JP2012187014A - 形質転換植物によるタンパク質の高効率生産方法 - Google Patents

形質転換植物によるタンパク質の高効率生産方法 Download PDF

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Abstract

【課題】内在性の又は外来性の有用なタンパク質に対する単位容積あたりの高生産能力を有する形質転換植物、また、当該形質転換植物を用いることで有用タンパク質を効率的に生産する方法を提供する。
【解決手段】シロイヌナズナ由来の「At2g43060遺伝子」又はそのホモログを用いて植物を形質転換することで、矮小化形質と共に、植物のタンパク質生産能力を高め、外来タンパク質又は内在性のタンパク質の単位容積あたりの有用タンパク質生産量を増大させる方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、矮性化に関わる転写制御因子により形質転換された植物を宿主とするタンパク質の高効率生産方法に関する。
昨今、サイトカインをはじめとする生理活性タンパク質や抗体などバイオ医薬製剤の実用化により、従来は不治の病とあきらめられていた疾患であっても治癒に向かう可能性が高まり、重篤な疾患に罹患した患者にとってバイオ医薬製剤は大きなよりどころとなっている。しかし、現在、これらのバイオ医薬製剤の生産に一般的に用いられている動物培養細胞を宿主とした手法は、大腸菌など微生物を用いた方法と比較して大量生産が難しく、さらにウイルスや有害な微生物等が混入する危険性も高いため、厳格な精製工程が要求される。そのため、どうしても生産コストが高くなり、バイオ医薬製剤の安価な供給は難しくなっている。
一方、大量生産に適した微生物を用いた生産方法においては、生理活性を発現するために必須な糖鎖を付加できない場合が多く、適用できるバイオ医薬製剤の候補が限られる。
これに対して、植物個体を用いたバイオ医薬製剤生産法においては哺乳動物ときわめて類似した糖鎖付加が可能であり、ヒト感染性ウイルスなどが混入する危険性も低い。さらに、基本的には通常の作物と同じ栽培方法による医薬製剤生産が可能なために安価な大量生産が可能と考えられている。加えて、従来の食用植物を宿主として用いた場合にはバイオ医薬製剤の経口摂取が可能であり、特殊な精製や医療器具を必要とせず、保存や輸送も容易であるという大きなメリットもある。これらの理由から、今後、各種生理活性タンパク質や抗体などのバイオ医薬製剤の生産系として、植物個体を用いた手法に大きな期待が集まっている(特許文献1)。しかし、現在、形質転換植物の栽培時には周囲の植物生態系への組換え遺伝子拡散を防止するために、種子や植物体の拡散防止措置や、風媒・虫媒による花粉の飛散防止措置などが義務づけられており、形質転換植物は隔離圃場や閉鎖型栽培施設においてしか栽培することが出来ない。さらに、バイオ医薬製剤生産時には、常に一定の品質の医薬品を規定量だけ含む植物を生産する必要性があることから、光や温度の影響を受けやすい圃場や太陽光を利用した特定網室での栽培ではなく閉鎖型完全人工環境制御下での栽培が求められる。そのため、植物個体を用いた医薬品等の有用物質の大量生産の実用化に向けた、完全密閉型大型植物栽培施設の開発が必須となっていた。
近年、(独)産業技術総合研究所北海道センターにおいて、完全密閉型の植物工場システムが建設された。当該植物工場システムは、抗癌剤やワクチンなどを生産する遺伝子組換え植物を外界から隔離した人工環境下で栽培する完全閉鎖型植物栽培施設と、収穫物からの医薬品原材料成分の抽出・精製を行なう医薬品生産施設の両方を備えており、植物個体を材料としたバイオ医薬製剤生産の全ての工程を同一施設内で行えるという画期的なシステムとして内外の注目を集めている。現在はこの産業技術総合研究所北海道センターの植物工場に続いて、日本各地の大学・企業などにおいて類似の植物工場の建設・運転が開始されつつある。
このように、植物工場によるバイオ医薬製剤の生産と実用化がいよいよ本格的に開始されようという状況下にあって、医薬製剤の安価な供給と安定的な生産につながる各種システムの開発はますます急務となっている。その中で、「植物工場」という限られたスペース内において、高品質の医薬成分を大量に生産することができる遺伝子組換え植物の作出は最も重要な課題の1つである。
従来、有用物質生産量の増大のためには植物1個体当たりの収量増加が必須であるという観点から、外来タンパク質遺伝子の生産効率を高める発現ベクターの開発や、外来遺伝子の発現に障害となる植物生来のメカニズムの抑制技術の開発などが盛んに行なわれてきた。例えば、有用な外来タンパク質をコードする遺伝子を根や種子に特異的に発現するプロモーターなどに繋いで、植物が本来、貯蔵器官として使っている部位に外来タンパク質を高蓄積させようとする技術(特許文献2、3)や、イネ種子貯蔵タンパク質の発現を制御するbZIP型転写制御因子を高発現した植物を用いて、当該転写因子が結合するプロモーターシス配列の制御下で外来タンパク遺伝子を高発現・高蓄積させる技術(特許文献4)、さらには、植物のウイルスベクターを使用する際に障害となるサイレンシング反応を抑制する技術(特許文献5)などが既に開発されている。
しかし、これらはもっぱら導入する外来遺伝子の発現効率を高めることに着目した技術開発であり、宿主となる植物の物質生産能力を向上するための技術ではない。外来遺伝子の発現制御システムの改変によって形質転換植物内での生産性を増大させようとする場合には、どのような外来タンパク質に対しても同じシステムが適用できるわけではないため、対象となる外来タンパク質をコードする遺伝子毎に最適なシステムを検討し、それに合ったベクターを設計するなどの煩雑さが避けられなかった。しかも、発現ベクターを最適化した場合においても、宿主植物の物質生産能力の限界以上にターゲットである外来タンパク質を生産・蓄積することはできなかった。
