接続されて構成されている。制御弁53には、第1液圧室21fとホイールシリンダWC1、WC2との間の圧力差、すなわち制御液圧PCを調整可能な差圧調整弁を用いる。ポンプ54は、所定の吐出圧でブレーキ液をホイールシリンダWC1、WC2に向けて圧送し、制御液圧PCを発生する。ポンプ54を駆動しかつ制御弁53の圧力差を調整することにより、制御液圧PCを発生して可変に調整し、第1液圧室21fの基礎液圧PBに加算してホイールシリンダWC1、WC2に付与することができる。
同様に、第2出力ポート21kは、第2出力管路58を介して後輪のホイールシリンダWC3、WC4に連通している。第2出力管路58の途中に分流点571は設けられておらず、第2液圧制御装置52が設けられている。第2液圧制御装置52の構成および機能は第1液圧制御装置51と同一であり、制御液圧PCを発生して可変に調整し、第2液圧室21gの基礎液圧PBに加算してホイールシリンダWC3、WC4に付与することができる。なお、分流点571は、第1出力管路57に代えて第2出力管路58に設けてもよい。
また、前輪FR、FLはモータジェネレータ91によって駆動される駆動輪である。モータジェネレータ91は、前輪FR、FLを制動する際に回生発電を行い、インバータを介してバッテリを充電することができ、回生ブレーキ装置の機能を有している。
パイロット圧発生装置3は、ブレーキペダル95の操作に応じたパイロット圧を発生する装置である。パイロット圧発生装置3は、シリンダ31、ピストン32、圧縮ばね33、固定側弾性体34、可動側弾性体35により構成されている。シリンダ31は円筒状で、一端面31a(図1の上面)に接続ポート31bが穿設されている。接続ポート31bは、パイロット管路36を介して、マスタシリンダ2のハウジング21の反力ポート21hに連通されている。ピストン32は、シリンダ31の内部を液密に摺動するようになっている。ピストン32とシリンダ31の一端面31aとの間にブレーキ液が出入りする液圧室31cが区画されている。また、ピストン32とシリンダ31の他端面31d(図1の下面)との間に、大気に連通する反力発生室31eが区画されている。
反力発生室31eの内部には圧縮ばね33が配設されており、圧縮ばね33はピストン32をシリンダ31の一端面31aに向けて付勢している。また、反力発生室31eの内部には、シリンダ31の他端面31dに固設された固定側弾性体34、およびピストン32に固設された可動側弾性体35が対向して配置されている。図示されるように、ブレーキペダル95が踏み込み操作されず入力ピストン22が移動していない状態で、パイロット圧発生装置3のピストン32は作動しておらず、固定側弾性体34と可動側弾性体35とは離隔している。
図2は、パイロット圧発生装置3およびレギュレータ4の出力特性を模式的に説明する図である。図2で、横軸は入力ピストン22の移動量Bであり、縦軸下向きにパイロット圧Pp、縦軸上向きに制御液圧PB(サーボ圧Psも概ね同じ変化傾向)が示されている。ブレーキペダル95の踏み込み操作に連動して入力ピストン22の移動量Bが徐々に増加すると、マスタシリンダ2の反力室21dの液圧が増加し、ブレーキ液が反力室21dからパイロット管路36を介してパイロット圧発生装置3の液圧室31cに流入し、ピストン32が移動する(図1で下降する)。このとき、まず圧縮ばね33が圧縮されて反力を発生し、液圧室31cの液圧とバランスしてパイロット圧Ppが発生する。このパイロット圧Ppがマスタシリンダ2の反力室21dに戻り、入力ピストン22からブレーキペダル95を押し返すペダル反力が発生する。図2に示されるように、入力ピストン22の移動量Bが小さい間、パイロット圧Ppは概ね入力ピストン22の移動量Bに比例して増加する。
入力ピストン22の移動量Bが増加して移動量B=B3で、パイロット圧発生装置3内の可動側弾性体35が固定側弾性体34に当接する。すると以降は、可動側弾性体35および固定側弾性体34の圧縮変形に伴う大きな反力が発生し、反力ばね33の反力に加算される。これにより、パイロット圧Ppは図2に示されるように急峻に増加し、ペダル反力も同様に急峻に増加する。なお、パイロット圧Ppは、パイロット管路36の途中で分岐されてレギュレータ4に入力されるようになっている。
レギュレータ4は、弁ハウジング41を共用する倍力装置、オフセット付与装置、および離間増大装置を兼ねている。図3は、マスタシリンダ2およびレギュレータ4の初期状態を模式的に示す断面図である。図1および図3に示されるように、レギュレータ4は、弁ハウジング41、スプール弁42、増圧ピストン43、吸入室形成ピストン44、アキュムレータ45、などにより構成され、内部はブレーキ液で充たされている。
弁ハウジング41は軸線方向で内径が異なる段差を有する段付き円筒形状であり、中央に断面積S1の小さな小径孔411を配置し、小径孔411の両側に断面積S2(>S1)の大きな大径孔412、413を同心に配置して形成されている。なお、2つの大径孔412、413は同径でなくてもよく、大径孔413はできるだけ小さく設定することが望ましい。弁ハウジング41には、小径孔411に連通する液量調整ポート41a、サーボ圧出力ポート41b、高圧ポート41c、および吸入ポート41dが、軸線方向の一方から他方に(図3で右方から左方に)記載した順番で列設されている。また、弁ハウジング41の一方の大径孔412(図3の右方)の外周部に連通する液量調整ポート41e、および一方の大径孔412の端面に連通するパイロット圧入力ポート41fが穿設されている。さらに、弁ハウジング41の他方の大径孔413(図3の左方)の外周部に連通するパイロット圧入力ポート41g、および他方の大径孔413の端面に連通するリセットポート41hが穿設されている。
