JP2012149304A - 軌道部材の熱処理方法 - Google Patents

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【課題】軌道部材(転がり軸受の軌道輪等)の熱処理方法として、軌道面の残留オーステナイト量を高く保持しながら、芯部の残留オーステナイト量を低く抑えることができる方法を提供する。
【解決手段】高炭素クロム軸受鋼からなる軌道部材全体をA1変態点以上の温度に保持して浸炭窒化処理を行った後、A1変態点未満の温度に急冷する浸炭窒化・一次焼入れ工程と、軌道面の表層部が浸炭窒化処理温度以上の温度になり、それ以外の部分(芯部全体と軌道面以外の表層部)が浸炭窒化処理温度未満の温度になるように、軌道部材を加熱する予熱工程と、軌道部材全体をA1変態点以上の温度に保持した後にMS変態点以下の温度まで急冷する二次焼入れ工程と、焼戻し工程を、この順に行う。
【選択図】図1

Description

この発明は、互いに対向配置される軌道面を備えた第1および第2の軌道部材と、両軌道部材の間に配設された転動体と、を備え、転動体が転動することにより両軌道部材の一方が他方に対して相対運動する装置の前記軌道部材(転がり軸受の軌道輪、リニアガイドの案内レールとスライダ、ボールねじのねじ軸とナットなど)に対する熱処理方法に関する。
潤滑油中に混入している金属の切粉、削り屑、バリ及び摩耗粉等の異物が転がり軸受の軌道輪や転動体に損傷を与え、転がり軸受の寿命の大幅な低下をもたらすことはよく知られている。
潤滑油中に異物が混入している状態(異物混入潤滑下)で転がり軸受を使用する際の寿命を長くするためには、異物の噛み込みによって軌道面に生じた圧痕(陥没部)の周縁部に応力が集中することを緩和する必要がある。そのため、従来より、軌道面の残留オーステナイト量を多くすることを目的として、浸炭処理や浸炭窒化処理が行われている。
特許文献1には、軸受部品(転がり軸受の内輪、外輪、または転動体)に対する熱処理として、A1変態点を超える温度(例えば845℃)で浸炭窒化処理を行った後、A1変態点未満の温度に急冷する浸炭窒化・一次焼入れ工程と、A1変態点以上で前記浸炭窒化処理温度よりも低い温度(例えば800℃)に保持した後にA1変態点未満の温度に急冷する二次焼入れ工程と、焼戻し工程をこの順に行うことにより、表層部の残留オーステナイト量を11%以上25%以下の範囲にすることが記載されている。
しかし、この方法では、浸炭窒化層に対して二次焼入れ工程を行うことで表層部の残留オーステナイト量が減少する。また、残留オーステナイト量を増加させるために二次焼入れ工程の保持温度を高くすると、芯部の残留オーステナイト量も増加するため寸法安定性が低下する。これに対して、軌道面の残留オーステナイト量を高く保持しながら、芯部の残留オーステナイト量を低く抑えることができれば、異物混入潤滑下での長寿命と優れた寸法安定性を両立することができる。
特開2006−316821号公報
この発明の課題は、前記軌道部材の熱処理方法として、軌道面の残留オーステナイト量を高く保持しながら、芯部の残留オーステナイト量を低く抑えることができる方法を提供することである。
上記課題を解決するために、この発明は、互いに対向配置される軌道面を備えた第1および第2の軌道部材と、両軌道部材の間に配設された転動体と、を備え、転動体が転動することにより両軌道部材の一方が他方に対して相対運動する装置の前記軌道部材に対する熱処理方法であって、前記軌道部材は高炭素クロム軸受鋼(SUJ1〜SUJ5のいずれか)からなり、図1に示すように、前記軌道部材全体をA1変態点(723℃)以上の温度に保持して浸炭窒化処理を行った後、A1変態点未満の温度に急冷する浸炭窒化・一次焼入れ工程と、前記軌道面の表層部が前記浸炭窒化処理温度以上の温度になり、それ以外の部分(芯部全体と軌道面以外の表層部)が前記浸炭窒化処理温度未満(A1変態点未満)の温度になるように、前記軌道部材を加熱する予熱工程と、前記軌道部材全体をA1変態点以上の温度に保持した後にMS変態点(例えば200℃)以下の温度まで急冷する二次焼入れ工程と、焼戻し工程をこの順に行うことを特徴とする。
前記予熱工程は、誘導加熱(高周波加熱)、火炎による加熱、赤外線による加熱、レーザーによる加熱、電子ビームによる加熱などの表面加熱手段により軌道面を加熱することで行うことができる。表面加熱手段で軌道面を前記浸炭窒化処理温度以上の温度に加熱することで、軌道面からの熱が、軌道面の芯部と軌道面以外の表層部および芯部とに伝達されて、軌道面表層部以外の部分(芯部全体と軌道面以外の表層部)を前記浸炭窒化処理温度未満の温度とすることができる。これにより、軌道面の深さ方向に温度勾配が形成される。
前記二次焼入れ工程の温度保持は、雰囲気加熱(炉加熱)や、前述の表面加熱手段により表面だけでなく中心まで加熱する方法で行うことができる。
この発明の方法によれば、浸炭窒化・一次焼入れ工程と二次焼入れ工程との間に前記予熱工程を行うことで、軌道面の残留オーステナイト量を高く保持しながら、芯部の残留オーステナイト量を低く抑えることができる。
前記浸炭窒化処理温度をA1変態点以上850℃以下の温度で行い、前記予熱工程で前記軌道面の最高加熱温度を850℃以上とすることが好ましい。
この発明の方法によれば、前記軌道部材の軌道面の残留オーステナイト量を高く保持しながら、芯部の残留オーステナイト量を低く抑えることができる。
この発明の熱処理方法を説明する図である。
