本発明の実施形態に係る地下構造物は、図1に示すように、開削工法によって構築された多層階のカルバートであり、山留め支保工を兼ねる上コンクリート躯体Aと、上コンクリート躯体Aの下側に形成された二つの鋼殻躯体B,Bと、鋼殻躯体B,Bの間に形成された下コンクリート躯体Cと、上コンクリート躯体Aと下コンクリート躯体Cとの間に形成された支柱Dとを備えている。
<上コンクリート躯体A>
上コンクリート躯体Aは、土水圧や上載荷重に耐え得るように設計された本設躯体であるが、鋼殻躯体Bとの接合部以外は、鋼殻躯体B、下コンクリート躯体Cおよび支柱Dに先立って構築され、山留壁W,W間を掘り下げる際には山留め支保工として機能する。本実施形態の上コンクリート躯体Aは、頂版部A1と、山留壁Wに沿う側壁部A2と、縦断方向に延在する縦梁部A3とを備えている。
上コンクリート躯体Aは、鉄骨鉄筋コンクリート構造(SRC構造)であり、場所打ちコンクリートと鉄骨11〜13や鉄筋(図示略)などの補強鋼材とによって構成されている。本実施形態では、横断鉄骨11、側壁芯鉄骨12、縦断鉄骨13などのほか、図2に示すように、スラブ主筋14、側壁主筋15、縦梁主筋16、せん断補強筋17、ハンチ筋18などによってコンクリートが補強されている。なお、上コンクリート躯体Aをプレキャスト化しても勿論差し支えない。
横断鉄骨11は、図3に示すように、前後方向(縦断方向)に間隔を置いて複数並設されている。なお、図3では、鉄筋の図示を省略している。各横断鉄骨11は、その材軸方向が横方向(左右方向)となるように配置にされている。本実施形態の横断鉄骨11は、H形鋼からなるが、I形鋼や溝形鋼に変更してもよい。
隣り合う横断鉄骨11,11は、複数の繋ぎ材11a,11a,…によって連結されている。なお、繋ぎ材11aの端部は、横断鉄骨11のスチフナーに接続されている。図2に示すように、横断鉄骨11の端部は、山留壁Wの芯材W1に設けたブラケットW2に載置されており、横断鉄骨11の端面と山留壁Wの内壁面との間には、サポート部材11bが介設されている。
側壁芯鉄骨12は、側壁部A2に配置された補強鋼材であり、材軸方向が上下方向となるように配置されている。側壁芯鉄骨12の上端部は、横断鉄骨11の端部の下面に接合されている。横断鉄骨11と側壁芯鉄骨12の接合部の内隅には、三角形状の補強リブ12aが配置されている。本実施形態の側壁芯鉄骨12は、H形鋼からなるが、I形鋼や溝形鋼などに変更してもよい。
縦断鉄骨13は、縦梁部A3の上半部分に配置された補強鋼材であり、材軸方向が縦断方向となるように配置されている(図3参照)。縦断鉄骨13の端部は、横断鉄骨11のウェブから張り出すブラケットに接続されている。本実施形態の縦断鉄骨13は、溝形鋼からなるが、H形鋼、I形鋼、山形鋼などに変更してもよい。
スラブ主筋14は、頂版部A1の上面および下面に沿って配筋された補強鋼材であり、長手方向が横方向となるように配筋されている。スラブ主筋14は、縦梁部A3を貫通しており、スラブ主筋14の両端部は、側壁部A2,A2のコンクリートに定着されている。
側壁主筋15は、側壁部A2の外壁面(山留壁W側の壁面)および内壁面(内空側の壁面)に沿って配筋された補強鋼材であり、長手方向が上下方向となるように配筋されている。なお、側壁主筋15は、鋼殻躯体Bに入り込んでいる。
縦梁主筋16は、縦梁部A3の上面および下面に沿って配筋された補強鋼材であり、長手方向が縦断方向となるように配筋されている。
せん断補強筋17は、スラブ主筋14若しくは側壁主筋15と交差する方向に配筋された補強鋼材である。
ハンチ筋18は、ハンチ部分に配筋された補強鋼材であり、ハンチ筋18の上半部は、頂版部A1のコンクリートに定着されている。
<鋼殻躯体B>
図1に示す鋼殻躯体B,Bは、土水圧や上載荷重に耐え得るように設計された本設躯体である。両鋼殻躯体B,Bは、下コンクリート躯体Cの両側に形成されており、支柱D,Dを挟んで対向している。各鋼殻躯体Bは、床付面T2に沿う鋼殻構造の床版部B1と、山留壁Wに沿う鋼殻構造の側壁部B2とを有し、横断面視L字状を呈している。
床版部B1は、地下1階の床(中床版)の一部を構成するものであり、中床版の残部となる下コンクリート躯体Cの床版部C1に接合されている(床版接合部J2)。また、側壁部B2は、地下1階の側壁の一部を構成するものであり、上コンクリート躯体Aの側壁部A2に接合されている(側壁接合部J1)。なお、接合部J1,J2の詳細な構造は後述する。
本実施形態の鋼殻躯体Bは、図4に示すように、二種類の床版用鋼製セグメント20,30と、隅角部用鋼製セグメント40と、二種類の側壁用鋼製セグメント50,60とによって構成されている。すなわち、鋼殻躯体Bは、複数の鋼製セグメント(床版用鋼製セグメント20,30、隅角部用鋼製セグメント40および側壁用鋼製セグメント50,60)によって形成されている。
なお、以下の説明においては、五つの鋼製セグメント20,30,40,50,60からなるL字状のユニットを、シールドトンネルに倣って「リング」と称する。また、同一のリングに属する鋼製セグメント同士の継手部分(接合部分)を「セグメント継手」と称し、縦断方向に隣接するリング同士の継手部分(接合部分)を「リング継手」と称する。
また、「前後左右」は、図4の状態を基準とする。
床版用鋼製セグメント20,30、隅角部用鋼製セグメント40および側壁用鋼製セグメント50,60は、イモ組み状態となるように並設されていて、セグメント継手が縦断方向に連続している。すなわち、一のリングのセグメント継手の位置が隣接する他のリングのセグメント継手の位置と一致している。
第一の床版用鋼製セグメント20は、その前後左右に他の鋼製セグメントが配置される普通タイプの鋼製セグメントであり、上面が開口した有底箱状を呈している。図5の(a)および(b)に示すように、床版用鋼製セグメント20は、スキンプレート21と、前後一対の主桁プレート22,22と、左右一対の継手プレート23,23と、主桁プレート22,22の間に設けられた複数の縦リブ24,24,…とを備えている。床版用鋼製セグメント20は、各継手プレート23を介して、同一のリングに属する二つの鋼製セグメント(第二の床版用鋼製セグメント30と隅角部用鋼製セグメント40)に接合され、各主桁プレート22を介して、隣接する他のリングに属する床版用鋼製セグメント20に接合される。なお、図示は省略するが、主桁プレート22と継手プレート23の外面には、シール材が貼着されている。
