JP2012188358A - 防虫剤、液状防虫剤、防虫洗剤、防虫繊維製品及び防虫繊維製品の製造方法 - Google Patents

防虫剤、液状防虫剤、防虫洗剤、防虫繊維製品及び防虫繊維製品の製造方法 Download PDF

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Abstract

【目的】本発明は、動植物から抽出される天然物から新規防虫剤を発見し、環境に良く安全で健康に良い防虫剤、液状防虫剤、防虫洗剤などを提供する。
【構成】本発明はミツバチの巣から抽出されるミツロウを防虫成分とした防虫剤で、前記ミツロウを溶媒に分散又は溶解して液体状態にした液状防虫剤である。前記溶媒として天然物から抽出されたユーカリやリモネン等の液体防虫成分を使用することもできる。また、前記溶媒としてミツロウを分散又は溶解させるアルコールなどの有機溶媒を用いる。前記防虫剤を洗剤に配合した防虫洗剤も提供でき、洗剤100重量部に対し前記防虫剤を0.003〜10重量部添加することができる。また、繊維製品の表面積1cm2当たりにミツロウを0.108ng以上担持させて防虫効果を発揮する防虫繊維製品を提供できる。
【選択図】図2

Description

本発明は、防虫剤及び防虫洗剤に関し、特に、天然由来物質を防虫成分とした防虫剤、液状防虫剤、防虫洗剤、防虫繊維製品及び防虫繊維製品の製造方法に関する。
衣類用防虫剤としては、古くから安全な天然樟脳が使用されてきたが、生産量に限界があり、しかも高価であるという弱点があった。石炭や石油を原料とする合成化学の進展に伴い、樟脳に代わる合成物質としてナフタリン系物質やパラジクロルベンゼン系物質が開発され、合成固形防虫剤として広範囲に使用されるまでになった。しかし、これらの合成固形防虫剤は特有の臭気を有する欠点があった。そのため、無臭性の合成防虫剤の研究が盛んになり、特開2008−56605号公報(特許文献1)に見られるように、ピレスロイド系の合成無臭防虫剤が普及するに至っている。
近年になり、環境科学の普及に伴って、合成化学物質の功罪が特に議論されるようになり、民生化学品分野ではより安全な天然物質を使用する方向へ舵が切られつつある。従って、防虫剤分野でも、合成防虫剤から天然防虫剤へと変化しつつある。例えば、インターネットのホームページでWikipediaの「防虫剤」(非特許文献1)に見られるように、コメなどの食品用防虫剤として、ワサビ、唐辛子、シソ、茶エキスなどの食品由来の防虫成分を使用した防虫剤が開発されつつある。その他、天然防虫成分として、樹木のヒバやヒノキの抽出成分、柿シブ、木酢液、ヒトデの抽出成分などが知られている。
本発明者等は、天然防虫成分としてユーカリを研究する中で、液状のユーカリが時間経過とともに蒸発するので、蒸発抑制剤として天然のミツロウをユーカリに分散・溶解させ、防虫成分であるユーカリの蒸発速度を低下させて防虫性能の長寿命化実験を行っていた。そこで、ユーカリを防虫成分とし、ミツロウを蒸発抑制物質とする特願2010−66572(特許文献2)を既に出願した。その中で、偶然にもミツロウ自体に防虫性能が存在することを発見するに至った。そこで、天然物質であるミツロウについて過去の文献及びインターネットホームページを調査した。
特公昭61−4439号公報(特許文献3)は洗剤組成物に関する発明を開示しており、特許請求の範囲の請求項16に、蜜蝋(ミツロウ)が洗剤組成物の脂肪酸エステル助剤の一種として使用されることが記載されている。ここでは、ミツロウはあくまで洗剤の助剤の一種として使用されるだけで、防虫効果を有することは記載されておらず、示唆さえされていない。
また、特許第4115827号公報(特許文献4)も洗剤組成物に関する発明を開示しており、抗菌抗酸化物質を担持した粘土鉱物とバインダーからなる造粒物粒子を表面被覆剤で被覆した表面被覆粒子を含有する洗剤組成物が記載されている。特に、第8頁の[0037]に、表面被覆剤の一種であるワックス類・蝋類の一例としてミツロウが例示されている。ここでは、ミツロウはあくまで洗剤の表面被覆剤の一例として使用されるだけで、防虫効果を有することは記載されておらず、示唆さえされていない。
本発明者等の鋭意調査にも拘わらず、ミツロウが防虫剤として使用される特許文献は全く発見されなかった。そこで、インターネットのホームページにミツロウの防虫性能に関する調査を行った。まず、Wikipediaの「ミツロウ」(非特許文献2)を調査し、次にWikipediaの「プロポリス」(非特許文献3)を調査した。プロポリスとミツロウとはミツバチの巣から得られる近縁物質と思われたからである。更に、インターネットの検索から発見された日本補完代替医療学会誌(非特許文献4)を調査した。
特開2008−56605号公報 特願2010−66572号公報 特公昭61−4439号公報 特許第4115827号公報
Wikipediaの「防虫剤」、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%B2%E8%99%AB%E5%89%A4。 Wikipediaの「ミツロウ」、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%84%E3%83%AD%E3%82%A6。 Wikipediaの「プロポリス」、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%82。 「補完代替医療素材としてのプロポリス」、日本補完代替医療学会誌、第2巻、第1号、2005年2月、pp.45−57。
