JP2012146640A - 色素、色素増感光電変換素子、電子機器および建築物 - Google Patents

色素、色素増感光電変換素子、電子機器および建築物 Download PDF

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Abstract

【課題】高い光電変換効率で、有機溶媒処理が容易な色素を用いた色素増感光電変換素子を提供する。
【解決手段】色素は下記式(1)で表される。
Figure 2012146640

(式(1)中、R1は炭素数が1以上10以下のアルキル基、R2は炭素数が1以上20以下のアルキル基を表す)この色素を光増感色素として色素増感光電変換素子の多孔質電極の表面に結合させる。
【選択図】図1

Description

本開示は、色素、色素増感光電変換素子、電子機器および建築物に関し、特に、色素増感光電変換素子の光増感色素に用いて好適な色素、この色素を光増感色素に用いた色素増感光電変換素子ならびにこの色素増感光電変換素子を用いた電子機器および建築物に関する。
太陽光を電気エネルギーに変換する光電変換素子である太陽電池は太陽光をエネルギー源としているため、地球環境に対する影響が極めて少なく、より一層の普及が期待されている。
従来より、太陽電池としては、単結晶または多結晶のシリコンを用いた結晶シリコン系太陽電池および非晶質(アモルファス)シリコン系太陽電池が主に用いられている。
一方、1991年にグレッツェルらが提案した色素増感太陽電池は、高い光電変換効率を得ることができ、しかも従来のシリコン系太陽電池とは異なり製造の際に大掛かりな装置を必要とせず、低コストで製造することができることなどにより注目されている(例えば、非特許文献1参照。)。
この色素増感太陽電池は、一般的に、光増感色素を結合させた酸化チタンなどからなる多孔質電極と白金などからなる対極とを対向させ、それらの間に電解液からなる電解質層が充填された構造を有する。電解液としては、ヨウ素やヨウ化物イオンなどの酸化還元種を含む電解質を溶媒に溶解したものが多く用いられる。
従来の色素増感太陽電池においては、多孔質電極に結合させる光増感色素は、Ru錯体系の光増感色素が主流である。このRu錯体系の光増感色素の代表的な一例として、Z991と呼ばれる下記式で表されるものがある。
Figure 2012146640
この式から分かるように、Z991はビピリジン配位子の4位にビチオフェンを有する。このため、Z991は高いモル吸光係数を有し、色素増感太陽電池に用いると高い光電変換効率が得られる。
なお、シクロペンタジエンジチオフェン骨格を有する色素に関する報告例があるが、これらは本開示の色素とは別異のものである(特許文献1および非特許文献2参照。)。
国際公開第09/098643号パンフレット
Nature,353,p.737-740,1991 J.Phys.Chem.B 2010,114,4461-4464 Inorg.Chem.1996,35,1168-1178 J.Chem.Phys.124,184902(2006)
しかしながら、本発明者らの検討によれば、色素増感太陽電池の性能のより一層の向上を図るためには、Z991では不十分である。また、Z991は、ビチオフェン骨格を有するため、吸光度の向上には適しているが、一方で様々な有機溶媒に対する溶解性が低いため、精製を行ったり、光増感色素溶液を調製したりする場合など、有機溶媒による処理が難しいという問題がある。
そこで、本開示が解決しようとする課題は、色素増感太陽電池などの色素増感光電変換素子の光増感色素に用いた場合に高い光電変換効率を得ることができ、しかも有機溶媒による処理を容易に行うことができる新規な色素を提供することである。
本開示が解決しようとする他の課題は、上記のような優れた色素を光増感色素に用いた色素増感光電変換素子を提供することである。
本開示が解決しようとするさらに他の課題は、上記のような優れた色素増感光電変換素子を用い高性能の電子機器または建築物を提供することである。
上記課題を解決するために、本開示は、
下記式(1)で表される色素である。
Figure 2012146640
(式(1)中、R1 は炭素数が1以上10以下のアルキル基、R2 は炭素数が1以上20以下のアルキル基を表す)
また、本開示は、
多孔質電極と、
対極と、
上記多孔質電極と上記対極との間に設けられた電解質層とを有し、
上記多孔質電極に下記式(1)で表される光増感色素が結合した色素増感光電変換素子である。
Figure 2012146640
(式(1)中、R1 は炭素数が1以上10以下のアルキル基、R2 は炭素数が1以上20以下のアルキル基を表す)
また、本開示は、
少なくとも一つの光電変換素子を有し、
上記光電変換素子が、
多孔質電極と、
対極と、
上記多孔質電極と上記対極との間に設けられた電解質層とを有し、
上記多孔質電極に下記式(1)で表される光増感色素が結合した色素増感光電変換素子である電子機器である。
Figure 2012146640
(式(1)中、R1 は炭素数が1以上10以下のアルキル基、R2 は炭素数が1以上20以下のアルキル基を表す)
また、本開示は、
少なくとも一つの光電変換素子および/または複数の光電変換素子が電気的に接続されている光電変換素子モジュールを有し、
上記光電変換素子が、
多孔質電極と、
対極と、
上記多孔質電極と上記対極との間に設けられた電解質層とを有し、
上記多孔質電極に下記式(1)で表される光増感色素が結合した色素増感光電変換素子である建築物である。
Figure 2012146640
(式(1)中、R1 は炭素数が1以上10以下のアルキル基、R2 は炭素数が1以上20以下のアルキル基を表す)
本開示において、電解質層としては、一般的には電解液を含むもの、典型的には電解液からなるものが用いられる。電解液としては従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選択される。電解液の揮発を防止する観点からは、電解液としては、好適には、低揮発性の電解液、例えばイオン液体を溶媒に用いたイオン液体系電解液が用いられる。イオン液体としては、従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。
電解質層は、電解液を含む多孔質膜により構成してもよい。こうすることで、電解質層が固体状となるので、色素増感光電変換素子が破損した際に電解液が漏れるのを防止することができる。また、多孔質電極を透過して素子内部に入った入射光は、電解質層を構成する多孔質膜で散乱されて多孔質電極に再び入射するため、多孔質電極による入射光の捕集率が高くなる。これによって、短絡電流密度および光電変換効率が高い色素増感光電変換素子を実現することができる。また、電解液を含む多孔質膜により電解質層を構成することができるため、実質的に電解液を膜として扱うことができ、電解液の扱いが極めて簡単となる。このため、特性が優れた色素増感光電変換素子を容易に実現することができる。電解質層を構成する多孔質膜としては種々のものを用いることができ、構造や材質などは必要に応じて選ばれる。この多孔質膜としては、絶縁性のものが用いられるが、この絶縁性の多孔質膜は、絶縁材料からなるものであっても、例えば、導電性材料からなる多孔質膜の空隙部の表面を絶縁体化したり、空隙部の表面に絶縁膜をコーティングしたものであってもよい。この多孔質膜は、有機材料からなるものでも、無機材料からなるものでもよい。この多孔質膜としては、好適には各種の不織布が用いられ、その材料としては、例えばポリオレフィン、ポリエステル、セルロースなどの各種の有機高分子化合物を用いることができるが、これに限定されるものではない。この多孔質膜の空隙率は必要に応じて選ばれるが、多孔質電極と対極との間に設けられた状態における空隙率(実空隙率)は、好適には50%以上である。この実空隙率は、高い光電変換効率を得る観点からは、好適には、80%以上100%未満に選ばれる。
多孔質電極は、半導体からなる微粒子により構成される。半導体は、好適には、酸化チタン(TiO2 )、取り分けアナターゼ型のTiO2 を含む。
多孔質電極としては、いわゆるコア−シェル構造の微粒子により構成されたものを用いてもよい。この多孔質電極としては、好適には、金属からなるコアとこのコアを取り巻く金属酸化物からなるシェルとからなる微粒子により構成されたものが用いられる。このような多孔質電極を用いると、この多孔質電極と対極との間に電解質層を設けた場合、電解液の電解質が、金属からなるコアと金属酸化物からなるシェルとからなる微粒子の金属からなるコアと接触することがないことから、電解質による多孔質電極の溶解を防止することができる。このため、金属からなるコアと金属酸化物からなるシェルとからなる微粒子のコアを構成する金属として、従来使用が困難であった、表面プラズモン共鳴の効果が大きい金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などを用いることができ、光電変換において表面プラズモン共鳴の効果を十分に得ることができる。また、電解液の電解質としてヨウ素系の電解質を用いることができる。金属からなるコアと金属酸化物からなるシェルとからなる微粒子のコアを構成する金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などを用いることもできる。金属からなるコアと金属酸化物からなるシェルとからなる微粒子のシェルを構成する金属酸化物としては、使用する電解質に溶解しない金属酸化物が用いられ、必要に応じて選ばれる。このような金属酸化物としては、好適には、酸化チタン(TiO2 )、酸化スズ(SnO2 )、酸化ニオブ(Nb2 5 )および酸化亜鉛(ZnO)からなる群より選ばれた少なくとも一種の金属酸化物が用いられるが、これらに限定されない。例えば、酸化タングステン(WO3 )、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )などの金属酸化物を用いることもできる。微粒子の粒径は適宜選ばれるが、好適には1〜500nmである。また、微粒子のコアの粒径も適宜選ばれるが、好適には1〜200nmである。
色素増感光電変換素子は、最も典型的には、太陽電池として構成される。ただし、色素増感光電変換素子は、太陽電池以外のもの、例えば光センサーなどであってもよい。
電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器、ロボット、パーソナルコンピュータ、車載機器、各種家庭電気製品などである。この場合、光電変換素子は、例えばこれらの電子機器の電源として用いられる太陽電池である。
建築物は、光電変換素子および/または光電変換素子モジュールを設置可能な外壁面を有する建築物であれば、基本的にはどのようなものであってもよいが、具体的には、例えば、ビルディング、マンション、戸建住宅、アパート、駅舎、校舎、庁舎、競技場、球場、病院、教会、工場、倉庫、小屋、橋などが挙げられる。建築物は、好適には、少なくとも一つの窓部(例えば、ガラス窓)あるいは採光部を有する。建築物に設置される光電変換素子および/または光電変換素子モジュールのうちの窓部あるいは採光部に設けられるものは、好適には2枚の透明板の間、典型的には2枚のガラス板の間に挟持され、必要に応じて固定される。
ところで、電解液には、多孔質電極から電解液への逆電子移動を防ぐために添加剤を添加するのが一般的である。この添加剤としては、4−tert−ブチルピリジン(TBP)が最も良く知られているが、電解液の添加剤の種類は限られており、添加剤の選択の幅が極めて狭く、電解液の設計の自由度が低かった。そこで、本発明者らは、添加剤の選択の幅を広げるべく、実験的および理論的に鋭意研究を行った。その結果、電解液に添加する添加剤としては、従来より一般的に用いられているTBPよりも優れた特性を得ることができる添加剤が多く存在することが判明した。具体的には、pKa が6.04以上7.03以下、すなわち6.04≦pKa ≦7.3の添加剤であれば、TBPよりも優れた特性を得ることができるという結論に到達した。このためには、電解液に6.04≦pKa ≦7.3の添加剤が添加され、および/または、多孔質電極および対極のうちの少なくとも一方の電解質層に面する表面に、6.04≦pKa ≦7.3の添加剤を吸着させる。これによって、電解液の添加剤の選択の幅が大きく、しかも添加剤としてTBPを用いた場合よりも優れた特性を得ることができる色素増感光電変換素子を得ることができる。
電解液に添加し、あるいは、多孔質電極および対極のうちの少なくとも一方の表面に吸着させる添加剤は、6.04≦pKa ≦7.3である限り、基本的にはどのようなものを用いてもよい。ここで、Ka は、水中における共役酸の解離平衡の平衡定数である。この添加剤は、典型的には、ピリジン系添加剤や複素環を有する添加剤などである。ピリジン系添加剤の具体例を挙げると、2−アミノピリジン(2−NH2−Py)、4−メトキシピリジン(4−MeO−Py)、4−エチルピリジン(4−Et−Py)などであるが、これに限定されるものではない。また、複素環を有する添加剤の具体例を挙げると、N−メチルイミダゾール(MIm)、2,4−ルチジン(24−Lu)、2,5−ルチジン(25−Lu)、2,6−ルチジン(26−Lu)、3,4−ルチジン(34−Lu)、3,5−ルチジン(35−Lu)などであるが、これに限定されるものではない。添加剤は、例えば、これらの2−アミノピリジン、4−メトキシピリジン、4−エチルピリジン、N−メチルイミダゾール、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジンおよび3,5−ルチジンからなる群より選ばれた少なくとも一種からなる。なお、6.04≦pKa ≦7.3を有するピリジン類または複素環化合物の構造を分子内に有する化合物も、上記の6.04≦pKa ≦7.3の添加剤と同様な効果を得ることができることが期待される。
添加剤を多孔質電極および対極のうちの少なくとも一方の表面(多孔質電極と対極との間に電解質層を設けた後には多孔質電極または対極と電解質層との界面)に吸着させるためには、多孔質電極と対極との間に電解質層を設ける前に、多孔質電極または対極の表面に、添加剤そのもの、添加剤を含む有機溶媒、添加剤を含む電解液などを用いて添加剤を接触させればよい。具体的には、例えば、多孔質電極または対極を添加剤を含む有機溶媒に浸漬させたり、添加剤を含む有機溶媒を多孔質電極あるいは対極の表面にスプレー塗布したりすればよい。