スプール弁42は、弁ハウジング41の小径孔411内に液密かつ摺動可能に嵌合されている。スプール弁42は、軸線方向の両側に摺動部42a、42cを有し、中央に括れた連通制御部42bを有している。一方の摺動部42a(図3の右方)の内側には、スプリング収容部42dが形成され、他方の摺動部42c(図3の左方)の端面には区画面42eが形成されている。スプール弁42は、軸線方向に移動することで、連通制御部42bによりポートの連通状態を制御するようになっている。すなわち、スプール弁42が一方の大径孔412に向かって摺動すると、連通制御部42bは液量調整ポート41aとサーボ圧出力ポート41bとを連通する。スプール弁42が他方の大径孔413に向かって摺動すると、連通制御部42bはサーボ圧出力ポート41bと高圧ポート41cを連通する。また、スプール弁42が中間位置にあると、連通制御部42bはサーボ圧出力ポート41bを孤立させる。
増圧ピストン43は、軸線方向で外径が異なる段差を有する段付き円柱状であり、スプール弁42から遠い後側の大径部43aが弁ハウジング41の一方の大径孔412(図3の右方)に液密かつ摺動可能に嵌合されている。増圧ピストン43の前側の小径部43bの前面と、スプール弁42の一方の摺動部42aのスプリング収容部42dとの間には、微圧用圧縮スプリング431が介挿されている。微圧用圧縮スプリング431の比較的小さなばね力により、後述する微圧Psmallの大きさが定まる。
また、増圧ピストン43の大径部43aの前面と、弁ハウジング41の小径孔411から大径孔412に切り替わる段差部414との間に、圧縮スプリング432が介挿されている。圧縮スプリング432の大きなばね力により、後述するオフセット圧Poffの大きさが定まる。増圧ピストン43は、後述する条件が成立すると圧縮スプリング432のばね力に抗して前進し、小径部43bが小径孔411に入り込みスプール弁42と当接して一体的に移動可能となっている。一方の大径孔412の増圧ピストン43の前面側には液量調整ポート41eが開口し、増圧ピストン43の後面側にはパイロット圧入力ポート41fが開口している。
吸入室形成ピストン44は、軸線方向で外径が異なる段差を有する段付き円柱状であり、スプール弁42から遠い後側の大径部44aが弁ハウジング41の他方の大径孔413(図3の左方)に液密かつ摺動可能に嵌合されている。吸入室形成ピストン44の大径部44aの内側にはスプリング収容部44cが形成されており、スプリング収容部44cと他方の大径孔413の端面との間に、圧縮スプリング441が介挿されている。圧縮スプリング441のばね力により、後述する微圧Psmallの発生時期が定まる。吸入室形成ピストン44の前側の小径部44bは、小径孔411に入り込んでスプール弁42に対向している。吸入室形成ピストン44は、後述する条件が成立すると大径孔413の端面方向に後退し、小径部44bの前面とスプール弁42の区画面42eとの間に吸入室41iを形成するようになっている。他方の大径孔413の吸入室形成ピストン44の前面側にはパイロット圧入力ポート41gが開口し、吸入室形成ピストン44の後面側にはリセットポート41hが開口している。
アキュムレータ45は、略一定の高圧のブレーキ液を蓄積する装置である、アキュムレータ45は、図1に例示されるように所望する容積の蓄積タンク451および所望する吐出圧のポンプ452を組み合わせて構成することができる。
レギュレータ4の弁ハウジング41に穿設された各ポート41a〜41hは、次のように接続されている。すなわち、小径孔411の液量調整ポート41aはリザーバ25(図1に描かれている2つのリザーバは同一物)に連通され、サーボ圧出力ポート41bはサーボ圧入力管路46を介してマスタシリンダ2のサーボ圧入力ポート21iに連通されてサーボ圧Psを出力するようになっている。また、高圧ポート41cはアキュムレータ45に連通され、吸入ポート41dは第1出力管路57の途中の分流点571に連通されている。一方の大径孔412の外周面の液量調整ポート41eはリザーバ25に連通され、端面のパイロット圧入力ポート41fはパイロット管路36の途中に連通されてパイロット圧Ppが入力されるようになっている。また、他方の大径孔413の外周面のパイロット圧入力ポート41gもパイロット管路36の途中に連通されてパイロット圧Ppが入力されるようになっており、端面のリセットポート41hには一時的に高圧のブレーキ液が供給されるようになっている。
次に、上述のように構成された第1実施形態の車両用ブレーキ装置1の作動および作用について説明する。図1および図3はブレーキペダル95が踏み込み操作されていない初期状態を示しており、レギュレータ4のスプール弁42は一方の大径孔412に向かって摺動しており、液量調整ポート41aとサーボ圧出力ポート41bとが連通され、サーボ圧Psは発生していない。ここで、ブレーキペダル95が操作されて入力ピストン22が少し前進すると、図2に示されるパイロット圧Ppが発生して、レギュレータ4の2つのパイロット圧入力ポート41f、41gに入力される。
図4〜図7は、マスタシリンダ2およびレギュレータ4の作動を説明する断面図である。図4は、レギュレータ4による増圧の開始状況を示し、図5は、レギュレータ4による微圧Psmallの保持状況を示し、図6は、レギュレータ4による微圧Psmallの減圧調整状況を示している。また、図7は、レギュレータ4による大きなサーボ圧Psの発生状況を示している。
