図1はこの発明の実施例に係る船外機の制御装置を船体も含めて全体的に示す概略図、図2は図1に示す船外機の部分断面拡大側面図、図3は船外機の拡大側面図である。
図1から図3において、符号1は船外機10が船体(艇体)12に搭載されてなる船舶を示す。船外機10は、船体12の後尾(船尾)12aに取り付けられる。
図1に示すように、船体12の操縦席14の付近には、操船者(図示せず)によって回転操作自在なステアリングホイール16が配置される。ステアリングホイール16のシャフト(図示せず)には操舵角センサ18が取り付けられ、操船者によって入力されたステアリングホイール16の操舵角に応じた信号を出力する。
操縦席14付近にはリモートコントロールボックス20が配置され、そこには操船者によって操作自在なシフトレバー(シフト・スロットルレバー)22が設けられる。シフトレバー22は、初期位置から前後方向に揺動操作自在とされ、操船者からのシフトチェンジ指示(フォワード(前進)/リバース(後進)/ニュートラル(中立)切り替え指示)と、エンジンに対する加速/減速指示を含むエンジン回転数の調節指示を入力する。リモートコントロールボックス20の内部にはレバー位置センサ24が取り付けられ、シフトレバー22の位置に応じた信号を出力する。
操舵角センサ18とレバー位置センサ24の出力は、船外機10に搭載された電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)26に入力される。ECU26はCPUやROM,RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなる。
船外機10は、図2に良く示す如く、スイベルケース30、チルティングシャフト32およびスターンブラケット34を介して船体12に装着される。
スイベルケース30の上部には、スイベルケース30の内部に鉛直軸回りに回転自在に収容されるスイベルシャフト36を駆動する転舵用電動モータ(アクチュエータ。図3にのみ示す)40が配置される。転舵用電動モータ40の回転出力は減速ギヤ機構(図示せず)、マウントフレーム42を介してスイベルシャフト36に伝達され、よって船外機10はスイベルシャフト36を転舵軸として左右に(鉛直軸回りに)転舵される。
船外機10の上部には、複数の気筒(正確には6気筒)を有する内燃機関(原動機。以下「エンジン」という)44が搭載される。エンジン44は火花点火式のV型多気筒(6気筒)ガソリンエンジンで、排気量3500ccを備える。エンジン44は水面上に位置し、エンジンカバー46によって覆われる。
エンジン44の吸気管50には、スロットルボディ52が接続される。スロットルボディ52はその内部にスロットルバルブ54を備えると共に、スロットルバルブ54を開閉駆動するスロットル用電動モータ(アクチュエータ)56が一体的に取り付けられる。
スロットル用電動モータ56の出力軸は減速ギヤ機構(図示せず)を介してスロットルバルブ54に接続され、スロットル用電動モータ56を動作させることでスロットルバルブ54が開閉され、エンジン44の吸気量が調量されてエンジン回転数が調節される。尚、船外機10はエンジン44に取り付けられたバッテリなどの電源(図示せず)を備え、それから各電動モータ40,56などに動作電源が供給される。
船外機10は、鉛直軸と平行に配置されて回転自在に支持されるドライブシャフト60と、水平軸回りに回転自在に支持されると共に、その一端にプロペラ62が取り付けられるプロペラシャフト64とを備える。尚、ドライブシャフト60とプロペラシャフト64の付近は、図2に矢印で示すように、エンジン44の排気管66から放出された排気が通過し、その排気はプロペラ62の後方の水中へと排出される。
ドライブシャフト60の上端にはエンジン44のクランクシャフト(図示せず)が接続される一方、下端にはピニオンギヤ68が設けられる。プロペラシャフト64には、前進ギヤ(前進ベベルギヤ)70と後進ギヤ(後進ベベルギヤ)72が回転自在に設けられる。前進ギヤ70と後進ギヤ72は、上記したピニオンギヤ68と係合(噛合)され、相反する方向に回転させられる。また、前進ギヤ70と後進ギヤ72の間には、プロペラシャフト64と一体に回転するクラッチ74が配置される。
クラッチ74は、シフトレバー22の操作に応じて変位させられ、例えば前進ギヤ70に係合させられるとき、ドライブシャフト60の回転がピニオンギヤ68と前進ギヤ70を介してプロペラシャフト64に伝達され、プロペラ62が回転して船体12を前進させる方向の推力(推進力)を生じる。これにより、フォワード位置が確立される。