上記のような添加剤を用いる場合、電解液の溶媒の分子量は好適には47.36以上である。このような溶媒としては、例えば、3−メトキシプロピオニトリル(MPN)、メトキシアセトニトリル(MAN)、アセトニトリル(AN)とバレロニトリル(VN)などのニトリル系溶媒、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、スルホランなどのスルホン系溶媒、γ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒などのいずれか、あるいはこれらの溶媒のいずれか二つ以上の混合液などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
ところで、従来、色素増感太陽電池の電解液の溶媒としてはアセトニトリルなどの揮発性の有機溶媒が用いられてきた。しかしながら、この色素増感太陽電池では、破損などにより電解液が大気に露出すると、電解液の蒸散が起き、故障を招くという問題があった。この問題を解消するために、近年、電解液の溶媒として、揮発性の有機溶媒の代わりに、イオン液体と呼ばれる難揮発性の溶融塩が用いられるようになった(例えば、非特許文献3、4参照。)。この結果、色素増感太陽電池における電解液の揮発の問題は改善されつつある。しかしながら、イオン液体は従来用いられている有機溶媒よりも非常に高い粘性率を有するため、このイオン液体を用いた色素増感太陽電池の光電変換特性は、従来の色素増感太陽電池の光電変換特性よりも劣るのが実情である。このため、電解液の揮発を抑制することができ、しかも優れた光電変換特性を得ることができる色素増感太陽電池が望まれる。そこで、本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意研究を行った。その研究の過程において、本発明者らは、電解液の溶媒としてイオン液体を用いた場合に光電変換特性が劣化する問題の改善策を模索する中で、改善効果は得られないであろうという予想の下に、イオン液体を揮発性の有機溶媒で希釈する試みを行った。結果は予想通りであった。すなわち、イオン液体を揮発性の有機溶媒で希釈した溶媒を電解液に用いた場合には、電解液の粘性率が低下することにより光電変換特性は向上するが、有機溶媒が揮発してしまう問題は依然として残ってしまう。しかしながら、上記の検証を進めるために、種々の有機溶媒を用いてイオン液体を希釈する試みをさらに行った結果、イオン液体と有機溶媒との特定の組み合わせでは、光電変換特性を劣化させずに電解液の揮発を有効に抑えることができることを見出した。これは予想外の驚くべき結果であった。そして、こうして予期せず得られた知見に基づいて実験的および理論的検討を進めた結果、電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を有する有機溶媒とを電解液の溶媒に含ませることが有効であるという結論に至った。この場合、電解液の溶媒中において、イオン液体の電子対受容性の官能基と有機溶媒の電子対供与性の官能基との間に水素結合が形成される。この水素結合を介してイオン液体の分子と有機溶媒の分子とが結合するため、有機溶媒単体を用いた場合に比べて、有機溶媒、したがって電解液の揮発を抑制することができる。また、電解液の溶媒はイオン液体に加えて有機溶媒を含むため、溶媒としてイオン液体だけを用いた場合に比べて電解液の粘性率を低くすることができ、光電変換特性の劣化を防止することができる。これによって、電解液の揮発を抑制することができ、しかも優れた光電変換特性を得ることができる。
ここで、上記の「イオン液体」は、100℃で液体状態を示す塩(融点もしくはガラス転移温度が100℃以上でも、過冷却により室温で液体状態となるものも含む)のほか、これ以外の塩でも、溶媒を添加することによって一つ以上の相を形成し、液体状態となる塩も含む。イオン液体は、電子対受容性の官能基を有するイオン液体である限り基本的にはどのようなものであってもよく、有機溶媒は、電子対供与性の官能基を有する限り基本的にはどのようなものであってもよい。イオン液体は、典型的には、そのカチオンが電子対受容性の官能基を有するものである。このイオン液体は、好適には、第四級窒素原子を有する芳香族アミンカチオンからなり、芳香環中に水素原子を有する有機カチオンと、76Å3 以上のファンデルワールス(van der Waals)体積を有するアニオン(有機アニオンだけでなく、例えばAlCl4 - やFeCl4 - などの無機アニオンも含む)とからなるが、これに限定されるものではない。溶媒中のイオン液体の含有量は必要に応じて選ばれるが、好適には、イオン液体と有機溶媒とからなる溶媒にイオン液体が15重量%以上100重量%未満含まれる。有機溶媒の電子対供与性の官能基は、好適にはエーテル基またはアミノ基であるが、これに限定されるものではない。
上述のように、電解液の溶媒が、電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を有する有機溶媒とを含むことにより、次のような効果が得られる。すなわち、電解液の溶媒中において、イオン液体の電子対受容性の官能基と有機溶媒の電子対供与性の官能基との間に水素結合が形成される。この水素結合を介してイオン液体の分子と有機溶媒の分子とが結合するため、有機溶媒単体を用いた場合に比べて、有機溶媒、したがって電解液の揮発を抑制することができる。また、電解液の溶媒はイオン液体に加えて有機溶媒を含むため、溶媒としてイオン液体だけを用いた場合に比べて電解液の粘性率を低くすることができ、光電変換特性の劣化を防止することができる。このため、電解液の揮発を抑制することができ、しかも優れた光電変換特性を得ることができる色素増感光電変換素子を実現することができる。
本開示によれば、式(1)で表される新規な色素を色素増感光電変換素子の光増感色素に用いることにより、光電変換効率の向上を図ることができる。また、この色素は、シクロペンタジエンジチオフェン骨格にアルキル基R1 、R2 が結合していることにより、有機溶媒への溶解性の向上を図ることができ、特にアルキル基R1 、R2 を十分に長くすることにより溶解性の大幅な向上を図ることができる。このため、色素の精製や色素溶液の調製など、有機溶媒による処理を容易に行うことができる。上記の光電変換効率が高い高性能の色素増感光電変換素子を用いることにより、高性能の電子機器などを実現することができる。
第1の実施の形態による色素の一例の合成方法を説明するための略線図である。 第1の実施の形態による色素の一例のモル吸光係数εの測定結果を示す略線図である。 第2の実施の形態による色素増感光電変換素子を示す断面図である。 第3の実施の形態による色素増感光電変換素子の製造方法を示す断面図である。 参考例1〜5の色素増感光電変換素子の光電変換特性の測定結果を示す略線図である。 参考例6、7の色素増感光電変換素子の光電変換特性の測定結果を示す略線図である。 実施例1〜7の色素増感光電変換素子の電解質層を構成する多孔質膜の実空隙率と規格化光電変換効率との関係を示す略線図である。 Z991を単独で多孔質電極に結合させた色素増感光電変換素子のIPCEスペクトルの測定結果を示す略線図である。 第3の実施の形態による色素増感光電変換素子において電解質層により光が散乱される様子を電解液のみからなる電解質層を用いた従来の色素増感光電変換素子と比較して示す略線図である。 第4の実施の形態による色素増感光電変換素子の製造方法を示す断面図である。 第4の実施の形態による色素増感光電変換素子の製造方法を示す断面図である。 種々の添加剤のpKa とこの添加剤を電解液に添加した色素増感光電変換素子の光電変換効率との関係を示す略線図である。 電解液に添加される種々の添加剤のpKa とその添加剤を電解液に添加した色素増感光電変換素子の内部抵抗との関係を示す略線図である。 添加剤の効果の電解液の溶媒種依存性を示す略線図である。 種々の溶媒のTG−DTA測定の結果を示す略線図である。 種々の溶媒のTG−DTA測定の結果を示す略線図である。 種々の溶媒のTG−DTA測定の結果を示す略線図である。 種々の溶媒のTG−DTA測定の結果を示す略線図である。 第6の実施の形態による色素増感光電変換素子の加速試験を行った結果を示す略線図である。 EMImTCBとtriglymeとの混合溶媒中のEMImTCBの含有量と蒸発速度低下率との関係を測定した結果を示す略線図である。 種々のイオン液体のアニオンのファンデルワールス体積と蒸発速度低下率との関係を測定した結果を示す略線図である。 電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を有する有機溶媒との間に水素結合が形成される様子を示す略線図である。 電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を複数有する有機溶媒との間に複数の水素結合が形成される様子を示す略線図である。 第7の実施の形態による色素増感光電変換素子において多孔質電極を構成する、金属からなるコアと金属酸化物からなるシェルとからなる微粒子の構成を示す断面図である。
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(色素)
2.第2の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
3.第3の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
4.第4の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
5.第5の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
6.第6の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
7.第7の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
〈1.第1の実施の形態〉
[色素]
第1の実施の形態による色素は下記式(1)で表されるものである。
Figure 2012146640
(式(1)中、R1 は炭素数が1以上10以下のアルキル基、R2 は炭素数が1以上20以下のアルキル鎖を表す)
この色素は、ビピリジン配位子の4位にシクロペンタジエンジチオフェン骨格が結合したものである。アルキル基R1 、R2 の長さは長い程有機溶媒への溶解性が向上するが、合成の容易さなどの観点からは、好適には、アルキル基R1 の炭素数は2以上8以下、アルキル基R2 の炭素数は1以上14以下に選ばれる。
〈実施例1〉
式(1)において、R1 =−C4 9 、R2 =−C6 13とした。この色素は下記式(2)で表される。
Figure 2012146640
この色素の合成方法は次の通りである。
図1に示すように、アルゴン雰囲気下、100mLの3つ口フラスコにRuCl2 {(p−cymene)}2 0.612g(1.0mmol)と配位子1 1.803g(2.0mmol)、ジメチルホルムアミド(DMF)を加え70℃で4時間、暗中で反応させる。4時間後、4,4'-dicarboxy-2,2'-bipyridine 0.488g(2.0mmol)を加え、170℃に昇温してさらに4時間撹拌する。次に、NH4 NCS 3.045g(40.0mmol)を加え、110℃で4時間撹拌する。DMFに水を加えて沈澱物を生じさせ、ろ過して沈澱物を集める。それを水で2、3回洗浄した後、乾燥させる。これをテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)溶液で溶解させ、Sephadex LH−20を用いて精製を行った。
以上により、式(2)で表される色素が合成される。
なお、式(1)において、R1 =−CH3 、R2 =−C6 13とした色素も同様な方法で合成することができる。
式(2)で表される色素のモル吸光係数εを測定した。比較のために、従来公知の色素としてZ991および下記式で表されるZ907のモル吸光係数εも測定した。測定結果を図2に示す。
Figure 2012146640
図2から分かるように、式(2)で表される色素(本色素)のモル吸光係数εは、可視光の波長範囲(例えば、400〜700nm)の全体において、Z991およびZ907のモル吸光係数εよりも十分に大きい。このため、式(2)で表される色素は、色素増感光電変換素子の光増感色素に用いた場合には、可視光の吸収係数が高いため、高い光電変換効率を得ることができる。
この第1の実施の形態によれば、色素増感光電変換素子の光増感色素に用いた場合に高い光電変換効率を得ることができる色素を得ることができる。また、この色素は有機溶媒への溶解性が高いので、有機溶媒による処理を容易に行うことができ、例えば、有機溶媒による精製や色素溶液の調製などを容易に行うことができる。
〈2.第2の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
図3は第1の実施の形態による色素増感光電変換素子を示す要部断面図である。
図3に示すように、この色素増感光電変換素子においては、透明基板1の一主面に透明電極2が設けられ、この透明電極2上にこの透明電極2より小さい所定の平面形状を有する多孔質電極3が設けられている。この多孔質電極3には、少なくとも、式(1)で表される光増感色素を含む一種または二種以上の光増感色素が結合している。一方、対向基板4の一主面に導電層5が設けられ、この導電層5上に対極6が設けられている。この対極6は多孔質電極3と同一の平面形状を有する。透明基板1上の多孔質電極3と対向基板4上の対極6との間に電解質層7が設けられている。そして、これらの透明基板1および対向基板4の外周部が封止材8で封止されている。この封止材8は透明電極2および導電層5に接しているが、透明電極2を多孔質電極3と同一の平面形状に形成することにより透明基板1に接するようにしてもよいし、対極6を導電層5の全面に形成することによりこの導電層5に接するようにしてもよい。