Wikipediaの「ミツロウ」(非特許文献2)によれば、ミツロウ(蜜蝋、Beeswax)は、ミツバチの巣を構成する蝋で、働きバチの腹部の腹面に対を成して存在する蝋腺から分泌されたものであり、主成分はパルミチン酸ミリシルと記載されている。古来より、ロウソクの原料として使用され、ミツロウに顔料を溶かして描くエンカウスティーク技法による肖像画は、経年劣化が無く耐久性が高い素材であることが書かれている。また、「洋菓子のカヌレの型に塗る油は蜜蝋が使用される。」と記載されるように、ミツロウは食しても極めて安全な材料である。その中で、中国医薬大辞典によれば、「有直接凝固血液之功。且有制腐滅菌之効」と記載されている。この記載は、「ミツロウが防腐効果と滅菌効果を有する」ことを意味しているが、防虫効果に関しては全く記載されておらず、示唆さえされていない。腐敗が菌により生じる事実から、滅菌効果・抗菌効果がある物質は防腐効果があることは直接的且つ一義的に理解できる。しかし、滅菌効果・抗菌効果と防虫効果の間には直接的な因果関係はない。例えば、アルコール消毒から分かるように、エチルアルコールが滅菌効果を有することは常識である。他方、虫がアルコール好きであることはよく知られている。ビールや酒にカ、ハエ、カブトムシ等が集まることは周知である。従って、ミツロウに滅菌効果があっても、防虫効果があるかどうかは全く不明であり、防虫効果があるかどうかは物質毎に防虫判定しなければ分からないのである。この点を証明するために、本発明者等は周知の殺菌剤が防虫効果を発現するかどうかについて、詳細な実証実験を行ったので、比較例として本明細書の最終段で詳述する。
Wikipediaの「プロポリス」(非特許文献3)によれば、プロポリスはミツバチが野外から採取した植物の樹脂などを練り合わせたもので、営巣空間の内面を内張りしたり隙間を埋めるために使う物質であると書かれている。つまり、プロポリスはミツバチの生息環境に生育する植物の樹脂の混合物であり、ミツバチの分泌物ではない。この点で、プロポリスとミツロウとは完全に異なる。プロポリスを集めるミツバチはセイヨウミツバチのみで、ニホンミツバチやトウヨウミツバチはプロポリスを集めないと書かれているから、日本産やアジア産のミツロウにはプロポリスは含有されないということになる。しかし、欧米で採取されるミツロウにはプロポリスが混合している。ハチの巣からミツロウとプロポリスを分離して回収するのが困難であるからだと思われる。特に、文章中で、プロポリスは「確かに一定の殺菌性、抗酸化性、抗炎症性、抗腫瘍作用が報告されているものの、その効果はあまり高くない」と記載されているが、防虫作用については全く記載されておらず、示唆さえされていない。上述した通り、殺菌性と防虫作用は全く別異の概念であり、殺菌性・抗菌性を有する物質でも防虫効果を有さない物質は多数存在する。この点については、前述したように比較例として後述する。従って、セイヨウミツバチの巣から採取されるプロポリスやミツロウに防虫作用があることは、当業者でさえ全く新規であり、Wikipediaの文章中にも記載されておらず、示唆さえされていないのである。
日本補完代替医療学会誌に掲載された「補完代替医療素材としてのプロポリス」(非特許文献4)には、「ミツバチの巣から得られるプロポリスが、古代エジプトではミイラ作りに使われていた。」と記載され、これは「蜂の巣箱の中からプロポリスに包まれて腐敗を免れたネズミの死体が見つかり、それを見て死体を永遠に保存する方法として閃いたのではないか」と述べられている。前記ミツバチはセイヨウミツバチであるから、プロポリスと言ってもミツロウを含有したプロポリスである。この記載から、プロポリス又はミツロウが防腐効果を有することは理解されるが、防虫効果を有することは一切記載されておらず、示唆さえされていない。前述したように、防腐効果と防虫効果とは全く別異の概念であり、防虫効果を有するかどうかを独自に試験する以外に、ミツロウの防虫効果を発見することは不可能であった。この様な状況の中で、本発明者等が、ミツロウの防虫効果を実験的に初めて証明し、本発明を完成したものである。
本発明は、ミツロウの防虫効果を新規に発見して為されたものであり、ミツバチが産生する天然物であるミツロウを防虫剤として利用するから、健康的で安全性に優れ、しかも食しても安全である。また、皮膚への接触や誤って食べても全く心配が無く、更に、ろう材の一種であるから昇華や揮散が殆ど無く長寿命であり、洗剤中に含有させて洗濯時に繊維製品に担持させたり、スプレーや浸漬などにより繊維製品に担持させることができる防虫剤、液状防虫剤、防虫洗剤、防虫繊維製品及びその製法を提供することを目的としている。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1形態は、ミツロウを防虫成分として含有する防虫剤である。
本発明の第2形態は、ミツロウを溶媒に分散又は溶解して液体状態にした液状防虫剤である。
本発明の第3形態は、前記溶媒が天然物から抽出された液体防虫成分である液状防虫剤である
本発明の第4形態は、前記溶媒が、ミツロウを分散又は溶解させる有機溶媒である液状防虫剤である。
本発明の第5形態は、第1形態〜第4形態のいずれかの防虫剤又は液状防虫剤を洗剤に配合した防虫洗剤である。
本発明の第6形態は、洗剤100重量部に対し防虫剤又は液状防虫剤であるミツロウを0.003〜10重量部添加した防虫洗剤である。
本発明の第7形態は、第1形態〜第6形態のいずれかに記載の防虫剤、液状防虫剤又は防虫洗剤を用いて繊維製品にミツロウを担持させ、繊維製品の表面積1cm2当たりに前記ミツロウを0.108ng以上担持させる防虫繊維製品の製造方法である。
本発明の第8形態は、繊維製品の表面積1cm2当たりにミツロウを0.108ng以上担持させた防虫繊維製品である。