一方、クラッチ74が後進ギヤ72に係合させられると、ドライブシャフト60の回転がピニオンギヤ68と後進ギヤ72を介してプロペラシャフト64に伝達され、プロペラ62が前進時とは逆方向に回転して船体12を後進させる方向の推力を生じる。これにより、リバース位置が確立される。また、クラッチ74が前進ギヤ70および後進ギヤ72のいずれとも係合させられなければ、ドライブシャフト60の回転のプロペラシャフト64への伝達が遮断され、これによりニュートラル位置が確立される。
このクラッチ74を変位させてシフトポジションを切り替え自在とした構成について具体的に説明すると、クラッチ74は、鉛直方向と平行に回転自在に支持された第1のシフトシャフト76の下端にシフトスライダ80を介して接続される。第1のシフトシャフト76の上端は、エンジンカバー46の内部空間に位置させられると共に、その上端付近には、鉛直方向と平行に回転自在に支持された第2のシフトシャフト(シフトシャフト)82が配置される。
第1のシフトシャフト76の上端には第1のギヤ84が取り付けられる一方、第2のシフトシャフト82の下端には第2のギヤ86が取り付けられると共に、第1のギヤ84と第2のギヤ86は噛合される。
図4は、図2に示す第2のシフトシャフト82付近を上方から見たときの平面図である。尚、図4においては、理解の便宜上および図示の簡略化のため、第2のギヤ86などを省略する。また、図4の紙面下方が船体12側となるようにして示す。
図4に示す如く、第2のシフトシャフト82の上端付近にはシフトアーム90が固定して取り付けられる。また、船外機10の適宜位置には、長孔92aが穿設されたシフトリンクブラケット92が設置されると共に、長孔92aにはリンクピン94が摺動自在に配置される。
リンクピン94は、プッシュプルケーブル96を介して前記した船体12のシフトレバー22に接続される。リンクピン94はさらに、上面視略L字状を呈するリンク98を介してシフトアーム90の一端90aに回転自在に接続される。
このように構成することで、操船者によってシフトレバー22が操作されると、プッシュプルケーブル96が動作してリンクピン94は長孔92aを摺動させられ、それに伴ってリンク98が変位し、シフトアーム90は第2のシフトシャフト82を回動軸として回動させられる。
第2のシフトシャフト82の回動は、図2に示す第2のギヤ86、第1のギヤ84を介して第1のシフトシャフト76に伝達されて回動させると共に、第1のシフトシャフト76の回動に応じてシフトスライダ80およびクラッチ74が適宜に変位させられ、それによって前述の如く、シフトポジションがフォワード位置、リバース位置、ニュートラル位置の間で切り替えられる。尚、図4においては、シフトポジションがニュートラル位置にあるときを実線で示すと共に、フォワード位置にあるときを一点鎖線、リバース位置にあるときを二点鎖線で示す。
このように、第2のシフトシャフト82は、操船者の操作に応じて回動してシフトポジションを前後進ギヤ70,72に係合させてエンジン44の駆動力(出力)をプロペラ62に伝達するインギヤ位置(具体的には、フォワード位置およびリバース位置)と前記駆動力の伝達を遮断するニュートラル位置との間で切り替える。
第2のシフトシャフト82の近傍にはニュートラルスイッチ(接触スイッチ)100が固定されると共に、シフトシャフト82の上端には、図2に示す如く、シフトセンサ102が設置される。尚、図4ではシフトセンサ102の図示を省略した。
図5は図2に示す第2のシフトシャフト82、シフトアーム90およびシフトセンサ102を取り出して示す拡大側面図、図6は図5に示す第2のシフトシャフト82などの拡大平面図である。
図4から図6を参照しつつ説明すると、ニュートラルスイッチ100は、前記したシフトアーム90の回動に応じて作動点が設定されて出力(オン信号)を生じる。詳しくは、シフトアーム90において一端90aのシフトシャフト82を挟んで反対側の他端90bは、上面視略円弧状を呈するカム形状とされる。シフトアーム90の他端90bに対向する位置には、プレート104(図4に示す)が配置される。
プレート104は、一端104aが船外機10の適宜位置に固定される一方、他端104bがニュートラルスイッチ100に当接(接触)自在に位置される。また、プレート104の中央部においてシフトアーム90の他端90bと対向する面には、凸部(突起)104cが形成される。プレート104は薄板ばね(弾性材)からなり、凸部104cをシフトアーム90の他端90b方向に押圧する。これにより、凸部104cは他端90bと常に当接させられることとなる。
シフトアーム90の他端90bには、凸部104cを嵌合可能な形状を呈する凹部90b1が形成される。以下、他端90bにおいて凹部90b1以外の残余の部位(略円弧状の部位)を「円弧部」といい、符号90b2で示す。