スキンプレート21は、床版用鋼製セグメント20の外殻(底)となるものであり、平面視矩形状を呈する鋼板からなる。
主桁プレート22は、スキンプレート21の前縁および後縁に立設されており、縦断方向に隣接する他の床版用鋼製セグメント20の主桁プレート22に突き合わされる。主桁プレート22には、リング継手用のボルトb1が挿通される。
継手プレート23は、スキンプレート21に立設された止水用の端面板23aと、端面板23aの前縁および後縁に配置された構造用の補強板23b,23bとを備えている。端面板23aは、同一のリング内において隣接する他のセグメントの継手プレートに突き合わされる。端面板23aは、スキンプレート21と主桁プレート22,22に固着されている。補強板23bは、主桁プレート21の左右の縁部に配置されており、主桁プレート21および端面板23aの内面に固着されている。端面板23aおよび補強板23bには、セグメント継手用のボルトb2が挿通される。ボルトb2には、初期導入軸力として、ボルトb2の降伏軸力の75%に相当する軸力を導入する。
なお、セグメント継手に目開きを生じさせるような力が作用した場合、主桁プレート22とボルトb2との間の荷重伝達は、主として補強板23bを介して行われるようになる。「てこ反力」の支点を超えた部分(端面板23aだけの部分)は、上記荷重伝達に寄与しないので、端面板23aの薄肉化を図ることができ、ひいては、継手構造の合理化を図ることができる。
縦リブ24は、継手プレート23と平行に配置されている。縦リブ24は、スキンプレート21に立設されており、スキンプレート21と主桁プレート22,22に固着されている。
第二の床版用鋼製セグメント30は、図4に示すように、鋼殻躯体Bの床版部B1と下コンクリートCの床版部C1との境界部分に設置される境界設置タイプの鋼製セグメントであって、上面が開口した有底箱状の本体部3Aと、本体部3Aから張り出す一対の埋込主桁3B,3Bとを備えている。
本体部3Aは、図5の(a)および(b)に示すように、スキンプレート31、主桁プレート32,32、継手プレート33、縦リブ34のほか、境界プレート35、補強リブ36などを備えている。本体部3Aは、継手プレート33を介して、同一のリングに属する普通タイプの床版用鋼製セグメント20に接合され、主桁プレート32を介して、隣接する他のリングに属する境界設置タイプの床版用鋼製セグメント30の本体部3Aに接合される。また、図示は省略するが、主桁32、継手プレート33および境界プレート35の外面には、シール材が連続して貼着されている。なお、境界プレート35に貼着するシール材は、埋込主桁3B,3Bの下側に配置する。
スキンプレート31、主桁プレート32,32、継手プレート33および縦リブ34は、第一の床版用鋼製セグメント20のものと同様の構成を具備している。
すなわち、スキンプレート31は、本体部3Aの外殻(底)となるものであり、主桁プレート32は、スキンプレート31の前縁および後縁に立設されている。また、継手プレート33は、スキンプレート31に立設された止水用の端面板33aと、端面板33aの前縁および後縁に配置された構造用の補強板33b,33bとを備えており、縦リブ34は、継手プレート33と平行に配置されている。
境界プレート35は、縦リブ34を挟んで継手プレート33の反対側に位置し、主桁プレート32,32の埋込主桁3B側の側縁同士を繋いでいる。本実施形態の境界プレート35は、補強板33bと同等の厚さを有する一枚の鋼板からなり、スキンプレート31と主桁プレート32,32に固着されている。本実施形態では、セグメントを「イモ組み」しているので、境界プレート35,35,…は、一直線上に並ぶことになる。
補強リブ36は、主桁プレート32と境界プレート35の接合部の内隅に固着されている。本実施形態では、一の内隅につき上下二つの補強リブ36,36が配置されている(図5の(b)参照)。
埋込主桁3B,3Bは、平行に配置されており、コンクリート打設空間3Cを挟んで対向している。なお、埋込主桁3B,3Bの上下にスキンプレートや蓋板などは固着されておらず、コンクリート打設空間3Cの上下は開口している。各埋込主桁3Bは、隣接する他のリングの埋込主桁3Bに接合される。図5の(b)に示すように、埋込主桁3Bは、本体部3Aから片持ち梁状に張り出している。埋込主桁3Bの桁高は、主桁プレート32よりも小さく、埋込主桁3Bの上縁は、本体部3Aの上縁よりも一段下がったところに位置し、埋込主桁3Bの下縁は、本体部3Aの下縁よりも一段上がったところに位置している。
本実施形態の埋込主桁3Bは、主桁プレート32と同等の剛性を有するものであり、張出プレート37と、張出プレート37に付設されたフランジ38,38とを備えている。
張出プレート37は、図5の(a)に示すように、主桁プレート32の延長上に位置している。張出プレート37は、主桁プレート32を延設したものであり、主桁プレート32と同じ厚さを有している。本実施形態の主桁プレート32および張出プレート37は、同一の鋼板から切り出されたものであり、両者は切れ目無く連続している。
張出プレート37は、隣接する他のリングの床版用鋼製セグメント30の張出プレート37に突き合わされる。張出プレート37には、リング継手用のボルトb1が挿通される。
フランジ38は、埋込主桁3Bの断面二次モーメントを高める目的で配置されたものである。本実施形態のフランジ38は、張出プレート37の全長に亘って配置されており、境界プレート35と張出プレート37に固着されている。図5の(c)に示すように、フランジ38は、張出プレート37の上縁および下縁に設けられており、他方の埋込主桁3Bに向かって張り出している。張出プレート37の断面二次モーメントは、主桁プレート32の断面二次モーメントよりも小さくなるものの、フランジ38,38を張出プレート37に一体化すれば、埋込主桁3Bの断面二次モーメントを主桁プレート32と同程度に高めることができる。