一方で、従来から、植物体の光合成能力の増強や、乾燥耐性などの悪環境への耐性を付与するなど植物本来の能力を高めることで有用物質(有用タンパク質や糖類など)を増産するための技術の開発も行なわれてはいる。例えば、既に植物体にストレス耐性を付与して生産能を増大させる技術(特許文献6)などが開発されている。しかし、この技術はあくまで露地での栽培を想定しており、光や温度などの環境条件が不適切な場合、あるいは、本来適性とする生育条件下ではない土地においても安定して物質を生産できる植物の開発を目標とした技術開発であった。近年開発されている完全閉鎖型植物栽培施設を用いたバイオ医薬品製剤生産においては、光や温度などの環境条件は最適な条件に保たれるため、従来の悪環境に対する抵抗性をもつ宿主植物は必要とされない。むしろ重要なのは、宿主となる植物本来のタンパク質合成能力を増強し、栽培容積あたりの有用タンパク質の生産量を増やすことである。このような形質を有することは一般の露地や圃場における有用タンパク質生産にとっても有益な技術開発と考えられるが、意外なことにこれまでの育種・研究においては対象形質とされてはこなかった。また、一方で、完全閉鎖型植物栽培施設における栽培に有用な形質が従来の露地栽培に必要な形質とは逆の場合もある。例えば、既にイネなどのC3植物に対してトウモロコシなどのC4植物の光合成に関与する遺伝子、またはそれを改変したものを導入し、C4光合成回路を付与することで植物の光合成能力を増強する方法(特許文献7、8)なども開発されているが、これは露地の強光下での光合成効率増加を目的としたものであり、完全閉鎖型植物栽培施設においてはむしろ光熱費のコストを下げるために低照度での栽培に適した植物の開発が求められている。このような完全閉鎖型植物栽培施設に特有の有用形質を考慮した研究も、これまでは行なわれてこなかった。
特開2002−17186号公報 特開2009−201357号公報 特開2010−104363号公報 特開2002−119282号公報 国際公開2008/117811号パンフレット(WO2008/117811) 特表2006-518987号公報 特開平11−341928号公報 国際公開98/35030号パンフレット(WO98/35030) 特開2010−51293号公報 特開2001−238686号公報 特開2001−178468号公報 特開2003−334085号公報 特開2005−278636号公報 特開2005−204673号公報 再公表2003−84314号公報 特開2008−161192号公報 特開2007−049970号公報 特開2003−000260号公報 特開2002−010786号公報 特開2007−215416号公報 特開2005−040036号公報 国際公開2005/026345号パンフレット(WO2005/026345) 特許第3829200号 特許第3995211号 特開2001−269177号公報 特開2001−269178号公報 特開2001−292776号公報 特開2001−292777号公報 特開2001−269176号公報 特開2001−269179号公報 特開2009−213426号公報 特開2005−130833号公報 特開2009−273475号公報 特開2010−104363号公報
The Plant Cell,2001 13,1959−1968 Plant Biotechnology J 2006. 4. 325−332 Plant Journal 2003 34:733−739.
本発明においては、従来の育種・研究においては対象形質とされてはこなかった植物本来のタンパク質合成能力を増強して、栽培容積あたりの有用タンパク質の生産量を増やすという、より汎用性のある、植物を用いた有用タンパク質高生産のための技術を提供することを目的とする。
本発明の課題は、栽培容積あたりのタンパク質の生産能力が高いという形質を有する植物であって、内在性・外来性を問わず、どのような有用タンパク質の生産に対しても適用可能な宿主植物を提供しようというものである。とりわけ、遺伝子組換え植物を宿主として有用な外来タンパク質、例えば抗体タンパク質などを大量発現させる技術を提供し、それと同時に、本来内在性の有用タンパク質を生産する植物に対しても、さらなるタンパク質高生産能力を付与する技術を提供しようとするものである。
「植物工場」という限られたスペース内において有用タンパク質の大量生産を行なうための宿主植物に好ましい形質として、栽培容積を有効に利用できる多段栽培に適した「矮小化形質」が挙げられる。「矮小化形質」は、「植物工場」の構想以前から風水害による倒伏防止や作業の利便性向上の観点から農業的に重要視されている形質であり、矮性品種の作出は従来の育種法によっても盛んに行なわれてきた。
本発明者らも、従来から「矮小化形質」に着目して開発研究を行っており、最近、シロイヌナズナの転写制御遺伝子のうちの「At2g43060遺伝子」が、植物体内で単独でも、転写抑制ドメイン(SRDX)に融合した場合にも、過剰に発現させた場合に、イネ、タバコなども矮性化させる機能があることを見出し、植物種を超えて草丈の低い優れた矮性植物を作出する手法として確立した(特許文献9)。
ところで、遺伝子組換えを利用した矮性植物作出技術は「At2g43060遺伝子」を利用する方法以外にも従来から多数報告されている。例えば、植物の伸長に重要な植物ホルモンやその他の生理活性物質の生合成遺伝子をターゲットとして、アンチセンス法などにより機能抑制する方法(特許文献10〜16)、当該遺伝子中に変異を導入する方法(特許文献17〜19)に加えて、イネの節で特異的に働くプロモーターを用いて効果的に矮性化を誘導する方法(特許文献20)や、微生物由来の酵素により細胞壁に代謝異常を起こさせる方法(特許文献21)が開発されていた。また、矮小化を誘導することのできる遺伝子として、モデル植物であるシロイヌナズナ由来の遺伝子だけでも、At4g31910、At1g04910、At4g35700、At1g49770遺伝子(特許文献22)、At1g66820遺伝子(特許文献11)などが同定されており、矮性化がどのような原因で引き起こされるのかは未解明ではあるが、これら遺伝子の過剰発現により植物を矮小化させる方法(特許文献11)も開発されている。