本発明の第1形態によれば、ミツロウを防虫成分として含有する防虫剤が提供される。前述したように、従来からミツロウは滅菌剤・防腐剤として周知であったが、防虫剤としては全く知られていなかった。本発明者等は、ユーカリ等の油状防虫剤の中にミツロウを分散・溶解して前記油状防虫剤の蒸発抑制を研究する中で、ミツロウが単独で防虫効果を有することを発見して、本発明を完成したものである。エジプトの古代文明以来知られていたミツロウに防虫作用があることを本発明者等が初めて発見し、世に明らかにしたものである。ミツロウは古代からロウソクの材料としても使用されており、ミツロウ自体は固体成分であり、固体状態では蒸発することは殆ど無い。従って、ミツロウを防虫剤として使用するには、繊維製品にミツロウを直接塗布する必要がある。塗布方法として、例えば固体のミツロウを繊維製品に直接塗り込む方法、他の油状物質に分散・溶解させてスプレーや浸漬などで繊維製品に含浸させる方法、洗剤中にミツロウを分散・溶解させて洗剤で洗濯する際にミツロウを繊維製品に担持させる方法、又はミツロウを加熱して得られる溶融液を繊維製品に薄く塗布する方法など、繊維製品への各種の担持方法が選択される。前記洗剤としては、ミツロウを粉末洗剤に混入させておけば、洗濯時に粉末洗剤の界面活性剤によりミツロウは水中に分散・溶解する。勿論、初めから液体洗剤中にミツロウを界面活性剤により分散・溶解させることも可能である。従来の固体防虫剤は昇華性を有する物質に限定されており、昇華した気体蒸気が繊維製品に浸み込んで繊維製品を虫から保護する作用を行っている。それに対して、ミツロウはロウ材であるから昇華性は殆ど無く、一旦、繊維製品に薄く担持されると、恒久的に繊維製品に対する防虫効果を持続すると云う長所を有する。勿論、繊維製品を洗濯するとミツロウも脱落し易いから、ミツロウを再度担持させる必要性はある。
本第1形態のミツロウは、ニホンミツバチ、トウヨウミツバチ、セイヨウミツバチ、その他のミツバチから分泌されるロウ材で、ミツバチの巣から加熱圧搾して採取されるロウ材であれば全て使用できる。ミツバチの種類によってミツロウの成分は変化するが、成分の一例として、化学大辞典9の「ミツロウ(蜜蝋)beeswax」から転記すると、主成分はパルミチン酸ミリシル、セロチン酸ミリシル、ヒポガエン酸ミリシルなどのエステルで、この他にリグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、プシリン酸、ヒポガエン酸などの遊離酸、ペンタコンタン、ヘプタコンタン、ノナコンタン、ヘントリアコンタン、メレンなどの炭化水素及びその遊離アルコールを含み、不ケン化物は48〜56%である。また、ミツロウの性質は、帯カツ黄色を有するが精製脱色すれば白色となり、融点は62〜66℃である。溶解性に関しては、エーテル、クロロホルム、四塩化炭素に可溶であるが、冷ベンゼン、二硫化炭素に一部可溶であり、アルコールには冷時易溶・煮沸時難溶、水に不溶、常温において植物油に可溶・鉱物油に不溶である。本発明で使用できるミツロウには、ミツバチの巣から得たロウを精製したミツロウ及び/又はミツロウを漂白したサラシミツロウが利用できる。また、「日本薬局方」および「医薬部外品原料規格」に適合したものであれば、医薬品基剤や各種化粧品基剤としても利用されるから、安全なミツロウ防虫剤を提供することができる。
本発明のミツロウは、ミツロウ単体でもよいし、ミツロウにプロポリスが混入していてもよい。茲で、ミツロウと誤解を生じやすいプロポリスについて、「デジタル大辞泉」の記載により説明しておく。ミツロウはミツバチが体内で産生するロウ材であるのに対し、プロポリスはミツバチが採集してきた木の樹脂とミツバチの唾液を混ぜ合わせてできた物質である。古くから民間薬として世界各地で用いられてきた。ドイツのキール大学のハーブステン教授(医学博士)が発表しているプロポリスの組成成分は、樹脂、膠質:約50〜55%、蝋分:約30%、精油・揮発油:約10%、花粉:約5%、有機物・ミネラル類:約5%である。また、プロポリスの抽出方法は、アルコール抽出、水抽出、ミセル化抽出、アルコールと水の二段階抽出、超臨界抽出等がある。また、Wikipediaによれば、プロポリスを集める性質を持つのは、木の洞などの中に営巣する閉鎖空間営巣性のミツバチのうち、セイヨウミツバチのみである。亜種のニホンミツバチを含むトウヨウミツバチなどはこれを集めない。従って、ミツロウとプロポリスは全く異なる物質である。
本発明の第2形態によれば、ミツロウを溶媒に分散又は溶解して液体状態にした液状防虫剤が提供される。前述したように、ミツロウは固体のロウ材であるから、ミツロウを繊維製品に塗り込んで担持させることは可能であるが、膜厚を均一に薄く塗り込むことは難しい。そこで、本第2形態によれば、ミツロウを溶媒に分散又は溶解させた液状防虫剤であるミツロウ溶液を調製する。このミツロウ溶液を繊維製品にスプレーしたり、ミツロウ溶液中に繊維製品を浸漬したり、ミツロウ溶液が液体洗剤の場合にこの液体洗剤で繊維製品を洗濯すれば、繊維製品中にミツロウを所定の濃度で担持することが容易になる。ミツロウを分散又は溶解する溶媒として、有機溶媒が使用できる。この有機溶媒を例示すると、エーテル、クロロホルム、四塩化炭素、アルコール、植物油等があり、アルコールや植物油などは安全に使用できる有機溶媒である。また、ミツロウは各種の界面活性剤を用いて水に分散・溶解させることができ、液体洗剤として提供することができる。