隅角部用鋼製セグメント40は、図4に示すように、床版部B1と側壁部B2とが交差する隅角部に配置されるものであり、床版用鋼製セグメント20と側壁用鋼製セグメント50との間に介設されている。なお、本実施形態では、イモ組み状態となるように隅角部用鋼製セグメント40を並設しているので、複数の隅角部用鋼製セグメント40,40,…の上端面は、面一となる。
本実施形態の隅角部用鋼製セグメント40は、図5の(a)および(b)に示すように、外殻となるスキンプレート41と、スキンプレート41の前縁および後縁に設けられた主桁プレート42,42と、スキンプレート41の側縁および上縁に設けられた継手プレート43,43と、主桁プレート42,42の間に設けられた縦リブ44,44を備えている。また、図示は省略するが、主桁プレート42と継手プレート43の外面には、シール材が貼着されている。
スキンプレート41は、床付面T2(図1参照)に沿うように配置される鋼板と山留壁W(図1参照)に沿うように配置される鋼板とを繋ぎ合わせたものであり、断面L字状を呈している。
主桁プレート42は、スキンプレート41に対応してL字状を呈している。図5の(a)に示すように、主桁プレート42は、縦断方向に隣接する他の隅角部用鋼製セグメント40の主桁プレート42に突き合わされる。
継手プレート43,43は、いずれも、止水用の端面板43aと、端面板43aの前縁および後縁に配置された構造用の補強板43b,43bとを備えている。端面板43aは、同じリング内の床版用鋼製セグメント20または側壁用鋼製セグメント50に突き合わされる。
下段の側壁用鋼製セグメント50は、図4に示すように、その前後上下に他の鋼製セグメントが配置される普通タイプの鋼製セグメントであり、内側面(内空側の側面)が開口した箱状を呈している。
下段の側壁用鋼製セグメント50は、普通タイプの床版用鋼製セグメント20と同様の構成を具備するものであり、図6の(a)および(b)に示すように、外殻となるスキンプレート51と、前後一対の主桁プレート52,52と、上下一対の継手プレート53,53と、主桁プレート52,52の間に設けられた複数の縦リブ54,54,…とを備えている。なお、図示は省略するが、主桁プレート52と継手プレート53の外面には、シール材が貼着されている。
下段の側壁用鋼製セグメント50は、各継手プレート53を介して、同一のリングに属する二つの鋼製セグメント(隅角部用鋼製セグメント40および上段の側壁用鋼製セグメント60)に接合され、各主桁プレート52を介して、隣接する他のリングに属する側壁用鋼製セグメント50に接合される。
上段の側壁用鋼製セグメント60は、図4に示すように、上コンクリート躯体の側壁部A2と鋼殻躯体Bの側壁部B2との境界部分に設置される境界設置タイプの鋼製セグメントであって、内側面が開口した箱状の本体部6Aと、上面が開口した有底角筒状の筒状部6Bとを備えている。本体部6Aは、同一のリングに属する下段の側壁用鋼製セグメント50に接合されるとともに、隣接する他のリングに属する側壁用鋼製セグメント60の本体部6Aに接合される。また、筒状部6Bは、隣接する他のリングに属する側壁用鋼製セグメント60の筒状部6Bに接合される。なお、図示は省略するが、継手プレート63の外面には、シール材が貼着されている。また、主桁プレート62の外面には、上下方向に延在するシール材(以下「縦シール材」という。)が貼着されており、さらに、スキンプレート61の上端面および主桁プレート62,62の上端面には、一方の主桁プレート62の縦シール材の上端部から他方の主桁プレートの縦シール材の上端部に至るようにシール材が貼着されている。
上段の側壁用鋼製セグメント60は、図6の(a)に示すように、スキンプレート61、主桁プレート62、継手プレート63および縦リブ64に加えて、仕切プレート65と、蓋プレート66と、孔あき鋼板ジベル67,67,…と、貫通鉄筋68,68,…とを備えている。
スキンプレート61、主桁プレート62,62、継手プレート63および縦リブ64は、普通タイプの側壁用鋼製セグメント50のものと同様の構成を具備している。
すなわち、スキンプレート61は、本体部6Aおよび筒状部6Bの外殻となるものであり、主桁プレート62は、スキンプレート61の前縁および後縁に立設されている。また、継手プレート63は、スキンプレート61に立設された止水用の端面板63aと、端面板63aの前縁および後縁に配置された構造用の補強板63b,63bとを備えており、縦リブ64は、継手プレート63と平行に配置されている。
仕切プレート65は、本体部6Aと筒状部6Bとの境界に配置されるものである。本実施形態の仕切プレート65は、縦リブ64の上方に配置されており、かつ、継手プレート63と平行である。仕切プレート65は、補強板63bと同等の厚さを有する一枚の鋼板からなり、スキンプレート61と主桁プレート62,62とに固着されている。
蓋プレート66は、筒状部6Bの内側面を構成するものであり、スキンプレート61の上半部(筒状部6Bの外側面)に対向して配置されている。蓋プレート66は、応力伝達機能を有する構造部材であり、鋼板からなる。図7に示すように、蓋プレート66の前縁部および後縁部は、複数のボルトb3を利用して、第一接続板62a,62aに接合され、蓋プレート66の下縁部は、複数のボルトb3を利用して、第二接続板65aに接合される。なお、第一接続板62aは、主桁プレート62の側端に固着されており、第二接続板65aは、仕切プレート65の側端に固着されている。
孔あき鋼板ジベル67,67,…は、せん断伝達部材として機能するものであり、仕切プレート65よりも上側に配置されていて、筒状部6Bの内周面(スキンプレート61、主桁プレート62または蓋プレート66)に固着されている。スキンプレート61および蓋プレート66には、上下方向に延在する孔あき鋼板ジベル67,67,…が複数(本実施形態では四つ)並設されており、主桁プレート62には、横方向に延在する孔あき鋼板ジベル67,67,…が複数(本実施形態では三つ)並設されている。なお、同一面に配置された複数の孔あき鋼板ジベル67,67,…は、それぞれに設けた透孔が一直線上に並ぶように配置されている。