上記した凹部90b1は、図4に示す如く、第2のシフトシャフト82の回動角度(回動位置)がニュートラル位置を示す範囲にあるとき(例えば図4に実線で示す状態のとき)、凸部104cが嵌合されるような位置に形成される。一方、第2のシフトシャフト82の回動角度がニュートラル位置以外、具体的にはフォワード位置またはリバース位置を示す範囲にあるとき(例えば図4に一点鎖線または二点鎖線で示す状態のとき)、凸部104cが凹部90b1に嵌合されないように設計される、別言すれば、凸部104cと他端90bの円弧部90b2が当接するように設計される。
これにより、操船者のシフトレバー操作に応じて第2のシフトシャフト82が回動し、その回動角度がニュートラル位置を示す範囲にあるときは、プレート104の凸部104cが他端90bの凹部90b1に嵌合するため、プレート104の他端104bが紙面下方に移動し、ニュートラルスイッチ100に接触してオン信号を出力させる。
他方、第2のシフトシャフト82の回動角度がニュートラル位置以外を示す範囲にあるときは、凸部104cが円弧部90b2に当接するため、プレート104の他端104bは、図4に一点鎖線で示す如く、後退させられてニュートラルスイッチ100に接触しなくなって出力(オン信号)を生じない、即ち、オフされることとなる。このように、シフトアーム90はニュートラルスイッチ100を作動させるためのカムとしても機能する。
図7は、ニュートラルスイッチ100がオン信号を出力する作動範囲(オン範囲)などを説明するための説明図である。尚、図7にあっては、理解の便宜のため、第2のシフトシャフト82に突起を設けて回動角度(回動位置)を模式的に示す(実際に突起があるわけではない)。
図7に示す如く、第2のシフトシャフト82の回動角度においてニュートラル位置を示す範囲、換言すれば、ニュートラルスイッチ100がオン信号を出力する範囲を「作動範囲」といい、具体的には約25度とされる。このようにニュートラルスイッチ100は、シフトシャフト82の回動角度がニュートラル位置を示す作動範囲内にあるときに出力を生じる。尚、シフトシャフト82は、作動範囲の両側に約30度ずつ回動可能、具体的にはフォワード側に約30度、リバース側に約30度の合計約85度の範囲で回動可能となるように設定される。
図5,6に良く示す如く、シフトセンサ102は、シフトアーム90より鉛直方向において上方に位置させられると共に、第2のシフトシャフト82の上端に直接取り付けられる。シフトセンサ102はポテンショメータなどの回動角センサからなり、第2のシフトシャフト82の回動角度を示す出力電圧[V]を生じる。
シフトセンサ102によって検出する回動角度の範囲は、前述したシフトシャフト82の回動可能な範囲(約85度)の全てではなく、そのうちの一部分とされる。詳しくは図7に一点鎖線で示す如く、シフトセンサ102は、シフトシャフト82の回動角度において作動範囲とその両側とを少なくとも含む範囲を検出可能とされる、具体的には、作動範囲(約25度)に、作動範囲からフォワード側とリバース側にそれぞれ既定の角度範囲(例えば10度)を加えた計約45度の範囲の回動角度を検出できるように設定される。
図8は、第2のシフトシャフト82の回動角度に対するシフトセンサ102の出力電圧特性を示すグラフである。図8においてシフトシャフト82の回動角度は、シフトポジションがリバース位置からニュートラル位置を経てフォワード位置へ向かうにつれて増加するものとして示す。
図8に示す如く、シフトセンサ102は第2のシフトシャフト82の回動角度に比例する出力電圧を生じ、シフトシャフト82の回動角度1度当たりの出力電圧が0.1Vとなるように設計される。
図3に示すように、スロットルバルブ54の付近にはスロットル開度センサ112が配置され、スロットル開度TH[度]を示す出力を生じる。エンジン44のクランクシャフトの付近にはクランク角センサ114が取り付けられ、所定のクランク角度ごとにパルス信号を出力する。上記した各スイッチやセンサの出力は、ECU26に入力される。
ECU26は、入力されたセンサ出力に基づいて転舵用電動モータ40の動作を制御し、船外機10の転舵を行う。また、ECU26は、レバー位置センサ24の出力などに基づいてスロットル用電動モータ56の動作を制御し、スロットルバルブ54を開閉させてスロットル開度THを調整する。
さらに、ECU26は、入力された各センサ出力およびスイッチ出力に基づいてエンジン44の燃料噴射量と点火時期を決定し、インジェクタ120(図3に示す)を介して決定された噴射量の燃料を供給すると共に、点火装置122(図3に示す)を介して決定された点火時期に従って噴射された燃料と吸気の混合気を点火する。