一般的に植物が矮小化という表現型を示す場合、その原因としては、細胞数の減少や光合成能力の低下、植物ホルモンへの応答の異常などが考えられるが、多くの場合、矮性化の結果として物質生産に必要な葉などの器官数の減少や、植物全体の代謝活性が低下している可能性がある。物質生産に必要な器官数の減少や代謝活性の低下はすなわち、物質生産能力の低下、さらにはタンパク質合成能力の低下を意味し、従来の矮小化植物においては産生される有用物質の生産効率が低くなることが一般的である。これまで植物で行なわれてきた矮性化形質誘導のための技術開発は露地での作物の倒伏防止や農作業の利便性向上を目的としており、一般的には果樹や穀類などの果実・種子を利用するものに多く適用されていた。そのため、果実・種子の品質と収穫量が一定レベルに達する、あるいは、それが低下しても利便性が十分に向上することが一般的に重要視され、葉などの物質生産に必要な器官の数の増減や、葉における物質生産や蓄積の能力はほとんど評価されてこなかった。また、作業者の利便性向上を目的とした場合には極端な矮性化はむしろマイナスであり、あくまで人間が作業しやすい草丈を目指した育種であった。これに対して、植物工場におけるバイオ医薬製剤生産用の宿主植物として最も優先される育種目的は、葉などにおいて高い物質生産・蓄積能力を持つことであり、さらに、一定の栽培容積を最大限に利用するための多段栽培に適した極端な矮性化が必要なため、従来の矮性化育種とは最終目的が異なっている。つまり、バイオ医薬製剤生産用の宿主植物においては、従来は不必要とされていた極端なレベルの矮小化を誘導しつつも物質生産に必須な葉などの器官数を減少させず、かつそこでの物質生産能力は維持又は向上されている必要性がある。植物細胞1個あたりの物質蓄積量には一定の限界が存在していることを考慮すれば、矮小化に伴い細胞数が減少してしまうと高効率での物質生産と蓄積は困難となる。このことから、本来の細胞数を維持しつつ極端な矮性化を誘導する必要性がある。
本発明者らは、本発明者が開発した「At2g43060遺伝子」を用いて作出した矮小化植物(HR0444)において、草丈は極端に短くなっていたものの、物質生産の場として有用な葉の枚数は減少せず、葉の横方向の大きさもほとんど変化しなかったこと、及び、茎や葉の細胞が縦方向にサイズダウンしていること(特許文献9)などに注目した。HR0444においては葉や茎などの細胞が縦方向に小さくなっていることは観察していたので、当該矮小化植物の場合は、構成する細胞が縦方向に小さくなっただけで植物体全体の細胞数は減少していない可能性があると思い至った。そこで、葉で生産されるタンパク質量を計測し、有用タンパク質を生産するための宿主植物として有用かどうかについて検討を行った。
その結果、驚くべきことに、本発明者らの開発した矮小化植物HR0444においては単位葉面積あたりの総タンパク質量が従来と比較して顕著に増大していることが確認された(図1)。これはすなわち、本発明らの開発した矮小化植物HR0444においては葉の細胞のサイズが小さくなることにより、単位葉面積あたりの細胞数が増加し、結果として単位葉面積あたりの総タンパク質蓄積量が増大したと考えられる。さらにHR0444においては葉の枚数が減少しないことから、HR0444形質転換植物全体でのタンパク質蓄積量が増加している可能性が示唆された。
そこで、外来遺伝子を導入したHR0444とコントロールタバコ植物を閉鎖型栽培施設で栽培し、植物体全体を用いて単位容積あたりのタンパク質量の測定をおこなった。具体的には、特許文献9に記載の手法に従って作出したタバコ植物(HR0444)とマーカータンパク質であるGUS遺伝子を導入した植物(Pro35S:GUS)とを交配し、HR0444植物にGUS遺伝子がヘテロで挿入された二重形質転換体植物(HR0444_Pro35S:GUS)を作出した。コントロールには、野生株にGUS遺伝子のみがヘテロで挿入された形質転換体を用いた。この二重形質転換体植物およびコントロール植物を用いて、栽培に必要な容積、生重量、総タンパク質量を測定し、単位栽培容積あたりの生重量(バイオマス)、総タンパク質量を算出した。その結果、二重形質転換体植物(HR0444_Pro35S:GUS)においては単位栽培容積あたりのバイオマスと総タンパク質量がコントロール植物よりも顕著に増加していた(図2、3)。これはすなわち、HR0444植物は顕著な矮小化形質を示すため、栽培に必要な容積が著しく小さくなり、単位栽培容積あたりの葉の枚数・植物体数の増加に加えて、単位葉面積あたりのタンパク質合成能力そのものも増加することによる結果として、単位栽培容積あたりの総タンパク質合成・蓄積量が増大したものと思われる。このことから、本発明等の開発した矮小化植物は、植物工場などの限られたスペースに置けるタンパク質生産用の宿主植物としてきわめて優れた植物であることが実証された。
さらに、HR0444における外来遺伝子由来のタンパク質の合成能力について評価を行なった。作出した二重形質転換体植物およびコントロール植物における単位栽培容積あたりのGUSタンパク質量(外来遺伝子由来タンパク質量)を評価した結果、二重形質転換体植物(HR0444_Pro35S:GUS)はコントロール植物よりも顕著にGUSタンパク質活性が増加していることを確認した(図4)。すなわち、HR0444を宿主とした場合にも外来遺伝子の発現とそれに由来するタンパク質の合成は阻害されず、先に示した内在性遺伝子由来のタンパク質と同様に単位栽培容積あたりの合成・蓄積量が増加したものと思われる。このことから、本発明等の開発した矮小化植物は、外来タンパク質生産用の宿主植物としてもきわめて優れた植物であることが実証された。
以上の知見を得たことから、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の植物細胞の伸長抑制機能タンパク質をコードする核酸により形質転換された矮小化植物又はその子孫を用いることを特徴とする、内在性又は外来性のタンパク質の大量生産方法;
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードする核酸、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする核酸、
(c)配列番号2に示される塩基配列からなる核酸、