貫通鉄筋68は、孔あき鋼板ジベル67の透孔に挿通されている。スキンプレート61に沿って配置される複数の貫通鉄筋68,68,…は、いずれも前後方向(水平方向)に配筋されており、スキンプレート61に突設された複数の孔あき鋼板ジベル67,67,…と交差している。図示は省略するが、蓋プレート66に沿って配置される複数の貫通鉄筋についても同様である。主桁プレート62に沿って配筋される複数の貫通鉄筋68,68,…は、いずれも上下方向(鉛直方向)に配筋されており、主桁プレート62に突設された複数の孔あき鋼板ジベル67,67,…と交差している。
<下コンクリート躯体C>
図1に示す下コンクリート躯体Cは、土水圧や上載荷重に耐え得るように設計された本設躯体である。下コンクリート躯体Cは、地下1階の床(中床版)の一部となる床版部C1のほか、地下2階の側壁となる側壁部C2,C2や、地下2階の床となる底版部(図示略)を備えている。
床版部C1は、鉄骨鉄筋コンクリート構造であり、場所打ちコンクリートと主鉄骨71や鉄筋(図示略)などの補強鋼材とによって構成されている。本実施形態では、主鉄骨71のほか、図11の(a)に示すように、スラブ主筋72、配力筋73、せん断補強筋74などによってコンクリートが補強されている。床版部C1の厚さは、鋼殻躯体Bの床版部B1よりも大きい。
本実施形態の床版部C1は、埋込主桁3Bが埋設される接合領域C11と、側壁部C2の側壁主筋が配筋される主筋定着領域C12と、通常のスラブとして設計される一般領域C13とを備えている。接合領域C11は、床版部C1の側部に位置しており、側壁部C2よりも鋼殻躯体B側に張り出している。主筋定着領域C12は、側壁部C2の直上の領域であり、接合領域C11と一般領域C13との間に位置している。
主鉄骨71は、その材軸方向が横方向(左右方向)となるように配置にされている。主鉄骨71は、主筋定着領域C12および一般領域C13を跨ぐように配置されており、主鉄骨71の端部は、接合領域C11に入り込み、かつ、境界設置タイプの床版用鋼製セグメント30の本体部3Aに接合されている。主鉄骨71の桁高は、埋込主桁3Bの桁高よりも大きく、主桁32よりも小さい。
床版部C1には、複数の主鉄骨71が前後方向(縦断方向)に間隔をあけて平行に配置されている。隣り合う主鉄骨71,71は、繋ぎ材71a,71aによって連結されている。繋ぎ材71aの端部は、主鉄骨71のスチフナーに接続されている。
主鉄骨71は、側壁部C2および底版部(図示略)を構築する前に架設され、山留用の親杭P,P(図1参照)間を掘り下げる際には山留め支保工として機能する。
スラブ主筋72および配力筋73は、床版部C1の上面および下面に沿って配筋されている。スラブ主筋72は、主筋定着領域C12および一般領域C13を跨ぐように配筋されており、スラブ主筋72の端部は、接合領域C11に定着されている。なお、接合領域C11の幅寸法(左右方向の長さ)は、接合領域の厚さ寸法の1.5倍以上の大きさとなるように設定されている。
配力筋73は、接合領域C11、主筋定着領域C12および一般領域C13の総てに配筋されており、せん断補強筋74は、接合領域C11および一般領域C13に配筋されている。
側壁部C2は、鉄筋コンクリート構造であり、側壁主筋75、せん断補強筋(図示略)、ハンチ筋76,77などの補強鋼材と現場打ちコンクリートとによって構成されている。
詳細な説明は省略するが、底版部(図示略)も鉄筋コンクリート構造にて形成されている。なお、側壁部C2および底版部を鉄骨鉄筋コンクリート構造としても差し支えない。
<支柱D>
図1に示す支柱Dは、土水圧や上載荷重に耐え得るように設計された本設構造体である。本実施形態の支柱Dは、下コンクリート躯体Cの床版部C1に立設されており、上コンクリート躯体Aの縦梁部A3を支持している。なお、支柱Dは、コンクリート充填鋼管構造(CFT構造)である。
<上コンクリート躯体Aと鋼殻躯体Bとの接合部>
図7〜10を参照して、側壁接合部J1(上コンクリート躯体Aから鋼殻躯体Bへと遷移する区間)の構成を詳細に説明する。
図7に示すように、側壁接合部J1は、側壁主筋15やせん断補強筋17を筒状部6Bの内部空間(スキンプレート61と一対の主桁62,62と蓋プレート66とで囲まれた空間)に配筋した状態で、筒状部6Bの内部空間にコンクリート(図示略)を充填することによって形成されたものである。
すなわち、側壁接合部J1は、側壁用鋼製セグメント60の筒状部6B(スキンプレート61、一対の主桁62,62および蓋プレート66)と、筒状部6Bの内部空間に至る複数の側壁主筋15,15,…と、側壁主筋15と交差する方向に配筋された複数のせん断補強鉄筋17,17,…と、筒状部6Bの内部空間に充填されたコンクリートとによって構成されている。
なお、図8に示すように、複数の側壁主筋15,15,…のうち、筒状部6B内に至る側壁主筋15は、上コンクリート躯体Aに予め埋設される先組み鉄筋15aと、鋼殻躯体Bの設置後に先組み鉄筋15aの下端部に継ぎ足される後組み鉄筋15bとを具備している。
後組み鉄筋15bは、境界設置タイプの側壁用鋼製セグメント60を設置した後に、先組み鉄筋15aの下端部に継ぎ足す。なお、本実施形態では、機械式鉄筋継手を介して後組み鉄筋15bを先組み鉄筋15aに接続しているが、鉄筋継手の種類を限定する趣旨ではない。
図9に示すように、後組み鉄筋15bの下端は、上下方向に延在する孔あき鋼板ジベル67(スキンプレート61または蓋プレート66に付設された孔あき鋼板ジベル67)の下端よりも下側に位置している。なお、後組み鉄筋15bの下端部には、定着部が形成されている。
図10に示すように、後組み鉄筋15bは、鋼板ジベル67に干渉しないよう、基準面S1,S2,S6に囲まれた領域内に配筋される。
ここで、基準面S1は、スキンプレート61に付設した孔あき鋼板ジベル67と干渉しないように設定された仮想の平面(すなわち、スキンプレート61からの離間距離が孔あき鋼板ジベル67の突出長さよりも大きくなる位置に設けた平面)であって、スキンプレート61と平行な平面である。
同様に、基準面S6は、蓋プレート66に付設した孔あき鋼板ジベル67と干渉しないように設定された仮想の平面(すなわち、蓋プレート66からの離間距離が孔あき鋼板ジベル67の突出長さよりも大きくなる位置に設けた平面)であって、蓋プレート66と平行な平面である。