本発明の第3形態によれば、前記溶媒が天然物から抽出された液体防虫成分である液状防虫剤を提供することができる。前述したように、ミツロウは植物油に溶解する性質を有する。この植物油として防虫性能を有した植物油であれば、ミツロウの防虫性能と溶媒である植物油の防虫性能が重畳して効力の高い液状防虫剤を提供できる。一般に植物は特定の虫を忌避しないが、他の虫は忌避するといった虫の選択忌避性を有するものが多いから、一般的に言って、植物から精製された植物油は防虫性能を有するものが多い。防虫性能を有した植物油を例示すると、ユーカリ、リモネン、ニーム油、キャノーラ油、綿実油、大豆油等が利用でき、特にユーカリやリモネンの防虫力が高いことは本発明者等の研究により明らかになった。詳細に述べると、天然由来物質のユーカリは、ユーカリ樹木の葉等から抽出される油成分である。従来からユーカリ油成分には殺菌作用や解毒作用があることが知られているが、本発明者らが衣類の虫食い実験を試みたところ、ユーカリには強力な防虫効果があることの知見を得るに至った。また、天然由来物質のリモネンは、レモンなどの柑橘類の果皮等に含まれる物質である。従来からリモネンは香料に使用されているが、本発明者らが衣類の害虫実験を試みたところ、リモネンにはユーカリと同様に、強力な防虫効果があることの知見を得るに至った。ユーカリ又はリモネンを防虫剤として使用する本発明者等の発明は、上記特許文献2(特願2010−66572号)に記載されている。
本発明の第4形態によれば、前記溶媒が、ミツロウを分散又は溶解させる有機溶媒である液状防虫剤を提供できる。ミツロウを溶解する有機溶媒としては、エーテル、クロロホルム、四塩化炭素、アルコール、植物油などがある。これらの有機溶媒には、防虫性能を有するものも、防虫性能を有さないものもある。防虫性能を有する有機溶媒にミツロウを分散・溶解させた液状防虫剤では、防虫性能はミツロウと有機溶媒の重畳になり、防虫効果はかなり高くなる。また、防虫性能を有さない有機溶媒にミツロウを分散・溶解させた液状防虫剤では、防虫性能はミツロウ単独の性能になるが、ミツロウの防虫効果はかなり高く、有効な液状防虫剤を提供することができる。
本発明の第5形態によれば、第1形態〜第4形態のいずれかの防虫剤又は液状防虫剤を洗剤に配合した防虫洗剤を提供できる。防虫剤側は、固形防虫剤(粉末防虫剤を含む)と液状防虫剤に分かれる。また、洗剤側でも、固形洗剤(粉末洗剤を含む)と液体洗剤に分かれる。従って、固形防虫剤と固形洗剤、及び液状防虫剤と固形洗剤を組み合せると固形防虫洗剤(粉末防虫洗剤を含む)になる。他の2種の組合せ、即ち固形防虫剤と液体洗剤の組合せ、及び液状防虫剤と液体洗剤の組合せでは、全てが液体防虫洗剤になる。固形防虫洗剤では、防虫剤を防虫洗剤に均一に分散させておくと、繊維製品を水中で洗濯するときに、防虫洗剤が溶解しながら防虫剤が水中で均一に溶解・分散し、防虫剤が繊維製品に均一に担持され、繊維製品全体の防虫力が高くできる利点がある。また、液体防虫洗剤の場合には、繊維製品を水中で洗濯するときに、液体防虫洗剤は容易に水中に均一溶解するから、防虫剤の水中均一性は極めて高く、防虫剤が繊維製品全体に均一に担持され、繊維製品全体の防虫力をより一層に高くできる利点がある。
本発明の第6形態によれば、洗剤100重量部に対し防虫剤又は液状防虫剤であるミツロウを0.003〜10重量部添加した防虫洗剤を提供できる。下限値である0.003重量部未満になると、繊維製品を洗濯した際に繊維製品に担持される防虫剤の担持量が少なくなり過ぎて防虫効果が発揮できなくなる。また、上限値である10重量部を超えると、洗剤の粘性や透明性などの洗剤機能が損なわれ、洗剤を用いて繊維製品を洗濯しても十分な洗浄効果が発揮できなくなる。本発明の防虫剤又は液状防虫剤の主成分はミツロウであり、防虫剤又は液状防虫剤の全量がミツロウであるとして数値計算して上記範囲の妥当性を検討する。本形態によれば、洗剤100gにミツロウを0.003g〜10gの範囲で添加することになる。一回の洗濯で、繊維製品W(g)を洗剤w(g)・水1000(g)で洗濯するとすれば、水1000(g)中のミツロウの質量範囲は0.003×w/100(g)〜10×w/100(g)になる。例えば繊維製品W(g)がJISウール布であるとすれば、0.67W(g)[JISウールは0.67W(g)保持する能力を有する]の水分を保持するため、繊維製品W(g)に担時されるミツロウの質量は、0.003×w×0.67W/100/1000(g)〜10×w×0.67W/100/1000(g)の範囲になる。従って、整理すると、ミツロウの質量範囲は、2.01×10-8w/W(g)〜6.7×10-5w/W(g)である。w=1.5gの洗剤量でW=50gの繊維製品を洗濯すると、繊維製品1gに担持されるミツロウは3×10-8g〜10-4gになり、ナノグラム、即ち10-9g=1ngを用いると、繊維製品1gに担持されるミツロウは30ng〜105ngになる。後述するように、本発明者等の研究によれば、ミツロウの防虫効果を発現するためには、繊維製品1g当たりに10ng以上のミツロウを担持させることが必要である。上記の例では、30ng〜105ngの範囲になるから、洗浄水と共に流出するミツロウを考慮すれば、下限値が10ng程度になることは妥当である。従って、本第6形態の範囲は妥当である。ミツロウ以外の防虫剤を混合させている場合には、上記の計算ではミツロウ質量は低減するが、その低減量だけ他の防虫剤が混入されるから、上記範囲が防虫性能の有効範囲として適用されることは妥当である。
本発明の第7形態によれば、第1形態〜第6形態のいずれかに記載の防虫剤、液状防虫剤又は防虫洗剤を用いて繊維製品にミツロウを担持させたとき、繊維製品の表面積1cm2当たりに前記ミツロウを0.108ng以上担持させる防虫繊維製品の製造方法である。第6形態では、繊維製品1g当たりに10ng以上のミツロウを担持させることが必要であると述べたが、繊維製品の表面積当たりで表現すると、繊維製品の表面積1cm2当たりにミツロウを0.108ng以上担持させることにより、ミツロウの防虫性能を発揮させることができる。ミツロウの担持方法については、塗り込み法、スプレー法、浸漬法、洗剤洗濯法など各種存在する。どの担持方法でもよいが、繊維製品の表面積1cm2当たりにミツロウを0.108ng以上担持させれば、繊維製品の防虫性能を保持することができる。