以下、この発明の実施形態について説明する。
先ず、SUJ2(高炭素クロム軸受鋼第2種)からなる素材を、旋削加工で、玉軸受の外輪(外径120mm、溝底肉厚2.5mm、幅17mm)の形状にした。次に、この外輪を熱処理炉内に入れて、浸炭窒化ガス雰囲気中850℃(A1変態点以上の温度)で3時間保持して浸炭窒化処理を行った後、油冷(No.2のみ空冷)することで、浸炭窒化・一次焼入れ工程を行った。
次に、No.1〜8 では下記の方法で予熱工程を行った後に、No.9〜11では予熱工程を行
わないで、下記の方法で二次焼入れ工程を行った。次に、160〜180℃に2時間保持する焼戻し工程を行った。
<予熱工程>
No.1〜6 では、誘導加熱を高周波(周波数30kHz)で5秒間行うことにより、軌道面(軌道溝)の表面温度が、溝底位置の放射温度計による測定で最高値が900℃となり、外周面の表面温度が放射温度計による測定で最高値が400℃となるようにした。軌道面以外の部分は、軌道面からの熱伝導により加熱されている。
No.7では、誘導加熱を高周波(周波数30kHz)で4秒間行うことにより、軌道面(軌道溝)の表面温度が、溝底位置の放射温度計による測定で最高値が850℃となり、外周面の表面温度が放射温度計による測定で最高値が250℃となるようにした。軌道面以外の部分は、軌道面からの熱伝導により加熱されている。
No.8では、誘導加熱を高周波(周波数10kHz)で4秒間行うことにより、軌道面(軌道溝)の表面温度が、溝底位置の放射温度計による測定で最高値が850℃となり、外周面の表面温度が放射温度計による測定で最高値が400℃となるようにした。軌道面以外の部分は、軌道面からの熱伝導により加熱されている。
<二次焼入れ工程>
No.1〜4,7,8では、外輪を加熱炉内に入れて850℃、820℃、880℃のいずれかの温度に0.5時間保持した後、油冷却し、冷却途中(5秒後)で、外周面を拘束する矯正型(分割体からなるものでなく、一体形のもの)に外輪を圧入して、さらに冷却した。
No.5と6と9では、外輪を誘導加熱により850℃または880℃に2秒間保持した後、水冷し、冷却途中(3秒後)で、外周面を拘束する矯正型(分割体からなるものでなく、一体形のもの)に外輪を圧入して、さらに冷却した。
熱処理後の外輪について、軌道面と芯部の残留オーステナイト量(γR )をX線回折により測定した。軌道面の残留オーステナイト量は軌道面から深さ0.2mmの位置で測定し、芯部の残留オーステナイト量は溝底から径方向に深さ1.5mmの位置で測定した。これらの結果を熱処理条件とともに下記の表1に示す。
Figure 2012149304
軌道面の残留オーステナイト量が19体積%以上で、芯部の残留オーステナイト量が12体積%以下であることが、異物混入潤滑下での長寿命と優れた寸法安定性を両立できる転がり軸受の外輪として好ましい。また、軌道面の残留オーステナイト量は25体積%以上45体積%以下であることがより好ましい。
この発明の実施例に相当するNo.1〜8の外輪は、軌道面の残留オーステナイト量が19〜32体積%で、芯部の残留オーステナイト量が6〜11体積%となっており、良好な結果が得られた。特に、予熱工程で軌道面の最高温度が900℃となっているNo.1〜6は、軌道面の表層部の残留オーステナイト量が30体積%または32体積%であり、前記温度が850℃であるNo.7と8の19体積%と比較して特に高い値となっている。
これに対して、No.9〜11の外輪は、「軌道面の残留オーステナイト量が19体積%以上」と「芯部の残留オーステナイト量が12体積%以下」のいずれかを満たしていない。
以上のことから、浸炭窒化・一次焼入れ工程と二次焼入れ工程との間に、軌道面の表層部が浸炭窒化処理温度以上の温度になり、それ以外の部分(芯部全体と軌道面以外の表層部)が浸炭窒化処理温度未満の温度になるように、外輪(軌道部材)を加熱する予熱工程を行うことで、軌道面の残留オーステナイト量を高く保持しながら、芯部の残留オーステナイト量を低く抑えることができることが分かる。
また、浸炭窒化処理温度を850℃とした場合、予熱工程での軌道面の最高加熱温度を900℃とすることで、850℃とした場合よりも軌道面の残留オーステナイト量が高く、良好な結果が得られることが分かる。

Claims (2)

  1. 互いに対向配置される軌道面を備えた第1および第2の軌道部材と、両軌道部材の間に配設された転動体と、を備え、転動体が転動することにより両軌道部材の一方が他方に対して相対運動する装置の前記軌道部材に対する熱処理方法であって、
    前記軌道部材は高炭素クロム軸受鋼からなり、
    前記軌道部材全体をA1変態点以上の温度に保持して浸炭窒化処理を行った後、A1変態点未満の温度に急冷する浸炭窒化・一次焼入れ工程と、
    記軌道面の表層部が前記浸炭窒化処理温度以上の温度になり、それ以外の部分が前記浸炭窒化処理温度未満の温度になるように、前記軌道部材を加熱する予熱工程と、
    前記軌道部材全体をA1変態点以上の温度に保持した後にMS変態点以下の温度まで急冷する二次焼入れ工程と、
    焼戻し工程をこの順に行うことを特徴とする軌道部材の熱処理方法。
  2. 前記浸炭窒化処理温度をA1変態点以上850℃以下の温度で行い、前記予熱工程で前記軌道面の最高加熱温度を850℃以上とする請求項1記載の軌道部材の熱処理方法。
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