また、基準面S2は、主桁プレート62に付設した孔あき鋼板ジベル67と干渉しないように設定された仮想の平面(すなわち、主桁プレート62からの離間距離が孔あき鋼板ジベル67の突出長さよりも大きくなる位置に設けた平面)であって、主桁プレート62と平行な平面である。
せん断補強筋17は、図9に示すように、その材軸方向が壁厚方向(左右方向)となるように配筋する。筒状部6B内のせん断補強筋17は、側壁用鋼製セグメント60の設置後に配筋し、スキンプレート61側の後組み鉄筋15bおよび蓋プレート66側の後組み鉄筋15bと交差させる。
ハンチ筋18は、上コンクリート躯体Aに予め埋設される先組みハンチ筋18aと、側壁用鋼製セグメント60の設置後に先組みハンチ筋18aの下端部に継ぎ足される後組みハンチ筋18bからなる。本実施形態では、機械式鉄筋継手を介して後組みハンチ筋18bを先組みハンチ筋18aに接続している。
側壁接合部J1では、孔あき鋼板ジベル67,67,…を介して、曲げモーメント・軸力・せん断力が伝達される。
すなわち、側壁主筋15,15,…に作用した応力(引張応力、圧縮応力)は、筒状部6B内のコンクリートを介して、スキンプレート61または蓋プレート66に付設された孔あき鋼板ジベル67(上下方向に延在する孔あき鋼板ジベル67)と、貫通鉄筋68とに伝わり、さらに、スキンプレート61または蓋プレート66を介して、主桁プレート62に伝わるようになる。ちなみに、蓋プレート66に作用した応力は、ボルトb3により付与された摩擦力を介して接続板62a,65a(図7参照)に伝わり、接続板62a,65aを介して主桁プレート62に伝わる。
また、せん断補強筋17に作用した応力は、筒状部6B内のコンクリートおよび貫通鉄筋68を介して、主桁プレート62に付設された孔あき鋼板ジベル67(左右方向に延在する孔あき鋼板ジベル67)に伝わり、さらに、主桁プレート62に伝わるようになる。
以上のように構成された側壁接合部J1では、剛結と評価し得る程度にまで上コンクリート躯体Aと鋼殻躯体Bの一体化が図られるようになる。
<鋼殻躯体Bと下コンクリート躯体Cとの接合部>
図11,図12を参照して、床版接合部J2(鋼殻躯体Bから下コンクリート躯体Cへと遷移する区間)の構成を詳細に説明する。
図11の(a)に示すように、床版接合部J2は、床版用鋼製セグメント30の埋込主桁3B,3Bを下コンクリート躯体Cに埋設することにより形成されたものである。
本実施形態の床版接合部J2は、図12に示すように、鋼殻躯体Bの床版部B1を構成する床版用鋼製セグメント30と、下コンクリート躯体Cを構成する補強鋼材(主鉄骨71、スラブ主筋72、配力筋73、せん断補強筋74など)と、下コンクリート躯体Cを構成するコンクリート(図示略)とによって構成されている。
主鉄骨71の端部は、図11の(b)にも示すように、床版用鋼製セグメント30の埋込主桁3B,3Bの間に配置し、各埋込主桁3Bと間隔をあけて対向させる。なお、主鉄骨71は、埋込主桁3Bと平行になるように配置する。主鉄骨71の端面(エンドプレート71b)は、本体部3Aの境界プレート35に突き合わせ、ボルト・ナットを利用して境界プレート35に接合する。
上側のスラブ主筋72は、図11の(a)に示すように、主桁プレート32の上縁と同じ高さに配筋し、下側のスラブ主筋72は、主桁プレート32の下縁と同じ高さに配筋する。図12に示すように、スラブ主筋72は、埋込主桁3Bの材軸方向に沿って配筋し、配力筋73は、複数の埋込主桁3B,3B,…と交差するように配筋する。なお、スラブ主筋72および配力筋73は、埋込主桁3Bおよび主鉄骨71の上下にも配筋する(図11の(b)参照)。
せん断補強筋74は、図11の(b)にも示すように、埋込主桁3Bの前後に配筋し、埋込主桁3Bの上下に配筋されたスラブ主筋72,72に交差させる。なお、床版接合部J2に曲げモーメントやせん断力が作用すると、埋込主桁3Bの上下に位置するコンクリートが埋込主桁3Bによって押圧されるようになるので、埋込主桁3Bの上下において押抜きせん断破壊が懸念されるが、埋込主桁3Bの上下にスラブ主筋72と配力筋73を配筋し、埋込主桁3Bに近接した位置においてスラブ主筋72,72と交差するようにせん断補強筋74を配筋しておけば、押抜きせん断破壊を防ぐことが可能になるので、鋼殻躯体Bの床版部B1と下コンクリート躯体Cの床版部C1を一体構造として評価することが可能となる。
側壁主筋75は、上側のスラブ主筋72の位置まで延設し、主筋定着領域C12のコンクリートに定着する。なお、主鉄骨71と側壁主筋75とが干渉する場合には、主鉄骨71のフランジに挿通孔を形成しておき、この挿通孔に側壁主筋75を挿通する。
ハンチ筋76,77は、上側のスラブ主筋72の位置まで延設する。なお、一方のハンチ筋76は、接合領域C11のコンクリート(図5の(a)に示すコンクリート打設空間3Cに打設されたコンクリート)に定着し、他方のハンチ筋77は、一般領域C13のコンクリートに定着する。
なお、図示は省略するが、埋込主桁3Bを主筋定着領域C12まで延設し、埋込主桁3Bと側壁主筋75を交差させてもよい。
<地下構造物の構築方法>
本実施形態に係る地下構造物の構築方法は、図14に示すように、本設躯体の一部分となる上コンクリート躯体Aを形成し、上コンクリート躯体Aを山留め支保工として利用しつつ地盤を掘り下げた後、図15に示すように、上コンクリート躯体Aの下側に複数の鋼製セグメント20〜60を並設し、隣接する鋼製セグメント20〜60を接合することで、本設躯体の他の部分となる鋼殻躯体Bを形成する、というものである。
以下、図13乃至図17を参照して、本実施形態に係る地下構造物の構築方法をより詳細に説明する。
本実施形態に係る地下構造物の構築方法は、一次掘削工程と、第一の躯体構築工程と、二次掘削工程と、第二の躯体構築工程と、三次掘削工程と、第三の躯体構築工程と、支柱構築工程と、を含むものである。
一次掘削工程は、図13の(a)に示すように、山留壁W,Wの間の地盤を、上コンクリート躯体Aの構築予定位置の下側まで掘り下げる工程である。なお、山留壁Wは、いわゆる柱列式連続地中壁である。山留壁Wを構築するには、地盤をアースオーガで掘削しつつ、原位置にて掘削土とセメントスラリーを混合・攪拌してソイルセメントを形成し、掘削孔からアースオーガを引き上げた後、ソイルセメントが固まらないうちに、芯材W1を地中(掘削孔)に建て込めばよい。