図2で入力ピストン22が移動量B1移動したときに、パイロット圧Pp1が吸入室形成ピストン44の前面に入力される。吸入室形成ピストン44に作用する軸力に注目すると、パイロット圧Pp1と吸入室形成ピストン44の大径部44aの断面積(≒S2)とを乗算した軸力が、吸入室形成ピストン44の後面の圧縮スプリング441のばね力の軸力以上になり、吸入室形成ピストン44は後退する(図4で左方に移動する)。これに追従して、スプール弁42が移動し(図中左方に移動し)、連通制御部42bはサーボ圧出力ポート41bと高圧ポート41cを連通する。これにより、アキュムレータ45の高圧のブレーキ液が、サーボ圧出力ポート41bからサーボ圧出力管路46を介してマスタシリンダ2のサーボ室21eに入力され、増圧が開始されてわずかなサーボ圧Psが発生する。すると、第1および第2マスタピストン23、24は前進して、小さな基礎液圧PBを発生し、液量調整ポート21l、21mを閉止する。
小さな基礎液圧PBは、第1出力管路57の分流点571からフィードバックされて吸入ポート41dを介し吸入室41iに入力される。スプール弁42に作用する軸力に注目し、基礎液圧PBが所定の微圧Psmallに達すると、微圧Psmallとスプール弁42の断面積(≒S1)とを乗算した軸力が、微圧用圧縮スプリング431のばね力の軸力とバランスするようにスプール弁42が移動する(図中右方に移動する)。これにより、スプール弁42は中間位置に落ち着いて連通制御部42bはサーボ圧出力ポート41bを孤立させる。したがって、図5に示されるように、サーボ室21eへのブレーキ液の流入および流出がなくなり、微圧Psmallが保持される。
上記作動の説明で、第1マスタピストン23が前進したときに入力ピストン22との離間距離D1が増大する。レギュレータ4が離間距離D1を増大させる作用が離間増大装置に相当する。なお、パイロット圧Pp1は増圧ピストン43の背面にも入力されているが、この時点では圧縮スプリング432のばね力の軸力が勝るため、増圧ピストン43は移動しない。
また、図5の状態で基礎液圧PBが微圧Psmallよりも過大になると、図6に示されるように、基礎液圧PBによる軸力が微圧用圧縮スプリング431による軸力に勝って、スプール弁42が移動する(図中右方に移動する)。連通制御部42bは、サーボ圧出力ポート41bを液量調整ポート41aに連通させ、サーボ室21eのブレーキ液を流出させてリザーバ25に戻す。これにより、基礎液圧PBが微圧Psmallまで減圧され、スプール弁42が中間位置に戻って安定する。
結局、図2に示されるように、パイロット圧Ppが微圧Psmallを発生させる圧力Pp1以上でオフセット圧Poff未満の間、基礎液圧PBに基づく軸力が微圧用圧縮スプリング431のばね力の軸力とバランスするようにスプール弁42が移動する。これにより、アキュムレータ45またはリザーバ25をサーボ室21eに連通させて概ね一定の微圧をサーボ室21e発生させることができる。このとき、基礎液圧PBも概ね一定の微圧Psmallに保たれる。また、吸入室形成ピストン44の小径部44bとスプール弁42の区画面42eとの間に吸入室41iが形成され、吸入室41iに第1液圧室21fからブレーキ液が流入する。
図2で入力ピストン22が移動量B2を超えて前進すると、所定のオフセット圧Poffを越えるパイロット圧Pp2が発生して増圧ピストン43の後面に入力される。増圧ピストン43に作用する軸力に注目すると、パイロット圧Pp2と増圧ピストン43の断面積(≒S2)とを乗算した軸力が、増圧ピストン43の前面の圧縮スプリング432のばね力の軸力以上になり、増圧ピストン43は前進する(図5で左方に移動する)。図7に示されるように、スプール弁42は増圧ピストン43と一体的に移動し、連通制御部42bはサーボ圧出力ポート41bと高圧ポート41cを連通する。これにより、アキュムレータ45の高圧のブレーキ液がサーボ室21eに流入し、微圧Psmallよりも大きなサーボ圧Psが発生する。大きなサーボ圧Psにより、第1および第2マスタピストン23、24は前進して、大きな基礎液圧PBを発生する。
大きな基礎液圧PBは吸入室41iにフィードバックされる。今度は、基礎液圧PBとスプール弁42の断面積(≒S1)との乗算値に圧縮スプリング432のばね力を加算した軸力と、パイロット圧Pp2と増圧ピストン43の断面積(≒S2)とを乗算した軸力とがバランスする。したがって、パイロット圧Pp2がさらに増加すると、アキュムレータ45のブレーキ液がサーボ室21eに流入してサーボ圧Psが増加する倍力作用が生じ、倍力されたサーボ圧Psにより第1および第2マスタピストン23、24が前進しさらに大きな基礎液圧PBが発生してバランスする。このとき、第1マスタピストン23と入力ピストン22との間の離間距離D1は斬増する。レギュレータ4がパイロット圧Ppを倍力したサーボ圧Psをサーボ室21eに発生させる作用が、倍力装置に相当する。
また、レギュレータ4は、パイロット圧Ppがオフセット圧Poff未満の間、概ね一定の微圧Psmallを保って倍力装置を不作動とし、パイロット圧Ppがオフセット圧Poff以上になると倍力装置を作動させる。このレギュレータ4の作用が、オフセット付与装置に相当する。
なお、リセットポート41hに一時的に高圧のブレーキ液を供給することで、吸入室形成ピストン44を初期状態の位置に戻すことができる。また、レギュレータ4の故障でサーボ圧Psが発生しない場合、入力ピストン22が離間距離D1前進した時点で第1マスタピストン23に当接して直接駆動する。