このように、この実施例に係る船外機の制御装置は、シフトチェンジを除き、操作系(ステアリングホイール16やシフトレバー22)と船外機10の機械的な接続が断たれたDBW(Drive By Wire)方式の制御装置である。
図9は、ECU26のエンジン制御動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは、ECU26によって所定の周期(例えば100msec)ごとに実行される。
以下説明すると、先ずS10において、スロットル開度THをスロットル開度センサ112の出力から検出(算出)し、S12に進んで検出されたスロットル開度THの所定時間(例えば500msec)当たりの変化量DTHを算出する。
次いでS14に進み、シフトポジションがフォワード位置にあるときにエンジン44に対して操船者によって減速(正確には急減速)が指示されたか否か、換言すれば、エンジン44が船舶1を減速(正確には急減速)させる運転状態にあるか否か判定する。
詳しくは、シフトレバー22がフォワード位置にあることを示す出力がレバー位置センサ24から入力されるとき、S12で算出されたスロットル開度の変化量DTHと減速判定用の所定値DTHaとを比較すると共に、変化量DTHが所定値DTHa以下のとき、スロットルバルブ54が閉弁方向に急速に駆動されている、即ち、急減速が指示されたと判定する。従って、所定値DTHaは急減速の指示がなされたと判定できるような値(負値)、例えば−20度に設定される。
S14で否定されるときはS16に進み、現在の第2のシフトシャフト82の回動角度、換言すれば、今回のプログラムループにおけるシフトシャフト82の回動位置(以下「シフト回動位置」ともいう)を判定するシフト回動位置判定処理を実行する。
図10はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。同図に示すように、先ずS100において所定の電圧範囲(後述)が既に設定されたか否か判定する。S100の処理を最初に実行するときは通例否定されてS102に進み、ニュートラルスイッチ100の出力とシフトセンサ102の出力電圧に基づいて所定の電圧範囲を設定する。
S102の処理について図7および図8を参照しつつ説明すると、先ず第2のシフトシャフト82の回動角度が作動範囲内にあるとき、換言すれば、ニュートラルスイッチ100がオン信号を出力するときにシフトセンサ102に生じる出力電圧の上限値α1と下限値β1を学習(記憶)し、上限値α1と下限値β1とで所定の電圧範囲を設定するときの基準として利用される「基準電圧範囲」を規定する。
即ち、例えばニュートラル位置を示す作動範囲(25度)が図8の回動角度において10〜35度の間の範囲であった場合、シフトセンサ102の出力電圧の上限値α1は3.5V、下限値β1は1.0Vである。この上下限値α1,β1を学習すると共に、上限値α1と下限値β1の間の範囲を基準電圧範囲と規定する。
次いで上限値α1のプラス側(正側。フォワード側)と下限値β1のマイナス側(負側。リバース側)にそれぞれ「追加電圧範囲」を規定する。詳しくは、上限値α1に既定電圧値(例えば0.5V)を加算した値を電圧値α2(4.0V)、下限値β1から既定電圧値(例えば0.5V)を減算した値を電圧値β2(0.5V)とし、上限値α1と電圧値α2の間、および下限値β1と電圧値β2の間の範囲を追加電圧範囲と規定する。
尚、追加電圧範囲を0.5Vとしたのは、シフトレバー操作時の操船者の操作荷重が高まるのが基準電圧範囲から0.5V付近までの間だからである。即ち、0.5Vをシフトシャフト82の回動角度に換算すると約5度の角度範囲、図8では5〜10度または35〜40度の角度範囲となり、通常、回動角度がこの角度範囲にあるとき操船者のレバー操作荷重が大きくなる。そのため、追加電圧範囲を0.5Vに設定することで、後述する如く、レバー操作荷重が高まる適切なタイミングでエンジン44の駆動力を低下させてレバー操作荷重を確実に低減させることが可能となる。
次いで、上記した基準電圧範囲と追加電圧範囲とで「所定の電圧範囲」を設定する。従って、所定の電圧範囲は具体的に電圧値β2から電圧値α2までの間の電圧範囲となる。
図7には基準電圧範囲、追加電圧範囲および所定の電圧範囲に相当するシフトシャフト82の回動角度の範囲を示す。図7から分かるように、所定の電圧範囲は、シフトセンサ102の出力電圧において第2のシフトシャフト82の回動角度が作動範囲およびその近傍の範囲にあることを示す電圧範囲ともいえる。