地盤を掘削する際には、芯材W1の内側にあるソイルセメントを削り取り、芯材W1を露出させる。芯材W1を露出させたならば、芯材W1にブラケットW2を設置する。
地盤を床付面T1まで掘り下げたら、山留壁W,Wの間に中間杭Mを構築し、図13の(b)に示すように、中間杭Mの芯材の上端部にプレロード用のジャッキM1を設置する。なお、中間杭Mは、上コンクリート躯体Aの中間部分を仮受けするものであり、H形鋼を芯材とするソイルセメント杭からなる。
第一の躯体構築工程は、上コンクリート躯体Aを形成する工程である。第一の躯体構築工程では、まず、床付面T1上にスラブ型枠や梁型枠などを設置し、その上に下側のスラブ主筋14や縦梁主筋15(図2参照)などを配筋する。次に、横断鉄骨11をブラケットW2,W2間に架設し、横断鉄骨11の端面と山留壁の内壁面との間に、サポート部材11b(図2参照)を設置し、横断鉄骨11の横移動を拘束する。なお、側壁芯鉄骨12は、横断鉄骨11に予め接合しておく。
複数の横断鉄骨11,11,…を設置したら、縦断鉄骨13および繋ぎ材11a(図3参照)を設置し、さらに、図2に示す上側のスラブ主筋14、側壁主筋15、上側の縦梁主筋16、せん断補強筋17、ハンチ筋18などを配筋する。その後、コンクリートを打設し、所定強度に達するまで養生する。
而して、中間杭MのジャッキM1をジャッキアップしつつ型枠を脱型すると、図14の(a)に示すように、山留め支保工を兼ねる上コンクリート躯体Aが出現する。なお、既設構造物の下方に地下構造物を構築する場合には、既設構造物を上コンクリート躯体Aに受け替える。
二次掘削工程は、図14の(b)に示すように、上コンクリート躯体Aの下側の地盤を床付面T2まで掘り下げる工程である。二次掘削工程では、上コンクリート躯体Aを山留め支保工として利用する。本実施形態では、上コンクリート躯体Aの下方に切梁Kを設置しているが、切梁Kの有無や段数等は、掘削深さ掘削幅等に応じて適宜設定すればよい。
床付面T2まで掘削したら、図示は省略するが、床付面T2および山留壁Wの内壁面に沿って防水シートを敷設し、防水シート上に保護モルタルおよび基礎コンクリートを打設する。また、下コンクリート躯体C(図1参照)の構築予定位置を挟んで両側に、三次掘削の際の山留となる親杭P,Pを構築する。親杭P,Pを構築したら、親杭Pの上端部を少しだけ掘り下げ、露出した親杭Pの頭部に腹起しを横設し、さらに、腹起しにブラケットP1を設置する。
第二の躯体構築工程は、図15に示すように、上コンクリート躯体Aの下側に複数の鋼製セグメント20、30,40,50,60を並設し、これらを互いに接合することで鋼殻躯体Bを形成する工程である。第二の躯体構築工程には、鋼床版構築工程、鉄骨設置工程、鋼壁構築工程などが含まれている。
鋼床版構築工程は、図15の(a)に示すように、左右の床付面T2,T2の上に鋼殻構造の床版部B1,B1を形成する工程である。鋼床版構築工程では、複数の床版用鋼製セグメント20,30および複数の隅角部用鋼製セグメント40をイモ組み状態となるように並設し、これらを互いに接合することで床版部B1,B1を形成する。鋼製セグメントの設置作業は、例えば、セグメントを把持した状態で床付面T2上を自走可能なハンドリングマシンを利用して行うか、あるいは、セグメントを吊持可能な小型の揚重機械を利用して行えばよい。
セグメントを「イモ組み」する場合には、組立順序が制約され難くなるので、様々な組立順序を採用することできるが、例えば、三種類の鋼製セグメント20,30,40を横一列に並設し、横方向に隣接する鋼製セグメント20,30,40を互いに接合して横長の構造体を形成した後に、その前側または後側において他の鋼製セグメント20,30,40を横一列に並設し、横方向に隣接する鋼製セグメント20,30,40を接合するとともに、縦断方向に隣接する同種のセグメント同士を接合すればよい。なお、一種類のセグメントを縦断方向に並設した後に、その横において他種のセグメントを縦断方向に並設してもよい。
横方向に隣接するセグメント同士は、ボルトb2(図5参照)を使用して引張接合方式により接合する。ボルトb2には、初期導入軸力として、ボルトb2の降伏軸力の75%に相当する軸力を導入する。「イモ組み」の場合、セグメント継手の位置が縦断方向に連続するようになるので、千鳥組みをした場合のような添接効果を期待することはできないが、ボルトb2を利用して上記のような軸力を導入してセグメント同士を引張接合すれば、セグメント継手における剛性低下が生じ難くなるので、剛性一様な構造体として設計することが可能となる。
鉄骨設置工程は、床版部B1,B1間に主鉄骨71を架設する工程である。鉄骨設置工程では、中床版の残部(下コンクリート躯体Cの床版部C1)を形成すべき領域に主鉄骨71を配置し、主鉄骨71の端部を床版用鋼製セグメント30の本体部3Aに接合する。埋込主桁3B,3Bの上下にはスキンプレートが存在していないので、主鉄骨71を下降させるだけで、本体部3A、3Aの間に主鉄骨71を配置することができる。本実施形態では、親杭PのブラケットP1に主鉄骨71を載置した後、主鉄骨71の端部を床版用鋼製セグメント30の本体部3Aに接合する。なお、主鉄骨71は、ブラケットP1にも接合もする。
主鉄骨71,71,…を架設したら、縦断方向に隣り合う主鉄骨71,71間に繋ぎ材71a,71a(図11参照)を架設し、繋ぎ材71a,71aを介して主鉄骨71,71を連結する。なお、繋ぎ材71a,71aは、中間杭Mを挟んで両側に配置し、中間杭Mの座屈防止となるよう、中間杭Mにも固定する。
次に、隅角部用鋼製セグメント40と山留壁Wとの間の隙間にモルタルなどの裏込材81(図15の(b)参照)を注入する。裏込材81が硬化すると、鋼製セグメント20,30,40と主鉄骨71とを連設してなる構造体が山留め支保工として機能し得るようになるので、切梁Kを撤去することができる。
また、以後の作業を円滑に行えるよう、図15の(b)に示すように、第一の床版用鋼製セグメント20の内部、第二の床版用セグメント30の本体部3Aの内部および隅角部用鋼製セグメント40の内部に、間詰め材82を打設して、床版部B1の上面を平滑にし、さらに、主鉄骨71上に覆工板83を敷設する。なお、間詰め材82の種類や材質に制限はないが、本実施形態では、低コスト化を図るべく、非構造材料(例えば、貧配合のコンクリートや流動化処理土など)を使用している。