第1実施形態によれば、パイロット圧Ppがオフセット圧Poff未満のときに倍力装置を不作動とするので、この間はマスタシリンダ2で基礎液圧PBが発生せず、モータジェネレータ91の回生ブレーキ装置の機構を優先的に作動させて燃費を向上できる。また、離間増大装置は、わずかなサーボ圧Psが発生して基礎液圧PBが微圧Psmallに保持されるとき、離間距離D1を増大させる。これにより、モータジェネレータ91による回生制動力が増加して液圧制動力を減少させる必要が生じたときに、ホイールシリンダWC1〜WC4からマスタシリンダ2にブレーキ液を戻すと、第1マスタピストン23は増大した離間距離D1を抵抗なく後退する。さらに、後退する第1マスタピストン23は、離間している入力ピストン22に影響を及ぼさない。したがって、回生制動力の増加分だけ液圧制動力を確実に減少させることができる。また、入力ピストン22を連動操作するブレーキペダル95に影響が及ばないので、運転者は良好なブレーキフィーリングを感じる。また、サーボ圧Psが発生しない場合は離間距離D1が増大しないため、液圧を発生しないペダルストローク量の増大がなく、制動信頼性を維持できる。
さらに、オフセット付与装置は、パイロット圧Ppがオフセット圧Poff未満の間は微圧Psmallをサーボ室21eに発生させる。すると、第1マスタピストン23が微圧Psmall分だけ前進して、ブレーキ液の液量を調整するリザーバ25とマスタシリンダ2との連通を遮断する。この状態で制御液圧発生装置51、52が作動するとマスタシリンダ2内の第1および第2液圧室21f、21gからホイールシリンダWC1〜WC4にブレーキ液が供給される。これにより、第1マスタピストン23が前進して入力ピストン22との離間距離D1が一層増大し、回生制動力が増加したときに、第1マスタピストン23を抵抗なく後退させ得るストロークマージンが増加する。
また、倍力装置、オフセット付与装置、および離間増大装置を兼ねるレギュレータ4は、弁ハウジング41を共用しており、一体的で簡素な構成を実現できる。加えて、第1および第2制御液圧発生装置51、52を、制御弁53およびポンプ54で簡易に構成できる。また、第1実施形態のインライン加圧タイプの液圧調整機構を備えることで、技術蓄積されてきた液圧調整ユニットの構成や制御のノウハウを、回生制動力制御と組み合わせて適用することができる。
2)第1実施形態の応用形態
次に、第1実施形態の応用形態について説明する。図8は、ブレーキペダル95の操作量が所定のオフセット量未満であるときに倍力装置を不作動とする第1実施形態の応用形態の車両用ブレーキ装置1Aの構成を示す概要図である。図8を図1と比較すればわかるように、応用形態ではレギュレータ4の一方のパイロット圧入力ポート41fをパイロット管路36に連通するパイロット分流管路48の途中に開閉弁49が設けられている。また、大径孔412内の圧縮スプリング432は不付きとされている。そして、ペダルストロークセンサ96が検出したブレーキペダル95の操作量が所定のオフセット量未満のときに開閉弁49を閉止し、ブレーキペダル95の操作量がオフセット量以上のときに開閉弁49を開放するように制御する。
これにより、レギュレータ4は、開閉弁49が閉止されている間、一方のパイロット圧入力ポート41fにパイロット圧Ppが入力されないので倍力装置として作用せず、開閉弁49が開放されると倍力装置として作用する。なお、他方のパイロット圧入力ポート41gには常時パイロット圧Ppが入力されるので、レギュレータ4のオフセット付与装置および離間増大装置の作用は第1実施形態と同様である。また、応用形態における効果も第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
3)第2実施形態
本発明の第2実施形態の車両用ブレーキ装置について、図9〜図14を参考にして、第1実施形態と異なる点を主に説明する。図9は、本発明の第2実施形態の車両用ブレーキ装置1Bの構成を示す概要図である。車両用ブレーキ装置1Bは、マスタシリンダ2B、パイロット圧発生装置3、倍力装置6、および制御液圧発生装置51、52などにより構成されている。マスタシリンダ2Bは本発明の離間増大装置を兼ねており、倍力装置6は本発明のオフセット付与装置を兼ねている。
マスタシリンダ2Bは、図示されるようにタンデム式であり、基端部21aが開口して先端部21bが閉塞した円筒形状のハウジング21Bを有している。ハウジング21Bの内周面の基端部21a寄りには、内向きに縮径された隔壁部21cが形成されている。ハウジング21B内の隔壁部21cよりも基端部21a側(後方側)に入力ピストン22が液密に内嵌され、隔壁部21cよりも先端部21b側(前方側)に第1マスタピストン23B、および第2マスタピストン24が液密に内嵌されている。さらに、隔壁部21cを貫通して、離間ピストン27が液密に内嵌されている。4つのピストン22、23B、24、27は、軸線AXを共通とする同軸配置とされ、軸線AX方向に摺動する。
入力ピストン22は、図示されるように前方に開いた有底円筒部22aを主に形成されており、円筒外周面でハウジング21Bに液密に摺接し、円筒内周面には離間ピストン27の後側の軸部27bが内嵌している。入力ピストン22の後方端部22bは、ハウジング21Bの基端部21aの外方に突出しており、操作ロッド94を介してブレーキペダル95が連結されている。入力ピストン22は、ドライバーによるブレーキペダル95の操作に連動してハウジング21B内を軸線方向に摺動する。入力ピストン22の移動量は、ペダルストロークセンサ96により検出されるブレーキペダル95の踏み込み操作量に概ね比例するようになっている。また、入力ピストン22の前方端部22cは、ハウジング21Bの隔壁部21cまで前進し得るようになっている。入力ピストン22の有底円筒部22aと、ハウジング21Bの内周面および隔壁部21cにより、反力室21dが区画されている。