多孔質電極3としては、典型的には、半導体微粒子を焼結させた多孔質半導体層が用いられる。光増感色素はこの半導体微粒子の表面に吸着している。半導体微粒子の材料としては、シリコンに代表される元素半導体、化合物半導体、ペロブスカイト構造を有する半導体などを用いることができる。これらの半導体は、光励起下で伝導帯電子がキャリアとなり、アノード電流を生じるn型半導体であることが好ましい。具体的には、例えば、酸化チタン(TiO2 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO3 )、酸化ニオブ(Nb2 5 )、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )、酸化スズ(SnO2 )などの半導体が用いられる。これらの半導体の中でも、TiO2 、取り分けアナターゼ型のTiO2 を用いることが好ましい。ただし、半導体の種類はこれらに限定されるものではなく、必要に応じて、二種類以上の半導体を混合または複合化して用いることができる。また、半導体微粒子の形態は粒状、チューブ状、棒状などのいずれであってもよい。
上記の半導体微粒子の粒径に特に制限はないが、一次粒子の平均粒径で1〜200nmが好ましく、特に好ましくは5〜100nmである。また、半導体微粒子よりも大きいサイズの粒子を混合し、この粒子で入射光を散乱させ、量子収率を向上させることも可能である。この場合、別途混合する粒子の平均サイズは20〜500nmであることが好ましいが、これに限定されるものではない。
多孔質電極3は、できるだけ多くの光増感色素を結合させることができるように、半導体微粒子からなる多孔質半導体層の内部の空孔に面する微粒子表面も含めた実表面積の大きいものが好ましい。このため、多孔質電極3を透明電極2の上に形成した状態での実表面積は、多孔質電極3の外側表面の面積(投影面積)に対して10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがさらに好ましい。この比に特に上限はないが、通常1000倍程度である。
一般に、多孔質電極3の厚さが増し、単位投影面積当たりに含まれる半導体微粒子の数が増加するほど、実表面積が増加し、単位投影面積に保持することができる光増感色素の量が増加するため、光吸収率が高くなる。一方、多孔質電極3の厚さが増加すると、光増感色素から多孔質電極3に移行した電子が透明電極2に達するまでに拡散する距離が増加するため、多孔質電極3内での電荷再結合による電子の損失も大きくなる。従って、多孔質電極3には好ましい厚さが存在するが、この厚さは一般的には0.1〜100μmであり、1〜50μmであることがより好ましく、3〜30μmであることが特に好ましい。
電解質層7を構成する電解液としては、酸化還元系(レドックス対)を含む溶液が挙げられる。酸化還元系としては、適切な酸化還元電位を有する物質であれば、特に制限はない。具体的には、酸化還元系としては、例えば、ヨウ素(I2 )と金属または有機物のヨウ化物塩との組み合わせや、臭素(Br2 )と金属または有機物の臭化物塩との組み合わせなどが用いられる。金属塩を構成するカチオンは、例えば、リチウム(Li+ )、ナトリウム(Na+ )、カリウム(K+ )、セシウム(Cs+ )、マグネシウム(Mg2+)、カルシウム(Ca2+)などである。また、有機物塩を構成するカチオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオン類、ピリジニウムイオン類、イミダゾリウムイオン類などの第四級アンモニウムイオンが好適なものであり、これらを単独に、あるいは二種類以上を混合して用いることができる。
電解質層7を構成する電解液としては、上記のほかに、コバルト、鉄、銅、ニッケル、白金などの遷移金属からなる有機金属錯体の酸化体と還元体との組み合わせ、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオールとアルキルジスルフィドとの組み合わせなどのイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノンとキノンとの組み合わせなどを用いることもできる。
電解質層7を構成する電解液の電解質としては、上記の中でも特に、ヨウ素(I2 )と、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、イミダゾリウムヨーダイドなどの第四級アンモニウム化合物とを組み合わせた電解質が好適なものである。電解質塩の濃度は溶媒に対して0.05M〜10Mが好ましく、さらに好ましくは0.2M〜3Mである。ヨウ素(I2 )または臭素(Br2 )の濃度は0.0005M〜1Mが好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.5Mである。
上記の電解液には、開放電圧や短絡電流を向上させる目的でTBPやベンズイミダゾリウム類などの各種添加剤を加えることもできる。
電解液を構成する溶媒としては、一般的には、水、アルコール類、エーテル類、エステル類、炭酸エステル類、ラクトン類、カルボン酸エステル類、リン酸トリエステル類、複素環化合物類、ニトリル類、ケトン類、アミド類、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、炭化水素などが用いられる。
電解液を構成する溶媒としてはイオン液体を用いてもよく、こうすることで電解液の揮発の問題を改善することができる。イオン液体としては従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれるが、具体例を挙げると次の通りである。
・EMImTCB:1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート(1-ethyl-3-methylimidazolium tetracyanoborate)
・EMImTFSI:1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホン)アミド(1-ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfone)imide)
・EMImFAP:1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスヘート(1-ethyl-3-methylimidazolium tris(pentafluoroethyl)trifluorophosphate)
・EMImBF4 :1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート(1-ethyl-3-methylimidazolium tetrafluoroborate)
・EMImOTf(1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート(1-ethyl-3-methylimidazolium trifluorometanesulfonate) )
・P222 MOMTFSI(トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウム ビス(トリフルオロメチルスホニル)アミド(triethyl(methoxymethyl)phosphonium bis(trifluoromethylsufonyl)imide )
透明基板1は、光が透過しやすい材質と形状のものであれば特に限定されるものではなく、種々の基板材料を用いることができるが、特に可視光の透過率が高い基板材料を用いることが好ましい。また、色素増感光電変換素子に外部から侵入しようとする水分やガスを阻止する遮断性能が高く、また、耐溶剤性や耐候性に優れている材料が好ましい。具体的には、透明基板1の材料としては、石英やガラスなどの透明無機材料や、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ブロム化フェノキシ、アラミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリオレフィン類などの透明プラスチックが挙げられる。透明基板1の厚さは特に制限されず、光の透過率や、光電変換素子内外を遮断する性能を勘案して、適宜選択することができる。
透明基板1上に設けられる透明電極2は、シート抵抗が小さいほど好ましく、具体的には500Ω/□以下であることが好ましく、100Ω/□以下であることがさらに好ましい。透明電極2を形成する材料としては公知の材料を用いることができ、必要に応じて選択される。この透明電極2を形成する材料は、具体的には、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素がドープされた酸化スズ(IV)SnO2 (FTO)、酸化スズ(IV)SnO2 、酸化亜鉛(II)ZnO、インジウム−亜鉛複合酸化物(IZO)などが挙げられる。ただし、透明電極2を形成する材料は、これらに限定されるものではなく、二種類以上を組み合わせて用いることもできる。
多孔質電極3に、式(1)で表される光増感色素に加えて一種または二種以上の他の光増感色素を結合させる場合、その光増感色素は、増感作用を示すものであれば特に制限はなく、有機金属錯体、有機色素、金属ナノ粒子、半導体ナノ粒子などを用いることができるが、この多孔質電極3の表面に吸着する酸官能基を有するものが好ましい。この光増感色素は、一般的には、カルボキシ基、リン酸基などを有するものが好ましく、この中でも特にカルボキシ基を有するものが好ましい。光増感色素の具体例を挙げると、例えば、ローダミンB、ローズベンガル、エオシン、エリスロシンなどのキサンテン系色素、メロシアニン、キノシアニン、クリプトシアニンなどのシアニン系色素、フェノサフラニン、カブリブルー、チオシン、メチレンブルーなどの塩基性染料、クロロフィル、亜鉛ポルフィリン、マグネシウムポルフィリンなどのポルフィリン系化合物が挙げられ、その他のものとしてはアゾ色素、フタロシアニン化合物、クマリン系化合物、ピリジン錯化合物、アントラキノン系色素、多環キノン系色素、トリフェニルメタン系色素、インドリン系色素、ペリレン系色素、ポリチオフェンなどのπ共役系高分子やそのモノマーの2〜20量体、CdS、CdSeなどの量子ドットなどが挙げられる。これらの中でも、リガンド(配位子)がピリジン環またはイミダゾリウム環を含み、Ru、Os、Ir、Pt、Co、FeおよびCuからなる群より選ばれた少なくとも一種類の金属の錯体の色素は量子収率が高く好ましい。特に、シス−ビス(イソチオシアナート)−N,N−ビス(2,2’−ジピリジル−4,4’−ジカルボン酸)−ルテニウム(II)またはトリス(イソチオシアナート)−ルテニウム(II)−2,2' :6' ,2" −ターピリジン−4,4' ,4" −トリカルボン酸を基本骨格とする色素分子は吸収波長域が広く好ましい。ただし、光増感色素は、これらに限定されるものではない。
光増感色素の多孔質電極3への吸着方法に特に制限はないが、上記の光増感色素を例えばアルコール類、ニトリル類、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ジメチルスルホキシド、アミド類、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、エステル類、炭酸エステル類、ケトン類、炭化水素、水などの溶媒に溶解させ、これに多孔質電極3を浸漬したり、光増感色素を含む溶液を多孔質電極3上に塗布したりすることができる。また、光増感色素の分子同士の会合を低減する目的でデオキシコール酸などを添加してもよい。必要に応じて紫外線吸収剤を併用することもできる。
多孔質電極3に光増感色素を吸着させた後に、過剰に吸着した光増感色素の除去を促進する目的で、アミン類を用いて多孔質電極3の表面を処理してもよい。アミン類の例としてはピリジン、4−tert−ブチルピリジン、ポリビニルピリジンなどが挙げられ、これらが液体の場合はそのまま用いてもよいし、有機溶媒に溶解して用いてもよい。
対極6の材料としては、導電性物質であれば任意のものを用いることができるが、絶縁性材料の電解質層7に面している側に導電層が形成されていれば、これも用いることが可能である。対極6の材料としては、電気化学的に安定な材料を用いることが好ましく、具体的には、白金、金、カーボン、導電性ポリマーなどを用いることが望ましい。
また、対極6での還元反応に対する触媒作用を向上させるために、電解質層7に接している対極6の表面は、微細構造が形成され、実表面積が増大するように形成されていることが好ましい。例えば、対極6の表面は、白金であれば白金黒の状態に、カーボンであれば多孔質カーボンの状態に形成されていることが好ましい。白金黒は、白金の陽極酸化法や塩化白金酸処理などによって、また多孔質カーボンは、カーボン微粒子の焼結や有機ポリマーの焼成などの方法によって形成することができる。
対極6は対向基板4の一主面に形成された導電層5上に形成されているが、これに限定されるものではない。対向基板4の材料としては、不透明なガラス、プラスチック、セラミック、金属などを用いてもよいし、透明材料、例えば透明なガラスやプラスチックなどを用いてもよい。導電層5としては、透明電極2と同様なものを用いることができるほか、不透明な導電材料により形成されたものを用いることもできる。
封止材8の材料としては、耐光性、絶縁性、防湿性などを備えた材料を用いることが好ましい。封止材の材料の具体例を挙げると、エポキシ樹脂、紫外線硬化樹脂、アクリル樹脂、ポリイソブチレン樹脂、EVA(エチレンビニルアセテート) 、アイオノマー樹脂、セラミック、各種熱融着フィルムなどである。
[色素増感光電変換素子の製造方法]
次に、この色素増感光電変換素子の製造方法について説明する。
まず、透明基板1の一主面にスパッタリング法などにより透明導電層を形成して透明電極2を形成する。