図10の説明を続けると、次いでS104に進み、前回のプログラム実行時に設定された今回シフト回動位置(後述)を前回シフト回動位置とすることにより、前回シフト回動位置を更新する。尚、S102で所定の電圧範囲が設定された後のプログラムループにおいてはS100の判断は肯定されてS102の処理をスキップし、S104に進む。
次いでS106に進み、第2のシフトシャフト82の回動位置をニュートラルスイッチ100とシフトセンサ102の出力に基づいて判定する。具体的には、シフトセンサ102の出力電圧が所定の電圧範囲内にあると共に、ニュートラルスイッチ100が出力(オン信号)を生じるとき、シフトシャフト82の回動位置(即ち、図7のシフトシャフト82の突起の回動位置(角度))は作動範囲にあってシフトポジションはニュートラル位置であると判定し、S108に進み、今回シフト回動位置を「ニュートラル」と設定する。
また、S106においてシフトセンサ102の出力電圧が所定の電圧範囲外であり、かつニュートラルスイッチ100が出力を生じていないとき、即ち、オフされるとき、シフトシャフト82の回動位置は所定の電圧範囲に相当する角度範囲よりも外側にあってシフトポジションはインギヤ位置であると判定し、S110に進んで今回シフト回動位置を「インギヤ」とする。
さらにシフトセンサ102の出力電圧が所定の電圧範囲内であり、かつニュートラルスイッチ100が出力を生じないとき、シフトシャフト82の回動位置は図7の追加電圧範囲に相当する角度範囲にあると判断し、S112に進んで今回シフト回動位置を「駆動力低下範囲」とする。ここで「駆動力低下範囲」と称したのは、後述する如く、シフトシャフト82がこの角度範囲にあるときにエンジン44の駆動力を低下させてシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させるシフト荷重低減制御を行うことがあるためである。
図9の説明に戻ると、次いでS18に進み、そのシフト荷重低減制御を行うか否か判定するシフト荷重低減制御判定処理を実行する。
図11は図9に示すシフト荷重低減制御判定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
図11に示す如く、S200においてニュートラルスイッチ100の出力に基づき、現在のシフトポジションがニュートラル位置か否か判断する。S200で否定されるときはS202に進み、シフト荷重低減制御終了フラグ(後述)のビットが0か否か判断する。
このフラグは初期値が0とされるため、最初のプログラムループにおいてS202の判断は通例肯定されてS204に進み、後述するシフト荷重低減制御開始フラグのビットが0か否か判断する。
シフト荷重低減制御開始フラグのビットも初期値が0に設定されるため、最初のプログラムループにおいてS204の判断は通例肯定されてS206に進む。S206では、前回シフト回動位置がインギヤか否か、換言すれば、前回プログラム実行時のシフトポジションがフォワード位置あるいはリバース位置であったか否か判定する。
S206で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS208に進み、今回シフト回動位置が駆動力低下範囲か否か判断する。S208で否定されるときはそのままプログラムを終了する一方、肯定されるとき、即ち、シフトレバー22が操船者によって操作されてシフト回動位置がインギヤから駆動力低下範囲に動作したとき(換言すれば、ニュートラルスイッチ100とシフトセンサ102の出力に基づき、シフトポジションがインギヤ位置からニュートラル位置へ切り替えられるニュートラル操作が検出されるとき)はS210に進み、エンジン44の駆動力を低下させてシフトレバー22の操作荷重を低減させるシフト荷重低減制御(駆動力低下制御ともいう)を実行(開始)する。
S210の処理は具体的には、エンジン44の点火カット、点火時期の遅角(例えば10度の遅角化)、燃料噴射量の低減のうちの少なくともいずれかを行い、それを介してエンジン44の駆動力を低下、より具体的にはエンジン回転数NEを変動させつつ徐々に低下させるようにする。これにより、クラッチ74と前後進ギヤ70,72の係合を解除し易くなり、よって操船者のシフトレバー22の操作荷重が低減される。
尚、S210において点火カットおよび点火時期の遅角を行う場合は次回点火を予定していた気筒から実施し、燃料噴射量を低減する場合は次回噴射を予定していた気筒から行うようにする。
次いでS212に進み、シフト荷重低減制御を実行した回数、具体的には点火カットなどを行った回数をカウントし、S214に進んでシフト荷重低減制御開始フラグのビットを1にセットする。即ち、このフラグは、シフト荷重低減制御が開始されるとき1にセットされる一方、それ以外のとき0にリセットされる。