第1マスタピストン23Bは、図示されるように前側の前方に開いた有底円筒部23aおよび後側の後方に開いた内シリンダ部23eが一体となって形成され、円筒外周面でハウジング21Bに液密に摺接している。第1マスタピストン23Bの内シリンダ部23eと、ハウジング21Bの内周面および隔壁部21cとにより、サーボ室21eが区画されている。第1マスタピストン23Bの有底円筒部23aの内側には、予圧縮されて保持された第1スプリング23dが前方に向けて圧縮可能に配設されている。
第2マスタピストン24は、図示されるように前方に開いた有底円筒形状に形成されており、後面が第1スプリング23dに付勢されるように配置されている。第2マスタピストン24の後面と、第1マスタピストン23の有底円筒部23aの前面と、ハウジング21Bの内周面とにより、第1液圧室21fが区画されている。第2マスタピストン24の有底円筒部の内側には、予圧縮されて保持された第2スプリング24aが前方に向けて圧縮可能に配設されている。第2スプリング24aは、ハウジング21Bの先端部21b内面に圧接している。第2マスタピストン24の前面と、ハウジング21Bの先端部21b内面および内周面とにより、第2液圧室21gが区画されている。
離間ピストン27は、図示されるように他のピストン22、23B、24よりも小径に形成されている。離間ピストン27は、第1マスタピストン23Bの内シリンダ部23eに内嵌して液密に摺動する前側のピストン部27aと、ピストン部27aよりも小径の後側の軸部27bとが一体となって形成されている。ピストン部27aから軸部27bにかけての軸心に前方に開口するばね収容孔27cが穿設されており、ばね収容孔27c内に予圧縮されて保持された離間スプリング27dが前方に向けて圧縮可能に配設されている。離間スプリング27dは、第1マスタシリンダ23Bの内シリンダ部23eの底面に圧接している。また、軸部27bの軸心には、前後に貫通する連通孔27eが穿設されている。
離間ピストン27の軸部27bは、隔壁部21cを液密かつ摺動可能に貫通しており、さらに、入力ピストン22Bの有底円筒部22aの円筒内周面に液密に内嵌している。軸部27bの後端27fは、入力ピストン22の有底円筒部22aの底面に対して離間距離D2で離間している。離間ピストン27のピストン部27aと、第1マスタピストン23Bの内シリンダ部23eとの間には無効ストローク室27gが区画されている。また、離間ピストン27の軸部27bの後端27fと入力ピストン22Bの有底円筒部22aとの間の離間距離D2の部分に、離間室27iが区画されている。離間室27iをリザーバ25(図9に描かれている3つのリザーバは同一物)に連通させるために、入力ピストン22の径方向から外周面にかけて吸排孔22hが穿設され、さらにハウジング21Bにも吸排孔21qが穿設されている。したがって、無効ストローク室27gは、ばね収容孔27cおよび連通孔27eを介して離間室27iに連通され、さらに吸排孔22hおよび吸排孔21qを介してリザーバ25に連通されている。また、ピストン部27aは、後面にサーボ室21eのサーボ圧Psが加えられて前方に駆動されるように形成されている。
図9に示されるように、ブレーキペダル95が操作されず入力ピストン22が移動していない初期状態で、第1マスタピストン23は第1スプリング23dに付勢されて隔壁部21cに接するまで後退している。同様に、第2マスタピストン24も第2スプリング24aに付勢されて後退している。マスタシリンダ2のサーボ室21eにサーボ圧Psが供給されると、第1マスタピストン23は第1スプリング23dに抗して前進し、第1液圧室21fに基礎液圧PBが発生する。さらに、第1液圧室21fの基礎液圧PBにより、第2マスタピストン24も第2スプリング24aに抗して前進し、第2液圧室21gにも基礎液圧PBが発生する。なお、基礎液圧PBは、サーボ圧Psと概ね比例関係にある。また、図示される初期状態で、離間ピストン27のピストン部27aは離間スプリング27dに付勢されて内シリンダ部23eの後端に位置し、前方に無効ストローク長D3だけ移動し得るようになっている。
ハウジング21Bには、第1実施形態と同様のポートが穿設されている。すなわち、反力ポート21h、サーボ圧入力ポート21i、第1出力ポート21j、第2出力ポート21k、第1液量調整ポート21l、および第2液量調整ポート21mが穿設されている。さらに、第1および第2出力管路57、58と第1および第2液圧制御装置51、52、ならびにパイロット圧発生装置3の構成も第1実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
倍力装置6は、パイロット圧Ppを倍力したサーボ圧Psを発生してサーボ室21eに供給し、第1および第2液圧室21f、21gに基礎液圧PBを発生させる装置である。倍力装置6は、弁ハウジング61、スプール弁62、およびアキュムレータ65などにより構成されている。
弁ハウジング61は軸線方向で内径が異なる段差を有する段付き円筒形状であり、一方に断面積S3の小さな小径孔611を配置し、他方に断面積S4(>S3)の大きな大径孔612を同心に配置して形成されている。弁ハウジング61には、小径孔611に連通する液量調整ポート61a、サーボ圧出力ポート61b、および高圧ポート61cが、軸線方向の一方から他方に(図9で右方から左方に)記載した順番で列設されている。また、弁ハウジング61の大径孔612の外周部に連通する液量調整ポート61e、および大径孔612の端面に連通するパイロット圧入力ポート61fが穿設されている。さらに、弁ハウジング61の小径孔611(図9の左方)の端面に連通するフィードバックポート61hが穿設されている。