本発明の第8形態によれば、繊維製品の表面積1cm2当たりにミツロウを0.108ng以上担持させた防虫繊維製品である。後述するように、本発明者等の研究によれば、繊維製品の表面積1cm2当たりにミツロウを0.108ng以上担持させた場合には、繊維製品の防虫性能を効率よく発揮することが可能になる。従って、ミツロウを使用して繊維製品に防虫加工する場合には、繊維製品の表面積1cm2当たりにミツロウを0.108ng以上担持させることが必要になる。
本発明において5cm×5cmのJISウール布にミツロウを担持させた処理布と全く担持しない未処理布の虫食い実験の概念図である。 本発明において5cm×5cmのJISウール布にミツロウ27ngを担持させた処理布と全く担持しない未処理布の虫食い実験によりミツロウの防虫効果を検証する写真図である。 図1において処理布と未処理布の食害量(虫が食べた量)を経過日数に対して描いた食害曲線図である。 本発明において5cm×5cmのJISウール布にミツロウ2.7ngを担持させた処理布と全く担持しない未処理布の虫食い実験によりミツロウの防虫効果を検証する写真図である。 図4において処理布と未処理布の食害量(虫が食べた量)を経過日数に対して描いた食害曲線図である。 本発明において5cm×5cmのJISウール布にミツロウ0.27ngを担持させた処理布と全く担持しない未処理布の虫食い実験によりミツロウの防虫効果を検証する写真図である。 図6において処理布と未処理布の食害量(虫が食べた量)を経過日数に対して描いた食害曲線図である。 本発明においてミツロウとユーカリを混合した液状防虫剤の蒸発量を経過日数に対して描いた30日間蒸発曲線図である。 本発明においてミツロウとユーカリを混合した液状防虫剤の蒸発量を経過日数に対して描いた100日間蒸発曲線図である。 本発明においてミツロウとリモネンを混合した液状防虫剤の蒸発量を経過日数に対して描いた30日間蒸発曲線図である。 比較例として殺菌剤であるカチオンが防虫効果を有さないことを実験的に証明するためにカチオン処理布と未処理布の食害量(虫が食べた量)を経過日数に対して描いた食害曲線図である。
以下に、本発明に係る防虫剤、液状防虫剤、防虫洗剤、防虫繊維製品及び防虫繊維製品の製造方法の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
[実施例1:ミツロウ入り液体防虫洗剤の調製]
下記質量のミツロウをエタノール中に溶解又は分散させ、このミツロウエタノール溶液を下記質量の非イオン系界面活性剤、イミダゾリン型アンモニウム塩、精製水と共に混合して、ミツロウ入り防虫洗剤100gを調製した。従って、ミツロウ濃度が0.03%のミツロウ入り液体防虫洗剤100gが調製された。
洗浄成分: 非イオン系界面活性剤 30g
柔軟成分: イミダゾリン型アンモニウム塩 15g
ミツロウ溶剤: エタノール 10g
防虫成分: ミツロウ 0.03g
精製水: 44.97g
[実施例2:5cm×5cm角のJISウール布にミツロウを担持]
実施例1で調製された0.03%のミツロウ入り液体防虫洗剤を下記成分割合で精製水により希釈して、洗剤濃度が0.05%の洗剤水溶液1000gを調製した。この洗剤水溶液を以下では1倍希釈水溶液と呼ぶ。
0.03%濃度のミツロウ入り液体防虫洗剤: 0.5g
精製水: 999.5g
この1倍希釈水溶液0.18gに含有されるミツロウ質量は次の計算式により27ngであることが分かる。即ち、0.03g×0.5/100×0.18/1000=27×10-9(g)=27(ng)。次に、前記1倍希釈水溶液を水で10倍に薄めた10倍希釈水溶液と水で100倍に薄めた100倍希釈水溶液を作製した。10倍希釈水溶液0.18gに含有されるミツロウ質量は2.7ngであり、100倍希釈水溶液0.18gに含有されるミツロウ質量は0.27ngであることは上記説明から分かる。
[実施例3:未処理布にミツロウを3種の濃度で担持した処理布の作製]
図1は、本発明において5cm×5cmのJISウール布にミツロウを担持させた処理布と全く担持しない未処理布の虫食い実験の概念図である。直径15cmのシャーレの中で、未処理布を左側に配置し、処理布を右側に配置する。ヒメカツオブシムシ50匹を下方に投入し、シャーレのフタを被せずに、暗所にて開放系の防虫効果確認試験を行う。後述するように、図2・図3は虫食い実験1、図4・図5は虫食い実験2、図6・図7は虫食い実験3を夫々示している。
まず、虫食い実験に入る前に、未処理布と処理布を下記の手順で作製した。JISで定められているJISウールを5cm×5cm角に裁断すると、質量が約0.27gで25cm2の未処理布が形成される。この未処理布に前記1倍希釈水溶液を0.18gだけ全面が湿潤するように滴下して全体に含浸させ、未処理布にミツロウを27ngだけ担持させた試験番号1の処理布1を得た。0.18gという値は、5cm角のウールが保持できる水の量を試験して決定した。また、前記未処理布に前記10倍希釈水溶液を0.18gだけ全面が湿潤するように滴下して全体に含浸させ、未処理布にミツロウを2.7ngだけ担持させた試験番号2の処理布2を得た。同様に、前記未処理布に前記100倍希釈水溶液を0.18gだけ全面が湿潤するように滴下して全体に含浸させ、未処理布にミツロウを0.27ngだけ担持させた試験番号3の処理布3を得た。処理布1〜処理布3は、20℃、65%に調節された恒温恒湿条件下で風乾させた。