(d)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる核酸。
〔2〕 前記(a)〜(d)のいずれかに記載の植物細胞の伸長抑制機能タンパク質をコードする核酸により形質転換された矮小化植物又はその子孫を片親とし、所望の外来タンパク質をコードする遺伝子により形質転換した植物又はその子孫を他の片親として、両者を交配して得られた植物又はその子孫に外来タンパク質を生産させることを特徴とする、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕 前記伸長抑制機能タンパク質が、そのC末側に転写抑制ドメインを結合させたキメラタンパク質であることを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕 前記転写抑制ドメインが、「(K/R)LFGV」、「(L/F)DLN(L/F)(X)P」、「(R/K)LFGV」、「(X)(R/K)LFGV(X) 」からなるモチーフ(但し、Xは任意のアミノ酸残基を示す。)及び「DLELRL」の中から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むことを特徴とする、前記〔3〕に記載の方法。
〔5〕 前記外来タンパク質が抗体タンパク質である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
本発明の「At2g43060遺伝子」を用いて作出した矮小化植物を宿主とした形質転換植物により、植物が本来生産している有用タンパク質のみではなく、外来遺伝子由来の抗体タンパク質などを高生産させることが可能となった。矮小化形質と共に、高い物質生産能を兼ね備えた本発明の矮小化植物は、「植物工場」と呼ばれる閉鎖型栽培施設におけるバイオ医薬品製剤原料物質生産のための宿主植物として特に有用である。
HR0444植物における単位葉面積あたりの総タンパク質量 二重形質転換体植物(HR0444_Pro35S:GUS)の形態 二重形質転換体植物における単位栽培容積あたりの生重量(バイオマス)、総タンパク質量 二重形質転換体植物における単位栽培容積あたりのGUSタンパク質活性量(外来遺伝子由来タンパク質量)
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
1.本発明における矮小化形質を有しかつタンパク質生産能が高い植物について
(1)本発明における矮小化形質と共に高いタンパク質生産能を発現する遺伝子について
本発明において植物に対して高いタンパク質生産能を付与し、かつ「矮小化形質」を付与する遺伝子は、典型的にはシロイヌナズナ由来の配列番号2で表される「At2g43060遺伝子」であり、対応するアミノ酸配列は配列番号1で表される。当該遺伝子は、本発明者らの特許文献9において、形質転換植物において、植物細胞の縦方向の伸長を促進する酵素群(EXP8など)の発現抑制機能が確認されており、その結果、茎などにおける縦方向の伸長を抑制する遺伝子であることが実証されている。当該遺伝子は特許文献9でも確認したように種を越えて発現できる汎用的な遺伝子であるから、他の植物ゲノム中の相同遺伝子、又は1部に変異が導入された遺伝子も同様に用いられ、また同一機能を保持している限り、そのフラグメントでもよい。そのような遺伝子は、塩基配列では配列番号2とは80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のホモロジーを有し、それがコードするアミノ酸配列では配列番号1と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のホモロジーを有する。
すなわち、本発明の矮小化形質と共に高タンパク生産能を発現する遺伝子は、一般的には以下のように表現することができる。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする遺伝子、
(c)配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子、
(d)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる遺伝子。
ここで、1若しくは数個とは、1〜50個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個の変異が存在することを指す。また、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸、すなわち配列番号2に示す塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。
なお、以下の本発明の説明にあたっては、本発明の「矮小化形質」と共に「高タンパク質生産能」を付与する遺伝子として典型的な「At2g43060遺伝子」の名称を用いて説明する。
(2)転写抑制ドメインについて
また、本発明においては、当該遺伝子は、本発明者らの特許文献9において、形質転換植物において、植物細胞の縦方向の伸長を促進する酵素群(EXP8など)の発現抑制機能が確認されており、その結果、茎などにおける縦方向の伸長を抑制する遺伝子であることが実証されている。そして、特許文献9では、「At2g43060遺伝子」の抑制機能は、本発明者らが開発したCRES-T法(Chimeric repressor silencing technology、特許文献23〜30、非特許文献1〜3)を適用し、転写抑制ドメインを結合して用いることでさらにその機能が強まることも確認されている。すなわち、本発明において「At2g43060遺伝子」を用いて「矮小化形質」と共に「高タンパク質生産能」を付与する際にもこれらの各種転写抑制ドメインを併用することは有効である。
本発明において用いる転写抑制ドメインとしては、本発明者らが以前報告した特許文献23〜30及び非特許文献1〜3に示される転写抑制ドメインである(L/F)DLN(L/F)(X)Pからなるモチーフ(但し、Xは任意のアミノ酸残基を示す。配列番号3)及び「DLELRL(配列番号4)」からなる転写抑制ペプチド、さらには、特許文献31に記載される下記の式(I)の転写抑制ペプチドが用いられる。前者の典型的なモチーフはSRDX(LDLELRLGFA:配列番号5)であり、後者のモチーフは以下のように表される。