次に、透明基板1の透明電極2上に多孔質電極3を形成する。この多孔質電極3の形成方法に特に制限はないが、物性、利便性、製造コストなどを考慮した場合、湿式製膜法を用いるのが好ましい。湿式製膜法では、半導体微粒子の粉末あるいはゾルを水などの溶媒に均一に分散させたペースト状の分散液を調製し、この分散液を透明基板1の透明電極2上に塗布または印刷する方法が好ましい。分散液の塗布方法または印刷方法に特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法などを用いることができる。また、印刷方法としては、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、凹版印刷法、ゴム版印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
半導体微粒子の材料としてアナターゼ型TiO2 を用いる場合、このアナターゼ型TiO2 は、粉末状、ゾル状、またはスラリー状の市販品を用いてもよいし、酸化チタンアルコキシドを加水分解するなどの公知の方法によって所定の粒径のものを形成してもよい。市販の粉末を使用する際には粒子の二次凝集を解消することが好ましく、ペースト状分散液の調製時に、乳鉢やボールミルなどを使用して粒子の粉砕を行うことが好ましい。このとき、二次凝集が解消された粒子が再度凝集するのを防ぐために、アセチルアセトン、塩酸、硝酸、界面活性剤、キレート剤などをペースト状分散液に添加することができる。また、ペースト状分散液の粘性を増すために、ポリエチレンオキシドやポリビニルアルコールなどの高分子、あるいはセルロース系の増粘剤などの各種増粘剤をペースト状分散液に添加することもできる。
多孔質電極3は、半導体微粒子を透明電極2上に塗布または印刷した後に、半導体微粒子同士を電気的に接続し、多孔質電極3の機械的強度を向上させ、透明電極2との密着性を向上させるために、焼成することが好ましい。焼成温度の範囲に特に制限はないが、温度を上げ過ぎると、透明電極2の電気抵抗が高くなり、さらには透明電極2が溶融することもあるため、通常は40〜700℃が好ましく、40〜650℃がより好ましい。また、焼成時間にも特に制限はないが、通常は10分〜10時間程度である。
焼成後、半導体微粒子の表面積を増加させたり、半導体微粒子間のネッキングを高めたりする目的で、例えば、四塩化チタン水溶液や直径10nm以下の酸化チタン超微粒子ゾルによるディップ処理を行ってもよい。透明電極2を支持する透明基板1としてプラスチック基板を用いる場合には、結着剤を含むペースト状分散液を用いて透明電極2上に多孔質電極3を製膜し、加熱プレスによって透明電極2に圧着することも可能である。
次に、多孔質電極3が形成された透明基板1を、式(1)で表される光増感色素を所定の有機溶媒に溶解した光増感色素溶液中に浸漬することにより、多孔質電極3に光増感色素を結合させる。
一方、対向基板4の全面に例えばスパッタリング法などにより導電層5を形成した後、この導電層5上に所定の平面形状を有する対極6を形成する。この対極6は、例えば、導電層5の全面に例えばスパッタリング法などにより対極6の材料となる膜を形成した後、この膜をエッチングによりパターニングすることにより形成することができる。
次に、透明基板1と対向基板4とを多孔質電極3と対極6とが所定の間隔、例えば1〜100μm、好ましくは1〜50μmの間隔をおいて互いに対向するように配置する。そして、透明基板1および対向基板4の外周部に封止材(図示せず)を形成して電解質層7が封入される空間を作り、この空間に例えば透明基板1に予め形成された注液口(図示せず)から電解液を注入し、電解質層7を形成する。その後、この注液口を塞ぐ。
以上により、目的とする色素増感光電変換素子が製造される。
[色素増感光電変換素子の動作]
次に、この色素増感光電変換素子の動作について説明する。
この色素増感光電変換素子は、光が入射すると、対極1を正極、透明電極2を負極とする電池として動作する。その原理は次の通りである。なお、ここでは、透明電極2の材料としてFTOを用い、多孔質電極3の材料としてTiO2 を用い、レドックス対としてI- /I3 - の酸化還元種を用いることを想定しているが、これに限定されるものではない。また、多孔質電極3に式(1)で表される一種類の光増感色素が結合していることを想定する。
透明基板1および透明電極2を透過し、多孔質電極3に入射した光子を多孔質電極3に結合した光増感色素が吸収すると、この光増感色素中の電子が基底状態(HOMO)から励起状態(LUMO)へ励起される。こうして励起された電子は、光増感色素と多孔質電極3との間の電気的結合を介して、多孔質電極3を構成するTiO2 の伝導帯に引き出され、多孔質電極3を通って透明電極2に到達する。
一方、電子を失った光増感色素は、電解質層7中の還元剤、例えばI- から下記の反応によって電子を受け取り、電解質層7中に酸化剤、例えばI3 - (I2 とI- との結合体)を生成する。
2I- → I2 + 2e-
2 + I- → I3 -
こうして生成された酸化剤は拡散によって対極6に到達し、上記の反応の逆反応によって対極6から電子を受け取り、もとの還元剤に還元される。
3 - → I2 + I-
2 + 2e- → 2I-
透明電極2から外部回路へ送り出された電子は、外部回路で電気的仕事をした後、対極6に戻る。このようにして、光増感色素にも電解質層7にも何の変化も残さず、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。
〈実施例2〉
色素増感光電変換素子を以下のようにして製造した。
多孔質電極3を形成する際の原料であるTiO2 のペースト状分散液は、「色素増感太陽電池の最新技術」(荒川裕則監修、2001年、(株)シーエムシー)を参考にして作製した。すなわち、まず、室温で撹拌しながらチタンイソプロポキシド125mlを0.1Mの硝酸水溶液750mlに徐々に滴下した。滴下後、80℃の恒温槽に移し、8時間撹拌を続けたところ、白濁した半透明のゾル溶液が得られた。このゾル溶液を室温になるまで放冷し、ガラスフィルタでろ過した後、溶媒を加えて溶液の体積を700mlにした。得られたゾル溶液をオートクレーブへ移し、220℃で12時間水熱反応を行わせた後、1時間超音波処理して分散化処理を行った。次に、この溶液をエバポレータを用いて40℃で濃縮し、TiO2 の含有量が20wt%になるように調製した。この濃縮ゾル溶液に、TiO2 の質量の20%分のポリエチレングリコール(分子量50万)と、TiO2 の質量の30%分の粒子直径200nmのアナターゼ型TiO2 とを添加し、撹拌脱泡機で均一に混合し、粘性を増加させたTi O2 のペースト状分散液を得た。
上記のTiO2 のペースト状分散液を、透明電極2であるFTO層の上にブレードコーティング法によって塗布し、大きさ5mm×5mm、厚さ200μmの微粒子層を形成した。その後、500℃に30分間保持して、TiO2 微粒子をFTO層上に焼結した。焼結されたTiO2 膜へ0.1Mの塩化チタン(IV)TiCl4 水溶液を滴下し、室温下で15時間保持した後、洗浄し、再び500℃で30分間焼成を行った。この後、紫外光照射装置を用いてTiO2 焼結体に紫外光を30分間照射し、このTiO2 焼結体に含まれる有機物などの不純物をTiO2 の光触媒作用によって酸化分解して除去し、TiO2 焼結体の活性を高める処理を行い、多孔質電極3を得た。
光増感色素として、十分に精製した式(2)で表される光増感色素23.8mgを、アセトニトリルとtert−ブタノールとを1:1の体積比で混合した混合溶媒50mlに溶解させ、光増感色素溶液を調製した。
次に、多孔質電極3をこの光増感色素溶液に室温下で24時間浸漬し、TiO2 微粒子表面に光増感色素を保持させた。次に、4−tert−ブチルピリジンのアセトニトリル溶液およびアセトニトリルを順に用いて多孔質電極3を洗浄した後、暗所で溶媒を蒸発させ、乾燥させた。
一方、溶媒としての3−メトキシプロピオニトリル(MPN)に、1.0Mの1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨーダイド(MPImI)、0.1Mのヨウ素I2 、そして添加剤として0.3MのN−ブチルベンズミダゾール(NBB)を溶解させ、電解液を調製した。
対極6は、予め直径0.5mmの注液口が形成されたFTO層の上に厚さ50nmのクロム層および厚さ100nmの白金層を順次スパッタリング法によって積層し、その上に塩化白金酸のイソプロピルアルコール(2−プロパノール)溶液をスプレーコートし、385℃、15分間加熱することにより形成した。
次に、透明基板1と対向基板4とをそれらの多孔質電極3と対極6とが対向するように配置し、外周を厚さ30μmのアイオノマー樹脂フィルムとアクリル系紫外線硬化樹脂とによって封止した。
次に、上記の電解液を予め準備した色素増感光電変換素子の注液口から送液ポンプを用いて注入し、減圧することで素子内部の気泡を追い出した。こうして電解質層7が形成される。この後、注液口をアイオノマー樹脂フィルム、アクリル樹脂およびガラス基板で封止し、色素増感光電変換素子を完成した。
以上のように、この第2の実施の形態によれば、多孔質電極3に式(1)で表される新規な光増感色素を用いていることにより、例えばZ991を用いた従来の色素増感光電変換素子に比べて高い光電変換効率を有する色素増感光電変換素子を実現することができる。また、この光増感色素は有機溶媒への溶解性が高いため、精製や光増感色素溶液の調製などを容易に行うことができる。この優れた色素増感光電変換素子を用いることにより、高性能の電子機器などを実現することができる。
〈3.第3の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第3の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、電解質層7が、電解液を含む、あるいは電解液が含浸された多孔質膜により構成されている。電解質層7を構成する多孔質膜としては、 例えば、有機高分子化合物からなる各種の不織布が用いられる。表1に多孔質膜として用いられる不織布の具体例を挙げるが、これに限定されるものではない。
Figure 2012146640
この色素増感光電変換素子の上記以外の構成は第2の実施の形態と同様である。
[色素増感光電変換素子の製造方法]
次に、この色素増感光電変換素子の製造方法について説明する。
まず、第2の実施の形態と同様にして、図4Aに示すように、透明基板1の透明電極2上に多孔質電極3を形成する。
次に、第2の実施の形態と同様にして、多孔質電極3が形成された透明基板1を、光増感色素を所定の溶媒に溶解した光増感色素溶液中に浸漬することにより、多孔質電極3に光増感色素を結合させる。
一方、第2の実施の形態と同様にして、対向基板4上に導電層5を形成した後、この導電層5上に対極6を形成する。
次に、図4Bに示すように、透明基板1上の多孔質電極3上に、電解液を含む多孔質膜からなる電解質層7を設置する。
次に、図4Cに示すように、電解質層7上に対向基板4を対極6側を下にして設置した後、透明基板1および対向基板4の外周部に封止材8を形成して電解質層7を封入する。必要に応じて、電解質層7上に対向基板4を設置した後、対向基板4を電解質層7に押し付けて電解質層7をその面に垂直な方向に圧縮してもよい。このようにすることにより、電解質層7を構成する多孔質膜の厚さが圧縮により減少する際に、この多孔質膜の空隙部に含まれる電解液が押し出されて電解液が多孔質電極3に浸透するため、電解液が多孔質電極3の全体に容易に行き渡るようにすることができる。最終的な電解質層7の厚さは、例えば1〜100μm、好適には1〜50μmである。
以上により、目的とする色素増感光電変換素子が製造される。
〈実施例3〉
色素増感光電変換素子を以下のようにして製造した。
実施例2と同様にして、多孔質電極3に式(2)で表される光増感色素を担持させる工程まで実施する。
一方、溶媒としての3−メトキシプロピオニトリル(MPN)に、1.0Mの1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨーダイド(MPImI)、0.1Mのヨウ素I2 、そして添加剤として0.3MのN−ブチルベンズミダゾール(NBB)を溶解させ、電解液を調製した。そして、空隙率71.4%、膜厚31.2μmのポリオレフィンからなる多孔質膜にこの電解液を含浸させた。
次に、透明基板1上の多孔質電極3上に、上記のようにして予め電解液を含浸させたポリオレフィンからなる多孔質膜を設置し、電解質層7を形成した。
次に、この多孔質膜をプレスにより膜面に垂直方向に圧縮する。圧縮後の多孔質膜の実空隙率は50%であった。
次に、電解質層7の外周に封止材としてアイオノマー樹脂フィルムとアクリル系紫外線硬化樹脂とを設けた。
対極6は、予め直径0.5mmの注液口が形成されたFTO層の上に厚さ50nmのクロム層および厚さ100nmの白金層を順次スパッタリング法によって積層し、その上に塩化白金酸のイソプロピルアルコール(2−プロパノール)溶液をスプレーコートし、385℃、15分間加熱することにより形成した。
そして、こうして形成された対極6を上記の電解質層7上に設置し、電解質層7の外周に設けられた封止材と接着し、色素増感光電変換素子を完成した。
〈実施例4〉
電解液を含浸させる多孔質膜として、空隙率70.7%、膜厚30μmのポリオレフィンからなる多孔質膜を用いて電解質層7を形成した。その他は実施例3と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例5〉
電解液を含浸させる多孔質膜として、空隙率70.5%、膜厚44μmのポリオレフィンからなる多孔質膜を用いて電解質層7を形成した。その他は実施例3と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例6〉
電解液を含浸させる多孔質膜として、空隙率79%、膜厚28μmのポリエステルからなる多孔質膜を用いて電解質層7を形成した。その他は実施例3と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例7〉
電解液を含浸させる多孔質膜として、空隙率72.8%、膜厚29.8μmのセルロースからなる多孔質膜を用いて電解質層7を形成した。その他は実施例3と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例8〉