シフト荷重低減制御開始フラグのビットが1にセットされた後のプログラムループにあっては、S204で否定されてS216に進む。S216では、クランク角センサ114の出力パルスをカウントしてエンジン回転数NEを検出(算出)し、S218に進み、検出されたエンジン回転数NEが、エンジン44がストールするのを回避できる限界の値(エンスト限界回転数NEa)以下か否か判定する。このエンスト限界回転数NEaは、例えばエンジン44の通常制御時に始動モードから通常モードへの切り替え判定しきい値として用いられる回転数と同じ値、具体的には500rpmに設定される。
S218で肯定されるときはS220に進み、シフト荷重低減制御回数のカウンタ値を0にリセットし、S222に進んでシフト荷重低減制御終了フラグのビットを1にセットする。
シフト荷重低減制御終了フラグのビットが1にセットされると、次回のプログラムループにあってはS202で否定されてS224に進み、シフト荷重低減制御を終了する。即ち、エンジン回転数NEがエンスト限界回転数NEa以下のときにシフト荷重低減制御、具体的にはエンジン44の点火カットなど駆動力を低下させる制御を継続すると、エンジン44がストールする恐れがあるため、シフト回動位置にかかわらず、制御を中止するようにした。
他方、S218で否定されるときはS226に進み、シフト荷重低減制御の実行の途中でエンジン回転数NEの変動幅(変化量)DNEを検出し、検出された変動幅DNEに基づいて複数の気筒のうちシフト荷重低減制御を実行する気筒の数を変更する。
具体的には、低減制御を最初に実行した気筒における点火1サイクルごとにエンジン回転数NEの変動幅DNE(1サイクル中の最大回転数と最小回転数の差)を検出(算出)し、検出された変動幅DNEから、図12に示すマップを検索してシフト荷重低減制御を実行する気筒数を変更する。尚、気筒数の変更は次回の点火タイミングあるいは次回の燃料噴射タイミングのときに行う。
図12から分かるように、気筒数はエンジン回転数NEの変動幅DNEが増加するにつれて減少するように設定される。より詳しくは、変動幅DNEが200rpm未満であって比較的少ないときは、複数(6個)ある気筒のうち3気筒について点火カットなどのシフト荷重低減制御を行う。
尚、エンジン44はV型6気筒タイプであるが、シフト荷重低減制御を行う3気筒については、S210で最初に低減制御を実行した気筒と同一バンクにある3気筒となるようにする。例えばS210で最初に右バンクにある気筒で低減制御が行われた場合、同じ右バンクの3気筒について低減制御を実施する一方、左バンクの3気筒は通常制御とする。さらには、例えば右バンクで点火時期を遅角してシフト荷重低減制御を行った場合、左バンクにおいては点火時期を進角化させるようにしても良い。
即ち、V型6気筒エンジンにおいて燃焼行程は、右バンクと左バンクとで交互に行われるため、シフト荷重低減制御を実施する3気筒を上記の如く選択することで、エンジン44においては低減制御の実行のタイミングと不実行のタイミングが交互となり、それによってより急峻なエンジン回転数変動をタイムラグなく発生させることができ、シフトレバー操作時の操船者の操作荷重をより効果的に低減させることができる。
また、エンジン44を直列6気筒タイプとした場合は、第1気筒から第6気筒まで順に並んだ6個の気筒を、第1気筒から第3気筒と第4気筒から第6気筒とにグループ分けすると共に、低減制御を行う3気筒が同じグループとなるようにする。即ち、S210で例えば最初に第1気筒で低減制御が行われたときは、第1気筒を含むグループの3気筒について低減制御を実施する一方、第4から第6気筒のグループは通常制御とする(同様に、第1から第3気筒のグループで点火時期を遅角化させた場合、第4から第6気筒のグループにおいては進角化させるようにしても良い)。これにより、直列6気筒エンジンであっても同様の効果を得ることができる。
図12に示すように、エンジン回転数NEの変動幅DNEが200rpm以上300rpm未満では2気筒、300rpm以上400rpm未満では1気筒についてシフト荷重低減制御を実施する。さらに、変動幅DNEが所定の変動幅(例えば400rpm)以上であって比較的大きいときは、シフト荷重低減制御の実行によってエンジン44がストールする恐れがあるため気筒数を0にする、即ち、低減制御の実行を中止する。
次いでS228に進み、シフト荷重低減制御回数が所定回数(後述)以上か否か判断する。S228で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS230に進み、シフト荷重低減制御回数のカウンタ値を0にリセットし、S232に進んでシフト荷重低減制御終了フラグのビットを1にセットする。これにより、次回のプログラムループにおいてS202で否定されてS224に進み、シフト荷重低減制御は終了させられることとなる。