表1は、布1枚当たりにミツロウを27ng、2.7ng、0.27ngだけ担持させた3種の処理布1〜処理布3を示した表である。処理布1には、未処理布25cm2当たりに27ngのミツロウが担持されている。1cm2当たりでは、ミツロウは1.08g担持されている。布1枚が0.27gであるから、布1g当たりでは、ミツロウは100ng担持されることになる。洗剤中のミツロウ配合量は、1倍希釈水溶液では0.03重量%であることは前述した通りである。処理布2では、10倍希釈水溶液であるから数値は処理布1の1/10になる。また、処理布3では、100倍希釈水溶液であるから数値は処理布1の1/100になる。
[実施例4:ミツロウ27ngを担持した処理布1の防虫試験1]
図2は、本発明において5cm×5cmのJISウール布にミツロウ27ngを担持させた処理布1と全く担持しない未処理布の虫食い実験によりミツロウの防虫効果を検証する写真図である。20℃、65%に調節された恒温恒湿槽の中に配置された直径15cmのシャーレには、未処理布を左側に配置し、処理布1を右側に配置する。ヒメカツオブシムシ50匹を下方に投入し、シャーレのフタを被せずに、暗所にて開放系の防虫効果確認試験を行った。虫は布の上側だけでなく下側にも潜り込み、細長い黒い影は上側の虫であり、下側に潜り込んだ虫は見えない。虫の投入日を0日とし、虫が布を食べながら12日間観察した。図2の(2A)は2日目であり、未処理布上の黒い影は殆ど虫であり、処理布1の上にも1匹の虫が存在する。(2B)は5日目の状態を示し、未処理布は多少食べられている。(2C)は12日目の状態を示し、未処理布がかなり食べられているのに対し、処理布1は殆ど食べられていないことが明白である。
図3は、図1において処理布1と未処理布の食害量(虫が食べた量)を経過日数に対して描いた食害曲線図である。実線は処理布1、破線は未処理布を示す。0日目、2日目、5日目、12日目に未処理布と処理布1の重量を測定し、0日目重量を初期重量として、初期重量から減少した重量を食害量(g)として算出した。即ち、食害量は虫が食べた重量を示しており、食害量が少ない程、防虫効果が高いことを示している。処理布1はミツロウを27ng担持しており、処理布1の食害量は0.01g/12日間であった。他方、未処理布の食害量は0.043/12日間である。従って、ミツロウを27ng担持した処理布1の防虫効果は、未処理布の4.3倍に達することが証明された。
[実施例5:ミツロウ2.7ngを担持した処理布2の防虫試験2]
図4は、本発明において5cm×5cmのJISウール布にミツロウ2.7ngを担持させた処理布2と全く担持しない未処理布の虫食い実験によりミツロウの防虫効果を検証する写真図である。20℃、65%に調節された恒温恒湿槽の中に配置された直径15cmのシャーレには、未処理布を左側に配置し、処理布2を右側に配置する。ヒメカツオブシムシ50匹を下方に投入し、シャーレのフタを被せずに、暗所にて開放系の防虫効果確認試験を行った。虫は布の上側だけでなく下側にも潜り込み、細長い黒い影は上側の虫であり、下側に潜り込んだ虫は見えない。虫の投入日を0日とし、虫が布を食べながら12日間観察した。図4の(4A)は2日目であり、未処理布上の黒い影は殆ど虫であり、処理布1の上にも2匹の虫が存在する。(4B)は5日目の状態を示し、未処理布は多少食べられている。(4C)は12日目の状態を示し、未処理布がかなり食べられているのに対し、処理布2は殆ど食べられていないことが分かった。
図5は、図1において処理布2と未処理布の食害量(虫が食べた量)を経過日数に対して描いた食害曲線図である。実線は処理布2、破線は未処理布を示す。0日目、2日目、5日目、12日目に未処理布と処理布2の重量を測定し、0日目重量を初期重量として、初期重量から減少した重量を食害量(g)として算出した。即ち、食害量は虫が食べた重量を示しており、食害量が少ない程、防虫効果が高いことを示している。処理布2はミツロウを2.7ng担持しており、処理布2の食害量は0.006g/12日間であった。他方、未処理布の食害量は0.045g/12日間である。従って、ミツロウを2.7ng担持した処理布2の防虫効果は、未処理布の7.5倍に達することが証明された。
[実施例6:ミツロウ0.27ngを担持した処理布3の防虫試験3]
図6は、本発明において5cm×5cmのJISウール布にミツロウ0.27ngを担持させた処理布3と全く担持しない未処理布の虫食い実験によりミツロウの防虫効果を検証する写真図である。20℃、65%に調節された恒温恒湿槽の中に配置された直径15cmのシャーレには、未処理布を左側に配置し、処理布3を右側に配置する。ヒメカツオブシムシ50匹を下方に投入し、シャーレのフタを被せずに、暗所にて開放系の防虫効果確認試験を行った。虫は布の上側だけでなく下側にも潜り込み、細長い黒い影は上側の虫であり、下側に潜り込んだ虫は見えない。虫の投入日を0日とし、虫が布を食べながら12日間観察した。図6の(6A)は2日目であり、未処理布上の黒い影は殆ど虫であり、処理布3の上にも2匹の虫が存在する。(6B)は5日目の状態を示し、未処理布も処理布3も多少食べられている。(6C)は12日目の状態を示し、未処理布も処理布3もかなり食べられていることが分かる。つまり、0.27ngの担持では、防虫効果は殆ど無いことが分かった。
図7は、図1において処理布3と未処理布の食害量(虫が食べた量)を経過日数に対して描いた食害曲線図である。実線は処理布3、破線は未処理布を示す。0日目、2日目、5日目、12日目に未処理布と処理布2の重量を測定し、0日目重量を初期重量として、初期重量から減少した重量を食害量(g)として算出した。即ち、食害量は虫が食べた重量を示しており、食害量が少ない程、防虫効果が高いことを示している。処理布2はミツロウを0.27ng担持しており、処理布2の食害量は0.027g/12日間であった。他方、未処理布の食害量は0.020g/12日間である。食害量は未処理布の方が小さい位であるが、本試験では食害量は同程度と判断する。従って、ミツロウを0.27ng担持した処理布3の防虫効果は、未処理布と殆ど同程度であることが証明された。