電解液を含浸させる多孔質膜として、空隙率78.3%、膜厚32μmのポリエステルからなる多孔質膜を用いて電解質層7を形成した。その他は実施例3と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例9〉
電解液を含浸させる多孔質膜として、空隙率82.7%、膜厚22μmのポリエステルからなる多孔質膜を用いて電解質層7を形成した。その他は実施例3と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例1〉
多孔質膜を用いないで電解液のみからなる電解質層7を形成した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ991を用いた。その他は実施例3と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
表1に、実施例3〜9の色素増感光電変換素子において電解質層7の形成に用いた多孔質膜の素材、空隙率、膜厚および実空隙率をまとめて示す。ここで、多孔質膜の実空隙率は次のように表される。
実空隙率(%)=100−(100−膜の空隙率(%))×膜の体積(m3 )/(電解質層7の体積(m3 )−多孔質電極3のかさ体積(m3 ))
電解質層7を、電解液を含む、あるいは電解液が含浸された多孔質膜により構成することより得られる効果を、色素増感光電変換素子を製造して検証した。ただし、実施例3〜9において、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ991を用いて色素増感光電変換素子を製造し、これらを参考例1〜7とした。
参考例1〜7および比較例1の色素増感光電変換素子の電流−電圧特性を測定した。測定は、色素増感光電変換素子に擬似太陽光(AM1.5、100mW/cm2 )を照射して行った。図5および図6にこの色素増感光電変換素子の電流−電圧特性の測定結果を示す。また、表2、3にこの色素増感光電変換素子の開放端電圧Voc、電流密度Jsc、フィルファクター(FF)、光電変換効率(Eff)および内部抵抗(Rs )を示す。
Figure 2012146640
Figure 2012146640
図6に、実施例3〜9の色素増感光電変換素子において電解質層7の形成に用いた多孔質膜の実空隙率と、参考例1〜7の色素増感光電変換素子の光電変換効率を比較例1の色素増感光電変換素子の光電変換効率で規格化した規格化光電変換効率との関係を示す。
表2、表3および図5〜図7より、参考例1〜7の色素増感光電変換素子の光電変換効率は、比較例1の色素増感光電変換素子の光電変換効率に比べると、総じて少し低い。しかしながら、実空隙率が50%以上の多孔質膜を電解質層7の形成に用いた参考例1、2、4〜7の色素増感光電変換素子の光電変換効率は、比較例1の色素増感光電変換素子の光電変換効率の80%以上である。そして、参考例1、2、4〜7の色素増感光電変換素子の光電変換効率は、電解質層7の形成に用いた多孔質膜の実空隙率が大きくなるにつれて増加し、実空隙率が80%以上100%未満では、比較例1の色素増感光電変換素子の光電変換効率に匹敵する値となる。
図8に、実空隙率が79%の多孔質膜を電解質層7の形成に用いた参考例7の色素増感光電変換素子および電解液のみから電解質層7を形成した比較例1の色素増感光電変換素子のIPCEスペクトルの測定結果を示す。図8に示すように、参考例7の色素増感光電変換素子は、比較例1の色素増感光電変換素子に比べて、全波長領域において光電変換効率が増加していることが分かる。これは次のような理由によるものと考えられる。すなわち、図9Aに示すように、比較例1の色素増感光電変換素子においては、多孔質電極101に入射した光のうち光増感色素で吸収し切れなかった光は電解液のみからなる電解質層102を透過してしまう。これに対し、図9Bに示すように、参考例7の色素増感光電変換素子においては、多孔質電極3に入射した光のうち光増感色素で吸収し切れず、電解質層7に入射した光は、電解質層7を形成する多孔質膜が多くの空隙部を有することにより、この多孔質膜により効果的に散乱される。こうして電解質層7で散乱された光が多孔質電極3に裏面側から再び入射し、光増感色素で吸収される。この場合、この多孔質膜による散乱光は多孔質電極3の面に対して斜めに入射する成分が多いため、この多孔質電極3内部での光路長が大幅に長くなり、多孔質電極3による入射光の捕集率が高くなる。この結果、参考例7の色素増感光電変換素子においては、比較例1の色素増感光電変換素子に比べて、全波長領域において光電変換効率が増加する。
この第3の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、色素増感光電変換素子の電解質層7を電解液を含む多孔質膜により構成しているため、電解質層7が固体状であり、光電変換素子が破損した際に電解液が漏れるのを有効に防止することができる。また、多孔質電極3と対極6とが絶縁性の多孔質膜により分離されているため、色素増感光電変換素子が折れ曲がっても、多孔質電極3と対極6との電気的絶縁性が低下するのを防止することができる。また、従来の色素増感光電変換素子のように、電解液を注入するための注液穴を設けたり、電解液注入後に電解液を拭き取ったり、注液穴を塞いだりする必要がなくなるため、色素増感光電変換素子を容易にしかも簡単に製造することができる。また、実質的に電解液を膜として扱うことができるため、電解液の扱いが極めて簡単となる。このため、例えば、ロール・ツー・ロール(roll-to-roll)プロセスにより透明フィルム上に色素増感光電変換素子を製造する場合において、電解液を含む多孔質膜からなる電解質層7を膜として透明フィルム上に貼り付けることが可能となる。さらに、この色素増感光電変換素子においては、多孔質電極3に吸着した光増感色素で吸収し切れなかった入射光は、電解質層7で散乱されて多孔質電極3に再び入射する。この結果、この色素増感光電変換素子は、電解質層7を電解液だけで構成する従来の色素増感光電変換素子に匹敵する高い光電変換効率を得ることができる。そして、この優れた色素増感光電変換素子を用いることにより、高性能の電子機器などを実現することができる。
〈4.第4の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第4の実施の形態による色素増感光電変換素子は、第3の実施の形態による色素増感光電変換素子と同様な構成を有する。
[色素増感光電変換素子の製造方法]
図10A〜Cは第4の実施の形態による色素増感光電変換素子の製造方法を示す。
図10Aに示すように、この色素増感光電変換素子の製造方法においては、まず、第3の実施の形態と同様にして、多孔質電極3を形成する。
一方、図10Aに示すように、電解液を含む多孔質膜からなる電解質層7の外周に例えば熱硬化性の封止材8を電解質層7と一体的に形成した一体型膜を用意する。この状態の電解質層7の厚さは最終的な電解質層7の厚さよりも大きい。封止材8の厚さはこの電解質層7の厚さよりも大きく、最終的にこの封止材8により十分な封止を行うことができる厚さになっている。
次に、図10Bに示すように、電解液を含む多孔質膜からなる電解質層7の外周に封止材8を形成した一体型膜を多孔質電極3上に設置する。
次に、図10Cに示すように、電解質層7および封止材8の上に、対向基板4上に設けられた対極6を設置し、対向基板4を電解質層7に押し付けてこの電解質層7をその面に垂直な方向に圧縮するとともに、加熱により封止材8を硬化させ、封止を行う。この際、電解質層7を構成する多孔質膜の厚さは圧縮により減少するが、最終的な多孔質膜の実空隙率が所望の値になるようにする。
以上により、目的とする色素増感光電変換素子が製造される。
一方、色素増感光電変換素子において、かさ(あるいは厚さ)のある、多孔質カーボンや多孔質金属などからなる対極6を用いる場合には、多孔質電極3のかさに加えて、この対極6のかさも考慮して、電解質層7と封止材8との一体型膜を形成する。図11AおよびBはそのような色素増感光電変換素子の製造方法を示す。
図11Aに示すように、この色素増感光電変換素子の製造方法においては、まず、第3の実施の形態と同様にして、多孔質電極3を形成する。
一方、図11Aに示すように、電解液を含む多孔質膜からなる電解質層7の外周に例えば熱硬化性の封止材8を電解質層7と一体的に形成した一体型膜を用意する。この状態の電解質層7の厚さは最終的な電解質層7の厚さよりも大きい。封止材8の厚さはこの電解質層7の厚さよりも大きく、最終的にこの封止材8により十分な封止を行うことができる厚さになっている。加えて、対向基板4上に導電層5を介して対極6を設けたものを用意する。
次に、図10Bに示すように、電解液を含む多孔質膜からなる電解質層7の外周に封止材8を形成した一体型膜を多孔質電極3上に設置し、続いて電解質層7および封止材8の上に対向基板4上に設けられた対極6を設置し、対向基板4を電解質層7に押し付ける。こうして電解質層7をその面に垂直な方向に圧縮するとともに、加熱により封止材8を硬化させ、封止を行う。この際、電解質層7を構成する多孔質膜の厚さは圧縮により減少するが、最終的な多孔質膜の実空隙率が所望の値になるようにする。
以上により、目的とする色素増感光電変換素子が製造される。
上記以外のことについては、第3の実施の形態と同様である。
この第4の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点に加えて、封止材8の形成プロセスを省略することができることにより、色素増感光電変換素子をより簡単に製造することができるという利点を得ることができる。
〈5.第5の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第5の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、電解質層7を構成する電解液に6.04≦pKa ≦7.3の添加剤が添加される点で第2の実施の形態と異なる。このような添加剤は、ピリジン系添加剤や複素環を有する添加剤などである。ピリジン系添加剤の具体例を挙げると、2−NH2−Py、4−MeO−Py、4−Et−Pyなどである。複素環を有する添加剤の具体例を挙げると、MIm、24−Lu、25−Lu、26−Lu、34−Lu、35−Luなどである。
また、電解質層7に含まれる電解液の溶媒としては、分子量が47.36以上の溶媒が用いられる。このような溶媒は、例えば、3−メトキシプロピオニトリル(MPN)、メトキシアセトニトリル(MAN)、アセトニトリル(AN)とバレロニトリル(VN)との混合液などである。
[色素増感光電変換素子の製造方法]
この色素増感光電変換素子の製造方法は、電解質層7を構成する電解液に6.04≦pKa ≦7.3の添加剤を添加する点を除いて、第2の実施の形態による色素増感光電変換素子の製造方法と同様である。
〈実施例10〉
実施例3の電解液に添加剤として2−NH2−Py 0.054gを溶解させ、電解液を調製した。その他は実施例3と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例11〉
添加剤として4−MeO−Pyを用いて電解液を調製した。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例12〉
添加剤として4−Et−Pyを用いて電解液を調製した。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例13〉
添加剤としてMImを用いて電解液を調製した。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例14〉
添加剤として24−Luを用いて電解液を調製した。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例15〉
添加剤として25−Luを用いて電解液を調製した。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例16〉
添加剤として26−Luを用いて電解液を調製した。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例17〉
添加剤として34−Luを用いて電解液を調製した。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例18〉
添加剤として35−Luを用いて電解液を調製した。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例2〉
添加剤を用いないで電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例3〉
添加剤としてTBPを用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例4〉
添加剤として4−ピコリン(4−pic)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例5〉
添加剤としてメチルイソニコチネート(4−COOMe−Py)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例6〉
添加剤として4−シアノピリジン(4−CN−Py)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例7〉
添加剤として4−アミノピリジン(4−NH2−Py)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例8〉
添加剤として4−(メチルアミノ)ピリジン(4−MeNH−Py)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例9〉
添加剤として3−メトキシピリジン(3−MeO−Py)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例10〉