このS228からS232は、シフト荷重低減制御が長時間に亘って行われるのを防止するための処理である。即ち、例えばシフトレバー22がゆっくり操作される場合などシフトレバー22の動きによっては第2のシフトシャフト82の回動位置が比較的長い時間、駆動力低下範囲に止まることもあるが、その間点火カットなどの制御を継続すると、エンジン44の運転(燃焼状態)が不安定、具体的にはエンジン回転数NEが不安定になるなどの不具合が生じることがある。
そこで、この実施例に係る船外機の制御装置においては、上記制御によって操船者のシフトレバー22の操作荷重が十分に低減されたと判断できる時点(具体的には、制御開始から約2秒経過した時点)で制御を終了(中止)するようにした。従って、前記した所定回数は、操船者のシフトレバー22の操作荷重が十分に低減されたと判断できると共に、点火カットなどがそれ以上実行されると、エンジン44の運転が不安定になる可能性のある値、例えば10回とされる。
シフトレバー22が操船者によって操作されてシフトポジションがニュートラル位置に完全に切り替えられると、S200で肯定されてS234に進んでシフト荷重低減制御を終了すると共に、S236,S238に進み、シフト荷重低減制御開始フラグおよびシフト荷重低減制御終了フラグのビットを共に0にリセットしてプログラムを終了する。尚、シフトポジションがニュートラル位置にあるときは、図示しないプログラムにおいて、エンジン回転数NEをアイドル回転数に維持するように、スロットル用電動モータ56の動作が制御される。
図9の説明に戻ると、S14で肯定されるときはS20に進み、前述したシフト荷重低減制御の実行を禁止する、即ち、シフトポジションがフォワード位置にあるときにエンジン44に対して操船者によって減速(正確には急減速)が指示されるときは前記制御を実施しない。
図13は図9から図11のフロー・チャートでの処理の一部を説明するタイム・チャートである。尚、図13においては、シフト回動位置がフォワード(インギヤ)から駆動力低下範囲を経てニュートラルに動作する場合を例にとると共に、所定の電圧範囲は既に設定されているものとする。
図13に示すように、先ず時刻t0からt1においては、シフトセンサ102の出力電圧が所定の電圧範囲外(具体的には電圧値α2以上)で、かつニュートラルスイッチ100が出力を生じていない(オフされている)ため、第2のシフトシャフト82の回動位置はインギヤであると判定する(S110)。
シフトレバー22がフォワードからニュートラルに向けて操作され、時刻t1でシフト回動位置がインギヤから駆動力低下範囲に動作してシフトセンサ102の出力電圧が所定の電圧範囲内で、かつニュートラルスイッチ100がオフされるとき、別言すれば、ニュートラル操作が検出されるとき、エンジン44の駆動力を低下させるシフト荷重低減制御を開始する(S112,S206からS210)。そして、低減制御の実行の途中でエンジン回転数NEの変動幅DNEに応じて低減制御を実行する気筒数を変更する(S226)。これにより、エンジン回転数NEは変動しつつ徐々に低下し、よってクラッチ74と前進ギヤ70の係合を解除し易くなり、操船者のシフトレバー22の操作荷重が低減する。
次いでシフトレバー22がさらにニュートラルに向けて操作され、時刻t2でシフト回動位置が駆動力低下範囲からニュートラルに動作してシフトセンサ102の出力電圧が所定の電圧範囲内であり、かつニュートラルスイッチ100が出力(オン信号)を生じるとき、シフト荷重低減制御を終了する(S200,S234)。
尚、図13に想像線で示す如く、シフト荷重低減制御が開始された後の時刻t1からt2の間において例えばエンジン回転数NEの変動幅DNEが大きくなり、時刻taで所定の変動幅以上となった場合、シフト荷重低減制御を中止する(S226)。
以上の如く、この発明の実施例にあっては、操船者の操作に応じて回動してシフトポジションを前後進ギヤ70,72に係合させて原動機(エンジン)44の駆動力をプロペラ62に伝達するインギヤ位置(フォワード位置およびリバース位置)と前記駆動力の伝達を遮断するニュートラル位置との間で切り替えるシフトシャフト(第2のシフトシャフト)82を備えた船外機10において、前記シフトシャフト82の回動角度がニュートラル位置を示す作動範囲内にあるときに出力を生じるニュートラルスイッチ100と、前記シフトシャフト82の回動角度を示す出力電圧を生じるシフトセンサ102と、前記シフトシャフト82の回動角度が前記作動範囲内にあるときに前記シフトセンサ102に生じる出力電圧の上限値α1と下限値β1で規定される基準電圧範囲と前記上限値α1のプラス側と前記下限値β1のマイナス側に規定される追加電圧範囲とで所定の電圧範囲を設定する電圧範囲設定手段と(ECU26。S16,S102)、前記シフトセンサ102の出力電圧が前記設定された所定の電圧範囲内にあり、かつ前記ニュートラルスイッチ100が出力を生じないとき、前記原動機44の駆動力を低下させる駆動力低下手段(ECU26。S16,S18,S104からS112,S206からS210)とを備える如く構成した。