[防虫試験の最終結果]
表2は、布1枚当たりのミツロウ担持量と防虫効果の最終結果の表である。これらの結果は、前述した図2〜図7による防虫試験から得られた。防虫効果があったのは、防虫試験1と防虫試験2であり、防虫試験3は防虫効果を示さなかった。従って、防虫効果があるのは、布25cm2当たりミツロウ2.7ng以上、換言すれば布1cm2当たりミツロウ0.108ng以上、即ち質量でいえば布1g当たりミツロウ10ng以上である。本発明者等はミツロウが防虫効果を有することを発見したばかりでなく、ミツロウが防虫効果を発現する下限値をも決定したのである。
[実施例7:ミツロウをユーカリに溶解した液状防虫剤の30日間蒸発試験]
上述したように、ミツロウはロウ状の固形防虫剤であることが明らかになった。繊維製品にミツロウを担持させる場合に液状化させると扱い易くなり、ミツロウを溶解させる天然油剤としてユーカリ油(以後、ユーカリと称する)に着目した。樹木としてのユーカリから抽出されるユーカリは、それ自体で防虫性能を有し、更に固形防虫剤であるミツロウを溶解する性質を有する。ミツロウをユーカリに溶解させた液状防虫剤は、繊維製品に担持させ易い。しかもミツロウとユーカリの両者が防虫効果を有するから、防虫剤として相乗効果を発揮することができる。ユーカリは蒸発するが、ミツロウは蒸発性を有さない。従って、ミツロウとユーカリの混合液を繊維製品に担持してタンス内に吊るしておくと、蒸発したユーカリはタンス内に吊るした他の繊維製品に付着して防虫効果を発揮し、しかも元の繊維製品にはミツロウが残留して防虫性能を持続するという効果がある。しかも、ミツロウはユーカリの蒸発抑制作用を有するから、ユーカリの蒸発作用の長寿命化を図ることができ、全体として防虫効果の長寿命化を促進することができる。
図8は、本発明においてミツロウとユーカリを混合した液状防虫剤の蒸発量を経過日数に対して描いた30日間蒸発曲線図である。ユーカリだけの場合、2日くらいで蒸発してしまう。ユーカリ3gに対してミツロウ3g溶解させた場合をミツロウ含有率100%とすると、ミツロウ含有率を、25%、50%、75%と増やしてゆくと、ユーカリの蒸発量は低減してゆく。ミツロウ含有率が25%になると、ユーカリは30日間ほど蒸発を継続し、ミツロウ含有率が50%以上では、ユーカリは30日以上蒸発を持続するが、何日まで延長できるかは更なる実験をしなければならない。勿論、ミツロウだけの場合には、ミツロウは蒸発しないから、蒸発量はゼロになる。このように、ユーカリに対するミツロウ含有率を調整することによって、ユーカリの蒸発量を自在に制御することが可能になり、液状防虫剤の使用特性を拡大することが可能になった。
[実施例8:ミツロウをユーカリに溶解した液状防虫剤の100日間蒸発試験]
図9は、本発明においてミツロウとユーカリを混合した液状防虫剤の蒸発量を経過日数に対して描いた100日間蒸発曲線図である。図8が30日間蒸発曲線図であるのに対し、経過日数を100日まで延長試験して図9を完成した。ミツロウ含有率が50%になると、ユーカリは50日間ほど蒸発を継続する。ミツロウ含有率が75%になると、ユーカリは70日間ほど蒸発を継続し、ミツロウ含有率が100%になると、ユーカリは90日間ほど蒸発を持続できる。以上のように、ミツロウ含有率を増加させると、蒸発日数は更に延長できることが分かった。
[実施例9:ミツロウとリモネンを混合した液状防虫剤の30日間蒸発試験]
図10は、本発明においてミツロウとリモネンを混合した液状防虫剤の蒸発量を経過日数に対して描いた30日間蒸発曲線図である。本発明者等の研究によれば、ユーカリと同様にリモネンも防虫性能を有しており、しかも植物から抽出した天然油である。従って、ミツロウをリモネンに溶解させて天然物だけからなる液状防虫剤とすることができる。ミツロウをリモネンに溶解させた液状防虫剤は、繊維製品に担持させ易い。しかもミツロウとリモネンの両者が防虫効果を有するから、防虫剤として相乗効果を発揮することができる。リモネンは蒸発するが、ミツロウは蒸発性を有さない。従って、ミツロウとリモネンの混合液を繊維製品に担持してタンス内に吊るしておくと、蒸発したリモネンはタンス内に吊るした他の繊維製品に付着して防虫効果を発揮し、しかも元の繊維製品にはミツロウが残留して防虫性能を持続するという効果がある。しかも、ミツロウはリモネンの蒸発抑制作用を有するから、リモネンの蒸発作用の長寿命化を図ることができ、全体として防虫効果の長寿命化を促進することができる。
リモネンだけの場合、2日くらいで蒸発してしまう。リモネン3gに対してミツロウ3g溶解させた場合をミツロウ含有率100%とすると、ミツロウ含有率を、25%、50%、75%と増やしてゆくと、リモネンの蒸発量は低減してゆく。ミツロウ含有率が25%では、やはり蒸発日数は5日程度である、ミツロウ含有率が50%で蒸発日数は20日まで伸び、ミツロウ含有率が75%で蒸発日数は25日まで伸びる。ミツロウ含有率が100%になると、やっと蒸発日数は30日まで伸びる結果が得られた。従って、リモネンはユーカリよりも蒸発しやすい性質を有することが分かった。勿論、ミツロウだけの場合には、ミツロウは蒸発しないから、蒸発量はゼロになる。このように、リモネンに対するミツロウ含有率を調整することによって、リモネンの蒸発量を自在に制御することが可能になり、液状防虫剤の使用特性を拡大することが可能になった。
[実施例10〜13:有機溶液による繊維製品へのミツロウ担持試験]