スプール弁62は、弁ハウジング41の小径孔611から大径孔612にかけて液密かつ摺動可能に嵌合されている。スプール弁62は、小径孔611に摺接する2つの小径摺動部62a、62cを有し、その中間に括れた連通制御部62bを有している。一方の小径摺動部62c(図9の右方)の外側には、大径孔に摺接する大径部62dが一体に設けられている。大径部62dの一面と、弁ハウジング61の小径孔611から大径孔612に切り替わる段差部614との間に、圧縮スプリング63が介挿されている。圧縮スプリング63のばね力により、後述するオフセット圧Poffの大きさが定まる。大径孔612内の大径部62dの一面側には液量調整ポート61eが開口し、他面側(端面側)にはパイロット圧入力ポート61fが開口している。
スプール弁62は、後述する条件が成立すると圧縮スプリング63のばね力に抗して移動し、連通制御部62bによりポートの連通状態を制御するようになっている。すなわち、スプール弁62が大径孔612に向かって摺動すると、連通制御部62bは液量調整ポート61aとサーボ圧出力ポート61bとを連通する。スプール弁62が大径孔612から離れるように摺動すると、連通制御部62bはサーボ圧出力ポート61bと高圧ポート61cを連通する。また、スプール弁62が中間位置にあると、連通制御部62bはサーボ圧出力ポート61bを孤立させる。
アキュムレータ65は、略一定の高圧のブレーキ液を蓄積する装置である。アキュムレータ65は、第1実施形態と同様、蓄積タンクおよびポンプにより構成することができる。
倍力装置6の弁ハウジング61に穿設された各ポート61a〜61c、61e、61f61hは、次のように接続されている。すなわち、小径孔611の液量調整ポート61aはリザーバ25に連通され、サーボ圧出力ポート61bはサーボ圧入力管路66を介してマスタシリンダ2Bのサーボ圧入力ポート21iに連通されてサーボ圧Psを出力するようになっている。また、高圧ポート61cはアキュムレータ65に連通されている。大径孔612の液量調整ポート61eはリザーバ25に連通され、パイロット圧入力ポート61fはパイロット管路36の途中に連通されてパイロット圧Ppが入力されるようになっている。さらに、フィードバックポート61hは、第1出力管路57の分流点571に連通されている。なお、フィードバックポート61hは、サーボ圧入力管路66と連通されてもよい。
図10は、パイロット圧発生装置3および倍力装置6の出力特性を模式的に説明する図である。図10で、横軸は入力ピストン22の移動量Bであり、縦軸下向きにパイロット圧Pp、縦軸上向きに基礎液圧PB(サーボ圧Psも概ね同じ変化傾向)が示されている。パイロット圧発生装置3の特性は第1実施形態と同様であり、入力ピストン22の移動量がB3に達するまでパイロット圧Ppは概ね入力ピストン22の移動量Bに比例して増加し、移動量B3を超えるとパイロット圧Ppは急峻に増加する。なお、パイロット圧Ppは、パイロット管路36の途中で分岐されて倍力装置6のパイロット圧入力ポート61fに入力されている。
次に、上述のように構成された第2実施形態の車両用ブレーキ装置1Bの作動および作用について説明する。図9はブレーキペダル95が踏み込み操作されていない初期状態を示しており、倍力装置6のスプール弁62は大径孔612に向かって摺動しており、液量調整ポート61aとサーボ圧出力ポート61bとが連通され、サーボ圧Psは発生していない。ここで、ブレーキペダル95が操作されて入力ピストン22が少し前進すると、図10に示されるパイロット圧Ppが発生して、倍力装置6のパイロット圧入力ポート61fに入力される。
図11は倍力装置6によるサーボ圧Psの発生開始を示す図であり、図12は倍力装置6による大きなサーボ圧Psの発生状況を示す図である。まず、図10に示されるように入力ピストン22が移動量B4移動して、所定のオフセット圧Poffに相当するパイロット圧Ppがパイロット圧入力ポート61fに入力されたとき、スプール弁62に作用する軸力に注目する。オフセット圧Poffとスプール弁62の大径摺動部62dの断面積(≒S4)とを乗算した軸力は圧縮スプリング63のばね力の軸力に一致し、スプール弁62は移動を開始する(図11の左方に移動する)。これにより、連通制御部62bはサーボ圧出力ポート61bと高圧ポート61cを連通し、アキュムレータ65の高圧のブレーキ液がサーボ室21eに流入して増圧され、サーボ圧Psが発生する。
サーボ圧Psが増加して離間スプリング27dの付勢力に対応する所定圧以上になると、離間ピストン27が駆動される。これにより、無効ストローク室27gのブレーキ液がリザーバ25に流出し、離間ピストン27は無効ストローク長D3前進して第1マスタピストン23Bに当接する。したがって、離間ピストン27と入力ピストン22との間の離間距離D2が、無効ストローク長D3だけ増大する。このマスタシリンダ2Bの作用が、離間増大装置に相当する。
入力ピストン22がさらに前進すると、さらにサーボ圧Psが増加して、図12に示されるように離間ピストン27および第1マスタピストン23Bは一体的に前進する。これにより、第2マスタピストン24も前進し、第1および第2液圧室21f、21gに大きな基礎液圧PBが発生する。基礎液圧PBは、第1出力管路57の分流点571からフィードバックポート61hに入力され、パイロット圧Ppの軸力とバランスするように作用する。このフィードバック制御により、安定した基礎液圧PB得ることができる。