添加剤として2−メトキシピリジン(2−MeO−Py)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例11〉
添加剤としてメチルニコチネート(3−COOMe−Py)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例12〉
添加剤としてピリジン(Py)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例13〉
添加剤として3−ブロモピリジン(3−Br−Py)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例14〉
添加剤としてN−メチルベンズイミダゾール(NMB)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例15〉
添加剤としてピラジン(pirazine)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例16〉
添加剤としてチアゾール(thiazole)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例17〉
添加剤としてN−メチルピラゾール(Me−pyrazole)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例18〉
添加剤としてキノリン(quinoline)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例19〉
添加剤としてイソキノリン(isoquinoline)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例20〉
添加剤として2,2’−ビピリジル(bpy)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例21〉
添加剤としてピリダジン(pyridazine)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例22〉
添加剤としてピリミジン(pyrimidine)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例23〉
添加剤としてアクリジン(acridine)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例24〉
添加剤として5,6−ベンゾキノリン(56−benzoquinoline)を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例10と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
添加剤により得られる効果を、色素増感光電変換素子を製造して検証した。ただし、実施例10〜18において、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いて色素増感光電変換素子を製造し、これらを参考例8〜16とした。
参考例8〜16および比較例2〜24の色素増感光電変換素子の光電変換効率(Eff)および内部抵抗(Rs )を測定した。
表4は、ピリジン系添加剤を用いた参考例8〜10および比較例2〜13のpKa (水)、光電変換効率(Eff)および内部抵抗(Rs )を示す。表5は、複素環を有する添加剤を用いた参考例11〜16および比較例14〜24のpKa (水)、光電変換効率(Eff)および内部抵抗(Rs )を示す。表4および表5より、6.04≦pKa ≦7.3の添加剤を用いた参考例8〜16のいずれも、4−tert−ブチルピリジンを用いた比較例3に比べて、光電変換効率(Eff)は同等以上であり、内部抵抗(Rs )は低いことが分かる。図12は参考例8〜16および比較例2〜24の光電変換効率(Eff)をpKa に対してプロットしたものである。また、図13は参考例8〜16および比較例2〜24の内部抵抗(Rs )をpKa に対してプロットしたものである。
Figure 2012146640
Figure 2012146640
次に、電解液に添加する添加剤の効果の電解液の溶媒種依存性について説明する。
分子量が異なる溶媒ごとに添加剤の効果を確認した。ここでは、pKa が比較的近い4−tert−ブチルピリジン(TBP)と4−Et−Py(4-ethylpyridine)とを比較対象とした。評価方法は次の通りである。各溶媒ごとに、電解液の添加剤として4−Et−Pyを用いた色素増感光電変換素子の光電変換効率(Eff(4−Et−Py))と電解液の添加剤としてTBPを用いた色素増感光電変換素子の光電変換効率(Eff(TBP))とを測定する。ただし、これらの色素増感光電変換素子においては、光増感色素としてZ991を用いた。そして、これらの光電変換効率の差ΔEff=Eff(4−Et−Py)−Eff(TBP)を効果の指標とする。溶媒としては、アセトニトリル(AN)、アセトニトリル(AN)とバレロニトリル(VN)との混合液、メトキシアセトニトリル(MAN)および3−メトキシプロピオニトリル(MPN)の四種類を用いた。表6に、各溶媒に対して分子量、Eff(4−Et−Py)、Eff(TBP)および ΔEffを示す。ただし、アセトニトリル(AN)に対するEff(4−Et−Py)、Eff(TBP)および ΔEffの値はSolar Energy Materials&Solar Cells,2003,80,167
で報告されたものを参照した。図14は各溶媒の分子量に対して光電変換効率の差ΔEffをプロットしたものである。
Figure 2012146640
表6および図14より、ΔEff>0、言い換えればEff(TBP)よりEff(4−Et−Py)の方が大きい分子量の範囲は47.36以上であることが分かる。ただし、47.36という値は、アセトニトリル(AN)とバレロニトリル(VN)との混合液の混合体積分率を用いて算出した見掛けの分子量である。
以上のことから、47.36以上の分子量を有する溶媒では、電解液の添加剤として6.04≦pKa ≦7.3の添加剤を用いることは効果があると言えることが分かる。
以上のように、この第5の実施の形態によれば、電解質層7を構成する電解液の添加剤として6.04≦pKa ≦7.3の添加剤を用いているため、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、電解液の添加剤として4−tert−ブチルピリジンを用いた従来の色素増感光電変換素子と比べて、同等以上の光電変換効率および同等以下の内部抵抗を得ることができ、優れた光電変換特性を有する色素増感光電変換素子を得ることができる。また、6.04≦pKa ≦7.3の添加剤は種々のものがあるため、添加剤の選択の幅が極めて広い。
〈6.第6の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
この色素増感光電変換素子においては、電解質層7を構成する電解液の溶媒として、少なくとも、電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を有する有機溶媒とを含むものが用いられる点で第2の実施の形態と異なる。
典型的には、電子対受容性の官能基はイオン液体を構成するカチオンが有する。イオン液体のカチオンは、好適には、第四級窒素原子を有する芳香族アミンカチオンからなり、芳香環中に水素原子を有する有機カチオンである。この有機カチオンは、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、チアゾリウムカチオン、ピラゾニウムカチオンなどであるが、これに限定されるものではない。イオン液体のアニオンは、好適には76Å3 以上、より好適には100Å3 以上の大きさのファンデルワールス体積を有するアニオンが用いられる。
電子対受容性の官能基を有するイオン液体の具体例を挙げると以下の通りである。
・EMImTCB:1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート
・EMImTFSI:1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホン)アミド
・EMImFAP:1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスヘート
・EMImBF4 :1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート
電子対供与性の官能基を有する有機溶媒は、蒸発速度を低下させる観点から、好適には下記の化学構造を有するが、これに限定されるものではない。
・エーテル
Figure 2012146640
・ケトン
Figure 2012146640
・アミン構造
第一級アミン
Figure 2012146640
第三級アミン
Figure 2012146640
・芳香族アミン
ピリジン構造
Figure 2012146640
イミダゾール構造
Figure 2012146640
・スルホン
Figure 2012146640
・スルホキシド
Figure 2012146640
電子対供与性の官能基を有する有機溶媒の具体例を挙げると以下の通りである。
・MPN:3−メトキシプロピオニトリル(3-methoxypropionitrile)
・GBL:γ−ブチロラクトン(γ-butyrolactone)
・DMF:N,N−ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide)
・diglyme :ジエチレングリコールジメチルエーテル(diethylene glycol dimethyl ether)
・triglyme:トリエチレングリコールジメチルエーテル(triethylene glycol dimethyl
ether)
・tetraglyme:テトラエチレングリコールジメチルエーテル(tetraethylene glycol dimethyl ether)
・PhOAN:フェノキシアセトニトリル(phenoxy acetonitrile)
・PC:プロピレンカーボネート(propylene carbonate)
・aniline :アニリン(aniline)
・DManiline :N,N−ジメチルアニリン(N,N-dimethylaniline)
・NBB:N−ブチルベンズイミダゾール(N-butylbenzimidazole)
・TBP:tert−ブチルピリジン(tert-butylpyridine)
・EMS:エチルメチルスルホン(ethyl methyl sulfone)
・DMSO:ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)
第三級窒素原子を有する有機溶媒の具体例を五つの種類に分けて挙げると以下の通りである。
(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルメチルアミン、n−プロピルアミン、iso−プロピル、ジプロピルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン
(2)エチレンジアミン
(3)アニリン、N,N−ジメチルアニリン
(4)ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド
(5)N−メチルピロリドン
(1)〜(4)を一般式で書くと、分子量1000以下の有機分子において、以下の分子骨格を有する分子である。
Figure 2012146640
ただし、式中、R1 、R2 、R3 は、H、Cn m (n=1〜20、m=3〜41)、フェニル基、アルデヒド基およびアセチル基からなる群より選ばれた一つの置換基。
[色素増感光電変換素子の製造方法]
この色素増感光電変換素子の製造方法は、電解質層7を構成する電解液の溶媒として、少なくとも、電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を有する有機溶媒とを含むものを用いる点を除いて、第2の実施の形態による色素増感光電変換素子の製造方法と同様である。
〈実施例19〉
EMImTCBとdiglyme とを1:1の重量比で混合した混合溶媒 2.0gに1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨーダイド 1.0g、ヨウ素I2 0.10g、そして添加剤として2−NH2−Py 0.054gを溶解させ、電解液を調製した。その他は実施例1と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例20〉
溶媒としてEMImTCBとtriglymeとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例21〉
溶媒としてEMImTCBとtetraglymeとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例22〉
溶媒としてEMImTCBとMPNとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例23〉
溶媒としてEMImTCBとPhOANとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例24〉
溶媒としてEMImTCBとGBLとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例25〉
溶媒としてEMImTCBとPCとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例26〉
溶媒としてEMImTCBとアニリンとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例27〉
溶媒としてEMImTCBとDMFとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例28〉