表3は、ミツロウをエーテル、クロロホルム、四塩化炭素、アルコールの4種の有機溶媒に溶解させて、スプレー法又は浸漬法で、JISウールに担持させたときの防虫試験結果を示す。溶媒をエーテル及び四塩化炭素の場合には、スプレー法で前述したJISウール(5cm×5cm)にミツロウを担持させた。ミツロウの担持密度は、27ng/25cm2であり、1cm2当たりには1.08ng/cm2である。溶媒をクロロホルム及びエチルアルコールの場合には、浸漬法で前述したJISウール(5cm×5cm)にミツロウを担持させた。ミツロウの担持密度は、2.7ng/25cm2であり、1cm2当たりには0.108ng/cm2である。防虫効果の試験を行ったが、防虫効果ありの結果が得られた。従って、ミツロウを繊維製品1cm2当たり0.108ng以上担持させれば防虫効果があることが、担持法や溶媒種を変えても存在することが実証された。
[比較例:殺菌剤であるカチオンが防虫効果を有さないことの実証試験]
本件発明は、防腐効果を有することが知られていたミツロウが新たに防虫効果を有することを発見して為されたものである。防腐効果(滅菌効果に基づく)と防虫効果とが全く別のメカニズムにより発現されているからである。例えば、アルコールは滅菌効果を有するが、アルコールに虫が集まることを例示して、アルコールは防虫効果を有さないことを主張した。このことを更に証明するために、比較例として、塩化ベンザルコニウムとジデシルジメチルアンモニウムクロライドによる防虫試験を行った。これら2種の薬剤はカチオン界面活性剤であり、殺菌剤として常用される物質である。塩化ベンザルコニウムの水溶液は、日本薬局方収載医薬品で逆性石鹸として殺菌消毒用に用いられる四級アンモニウム塩の混合物である。また、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドも殺菌消毒用に用いられる四級アンモニウム塩の典型的な化合物である。
市販品の毛糸で試験を実施した。使用した毛糸は、ハマナカ株式会社(商品名:ハマナカサンキュー!モア毛100%、色番1、ロットC)であり、標準状態重量は50gで糸長約80mである。試験方法は下記の通り。
1. 毛糸を手の平に10回巻き、両端を結ぶ(1巻17cm×10回で約
170cm、約1.1g)
2. それぞれのカチオン界面活性剤10%重量部配合した洗剤を用意。
3. 上記の洗剤の0.05%重量部希釈液を作製(カチオン量は0.005%)
4. 洗剤希釈液に1.で用意した毛糸を浸漬する(約5分)
5. 風乾
6. シャーレ(直径8.5cm)内に、毛糸とヒメカツオブシムシ50匹を入れ、
シャーレの蓋を被せて暗所にて閉鎖系害虫実験を行った。このとき、未処理の試験布も同様のシャーレに収め、害虫50匹を入れて蓋を被せて、20℃、65%の恒温恒湿条件下で放置した。
7. 虫を除いた毛糸の重量を測定し、減少量を食害量として算出した。そして、重量としてグラフ表示で表わした。
表4は、未処理、塩化ベンザルコニウムとジデシルジメチルアンモニウムクロライドを用いて、上記毛糸の食害量を0日目、5日目、17日目に計測した一覧表である。未処理と塩化ベンザルコニウムとジデシルジメチルアンモニウムクロライドの間に、食害量の有意差がそれほど現れていないことが分かる。
図11は、表4の食害量を未処理と塩化ベンザルコニウムとジデシルジメチルアンモニウムクロライドに分けて描いた食害曲線図である。未処理は実線であり、塩化ベンザルコニウムはドット線であり、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドは破線で示されている。ドット線及び破線ともに未処理の実線と殆ど変化していないことが分かる。このことは、殺菌剤である2種類のカチオンが防虫効果を有さないことを実験的に証明するものである。従って、滅菌抗菌効果による防腐効果が知られていたミツロウが、防虫効果を有することの発見が如何に困難であるかが理解できる。
本発明は、上記実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
この発明はミツロウの防虫効果の新規発見に基づいて為されたものであり、天然物であるミツロウを利用して、化学合成製剤を全く使用せずに防虫効果を発揮し、且つ環境汚染や健康面、安全性に優れた防虫剤、液状防虫剤、防虫洗剤、防虫繊維製品及び防虫繊維製品の製造方法を提供することができる。

Claims (8)

  1. ミツロウを防虫成分として含有することを特徴とする防虫剤。
  2. 前記ミツロウを溶媒に分散又は溶解して液体状態にした請求項1に記載の液状防虫剤。
  3. 前記溶媒が天然物から抽出された液体防虫成分である請求項2に記載の液状防虫剤。
  4. 前記溶媒が、ミツロウを分散又は溶解させる有機溶媒である請求項2に記載の液状防虫剤。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の防虫剤又は液状防虫剤を洗剤に配合したことを特徴とする防虫洗剤。
  6. 前記洗剤100重量部に対し前記防虫剤であるミツロウを0.003〜10重量部添加した請求項5に記載の防虫洗剤。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の防虫剤、液状防虫剤又は防虫洗剤を用いて繊維製品にミツロウを担持させ、繊維製品の表面積1cm2当たりに前記ミツロウを0.108ng以上担持させることを特徴とする防虫繊維製品の製造方法。
  8. 繊維製品の表面積1cm2当たりにミツロウを0.108ng以上担持させたことを特徴とする防虫繊維製品。
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