式(I)
X1-X2-Leu-Phe-Gly-Val-X3
上記式(I)中、X2はLys又はArgを表す。X1及びX3についてはどのようなアミノ酸であってもよく、X1及びX3のアミノ酸配列を構成するアミノ酸の数はそれぞれが1〜10個の範囲内であればいくつでもよい。使用するペプチドの合成のし易さからみれば短い方がよいが、確実に抑制効果を上げるためには、X1及びX3をあわせた数が3以上であることが好ましい。より好ましくは、X1+X3が6以上、さらに好ましくは10以上であることが好ましい。ここに含まれる保存モチーフを一文字表記で示せば、「(R/K)LFGV」または「(X)(R/K)LFGV(X) 」となる。(但し、Xは任意のアミノ酸残基を示す。)(配列番号6)このモチーフに含まれる典型的な塩基配列は、シロイヌナズナ転写因子のAt3g11580、At2g46870、At1g13260、At1g68840、At4g36990及びAt4g11660などに含まれる(R/K)LFGVモチーフに対応する塩基配列として取得できる。(上記各転写因子の、アクセッション番号は、NM_111991.4、NM_130254.3、AY063855.1、NM_105558.2、NM_119862.3およびNM_117235.4でデータベースhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccoreから取得できる。)
本発明においては、当該転写抑制ドメインが存在することが好ましいが必須ではないので、本発明を説明する際には、転写抑制ドメインを省略し、単に本発明の「At2g43060遺伝子」又は当該遺伝子を導入した植物宿主などと表現することもある。
(3)本発明における矮小化形質と共に高いタンパク質生産能を有する宿主植物の作出方法
本発明者らの特許文献9の方法に従って作成する。
具体的には、本発明において用いられる転写制御因子のAt2g43060遺伝子を単独で、又はSRDX(DLELRL、配列番号4)等の転写制御ドメインと共に過剰発現用組換えベクターに挿入し、形質転換植物を作製する。
本発明の転写制御因子のAt2g43060遺伝子を用いる植物の形質転換方法は、本質的には従来から本発明者らがCREST-T法として開発してきた転写制御機構と同様であるから、タバコ、トマトなどのナス科植物など双子葉植物の他、イネなどの単子葉植物も包含する汎用性のある植物一般に適用可能な技術である。遺伝子又は組換えベクターを植物中に導入する方法として、アグロバクテリウム法、PEG-リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が適用できる。
(4)「At2g43060遺伝子」による形質転換植物の形質的特徴
特許文献9の方法に従い、「At2g43060遺伝子」を用いて形質転換したタバコ植物において観察した結果、著しい高さ方向での矮小化が観察された。茎の節間が短くなった結果、草丈が低くなったことが、走査型電子顕微鏡を用いた茎の表皮細胞の観察からも判明しているが、葉の枚数は減少していない(図示せず)。
また、単位葉面積あたりの総タンパク質量が従来と比較して顕著に増大していることが確認された(図1)ことから、本発明の「At2g43060遺伝子」による形質転換植物は、葉を構成する細胞のサイズは小さくなったため単位葉面積あたりの細胞数が増加し、同時に当該細胞においてはサイズは小さくても本来のタンパク質生産能が維持されている、もしくはタンパク質生産能が向上していることが予想される。
(5)対象となる植物の種類
本発明において用いる「At2g43060遺伝子」は、種を越えて発現でき「矮小化形質」を発現できる遺伝子であるから、その対象となる植物は、アブラナ科、ナス科、イネ科、マメ科等に属する植物が典型的であるが、これらの植物に限定されるものではない。具体的にはトマト、ジャガイモ等のナス科植物等と共に、豆類、イネ、小麦、トウモロコシ等の単子葉穀物など食糧生産性植物の育種一般に適用できる。また、これらの植物は、抗体タンパク質遺伝子などの外来遺伝子を導入し外来タンパク質を生産するための植物宿主としても適している。本発明の実施例では、従来から形質転換用植物宿主として広く用いられるナス科のタバコ植物をモデル植物として用いているため、得られた知見は同じナス科のトマト、ジャガイモなどの主要作物に共通に適用できる。タバコは、交配育種方法でも分子育種でも形質の改変が困難な複二倍体であることから、倍数体植物のダイズ、小麦、トウモロコシなど単子葉植物においても広く利用可能であると期待される。
本発明の「At2g43060遺伝子」による形質転換植物として、例えばミラクリン
(miraculin)などの味覚修飾タンパク質を産生するミラクルフルーツ(Richardella dulcifica)などの有用な内在性タンパク質生産性植物を選択すれば、その有用タンパク質生産が高まることが期待される。
2.外来性有用タンパク質遺伝子の導入方法について
(1)外来性有用タンパク質
本発明の対象とする典型的な有用タンパク質としては、従来から植物体で産生が望まれている抗体、ペプチドワクチンをはじめ、インシュリン、成長ホルモン、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球刺激因子(G-CSF)、インターフェロンなどの医療用タンパク質製剤原料となるタンパク質であるが、その他、ミラクリン等の食品としても利用可能なタンパク質も対象となる。
(2)外来遺伝子導入方法
本発明の宿主植物に所望の有用タンパク質をコードする遺伝子を導入する方法としては、実施例では典型的な二重形質転植物製造方法として、あらかじめ有用タンパク質をコードする遺伝子により形質転換した形質転換植物と交配する交配法を用いているが、当該手法に限られるものではなく、他の一般的な遺伝子導入方法を適用することができる。