結局、図10に示されるように、倍力装置6は、パイロット圧Ppがオフセット圧Poff未満の間は不作動で液圧を発生せず、パイロット圧Ppがオフセット圧Poff以上になるとサーボ圧Psを発生する。この作用は、倍力装置6がオフセット付与装置を兼ねていることを意味する。サーボ圧Psが発生した以降、離間ピストン27と入力ピストン22との間の離間距離D2は斬増する。
また、図13および図14は、第2実施形態で倍力装置6が故障したときの作動を説明する図であり、図13は無効ストローク室27gの液密状態を示し、図14は、基礎液圧PBの発生状況を示している。ブレーキペダル95が踏み込み操作され入力ピストン22が前進しても、倍力装置6が故障してサーボ圧Psが発生しなくなるおそれが皆無でない。図13に例示されるサーボ圧入力管路66の故障で、サーボ室21eにサーボ圧Psが発生しないときは離間ピストン27が前進せず、入力ピストン22が離間ピストン27に当接する。これにより、離間ピストン27の連通孔27eの後端が、入力ピストン22の有底円筒部22aの底部に設けられた弾性を有する閉止部材22dによって閉止され、無効ストローク室27gが無効ストローク長D3を保って液密状態になる。この後さらに入力ピストン22が前進すると、離間ピストン27は入力ピストン22に直接駆動され、無効ストローク長D3を保って第1マスタピストン23Bを駆動する。したがって、図14に示されるように、第1および第2マスタピストン23B、24が前進して基礎液圧PBが発生する。
第2実施形態によれば、パイロット圧Ppがオフセット圧Poff以上になると、離間ピストン27が無効ストローク長D3前進してその分だけ離間距離D2を増大させる。したがって、第1実施形態と同様に回生制動力の増加分だけ液圧制動力を確実に減少させることができ、運転者は良好なブレーキフィーリングを感じる。また、サーボ圧Psが発生しない故障時には、入力ピストン22が離間ピストン27に当接して無効ストローク室27gを液密状態とし、無効ストローク長D3を保って第1マスタピストン23Bを直接駆動する。したがって、液圧を発生しないペダルストローク量の増大がなく、制動信頼性を維持できる。
4)第2実施形態の応用形態
次に、第2実施形態の応用形態について説明する。図15は、通常時に無効ストローク室27gが反力室21pに連通する第2実施形態の応用形態の車両用ブレーキ装置1Cの構成を示す概要図である。図15を図8と比較すればわかるように、応用形態ではマスタシリンダ2Bの離間ピストン27C周りの構成が第2実施形態と異なっており、異なる点を主に説明する。
図15に示されるように、離間ピストン27Cの軸部27fは、隔壁部21cを液密かつ摺動可能に貫通し、入力ピストン22Bの有底円筒部22aの円筒内周面には液流通可能に内嵌している。また、入力ピストン22Bの給排孔22h、およびハウジング21Bの給排孔21qは設けられていない。したがって、反力室21pは、入力ピストン22の有底円筒部22aと、ハウジング21Bの内周面および隔壁部21cにより区画され、離間ピストン27Cは反力室21p内を移動する。無効ストローク室27gは、ばね収容孔27cおよび連通孔27eを介して反力室21qに連通されている。
この応用形態において、サーボ室21eにサーボ圧Psが発生すると、まず離間ピストン27Cが駆動され、無効ストローク室27gのブレーキ液が反力室21pに放出されて無効ストローク長D3前進し、第1マスタピストン23Bに当接する。以降の作用は第2実施形態と同様であるので、説明は省略する。また、サーボ圧Psが発生しない故障時に、入力ピストン22が離間ピストン27Cに当接し、連通孔27eの後端が入力ピストン22の閉止部材22dによって閉止され、無効ストローク室27fが液密状態になる。これにより、離間ピストン27Cは入力ピストン22に直接駆動され、無効ストローク長D3を保って第1マスタピストン23Bを駆動する。したがって、液圧を発生しないペダルストローク量の増大がなく、制動信頼性を維持できる。
5)第3実施形態
本発明の第3実施形態の車両用ブレーキ装置について、図16〜図18を参考にして、第1および第2実施形態と異なる点を主に説明する。図16は、本発明の第3実施形態の車両用ブレーキ装置1Dの構成を示す概要図である。車両用ブレーキ装置1Dは、第1実施形態のマスタシリンダ2、パイロット圧発生装置3、および制御液圧発生装置51、52を備え、レギュレータ4に代えて離間増大装置7および第2実施形態の倍力装置6を備えている。前述したように、倍力装置6は本発明のオフセット付与装置を兼ねている。
離間増大装置7は、図16に示されるように、第1出力管路57とサーボ圧入力管路66との間に設けられている。図17は、離間増大装置7の詳細構成を説明する断面図であり、サーボ圧Psの入力されていない初期状態を示している。離間増大装置7は、第1出力管路57の途中の分流点572に連通し所定量のブレーキ液が流入可能な吸入室71iと、サーボ圧Psが所定圧以上になるとサーボ圧Psによって開かれ第1出力管路57から吸入室71iにブレーキ液の流入を許容する弁装置73とを有している。
弁ハウジング71は、図17に示されるように、軸線方向で内径の異なる段付き円筒形状に形成されて内側はブレーキ液で充たされている。弁ハウジング71の軸線方向の中央には、断面積S5が小さく軸線方向の一方(図17の右方)に向かうにつれて縮径される錘状部71bを有する弁孔71aが形成されている。弁孔71aの内部に収容された弁球72は、圧縮ばね72aにより錘状部71bに向けて付勢されている。弁球72が錘状部71bに当接すると弁孔71aが閉止され、弁球72が錘状部71bから離隔すると弁孔71aが開放される。弁孔71aおよび弁球72により弁装置73が構成されている。
