JP2012202908A - クリープ曲線およびクリープ寿命の予測方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】クリープ曲線の任意の部分からひずみ速度変化を評価し、クリープ曲線全体とクリープ寿命を予測する方法を提供する。
【解決手段】材料をクリープ試験して、クリープひずみの時間依存曲線を求める第1工程と、得られたクリープ曲線からクリープひずみとひずみ速度の関係を求める第2工程と、対数ひずみ速度をひずみ関数とみなして差分又は近似して得た曲線から、任意のひずみ部分における微分値dを求める第3工程と、前記の差分又は近似して得た曲線から任意のひずみ部分における曲率即ちひずみ加速因子αを求める第4工程と、ひずみ加速因子αの定義式から得られる微分方程式に、求めたd、α値を代入し積分してクリープ曲線を得る第5工程と、からなるクリープ曲線の予測方法。ひずみ速度が急激に大となる時間を破断時間とみなすクリープ寿命の予測方法。
【選択図】図20

Description

本発明は、発電プラントのボイラー部材や原子力プラントの構造材料、配管などの高温で使用されてクリープ損傷が生ずる材料のクリープ曲線およびクリープ寿命予測方法に関する。
従来のクリープ寿命予測方法として特許文献1には、クリープ損傷によって生ずる結晶粒のずれ角と測定点までの距離の比を利用して初期の段階からクリープ寿命を予測できるようにしたクリープ寿命予測方法が開示されている。また、特許文献2には、応力と材料定数θ1 〜θ4 の相関式より、クリープ予測時の条件に対応する材料定数θ1 〜θ4をそれぞれ求め、各材料定数毎に温度依存性に応じて所定の活性化エネルギーを選択し、応力と温度依存特性図を作成してクリープ予測の条件に対応する材料定数θ1 〜θ4を決定し、各材料定数θ1 〜θ4 を、3次域までのクリープ曲線の構成方程式 に代入してクリープ曲線を求め、そのクリープ曲線からクリープ変形予測及びクリープ寿命予測を行う方法が開示されている。
しかしながら、上記した方法には、クリープ試験により作成した試験片を透過電子顕微鏡で観察せねばならないという煩わしさがあったり、予測精度が満足できるほど十分高くないという欠点があった。
ところで、合金のクリープ曲線形状は変形条件に依存し、最小ひずみ速度だけでなくひずみ速度の変化も考慮すると、クリープ挙動をより正確に再現できる。発明者らは、ひずみ速度変化をひずみ加速因子(SAP-α)として定量化する方法を開発し、最小ひずみ速度(εドットmin)とひずみ加速因子αからクリープ曲線を再構築できることを見出している(非特許文献1)。
以下にひずみ加速因子αを用いたクリープ寿命予測法を説明する。
合金のクリープ特性は、最小ひずみ速度を用いて整理することができる。応力σ、温度TにおけるBird-Dorn-Mukherjeeの式は下記の式(1)で表される。
〔式(1)〕

ここで、A,Dは定数、頻度因子、b,G,k,Rは、バーガースベクトルの大きさ、剛性率、ボルツマン定数、ガス定数である。p,n,Qcは、粒径指数、応力指数、クリープの活性化エネルギーで、クリープ特性を特徴づける。
最小ひずみ速度(εドットmin)は、クリープ曲線の傾きの最小値であり(図1の直線部)、クリープ曲線の形状の一部を反映する。ひずみ加速因子αは(2)式で定義される。この値は、最小ひずみ速度近傍における、対数ひずみ速度−ひずみ線図の曲率に相当する。
〔式(2)〕

時間t、ひずみεにおけるひずみ速度は、ひずみ−時間線図の勾配で、実験によって得られたひずみと時間の関係から、差分又は近似を用いて計算される。ひずみ加速因子αは、ひずみ速度の二階微分で、実験によって得られるひずみ−時間の関係からは、三階の微分量の計算が必要になる。ここでは、最小自乗スプライン近似法を用いてひずみ加速因子αを求めた。図2には最小自乗スプライン近似法の説明図を示す。黒丸は差分によるひずみの微分値であり、白丸は最小自乗スプライン近似した値である。
Mg-Al固溶強化合金の真応力一定試験によって得られたクリープ曲線を解析に用いた。溶質濃度は、0.6, 1.06, 2.97mol%の3種類で、粒径dは0.2mm,試験条件は550K,30MPaである。図3には、実験によって得られたクリープ曲線を×印で示した。
図4に対数ひずみ速度−ひずみ線図を示す。実験結果に基づいて見積もられたひずみ速度を小点で示す。溶質濃度によってひずみ速度変化の感受性は異なり、溶質濃度の低い合金では変化が緩やかであるのに対し、溶質濃度の高い合金では変化が大きい。大点のひずみ範囲で、対数ひずみ速度をひずみの関数とみなしてスプライン近似し、最小ひずみ速度における曲率をひずみ加速因子αとした。その値を図4中に示した。ひずみ加速因子αは、最小ひずみ速度近傍のクリープ曲線の形状を反映している。
一方、ひずみ加速因子αの定義から式(3)の微分方程式が得られる。
〔式(3)〕