具体的には、アグロバクテリウム法、PEG−リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。
その際の発現用プロモーターとしては、外来性タンパク質を高発現させて収穫したい器官、組織で高発現するプロモーターに繋ぐことが必要である。たとえば、CaMV35Sを含む植物の恒常的発現誘導プロモーターの他、葉肉細胞特異的プロモーター、種子特異的プロモーター(特許文献32〜34)など組織特異的プロモーターに繋ぐことも有効である。
また、At2g43060遺伝子と有用タンパク質遺伝子の導入時期は同時でも、前後しても良いため、コトランスフェクション法を用いて、あるいはAt2g43060遺伝子もしくは転写抑制ドメインが結合したAt2g43060遺伝子と有用タンパク質遺伝子を一つのベクター上に配置して同時導入し、二重形質転換植物を得ることも可能である。
(3)交配法について
本実施例で用いた交配法について以下詳細に述べる。
あらかじめ、特許文献9に記載の手法に従って、At2g43060遺伝子を単独で、もしくはSRDX(DLELRL)等の転写制御ドメインと共に導入した形質転換植物を作出し、一方で所望の外来タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換植物を作出する。次いで、両植物を交配し、At2g43060遺伝子及び外来タンパク質をコードする遺伝子がヘテロで挿入された二重形質転換体植物を作出する。さらに、交配を繰り返して両形質をホモで有する矮性化形質が安定でかつ外来タンパク質を高生産する二重形質転換体植物を製造することもできる。
3.本発明により得られた二重形質転換植物の特性
二重形質転換体植物においては、単位栽培容積あたりのバイオマスと総タンパク質量が増加する(図2、3)。この増加の原因としては、まず、顕著な矮小化形質に基づき、栽培に必要な容積が小さくなったため、単位栽培容積あたりの栽培個体数が増加し、それに伴って葉の枚数・植物体数も増加したことがある。それに加えて、この二重形質転換体においては単位葉面積あたりのタンパク質合成能力そのものも増加しており、その結果、単位栽培容積あたりの総タンパク質合成・蓄積量が飛躍的に増大したものである。さらに、単位栽培容積あたりの外来遺伝子由来タンパク質量も増加した。これは、外来遺伝子の発現とそれに由来するタンパク質の合成は阻害されず、先に示した内在性遺伝子由来のタンパク質と同様に単位栽培容積あたりの合成・蓄積量が増加したものであると考えられる。(図4)。このことから、本発明等の開発した矮小化植物は、植物工場などの限られたスペースにおける有用タンパク質生産用の宿主植物としてきわめて優れた植物であることが実証された。
4.その他
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学的技術はJ. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); D. M. Glover et al. ed., DNA Cloning, 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995)などに記載の方法により、またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。また、本発明で使用する各種蛋白質やペプチド、あるいはそれらをコードするDNAについては、既存のデータベース(URL:http://www.arabidopsis.org/またはhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed等)から入手することができる。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)Pro35S:At2g43060SRDXで形質転換したタバコ植物体の作成
(1−1)形質転換ベクターPro35S:At2g43060SRDXの構築
特許文献9に記載の方法に従って以下のように形質転換ベクターを構築した。
転写制御ドメインであるSUPERMANの部分塩基配列の5’にGGGを3’にストップコドンを付与した相補的な2本のDNA配列
5’-GGGCTCGATCTGGATCTAGAACTCCGTTTGGGTTTCGCTTAAG-3’(配列番号7)
5’-CTTAAGCGAAACCCAAACGGAGTTCTAGATCCAGATCGAGCCC-3’(配列番号8)
をアニールし、SmaIでカットした上記のpBIG2ベクターに挿入、シークエンスを確認して順方向に導入されたものを選抜し、Pro35SRDXとした。
シロイヌナズナAt2g43060 cDNAを鋳型として、
5末アッパープライマー
5’-GATGGCCTCTGCAGACAAACTCATAAACAC-3’(配列番号9)
3末ローアープライマー
5’-TTTGGGAGATAAGCCATCAACGAGACACTG-3’(配列番号10)
を用いてPCR反応によりAt2g43060の全長配列からストップコドンを除いたものを増幅した。なお上記PCR反応の条件は、変性反応94℃1分、アニール反応50℃1分、伸長反応72℃3分を1サイクルとして30サイクル行った。次いで、SmaIでカットしてアガロールゲル電気泳動で回収した上記のPro35SRDXに挿入し、シークエンスを確認してAt2g43060遺伝子が順方向に導入されたものの中からさらにAt2g43060遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜、Pro35S:At2g43060SRDXとした。
(1−2)リーフディスク法を用いたPro35S:At2g43060SRDXによるタバコの形質転換
上記実施例(1−1)で得られたプラスミドを、土壌細菌(Agrobacterium tumefaciens strain GV3101(C58C1Rifr)pMP90(Gmr)(koncz and Schell 1986))株にエレクトロポレーション法で導入した。導入した菌を100ミリリットルのLB培地で2日間培養した。