弁孔71aの縮径された側(図17の右方)に連通して、断面積S6が中庸の中径孔71cが同心に形成されている。中径孔71cの内部には、軸線方向で内径が異なる段差を有する段付き円柱状の操作ピストン74が収容されている。操作ピストン74の弁孔71aから遠い後側の中径部74aは、弁ハウジング71の中径孔71cに液密かつ摺動可能に嵌合されている。操作ピストン74の前側の細径のピン部74bは、弁孔71aに入り込んでいる。操作ピストン74の中径部43aの前面と、弁ハウジング71の弁孔71aから中径孔71cに切り替わる段差部71dとの間に、圧縮スプリング75が介挿されている。
また、弁ハウジング71の弁孔71aの中径孔71c寄りに調整ポート71eが穿設されている。調整ポート71eを介して、中径孔71c内の操作ピストン74の前側はリザーバ25に連通されている。さらに、弁ハウジング71の中径孔71c側の端面にはサーボ圧入力ポート71fが穿設されている。サーボ圧入力ポート71fは、サーボ圧入力管路66の途中に連通され、中径孔71c内の操作ピストン74の後側にサーボ圧Psが供給される。操作ピストン74は、サーボ圧Psが供給されていない初期状態では圧縮スプリング75に付勢されて後退し、弁球72により弁孔71aが閉止されている。後述する条件が成立すると、操作ピストン74は圧縮スプリング75のばね力に抗して前進し、ピン部74bで弁球72を押動して弁孔71aを開放するようになっている。
弁孔71aの縮径されていない側(図17の左方)に連通して、断面積S7が大きい大径孔71fが同心に形成されている。大径孔71fの内部には、弁孔71aに向かい開口する有底円筒状の吸入室形成ピストン76が収容されている。吸入室形成ピストン76は、円筒外周面で弁ハウジング71の大径孔71fに液密かつ摺動可能に嵌合されている。吸入室形成ピストン76の円筒底面と、弁ハウジング71の弁孔71aから大径孔71cに切り替わる段差部71gとの間に、圧縮スプリング77が介挿されている。大径孔71fは、吸入室形成ピストン76により2つの室に区画されており、弁孔71aに連通する側が駆動室71hになり、弁孔71aから離れた側が吸入室71iとなる。また、弁ハウジング71の大径孔71fの端面には、吸入ポート71jが穿設されている。吸入ポート71jを介して、吸入室71iは第1出力管路57の分流点572に連通されている。初期状態で、吸入室形成ピストン76は圧縮スプリング77に付勢されて弁孔71aから遠ざかり、駆動室71hの内容積は最大になり、吸入室71iの内容積は最小になっている。
次に、離間増大装置7の作用について説明する。図18は、離間増大装置7の作用を説明する断面図であり、サーボ圧Psが所定圧以上になって吸入室71iの内容積が増加した状況を示している。第2実施形態と同様に、倍力装置6でサーボ圧Psが発生すると、このサーボ圧Psはサーボ圧入力管路66を介してサーボ圧入力ポート71fに入力される。操作ピストン74に作用する軸力に注目すると、サーボ圧Psと操作ピストン74の中径部74aの断面積(≒S6)とを乗算した軸力と、圧縮スプリング75のばね力および弁球72を介した圧縮スプリング72aのばね力に基づく軸力とがバランスする。ここで、前者の軸力の方が大きくなるようにばね力を予め設定しておく。したがって、サーボ圧Psが所定圧以上になると、操作ピストン74が前進して弁球72を押動し、弁孔71aを開放する。
一方、マスタシリンダ2では、サーボ圧Psにより第1および第2マスタピストン23、24が前進し、第1液圧室21fに基礎液圧PBが発生する。この基礎液圧PBは、第1出力管路57を介して吸入ポート71hにフィードバック入力される。吸入室形成ピストン76に作用する軸力に注目すると、吸入室71iの基礎液圧PBと吸入室形成ピストン76の断面積(≒S7)とを乗算した軸力と、駆動室71hの液圧と吸入室形成ピストン76の断面積(≒S7)とを乗算し圧縮スプリング77のばね力を加算した軸力とがバランスする。ここで、前者の軸力が大きくなるように、駆動室71hの液圧およびばね力を予め設定しておく。付言すると、駆動室71hの液圧は操作ピストン74を挟んでサーボ圧Psと対向しており、軸力のバランスから演算により求めることができる。したがって、吸入室形成ピストン76に作用する軸力の差により、駆動室71h内のブレーキ液が弁孔71aを通ってリザーバ25に流出し、吸入室形成ピストン76が弁孔71aに向かって移動する。
この結果、吸入室71iの内容積が増加し、第1液圧室21f内の所定量のブレーキ液が第1出力管路57から吸入室71iに流入する。したがって、第1マスタピストン23が前進し、入力ピストン22との間の離間距離D1が増大する。離間距離D1が増大した以降の作用および効果は第1実施形態と同様であり、回生制動力の増加分だけ液圧制動力を確実に減少させることができ、運転者は良好なブレーキフィーリングを感じる。また、サーボ圧Psが発生しない場合は離間距離D1が増大しないため、液圧を発生しないペダルストローク量の増大がなく、制動信頼性を維持できる。
なお、パイロット圧発生装置3、レギュレータ4、倍力装置6、および離間増大装置7の構成は、上述の実施形態に限定されない。例えば、液圧を発生させるポンプと、液圧を調整する液圧調整弁と、液圧を検出する圧力センサとを備えて、電子制御により液圧をコントロールする構成を用いることができる。本発明は、その他にも様々な応用や変形が可能である。