B,Cは、最小ひずみ速度が現れるひずみと最小ひずみ速度で定まる定数である。この式を適当な初期条件の下で数値的に積分すると、ひずみと時間の関係、すなわちクリープ曲線が得られる(図5)。また、得られたクリープ曲線を実測値と比較して図3中に示した。実験によって得られたクリープ曲線と、数値積分によって得られたクリープ曲線の予測値はよく一致している。
ひずみ速度が急速に大となる時間を破断時間とみなすと、最小ひずみ速度近傍のクリープ曲線から破断寿命を外挿できる。図6に、破断寿命tの実験値(黒四角)と、数値積分で得られた破断寿命の予測値(白丸)を比較して示す。実験値と予測値はよく一致した。また、破断寿命は溶質濃度に比例して長くなった。
以上のSAP-α法は、以下の工程からなる。
工程1:対象材料を真応力一定にてクリープ試験して、クリープひずみ(ε)の時間依存曲線(図3の×点)を求める。
工程2:得られたクリープ曲線からクリープひずみ(ε)と対数ひずみ速度(εドット)の関係を求める(図4)。
工程3:最小ひずみ速度(εドットmin)を含む曲線部分(図4の大点部分)において、対数ひずみ速度をひずみの関数とみなして最小自乗スプライン近似したうえに、最小ひずみ速度における曲率を求めて、これをひずみ加速因子αとなす。
工程4:ひずみ加速因子αの定義式から得られる微分方程式(3)に、工程3で求めたα、および定数B、Cの値を代入して、この式を適当な初期条件のもとで数値的に積分することによって、クリープ曲線を得る(図5)。
工程5:得られたクリープ曲線からひずみ速度が急激に大となる時間を破断時間とみなして、クリープ寿命となす(図6)。
以上のように、ひずみ加速因子α(SAP-α法)を用いると、ひずみ速度変化の様相を定量的に表すことができるだけでなく、クリープ曲線を再構築し、かつクリープ寿命をも予測することができる。
特開平7−113769号公報 特開平7−198588号公報
軽金属,Vol.60,(2010)No.7,P353-355.
上記したように、発明者らは、ひずみ速度変化をひずみ加速因子αとして定量化する方法(SAP-α法)を開発し、最小ひずみ速度とひずみ加速因子αからクリープ曲線の再構築、クリープ寿命の予測が可能であることを見出した。この方法を拡張すると、クリープ曲線の任意の部分からクリープ曲線全体の再構築及び寿命予測が可能となる。したがって、短時間の試験で得られたクリープ曲線からクリープ寿命の予測が可能となる。
本発明は、クリープ曲線の任意の部分からひずみ速度変化を評価し、クリープ曲線全体とクリープ寿命を予測する方法を提供することを課題とする。
上記の課題を解決するためになされた本発明のクリープ曲線の予測方法は、対象材料をクリープ試験して、クリープひずみの時間依存曲線を求める第1工程と、
得られたクリープ曲線からクリープひずみとひずみ速度の関係を求める第2工程と、
対数ひずみ速度をひずみの関数とみなして差分又は近似して得た曲線から、任意の部分における微分値を求めて、これを係数dとなす第3工程と、
前記の差分又は近似して得た曲線から、任意の部分における曲率を求めて、これをひずみ加速因子αとなす第4工程と、
ひずみ加速因子αの定義式から得られる下記微分方程式に、工程3、4で求めたd、αの値を代入して、この式を初期条件のもとで積分することによって、クリープ曲線を得る第5工程と、からなることを特徴とするものである。
ここで、d、α、微分方程式は、以下のとおりである。
〔d〕
〔α〕
〔微分方程式〕