次いで、培養液から菌体を、回収し、5ミリリットルのLB培地に懸濁し、これに、無菌状態で生育させたタバコの葉を約1センチメートル角に切ったディスクを5分間浸し、感染させた後、MSプレート上で2日間、24℃16時間明期8時間暗期条件下で生育させた。そののち、リーフディスクをクラフォラン0.5mg/l、ベンジルアミノプリン1mg/l、カナマイシン100mg/lを含む培地に移植し、除菌と選抜、および、不定芽の形成を行なった。形成された不定芽を単離し、クラフォラン0.5mg/l、ナフタレン酢酸1mg/l、カナマイシン100mg/lを含む培地に移植し、発根を誘導した。発根した個体をクラフォラン0.5mg/l、カナマイシン100mg/lを含む培地に移植し、生育させ、ある程度大きくなったところで土に移植して結種させた。回収した種子を50%ブリーチ、0.02%Triton X-100溶液で7分間滅菌した後、滅菌水で3回リンスし、滅菌した種子を100mg/lのカナマイシンを含むMS選択培地に蒔種した。
上記カナマイシンプレートで生育する形質転換植物体を選抜し、土壌に植え換え生育し、採取した種子を播種して次世代の矮小化タバコ植物(HR0444)を得た。これは特許文献9で示したように、野生型と比較して草丈が40%以上矮性化していたが、葉の形成数はほぼ同数であった。また、一方で葉の縦方向の伸長が阻害されて、葉が丸くなっていることが観察された。
(1−3)HR0444における単位葉面積あたりの総タンパク質量
上記実施例(1−2)で得られた矮小化タバコ植物HR0444において、単位葉面積あたりの総タンパク質量を比較した。具体的には、同時期に生育させたHR0444(ライン#2-2、#15-2)および野生株(SR1)の同程度の生育状態の葉を等面積サンプリングし、タンパク質抽出バッファー(100 mM Tris-HCl (pH 8.0), 150 mM NaCl, 1mM EDTA, 0.1%Triton, 14mM 2-mercaptoethanol, Complete Protease Inhibitor Cocktail Tablets (1 X))150μl中でホモジナイズ処理後、遠心分離を行い、上清をタンパク質抽出液として回収した。回収した各タンパク質は、プロテインアッセイ染色液(Bio Rad)を用いて、Bradford法(Bradford M.M.,(1976) Anal.Biochem.,72,248-254)に従い、タンパク質の濃度を測定した。5倍に希釈したプロテインアッセイ染色液200μlに、適宜希釈したタンパク質溶液を10μl添加し、595nmの吸光度を測定した。検量線には、ウシ血清アルブミンBSAを用いた。その結果、HR0444植物が従来と比較して顕著に増大していることが確認された(図1)。これはすなわち、本発明らの開発した矮小化植物HR0444においては葉を構成する細胞のサイズが小さくなることにより、単位葉面積あたりの細胞数が増加し、同時に当該細胞はサイズは小さくても本来のタンパク質生産能を維持している、もしくはタンパク質生産能が向上しているため、単位葉面積あたりの総タンパク質蓄積量が増大したものであり、葉の枚数が減少しないため、形質転換植物全体でのタンパク質蓄積量も顕著に増加している可能性が示唆された。
(実施例2)外来遺伝子の発現と栽培容積あたりのタンパク質生産能力の評価
(2−1)外来遺伝子由来タンパク質(β-glucuronidase:GUS)を発現するHR0444タバコの作成
外来遺伝子由来タンパク質のモデルであるGUSを導入したHR0444とコントロールタバコ植物を閉鎖型栽培施設で栽培し、植物体全体を用いて単位容積あたりのタンパク質量の測定をおこなうために形質転換体の作出を行なった。
まず、上記実施例1及び2に基づき、pBI121ベクターをタバコに導入することで、CaMV35Sプロモーターの制御下でβ-glucuronidase (GUS)を恒常的に発現するタバコ植物体(Pro35S:GUS)を作成した。GUS遺伝子の導入は、ゲノミックPCRにより確認した。その際、センスプライマーとして
5’-TATGTTACGTCCTGTAGAAACC
-3’(配列番号11)
アンチセンスプライマーとして
5’-GAGAGGTTAAAGCCGACAGC
-3’(配列番号12)
を用いた。
GUS遺伝子のローカス数は、分離比により評価した。自家受粉により得たPro35S:GUS導入個体の後代の種子をカナマイシン培地に播種し、分離比が致死個体:生存個体=1:3になるラインについて、導入遺伝子のローカス数が1であると判断し、このラインをPro35S:GUS以降の実験に用いた。
HHR0444植物にGUS遺伝子がヘテロで挿入された二重形質転換体植物(HR0444 Pro35S:GUS) の作出は、交配法により行った。
上記手法により作製したPro35S:GUS 導入形質転換タバコとPro35S:At2g43060SRDX導入形質転換タバコ(#2-2, #15-2ライン)植物体を同時期に生育し、Pro35S:GUS 導入形質転換タバコのめしべにPro35S:At2g43060SRDXの花粉を受粉することでハイブリッド種子を得た。得られた種子をカナマイシン培地に播種し、カナマイシン耐性を示した個体についてPro35S:GUSおよび35S:At2g43060SRDX遺伝子の導入確認をゲノミックPCR法により行った。
Pro35S:At2g43060SRDX遺伝子の導入確認には、
センスプライマーとして
5’-gATGGCCTCTGCAGACAAACTCATAAACAC
-3’(配列番号13)
アンチセンスプライマーとして
5’-AGACCGGCAACAGGATTCAATC -3’(配列番号14)
を用いた。
Pro35S:GUS 遺伝子の導入確認には、
センスプライマーとして
5’- TATGTTACGTCCTGTAGAAACC
-3’(配列番号15)
アンチセンスプライマーとして
5’- GAGAGGTTAAAGCCGACAGC
-3’(配列番号16)
を用いた。
ゲノミックPCR法により、Pro35S:At2g43060SRDX遺伝子とPro35S:GUS遺伝子の両方が導入されていることが確認された個体を二重形質転換体として以降の解析に用いた。また、Pro35S:GUS遺伝子のみが導入された個体をコントロールとした。