溶媒としてEMImTCBとDManiline とを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例29〉
溶媒としてEMImTCBとNBBとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例28〉
溶媒としてEMImTCBとTBPとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例31〉
溶媒としてEMImTFSIとtriglymeとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例32〉
溶媒としてEMImFAPとtriglymeとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例33〉
溶媒としてEMImTCBとEMSとを1:1の重量比で混合した混合溶媒2.0gに、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨーダイド1.0g、ヨウ素I2 0.10g、そしてN−ブチルベンゾイミダゾール(NBB)0.054gを用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈実施例34〉
溶媒としてEMImTCBとDMSOとを1:1の重量比で混合した混合溶媒2.0gに、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨーダイド1.0g、ヨウ素I2 0.10g、そしてN−ブチルベンゾイミダゾール(NBB)0.045gを用いて電解液を調製した。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例25〉
溶媒としてdiglyme を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例26〉
溶媒としてEMImTCBを用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例27〉
溶媒としてMPNを用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例28〉
溶媒としてEMImTCBとPhAN(フェニルアセトニトリル(phenyl acetonitrile))とを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例29〉
溶媒としてEMImBF4 (1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート(1-ethyl-3-methylimidazolium tetrafluoroborate))とtriglymeとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例30〉
溶媒としてEMImOTf(1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート(1-ethyl-3-methylimidazolium trifluorometanesulfonate) )とtriglymeとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
〈比較例31〉
溶媒としてP222 MOMTFSI(トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウム ビス(トリフルオロメチルスホニル)アミド(triethyl(methoxymethyl)phosphonium bis(trifluoromethylsufonyl)imide )とtriglymeとを1:1の重量比で混合した混合溶媒を用いて電解液を調製した。また、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。その他は実施例19と同様にして色素増感光電変換素子を製造した。
表7は、実施例19〜34および比較例28〜31のイオン液体と有機溶媒との混合溶媒の蒸発速度低下率Zvapor を求めた結果を示す。ただし、混合溶媒における有機溶媒の重量比は50wt%である。Zvapor (%)=[1−(混合溶媒における有機溶媒の重量比)×(kmixture /kneat)]×100と定義される。kneatは有機溶媒単体の蒸発速度、kmixture はイオン液体と有機溶媒との混合溶媒の蒸発速度であり、いずれもTG(Thermo Gravimetry)−DTA(Differential Thermal Analysis)測定(示差熱−熱重量同時測定)で求められる。Zvapor の値が大きいほど混合溶媒における有機溶媒成分の揮発性が有機溶媒単体を用いた場合と比較して低下していることを示す。
Figure 2012146640
表7より、実施例19〜34ではZvapor は大きな正の値を示し、イオン液体と有機溶媒との混合による有機溶媒成分の揮発性の低下が見られる。これに対し、比較例28〜31はZvapor は0または負の値を示し、イオン液体と有機溶媒との混合による有機溶媒成分の揮発性の低下は見られない。
図15は種々の溶媒のTG−DTA曲線を示す。図15から分かるように、EMImTCBとMPNとの混合溶媒(EMImTCBの重量比は50wt%)を用いた場合(実施例22、曲線(4))には、MPN単体を用いた場合(比較例27、曲線(5))に比べて重量減少はずっと小さい。また、EMImTCBとGBLとの混合溶媒(EMImTCBの重量比は50wt%)を用いた場合(実施例24、曲線(2))には、GBL単体を用いた場合(曲線(3))に比べて重量減少は小さい。
図16は、EMImTCBとdiglyme との混合溶媒(EMImTCBの重量比は50wt%)を用いた場合(実施例19)、EMImTCB単体を用いた場合およびdiglyme 単体を用いた場合のTG−DTA曲線を示す。図16より、EMImTCBとdiglyme との混合溶媒を用いた場合には、diglyme 単体を用いた場合に比べて重量減少は極めて少なく、EMImTCB単体を用いた場合に近い重量減少に抑えられていることが分かる。
図17は、EMImTCBとtriglymeとの混合溶媒(EMImTCBの重量比は50wt%)を用いた場合(実施例20)、EMImTCB単体を用いた場合およびtriglyme単体を用いた場合のTG−DTA曲線を示す。図17より、EMImTCBとtriglymeとの混合溶媒を用いた場合には、triglyme単体を用いた場合に比べて重量減少は極めて少なく、EMImTCB単体を用いた場合に近い重量減少に抑えられていることが分かる。
図18は、EMImTCBとtetraglymeとの混合溶媒(EMImTCBの重量比は50wt%)を用いた場合(実施例21)、EMImTCB単体を用いた場合およびtetraglyme単体を用いた場合のTG−DTA曲線を示す。図18より、EMImTCBとtetraglymeとの混合溶媒を用いた場合には、tetraglyme単体を用いた場合に比べて重量減少は極めて少なく、EMImTCB単体を用いた場合と同様にほとんど重量減少が見られないことが分かる。
電解質層7を構成する電解液の溶媒として、電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を有する有機溶媒とを含むものを用いることによる効果を、色素増感光電変換素子を製造して検証した。そのために、電解液の溶媒としてEMImTCBとdiglyme との混合溶媒を用いた実施例19の色素増感光電変換素子において、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いたものを製造し、これを参考例19として電流−電圧特性を測定した。また、電解液の溶媒としてdiglyme 単体を用いた比較例25の色素増感光電変換素子および電解液の溶媒としてEMImTCB単体を用いた比較例26の色素増感光電変換素子を製造し、電流−電圧特性を測定した。測定は、色素増感光電変換素子に擬似太陽光(AM1.5、100mW/cm2 )を照射して行った。表8にこの色素増感光電変換素子の開放端電圧Voc、電流密度Jsc、フィルファクター(FF)および光電変換効率を示す。
Figure 2012146640
表8より、電解液の溶媒としてEMImTCBとdiglyme との混合溶媒を用いた参考例19の色素増感光電変換素子の光電変換特性は、電解液の溶媒としてEMImTCB単体を用いた比較例26の色素増感光電変換素子の光電変換特性に比べてはるかに良好である。この光電変換特性は、電解液の溶媒としてdiglyme 単体を用いた場合と同等である。
電解液の溶媒として、EMImTCBとMPNとの混合溶媒(EMImTCBの重量比は22wt%)、EMImTFSIとMPNとの混合溶媒(EMImTFSIの重量比は35wt%)およびMPN単体を用いた色素増感光電変換素子の電流−電圧曲線を測定した。ただし、これらの色素増感光電変換素子においては、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いた。測定は、色素増感光電変換素子に擬似太陽光(AM1.5、100mW/cm2 )を照射して行った。表9にこの色素増感光電変換素子の開放端電圧Voc、電流密度Jsc、フィルファクター(FF)および光電変換効率を示す。
Figure 2012146640
表9より、電解液の溶媒としてEMImTCBとMPNとの混合溶媒を用いた色素増感光電変換素子および電解液の溶媒としてEMImTFSIとMPNとの混合溶媒を用いた色素増感光電変換素子とも、電解液の溶媒としてMPN単体を用いた色素増感光電変換素子と同等の光電変換特性が得られている。ここで、電解液の溶媒として上記の混合溶媒を用いた色素増感光電変換素子では、MPN単体を用いた色素増感光電変換素子と比較して、Jscが低下し、Vocが上昇することが分かる。Jscが低下するのは、イオン液体を混合したことによる、電解液中のレドックス対の拡散性の低下によるものと考えられる。また、Vocが上昇するのは、イオン液体が酸化チタンからなる多孔質電極の表面に擬似吸着することによる酸化チタンの電子電位の変化、もしくはレドックス対との相互作用による酸化還元電位の変化によるものと考えられる。
電解液の溶媒としてEMImTCBとEMSとの混合溶媒(EMImTCBの重量比は50wt%)を用いた実施例33の色素増感光電変換素子において、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ991を用いたものを製造し、これを参考例20として電流−電圧曲線を測定した。また、電解液の溶媒としてEMImTCB単体を用いた比較例26の色素増感光電変換素子の電流−電圧曲線を測定した。測定は、色素増感光電変換素子に擬似太陽光(AM1.5、100mW/cm2 )を照射して行った。表10にこの色素増感光電変換素子の開放端電圧Voc、電流密度Jsc、フィルファクター(FF)および光電変換効率を示す。
Figure 2012146640
表10より、電解液の溶媒としてEMImTCBとEMSとの混合溶媒を用いた参考例20の色素増感光電変換素子は、電解液の溶媒としてEMImTCB単体を用いた比較例26の色素増感光電変換素子に比べて、光電変換効率が約1%高く、Jscも約2mA/cm2 も高い。Jscが増加したのは、電解液の粘性率が低下したことによる。
電解液の溶媒としてEMImTCBとMPNとの混合溶媒(EMImTCBの重量比は22wt%)を用いた実施例22の色素増感光電変換素子において、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いたものを製造し、これを参考例21として加速試験を行った。また、電解液の溶媒としてEMImTFSIとMPNとの混合溶媒(EMImTFSIの重量比は35wt%)を用いた色素増感光電変換素子において、式(2)で表される光増感色素の代わりにZ907を用いたものを製造し、これを参考例22として加速試験を行った。また、MPN単体を用いた比較例27の色素増感光電変換素子を製造し、加速試験を行った。図19は、これらの色素増感光電変換素子の加速試験を行った結果を示す。図19の横軸は85℃での保持時間、縦軸は光電変換効率を示す。試験は色素増感光電変換素子を85℃に保たれた暗所で行った。
図19より、電解液の溶媒としてMPN単体を用いた色素増感光電変換素子では、試験を開始してから光電変換効率が減少し続け、170時間後には初期に比べて30%以上も減少している。これに対して、電解液の溶媒としてEMImTCBとMPNとの混合溶媒(EMImTCBの重量比は22wt%)、EMImTFSIとMPNとの混合溶媒(EMImTFSIの重量比は35wt%)を用いた色素増感光電変換素子では試験開始後170時間経過しても光電変換効率の減少は僅かであり、耐久性が高いことが分かる。これは、イオン液体分子が有機溶媒分子と相互作用することによる揮発性の低下や電解液成分および電極界面とのイオン液体分子の相互作用による安定化が原因であると考えられる。
図20は、電解液の溶媒としてEMImTCBとdiglyme との混合溶媒を用いた場合の混合溶媒中のEMImTCBの含有量と蒸発速度低下率との関係を調べた結果を示す。図20より、EMImTCBの含有量が15wt%以上であれば、蒸発速度の低下が見られる。
次に、イオン液体の好適なカチオンおよびアニオンの構造について説明する。まず、カチオンについては、第四級窒素原子を有する芳香族アミンカチオンからなり、芳香環中に水素原子を有する有機カチオンが好ましい。このような有機カチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、チアゾリウムカチオン、ピラゾニウムカチオンなどがある。アニオンについては、計算科学的に算出されたアニオンのファンデルワールス(van der Waals)体積(電子雲の大きさ)により規定することができる。図21はいくつかのアニオン(TCB- 、TFSI- 、OTf- 、BF4 - )のファンデルワールス体積に対して蒸発速度低下率をプロットした図である。各アニオンのファンデルワールス体積の値はJournal of The Electrochemical Society 002,149(10),A1385-A1388(2002) を参照した。TCBアニオンのファンデルワールス体積としては、TCBアニオンと類似の構造を持つ(C2 5 4 - アニオンのファンデルワールス体積を用いた。これらのデータを一次関数でフィッティングした。ファンデルワールス体積をx、蒸発速度低下率をyで表すと、フィッティング式はy=0.5898x−44.675である。図21より、ファンデルワールス体積が76Å3 以上、好適には100Å3 以上のアニオンでは蒸発速度の低下が起こると考えられる。