鋼壁構築工程は、山留壁Wに沿って鋼殻構造の側壁部B2を形成する工程である。鋼壁構築工程では、複数の側壁用鋼製セグメント50,60をイモ組み状態となるように並設し、これらを互いに接合することで側壁部B2,B2を形成する。上下方向に隣接するセグメント同士は、ボルトb2(図6参照)を使用して引張接合方式により接合し、ボルトb2には、初期導入軸力として、ボルトb2の降伏軸力の75%に相当する軸力を導入する。
鋼製セグメントの設置作業は、例えば、セグメントを把持した状態で間詰め材82上を自走可能なハンドリングマシンを利用して行うか、あるいは、セグメントを吊持可能な小型の揚重機械を利用して行えばよい。床版部B1の上面が平坦に均されており、かつ、施工機械の移動を妨げる切梁K(図15の(a)参照)が既に撤去されているので、鋼製セグメントの設置作業をスムーズに行うことができる。
なお、下段の側壁用鋼製セグメント50は、隅角部用鋼製セグメント40の上端面(図5の(b)に示す上側の継手プレート43)に載置する。本実施形態では、複数の隅角部用鋼製セグメント40,40,…の上端面の高さ位置が揃っているので(図4,図18の(a)参照)、側壁用鋼製セグメント50を容易に設置することができる。すなわち、「イモ組み」とすれば、鋼床版構築工程を先行した場合であっても、側壁用鋼製セグメント50,60を容易に設置することができる。なお、鋼壁構築工程に先立って鋼床版構築工程を行い、間詰め材82による「平場」を早期に確保すれば、側壁用鋼製セグメント50,60の設置作業をより効率良く行うことが可能となる。
セグメントを千鳥組みにする場合には、図18の(b)に示すように、複数の隅角部用鋼製セグメント40,40,…の上端面の高さ位置に高低差が生じ、低い方の隅角部用鋼製セグメント40の上に側壁用鋼製セグメント50を設置する際には、その両側の隅角部用鋼製セグメント40,40の間に挿入する必要があるので、両セグメントに設けたシール材が剥離等しないよう注意する必要がある。
上段の側壁用鋼製セグメント60は、図16の(a)に示すように、蓋プレート66(図16の(c)参照)を取り付けない状態で、下段の側壁用鋼製セグメント50の上端面(図5の(b)に示す上側の継手プレート53)に載置する。本実施形態では、下段の側壁用鋼製セグメント50,50,…の上端面の高さ位置が揃っているので(図4参照)、上段の側壁用鋼製セグメント60を容易に設置することができる。なお、上コンクリート躯体Aと下段の側壁用鋼製セグメント50との間には、上段の側壁用鋼製セグメント60が丁度収まる程度のクリアランスしか存在していないが、後組み鉄筋15b(図16の(b)参照)が先組み鉄筋15aに継ぎ足されていないので、側壁用鋼製セグメント60をスムーズに設置することができる。
側壁用鋼製セグメント50,60を設置したら、図16の(b)に示すように、側壁用鋼製セグメント50,60と山留壁Wとの間の隙間にモルタルなどの裏込材84を注入し、側壁部B2の側部を拘束する。
続いて、先組み鉄筋15aの下端部に、後組み鉄筋15bを継ぎ足す(接合部配筋工程)。すなわち、側壁用鋼製セグメント60のスキンプレート61の内側に側壁主筋15の一部となる後組み主筋15bを配筋し、後組み主筋15bの上端部を先組み主筋15aの下端部に接続する。本実施形態では、基準面S1,S2,S6(図10参照)で囲まれた領域の外側に孔あき鋼板ジベル67を配置し、基準面S1,S2,S6で囲まれた領域の内側に後組み主筋15bを配筋しているので、先組み主筋15aに多少の配筋誤差等が存在していたとしても、孔あき鋼板ジベル67との干渉を避けつつスムーズに後組み主筋15bを配筋することができる。
その後、図16の(c)に示すように、一対の主桁プレート62,62間にせん断補強筋17,17,…を配筋するとともに、ハンチ筋18の一部となる後組みハンチ筋18bを配筋し、後組みハンチ筋18bの上端部を先組みハンチ筋18aの下端部に接続する。蓋プレート66は未だ取り付けられていないので、後組み主筋15bやせん断補強筋17などを容易に配筋することができ、ひいては、工期の短縮を図ることが可能となる。
一対の主桁プレート62,62間に所要の鉄筋を配筋したら、蓋プレート66を配置し、この蓋プレート66を前記両主桁プレートに固着する(筒状部形成工程)。筒状部形成工程では、筒状部6Bの側面開口部を蓋プレート66で塞ぎ、図16の(d)に示すように、多数のボルトを利用して蓋プレート66の三辺を第一接続板62a,62aおよび第二接続板65a(図7参照)に接合する。
その後、筒状部6Bの内部空間(スキンプレート61と一対の主桁プレート62,62と蓋プレート66とで囲まれた空間)にコンクリート19aを充填する(コンクリート充填工程)。コンクリート19aを打設する際には、上コンクリート躯体Aを上下に貫通するコンクリート注入孔(図示略)を使用する。なお、コンクリート19aは、筒状部6Bの上縁まで打設する。
コンクリート19aが硬化したら、コンクリート19aの上面と上コンクリート躯体Aの下面との間に、高流動膨張コンクリート19bを充填する。高流動膨張コンクリート19bを充填する際には、上コンクリート躯体Aを上下に貫通するモルタル注入孔(図示略)を使用する。なお、既設構造物を上コンクリート躯体Aに受け替えた場合には、既設構造物の重量が上コンクリート躯体Aを介して山留壁Wに作用することになるが、上コンクリート躯体Aと鋼殻躯体Bとが接合されると、上コンクリート躯体A、鋼殻躯体B,Bおよび主鉄骨71によって矩形枠状の構造体が形成されるようになり、当該構造体を介して既設構造物の重量の一部が床付面T2等に作用するようになるので、山留壁Wの負担を低減することが可能になる。なお、高流動膨張コンクリート19bに代えて、無収縮モルタル等を充填してもよい。
三次掘削工程は、図17の(a)に示すように、鋼殻躯体B,Bの間の地盤を図示せぬ床付面まで掘り下げる工程である。三次掘削工程では、主鉄骨71を山留め支保工として利用しつつ、主鉄骨71の下側の地盤を掘り下げる。なお、三次掘削工程は、前記した側壁構築工程と並行して行ってもよい。また、三次掘削の進行に伴い、主鉄骨71の下方に切梁を設置してもよい。