上記した式において、bはひずみ加速因子αを評価した任意の部分におけるひずみ、cはその部分におけるひずみ速度、Aは定数でloge10である。
また、本発明のクリープ寿命の予測方法は、請求項1に記載の方法によって得られたクリープ曲線からひずみ速度が急激に大となる時間を破断時間とみなして、クリープ寿命を求めることを特徴とするものである。
本発明のクリープ曲線の予測方法は、例えば最小ひずみが得られるひずみの半分のひずみ、または最小ひずみが得られる時間の半分の時間におけるクリープ曲線の実測値からクリープ曲線を予測することができる。よって、長時間の遷移クリープが現れて、最小ひずみ速度の評価が困難な合金や条件においても、短時間の実験データからクリープ曲線を予測することができる。また、実用耐熱合金のクリープ曲線においては、1次クリープと2次クリープがごく短いか全く観察されずに、3次クリープ(加速クリープ)のみが現れる場合がある。本発明方法は、このようなクリープ曲線からもクリープ曲線を外挿できるという大きな利点がある。
また、本発明のクリープ寿命の予測方法は、短時間の実験データを基にして迅速にクリープ寿命を評価することができるし、3次クリープのみが現れる場合においても、クリープ寿命を予測することができる。
最小ひずみ速度を説明するグラフである。 最小自乗スプライン近似法を説明するグラフである。 実験値(×)と予測値(・)を比較して示すクリープ曲線である。 ひずみ速度のひずみ依存性を示すグラフである。 ひずみ加速因子αを用いて予測されたクリープ曲線を示すグラフである。 クリープ寿命の実験値と予測値を比較して示すグラフである。 クリープ曲線、即ち時間とひずみの関係の実測値の例である。 図7の曲線から得たひずみとひずみ速度の関係を示すグラフである。 図8の曲線から得たひずみと対数ひずみ速度の微分値の関係を示すグラフである。 図8の曲線の任意の部分においてひずみ加速因子αを求める説明図である。 550K,40MPaにおける実験値と予測値を比較して示すクリープ曲線である。 600K,50MPaにおける実験値と予測値を比較して示すクリープ曲線である。 600K,30MPaにおける実験値と予測値を比較して示すクリープ曲線である。 クリープ寿命の予測値と実験値の比を示すグラフである。 差分により単純微分して得られた曲線と最小自乗スプライン近似して得られた曲線を示すグラフである。 主として3次クリープからなるクリープ曲線の実測値である。 図16から差分により求めた対数ひずみ速度とひずみの関係を示すグラフである。 任意のひずみbにおけるcと係数dの値を示す説明図である。 対数ひずみ速度の勾配曲線から任意のひずみbにおいて求めたひずみ加速因子αの値を示す説明図である。 クリープ曲線の実測値と予測値を対比して示すグラフである。 ひずみ加速指数αを二次式で近似して求める方法の説明図である。
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明においては、ひずみ加速因子αを下記の(4)式で定義する。この値は、クリープ曲線の任意の部分における、対数ひずみ速度−ひずみ線図の曲率に相当する。
〔式(4)〕

時間t、ひずみεにおけるひずみ速度は、ひずみ−時間線図の勾配で、実験によって得られたひずみと時間の関係から、差分又は近似を用いて計算される。近似として最小自乗スプライン近似、スプライン近似、最小自乗近似を用いることができる。ひずみ加速因子αは、ひずみ速度の二階微分で、実験によって得られるひずみ−時間の関係からは、三階の微分量の計算が必要になる。既記したように、最小自乗スプライン近似法を用いてひずみ加速因子αを求める。あるいは、対数ひずみ速度-ひずみ線図を二次の多項式で近似して、その係数からひずみ加速因子αを求める。
ひずみ加速因子αの定義式(4)から式(5)が得られる。
〔式(5)〕

ここで、bはひずみ加速因子αを評価した任意の部分におけるひずみ(εany)、cはその部分におけるひずみ速度(εドットany)の対数、dはその部分における対数ひずみ速度の変化率であり、以下の式(6)で表される。
〔式(6)〕