次に、電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を有する有機溶媒とからなる混合溶媒において蒸発速度が低下する原理を考察した結果について説明する。
この混合溶媒においては、イオン液体が有する電子対受容性の官能基と有機溶媒が有する電子対供与性の官能基(エーテル基やアミノ基など)との間に水素結合が形成され、熱的に安定化する。図22に一例を示す。図22に示すように、この例では、イオン液体のイミダゾリウムカチオンの電子対受容性の官能基(酸性プロトン)とdiglyme 分子のエーテル基(−O−)との間に水素結合(破線で示す)が形成されている。このように、この混合溶媒においては、イオン液体と有機溶媒との間に水素結合が形成されることにより熱的に安定化するため、蒸発速度が低下すると考えることができる。
特に、有機溶媒の1分子中の電子対供与性の官能基の数が多くなると、蒸発速度低下率が大きくなる。例えば、図23は、有機溶媒がtriglymeである例を示すが、この例では、イオン液体のイミダゾリウムカチオンの二つの電子対受容性の官能基(酸性プロトン)とtriglymeの二つのエーテル基との間にそれぞれ水素結合が形成され、熱的により安定化する。また、この場合、イオン液体のイミダゾリウムカチオンの一つの電子対受容性の官能基とtriglymeの一つのエーテル基との間に水素結合が形成されると、イオン液体のイミダゾリウムカチオンの他の電子対受容性の官能基にtriglymeの他のエーテル基が近接する。言い換えると、triglymeがイミダゾリウムカチオンを巻き込む。このため、イオン液体のイミダゾリウムカチオンの他の電子対受容性の官能基とtriglymeの他のエーテル基とが相互作用しやすくなり、それらの間に水素結合が容易に形成される。
以上のように、この第6の実施の形態によれば、電解質層7を構成する電解液の溶媒として、電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を有する有機溶媒とからなる混合溶媒を用いている。このため、第2の実施の形態と同様な利点に加えて、電解液の揮発を有効に抑制することができ、しかもこの混合溶媒の粘性率は低く、したがって電解液の粘性率を低くすることができるという利点を得ることができる。
〈7.第7の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第7の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、多孔質電極13が、金属からなるコアとこのコアを取り巻く金属酸化物からなるシェルとからなる微粒子により構成され、典型的には、これらの微粒子が焼結されたものからなる。図24にこの微粒子11の構造の詳細を示す。図24に示すように、微粒子11は、金属からなる球状のコア11aとこのコア11aの周りを取り囲む金属酸化物からなるシェル11bとからなるコア−シェル構造を有する。この微粒子11の金属酸化物からなるシェル11bの表面に一種または複数種の光増感色素(図示せず)が結合(あるいは吸着)する。
微粒子11のシェル11bを構成する金属酸化物は、例えば、酸化チタン(TiO2 )、酸化スズ(SnO2 )、酸化ニオブ(Nb2 5 )、酸化亜鉛(ZnO)などが用いられる。これらの金属酸化物の中でも、TiO2 、取り分けアナターゼ型のTiO2 を用いることが好ましい。ただし、金属酸化物の種類はこれらに限定されるものではなく、必要に応じて、二種類以上の金属酸化物を混合または複合化して用いることができる。また、微粒子11の形態は粒状、チューブ状、棒状などのいずれであってもよい。
上記の微粒子11の粒径に特に制限はないが、一般的には一次粒子の平均粒径で1〜500nmであり、取り分け1〜200nmが好ましく、特に好ましくは5〜100nmである。また、微粒子11のコア11aの粒径は一般的には1〜200nmである。
この色素増感光電変換素子の上記以外の構成は第2の実施の形態と同様である。
[色素増感光電変換素子の製造方法]
この色素増感光電変換素子の製造方法は、多孔質電極3を微粒子11により形成することを除いて、第2の実施の形態による色素増感光電変換素子の製造方法と同様である。
多孔質電極3を構成する微粒子11は従来公知の方法により製造することができる(例えば、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.46,No.4B,2007,pp.2567-2570参照)。一例として、コア11aがAu、シェル11bがTiO2 からなる微粒子11の製造方法の概要を説明すると次の通りである。すなわち、まず、5×10-4M HAuCl4 500mLの加熱した溶液に脱水クエン酸3ナトリウムを混合および攪拌する。次に、メルカプトウンデカン酸をアンモニア水溶液に2.5重量%添加および攪拌した後、Auナノ粒子分散溶液に添加し、2時間保温する。次に、1M HClを添加して溶液のpHを3にする。次に、チタンイソプロポキシドおよびトリエタノールアミンを窒素雰囲気下でAuコロイド溶液に添加する。こうして、コア11aがAu、シェル11bがTiO2 からなる微粒子11が製造される。
[色素増感光電変換素子の動作]
次に、この色素増感光電変換素子の動作について説明する。
この色素増感光電変換素子は、光が入射すると、対極6を正極、透明電極2を負極とする電池として動作する。その原理は次の通りである。なお、ここでは、透明電極2の材料としてFTOを用い、多孔質電極3を構成する微粒子11のコア11aの材料としてAu、シェル11bの材料としてTiO2 を用い、レドックス対としてI- /I3 - の酸化還元種を用いることを想定している。ただし、これに限定されるものではない。
透明基板1および透明電極2を透過し、多孔質電極3に入射した光子を多孔質電極3に結合した光増感色素が吸収すると、この光増感色素中の電子が基底状態(HOMO)から励起状態(LUMO)へ励起される。こうして励起された電子は、光増感色素と多孔質電極3との間の電気的結合を介して、多孔質電極3を構成する微粒子11のシェル11bを構成するTiO2 の伝導帯に引き出され、多孔質電極3を通って透明電極2に到達する。加えて、微粒子11のAuからなるコア11aの表面に光が入射することにより局在表面プラズモンが励起され、電場増強効果が得られる。そして、この増強電場によりシェル11bを構成するTiO2 の伝導帯に電子が大量に励起され、多孔質電極3を通って透明電極2に到達する。このように、多孔質電極3に光が入射したとき、透明電極2には、光増感色素の励起により発生した電子が到達することに加えて、微粒子11のコア11aの表面における局在表面プラズモンの励起によりシェル11bを構成するTiO2 の伝導帯に励起される電子も到達する。このため、高い光電変換効率を得ることができる。
一方、電子を失った光増感色素は、電解質層6中の還元剤、例えばI- から下記の反応によって電子を受け取り、電解質層6中に酸化剤、例えばI3 - (I2 とI- との結合体)を生成する。
2I- → I2 + 2e-
2 + I- → I3 -
こうして生成された酸化剤は拡散によって対極6に到達し、上記の反応の逆反応によって対極14から電子を受け取り、もとの還元剤に還元される。
3 - → I2 + I-
2 + 2e- → 2I-
透明電極2から外部回路へ送り出された電子は、外部回路で電気的仕事をした後、対極6に戻る。このようにして、光増感色素にも電解質層6にも何の変化も残さず、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。
この第7の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、多孔質電極3は、金属からなる球状のコア11aとこのコア11aの周りを取り囲む金属酸化物からなるシェル11bとからなるコア−シェル構造を有する微粒子11により構成されている。このため、この多孔質電極3と対極6との間に電解質層7を充填した場合、電解質層7の電解質が微粒子11の金属からなるコア11aと接触することがなく、電解質による多孔質電極11の溶解を防止することができる。従って、微粒子11のコア11aを構成する金属として表面プラズモン共鳴の効果が大きい金、銀、銅などを用いることができ、表面プラズモン共鳴の効果を十分に得ることができる。また、電解質層7の電解質としてヨウ素系の電解質を用いることができる。以上により、光電変換効率が高い色素増感光電変換素子を得ることができる。そして、この優れた色素増感光電変換素子を用いることにより、高性能の電子機器を実現することができる。
以上、実施の形態および実施例について具体的に説明したが、本技術は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)多孔質電極と、対極と、上記多孔質電極と上記対極との間に設けられた電解質層とを有し、上記多孔質電極に式(1)で表される光増感色素が結合した色素増感光電変換素子。
(2)上記電解質層は電解液を含み、上記電解液に6.04≦pKa ≦7.3の添加剤が添加され、および/または、上記多孔質電極および上記対極のうちの少なくとも一方の上記電解質層に面する表面に6.04≦pKa ≦7.3の添加剤が吸着している前記(1)に記載の色素増感光電変換素子。
(3)上記添加剤はピリジン系添加剤または複素環を有する添加剤である前記(2)に記載の色素増感光電変換素子。
(4)上記電解液の溶媒の分子量が47.36以上である前記(2)または(3)に記載の色素増感光電変換素子。
(5)上記電解質層は電解液を含み、上記電解液の溶媒が、電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を有する有機溶媒とを含む前記(1)から(4)のいずれかに記載の色素増感光電変換素子。
(6)上記電解質層が電解液を含む多孔質膜からなる前記(1)から(5)のいずれかに記載の色素増感光電変換素子。
(7)上記多孔質膜が不織布からなる前記(6)に記載の色素増感光電変換素子。
(8)上記多孔質電極は半導体からなる微粒子により構成されている前記(1)から(7)のいずれかに記載の色素増感光電変換素子。
1…透明基板、2…透明電極、3…多孔質電極、4…対向基板、5…導電層、6…対極、7…電解質層、8…封止材、11…微粒子、11a…コア、11b…シェル

Claims (12)

  1. 多孔質電極と、
    対極と、
    上記多孔質電極と上記対極との間に設けられた電解質層とを有し、
    上記多孔質電極に下記式(1)で表される光増感色素が結合した色素増感光電変換素子。
    Figure 2012146640
    (式(1)中、R1 は炭素数が1以上10以下のアルキル基、R2 は炭素数が1以上20以下のアルキル基を表す)
  2. 上記電解質層は電解液を含み、上記電解液に6.04≦pKa ≦7.3の添加剤が添加され、および/または、上記多孔質電極および上記対極のうちの少なくとも一方の上記電解質層に面する表面に6.04≦pKa ≦7.3の添加剤が吸着している請求項1記載の色素増感光電変換素子。
  3. 上記添加剤はピリジン系添加剤または複素環を有する添加剤である請求項2記載の色素増感光電変換素子。
  4. 上記電解液の溶媒の分子量が47.36以上である請求項3記載の色素増感光電変換素子。
  5. 上記電解質層は電解液を含み、上記電解液の溶媒が、電子対受容性の官能基を有するイオン液体と電子対供与性の官能基を有する有機溶媒とを含む請求項1記載の色素増感光電変換素子。
  6. 上記電解質層が電解液を含む多孔質膜からなる請求項1記載の色素増感光電変換素子。
  7. 上記多孔質膜が不織布からなる請求項6記載の色素増感光電変換素子。
  8. 上記多孔質電極は半導体からなる微粒子により構成されている請求項1記載の色素増感光電変換素子。
  9. 少なくとも一つの光電変換素子を有し、
    上記光電変換素子が、
    多孔質電極と、
    対極と、
    上記多孔質電極と上記対極との間に設けられた電解質層とを有し、
    上記多孔質電極に下記式(1)で表される光増感色素が結合した色素増感光電変換素子である電子機器。
    Figure 2012146640
    (式(1)中、R1 は炭素数が1以上10以下のアルキル基、R2 は炭素数が1以上20以下のアルキル基を表す)
  10. 下記式(1)で表される色素。
    Figure 2012146640
    (式(1)中、R1 は炭素数が1以上10以下のアルキル基、R2 は炭素数が1以上20以下のアルキル基を表す)
  11. 少なくとも一つの光電変換素子および/または複数の光電変換素子が電気的に接続されている光電変換素子モジュールを有し、
    上記光電変換素子が、
    多孔質電極と、
    対極と、
    上記多孔質電極と上記対極との間に設けられた電解質層とを有し、
    上記多孔質電極に下記式(1)で表される光増感色素が結合した色素増感光電変換素子である建築物。
    Figure 2012146640
    (式(1)中、R1 は炭素数が1以上10以下のアルキル基、R2 は炭素数が1以上20以下のアルキル基を表す)
  12. 上記光電変換素子および/または上記光電変換素子モジュールは2枚の透明板の間に挟持されている請求項11記載の建築物。
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