第三の躯体構築工程は、下コンクリート躯体Cを形成する工程である。下コンクリート躯体Cは、順巻工法により構築する。すなわち、第三の躯体構築工程では、主鉄骨71の下側の空間において下階(地下2階)の側壁部C2と底版部(図示略)とを形成し、その後、主鉄骨71を包含するようにコンクリートを打設することで、上階(地下1階)の中床版となる床版部C1を形成する。
前記したように、第三の躯体構築工程では、まず、床付面上に鉄筋コンクリート構造の底版部を構築し(図示略)、底版部上に鉄筋コンクリート構造の側壁部C2,C2を構築する。なお、側壁部C2の側壁主筋75は、主鉄骨71の上面の高さ位置付近まで延設しておく。
側壁部C2,C2まで構築したら、主鉄骨71の下側に図示せぬ型枠を配置するとともに、主鉄骨71の上下に、図11の(a)に示すスラブ主筋72や配力筋73を配筋し、さらに、せん断補強筋74やハンチ筋76,77を配筋する。なお、主鉄骨71は、下コンクリート躯体Cの補強鋼材なので、主鉄骨71を撤去する作業は不要である。
配筋作業が終了したら、型枠上にコンクリートを打設し、所定強度に達するまで養生する。型枠を脱型すると、図17の(b)に示すように、鋼殻構造の床版部B1,B1と剛結された鉄骨鉄筋コンクリート構造の床版部C1が出現し、上階の床となる中床版が形成される。
支柱構築工程は、支柱Dを形成する工程である。支柱構築工程では、まず、縦梁部A3と床版部C1の主筋定着領域C12との間に支柱Dの外殻となる鋼管を設置し、その後、鋼管の内部にコンクリートを充填する。
コンクリートの強度が所定強度に達した後、中間杭Mを撤去し、上コンクリート躯体Aの上側の空間に地盤材料を埋め戻すと、図1の状態となる。
本実施形態に係る地下構造物によれば、図4に示すように、本設躯体の一部を鋼殻構造としているので、本設躯体の全体をコンクリート構造とする場合に比べて、コンクリートの使用量を削減することが可能となり、ひいては、鉄筋や型枠の数量を削減することが可能となる。
また、本実施形態に係る地下構造物の構築方法によれば、コンクリート、型枠、鉄筋等の数量を削減することができるので、コンクリートの打設時間帯に制約があるような状況下であっても、あるいは、大型の揚重機械を使用できないような作業空頭であっても、工期の長期化を招き難くなる。
本実施形態では、鋼製セグメント20,30,40,50,60を、イモ組み状態となるように並設しているので、組立順序の自由度が高まり、ひいては、施工効率を向上させることが可能となる。なお、本実施形態では、左右あるいは上下に隣接する鋼製セグメント同士を、ボルトb2を使用して引張接合方式により接合する。
側壁接合部J1においては、図7に示すように、側壁用鋼製セグメント60の筒状部6Aにコンクリート躯体Aの主筋15が入り込み、スキンプレート61、主桁プレート62および蓋プレート66に孔あき鋼板ジベル67(せん断伝達部材)が突設されているので、側壁接合部J1の耐力を上コンクリート躯体Aの耐力以上にすることができ、しかも、上コンクリート躯体Aと鋼殻躯体Bとの間で断面力を確実に伝達できるようになる。
また、図10に示すように、基準面S1,S2,S6で囲まれた領域の外側に孔あき鋼板ジベル67を配置し、基準面S1,S2,S6で囲まれた領域の内側に後組み主筋15bを配筋しているので、主筋15と孔あき鋼板ジベル67との間にクリアランスが確保されるようになる。つまり、主筋15の配筋誤差や側壁用鋼製セグメント60の設置誤差を吸収することが可能となり、したがって、先組み主筋15aに多少の配筋誤差等が存在していたとしても、孔あき鋼板ジベル67との干渉を避けつつスムーズに後組み主筋15bを配筋することができる。また、後組み主筋15bやせん断補強筋17などを配筋する時点では、蓋プレート66は未だ取り付けられていないので、容易に配筋することができ、ひいては、工期の短縮を図ることが可能となる。
床版接合部J2においては、図12に示すように、上下のスラブ主筋72,72の間に埋込主桁3B,3Bが配置されており、しかも、埋込主桁3B,3Bの上下にはスキンプレートが配置されていないので、主鉄骨71の架設作業やせん断補強筋73の配筋作業を容易に行うことができ、さらには、空気溜まりの発生を防ぐことができる。また、コンクリートの打設状況を視認することができるので、埋込主桁3B周辺へのコンクリート打設や埋込主桁3B周辺での締固作業を容易に行うことができる。
また、主鉄骨71を下コンクリート躯体Cの補強鋼材としているので、鉄筋量を削減して配筋を簡素化することが可能となり、したがって、側壁接合部J2での配筋作業や締固め作業が容易になる。
また、埋込主桁3B,3Bの上下にスキンプレートが配置されていないので、図11の(a)に示すように、下コンクリート躯体Cの側壁部C2から延出する鉄筋(本実施形態では、ハンチ筋76)を接合領域C11のコンクリート(図5の(a)に示すコンクリート打設空間3Cに打設されたコンクリート)に定着させることが可能となる。なお、図示は省略するが、接合領域C11の直下に側壁部C2を設け、側壁部C2の主筋を接合領域C11に定着させてもよい。
また、埋込主桁3Bの上縁が本体部3Aの上縁よりも一段下がったところに位置し、埋込主桁3Bの下縁が本体部3Aの下縁よりも一段上がったところに位置しているので、埋込主桁3Bの上下に大きなかぶり厚を確保することができ、コンクリートの押抜きせん断破壊が起こり難くなる。
本実施形態では、図15に示すように、側壁用鋼製セグメント50,60の設置前に、下コンクリート躯体Cの補強鋼材である主鉄骨71を鋼殻躯体Bの床版部B1に接合し、これらを山留め支保工として利用しているので、下コンクリート躯体Cの床版部C1の完成を待たずして、二次掘削工程において使用した切梁Kを撤去することができ、切梁Kの無い状態で側壁用鋼製セグメント50,60の設置作業を行うことができる。
しかも、主鉄骨71は、山留壁W,W間の支保工として機能するだけでなく、図17に示すように、親杭P,P間を掘り下げる際の山留め支保工として機能し得るように設計されているので、中床版の完成を待たずして、主鉄骨71の下側を掘り下げることができ、ひいては、工期の短縮化を図ることが可能となる。