(2−2)完全閉鎖環境下で栽培した形質転換タバコのバイオマスと総タンパク質量の測定
上記実施例(2−1)においてカナマイシン耐性を示し、なおかつ導入遺伝子が確認された二重形質転換体植物およびコントロール植物を、播種後6週目に土壌に移植し、その後4週間育成し、10週目に各形質転換体ラインについて5個体ずつバイオマスの測定を行った。具体的には、草丈の高さ、葉の拡張面積を測定し、1個体の栽培に必要な容積を算出した。また、測定個体全てをサンプリングし、葉の質量(生重量)を測定した。これにより、栽培容積当たりの葉の質量(バイオマス量)を算出した。
上記手法によりサンプリングした全葉について、液体窒素中で荒く砕いて混合し、このうち約0.2g程度を1.5mlチューブに回収し、正確な回収した質量の測定を行った。タンパク質抽出バッファー(上記組成と同様)200μl、破砕用ビーズを加え、ビーズ式細胞破砕装置Micro Smash MS-100R (TOMY)を用いて4000 rpm、2 min、4℃の条件で破砕処理を行った。遠心分離1500g、20 min、4℃を行い、上清を回収した。回収したサンプルを、水溶性の総タンパク質抽出液とした。内在性の総タンパク質量は、上記と同様、Brad ford法により測定し、先に測定した1個体の栽培に必要な容積、栽培容積あたりの質量および回収したサンプルの質量とを併せて計算することで栽培容積あたりの総タンパク質量を算出した。その結果、二重形質転換体植物(HR0444 Pro35S:GUS)においては単位栽培容積あたりのバイオマスと総タンパク質量がコントロール植物よりも顕著に増加していた(図2、3)。これはすなわち、HR0444植物は顕著な矮小化形質に基づいて栽培に必要な容積が著しく小さくなり、単位栽培容積あたりの葉の枚数・植物体数が増加することに加えて、単位葉面積あたりのタンパク質合成能力そのものも増加することにより、結果として、単位栽培容積あたりの総タンパク質合成・蓄積量が増大したものである。このことから、本発明等の開発した矮小化植物は、植物工場などの限られたスペースに置けるタンパク質生産用の宿主植物としてきわめて優れていることが実証された。
(実施例3)HR0444における外来遺伝子由来のタンパク質の生産能力についての評価
HR0444における外来遺伝子由来のタンパク質の合成能力について評価を行なった。実施例2において作出した二重形質転換体植物およびコントロール植物について、単位栽培容積あたりのGUSタンパク質活性(外来遺伝子由来タンパク質の活性)を測定した。GUSタンパク質の活性は、4-methylumbelliferyl-glucuronide (MUG) アッセイ(Inaba Y.,et al.,(2007)J.Plant Physiol.2007,164(7)824-34)によって定量した。上記手法により抽出したタンパク質25μlに2mM MUG (タンパク質抽出バッファーにより調製)を25μl添加し、十分に混合した後、37℃で30分静置した。反応液に450μlの反応停止液(0.2 M Na2CO3)を加え、100μlを測定に用いた。蛍光分光光度計を用いて、365nmの励起光で、455nmの放出スペクトルを測定した。検量線には、7-hydroxy-4-methylcoumarin (4-MU)を用いた。
その結果、二重形質転換体植物(HR0444 Pro35S:GUS)においてはコントロール植物よりも顕著に栽培容積あたりのGUSタンパク質活性が増加していることを確認した(図4)。すなわち、HR0444を宿主とした場合にも外来遺伝子の発現とそれに由来するタンパク質の合成は阻害されず、先に示した内在性遺伝子由来のタンパク質と同様に単位栽培容積あたりの合成・蓄積量が増加したものと思われる。このことから、本発明等の開発した矮小化植物は、外来タンパク質生産用の宿主植物としてもきわめて優れた植物であることが実証された。

Claims (5)

  1. 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の植物細胞の伸長抑制機能タンパク質をコードする核酸により形質転換された矮小化植物又はその子孫を用いることを特徴とする、内在性又は外来性のタンパク質の大量生産方法;
    (a)配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードする核酸、
    (b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする核酸、
    (c)配列番号2に示される塩基配列からなる核酸、
    (d)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる核酸。
  2. 前記(a)〜(d)のいずれかに記載の植物細胞の伸長抑制機能タンパク質をコードする核酸により形質転換された矮小化植物又はその子孫を片親とし、所望の外来タンパク質をコードする遺伝子により形質転換した植物又はその子孫を他の片親として、両者を交配して得られた植物又はその子孫に外来タンパク質を生産させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. 前記伸長抑制機能タンパク質が、そのC末側に転写抑制ドメインを結合させたキメラタンパク質であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記転写抑制ドメインが、「(K/R)LFGV」、「(L/F)DLN(L/F)(X)P」、「(R/K)LFGV」、「(X)(R/K)LFGV(X) 」からなるモチーフ(但し、Xは任意のアミノ酸残基を示す。)及び「DLELRL」の中から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
  5. 前記外来タンパク質が抗体タンパク質である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
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