すなわち、時間t、ひずみ(εany)、ひずみ速度(εドットany)のほかにα、dの二つの量を求めて、式(5)に代入すればひずみ(ε)とひずみ速度(εドット)の関係を求めることが可能となる。
以下に、本発明のクリープ曲線予測方法を図面に基づき説明する。
初めに、クリープ試験を行ってクリープ曲線を実測する。試験は遷移領域の一部でもよいが、予測値と突き合わせるために、図7に示すように最終破断までのクリープ曲線を求めた。図7からひずみ(ε)とひずみ速度(εドット)の関係を求めたうえ、対数ひずみ速度をひずみの関数とみなして最小自乗スプライン近似曲線を求める(図8)。図15には、単純微分して得られた曲線から最小自乗スプライン近似して得られた曲線の例を示す。近似には、最小スプライン近似のほか2次以上の曲線近似を用いることもできる。
この近似曲線を微分してひずみ(ε)と、log(εドット)の微分値の関係を求めて、任意のひずみ部分(εany)におけるlog(εドット)の微分値を求めて、係数dとなす(図9)。近似曲線に代えて単純微分、差分によって得られた曲線を用いることもできる。また、ひずみとして、図9に示したように、1次クリープのひずみを用いることもできるし、2次クリープ、3次クリープにおけるひずみを用いることができる。
さらにひずみ(ε)とlog(εドット)の微分値の関係から、前記任意のひずみ部分(εany)における接線の傾きを求めて、ひずみ加速因子αとなす(図10)。
任意のひずみ部分における時間t、その部分におけるひずみb、その部分における対数ひずみ速度c、および求めたd、αの値を式(5)に代入して、初期条件のもとで数値的に積分することによって、予測クリープ曲線を得ることができる。積分の方法として、ハミング法又はミルン法又はルンゲッタ法又はオイラー法を用いることができる。
任意のひずみ部分として、例えば、最小ひずみ速度をとるひずみの半分のひずみの部分(half-strain)を用いることができる。ひずみと時間の関係は、図7において求められているので、任意のひずみ部分に代えて、最小ひずみ速度をとる時間の半分の時間の部分(half-time)を用いることができる。
Mg-3Al合金について,550K,40MPaの条件、および600K,50MPaの条件で試験した実測値と予測値の対比を、図11,12に示す。図中□minimumは最小ひずみ速度を用いたSAP-α法によって求めた予測値であり、*half-strainは最小ひずみ速度をとるひずみの1/2の位置を用いて求めた予測値であり、▽half-timeは最小ひずみ速度をとる時間の1/2の位置を用いて求めた予測値である。
図13には,Mg-3Al合金について、600K,30MPaでの実験値と予測値を比較して示す。予測クリープ曲線は実測クリープ曲線とよく一致している。
図11,12、13の実測曲線、予測曲線等から求めたクリープ寿命の予測値/実測値の比を図13に示すが、予測値は実測値を超えることはなく、予測される偏差は安全側にあることが確かめられた。
以下に3次クリープからの予測法の実施例を説明する。
図16には実験によって得られたクリープ曲線を示すが、初期の時間から3次クリープが現れている。これを差分して図17に示すひずみと対数ひずみ速度の関係を得る。そして、任意のひずみとして、例えば3次クリープ域におけるひずみb=0.0207をとると、この時の対数ひずみ速度c=-5.911であり、この点における曲線の微分値d=9.478となった(図18)。
さらにひずみ(ε)とlog(εドット)の微分値の関係曲線、図19を求めて、任意のひずみbにおける接線の傾きを求めて、これをひずみ加速因子αとなす。この場合のαは416.2となった。
任意のひずみ部分における時間t、その部分におけるひずみb、その部分における対数ひずみ速度c、および求めたd、αの値を式(5)に代入して、初期条件のもとで数値的に積分することによって、図20に示す予測クリープ曲線を得ることができた。クリープ曲線の予測値は実測値とよく一致した。また、クリープひずみが急激に大となる時間、即ちクリープ寿命は約41ksと見積もられ、実験値とよく一致している。なお、図20において、任意のひずみεanyに対応する時間tは20.46ksとなっており、積分にはこの値を用いた。
ひずみ加速指数αを求める方法として、図21に示すように、評価の範囲を2次式で最小自乗法にて近似して求めることもできる。

Claims (2)

  1. 対象材料をクリープ試験して、クリープひずみの時間依存曲線を求める第1工程と、
    得られたクリープ曲線からクリープひずみとひずみ速度の関係を求める第2工程と、
    対数ひずみ速度をひずみの関数とみなして差分又は近似して得た曲線から、任意のひずみにおける微分値を求めて、これを係数dとなす第3工程と、
    前記の差分又は近似して得た曲線から、任意のひずみにおける曲率を求めて、これをひずみ加速因子αとなす第4工程と、
    ひずみ加速因子αの定義式から得られる下記微分方程式に、工程3、4で求めたd、αの値を代入して、この式を初期条件のもとで積分することによって、クリープ曲線を得る第5工程と、からなることを特徴とするクリープ曲線の予測方法。
    ここで、d、α、微分方程式は、以下のとおりである。
    〔d〕

    〔α〕

    〔微分方程式〕

    上記した式において、bはひずみ加速因子αを評価した任意のひずみ、cはその任意のひずみにおける対数ひずみ速度、Aは定数でloge10である。
  2. 請求項1に記載の方法によって得られたクリープ曲線からひずみ速度が急激に大となる時間を破断時間とみなして、クリープ寿命を求めることを特徴とするクリープ寿命の予測方法。
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