これにより、エンジン44の駆動力を適切なタイミングで低下させてシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させることができる。即ち、シフトポジションがインギヤ位置からニュートラル位置に切り替えられるタイミングを、シフトセンサ102の出力電圧とニュートラルスイッチ100の出力に基づいて正確に検出することが可能となり、その検出された適切なタイミングでエンジン44の駆動力の低下制御を開始させることで、前後進ギヤ70,72の係合(インギヤ)を解除し易くなり、よってシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させることができる。
また、駆動力を低下させるか否か判断するための所定の電圧範囲を、シフトシャフト82の回動角度が作動範囲内にあるときにシフトセンサに生じる出力電圧の上下限値α1,β1で規定される基準電圧範囲などから設定するように構成、換言すれば、出力電圧の上限値α1と下限値β1をシフトシャフト82の回動角度に基づいて学習し、学習した値から所定の電圧範囲を設定するように構成したので、シフトセンサ102の取り付け誤差などを考慮することなく、所定の電圧範囲を正確に設定でき、よってエンジン44の駆動力をより適切なタイミングで低下させることができる。
さらに、エンジン44の駆動力を適切なタイミングで低下させることで、駆動力の低下制御が不要に行われることがなく、それによって例えばシフトポジションがニュートラル位置へ切り替わった後のエンジン回転数(アイドル回転数)を安定させることもできる。
また、前記原動機が内燃機関(エンジン)44からなると共に、前記駆動力低下手段は、前記内燃機関(エンジン)44の点火カットと点火時期の遅角と燃料噴射量の低減のうちの少なくともいずれかを介して前記原動機44の駆動力を低下させる如く構成したので(S210)、原動機44の駆動力を確実に低下できると共に、シフトレバー操作時の操船者の操作荷重を効率良く低減させることができる。
また、前記原動機(エンジン)44に対して操船者によって減速が指示されたか否か判定する減速指示判定手段と(スロットル開度センサ112、ECU26。S14)、前記減速が指示されたと判定されるとき、前記駆動力低下手段による駆動力の低下を禁止する駆動力低下禁止手段と(ECU26。S20)を備える如く構成したので、例えば原動機が内燃機関(エンジン)44からなる場合、排気管66からの水吸い込みによるウォーターハンマー現象を防止することができる。
即ち、例えばシフトポジションが前進ギヤ70に係合させられるフォワード位置にあるとき、シフトレバー22がリバース側に急操作される、換言すれば、エンジン44に対して減速(具体的には急減速)が指示されることがあるが、そのときに駆動力を低下させると、前進ギヤ70の係合(インギヤ)が解除され易い状態となるため、シフトポジションがフォワード位置からリバース位置まで一気にシフトチェンジされてしまう。その場合、プロペラ62がフォワード方向に回転したまま後進ギヤ72に係合させられることがあり、それによって原動機(具体的にはエンジン)44が逆回転して排気管66から水を吸い込んでしまい、ウォーターハンマー現象が生じて原動機44に損傷を与える恐れがある。しかしながら、上記の如く駆動力の低下を禁止することで、前進ギヤ70の係合が解除され難くなるため、リバース位置へのシフトチェンジタイミングを遅らせることができ、よって前記したウォーターハンマー現象が発生するのを防止することができる。
尚、上記においては、原動機としてエンジンを例にとって説明したが、電動モータでも良く、さらにはエンジンと電動モータのハイブリッドであっても良い。
また、船外機を例にとって説明したが、船内外機についても本発明を適用することができる。また、基準電圧範囲、追加電圧範囲、所定の電圧範囲、エンジン回転数の変動幅DNEに応じて変更する気筒数、所定値DTHaやエンジン44の排気量などを具体的な値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。